IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オークマ株式会社の特許一覧

特許7390117工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム
<>
  • 特許-工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム 図1
  • 特許-工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム 図2
  • 特許-工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム 図3
  • 特許-工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム 図4
  • 特許-工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム 図5
  • 特許-工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム 図6
  • 特許-工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】工作機械対象物の位置計測方法及び位置計測システム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/22 20060101AFI20231124BHJP
   G05B 19/401 20060101ALI20231124BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20231124BHJP
   G01B 5/02 20060101ALI20231124BHJP
   G01B 5/12 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B23Q17/22 A
G05B19/401
B23Q17/20 A
G01B5/02
G01B5/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019101666
(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2020196051
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】神戸 礼士
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-039732(JP,A)
【文献】特開2016-083729(JP,A)
【文献】特開2017-194451(JP,A)
【文献】特開2017-193043(JP,A)
【文献】特開2014-002654(JP,A)
【文献】特開2010-064181(JP,A)
【文献】特開平04-171161(JP,A)
【文献】特開平04-063664(JP,A)
【文献】特開平03-277449(JP,A)
【文献】特開平03-189510(JP,A)
【文献】特開昭63-028541(JP,A)
【文献】特開昭58-082649(JP,A)
【文献】特表平01-500701(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0000277(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00-15/28
B23Q 17/00-23/00
G01B 5/00-5/30
G01B 7/00-7/34
G01B 21/00-21/32
G05B 19/18-19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸以上の並進軸と、工具を装着して回転可能な主軸と、テーブルと、を有する工作機械を用いて、前記主軸に装着可能な位置計測センサであるプローブにより、前記テーブル上に固定された対象物の位置を計測する方法であって、
計測内容が、前記対象物に係る、穴の径、円筒物の径、2面間の距離、穴の中心座標、円筒物の中心座標、2面間の中間座標、及び任意面の座標のうちの少なくとも何れかであり、
予め、前記プローブにおける径方向の接触位置の補正値を、少なくとも前記主軸の回転角度である主軸回転角度が180°異なる2方向において取得する補正値取得ステップと、
前記計測内容に応じて前記対象物の計測面と接触するときの前記主軸回転角度を判定する主軸回転角度判定ステップと、
前記主軸回転角度判定ステップにおいて判定された前記計測面と接触するときの前記主軸回転角度に従い、前記計測面に接触させたときの前記プローブの位置と、前記補正値取得ステップにおいて取得された前記補正値のうちの少なくとも1つの前記補正値とから、前記対象物の位置の計測値を演算する演算ステップと、
を有しており、
前記主軸回転角度判定ステップでは、
前記計測内容が穴の中心座標、円筒物の中心座標、及び2面間の中間座標の少なくとも何れかである場合、前記対象物に係る第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面に対し、前記主軸回転角度が変更されて前記プローブが同一の接触位置において接触されるように判定され、
前記計測内容が穴の径、円筒物の径、及び2面間の距離の少なくとも何れかである場合、前記対象物に係る第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面に対し、前記主軸回転角度が一定である状態で前記プローブが接触されるように判定され、
前記計測内容が任意面の座標である場合、前記対象物に係る計測面に対する接触後、同一の計測面に対し前記主軸回転角度を変更して前記プローブが接触されるように判定される
ことを特徴とする工作機械対象物の位置計測方法。
【請求項2】
3軸以上の並進軸と、工具を装着して回転可能な主軸と、テーブルと、前記主軸に装着可能である位置計測センサとしてのプローブと、前記並進軸及び前記主軸を制御する制御装置と、を有する工作機械において、前記プローブにより、前記テーブル上に固定された対象物の位置を計測するシステムであって、
計測内容が、前記対象物に係る、穴の径、円筒物の径、2面間の距離、穴の中心座標、円筒物の中心座標、2面間の中間座標、及び任意面の座標のうちの少なくとも何れかであり、
前記プローブにおける径方向の接触位置の補正値を、少なくとも前記主軸の回転角度である主軸回転角度が180°異なる2方向において設定する補正値設定部と、
前記計測内容に応じて前記対象物の計測面と接触するときの前記主軸回転角度を制御する主軸回転角度制御部と、
前記主軸回転角度制御部の制御に従って前記計測面に接触させたときの前記プローブの位置と、前記補正値設定部において設定された前記補正値のうちの少なくとも1つの前記補正値とから、前記対象物の位置の計測値を演算する演算部と、
を有しており、
前記主軸回転角度制御部は、
前記計測内容が穴の中心座標、円筒物の中心座標、及び2面間の中間座標の少なくとも何れかである場合、前記対象物に係る第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面に対し、前記プローブが同一の接触位置において接触されるように前記主軸回転角度を変更し、
前記計測内容が穴の径、円筒物の径、及び2面間の距離の少なくとも何れかである場合、前記対象物に係る第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面に対し、前記主軸回転角度を一定に保持し、
前記計測内容が任意面の座標である場合、前記対象物に係る計測面に対する接触後、同一の計測面に対し前記プローブが接触される際に前記主軸回転角度を変更する
ことを特徴とする工作機械対象物の位置計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の機内において、工具あるいは工作物といった対象物の位置を計測するための位置計測方法及び位置計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
主軸に装着されて回転される工具によってテーブルに取り付けられた工作物が加工される工作機械において、高精度な加工を行うために、工作物の位置及び寸法を、工作物に接触可能であるスタイラス球を有しており主軸に装着されるタッチプローブ(プローブ)により自動的に計測することが知られている。プローブによる位置及び寸法の計測においては、スタイラス球の径オフセット、スタイラス長のオフセット、及び主軸中心とプローブの芯ズレ等を補正する補正値を取得するキャリブレーションが行われている。
例えば、特公平5-47345号公報(特許文献1)のものでは、プローブ25が、加工物14の基準ボア24の内径の一方向に接触されると共に、その逆方向においては主軸(スピンドル16)を180°回転させて接触され、以て同一のプローブオフセットを対向表面に与える状態で第1,第2相対位置AX1,AX2が得られ、これらを平均して基準ボア24の中心位置が得られる。
又、特開2017-193043号公報(特許文献2)のものでは、基準球44に対するタッチプローブ30の複数回の接触により、プローブ径及びプローブ長の各補正値のキャリブレーションが同時に行われる。
更に、特開平4-63664号公報(特許文献3)の方法では、ある一方向のプローブ径の補正値である基準補正値が予め求められて記憶され(補正値記憶部12)、工作物の計測時には、基準補正値に係る方向に計測方向が一致するように主軸回転角度が変更されてプローブの接触位置が同一とされ、基準補正値から計測方向に対応する補正値が求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】特公平5-47345号公報
【文献】特開2017-193043号公報
【文献】特開平4-63664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらのものでは、プローブのキャリブレーションが実施されてプローブに関する各補正値が得られた後で、室温変化等によりプローブが熱変形したり、手の接触等により外力が作用してプローブの取付角度が変化したりした場合、主軸に対するプローブの位置及び姿勢が変化して、プローブによる工作物の計測に誤差が発生する。かような計測誤差の影響は、キャリブレーションの頻度を高くすることで抑制可能であるが、手間がかかる。
又、プローブによる工作物の計測内容は、上述のものの他にも、例えば、工作物における任意の面のXY座標(プローブの径方向に広がる平面上の座標)、任意の穴の内径、円筒物の外径、中間座標、任意の2面間の距離、及び任意の部分の中心座標のうちの少なくとも何れかが挙げられる。
そこで、本開示の主な目的は、キャリブレーション実施後にプローブの主軸に対する状態が変化しても、計測内容に合わせて誤差が抑制された状態で工作機械の機内対象物の位置が計測される計測方法及び計測システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本開示は、3軸以上の並進軸と、工具を装着して回転可能な主軸と、テーブルと、を有する工作機械を用いて、前記主軸に装着可能な位置計測センサであるプローブにより、前記テーブル上に固定された対象物の位置を計測する方法であって、計測内容が、前記対象物に係る、穴の径、円筒物の径、2面間の距離、穴の中心座標、円筒物の中心座標、2面間の中間座標、及び任意面の座標のうちの少なくとも何れかであり、予め、前記プローブにおける径方向の接触位置の補正値を、少なくとも前記主軸の回転角度である主軸回転角度が180°異なる2方向において取得する補正値取得ステップと、前記計測内容に応じて前記対象物の計測面と接触するときの前記主軸回転角度を判定する主軸回転角度判定ステップと、前記主軸回転角度判定ステップにおいて判定された前記計測面と接触するときの前記主軸回転角度に従い、前記計測面に接触させたときの前記プローブの位置と、前記補正値取得ステップにおいて取得された前記補正値のうちの少なくとも1つの前記補正値とから、前記対象物の位置の計測値を演算する演算ステップと、を有しており、前記主軸回転角度判定ステップでは、前記計測内容が穴の中心座標、円筒物の中心座標、及び2面間の中間座標の少なくとも何れかである場合、前記対象物に係る第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面に対し、前記主軸回転角度が変更されて前記プローブが同一の接触位置において接触されるように判定され、前記計測内容が穴の径、円筒物の径、及び2面間の距離の少なくとも何れかである場合、前記対象物に係る第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面に対し、前記主軸回転角度が一定である状態で前記プローブが接触されるように判定され、前記計測内容が任意面の座標である場合、前記対象物に係る計測面に対する接触後、同一の計測面に対し前記主軸回転角度を変更して前記プローブが接触されるように判定されることが望ましい。
又、上記目的を達成するために、本開示は、3軸以上の並進軸と、工具を装着して回転可能な主軸と、テーブルと、前記主軸に装着可能である位置計測センサとしてのプローブと、前記並進軸及び前記主軸を制御する制御装置と、を有する工作機械において、前記プローブにより、前記テーブル上に固定された対象物の位置を計測するシステムであって、計測内容が、前記対象物に係る、穴の径、円筒物の径、2面間の距離、穴の中心座標、円筒物の中心座標、2面間の中間座標、及び任意面の座標のうちの少なくとも何れかであり、前記プローブにおける径方向の接触位置の補正値を、少なくとも前記主軸の回転角度である主軸回転角度が180°異なる2方向において設定する補正値設定部と、前記計測内容に応じて前記対象物の計測面と接触するときの前記主軸回転角度を制御する主軸回転角度制御部と、前記主軸回転角度制御部の制御に従って前記計測面に接触させたときの前記プローブの位置と、前記補正値設定部において設定された前記補正値のうちの少なくとも1つの前記補正値とから、前記対象物の位置の計測値を演算する演算部と、を有しており、前記主軸回転角度制御部は、前記計測内容が穴の中心座標、円筒物の中心座標、及び2面間の中間座標の少なくとも何れかである場合、前記対象物に係る第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面に対し、前記プローブが同一の接触位置において接触されるように前記主軸回転角度を変更し、前記計測内容が穴の径、円筒物の径、及び2面間の距離の少なくとも何れかである場合、前記対象物に係る第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面に対し、前記主軸回転角度を一定に保持し、前記計測内容が任意面の座標である場合、前記対象物に係る計測面に対する接触後、同一の計測面に対し前記プローブが接触される際に前記主軸回転角度を変更することが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
本開示の主な効果は、キャリブレーション実施後にプローブの主軸に対する状態が変化しても、計測内容に合わせて誤差が抑制された状態で工作機械の機内対象物の位置が計測される計測方法及び計測システムが提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係るマシニングセンタの模式的な斜視図である。
図2図1のマシニングセンタに係る対象物の位置計測システムのブロック図である。
図3(A)は、X軸上の座標Xaにおいて穴の内面における計測面が設定され、主軸回転角度が基準位置にある状態でプローブのスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸中心座標Xa1’を示す模式図であり、(B)は、X軸上の座標Xbにおいて穴の内面における計測面が設定され、主軸回転角度が基準位置にある状態でプローブのスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸中心座標Xb1’を示す模式図である。
図4(A)は、X軸上の座標Xaにおいて穴の内面における計測面が設定され、主軸回転角度が基準位置から180°回転された状態でプローブのスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸中心座標Xa2’を示す模式図であり、(B)は、X軸上の座標Xbにおいて穴の内面における2箇所の計測面が設定され、主軸回転角度が基準位置から180°回転された状態でプローブのスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸中心座標Xb2’を示す模式図である。
図5】本発明に係る対象物の穴の中心座標、及び径のX軸方向の計測を示す模式図であって、(A)は主軸回転角度が変更されることでプローブの計測面に対する接触位置が同一となるようにプローブが計測面に接触される場合に係り、(B)は主軸回転角度が所定位置である状態で計測面にプローブが接触される場合に係る。
図6】本発明に係る対象物における任意の面の座標に係るX軸方向の計測を示す模式図であって、(A)は主軸回転角度が所定位置である状態で計測面にプローブが接触される場合に係り、(B)は主軸回転角度が基準位置に対して180°回転された場合に係る。
図7】本発明に係る位置計測の動作例(位置計測方法の例)に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施の形態及びその変更例が、適宜図面に基づいて説明される。
尚、本発明は、下記の実施の形態及び変更例に限定されない。又、前後上下左右の各方向は、説明の便宜上定められたものであり、プローブ7の保持の態様、プローブ7と位置計測の対象物Wとの相対的な位置関係、及び回転等の動作の少なくとも何れかにより変化することがある。
【0009】
図1は、本発明に係る工作機械の一形態であるマシニングセンタMの模式的な斜視図である。
マシニングセンタMは、3つの互いに直交する並進軸であるX軸(左右方向の軸),Y軸(前後方向の軸),Z軸(上下方向の軸)を有している。
マシニングセンタMは、X軸,Z軸においてベッド1に対して並進2自由度の運動が可能である主軸頭2を有している。主軸頭2は、ベッド1から立設されるコラム4に対してX軸方向で移動可能に設置されたサドル5に対し、Z軸方向で移動可能に取り付けられている。
又、マシニングセンタMは、加工の対象としての工作物及び位置計測の対象物Wを固定可能なテーブル3を有している。テーブル3は、X軸及びZ軸に直交するY軸においてベッド1に対して並進1自由度の運動が可能である。
よって、主軸頭2は、テーブル3に対して並進3自由度の運動が可能である。
【0010】
主軸頭2には、円柱状の主軸6が、Z軸方向の中心軸の周りで回転可能に支持されている。
マシニングセンタMによるテーブル3上の工作物の加工時、工具(図示略)を装着した主軸6が、図示されない数値制御装置(制御装置)による制御のもとで回転され、主軸頭2及びテーブル3における各並進軸に沿った適宜の運動が、数値制御装置による制御のもと、図示されないサーボモータを介して実行される。かように、数値制御装置により、工作物と工具との相対位置及び相対姿勢が制御され、工作物に対し工具により所望の加工が施される。
他方、精度向上等を目的としたテーブル3上の対象物Wの位置計測時、主軸6には、タッチプローブとしてのプローブ7が、装着により固定されている。プローブ7は、Z軸方向に延びるように装着され、下端にスタイラス球を有しており、位置を検知可能な位置計測センサとなっている。
尚、本発明に係る工作機械は、旋盤、複合加工機、研削盤等であっても良い。又、並進軸は、2軸以下、あるいは4軸以上であっても良い。更に、主軸頭2及びテーブル3が回転軸を有すること等により、工作機械が回転1自由度以上を有していても良い。
【0011】
図2は、マシニングセンタMに係る対象物Wの位置計測システムPのブロック図である。
位置計測システムPは、プローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセットを補正する補正値ΔXm,ΔXpを設定する補正値設定部8と、当該補正値ΔXm,ΔXpを記憶する補正値記憶部12と、計測指令時に計測開始座標を読み込む計測座標値読込部9と、計測指令から対象物W(ここでは工作物)の計測内容を読み込む計測内容読込部10と、読み込んだ計測内容に基づいて予め設定された動作で主軸6の回転角度を制御する主軸回転角度制御部11と、読み込んだ計測開始座標と計測内容とから予め設定された動作で計測時の送り軸(並進軸)を制御する計測サイクル制御部13と、計測サイクル制御部13で得られた計測面の主軸6の中心座標と補正値記憶部12におけるプローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセットの補正値に基づいて計測内容の値を算出する演算部14と、演算部14で得られた計測内容の値を出力する出力部15と、を有する。
対象物Wの計測内容は、ここでは、(1)穴の中心座標,円筒物の中心座標,2面間の中間座標、(2)穴の内径,円筒物の外径,2面間の距離、(3)任意の面のXY座標である。
出力部15は、計測内容の値を、例えば図示されないモニタの画面に表示したり、データファイルとして出力したりする。
【0012】
次いで、位置計測システムPによる対象物Wの位置計測の演算等が説明される。
図3(A),(B)及び図4(A),(B)は、X軸上の座標Xa,Xbにおいて対象物Wの穴の内面における2箇所の計測面が設定され、主軸6の回転角度が互いに180°異なる状態でプローブ7のスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸6の中心座標Xa1’,Xa2’,Xb1’,Xb2’の関係を示す模式図である。
図3(A),(B)は、主軸6の回転角度が基準位置にある場合であり、図4(A),(B)は、主軸6の回転角度が基準位置から180°回転されたものである場合である。
即ち、図3(A)は、X軸上の座標Xaにおいて穴の内面における計測面が設定され、主軸回転角度が基準位置にある状態でプローブのスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸中心座標Xa1’を示す模式図であり、図3(B)は、X軸上の座標Xbにおいて穴の内面における計測面が設定され、主軸回転角度が基準位置にある状態でプローブのスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸中心座標Xb1’を示す模式図である。又、図4(A)は、X軸上の座標Xaにおいて穴の内面における計測面が設定され、主軸回転角度が基準位置から180°回転された状態でプローブのスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸中心座標Xa2’を示す模式図であり、図4(B)は、X軸上の座標Xbにおいて穴の内面における2箇所の計測面が設定され、主軸回転角度が基準位置から180°回転された状態でプローブのスタイラス球が計測面に対し接触する場合における主軸中心座標Xb2’を示す模式図である。
主軸6の回転角度が基準位置にある場合における、X+方向のスタイラス球の径オフセットはdXpであり、X-方向のスタイラス球の径オフセットはdXmであり、主軸6の中心とプローブ7との芯ズレ量はdLである。
【0013】
図3(A)において、計測面の座標Xaと主軸6の中心座標Xa1’との関係は、次の式1で表される。
Xa=Xa1’+(dLdXm) ・・式1
実際のキャリブレーションにおいては、主軸6の中心とプローブ7との芯ズレ量dLと、スタイラス球の径オフセットdXmとを分けて計測することは困難であり、式1の(dLdXm)が、プローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセットΔXmとして求められる(下記式2)。
ΔXm=(dLdXm) ・・式2
よって、式1は、式2を用いて、次の式1’で表される。
Xa=Xa1’+ΔXm ・・式1’
【0014】
同様に、図3(B)において、計測面の座標Xbと主軸6の中心座標Xb1’との関係は、次の式3で表される。
Xb=Xb1’+(dL+dXp) ・・式3
又、プローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセットΔXpは、次の式4で表される。
ΔXp=(dL+dXp) ・・式4
よって、式3は、式4を用いて、次の式3’で表される。
Xb=Xb1’+ΔXp ・・式3’
【0015】
主軸6の回転角度が基準位置から180°回転されたものである場合に係る図4(A)において、計測面の座標Xaと主軸6の中心座標Xa2’との関係は、次の式5で表される。
Xa=Xa2’+(-dL-dXp) ・・式5
式5は、式4を用いて、次の式5’で表される。
Xa=Xa2’-ΔXp ・・式5’
【0016】
同様に、図4(B)において、計測面の座標Xbと主軸6の中心座標Xb2’との関係は、次の式6で表される。
Xb=Xb2’+(-dLdXm) ・・式6
式6は、式2を用いて、次の式6’で表される。
Xb=Xb2’-ΔXm ・・式6’
【0017】
そして、XaとXbとの差である穴の内径Dは、Xa1’とXb1’とを用いて次の式7,式7’で表される。
D=Xb-Xa
=(Xb1’+ΔXp)-(Xa1’+ΔXm) ・・式7
=(Xb1’-Xa1’)+(ΔXp-ΔXm)
=(Xb1’-Xa1’)+{(dL+dXp)-(dLdXm)}
=(Xb1’-Xa1’)+(dXpdXm) ・・式7’
よって、内径Dは、プローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセットΔXp,ΔXmを用いて、主軸6の中心とプローブ7との芯ズレ量dLの影響を受けずに算出される。
かような内径Dの算出と同様にして、円筒物の外径、及び2面間の距離が算出可能である(上述の計測内容(2)参照)。
【0018】
又、XaとXbの中間値である穴の中心座標CXは、Xa1’とXb2’とを用いて次の式8,式8’で表される。
CX=(Xb+Xa)/2
={(Xb2’-ΔXm)+(Xa1’+ΔXm)}/2 ・・式8
=(Xb2’+Xa1’)/2 ・・式8’
よって、中心座標CXは、プローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセットΔXp,ΔXmを用いて、主軸6の中心とプローブ7との芯ズレ量dLの影響を受けずに算出される。
かような中心座標CXの算出と同様にして、円筒物の中心座標、及び2面間の中間座標が算出可能である(上述の計測内容(1)参照)。
【0019】
更に、Xa座標は、Xa1’とXa2’とを用いて次の式9,式9’で表される。
Xa={(Xa1’+ΔXm)+(Xa2’-ΔXp)}/2 ・・式9
=[(Xa1’+Xa2’)+{(dLdXm)-(dL+dXp)}]/2
={(Xa1’+Xa2’)+(dXm-dXp)}/2 ・・式9’
よって、Xa座標は、プローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセットΔXp,ΔXmを用いて、主軸6の中心とプローブ7との芯ズレ量dLの影響を受けずに算出される。
かようなXa座標の算出と同様にして、Xb座標が算出可能である(上述の計測内容(3)参照)。
【0020】
続いて、かような演算等を適宜用いた対象物W(工作物)の位置計測の動作例(位置計測方法の例)が説明される。
図5は、対象物Wの穴の中心座標、及び径のX軸方向の計測を示す模式図であり、(A)は、主軸6の回転角度が変更されることでプローブ7の計測面に対する接触位置が同一となるようにプローブ7が接触される場合に係り、(B)は、主軸6の回転角度が所定位置である状態で計測面にプローブ7が接触される場合に係る。
図5において、XaはX-側の接触面のX座標であり、XbはX+側の接触面のX座標である。又、Xa1’,Xb1’は、主軸6の回転角度が基準位置であるときの主軸6の中心座標であり、Xb2’は、主軸6の回転角度が基準位置から180°回転された位置であるときの主軸6の中心座標である。
図6は、対象物Wにおける任意の面の座標に係るX軸方向の計測を示す模式図であり、(A)は、主軸6の回転角度が所定位置である状態で計測面にプローブ7が接触される場合に係り、(B)は、主軸6の回転角度が基準位置に対して180°回転された場合に係る。
図6において、XaはX-側の接触面のX座標である。又、Xa1’は、主軸6の回転角度が基準位置であるときの主軸6の中心座標であり、Xa2’は、主軸6の回転角度が基準位置から180°回転された位置であるときの主軸6の中心座標である。
【0021】
図7は、位置計測の動作例(位置計測方法の例)に係るフローチャートである。
ステップS1において、プローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセット量が公知の手法(例えば特許文献1参照)で計測される。
そして、かような計測の結果に基づいて、補正値設定部8において、主軸6の回転角度が互いに180°異なる2方向でのプローブ7の径方向(ここではX軸方向)の接触位置のオフセット量ΔXm,ΔXpが設定され、補正値記憶部12に記憶される(補正値取得ステップ)。尚、補正値は、互いに異なる3方向以上でのプローブ7の径方向の接触位置のオフセット量により、3種以上取得されて記憶されても良い。
【0022】
次いで、ステップS2において、計測指令値の入力があり、計測指令が受け付けられると、計測座標値読込部9は、計測開始座標を読み込む。その後、計測内容読込部10は、計測内容が、上述の(1)に係る中心・中間座標であるか(ステップS3でYes)、(2)に係る径・距離か(ステップS3でNo,ステップS5でYes)、あるいは(3)に係る任意面の座標か(ステップS3でNo,ステップS5でNo)、を判断する(主軸回転角度判定ステップ)。
【0023】
計測内容が(1)中心・中間座標である場合(ステップS4)、図5(A)のように主軸回転角度制御部11及び計測サイクル制御部13は、主軸6の回転角度を変更し、プローブ7の接触位置を一定にした状態で対象物Wにおける2箇所の面(第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面)にプローブ7を接触させることで、接触座標Xa1’,Xb2’を求める。即ち、プローブ7が、第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面の双方に対し、同一の接触位置において接触されるように、主軸回転角度制御部11及び計測サイクル制御部13は、主軸6の回転角度を変更する。
計測内容が(2)径・距離である場合(ステップS6)、図5(B)のように主軸回転角度制御部11及び計測サイクル制御部13は、主軸6の回転角度を変えず一定に保持して、プローブ7を対象物Wの2箇所の面(第1の計測面及びその対称位置にある第2の計測面)に接触させることで接触座標Xa1’,Xb1’を求める。
計測内容が(3)任意面の座標である場合(ステップS7)、図6のように主軸回転角度制御部11及び計測サイクル制御部13は、主軸6の回転角度を180°変えて、プローブ7を対象物Wの同じ面に2回接触させることで接触座標Xa1’,Xa2’を求める。
【0024】
何れかのステップS4,S6,S7の実行後、演算部14は、計測値を演算する(ステップS8;演算ステップ)。
即ち、計測内容が(1)中心・中間座標である場合、演算部14は、上述の式8により計測値を算出する。
又、計測内容が(2)径・距離である場合、演算部14は、上述の式7により計測値を算出する。
更に、計測内容が(3)任意面の座標である場合、演算部14は、上述の式9により計測値を算出する。
そして、かように算出された計測値は、出力部15によって出力される(ステップS9)。
【0025】
かような対象物の位置計測によれば、計測内容に応じ、主軸6の中心とプローブ7との芯ズレ量dLの影響を受けないように位置を算出するため、キャリブレーション実施後にプローブ7の主軸6に対する状態が変化しても、誤差が抑制された状態でマシニングセンタMの機内対象物の位置が計測されることとなる。
【0026】
尚、上記形態は、上述の変更例の他、次に示されるような更なる変更例を適宜有する。
上記形態では、X軸での例が示されているところ、他の1軸でも同様に計測可能であるし、X,Y軸を始めとする2軸の場合でも同様に計測可能である。2軸の場合に使用するプローブ7の接触位置と主軸6の中心とのオフセット補正値は、所定の1軸方向で求めた2方向(+-方向)の補正値が他軸で使用されても良いし、各軸で合計4方向分求められ、対応する軸の補正値が使用されても良い。
計測内容は、(1)中心・中間座標,(2)径・距離,(3)任意面の座標の何れかが選択されず、これらが連続して計測されるものであっても良い。この場合、接触座標は、Xa1’,Xb1’,Xb2’の3箇所が計測されれば良い。
又、本発明は、図3図5のような内径の計測に限られず、図6のような任意の面の計測、2面間の距離の計測、及び2面間の中心の計測の少なくとも何れか等に関し、様々に変更可能である。
【符号の説明】
【0027】
1・・ベッド、2・・主軸頭、3・・テーブル、4・・コラム、5・・サドル、6・・主軸、7・・プローブ(タッチプローブ)、8・・補正値設定部、9・・計測座標値読込部、10・・計測内容読込部、11・・主軸回転角度制御部、12・・補正値記憶部、13・・計測サイクル制御部、14・・演算部、15・・出力部、M・・マシニングセンタ(工作機械)、P・・位置計測システム、W・・(位置計測の)対象物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7