(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】密封装置および密封構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3244 20160101AFI20231124BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20231124BHJP
F16J 15/447 20060101ALN20231124BHJP
F16J 15/40 20060101ALN20231124BHJP
F16C 33/78 20060101ALN20231124BHJP
F16C 33/80 20060101ALN20231124BHJP
F16J 15/3204 20160101ALN20231124BHJP
【FI】
F16J15/3244
F16J15/3256
F16J15/447
F16J15/40 C
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16J15/3204 201
(21)【出願番号】P 2019147626
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125335
【氏名又は名称】矢代 仁
(72)【発明者】
【氏名】花田 祐樹
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-144933(JP,A)
【文献】実開平06-080062(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3244
F16J 15/3256
F16J 15/447
F16J 15/40
F16C 33/78
F16C 33/80
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記外側部材に取り付けられ、環状部分を有しており、前記環状部分が前記内側部材に向けて径方向内側に広がる、第1のシール部材と、
前記内側部材に取り付けられ、フランジを有しており、前記フランジが径方向外側に広がっており前記第1のシール部材の前記環状部分と対向する、第2のシール部材とを備え、
前記第1のシール部材および前記第2のシール部材のうち回転するシール部材には、環状突起と複数の水排出突起が支持されており、前記環状突起と前記複数の水排出突起は、前記第1のシール部材の前記環状部分と前記第2のシール部材の前記フランジの間に位置する空間内に突出し、
前記環状突起は、連続的なループとして形成され、
前記複数の水排出突起は、円周方向に並べられており、前記環状突起の径方向外側に配置されており、互いに同じ傾斜方向を持つように前記円周方向に対して傾斜して
おり、
前記第2のシール部材は前記内側部材が圧入されるスリーブを有し、前記第1のシール部材は、前記環状部分の径方向内側に配置されたダストリップを有し、前記ダストリップは前記第2のシール部材の前記スリーブに摺動可能に接触し、
前記環状突起は、径方向内側に空洞を有しており、前記空洞の内部に前記ダストリップが前記スリーブに接触する部分が前記環状突起と径方向にて重なるように配置されている
ことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記外側部材に取り付けられ、環状部分を有しており、前記環状部分が前記内側部材に向けて径方向内側に広がる、第1のシール部材と、
前記内側部材に取り付けられ、フランジを有しており、前記フランジが径方向外側に広がっており前記第1のシール部材の前記環状部分と対向する、第2のシール部材とを備え、
前記第1のシール部材および前記第2のシール部材のうち回転するシール部材には、環状突起と複数の水排出突起が支持されており、前記環状突起と前記複数の水排出突起は、前記第1のシール部材の前記環状部分と前記第2のシール部材の前記フランジの間に位置する空間内に突出し、
前記環状突起は、連続的なループとして形成され、
前記複数の水排出突起は、円周方向に並べられており、前記環状突起の径方向外側に配置されており、互いに同じ傾斜方向を持つように前記円周方向に対して傾斜しており、
前記環状突起の内周面が前記フランジから離れるほど径方向外側に位置するように、前記フランジに対して傾斜している
ことを特徴とする
密封装置。
【請求項3】
円筒部分と、前記円筒部分から径方向外側に広がるフランジとを有する内側部材と、
前記内側部材に対して相対的に回転する外側部材と、
前記外側部材に取り付けられ、環状部分を有しており、前記環状部分が前記内側部材の前記円筒部分に向けて径方向内側に広がっており前記内側部材の前記フランジと対向する、シール部材と
を備え、
前記内側部材および前記シール部材のうち回転する部材には、環状突起と複数の水排出突起が支持されており、前記環状突起と前記複数の水排出突起は、前記シール部材の前記環状部分と前記内側部材の前記フランジの間に位置する空間内に突出し、
前記環状突起は、連続的なループとして形成され、
前記複数の水排出突起は、円周方向に並べられており、前記環状突起の径方向外側に配置されており、互いに同じ傾斜方向を持つように前記円周方向に対して傾斜している
ことを特徴とする密封構造。
【請求項4】
前記シール部材は、前記フランジに摺動可能に接触するダストリップを有し、 前記環状突起は、径方向内側に空洞を有しており、前記空洞の内部に前記ダストリップが前記フランジに接触する部分が前記環状突起と径方向にて重なるように配置されている
ことを特徴とする請求項
3に記載の密封構造。
【請求項5】
前記環状突起の内周面が前記フランジから離れるほど径方向外側に位置するように、前記フランジに対して傾斜している
ことを特徴とする請求項
3または
4に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置および密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば玉軸受のような転がり軸受は周知であり、例えば自動車のハブに使用されている。転がり軸受の内部を密封する密封装置としては、特許文献1に記載されたものがある。この密封装置は、転がり軸受の外輪に固定される環状体と、環状体から径方向内側に延びるラジアルリップ(グリースリップ)と、環状体から側方に延びる2つのサイドリップ(アキシャルリップ)とを備える。ラジアルリップは、軸受の内輪の外周面または内輪に固定される部品の外周面に接触して、軸受内部の潤滑剤(グリース)を密封する機能を有し、2つのサイドリップは、内輪のフランジに接触して、外部から水やダスト等の異物が軸受内部へ侵入しないように封止する機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の密封装置については、水(泥水または塩水を含む)の多い環境で使用される場合には、水が密封対象(例えば軸受)の内部に侵入しないように保護する機能を高めることが要求される。また、たとえ水が密封装置に侵入しても、すみやかに水を排出することができるのが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、水の排出性能が高く、密封対象への水からの保護性能が高い密封装置および密封構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る密封装置は、相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、前記外側部材に取り付けられ、環状部分を有しており、前記環状部分が前記内側部材に向けて径方向内側に広がる、第1のシール部材と、前記内側部材に取り付けられ、フランジを有しており、前記フランジが径方向外側に広がっており前記第1のシール部材の前記環状部分と対向する、第2のシール部材とを備える。前記第1のシール部材および前記第2のシール部材のうち回転するシール部材には、環状突起と複数の水排出突起が支持されており、前記環状突起と前記複数の水排出突起は、前記第1のシール部材の前記環状部分と前記第2のシール部材の前記フランジの間に位置する空間内に突出する。前記環状突起は、連続的なループとして形成されている。前記複数の水排出突起は、円周方向に並べられており、前記環状突起の径方向外側に配置されている。
【0007】
この密封装置において、第1のシール部材の環状部分と第2のシール部材のフランジの間の空間内には、水が侵入することがありうる。しかし、この空間内には環状突起が突出しており、環状突起によって水の侵入が抑制される。さらに、この空間内には複数の水排出突起が突出しており、内側部材と外側部材の相対回転に伴って、空間内の水は、回転する部材に支持された水排出突起に跳ねられて、空間からすみやかに排出される。このため、密封装置は、密封対象への水からの保護性能が高い。複数の水排出突起は、第1のシール部材の環状部分と第2のシール部材のフランジの間の空間内に突出するので、水排出突起のために密封装置を大型化する必要はない。
【0008】
本発明のある態様に係る密封構造は、円筒部分と、前記円筒部分から径方向外側に広がるフランジとを有する内側部材と、前記内側部材に対して相対的に回転する外側部材と、前記外側部材に取り付けられ、環状部分を有しており、前記環状部分が前記内側部材の前記円筒部分に向けて径方向内側に広がっており前記内側部材の前記フランジと対向する、シール部材とを備える。前記内側部材および前記シール部材のうち回転する部材には、環状突起と複数の水排出突起が支持されており、前記環状突起と前記複数の水排出突起は、前記シール部材の前記環状部分と前記内側部材の前記フランジの間に位置する空間内に突出する。前記環状突起は、連続的なループとして形成されている。前記複数の水排出突起は、円周方向に並べられており、前記環状突起の径方向外側に配置されている。
【0009】
この密封構造において、シール部材の環状部分と内側部材のフランジの間の空間内には、水が侵入することがありうる。しかし、この空間内には環状突起が突出しており、環状突起によって水の侵入が抑制される。さらに、この空間内には複数の水排出突起が突出しており、内側部材と外側部材の相対回転に伴って、空間内の水は、回転する部材に支持された水排出突起に跳ねられて、空間からすみやかに排出される。このため、密封構造は、密封対象への水からの保護性能が高い。各水排出突起は、基部よりも先端部が径方向外側に位置するように、フランジに対して傾斜しているため、空間内に侵入した水をすみやかに排出することができる。複数の水排出突起は、シール部材の環状部分と内側部材のフランジの間の空間内に突出するので、水排出突起のために密封構造を大型化する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例の部分断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る密封装置の部分断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係る密封装置の第2のシール部材の斜視図である。
【
図5】第1の実施形態の変形例に係る密封装置の第2のシール部材の正面図である。
【
図7】比較例に係る密封装置の第2のシール部材の斜視図である。
【
図8】第1の実施形態の他の変形例に係る密封装置の第2のシール部材の斜視図である。
【
図9】
図8の変形例に係る密封装置の断面図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る密封構造の部分断面図である。
【
図11】第2の実施形態の変形例に係る密封構造の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例である自動車用のハブ軸受を示す。但し、本発明の用途はハブ軸受には限定されず、他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、以下の説明では、ハブ軸受は、玉軸受であるが、本発明の用途は玉軸受には限定されず、他の種類の転動体を有する、ころ軸受、針軸受などの他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、自動車以外の機械に使用される転がり軸受にも本発明は適用可能である。
【0013】
このハブ軸受1は、スピンドル(図示せず)が内部に挿入される孔2を有するハブ(内側部材)4と、ハブ4に取り付けられた内輪(内側部材)6と、これらの外側に配置された外輪(外側部材)8と、ハブ4と外輪8の間に1列に配置された複数の玉10と、内輪6と外輪8の間に1列に配置された複数の玉12と、これらの玉を定位置に保持する複数の保持器14,15とを有する。
【0014】
外輪8が固定されている一方で、ハブ4および内輪6は、スピンドルの回転に伴って回転する。
【0015】
スピンドルおよびハブ軸受1の共通の中心軸線Axは、
図1の上下方向に延びている。
図1においては、中心軸線Axに対する左側部分のみが示されている。詳細には図示しないが、
図1の上側は自動車の車輪が配置される外側(アウトボード側)であり、下側は差動歯車などが配置される内側(インボード側)である。
図1に示した外側、内側は、それぞれ径方向の外側、内側を意味する。
【0016】
ハブ軸受1の外輪8は、ハブナックル16に固定される。ハブ4は、外輪8よりも径方向外側に張り出したアウトボード側フランジ18を有する。アウトボード側フランジ18には、ハブボルト19によって、車輪を取り付けることができる。
【0017】
外輪8のアウトボード側の端部の付近には、外輪8とハブ4との間の間隙を封止する密封装置20が配置されており、外輪8のインボード側の端部の内側には、外輪8と内輪6との間の間隙を封止する密封装置21が配置されている。これらの密封装置20,21の作用により、ハブ軸受1の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止されるとともに、外部からハブ軸受1の内部への異物(水(泥水または塩水を含む)およびダストを含む)の流入が防止される。
図1において、矢印Fは、外部からの異物の流れの方向の例を示す。
【0018】
密封装置20は、ハブ軸受1の回転するハブ4と固定された外輪8のアウトボード側の円筒状の端部8Aとの間に配置され、ハブ4と外輪8との間の間隙を封止する。密封装置21は、ハブ軸受1の回転する内輪6と固定された外輪8のインボード側の端部8Bとの間に配置され、内輪6と外輪8との間の間隙を封止する。
【0019】
第1の実施形態
図2に示すように、密封装置21は、ハブ軸受1の外輪8のインボード側の端部8Bと、ハブ軸受1の内輪6との間隙内に配置される。密封装置21は環状であるが、
図2においては、その左側部分のみが示されている。
【0020】
図2から明らかなように、密封装置21は、第1のシール部材24と第2のシール部材26を備える複合構造を有する。
【0021】
第1のシール部材24は、外輪8に取り付けられ、回転しない固定シール部材である。第1のシール部材24は、弾性環28および剛性環30を有する複合構造である。弾性環28は、弾性材料、例えばエラストマーから形成されている。剛性環30は、剛性材料、例えば金属から形成されており、弾性環28を補強する。剛性環30は、ほぼL字形の断面形状を有する。剛性環30の一部は、弾性環28に埋設されており、弾性環28に密着している。
【0022】
第1のシール部材24は、円筒部分24A、環状部分24B、およびリップ24C,24Dを有する。円筒部分24Aは、外輪8に取り付けられる取付け部を構成する。具体的には、円筒部分24Aは、外輪8の端部8Bに締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。環状部分24Bは、円環状であって、円筒部分24Aの径方向内側に配置され、内輪6に向けて径方向内側に広がる。円筒部分24Aと環状部分24Bは、剛性環30と弾性環28から構成されている。
【0023】
リップ24C,24Dは、環状部分24Bの内側端から第2のシール部材26に向けて延び、リップ24C,24Dの先端は第2のシール部材26に接触する。
【0024】
第2のシール部材26は、スリンガーすなわち回転シール部材とも呼ぶことができる。第2のシール部材26は、内輪6に取り付けられており、内輪6の回転時に、第2のシール部材26は内輪6とともに回転し、外部から飛散して来る異物を跳ね飛ばす。
【0025】
この実施形態では、第2のシール部材26も、弾性環32および剛性環34を有する複合構造である。剛性環34は、剛性材料、例えば金属から形成されている。
【0026】
剛性環34は、ほぼL字形の断面形状を有する。具体的には、円筒状のスリーブ部分34Aと、スリーブ部分34Aから径方向外側に広がる円環状のフランジ部分34Bを備える。スリーブ部分34Aは、内輪6に取り付けられる取付け部を構成する。具体的には、スリーブ部分34Aには、内輪6の端部が締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。
【0027】
フランジ部分34Bは、スリーブ部分34Aの径方向外側に配置され、径方向外側に広がっており、第1のシール部材24の環状部分24Bと対向する。この実施形態では、フランジ部分34Bは平板であり、スリーブ部分34Aの軸線に対して垂直な平面内にある。この実施形態では、第2のシール部材26のフランジ部分34Bは、第1のシール部材24の環状部分24Bと平行である。
【0028】
弾性環32は、剛性環34のフランジ部分34Bに密着している。見方を変えると、第2のシール部材26は、剛性材料のみから形成されたスリーブ34Aと、スリーブ34Aから径方向外側に広がっており第1のシール部材24の環状部分24Bと対向するフランジ35を有し、フランジ35が剛性材料と弾性材料から形成されている。
【0029】
フランジ35は、剛性環34のフランジ(フランジ35の剛性部分)34Bと、弾性環32のフランジ部分(フランジ35の弾性部分)32A,32B,32Cを有する。弾性部分32Aは、剛性部分34Bのスリーブ34Aと反対側の面(インボード側の面)の全体に密着させられており、弾性部分32Bは、弾性部分32Aからアウトボード側に延びて、剛性部分34Bの外周面全体に密着させられている。フランジ35の弾性部分32Cは、剛性部分34Bのスリーブ34A側の面(アウトボード側の面)の全体に密着させられている。
【0030】
この実施形態では、弾性環32のフランジ部分32Aは、内輪6の回転速度を計測するために設けられている。具体的には、弾性環32は、磁性金属粉およびセラミックス粉を含有するエラストマー材料で形成されており、磁性金属粉によって多数のS極とN極を有する。弾性環32のフランジ部分32Aにおいては、円周方向に等角間隔をおいて多数のS極とN極が交互に配置されている。図示しない磁気式ロータリーエンコーダーによって、弾性環32のフランジ部分32Aの回転角度を測定することができる。弾性環32の材料は、金属粉を含有するため、通常のエラストマー材料よりも硬度が高く、異物による損傷を受けにくい。
【0031】
第1のシール部材24のリップ24Cは、環状部分24Bの内側端から径方向内側かつアウトボード側に延びるラジアルリップである。リップ24Cは、第2のシール部材26のスリーブ部分34Aに向けて延び、リップ24Cの先端は、スリーブ部分34Aに接触する。リップ24Cは、主にハブ軸受1の内部からの潤滑剤の流出を阻止する役割を担うグリースリップである。
【0032】
リップ24Dは、環状部分24Bの内側端から径方向内側かつインボード側に延びるラジアルリップである。リップ24Dも、第2のシール部材26のスリーブ部分34Aに向けて延び、リップ24Dの先端は、スリーブ部分34Aに接触する。リップ24Dは、主に外部からハブ軸受1の内部への異物の流入を阻止する役割を担うダストリップである。
【0033】
第1のシール部材24が固定された外輪8に取り付けられている一方、内輪6および第2のシール部材26は回転するので、リップ24C,24Dは第2のシール部材26のスリーブ部分34Aに対して摺動する。
【0034】
図2に示すように、第1のシール部材24の円筒部分24Aのインボード側の先端と、第2のシール部材26の外端縁との間には、環状の間隙36が設けられている。間隙36を通じて、第1のシール部材24の環状部分24Bと第2のシール部材26のフランジ35の間の空間38内に、異物が侵入することがある。逆に、空間38内の異物は、間隙36を通じて排出することができる。
【0035】
第2のシール部材26には、環状突起40と複数の水排出突起42が支持されている。環状突起40と複数の水排出突起42は、空間38内に突出し、第1のシール部材24の環状部分24Bに向けて延びる。
【0036】
環状突起40は、矩形断面を有し、連続的なループとして形成されている。環状突起40は、空間38内のダストリップ24Dへの水の侵入を抑制する役割を担う。
【0037】
図3および
図4に示すように、複数の水排出突起42は、同形同大を有しており、円周方向に等角間隔をおいて並べられており、環状突起40の径方向外側に配置されている。この実施形態では、複数の水排出突起42は環状突起40に連結されている。水排出突起42は、空間38から水を排出する役割を担う。水排出突起42は、水排出羽根と呼ぶこともできる。
【0038】
この実施形態においては、環状突起40と複数の水排出突起42は、第2のシール部材26のフランジ35の弾性部分32Cに一体に取り付けられている。すなわち、環状突起40と各水排出突起42は、弾性環32の部分である。したがって、環状突起40と水排出突起42は、弾性環32と同じ材料、すなわち磁性金属粉およびセラミックス粉を含有するエラストマー材料から形成されている。但し、環状突起40と水排出突起42は、弾性環32とは異なるエラストマー材料から形成されていてもよいし、金属から形成されていてもよい。
【0039】
金属から形成される場合、環状突起40と水排出突起42は、フランジ35の剛性部分34Bに一体に取り付けられていてもよい。この場合、環状突起40と水排出突起42は、切削加工で成形してもよいし、剛性環34をプレス成形する際に、プレス成形してもよい。
【0040】
各水排出突起42は、矩形断面を有する直方体形状であるが、水排出突起42の形状はこの実施形態に限定されない。また、水排出突起42の数もこの実施形態に限定されない。
【0041】
この実施形態においては、各水排出突起42は、第2のシール部材26の周方向に対して傾斜している。
図4において、矢印Rは、内輪6ひいては第2のシール部材26の主回転方向を示す。「主回転方向」とは、内輪6および第2のシール部材26が主に回転する方向であり、ハブ軸受1が設けられた自動車の前進時の回転方向である。各水排出突起42の傾斜方向は、主回転方向Rに進むにつれて第2のシール部材26の中心に徐々に近くなる方向である。したがって、空間38に異物が侵入したとしても、異物は第2のシール部材26の主回転方向Rへの回転に伴って、水排出突起42に沿ってすみやかに排出される。
【0042】
上記の通り、第1のシール部材24の環状部分24Bと第2のシール部材26のフランジ35の間の空間38(
図2参照)内には、異物(水およびダストを含む)が侵入することがありうる。しかし、この空間38内には環状突起40が突出しており、環状突起40によって水の侵入が抑制される。さらに、この空間38内には複数の水排出突起42が突出しており、内輪6と外輪8の相対回転に伴って、空間38内の水は、回転する部材に支持された水排出突起42に跳ねられて、空間38からすみやかに排出される。このため、密封装置21は、密封対象への水からの保護性能が高い。また、密封装置21自体についても、水(泥水または塩水を含む)の存在により加速する劣化が低減される。間隙36は環状であるため、空間38から水が間隙36の一部を介して流出する一方で、密封装置21の外側の空気が間隙36の他の一部を介して空間38の内部に流入する。空間38の内部に流入する空気は、空間38からの水の流出を促進する。また、空間38の内部が負圧になってリップ24C,24Dが予期せぬ変形をするおそれが低減される。
【0043】
複数の水排出突起42は環状突起40に連結されているため、環状突起40と水排出突起42の間に水が侵入したり残留したりしない。
【0044】
環状突起40と水排出突起42は、第1のシール部材24には接触しない。また、密封装置21は、異物が存在する環境で使用されるが、常に空間38に水が満たされているわけではないので、第2のシール部材26とともに環状突起40と水排出突起42が回転しても、回転に伴う抵抗は極めて小さい。したがって、環状突起40と水排出突起42は、トルクの増加にはほとんど寄与しない。
【0045】
複数の水排出突起42は、第1のシール部材24の環状部分24Bと第2のシール部材26のフランジ35の間の空間38内に突出する。したがって、
図2および
図4から明らかなように、複数の水排出突起42は、第1のシール部材24の最大直径の範囲内に配置されている。このため、密封装置21ひいてはハブ軸受1を大型化する必要はない。
【0046】
図5は、この実施形態の変形例に係る第2のシール部材26を示す。この変形例では、各水排出突起42は、第2のシール部材26の径方向に沿って延びる。他の特徴は実施形態と同じである。この変形例では、各水排出突起42は、第2のシール部材26の径方向に沿って延びるので、第2のシール部材26がいずれの方向に回転したとしても、空間38に侵入した異物は、空間38からすみやかに排出される。
【0047】
図6および
図7は、実施形態の比較例を示す。この比較例では、水排出突起42が設けられず、環状突起40のみが設けられている。この比較例では、環状突起40によって水の侵入が抑制されるが、水排出突起42による水排出効果は期待されない。
【0048】
図8および
図9は、実施形態の他の変形例を示す。この変形例では、環状突起40の内周面40Aがフランジ35から離れるほど径方向外側に位置するように、フランジ35に対して傾斜している。このため、空間38内に侵入した水をすみやかに排出することができる。例えば、第2のシール部材26の回転の停止時に、
図9において下部の環状突起40に水滴WDが付着したとしても、水滴WDは、傾斜した内周面40Aに沿って流れて、落下する。落下した水滴WDは空間38から排出されやすい。
【0049】
第2の実施形態
上記の第1の実施形態は、ハブ軸受1のインボード側の密封装置21に関する。本発明の第2の実施形態は、ハブ軸受1のアウトボード側の密封装置20を含む密封構造に関する。
【0050】
図10に示すように、密封装置(シール部材)20は、ハブ軸受1の外輪8のアウトボード側の端部8Aと、ハブ軸受1のハブ4との間隙内に配置される。具体的には、密封装置20は、ハブ軸受1の外輪8のアウトボード側の円筒状の端部8Aと、ハブ軸受1のハブ4の玉10の近傍の円筒部分の外周面4Aと、ハブ4の外周面4Aよりも径方向外側に広がるフランジ面4Bと、外周面4Aとフランジ面4Bとを連結する円弧面4Cとで囲まれた空間内に配置される。フランジ面4Bはアウトボード側フランジ18のインボード側の表面である。密封装置20は環状であるが、
図10においては、その左側部分のみが示されている。
【0051】
密封装置20は、弾性環164および剛性環165を有する複合構造である。弾性環164は、弾性材料、例えばエラストマーで形成されている。剛性環165は、剛体材料、例えば金属から形成されており、弾性環164を補強する。剛性環165の一部は、弾性環164に埋設されており、弾性環164に密着している。
【0052】
弾性環164は、円筒部分164A、傾斜連結部分164B、環状部分164C、およびリップ172,174,176を有する。円筒部分164Aは、外輪8の端部8Aの内周面に締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。傾斜連結部分164Bは、円筒部分164Aの径方向内側に配置されている。環状部分164Cは、円筒部分164Aと傾斜連結部分164Bを連結する。リップ172,174,176は、傾斜連結部分164Bからハブ軸受1のハブ4に向けて延びる。
【0053】
環状部分164Cは、円環状であって、円筒部分164Aの一端からハブ軸受1の中心軸線Axに対して直交するように、ハブ4の円筒部分の外周面4Aに向けて径方向内側に向けて広がっている。また、環状部分164Cは、アウトボード側フランジ18のフランジ面4Bと対向する。この実施形態では、環状部分164Cのフランジ面4Bに対向する面164Eは、フランジ面4Bと平行である。
【0054】
この実施形態では、傾斜連結部分164Bは、環状部分164Cから径方向内側かつインボード側に向けて斜めに延び、屈曲して、さらにハブ軸受1の中心軸線Axに対して直交するように径方向内側に向けて延びている。
【0055】
リップ172,174,176の各々は、弾性材料のみから形成されており、傾斜連結部分164Bから延びる薄板状の円環であって、それぞれの先端はハブ4に接触する。密封装置20が固定された外輪8に取り付けられている一方、ハブ4は回転するので、リップ172,174,176はハブ4に対して摺動する。
【0056】
リップ172は、ラジアルリップであり、グリースリップであって、傾斜連結部分164Bの最も内側の縁部から延び、ハブ4の玉10の近傍の円筒部分に向けて延び、ラジアルリップ172の先端は円筒部分の外周面4Aに接触する。ラジアルリップ172は、径方向内側かつインボード側に向けて延び、主にハブ軸受1の内部からの潤滑剤の流出を阻止する役割を担う。
【0057】
リップ174,176は、傾斜連結部分164Bから側方(アウトボード側)、かつ径方向外側に向けて延びる。リップ174は、アキシャルリップまたはサイドリップであって、ハブ4のフランジ面4Bに向けて延び、アキシャルリップ174の先端はフランジ面4Bまたは円弧面4Cに接触する。リップ176は、アキシャルリップまたは中間リップと呼ばれ、円弧面4Cに向けて延び、中間リップ176の先端は円弧面4Cに接触する。リップ174,176は、主に外部からハブ軸受1の内部への異物の流入を阻止する役割を担うダストリップである。中間リップ176は、アキシャルリップ174をすり抜けて流入した異物を阻止するバックアップ機能を有する。
【0058】
剛性環165は、円筒部分165A、環状部分165B、連結部分165C、および環状部分165Dを有する。円筒部分165Aは、外輪8の端部8Aの内周面に嵌め入れられる。環状部分165Bは、円筒部分165Aの径方向内側に配置され、ハブ軸受1の中心軸線Axに対して直交するよう配置されている。連結部分165Cは、円筒部分165Aと環状部分165Bを連結する。剛性環165が外輪8の端部8Aの内周面に嵌め入れられると、円筒部分165Aは端部8Aにより、径方向内側に圧縮されて弾性変形する。
図10は、圧縮された状態の円筒部分165Aを示す。
【0059】
剛性環165の円筒部分165Aと弾性環164の円筒部分164Aは、外輪8の端部8Aの内周面に嵌め入れられる取付け部166を構成する。剛性環165の連結部分165Cは、弾性環164の円筒部分164Aに密着し、環状部分165Bは、弾性環164の環状部分164Cに密着している。
【0060】
環状部分165Dは、弾性環164の傾斜連結部分164Bに密着している。環状部分165Dは、屈曲した傾斜連結部分164Bの形状にほぼ相似する屈曲した形状を有する。
【0061】
この実施形態においては、外輪8の端部8Aと、ハブ4のフランジ面4Bとの間には、環状の間隙180が設けられている。間隙180を通じて、密封装置20の環状部分164Cとフランジ面4Bの間の空間182(環状部分164Cの面164Eとフランジ面4Bとの間の空間)内に、異物が侵入することがある。逆に、空間182内の異物は、間隙180を通じて排出することができる。
【0062】
この実施形態においては、ハブ4のアウトボード側フランジ18に、環状突起40と複数の水排出突起42が支持されている。環状突起40と複数の水排出突起42は、空間182内に突出し、密封装置20の環状部分164Cに向けて延びる。
【0063】
環状突起40は、矩形断面を有し、連続的なループとして形成されている。環状突起40は、空間182内のアキシャルリップ174への水の侵入を抑制する役割を担う。
【0064】
複数の水排出突起42は、同形同大を有しており、円周方向に等角間隔をおいて並べられており、環状突起40の径方向外側に配置されている。この実施形態では、複数の水排出突起42は環状突起40に連結されている。水排出突起42は、空間182から水を排出する役割を担う。
【0065】
環状突起40と水排出突起42は、エラストマー材料から形成されており、アウトボード側フランジ18に固定されている。エラストマー材料は、金属粉および/またはセラミックス粉を含有してもよい。
【0066】
但し、環状突起40と水排出突起42は、密封装置20のアウトボード側フランジ18に一体に取り付けられていてもよい。すなわち、環状突起40と水排出突起42は、アウトボード側フランジ18の部分であってよい。この場合、環状突起40と水排出突起42は、アウトボード側フランジ18と同じ剛性材料、例えば金属材料から形成されている。
【0067】
第2の実施形態の環状突起40は、第1の実施形態および変形例の環状突起40のいずれのタイプであってもよく、第2の実施形態の水排出突起42は、第1の実施形態および変形例の水排出突起42のいずれのタイプであってもよい。
【0068】
上記の通り、密封装置20の環状部分164Cとハブ4のアウトボード側フランジ18の間の空間182内には、異物(水およびダストを含む)が侵入することがありうる。しかし、空間182内には環状突起40が突出しており、環状突起40によって水の侵入が抑制される。さらに、この空間182内には複数の水排出突起42が突出しており、ハブ4と外輪8の相対回転に伴って、空間182内の水は、回転する部材に支持された水排出突起42に跳ねられて、空間182からすみやかに排出される。このため、密封構造は、密封対象への水からの保護性能が高い。また、密封装置20についても、水(泥水または塩水を含む)の存在により加速する劣化が低減される。間隙180は環状であるため、空間182から水が間隙180の一部を介して流出する一方で、密封装置20の外側の空気が間隙180の他の一部を介して空間182の内部に流入する。空間182の内部に流入する空気は、空間182からの水の流出を促進する。また、空間182の内部が負圧になってリップ174,176が予期せぬ変形をするおそれが低減される。
【0069】
複数の水排出突起42は環状突起40に連結されているため、環状突起40と水排出突起42の間に水が侵入したり残留したりしない。
【0070】
環状突起40と水排出突起42は、密封装置20には接触しない。また、密封装置20は、異物が存在する環境で使用されるが、常に空間182に水が満たされているわけではないので、ハブ4とともに環状突起40と水排出突起42が回転しても、回転に伴う抵抗は極めて小さい。したがって、環状突起40と水排出突起42は、トルクの増加にはほとんど寄与しない。
【0071】
図11は、第2の実施形態の変形例に係る密封構造を示す。この変形例においては、不可欠ではないが、ハブ4の周囲には、ハブ4とともに回転する回転シール部材167が固定されている。回転シール部材167は、剛性材料、例えば金属から形成されている。密封装置20と回転シール部材167は環状であるが、
図11においては、それらの左側部分のみが示されている。
【0072】
密封装置20は、弾性環168および剛性環169を有する複合構造である。弾性環168は、弾性材料、例えばエラストマーで形成されている。剛性環169は、剛体材料、例えば金属から形成されており、弾性環168を補強する。
【0073】
剛性環169の一部は、弾性環168に埋設されており、弾性環168に密着している。剛性環169の断面U字形の部分は、外輪8の端部8Aの内周面に締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。
【0074】
弾性環168は、環状部分168A、傾斜連結部分168B、およびリップ172,174を有する。環状部分168Aは、円環状であって、外輪8の端部8Aの端面に接触させられており、ハブ軸受1の中心軸線Axに対して直交するように、ハブ4の円筒部分の外周面4Aに向けて半径方向内側に向けて広がっている。また、環状部分168Aは、アウトボード側フランジ18のフランジ面4Bと対向する。
【0075】
傾斜連結部分168Bは、環状部分168Aの半径方向内側に配置されている。この変形例では、傾斜連結部分168Bは、環状部分168Aから半径方向内側かつインボード側に向けて斜めに延び、屈曲して、さらにハブ軸受1の中心軸線Axに対して直交するように半径方向内側に向けて延びている。
【0076】
リップ172,174は、傾斜連結部分168Bからハブ軸受1のハブ4に向けて延びる。リップ172,174の各々は、弾性材料のみから形成されており、傾斜連結部分168Bから延びる薄板状の円環であって、それぞれの先端は回転シール部材167に接触する。密封装置20が固定された外輪8に取り付けられている一方、ハブ4は回転するので、リップ172,174はハブ4に固定された回転シール部材167に対して摺動する。リップ172は、ラジアルリップすなわちグリースリップであって、半径方向内側かつインボード側に向けて延び、主にハブ軸受1の内部からの潤滑剤の流出を阻止する役割を担う。リップ174は、主に外部からハブ軸受1の内部への異物の流入を阻止する役割を担うダストリップである。
【0077】
この変形例においては、外輪8の端部8Aと、ハブ4のフランジ面4Bとの間には、環状の間隙180が設けられている。間隙180を通じて、密封装置20の環状部分168Aとフランジ面4Bの間の空間182(この変形例では、環状部分168Aと回転シール部材167の間の空間)内に、異物が侵入することがある。逆に、空間182内の異物は、間隙180を通じて排出することができる。
【0078】
この変形例においては、ハブ4のアウトボード側フランジ18に、環状突起40と複数の水排出突起42が支持されている。環状突起40と複数の水排出突起42は、空間182内に突出し、密封装置20の環状部分168Aに向けて延びる。
【0079】
この変形例においては、環状突起40と水排出突起42は、アウトボード側フランジ18に取り付けられた弾性環186に一体に取り付けられている。環状突起40、水排出突起42および弾性環186は、弾性材料、例えばエラストマー材料から形成されている。環状突起40、水排出突起42および弾性環186は、樹脂材料、エラストマー材料、金属粉とセラミックス粉の少なくとも一方を含有する樹脂材料、または金属粉とセラミックス粉の少なくとも一方を含有するエラストマー材料から形成されてもよい。環状突起40、水排出突起42および弾性環186が金属粉とセラミックス粉の少なくとも一方を含有する場合には、環状突起40、水排出突起42および弾性環186は、硬い異物の衝撃への耐久性が高く、耐摩耗性が高い。
【0080】
弾性環186は、回転シール部材167の外側端縁を覆い、さらに回転シール部材167のフランジ面4B側の面の一部を覆う。弾性環186のこの部分には、環状シール突起188が形成されている。環状シール突起188は、回転シール部材167とフランジ面4Bに挟まれ、水がフランジ面4Bに接触することを防止または低減する。これにより、ハブ4の錆の発生が抑制される。
【0081】
この変形例の環状突起40も、第1の実施形態および変形例の環状突起40のいずれのタイプであってもよく、この変形例の水排出突起42も、第1の実施形態および変形例の水排出突起42のいずれのタイプであってもよい。
【0082】
密封装置20は、環状の外側ラビリンスリップ192を有する。外側ラビリンスリップ192は、弾性環168の環状部分168Aからハブ4のアウトボード側フランジ18に向けて突出するが、ハブ4にも回転シール部材167にも接触しない。外側ラビリンスリップ192は、複数の水排出突起42に径方向において揃えられ、複数の水排出突起42よりも径方向外側に配置されている。
【0083】
他の変形例
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0084】
例えば、上記の実施形態においては、内側部材であるハブ4および内輪6が回転部材であり、外側部材である外輪8が静止部材である。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、互いに相対回転する複数の部材の密封に適用されうる。例えば、内側部材が静止し、外側部材が回転してもよいし、これらの部材のすべてが回転してもよい。この場合、環状突起40と水排出突起42は、回転する部材に支持される。
【0085】
本発明の用途は、ハブ軸受1の密封に限定されない。例えば、自動車の差動歯車機構またはその他の動力伝達機構、自動車の駆動シャフトの軸受またはその他の支持機構、ポンプの回転軸の軸受またはその他の支持機構などにも本発明に係る密封装置または密封構造を使用することができる。
【0086】
第1の実施形態の密封装置21の剛性環30は、単一の部品であるが、剛性環30を径方向に互いに分離した複数の剛性環に置換してもよい。第2の実施形態の密封装置20の剛性環165は、単一の部品であるが、剛性環165を径方向に互いに分離した複数の剛性環に置換してもよい。
【0087】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0088】
条項1. 相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記外側部材に取り付けられ、環状部分を有しており、前記環状部分が前記内側部材に向けて径方向内側に広がる、第1のシール部材と、
前記内側部材に取り付けられ、フランジを有しており、前記フランジが径方向外側に広がっており前記第1のシール部材の前記環状部分と対向する、第2のシール部材とを備え、
前記第1のシール部材および前記第2のシール部材のうち回転するシール部材には、環状突起と複数の水排出突起が支持されており、前記環状突起と前記複数の水排出突起は、前記第1のシール部材の前記環状部分と前記第2のシール部材の前記フランジの間に位置する空間内に突出し、
前記環状突起は、連続的なループとして形成され、
前記複数の水排出突起は、円周方向に並べられており、前記環状突起の径方向外側に配置されている
ことを特徴とする密封装置。
【0089】
条項2. 前記複数の水排出突起は前記環状突起に連結されている
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
【0090】
この条項によれば、環状突起と水排出突起の間に水が侵入したり残留したりしない。
【0091】
条項3. 円筒部分と、前記円筒部分から径方向外側に広がるフランジとを有する内側部材と、
前記内側部材に対して相対的に回転する外側部材と、
前記外側部材に取り付けられ、環状部分を有しており、前記環状部分が前記内側部材の前記円筒部分に向けて径方向内側に広がっており前記内側部材の前記フランジと対向する、シール部材と
を備え、
前記内側部材および前記シール部材のうち回転する部材には、環状突起と複数の水排出突起が支持されており、前記環状突起と前記複数の水排出突起は、前記シール部材の前記環状部分と前記内側部材の前記フランジの間に位置する空間内に突出し、
前記環状突起は、連続的なループとして形成され、
前記複数の水排出突起は、円周方向に並べられており、前記環状突起の径方向外側に配置されている
ことを特徴とする密封構造。
【0092】
条項4. 前記複数の水排出突起は前記環状突起に連結されている
ことを特徴とする条項3に記載の密封構造。
【0093】
この条項によれば、環状突起と水排出突起の間に水が侵入したり残留したりしない。
【符号の説明】
【0094】
1 ハブ軸受
4 ハブ(内側部材)
6 内輪(内側部材)
8 外輪(外側部材)
18 アウトボード側フランジ
20 密封装置(シール部材)
21 密封装置
24 第1のシール部材
24A 円筒部分
24B 環状部分
26 第2のシール部材
35 フランジ
38 空間
40 環状突起
42 水排出突起
166 取付け部
182 空間