(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】腰入れ処理設備、腰入れ処理方法、丸鋸用基材又は帯鋸用基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/24 20060101AFI20231124BHJP
B23D 65/00 20060101ALI20231124BHJP
B23D 61/12 20060101ALI20231124BHJP
B23D 61/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C21D9/24
B23D65/00
B23D61/12 B
B23D61/02 Z
(21)【出願番号】P 2019185515
(22)【出願日】2019-10-08
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591114102
【氏名又は名称】大同プラント工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
(72)【発明者】
【氏名】川手 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 智也
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-219525(JP,A)
【文献】特開昭63-219526(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009478(WO,A1)
【文献】特開平11-092828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00-11/00
B23D 45/00-65/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象を加熱する加熱室と、上記加熱室で加熱された処理対象を冷却する冷却装置とを有しており、上記処理対象を薄板状に成形されて外縁領域に鋸歯部が設けられた鋸素材として、
上記鋸素材に熱処理を施すとともに、上記鋸素材の上記鋸歯部に引張応力を発生させる腰入れ処理を行うための腰入れ処理設備であって、
上記冷却装置は、上記鋸素材に接触して該鋸素材との間で伝熱を行う定盤と、該定盤の温度を調整する温度調整器と、上記定盤と上記鋸素材とを圧接させる押圧装置と、を有しており、
上記定盤には、上記鋸素材の上記鋸歯部が設けられた外縁領域と対応する位置に配設される第1冷却回路と、上記鋸素材の内縁領域と対応する位置に配設される第2冷却回路と、が内装され、
上記温度調整器が上記第1冷却回路及び上記第2冷却回路にそれぞれ接続され、上記第1冷却回路と上記第2冷却回路とが互いに異なる温度に調整されることを特徴とする腰入れ処理設備。
【請求項2】
上記定盤は、上記鋸素材に接触する接触面が平担状に形成されている請求項1に記載の腰入れ処理設備。
【請求項3】
上記第1冷却回路の冷却温度が上記第2冷却回路の冷却温度よりも低い温度に調整されて、上記鋸素材の上記外縁領域を上記内縁領域よりも早く冷却することにより、上記鋸歯部が設けられた上記外縁領域に引張応力を発生させる請求項1又は請求項2に記載の腰入れ処理設備。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか一項に記載の腰入れ処理設備を使用し、薄板状に成形されて外縁領域に鋸歯部が設けられた鋸素材に対して熱処理を行うとともに、上記鋸歯部に引張応力を発生させる腰入れ処理を行うための腰入れ処理方法であって、
上記鋸素材を加熱する加熱工程と、
上記加熱工程後の上記鋸素材を冷却する冷却工程と、を備え、
上記冷却工程は、上記鋸素材を上記定盤に圧接させることで所定の圧力で加圧しつつ、上記定盤に内装された上記第1冷却回路の冷却温度が上記第2冷却回路の冷却温度よりも低くなるように上記温度調整器で調整して、上記第1冷却回路で上記鋸歯部が設けられた上記鋸素材の外縁領域を冷却し、上記第2冷却回路で上記鋸素材の内縁領域を冷却する工程であることを特徴とする腰入れ処理方法。
【請求項5】
上記冷却工程において、上記所定の圧力は、10~100kgf/cm
2である請求項4に記載の腰入れ処理方法。
【請求項6】
上記熱処理は、オーステンパー処理、焼入処理、又は焼戻処理のうち何れかの処理である請求項4又は5に記載の腰入れ処理方法。
【請求項7】
請求項4から6のうち何れか一項に記載の腰入れ処理方法を使用し、熱処理及び腰入れ処理を行った鋸素材からなる丸鋸用基材又は帯鋸用基材を製造することを特徴とする丸鋸用基材又は帯鋸用基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋸素材の鋸歯部に引張応力を発生させる腰入れ処理を行うための腰入れ処理設備及び腰入れ処理方法と、その腰入れ処理方法を使用した丸鋸用基材又は帯鋸用基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
丸鋸刃や帯鋸刃などの鋸刃は、外縁領域に鋸歯部が設けられた薄板状の鋸素材に焼入処理等の熱処理を施して丸鋸用基材や帯鋸用基材などの鋸用基材を得た後、この鋸用基材に加工を施して製造される。この鋸刃を使用した対象物の切断時において、鋸歯部が設けられた外縁領域は、切削熱や摩擦熱によって温度が上昇し、熱膨張して伸びようとするが、外縁領域の内側となる内縁領域は、切削熱や摩擦熱の影響が及ばないため、温度や膨張等の変化が無く、外縁領域の伸びを拘束する。このため、切断時における鋸刃には、鋸歯部が設けられた外縁領域に接線方向の圧縮応力が発生し、内縁領域に接線方向の引張応力が発生する。そして、鋸刃は、切断作業が続く等して外縁領域と内縁領域との温度差が大きくなると、圧縮応力と引張応力の差に耐えられなくなって熱座屈してしまう。
上述のような鋸刃の熱座屈を抑制するため、鋸素材や鋸用基材は、切断時の鋸歯部に発生する圧縮応力を打ち消すことができるように、外縁領域に引張応力を発生させる腰入れ処理を施される。そして、この腰入れ処理は、特許文献1~4に記載のように、ショットピーニング加工、展伸加工、ハンマリング加工、圧延加工等によって外縁領域に引張応力を発生させる機械的方法で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-263854号公報
【文献】特開2001-096425号公報
【文献】特開平11-300523号公報
【文献】特開平01-310814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の腰入れ処理は、熱処理を施した後で、敢えて鋸歯部に引張応力を発生させる処理であるから、鋸素材や鋸用基材に残留する熱処理による応力によって、意図しない応力を発生させてしまう可能性がある。このため、実際の腰入れ処理は、熟練の作業者の経験と勘に頼って実施しており、作業能率が悪いという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有していた問題点を解決しようとするものであり、腰入れ処理に係る作業能率の向上を図ることができる腰入れ処理設備及び腰入れ処理方法と、その腰入れ処理方法を使用した丸鋸用基材又は帯鋸用基材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、請求項1に記載の発明は、処理対象を加熱する加熱室と、上記加熱室で加熱された処理対象を冷却する冷却装置とを有しており、上記処理対象を薄板状に成形されて外縁領域に鋸歯部が設けられた鋸素材として、上記鋸素材の上記鋸歯部に引張応力を発生させる腰入れ処理を行うための腰入れ処理設備であって、上記冷却装置は、上記鋸素材に接触して該鋸素材との間で伝熱を行う定盤と、該定盤の温度を調整する温度調整器と、上記定盤と上記鋸素材とを圧接させる押圧装置と、を有しており、上記定盤には、上記鋸素材の上記鋸歯部が設けられた外縁領域と対応する位置に配設される第1冷却回路と、上記鋸素材の内縁領域と対応する位置に配設される第2冷却回路と、が内装され、上記温度調整器が上記第1冷却回路及び上記第2冷却回路にそれぞれ接続され、上記第1冷却回路と上記第2冷却回路とが互いに異なる温度に調整されることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記定盤は、上記鋸素材に接触する接触面が平担状に形成されていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、上記第1冷却回路の冷却温度が上記第2冷却回路の冷却温度よりも低い温度に調整されて、上記鋸素材の上記外縁領域を上記内縁領域よりも早く冷却することにより、上記鋸歯部が設けられた上記外縁領域に引張応力を発生させることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のうち何れか一項に記載の腰入れ処理設備を使用し、薄板状に成形されて外縁領域に鋸歯部が設けられた鋸素材に対して熱処理を行うとともに、上記鋸歯部に引張応力を発生させる腰入れ処理を行うための腰入れ処理方法であって、上記鋸素材を加熱する加熱工程と、上記加熱工程後の上記鋸素材を冷却する冷却工程と、を備え、上記冷却工程は、上記鋸素材を上記定盤に圧接させることで所定の圧力で加圧しつつ、上記定盤に内装された上記第1冷却回路の冷却温度が上記第2冷却回路の冷却温度よりも低くなるように上記温度調整器で調整して、上記第1冷却回路で上記鋸歯部が設けられた上記鋸素材の外縁領域を冷却し、上記第2冷却回路で上記鋸素材の内縁領域を冷却する工程であることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、上記冷却工程において、上記所定の圧力は、10~100kgf/cm2であることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の発明において、上記熱処理は、オーステンパー処理、焼入処理、又は焼戻処理のうち何れかの処理であることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項4から6のうち何れか一項に記載の腰入れ処理方法を使用し、熱処理及び腰入れ処理を行った鋸素材からなる丸鋸用基材又は帯鋸用基材を製造することを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、腰入れ処理設備は、鋸素材を冷却する冷却装置において、鋸素材に接触して鋸素材との間で伝熱を行う定盤に、第1冷却回路と第2冷却回路とが内装されている。第1冷却回路は、鋸素材の外縁領域と対応する位置に配設され、第2冷却回路は、鋸素材の内縁領域と対応する位置に配設されている。そして、第1冷却回路と第2冷却回路とは、冷却装置の温度調整器により、互いに異なる温度に調整される。
上述の腰入れ処理設備を使用した腰入れ処理方法は、鋸素材を冷却する冷却工程において、定盤に内装された第1冷却回路の冷却温度が第2冷却回路の冷却温度よりも低くなるように調整して、第1冷却回路で鋸歯部が設けられた鋸素材の外縁領域を冷却し、第2冷却回路で鋸素材の内縁領域を冷却する。
上記のように第1冷却回路の冷却温度を、第2冷却回路の冷却温度よりも低くすることにより、第1冷却回路と対応する鋸素材の外縁領域は、第2冷却回路と対応する内縁領域よりも早く冷却される。そして、早く冷却された外縁領域は、熱膨張による内縁領域の伸びを拘束するため、外縁領域に引張応力を発生させることができる。すなわち、鋸素材の熱処理時に、この鋸素材に腰入れ処理を施すことができ、腰入れ処理に係る作業能率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の腰入れ処理設備を示す概略説明図。
【
図2】(a)は冷却装置を正面から見た状態を示す説明図、(b)は定盤に内装された第1及び第2冷却回路を平面から見た状態を示す説明図。
【
図3】実施形態の鋸素材を示す(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は腰入れ処理時に鋸素材に発生する応力を示す平面から見た状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
また、下記実施形態で記載した各構成の括弧内の符号は、後述する実施例に記載の具体的構成との対応関係を示すものである。
【0011】
本実施形態に係る腰入れ処理設備(10)は、
図1に示すように、処理対象を加熱する加熱室(11)と、この加熱室(11)で加熱された処理対象を冷却する冷却装置(12)と、を有している。
腰入れ処理設備(10)において、処理対象は、薄板状に成形されており、外縁領域(21)に鋸歯部(23)が設けられた鋸素材(20)である(
図3(a)参照)。
腰入れ処理設備(10)は、鋸素材(20)に熱処理を施すとともに、その鋸素材(20)の鋸歯部(23)に引張応力を発生させる腰入れ処理を行うための設備である。
【0012】
冷却装置(12)は、鋸素材(20)との間で伝熱を行う定盤(13)と、定盤(13)の温度を調整する温度調整器(14)と、定盤(13)と鋸素材(20)とを圧接させる押圧装置(15)と、を有している。
定盤(13)には冷却回路(19)が内装されている。この冷却回路(19)は、
図2(a),(b)に示すように、鋸素材(20)の鋸歯部(23)が設けられた外縁領域(21)と対応する位置に配設される第1冷却回路(19A)と、鋸素材(20)の内縁領域(22)と対応する位置に配設される第2冷却回路(19B)と、を有している。
温度調整器(14)は、第1冷却回路(19A)及び第2冷却回路(19B)にそれぞれ接続されている。そして、第1冷却回路(19A)と第2冷却回路(19B)とは、互いに異なる温度に調整される。
【0013】
腰入れ処理設備(10)は、加熱室(11)と冷却装置(12)とを有し、鋸素材(20)に熱処理を行うように構成されているものであれば、大きさ、炉内容積等について、特に問わない。
腰入れ処理設備(10)の処理方式は、バッチ式と連続式とが挙げられるが、何れかについて特に問わない。腰入れ処理設備(10)の搬送方式は、ローラーハース式、固定炉床式、台車式、ウォーキングビーム式、ウォーキングハース式、プッシャ式等が挙げられるが、何れかについて特に問わない。
加熱室(11)は、構成、形状、炉内容積、加熱方式等について特に問わず、一般的な加熱炉や加熱室を使用することができる。
【0014】
冷却装置(12)は、定盤(13)と、温度調整器(14)と、押圧装置(15)と、を有する構成であれば、その他の構成、形状、鋸素材の搬送方式等について特に問わない。
定盤(13)は、鋸素材(20)との間で伝熱を行うものであれば、構成、材質等について特に問わない。また、定盤(13)の材質には、鋸素材(20)との間で伝熱を行うことが可能な熱伝導率を有する鉄、アルミニウム、銅、チタン等の金属、あるいはそれら金属を使用した合金を使用することができる。
定盤(13)の形状については、鋸素材(20)と隙間なく接触させることで伝熱の効率を向上させるという観点から、鋸素材(20)に接触する接触面が平担状に形成されていることが好ましい。また、定盤(13)の形状は、熱処理後の冷却時に鋸素材(20)に発生する反りや歪み等の発生を防止して、薄板状に成形された鋸素材(20)の形状を保持するという観点から、平板状とすることがより好ましい。
【0015】
温度調整器(14)は、定盤(13)の温度を調整可能な構成であれば、その他の構成、冷却方式、設置基数等について特に問わない。この温度調整器(14)には、任意の温度に調整した熱媒体を定盤(13)との間で回流させる温度調節機などを使用することができる。また、温度調整器(14)は、1基のみを設置して第1冷却回路(19A)と第2冷却回路(19B)の両方を接続してもよく、2基以上を設置して各温度調整器(14)にそれぞれ第1冷却回路(19A)又は第2冷却回路(19B)を接続してもよい。
押圧装置(15)は、鋸素材(20)と定盤(13)とを圧接させることが可能な構成を有するのであれば、その他の構成、形状、油圧式や空圧式や電動などの駆動方式等について特に問わない。この押圧装置(15)には、一般的なプレス装置などを使用することができる。
【0016】
定盤(13)に内装される冷却回路(19)として、第1冷却回路(19A)と第2冷却回路(19B)は、構成等について特に問わない。
第1冷却回路(19A)と第2冷却回路(19B)の形状については、鋸素材(20)の形状に応じた形状とすることができる。
例えば、鋸素材(20)が平面視で円形の場合、
図2(b)に示すように、略円形状をなす第1冷却回路(19A)の内側に、略円形状をなす第2冷却回路(19B)が配された形状とすることができる。他に、鋸素材(20)が平面視で帯形の場合、略直線状をなす第1冷却回路(19A)と、略直線状をなす第2冷却回路(19B)とが互いに平行に伸びる形状とすることができる。
【0017】
鋸素材(20)は、金属材料を所定の薄板状に成形して得られたものであれば、それ以外の形状、大きさ等は、特に問わない。
鋸素材(20)の形状は、丸鋸用基材とする場合、
図3(a),(b)に示すように、平面視で円形の薄板状とされる。この鋸素材(20)からなる丸鋸用基材においては、周縁部が外縁領域(21)であり、中央部が内縁領域(22)であって、鋸歯部(23)は外縁領域(21)の外周縁に設けられている。
また、鋸素材(20)の形状は、帯鋸用基材とする場合、
図4に示すように、平面視で帯形の薄板状とされる。この鋸素材(20)からなる帯鋸用基材においては、鋸歯部(23)が設けられた一側縁部が外縁領域(21)であり、他側縁部が内縁領域(22)である。
【0018】
鋸素材(20)の金属材料は、特に問わないが、鋸素材(20)に要求される硬さや靱性を満たすという観点から、好ましくは炭素鋼であり、より好ましくは炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼等の工具鋼であり、さらに好ましくは高速度工具鋼(ハイス鋼)である。この高速度工具鋼とは、高温下での硬さと耐軟化性を高めた材料であり、金属用の切削工具の材料として有用である。
薄板状に成形される鋸素材(20)の厚さ(T)は、反りや歪みの発生を抑制することができるという観点から、好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは1.5~3mmである。特に鋸素材(20)の厚さが上述の範囲である場合、熱処理時に反りや歪みが頻繁に発生することに比べて、本発明は反りや歪みの発生を抑制することができる点で有用である。
【0019】
腰入れ処理設備(10)は、
図1に示すように、設備内に不活性ガスを供給して無酸化雰囲気にするために、不活性ガス供給装置(17)をさらに有することができる。
不活性ガス供給装置(17)を使用して腰入れ処理設備(10)内を無酸化雰囲気にする場合、鋸素材(20)の表面への酸化スケールの付着を抑制することができ、酸化スケールの除去に係る作業を省略することができるとともに、酸化スケールの付着抑制による冷却効率の向上を図ることができる。
不活性ガス供給装置(17)は、設備内に不活性ガスを供給可能な構成を有するのであれば、その他の構成、不活性ガスの供給量や供給方式等について、特に問わない。
【0020】
腰入れ処理設備(10)において、不活性ガス供給装置(17)は、
図1に示すように、加熱室(11)と冷却装置(12)とが1つの収容室(18)の室内に設置されている構成として、この収容室(18)に接続されていることが好ましい。
また、不活性ガス供給装置(17)は、冷却装置(12)が収容室(18)の室内に設置されるとともに、加熱室(11)が収容室(18)の室外に設置された構成として、この収容室(18)と加熱室(11)とに接続された構成とすることもできる。
収容室(18)は、冷却装置(12)等を収容可能なサイズを有し、内部に不活性ガスを供給することで無酸化雰囲気にすることが可能な構成を有するのであれば、その他の構成、サイズ、不活性ガスの供給量や供給方式等について、特に問わない。
【0021】
腰入れ処理設備(10)を使用し、鋸素材(20)に対して熱処理を行うとともに、鋸歯部(23)に引張応力を発生させる腰入れ処理を行うための腰入れ処理方法は、加熱工程と、冷却工程と、を備えている。
加熱工程は、鋸素材(20)を加熱する工程である。この加熱工程は、腰入れ処理設備(10)の加熱室(11)を使用して実行される。そして、加熱工程を施された鋸素材(20)は、その金属組織がオーステナイト組織に変態される。
冷却工程は、加熱工程後の鋸素材(20)を冷却する工程である。この冷却工程は、腰入れ処理設備(10)の冷却装置(12)を使用して行われる。そして、冷却工程で冷却された鋸素材(20)は、その金属組織がオーステナイトから、熱処理に応じた組織に変態される。
【0022】
冷却工程は、冷却装置(12)の定盤(13)に鋸素材(20)を圧接させることで、この鋸素材(20)を所定の圧力で加圧しつつ行われる。
また、冷却工程は、定盤(13)に内装された第1冷却回路(19A)の冷却温度が、第2冷却回路(19B)の冷却温度よりも低くなるように、温度調整器(14)で調整して行われる。
そして、冷却工程は、鋸歯部(23)が設けられた鋸素材(20)の外縁領域(21)を第1冷却回路(19A)で冷却し、鋸素材(20)の内縁領域(22)を第2冷却回路(19B)で冷却する工程である。
【0023】
上述の冷却工程では、鋸素材(20)の金属組織がオーステナイトから熱処理に応じたマルテンサイトやベイナイト等の組織に変態されるが、この変態時には熱膨張が発生する。
冷却工程において、第1冷却回路(19A)の冷却温度は、第2冷却回路(19B)の冷却温度よりも低く調整されており、鋸歯部(23)が設けられた鋸素材(20)の外縁領域(21)は、内縁領域(22)に比べて、冷却が早く進む。このため、早く冷却された外縁領域(21)は、熱膨張による内縁領域(22)の伸びを拘束するので、図3(c)に示すように、鋸素材(20)の外縁領域(21)に引張応力が発生する。
【0024】
すなわち、上述の冷却工程では、熱処理による金属組織の変態に伴う熱膨張を利用し、鋸歯部(23)が設けられた鋸素材(20)の外縁領域(21)と、外縁領域(21)の内側となる内縁領域(22)とで冷却温度に差を生じさせ、外縁領域(21)に故意に引張応力を発生させることで、鋸素材(20)に腰入れ処理を施している。
そして、上述の腰入れ処理方法によれば、鋸素材(20)の熱処理時に、より詳しくは熱処理の冷却工程で、この鋸素材(20)に腰入れ処理を施すことができる。このため、熱処理とは別の工程で腰入れ処理を行わずともよく、また熟練の作業者に頼らずとも腰入れ処理を行うことができることから、腰入れ処理に係る作業能率の向上を図ることができる。
【0025】
腰入れ処理方法は、加熱工程と、冷却工程と、を備えているのであれば、その他の工程を備えていることについて、特に問わない。例えば、腰入れ処理方法は、冷却工程後に複数の鋸素材(20)を段積みする工程、冷却工程後に鋸素材(20)を常温になるまで放冷や冷却等する第2の冷却工程などを備えることができる。
腰入れ処理方法において、腰入れ処理とともに施される熱処理については、鋸素材(20)の金属組織を変態させる処理であれば、特に問わない。
この熱処理は、オーステンパー処理、焼入処理、又は焼戻処理のうちの何れかとすることができる。
オーステンパー処理は、金属組織をオーステナイトからベイナイトに変態させる処理であり、焼入処理は、金属組織をオーステナイトからマルテンサイトに変態させる処理であり、焼戻処理は、焼入処理で硬くなることで脆化して不安定となったマルテンサイト等の組織を安定な組織に変態させる処理である。
【0026】
冷却工程は、冷却装置(12)を使用して実行されるが、詳しくは温度調整器(14)によって所定の温度域に制御された定盤(13)と鋸素材(20)とを、押圧装置(15)を用いて所定の圧力で圧接させることにより、所定の薄板状に形成された鋸素材(20)の形状が保持された状態で行われる。
すなわち、薄板状に形成された鋸素材(20)は、冷却工程時に金属組織の変態に伴う熱膨張によって、反りや歪み等が非常に発生しやすくなっている。そこで、腰入れ処理方法は、定盤(13)と鋸素材(20)とを押圧装置(15)を用いて所定の圧力で圧接させることにより、外縁領域(21)に引張応力を好適に発生させながら、鋸素材(20)の反りや歪みの発生を抑制することができる。
【0027】
また、冷却装置(12)を使用して鋸素材(20)を冷却する際、鋸素材(20)と定盤(13)との間に隙間があると、その隙間の部分が伝熱不良となって冷却が行われず、金属組織が所望以外の組織に変態することで、外縁領域(21)に引張応力を発生させることができなくなったり、酸化スケールが発生したりしてしまう。
冷却工程では、押圧装置(15)を用いて鋸素材(20)と定盤(13)とを圧接させることにより、鋸素材(20)が略一様に冷却されることで、外縁領域(21)に引張応力を好適に発生させることができるとともに、酸化スケールの発生を抑制することができる。
【0028】
なお、この冷却工程は、例えばダイクエンチ処理のような、鋸素材(20)を所定の形状に成形することを目的としておらず、所定の薄板状に成形して得られた鋸素材(20)の形状を保持することを目的としている。
従って、押圧装置(15)を用いて定盤(13)と圧接された鋸素材(20)の形状が変化してしまうことは、この冷却工程の目的から外れており、このため押圧装置(15)を用いた鋸素材(20)と定盤(13)との圧接は、鋸素材(20)の形状を保持可能な程度の所定の圧力で行われる。
【0029】
加熱工程又は冷却工程は、鋸素材(20)の表面への酸化スケールの付着を抑制するという観点から、無酸化雰囲気下で行われることが好ましい。
無酸化雰囲気下で加熱工程又は冷却工程を実行することについては、その実行のための構成などについて特に問わないが、例えば上述したように冷却装置(12)等を収容する収容室(18)の内部や、加熱室(11)と収容室(18)の内部に不活性ガスを供給することにより、実行することができる。
【0030】
加熱工程において、鋸素材(20)を加熱する温度域は、使用される金属材料に応じて設定されるのであれば特に問わない。
鋸素材(20)の金属材料が、例えば上述の炭素鋼であれば、オーステナイト組織に好適に変態させるという観点から、加熱温度域は、800~900℃が好ましく、820~900℃がより好ましく、850~900℃がさらに好ましい。
【0031】
冷却工程において、鋸素材(20)を冷却する温度域は、鋸素材(20)に施される熱処理に応じた温度域であれば、使用される金属材料に応じて設定され、特に問わない。
例えば、鋸素材(20)の金属材料が上述の炭素鋼であり、熱処理がオーステンパー処理であれば、冷却温度域は、好ましくは300~500℃であり、より好ましくは320~480℃であり、さらに好ましくは350~450℃である。
また、鋸素材(20)の金属材料が上述の炭素鋼であり、熱処理が焼入処理であれば、冷却温度域は、好ましくは50~100℃であり、より好ましくは70~100℃であり、さらに好ましくは70~90℃である。
そして、鋸素材(20)の金属材料が上述の炭素鋼であり、熱処理が焼戻処理であれば、冷却温度域は、低温焼戻で好ましくは100~300℃、より好ましくは150~250℃であり、高温焼戻で好ましくは300~730℃、より好ましくは400~680℃である。
【0032】
冷却工程において、第1冷却回路(19A)と第2冷却回路(19B)の冷却温度は、上述の鋸素材(20)を冷却する温度域の範囲内で設定され、特に問わない。
第1冷却回路(19A)と第2冷却回路(19B)との冷却温度の差は、鋸素材(20)に施される熱処理と使用される金属材料とに応じて設定され、特に問わない。
例えば、鋸素材(20)の金属材料が上述の炭素鋼であり、熱処理がオーステンパー処理又は焼戻処理であれば、冷却温度の差は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは1~90℃であり、さらに好ましくは10~80℃である。
また、鋸素材(20)の金属材料が上述の炭素鋼であり、熱処理が焼入処理であれば、冷却温度の差は、好ましくは1~50℃であり、より好ましくは5~30℃であり、さらに好ましくは10~20℃である。
【0033】
冷却工程において、定盤(13)と鋸素材(20)とを押圧装置(15)を用いて圧接させる場合の所定の圧力は、外縁領域(21)に引張応力を好適に発生させながら、鋸素材(20)の形状を保持可能な範囲であって、金属組織の変態による鋸素材(20)の反りや歪みを防止可能であるとともに、加熱工程後の軟らかくなっている鋸素材(20)を変形させない範囲であれば、特に問わない。
具体的に、上記所定の圧力は、好ましくは10~100kgf/cm2であり、より好ましくは20~100kgf/cm2であり、さらに好ましくは30~95kgf/cm2である。
【0034】
冷却工程における冷却時間は、鋸素材(20)の金属材料に応じて設定すればよく、特に問わない。
炭素鋼による鋸素材(20)の場合、冷却による割れ等の不良を防止するとともに、作業効率の向上を図るという観点から、冷却時間は、好ましくは1~20秒、より好ましくは5~15秒、さらに好ましくは8~12秒である。
【実施例】
【0035】
以下、図面を参照しつつ、本発明の腰入れ処理設備を具体化した実施例と、それを使用した腰入れ処理方法について説明する。
【0036】
図1に示すように、腰入れ処理設備10は、搬送装置10Aによる搬送方式をローラーハース式としたものである。この搬送装置10Aは、鋸素材20の搬送方向で上流側(
図1中で左側)から下流側(
図1中で右側)へ、腰入れ処理設備10の全体にわたって設けられている。
腰入れ処理設備10は、上流側から下流側へ順番に、加熱室11、冷却装置12を有している。
加熱室11は、内部に鋸素材20を収容する空間が設けられている。加熱室11の内部には、ヒータ11Bが設けられている。そして、加熱室11は、内部に装入された鋸素材20をヒータ11Bによって加熱することにより、鋸素材20の金属組織をオーステナイト化させる。
冷却装置12は、定盤13と、温度調整器14と、押圧装置15とを有している。定盤13には、複数の冷却回路19が内装されている。そして、冷却装置12は、温度調整器14及び複数の冷却回路19によって所定の温度域に調整された定盤13と、鋸素材20とを、押圧装置15によって圧接させ、定盤13と鋸素材20との間で伝熱を行うことにより、鋸素材20を冷却し、所望の金属組織に変態させる。
【0037】
図1に示すように、腰入れ処理設備10において、上述した加熱室11及び冷却装置12は、収容室18内に収容されている。
この収容室18には、不活性ガス供給装置17が接続されており、収容室18の内部は、不活性ガス供給装置17から例えば窒素ガス等の不活性ガスが供給されて、充満されることにより、無酸化雰囲気とされている。
また、収容室18において、内部に鋸素材20を出し入れするための出入口には、収容室18内部に不活性ガスを充満させて無酸化雰囲気とするための開閉式の扉18Aが設けられている。
【0038】
図2(a)に示すように、冷却装置12は、定盤13として下定盤13A及び上定盤13Bと、を有している。
下定盤13Aは、平板状に形成されており、上面が鋸素材20と圧接される接触面であって平坦状をなすとともに、その上面に加熱室11から送られた鋸素材20が載せられるように構成されている。また、下定盤13Aの内部には、第1冷却回路19A及び第2冷却回路19Bが設けられている。
上定盤13Bは、平板状に形成されており、下面が鋸素材20と圧接される接触面であって平坦状をなしている。この上定盤13Bは、押圧装置15に取り付けられて、下定盤13Aの上方に配置されている。そして、上定盤13Bは、押圧装置15の作動時に下定盤13Aへ接近することで、この下定盤13Aとの間に鋸素材20を挟持するように構成されている。また、上定盤13Bの内部には、第1冷却回路19A及び第2冷却回路19Bが設けられている。
【0039】
温度調整器14は、下定盤13A及び上定盤13Bの第1冷却回路19Aと第1媒体供給路14Aを介して接続されているとともに、第2冷却回路19Bと第2媒体供給路14Bを介して接続されている。
この温度調整器14は、第1媒体供給路14A及び第2媒体供給路14Bを介することにより、下定盤13A及び上定盤13Bの第1冷却回路19A及び第2冷却回路19Bとの間で冷媒、熱媒などの媒体を流動させるように構成されている。
そして、温度調整器14は、第1冷却回路19Aと第2冷却回路19Bのそれぞれに流動される媒体を異なる温度に調整することにより、第1冷却回路19Aと、第2冷却回路19Bとが互いに異なる温度となるように調整している。
【0040】
押圧装置15は、上定盤13Bを下定盤13Aへ接近させ、下定盤13A及び上定盤13Bの間に鋸素材20を挟持させるとともに、上定盤13Bを押圧することにより、下定盤13A及び上定盤13Bと鋸素材20とを所定の圧力で圧接させるように構成されている。
そして、冷却装置12は、温度調整器14によって所定の温度域に調整された下定盤13A及び上定盤13Bと、鋸素材20とが、押圧装置15を用いて所定の圧力で圧接されることにより、下定盤13A及び上定盤13Bと鋸素材20との間で伝熱が行われ、鋸素材20を、その形状が保持された状態で所定の温度域まで冷却する。
【0041】
図2(b)に示すように、下定盤13A又は上定盤13Bに内装された第1冷却回路19Aは、鋸素材20の鋸歯部23が設けられた外縁領域21と対応する位置に配設されている。
また、下定盤13A又は上定盤13Bに内装された第2冷却回路19Bは、鋸素材20の内縁領域22と対応する位置に配設されている。
具体的に、第1冷却回路19Aは、下定盤13A又は上定盤13Bの中央部で略円形をなすように設けられており、第2冷却回路19Bは、下定盤13A又は上定盤13Bの中央部において第1冷却回路19Aの内側で略円形をなすように設けられている。
【0042】
図3(a),(b)に示すように、鋸素材20は、丸鋸の回転刃として使用される丸鋸用基材のためのものであり、金属材料に炭素鋼を用い、平面視で円形となるように、厚さTが1~5mmの薄板状に成形されている。
鋸素材20からなる丸鋸用基材は、外周縁部が外縁領域21であり、中央部が内縁領域22であり、外縁領域21に鋸歯部23が設けられている。
鋸素材20に熱処理と腰入れ処理とが施されることによって、丸鋸用基材が製造される。
そして、この鋸素材20からなる丸鋸用基材は、
図3(c)に示すように、外縁領域21に引張応力が発生している。
【0043】
上述の腰入れ処理設備10を使用した腰入れ処理方法について説明する。
この腰入れ処理方法は、加熱工程と、冷却工程と、を備えている。
まず、加熱工程において、鋸素材20は、加熱室11で加熱されることにより、その金属組織がオーステナイト組織に変態され、オーステナイト化される(
図1参照)。
【0044】
次に、冷却工程において、加熱室11から送り出された鋸素材20は、まず下定盤13Aの上面に載せられる。
このとき、冷却装置12の下定盤13A及び上定盤13Bは、温度調整器14によって、所望の熱処理に応じた所定の温度域に予め調整されている(
図2(a)参照)。
そして、押圧装置15により上定盤13Bが下定盤13Aに接近することで、鋸素材20は、下定盤13A及び上定盤13Bの間に挟持される。
【0045】
鋸素材20が下定盤13A及び上定盤13Bの間に挟持された後、押圧装置15により上定盤13Bが所定の圧力で鋸素材20を押圧することにより、鋸素材20と、下定盤13A及び上定盤13Bとが圧接される。
このように下定盤13A及び上定盤13Bと圧接された鋸素材20は、冷却による反りや歪みの発生を防止されるとともに、圧力が所定範囲に保たれることで、下定盤13A及び上定盤13Bとの圧接による変形や成形を防止される。
そして、下定盤13A及び上定盤13Bと圧接された鋸素材20は、下定盤13A及び上定盤13Bとの間で伝熱を行うことにより、所望の熱処理に応じた所定の温度域に冷却されて、その金属組織がオーステナイトから、例えばベイナイトやマルテンサイト等といった所定の温度域に応じた組織に変態される。
【0046】
上述の冷却工程において、上下各定盤13A,13Bに内装された第1冷却回路19Aは、鋸素材20の外縁領域21を冷却し、第2冷却回路19Aは、鋸素材20の内縁領域22を冷却する(
図2(b)、
図3(a)参照)。
冷却回路19において、第1冷却回路19Aは、その冷却温度が、第2冷却回路19Bの冷却温度よりも低くなるように調整されている。
そして、第1冷却回路19Aによって冷却される鋸素材20の外縁領域21は、第2冷却回路19Bによって冷却される内縁領域22に比べて、冷却が早く進む。
【0047】
上記鋸素材20は、金属組織の変態時に熱膨張を発生させており、この熱膨張は、冷却が早く進む外縁領域21が、冷却の遅い内縁領域22に比べて、早くおさまる。
このため、
図3(c)に示すように、冷却時の鋸素材20において、熱膨張がおさまった外縁領域21は、未だ熱膨張がおさまっていない内縁領域22の伸びを拘束する。
その結果、伸びを拘束された内縁領域22の周縁には圧縮応力が発生するとともに、この圧縮応力に反して外縁領域21には引張応力が発生する。
また、鋸素材20は、下定盤13A及び上定盤13Bの間に挟持されているとともに、所定の圧力で下定盤13A及び上定盤13Bと圧接されているため、外縁領域21に発生する引張応力の方向は、接線方向となる。
上述の腰入れ処理方法は、鋸素材20にその金属組織を変態させる熱処理を施しながら、冷却工程で鋸素材20の外縁領域21の冷却温度を、内縁領域22の冷却温度よりも低く調整することにより、外縁領域21に引張応力を発生させる腰入れ処理を施している。
そして、上述の腰入れ処理方法を使用し、熱処理及び腰入れ処理を行った鋸素材20からなる丸鋸用基材が製造される。
なお、上述の腰入れ処理方法では、平面視で円形の鋸素材20が用いられたことにより丸鋸用基材が製造されるが、
図4に示すような平面視で帯形の鋸素材20が用いる場合、熱処理及び腰入れ処理を行った帯形の鋸素材20からなる帯鋸用基材が製造される。
【符号の説明】
【0048】
10 腰入れ処理設備
11 加熱室
12 冷却装置
13 定盤
13A 下定盤
13B 上定盤
14 温度調整器
15 押圧装置
16 冷却室
17 不活性ガス供給装置
18 収容室
19 冷却回路
19A 第1冷却回路
19B 第2冷却回路
20 鋸素材