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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】滑走予測装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1761 20060101AFI20231124BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20231124BHJP
   B61H 1/00 20060101ALI20231124BHJP
   B60T 1/04 20060101ALI20231124BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20231124BHJP
   B61K 13/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B60T8/1761
B60T7/12 B
B61H1/00
B60T1/04
B60L3/00 N
B61K13/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019189992
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021062844
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】廣川 祐一
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-004662(JP,A)
【文献】特開2006-050798(JP,A)
【文献】特開2008-029109(JP,A)
【文献】特開2017-043348(JP,A)
【文献】国際公開第2008/005620(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/1761
B60T 7/12
B61H 1/00
B60T 1/04
B60L 3/00
B61K 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌条における鉄道車両の位置情報を取得する取得部と、
前記鉄道車両の車輪の回転速度に基づいて前記車輪の滑走を判定する滑走判定部と、
前記車輪が滑走したときの軌条における前記鉄道車両の位置情報と、前記車輪が滑走したときの前記鉄道車両の速度、前記車輪が滑走したときの前記鉄道車両の位置についての降水量、前記車輪が滑走したときの前記鉄道車両の減速状態を示すブレーキ指令の少なくとも1つと、対応付けた滑走情報記憶する記憶部と、
前記滑走情報に基づいて車輪が滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する滑走予測部と、を備え
前記滑走予測部は、
前記滑走情報に含まれる前記速度、前記降水量、及び前記ブレーキ指令の少なくとも1つが小さいほど、滑走しやすさポイントを大きく算出し、
算出した前記滑走しやすさポイントが基準値以上である場合に、前記滑走情報に含まれる位置情報を前記滑走予測位置として特定す
滑走予測装置。
【請求項2】
軌条における前記鉄道車両の現在の位置と前記滑走予測位置とに基づいて報知装置に報知を実行させる報知制御部を備える
請求項1に記載の滑走予測装置。
【請求項3】
前記報知制御部は、軌条における前記鉄道車両の現在の位置と、前記滑走予測位置との距離が予め定められた規定距離以下になったときに報知装置に報知を実行させる
請求項に記載の滑走予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑走予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の鉄道車両は、車輪が固定された車軸の回転速度を検出するための回転速度センサを備えている。この回転速度センサは、4つの車軸に対応して合計4つ取り付けられている。
【0003】
特許文献1に記載の鉄道車両は、4つの車軸の回転速度を検出し、その回転速度の差を算出する。この鉄道車両は、算出された回転速度の差に基づいて、軌条に対して車輪が滑走しているか否かを検出する。そして、特許文献1に記載の鉄道車両では、車輪が滑走しているときにブレーキ装置のブレーキ力を弱めることで発生した滑走の解消を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-222054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の鉄道車両においては、車輪が滑走していることを検出したり、発生している滑走に対応してブレーキ力を制御したりすることはできても、鉄道車両の車輪がどの位置で滑走しやすいのかを予測する術はない。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉄道車両の車輪が滑走する位置を予測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための滑走情報生成装置は、軌条における鉄道車両の位置情報を取得する取得部と、前記鉄道車両の車輪の回転速度に基づいて前記車輪の滑走を判定する滑走判定部と、前記車輪が滑走したときの軌条における前記鉄道車両の位置情報を滑走情報として記憶する記憶部とを備える。
【0008】
上記構成では、車輪が滑走した位置情報を含む滑走情報が記憶される。したがって、例えば、記憶された滑走情報を収集して解析することで、鉄道車両の車輪が滑走する位置を予測できる。
【0009】
上記構成において、前記滑走情報には、前記車輪が滑走したときの前記鉄道車両の速度情報、前記車輪が滑走したときの前記鉄道車両の減速状態を示す情報、及び前記車輪が滑走したときの前記鉄道車両の重量に関する情報の少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0010】
上記構成では、鉄道車両の速度情報、鉄道車両の減速状態を示す情報、鉄道車両の重量に関する情報といった車輪の滑走のしやすさに関与する情報が滑走情報に含まれる。したがって、上記構成によれば、滑走情報を利用して車輪の滑走を予測するにあたって、その精度向上に寄与できる。
【0011】
上記構成において、前記滑走情報には、前記車輪が滑走したときの気象情報が含まれていてもよい。車輪が滑走したときと同じ位置であっても、例えば、雨が降っているか否かによって鉄道車両の滑走のしやすさが変わる。上記構成では、車輪の滑走のしやすさに関与する気象情報が滑走情報に含まれているため、滑走情報を利用して車輪の滑走を予測するにあたって、その予測精度を向上できる。
【0012】
上記課題を解決するための滑走予測装置は、軌条における鉄道車両の位置情報を取得する取得部と、前記鉄道車両の車輪の回転速度に基づいて前記車輪の滑走を判定する滑走判定部と、前記車輪が滑走したときの軌条における前記鉄道車両の位置情報を滑走情報として記憶する記憶部と、前記滑走情報に基づいて車輪が滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する滑走予測部と、軌条における前記鉄道車両の現在の位置と前記滑走予測位置とに基づいて報知装置に報知を実行させる報知制御部とを備える。
【0013】
上記構成では、滑走情報に基づいて鉄道車両の車輪が滑走し得る滑走予測位置を算出して予測できる。そして、報知装置によって滑走予測位置が報知される。これにより、運転者等の乗員は、滑走予測位置の存在を把握しやすくなる。
【0014】
上記構成において、前記報知制御部は、軌条における前記鉄道車両の現在の位置と、前記滑走予測位置との距離が予め定められた規定距離以下になったときに報知装置に報知を実行させてもよい。
【0015】
上記構成では、鉄道車両が滑走予測位置に近づいたときに、報知装置によって滑走予測位置に近いことが報知される。これにより、運転者等の乗員は、鉄道車両が滑走予測位置に近づいたときに、鉄道車両が滑走予測位置の近くを走行していることを把握しやすくなる。
【0016】
上記課題を解決するためのブレーキ装置の制御装置は、軌条における鉄道車両の位置情報を取得する取得部と、前記鉄道車両の車輪の回転速度に基づいて前記車輪の滑走を判定する滑走判定部と、前記車輪が滑走したときの軌条における前記鉄道車両の位置情報を滑走情報として記憶する記憶部と、前記滑走情報に基づいて車輪が滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する滑走予測部と、前記鉄道車両が前記滑走予測位置に位置したときの減速度が予め定められる規定減速度以下となるようにブレーキ装置を制御するブレーキ制御部とを備えていてもよい。
【0017】
上記構成では、鉄道車両が滑走予測位置に位置したときには、鉄道車両の減速度が制限される。そして、このように鉄道車両の減速度が制限されることで、ブレーキ装置の制動力が過度に大きくなることがなく、滑走予測位置において鉄道車両が滑走することが抑制される。
【0018】
上記課題を解決するためのブレーキ装置の制御装置は、軌条における鉄道車両の位置情報を取得する取得部と、前記鉄道車両の車輪の回転速度に基づいて前記車輪の滑走を判定する滑走判定部と、前記車輪が滑走したときの軌条における前記鉄道車両の位置情報を滑走情報として記憶する記憶部と、前記滑走情報に基づいて車輪が滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する滑走予測部と、前記鉄道車両が前記滑走予測位置に位置したときの速度が予め定められる規定速度以下となるようにブレーキ装置を制御するブレーキ制御部とを備えていてもよい。
【0019】
上記構成では、鉄道車両が滑走予測位置に位置したときには、鉄道車両の速度が制限される。そのため、滑走予測位置においては、ブレーキ装置の制動力を大きくする必要性が小さくなり、滑走予測位置において鉄道車両の車輪が滑走することが抑制される。
【0020】
上記課題を解決するための滑走情報生成方法は、軌条における鉄道車両の位置情報を取得する取得工程と、前記鉄道車両の車輪の回転速度に基づいて前記車輪の滑走を判定する滑走判定工程と、前記車輪が滑走したときの軌条における前記鉄道車両の位置情報を滑走情報として記憶部に記憶する記憶工程とを備える。
【0021】
上記方法では、車輪が滑走した位置情報を含む滑走情報が記憶される。したがって、例えば、記憶された滑走情報を収集して解析することで、鉄道車両の車輪が滑走する位置を予測できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鉄道車両の車輪が滑走する位置を予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態にかかる編成車両の概略構成を示す概略図。
図2】同実施形態にかかる滑走予測システムの全体構成を示す概略図。
図3】同実施形態にかかる制御装置が行う一連の滑走判定制御を示すフローチャート。
図4】同実施形態にかかる制御装置が行う一連の滑走予測制御を示すフローチャート。
図5】同実施形態にかかる滑走判定制御及び滑走予測制御を示すブロック図。
図6】第2実施形態にかかる滑走予測システムの全体構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態を図1図5にしたがって説明する。
先ず、鉄道車両としての編成車両100の概略構成について説明する。
【0025】
図1に示すように、編成車両100は、当該編成車両100の前後方向(図1における左右方向)に4つの車両10が連結されて構成されている。車両10は、前後方向に隣り合う車両10と互いに連結されており、前側から順に、車両10A、車両10B、車両10C、及び車両10Dが並んでいる。なお、各車両10は、略同じ構成であるため、以下の説明では車両10Aについてのみ具体的に説明する。
【0026】
図2に示すように、車両10Aは、車両10Aの前後方向(図2における左右方向)に離間して配置された2つの台車41を備えている。各台車41には、車幅方向(図2における紙面と直交する方向)に延びる車軸42が回転可能に取り付けられている。車軸42は、台車41毎に、前後方向に離間して2つ配置されている。車軸42の両端部には、略円板形状の車輪43が固定されている。したがって、1つの台車41につき、4つの車輪43が設けられている。なお、図1では、台車41、車軸42、及び車輪43の一部にのみ符号を付している。
【0027】
図2に示すように、台車41の上側には、圧縮空気の弾性力によって振動を吸収する空気ばね30が取り付けられている。空気ばね30の上側には、車室空間を区画する車体20が取り付けられている。車体20は、全体として長方体箱形状であり、車両10Aの前後方向に長尺になっている。なお、図1では、空気ばね30及び車体20の一部に符号を付している。
【0028】
図2に示すように、台車41には、車輪43の回転を制動するためのブレーキ装置50が取り付けられている。ブレーキ装置50は、摩擦材としての制輪子を車輪43の外周面である踏面に当接させて当該車輪43の回転を制動する、いわゆるトレッドブレーキ式のブレーキ装置である。車両10Aには、合計8つの車輪43に対応して合計8つのブレーキ装置50が取り付けられている。なお、図2では、車幅方向一方側に位置する4つの車輪43及び4つのブレーキ装置50のみを図示している。
【0029】
車両10Aには、圧縮空気を供給する空気供給源61が搭載されている。空気供給源61からは、供給通路63が延びている。供給通路63は、途中で8つに分岐しており、分岐した各通路は、8つのブレーキ装置50のそれぞれに接続されている。供給通路63には、当該供給通路63を流通する空気の量を制御する制御弁62が取り付けられている。制御弁62は、供給通路63における分岐部分よりも空気供給源61側に配置されている。したがって、制御弁62は、8つのブレーキ装置50に対して1つ設けられている。また、空気供給源61には、図示しない通路を介して空気ばね30が接続されている。空気ばね30は、空気供給源61からの圧縮空気の供給を受ける。
【0030】
車体20の内部には、報知装置としてのディスプレイ77が取り付けられている。ディスプレイ77は、様々な情報を表示することで編成車両100の運転者等に情報を伝達できる。なお、ディスプレイ77は、車両10A~車両10Dのうち、車両10A及び車両10Dのみに取り付けられている。
【0031】
上記の各空気ばね30には、空気ばね30の空気圧X1を検出するための圧力センサ71が取り付けられている。上記の台車41には、車軸42の回転速度である軸回転速度X2を検出するための回転センサ72が取り付けられている。回転センサ72は、各車軸42の近傍に配置されており、車両10Aにおいて合計4つ設けられている。なお、図2では、1つの回転センサ72のみを図示している。
【0032】
上記のように構成された車両10Aにおいて、ブレーキ装置50は、制御装置80によって制御される。制御装置80には、圧力センサ71が検出した空気ばね30の空気圧X1を示す信号が圧力センサ71から入力される。制御装置80は、空気ばね30の空気圧に基づいて車体20の総重量Y1を取得する。ここで、車体20の総重量Y1とは、車体20自体の重量と車体20の乗客等の重量との合計重量である。また、制御装置80には、回転センサ72が検出した車軸42の軸回転速度X2を示す信号が回転センサ72から入力される。上述したように、車両10Aにおいて合計4つの回転センサ72が設けられているため、制御装置80には、各回転センサ72から軸回転速度X2を示す信号が入力される。
【0033】
また、制御装置80には、編成車両100の運転者が操作するブレーキ制御器76からブレーキ指令X6を示す信号が入力される。ブレーキ制御器76は、運転者によって操作されるレバーを備えている。そして、ブレーキ制御器76は、このレバーの操作位置について複数段階のノッチが設定されており、運転者が操作したレバーの操作位置に応じたブレーキ指令X6を示す信号を出力する。なお、ブレーキ指令X6は、運転者が操作したレバーの操作位置に応じて段階的に大きくなる。
【0034】
制御装置80は、外部通信回線網200を介して気象サービスセンタ300と通信可能になっている。制御装置80は、気象サービスセンタ300から気象情報を取得する。ここで、気象情報とは、降雨等の天候に関する情報が含まれる情報である。また、この気象情報には、現在時刻についての情報が含まれる。
【0035】
制御装置80は、車両10の車輪43が滑走しているか否かを判定する滑走判定部81を備えている。滑走判定部81は、軸回転速度X2に基づいて、車両10の車輪43が滑走しているか否かを判定する(滑走判定工程)。なお、滑走判定工程が滑走判定部81によって行われる。
【0036】
また、制御装置80は、車両10の滑走情報を記憶する記憶部82を備えている。この滑走情報には、以下の複数の情報が含まれる。滑走情報の1つ目は、車両10の車輪43が滑走したときの軌条における当該車両10の位置と車両10の車輪43が滑走した事実とを対応付けた位置情報である。また、滑走情報の2つ目は、車両10の車輪43が滑走したときの当該車両10の速度と車両10の車輪43が滑走した事実とを対応付けた速度情報である。滑走情報の3つ目は、車両10の車輪43が滑走したときの当該車両10の減速状態と車両10の車輪43が滑走した事実とを対応付けた減速状態を示す情報である。運転者が操作したレバーの操作位置に応じたブレーキ指令X6を、減速状態を示す情報として採用している。また、滑走情報の4つ目は、車両10の車輪43が滑走したときの当該車両10の重量と車両10の車輪43が滑走した事実とを対応付けた重量に関する情報である。車体20の総重量Y1を、重量に関する情報として採用している。滑走情報の5つ目は、車両10の車輪43が滑走したときの軌条における当該車両10の位置についての気象情報と車両10の車輪43が滑走した事実とを対応付けた気象情報である。気象情報として、降水量の情報を採用している。
【0037】
制御装置80は、滑走情報を生成する生成部83を備えている。生成部83は、車両10の滑走情報を生成し、記憶部82に記憶させる(記憶工程)。また、制御装置80は、滑走情報が生成された時点よりも後において、車両10の車輪43が滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する滑走予測部84を備えている。滑走予測部84は、生成部83が生成した滑走情報、車両10の状態を示す情報、及び気象情報に基づいて、車両10の車輪43が滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する。制御装置80は、軌条における車両10の位置情報を取得する取得部87を備えている。取得部87は、軸回転速度X2に基づいて、軌条における車両10の位置情報を取得する(取得工程)。なお、記憶工程が生成部83によって行われる。また、取得工程が取得部87によって行われる。
【0038】
制御装置80は、軌条における車両10の位置と当該車両10の進行方向における滑走予測位置との距離である到達距離を算出する距離判定部85を備えている。そして、距離判定部85は、到達距離が予め定められた規定距離以下であるか否かを判定する。なお、距離判定部85は、軸回転速度X2に基づいて到達距離を算出する。
【0039】
また、制御装置80は、ブレーキ装置50を制御するブレーキ制御部86を備えている。具体的には、ブレーキ制御部86は、制御弁62に対してブレーキ指令X6に応じた制御信号を出力することで、制御弁62の開度を制御する。そして、制御弁62の開度調整によって供給通路63を流通する空気の量が調整されることでブレーキ装置50が駆動する。したがって、ブレーキ制御部86は、車両10Aにおける1つの制御弁62を通じて8つのブレーキ装置50の全てを一括して制御する。なお、ブレーキ制御部86は、ブレーキ指令X6が大きいほど、ブレーキ装置50による制動力が大きくなるような制御信号を出力する。
【0040】
制御装置80は、様々な情報をディスプレイ77に表示させる報知制御部89を備えている。具体的には、報知制御部89は、軌条における車両10の現在の位置と軌条における滑走予測位置とに基づいて、様々な情報を示す画像信号をディスプレイ77に出力することで、ディスプレイ77に様々な情報を表示させる。なお、制御装置80は、滑走判定部81、記憶部82、及び取得部87を備えているため、制御装置80の一部は、滑走情報生成装置として機能する。また、制御装置80は、滑走判定部81、記憶部82、滑走予測部84、取得部87、及び報知制御部89を備えているため、制御装置80の一部は、滑走予測装置として機能する。
【0041】
この制御装置80は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサを含む回路(circuitry)として構成し得る。なお、制御装置80は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、又はそれらの組み合わせを含む回路として構成してもよい。プロセッサは、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。また、図1に示すように、制御装置80は、他の3つの車両10における制御装置80と互いに通信可能になっている。
【0042】
次に、制御装置80が行う一連の滑走判定制御について説明する。制御装置80は、車両10が走行しているときに一連の滑走判定制御を繰り返し実行する。具体的には、制御装置80は、回転センサ72が検出した軸回転速度X2のいずれかがゼロよりも大きいと判定されているときに、一連の滑走判定制御を実行する。なお、車両10Aにおける制御装置80が、車両10A~10Dにおける4つの制御装置80を代表して一連の滑走判定制御を行う。
【0043】
図3に示すように、制御装置80は、一連の滑走判定制御を開始すると、ステップS11の処理を開始する。ステップS11において、制御装置80における滑走判定部81は、車両10の車輪43が滑走しているか否かを判定する。ここで、車両10の車輪43が滑走しているときには、一部の車輪43の回転がブレーキ装置50によって止められ、一部の軸回転速度X2がゼロまたはゼロに近くなる。その一方で、他の車輪43は回転している。そのため、4つの軸回転速度X2間のばらつきが大きくなる。そこで、滑走判定部81は、車両10における4つの軸回転速度X2のうちの最大値から4つの軸回転速度X2のうちの最小値を減算することで、軸回転速度X2のばらつき量を算出する。そして、滑走判定部81は、軸回転速度X2のばらつき量が、予め定められた基準ばらつき量以上であるときに、車両10の車輪43が滑走していると判定する。また、滑走判定部81は、軸回転速度X2のばらつき量が、予め定められた基準ばらつき量未満であるときに、車両10の車輪43が滑走していないと判定する。ステップS11において、制御装置80は、車両10の車輪43が滑走していないと判定した場合(S11:NO)、今回の一連の滑走判定制御を終了する。一方、ステップS11において、制御装置80は、車両10の車輪43が滑走していると判定した場合(S11:YES)、処理をステップS12に進める。
【0044】
ステップS12において、制御装置80における生成部83は、車両10の滑走情報を生成し、記憶部82に記憶させる。先ず、取得部87は、軌条における車両10の現在の位置を取得する。具体的には、制御装置80の取得部87は、車両10における4つの軸回転速度X2のうちの最大値に基づいて、現在の車両10の速度を算出する。次に、取得部87は、車両10の速度に基づいて、単位時間当たりの走行距離を算出する。取得部87は、これら速度及び走行距離の算出を、単位時間毎に繰り返し行う。さらに、取得部87は、予め定められた基準位置を出発してから現在までの走行距離を積算して総走行距離を算出し、基準位置から総走行距離離れた位置を、軌条における車両10の現在の位置として取得する。そして、生成部83は、取得部87が取得した軌条における車両10の現在の位置を、車両10の車輪43が滑走したときの軌条における当該車両10の位置として取得する。
【0045】
また、生成部83は、上述のようにして算出された車両10の速度を、車両10の車輪43が滑走したときの当該車両10の速度情報として取得する。さらに、生成部83は、現在のブレーキ指令X6を、車両10の車輪43が滑走したときの当該車両10の減速状態を示す情報として取得する。また、生成部83は、車体20の総重量Y1を、車両10の車輪43が滑走したときの当該車両10の重量に関する情報として取得する。さらに、生成部83は、軌条における車両10の現在の位置についての現在の気象情報を、車両10の車輪43が滑走したときの軌条における車両10の位置についての気象情報として取得する。そして、生成部83は、これらの情報を、車両10の車輪43が滑走した事実と対応付けて車両10の滑走情報として、記憶部82に記憶させる。すなわち、記憶部82には、生成部83が生成した滑走情報が記憶される。その後、制御装置80は、今回の一連の滑走判定制御を終了する。
【0046】
なお、車両10Aの制御装置80は、車両10Aについてだけでなく、他の車両10B~10Dについても、上述したステップS11及びステップS12の処理を並行して実行する。
【0047】
次に、制御装置80が行う一連の滑走予測制御について説明する。制御装置80は、車両10が走行しているときに一連の滑走予測制御を繰り返し実行する。具体的には、制御装置80は、回転センサ72が検出した軸回転速度X2のいずれかがゼロよりも大きいと判定されているときに、一連の滑走予測制御を実行する。なお、車両10Aにおける制御装置80が、車両10A~10Dにおける4つの制御装置80を代表して一連の滑走予測制御を行う。
【0048】
図4に示すように、制御装置80は、一連の滑走予測制御を開始すると、ステップS61の処理を開始する。ステップS61において、制御装置80は、気象サービスセンタ300から気象情報を取得する。また、制御装置80は、車両10の状態を示す情報を取得する。その後、制御装置80は、処理をステップS62に進める。
【0049】
ステップS62において、制御装置80における滑走予測部84は、ステップS61の処理時点の滑走情報、ステップS61の処理時点の車両10の状態を示す情報、及びステップS61の処理時点の気象情報に基づいて、車両10の車輪43が将来的に滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する。
【0050】
滑走予測部84は、滑走予測位置を算出するにあたって、滑走情報に含まれる、車両10の車輪43が滑走したときの軌条における当該車両10の位置を、滑走予測位置の候補とする。そして、滑走予測部84は、滑走予測位置の候補のそれぞれについて、以下のようにして、現在走行している車両10の車輪43の滑走しやすさを示す滑走しやすさポイントを算出する。
【0051】
滑走予測部84は、滑走予測位置の候補について、その位置とともに滑走情報として記憶されている各種の情報を参照する。具体的には、滑走予測部84は、滑走情報に含まれている降水量が小さいほど、対応する滑走予測位置の候補について滑走しやすさポイントを大きく算出する。また、滑走予測部84は、滑走情報に含まれている車両10の速度が小さいほど、対応する滑走予測位置の候補について滑走しやすさポイントを大きく算出する。さらに、滑走予測部84は、滑走情報に含まれる減速状態を示す情報としてのブレーキ指令X6が小さいほど、対応する滑走予測位置の候補について滑走しやすさポイントを大きく算出する。また、滑走予測部84は、滑走情報に含まれる車両10の重量に関する情報としての車体20の総重量Y1が小さいほど、対応する滑走予測位置の候補について滑走しやすさポイントを大きく算出する。
【0052】
さらに、滑走予測部84は、現在の気象情報及び現在の車両10の状況に応じて、各滑走予測位置の候補の滑走しやすさポイントを補正する。具体的には、滑走予測部84は、現在の気象情報としての降水量が大きいほど、各滑走予測位置の候補について、滑走しやすさポイントを大きな値に補正する。また、滑走予測部84は、現在の車両10における車体20の総重量Y1が大きいほど、各滑走予測位置の候補について、滑走しやすさポイントを大きな値に補正する。さらに、滑走予測部84は、現在の車両10における4つの軸回転速度X2のうちの最大値が大きいほど、各滑走予測位置の候補について、滑走しやすさポイントを大きな値に補正する。
【0053】
上述のようにして各滑走予測位置の候補についての滑走しやすさポイントが算出されたら、滑走予測部84は、滑走しやすさポイントが予め定められた基準値以上である滑走予測位置の候補を、滑走予測位置として特定する。その後、制御装置80は、処理をステップS63に進める。
【0054】
ステップS63において、制御装置80における滑走予測部84は、車両10の進行方向に滑走予測位置があるか否かを判定する。ステップS63において、制御装置80は、車両10の進行方向に滑走予測位置がないと判定した場合(S63:NO)、今回の一連の滑走予測制御を終了する。一方、ステップS63において、制御装置80は、車両10の進行方向に滑走予測位置が1つ以上あると判定した場合(S63:YES)、処理をステップS64に進める。
【0055】
ステップS64において、制御装置80における距離判定部85は、軌条における車両10の現在の位置と当該車両10の進行方向における滑走予測位置との距離である到達距離を算出する。到達距離を算出するにあたっては、上述したとおり、距離判定部85は、軸回転速度X2に基づいて車両10の速度を算出し、その速度に基づいて車両10の現在の位置を算出する。そして、距離判定部85は、軌条における車両10の現在の位置及び車両10の進行方向における滑走予測位置に基づいて、両者の間の距離である到達距離を算出する。なお、距離判定部85は、滑走予測位置が複数存在する場合、それぞれの到達距離を算出する。その後、制御装置80は、処理をステップS65に進める。
【0056】
ステップS65において、制御装置80における距離判定部85は、最も距離が短い到達距離が予め定められた規定距離以下であるか否かを判定する。この規定距離としては、例えば、数キロメートルである。ステップS65において、制御装置80における距離判定部85は、最も距離が短い到達距離が予め定められた規定距離以下であると判定した場合(S65:YES)、処理をステップS71に進める。
【0057】
ステップS71において、制御装置80は、現在の車両10の速度を算出する。具体的には、制御装置80は、車両10における4つの軸回転速度X2のうちの最大値に基づいて、車両10の速度を算出する。その後、制御装置80は、処理をステップS72に進める。
【0058】
ステップS72において、制御装置80におけるブレーキ制御部86は、車両10の減速度の上限値を、予め定められた規定減速度に設定する。ここで、減速度は、車両10が速度を落としていくときの負の加速度であり、この実施形態では正の値で算出される。また、規定減速度の設定にあたっては、実験等において、軌条の勾配が予め定められた所定未満の箇所を車両10が走行すると仮定したとき、最大のブレーキ指令X6でのブレーキ制御によって生じる車両10の減速度を求め、その減速度を最大の減速度として定める。そして、規定減速度としては、最大の減速度に対して数十%程度小さい値が定められている。その後、制御装置80は、処理をステップS73に進める。
【0059】
ステップS73において、制御装置80における報知制御部89は、車両10の進行方向において当該車両10の近傍に滑走予測位置が存在していることをディスプレイ77に表示させる。また、報知制御部89は、車両10の減速度の上限値が規定減速度に設定されていることをディスプレイ77に表示させる。なお、報知制御部89は、前側に位置する車両10Aのディスプレイ77のみに、各種の情報を表示させる。その後、制御装置80は、処理をステップS74に進める。
【0060】
ステップS74において、制御装置80は、現在の車両10の速度が予め定められた規定速度よりも大きいか否かを判定する。ここで、車両10の車輪43が滑走するときの車両10の速度は、様々な条件によって変化する。そこで、車両10の車輪43が滑走したときの車両10の速度を、予め条件を問わずに多数集計しておく。そして、本実施形態では、集計した速度の平均値に対して数十%程度小さい速度が規定速度として定められている。ステップS74において、制御装置80は、現在の車両10の速度が予め定められた規定速度よりも大きいと判定した場合(S74:YES)、処理をステップS81に進める。
【0061】
ステップS81において、制御装置80におけるブレーキ制御部86は、車両10の速度を低下させる減速制御を行う。具体的には、ブレーキ制御部86は、ブレーキ指令X6に応じたブレーキ装置50による制動力に対して、予め定められた基準制動力分だけブレーキ装置50による制動力が大きくなるようにブレーキ装置50を制御することで、車両10の速度を低下させる。このとき、ブレーキ制御部86は、車両10の減速度が規定減速度を超えない範囲内で車両10の速度を低下させる。また、ステップS81の処理が複数回繰り返したとしても、1回目のステップS81の処理のみによって、基準制動力分だけブレーキ装置50による制動力が大きくなる。なお、繰り返し実行される滑走予測制御において減速制御が継続されることで、車両10の速度は、規定速度以下になるように推移する。また、制御装置80における報知制御部89は、減速制御を実行中であることをディスプレイ77に表示させる。なお、報知制御部89は、前側に位置する車両10Aのディスプレイ77のみに、上記の情報を表示させる。その後、制御装置80は、今回の一連の滑走予測制御を終了する。
【0062】
ところで、上述したステップS65において、制御装置80は、最も距離が短い到達距離が予め定められた規定距離よりも長いと判定した場合(S65:NO)、処理をステップS66に進める。ステップS66において、制御装置80におけるブレーキ制御部86は、前回以前の一連の滑走予測制御のステップS72で設定されていた減速度の上限値の設定を解除する。なお、ステップS66の時点で減速度の上限値が設定されていない場合には、ブレーキ制御部86は、引き続き減速度の上限値が設定されていない状態を維持する。その後、制御装置80は、今回の一連の滑走予測制御を終了する。
【0063】
また、上述したステップS74において、制御装置80は、現在の車両10の速度が予め定められた規定速度以下であると判定した場合(S74:NO)、処理をステップS82に進める。ステップS82において、制御装置80におけるブレーキ制御部86は、前回以前の一連の滑走予測制御のステップS81で開始した減速制御を終了する。具体的には、ブレーキ制御部86は、ブレーキ装置50による制動力が、ブレーキ指令X6に応じたブレーキ装置50による制動力になるように、ブレーキ装置50を制御する。なお、ステップS82の時点で減速制御を行っていない場合には、ブレーキ制御部86は、引き続き減速制御を行わない状態を維持する。その後、制御装置80は、今回の一連の滑走予測制御を終了する。
【0064】
上述した滑走判定制御及び滑走予測制御に関して、各種の情報の流れや制御構成をまとめると以下のようになる。図5に示すように、先ず、滑走判定制御においては、車両10の車輪43が滑走したときの各種情報を、車両10の車輪43が滑走した事実と対応付けて車両10の滑走情報を生成する。すなわち、滑走情報としては、過去に車両10の車輪43が滑走したと判定されたときの情報が含まれている。そして、滑走予測制御においては、過去の滑走情報と現在の各種情報とに基づいて、車両10の車輪43が将来的に滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する。
【0065】
第1実施形態の作用について説明する。
軌条上を走行している車両10において車輪43が滑走すると、制御装置80の滑走判定制御によって、滑走していると判定され、車輪43が滑走したときの軌条における車両10の位置情報等が滑走情報として記憶される。そして、車両10の車輪43が滑走する度に、滑走情報が記憶され、制御装置80の記憶部82に蓄積されていく。
【0066】
さて、制御装置80の記憶部82に少なくとも一つの滑走情報が記憶されている状態で車両10が走行していると、制御装置80は、滑走情報に基づいて滑走予測位置を算出する。このとき、滑走情報に含まれる車輪43が滑走した位置を、滑走予測位置の候補とし、その滑走予測位置の候補について滑走しやすさポイントを算出する。その結果、滑走予測位置の候補それぞれについて、滑走が生じたときの車両10の状況に応じた滑走しやすさポイントが算出される。
【0067】
また、制御装置80は、現在の車両10の状況に応じて、滑走予測位置の候補それぞれについて滑走しやすさポイントを補正する。具体的には、例えば、現在、降水量がゼロである場合には、滑走しやすさポイントが低くなるように補正され、降水量がゼロよりも大きい場合には、滑走しやすさポイントが高くなるように補正される。そして、滑走しやすさポイントが基準値以上である候補があると、その候補が滑走予測位置として特定される。したがって、同一の滑走予測位置の候補であっても、車両10の現在の状況に応じて滑走しやすさポイントが上下する。その結果、同一の滑走予測位置の候補であっても、車両10の現在の状況に応じて、滑走予測位置として特定されたり、されなかったりする。
【0068】
車両10が走行していて、その進行方向前方に滑走予測位置が存在しているものとする。この場合、車両10と滑走予測位置との距離が近くなると、車両10の減速度の上限値が規定減速度に設定される。また、車両10のディスプレイ77に、滑走予測位置が近いことと減速度に上限値が設定されていることが表示される。例えば、車両10の運転者がディスプレイ77の表示を見て、車両10の急制動を控えれば、車両10の減速度は上限値を下回っている可能性が高い。一方、車両10の運転者がディスプレイ77の表示を見逃すなどして、車両10を急制動させようとしたとする。この場合、車両10の減速度は規定減速度に制限されるため、滑走予測位置が近い状況下では、実際には車両10は急制動されることはない。
【0069】
また、車両10の運転者がディスプレイ77の表示を見逃していて、車両10が滑走予測位置の近くを走行していることに気がついていない場合には、運転者が車両10を減速させることなく走行させようとしていることもあり得る。このような場合であっても、車両10の速度が規定速度を超えている場合には、車両10の減速度が規定減速度を超えない範囲内でブレーキ装置50の制動力が大きくなる。したがって、車両10が滑走予測位置に達するまでに、徐々に車両10の速度が低下していく。
【0070】
第1実施形態の効果について説明する。
(1)軌条において過去に車両10の車輪43が滑走したことのある位置は、将来的に車両10が同じ位置を走行したときに、車両10の車輪43が再び滑走する可能性がある。そこで、滑走判定制御において、制御装置80における生成部83は、車両10の車輪43が滑走したときの軌条における当該車両10の位置と車両10の車輪43が滑走した事実とを対応付けた位置情報を含む滑走情報を生成し、記憶部82に記憶させる。このように、滑走情報を生成し、記憶しておくことで、滑走情報に基づいて、車両10の車輪43が将来的に滑走し得る位置として滑走予測位置を算出して予測できる。
【0071】
(2)軌条において過去に車両10の車輪43が滑走したことのある位置であったとしても、車両10が同じ位置を走行したときに、車両10の車輪43が再び滑走する可能性は、様々な要因によって変わる。例えば、車両10の速度が小さいにも拘らず車輪43が滑走したならば、その位置は滑走しやすい位置といえる。同様に、ブレーキ指令X6が小さい、車体20の総重量Y1が小さいといった状況であるにも拘らず車輪43が滑走したならば、その位置は滑走しやすい位置といえる。そこで、滑走判定制御において、制御装置80における生成部83は、滑走情報として、車両10の車輪43が滑走したときの当該車両10の速度、ブレーキ指令X6、総重量Y1を取得し、記憶部82に記憶させる。そして、滑走予測制御において、制御装置80における滑走予測部84は、上記の車両10の速度情報、車両10の減速状態を示す情報、及び車両10の重量に関する情報を含む滑走情報に基づいて、滑走予測位置を算出する。これにより、単に過去に車輪43が滑走したことをもってその位置を滑走予測位置と算出するよりも、車輪43が滑走したときの車両10の状況を加味して滑走予測位置を精度よく算出できる。
【0072】
(3)車両10の車輪43が滑走する要因のうち、軌条と車輪43との間の摩擦係数の変化による影響は大きい。特に、雨が降ることで軌条と車輪43との間に水が介在されて軌条と車輪43との間の摩擦係数が小さくなると、車両10の車輪43が滑走しやすくなる。したがって、降水量が「ゼロ」であるにも拘らず車輪43が滑走したならば、その位置は滑走しやすい位置であるといえる。そこで、滑走判定制御において、制御装置80における生成部83は、滑走情報として、車両10の車輪43が滑走したときの軌条における車両10の位置についての気象情報を含む情報を取得し、記憶部82に記憶させる。そして、滑走予測制御において、制御装置80における滑走予測部84は、上記の気象情報を含む滑走情報に基づいて、滑走予測位置を算出する。これにより、単に過去に車輪43が滑走したことをもってその位置を滑走予測位置と算出するよりも、車輪43が滑走したときの軌条と車輪43との間の摩擦係数を加味して滑走予測位置を精度よく算出できる。
【0073】
(4)上述したように、降雨による摩擦係数の変化や、車両10の状態は、車両10の車輪43の滑走しやすさに影響を与える。そこで、滑走予測制御においては、滑走情報に加えて、現在の気象情報、現在の車両10における車体20の総重量Y1、及び現在の車両10における4つの軸回転速度X2を加味して、滑走予測位置を算出する。これにより、滑走予測位置の算出精度をさらに向上できる。
【0074】
(5)滑走予測制御では、最も距離が短い到達距離が予め定められた規定距離以下になる、すなわち車両10が滑走予測位置に近づいたときに、車両10の減速度の上限値を、予め定められた規定減速度に設定する。このように車両10の減速度が制限されているため、滑走予測位置や滑走予測位置の周辺において、車両10が急制動されることがない。これにより、車両10のブレーキ装置50の急制動に起因して、滑走予測位置や滑走予測位置の周辺において車両10の車輪43が滑走することを抑制できる。
【0075】
(6)滑走予測制御では、最も距離が短い到達距離が予め定められた規定距離以下になる、すなわち車両10が滑走予測位置に近づいたときに、車両10の速度が予め定められた規定速度よりも大きい場合には、車両10の速度を低下させる減速制御を行う。そして、繰り返し実行される滑走予測制御において減速制御が継続されることで、車両10の速度は、規定速度以下になるように推移する。これにより、滑走予測位置や滑走予測位置の周辺において、ブレーキ装置50を制御して車両10のブレーキ装置50による制動力を発生させる必要性が低くなる。その結果、車両10のブレーキ装置50の制動力を発生させることに伴って、車両10の車輪43が滑走することを抑制できる。
【0076】
(7)滑走予測制御では、車両10の進行方向に滑走予測位置がある場合に、車両10の進行方向において当該車両10の近傍に滑走予測位置が存在していることをディスプレイ77に表示させる。これにより、編成車両100の運転者等は、車両10の進行方向に滑走予測位置が存在していることを把握できる。
【0077】
(8)滑走予測制御では、最も距離が短い到達距離が予め定められた規定距離以下になる、すなわち車両10が滑走予測位置に近づいたときに、車両10の進行方向において当該車両10の近傍に滑走予測位置が存在していることをディスプレイ77に表示させる。これにより、編成車両100の運転者等は、車両10が滑走予測位置に近づいたときに、車両10が滑走予測位置の近くを走行していることを把握しやすい。その結果、編成車両100の運転者は、車両10が滑走予測位置に近づいた適切なタイミングで車両10を操作しやすい。
【0078】
(9)滑走予測制御では、最も距離が短い到達距離が予め定められた規定距離以下になる、すなわち車両10が滑走予測位置に近づいたときに、減速度の上限値が設定されたことや、減速制御を実行中であることをディスプレイ77に表示させる。これにより、編成車両100の運転者等は、当該運転者の操作によらない車両10の制御状況を把握しやすい。
【0079】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態を図6にしたがって説明する。なお、第2実施形態の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して、具体的な説明を省略又は簡略化する。
【0080】
図6に示すように、制御装置80は、外部通信回線網200を介してサーバ400と通信可能になっている。また、このサーバ400は、外部通信回線網200を介して気象サービスセンタ300とも通信可能になっている。
【0081】
第2実施形態において制御装置80は、ブレーキ制御部86及び報知制御部89を備えている。一方、サーバ400は、車両10の車輪43が滑走しているか否かを判定する滑走判定部481を備えている。また、サーバ400は、車両10の滑走情報を記憶する記憶部482を備えている。さらに、サーバ400は、滑走情報を生成する生成部483を備えている。また、サーバ400は、車両10の車輪43が滑走し得る位置として滑走予測位置を算出する滑走予測部484を備えている。さらに、サーバ400は、軌条における車両10の位置と当該車両10の進行方向における滑走予測位置との距離である到達距離を算出する距離判定部485を備えている。また、サーバ400は、軌条における車両10の位置情報を取得する取得部487を備えている。第2実施形態において、サーバ400の滑走判定部481、記憶部482、生成部483、滑走予測部484、距離判定部485、及び取得部487は、第1実施形態における制御装置80の滑走判定部81、記憶部82、生成部83、滑走予測部84、距離判定部85、及び取得部87と同じ機能を備えている。なお、サーバ400は、滑走判定部481、記憶部482、及び取得部487を備えているため、サーバ400の一部は、滑走情報生成装置として機能する。また、サーバ400は、滑走判定部481、記憶部482、滑走予測部484、及び取得部487を備えており、制御装置80は、報知制御部89を備えているため、サーバ400及び制御装置80を合わせたシステム全体が、滑走予測装置として機能する。さらに、制御装置80には、ブレーキ制御部86が備えられているため、サーバ400及び制御装置80を合わせたシステム全体が、滑走予測装置の機能を備えたブレーキ装置の制御装置として機能する。
【0082】
この第2実施形態において、サーバ400は、第1実施形態と同様の一連の滑走判定制御を、車両10が走行しているときに一連の滑走判定制御を繰り返し実行する。なお、サーバ400は、所定期間ごとに車両10の制御装置80と通信を行うことで、車両10の軸回転速度X2、ブレーキ指令X6、車両10の総重量Y1を収集する。
【0083】
また、サーバ400及び制御装置80は、第1実施形態と同様の一連の滑走予測制御を、車両10が走行しているときに一連の滑走予測制御を繰り返し実行する。この滑走予測制御におけるステップS61~ステップS66、及びステップS71の処理はサーバ400によって実行される。なお、ステップS61、ステップS64、ステップS71の処理において、サーバ400は、車両10の制御装置80と通信を行うことで、車両10の軸回転速度X2、ブレーキ指令X6、車両10の総重量Y1を収集する。そして、サーバ400は、収集した各種の情報に基づいてそれぞれの処理を実行する。また、ステップS65の処理において、サーバ400は、車両10の制御装置80と通信を行うことで、車両10のブレーキ制御部86に、減速度の上限値を設定させる。さらに、ステップS66の処理において、サーバ400は、車両10の制御装置80と通信を行うことで、車両10のブレーキ制御部86に、減速度の上限値の設定を解除させる。一方、滑走予測制御におけるステップS72~ステップS82までの処理は制御装置80によって実行される。
【0084】
したがって、この第2実施形態では、第1実施形態における上記(1)~(9)と同様の効果を得られる。また、この第2実施形態では、以下の効果を得られる。
(10)滑走判定制御において、サーバ400における生成部483は、車両10から滑走情報を生成し、記憶部482に記憶させる。すなわち、滑走情報は、車両10から独立したサーバ400の記憶部482に記憶される。そのため、車両10のブレーキ装置50の急制動等によってサーバ400に衝撃が作用することがなく、その衝撃に起因して記憶部482に記憶された滑走情報が消失しない。これにより、車両10の制御装置80に滑走情報が記憶されている構成に比べて、生成した滑走情報をより確実に保管できる。
【0085】
(11)サーバ400に滑走判定部481、記憶部482、生成部483、滑走予測部484、距離判定部485、及び取得部487が設けられていて、複数の車両10で、サーバ400を共有することもできる。したがって、車両10毎に上記滑走判定部481等の構成を設ける必要がなく、車両10のコスト上昇を抑えられる。
【0086】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記の各実施形態において、減速制御は変更できる。例えば、ブレーキ制御器76のレバーの操作位置に拘わらず、ブレーキ装置50の制動力が一定の大きさになるように、ブレーキ装置50を制御してもよい。
【0087】
・滑走予測制御において、ステップS81の減速制御を省略してもよい。例えば、曲率の大きいカーブなど、通常の運行条件において車両10の車速が大きくなりにくい位置が滑走予測位置として算出された場合には、減速制御を省略しても特に差し支えはない。
【0088】
・滑走予測制御において、ステップS72における規定減速度は、一定でなくてもよく、車両10の速度に応じて変更してもよい。なお、規定減速度が可変であっても、規定減速度を算出するための計算式やマップ等が予め用意されているのであれば、規定減速度は予め定められているといえる。
【0089】
・滑走予測制御において、ステップS72における減速度の上限値を設定する処理は省略してもよい。例えば、勾配が上り坂であるなど、通常の運行条件において車両10の減速度が大きくなりにくい位置が滑走予測位置として算出された場合には、減速度の上限値を設定する処理を省略しても特に差し支えはない。
【0090】
・滑走予測制御において、ステップS73における報知処理を省略してもよい。例えば、無人で自動走行する車両10の場合には、車両10のディスプレイ77で報知を行う必要性は低い。
【0091】
・車両10の制御装置80が生成した滑走情報やその滑走情報に基づく滑走予測位置を、他の車両に送信して共有してもよい。例えば、編成車両100における車両10において車輪43が滑走した場合に、滑走情報や滑走予測位置を、同路線を走行する後発の編成車両における車両に送信すれば、後発の車両において車輪が滑走していなくても、後発の編成車両における車両において滑走予測位置を把握できる。
【0092】
・滑走予測制御において、ステップS62における滑走予測位置を算出する処理は変更できる。例えば、現在の車両10の状況や現在の気象情報に基づいた滑走しやすさポイントの補正処理を省略してもよい。また、例えば、滑走情報に基づいた滑走しやすさポイントの算出処理を省略してもよい。具体例としては、滑走しやすさポイントを算出することなく、滑走情報として記憶されている位置の全てを滑走予測位置としてもよい。
【0093】
・上記の第1実施形態において、滑走予測制御を省略してもよい。この場合にも、滑走判定制御において滑走情報が生成され、その滑走情報が記憶部82に記憶される。そして、記憶部82に記憶されている滑走情報を集計して作業者が滑走予測位置を算出することもできる。
【0094】
・滑走判定制御において、滑走情報に含まれる情報は、適宜変更できる。少なくとも滑走情報に、車輪43が滑走したときの軌条における車両10の位置と車両10の車輪43が滑走した事実とを対応付けた位置情報が含まれていれば、滑走予測位置を予測することはできる。また、上記実施形態で例示した情報とは別の他の情報が含まれていてもよい。滑走情報に含まれる他の情報としては、例えば、車輪43が滑走した日時、気象情報の一部として車輪43が滑走したときの気温などが挙げられる。また、減速状態を示す情報としては、ブレーキ指令X6に限らない。例えば、車両10の減速度であったり、編成車両100全体の減速度であったりしてもよい。
【0095】
・上記の各実施形態において、ステップS73における報知制御部89が制御する報知装置は変更できる。例えば、報知装置としては、ランプやスピーカーを採用してもよい。
【符号の説明】
【0096】
X1…空気圧、X2…軸回転速度、X6…ブレーキ指令、Y1…総重量、10…車両、10A、10B、10C、10D…車両、20…車体、30…空気ばね、41…台車、42…車軸、43…車輪、50…ブレーキ装置、61…空気供給源、62…制御弁、63…供給通路、71…圧力センサ、72…回転センサ、76…ブレーキ制御器、77…ディスプレイ、80…制御装置、81…滑走判定部、82…記憶部、83…生成部、84…滑走予測部、85…距離判定部、86…ブレーキ制御部、87…取得部、89…報知制御部、100…編成車両、200…外部通信回線網、300…気象サービスセンタ、400…サーバ、481…滑走判定部、482…記憶部、483…生成部、484…滑走予測部、485…距離判定部、487…取得部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6