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特許7390170熱可塑性樹脂押出発泡板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂押出発泡板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CET
C08J9/04 CFD
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019211690
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021080423
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】森田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】関谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】杉本 賢吾
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-189666(JP,A)
【文献】特開2016-094532(JP,A)
【文献】特開2019-081855(JP,A)
【文献】特開2015-229771(JP,A)
【文献】特開2016-094531(JP,A)
【文献】米国特許第05340875(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み10~150mm、見掛け密度20~50kg/mの熱可塑性樹脂押出発泡板であって、
該熱可塑性樹脂押出発泡板を構成する熱可塑性樹脂が、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂とを含む混合樹脂からなり、
該スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂との質量比率が50:50~90:10であり、
該スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸単位の割合が1~6質量%であり、
前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂が、JIS K7122(1987)に基づく融解熱量が5J/g未満(0を含む)のポリエチレンテレフタレート系樹脂であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂押出発泡板中の(メタ)アクリル酸単位の割合が1質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板。
【請求項3】
熱可塑性樹脂を押出発泡してなる、厚さ10~150mm、見掛け密度20~50kg/m の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法であって、
該熱可塑性樹脂が、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂とを含む混合樹脂からなり、
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂との質量比率が50:50~90:10であり、
該スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸単位の割合が1~6質量%であり、
前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂が、JIS K7122(1987)に基づく融解熱量が5J/g未満(0を含む)のポリエチレンテレフタレート系樹脂であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂押出発泡板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡板は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから建築用断熱材等として広く使用されている。このようなポリスチレン系樹脂発泡板は、一般に押出機中でポリスチレン樹脂を加熱溶融した後、得られた溶融物に物理発泡剤を混練して得られる発泡性溶融混練物を押出機先端に付設されたフラットダイ等から低圧域に押出発泡することにより製造されている。
【0003】
上記のポリスチレン系樹脂発泡板を建築用断熱材として用いる場合、建築現場では、通常、一時的に屋外の平坦な場所に平積み状態で載置されて順次施工に用いられる。ここで、例えば夏場の高温環境下で長時間屋外に平積み状態で載置した場合、太陽の熱により発泡板表面が熱せられて膨れ、寸法変化や変形するおそれがあった。
【0004】
一方、ポリスチレン系樹脂押出発泡板の耐熱性を改良する手段としては、これまでに種々の提案がなされている。例えば、特許文献1~3には、スチレン系樹脂とスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を併せて用いることにより耐熱性を向上させたスチレン系樹脂押出発泡体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2007-284634号公報
【文献】特開2006-28292号公報
【文献】特開2006-62274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、一般的に、スチレン系樹脂とスチレン-メタアクリル酸共重合体を用いたスチレン系樹脂押出発泡体は、従来のポリスチレン樹脂(GPPS)のみからなる押出発泡体に比べて耐熱性は向上するものの、物性的に難燃性が低下するとともに、靭性が低下して脆くなる傾向があった。従って、例えば、上記スチレン系樹脂押出発泡体を建築用断熱材に用いる場合、施工に際して押出発泡体を切断したりスリット加工をするために切削したりするときに欠けや割れが発生するおそれがあり問題となっていた。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、ポリスチレン系樹脂のメリットを有しつつ、直射日光下で長時間載置した際の耐熱性を有するとともに、発泡板を曲げても割れ難く、スリット加工時、加工後の欠けや割れを抑制することができる熱可塑性樹脂押出発泡板及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板及びその製造方法を提供する。
<1>厚み10~150mm、見掛け密度20~50kg/mの熱可塑性樹脂押出発泡板であって、
該熱可塑性樹脂押出発泡板を構成する熱可塑性樹脂が、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂とを含む混合樹脂からなり、該スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂との質量比率が50:50~90:10であり、該スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸単位の割合が1~6質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板。
<2>前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂が、JIS K7122(1987)に基づく融解熱量が5J/g未満(0を含む)であるポリエチレンテレフタレート系共重合体であることを特徴とする<1>に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板。
<3>前記熱可塑性樹脂押出発泡板中の(メタ)アクリル酸単位の割合が1質量%以上であることを特徴とする<1>または<2>に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板。
<4>熱可塑性樹脂を押出発泡してなる、厚さ10~150mm、見掛け密度20~50kg/mの熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法であって、
該熱可塑性樹脂が、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂とを含む混合樹脂からなり、
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂との質量比率が50:50~90:10であり、該スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸単位の割合が1~6質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板によれば、ポリスチレン系樹脂のメリットを有しつつ、直射日光下で長時間載置した際の耐熱性を有するとともに、発泡板を曲げても割れ難く、スリット加工時、加工後の欠けや割れを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板について説明する。本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、構成する基材樹脂の熱可塑性樹脂が、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂とを含む混合樹脂からなるものである。
【0011】
<スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体>
本発明で用いるスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体としては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、また、これらの混合物が例示される。
また、成形性等を改良するために、メタクリル酸メチルやアクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルが第三成分として少量共重合されることもある。なお、本発明においては、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-メタアクリル酸共重合体、及びそれらの2以上の混合物を総称してスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体という。
【0012】
本発明におけるスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸単位の割合は1~6質量%である。スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸単位の割合を上記範囲とすることにより、汎用ポリスチレン(GPPS)と比較して耐熱性が向上するとともに、高い酸素指数及び高い曲げ破断点変位を維持することができる。上記観点からスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中の(メタ)アクリル酸単位の割合は、2~5質量%が好ましく、2~3質量%がより好ましい。同様の観点から、本発明における熱可塑性樹脂押出発泡板中の(メタ)アクリル酸単位の割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂押出発泡板中の(メタ)アクリル酸単位の割合は、2~4質量%がより好ましい。なお、熱可塑性樹脂押出発泡板中の(メタ)アクリル酸単位は、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体に由来するものである。スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、単独で使用してもよく2種以上を混合して用いてもよい。2種以上を混合して用いる場合には、各々の(メタ)アクリル酸単位の割合が上記範囲を満足する共重合体を用いればよい。
【0013】
上記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のビカット軟化温度は105℃以上であることが好ましく、115℃以下であることが好ましい。なお、ビカット軟化温度は、JIS K7206:2016(試験荷重はA法、伝熱媒体の昇温速度は50±5℃/時の条件)にて求められる。なお、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体が2種以上のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含む場合には、予め2種以上のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を混合して試験片を作製し、ビカット軟化温度を測定するものとする。
【0014】
<ポリエチレンテレフタレート系樹脂>
本発明で用いるポリエチレンテレフタレート系樹脂は、ジカルボン酸成分単位としてテレフタル酸成分単位と、ジオール成分単位としてエチレングリコール成分単位とを主たる成分単位として有するポリエステル系樹脂である。さらに、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の結晶性を制御するために、ジカルボン酸成分、ジオール成分としてその他の成分単位が用いられてもよい。
【0015】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂のその他のジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体が使用できる。エステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1~4程度のアルキルエステル等のエステル誘導体、ジアンモニウム塩等の塩、ジクロリド等の酸ハロゲン化物等を挙げることができる。該ポリエチレンテレフタレート系樹脂中のジカルボン酸成分単位としては、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,4’-ジフェニルジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物等の誘導体、又はシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体、又は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で使用してもよく2種以上を複合して使用してもよい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、主たるジカルボン酸成分単位として、芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物、又はその誘導体からなる酸成分単位、例えば、テレフタル酸成分単位、イソフタル酸成分単位、ナフタレンジカルボン酸成分単位、これらのジカルボン酸成分を一種類以上含むことが好ましい。
【0016】
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂のその他のジオール成分としては、脂肪族系及び芳香族系ジオール(二価のフェノールを含む)或いはそのエステル形成性誘導体を使用することができ、具体的には、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,6-シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族ジオール、又は3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、スピログリコールという)や(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン(以下、ジオキサングリコールという)等の環状エーテル骨格を有するジオールを挙げることができる。これらのジオール成分は、単独使用でもよく2種以上を複合して使用してもよい。
【0017】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂としては、上記の中でも、その他のジオール成分単位として、環状エーテル骨格を有するジオール成分単位を含有するものが好ましく、これらの環状エーテル骨格を有するジオール成分の合計量はジオール成分中10モル%以上であることが好ましく、ジオール成分中15~60モル%であることがより好ましく、20~50モル%であることがさらに好ましい。
【0018】
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、その他のジオール成分単位として、環状アセタール骨格を有するジオール成分単位を含有するものがより好ましい。該環状アセタール骨格を有するジオール成分単位としては、スピログリコール又はジオキサングリコールが好ましい。なお、スピログリコール又はジオキサングリコール等の環状アセタール骨格を有するジオール成分単位の含有量はジオール成分中25~40モル%であることが好ましい。
【0019】
また、その他のジオール成分単位として、シクロヘキサンジメタノール成分単位、ネオペンチルグリコール成分単位から選択される一種類以上を含むものも好ましい。なお、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール成分単位の含有量はジオール成分中25~40モル%であることが好ましい。
【0020】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂の結晶性の程度は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸の他にイソフタル酸等を使用してそれらジカルボン酸成分単位のモル比を変える方法や、ジオール成分としてエチレングリコールの他にシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール等を使用してそれらジオール成分単位のモル比を変える方法等により調整することができる。
【0021】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、例えば少量の安息香酸、ベンゾイル安息香酸、メトキシポリエチレングリコール等の単官能化合物から誘導される成分単位によって分子末端を封止されていてもよい。また、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される成分単位を少量含んでいてもよい。
【0022】
また、本発明で用いられるポリエチレンテレフタレート系樹脂は、JIS K7122-1987に基づいて測定される樹脂の融解に伴う融解熱量(以下、単に融解熱量ともいう)が5J/g未満(0を含む)のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。ここで、融解熱量が5J/g未満(0を含む)であるポリエチレンテレフタレート系樹脂とは、非晶性又は低結晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂であることを意味する。非晶性又は低結晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂である場合、押出機内にて熱可塑性樹脂を発泡温度まで冷却する前にポリエチレンテレフタレート系樹脂の結晶化が開始することを抑制できる。かかる観点から、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の融解熱量は、2J/g未満(0を含む)が好ましく、1J/g未満(0を含む)がより好ましい。
【0023】
なお、JIS K7122-1987に基づく融解熱量は、熱流束示差走査熱量測定装置(以下、DSC装置という。)を使用し、試験片を加熱速度10℃/分で300℃まで加熱した後、冷却速度10℃/分で30℃まで冷却して試験片の状態調節を行った後、試験片を加熱速度10℃/分で300℃まで加熱することにより得られるDSC曲線に基づいて測定される。
【0024】
本発明においては、熱可塑性樹脂押出発泡板を構成する熱可塑性樹脂に(メタ)アクリル酸単位が特定比率のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を用いているにもかかわらず、熱可塑性樹脂押出発泡板の靭性が維持又は向上させることができる。この要因としては、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂との相容性がよいためであることが考えられる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板の基材樹脂における、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂との質量比率(スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体:ポリエチレンテレフタレート系樹脂)は50:50~90:10の範囲である。ポリエチレンテレフタレート系樹脂の配合量が少なすぎると押出発泡断熱板のガスバリアー性を向上させる効果が小さくなる。一方、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の配合量が多すぎると基材樹脂の溶融張力が低下して発泡成形が困難になり、高発泡倍率の押出発泡断熱板が得られない虞れがある。また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の種類にもよるが、得られる押出発泡断熱板の耐熱性が従来の一般的なポリスチレン樹脂発泡断熱板と比べ劣るものとなる虞れがある。また、ガスバリアー性に優れ、高発泡倍率と高い独立気泡率とを兼ね備えた熱可塑性樹脂押出発泡板を得る観点から、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂との質量比率は60:40~85:15であることが好ましく、75:25~85:15であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板では、本発明の目的を阻害しない範囲内において、上記必須のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる基材樹脂とともに、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系エラストマーやポリフェニレンエーテル樹脂等の他の重合体を配合することもできる。なお、そのような他の重合体の使用量は、上記必須の基材樹脂中に30質量%を上限とすることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%、すなわち、基材樹脂がスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂のみからなることが特に好ましい。
【0027】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板には、必要に応じて他の添加剤を配合することができる。他の添加剤としては、例えば、難燃剤、難燃助剤、気泡調整剤、輻射抑制剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を挙げることができる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板に配合できる難燃剤としては、臭素系難燃剤を好適に用いることができる。臭素系難燃剤としては、臭素化ビスフェノール系難燃剤、臭素化イソシアヌレート系難燃剤又は臭素化されたブタジエン-スチレン共重合体系難燃剤等が挙げられる。
【0029】
臭素化ビスフェノール系難燃剤は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、又はこれらの誘導体の臭素化物であり、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)とテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)等が挙げられる。
【0030】
臭素化イソシアヌレート系難燃剤は、イソシアヌル酸又はイソシアヌル酸誘導体の臭素化物であり、モノ(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0031】
臭素化ブタジエン-スチレン共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体又はグラフト共重合体等、従来公知のものがそのまま使用でき、ポリスチレン-臭素化ポリブタジエン共重合体等が挙げられる。具体的には、Chemtura社のEmerald3000、ICL-IP社のFR122P等の市販品が入手可能である。
【0032】
臭素系難燃剤の総配合量は、所望の難燃性に応じて適宜決定されるものであるが、JIS A9521:2017試験方法Aの燃焼性規格を満足するポリスチレン系樹脂押出発泡体を得るためには、熱可塑性樹脂100重量部に対して1~10重量部配合することが好ましく、より好ましくは2~8重量部である。臭素系難燃剤の総配合量が、この範囲内であれば、難燃剤が発泡性を阻害することなく、良好な表面状態の押出発泡体を得ることができる。
【0033】
難燃助剤としては、例えば2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物、トリフェニルホスフェート、クレジルジ-2,6-キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛等の無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0034】
上記難燃助剤の配合量は基材樹脂100質量部に対し、ジフェニルアルカンやジフェニルアルケンの場合は0.05~1質量部、好ましくは0.1~0.5質量部の範囲で使用することができ、その他の難燃助剤の場合は0.5~5質量部、好ましくは1~4質量部の範囲で使用することができる。
【0035】
気泡調整剤としては、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤等を用いることができる。これらの中でも、難燃性を阻害することがなく気泡径を調整することが容易であるタルクを好適に用いることができる。特にJIS Z8901(2006年)に規定される粒径が0.1~20μm、更に0.5~15μmの大きさのタルクが好ましい。気泡調整剤の添加量は、気泡調整剤の種類、目的とする気泡径等によって適宜調整可能であるが、基材樹脂100質量部に対し、0.01~8質量部、更に0.01~5質量部、特に0.05~3質量部が好ましい。
【0036】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法の一実施形態について詳述する。本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法では、上記必須成分のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる基材樹脂と、必要に応じて他の熱可塑性樹脂及び、難燃剤、気泡調整剤、熱安定剤、難燃助剤等の添加剤を押出機に供給して加熱、混練し、更に物理発泡剤を押出機中に圧入し、混練して得られた発泡性溶融樹脂組成物をフラットダイ等のダイを通して高圧の押出機内より低圧域(通常は大気中)に押出して発泡させるとともに、ダイの出口に配置された成形型(平行又は入口から出口に向かって緩やかに拡大するよう設置された上下2枚のポリテトラフルオロエチレン樹脂等からなる板で構成される賦形装置や成形ロール等の成形具)を通過させることによって板状に賦形して板状の熱可塑性樹脂発泡体(原板)を作製する。そして、さらにこの原板を切削加工することにより、所定の幅及び長さを調整して熱可塑性樹脂押出発泡板を製造することができる。
【0037】
上記添加剤の熱可塑性樹脂への配合方法としては、所定割合の添加剤を熱可塑性樹脂と共に押出機上流に設けられている供給部に供給し、押出機中にて混練する方法を採用することができる。その他、押出機途中に設けられた供給部より溶融熱可塑性樹脂中に添加剤を供給する方法も採用することができる。尚、添加剤を押出機に供給する場合、添加剤と熱可塑性樹脂とをドライブレンドしたものを押出機に供給する方法や、添加剤マスターバッチや添加剤溶融混練物を予め作製し、熱可塑性樹脂とともに押出機に供給する方法を採用することができる。特に、分散性の点から添加剤マスターバッチを作製し押出機に供給する方法を採用することが好ましい。
【0038】
押出機中に圧入する物理発泡剤としては、従来公知のオゾン破壊係数がゼロ(0)である発泡剤が好ましい。更に、長期にわたる高い断熱性の維持を考慮した場合、上記基材樹脂に対するガス透過性が比較的遅いものが好ましい。ガス透過性が比較的遅い発泡剤としては、炭素数3~5の脂肪族炭化水素、具体的には、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン等が挙げられ、炭素数3~6の脂環式炭化水素、具体的には、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。これらの中でも、ガス透過性が遅く発泡性に優れるノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタンがより好ましく、さらに取り扱い性に優れるノルマルブタン、イソブタンが好ましく、特にイソブタンが好ましい。
【0039】
また、物理発泡剤としてハイドロフルオロオレフィンを用いることもできる。ハイドロフルオロオレフィンとしては、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1233zd)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ?2?ブテン(HFO1336mzz)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO1225ye)、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO1225zc)、1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO1225yc)等が挙げられる。
【0040】
さらに、ガス透過性が速い発泡剤として、例えば、塩化アルキル、アルコール類、エーテル類、ケトン類、二酸化炭素、水等を用いることができる。これらの発泡剤の中でも炭素数1~3の塩化アルキル、炭素数1~4の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素数が1~3のエーテル類、二酸化炭素、水等が好ましい。具体的には、炭素数1~3の塩化アルキルとしては、例えば塩化メチル、塩化エチル等が挙げられる。炭素数1~4の脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール等が挙げられる。アルキル鎖の炭素数が1~3のエーテル類としては例えばジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチレンジメチルエーテル等が挙げられる。特に、ガス透過性が速く、その取り扱い性に優れることから、塩化メチル、ジメチルエーテル、二酸化炭素、水が特に好ましい。なお、上記物理発泡剤は、単独又は2種以上を併用して用いることができる。また、上記発泡剤の使用量は、後述する押出発泡板の見掛け密度との関連で種類に応じて適宜設定する。
【0041】
本発明方法により得られる熱可塑性樹脂押出発泡板は、通常、建築用断熱板として使用されるため、JIS A9521:2017の6.7.3で規定される熱伝導率の規格と、JIS A9521:2017の附属書Cに規定される、「測定方法A」に記載の押出法ポリスチレンフォーム断熱材を対象とする燃焼性規格を同時に満たすように定めることが要求される。
【0042】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板の物性について説明する。
【0043】
(厚み)
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、その使用目的から厚みが10~150mmの範囲である。厚みが薄すぎる場合には、特に断熱材として使用する場合に要求される断熱性が不十分となる虞があり、厚みが厚すぎる場合には発泡成形が難しくなる虞がある。かかる観点から厚みは20~100mmが好ましく、30~75mmがより好ましい。
【0044】
(見掛け密度)
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の見掛け密度は20~50kg/cmの範囲である。見掛け密度が小さすぎる場合は、押出発泡断熱板を製造すること自体が困難となる場合があり、用途によっては機械的強度が不十分なものとなる可能性がある。一方、見掛け密度が大きすぎる場合は、押出発泡断熱板の厚みを相当厚くしない限り、充分な断熱性を発揮させることが困難となる場合があり、また軽量性の点からも好ましくない。かかる観点から見掛け密度は25~45kg/cmが好ましく、20~40kg/cmがより好ましい。なお、上記見掛け密度はJIS A9521:2017に記載の「6.8.3 発泡プラスチック断熱材」に基づき測定することができる。
【0045】
(平均気泡径)
本発明の発泡板において、表層部分の厚み方向平均気泡径は50~200μmであることが好ましく、より好ましくは80~120μmの範囲である。また、中心部分の厚み方向平均気泡径は60~210μmであることが好ましく、より好ましくは90~130μmの範囲である。ここで、本発明における中心部分の平均気泡径とは、成形後、切削して得られる発泡板の表面から厚み方向中央に向かって3mmを超える深部の気泡の気泡径を意味し、表層部分の平均気泡径とは、成形後、切削して得られる発泡板の表面から厚み方向中央に向かって3mmまでの深さの気泡の気泡径を意味する。一般に、厚み方向の平均気泡径が大きいほど、発泡板は機械的強度に優れたものとなり、断熱性は低下する傾向にある。一方、平均気泡径が上記の範囲において小さいほど、機械的強度は低下し、断熱性は向上する傾向にある。平均気泡径を上記範囲内とすることにより、一層高い断熱性を有するとともに、優れた機械的強度を有する発泡板とすることができる。
【0046】
中心部厚み方向平均気泡径の測定方法は以下の通りである。発泡板厚み方向の平均気泡径(DTc:μm)は、発泡板の押出方向垂直断面(押出発泡体の押出方向に平行に、幅方向の中央部で二等分した垂直断面)の厚み方向に2等分する中心部(発泡板の厚み方向に2等分する線を中心とし、中心から幅方向に上下5mmずつの部分)において、写真中のセル数が200から500個程度になるように拡大倍率を50倍から200倍程度の範囲で調整した拡大写真を得、各々の写真上において、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K-prоを用いて、各気泡の厚み方向の気泡径を求め、算術平均値を厚み方向の平均気泡径(DTc)とする。また、発泡板押出方向の平均気泡径(DLc:μm)は、厚み方向の平均気泡径と同じ断面写真から押出方向の気泡径を求め、算術平均値することにより押出方向の平均気泡径(DLc)とする。
【0047】
一方、発泡板幅方向の平均気泡径(DWc:μm)は、発泡板の幅方向垂直断面(押出発泡体の押出方向と直交する垂直断面)の厚み方向に2等分する中心部において、写真中のセル数が200から500個程度になるように拡大倍率を50倍から200倍程度の範囲で調整した拡大写真を得、各々の写真上において、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K-prоを用いて、各気泡の幅方向の気泡径を求め、それらの算術平均値を幅方向の平均気泡径(DWc)とする。また、発泡板の水平方向の平均気泡径(DHc:μm)は、DLcとDWcの相加平均値とする。
【0048】
表層部分厚み方向の平均気泡径(DTs:μm)、表層部分押出方向の平均気泡径(DLs:μm)及び表層部分幅方向の平均気泡径(DWs:μm)は、成形後、切削して得られる発泡板の表面から厚み方向中央に向かって3mmまでの深さについて、上記中心部厚み方向平均気泡径(DTc)、中心部押出方向の平均気泡径(DLc)及び中心部分幅方向の平均気泡径(DWc)それぞれの測定方法と同様にして得ることができる。また、発泡板の水平方向の平均気泡径(DHs:μm)は、DLsとDWsの相加平均値とする。
【0049】
(気泡変形率)
更に熱可塑性樹脂発泡板においては、表層部気泡変形率が0.7~1.0であることが好ましく、中心部気泡変形率が0.9~1.1であることが好ましい。中心部気泡変形率とは、上記測定方法により求められたDTcをDHcで除すことにより算出される値(DTc/DHc)であり、表層部分平均気泡変形率とは、上記測定方法により求められたDTsをDHsで除すことにより算出される値(DTs/DHs)である。
該気泡変形率が1.0よりも小さいほど気泡は扁平であり、1.0よりも大きいほど縦長であることを意味する。気泡変形率が上記範囲内にあることにより、機械的強度に優れ、かつ、より高い断熱性を有する発泡板とすることができる。
【0050】
(独立気泡率)
独立気泡率は、優れた断熱性や機械的強度等の物性を得る観点から80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。なお、独立気泡率:S(%)は、ASTMD2856-70に記載されている手順Cに準拠し、東芝ベックマン株式会社製の空気比較式比重計930型等を使用して測定される試験片の実容積(独立気泡の容積と樹脂部分の容積との和):Vx(cm)から、下記式(1)により算出できる。
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(1)
但し、上記式中の、Va、W、ρは以下の通りである。
Va: 測定に使用した試験片の見掛け容積(cm
W: 試験片の質量(g)
ρ: 試験片を構成する樹脂組成物の密度(g/cm
【0051】
樹脂組成物の密度ρ(g/cm)は、試験片の質量W(g)及び測定に使用した試験片を加熱プレスにより気泡を脱泡させてから冷却する操作を行い、得られたサンプルの体積(cm)から求めることができる。
【0052】
(熱伝導率)
本発明の熱可塑性樹脂発泡板の製造後7日経過後の熱伝導率は、0.028W/(m・K)以下であることが好ましく、0.0260W/(m・K)以下であることがより好ましく、0.0240W/(m・K)以下であることがさらに好ましい。発泡板の熱伝導率が上記範囲内であると、優れた断熱性を有する熱可塑性樹脂押出発泡板を得ることができる。なお、上記熱伝導率は、製造直後の熱可塑性樹脂発泡板から縦200mm×横200mm×厚み(任意の表皮が存在しない値)の試験片を切り出し、温度23℃、湿度50%の雰囲気下に7日保存した試験片について、JIS A 1412-2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に準拠して測定することができる。
【0053】
(寸法変化率)
本発明の熱可塑性樹脂発泡板の寸法変化率は、厚み方向、幅方向、長さ方向の各々において、90℃雰囲気下で22時間加熱した際の寸法変化率が5%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下である。
【0054】
上記寸法変形率の測定は、以下の方法により求めることができる。まず、発泡板の長さ方向に平行であり、かつ幅方向に2等分する位置で切断し、この切断により露出した面を含む、長さ100mm、横100mm、厚み25mmの直方体形状の成形スキンを含まない試験片を無作為に切り出し、この試験片をさらに23℃で一日以上安置した後、ノギスで試験片の縦、横の各部位の寸法を測定する。次いで、寸法測定後の試験片を所定の温度にてオーブンで22時間加熱し、次いで、加熱後の試験片を23℃で一日安置した後、加熱前と同じ箇所の寸法を測定する。
【0055】
(酸素指数)
本発明の難燃性の指標として酸素指数が25%以上であることが好ましい。酸素指数が上記範囲であれば、難燃性を有する建築用建材とすることができる。かかる観点から酸素指数は26%以上がより好ましく、27%以上がさらに好ましい。なお、酸素指数は、JIS K7201?2:2007に記載の酸素指数法による高分子材料の試験方法により測定することができる。
【0056】
(曲げ破断点変位)
曲げ破断点変位は23mm以上であることが好ましく、25mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることがさらに好ましい。上記曲げ破断点変位は、JIS K7221?2:2006に基づき測定することができる。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板において、強度の指標である曲げ破断点変位を上記条件に調整することにより、発泡板を曲げても割れ難く、スリット加工時、加工後の欠けや割れが発生しづらい熱可塑性樹脂押出発泡板とすることができる。本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板は、スリット加工時、加工後の欠けや割れが発生しづらいため、発泡板の板面に長手方向に延びるスリットを形成することにより、該スリットにより住宅の床や壁の角材間の寸法誤差を吸収させ、発泡板を隙間なく角材間に配設することができる熱可塑性樹脂押出発泡板とすることができる。
【0058】
なお、耐熱性を向上させる方法として、例えば樹脂板(熱可塑性樹脂押出発泡板を構成する熱可塑性樹脂を十分に溶融混練した後、板状に成形したもの)の場合には、アニーリングすることなどによって比較的容易に耐熱性を高めることが可能である。しかし、板状に成形する押出発泡板の場合、アニーリングしようとすると表面の気泡が破泡し、断熱性能が低下してしまうおそれがあることや表面に配向をかけることが困難であることなど耐熱性を高める方法が制限される。
【実施例
【0059】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1~4及び比較例1、2で使用した原材料の樹脂を以下に示す。基材樹脂を構成するスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は以下に示すものを用いた。
【0061】
PS1(DIC社製 AH300〔メタクリル酸比率2.0重量%〕ビカッド軟化温度106℃)
PS2(PSJ社製 MA100〔メタクリル酸比率4.0重量%〕ビカッド軟化温度110℃)
PS3(PSJ社製 G9001〔メタクリル酸比率7.0重量%〕ビカッド軟化温度118℃)
PS4(DIC社製 HP600〔メタクリル酸比率0重量%〕ビカッド軟化温度102℃)
PS5 PS1とPS2とを50:50の重量比で混合することにより作製した。
【0062】
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、三菱瓦斯化学社製 Altester30(ジカルボン酸成分:テレフタル酸=100 グリコール成分:SPG/EG=30/70、温度200℃、剪断速度100sec-1の条件下における溶融粘度2090Pa・s、融解熱量0J/g)を用いた。
【0063】
さらに、上記基材樹脂以外の添加剤は以下のものを用いた。
難燃剤:臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体(ランクセス社製、Emerald Innovation3000(E3000))
気泡調整剤:タルク
輻射抑制剤:黒鉛、酸化チタン
【0064】
また、物理発泡剤は以下のものを用いた。
物理発泡剤1:イソブタン(i-Bu)
物理発泡剤2:ハイドロフルオロオレフィン(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1233zd))
物理発泡剤3:水
物理発泡剤4:エタノール(EtOH)
物理発泡剤5:ジメチルエーテル(DME)
【0065】
上記基材樹脂、添加剤各々を下記表1及び表2に示す配合割合で押出機に供給し、さらに上記物理発泡剤を物理発泡剤供給口より供給し、溶融混練して、溶融混練物を押出機の先端のダイリップから、表1、表2に示す条件で大気圧下に押出した後、賦形装置(ガイダー)により所定の形状(板状)に成形し、幅300mm×厚み30mmである断面形状の発泡体とした後、カッターで長さ方向が2000mmとなるように切断し、かつ厚み方向の両表面及び幅方向両端部を切削することにより、幅280mm×長さ2000mm×厚み25mmの実施例1~3及び比較例1~4の熱可塑性樹脂押出発泡板を製造した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
また、製造した熱可塑性樹脂押出発泡板について、以下の各項目について測定、評価を行った。その結果を表1、表2に示す。
【0069】
<気泡構造>
(平均気泡径)
中心部厚み方向の平均気泡径(DTc)、表層部厚み方向の平均気泡径(DTs)については、前記方法により測定した。すなわち、発泡板の長さ方向に平行であり、かつ幅方向の中央部で二等分した垂直断面のサンプルを得て、拡大倍率50倍の拡大写真を得、写真上において、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K?proを用いて、中心部気泡の厚み方向の気泡径及び表層部気泡の厚み方向の気泡径を計測した。それを3サンプルについて計測し、それらの値を算術平均することにより中心部気泡の厚み方向の平均気泡径及び表層部気泡の厚み方向の平均気泡径を求めた。
(気泡変形率)
中心部の気泡変形率は、上記測定方法により求められたDTcをDHcで除すことにより算出される値(DTc/DHc)として求めた。表層部の気泡変形率は、上記測定方法により求められたDTsをDHsで除すことにより算出される値(DTs/DHs)として求めた。
(独立気泡率)
熱可塑性樹脂押出発泡板の中央部付近の計5箇所からカットサンプルを切り出して測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、5箇所の独立気泡率の算術平均値を採用した。サンプルの独立気泡率を、ASTM-D2856-70の手順Cにより空気比較式比重計(東芝ベックマン(株)製 型式:930型)を使用して測定して上記式(1)から求め、5箇所の算術平均値を独立気泡率とした。
【0070】
<見掛け密度>
見掛け密度の測定は、JIS K 7222:2005に基づいて行なった。各熱可塑性樹脂押出発泡板の幅方向中央部及び幅方向両端部付近の計3箇所から厚みが全厚みの直方体のサンプルを切り出して各々のサンプルについて見掛け密度を測定し、3箇所の測定値の平均値を見掛け密度とした。
【0071】
<熱伝導率>
熱伝導率の測定は、製造後7日経過した熱可塑性樹脂発泡体の中央部から長さ200mm×幅200mm×厚み25mm(表皮が存在しない)試験片を切り出し、JIS A 1412-2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に準拠して熱伝導率を測定した。
【0072】
<白熱灯による表面照射試験>
蓄熱による表面の膨れの有無を検証するために、成形後、切削して得られた幅280mm×長さ2000mm×厚み25mmの製造直後の発泡板を23℃、湿度50%の雰囲気下に31日保存した後、発泡板から無作為に幅及び長さを200mm角にカットしたサンプル(厚みは25mmのまま)を100型レフ白熱灯90Wから125mmの距離に設置して420秒照射しサンプル表面の状態を観察した。上記操作を3つのサンプルについて測定し、全てのサンプルにおいて表面が熱による変形がない場合を「変形なし」、1つでも変形が見られた場合を「表面が熱で膨れた」と評価した。
【0073】
<酸素指数>
難燃性の指標として酸素指数をJIS K7201?2(2007)に記載の酸素指数法による高分子材料の試験方法により、スガ試験機株式会社製の難燃性試験機(ON?1型)を使用して測定した。
【0074】
<強度測定>
(曲げ破断点変位)
まず、熱可塑性樹脂押出発泡板から、長さ方向が発泡板の押出方向に沿うように、かつ発泡板の幅方向の中点が長さの中心となり、厚さ方向が発泡板の厚さ方向に沿うように長さ200mm、幅75mm、厚さ25mmで表皮の存在しない押出方向の試験片を切り出した。次に、長さ方向が発泡板の押出方向に垂直な方向(幅方向)となるように、かつ発泡板の幅方向の中点が長さの中心となり、厚さ方向が発泡板の厚さ方向に沿うように長さ280mm、幅75mm、厚さ25mmで表皮の存在しない幅方向の試験片を切り出した。これらの試験片を用いて、JIS K7221?2:2006に基づき、支点間距離200mm、試験速度10mm/minの条件で曲げ破壊撓みを測定し、各測定により得られた値を算術平均した値を曲げ破断点変位とした。曲げ破断点変位は以下の基準に基づき評価した。
◎:曲げ破断点変位が30mmを超える。
〇:曲げ破断点変位が20mmを超え、30mm以下である。
×:曲げ破断点変位が20mm以下である。
【0075】
(スリット加工の加工性)
スリット加工の加工性を以下の方法で行い、下記の基準で評価した。熱可塑性樹脂押出発泡板の板面に対し、先端の刃が丸型に形成された刃物(丸ノコ)を使用し、最深部の断面形状がU型の溝を発泡板の長さ方向に沿って全長に亘り形成した。この溝は、発泡板の幅方向端部から幅方向中央に向かって15mmの位置に、幅方向端部に平行して厚み方向に深さ33mm、幅4mmで、最深部のU型形状の半径は、溝の幅の1/2倍の長さである2mmとなるように形成した。そして、上記のスリット加工時及びスリット加工後の状態について以下の基準で評価した。
○:スリット加工時に割れ、欠けが発生しない。
×:スリット加工時に割れ欠けが発生する。
【0076】
<樹脂板での物性>
各実施例比較例の樹脂配合比率とし、ニーダーにて混練した後、ソリッドの試験片(長さ150mm、幅25mm、厚さ2mm)を作製した。この試験片を用いて、JIS K7171:2006に基づき、下部支点間距離100mm、試験速度10mm/minにて、曲げ破断点変位の測定を行った。
【0077】
<評価結果>
表1、2に示す測定結果及び評価結果より、実施例1~3の押出発泡板は、比較例1~4の押出発泡板と比較して、白熱灯による表面照射試験の変形及び、発泡板の曲げ破断点変位に関して優れていることが確認された。特にスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体としてAH300を用いた実施例1は、高い酸素指数を維持し、白熱灯による表面照射試験で変形が見られず、さらに、ポリスチレン樹脂を用いた比較例1よりも曲げ破断点変位が高い値を示した。
【0078】
これらの結果から、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板は、ポリスチレン系樹脂のメリットを有しつつ、直射日光下で長時間載置した際の耐熱性を有するとともに、発泡板を曲げても割れ難く、スリット加工時、加工後の欠けや割れを抑制することができることが確認された。
【0079】
(メタ)アクリル酸単位を含まない比較例1と(メタ)アクリル酸単位を7重量%含む比較例2とを比較すると、比較例2の方が発泡体での曲げ破断点変位が低いことが分かる。一方、比較例1と比較例2の樹脂板(熱可塑性樹脂押出発泡板を構成する熱可塑性樹脂を各例と同じ樹脂組成とし、十分に溶融混練した後、板状に成形したもの)での曲げ破断点変位を比較すると同様の数値となっている。このことから、発泡体において、(メタ)アクリル酸単位を含む共重合体を用いると曲げ破断点変位が低くなるという傾向は、樹脂板の物性から容易に予測できるものでないことがわかる。