(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/22 20060101AFI20231124BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01R27/22 Z
G01N27/02 Z
(21)【出願番号】P 2019233106
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩入 章弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 直人
(72)【発明者】
【氏名】河室 佑貴
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-103456(JP,A)
【文献】特開昭60-067848(JP,A)
【文献】特開平10-082754(JP,A)
【文献】特表2012-529656(JP,A)
【文献】特開昭62-218878(JP,A)
【文献】特開平07-190976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/22
G01N 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体において交流電圧を印加するための一対の電極間に流れる電流に基づき前記流体の電気特性を測定する測定装置であって、
前記流体の基準となる基準流体のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第一の基準データを保持する保持手段と、
前記基準流体における前記一対の電極間に流れる電流に基づいて前記基準流体のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第二の基準データを測定する測定手段と、
前記第一の基準データと前記第二の基準データとの差分に基づいて前記一対の電極を校正するための処理を実行する校正処理手段と、を含
み、
前記保持手段は、前記電極の状態を示す指標として、前記電極間の距離と前記電極の面積との比率を示す定数を保持し、
前記測定手段は、前記流体における前記一対の電極間に流れる電流と前記定数とに基づいて前記流体の電気特性を測定し、
前記校正処理手段は、前記処理として、前記第一の基準データの虚部と前記第二の基準データの虚部との差分が第一の閾値を超える場合に、前記第二の基準データの虚部に基づいて前記定数を補正する、
測定装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の測定装置であって、
前記校正処理手段は、前記第一の基準データの実部と前記第二の基準データの実部との差分
が第二の閾値を超えない場合において、前記第一の基準データの虚部と前記第二の基準データの虚部との差分が前記第一の閾値を超えるときには、前記第二の基準データの虚部に基づいて前記定数を補正する、
測定装置。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載の測定装置であって、
前記第一の基準データの実部と前記第二の基準データの実部との差分が第二の閾値を超える場合に、前記基準流体の交換を報知する報知手段をさらに含む、
測定装置。
【請求項4】
請求項1から
請求項3までのいずれか一項に記載の測定装置であって、
前記流体の電気特性は、少なくとも前記流体の誘電率を含む、
測定装置。
【請求項5】
請求項1から
請求項4までのいずれか一項に記載の測定装置であって、
前記測定手段は、前記第一の基準データを測定し、その後に前記第二の基準データを測定する、
測定装置。
【請求項6】
請求項1から
請求項5までのいずれか一項に記載の測定装置であって、
前記一対の電極から前記基準流体に印加される前記交流電圧の周波数を変化させる制御手段をさらに含み、
前記校正処理手段は、
前記第一の基準データの虚部に対する周波数特性と前記第二の基準データの虚部に対する周波数特性との
各周波数での差分の絶対値の総和を、虚部同士の周波数特性の一致度合い
として算出し、算出した一致度合いに基づいて前記一対の電極の状態を検出する第一検出手段と、
前記第一の基準データの実部に対する周波数特性と前記第二の基準データの実部に対する周波数特性との
各周波数での差分の絶対値の総和を、実部同士の周波数特性の一致度合い
として算出し、算出した一致度合いに基づいて前記基準流体の変化を検出する第二検出手段と、を含む、
測定装置。
【請求項7】
一対の電極を用いて流体の電気特性を測定する測定方法であって、
前記流体の基準となる基準流体のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第一の基準データを取得する取得ステップと、
前記基準流体における前記一対の電極間に流れる電流に基づいて前記基準流体のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第二の基準データを測定する測定ステップと、
前記第一の基準データと前記第二の基準データとの差分に基づいて前記一対の電極を校正するための処理を実行する校正処理ステップと、を含
み、
前記取得ステップは、前記電極の状態を示す指標として、前記電極間の距離と前記電極の面積との比率を示す定数を取得し、
前記測定ステップは、前記流体における前記一対の電極間に流れる電流と前記定数とに基づいて前記流体の電気特性を測定し、
前記校正処理ステップは、前記処理として、前記第一の基準データの虚部と前記第二の基準データの虚部との差分が第一の閾値を超える場合に、前記第二の基準データの虚部に基づいて前記定数を補正する、
測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の電気特性を測定する測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、セル定数識別用の抵抗を備える電極プローブが接続されると、セル定数識別用の抵抗に基づき記憶部から呼出したセル定数と電極プローブの電極間に流れる電流とを用いて被測定液の導電率を測定する導電率計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の導電率計のような測定装置では、電極プローブの使用回数が増えるにつれて一対の電極の状態が悪くなり、記憶部に記憶されたセル定数の値に対して実際の値がずれてしまう。このような場合、電極の状態に応じてセル定数を校正することが考えられるものの、上述のような測定装置では電極の状態を推定することが難しかった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、流体の電気特性を測定するための電極を的確に校正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、流体において交流電圧を印加するための一対の電極間に流れる電流に基づいて前記流体の電気特性を測定する測定装置は、前記流体の基準となる基準流体のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第一の基準データを保持する保持手段と、前記基準流体における前記一対の電極間に流れる電流に基づいて前記基準流体のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第二の基準データを測定する測定手段と、前記第一の基準データと前記第二の基準データとの差分に基づいて前記一対の電極を校正するための処理を実行する校正処理手段と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
この態様によれば、第一の基準データと第二の基準データとの差分を求めることによって、基準流体の状態変化を検出することが可能になるので、流体の電気特性を測定するための電極を的確に校正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態における測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、測定装置における測定部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、基準データと検査データとの差分を例示する図である。
【
図4】
図4は、測定装置を用いた校正方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、校正方法に含まれる校正処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、校正処理に含まれる定数補正処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態における測定装置1の構成を示す図である。
【0011】
測定装置1は、流体の電気特性を測定する電気化学測定装置である。被測定対象である流体の概念には、液体、気体、及び両者が混合された媒体などが含まれる。
【0012】
本実施形態の測定装置1は、容器Xに満たされた被測定対象である液体Xaの電気特性を測定する。液体Xaとしては、例えば、一般的な導電率計で導電率を測定可能な液体、又は、液体に不溶性の固体物質を含む混合液などが挙げられ、本実施形態では、有機溶媒に固体物質を含有した電子部品の出発原料であるスラリーなどが被測定対象として用いられる。
【0013】
測定装置1は、例えば、交流二電極方式、交流四電極方式、又は電磁誘導方式などを用いて、液体Xaの導電率(伝導率)及び誘電率のうち少なくとも一つの電気特性を測定する。本実施形態の測定装置1においては、交流二電極方式が採用されている。
【0014】
また、測定装置1は、流体の基準となる基準流体を用いて流体の電気特性を測定するための定数を校正する。本実施形態の測定装置1は、液体Xaの基準となる基準液を用いて、液体Xaの電気特性を測定するための一又は複数の定数を校正する。基準液は、基準流体であり、いわゆる標準液を含み、定数を校正するためにあらかじめ定められた液体である。具体的には、測定装置1は、基準液を容器Xに満たした状態において基準液のインピーダンス又はアドミッタンスを示す基準データを測定し、測定した基準データに基づいて定数を補正する。
【0015】
容器Xに満たされる基準液としては、例えば、NMP(Nメチル-2-ピロリドン:N-Methyl-2-Pyrrolidone)、塩化カリウム、エタノール、メタノール、水、又は油などの液体が挙げられる。NMPのような液体は、化学的及び熱的に安定しており、腐食性が低く、かつ、沸点及び引火点が高いという性質を有する。このため、本実施形態では、NMPのような液体が基準液として用いられる。
【0016】
NMPのような液体は、上述のように安全性に優れている反面、空気中の水などを吸収するので、液体の電気特性が変りやすいという性質も併せ持っている。それゆえ、本実施形態では、電気特性が変りやすい液体が基準液として用いられているといえる。以下では、基準液の電気特性が変化することを「基準液が劣化する」と称する。
【0017】
測定装置1は、液体Xaに接触させられる電気化学センサ2と、電気化学センサ2が無線又は有線を介して接続される測定装置本体である測定部3と、を備える。電気化学センサ2及び測定部3は、一体として構成されてもよく、別体として構成されてもよい。
【0018】
電気化学センサ2は、液体Xaの電気特性を測定するために用いられる電極プローブであり、可搬型でもよく、固定型であってもよい。電気化学センサ2は、例えば測定部3に対して脱着可能に構成される。電気化学センサ2は、一対の電極21,22と、測定回路23と、を備える。
【0019】
一対の電極21,22は、液体Xaに交流電圧を印加するための電極である。一対の電極21,22は、電気化学センサ2の使用回数が増加するにつれて塵などが付着する。そのため、一対の電極21,22の状態は悪くなり、一対の電極21,22間の距離と電極21,22の接触面積との比率を示すセル定数の値も変化してしまう。セル定数は、一対の電極21,22の状態を示す指標(パラメータ)である。
【0020】
本実施形態において一対の電極21,22の状態とは、汚れ又は腐食などによって電極21,22と液体Xaとの接触面積が狭くなったり、落下による電気化学センサ2への衝撃などによって一対の電極21,22間の距離が変化したりすることを意味し、劣化状態とも称する。
【0021】
測定回路23は、一対の電極21,22間に流れる電流の大きさを測定するために、一対の電極21,22間に印加される交流電圧を制御する電気制御回路である。測定回路23は、電極21と電極22との間に交流電圧を印加しながら電極21と電極22との間に流れる応答電流を検出する。そして測定回路23は、検出した応答電流を示す検出信号を測定部3に出力する。
【0022】
測定部3は、電気化学センサ2から出力される検出信号に基づいて液体Xa及び基準液の各々の電気特性を測定する。
【0023】
本実施形態では、測定部3は、基準液に浸漬された状態での電気化学センサ2の検出信号に基づいて電気化学センサ2のセル定数を補正する。そして測定部3は、補正したセル定数と、液体Xaに浸漬された状態での電気化学センサ2の検出信号と、に基づいて液体Xaの導電率及び誘電率を演算する。
【0024】
被測定対象が導電率の比較的高い液体である場合は、液体の導電率のみを測定すれば十分であるが、本実施形態では、導電率が比較的低い液体を被測定対象として想定しており、液体Xaの良否判定などにおいて導電率の変化量が比較的小さくなってしまう。それゆえ、良否判定などの精度を確保する観点から、本実施形態では、測定部3は、液体Xaの導電率に加えて誘電率を演算する。
【0025】
測定部3は、記憶部31と、操作部32と、表示部33と、処理部34と、を備える。
【0026】
記憶部31は、RAM及びROMによって構成される。記憶部31には、処理部34の動作を制御するためのプログラムが記憶されている。すなわち、記憶部31は、本実施形態における測定装置1の機能を実現するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。
【0027】
操作部32は、液体Xa又は基準液の測定条件、測定の開始又は停止、測定部3に接続された電気化学センサ2の種類などを指示する各種の操作スイッチを備える。操作部32は、これらの操作に応じて操作信号を生成して処理部34に出力する。
【0028】
表示部33は、例えば液晶ディスプレイなどの表示装置によって構成される。表示部33は、処理部34の指示に従って、測定条件の設定内容又は測定結果などを表示する。
【0029】
処理部34は、CPU、入出力インターフェース、及びこれらを相互に接続するバスによって構成される。処理部34は、記憶部31からプログラムを読み出してCPUに実行させることによって、入出力インターフェースを介して測定装置1を総括的に制御する。
【0030】
本実施形態では、処理部34は、操作部32からの操作信号に従って、液体Xaの電気特性を測定するための測定処理を実行する。この測定処理において処理部34は、電気化学センサ2の動作を制御するとともに、電気化学センサ2から検出信号を取得してその検出信号を記憶部31に記録する。そして測定装置1は、記憶部31に記録された検出信号を解析して基準液及び液体Xaの電気特性を算出する。
【0031】
次に、本実施形態における処理部34の詳細について
図2を参照して説明する。
【0032】
図2は、記憶部31及び処理部34の機能構成の一例を示すブロック図である。まず、記憶部31について説明する。記憶部31は、セル定数記憶部311と、基準データ記憶部312と、検査データ記憶部313と、を備える。
【0033】
セル定数記憶部311は、電気化学センサ2のセル定数と、基準液の電気特性の定数と、を記憶する。本実施形態では、セル定数の理論値と、基準液の導電率及び誘電率の理論値と、がセル定数記憶部311にあらかじめ記憶される。また、測定部3に対して複数の種類の電気化学センサ2が接続可能な場合は、電気化学センサ2の種類ごとに、セル定数の理論値と基準液の電気特性の理論値とが互いに対応付けられてセル定数記憶部311にあらかじめ記憶される。
【0034】
基準データ記憶部312は、基準流体としての基準液のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第一の基準データを保持する保持手段を構成する。基準データ記憶部312は、電気化学センサ2から得られる基準液のインピーダンス又はアドミッタンスを示す基準データを記憶する。なお、インピーダンス及びアドミッタンスのうちの実部は、基準液の導電率に対して相関性を有し、虚部は基準液の誘電率に対して相関性を有する。
【0035】
本実施形態の基準データは、電気化学センサ2を用いて測定された基準液のアドミッタンスの実部及び虚部を示す測定データであり、例えば、基準液が未劣化である初期状態の測定データが基準データとして用いられる。
【0036】
検査データ記憶部313は、基準データを取得した後に現状の基準液を検査するための検査データを記憶する。検査データは、前回基準液を測定したときの第一の基準データよりも後に測定した基準液のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第二の基準データである。本実施形態の検査データ記憶部313には、基準データの測定後に電気化学センサ2を用いて測定される基準液のアドミッタンスの実部及び虚部が検査データとして記憶される。
【0037】
検査データは、例えば、基準データの測定後において所定の検査条件が成立した場合に電気化学センサ2を用いて測定される。所定の検査条件としては、測定装置1を起動して基準データを測定した後に測定装置1を次回起動するタイミング、液体Xaを次回測定するタイミング、又は基準データを測定してからの経過時間が所定の時間に達したタイミングなどが考えられる。所定の時間は、例えば基準液の劣化特性を考慮してあらかじめ定められる。
【0038】
続いて、処理部34の機能構成について説明する。処理部34は、交流電圧指令部110と、インピーダンス測定部120と、電気特性演算部130と、校正処理部140と、を備える。
【0039】
交流電圧指令部110は、
図1に示した一対の電極21,22に対して交流電圧を印加するよう電気化学センサ2を制御する。
【0040】
交流電圧指令部110は、操作部32から液体Xaの測定を指示する操作信号を取得すると、一対の電極21,22から液体Xaに交流電圧を印加するための制御信号を電気化学センサ2の測定回路23に送信する。これにより、一対の電極21,22間の液体Xaには交流電圧が印加される。液体Xaの測定に使用される交流電圧の周波数は、液体Xaのインピーダンス又はアドミッタンスを示す実験データ、理論データ、若しくはシミュレーション結果などに基づいてあらかじめ定められる。
【0041】
また、交流電圧指令部110は、操作部32から基準液の測定を指示する操作信号を取得すると、一対の電極21,22から交流電圧を印加するための制御信号を測定回路23に送信する。これにより、一対の電極21,22間の基準液には交流電圧が印加される。
【0042】
基準液に印加する交流電圧の周波数としては、基準液のインピーダンス又はアドミッタンスを示す実験データ、理論データ又はシミュレーション結果などに基づいて定められる。基準液としてNMPの液体が用いられる場合は、交流電圧の周波数は、数[Hz]から数百[Hz]までの周波数範囲のうち一又は複数の値に設定される。
【0043】
本実施形態では、交流電圧指令部110は、一対の電極21,22から基準液に印加される交流電圧の周波数を数[Hz]から数百万[Hz]までの所定の周波数範囲で掃引するよう測定回路23に指示する。すなわち、本実施形態の交流電圧指令部110は、一対の電極21,22から基準液に印加される交流電圧の周波数を変化させる制御手段を構成する。以下、基準液に印加される交流電圧の周波数のことを「測定周波数」と称する。
【0044】
インピーダンス測定部120は、電気化学センサ2から受信される検出信号に基づいて基準液又は液体Xaのインピーダンスを測定する測定手段を構成する。
【0045】
インピーダンス測定部120は、操作部32から基準液の初期測定を指示する操作信号を取得すると、基準液に浸漬された電気化学センサ2の検出信号に基づいて測定周波数ごとに基準液のインピーダンスを算出する。そしてインピーダンス測定部120は、測定周波数ごとに算出したインピーダンスをアドミッタンスに変換し、変換後の各測定周波数でのアドミッタンスを実部と虚部とに分解する。インピーダンス測定部120は、基準液の基準データとして、分解した各測定周波数でのアドミッタンスの実部及び虚部を基準データ記憶部312に記録する。
【0046】
インピーダンス測定部120は、操作部32から液体Xaの測定を指示する操作信号を取得すると、液体Xaに浸漬された電気化学センサ2の検出信号に基づいて液体Xaのインピーダンスを算出する。インピーダンス測定部120は、算出した液体Xaのインピーダンスを電気特性演算部130に出力する。
【0047】
インピーダンス測定部120は、操作部32から基準液の検査測定を指示する操作信号を取得すると、基準液に浸漬された電気化学センサ2の検出信号に基づいて測定周波数ごとに基準液のインピーダンスを算出する。そしてインピーダンス測定部120は、測定周波数ごとに算出したインピーダンスをアドミッタンスに変換し、変換後の各測定周波数でのアドミッタンスの実部及び虚部を検査データとして検査データ記憶部313に記録する。
【0048】
電気特性演算部130は、インピーダンス測定部120から液体Xaのインピーダンスを取得すると、取得した液体Xaのインピーダンスと、セル定数記憶部311から読み出したセル定数と、に基づいて液体Xaの導電率及び誘電率を演算する。
【0049】
例えば、電気特性演算部130は、操作部32から電気化学センサ2の種類を示す操作信号を取得すると、セル定数記憶部311に記憶されたセル定数の中から、操作信号に示された種類に対応するセル定数を読み出す。
【0050】
そして、電気特性演算部130は、インピーダンス測定部120から出力された液体Xaのインピーダンスを実部と虚部とに分解し、分解したインピーダンスの実部に対してセル定数記憶部311から読み出したセル定数を乗じて、液体Xaの導電率を算出する。さらに電気特性演算部130は、交流電圧の測定周波数を角周波数に変換した値に対してセル定数を乗算し、乗算した値により分解後のインピーダンスの虚部を除して、液体Xaの誘電率を算出する。
【0051】
これに代えて、電気特性演算部130は、液体Xaのインピーダンスの実部と導電率との関係を示す所定の導電率テーブルを用いて液体Xaの導電率を求め、その導電率にセル定数を乗じて液体Xaの導電率を測定結果として算出してもよい。同様に液体Xaの誘電率についても算出してもよい。
【0052】
校正処理部140は、基準液について基準データと検査データとの差分に基づき、基準液を用いて一対の電極21,22を校正するための校正処理を実行する校正処理手段を構成する。
【0053】
本実施形態では、校正処理部140は、電気化学センサ2のセル定数を校正するために校正処理を実行する。校正処理部140は、基準液劣化検出部141と、交換情報生成部142と、電極状態検出部143と、セル定数補正部144と、を備える。
【0054】
基準液劣化検出部141は、基準データ記憶部312から読み出した基準データの実部と、検査データ記憶部313から読み出した検査データの実部と、の差分である実部差分に基づいて基準液の電気特性の変化を検出する。
【0055】
本実施形態では、基準液劣化検出部141は、特定の測定周波数での基準データと検査データとの実部差分を算出し、算出した実部差分の絶対値が所定の実部閾値を上回るか否かを判断する。ここにいう実部閾値は、実部差分について基準液の劣化に伴う校正精度の低下が許容できる範囲の上限値に基づいて設定される。例えば、実部閾値は、実験データ又はシミュレーション結果などを用いてあらかじめ定められる。
【0056】
そして、基準液劣化検出部141は、算出した実部差分の絶対値が実部閾値以下である場合には、基準液が劣化していないと判定し、その旨を示す判定信号を電極状態検出部143に出力する。一方、基準液劣化検出部141は、算出した実部差分の絶対値が実部閾値を上回る場合には、基準液が劣化していると判定し、その旨を示す判定信号を交換情報生成部142に出力する。
【0057】
これに代えて、基準液劣化検出部141は、測定周波数ごとに基準データと検査データとの実部差分を算出し、算出した各測定周波数での実部差分の絶対値の総和を、実部同士の周波数特性の一致度合いとして算出してもよい。このとき、基準液劣化検出部141は、周波数特性の一致度合いが特定の実部閾値を上回る場合には、基準液が劣化している旨を示す判定信号を生成し、周波数特性の一致度合いが実部閾値以下である場合には、基準液が劣化していない旨を示す判定信号を生成する。
【0058】
この場合における基準液劣化検出部141は、基準データの実部に対する周波数特性と検査データの実部に対する周波数特性との一致度合いに基づいて基準液の変化を検出する第二検出手段を構成する。
【0059】
交換情報生成部142は、基準液について基準データと検査データとの実部差分が実部閾値を超える場合に基準液の交換を報知する報知手段を構成する。
【0060】
本実施形態では、交換情報生成部142は、基準液劣化検出部141から、基準液が劣化している旨を示す判定信号を取得すると、基準液の交換を促すための交換情報を生成する。交換情報生成部142は、生成した交換情報を表示部33に出力する。これにより、表示部33には、交換情報が表示される。
【0061】
これに代えて、
図1に示した測定部3に赤色のLEDなどの発光素子を設けておき、交換情報生成部142は、基準液の劣化を示す判定信号を取得した場合に測定部3の発光素子を発光させるようにしてもよい。あるいは、測定部3にスピーカを予め設けておき、交換情報生成部142が音声によって基準液の劣化を通知するようにしてもよい。
【0062】
電極状態検出部143は、基準データ記憶部312から読み出した基準データの虚部と、検査データ記憶部313から読み出した検査データの虚部と、の差分である虚部差分に基づいて一対の電極21,22の状態変化を検出する。すなわち、電極状態検出部143は、上記の虚部差分に基づいてセル定数記憶部311に記憶された定数の変化を検出する。
【0063】
本実施形態では、電極状態検出部143は、特定の測定周波数での基準データと検査データとの虚部差分を算出し、算出した虚部差分の絶対値が所定の虚部閾値を上回るか否かを判断する。ここにいう虚部閾値は、虚部差分についてセル定数の変化に伴う校正精度の低下が許容できる範囲の上限値に基づいて設定される。例えば、虚部閾値は、実験データ又はシミュレーション結果などを用いてあらかじめ定められる。上述した虚部閾値及び実部閾値は、それぞれ、第一の閾値及び第二の閾値と称することができる。
【0064】
そして、電極状態検出部143は、算出した虚部差分の絶対値が虚部閾値以下である場合には、一対の電極21,22の状態を示すセル定数の変化が比較的小さいと判定し、セル定数の補正が不要である旨を示す判定信号をセル定数補正部144に出力する。一方、電極状態検出部143は、算出した虚部差分の絶対値が虚部閾値を上回る場合には、セル定数の変化が比較的大きいと判定し、補正が必要である旨を示す判定信号をセル定数補正部144に出力する。
【0065】
また、電極状態検出部143は、虚部差分の絶対値が所定の虚部閾値又はこの虚部閾値よりも大きな閾値を上回る場合には、電気化学センサ2が劣化している旨を示す判定信号を生成して交換情報生成部142に出力してもよい。この場合、交換情報生成部142は、電気化学センサ2自体の交換、又は一対の電極21,22の交換を促すための交換情報を生成する。そして交換情報生成部142は、生成した交換情報を表示部33に出力する。これにより、表示部33には、一対の電極21,22の交換を促す交換情報が表示される。これに代えて、交換情報生成部142は、上述のように、測定部3に設けられた発光素子又はスピーカを用いて電気化学センサ2の交換を通知してもよい。
【0066】
これに代えて、電極状態検出部143は、測定周波数ごとに基準データと検査データとの虚部差分を算出し、算出した各測定周波数での虚部差分の絶対値の総和を、虚部同士の周波数特性の一致度合いとして算出してもよい。このとき、電極状態検出部143は、周波数特性の一致度合いが特定の虚部閾値を上回る場合には、補正が必要である旨を示す判定信号を生成し、周波数特性の一致度合いが虚部閾値以下である場合には、補正が不要である旨を示す判定信号を生成する。
【0067】
この場合における電極状態検出部143は、基準データの虚部に対する周波数特性と検査データの虚部に対する周波数特性との一致度合いに基づいて一対の電極21,22の状態を検出する第一検出手段を構成する。
【0068】
また、電極状態検出部143は、虚部同士の周波数特性の一致度合いが特定の虚部閾値又はこの虚部閾値よりも大きな閾値を上回る場合にも、上述のように、電気化学センサ2が劣化している旨を示す判定信号を交換情報生成部142に出力してもよい。
【0069】
セル定数補正部144は、基準液について基準データの虚部と検査データの虚部との虚部差分が虚部閾値を超える場合に、検査データの虚部に基づいて前記定数を補正する。
【0070】
本実施形態では、セル定数補正部144は、電極状態検出部143から補正が必要である旨を示す判定信号を取得すると、セル定数記憶部311に記憶されたセル定数の値を補正する。
【0071】
例えば、セル定数補正部144は、次式(1)のように、検査データに示されるサセプタンスBと、特定の測定周波数に対応する角周波数ωと、基準液の誘電率の理論値εとを用いてセル定数(S/d)を算出する。セル定数(S/d)は、一対の電極21,22間の距離dと、電極21,22の基準液に対する接触面積Sとの比率である。
【0072】
【0073】
セル定数補正部144は、式(1)を用いて算出したセル定数(S/d)の値を新たなセル定数としてセル定数記憶部311に記録する。
【0074】
これに代えて、セル定数補正部144は、検査データにおけるサセプタンスBの値とセル定数(S/d)の値との関係を示す定数デーブルを用いて、セル定数(S/d)を補正してもよい。この場合、定数テーブルは、実験データ又はシミュレーション結果などを用いてあらかじめ定められる。
【0075】
一方、セル定数補正部144は、電極状態検出部143から補正が不要である旨を示す判定信号を取得すると、セル定数記憶部311に記憶されたセル定数の補正を抑制する。具体的には、セル定数補正部144は、セル定数の補正を行わない。
【0076】
このように、校正処理部140は、基準データ記憶部312に記憶された基準データと、検査データ記憶部313に記憶された検査データとの差分に基づいて、基準液により一対の電極21,22の状態を推定するための校正処理を実行する。これにより、基準液の劣化を検出するとともに、一対の電極21,22の状態変化を検出することができる。
【0077】
次に、校正処理部140に用いられる基準データ及び検査データの具体例について
図3を参照して説明する。
【0078】
図3は、基準液についての基準データと検査データとの実部差分及び虚部差分の一例を示す図である。ここで、横軸は、一対の電極21,22に印加された交流電圧の測定周波数であり、縦軸は、基準液のアドミッタンスの実部を示すコンダクタンスGと、基準液のアドミッタンスの虚部を示すサセプタンスBとの共通軸である。
【0079】
この例では、基準液としてNMPの液体が用いられており、基準データは、NMPの液体のアドミッタンスを測定した結果であり、検査データは、所定の時間が経過した後においてNMPの液体のアドミッタンスを測定した結果である。
【0080】
図3における実線のデータは、基準データに含まれるコンダクタンスGの周波数特性を示し、二点鎖線のデータは、検査データに含まれるコンダクタンスGの周波数特性を示す。基準データと検査データとの実部(G)同士を比較することにより、測定周波数の全体に亘って実部(G)同士に差が生じていることがわかる。
【0081】
基準データと検査データとの実部(G)同士に差が生じる理由は、基準液が空気中の水などを吸収することによって検査データの実部(G)が小さくなるからである。NMPの液体については、空気中の水などの吸収に伴い基準液が劣化するにつれて実部(G)同士の差が大きくなる。
【0082】
そのため、本実施形態では、
図2に示した基準液劣化検出部141が、基準データと検査データとの実部差分に基づいて基準液が劣化しているか否かを判定する。例えば、基準液劣化検出部141は、実部差分が大きくなるほど基準液の劣化が進行していると判定してもよい。
【0083】
また、
図3における破線のデータは、基準データに含まれるサセプタンスBの周波数特性を示し、一点鎖線のデータは、検査データに含まれるサセプタンスBの周波数特性を示す。基準データと検査データとの虚部(B)同士を比較することにより、数[Hz]から数百[Hz]までの特定の周波数範囲において虚部(B)同士に差が生じていることがわかる。
【0084】
基準データと検査データとの虚部(B)同士に差が生じる理由は、一対の電極21,22に塵などが付着することによって検査データの虚部(B)が小さくなるからである。塵などの付着に伴う一対の電極21,22の状態が変化するにつれて虚部(B)同士の差は大きくなる。なお、NMPのような液体は、基準液が劣化した場合であっても、検査データの虚部(B)は殆ど変化しない。
【0085】
そのため、本実施形態では、
図2に示した電極状態検出部143が、基準データと検査データとの虚部差分に基づいて一対の電極21,22の状態が変化しているか否かを判定する。例えば、電極状態検出部143は、虚部差分が大きくなるほど一対の電極21,22の汚れがひどくなっていると判定してもよい。
【0086】
以上のように、基準データと検査データとの差分を求めることにより、基準液の劣化状態と電極21,22の劣化状態との双方を同時に推定することができる。
【0087】
なお、
図3に示した例では、基準液が劣化した場合であっても、検査データの虚部(B)が殆ど変化しないため、電極状態検出部143は電極21,22の状態変化を判定したが、液体の劣化に伴ってサセプタンスBが変化する基準液も存在する。そのため、電極状態検出部143は、基準液劣化検出部141により基準液が劣化していると判定された場合には、一対の電極21,22の状態変化の検出を禁止してもよい。
【0088】
次に、本実施形態における測定装置1の動作について
図4を参照して説明する。
【0089】
図4は、電気化学センサ2のセル定数を校正する校正方法の一例を示すフローチャートである。この校正方法では、測定装置1の基準液は、劣化に伴い導電率だけでなく誘電率も変化する液体が用いられることを想定している。
【0090】
まず、測定者による操作部32への入力操作によってセル定数を校正するための校正処理が開始され、測定者により電気化学センサ2が容器Xの基準液に浸漬される。この例では、
図1に示した記憶部31には、処理部34によって測定された基準データがあらかじめ記憶されている。
【0091】
ステップS1では、
図1に示した処理部34は、記憶部31から基準データを読み出す。この基準データは、基準液のインピーダンス又はアドミッタンスを示す第一の基準データである。
【0092】
ステップS2では、処理部34は、基準液を検査するために、現状の基準液のインピーダンス又はアドミッタンスを示す検査データを測定する。この検査データは、処理部34によって基準データよりも後に測定された第二の基準データである。
【0093】
ステップS3では、処理部34は、基準データと検査データとの差分に基づいて一対の電極21,22を校正するための校正処理を実行する。この処理については
図5を参照して後述する。ステップS3の処理が完了すると、校正方法についての一連の処理手順が終了する。
【0094】
図5は、ステップS3で実行される校正処理の一例を示すフローチャートである。
【0095】
ステップS31では、処理部34は、基準液について基準データと検査データとの実部差分を算出する。
【0096】
ステップS32では、処理部34は、算出した実部差分が所定範囲内にあるか否かを判断する。ここにいう所定範囲はゼロを含み、その上限値及び下限値は、上述の実部閾値に相当する。処理部34は、実部差分が所定範囲内にある場合、すなわち実部差分が実部閾値を超えない場合にはステップS33へ進む。
【0097】
ステップS33では、処理部34は、基準液について基準データと検査データとの虚部差分を算出する。
【0098】
ステップS34では、処理部34は、一対の電極21,22の状態変化を検出するために、算出した虚部差分が所定範囲内にあるか否かを判断する。ここにいう所定範囲はゼロを含み、その上限値及び下限値は、上述の虚部閾値に相当する。
【0099】
このとき、処理部34は、算出した虚部差分が所定範囲内にない場合、すなわち虚部差分が虚部閾値を超える場合にはステップS36へ進み、虚部差分が所定範囲内にある場合、すなわち虚部差分が虚部閾値を超えない場合にはステップS35へ進む。
【0100】
ステップS35では、処理部34は、算出した虚部差分が所定範囲内にあるため、一対の電極21,22の状態が良好であるとみなして、セル定数の補正が不要である旨を示す判定信号を生成する。
【0101】
ステップS36では、処理部34は、算出した虚部差分が所定範囲内にないため、一対の電極21,22の状態が悪化したとみなして、セル定数の補正が必要である旨を示す判定信号を生成する。
【0102】
このようにステップS33乃至S36の処理によって、処理部34は、基準データと検査データとの虚部差分に基づき一対の電極21,22の状態変化を検出する。
【0103】
一方、ステップS32にて実部差分が所定範囲内にない場合、すなわち実部差分が実部閾値を超える場合には、処理部34はステップS37へ進む。
【0104】
ステップS37では、処理部34は、実部差分が所定範囲内にないため、基準液が劣化している旨を示す判定信号を生成する。このとき、基準液の劣化に伴う検査データの虚部の変動を考慮して、処理部34は、一対の電極21,22の状態変化を検出することを抑制する。
【0105】
このように、ステップS31、S32及びS37の処理によって、処理部34は、基準データと検査データとの実部差分に基づき基準液の劣化を検出する。
【0106】
続いて、ステップS38では、処理部34は、ステップS35乃至S37の処理にて生成される判定信号に基づいてセル定数を補正するための定数補正処理を実行する。この処理については、
図6を参照して後述する。
【0107】
ステップS38の処理が完了すると、処理部34は、
図4に示した校正方法の処理手順に戻り、ステップS3の処理を完了させることによって、校正方法についての一連の処理手順が終了する。
【0108】
図6は、ステップS38で実行される定数補正処理の一例を示すフローチャートである。
【0109】
ステップS381では、処理部34は、生成した判定信号に基づいて基準液が劣化しているか否かを判断する。そして処理部34は、判定信号が基準液の劣化を示す信号である場合には、ステップS382へ進む。
【0110】
ステップS382では、処理部34は、基準液が劣化しているため、基準液の交換を促すための交換情報を報知する。例えば、処理部34は、交換情報を表示するよう
図1に示した表示部33に指令する。
【0111】
一方、ステップS381にて判定信号が基準液の劣化を示さない場合には、処理部34はステップS383へ進む。
【0112】
ステップS383では、処理部34は、基準液が劣化していないため、判定信号に基づいて、さらにセル定数の補正が必要であるか否かを判断する。そして、判定信号がセル定数の補正を不要とする信号である場合には、処理部34は、定数補正処理を完了して
図5に示した校正処理(S3)の処理手順に戻る。一方、ステップS383にて判定信号が補正を要求する信号である場合には、処理部34はステップS384へ進む。
【0113】
ステップS384では、処理部34は、セル定数の補正が必要であるため、上式(1)のように、検査データの虚部に基づいて、
図2に示したセル定数記憶部311に記憶されたセル定数を補正する。
【0114】
ステップS382又はS384の処理が完了すると、処理部34は、定数補正処理を終了して
図5に示した校正処理(S3)の処理手順に戻り、校正処理を完了させることによって、
図4に示した校正方法についての一連の処理手順が終了する。
【0115】
なお、
図5に示す校正処理の例では、ステップS32にて基準データと検査データとの実部差分が所定範囲内にない場合、すなわち基準液が劣化したと判断された場合は、ステップS33乃至S36の処理は行われない。しかしながら、NMPのように、液体が経時劣化したとしてもその液体のアドミッタンスの虚部が殆ど変化しないような液体を基準液として用いることも想定される。
【0116】
このような場合には、ステップS32にて基準データと検査データとの実部差分が所定範囲内にない場合であっても、処理部34は、ステップS33乃至S36の処理を実行してもよい。このように、基準液を一回検査することにより、基準液の劣化と電極21,22の状態変化との双方を検出できるので、基準液の交換とセル定数の補正とを同時に行うことができる。
【0117】
また、
図5に示す校正処理の例では、ステップS34にて基準データと検査データとの虚部差分が所定範囲内にない場合、処理部34は、セル定数の補正が必要であり、かつ、電気化学センサ2の交換が将来的に必要である旨を示す判定信号を生成してもよい。これにより、セル定数の補正によって液体Xaの電気特性を測定可能にしつつ、電気化学センサ2の交換が将来的に必要である旨を測定者に通知することが可能になる。
【0118】
あるいは、ステップS36において処理部34は、算出した虚部差分が、セル定数の補正によって測定精度を確保できる特定の範囲内にあるか否かを判断してもよい。そして虚部差分が特定の範囲内にないと判断した場合には、処理部34は、電気化学センサ2による測定が不可能であり、電気化学センサ2の交換が早急に必要である旨を示す判定信号を生成してもよい。これにより、測定精度が悪い状態での電気化学センサ2による測定結果を測定者に通知するのを回避することができる。
【0119】
次に、本実施形態の作用効果について詳細に説明する。
【0120】
本実施形態において、液体Xa(流体)に交流電圧を印加するための一対の電極21,22間に流れる電流に基づいて液体Xaの電気特性を測定する測定装置1は、液体Xaの測定基準となる基準液(基準流体)のインピーダンス又はアドミッタンスを示す基準データ(第一の基準データ)を保持する記憶部31と、を含む。そして測定装置1は、基準液における一対の電極21,22間に流れる電流の大きさを示す信号に基づいて基準液のインピーダンス又はアドミッタンスを示す検査データ(第二の基準データ)を測定するインピーダンス測定部120と、基準データと検査データとの差分に基づいて一対の電極21,22を校正するための処理を実行する校正処理部140と、を備える。
【0121】
さらに、本実施形態における液体Xaの電気特性を測定する測定方法は、上記基準液の基準データを取得するステップS1と、基準液における一対の電極21,22間に流れる電流に基づいて上記基準液の検査データを測定するステップS2と、基準データと検査データとの差分に基づいて上記処理を実行するステップS3と、を含む。
【0122】
これらの構成によれば、基準液について基準データと検査データとの差分を求めることによって、基準液の電気特性の変化を検出することが可能となる。これにより、例えば、電気特性が劣化するような液体を基準液として用いる場合には、基準液の経時劣化の度合いを特定することができる。さらに、液体の劣化に伴って基準液の導電率及び誘電率の一方のみが相対的に変化するようなものを基準液として用いる場合は、基準液の劣化と電極21,22の劣化とを分離して評価することができる。
【0123】
したがって、液体Xaを測定するための電極21,22を的確に校正することができる。
【0124】
また、本実施形態において、記憶部31は、一対の電極21,22の劣化状態を示す定数の一つとして、一対の電極21,22間の距離と電極21,22の面積との比率を示すセル定数を保持し、インピーダンス測定部120は、液体Xaにおける一対の電極21,22間に流れる電流とセル定数とに基づいて液体Xaの電気特性を測定する。そして校正処理部140は、基準データの虚部と検査データの虚部との差分が虚部閾値(第一の閾値)を超える場合に、検査データの虚部に基づいてセル定数を補正する。
【0125】
この構成によれば、
図3に示したように、基準データの虚部(B)と検査データの虚部(B)との差分を用いることによって、電極21,22に関するセル定数の変化を検出することができる。そして、セル定数の変化が比較的大きい場合は、現状の基準液の劣化電極状態を表わす検査データの虚部(B)の数値を用いることによって、セル定数を精度よく補正することができる。
【0126】
また、本実施形態における校正処理部140は、基準データの実部と検査データの実部との差分に基づいて基準液の変化を検出する。
【0127】
この構成によれば、
図3に示したように、基準データの実部(G)と検査データの実部(G)との差分を用いることにより、基準液の電気特性の変化を特定できるので、基準液が劣化しているか否かを簡易に検出できる。
【0128】
また、本実施形態における校正処理部140は、基準液について基準データの実部と検査データの実部との差分が実部閾値(第二の閾値)を超える場合に、基準液の交換を報知する交換情報生成部142をさらに含む。
【0129】
この構成によれば、測定者に対して基準液の交換が通知されるので、セル定数を校正する際に、劣化した基準液を使用してセル定数が補正されることを回避することができる。すなわち、一対の電極21,22に関するセル定数を精度よく補正することができる。
【0130】
また、本実施形態において液体Xaの電気特性は、少なくとも液体Xaの誘電率を含む。これにより、液体Xaを検査するにあたり、液体の状態が悪くなるにつれて導電率の変化量よりも誘電率の変化量が相対的に大きくなる液体が被測定対象の液体Xaとして用いられる場合は、液体Xaの状態を精度よく評価することが可能となる。
【0131】
また、本実施形態におけるインピーダンス測定部120は、基準液について一対の電極21,22を用いて基準データを測定し、その後に一対の電極21,22を用いて基準液を検査するための検査データを測定する。
【0132】
この構成によれば、基準データとして実測データが用いられるので、理論データ又はシミュレーション結果などを用いる場合に比べて、精度よく基準液の電気特性の変化を検出することが可能となる。それゆえ、電極21,22の状態変化を的確に捉えることができる。
【0133】
また、本実施形態における測定装置1は、一対の電極21,22から基準液に印加される交流電圧の周波数を変化させる交流電圧指令部110をさらに含む。そして校正処理部140は、基準データの虚部に対する周波数特性と検査データの虚部に対する周波数特性との一致度合いに基づいて一対の電極21,22の状態を検出する電極状態検出部143と、基準データの実部に対する周波数特性と検査データの実部に対する周波数特性との一致度合いに基づいて基準液の変化を検出する基準液劣化検出部141と、を含む。
【0134】
この構成によれば、
図3に示したように、基準データと検査データとの差分として、実部(G)同士の周波数特性の一致度合いと、虚部(B)同士の周波数特性の一致度合いと、が用いられる。これにより、電気特性の変化が相対的に小さい周波数領域を有する基準液を用いる場合であっても、基準液の電気特性の変化を精度よく検出することができる。したがって、基準液の劣化と電極21,22の劣化とを同時に判別することが可能になる。
【0135】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0136】
例えば、本実施形態ではアドミッタンスの実部及び虚部が基準データ及び検査データとして用いられたが、インピーダンスの実部及び虚部が用いられてもよい。また、本実施形態では流体の概念に含まれる液体Xaが被測定対象として用いられたが、流体の概念に含まれる気体、又は、気体と液体を混合した媒体などが被測定対象として用いられてもよい。
【0137】
また、本実施形態では
図1に示した測定回路23が電気化学センサ2に備えられているが、測定回路23は測定部3に備えられてもよい。さらに、
図2に示したインピーダンス測定部120が処理部34に備えられているが、インピーダンス測定部120は電気化学センサ2に備えられてもよい。
【符号の説明】
【0138】
1 測定装置
21、22 電極
31 記憶部(保持手段)
120 インピーダンス測定部(測定手段)
140 校正処理部(校正処理手段)
141 基準液劣化検出部(第二検出手段)
142 交換情報生成部(報知手段)
143 電極状態検出部(第一検出手段)
Xa 液体(流体)
S1~S3 (取得ステップ、測定ステップ、校正処理ステップ)