(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ガラス粒子、それを用いた導電性組成物及びガラス粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 12/00 20060101AFI20231124BHJP
C03B 19/14 20060101ALI20231124BHJP
C03C 3/14 20060101ALI20231124BHJP
C03C 3/076 20060101ALI20231124BHJP
C03C 3/078 20060101ALI20231124BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20231124BHJP
C03C 8/18 20060101ALI20231124BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C03C12/00
C03B19/14 Z
C03C3/14
C03C3/076
C03C3/078
C03C3/089
C03C8/18
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2020010743
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019012582
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 敏和
(72)【発明者】
【氏名】橋本 健介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 安俊
(72)【発明者】
【氏名】織田 晃祐
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-255346(JP,A)
【文献】特開2015-229628(JP,A)
【文献】特開平10-226511(JP,A)
【文献】特開2001-048521(JP,A)
【文献】特開2005-097008(JP,A)
【文献】特表2014-514229(JP,A)
【文献】特開平11-268923(JP,A)
【文献】特表2015-504404(JP,A)
【文献】特開2000-169162(JP,A)
【文献】特開2004-123508(JP,A)
【文献】特開2005-001978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C03B 19/14
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡観察によって測定された累積体積50容量%における体積累積粒径D
SEM50に対するレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D
50の比D
50/D
SEM50が8.0以下であり、
D
SEM50が100nm以上700nm以下であ
り、
BET比表面積(m
2
/g)に対する炭素含有量(質量%)の比(質量%・g/m
2
)が0.1以下である、ガラス粒子。
【請求項2】
D
50が1500nm以下である、請求項1に記載のガラス粒子。
【請求項3】
球状である、請求項1又は2に記載のガラス粒子。
【請求項4】
アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、Si、B及びZnの少なくとも一種以上を酸化物として含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のガラス粒子。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか一項に記載のガラス粒子を含んでなる導電性組成物。
【請求項6】
チャンバー内に発生させた層流状態のプラズマフレームにガラス母粉を供給して該ガラス母粉をガス化させ、ガス化した前記ガラス母粉を冷却してガラス粒子を生成させる工程を有し、
前記チャンバーは、その内部が還元ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気であり、且つその内部の圧力が大気圧よりも20kPa以上40kPa以下低く、
ガラス母粉の供給量に対するプラズマ出力の比が、0.01kW・min/g以上20kW・min/g以下である、ガラス粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス粒子、それを用いた導電性組成物及びガラス粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス粒子は、電極の焼結助剤等の用途で、電子機器の電極形成用のペーストに用いられている。近年、電子機器に用いられるコンデンサ等の電子部品は、小型化及び高容量化を達成すべく、該部品に用いられる電極の薄膜化が望まれている。
【0003】
特許文献1には、酸化物換算で、SiO2を40~95モル%、B2O3を0.5~40モル%,及びZnOを0.5~40モル%の量で含有し、かつ平均粒径が20nm以上1000nm未満である球状ガラス微粒子が記載されている。この微粒子は、電子デバイスの製造における焼結助剤として使用可能であることも同文献に記載されている。
【0004】
また特許文献2には、平均粒径D50が1~200nm、平均真球度が0.7以上で、D50、BET比表面積及び真密度を用いて所定の式から算出される緻密度が0.8~2.0であるガラス粉末が記載されている。このガラス粉末は、電極のバインダーとして好適であることも同文献に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-68507号公報
【文献】特開2015-229628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで従来、電極等を有する電子部品の形成に用いられるガラス粒子は、主に、溶融法で得られたガラスフレークを粉砕することで製造していた。しかし、この方法では1μm程度以下の微粒となるように粉砕することが非常に難しく、結果として、ガラス粒子をペーストに含有させて電極を作製した際に、電極等の薄膜化に対応することができなかった。
【0007】
また、特許文献1及び2のガラス粒子は、粒径が小さいものであるが、粒径が過度に小さいことに起因してガラス粒子の融着や凝集が生じやすいため、かかる技術でも電極等の薄膜化に十分に対応できなかった。
【0008】
したがって、本発明の課題は、適度に小さい粒径を有しつつも、粒子どうしの凝集が少なく、且つ他の材料と混合したときの分散性が高いガラス粒子、並びに該粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、走査型電子顕微鏡観察によって測定された累積体積50容量%における体積累積粒径DSEM50に対するレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50の比D50/DSEM50が8.0以下であり、
DSEM50が100nm以上700nm以下である、ガラス粒子を提供するものである。
【0010】
また本発明は、チャンバー内に発生させた層流状態のプラズマフレームにガラス母粉を供給して該ガラス母粉をガス化させ、ガス化した前記ガラス母粉を冷却してガラス粒子を生成させる工程を有し、
前記チャンバーは、その内部が還元ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気であり、且つその内部の圧力が大気圧よりも20kPa以上40kPa以下低く、
ガラス母粉の供給量に対するプラズマ出力の比が、0.01kW・min/g以上20kW・min/g以下である、ガラス粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適度に小さい粒径を有しつつも、粒子どうしの凝集が少なく、且つ他の材料と混合したときの分散性が高いガラス粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明のガラス粒子を製造するDCプラズマ装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のガラス粒子は、特定の粒径を有するものである。詳細には、ガラス粒子は、走査型電子顕微鏡観察によって測定された累積体積50容量%における体積累積粒径DSEM50に対する、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50の比D50/DSEM50が、8.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、3.5以下であることが更に好ましい。D50/DSEM50の下限は、粒子における理論的な数値である1.0が好ましい。
【0014】
外見上の幾何学的形態から判断して、粒子としての最小単位と認められる物体を一次粒子と定義したときに、DSEM50は一次粒子の粒径を表し、D50は複数個の一次粒子の凝集体である二次粒子の粒径を表すところ、D50/DSEM50が上述した範囲にあることによって、ガラス粒子は、粒子どうしの融着や凝集の度合が低く、一次粒子の割合が高いものとなる。このことは、ガラス粒子をペーストに含有したときに良好な流動性及び充填性を発現し、薄い塗膜を形成することに有利である。
【0015】
DSEM50は、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが更に好ましい。DSEM50の上限としては、700nmであることが好ましく、600nmであることがより好ましく、500nmであることが更に好ましい。DSEM50がこのような範囲にあることによって、粒子どうしの融着や凝集の度合が低いものとなる。DSEM50は、ガラス粒子の走査型電子顕微鏡像から、粒子どうしが重なり合っていないものを複数の視野から無作為に500個選んで粒径(ヘイウッド径)を測定し、次いで、得られた粒径から、粒子が球であると仮定したときの体積を算出し、該体積の累積体積50容量%における体積累積粒径とする。
【0016】
同様の観点から、ガラス粒子は、そのD50が1500nm以下であることが好ましく、1200nm以下であることがより好ましく、1100nm以下であることが更に好ましい。D50の下限は、100nmであることが好ましい。D50は、例えば以下の方法で測定することができる。すなわち、0.1gの測定試料と水50mLとを混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製、US-300T)で1分間分散させる。その後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置として、例えばマイクロトラックベル製MT3300 EXIIを用いて粒度分布を測定する。
【0017】
以上の構成を有するガラス粒子は、ガラス粒子の組成に依存せず、適度に小さい粒径を有しつつも、粒子どうしの凝集や融着が少ないものである。したがって、該粒子をペーストに含有させて用いたときに、ペースト中での分散性が高く、均一且つ薄い塗膜を形成することができ、また、焼成して得られる電極表面の平滑性も高いものとなる。
【0018】
ガラス粒子は、その構成元素として、Li、Na及びK等のアルカリ金属元素、Ca、Sr及びBa等のアルカリ土類金属元素、Mg、Si、B並びにZnの少なくとも一種以上を酸化物として含むことが好ましい。これらのうち、Ba、Zn、B、Si及びAlの少なくとも一種以上の酸化物が、電極の薄膜化が要求される積層セラミックコンデンサ(MLCC)等の電子部品の形成材料として好ましく用いられる。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、ガラス粒子が、上述した構成元素以外の成分を含有することは許容される。ガラス粒子に含まれる構成元素が酸化物であるか否かは、蛍光X線(XRF)分析又はICP分析で構成元素量を定量するとともに、X線回折(XRD)測定でアモルファス由来のブロードなピークが検出されることによって確認することができる。
本発明のガラス粒子におけるガラスとしては、ケイ酸塩、リン酸塩、バナジン酸塩又はホウ酸塩等を含有する、無機非晶質固体が挙げられる。
【0019】
ガラス粒子のBET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量(質量%)の比(単位:質量%・g/m2)は、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.03以下であることが更に好ましい。上述の比を0.1以下とすることによって、ガラス粒子を含む塗膜を焼成して電極を製造する際に、炭素成分の分解によって生成するガス量を抑えることができ、その結果、ガスの生成に起因した電極の膨れや亀裂が発生しにくくなる。BET比表面積(m2/g)に対する炭素含有量(質量%)の比(単位:質量%・g/m2)の下限としては、粒径が小さいガラス粒子を形成しやすくするとともに、不純物の混入を効果的に抑制する観点から、少なければ少ないほど好ましいが、0.005であることが現実的である。
【0020】
ガラス粒子における炭素の含有量は、0.30質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以下であることがより好ましく、0.20質量%以下であることが更に好ましい。一般的に、ガラス粒子を製造する際に炭素を含む有機物などの不純物が混入すると、焼結時にガス発生の原因となり、ガラス粒子を含むペーストから得られた塗膜の均一性や平滑性に悪影響が生じ得る。本発明においては、不純物の混入を効果的に抑制して、塗膜の充填性、均一性及び平滑性を高める観点から、炭素の含有量の下限は少なければ少ないほど好ましいが、0.02質量%であることが現実的である。つまり、ガラス粒子は、微細な粒子でありながら、該粒子に含まれる炭素の含有量が極めて低いものである。ガラス粒子における炭素の含有量を上述の範囲とするためには、例えば高純度の原料を直流熱プラズマ法や高周波プラズマ法に供することによって調整することができる。
【0021】
炭素含有量は、例えば、堀場製作所製の炭素分析装置EMIA-920Vを用いて測定することができる。詳細には、測定試料0.1gと、助燃剤としてタングステン粉1.5g及びスズ粉0.3gとを磁性坩堝内に秤量し、酸素ガス雰囲気下で加熱する。加熱の際に、試料中の炭素と酸素とが反応して生成した一酸化炭素及び二酸化炭素を非分散赤外線吸収法で検出し、炭素の含有割合(質量%)を算出した。
【0022】
ガラス粒子のBET比表面積は、1m2/g以上であることが好ましく、1.5m2/g以上であることがより好ましく、2m2/g以上であることが更に好ましい。BET比表面積の上限は、15m2/gであることが好ましく、12m2/gであることがより好ましく、10m2/gであることが更に好ましい。BET比表面積の大きさと、粒径の小ささとは概ね相関しているので、BET比表面積がこのような範囲にあることによって、ガラス粒子の粒径を十分に小さくすることができる点で有利である。
【0023】
BET比表面積は、吸着ガスである窒素を30容量%、キャリアガスであるヘリウムを70容量%含有する窒素-ヘリウム混合ガスと、BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、HM model-1210)とを用いて、JIS R 1626「ファインセラミックス粉体の気体吸着 BET法による比表面積の測定方法」の「6.2流動法」の「(3.5)一点法」に従って測定することができる。
【0024】
ガラス粒子の形状は特に制限はなく、例えば球状、フレーク状、多面体状など種々の形状を採用することができる。ガラス粒子を含むペーストの流動性及び充填性を高めるとともに、形成された塗膜表面の平滑性を高める観点から、ガラス粒子の形状は、球状であることが好ましい。ここでいう球状とは、以下の方法で測定した円形度係数に基づき、好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.90以上となるものをいう。円形度係数は、ガラス粒子の走査型電子顕微鏡像から、粒子どうしが重なり合っていないものを無作為に500個選び出し、粒子の二次元投影像の面積をSとし、周囲長をLとしたときに、粒子の円形度係数を4πS/L2の式から算出し、各粒子の円形度係数の算術平均値を上述した円形度係数とする。粒子の二次元投影像が真円である場合は、粒子の円形度係数は1となる。
【0025】
次に、ガラス粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、ガラス母粉をPVD法の一種である直流熱プラズマ(以下、「DCプラズマ」ともいう。)法に付して、該母粉からガラス粒子を生成させるものである。詳細には、本製造方法は、チャンバー内に発生させた層流状態のプラズマフレームにガラス母粉を供給して、ガラス母粉をガス化させ、ガス化したガラス母粉を冷却してガラス粒子を生成させる工程を有する。所定の元素の酸化物を含むガラス粒子を製造する場合には、目的とするガラス粒子の元素組成と同じとなるような比率でガラス母粉と構成元素を含む母粉とを供給するか、又は目的とするガラス粒子と同じ組成を有するガラス母粉を供給すればよい。以下の説明では、上述した母粉を総称して、単に「母粉」ともいう。
【0026】
本製造方法に好適に用いられるDCプラズマ装置を
図1に示す。同図に示すように、DCプラズマ装置1は、粉末供給装置2、チャンバー3、DCプラズマトーチ4、回収ポット5、粉末供給ノズル6、ガス供給装置7及び圧力調整装置8を備えている。この装置においては、母粉は、粉末供給装置2から粉末供給ノズル6を通してDCプラズマトーチ4内部を通過する。DCプラズマトーチ4には、熱プラズマ発生用のガス(以下「プラズマガス」ともいう。)がガス供給装置7から供給されプラズマフレームが発生する。また、DCプラズマトーチ4で発生させたプラズマフレーム内で母粉がガス化されてチャンバー3に放出された後、ガス化された母粉が冷却され、ガラス粒子の微粉末となって回収ポット5内に蓄積回収される。チャンバー3の内部は、圧力調整装置8によって粉末供給ノズル6よりも相対的に陰圧が保持されるように制御されており、母粉のDCプラズマトーチ4への供給を容易にするとともに、プラズマフレームを安定して発生する構造をとっている。なお
図1に示す装置は、DCプラズマ装置の一例であって、本発明のガラス粒子の製造はこの装置に限定されるものではない。
【0027】
プラズマフレーム内で母粉に十分なエネルギーを供給して、サブミクロンオーダーの微粒子を首尾よく形成する観点から、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるように調整することが好ましい。プラズマフレームが層流状態であるか否かは、プラズマフレームを、フレーム幅が最も太く観察される側面から観察したときに、フレーム幅に対するフレーム長さの縦横比(以下、フレームアスペクト比)が3以上であるか否かによって判断することができる。具体的には、フレームアスペクト比が3以上であれば層流状態と判断することができ、3未満であれば乱流状態と判断することができる。
【0028】
プラズマフレームが層流状態となるようにするためには、プラズマ出力とプラズマガス流量を調整することが有利である。詳細には、DCプラズマ装置のプラズマ出力を好ましくは2kW以上100kW以下、より好ましくは2kW以上40kW以下に設定する。また、プラズマガスのガス流量に関しては、好ましくは0.1L/min以上25L/min以下、更に好ましくは0.5L/min以上21L/min以下に設定する。
【0029】
特に、プラズマフレームを層流状態に安定的に保ちつつ、母粉のガス化に必要な流速を確実に得る観点から、上述の範囲のプラズマ出力及びガス流量を保ちつつ、プラズマ出力に対するプラズマガス流量の比(単位:L/(min・kW))を、好ましくは0.50以上2.00以下、より好ましくは0.70以上1.80以下、更に好ましくは0.75以上1.60以下に設定する。
【0030】
粒子どうしの凝集及び融着が少ないガラス粒子の製造効率を高める観点から、母粉の供給量は、好ましくは5g/min以上200g/min以下であることが好ましく、10g/min以上100g/min以下であることが好ましい。
【0031】
プラズマフレーム内で十分な熱エネルギーを母粉に供給し、サブミクロンオーダーの微粒子を首尾よく形成することに加えて、粗粒の母粉を残存しにくくするという観点から、母粉の供給量に対するプラズマ出力の比は、好ましくは0.01kW・min/g以上20kW・min/g以下であり、更に好ましくは0.05kW・min/g以上15kW・min/g以下である。
【0032】
母粉のガス化から冷却までの時間を一層短縮して、適度に小さい粒径を有し、且つ粒子どうしの凝集及び融着が少ないガラス粒子を一層効率よく製造する観点から、チャンバー3の内部に冷却用ガスを供給して、ガス化した母粉を冷却することが好ましい。冷却用ガスの供給は、例えばチャンバー3の側壁部に接続された冷却用ガス供給部(図示せず)によって行うことができる。冷却用ガスとしては特に制限はないが、例えば窒素ガス及びアルゴンガス等の不活性ガスや、酸素ガス等の酸化ガスを用いることが好ましい。冷却用ガスは、チャンバー3内部の圧力が上述した範囲の陰圧となっていることを条件として、例えば0℃以上30℃以下の温度の冷却用ガスを、チャンバー3内部におけるプラズマフレームの先端近傍であり且つプラズマフレームの形成に干渉しない周囲に、1L/min以上400L/min以下供給することができる。
【0033】
チャンバー3の内部の圧力は、大気圧よりも20kPa以上40kPa以下低いことが好ましく、20kPa以上35kPa以下低いことがより好ましい。このように陰圧に制御されることによって、ガス化した母粉からガラス粒子が形成される際に、チャンバー3内のガス化母粉の濃度が増加することになる。それにより、製造系内の熱伝導が促進されて、生成されるガラス粒子に付与される熱エネルギーが低減され、ガラス粒子の粒成長及び粒子どうしの凝集を一層抑制するとともに、ガラス粒子表面の酸化が一層抑制される。その結果、粒径が小さく、粒子どうしの凝集が少なく、且つ粒子表面の酸化が抑制されたガラス粒子が効率良く製造される。特に、チャンバー3の内部が後述のようにアルゴンガスを含んだ混合ガスとすることによって、上述の効果は更に一層有利に奏される。なお、チャンバー3内部の圧力は、例えば圧力調整装置8によって適宜制御することができる。
【0034】
DCプラズマ装置は主に金属微粒子の製造に用いられるところ、従来のDCプラズマ装置による製造方法では、金属母粉のガス化を効率良く行うために、DCプラズマ装置のプラズマ出力を高くして目的の粒子が製造されていた。本発明者は、ガラス粒子の製造効率を維持しつつ、ガラス粒子の微粒子化と凝集及び融着の抑制とを両立する方法について鋭意検討したところ、DCプラズマ装置のプラズマ出力を従来よりも敢えて低くしてガラス粒子を製造することによって、意外にも、粒子の製造効率を維持しながらも、適度に小さい粒径を有し、且つ粒子どうしの凝集及び融着が少ないガラス粒子を製造できることを見出した。この理由として、ガラス粒子は、一般的に600~700℃程度に軟化点を有するため、プラズマ出力を従来よりも低くした場合でもガラス母粉を十分にガス化できるとともに、粒成長が適度に抑制されるように冷却されやすくなる。また、DCプラズマ法で形成されるプラズマフレームは、フレームの中心部から先端に向かうにつれて低温となり、且つその温度勾配が大きいといった特有の温度分布を有しているので、このような温度分布が生じていることによって、生成した粒子が冷却されやすくなり、生成される粒子どうしの凝集及び融着の低減に寄与していると考えられる。これに加えて、冷却用ガスをチャンバー内に更に導入することによって、粒成長中のガラス粒子にかかる熱エネルギーを更に抑制しながら分散化できるので、適度に小さい微粒子を形成することができ、形成された粒子どうしの凝集及び融着が更に起こりにくくなると考えられる。
【0035】
プラズマガスの種類に特に制限はなく、例えば、プラズマガスとして、アルゴンガスを単独で用いたり、あるいは、アルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスや、アルゴンガスと窒素ガスとヘリウムガスとの混合ガスを用いることができる。このような混合ガスを使用すると、窒素(2原子分子)ガスによって、より大きな振動エネルギー(熱エネルギー)を母粉の構成粒子に均一に付与することができるので、粒度分布が一層シャープな微粒子を得ることができる。これに加えて、粗粒の母粉が残存しにくくなるという利点がある。
【0036】
プラズマガスとして、アルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスを使用する場合、粒度分布のシャープな粒子を得る観点から、プラズマガスにおけるアルゴンガスと窒素ガスとの割合は、アルゴンガス:窒素ガスの流量比で99:1~10:90の範囲であることが好ましく、95:5~60:40の範囲であることが更に好ましい。また、目的とするガラス粒子の粒度分布をよりシャープにする観点からは、アルゴンガスと窒素ガスの割合は、アルゴンガス:窒素ガスの流量比で99:1~55:45の範囲、特に95:5~55:45の範囲のように、窒素ガスよりもアルゴンガスの流量の方が多い比率内で調整すること好ましい。このような比率であることによって、プラズマフレームの減退を防止できるという利点も奏される。
【0037】
本製造方法に用いられる母粉は、特に限定されるものではない。母粉のプラズマ噴射性とコストの観点から、母粉の粒径D50は、好ましくは3.0μm以上、更に好ましくは5.0μm以上である。D50の上限は、好ましくは30μm、更に好ましくは15μmである。また、母粉の形状に特に制限はなく、例えば樹枝状、棒状、フレーク状、キュービック状、球状などが挙げられる。プラズマトーチへの供給効率を安定化させる観点から、球状の母粉を用いることが好ましい。母粉のD50の測定は、上述したガラス粒子のD50の測定と同様の方法で行うことができる。
【0038】
このようにして得られたガラス粒子は、該粒子の集合体である微粉末となって回収ポット5内に蓄積回収される。回収されたガラス粒子は、これをそのままで用いてもよく、合成時に生成される粗大凝集粒子の除去を行うために分級してもよい。分級は、適切な分級装置を用いて、目的とする粒度が中心となるように、粗粉や微粉を分離するようにすればよい。
【0039】
ガラス粒子は、粉末の状態として単独で用いてもよく、あるいは他の金属材料や誘電体材料等と混合されて、配線回路、電極及び誘電体等を形成するための焼結助剤として用いてもよい。配線回路及び電極を形成するための導電性組成物としては、例えば導電ペーストや導電インクなどが挙げられる。これらの導電性組成物は、金属フィラー及び焼結助剤としてのガラス粒子等の成分を含むものである。導電性組成物は、例えばこれを所定の手段によって塗布することで、プリント配線基板の配線回路を形成したり、チップ部品の電極を形成したりすることができる。また、誘電体を形成するための組成物は、セラミックス等の誘電体材料、及び焼結助剤としてのガラス粒子等の成分を含むものであり、例えばこれを所定の手段によって塗布して塗膜を形成することで、薄い誘電体膜を形成することができる。特に、本発明のガラス粒子は、適度に小さい粒径を有し、粒子どうしの凝集が低減されて、他の材料との分散性が高いものであるので、小型化及び薄型化が要求されるMLCCや、LTCC(低温焼成セラミックス)多層回路基板等の小型電子部品の形成材料に好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0041】
〔実施例1〕
図1に示す構造のDCプラズマ装置1を用いて、以下のとおりガラス粒子を製造した。粉末供給装置2から粉末供給ノズル6を通して、母粉としてガラス母粉(組成:B
2O
3=26.4質量%、CaO=7.8質量%、SrO=3.8質量%、BaO=42.7質量%、ZnO=18.4質量%、粒径D
50=12μm、球状粒子)を5g/minの供給量で導入した。これとともに、プラズマガスとしてアルゴンガスをプラズマフレームの内部に供給した。プラズマガスの流量は21L/minとした。プラズマ出力は13kWであり、プラズマ出力に対するプラズマガス流量の比は1.6(L/(min・kW))であった。プラズマフレームはフレームアスペクト比が4であり、層流状態であった。母粉の供給量に対するプラズマ出力の比は、2.5kW・min/gであった。また、製造時において、チャンバー内部の圧力を、大気圧よりも30kPa低くし、冷却用ガスとして25℃のアルゴンガスを10L/minの流量で供給し、目的とするガラス粒子を得た。
【0042】
〔実施例2〕
プラズマ出力を11kWに変更した他は実施例1と同様にして、ガラス粒子を製造した。なお、本実施例における母粉の供給量に対するプラズマ出力の比は、2.6kW・min/gであった。
【0043】
〔比較例1〕
プラズマ出力を16kW、チャンバー内部の圧力を大気圧よりも50kPa低くした他は実施例1と同様にして、ガラス粒子を製造した。なお、本比較例における母粉の供給量に対するプラズマ出力の比は、2.8kW・min/gであった。
【0044】
〔比較例2〕
プラズマ出力を14kW、チャンバー内部の圧力を大気圧よりも50kPa低くした他は実施例1と同様にして、ガラス粒子を製造した。なお、本比較例における母粉の供給量に対するプラズマ出力の比は、3.2kW・min/gであった。
【0045】
〔粒子物性の評価〕
実施例及び比較例のガラス粒子について、D50、DSEM50、BET比表面積、C含有量及び円形度係数を、上述した方法で測定した。結果を表1に示す。
【0046】
〔塗膜の最大高さRmaxの評価〕
各実施例及び比較例で得られたガラス粒子0.7gに、銅粒子(Cu=粒径D50=0.4μm、球状粒子)7gと、10質量%の熱可塑性セルロースエーテル(The Dow Chemical Company製 品名:ETHOCEL STD100)を含有したターピネオール(ヤスハラケミカル株式会社製)ビヒクル1.4gとを添加して、ヘラで予備混練した後、株式会社シンキー製の自転・公転真空ミキサーARE-500を用いて、攪拌モード(1000rpm×1分間)と脱泡モード(2000rpm×30秒間)を1サイクルとした処理を2サイクル行い、ペースト化した。このペーストを、更に3本ロールミルを用いて合計5回処理することで更に分散混合を行い、ペーストを調製した。
【0047】
このように調製したペーストを、アプリケーターを用い、ギャップを35μmに設定してアルミナ基板上に塗布した。その後、窒素オーブンを用い、150℃で10分間にわたり加熱乾燥し塗膜を作製した。得られた塗膜について、表面粗さ計(東京精密株式会社製、SURFCOM 480B-12)を用いて、JIS B0601:1982に準拠して最大高さRmax(μm)を測定した。結果を表1に示す。最大高さRmaxが低いほど、得られた塗膜の表面が平滑であることを示す。
【0048】
【0049】
〔実施例3〕
実施例1で用いたガラス母粉とは別のガラス母粉(組成:SiO2=1.9質量%、B2O3=25.9質量%、CaO=7.6質量%、SrO=3.7質量%、BaO=41.8質量%、ZnO=18.0質量%、粒径D50=12μm、球状粒子)を用いた。また、プラズマ出力を12kWとし、プラズマ出力に対するプラズマガス流量の比を1.8L/(min・kW)、母粉の供給量に対するプラズマ出力の比を2.6kW・min/gに変更した。これらの条件以外は実施例1と同様にして、ガラス粒子を得た。
【0050】
〔比較例3〕
実施例3で用いたガラス母粉を用いた。また、プラズマ出力を15kWとし、プラズマ出力に対するプラズマガス流量の比を1.4L/(min・kW)、母粉の供給量に対するプラズマ出力の比を2.8kW・min/gに変更した。さらに、チャンバー内部の圧力を大気圧よりも50kPa低くした。これらの条件以外は実施例1と同様にして、ガラス粒子を得た。
【0051】
〔評価〕
実施例3及び比較例3で得たガラス粒子について、上述と同様にして粒子物性及び塗膜の最大高さRmaxの評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
所定のチャンバー内圧力及びプラズマ出力に調整したDCプラズマ法で製造された実施例のガラス粒子は、比較例のガラス粒子と比較して、粒子どうしの凝集や融着が少なく、且つサブミクロンオーダーの微粒子が効率よく製造できることが判る。また、実施例のガラス粒子によれば、D50/DSEM50の比が小さいので、該粒子を塗膜化した際の最大高さが低く、薄い塗膜を平滑に形成できることも判る。
【符号の説明】
【0054】
1 DCプラズマ装置
2 粉末供給装置
3 チャンバー
4 DCプラズマトーチ
5 回収ポット
6 粉末供給ノズル
7 ガス供給装置
8 圧力調整装置