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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】繊維機械及び糸張力把握方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 63/028 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
B65H63/028
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020027249
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021130552
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19840408(DE,A1)
【文献】特許第6556134(JP,B2)
【文献】特開2000-192324(JP,A)
【文献】特開平04-316606(JP,A)
【文献】特開2016-040429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 63/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラと、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得処理と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得処理と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出処理と、を実行し、
前記張力関連値は、前記ローラよりも糸が走行する糸走行方向の上流側の糸の張力と、前記ローラよりも前記糸走行方向の下流側の糸の張力との張力差の値であることを特徴とする繊維機械。
【請求項2】
前記回転駆動部は、電流を出力する出力部と、前記出力部から出力される電流に対応した回転トルクを発生させるモータとを有し、
前記制御部は、
前記第1回転トルク情報取得処理において、前記第1所定値として第1電流を取得し、
前記第2回転トルク情報取得処理において、前記第2所定値として第2電流を取得し、
前記糸張力算出処理において、前記第1電流と前記第2電流とに基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とする請求項1に記載の繊維機械。
【請求項3】
前記トルク情報取得手段は、前記モータの回転子の回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記回転角度に基づいて、前記回転トルクに対応する電流を算出するトルク電流算出手段とを有すること特徴とする請求項2に記載の繊維機械。
【請求項4】
前記制御部は、
前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定処理と、
前記第2異常判定処理によって前記張力関連値が第2所定の範囲外であると判定された場合、前記回転駆動部によって前記ローラに発生させる前記回転トルクを調整する調整処理と、をさらに実行することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維機械。
【請求項5】
前記制御部は、
前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が、第3所定の範囲外であるか否かを判定する第3異常判定処理と、
前記第3異常判定処理によって前記張力関連値が第3所定の範囲外であると判定された場合、糸が切断していることを報知する第3報知処理と、をさらに実行することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維機械。
【請求項6】
前記第1所定値及び前記第2所定値を前記張力関連値に換算する換算情報が予め設定され、
前記制御部は、
前記糸張力算出処理において、前記換算情報に基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維機械。
【請求項7】
走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラと、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得処理と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得処理と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出処理と、を実行し、
前記回転駆動部は、電流を出力する出力部と、前記出力部から出力される電流に対応した回転トルクを発生させるモータとを有し、
前記制御部は、
前記第1回転トルク情報取得処理において、前記第1所定値として第1電流を取得し、
前記第2回転トルク情報取得処理において、前記第2所定値として第2電流を取得し、
前記糸張力算出処理において、前記第1電流と前記第2電流とに基づいて、前記張力関連値を算出し、
前記トルク情報取得手段は、前記モータの回転子の回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記回転角度に基づいて、前記回転トルクに対応する電流を算出するトルク電流算出手段とを有すること特徴とする繊維機械。
【請求項8】
前記制御部は、
前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定処理と、
前記第2異常判定処理によって前記張力関連値が第2所定の範囲外であると判定された場合、前記回転駆動部によって前記ローラに発生させる前記回転トルクを調整する調整処理と、をさらに実行することを特徴とする請求項7に記載の繊維機械。
【請求項9】
前記制御部は、
前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が、第3所定の範囲外であるか否かを判定する第3異常判定処理と、
前記第3異常判定処理によって前記張力関連値が第3所定の範囲外であると判定された場合、糸が切断していることを報知する第3報知処理と、をさらに実行することを特徴とする請求項7又は8に記載の繊維機械。
【請求項10】
前記第1所定値及び前記第2所定値を前記張力関連値に換算する換算情報が予め設定され、
前記制御部は、
前記糸張力算出処理において、前記換算情報に基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載の繊維機械。
【請求項11】
走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラと、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得処理と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得処理と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出処理と、
前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定処理と、
前記第2異常判定処理によって前記張力関連値が第2所定の範囲外であると判定された場合、前記回転駆動部によって前記ローラに発生させる前記回転トルクを調整する調整処理と、を実行することを特徴とする繊維機械。
【請求項12】
前記制御部は、
前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が、第3所定の範囲外であるか否かを判定する第3異常判定処理と、
前記第3異常判定処理によって前記張力関連値が第3所定の範囲外であると判定された場合、糸が切断していることを報知する第3報知処理と、をさらに実行することを特徴とする請求項11に記載の繊維機械。
【請求項13】
前記第1所定値及び前記第2所定値を前記張力関連値に換算する換算情報が予め設定され、
前記制御部は、
前記糸張力算出処理において、前記換算情報に基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とする請求項11又は12に記載の繊維機械。
【請求項14】
走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラと、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得処理と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得処理と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出処理と、
前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が、第3所定の範囲外であるか否かを判定する第3異常判定処理と、
前記第3異常判定処理によって前記張力関連値が第3所定の範囲外であると判定された場合、糸が切断していることを報知する第3報知処理と、を実行することを特徴とする繊維機械。
【請求項15】
前記第1所定値及び前記第2所定値を前記張力関連値に換算する換算情報が予め設定され、
前記制御部は、
前記糸張力算出処理において、前記換算情報に基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とする請求項14に記載の繊維機械。
【請求項16】
走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラと、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得処理と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得処理と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出処理と、を実行し、
前記第1所定値及び前記第2所定値を前記張力関連値に換算する換算情報が予め設定され、
前記制御部は、
前記糸張力算出処理において、前記換算情報に基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とする繊維機械。
【請求項17】
前記回転駆動部は、電流を出力する出力部と、前記出力部から出力される電流に対応した回転トルクを発生させるモータとを有し、
前記制御部は、
前記第1回転トルク情報取得処理において、前記第1所定値として第1電流を取得し、
前記第2回転トルク情報取得処理において、前記第2所定値として第2電流を取得し、
前記糸張力算出処理において、前記第1電流と前記第2電流とに基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とする請求項11~16のいずれか1項に記載の繊維機械。
【請求項18】
前記制御部は、
前記第1回転トルク情報取得処理によって取得された前記第1所定値が第1所定の範囲外であるか否かを判定する第1異常判定処理と、
前記第1異常判定処理によって前記第1所定値が第1所定の範囲外であると判定された場合、繊維機械に異常があることを報知する第1報知処理と、をさらに実行することを特徴とする請求項1~17のいずれか1項に記載の繊維機械。
【請求項19】
前記制御部は、
前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定処理と、
前記第2異常判定処理によって前記張力関連値が第2所定の範囲外であると判定された場合、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に異常があることを報知する第2報知処理と、をさらに実行することを特徴とする請求項1~18のいずれか1項に記載の繊維機械。
【請求項20】
繊維機械において走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラに巻き掛けられた糸の張力を把握する糸張力把握方法であって、
前記繊維機械は、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
を備え、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得工程と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得工程と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出工程と、を含み、
前記張力関連値は、前記ローラよりも糸が走行する糸走行方向の上流側の糸の張力と、前記ローラよりも前記糸走行方向の下流側の糸の張力との張力差の値であることを特徴とする糸張力把握方法。
【請求項21】
繊維機械において走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラに巻き掛けられた糸の張力を把握する糸張力把握方法であって、
前記繊維機械は、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
を備え、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得工程と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得工程と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出工程と、を含み、
前記回転駆動部は、電流を出力する出力部と、前記出力部から出力される電流に対応した回転トルクを発生させるモータとを有し、
前記第1回転トルク情報取得工程において、前記第1所定値として第1電流を取得し、
前記第2回転トルク情報取得工程において、前記第2所定値として第2電流を取得し、
前記糸張力算出工程において、前記第1電流と前記第2電流とに基づいて、前記張力関連値を算出し、
前記トルク情報取得手段は、前記モータの回転子の回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記回転角度に基づいて、前記回転トルクに対応する電流を算出するトルク電流算出手段とを有することを特徴とする糸張力把握方法。
【請求項22】
繊維機械において走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラに巻き掛けられた糸の張力を把握する糸張力把握方法であって、
前記繊維機械は、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
を備え、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得工程と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得工程と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出工程と、
前記糸張力算出工程で算出された前記張力関連値が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定工程と、
前記第2異常判定工程において前記張力関連値が第2所定の範囲外であると判定された場合、前記回転駆動部によって前記ローラに発生させる前記回転トルクを調整する調整工程と、を含むことを特徴とする糸張力把握方法。
【請求項23】
繊維機械において走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラに巻き掛けられた糸の張力を把握する糸張力把握方法であって、
前記繊維機械は、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
を備え、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得工程と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得工程と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出工程と、
前記糸張力算出工程で算出された前記張力関連値が、第3所定の範囲外であるか否かを判定する第3異常判定工程と、
前記第3異常判定工程において前記張力関連値が第3所定の範囲外であると判定された場合、糸が切断していることを報知する第3報知工程と、を含むことを特徴とする糸張力把握方法。
【請求項24】
繊維機械において走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラに巻き掛けられた糸の張力を把握する糸張力把握方法であって、
前記繊維機械は、
前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、
前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、
を備え、
前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得工程と、
前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得工程と、
前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出工程と、を含み、
前記第1所定値及び前記第2所定値を前記張力関連値に換算する換算情報が予め設定され、
前記糸張力算出工程において、前記換算情報に基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とする糸張力把握方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維機械において走行する糸の張力を把握する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸の生産又は加工工程において用いられる繊維機械として、特許文献1には、紡糸延伸装置が開示されている。特許文献1の紡糸延伸装置は、紡糸装置から紡出された糸が巻き掛けられる複数の第1加熱ローラと、第1加熱ローラから送られた糸が巻き掛けられ、表面温度が第1加熱ローラよりも高い複数の第2加熱ローラを有する。そして、第2加熱ローラの糸送り速度は、第1加熱ローラの糸送り速度よりも速く設定されており、この速度差によって糸が延伸される。
【0003】
特許文献1の紡糸延伸装置において、糸の品質を維持しつつ、適切に延伸するためには、走行する糸の張力を把握し、適切に管理する必要がある。例えば、従来より、作業者が張力計を用いて糸の張力を測定することが行われてきた。しかし、特許文献1の紡糸延伸装置では、複数のローラについて、それぞれのローラ間を走行する糸の張力を管理する必要があるなど、一般に、繊維機械において糸の張力を管理すべき管理点は多数存在する。このため、作業者が各管理点で糸の張力を測定するのは非常に手間がかかる。また、作業者が手作業で測定をするため、常時測定を行うことはできない。
【0004】
そこで、それぞれの管理点に張力センサを設置することで、走行する糸の張力を常時測定することができる。例えば、特許文献2には、繊維機械である仮撚加工機について、糸道上に糸の張力を測定する張力センサが配置された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-40429号公報
【文献】特開2019-157313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、こういった張力センサは、一般的に接触式のものが多く、走行する糸と張力センサとの間に生じる摩擦によって、糸の品質を低下させてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、繊維機械において、糸の品質を低下させることなく、容易に、糸の張力を常時把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の繊維機械は、走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラと、前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得処理と、前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得処理と、前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出処理と、を実行することを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、ローラに糸が巻き掛けられているときと巻き掛けられていないときにおける回転トルクに対応する所定値に基づいて、糸の張力関連値を算出することができるので、糸の張力を把握するために張力センサを設置する必要がない。これにより、繊維機械において、糸の品質を低下させることなく、容易に糸の張力を常時把握することができる。
【0010】
第2の発明の繊維機械は、第1の発明において、前記張力関連値は、前記ローラよりも糸が走行する糸走行方向の上流側の糸の張力と、前記ローラよりも前記糸走行方向の下流側の糸の張力との張力差の値であることを特徴とするものである。
【0011】
ローラよりも糸走行方向の上流側の糸の張力と、ローラよりも糸走行方向の下流側の糸の張力との張力差は、ローラの特性(例えば、回転速度や回転トルクの大きさ)や巻き掛ける糸の種類などによって予め決定される。本発明によれば、糸張力算出処理において算出された張力差と、予め決定された張力差とを比較することで、糸の張力が適切か否かを容易に判断することができる。
【0012】
第3の発明の繊維機械は、第1又は第2の発明において、前記回転駆動部は、電流を出力する出力部と、前記出力部から出力される電流に対応した回転トルクを発生させるモータとを有し、前記制御部は、前記第1回転トルク情報取得処理において、前記第1所定値として第1電流を取得し、前記第2回転トルク情報取得処理において、前記第2所定値として第2電流を取得し、前記糸張力算出処理において、前記第1電流と前記第2電流とに基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、ローラに回転トルクを発生させたときの、モータを流れる電流に基づいて糸の張力関連値を算出することができるため、糸の張力関連値を直接検出する場合と比べて、糸の張力を容易に把握することができる。
【0014】
第4の発明の繊維機械は、第3の発明において、前記トルク情報取得手段は、前記モータの回転子の回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記回転角度に基づいて、前記回転トルクに対応する電流を算出するトルク電流算出手段とを有すること特徴とするものである。
【0015】
本発明によれば、モータの回転子の回転角度に基づいて回転トルクに対応する電流を取得することができるため、複雑な制御が不要となり、糸の張力をより容易に把握することができる。
【0016】
第5の発明の繊維機械は、第1~第4の発明において、前記制御部は、前記第1回転トルク情報取得処理によって取得された前記第1所定値が第1所定の範囲外であるか否かを判定する第1異常判定処理と、前記第1異常判定処理によって前記第1所定値が第1所定の範囲外であると判定された場合、繊維機械に異常があることを報知する第1報知処理と、をさらに実行することを特徴とするものである。
【0017】
第1所定値は、ローラに糸が巻き掛けられていないときのローラの回転トルクに対応する値である。本発明では、第1所定値に基づいて、糸を巻き掛ける前の段階で繊維機械の異常の有無を判定することができるため、繊維機械の異常を速やかに把握することができる。
【0018】
第6の発明の繊維機械は、第1~第5の発明において、前記制御部は、前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定処理と、前記第2異常判定処理によって前記張力関連値が第2所定の範囲外であると判定された場合、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に異常があることを報知する第2報知処理と、をさらに実行することを特徴とするものである。
【0019】
本発明によれば、ローラに巻き掛けられた糸の張力が正常か否かを、作業者が確実に把握することができる。
【0020】
第7の発明の繊維機械は、第1~第6の発明において、前記制御部は、前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定処理と、前記第2異常判定処理によって前記張力関連値が第2所定の範囲外であると判定された場合、前記回転駆動部によって前記ローラに発生させる前記回転トルクを調整する調整処理と、をさらに実行することを特徴とするものである。
【0021】
本発明によれば、ローラに巻き掛けられた糸の張力を常に適切なものとすることができ、繊維機械において糸の品質を確保することができる。
【0022】
第8の発明の繊維機械は、第1~第7の発明において、前記制御部は、前記糸張力算出処理によって算出された前記張力関連値が、第3所定の範囲外であるか否かを判定する第3異常判定処理と、前記第3異常判定処理によって前記張力関連値が第3所定の範囲外であると判定された場合、糸が切断していることを報知する第3報知処理と、をさらに実行することを特徴とするものである。
【0023】
本発明によれば、糸が切断していることを作業者が確実に且つ速やかに把握することができる。
【0024】
第9の発明の繊維機械は、第1~第8の発明において、前記第1所定値及び前記第2所定値を前記張力関連値に換算する換算情報が予め設定され、前記制御部は、前記糸張力算出処理において、前記換算情報に基づいて、前記張力関連値を算出することを特徴とするものである。
【0025】
本発明によれば、予め設定された換算情報に基づいて張力関連値を算出できることできるため、複雑な演算処理が不要となり、糸の張力をより容易に把握することができる。
【0026】
第10の発明の糸張力把握方法は、繊維機械において走行する糸を周面に巻き掛けることが可能であるローラに巻き掛けられた糸の張力を把握する糸張力把握方法であって、前記繊維機械は、前記ローラに回転トルクを発生させる回転駆動部と、前記回転トルクに対応する値を取得するトルク情報取得手段と、を備え、前記ローラの回転速度を所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられていないときに前記ローラに発生する第1回転トルクに対応する第1所定値を取得する第1回転トルク情報取得工程と、前記ローラの回転速度を前記所定速度で一定として、前記トルク情報取得手段によって、前記ローラに糸が巻き掛けられているときに前記ローラに発生する第2回転トルクに対応する第2所定値を取得する第2回転トルク情報取得工程と、前記第1所定値と前記第2所定値とに基づいて、前記ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0027】
本発明によれば、ローラに糸が巻き掛けられているときと巻き掛けられていないときにおける回転トルクに対応する所定値に基づいて、糸の張力関連値を算出することができるので、糸の張力を把握するために張力センサを設置する必要がない。これにより、繊維機械において、糸の品質を低下させることなく、容易に糸の張力を常時把握することができる。
【発明の効果】
【0028】
繊維機械において、糸の品質を低下させることなく、容易に、糸の張力を常時検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態に係る紡糸延伸装置を備える紡糸引取機を示す概略図。
図2図1の紡糸延伸装置の拡大図。
図3】ゴデットローラ及びそれに接続されるモータの電気的構成を概略的に示すブロック図。
図4】(a)第1回転トルク情報取得工程において、ゴデットローラに糸が巻き掛けられていない状態の紡糸延伸装置と、(b)第2回転トルク情報取得工程において、ゴデットローラに糸が巻き掛けられている状態の紡糸延伸装置と、を示す図。
図5】本実施形態に係る紡糸延伸装置がローラに巻き掛けられた糸の張力を把握する際の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(紡糸引取機1の全体構成)
以下、本発明の好適な実施の形態について、図を参照しつつ説明する。本実施形態は、繊維機械として紡糸延伸装置3を採用している。図1は、本実施形態に係る紡糸延伸装置3を備えた紡糸引取機1を示す概略図である。図2は、図1の紡糸延伸装置3を拡大した図である。以下、図1の紙面上下方向を上下方向、紙面左右方向を左右方向とする。また、図1の紙面に垂直な方向を前後方向とし、紙面表側を前方とする。
【0031】
紡糸引取機1は、図1に示すように、紡糸装置2から連続的に紡出されたポリエステル等の溶融繊維材料が固化して形成された複数(ここでは6本)の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取る構成となっている。
【0032】
紡糸装置2は、ポリエステル等の溶融繊維材料を連続的に紡出することで、複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。
【0033】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを加熱延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱12の内部に収容された複数(ここでは5つ)のゴデットローラ20(20a~20e)を有している。以下、単にゴデットローラ20という場合は、5つのゴデットローラ20a~20eを区別しないときである。図2に示すように、各ゴデットローラ20a~20eは、後述のモータ30によって、それぞれ所定の糸送り速度で回転駆動される(回転方向は図2中の各ゴデットローラ20a~20eの矢印参照)。また、各ゴデットローラ20a~20eは、コイルへの通電によって誘導加熱される誘導加熱ローラであり、複数の糸Yが巻き掛けられている。保温箱12の右側面部の下部には、複数の糸Yを保温箱12の内部に導入するための導入口12aが形成され、保温箱12の右側面部の上部には、複数の糸Yを保温箱12の外部に導出するための導出口12bが形成されている。複数の糸Yは、下側のゴデットローラ20aから順番に、各ゴデットローラ20a~20eに対して360度未満の巻き掛け角で巻き掛けられている。
【0034】
下側3つのゴデットローラ20a~20cは、複数の糸Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラであり、これらのローラ表面温度は、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば90~100℃程度)に設定されている。一方、上側2つのゴデットローラ20d、20eは、延伸された複数の糸Yを熱セットするための調質ローラであり、これらのローラ表面温度は、下側3つのゴデットローラ20a~20cのローラ表面温度よりも高い温度(例えば150~200℃程度)に設定されている。また、上側2つのゴデットローラ20d、20eの糸送り速度は、下側3つのゴデットローラ20a~20cよりも速くなっている。
【0035】
導入口12aを介して保温箱12に導入された複数の糸Yは、まず、ゴデットローラ20a~20cによって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、ゴデットローラ20cとゴデットローラ20dとの間の糸送り速度の差によって延伸される。さらに、複数の糸Yは、ゴデットローラ20d、20eによって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸Yは、導出口12bを介して保温箱12の外に導出される。
【0036】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ13を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ14やコンタクトローラ15等を備えている。ボビンホルダ14は、前後方向に延びる円筒形状を有し、図示しないモータによって回転駆動される。ボビンホルダ14には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ14を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻き取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ15は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0037】
ここで、紡糸延伸装置3において、糸Yの品質を維持しつつ、適切に延伸処理を行うためには、それぞれのゴデットローラ間を走行する糸Yの張力を、それぞれ把握し、適切に管理する必要がある。従来、糸走行方向に走行する糸Yの張力を把握するために、作業者が張力計を用いて測定するか、張力センサを設置することが行われていた。しかし、前者の場合、張力を検出すべきポイントが多数あるため、作業者がそれぞれのポイントで測定するのは手間となる上、常時測定を行うことができない。また、後者の場合、常時測定を行うことは可能だが、張力センサは一般的に接触式のものが多く、走行する糸と張力センサとの間に生じる摩擦によって、糸の品質を低下させてしまうおそれがある。
【0038】
そこで、本実施形態の紡糸延伸装置3は、ゴデットローラ20を回転駆動させるとともに、ゴデットローラ20に回転トルクを発生させるモータ30と、モータ30を制御するモータコントローラ40と、それぞれのモータ30の回転子の回転角度を検出する回転角度検出回路50(本発明の回転角度検出手段)と、を有している。モータ30、モータコントローラ40及び回転角度検出回路50は、各ゴデットローラ20a~20eのそれぞれに設けられている。以下、図3を参照しつつ説明する。
【0039】
モータ30は、回転子に永久磁石を使用したPM同期モータである。モータ30は、ゴデットローラ20及びモータコントローラ40と接続されており、モータコントローラ40から出力される電流に対応してゴデットローラ20に回転トルクを発生させることが可能である。
【0040】
モータコントローラ40は、インバータ41(本発明の出力部)と、制御部60とを有する。インバータ41は、不図示の電源から送られた直流を正弦波交流に変換するACインバータである。制御部60は、インバータ41が出力する交流の大きさ及び周波数を制御する部分である。なお、インバータ41が出力する交流の大きさによってゴデットローラ20に発生する回転トルクは決まり、交流の周波数によってモータ30によって回転駆動されるゴデットローラ20の回転速度(すなわち、糸送り速度)は決まる。
【0041】
回転角度検出回路50は、モータ30及びモータコントローラ40と接続されており、モータ30に流れる電流に基づいて、モータ30の回転子の回転角度を検出する。回転角度検出回路50によって検出されたモータ30の回転子の回転角度に関する情報は、モータコントローラ40の制御部60へ送られる。
【0042】
制御部60は、回転子の回転角度とモータ30を流れる電流とに基づいて、ゴデットローラ20を回転駆動させるために回転子に磁界を発生させる電流と、回転トルクを発生させる電流とを算出する。すなわち、本実施形態では、制御部60が、トルク電流算出手段を有している。
【0043】
さらに、制御部60は、算出された電流に基づいて、インバータ41の出力を制御する。より具体的には、制御部60は、回転子に磁界を発生させるための電流と、回転トルクを発生させるための電流とをそれぞれ独立に制御する、いわゆるベクトル制御を行う。また、制御部60は、各ゴデットローラ20a~20eに発生した任意の回転トルクと、当該回転トルクを発生させるための電流とを対応付けて記憶するメモリ(不図示)を内蔵している。
【0044】
続いて、本実施形態の紡糸延伸装置3において、各ゴデットローラ20a~20eに巻き掛けられた糸Yの張力関連値を算出する方法について、図4及び図5を参照しつつ以下に説明する。なお、図4では、図を見やすくするため、ゴデットローラ20c~20eのみ記載し。ゴデットローラ20a、20bについての記載は省略している。
【0045】
(第1回転トルク情報取得処理)
まず、図4(a)に示すように、制御部60は、各ゴデットローラ20a~20eに糸Yが巻き掛けられていない状態で、それぞれのゴデットローラ20a~20eの回転速度が所定速度で一定となるように、それぞれのインバータ41から出力される正弦波交流の周波数を所定の値で一定とする。
【0046】
ここで、各ゴデットローラ20a~20eを回転させると、ローラの回転に伴う風損失、モータ30の軸受における摩擦損失などにより、それぞれのゴデットローラ20a~20eには負荷がかかる。そこで、それぞれのモータ30は、風損失、摩擦損失などによる負荷を受けた状態のゴデットローラ20a~20eの回転速度をそれぞれ所定の速度で一定とするために、各ゴデットローラ20a~20eに当該負荷に対応する所定の回転トルクを発生させる。このときの回転トルクを第1回転トルクとする。制御部60は、それぞれのゴデットローラ20a~20eについて、回転角度検出回路50によって検出されたモータ30の回転子の回転角度に基づき、第1回転トルクに対応してモータ30に出力された第1電流(第1所定値)を取得し、メモリに記憶する(ステップS1)。
【0047】
(第1異常判定処理)
制御部60は、それぞれのゴデットローラ20a~20eについて、第1回転トルク情報取得処理によって取得された第1電流が第1所定の範囲外であるか否かを判定する第1異常判定処理を実行する(ステップS2)。なお、第1所定の範囲とは、紡糸延伸装置3が正常に動作しているときにモータ30に出力される電流の範囲であって、例えば、予め作業者によって、ゴデットローラ20a~20eそれぞれに設定される。
【0048】
(第1報知処理)
第1異常判定処理によって、いずれかのゴデットローラ20に対応する第1電流が第1所定の範囲外であると判定された場合(S2:YES)、制御部60は、紡糸延伸装置3に異常があることを作業者に報知する第1報知処理を実行する(ステップS3)。報知の方法としては、例えば、警告音を発する、モニタ又は警告灯に表示するなどが挙げられるが、その他に、紡糸延伸装置3に異常があることを作業者が認識することができるものであればどのようなものでもよい。そして、制御部60は、第1報知処理が行われた後、紡糸延伸装置3の運転を停止させる。
【0049】
(第2回転トルク情報取得処理)
第1異常判定処理によって、全てのゴデットローラ20に対応する第1電流が第1所定の範囲内であると判定された場合(S2:NO)、図4(b)に示すように、紡糸装置2から紡出される糸Yが各ゴデットローラ20a~20eに巻き掛けられる(ステップS4)。なお、糸Yの巻き掛け作業は、作業者によって行われてもよく、ロボットによって自動で行われてもよい。そして、制御部60は、各ゴデットローラ20a~20eに糸Yが巻き掛けられている状態で、それぞれのゴデットローラ20a~20eの回転速度が所定速度で一定となるように、それぞれのインバータ41から出力される正弦波交流の周波数を所定の値で一定とする。このときの各ゴデットローラ20a~20eの回転速度は、第1回転トルク情報取得工程における各ゴデットローラ20a~20eの回転速度と同じである。
【0050】
ここで、糸Yが巻き掛けられた状態の各ゴデットローラ20a~20eには、上述の風損失や摩擦損失などに加えて、糸Yの張力による負荷がさらにかかる。例えば、ゴデットローラ20dを例に説明すると、図4(b)に示すように、ゴデットローラ20dには、ゴデットローラ20dよりも、導入口12aから導出口12bへ向かう糸走行方向(図2及び図4の矢印参照)の上流側の糸Yの張力T1と、ゴデットローラ20dよりも糸走行方向の下流側の糸Yの張力T2とがかかる。具体的には、張力T1はゴデットローラ20dの回転方向と逆の向きに働き、張力T2はゴデットローラ20dの回転方向と同じ向きに働く。すなわち、ゴデットローラ20dには、糸Yの張力T1とT2との張力差(T1-T2)による負荷がさらにかかることとなる。このため、それぞれのモータ30は、風損失、摩擦損失などに加えて張力差(T1-T2)による負荷を受けた状態のゴデットローラ20a~20eの回転速度を所定の速度で一定とするために、各ゴデットローラ20a~20eに当該負荷に対応する所定の回転トルクを発生させる。このときの回転トルクを第2回転トルクとする。制御部60は、それぞれのゴデットローラ20a~20eについて、回転角度検出回路50によって検出されたモータ30の回転子の回転角度に基づき、第2回転トルクに対応してモータ30に出力された第2電流(第2所定値)を取得し、メモリに記憶する(ステップS5)。
【0051】
(糸張力算出処理)
続いて、制御部60は、メモリに記憶された第1電流と第2電流との差に基づいて、各ゴデットローラ20a~20eについて、ゴデットローラ20よりも糸走行方向上流側の糸の張力と、ゴデットローラ20よりも糸走行方向下流側の糸Yの張力との張力差(以下、単に「張力差」とも言う)を算出する(ステップS6)。
【0052】
ここで、再びゴデットローラ20dを例にとると、第1電流は、モータ30が、風損失及び摩擦損失などによる負荷がかかったゴデットローラ20dに発生させた第1回転トルクに対応する電流である。また、第2電流は、モータ30が、風損失、摩擦損失などに加えて(T1-T2)による負荷がかかったゴデットローラ20dに発生させた第2回転トルクに対応する電流である。つまり、第1電流と第2電流との差は、第1回転トルクと第2回転トルクとの差に対応しており、これはすなわち、張力差(T1-T2)に対応している。したがって、それぞれのゴデットローラ20a~20eについて、第1電流と第2電流との差に基づいて、張力差(T1-T2)を算出することが可能である。
【0053】
糸張力算出処理の具体的な手順としては、第1電流と第2電流との差を上記張力差に換算する換算表を予め設定し、制御部60のメモリに記憶させておく。そして、制御部60は、換算表によって、第1電流と第2電流との差を張力差に換算することで、それぞれのゴデットローラ20a~20eにおける糸Yの張力差を得る。
【0054】
なお、本実施形態における張力差が、本発明における「ローラに巻き掛けられた糸の張力関連値」のことである。
【0055】
(第2異常判定処理)
制御部60は、糸張力算出処理によって取得された各ゴデットローラ20a~20eにおける糸Yの張力差が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定処理を実行する(ステップS7)。なお、第2所定の範囲とは、糸Yの張力が適切であるときの、各ゴデットローラ20a~20eにおける張力差の許容範囲であり、例えば、予め作業者によって、ゴデットローラ20a~20eそれぞれに設定される。
【0056】
(第2報知処理)
第2異常判定処理によって、いずれかのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第2所定の範囲外であると判定された場合(S7:YES)、制御部60は、張力差が第2所定の範囲外であると判定されたゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力に異常があることを作業者に報知する第2報知処理を実行する(ステップS8)。報知の方法としては、第1報知処理と同様、例えば、警告音を発する、モニタ又は警告灯に表示するなどが挙げられる。その他に、ゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力が異常であることを作業者が認識することができるものであればどのような方法でもよい。
【0057】
(第3異常判定処理)
続いて、制御部60は、全てのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第2所定の範囲内となるように、モータ30及びインバータ41によってゴデットローラ20に発生させる回転トルクを調整する調整処理を実行する(後述のステップS11)。しかしながら、紡糸引取機1のいずれかの箇所において、糸Yが切断している場合、調整工程では対処できない。そこで、調整処理を行う前に、制御部60は、まず、各ゴデットローラ20a~20eにおける糸Yの張力差が、第3所定の範囲外であるか否かを判定する第3異常判定処理を実行する(ステップS9)。なお、第3所定の範囲とは、第2異常判定処理(S7)における第2所定の範囲よりも大きい範囲であり、糸Yの切断が生じていないときの各ゴデットローラ20a~20eにおける張力差の許容範囲である。第3所定の範囲は、例えば、予め作業者によって、ゴデットローラ20a~20eそれぞれに設定される。
【0058】
(第3報知処理)
第3異常判定処理によって、いずれかのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第3所定の範囲外であると判定された場合(S9:YES)、制御部60は、紡糸引取機1のいずれかの箇所において糸Yが切断していることを作業者に報知する第3報知処理を実行する(ステップS10)。報知の方法としては、第1報知処理及び第2報知処理と同様、例えば、警告音を発する、モニタ又は警告灯に表示するなどが挙げられる。その他に、ゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力が異常であることを作業者が認識することができるものであればどのような方法でもよい。但し、第2報知処理と第3報知処理とは区別できるようになっていることが好ましい。例えば、第2報知処理及び第3報知処理において、警告音を発せられる場合、第2報知処理における警告音と第3報知処理における警告音は異なるものであることが好ましい。これにより、当該警告音が、第2報知処理によるものなのか、第3報知処理によるものなのかを、作業者が容易に判断できる。そして、制御部60は、第3報知処理が行われた後、紡糸延伸装置3の運転を停止させる。モニタ又は警告灯に表示する等、目視で確認する場合も同様に、第2報知処理と第3報知処理とにおいて、表示方法が異なるものであることが好ましいことは言うまでもない。
【0059】
(調整工程)
第3異常判定処理によって、全てのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第3所定の範囲内であると判定された場合(S9:NO)、制御部60は、糸Yが紡糸引取機1のいずれの箇所においても切断されていていないと判断する。そして、制御部60は、全てのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第2所定の範囲内となるように、モータ30及びインバータ40によって、各ゴデットローラ20a~20eのうちの任意のゴデットローラ20に発生させる回転トルクを調整する調整処理を実行する(ステップS11)。その後、制御部60は、ステップS5に戻り、再び第2回転トルク情報取得処理を実行する。
【0060】
第2異常判定処理によって、全てのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第2所定の範囲内であると判定された場合(S7:NO)、制御部60は、紡糸延伸装置3の下方に配置された糸巻取装置4によって糸Yの巻き取りが完了したか否かを判定する(ステップS12)。すなわち、紡糸延伸装置3の制御部60は、糸巻取装置4と接続されている。
【0061】
糸巻取装置4による糸Yの巻き取りが完了していないと判定された場合(S12:NO)、制御部60は、ステップS5に戻り、再び第2回転トルク情報取得処理を実行する。糸巻取装置4による糸Yの巻き取りが完了したと判定された場合(S12:YES)、紡糸延伸装置3の動作を終了する。
【0062】
本実施形態では、ステップS4で、紡糸装置2から紡出される糸Yが紡糸延伸装置3の各ゴデットローラ20a~20eに巻き掛けられて以降、紡糸引取機1による糸Yの生産加工、すなわち、紡糸延伸装置3による延伸加工と、糸巻取装置4によるパッケージPの生産とが行われることとなる。したがって、本実施形態では、糸Yの生産加工の工程において、ゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が常時測定され、適切な値となるように調整されている。
【0063】
(効果)
本実施形態の紡糸延伸装置3は、走行する糸Yを周面に巻き掛けることが可能であるゴデットローラ20a~20eと、電流を出力するインバータ41と、インバータ41から出力される電流に対応した回転トルクをゴデットローラ20a~20eに発生させるモータ30と、モータ30の回転子の回転角度を検出する回転角度検出回路50と、回転子の回転角度に基づいて、回転トルクに対応した電流を算出するトルク電流算出手段を有する制御部60と、を備える。そして、制御部60は、ゴデットローラ20a~20eの回転速度をそれぞれ所定速度で一定として、ゴデットローラ20に糸Yが巻き掛けられていないときにゴデットローラ20に発生する第1回転トルクに対応する第1電流を取得する第1回転トルク情報取得処理と、ゴデットローラ20a~20eの回転速度をそれぞれ前記所定速度で一定として、ゴデットローラ20に糸Yが巻き掛けられているときにゴデットローラ20に発生する第2回転トルクに対応する第2電流を取得する第2回転トルク情報取得処理と、第1電流と第2電流との差に基づいて、各ゴデットローラ20a~20eに巻き掛けられた糸Yの張力に関連する張力関連値を算出する糸張力算出処理を実行する。
【0064】
本実施形態によれば、ゴデットローラ20に糸Yが巻き掛けられているときと巻き掛けられていないときにおける第1回転トルク及び第2回転トルクのそれぞれに対応する第1電流と第2電流との差に基づいて、糸Yの張力関連値を算出することができるので、糸Yの張力を把握するために張力センサを設置する必要がない。これにより、紡糸延伸装置3において、糸Yの品質を低下させることなく、容易に糸Yの張力を常時把握することができる。また、各ゴデットローラ20a~20eに回転トルクを発生させたときの、モータ30を流れる電流に基づいて糸Yの張力関連値を算出することができるため、糸Yの張力を直接検出する場合と比べて、糸Yの張力を容易に把握することができる。また、モータ30の回転子の回転角度に基づいて回転トルクに対応する電流を取得することができるため、複雑な制御が不要となり、糸Yの張力をより容易に把握することができる。
【0065】
本実施形態の紡糸延伸装置3において、糸Yの張力関連値は、ゴデットローラ20a~20eよりも糸走行方向の上流側の糸Yの張力と、ゴデットローラ20a~20eよりも糸走行方向の下流側の糸Yの張力との張力差の値である。ゴデットローラ20よりも糸走行方向の上流側の糸Yの張力と、糸走行方向の下流側の糸Yの張力との張力差は、ゴデットローラ20の特性(例えば、回転速度や回転トルクの大きさ)や巻き掛ける糸Yの種類などによって予め決定される。本実施形態によれば、糸張力算出処理において算出された張力差と、予め決定された張力差とを比較することで、糸Yの張力が適切か否かを容易に判断することができる。
【0066】
本実施形態の紡糸延伸装置3において、制御部60は、第1回転トルク情報取得処理において取得された第1電流が第1所定の範囲外であるか否かを判定する第1異常判定処理と、第1異常判定処理によって第1電流が第1所定の範囲外であると判定された場合、紡糸延伸装置3に異常があることを報知する第1報知処理と、をさらに実行する。第1電流は、ゴデットローラ20に糸Yが巻き掛けられていないときの各ゴデットローラ20a~20eの回転トルクに対応する電流である。本実施形態では、第1電流に基づいて、糸Yを巻き掛ける前の段階で紡糸延伸装置3の異常を判断することができるため、紡糸延伸装置3の異常を速やかに把握することができる。
【0067】
本実施形態の紡糸延伸装置3において、制御部60は、糸張力算出処理によって算出された張力差(張力関連値)が第2所定の範囲外であるか否かを判定する第2異常判定処理と、第2異常判定処理によって張力差が第2所定の範囲外であると判定された場合、ゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力に異常があることを報知する第2報知処理及びモータ30によってゴデットローラ20に発生させる回転トルクを調整する調整処理と、をさらに実行する。本実施形態によれば、ゴデットローラ20a~20eに巻き掛けられた糸Yの張力が正常か否かを、作業者が確実に把握することができる。また、ゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力を常に適切なものとすることができ、紡糸延伸装置3において糸Yの品質を確保することができる。
【0068】
本実施形態の紡糸延伸装置3において、制御部60は、糸張力算出処理によって算出された張力差(張力関連値)が第3所定の範囲外であるか否かを判定する第3異常判定処理と、第3異常判定処理によって張力差が第3所定の範囲外であると判定された場合、糸Yが切断していることを報知する第3報知処理と、をさらに実行する。本実施形態によれば、糸Yが切断されていることを作業者が確実に且つ速やかに把握することができる。
【0069】
本実施形態の紡糸延伸装置3において、第1電流と第2電流との差を糸Yの張力差(張力関連値)に換算する換算表が予め設定され、制御部60は、糸張力算出処理において、換算表に基づいて、張力差を算出する。本実施形態によれば、予め設定された換算表に基づいて張力差を算出できることできるため、複雑な演算処理が不要となり、糸の張力をより容易に把握することができる。
【0070】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、これらの例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0071】
(変形例)
上記実施形態では、第1所定値及び第2所定値は、それぞれ、モータ30に出力された第1電流及び第2電流である。しかしながら、第1所定値及び第2所定値は、電圧でもよく、回転トルクそのものでもよく、その他の値でもよい。いずれの場合も、第1所定値及び第2所定値は、制御部60に内蔵されたメモリに記憶される。
【0072】
上記実施形態では、ローラは紡糸延伸装置3の保温箱12の内部に収容された複数のゴデットローラ20a~20eであり、それぞれのゴデットローラ20a~20eが本願発明の構成を具備している。しかしながら、複数のゴデットローラ20a~20eのうち、一部のゴデットローラのみが本願発明の構成を具備していてもよい。この場合、制御部60は、本願発明の構成を具備していないゴデットローラについては、第1回転トルク情報取得処理、第2回転トルク情報取得処理、糸張力算出処理、第1~第3異常判定処理、第1~第3報知処理、調整処理などを実行しない。また、ゴデットローラは複数に限らず、1つでもよい。この場合、1つのゴデットローラが本願発明の構成を具備している。
【0073】
上記実施形態では、制御部60は、それぞれのゴデットローラ20a~20eについて、第1電流(第1所定値)及び第2電流(第2所定値)を取得している。しかしながら、制御部60は、複数のゴデットローラ20a~20eのうち、1つのゴデットローラについてのみ第1電流及び第2電流を取得してもよい。この場合、実測値として取得した当該1つのゴデットローラの第1電流及び第2電流を基準として、その他のゴデットローラの第1電流及び第2電流を相対的にそれぞれ取得し、メモリに記憶する。例えば、制御部60は、まず、ゴデットローラ20aについて、第1回転トルクに対応してモータ30に出力された第1電流を取得し、メモリに記憶する。続いて、制御部60は、メモリに記憶されたゴデットローラ20aの第1電流を基準として、その他のゴデットローラ20b~20eについて、第1回転トルクに対応してモータ30に出力された第1電流を相対的にそれぞれ取得し、メモリに記憶する。第2電流についても同様である。これにより、それぞれのゴデットローラ20a~20eについて個別に第1所定値及び第2所定値を取得する場合と比べて、第1回転トルク情報取得処理及び第2回転トルク情報取得処理を容易且つ迅速に実行することができる。
【0074】
また、上記実施形態では、第1所定の範囲、第2所定の範囲及び第3所定の範囲はゴデットローラ20a~20eそれぞれに設定されている。しかしながら、複数のゴデットローラ20a~20eのうち、1つのゴデットローラについてのみ、第1所定の範囲、第2所定の範囲及び第3所定の範囲が設定されてもよい。この場合、当該1つのゴデットローラの第1所定の範囲、第2所定の範囲及び第3所定の範囲それぞれの上限値及び下限値を基準として、その他のゴデットローラの第1所定の範囲、第2所定の範囲及び第3所定の範囲の上限値及び下限値が相対的にそれぞれ設定される。
【0075】
上記実施形態では、繊維機械は紡糸延伸装置3である。しかしながら、繊維機械は、例えば、仮撚加工機であってもよい。この場合、ローラは、フィードローラである。フィードローラは、例えば、駆動ローラ及び従動ローラを有し、駆動ローラと従動ローラとの間に糸を挟んだ状態で、駆動ローラが回転駆動されることにより糸を糸走行方向に送り出す構成をとる。このため、より具体的には、ローラは、フィードローラのうちの駆動ローラである。また、ローラは、紡糸引取機1における、紡糸延伸装置3以外のゴデットローラでもよい。
【0076】
上記実施形態では、モータ30はPM同期モータである。しかしながら、モータ30は、DCブラシモータであってもよい。この場合、モータ30に流す電流は直流でなければならないため、インバータ41はDCインバータである。また、この場合、DCインバータ41によって制御された電流の大きさによって、ゴデットローラ20の回転トルク及び回転速度の両方が決まる。このため、制御部60は、ベクトル制御は行わず、回転子に磁界を発生させる電流と、回転トルクを発生させる電流とを一体的に制御する。
【0077】
上記実施形態では、制御部60は、予め設定された換算表によって、第1電流と第2電流との差を、ゴデットローラ20における糸Yの張力差に換算している。しかしながら、第1電流と第2電流との差を、糸Yの張力差に換算するための換算式を予め設定していてもよい。この場合、第1電流と第2電流との差を、換算式に代入することで、糸Yの張力差を算出する。
【0078】
上記実施形態では、「ローラに巻き掛けられた糸の張力に関連する張力関連値」とは、ゴデットローラ20よりも糸走行方向の上流側の糸Yの張力と、糸走行方向の下流側の糸Yの張力との張力差のことである。しかしながら、「張力関連値」とは、例えば、ゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力それ自体でもよく、ゴデットローラ20よりも糸走行方向の上流側の糸Yの張力と、糸走行方向の下流側の糸Yの張力との比率でもよい。どのような張力関連値を採用するかは、ユーザによって適宜設定される。
【0079】
また、上記実施形態では、制御部60は、糸張力算出処理において、第1電流と第2電流との差に基づいて、糸Yの張力関連値を算出している。しかしながら、制御部60は、第1電流と第2電流との割合に基づいて、糸Yの張力関連値を算出してもよい。また、制御部60は、第1電流と第2電流とに対して、所定の演算処理を行うことによって、糸Yの張力関連値を算出してもよい。
【0080】
上記実施形態では、回転角度検出回路50が設けられている。しかしながら、回転角度検出回路の代わりに、光学式エンコーダやレゾルバなどといったモータ30の回転子の位置を検出する位置センサや、モータ30の回転子の磁極位置を検出するセンサが設けられていてもよい。この場合、当該センサは、モータ30及びモータコントローラ40に接続され、当該センサが検出したモータ30の回転子の位置情報が、制御部60に送られる。
【0081】
上記実施形態では、制御部60は、第1報知処理及び第3報知処理を実行した後に紡糸延伸装置3の運転が停止させている。しかしながら、制御部60は、第1報知処理及び第3報知処理が行われている途中で紡糸延伸装置3の運転を停止させてもよく、第1報知処理及び第3報知処理の実行と同時に紡糸延伸装置3の運転を停止させてもよい。
【0082】
上記実施形態では、第2報知処理が行われた後に、第3異常判定処理が行われている。しかしながら、第3異常判定処理は、第2異常判定処理よりも前に行われてもよい。この場合、制御部60は、糸張力算出処理が行われた後に、第3異常判定処理を実行する。そして、第3異常判定処理によって、全てのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第3所定の範囲内であると判定された場合、制御部60は、さらに、第2異常判定処理を実行する。この場合においても、第3所定の範囲は、第2異常判定処理における第2所定の範囲よりも大きい範囲である。
【0083】
また、第3異常判定処理は行われなくてもよい。この場合、第2異常判定処理によっていずれかのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第2所定の範囲外であると判定された場合に、制御部60は、第2報知処理と調整処理とを実行する。また、制御部60は、第2報知処理と調整処理のうち、いずれか一方のみを実行してもよい。例えば、調整処理が実行されない場合、制御部60は、第2報知処理を実行した後、紡糸延伸装置3の運転を停止する。
【0084】
また、第3異常判定処理のみ行われてもよい。この場合、第3異常判定処理によって、全てのゴデットローラ20に巻き掛けられた糸Yの張力差が第3所定の範囲内であると判定された場合に、制御部60は、紡糸延伸装置3の下方に配置された糸巻取装置4によって糸Yの巻き取りが完了したか否かを判定する。また、この場合、糸張力算出処理によって算出された糸Yの張力差は、例えば、作業者によって確認される。そして、糸Yの張力差が第3所定の範囲内ではあるが、適切な値ではない場合、作業者からの入力信号に基づいて、制御部60は、紡糸延伸装置3の運転を停止させる。
【符号の説明】
【0085】
1 紡糸引取機
3 紡糸延伸装置(繊維機械)
20 ゴデットローラ
30 モータ
40 モータコントローラ
41 インバータ(出力部)
50 回転角度検出回路(回転角度検出手段)
60 制御部
図1
図2
図3
図4
図5