(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】無線運用管理システム、及び無線運用支援方法
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20231124BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20231124BHJP
H04W 24/04 20090101ALI20231124BHJP
H04W 24/06 20090101ALI20231124BHJP
H04W 36/08 20090101ALI20231124BHJP
H04W 36/38 20090101ALI20231124BHJP
【FI】
H04W16/18 110
H04B17/391
H04W24/04
H04W24/06
H04W36/08
H04W36/38
(21)【出願番号】P 2020089355
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水垣 健一
【審査官】新井 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-015572(JP,A)
【文献】国際公開第2016/195040(WO,A1)
【文献】特開2008-079226(JP,A)
【文献】特開2008-228162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 - 7/26
H04B 17/391
H04W 4/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局及び端末を含む無線通信システムの運用管理を支援する無線運用管理システムであって、
所定の演算処理を実行して以下の各機能部を実現する演算装置と、前記演算装置がアクセス可能な記憶装置とを有する計算機によって構成され、
無線通信エリアの環境に応じた三次元モデルを作成するモデル作成部と、
前記三次元モデルを用いて、環境変化の影響を受ける電波伝搬経路のみ電波伝搬評価を計算する伝搬計算部と、
前記計算された電波伝搬評価に基づいて、環境変化の影響を提示する表示部と、を備え
、
前記伝搬計算部は、無線通信に障害が発生した時刻の三次元モデルの伝搬評価結果と実際に発生した障害状況を比較して、障害発生の原因となった環境変化を特定し、
前記表示部は、前記特定された環境変化を提示することを特徴とする無線運用管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線運用管理システムであって、
前記伝搬計算部は、前記基地局から前記端末への電波伝搬経路のうち、前記端末での受信信号強度が大きく、かつ環境が変化した領域を通過している電波伝搬経路を選択し、前記選択された電波伝搬経路について電波伝搬評価を計算することを特徴とする無線運用管理システム。
【請求項3】
請求項1に記載の無線運用管理システムであって、
前記伝搬計算部は、前記基地局と前記端末を結んだ直線が環境が変化した領域を通過している電波伝搬経路を選択し、前記選択された電波伝搬経路について電波伝搬評価を計算することを特徴とする無線運用管理システム。
【請求項4】
請求項1に記載の無線運用管理システムであって、
前記表示部は、環境変化の影響を受ける端末の電波受信状況の変化を提示することを特徴とする無線運用管理システム。
【請求項5】
請求項1に記載の無線運用管理システムであって、
前記伝搬計算部は、環境変化の影響を受ける端末の代替位置候補を計算し、
前記表示部は、前記計算された代替位置候補を提示することを特徴とする無線運用管理システム。
【請求項6】
請求項1に記載の無線運用管理システムであって、
前記伝搬計算部は、環境変化の影響を受ける端末が接続する基地局の切り替えを無線システムに指示することを特徴とする無線運用管理システム。
【請求項7】
基地局及び端末を含む無線通信システムの運用管理を支援する無線運用管理システムが実行する無線運用支援方法であって、
前記無線運用管理システムは、所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置がアクセス可能な記憶装置とを有し、
前記無線運用支援方法は、
無線通信エリアの環境に応じた三次元モデルを作成するモデル作成手順と、
前記三次元モデルを用いて、環境変化の影響を受ける電波伝搬経路のみ電波伝搬評価を計算する伝搬計算手順と、
前記計算された電波伝搬評価に基づいて、環境変化の影響を提示する表示手順と、を含み、
前記伝搬計算手順では、無線通信に障害が発生した時刻の三次元モデルの伝搬評価結果と実際に発生した障害状況を比較して、障害発生の原因となった環境変化を特定し、
前記表示手順では、前記特定された環境変化を提示することを特徴とする無線運用支援方法。
【請求項8】
請求項7に記載の無線運用支援方法であって、
前記伝搬計算手順では、前記基地局から前記端末への電波伝搬経路のうち、前記端末での受信信号強度が大きく、かつ環境が変化した領域を通過している電波伝搬経路を選択し、前記選択された電波伝搬経路について電波伝搬評価を計算することを特徴とする無線運用支援方法。
【請求項9】
請求項7に記載の無線運用支援方法であって、
前記伝搬計算手順では、前記基地局と前記端末を結んだ直線が環境が変化した領域を通過している電波伝搬経路を選択し、前記選択された電波伝搬経路について電波伝搬評価を計算することを特徴とする無線運用支援方法。
【請求項10】
請求項7に記載の無線運用支援方法であって、
前記表示手順では、環境変化によって電波受信状況が変化した端末の電波受信状況が変化の状況を提示することを特徴とする無線運用支援方法。
【請求項11】
請求項7に記載の無線運用支援方法であって、
前記伝搬計算手順では、環境変化によって通信へ影響がある無線端末の代替位置候補を計算し、
前記表示手順では、前記計算された代替位置候補を提示することを特徴とする無線運用支援方法。
【請求項12】
請求項7に記載の無線運用支援方法であって、
前記伝搬計算手順では、環境変化によって通信へ影響がある無線端末が接続する基地局の切り替えを無線システムに指示することを特徴とする無線運用支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムの運用管理を支援する無線運用管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
5Gなどの超低遅延無線通信技術を用いて工場の作業機械を制御するといった新たな無線の用途が注目されている。従来の無線では通信時の遅延が大きくリアルタイムな機器制御は困難であったが、5Gでは低遅延性によって無線化が可能となる。これにより少量多品種生産のためのレイアウト変更時の配線変更を低減でき、コストを削減でき、生産効率を向上できる。5Gの基地局アンテナ装置は一度設置すると物理的にも法令的にも場所の変更は困難である。また端末は工作機械に取り付けられるので、レイアウト変更が生じない限り、固定的な位置で運用される。これらの端末は作業機器の制御信号を送受信しており、こ制御信号が途絶えると製造ラインが停止し大きな問題が生じる。このため、工場の機器に無線システムを適用する場合は、予め三次元モデルを用いて電波伝搬を評価し、通信路の問題の有無の確認が重要である。
【0003】
一方、工場内では、レイアウト変更がない場合でも、重機の移動、仕掛品や材料の移動などによって、電波伝搬環境が常に変化している。このため、無線システム導入時やレイアウト変更時に三次元モデルを用いた電波伝搬環境を評価しても、現場の状況が三次元モデルと異なっており、電波伝搬環境を正しく評価できない。三次元モデルは、レーザースキャナなどを使用した測量結果から作成されるため、作成に時間やコストが掛かり、工場内で日々発生する全ての環境変化に対応したモデルの作成は困難である。
【0004】
また、三次元モデルを作成できても、作成された三次元モデルを用いた電波伝搬評価には数時間から数日かかるため、工場のように、無線障害への迅速な対応が必要なケースでは無線障害を解消できない。
【0005】
このような三次元モデルを用いて電波伝搬環境を評価する技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2015-115648号公報)には、移動可能なロボットと、前記ロボットと無線通信可能な操作演算装置とを備える電波伝搬環境評価システムであって、前記ロボットは、当該ロボットの周囲の三次元データを取得するための距離計測器と、前記三次元データを前記操作演算装置へ送信し、前記操作演算装置で受け付けた操作者からの操作指示を受信するロボット無線通信部と、前記操作指示に基づき当該ロボットを移動させる走行部と、を備え、前記操作演算装置は、前記操作指示を受け付ける操作入力部と、前記操作指示を前記ロボットへ送信し、前記三次元データを前記ロボットから受信する操作演算装置無線通信部と、前記ロボットの第1の位置において取得された前記三次元データに基づき、前記ロボット周囲の立体構造を示す三次元構造図を作成する三次元構造図作成部と、前記三次元構造図を用いて前記ロボットの第1の位置における電波伝搬シミュレーションを行う電波伝搬解析部と、を備える電波伝搬環境評価システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献1に記載された電波伝搬環境評価システムでは、ロボットの移動に応じて三次元モデルを作成して電波伝搬環境を評価しているが、評価完了までは時間がかかり、評価方法の高速化は考慮されていない。工場のように短時間の障害が許容できない環境では、この方式による電波伝搬評価は困難である。
【0008】
このため無線システムに問題が生じた場合、運用管理者は伝搬評価結果に頼らず自己の知識と経験に基づいて無線システムの不具合の原因を推定し対処している。そのような高いスキルを持つ無線技術者は不足しており、工場への無線システム導入を阻む要素の一つとなっている。
【0009】
三次元モデルを用いた電波伝搬評価では、重機や機材の移動などによる部分的な環境変化の影響を確認するためには、環境変化に応じた三次元モデルが必要であるが、更新された三次元モデルの作成にはコスト及び時間が掛かる。また、三次元モデルを用いた伝搬評価に時間(例えば、数時間から数日)掛かるため、短時間での対応が必要な環境には適用できず、障害対策への伝搬評価結果の活用が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、基地局及び端末を含む無線通信システムの運用管理を支援する無線運用管理システムであって、所定の演算処理を実行して以下の各機能部を実現する演算装置と、前記演算装置がアクセス可能な記憶装置とを有する計算機によって構成され、無線通信エリアの環境に応じた三次元モデルを作成するモデル作成部と、前記三次元モデルを用いて、環境変化の影響を受ける電波伝搬経路のみ電波伝搬評価を計算する伝搬計算部と、前記計算された電波伝搬評価に基づいて、環境変化の影響を提示する表示部と、を備え、前記伝搬計算部は、無線通信に障害が発生した時刻の三次元モデルの伝搬評価結果と実際に発生した障害状況を比較して、障害発生の原因となった環境変化を特定し、前記表示部は、前記特定された環境変化を提示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、三次元モデルの修正によって、計算量を削減して電波伝搬状況を評価できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第一の実施例のシステム構成を示す図である。
【
図2】第一の実施例の評価装置の構成を示す図である。
【
図3】第一の実施例の評価装置の動作シーケンスのフローチャートである。
【
図4】第一の実施例の環境変化の影響を受ける範囲の計算方法のフローチャートである。
【
図5】第一の実施例で運用管理者へ提示される画面の例を示す図である。
【
図6】第二の実施例の評価装置の動作シーケンスのフローチャートである。
【
図7】第二の実施例の代替位置候補の選択方法のフローチャートである。
【
図8】第二の実施例で運用管理者へ提示される画面の例を示す図である。
【
図9】第三の実施例の評価装置の動作シーケンスのフローチャートである。
【
図10】第三の実施例の代替基地局の選択方法のフローチャートである。
【
図11】第三の実施例で運用管理者へ提示される画面の例を示す図である。
【
図12】第四の実施例の通信障害原因推定の動作シーケンスのフローチャートである。
【
図13】第四の実施例で運用管理者へ提示される画面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施例1>
図1は、本実施例のシステム構成を示す図である。
【0014】
第一の実施例は、固定的に設置された基地局3と、位置情報が判明しており、基地局3と通信する端末2を含む無線システムに対して用いられる無線システム運用管理プログラムにかかるものである。本実施例のシステムは、無線通信システムが構築されている無線通信エリア6の変化状況を検出する1台以上のカメラ5と、カメラ5が取得した情報に基づいて運用管理者に情報を提供する評価装置1を含む。
【0015】
評価装置1は、無線通信エリア6の三次元モデルを予め保持し、当該三次元モデルを用いて電波伝搬を評価し、評価結果を記録する。その際、壁などの移動不可な構造物と、移動可能な構造物4と、重機と、材料などに分けてモデル化し、それらを合成して無線通信エリア6全体を表す三次元モデルを作成する。三次元モデルは、カメラ5が撮影した無線通信エリアにおける変化の検出をトリガとして作成されたり、運用管理者からの指示によって作成されるとよい。また、全ての端末2と基地局3の位置情報を評価装置1に記録する。端末2が移動する場合、端末2の位置が適宜評価装置1に報告されるように構成されている。例えば、端末2が加速度センサを有し、加速度センサの測定結果から自身の移動量を算出し、評価装置1に伝えることで、評価装置1は端末2の現在位置を算出できる。
【0016】
【0017】
評価装置1は、カメラ5からの情報に基づいて、無線通信エリアの変化の有無と変化の位置を特定する状態変化検出部11と、無線通信エリアの変更に応じて三次元モデルを修正するモデル作成部13と、作成されたモデルを記録するモデル格納部14と、変化の位置と端末及び基地局の位置情報に基づいて、電波伝搬評価の再計算範囲を判定する再計算判定部12と、判定された再計算範囲に基づいて、電波伝搬評価を再計算する伝搬計算部15と、伝搬評価結果を運用管理者に表示する表示部16を含む。電波伝搬評価の方法としては、送信源からの電波の動きを追跡し、各場所にどのような経路でどれだけの電波が到達するかを算出して該当地点の電波状況を推定するレイトレーシング法がある。
【0018】
図3は、本実施例の評価装置の動作シーケンスのフローチャートである。
【0019】
カメラ5は所定のタイミング(例えば、所定の時間間隔)で無線通信エリアの画像を撮影する。評価装置1は、カメラ5が撮影した無線通信エリアの画像を取得する(101)。このカメラ5から画像を取得するタイミングは、カメラ5に付属したセンサにより対象エリアの動きを感知した場合や、評価装置1からの指示で測定を行いたいときでもよい。また、評価装置1は、カメラ5から画像を取得するのではなく、運用管理者が入力した画像を取得してもよい。
【0020】
評価装置1は、取得した画像と過去の画像とを比較して、無線通信エリアで仕掛品、材料、重機などが移動して環境が変化していないか判定する(102)。
【0021】
環境変化がないと判定した場合、データを更新せず(108)、次に画像を取得するまで、又は運用管理者から指示があるまで待機する。
【0022】
一方、環境が変化していると判定した場合、その変化により影響を受ける範囲、すなわち影響を受ける無線端末2を確認する(104)。影響範囲の確認方法は
図4を参照して後述する。
【0023】
影響を受ける端末が確定した後、その影響について電波伝搬状態を再計算する(105)。具体的には、影響があるパスの伝搬評価を再計算し、再計算された影響があるパスを伝搬する信号強度と、影響がないパスを伝搬する信号強度と合計して各端末の信号受信状況、送信信号の到達状況を更新する(106)。
【0024】
そして、更新結果を運用管理者に提示し(107)、待機状態に戻る。提示方法としては、
図5で後述する画面による表示の他、メッセージの送信や受信状況が悪くなる端末における警告灯の点灯などの方法がある。
【0025】
図4は、本実施例の環境変化の影響を受ける範囲の計算方法のフローチャートであり、
図3のステップ104の詳細を示す。
【0026】
最初に環境の変化を反映した三次元モデルを作成する(110)。本実施例の三次元モデルでは移動不可な構造物と移動可能な構造物とが分離可能なようにモデル化されているので、移動可能な物体のモデルについて、カメラ5が撮影した画像で検出された位置に変更したモデルを作成し、移動不可のモデルと合成して新しい三次元モデルを作成する。
【0027】
評価装置1は、既に計算された信号の到達状況を記録しており、端末2と基地局3の間の通信における電波の到達経路(パス)を、レイトレーシング法などを用いて計算して把握している。これらのパスのうち、減衰量が少ない、すなわち端末2での受信信号強度が大きい上位N個のパスを抽出し(111)、抽出されたパスが環境変化の影響を受ける範囲を通過しているかを判定する(112)。構造物の端での電波の回析を考慮するため、構造物が変化した場所より広い範囲を変化による影響を受ける範囲として判定するとよい。Nは求められる評価精度に応じて設定される任意の整数である。通常の評価であればN=3で計算するとよい。このように、環境変化の影響が大きく、端末への受信信号強度への影響が大きい伝搬経路を選択する。
【0028】
影響範囲を通過するパスがある場合、環境変化を反映して新たに作成した三次元モデルを用いて、そのパスの伝搬評価を再計算する(113)。影響を受けるパスが複数ある場合、当該複数のパスの全てを再計算する。
【0029】
次に、環境の変化により端末2と基地局3の間に新たに見通し環境が生じているか、すなわち、端末2と基地局3を結んだ直線が環境が変化した領域を通過しているかを判定する(114)。環境変化によって端末2が基地局3から見通せるようになると(115で有)、影響が非常に大きいパスが出現している。このため、見通し環境を通過する直接パスの伝搬評価を計算する(116)。
【0030】
最後に、再計算結果及び従来の計算結果を用いて、端末での受信信号電力を再計算する(117)。
【0031】
この処理を、基地局3から端末2へ送信する場合と、端末2から基地局3へ送信する場合のそれぞれについて実行する。
【0032】
図5は、本実施例で運用管理者へ提示される画面の例を示す図である。
【0033】
画面7Aの通信エリア図には、環境変化の内容(構造物4の移動)と、当該変化によって影響を受けるID=2、4の端末が他の端末と異なる態様で表示される。また、端末情報表示領域には、環境変化後の各端末の受信電力の推定値を表示し、通信状況に変化が生じる可能性があるID=2、4の端末については警告を表示する。
【0034】
以上に説明したように第一の実施例の評価装置は、カメラなどによって得られた画像データから対象エリアの環境変化を把握し、当該変化に対応して三次元モデルを修正し、当該環境変化の無線通信への影響範囲を算出し、当該影響範囲の電波伝搬経路だけを再評価することによって、電波伝搬評価に要する時間を短縮し、迅速な障害対応を実現できる。すなわち、対象エリアの環境が部分的に変化に応じて三次元モデルを修正し、修正された三次元モデルを用いることによって、再測定なしで迅速に電波伝搬環境を評価できる。特に、環境変化の影響を受けるパスに限って電波伝搬状況を評価するので、計算量を削減して、環境変化の影響をリアルタイムに算出できる。また、端末での受信信号強度が大きく、かつ伝搬経路が環境が変化した領域を通過している電波伝搬経路について電波伝搬評価を再計算するので、電波伝搬評価の計算量を削減できる。また、基地局と端末を結んだ直線が環境が変化した領域を通過している電波伝搬経路について電波伝搬評価を再計算するので、電波伝搬評価の計算量を削減できる。さらに、環境変化の影響を受ける端末の電波受信状況の変化を報知するので、通信状況の変化の原因となる環境の変化(ずなわち、変化の理由)を明確に提示できる。
【0035】
<実施例2>
本発明の第二の実施例として、環境変化によって端末の通信が困難になると評価された場合、端末の代替位置を提示するシステムについて説明する。第二の実施例では、前述した第一の実施例と異なる構成及び処理を主に説明し、第一の実施例と同じ構成及び処理については説明を省略する。
【0036】
本実施例の評価装置1の構成は、
図2に示す第一の実施例と同じである。
【0037】
図6は、本実施例の評価装置の動作シーケンスのフローチャートである。
【0038】
評価装置1は、カメラ5から画像を取得して(1201)、環境の変化を確認し(1202)、各端末の信号受信状況、送信信号の到達状況を更新する(1206)までは実施例1と同じである。すなわち、ステップ1201~1206及び1210は、
図3のステップ101~106及び108と同じである。
【0039】
ステップ1206で送受信信号の状況を更新した結果、受信信号電力が低下し通信に影響が生じるかを判定する(1207)。通信に影響が生じるかの判定は、通信が途絶する、通信速度が所定の閾値より低下するなどで判定できる。通信に影響が生じないと判定された場合、更新された送受信信号の状況を表示し(1211)、次に画像を取得するまで、又は運用管理者から指示があるまで待機する。
【0040】
一方、通信に影響が生じると判定された場合、評価装置1は、端末2の移動先となる代替位置候補を選択し、代替位置候補を運用管理者に提示する(1208)。代替位置候補の選択方法は
図7を参照して後述する。その後、評価装置1は、端末2の移動を指示する(1209)。
【0041】
図7は、本実施例の代替位置候補の選択方法のフローチャートであり、
図6のステップ1208の詳細を示す。
【0042】
評価装置1は、各端末2の移動可能範囲などを考慮して、各端末2の複数の代替候補地を予め記録している。代替候補地は、移動が容易かなどの指標に従って運用管理者側で優先順位を決めておくとよい。評価装置1は、環境変化によって端末2の通信に影響が生じると判定した場合、最も優先順位が高い代替候補地を選択し(1301)、選択された代替候補地における端末2の通信状況を評価する。その際、端末2の影響評価と同様に環境変化によるパスへの影響、見通し条件の変化を確認して環境変化後の通信状況を評価する(1302~1308)。すなわち、ステップ1302~1308は、
図4のステップ111~117と同じである。
【0043】
その後、再計算された受信電力を用いて、通信の可否を判定する(1309)。その結果、環境変化後も通信可能であれば、当該代替候補地を移動先に選択する(1310)。一方、当該代替候補地で通信が不可能であれば、当該代替候補地の優先順位を低くして(1311)、ステップ1301に戻り、次の代替候補地を検証する。
【0044】
なお、図示したフローチャートは優先度が高い順に一つの代替候補地を一つ移動先に選択するが、ステップ1310の後にステップ1301に戻って、次の代替候補地を検証して、複数の代替候補地を移動先に選択してもよい。
【0045】
前述した処理によって、環境変化後も通信可能な代替候補地を選択し、運用管理者に提示できる。
【0046】
図8は、本実施例で運用管理者へ提示される画面の例を示す図である。
【0047】
画面7Bの通信エリア図には、環境変化の内容(構造物4の移動)と、当該変化によって影響を受けるID=2、4の端末が他の端末と異なる態様で表示される。また、環境変化により通信に影響がある端末については、環境変化後も通信可能な移動先として選択された代替候補地を提示する。さらに、端末情報表示領域には、各端末の受信電力の推定値を表示し、環境変化前後で通信状況に変化が生じる可能性があるID=2の端末については、環境変化前後の受信電力の推定値を表示する。
【0048】
以上に説明したように第二の実施例によると、通信に生じた影響の解決方法を提案できる。
【0049】
<実施例3>
本発明の第三の実施例として、環境変化により端末の通信が困難になると評価された場合、端末の接続先を変更するシステムについて説明する。第三の実施例では、前述した第一及び第二の実施例と異なる構成及び処理を主に説明し、第一の実施例又は第二の実施例と同じ構成及び処理については説明を省略する。
【0050】
本実施例の評価装置1の構成は、
図2に示す第一の実施例と同じである。
【0051】
図9は、本実施例の評価装置の動作シーケンスのフローチャートである。
【0052】
評価装置1は、カメラ5から画像を取得して(1401)、環境の変化を確認し(1402)、各端末の信号受信状況、送信信号の到達状況を更新する(1406)までは実施例1と同じである。すなわち、ステップ1401~1406及び1412は、
図3のステップ101~106及び108と同じである。
【0053】
ステップ1406で送受信信号の状況を更新した結果、受信信号電力が低下し通信に影響が生じるかを判定する(1409)。通信に影響が生じるかの判定は、通信が途絶する、通信速度が所定の閾値より低下するなどで判定できる。通信に影響が生じないと判定された場合、更新された送受信信号の状況を表示し(1413)、次に画像を取得するまで、又は運用管理者から指示があるまで待機する。
【0054】
一方、通信に影響が生じると判定された場合、評価装置1は、端末2との接続候補である基地局3を新規接続先に選択し、新規接続先である基地局3を運用管理者に提示する(1410)。新規接続先である基地局3の選択方法は
図10を参照して後述する。その後、評価装置1は端末2と接続する基地局3の切り替えを通信システムに指示する(1411)。なお、通信システムへの指示は、評価装置1が自動で行っても、評価装置1から基地局3の切り替えが報知された運用管理者が手動で行ってもよい。
【0055】
図10は、本実施例の代替基地局の選択方法のフローチャートであり、
図9のステップ1410の詳細を示す。
【0056】
評価装置1は、端末2と接続可能な基地局3を予め記録している。接続可能な基地局3には、基地局3の負荷などに応じて運用管理者側で優先順位を決めておくとよい。評価装置1は、環境変化に応じて端末2との通信に影響が生じると判定した場合、最も優先順位の高い代替基地局を選択し(1501)、選択された基地局と端末2との通信状況を評価する。その際、端末2の影響評価と同様に環境変化によるパスへの影響、見通し条件の変化を確認して環境変化後の通信状況を評価する(1502~1508)。すなわち、ステップ1502~1508は、
図4のステップ111~117と同じである。
【0057】
その後、再計算された受信電力を用いて、通信の可否を判定する(1509)。その結果、環境変化後に当該代替基地局との通信が可能であれば、当該代替基地局を新規接続先として選出する(1510)。一方、当該代替基地局との通信が不可能であれば、当該代替基地局の優先順位を低くして(1511)、ステップ1501に戻り、次の代替基地局を検証する。
【0058】
なお、図示したフローチャートは優先度が高い順に一つの代替基地局を一つ新規接続先に選択するが、ステップ1510の後にステップ1501に戻って、次の代替基地局を検証して、複数の代替基地局を新規接続先に選択してもよい。
【0059】
前述した処理によって、環境変化後も通信可能な代替基地局を選択し、当該代替基地局への切り替えを無線システムに指示できる。
【0060】
図11は、本実施例で運用管理者へ提示される画面の例を示す図である。
【0061】
画面7Cの通信エリア図には、環境変化の内容(構造物4の移動)と、当該変化によって影響を受けるID=2、4の端末が他の端末と異なる態様で表示される。また、環境変化によって通信に影響がある端末については、環境変化後に通信可能な新たな接続先(代替基地局)を運用管理者に提示し、基地局の切り替えを通知する。また、端末情報表示領域には、各端末の受信電力の推定値を表示し、環境変化前後で接続先が切り替わるID=4の端末については、接続先切替前後の受信電力の推定値を表示する。
【0062】
以上に説明したように第三の実施例によると、通信に生じた影響の解決方法を提案できる。
【0063】
<実施例4>
本発明の第四の実施例として、無線通信システムに障害が発生した場合、障害発生時刻の環境を三次元モデルで再現し、障害原因の解明を行う運用管理システムについて説明する。第四の実施例では、前述した第一から第三の実施例と異なる構成及び処理を主に説明し、第一から第三の実施例のいずれかと同じ構成及び処理については説明を省略する。
【0064】
本実施例の評価装置1の構成は、
図2に示す第一の実施例と同じである。評価装置1は、実施例1の動作に加え、モデル格納部14が記録する三次元モデルには、三次元モデルが作成され使用された時期、及び当該三次元モデルにおける電波伝搬評価結果の情報が付加されている。
【0065】
図12は、本実施例の通信障害原因推定の動作シーケンスのフローチャートである。
【0066】
評価装置1は、通信システムからの通報や運用管理者からの通知によって、通信障害を把握すると(1601)、まず障害発生時刻を確認し(1602)、障害発生時の三次元モデル、及びその伝搬評価結果をモデル格納部14から読み出す(1603、1604)。モデル格納部14から読み出した評価結果と発生した障害の内容とを比較する(1605)。例えば、ある端末で通信障害が発生した場合、その時刻の電波伝搬評価結果で該当端末の受信信号電力が低下しているかを確認する。更に、障害が発生しなかった端末には同様の評価結果が出ていない(すなわち、受信信号電力が低下していない)ことを確認する。これにより、評価結果と障害内容が一致した場合(1606でYes)、電波伝搬評価で障害を再現できたと判定し、障害の原因となった環境要件を確認するため、障害が発生する直前の環境情報と障害発生時の環境情報を比較する(1607)。比較した環境情報の差分を障害原因として運用管理者に提示する(1608)。一方、評価結果と障害内容が一致しない場合、その障害要因は環境の変化が原因でない可能性が高いため、環境変化が原因でないことを運用管理者に提示する(1609)。
【0067】
図13は、本実施例で運用管理者へ提示される画面の例を示す図である。
【0068】
画面7Dの通信エリア図には、障害が発生した端末が他の端末と異なる態様で表示され、当該障害の原因と推定される環境変化(構造物4の移動)が表示される。また、端末情報表示領域には、発生した障害の内容と比較できるように、各端末の受信電力の推定値を表示する。
【0069】
以上に説明したように第四の実施例によると、障害発生時の環境を三次元モデル上で再現し、通信障害を再現するので、通信障害の原因の解析に役立つ情報を提示できる。
【0070】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0071】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0072】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0073】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0074】
1 評価装置
2 端末
3 基地局
4 移動可能な構造物
5 カメラ
6 無線通信エリア
11 状態変化検出部
12 再計算判定部
13 モデル作成部
14 モデル格納部
15 伝搬計算部
16 表示部