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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/22 20100101AFI20231124BHJP
   C30B 29/20 20060101ALI20231124BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H01L33/22
C30B29/20
H01L21/205
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020106772
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022002264
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 勇介
(72)【発明者】
【氏名】稲津 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-101566(JP,A)
【文献】特開2014-195069(JP,A)
【文献】特開2019-009318(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0280069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板と、前記サファイア基板上の結晶成長面上に形成されたn型半導体層、深紫外光を出射する発光層及びp型半導体層を含む半導体積層構造体と、を備える半導体発光素子であって、
前記サファイア基板は、前記結晶成長面から厚み方向の内側に向かって開口寸法が徐々に小さくなる形状の複数の凹部を前記結晶成長面に含み、
前記複数の凹部は、底面と、該底面に対して第1のテーパ角で傾斜する第1の内周面と、により形成された第1の穴部と、該第1の穴部と前記半導体積層構造体側で連通し、前記底面に対して第2のテーパ角で傾斜する第2の内周面により形成された第2の穴部と、により構成されており、
前記第2の穴部の深さは、前記第1の穴部の深さよりも深い、
半導体発光素子。
【請求項2】
前記第2のテーパ角は、前記第1のテーパ角よりも大きい、
請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第1のテーパ角は、90°以上150°以下であり、
前記第2のテーパ角は、100°以上160°以下である、
請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1の穴部の深さに対する前記凹部の深さの比率は、2.5を超える、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1の穴部の深さは、50nm以上400nm以下である、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記複数の凹部のうち隣接する凹部間の距離は、226.0nmよりも大きく、500nmよりも小さい、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記複数の凹部は、前記サファイア基板の前記結晶成長面において、千鳥状に配置されている、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記複数の凹部の開口形状は、円形である、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記サファイア基板の前記結晶成長面は、オフ角を0.2°以上1.5°以下とした複数のテラス面が段差を介して連続した形状を備える、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体発光素子として、例えば、サファイア基板上にAlGaNにより形成され、深紫外光を発光する発光層を含む半導体積層構造体を形成したものがある(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の半導体発光素子によれば、サファイア基板の表面には、複数の凹部が形成されている。この凹部は、断面多角形状であり、その側面は、底面に対して90°以上140°以下の角度を有して形成されている。この半導体発光素子は、サファイア基板の表面に形成された凹部が発光層から出射される深紫外光を反射するため、深紫外光の光取出し効率が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-318441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の半導体発光素子によれば、サファイア基板側から光を取り出すフリップチップ型の場合、凹部の側面の底面に対する傾斜角度が90°以上140°以下であっても発光効率が十分に得られない場合がある。発明者らは、発光効率を向上させることができる凹部の形状を鋭意検討した結果、発光効率の向上に対してより適した形状を特定し、本発明をなすに至った。
【0006】
本発明は、発光効率を向上させることができる半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、サファイア基板と、前記サファイア基板上の結晶成長面上に形成されたn型半導体層、深紫外光を出射する発光層及びp型半導体層を含む半導体積層構造体と、を備える半導体発光素子であって、前記サファイア基板は、前記結晶成長面から厚み方向の内側に向かって開口寸法が徐々に小さくなる形状の複数の凹部を前記結晶成長面に含み、前記複数の凹部は、底面と、該底面に対して第1のテーパ角で傾斜する第1の内周面と、により形成された第1の穴部と、該第1の穴部と前記半導体積層構造体側で連通し、前記底面に対して第2のテーパ角で傾斜する第2の内周面により形成された第2の穴部と、により構成されており、前記第2の穴部の深さは、前記第1の穴部の深さよりも深い、半導体発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光効率を向上させることができる半導体発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。
図2図1に示す半導体発光素子を構成するサファイア基板の表面の状態を模式的に示す図である。
図3図1に示す半導体発光素子を構成するサファイア基板に形成された凹部を説明する図であり、(a)は、凹部をサファイア基板の結晶成長面の上方向から視た平面図であり、(b)は、(a)のA-A切断の端面図である。
図4】凹部の配置の一例を模式的に示す図である。
図5】バッファ層に生じたエアボイドの一例を説明する図である。
図6】本発明の実施例に係る半導体発光素子を構成するサファイア基板に形成された凹部の断面形状を示す図である。
図7】本発明の実施例に係る半導体発光素子の光出力の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
[実施の形態]
(半導体発光素子の構成)
図1は、本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。なお、図1に示す各構成要素の厚さの比は、必ずしも実際の半導体発光素子の寸法比と一致するものではない。この半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう)には、例えば、レーザダイオードや発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)が含まれる。本実施の形態では、発光素子1として、中心波長が250nm~360nmの深紫外光を発する発光ダイオード(LED)を例に挙げて説明する。
【0012】
図1に示すように、発光素子1は、サファイア基板10と、サファイア基板10上の結晶成長面10a上に形成された、AlNやAlGaNからなるバッファ層11、n型のAlGaNを含むn型クラッド層12、AlGaNを含み、深紫外光を出射する発光層13、及びp型のAlGaNやp型のGaNを含むp型半導体層14を含む半導体積層構造体と、を備えている。n型クラッド層は、n型半導体層の一例である。
【0013】
また、発光素子1は、p型半導体層14上に設けられたアノード側電極(「p側電極」ともいう。)15と、n型クラッド層12側に設けられたカソード側電極(「n側電極」ともいう。)16と、をさらに備えている。p側電極15には、例えば、Al、Rh等で形成された反射電極が用いられる。
【0014】
発光素子1は、発光層13から出射された光がサファイア基板10側から取り出される、フリップチップ型の構成を有する発光素子である。具体的には、発光素子1は、p側電極15及びn側電極16が金バンプ等を介して実装基板の電極に電気的に接続されることにより、フリップチップ実装される。以下、各構成要素について説明する。
【0015】
(サファイア基板10)
図2は、サファイア基板10の表面の状態を模式的に示す図である。図2に示すように、サファイア基板10の結晶成長面10aは、サファイア基板10の基面10bに対して所定の大きさのオフ角θで傾斜するテラス幅Wの複数のテラス面Tが段差Sを介して連続した形状を備えている。
【0016】
オフ角θは、好ましくは、0.2°以上1.5°以下であり、より好ましくは、0.6°以上1.5°以下である。一例として、オフ角θが1.0°の場合、段差Sは、0.21nmであり、テラス幅Wは、12nmである。以下、表1にオフ角θ及びテラス幅Wの例をまとめる。
【0017】
【表1】
【0018】
図3は、サファイア基板10に形成された凹部を説明する図であり、(a)は、凹部をサファイア基板10の結晶成長面10aの上方向から視た平面図であり、(b)は、(a)のA-A切断の端面図である。図3(a)に示すように、サファイア基板10は、結晶成長面10aに、この結晶成長面10aから厚み方向の内側(図1の下方向)に向かって開口寸法が徐々に小さくなる形状の凹部2を含む。
【0019】
すなわち、このサファイア基板10は、結晶成長面10aに凹凸パターンが形成されたPSS(Patterned Sapphire Substrate)である。なお、以下、「凸」は、結晶成長面10aのうち凹部2が形成されていない領域の表面形状を指すものとする。この凹部2は、発光層13から出射された深紫外光を散乱又は回折させる機能を有している。
【0020】
凹部2は、それぞれ、底面2aに対して異なるテーパ角で傾斜する複数の内周面により形成されている。本実施の形態では、凹部2は、それぞれ、底面2aに対して異なるテーパ角で傾斜する2つの内周面2bにより形成されている。換言すれば、凹部2の内周面2bは、底面2aに対して2段階の角度を有している。
【0021】
具体的には、図3(b)に示すように、底面2aに対して第1のテーパ角θで傾斜する第1の内周面21aと、この第1の内周面21aと半導体積層構造体側で接続し、底面2aに対して第2のテーパ角θで傾斜する第2の内周面22aと、を含む複数の内周面2bにより形成されている。
【0022】
より具体的には、凹部2は、底面2aと、この底面2aに対して第1のテーパ角θで傾斜する第1の内周面21aと、により形成された第1の穴部21と、この第1の穴部21と半導体積層構造体側で連通し、底面2aに対して第1のテーパ角θよりも大きい第2のテーパ角θで傾斜する第2の内周面22aにより形成された第2の穴部22と、により構成されている。また、凹部2は、第1の穴部21と第2の穴部22との境界に変曲点23を有している。
【0023】
第1の穴部21及び第2の穴部22は、それぞれ結晶成長面10aから厚み方向の内側に向かって開口寸法が徐々に小さくなる円錐台形の形状を有している。第1のテーパ角θは、90°以上150°以下であり、好ましくは、100°以上130°以下である。なお、第1の内周面21aは、湾曲していてもよい。第1の内周面21aが湾曲している場合、第1のテーパ角θは、図3(b)に示す凹部2の切断の端面視において、第1の内周面21aの底面2a側の端部と変曲点23とを結ぶ直線と、底面2aと、のなす角として定義してよい。
【0024】
また、第1の穴部21の深さhは、50nm以上400nm以下であり、好ましくは、100nm以上200nm以下である。
【0025】
第2のテーパ角θは、第1のテーパ角θよりも大きい(θ>θ)。具体的には、第2のテーパ角θは、100°以上160°以下であり、好ましくは、110°以上140°以下である。なお、第2の内周面22aは、湾面していてもよい。第2の内周面22aが湾曲している場合、第2のテーパ角θは、図3(b)に示す凹部2の切断の端面視において、第2の内周面22aの上側の端部と変曲点23とを結ぶ直線と、底面2aと、のなす角として定義してよい。
【0026】
第2の穴部22の深さは、第1の穴部21の深さhよりも深い。つまり、凹部2の深さをhとすると、第2の穴部22の深さ(h-h)は、以下の式(1)
<h-h・・(1)
を満たしている。
【0027】
凹部2の深さhは、25nm以上3/4×dnm以下である。ここで、dは、n型クラッド層12の膜厚である。十分に光を散乱又は回折させるために、凹部2は、λ/4n(ここで、λは発光波長であり、nは、半導体層の屈折率)以上の深さを有する。
【0028】
また、本実施の形態においては、発光波長λの下限を250nmと想定し、半導体層の屈折率の上限を2.5と想定しているため、凹部2は、25nm以上の深さを有することになる。これに対して、凹部2の深さhが深くなりすぎると、凹凸パターンが形成された結晶成長面10a上に、表面が平坦となるようにAlGaN系半導体結晶を成長させて、高品質な発光素子構造を形成することが難しくなるため、凹部2の深さは、n型クラッド層12の膜厚dの3/4倍以下にする。
【0029】
なお、上記の半導体層の屈折率は、半導体層を構成する各層が、一律に同一の屈折率を有するとみなした場合における屈折率とした。また、各層の屈折率が異なる場合、半導体層の屈折率としては、各層の屈折率の平均値を用いてよい。一例として、発光波長が250nm~350nmの場合、屈折率は、2.3~2.5である。
【0030】
なお、上述したように、テラス面Tの段差Sは、凹部2の深さhと比較して無視できる程度に小さい。したがって、凹部2がテラス面Tの段差Sを跨いで形成される場合でも、テラス面Tの段差Sは、凹部2の深さhに影響を与えない点に留意されたい。
【0031】
また、凹部2の開口径は、0.9±0.1μmである。また、隣接する凹部2間の距離Lは、500nmよりも小さい(L<500nm)。ここで、隣接する凹部2間の距離Lとは、隣接する凹部2の縁部間の最短の距離、具体的には、図3(a)に示す平面視において、凹部2の中心軸Oを結ぶ直線(図3(a)の破線参照)上における隣接する凹部2の縁部間の距離をいう。
【0032】
凹部2は、一定のピッチ間隔Pで形成されている。ピッチ間隔Pは、好ましくは、1500nm以下である。ここで、ピッチ間隔Pとは、図3(a)に示す平面視における凹部2の中心軸O間の距離をいう。
【0033】
図4は、凹部2の配置の一例を模式的に示す図である。なお、図4では、説明の便宜上、凹部2の外縁のみ円枠で示した。図4に示すように、凹部2は、凹凸パターンの一例として、サファイア基板10の結晶成長面10aにおいて、千鳥状に配置されている。サファイア基板10の結晶成長面10aにできるだけ多くの凹部2が形成された状態、いわゆる最密充填を実現するためである。
【0034】
なお、図4では、凹部2の開口形状を平面視において円形として描いたが、凹部2の開口形状は、必ずしも円形でなくてもよく、例えば、楕円形でもよい。また、円形は、必ずしも真円でなくてもよく、略円形を含む。すなわち、凹部2の形状は円錐台に限定されることなく、他の錐台であってもよい。
【0035】
(2)バッファ層11
バッファ層11は、AlNやAlGaNにより形成されている。バッファ層11は、凹部2の深さの2倍~150倍程度の厚みを有している。バッファ層11を平坦にするため、バッファ層11の厚みは、1.5μm以上4.5μm以下が好ましい。バッファ層11は、単層でも多層構造でもよい。
【0036】
図5は、バッファ層11に生じたエアボイドの一例を説明する図である。図5に示すように、バッファ層11は、空気を含む空洞(以下、「エアボイド」ともいう。)110を含んでもよい。エアボイド110は、円錐状の形状を有する。エアボイド110は、バッファ層11内の凹部2の底面2a上に形成される。また、エアボイド110は、底面が凹部2の底面2a側を向くように形成される。
【0037】
エアボイド110の底面は、凹部2の底面2aの直径の1/10以上4/5以下の直径xを有する。好ましくは、エアボイド110の底面の直径xは、凹部2の底面2aの直径の1/10以上1/3以下である。また、エアボイド110は、バッファ層11の膜厚の1/20以上4/5以下の高さyを有する。好ましくは、エアボイド110の高さyは、バッファ層11の膜厚の1/4以上3/4以下である。また、エアボイド110の底面と凹部2の底面2aとの距離zは、凹部2の深さhの1/20以上3/4以下である。好ましくは、この距離zは、凹部2の深さhの1/20以上1/2以下である。
【0038】
(3)n型クラッド層12
n型クラッド層12は、バッファ層11上に形成されている。n型クラッド層12は、n型のAlGaNにより形成された層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAlGaN層である。なお、n型の不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、テルル(Te)等を用いてもよい。n型クラッド層12は、1μm~4μm程度の厚みを有しており、好ましくは2μm以上3μm以下である。n型クラッド層12は、単層でもよく、多層構造でもよい。
【0039】
(4)発光層13
発光層13は、n型クラッド層12上に形成されている。発光層13は、n型クラッド層12側からAlGaNやAlNからなる障壁層130、AlGaNやGaNからなる井戸層131とを交互に積層した層である。発光層13は、波長350nm以下の深紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成されている。なお、本実施の形態では、発光層13に障壁層130及び井戸層131を各3層ずつ設けた多重量子井戸構造としたが、障壁層130及び井戸層131は、必ずしも3層に限定されるものではなく、2層でもよく、4層以上でもよい。また、障壁層130及び井戸層131をそれぞれ1層ずつ設けた単一量子井戸構造でもよい。
【0040】
(5)p型半導体層14
p型半導体層14は、発光層13上に形成されている。p型半導体層14は、発光層13側からp型のAlGaNからなるp型クラッド層140、p型のAlGaNやGaNからなるp型コンタクト層141を有する。なお、p型クラッド層140は、必須の構成ではない。また、発光層13上にAlNやAlGaNからなる電子ブロック層を積層した後、p型半導体層14を積層してもよい。p型の不純物としてはマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等を用いてよく、マグネシウム(Mg)を用いるのが好ましい。p型半導体層14は、10nmから1000nm程度の厚みを有しており、好ましくは30nm以上800nm以下である。
【0041】
(発光素子1の製造方法)
次に、発光素子1の製造方法について説明する。まず、サファイア基板10の結晶成長面10aに凹部2を形成する。以下、サファイア基板10の結晶成長面10aに凹部2を形成する一例を説明する。サファイア基板10の結晶成長面10aに、凹凸パターンに対応する形状を有するマスク(以下、「第1のマスク」ともいう。)を形成する。第1のマスクは、例えば、二酸化ケイ素(SiO)で形成された膜を用いてよい。
【0042】
次に、SiO膜とサファイア基板10とを反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching; RIE)等のドライエッチングでエッチングした後、SiO膜を除去すると、第1のマスクに被覆されていない部分が凹状の形状として除去される。このようにして、除去された凹状の形状が凹部2を形成する。凹部2を形成する方法は、一例であり、必ずしも上記の方法に限定されるものではない。
【0043】
次に、サファイア基板10上の結晶成長面10a上に、バッファ層11、n型クラッド層12、発光層13、p型クラッド層140、及びp型コンタクト層141を順に積層して、所定の直径(例えば、50mm程度)を有する略円板状のウエハを形成する。これらバッファ層11、n型クラッド層12、発光層13、p型クラッド層140、及びp型コンタクト層141は、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハイドライド気相エピタキシ法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)等の周知のエピタキシャル成長法を用いて形成してよい。
【0044】
次に、n型クラッド層12を露出させ、当該露出面上にn側電極16を形成するために、p型半導体層14を部分的に被覆するマスク(以下、「第2のマスク」ともいう。)をp型半導体層14上に形成する。続いて、n型クラッド層12の一部、発光層13、p型クラッド層140、及びp型コンタクト層141において第2のマスクが形成されていないそれぞれの露出領域を除去する。これらの層の除去は、例えば、プラズマエッチングにより行ってよい。
【0045】
次に、第2のマスクを除去したp型コンタクト層141上にp側電極15を形成し、n型クラッド層12の露出面上にn側電極16を形成する。p側電極15及びn側電極16は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成してよい。このウエハを所定の寸法に切り分けることにより、図1に示す発光素子1が形成される。
【0046】
(実施例)
発明者らは、上述した製造方法を用いて、本発明の実施の形態に係る3つの発光素子1(以下、「実施例1~3」ともいう。)を作製した。以下、図6(a)~(c)に、実施例1~3に対して原子間力顕微鏡法(Atomic Force Microscope)により得られた凹部2の断面形状を示す。なお、図6各図の縦軸は、124.5nmを1単位として規格化して示している。また、ピッチ間隔Pは、いずれも1000.0nmであった。
【0047】
図6(a)は、実施例1に係る発光素子1の凹部2の断面形状を示す図である。図6(a)に示す実施例1に係る発光素子1の凹部2のデータを表2にまとめる。
【表2】
【0048】
図6(b)は、実施例2に係る発光素子1の凹部2の断面形状を示す図である。実施例2に係る発光素子1の凹部2は、実施例1に係る発光素子1の凹部2と比較して、第1の穴部21の深さhが第2の穴部22の深さ(h-h)に対して相対的に低い(すなわち、凹部2の深さhに対して第1の穴部21の深さhが占める割合が小さい)点で相違している。表3に実施例2に係る発光素子1の凹部2のデータをまとめる。
【表3】
【0049】
図6(c)は、実施例3に係る発光素子1の凹部2の断面形状を示す図である。実施例3に係る発光素子1の凹部2は、実施例1に係る発光素子1の凹部2と比較して、隣接する凹部2間の距離Lが長い点で相違している。表4に実施例3に係る発光素子1の凹部2のデータをまとめる。
【表4】
【0050】
また、発明者らは、上述した実施例1~3に係る発光素子1の光出力(μW)を測定した。光出力(μW)は、種々の公知の方法で測定することが可能であるが、本測定では、一例として、上述したp側電極15及びn側電極16の間に一定の電流(例えば、100mA)を流し、サファイア基板10の底面と対向するように設置した光検出器(不図示)により測定した。また、比較例として、上述の凹部2を有しないサファイア基板を備える発光素子の光出力を測定した。以下、表5に、比較例及び実施例1~3の測定データをまとめる。
【表5】
【0051】
図7各図は、上述の実施例1~3に係る発光素子1の光出力の測定結果を示す図であり、(a)は、比較例に係る発光素子の光出力と実施例1~3に係る発光素子1の光出力とを並べて示した図であり、(b)は、横軸を第1の穴部21の深さhとして示した図であり、(c)は、横軸を凹部2の深さhとして示した図である。表5及び図7(a)に示すように、実施例1~3に係る発光素子1は、いずれも比較例に係る発光素子よりも大きい光出力を得ることが確認できる。
【0052】
また、図7(b)に示すように、光出力が第1の穴部21の深さhに応じて変化することが確認できる。具体的には、光出力は、第1の穴部21の深さhが100nmから200nmの範囲で安定となり、hが約200nmの付近からhが大きくなるに連れて降下し、約230nm付近で実線(すなわち、比較例に係る発光素子の光出力)と交差している。したがって、安定的な光出力を得るために、第1の穴部21の深さhは、上述したように、100nm以上200nm以下とすることが好ましい。
【0053】
また、図7(c)に示すように、光出力が凹部2の深さhに応じて変化することが確認できる。具体的には、光出力は、凹部2の深さhが300nm~500nmの範囲で安定となり、凹部2の深さhが約500nmの付近からhが大きくなるに連れて降下し、約600nm付近で実線と交差している。したがって、安定的な光出力を得るために、凹部2の深さhは、上述したように、300nm以上500nm以下とすることが好ましい。
【0054】
(実施形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0055】
[1]サファイア基板(10)と、前記サファイア基板(10)上の結晶成長面(10a)上に形成されたn型半導体層、深紫外光を出射する発光層(13)及びp型半導体層(14)を含む半導体積層構造体と、を備える半導体発光素子(1)であって、前記サファイア基板(10)は、前記結晶成長面(10a)から厚み方向の内側に向かって開口寸法が徐々に小さくなる形状の複数の凹部(2)を前記結晶成長面(10a)に含み、前記複数の凹部(2)は、底面(2a)と、該底面(2a)に対して第1のテーパ角(θ)で傾斜する第1の内周面(21a)と、により形成された第1の穴部(21)と、該第1の穴部(21)と前記半導体積層構造体側で連通し、前記底面(2a)に対して第2のテーパ角(θ)で傾斜する第2の内周面(22a)により形成された第2の穴部(22)と、により構成されている、半導体発光素子(1)。
[2]前記第2のテーパ角(θ)は、前記第1のテーパ角(θ)よりも大きい、前記[1]に記載の半導体発光素子(1)。
[3]前記第1のテーパ角(θ)は、90°以上150°以下であり、前記第2のテーパ角(θ)は、100°以上160°以下である、前記[2]に記載の半導体発光素子(1)。
[4]前記第2の穴部(22)の深さ(h-h)は、前記第1の穴部(21)の深さ(h)よりも深い、前記[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の半導体発光素子(1)。
[5]前記第1の穴部の深さ(h)は、50nm以上400nm以下である、前記[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の半導体発光素子(1)。
[6]前記複数の凹部(2)のうち隣接する凹部(2)間の距離(L)は、500nmよりも小さい、前記[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の半導体発光素子(1)。
[7]前記複数の凹部(2)は、前記サファイア基板(10)の前記結晶成長面(10a)において、千鳥状に配置されている、前記[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の半導体発光素子(1)。
[8]前記複数の凹部(2)の開口形状は、円形である、前記[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の半導体発光素子(1)。
[9]前記サファイア基板(10)の前記結晶成長面(10a)は、オフ角を0.2°以上1.5°以下とした複数のテラス面(T)が段差(S)を介して連続した形状を備える、前記[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の半導体発光素子(1)。
【符号の説明】
【0056】
1…半導体発光素子(発光素子)
10…サファイア基板
10a…結晶成長面
11…バッファ層
12…n型クラッド層
13…発光層
130…障壁層
131…井戸層
14…p型半導体層
140…p型クラッド層
141…p型コンタクト層
15…p側電極
16…n側電極
2…凹部
2a…底面
2b…内周面
21…第1の穴部
21a…第1の内周面
22…第2の穴部
22a…第2の内周面
23…変曲点
θ…オフ角
θ…第1のテーパ角
θ…第2のテーパ角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7