(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H01T13/20 B
(21)【出願番号】P 2020150700
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】木村 順二
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-088364(JP,A)
【文献】国際公開第2009/063976(WO,A1)
【文献】特開2002-050448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの電極を備えているスパークプラグであって、
前記電極は、
電極先端部を形成している電極チップと、
前記電極チップを支持する電極母材と、
前記電極チップと前記電極母材との間に配置されており、前記電極チップおよび前記電極母材の成分を含む合金部と
を有し、
前記スパークプラグの軸線を含み、前記電極の延設方向に平行な断面視で、
前記電極チップと前記合金部との境界は、前記電極の外側面から中央へ向かって前記電極母材側へ傾斜する第1傾斜部を有しており、
前記電極母材と前記合金部との境界は、前記電極の外側面から中央へ向かって前記電極チップ側へ傾斜する第2傾斜部を有しており、
前記第1傾斜部において、前記電極の外側面側に位置する一点と、前記軸線に最も近接する位置の一点とを最短距離で結んだ直線の前記電極チップの厚み方向と直交する平面に対する傾斜角度をαとし、
前記第2傾斜部において、前記電極の外側面側に位置する一点と、前記軸線に最も近接する位置の一点とを最短距離で結んだ直線の前記電極チップの厚み方向と直交する平面に対する傾斜角度をβとすると、
β/α≧1.3
となっている、スパークプラグ。
【請求項2】
β/α≧1.5
となっている、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記少なくとも一つの電極は、接地電極であり、
前記接地電極は、
前記電極母材が突起部を有しており、
前記突起部上に、前記合金部および前記電極チップが設けられている、
請求項1または2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記少なくとも一つの電極は中心電極である、
請求項1または2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンなどの内燃機関の着火手段として、スパークプラグが用いられている。スパークプラグには、火花放電を発生させるための構成として、中心電極と接地電極とが設けられている。中心電極と接地電極との対向面には、スパークプラグの着火性を向上させるために、例えば、貴金属材料で形成された電極チップがそれぞれ設けられている。
【0003】
スパークプラグの中には、貴金属の使用量を低減させることなどを目的として、中心電極および接地電極の構造を工夫しているものがある。例えば、特許文献1には、中心電極および接地電極のうちの少なくとも一方の電極において、電極母材上に中間部材を介して貴金属チップを取り付けたスパークプラグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたスパークプラグの接地電極は、接地電極母材31と、貴金属チップ351と、中間部材353と、第1溶融部352とを備えている。第1溶融部352は、レーザ溶接によって、貴金属チップ351と中間部材353との間に形成されている。第1溶融部352は、貴金属チップ351の成分と中間部材353の成分とが溶融凝固した部分である。第1溶融部352は、貴金属チップ351の成分と中間部材353の成分とを含む合金で形成されている。
【0006】
近年、内燃機関の熱効率をより向上させるために、内燃機関の高圧縮化および高過給化が求められている。これにより、スパークプラグの中心電極および接地電極に設けられている貴金属チップは高温になりやすくなり、貴金属チップと溶融部(合金部とも呼ばれる)との境界において側面方向からの亀裂(酸化スケールとも呼ばれる)が生じやすくなる。
【0007】
貴金属チップと溶融部との境界における亀裂の発生は、溶融部を形成する際に用いられるレーザ光の照射位置を調節し、溶融部に含まれる貴金属チップの成分を増加させることによって抑制することができる。しかし、溶融部に含まれる貴金属チップの成分が増加すると、溶融部と電極母材(あるいは中間部材)との境界において亀裂が発生しやすくなる。
【0008】
そこで、本発明では、スパークプラグにおいて、電極母材と合金部との亀裂の発生を抑えることのできる電極構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面にかかるスパークプラグは、少なくとも一つの電極を備えている。このスパークプラグにおいて、前記電極は、電極先端部を形成している電極チップと、前記電極チップを支持する電極母材と、前記電極チップと前記電極母材との間に配置されており、前記電極チップおよび前記電極母材の成分を含む合金部とを有している。前記スパークプラグの軸線を含み、前記電極の延設方向に平行な断面視で、前記電極チップと前記合金部との境界は、前記電極の外側面から中央へ向かって前記電極母材側へ傾斜する第1傾斜部を有しており、前記電極母材と前記合金部との境界は、前記電極の外側面から中央へ向かって前記電極チップ側へ傾斜する第2傾斜部を有している。前記第1傾斜部において、前記電極の外側面側に位置する一点と、前記軸線に最も近接する位置の一点とを最短距離で結んだ直線の前記電極チップの厚み方向と直交する平面に対する傾斜角度をαとし、前記第2傾斜部において、前記電極の外側面側に位置する一点と、前記軸線に最も近接する位置の一点とを最短距離で結んだ直線の前記電極チップの厚み方向と直交する平面に対する傾斜角度をβとすると、β/α≧1.3となっている。
【0010】
上記の構成によれば、電極チップと合金部との境界面の傾斜角度αに対して、溶融部と電極母材との境界面の傾斜角度βが十分に大きくなり、溶融部と電極母材との接合界面の表面積が増加する。そのため、合金部と電極母材との境界において、ひずみによって発生する応力を分散することができる。したがって、電極母材と合金部との境界における亀裂の発生を抑えることができる。
【0011】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグにおいて、β/α≧1.5となっていてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、電極母材と合金部との境界において、外側面方向からの亀裂の発生をより確実に抑えることができる。
【0013】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグにおいて、前記少なくとも一つの電極は、接地電極であり、前記接地電極は、前記電極母材が突起部を有しており、前記突起部上に、前記合金部および前記電極チップが設けられていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、貴金属を含む電極チップを突起部上に接合させることによって、接地電極を形成することができる。これにより、電極チップのサイズを小さくすることができ、貴金属の使用量を減らすことができる。また、上記の構成によれば、接地電極における電極母材と合金部との境界部分の亀裂の発生を抑えることができる。これにより、接地電極の強度を向上させることができる。
【0015】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグにおいて、前記少なくとも一つの電極は中心電極であってもよい。
【0016】
上記の構成によれば、中心電極における電極母材と合金部との境界部分の亀裂の発生を抑えることができる。これにより、中心電極の強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の一局面にかかるスパークプラグによれば、電極母材と合金部との亀裂の発生を抑えることのできる電極構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグの外観を示す側面図である。
【
図2】第1の実施形態にかかるスパークプラグの接地電極の内部構成を示す断面模式図である。
【
図3】(a)および(b)は、接地電極の凸部の製造工程を順に示す模式図である。
【
図4】第2の実施形態にかかるスパークプラグの接地電極の内部構成を示す断面模式図である。
【
図5】第3の実施形態にかかるスパークプラグの中心電極の内部構成を示す断面模式図である。
【
図6】実施例における酸化スケール(%)の算出方法を説明するための接地電極の断面模式図である。
【
図7】実施例において製造した複数のサンプルについて、β/αの値と酸化スケール(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0020】
〔第1の実施形態〕
本実施形態では、スパークプラグ1を例に挙げて説明する。
【0021】
(スパークプラグの全体構成)
先ず、スパークプラグ1の全体構成について、
図1を参照しながら説明する。スパークプラグ1は、絶縁体50および主体金具30を備えている。
図1では、紙面下側をスパークプラグ1の先端側とし、紙面上側をスパークプラグ1の後端側とする。また、
図1では、スパークプラグ1の軸線をO’で示す。以下では、この軸線O’と平行な方向を軸線方向と呼ぶ。また、軸線O’に垂直な平面上に位置し、軸線O’を中心とする円の径方向を、単に径方向と呼ぶ。
【0022】
絶縁体50は、スパークプラグ1の長手方向に延びる略円筒形状の部材である。絶縁体50は、絶縁性、耐熱性、および熱伝導性に優れた材料で形成されている。例えば、絶縁体50は、アルミナ系セラミックなどで形成されている。絶縁体50の一方の端部(先端部)51の軸孔内には、中心電極(電極)21が保持されている。また、絶縁体の他方の端部(後端部)の軸孔内には、端子金具52が保持されている。
【0023】
中心電極21は、その先端部(電極先端部)が絶縁体50の先端部51から突出した状態で、絶縁体50の軸孔に保持されている。中心電極21は略円柱形状を有しており、その先端部分は、電極先端部へ向かってテーパ状に縮径している。中心電極21の先端部は、電極チップ22で形成されている。電極チップ22は、縮径された中心電極21の先端部分と同径の略円柱形状を有している。
【0024】
中心電極21は、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料を母材として形成される。Ni基合金に添加される合金元素としては、Al(アルミニウム)等が挙げられる。中心電極21は、その内部に、熱伝導性に優れた金属、例えば、Cu(銅)又はCu合金等の金属材料等からなる芯材を有していてもよい。
【0025】
電極チップ22は、例えば、円柱状に成形された貴金属チップにて構成することができ、溶接等により中心電極21の先端に接合される。貴金属チップは、例えば、Pt、Rh、Ir、およびRuから選ばれる少なくとも1種の貴金属を合計で50wt%以上の含有割合で含む。
【0026】
主体金具30は、内燃機関のネジ穴に固定される筒状の部材である。本実施形態では、主体金具30は略円筒形状を有しており、絶縁体50を部分的に覆うように設けられている。主体金具30は、導電性を有する金属材料で形成されている。このような金属材料としては、低炭素鋼、または鉄を主成分とする金属材料などが挙げられる。主体金具30は、主に、加締め部31、工具係合部32、湾曲部33、座部34、および胴部36などを有している。
【0027】
加締め部31は、主体金具30の後端側において絶縁体50側に屈曲する部位である。工具係合部32は、加締め部31の先端側に接続され内燃機関(シリンダヘッド)のネジ穴に主体金具30を取り付けるときに使用されるレンチなどの工具を係合させる部位である。座部34は、工具係合部32より先端側に位置し、主体金具30の径方向外側に張り出している。
【0028】
湾曲部33は、工具係合部32と座部34とを接続する薄肉の部位である。胴部36は、座部34の先端側に位置し、外周にネジ部が形成されている。座部34と胴部36のネジ部との間には、環状のガスケットが配置される。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられる際には、胴部36の外周に形成されたネジ溝(図示せず)が内燃機関のネジ穴に螺合される。このとき、座部34とシリンダヘッドとで環状のガスケットが挟まれることにより、ネジ穴における気密性が確保される。
【0029】
また、主体金具30には、接地電極11が接合されている。接地電極(電極)11は、主として、本体部11aと、凸部11bとを有している。本体部11aは、略L字形に屈曲した棒状の形状をなす。本体部11aの基端部は、主体金具30の胴部36の先端面に接合されている。本体部11aの先端部は、中心電極21の電極先端部を形成している電極チップ22に対向する。
【0030】
本体部11aは、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料で形成されている。Ni基合金に添加される合金元素としては、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、Fe(鉄)等が挙げられる。接地電極11は、その内部に、熱伝導性に優れた金属、例えば、Cu(銅)又はCu合金等の金属材料等からなる芯材を有していてもよい。
【0031】
本体部11aに用いられる金属材料として具体的には、インコネル(登録商標)、JIS G 4901に規格されるNCF材などを挙げることができる。これらの金属材料は、耐酸化消耗性を有している。
【0032】
凸部11bは、本体部11aの先端部側に配置されている。凸部11bは、中心電極21の電極チップ22側に向かって突出するように設けられている。凸部11bの先端は、中心電極21の電極チップ22に対向する対向面(具体的には、頂面12a)となっている。凸部11bは、軸線O’に概ね一致するように電極チップ22側に向かって突出している。
【0033】
凸部11bは、中心電極21の電極チップ22と同様に、貴金属を含む電極チップ(具体的には、電極チップ12)などで構成されている。
【0034】
(接地電極の凸部の構成)
続いて、接地電極11の凸部11b周辺の構成について説明する。
図2には、接地電極11の凸部11bの断面構成を示す。
図2は、略円柱形状の凸部11bの軸線Oを含む任意の一断面の構成を示す図である。なお、凸部11bの軸線Oは、スパークプラグ1の軸線O’と略一致するような位置関係となっている。
【0035】
接地電極11の凸部11bは、本体部11a上に形成されている。本体部11aは、電極チップ12などで形成されている凸部11bを支持している。
【0036】
凸部11bは、主として、電極チップ12、電極母材13、および溶融部(合金部)15で形成されている。
【0037】
電極チップ12は、例えば、円柱状に成形された貴金属のチップにて構成することができる。電極チップ12は、凸部11bの先端部を形成しており、中心電極21の電極チップ22と対向する頂面12aを有している。電極チップ12は、中心電極21の電極チップ22と同様に、例えば、Pt、Rh、Ir、およびRuから選ばれる少なくとも1種の貴金属を合計で50wt%以上の含有割合で含む。
【0038】
電極母材13は、電極チップ12と本体部11aとの間に配置されている。電極母材13は、中間部材とも呼ばれる。本実施形態では、電極母材13は、中心電極21と対向する側の本体部11aの表面11s上に配置されている。すなわち、電極母材13は、本体部11aの表面11s上に形成されている突起部を形成している。
【0039】
電極母材13は、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料で形成されている。Ni基合金に添加される合金元素としては、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)等が挙げられる。電極母材13は、接地電極11の本体部11aと同じ材料で形成されていてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。
【0040】
電極チップ12および電極母材13は、後述するように、溶接(例えば、レーザ溶接、抵抗溶接等)によって接合される。この溶接による接合工程によって、電極チップ12と電極母材13との間には、溶融部15が形成される。
【0041】
溶融部15は、電極チップ12と電極母材13との境界の少なくとも一部に配置されている。本実施形態では、溶融部15は、電極チップ12と電極母材13との境界の全領域に形成されている。すなわち、溶融部15は、電極チップ12と電極母材13との間に設けられている。溶融部15は、電極チップ12の成分および電極母材13の成分を含んでいる。すなわち、溶融部15は、電極チップ12に含まれる金属材料と、電極母材13に含まれる金属材料との合金で形成されているということもできる。したがって、溶融部15は、合金部とも呼ばれる。溶融部15は、例えば、レーザ溶接によって形成される。
【0042】
なお、
図2では図示が省略されているが、電極母材13における本体部11aとの接合部には、鍔部13a(
図3(b)参照)が設けられていてもよい。鍔部13aは、電極母材13の本体部分を径方向に拡張するように設けられている。
【0043】
また、
図2では図示されていないが、本体部11aと電極母材13との境界には、溶融部15とは別の溶融部が形成されていてもよい。本体部11aと電極母材13との境界に形成される溶融部は、本体部11aに含まれる金属材料と、電極母材13に含まれる金属材料との合金で形成されている。この溶融部は、例えば、抵抗溶接によって形成される。
【0044】
以下では、電極チップ12と電極母材13との間に設けられている溶融部15のより詳細な構成について説明する。ここでは、スパークプラグ1の軸線O’を含み、接地電極11の凸部11bの延設方向に平行な断面で凸部11bを切断したときの溶融部15の断面形状について説明する。
図2には、スパークプラグ1の軸線O’を含み、接地電極11の凸部11bの延設方向に平行な任意の一断面の構成を示す。なお、スパークプラグ1の軸線O’と凸部11bの軸線Oとは、略一致するため、
図2では、軸線Oを含む断面として図示している。
【0045】
図2に示すように、電極チップ12と溶融部15との境界は、凸部11bの外側面から中央(すなわち、軸線Oの位置)へ向かって電極母材13側へ傾斜した形状を有している。すなわち、電極チップ12と溶融部15との境界には、第1傾斜部41が設けられている。また、電極母材13と溶融部15との境界は、凸部11bの外側面から中央(すなわち、軸線Oの位置)へ向かって電極チップ12側へ傾斜した形状を有している。すなわち、電極母材13と溶融部15との境界には、第2傾斜部42が設けられている。
【0046】
上記のような第1傾斜部41において、凸部11bの外側面側に位置する一点41aと、軸線Oに最も近接する位置の一点41bとを最短距離で結んだ直線について、電極チップ12の厚み方向(すなわち、軸線Oに沿った方向)と直交する平面(これを、平面H1と呼ぶ)に対する傾斜角度をαとする。
【0047】
また、上記のような第2傾斜部42において、凸部11bの外側面側に位置する一点42aと、軸線Oに最も近接する位置の一点42bとを最短距離で結んだ直線について、電極チップ12の厚み方向(すなわち、軸線Oに沿った方向)と直交する平面(これを、平面H2と呼ぶ)に対する傾斜角度をβとする。
【0048】
本実施形態のように、溶融部15が電極チップ12と電極母材13との境界の全領域に形成されている構成では、第1傾斜部41において軸線Oに最も近接する位置の一点41b、および、第2傾斜部42において軸線Oに最も近接する位置の一点42bは、軸線Oの位置と一致する。
【0049】
本実施形態では、点41aと点41bとを結ぶ直線の平面H1に対する傾斜角度αと、点42aと点42bとを結ぶ直線の平面H2に対する傾斜角度βとは、以下の関係式(1)を満たしている。
β/α≧1.3 (1)
【0050】
傾斜角度αおよびβが上記の関係式(1)を満たすことで、電極チップ12と溶融部15との境界面の傾斜角度に対して、溶融部15と電極母材13との境界面の傾斜角度が十分に大きくなる。これにより、溶融部15と電極母材13との接合界面の表面積が増加するため、ひずみによって発生する応力を分散することができる。したがって、電極母材13と溶融部15との境界における亀裂(酸化スケールとも呼ばれる)の発生を抑えることができる。
【0051】
また、傾斜角度αおよびβは、以下の関係式(2)を満たしていることがより好ましい。
β/α≧1.5 (2)
【0052】
傾斜角度αおよびβが上記の関係式(2)を満たすことで、後述の実施例にも示されるように、電極母材13と溶融部15との境界において側面方向からの亀裂をより確実に抑えることができる。
【0053】
傾斜角度αおよびβの大きさは、レーザ溶接時のレーザの照射位置を軸線O方向に移動させることで制御することができる。
【0054】
また、β/αの上限値は特に限定はされないが、例えば、1.8以下(すなわち、β/α≦1.8)とすることができる。
【0055】
なお、傾斜角度βは、例えば、5°以上30°以下の範囲内とするのがよい。傾斜角度βが5°以上であることで、溶融部15と電極母材13との接合部分における耐剥離性を向上させることができる。また、傾斜角度βが30°以下であることで、本体部13bを軸線方向に比較的短い構成とすることができるので、鍔部13aと本体部13bとの間での折損を抑制することができる。
【0056】
(接地電極の製造方法)
続いて、スパークプラグ1の製造方法について説明する。ここでは、接地電極11の凸部11bの製造方法を中心に説明する。
【0057】
図3の(a)および(b)には、凸部11bの形成過程を順に示す。凸部11bを製造する際には、溶接前の電極チップ12、および溶接前の電極母材13を準備する。溶接前の電極チップ12は、略円柱形状を有している。
【0058】
溶接前の電極母材13は、本体部13bと、鍔部13aと、突起部13cとを有している。本体部13bは、略円柱形状を有している。鍔部13aは、略円柱形状の本体部13bの一方の端部において、本体部13bの径を拡張するように設けられている。すなわち、鍔部13aの径は、本体部13bの径よりも大きくなっている。突起部13cは、略円柱形状の本体部13bの一方の端面(鍔部13aが設けられている側の端面13s)から突出する突起である。
【0059】
電極チップ12および電極母材13は、例えば、レーザ溶接、抵抗溶接などの溶接加工を行うことで本体部11aに接合される。
【0060】
先ず、電極チップ12と電極母材13とがレーザ溶接によって接合される。具体的には、
図3(a)に示すように、電極母材13の鍔部13aが締め具Cpを用いて固定され、電極母材13の本体部13bの他方の端面(端面13sとは反対側の端面)上に、電極チップ12が配置される。このとき、略円柱形状の電極チップ12の軸線、および、電極母材13の略円柱形状の本体部13bの軸線は、軸線O上に配置される。
【0061】
そして、電極チップ12の頂面12aが、所定の押圧部材Prを用いて押圧された状態で、電極チップ12と電極母材13との接触部分に対して、径方向の外側から内側に向かって、軸線Oと略垂直なレーザLzが照射される。レーザLzは、例えば、ファイバレーザ照射装置などの照射装置を用いて、電極チップ12と電極母材13との接触部分に照射される。
【0062】
そして、レーザLzの照射装置に対して、電極チップ12および電極母材13が、軸線Oを中心に相対的に回転されることによって、電極チップ12と電極母材13との接触部分の全周にわたってレーザLzが照射される。これによって、電極チップ12と電極母材13との間に、
図3(b)に示すような溶融部15が形成され、電極チップ12と電極母材13とが接合される。
【0063】
このとき、レーザLzの照射位置を電極チップ12側にする(すなわち、レーザの照射位置を高くする)ことで、電極チップ12に含まれる貴金属成分の溶融量が増え、溶融部15に含まれる貴金属成分の量を増やすことができる。これにより、電極チップ12と溶融部15との境界における亀裂(酸化スケール)の発生を抑制し、電極チップ12の耐剥離性を向上させることができる。
【0064】
また、レーザLzの出力(エネルギー)、照射位置、電極チップ12と電極母材13との回転速度、押圧部材Prによる圧力などの条件を調整することによって、溶融部15の形状を制御することができる。例えば、回転速度を速く、かつ、レーザLzの出力を大きくすることによって、溶融部15の軸線O上における厚さと、外周面における厚さとの差を小さくする(すなわち、傾斜角度αおよびβを小さくする)ことができる。
【0065】
このように、レーザLzの出力および照射位置などを適宜調節することで、特定の形状を有する溶融部15を得ることができる。そして、傾斜角度αおよびβが上記の関係式(1)を満たすような溶融部15を形成することができ、電極母材13と溶融部15との境界において酸化スケールが進展しにくい接地電極11の凸部11bを得ることができる。
【0066】
次に、
図3(b)に示すように、電極チップ12が接合された電極母材13を、接地電極11の本体部11aの表面11sに抵抗溶接によって固定する。このとき、筒状の溶接用電極Wdによって、鍔部13aの端面13sとは反対側の面が押圧された状態で、本体部11aと電極母材13との間に溶接のための電流を流すことによって、抵抗溶接が行われる。本体部11aの表面11sと、電極母材13の突起部13cとが接触した状態から抵抗溶接が開始されるので、最初に突起部13cに電流が集中する。これにより、突起部13cと、本体部11aのうちの突起部13cと接触する部分とが溶融して、体部11aと電極母材13との境界に溶融部(図示せず)が形成される。
【0067】
その後、電極母材13の端面13sが本体部11aの表面11sに接触して、電極母材13の端面13sと本体部11aとが抵抗溶接される。これにより、電極チップ12および電極母材13が本体部11a上に接合固定される。
【0068】
以上のようにして、接地電極11の凸部11bが形成される。
【0069】
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態では、接地電極11の凸部11bの構成が第1の実施形態とは異なる構成例について説明する。本実施形態にかかるスパークプラグ1において、接地電極11の凸部11b以外の構成については、第1の実施形態と同様の構成が適用できる。そこで、以下では、第1の実施形態とは異なる点を中心に説明する。
【0070】
図4には、第2の実施形態にかかるスパークプラグ1の接地電極11の凸部11bの内部構成を示す。
図4は、略円柱形状の凸部11bの軸線Oを含む任意の一断面の構成を示す図である。なお、凸部11bの軸線Oは、スパークプラグ1の軸線O’と略一致するような位置関係となっている。
【0071】
接地電極11の凸部11bは、本体部11a上に形成されている。本体部11aは、電極チップ12などで形成されている凸部11bを支持している。
【0072】
凸部11bは、主として、電極チップ12、電極母材13、および溶融部(合金部)115で形成されている。
【0073】
電極チップ12は、第1の実施形態と同様に、例えば円柱状に成形された貴金属のチップにて構成することができる。電極チップ12は、凸部11bの先端部を形成しており、中心電極21の電極チップ22と対向する。
【0074】
電極母材13は、電極チップ12と本体部11aとの間に配置されている。電極母材13は、中間部材とも呼ばれる。第1の実施形態と同様に、電極母材13は、中心電極21と対向する側の本体部11aの表面11s上に配置されている。すなわち、電極母材13は、本体部11aの表面11s上に形成されている突起部を有している。電極母材13は、第1の実施形態と同様の材料で形成することができる。
【0075】
溶融部115は、電極チップ12と電極母材13との間に形成されている。本実施形態では、溶融部115は、電極チップ12と電極母材13との境界の一部に設けられている。
図4に示すように、溶融部115は、電極チップ12と電極母材13との境界面の外周部分に形成されている。電極チップ12と電極母材13との境界面の中央部分には、溶融部115は形成されておらず、電極チップ12と電極母材13とが直に接触している。
【0076】
溶融部115は、電極チップ12の成分および電極母材13の成分を含んでいる。すなわち、溶融部115は、電極チップ12に含まれる金属材料と、電極母材13に含まれる金属材料との合金で形成されているということもできる。したがって、溶融部115は、合金部とも呼ばれる。溶融部115は、例えば、レーザ溶接によって形成される。
【0077】
以下では、溶融部115のより詳細な構成について説明する。ここでは、スパークプラグ1の軸線O’を含み、接地電極11の凸部11bの延設方向に平行な断面で凸部11bを切断したときの溶融部115の断面形状について説明する。
図4には、スパークプラグ1の軸線O’を含み、接地電極11の凸部11bの延設方向に平行な任意の一断面の構成を示す。なお、スパークプラグ1の軸線O’と凸部11bの軸線Oとは、略一致するため、
図4では、軸線Oを含む断面として図示している。
【0078】
図4に示すように、電極チップ12と溶融部115との境界は、凸部11bの外側面から中央側(すなわち、軸線Oの近傍)へ向かって電極母材13側へ傾斜した形状を有している。すなわち、電極チップ12と溶融部115との境界には、第1傾斜部141が設けられている。第1傾斜部141は、電極チップ12側に凸の曲面形状を有している。
【0079】
また、電極母材13と溶融部115との境界は、凸部11bの外側面から中央側(すなわち、軸線Oの近傍)へ向かって電極チップ12側へ傾斜した形状を有している。すなわち、電極母材13と溶融部115との境界には、第2傾斜部142が設けられている。第2傾斜部142は、電極母材13側に凸の曲面形状を有している。
【0080】
上記のような第1傾斜部141において、凸部11bの外側面側に位置する一点141aと、軸線Oに最も近接する位置の一点141bとを最短距離で結んだ直線の電極チップ12の厚み方向(すなわち、軸線Oに沿った方向)と直交する平面(これを、平面H1と呼ぶ)に対する傾斜角度をαとする。
【0081】
また、上記のような第2傾斜部142において、凸部11bの外側面側に位置する一点142aと、軸線Oに最も近接する位置の一点141bとを最短距離で結んだ直線の電極チップ12の厚み方向(すなわち、軸線Oに沿った方向)と直交する平面(これを、平面H2と呼ぶ)に対する傾斜角度をβとする。
【0082】
本実施形態のように、溶融部115が電極チップ12と電極母材13との境界の外周部分のみに形成されている構成では、第1傾斜部141において軸線Oに最も近接する位置の一点141bと、第2傾斜部142において軸線Oに最も近接する位置の一点141bとは、一致する。
【0083】
本実施形態では、点141aと点141bとを結ぶ直線の平面H1に対する傾斜角度αと、点142aと点141bとを結ぶ直線の平面H2に対する傾斜角度βとは、以下の関係式(1)を満たしている。
β/α≧1.3 (1)
【0084】
傾斜角度αおよびβが上記の関係式(1)を満たすことで、電極チップ12と溶融部115との境界面の傾斜角度に対して、溶融部115と電極母材13との境界面の傾斜角度が十分に大きくなる。これにより、溶融部115と電極母材13との接合界面の表面積が増加するため、ひずみによって発生する応力を分散することができる。したがって、電極母材13と溶融部15との境界における亀裂(酸化スケールとも呼ばれる)の発生を抑えることができる。
【0085】
また、傾斜角度αおよびβは、以下の関係式(2)を満たしていることがより好ましい。
β/α≧1.5 (2)
【0086】
傾斜角度αおよびβが上記の関係式(2)を満たすことで、電極母材13と溶融部115との境界において側面方向からの亀裂をより確実に抑えることができる。
【0087】
〔第3の実施形態〕
上述した第1および第2の実施形態では、接地電極11側の電極チップ12と電極母材13との間に設けられている溶融部15または115が所定の形状となっている構成例について説明した。第3の実施形態では、中心電極21側の電極チップ22と電極母材23との間に設けられている溶融部225が所定の形状となっている構成例について説明する。
【0088】
図5には、第3の実施形態にかかるスパークプラグ1の中心電極21の先端部分の内部構成を示す。
図5は、略円柱形状の中心電極21の先端部の軸線Oを含む任意の一断面の構成を示す図である。なお、中心電極21の先端部の軸線Oは、スパークプラグ1の軸線O’と略一致するような位置関係となっている。
【0089】
第1の実施形態と同様に、中心電極21は、その先端部(電極先端部)が絶縁体50の先端部51から突出した状態で、絶縁体50の軸孔に保持されている。中心電極21の先端部は、電極チップ22で形成されている。電極チップ22は、縮径された中心電極21の先端部分と同径の略円柱形状を有している。
【0090】
中心電極21の先端部は、主として、電極チップ22、電極母材23、および溶融部(合金部)225で形成されている。
【0091】
電極チップ22は、例えば、円柱状に成形された貴金属のチップにて構成することができる。電極チップ22は、中心電極21の先端部を形成しており、接地電極11の電極チップ12と対向する頂面22aを有している。電極チップ22は、第1の実施形態で説明した電極チップ22と同様の材料で形成することができる。
【0092】
電極母材23は、電極チップ22を支持する土台となる。電極母材23は、第1の実施形態で説明したように、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料を母材として形成される。
【0093】
電極チップ22は、溶接(例えば、レーザ溶接等)によって、電極母材23の先端に接合される。この溶接による接合工程によって、電極チップ22と電極母材23との間には、溶融部225が形成される。
【0094】
溶融部225は、電極チップ22と電極母材23との境界の少なくとも一部に配置されている。本実施形態では、溶融部225は、電極チップ22と電極母材23との境界の全領域に形成されている。すなわち、溶融部225は、電極チップ22と電極母材23との間に設けられている。溶融部225は、電極チップ22の成分および電極母材23の成分を含んでいる。すなわち、溶融部225は、電極チップ22に含まれる金属材料と、電極母材23に含まれる金属材料との合金で形成されているということもできる。したがって、溶融部225は、合金部とも呼ばれる。溶融部225は、例えば、レーザ溶接によって形成される。
【0095】
以下では、溶融部225のより詳細な構成について説明する。ここでは、スパークプラグ1の軸線O’を含み、中心電極21の延設方向に平行な断面で中心電極21を切断したときの溶融部225の断面形状について説明する。
図5には、スパークプラグ1の軸線O’を含み、中心電極21の延設方向に平行な任意の一断面の構成を示す。なお、スパークプラグ1の軸線O’と中心電極21の軸線Oとは、略一致するため、
図5では、軸線Oを含む断面として図示している。
【0096】
図5に示すように、電極チップ22と溶融部225との境界は、中心電極21の外側面から中央(すなわち、軸線Oの位置)へ向かって電極母材23側へ傾斜した形状を有している。すなわち、電極チップ22と溶融部225との境界には、第1傾斜部241が設けられている。また、電極母材23と溶融部225との境界は、中心電極21の外側面から中央(すなわち、軸線Oの位置)へ向かって電極チップ22側へ傾斜した形状を有している。すなわち、電極母材23と溶融部225との境界には、第2傾斜部242が設けられている。
【0097】
上記のような第1傾斜部241において、中心電極21の外側面側に位置する一点241aと、軸線Oに最も近接する位置の一点241bとを最短距離で結んだ直線の電極チップ22の厚み方向(すなわち、軸線Oに沿った方向)と直交する平面(これを、平面H1と呼ぶ)に対する傾斜角度をαとする。
【0098】
また、上記のような第2傾斜部242において、中心電極21の外側面側に位置する一点242aと、軸線Oに最も近接する位置の一点242bとを最短距離で結んだ直線の電極チップ22の厚み方向(すなわち、軸線Oに沿った方向)と直交する平面(これを、平面H2と呼ぶ)に対する傾斜角度をβとする。
【0099】
図5に示すように、溶融部225が電極チップ12と電極母材23との境界の全領域に形成されている構成では、第1傾斜部241において軸線Oに最も近接する位置の一点241b、および、第2傾斜部242において軸線Oに最も近接する位置の一点242bは、軸線Oの位置と一致する。
【0100】
本実施形態では、点241aと点241bとを結ぶ直線の平面H1に対する傾斜角度αと、点242aと点242bとを結ぶ直線の平面H2に対する傾斜角度βとは、以下の関係式(1)を満たしている。
β/α≧1.3 (1)
【0101】
傾斜角度αおよびβが上記の関係式(1)を満たすことで、電極チップ22と溶融部225との境界面の傾斜角度に対して、溶融部225と電極母材23との境界面の傾斜角度が十分に大きくなる。これにより、溶融部225と電極母材23との接合界面の表面積が増加するため、ひずみによって発生する応力を分散することができる。したがって、電極母材23と溶融部225との境界における亀裂(酸化スケールとも呼ばれる)の発生を抑えることができる。
【0102】
また、傾斜角度αおよびβは、以下の関係式(2)を満たしていることがより好ましい。
β/α≧1.5 (2)
【0103】
傾斜角度αおよびβが上記の関係式(2)を満たすことで、電極母材23と溶融部225との境界において側面方向からの亀裂をより確実に抑えることができる。
【0104】
なお、上述した溶融部225の形状は一例であり、これに限定はされない。溶融部225の別の形状の例として、例えば、第2の実施形態で説明したように、溶融部225が電極チップ22と電極母材23との境界の外周部分のみに形成されている構成を挙げることができる。
【0105】
なお、本実施形態にかかるスパークプラグ1において、中心電極21以外の構成については、第1または第2の実施形態と同様の構成が適用できる。また、本実施形態にかかるスパークプラグ1における接地電極11の構成は、第1または第2の実施形態で説明した接地電極11の構成とは異なる構成であってもよい。
【0106】
〔実施形態のまとめ〕
以上のように、スパークプラグ1は、少なくとも一つの電極を備えている。この少なくとも一つの電極は、例えば、接地電極11および中心電極21の少なくとも何れかである。
【0107】
接地電極11は、電極先端部を形成している電極チップ12と、電極チップ12を支持する電極母材13と、電極チップ12と電極母材13との間に配置されており、電極チップ12および電極母材13の成分を含む合金部(例えば、溶融部15、または溶融部115)とを有している。電極チップ12と合金部との境界には、第1傾斜部(例えば、第1傾斜部41、または第1傾斜部141)が設けられており、電極母材13と合金部との境界には、第2傾斜部(例えば、第2傾斜部42、または第2傾斜部142)が設けられている。
【0108】
上記の第1傾斜部において、接地電極11の外側面側に位置する一点(例えば、点41a、または点141a)と、軸線Oに最も近接する位置の一点(例えば、点41b、または点141b)とを最短距離で結んだ直線の軸線Oと直交する平面H1に対する傾斜角度をαとする。また、上記の第2傾斜部において、接地電極11の外側面側に位置する一点(例えば、点42a、または点142a)と、軸線Oに最も近接する位置の一点(例えば、点42b、または点141b)とを最短距離で結んだ直線の軸線Oと直交する平面H2に対する傾斜角度をβとする。
【0109】
上記の傾斜角度αおよびβは、以下の関係式(1)を満たしている。
β/α≧1.3 (1)
【0110】
また、中心電極21は、電極先端部を形成している電極チップ22と、電極チップ22を支持する電極母材23と、電極チップ22と電極母材23との間に配置されており、電極チップ22および電極母材23の成分を含む合金部(例えば、溶融部225)とを有している。電極チップ22と合金部との境界には、第1傾斜部(例えば、第1傾斜部241)が設けられており、電極母材23と合金部との境界には、第2傾斜部(例えば、第2傾斜部242)が設けられている。
【0111】
上記の第1傾斜部において、中心電極21の外側面側に位置する一点(例えば、点241a)と、軸線Oに最も近接する位置の一点(例えば、点241b)とを最短距離で結んだ直線の軸線Oと直交する平面H1に対する傾斜角度をαとする。また、上記の第2傾斜部において、中心電極21の外側面側に位置する一点(例えば、点242a)と、軸線Oに最も近接する位置の一点(例えば、点242b)とを最短距離で結んだ直線の軸線Oと直交する平面H2に対する傾斜角度をβとする。
【0112】
上記の傾斜角度αおよびβは、以下の関係式(1)を満たしている。
β/α≧1.3 (1)
【0113】
電極の先端に設けられている貴金属チップと、溶融部との境界における亀裂の発生は、溶融部を形成する際に用いられるレーザ光の照射位置を調節し(具体的には、照射位置を貴金属チップ側にする)、溶融部に含まれる貴金属チップの成分を増加させることによって抑制することができる。しかし、溶融部に含まれる貴金属チップの成分が増加すると、溶融部と電極母材との境界において亀裂が発生しやすくなる。
【0114】
そこで、溶融部と電極母材との境界に設けられている溶融部の形状(具体的には、傾斜角度αおよびβ)を、上記の関係式(1)を満たすように設定する。これにより、電極チップと溶融部との境界面の傾斜角度αに対して、溶融部と電極母材との境界面の傾斜角度βが十分に大きくなり、溶融部と電極母材との接合界面の表面積が増加する。そのため、溶融部と電極母材との境界において、ひずみによって発生する応力を分散することができる。したがって、電極母材と溶融部との境界における亀裂の発生を抑えることができる。
【0115】
〔実施例〕
以下に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、第1の実施形態で説明した製造方法で、スパークプラグ1の接地電極11の凸部11bを製造した。すなわち、電極チップ12を電極母材13にレーザ溶接によって接合した。
【0116】
上記のようにして製造された複数個のサンプルについて、酸化スケールの程度を確認した。酸化スケールの程度は、以下のようにして数値化した。
【0117】
図6は、スパークプラグ1の軸線O’を含み、接地電極11の凸部11bの延設方向に平行な任意の一断面の構成である。この
図6に示す任意の一断面において、電極母材13と溶融部15との境界における左右両側の側面方向に発生する亀裂Sの大きさを、A(mm)およびB(mm)とする。また、凸部11bの先端部(電極チップ12部分)の径をC(mm)とする。
【0118】
そして、酸化スケール(%)を以下の式で算出した。
酸化スケール(%)=(A+B)/C
【0119】
また、製造した複数個のサンプルについて、溶融部15における傾斜角度αおよび傾斜角度βを測定した。ここでは、スパークプラグ1の軸線O’を含む凸部11bの任意の一断面のうち、酸化スケール(%)を測定した断面と同じ断面における傾斜角度αおよびβを測定し、β/αを決定した。
【0120】
図7には、製造した複数のサンプルについて、β/αの値に対して、算出された酸化スケール(%)をプロットした結果を示す。なお、電極母材13から溶融部15が剥離しにくい構成とするためには、酸化スケール(%)は、40%以下であることが好ましい。
【0121】
図7に示すように、本実施例で得られた複数のサンプルにおいて、β/αが1.3以上であれば、酸化スケール(%)を40%以下とすることができることが確認された。また、β/αが1.5以上であれば、酸化スケール(%)をほとんどなくすことができる(すなわち、酸化スケールが0%となる)ことが確認された。
【0122】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、本明細書で説明した異なる実施形態の構成を互いに組み合わせて得られる構成についても、本発明の範疇に含まれる。
【0123】
例えば、本明細書における実施例では、第1傾斜部が凸部の外側面側に位置する一点から軸線Oに最も近接する位置の一点に向かって連続的に電極母材側に傾斜している形態について説明したが、凸部の外側面側に位置する一点と、軸線Oに最も近接する位置の一点とを最短距離で結んだ直線が平面H1に対して電極母材側に傾斜していればよい。同様に、第2傾斜部についても凸部の外側面側に位置する一点から軸線Oに最も近接する位置の一点に向かって連続的に電極チップ側に傾斜している形態について説明したが、凸部の外側面側に位置する一点と、軸線Oに最も近接する位置の一点とを最短距離で結んだ直線が平面H1に対して電極チップ側に傾斜していればよい。
【符号の説明】
【0124】
1 :スパークプラグ
11 :接地電極(電極)
12 :電極チップ
13 :電極母材
15 :溶融部(合金部)
21 :中心電極(電極)
22 :電極チップ
23 :電極母材
41 :第1傾斜部
42 :第2傾斜部
115 :溶融部(合金部)
141 :第1傾斜部
142 :第2傾斜部
225 :溶融部(合金部)
241 :第1傾斜部
242 :第2傾斜部