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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】焼成用セッター
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/577 20060101AFI20231124BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20231124BHJP
   F27D 3/12 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C04B35/577
C04B35/64
F27D3/12 S
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020166233
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057795
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古宮山 常夫
(72)【発明者】
【氏名】松葉 浩臣
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-112701(JP,A)
【文献】特開平05-270916(JP,A)
【文献】特開昭61-111968(JP,A)
【文献】特開2004-136216(JP,A)
【文献】特開平07-126070(JP,A)
【文献】特開平04-114969(JP,A)
【文献】特開2014-210697(JP,A)
【文献】特開平06-191944(JP,A)
【文献】特開2004-035298(JP,A)
【文献】特開2006-335594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/64
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC粒子と、前記SiC粒子を結合するSiOと、を含む酸化物結合炭化珪素質の焼成用セッターであり、
走査型顕微鏡で得られた焼成用セッターの断面画像からSiC粒子を選択して粒径を測定し、測定した粒径の平均値を算出して得られる個数平均粒子径が200μm以下であり、
前記焼成用セッターの厚みが7mm以下であり、
焼成用セッターを厚み方向に等間隔に10分割したときの表裏面を表層及び裏層とし、表層と裏層の間に存在する部分を中央としたときに、厚み方向中央の密度A1と厚み方向表層の密度A2が下記式(1)を満足している焼成用セッター。
0.8≦A1/A2≦1.1・・・(1)
【請求項2】
密度A1及び密度A2が、2.65g/cm3以下である請求項1に記載の焼成用セッター。
【請求項3】
厚みが3mm以下である請求項1または2に記載の焼成用セッター。
【請求項4】
3点曲げ強度が50MPa以上である請求項1から3のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項5】
骨材であるSiC粒子の周りをSiO が被覆している請求項1から4のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項6】
SiOがSiOとSiCとの合計質量に対して5質量%以上25質量%以下含まれている請求項1から5のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項7】
SiC粒子と、前記SiC粒子を結合するSiO と、を含む酸化物結合炭化珪素質の焼成用セッターであり、
前記焼成用セッターの厚みが7mm以下であり、
焼成用セッターを厚み方向に等間隔に10分割したときの表裏面を表層及び裏層とし、表層と裏層の間に存在する部分を中央としたときに、厚み方向中央の密度A1と厚み方向表層の密度A2が下記式(1)を満足している焼成用セッター。
0.8≦A1/A2≦1.1・・・(1)
【請求項8】
密度A1及び密度A2が、2.65g/cm3以下である請求項7に記載の焼成用セッター。
【請求項9】
厚みが3mm以下である請求項7または8に記載の焼成用セッター。
【請求項10】
3点曲げ強度が50MPa以上である請求項7から9のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項11】
骨材であるSiC粒子の周りをSiO が被覆している請求項7から10のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項12】
SiO がSiO とSiCとの合計質量に対して5質量%以上25質量%以下含まれている請求項7から11のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、焼成用セッターに関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、SiC粒子と、SiC粒子を結合するSiOを含む酸化物結合炭化珪素材料が開示されている。特許文献1の酸化物結合炭化珪素材料は、骨材として比較的大きな粒径のSiC粒子と、骨材同士を結合するSiOを形成するための比較的小さな粒径のSiC粒子を混合し、鋳込成形によって製造されている。特許文献1の酸化物結合炭化珪素材料は、焼成用セッターとして利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-335594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の酸化物結合炭化珪素材料は、鋳込成形を前提としており、厚みが厚く、高密度の成形体を製造する材料として有用である。特許文献1の酸化物結合炭化珪素材料は、焼成用セッターの材料として利用することもできるが、厚みが厚く、高密度の焼成用セッターに限定される。焼成用セッターでは、厚みを薄くする(例えば10mm以下にする)ことが要求されることがある。そのため、特許文献1の酸化物結合炭化珪素材料は、厚みが薄い焼成用セッターとして必ずしも最適なものではなく、改善の余地があるものであった。本明細書は、薄肉化が可能な酸化物結合炭化珪素の焼成用セッターを実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する焼成用セッターは、SiC粒子と、SiC粒子を結合するSiOを含む酸化物結合炭化珪素質である。この焼成用セッターは、SiC粒子のサイズが200μm以下であり、厚み方向中央の密度A1と厚み方向表層の密度A2が下記式(1)を満足していてよい。
0.8≦A1/A2≦1.1・・・(1)
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】焼成用セッターのSEM画像を示す。
図2】焼成用セッターの表層部分のEDSマッピング画像を示す。
図3】焼成用セッターの中央部分のEDSマッピング画像を示す。
図4】特性評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書で開示する焼成用セッターは、SiC粒子と、SiC粒子同士を結合するSiOを含む酸化物結合炭化珪素であってよい。SiOは、「Si」成分を含む微粒子(例えば、微粒のSiC)が酸化したものであってもよいし、原料として配合されたSiOであってもよい。SiOは、SiC粒子を被覆し、SiC粒子間を充填していてよい。SiOは、焼成用セッターを構成するマトリックス(SiC粒子とSiO)内に、5質量%以上25質量%以下含まれていてよい。SiOの含有量が5質量%以上であれば、SiC粒子間を充填し、SiC粒子同士を良好に結合することができる。また、SiOの含有量が25質量%以下であれば、SiC粒子(骨材)の量が確保され、焼成用セッターの強度を確保することができる。マトリックスに占めるSiOの含有量は、7質量%以上であってよいし、10質量%以上であってよいし、15質量%以上であってよいし、18質量%以上であってよいし、20質量%以上であってもよい。また、マトリックスに占めるSiOの含有量は、22質量%以下であってよいし、20質量%以下であってよいし、18質量%以下であってよいし、15質量%以下であってよいし、10質量%以下であってもよい。マトリックスに占めるSiOの含有量は、マトリックスについてXRD測定(X-ray Diffraction analysis)を行い、得られた結果をRIR法(Reference Intensity Ratio:参照強度比法)を用いることによって算出することができる。
【0008】
SiC粒子の個数平均粒子径は、200μm以下であってよい。200μm以下のSiC粒子であれば、焼成用セッターを製造する際の成形性が向上し、焼成用セッターの薄肉化を容易にすることができる。また、SiC粒子の個数平均粒子径が200μm以下であれば、プレス成形にて所望の厚みの薄い焼成用セッターを容易に製造することができる。なお、「200μm以下のSiC粒子」とは、SiC粒子の個数平均粒子径が200μm以下であることを意味し、200μm超のSiC粒子が存在することを妨げない。SiC粒子の個数平均粒子径は、180μm以下であってよく、160μm以下であってよく、140μm以下であってよく、120μm以下であってよく、100μm以下であってもよい。また、SiC粒子の個数平均粒子径は、50μm以上であってよい。50μm以上であれば、焼成用セッターを構成するマトリックスの緻密化が抑制され、熱衝撃による焼成用セッターの破損が抑制される。SiC粒子の個数平均粒子径は、70μm以上であってよく、100μm以上であってよく、120μm以上であってもよい。SiC粒子の個数平均粒子径は、走査型顕微鏡(SEM)等で得られた焼成用セッターの断面画像から3~5個のSiC粒子を選択して粒径を測定し、測定した粒径の平均値を算出して得ることができる。
【0009】
焼成用セッターのかさ密度は、2.65g/cm以下であってよい。より具体的には、焼成用セッターの厚み方向全体のかさ密度、後述する厚み方向中央の密度A1及び厚み方向表層の密度A2の各々が、2.65g/cm以下であってよい。かさ密度を2.65g/cm以下とすることにより、焼成用セッターを構成するマトリックスの緻密化が抑制され、熱衝撃による焼成用セッターの破損が抑制される。焼成用セッターのかさ密度は、2.65g/cm未満であってよいし、2.5g/cm以下であってよいし、2.45g/cm以下であってよいし、2.4g/cm以下であってよいし、2.35g/cm以下であってよいし、2.3g/cm以下であってもよい。焼成用セッターのかさ密度は、JIS R 1634:1998に基づき測定することができる。
【0010】
また、焼成用セッターの厚み方向中央の密度A1と厚み方向表層の密度A2が、下記式(1)を満足していてよい。
0.8≦A1/A2≦1.1・・・(1)
【0011】
上記式(1)は、密度A1が密度A2の0.8倍以上であり、1.1倍以下であることを意味している。なお、「焼成用セッターの厚み方向表層」とは、焼成用セッターを厚み方向に等間隔に10分割したときの表裏面に位置する層のことを意味する。また、「焼成用セッターの厚み方向中央」とは、表裏面の層の間に存在する部分を意味する。密度A1が密度A2の0.5倍以上であれば、焼成用セッターの表層(裏層)が極度に緻密化することが抑制され、熱衝撃による焼成用セッターの表面の破損(ひび割れ)を抑制することができる。また、密度A1が密度A2の6倍以下であれば、表層部分の強度が極度に低下することが抑制され、表層が剥離することを抑制することができる。「A1/A2」は、0.9以上であってもよい。また、「A1/A2」は、1.05以下であってもよい。特に好ましくは、「A1/A2」が「1」、すなわち、厚み方向中央の密度A1と厚み方向表層の密度A2が同一であることである。密度A1および密度A2は、焼成用セッターの面内3箇所を選択し、3箇所の各々について厚み方向表層および厚み方向中央の密度を測定し、3箇所の密度の平均値を算出して得ることができる。
【0012】
焼成用セッターは、厚みが7mm以下であってよい。このような焼成用セッターは、例えば、セラミックスコンデンサ等の電子部品を焼成するセッターとして有用である。より好ましくは、焼成用セッターの厚みは3mm以下である。また、3点曲げ強度が50MPa以上であれば、熱衝撃による焼成用セッターの破損を抑制することができる。より好ましくは、3点曲げ強度は、60MPa以上である。
【実施例
【0013】
図1は、厚さ3mmの焼成用セッターのSEM画像を示している。(a)は焼成用セッターの厚み方向表層部(表面から0.1mm深さの部分)のSEM画像を示し、(b)は焼成用セッターの厚み方向中央部(表面から1.5mm深さの部分)のSEM画像を示している。図2は、図1(a)に示した焼成用セッター(厚み方向表層部)のSEM画像をEDSマッピングした図を示している。(a)は「O元素」のマッピング画像であり、(b)は「Si元素」のマッピング画像である。図3は、図1(b)に示した焼成用セッター(厚み方向中央部)のSEM画像をEDSマッピングした図を示している。
【0014】
図1に示すように、焼成用セッターの厚み方向表層部及び中央部の双方ともに、およそ100μmの粗大粒子の周囲を微細粒子が被覆している。微細粒子は、粗大粒子の隙間を充填している。すなわち、微細粒子は、粗大粒子同士を結合している。図2及び図3から明らかなように、粗大粒子はSiCであり、微細粒子はSiO(微細SiCを含む)である。すなわち、図1に示す焼成用セッターは、SiOがSiC粒子の隙間を充填し、SiOによってSiC粒子同士が結合されている。
【0015】
図1に示す焼成用セッター(試料1)は、以下の手順で作製した。まず、粗粒(粒径50~300μm)のSiC粒子30質量%と微粒(粒径0.5~30μm)のSiC粒子70質量%を混合して造粒し、混合粉体を作製した。次に、混合粉体に対して、外掛けで、バインダー(水ガラス、PVA:ポリビニルアルコール)及び焼成助剤(SiO,MnO,CaCO,V)0.5質量%、溶媒(水)15質量%を添加し、油圧プレス成形機を用いて成形体を作製した。その後、成形体を大気雰囲気で1300℃、5時間焼成した。また、粗粒SiC粒子及び微粒SiC粒子の配合割合を変化させ、試料2~11も作製した。各試料における粗粒SiC粒子及び微粒SiC粒子の配合割合を図4に示す。なお、試料2~5は、各々試料6~9と厚みが異なるだけであり、SiC粒子の配合割合は同じである。また、試料10及び11は、鋳込成形にて10mmの成形体を作製した。
【0016】
(特性評価)
上述した焼成用セッター(試料1~11)について、厚み方向表層及び中央のかさ密度、得られた焼成用セッターの外観評価(成形性)、焼成用セッターに含まれるSiC粒子の粒径(個数平均粒子径)、焼成用セッターに含まれるSiOと量(質量%)とSiC量(質量%)の測定及び3点曲げ強度の測定を行った。結果を図4に示す。なお、3点曲げ強度については、5個の測定結果の平均値が60MPa以上の場合に「A」、50MPa以上60MPa未満の場合に「B」、50MPa未満の場合に「C」として評価した。3点曲げ強度は、「A」及び「B」が合格レベルである。また、外観評価は、得られた焼成用セッターを目視し、気泡の残留が確認されなかった場合「A」、気泡の残留が確認された場合「B」とした。
【0017】
図4に示すように、試料1~9は、試料10及び11よりも外観評価が良好であることが確認された。すなわち、焼成用セッターに含まれるSiC粒子の個数平均粒子径が200μm以下であり、密度A1/A2を0.8以上1.1以下(厚み方向の密度差が0.8倍以上,1.1倍以下)に調整することにより、気泡の残留が抑制された焼成用セッターを実現することができることが確認された。なお、試料10は、気泡が確認されたが、曲げ強度が高いことが確認された。試料11は、気泡が確認され、さらに曲げ強度も低い結果であった。また、試料1~9は何れも高い曲げ強度であったが、試料2~4,6~8は、試料1,5,9と比較して、曲げ強度が高いことが確認された。試料2~4,6~8は、粗大粒子(SiC粒子)が粗大粒子と微細粒子(微細SiC粒子と微細SiO粒子)の合計質量に対して40質量%以上60質量%という特徴を有する。一方、試料1は粗大粒子が粗大粒子と微細粒子の合計質量に対して40質量%未満であり、試料5及び9は粗大粒子が粗大粒子と微細粒子の合計質量に対して60質量%超という特徴を有する。
【0018】
図4に示すように、厚みによる曲げ強度の差異は確認されなかった(試料2~5と、試料6~9を比較)。すなわち、明細書で開示する焼成用セッターは、厚みを薄く(3mm以下に)しても、高強度が得られることが確認された。焼成用セッターの厚みが薄い程、焼成用セッターの熱容量が小さくなり、焼成用セッターの温度追従性が向上する。なお、試料1~11は、何れもSiO量がSiOとSiCとの合計質量に対して5質量%以上25質量%以下であることが確認された。
【0019】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2
図3
図4