(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】コンクリート
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20231124BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20231124BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20231124BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/02 B
C04B18/14 A
C04B22/14 B
(21)【出願番号】P 2020191280
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴士
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 秀介
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134697(JP,A)
【文献】特開2017-114697(JP,A)
【文献】特開2013-155093(JP,A)
【文献】特開平11-092200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/02
C04B 14/02
C04B 18/14
C04B 22/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート組成物を混練して製造されたコンクリートであって、
前記コンクリート組成物は、セメントを含む結合材と、前記結合材に対する重量比が15%以上52%以下である150kg/m
3
以上185kg/m
3
以下の水と、絶対容積が300L/m
3
以上380L/m
3
以下の粗骨材と、絶対容積が97L/m
3
以上221L/m
3
以下の人工軽量細骨材と、を含有し、
圧送時のポンプ圧力が7Pa以上20MPa以下である場合に、
JIS A 1150に規定されたスランプフロー試験方法により測定した、荷卸し地点で採取した荷卸しコンクリートのスランプフロー値が47cm以上72cm以下であり、
前記スランプフロー試験方法により測定した、圧送配管の筒先で採取した筒先コンクリートのスランプフロー値が34cm以上82cm以下であり、
荷卸しコンクリートのスランプフロー値に対する筒先コンクリートのスランプフロー値の比が0.7以上1.2以下であることを特徴とするコンクリート。
【請求項2】
前記結合材は、スラグせっこう系混和材を含んでおり、
前記セメントは、普通ポルトランドセメントまたは中庸熱ポルトランドセメントであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリー
ト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物、および、このコンクリート組成物を混練して製造されたコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建設現場では、生コン工場から現場までコンクリートミキサー車でコンクリートを運搬し、現場にて、コンクリートミキサー車からコンクリートを荷卸しして、コンクリート圧送車のホッパ内に投入する。そして、コンクリート圧送車のポンプにより、圧送配管を通して、ホッパ内のコンクリートを打設箇所まで圧送する。ここで、圧送配管が長くなると、圧送配管の先端側では、コンクリートの流動性が低くなり、打設作業を円滑に行うことができない、という問題があった。
特許文献1には、コンクリートの細骨材の一部を人工軽量細骨材に置換することで、圧縮強度が120N/mm2以上でありながら、硬化時の自己収縮が小さいコンクリート組成物が示されている。
【0003】
特許文献2には、粗骨材として絶乾比重0.8~1.5で吸水率8%以下の軽量骨材を使用し、コンクリート中にバイオガム系の増粘剤を配合する軽量骨材コンクリートが示されている。
特許文献3には、細骨材と粗骨材とセメントとを含むコンクリート組成物であって、細骨材の全量に対して、10質量%以上25質量%以下の天然砂と、75質量%以上90質量%以下の砕砂とを細骨材として含むコンクリート組成物が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6180946号公報
【文献】特開2000-327393号公報
【文献】特開2017-226857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、圧送配管の先端側においても、高い流動性を確保可能な、コンクリートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、コンクリート組成物の結合材としてセメントを使用し、かつこのコンクリート組成物に所定量の人工軽量細骨材を含有させることで、特殊混和剤や増粘剤を添加することなく、コンクリート圧送管の筒先採取時においても、流動性の低下を抑制可能であることを見出し、本発明に至った。さらに、このコンクリート組成物が流動性の低下を抑制可能であることをコンクリートのポンプ圧送性に関する検証実験によって確認した。
第1の発明のコンクリート組成物は、セメントを含む結合材と、前記結合材に対する重量比が15%以上52%以下である150kg/m3以上185kg/m3以下の水と、絶対容積が300L/m3以上380L/m3以下の粗骨材と、絶対容積が97L/m3以上221L/m3以下の人工軽量細骨材と、を含有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、絶対容積が97L/m3以上221L/m3以下の人工軽量細骨材をコンクリートに使用することで、コンクリート圧送管の先端側におけるコンクリートの流動性の低下を抑制できる。
【0008】
長距離をポンプで圧送するコンクリートに、人工軽量細骨材を所定量含有させることで、コンクリートの流動性の低下を抑制できる理由は、以下の通りである。すなわち、人工軽量細骨材は、軽量化を図るために、内部に多数の空隙が形成されており、この多数の空隙に水分が充填された状態で、フレッシュコンクリートの製造に使用される。よって、フレッシュコンクリート中の人工軽量細骨材は、内部に多量の水分を保持しているが、圧送時にフレッシュコンクリートが圧力やせん断力を受けることで、人工軽量細骨材中の水分がフレッシュコンクリート中に放出されたり、人工軽量細骨材がすり切られて内部の水分と共にペースト状となったりする。これにより、フレッシュコンクリートのみかけの水量やペースト量が増大し、フレッシュコンクリートの流動性の低下が抑制される。
また、本発明では、従来の調合で使用される細骨材の一部を人工軽量細骨材に置換するだけで、コンクリート圧送時におけるコンクリート圧送管の筒先採取時においても、優れた流動性を有するコンクリートを実現できる。よって、特殊混和剤や増粘剤を添加することなく流動性を確保できるので、材料コストを低減できるうえに、コンクリートの凝結時間が遅延する現象を防止できる。
【0009】
第2の発明のコンクリート組成物は、前記結合材は、スラグせっこう系混和材を含んでおり、前記セメントは、普通ポルトランドセメントまたは中庸熱ポルトランドセメントであることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、結合材にスラグせっこう系混和材を含めた。スラグせっこう系混和材は、電気炉での精錬工程で比較的容易に入手可能であり、かつ人工物であるので、材料特性のばらつきを少なくして、高品質のコンクリートを実現できる。
結合材は、例えば、普通ポルトランドセメント、スラグせっこう系混和材、シリカフュームを重量比7:2:1で混合した三成分セメントである。
【0011】
第3の発明のコンクリートは、上述のコンクリート組成物を混練して製造されたコンクリートであって、圧送時のポンプ圧力が7Pa以上20MPa以下である場合に、JIS A 1150に規定されたスランプフロー試験方法により測定した、荷卸し地点で採取した荷卸しコンクリートのスランプフロー値が47cm以上72cm以下であり、前記スランプフロー試験方法により測定した、圧送配管の筒先で採取した筒先コンクリートのスランプフロー値が34cm以上82cm以下であり、荷卸しコンクリートのスランプフロー値に対する筒先コンクリートのスランプフロー値の比が0.7以上1.2以下であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、上述の第1の発明と同様の効果がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長距離圧送となる圧送配管の先端側においても、普通強度コンクリートから超高強度コンクリートまで高い流動性を確保可能な、コンクリートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のコンクリート組成物の検証実験に係る実施例および比較例の概要を示す図である。
【
図2】検証実験に用いるコンクリートの使用材料および調合表を示す図である。
【
図3】各コンクリートの検証実験で使用する圧送配管の配置を示す平面図である。
【
図4】検証実験の実験結果(圧送時の最大圧力、スランプ、スランプフロー、スランプフロー比)を示す図である。
【
図5】検証実験の実験結果(圧送時の最大圧力とスランプフロー比との関係)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、普通強度から超高強度までの範囲のコンクリートを対象とした所定のポンプ圧送圧の範囲(7~20MPa)において、高い流動性が確保可能なコンクリート組成物、およびそのコンクリート組成物を混練して製造されたコンクリートである。普通強度コンクリートとは、本発明による検証実験では、コンクリートの圧縮強度が24N/mm2である。また、超高強度コンクリートとは、本発明による検証実験では、コンクリートの圧縮強度が150N/mm2のコンクリートである。
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、説明する。
本発明のコンクリート組成物は、結合材と、結合材に対する重量比が15%以上52%以下である150kg/m3以上185kg/m3以下の水と、絶対容積が300L/m3以上380L/m3以下の粗骨材と、絶対容積が97L/m3以上221L/m3以下の人工軽量細骨材と、を含有する。
結合材は、セメントに加えて、シリカフュームおよびスラグせっこう系混和材を含んでよい。セメントは、例えば、普通ポルトランドセメントや中庸熱ポルトランドセメントである。
人工軽量細骨材は、JIS A 5002(2003)構造用軽量コンクリート骨材に規定される、膨張頁岩、膨張粘土、膨張スレート、フライアッシュを主原料とした細骨材である。人工軽量細骨材の粒度は、粒の大きさの範囲5mm以下と、0.3~5mmの間において、それぞれふるい網を通過する粒度の質量分布率が定められている。例えば、人工軽量細骨材としては、日本メサライト工業株式会社製の構造用人工軽量骨材メサライトがある。
【0017】
以上のコンクリート組成物を混練してコンクリートを製造し、このコンクリートを圧送して所定箇所に打設する。
このコンクリートは、圧送時のポンプ圧力が7Pa以上20MPa以下である場合に、JIS A 1150に規定されたスランプフロー試験方法により測定した、荷卸し地点で採取した荷卸しコンクリートのスランプフロー値が47cm以上72cm以下であり、スランプフロー試験方法により測定した、圧送配管の筒先で採取した筒先コンクリートのスランプフロー値が34cm以上82cm以下であり、荷卸しコンクリートのスランプフロー値に対する筒先コンクリートのスランプフロー値の比で表わされるスランプフロー比が0.7以上1.2以下であることが好ましい。
このように、荷卸し地点および筒先におけるコンクリートのスランプフロー値、ならびに、スランプフロー比を規定することで、後述の検証実験の
図4および
図5に示すように、人工軽量細骨材を所定量含有させたコンクリートを圧送した際に、圧送時の最大圧力にかかわらず、スランプフロー比が高くなる。
【0018】
〔検証実験〕
本願発明のコンクリートにおける人工軽量細骨材の効果を検証するため、コンクリート種類、圧送距離、および最大圧送圧を実験パラメータとして、コンクリートをポンプで圧送して、圧送前(荷卸し)および圧送後(筒先)においてコンクリートの流動性を計測した。
図1に、実施例および比較例の概要を示す。本実験では、人工軽量細骨材を含むコンクリートを実施例1、2とし、人工軽量細骨材を含まないコンクリートを比較例1、2とした。
図2に、検証実験に用いるコンクリートの使用材料および調合表を示す。
図2(a)中の記号は、以下の材料を示す。
W:上水道水
C:普通ポルトランドセメント(密度3.15g/cm
3)
S1:陸砂(表乾密度2.58g/cm
3)
S2:石灰砕砂(表乾密度2.66g/cm
3)
S3:人工軽量細骨材(表乾密度1.91g/cm
3)、メサライト細骨材(日本メサライト工業(株))
G1:人工軽量粗骨材(表乾密度1.69g/cm
3)
混和剤:高性能AE減水剤
【0019】
また、
図2(b)中の記号は、以下の材料を示す。
W:上水道水
B:高強度用3成分セメント(密度2.99g/cm
3)(普通ポルトランドセメント、スラグせっこう系混和材、シリカフュームを重量比7:2:1で混合したもの)
EX:早強性膨張材(密度3.19g/cm
3)
C:中庸熱ポルトランドセメント(密度3.21g/cm
3)、太平洋セメント(株)製
A:高強度用混和材(密度2.44g/cm
3)、シリカフュームおよびスラグせっこう系混和材の混合材
S3:人工軽量細骨材(表乾密度1.91g/cm
3)、メサライト細骨材(日本メサライト工業(株))
S4:安山岩砕砂(表乾密度2.62g/cm
3)、山梨県大月(甲州砕石(株)製)
G2:安山岩砕石(表乾密度2.64g/cm
3)、山梨県大月(甲州砕石(株)製)
混和剤:高性能減水剤、BASFジャパン(株)製
【0020】
図2中、結合材は、C(普通ポルトランドセメント)、B(高強度用3成分セメント)、A(高強度用混和材)である。
また、細骨材は、S1(陸砂)、S2(石灰砕砂)、S3(人工軽量細骨材)、S4(安山岩砕砂)であり、このうち、人工軽量細骨材は、S3(人工軽量細骨材)である。
また、粗骨材は、G1(人工軽量粗骨材)、G2(安山岩砕石)である。
【0021】
検証実験では、以上のコンクリートをポンプで圧送して、圧送前(荷卸し)および圧送後(筒先)におけるコンクリートの状態の変化を調べた。
図3(a)は、検証実験で使用する圧送配管の全体配置を示す。この圧送配管の全てを使用すると、圧送距離は950.6m(配管長さは940m)となるが、本検証実験では、この圧送配管の一部を使用した。具体的には、比較例1および実施例1(Fc24)については、
図3(b)に示すように、圧送距離を735mとし、比較例2および実施例2(Fc150)については、
図3(c)に示すように、圧送距離を252mとした。
検証実験では、圧送配管の所定位置に管内圧力を測定する圧力計を配置した。この圧力計の設置位置は、圧送配管の直線部分の圧力損失をできる限り正確に測定するため、1直線部につき、両端部と中央部との合計3箇所とした。圧力計は、株式会社東京測器研究所製のフラッシュダイアフラム型圧力計(50MPa、20MPa、10MPa)とし、圧力の計測ピッチは、0.1秒に1回とした。
【0022】
図4および
図5は、検証実験の実験結果である。
図4は、圧送時の最大圧力、スランプ、スランプフロー、スランプフロー比を示す。スランプフロー比とは、荷卸し時のスランプフローに対する筒先のスランプフローの割合であり、この値が小さいほど、圧送後の流動性が低下したことを意味する。なお、本実験では、各コンクリートについて、最大圧力を変化させて複数回実験を行った。
【0023】
図5(a)より、Fc24について、人工軽量細骨材を使用した場合(実施例1)には、人工軽量細骨材を使用しない場合(比較例1)に比べて、圧送時の最大圧力にかかわらず、スランプフロー比が高くなることが判る。この実施例1における圧送圧力は、6.9(7)MPa~18.4(18)MPaの間である。
また、
図5(b)より、Fc150についても、人工軽量細骨材を使用した場合(実施例2)には、人工軽量細骨材を使用しない場合(比較例2)に比べて、圧送時の最大圧力にかかわらず、スランプフロー比が高くなることが判る。この実施例2における圧送圧力は、9.4(9)MPa~19.5(20)MPaの間である。
【0024】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)絶対容積が97L/m3以上221L/m3以下の人工軽量細骨材を、コンクリートに使用することで、コンクリート圧送管の先端部におけるコンクリートの流動性の低下を抑制できる。
また、本発明では、従来の調合で使用される細骨材の一部を人工軽量細骨材に置換するだけで、コンクリート圧送時におけるコンクリート圧送管の筒先採取時においても、優れた流動性を有するコンクリートを実現できる。よって、特殊混和剤や増粘剤を添加することなく流動性を確保できるので、材料コストを低減できるうえに、コンクリートの凝結時間が遅延する現象を防止できる。
【0025】
(2)結合材にスラグせっこう系混和材を含めた場合には、材料特性のばらつきを少なくして、高品質のコンクリートを実現できる。
【0026】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。