(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】部分旋光子、ならびにこれを用いた部分旋光フィルム、中間膜積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231124BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20231124BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20231124BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20231124BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20231124BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20231124BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/13363
G02F1/13 505
G02B27/01
G09F9/00 359
G09F9/00 313
G09F9/00 338
B32B7/023
(21)【出願番号】P 2020531335
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028060
(87)【国際公開番号】W WO2020017544
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018135579
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 興一
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016549(WO,A1)
【文献】特開平09-138308(JP,A)
【文献】特開平09-113862(JP,A)
【文献】特開平06-289374(JP,A)
【文献】特開平02-141720(JP,A)
【文献】特開平06-040271(JP,A)
【文献】米国特許第05101296(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋光性を発現する第1の領域としての中央部と、法線方向に対して旋光性を発現しない第2の領域としての外周部とを含む液晶層を少なくとも1層備え、
前記第1の領域と前記第2の領域とが同一の前記液晶層内に存在しており、
前記第1の領域が画像表示領域であり、前記第2の領域が画像表示領域以外の領域であり、
前記第1の領域が、1/2波長板またはねじれネマチック液晶層である部分旋光子を有する機能性ガラスを備えるヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記液晶層が、重合性液晶モノマーまたは液晶ポリマーを含有する液晶層形成用組成物から形成される液晶配向層である請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記第1の領域が、入射光の偏光面に0.8π以上1.2π以下の位相差を与える請求項1又は2に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記部分旋光子がプラスチックフィルム上に形成された請求項1~3のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項5】
前記部分旋光子の片面または両面に配置された中間膜を備える請求項1~4のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項6】
前記部分旋光子の両面に設けられた2枚のガラス板を有する機能性ガラスを備える請求項1~5のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項7】
旋光性を発現する液晶層の一部の領域を法線方向に旋光性が発現しない配向状態または等方性状態に変えることにより、旋光性を発現する第1の領域と法線方向に旋光性を発現しない第2の領域とを同一の液晶層内に形成する部分旋光子を備える請求項1~6のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばヘッドアップディスプレイに利用するのに好適な部分旋光子、ならびにこれを用いた部分旋光フィルム、中間膜積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機等の運転者に情報を表示する方法として、ナビゲーションシステム、ヘッドアップディスプレイ(以下、「HUD」ともいう)等が用いられている。HUDは液晶表示体(以下、「LCD」という)等の画像表示手段から投射された画像を、例えば自動車のフロントガラス等に投影するシステムである。
【0003】
画像表示手段から出射した表示光は、反射鏡にて反射され、さらにフロントガラスで反射された後、観察者に到達する。観察者はフロントガラスに投影された表示画像を見ているが、表示画像は虚像としてフロントガラスよりも遠方の位置にあるように見える。この方法では、運転者はフロントガラスの前方を注視した状態でほとんど視線を動かすことなく、様々な情報を入手することができるため、視線を移さなければならなかった従来のカーナビゲーションに比べ安全である。
【0004】
フロントガラスは、通常、合わせガラスとして形成されている。フロントガラスに映る投影画像は、車内の観察者側のガラスと車外側のガラスとのそれぞれで反射されて表示されるため、2つの反射された投影画像が重なった二重写りが発生する。このような現象はゴースト現象と呼ばれており、観察者の画像視認性を著しく低下させてしまう。この問題に対して、これまで種々の対策が検討されてきた。
【0005】
特許文献1には、楔形中間膜を用いることにより、観察者側のガラスの反射像と車外側のガラスの反射像を一致させ、二重写りの発生を抑制する技術が開示されている。また、特許文献2および特許文献3には、合わせガラス内に1/2波長フィルムまたはねじれネマチック液晶からなる旋光子を配置し、投影画像をS偏光にしてブリュースター角で入射させることにより、車外側のガラスでの反射を無くし、観察者側のガラスのみで画像を投影して二重写りの発生を抑制する技術が開示されている。さらに、特許文献4には、合わせガラス内に1/4波長板とコレステリック液晶からなる光反射層とを組み合わせた光制御フィルムを配置し、この光制御フィルムにP偏光にした投影画像をブリュースター角で入射させることにより、二重写りの発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2815693号公報
【文献】特開平2-141720号公報
【文献】特許第2958418号公報
【文献】特許第5973109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
路面等からの反射光による眩しさの低減のために、サングラスを用いる場合がある。一般に、路面での反射光は偏光になる性質があるため、これらの反射光に対しては偏光サングラスの使用が有効である。一方、例えば、特許文献2、3に開示されている技術では、二重写りの発生は抑制されるものの、S偏光となった路面からの反射光がフロントガラスから車内に入る際にP偏光に変換されてしまう。偏光サングラスは、路面で反射したS偏光を吸収するように偏光子が配置されているため、日中の運転時に偏光サングラスを使用しても遮光効果が得られなくなってしまう。このため、特許文献2、3に開示されている技術を用いる場合は、フロントガラス全面ではなく、画像投影領域にのみ、1/2波長板またはねじれネマチック液晶からなる旋光子を配置する必要があった。しかしながら、実際のフロントガラスにおいては、画像投影領域にのみこれらの旋光子を配置すると、旋光子が配置される領域の境界線が肉眼で容易に視認できるため、外観的に見劣りしてしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、画像表示領域の二重写りの発生を抑制し、かつ、画像表示領域と他の領域との境界線が分かりにくい見栄えが良好なフロントガラスの実現を可能とする部分旋光子、ならびにこれを用いた部分旋光フィルム、中間膜積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、旋光性を発現する領域と、法線方向に対して旋光性を発現しない領域とを切れ目のない一体的な同一層として構成するようにすることにより、画像表示領域の二重写りの発生を抑制しつつ、画像表示領域と画像非表示領域との境界線の視認性を軽減し、フロントガラスの見栄えを大きく改善できることを新規に見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は[1]~[9]に関する。
[1] 旋光性を発現する第1の領域と、法線方向に対して旋光性を発現しない第2の領域とを含む液晶層を少なくとも1層備え、
前記第1の領域と前記第2の領域とが同一の前記液晶層内に存在することを特徴とする部分旋光子。
[2] 前記液晶層が、重合性液晶モノマーまたは液晶ポリマーを含有する液晶層形成用組成物から形成される液晶配向層である[1]に記載の部分旋光子。
[3] 前記第1の領域が、1/2波長板またはねじれネマチック液晶層である[1]または[2]に記載の部分旋光子。
[4] 前記第1の領域が、入射光の偏光面に0.8π以上1.2π以下の位相差を与える[1]~[3]のいずれかに記載の部分旋光子。
[5] プラスチックフィルムと、
前記プラスチックフィルム上に形成された[1]~[4]のいずれかに記載の部分旋光子と、を備える部分旋光フィルム。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の部分旋光子または[5]に記載の部分旋光フィルムと、
前記部分旋光子または前記部分旋光フィルムの片面または両面に配置された中間膜と、を備える中間膜積層体。
[7] [1]~[4]のいずれかに記載の部分旋光子、[5]に記載の部分旋光フィルムまたは[6]に記載の中間膜積層体と、
前記部分旋光子、前記部分旋光フィルムまたは前記中間膜積層体の両面に設けられた2枚のガラス板と、を備える機能性ガラス。
[8] [1]~[4]のいずれかに記載の部分旋光子、[5]に記載の部分旋光フィルム、[6]に記載の中間膜積層体または[7]に記載の機能性ガラスを備えるヘッドアップディスプレイ。
[9] 旋光性を発現する液晶層の一部の領域を法線方向に旋光性が発現しない程度の配向状態または等方性状態に変えることにより、旋光性を発現する第1の領域と法線方向に旋光性を発現しない第2の領域とを同一の液晶層内に形成する[1]~[4]のいずれかに記載の部分旋光子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、画像表示領域の二重写りの発生を防止し、かつ、画像表示領域と他の領域との境界線が分かりにくい見栄えが良好なフロントガラスの実現を可能とする部分旋光子、ならびにこれを用いた部分旋光フィルム、中間膜積層体、機能性ガラスおよびヘッドアップディスプレイを提供することができる。さらに、本発明に係る部分旋光子は、旋光性を発現する領域(画像表示領域)以外は旋光性を発現しないため、外部から部分旋光子に入射してくる光の眩しさを偏光サングラスにより軽減する効果を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る部分旋光子を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る部分旋光フィルムを示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る中間膜積層体を示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る機能性ガラスを示す模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るHUDを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、下記の実施形態は、本発明のいくつかの代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の変更を加えることができる。また、後述する(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基またはメタクリロイル基を表わし、分子中互いに独立して存在することを意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0014】
[部分旋光子]
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る部分旋光子7は、旋光性を発現する第1の領域8と、法線方向に対して旋光性を発現しない第2の領域9とを含む液晶層を少なくとも1層備える。部分旋光子7は、旋光性を発現する第1の領域8と、旋光性を発現しない第2の領域9とを含む液晶層それ自体であってもよい。ここで、「部分旋光子」とは、部分的に旋光性を示す領域を有する旋光子を意味する。また、「法線方向」とは、部分旋光子の表面に対して垂直方向を意味する。
【0015】
旋光性を発現する第1の領域8と、法線方向に対して旋光性を発現しない第2の領域9とは、同一の液晶層内に存在する。そのため、第1の領域8および第2の領域9は、切れ目のない1つの素子を構成する。よって、第1の領域8と第2の領域9との境界線10は、肉眼による通常の観察で判別することが困難となり、外観特性が向上する。
【0016】
液晶層は、重合性液晶モノマーまたは液晶ポリマーを含有する液晶層形成用組成物から形成される液晶配向層であることが好ましい。液晶層形成用組成物は、重合性液晶モノマーまたは液晶ポリマーを含有し、任意に光重合開始剤および助剤等をさらに含有することができる。また、液晶層形成用組成物は、液晶分子にねじれを付与するカイラル剤をさらに含有してもよい。一方、液晶層の材料として、1/2波長板の材料に一般的に用いられているポリカーボネート、および一軸延伸フィルムの材料に用いられるシクロオレフィンポリマーといった高分子フィルムを使用しても、同一の液晶層内に旋光性を発現する領域と旋光性を発現しない領域を作製することができないため、これらの材料は、部分旋光子7を構成する材料として採用することはできない。
【0017】
部分旋光子7が液晶層を備えることにより、画像表示領域に相当する第1の領域8が1/2波長板として作用するように第1の領域8に存在する液晶分子を配向させ、一方で、画像表示領域以外の領域に相当する第2の領域9に存在する液晶分子を実質的に旋光性が発現しない程度の配向状態または等方性状態にし、各領域の液晶分子を重合等により硬化・固定化させることができる。また、重合性液晶モノマー分子内にキラリティーを持たせるか、液晶層形成用組成物にカイラル剤を添加した場合、ねじれネマチック液晶を含む領域を得ることができる。このため、第1の領域に存在する液晶分子をねじれ配向させておき、第2の領域に存在する液晶分子は旋光性が発現しない程度の配向状態または等方性状態にして固定化させることにより、旋光性を発現する第1の領域8と、旋光性を発現しない第2の領域9とを区分けすることができる。
【0018】
旋光性を発現する第1の領域8に液晶分子が配向している場合、第1の領域8は、1/2波長板またはねじれネマチック液晶層であることが好ましい。この場合、旋光性を発現する第1の領域8は、入射光の偏光面に好ましくは0.8π以上1.2π以下、より好ましくはπ(=λ/2)の位相差を与える性質を有し、S偏光をP偏光へ、またはP偏光をS偏光へ変換する機能を有する。第1の領域8が1/2波長板として機能する場合は、位相差は、好ましくは0.8/2以上1.2/2以下、より好ましくは0.9/2以上1.1/2以下である。第1の領域8がねじれネマチック液晶層である場合、旋光角は、好ましくは160°以上200°以下、より好ましくは170°以上190°以下、さらに好ましくは175°以上185°以下である。
【0019】
法線方向に対して旋光性を発現しない第2の領域9は、液晶分子が法線方向に対して旋光性が発現しない程度の配向状態または等方性状態であり、透明である。ここで、「旋光性を発現する」とは、位相差値が少なくとも対象とする光の波長に対して、50nm超であることを意味し、「旋光性を発現しない」とは、位相差値が0nm以上50nm以下、好ましくは0nm以上30nm以下、より好ましくは0nm以上20nm以下であり、さらに好ましくは光学的に等方性、すなわち、位相差値が0nmであることを意味する。第2の領域9は、法線方向に限らず、全方向に旋光性が無いことが好ましい。
【0020】
旋光性を発現する第1の領域8と、法線方向に対して旋光性を発現しない第2の領域9との境界線10は、肉眼による通常の観察で判別することが難しく、その結果、フロントガラスとしての見栄えを損なうことがない。このような境界線10の視認性の軽減は、従来の技術のように画像表示領域だけに旋光子を別途配置する場合と異なり、第1の領域8と第2の領域9とが同一の液晶層内にありながら、各領域が液晶分子の配向の違いのみで形成されることにより達成される。
【0021】
部分旋光子7は、2層以上の液晶層の積層体であってもよい。例えば、部分旋光子7が2層の液晶層の積層体である場合、2つの液晶層のうち一方は、旋光性を発現する領域として入射光の偏光面に3π/2(=3λ/4)の位相差を与える領域、すなわち3/4波長板として機能する領域を有する液晶層(以下、「第1の液晶層」とも称する)であり、他方は、旋光性を発現する領域として入射光の偏光面にπ/2(=λ/4)の位相差を与える領域、1/4波長板として機能する領域を有する液晶層(以下、「第2の液晶層」とも称する)であることが好ましい。あるいは、入射光の偏光軸に対しπの位相差を与える第1の液晶層の遅相軸が22.5°となるように配置し、他方は入射光の偏光面に対しπの位相差を与える第2の液晶層の遅相軸が67.5°となるように積層した構成であってもよい。第1の液晶層における旋光性を発現する領域と、第2の液晶層における旋光性を発現する領域とは、同様の波長依存性を有することが好ましい。ここで、「同様の波長依存性」とは、波長550nmにおける位相差値に対する波長400nmにおける位相差値の比がほぼ1であることを意味し、位相差値の比は、0.9以上1.1以下であることが好ましく、0.95以上1.05以下であることがより好ましく、0.97以上1.03以下であることがさらに好ましい。第1の液晶層における3/4波長板として機能する領域と第2の液晶層における1/4波長板として機能する領域のそれぞれの遅相軸がなす角度は、光の入射角方向に対して直交となるように第1の液晶層と第2の液晶層とが配置されることが好ましい。該角度は後述するように光の入射角に応じて調整することができる。このような第1の液晶層および第2の液晶層の積層体を部分旋光子7として用いることにより、投影画像の品位を改善し、二重写りの発生をより抑制することができる。
【0022】
部分旋光子は、旋光性を発現する液晶層の一部の領域を、法線方向に対して旋光性が発現しない程度の配向状態または等方性状態に変えることにより、旋光性を発現する第1の領域と法線方向に旋光性を発現しない第2の領域とを同一の液晶層内に形成することにより製造できる。
【0023】
部分旋光子を製造する方法の具体的な手順としては、例えば、(1)支持基板上に所望の旋光性を有するように液晶分子が配向した液晶層を得る工程、(2)(1)で得られた支持基板上の液晶層の一部の領域を加熱して、旋光性を発現しない第2の領域に相当する被加熱領域を形成する工程、および(3)被加熱領域が加熱された状態で、液晶層に存在する液晶分子の配向を固定化する工程を行う。
【0024】
(1)支持基板上に所望の旋光性を有するように液晶分子が配向した液晶層を得る工程では、液晶層形成用組成物を支持基板上に厚みができるだけ均一になるように塗布し、さらに加熱して液晶層形成用組成物中の溶剤を除去することにより、支持基板上に形成された塗膜中に含まれる液晶分子を配向させる。加熱の温度および時間は、液晶の種類に応じて適宜調整することができる。液晶層形成用組成物の支持基板上への塗布量は、塗膜の硬化後に部分旋光子の第1の領域が所望の旋光性を有するように適宜調整することができる。
【0025】
(2)(1)で得られた支持基板上の液晶層の一部の領域を加熱して、旋光性を発現しない第2の領域に相当する被加熱領域を形成する工程では、旋光性を発現しない第2の領域を形成したい領域をホットプレート等で加熱する。加熱は液晶が等方性に相転移する温度まで行うことが好ましいが、液晶の種類により相転移の温度は異なるため、液晶の種類に応じて加熱温度を調整する。加熱する時間は、液晶の流動性に応じて適宜調整できる。このとき、旋光子として機能させる第1の領域の液晶配向が変化することを防ぐため、被加熱領域以外の領域は、温度が上昇しないように保持することが好ましい。
【0026】
(3)被加熱領域が加熱された状態で、液晶層に存在する液晶分子の配向を固定化する工程では、第2の領域に相当する被加熱領域のみを加熱した状態を保持したまま、支持基板上の液晶層の全体に高圧水銀灯等で紫外線を照射し、液晶層内に含まれる液晶分子の配向を固定化させる。これにより、部分的に旋光性を有する領域が形成された液晶層を得ることができる。こうして得られた液晶層から支持基板として用いた透明なプラスチックフィルムを剥離することにより重合性液晶の硬化膜である部分旋光子が得られる。
【0027】
部分旋光子が2層以上の液晶層の積層体を備える場合は、各液晶層を重ねあわせる位置を予め決定し、各液晶層を上述の(1)~(3)の手順に従って作製した後、各液晶層を重ね合せることにより部分旋光子を製造することができる。各液晶層の重ね合せは、各液晶層の旋光性を発現する領域の位置が重なるように行い、旋光性を発現する領域の位置が一致するように行うことが好ましい。
【0028】
[部分旋光フィルム]
部分旋光フィルムは、支持基板としてのプラスチックフィルムと、プラスチックフィルム上に形成された部分旋光子とを備え、上記のように作製した液晶層から支持基板を剥離せず、そのままの状態を維持することで作製できる。
図2には、本発明の一実施形態に係る部分旋光フィルム17が示されている。部分旋光子7は、プラスチックフィルム16上に設けられている。支持基板としてのプラスチックフィルム16は、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のプラスチックフィルムであり、好ましくは、予めラビングあるいは延伸等の配向処理を施したプラスチックフィルムである。部分旋光フィルム17は、支持基板であるプラスチックフィルム16の位相差値ができるだけ小さく、かつ旋光性を発現する第1の領域の配向方向と同じ方向に一軸延伸されたプラスチックフィルムを備えていることが好ましい。また、部分旋光フィルム17をHUDに用いる場合、表示画像の視認性を保つため、支持基板であるプラスチックフィルム16は、可視光領域において透明であることが好ましく、具体的には、波長380以上780nm以下の可視光透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
(液晶層形成用組成物)
液晶層形成用組成物は、重合性液晶モノマーまたは液晶ポリマーと、光重合開始剤と、溶剤と、任意に各種助剤を含有する。このような液晶層形成用組成物は、重合性液晶モノマーまたは液晶ポリマー等の液晶成分を溶剤に溶解し、得られた溶液に、光重合開始剤、および任意に助剤を添加することにより作製することができる。液晶層形成用組成物は、さらにカイラル剤を含有していてもよい。また、重合性液晶モノマー分子内にキラリティーを持たせるか、カイラル剤を添加することによって、塗膜中に含まれる液晶をねじれネマチック液晶に変換することができる。液晶層形成用組成物には、重合性ネマチック液晶モノマーと反応可能な液晶性を有しない重合性化合物をさらに添加してもよい。液晶層形成用組成物に含まれる溶剤は、使用する液晶モノマー、カイラル剤等を溶解できれば、特に限定されるものではないが、シクロペンタノンが好ましい。
【0030】
重合性液晶モノマーは、分子内に重合性基を有し、所定の温度範囲または濃度範囲で液晶性を示す化合物である。重合性基としては、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、カルコン基、シンナモイル基およびエポキシ基などが挙げられる。また、液晶性を示すためには分子内にメソゲン基があることが好ましく、メソゲン基は、例えばビフェニル基、ターフェニル基、(ポリ)安息香酸フェニルエステル基、(ポリ)エーテル基、ベンジリデンアニリン基、またはアセナフトキノキサリン基等のロッド状、板状、あるいはトリフェニレン基、フタロシアニン基、またはアザクラウン基等の円盤状の置換基、即ち液晶相挙動を誘導する能力を有する基を意味する。ロッド状または板状基を有する液晶化合物はカラミティック液晶として当技術分野で既知である。このような重合性液晶モノマーとしては、具体的には特開2003-315556号公報、特開2004-29824号公報および特許第5463666号公報に記載の重合性液晶、Paliocolorシリーズ(BASF社製)、RMMシリーズ(Merck社製)等の重合性ネマチック液晶モノマーが挙げられる。また、液晶ポリマーは、ポリエステル系およびポリエーテル系の液晶ポリマーであることが好ましい。重合性液晶モノマーおよび液晶ポリマーは1種単独で、または複数混合して用いることができる。
【0031】
カイラル剤としては、上記重合性液晶モノマーを右巻きあるいは左巻きにねじれ配向させることができ、重合性液晶モノマーと同様に重合性基を有する化合物が好ましい。そのようなカイラル剤としては、例えば、Paliocolor LC756(BASF社製)、特開2002-179668号公報に記載されている化合物などが挙げられる。カイラル剤の液晶層形成用組成物への添加量は、例えば、重合性液晶モノマーおよび液晶ポリマー100質量部に対して0.1~質量部以上15質量部以下であることが好ましく、カイラル剤のHTP値に応じて、所望のピッチが得られるように適宜調整できる。
【0032】
さらに、重合性液晶モノマーおよび液晶ポリマーと反応可能であって、液晶性を有しない重合性化合物を添加することも可能である。そのような化合物としては、例えば、紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。紫外線硬化型樹脂としては、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと1,6-ヘキサメチレン-ジ-イソシアネートとの反応生成物、イソシアヌル環を有するトリイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとの反応生成物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとイソホロン-ジ-イソシアネートとの反応生成物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタアクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、トリグリセロール-ジ-(メタ)アクリレート、プロピレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ポリプロピレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール-ジ-(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、1,6-ヘキサンジオール-ジ-(メタ)アクリレート、グリセロール-ジ-(メタ)アクリレート、エチレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ジエチレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(メタアクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビスフェノールA-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、ブチルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、およびブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独または複数混合して用いることができる。これらの液晶性を持たない紫外線硬化型樹脂は、液晶層形成用組成物が液晶性を失わない程度に添加しなければならず、重合性液晶モノマー100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上20質量部以下、より好ましくは1.0質量部以上10質量部以下の添加量である。
【0033】
重合性液晶モノマー、他の重合性化合物が紫外線硬化型である場合、これらを含んだ組成物を紫外線により硬化させるために、光重合開始剤が添加される。光重合開始剤としては例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1(BASF社製イルガキュアー907)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製イルガキュアー184)、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン(BASF社製イルガキュアー2959)、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン(Merck社製ダロキュアー953)、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン(Merck社製ダロキュアー1116)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(BASF社製イルガキュアー1173)、ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(BASF社製イルガキュアー651)等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン(日本化薬社製カヤキュアーMBP)等のベンゾフェノン系化合物;ならびに、チオキサントン、2-クロロチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーCTX)、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン(カヤキュアーRTX)、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーCTX)、2,4-ジエチルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーDETX)、2,4-ジイソプロピルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーDITX)等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。好ましくは、例えば、Irgacure TPO、Irgacure TPO-L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300、Irgacure 184、Irgacure 369、Irgacure 379、Irgacure 819、Irgacure 127、Irgacure 907およびIrgacure 1173(いずれもBASF社製)、特に好ましくはIrgacure TPO、Irgacure TPO-L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300、Irgacure 369およびIrgacure 907が挙げられる。これらの光重合開始剤は1種単独で、または複数種を任意の割合で混合して使用することができる。
【0034】
光重合開始剤としてベンゾフェノン系化合物またはチオキサントン系化合物を用いる場合には、光重合反応を促進させるために、助剤を併用することも可能である。そのような助剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n-ブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’―ジエチルアミノプロピオフェノン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、および4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物が挙げられる。
【0035】
光重合開始剤および助剤の添加量は、液晶層形成用組成物の液晶性に影響を与えない範囲で使用することが好ましく、当該組成物中の紫外線で硬化する化合物100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上8質量部以下である。また、助剤の添加量は光重合開始剤に対して、質量基準で0.5倍以上2倍以下であることが好ましい。
【0036】
(ブロック層)
部分旋光子7には必要に応じてブロック層を設けることも可能である。ブロック層は、部分旋光子7の片面または両面に設けられる層であり、樹脂組成物から形成される塗膜を乾燥または硬化させることにより得られる硬化膜である。プラスチックフィルムを備える部分旋光フィルムにブロック層を設ける場合は、プラスチックフィルムを有する部分旋光フィルムの面とは反対側の面にブロック層を設けることが好ましい。部分旋光子7は、車載用中間膜と接した状態で、高温環境下、例えば自動車のフロントガラスの使用環境下等に置かれることにより、旋光性を発現する第1の領域8の位相差値が低下することがある。これは、車載用中間膜に含まれる可塑剤等の影響によるものと考えられる。ブロック層は、部分旋光子7と車載用中間膜との間に配置されることが好適である。ブロック層を用いることにより、車載用中間膜等の劣化原因となり得る層と部分旋光子7とが直接接触することが防止され、その結果、部分旋光子7の位相差値の低下を抑制することができる。
【0037】
ブロック層形成用の樹脂組成物は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選択される1種または2種以上の樹脂を含み、当該樹脂組成物を塗布・乾燥することによりブロック層を形成することができる。また、ブロック層形成用の樹脂組成物が、例えば、紫外線硬化型樹脂組成物、熱硬化型樹脂組成物またはこれらの混合物である場合、当該樹脂組成物を塗布し、硬化させることによりブロック層を得ることができる。透明性、塗布性および生産コストなどの観点から、ブロック層形成用の樹脂組成物は紫外線硬化型樹脂組成物であることが好ましい。
【0038】
紫外線硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化型樹脂と光重合開始剤とを少なくとも含有し、任意にさらなる成分を含有する。紫外線硬化型樹脂としては、分子中に少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂が好ましく、例えば、多官能(メタ)アクリレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、多官能エポキシ(メタ)アクリレート、多官能ポリエステルアクリレートなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して使用してもよい。これらの紫外線硬化型樹脂を用いることにより、可塑剤の侵入による部分旋光子7の位相差値の低下を防ぐことができる。
【0039】
紫外線硬化型樹脂のうち、分子中に少なくとも3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂を樹脂組成物中に10質量%以上90%質量以下含有していることが好ましく、30質量%以上70%質量以下含有していることがより好ましい。このような樹脂を用いることにより、可塑剤の侵入による部分旋光子7の位相差値の低下を防ぐ効果をより高めることができる。
【0040】
3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトール類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のメチロール類;トリスアクリロキシエチルイソシアヌレート、トリスアリルイソシアヌレート等のイソシアヌレート類が挙げられる。
【0041】
2個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε-カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート(例えば、日本化薬社製、KAYARADHX-220、HX-620など)、ビスフェノールAのEO付加物のジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0042】
多官能ポリエステルアクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0043】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコール、1,4- ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオール類と、ヘキサメチレンジイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネート類と、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の水酸基含有エチレン性不飽和化合物類との反応物などを挙げることができる。
【0044】
多官能エポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリグリシジル化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなど)と、(メタ)アクリル酸との反応物であるエポキシ(メタ)アクリレート類を挙げることができる。
【0045】
光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノプロパン-1-オンなどのアセトフェノン類;2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
光重合開始剤は、ブロック層形成用樹脂組成物の固形分中に0.01質量%以上10質量%以下含有されることが好ましく、より好ましくは1質量%以上7質量%以下含有される。
【0047】
ブロック層形成用の樹脂組成物には、さらに溶剤が含まれる。このような溶剤は、使用する樹脂および光重合活性剤等を溶解できれば、特に限定されるものではなく、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、シクロペンタノン、水等が挙げられ、好ましくはメチルエチルケトン、シクロペンタノン、水である。また、これらの溶剤は任意の割合で加えることができ、1種類のみを加えてもよいし、複数の溶剤を併用してもよい。これら溶剤は、乾燥工程にて乾燥除去される。
【0048】
ブロック層形成用樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含有することもできる。硬化促進剤としては、例えばトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、2-メチルアミノエチルベンゾエート、ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミノエステル、EPAなどのアミン類、2-メルカプトベンゾチアゾールなどの水素供与体が挙げられる。これらの硬化促進剤の使用量は、ブロック層形成用樹脂組成物の固形分中に0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0049】
さらに、ブロック層形成用樹脂組成物には必要に応じてレベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、重合禁止剤、架橋剤などを添加し、それぞれ目的とする機能性を付与することも可能である。レベリング剤としては、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、およびアクリル系化合物等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、およびトリアジン系化合物等が挙げられる。光安定化剤としてはヒンダードアミン系化合物およびベンゾエート系化合物等が挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系化合物等が挙げられる。重合禁止剤としては、メトキノン、メチルハイドロキノン、およびハイドロキノン等が挙げられる。架橋剤としては、前記ポリイソシアネート類およびメラミン化合物等が挙げられる。これらの各成分の添加量は、付与すべき機能に応じて適宜決定することができる。
【0050】
ブロック層の厚みは、好ましくは0.1μm以上50μm以下であり、より好ましくは1μm以上20μm以下である。ブロック層は、ブロック層形成用樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が上記の好ましい範囲になるように部分旋光子の面上に塗布し、乾燥後、紫外線照射または加熱により硬化させて硬化膜を形成させることにより得ることができる。ブロック層形成用樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、バーコーター塗工等の公知の方法を用いることができる。
【0051】
ブロック層形成用樹脂組成物が紫外線硬化型である場合、硬化のために紫外線を照射するが、電子線などを使用することもできる。紫外線により硬化させる場合、光源としては、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDなどを有する紫外線照射装置が使用され得、必要に応じて光量、光源の配置などが調整される。高圧水銀灯を使用する場合、80~120W/cm2のエネルギーを有するランプ1灯に対して搬送速度5~60m/分で硬化させるのが好ましい。一方、電子線により硬化させる場合は、100~500eVのエネルギーを有する電子線加速装置を使用するのが好ましく、その際光重合開始剤は使用しなくてもよい。
【0052】
[中間膜積層体]
中間膜積層体は、部分旋光子または部分旋光フィルムと、部分旋光子または部分旋光フィルムの片面または両面に配置された中間膜とを備える。中間膜積層体は、部分旋光子または部分旋光フィルムを、1枚の中間膜で片側、または2枚の中間膜によって両側をラミネートすることで得ることができる。
図3には、本発明の一実施形態に係る中間膜積層体12が示されている。中間膜積層体12は、部分旋光子7が2枚の中間膜11でラミネートされている。中間膜11としては、一般的に用いられている車載用中間膜を用いることができる。中間膜11は、例えば、ポリビニルブチラール系樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)またはエチレン-酢酸ビニル共重合系樹脂(EVA)である。このような中間膜は、合わせガラス用中間膜として汎用的に使用される。
【0053】
中間膜には、紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、着色剤、接着調整剤等が適宜添加配合されていてもよく、とりわけ、赤外線を吸収する微粒子が分散された中間膜は、高性能な遮熱合わせガラスを作製する上で重要である。赤外線を吸収する微粒子には、Sn、Ti、Zn、Fe、Al、Co、Ce、Cs、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属、酸化物、窒化物あるいはSbやFをドープした各単独物、もしくはこれらの中から少なくとも2種以上を含む複合物などの導電性を有する材料の超微粒子を用いる。遮熱合わせガラスを透明性が求められる建築用窓、フロントガラス等の自動車用窓として用いる場合、可視光線の領域では透明である錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫の使用が特に好ましい。中間膜に分散させる赤外線を吸収する微粒子の粒径は、0.2μm以下であることが好ましい。微粒子の粒径が0.2μm以下であれば、可視光線の領域での光の散乱を抑制しつつ赤外線を吸収でき、ヘーズを発生させず、電波透過性と透明性を確保しつつ、接着性、透明性、耐久性等の物性を未添加の中間膜と同等に維持し、さらには通常の合わせガラス製造ラインでの作業で合わせガラス化処理を行うことができる。また、中間膜は、その一部が着色されたものであってもよく、または、遮音機能を有する層を2枚の中間膜でサンドイッチした構造であってもよい。
【0054】
中間膜と、部分旋光子または部分旋光フィルムとをラミネートする方法は特に制限はないが、例えば、ニップロールを用いて、中間膜、部分旋光子または部分旋光フィルムを同時に圧着によりラミネートする方法が挙げられる。ラミネートする際にニップロールが加熱できる場合は、加熱しながら圧着することも可能である。加熱温度および圧着の圧力は、通常の範囲とすることができる。また、中間膜と部分旋光子または部分旋光フィルムとの密着性が劣る場合は、中間膜にコロナ処理、プラズマ処理などによる表面処理を予め行ってからラミネートしてもよい。
【0055】
[機能性ガラス]
機能性ガラスは、部分旋光子または部分旋光フィルムまたは中間膜積層体と、部分旋光子または部分旋光フィルムまたは中間膜積層体の両面に設けられた2枚のガラス板とを備える。
図4に示されるように、本発明の一実施形態に係る機能性ガラス14は、中間膜積層体12が2枚のガラス板13で挟持されている。機能性ガラス14は、中間膜積層体12の両面に2枚のガラス板を高温・高圧にて圧着することにより得ることができる。ガラス板は、機能性ガラスを建築用窓、自動車用の合わせガラスとして利用してもガラス越しの景色が十分に視認可能な透明性を有していれば特に限定されない。また、ガラス板の厚み、形状等も、表示光の反射に影響を与えない範囲であれば、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設計することができる。自動車用フロントガラスとして機能性ガラスを使用する場合は、機能性ガラスの可視光透過率が70%以上となるように反射率を調整することが好ましい。ガラス板に代えて、透明で光学異方性の無いプラスチック板を用いることもできる。
【0056】
機能性ガラスを作製する具体的な方法の例としては、まず、2枚のガラス板を準備する。自動車のフロントガラス用の合わせガラスとして用いる場合は、フロート法で作られたソーダライムガラスを使用することが好ましい。ガラスは透明または緑色に着色されたもののいずれでもよく、特に制限はない。これらのガラス板の厚さは、通常、約2mmtのものを使用するが、近年のガラスの軽量化の要求に応じて、これよりも若干薄い厚さのガラス板も使用できる。ガラス板を所定の形状に切り出し、ガラスエッジに面取りを施し洗浄する。黒色の枠状、ドット状のプリントが必要な際には、ガラス板にこれを印刷する。フロントガラスのように曲面形状が必要とされる場合には、ガラス板を650℃以上に加熱し、その後、モールドによるプレス、自重による曲げなどで2枚が同じ面形状となるように整形し、ガラスを冷却する。このとき、冷却速度を早くしすぎると、ガラス板に応力分布が生じて強化ガラスとなるために、徐冷する。このように作製したガラス板のうちの1枚を水平に置き、その上に中間膜積層体を重ね、さらにもう一方のガラス板を置く。あるいは、ガラス板の上に中間膜、部分旋光子または部分旋光フィルム、中間膜を順に重ね、最後にもう一方のガラス板を置くといった方法でもよい。次いで、ガラスのエッジからはみ出した部分旋光子または部分旋光フィルム、中間膜をカッターで切断・除去する。その後、サンドイッチ状に積層したガラス板、中間膜、部分旋光子または部分旋光フィルムとの間に存在する空気を脱気しながら温度80℃~100℃に加熱し、予備接着を行う。空気を脱気する方法にはガラス板/中間膜/部分旋光子または部分旋光フィルム/中間膜/ガラス板の積層物を耐熱ゴムなどでできたゴムバッグで包んで行うバッグ法と、ガラスの端部のみをゴムリングで覆ってシールするリング法の2種があり、どちらの方法を用いてもよい。予備接着が終了後、ゴムバッグから取り出したガラス板/中間膜/部分旋光子または部分旋光フィルム/中間膜/ガラス板の積層物、もしくはゴムリングを取り外した積層物をオートクレーブに入れ、10~15kg/cm2の高圧下で、120℃~150℃に加熱し、この条件で20分~40分間、加熱・加圧処理する。処理後、50℃以下に冷却したのちに除圧し、ガラス板/中間膜/部分旋光子または部分旋光フィルム/中間膜/ガラス板の構成を有する機能性ガラスをオートクレーブから取り出す。
【0057】
機能性ガラスは、普通自動車、小型自動車、軽自動車、大型特殊自動車、および小型特殊自動車のフロントガラス、サイドガラス、リアガラス、およびルーフガラスとして使用できる。さらに、機能性ガラスは、鉄道車両、船舶、航空機の窓、ならびに建築用および産業用の窓材としても使用できる。機能性ガラスは、UVカット機能、調光機能を有する部材を表面に積層または貼合した形態で用いることもできる。
【0058】
[ヘッドアップディスプレイ]
ヘッドアップディスプレイは、部分旋光子、部分旋光フィルム、中間膜積層体、または機能性ガラスを備える。ヘッドアップディスプレイは、表示画像を示す表示光を出射する画像表示手段を光源としてさらに備えることが好ましい。ヘッドアップディスプレイは、画像表示手段からの表示光が、S偏光の偏光状態で、機能性ガラスに適切な角度で入射するように構成されていることが好ましい。
【0059】
図5には、本発明の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ20の模式図が示されている。ヘッドアップディスプレイ20は、表示画像を示す表示光を出射する画像表示手段2と、画像表示手段2から出射された表示光を反射する反射鏡3と、画像表示手段から出射された表示光をS偏光に変換する偏光板15と、画像表示手段2から出射された表示光が入射する機能性ガラス4とを備える。画像表示手段2から出射される表示光を反射鏡3で反射させ、この反射された表示光を、偏光板15を通してS偏光とし、機能性ガラス4に入射させる。これにより、観察者1に光路5を介してS偏光が到達し、表示画像の虚像6が視認できる。なお、
図5に示されるヘッドアップディスプレイ20では、画像表示手段2から出射された表示光が反射鏡3を介して機能性ガラス4に入射しているが、反射鏡3を介さずに画像表示手段2から機能性ガラス4に入射してもよく、また、画像表示手段2から出射された表示光がS偏光であれば、偏光板15を介さずに画像表示手段2からの表示光を機能性ガラス4に直接入射してもよい。
【0060】
(機能性ガラス)
機能性ガラス4としては、上述した機能性ガラスを用いることができる。機能性ガラス4における部分旋光子の第1の領域が1/2波長板として機能する場合は、機能性ガラス4は、入射するS偏光の入射角に応じて、部分旋光子7の旋光性を発現する第1の領域の遅相軸とのなす角θが以下の範囲になるように配置されることが好ましい。
【0061】
機能性ガラス4に対するS偏光の入射角が45°である場合、部分旋光子の第1の領域の遅相軸と、入射するS偏光の偏光軸とのなす角θの範囲は、好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは37°以上44°以下であり、さらに好ましくは40°以上44°以下であり、特に好ましくは41°以上43°以下である。S偏光の入射角が50°である場合、θの範囲は、好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは38°以上44°以下であり、さらに好ましくは39°以上43°以下であり、特に好ましくは40°以上42°以下である。また、S偏光の入射角が56°または60°である場合、θの範囲は、好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは37°以上43°以下であり、さらに好ましくは38°以上42°以下であり、特に好ましくは39°以上41°以下である。さらに、S偏光の入射角が65°である場合、θの範囲は、好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは36°以上42°以下であり、さらに好ましくは37°以上41°以下であり、特に好ましくは38°以上40°以下である。機能性ガラス4のガラス板として屈折率1.48のガラスを用い、ガラス板にブリュースター角(約56°)でS偏光を入射させる場合、θの範囲は、好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは37°以上43°以下であり、さらに好ましくは38°以上42°以下であり、特に好ましくは39°以上41°以下である。
【0062】
投影画像の品位、二重写りの発生のさらなる改善のため、3/4波長板として機能する領域を有する第1の液晶層と、1/4波長板として機能する領域を有する第2の液晶層とを積層させた部分旋光子であって、第1の液晶層の3/4波長板として機能する領域と、第2の液晶層の1/4波長板として機能する領域が同様な波長依存性を有する部分旋光子を用いることが好ましい。その際、同様な波長分散性を有する3/4波長板として機能する領域と、1/4波長板として機能する領域とを光源の入射角方向から見て、それぞれの遅相軸が直交となるように第1の液晶層と第2の液晶層を交差させて積層した部分旋光子を用いることが特に好ましい。このような部分旋光子を用いることにより、白色光源でフルカラー表示を行った場合、各波長のS偏光をP偏光に、または各波長のP偏光をS偏光に精度よく偏光軸変換を行うことができるため、投影画像の品位を向上し、二重写りの発生をより抑制することができる。
【0063】
3/4波長板として機能する領域の遅相軸、および1/4波長板として機能する領域の遅相軸と、入射するS偏光の光軸とのなす角θを、光源からのガラス板への入射角度に応じて以下のように調整することが好ましい。
【0064】
S偏光の入射角が90°(正面からの入射)である場合は、3/4波長板の領域と1/4波長板の領域とのそれぞれの遅相軸を直交させることが好ましい。一方、例えば、S偏光の入射角が45°である場合、3/4波長板の領域もしくは1/4波長板の領域の一方の領域の遅相軸と入射するS偏光の偏光軸とのなす角θの範囲は、好ましくは35°以上44°以下であり、より好ましくは37°以上44°以下であり、さらに好ましくは40°以上44°以下であり、特に好ましくは41°以上43°以下である。この場合、3/4波長板の領域もしくは1/4波長板の領域の他方の領域の遅相軸が、θの範囲を調整した3/4波長板の領域もしくは1/4波長板の領域の遅相軸に対して、好ましくは-44°以上-35°以下となるように交差させ(以下、「交差角の範囲」という)、より好ましくは-44°以上-37°以下であり、さらに好ましくは-44°以上-40°以下であり、特に好ましくは-43°以上-41°以下である。すなわち、例えば、3/4波長板の領域の遅相軸とS偏光の光軸とのなす角θの範囲が40°以上44°以下である場合、1/4波長板の領域の遅相軸は、3/4波長板の領域の遅相軸と-44°以上-40°以下になるように交差することを意味する。S偏光の入射角が50°である場合、3/4波長板の領域の遅相軸と1/4波長板の領域の遅相軸との関係について、好ましくは、θの範囲は35°以上44°以下であり、交差角の範囲は-44°以上-35°以下であり、より好ましくは、θの範囲は38°以上44°以下であり、交差角の範囲は-44°以上-38°以下であり、さらに好ましくは、θの範囲は39°以上43°以下であり、交差角の範囲は-43°以上-39°以下であり、特に好ましくは、θの範囲は40°以上42°以下であり、交差角の範囲は-42°以上-40°以下である。また、S偏光の入射角が56°または60°である場合、3/4波長板の領域の遅相軸と1/4波長板の領域の遅相軸との関係について、好ましくは、θの範囲は35°以上44°以下であり、交差角の範囲は-44°以上-35°以下であり、より好ましくは、θの範囲は37°以上43°以下であり、交差角の範囲は-43°以上-37°以下であり、さらに好ましくは、θの範囲は38°以上42°以下であり、交差角の範囲は-42°以上-38°以下であり、特に好ましくは、θの範囲は39°以上41°以下であり、交差角の範囲は-41°以上-39°以下である。さらに、S偏光の入射角が65°である場合、3/4波長板の領域の遅相軸と1/4波長板の領域の遅相軸との関係について、好ましくは、θの範囲は35°以上44°以下であり、交差角の範囲は-44°以上-35°以下であり、より好ましくは、θの範囲は36°以上42°以下であり、交差角の範囲は-42°以上-36°以下であり、さらに好ましくは、θの範囲は37°以上41°以下であり、交差角の範囲は-41°以上-37°以下であり、特に好ましくは、θの範囲は38°以上40°以下であり、交差角の範囲は-40°以上-38°以下である。
【0065】
ブリュースター角(約56°)でS偏光を機能性ガラスに入射させる場合、好ましくは、θの範囲は35°以上44°以下であり、交差角の範囲は-44°以上-35°以下であり、より好ましくは、θの範囲は37°以上43°以下であり、交差角の範囲は-43°以上-37°以下であり、さらに好ましくは、θの範囲は38°以上42°以下であり、交差角の範囲は-42°以上-38°以下であり、特に好ましくは、θの範囲は39°以上41°以下であり、交差角の範囲は-41°以上-39°以下である。
【0066】
以上のような角度になるように第1の液晶層と第2の液晶層とが積層された部分旋光子は、光の入射角から見て、3/4波長板の領域の遅相軸と1/4波長板の領域の遅相軸とが概ね直交した状態となり、第1の領域が実質的に1/2波長板となる。ここで、「概ね直交した状態」は、直交(90°)から±5°までの範囲であることが好ましい。また、部分旋光子の第1の領域の遅相軸は3/4波長板の領域の遅相軸方向とみなすことができる。
【0067】
(画像表示手段)
画像表示手段2は、最終的に機能性ガラス4に到達するまでに、所望とするS偏光を出射することができれば、特に限定されるものではないが、例えば、液晶プロジェクターのような液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)等が挙げられる。画像表示手段2が液晶表示装置である場合、出射光は通常直線偏光となっているため、そのまま用いることができる。一方、画像表示手段2が有機ELディスプレイである場合、出射口の近くに偏光板を配置することにより出射光を直線偏光とすることができる。また、ヘッドアップディスプレイを自動車に使用する場合、液晶表示装置、有機ELディスプレイは、例えばダッシュボードのような光出射口に偏光板、1/2波長板等の光学部材を配置して、画像表示手段2からS偏光が出射できるように調整することも可能である。また、画像表示手段2に使用される光源も特に限定されるものではなく、レーザー光源、LED光源等を使用することができる。
【0068】
(偏光板)
偏光板15は、画像表示手段2から出射された表示光をS偏光に変換する機能を有していれば特に限定されない。また、偏光板15は、画像表示手段2から出射された表示光が機能性ガラス4に至るまでの経路であれば任意の位置に配置されていてもよく、画像表示手段2と反射鏡3の間に配置されていてもよい。画像表示手段2から出射される表示光がS偏光である場合は、偏光板15は使用しなくてもよい。
【0069】
ヘッドアップディスプレイ20では、投影光は旋光子として機能する第1の領域8にのみ投影され、第1の領域8に二重写りの無い画像が表示される。また、法線方向に対して旋光性を発現しない第2の領域9には画像が投影されず、その上、第2の領域9は旋光性を有さないため、路面からの反射光に対して偏光サングラスによる遮光効果を維持できる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により、本発明を詳細に例示する。実施例において、部は質量部を意味する。
【0071】
[実施例1]
<部分旋光子の作製>
表1に示す組成を有する液晶組成物である塗布液(A)を調製した。
【0072】
【0073】
調製した塗布液(A)を用い、以下の手順にて部分旋光フィルムを作製した。支持基板としては、特開2002-90743号公報の実施例1に記載された方法でラビング処理されたTACフィルム(厚さ80μm)をラビング角度が辺に対して40度となるように、10cm角に切り出したものを使用した。
【0074】
(1)塗布液(A)を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後に得られる塗膜の厚みが2μmになるように、TACフィルムのラビング処理面上に室温にて塗布した。
(2)得られた塗膜を、50℃にて2分間加熱して溶剤を除去するとともに、液晶相とした。
(3)次いで、ホットプレートを用い、フィルムの四辺の端部から約2cmの位置までの外周部を140℃に加熱した。
(4)フィルムの外周部を140℃に加熱したままの状態で上部から高圧水銀灯(ハリソン東芝ライティング社製)を120Wの出力で5~10秒間UV照射し、液晶相を固定して、TACフィルム上に、部分的に1/2波長板として機能する液晶層を備える部分旋光子を形成し、部分旋光フィルムを作製した。
【0075】
<ブロック層の形成>
表2に示す組成を有するブロック層形成用組成物である塗布液(B)を調製した。
【0076】
【0077】
(1)上記で作製した液晶層上に、乾燥後に得られるブロック層の厚みが1.5μmになるように、塗布液(B)を室温にて、ワイヤーバーを用いて塗布した。
(2)得られた塗膜を、40℃にて1分間加熱して溶剤を除去し、次いで、高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120W出力、5~10秒間UV照射し、樹脂を硬化してブロック層を有する部分旋光子を作製した。
【0078】
<中間膜積層体の作製>
可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを含有した厚さが0.38mmの透明なポリビニルブチラール中間膜を2枚用いた。ブロック層を有する部分旋光子を2枚のポリビニルブチラール中間膜の間に配置し、次いで、ラミネーターにて加圧圧着することにより、中間膜積層体を作製した。
【0079】
<機能性ガラスの作製>
厚さが2mm、10cm角の透明なガラス板上に、上記で作製した中間膜積層体を重ね、さらに同じ透明なガラス板をもう一枚重ねた。次にガラス板のエッジ部からはみ出した中間膜積層体の余分な部分を剃刀により切断・除去した。これをゴムバッグで包み、90℃に加熱したオートクレーブ中で10分間脱気し、予備接着した。これを室温まで冷却後、ゴムバッグから取り出し、再度、オートクレーブ中で135℃、12kg/cm2の高圧下で30分間加熱・加圧し、中間膜積層体を挿入した機能性ガラスを作製した。
【0080】
得られた機能性ガラスを観察したところ、外観が良好であり、旋光子として機能する中央部と旋光子として機能しない外周部との境界線は目視では確認できなかった。一方、クロスニコルに配置した偏光板の間に機能性ガラスを配置すると、概ね中央部に約6cm角の位相差が発現している領域があることが確認された。次に自動複屈折計(王子計測社製「KOBRA-21ADH」)を用いて、機能性ガラスの中央部と外周部の位相差値を測定したところ、中央部の位相差値は270nmであったのに対し、外周部の位相差値は15nmであった。
【0081】
<ヘッドアップディスプレイの作製および表示画像の評価>
図5に示すような配置でヘッドアップディスプレイを作製した。画像表示手段2としては市販の液晶プロジェクターを使用した。画像表示手段2から出射される表示光が、S偏光として機能性ガラス4に向かって出射されるように偏光板15(SHC-13U、ポラテクノ社製)を設置した。反射鏡3は市販の鏡を用いた。機能性ガラス4を、出射されるS偏光に対して、部分旋光子の遅相軸が40°となるように配置した。次に、画像表示手段2から偏光板15を介して出射されたS偏光の入射角が、ガラスのブリュースター角(約56°)になるように機能性ガラス4の位置を調整した。
【0082】
機能性ガラス4の中央部(液晶が配向している領域内)に画像を投影したところ、表示画像に二重写りは観察されず、また、表示画像は、色の変化もなく極めて明るく鮮明に投影された。さらに、機能性ガラス4越しに入射する外部からの反射光に対し、外周部領域を透過してくる反射光は偏光サングラスの着用によりカットすることができた。
【0083】
[比較例1]
上記部分旋光子の作製において、(3)の工程で外周部を加熱しない以外は実施例1と同様の手順で旋光子(1/2波長板)を作製した。得られた旋光子(1/2波長板)を6cm角にカットし、実施例1と同様の操作により2枚の中間膜の間に配置して中間膜積層体を作製し、次いで、得られた中間膜積層体が2枚のガラス板の間の中央部に挿入された合わせガラスを作製した。
【0084】
得られた合わせガラスを観察すると、6cm角にカットした旋光子(1/2波長板)の外周の境界線を容易に肉眼で確認できるため、旋光子が配置されている場所を特定することができ、実施例1に比べて外観特性に劣っていた。
【0085】
以上の結果より、実施例1の機能性ガラスを用いることにより、旋光性を発現する中央部と旋光性を発現しない外周部との境界線での視認性の悪化を軽減し、フロントガラスとしての見栄えを大きく改善できることが分かる。
【符号の説明】
【0086】
1 観察者
2 画像表示手段
3 反射鏡
4 機能性ガラス
5 光路
6 虚像
7 部分旋光子
8 第1の領域
9 第2の領域
10 境界線
11 中間膜
12 中間膜積層体
13 ガラス板
14 機能性ガラス
15 偏光板
16 プラスチックフィルム
17 部分旋光フィルム
20 ヘッドアップディスプレイ