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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】可撓性ワックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 91/06 20060101AFI20231124BHJP
   C11C 3/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C08L91/06
C11C3/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020537762
(86)(22)【出願日】2019-01-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 US2019013473
(87)【国際公開番号】W WO2019140375
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2022-01-04
(31)【優先権主張番号】62/617,378
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397058666
【氏名又は名称】カーギル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】トッド・エル・クルト
(72)【発明者】
【氏名】マリア・エリザベス・リンダール
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・アラン・マーフィー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・パトリック・スティーバーマー
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-275020(JP,A)
【文献】特開2007-284371(JP,A)
【文献】特開2005-089487(JP,A)
【文献】特開2017-197701(JP,A)
【文献】国際公開第2014/058872(WO,A1)
【文献】特表2008-527110(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0145808(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0277661(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C11C 1/00- 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20重量%~45重量%のモノアシルグリセリドと、
28重量%~40重量%のジアシルグリセリドと、
10重量%~45重量%の、1つ以上のダイマー化脂肪酸残基及び複数のグリセロール部分を含有する化合物であるアシルグリセリドポリマーと、
を含む、可撓性ワックス組成物。
【請求項2】
前記ダイマー化脂肪酸残基が、構造:
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、二価のC7~C21脂肪族基であり、Zは、結合又は酸素原子である)
を有する、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項3】
及びRがそれぞれ二価のC18脂肪族基であり、Zが結合である、請求項2に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項4】
1重量%~17重量%のトリアシルグリセリドを含む、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項5】
前記組成物の48重量%~75重量%が、モノアシルグリセリド及びジアシルグリセリドである、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項6】
2重量%未満の遊離脂肪酸及び遊離グリセリンを含む、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項7】
前記組成物の20重量%~45重量%が、200Da~380Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項8】
前記組成物の28重量%~40重量%が、380Da~580Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項9】
前記組成物の10重量%~17重量%が、580Da~900Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項10】
前記組成物の10重量%~45重量%が、900Da~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項11】
前記組成物の少なくとも20重量%が、580Da~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項12】
前記組成物の少なくとも40重量%が大豆油である、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項13】
50~60℃の範囲の滴点を有する、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項14】
天然油系ワックスである、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項15】
30MPa未満の平均クリープ剛性を有する、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項16】
15MPa未満の平均クリープ剛性を有する、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物。
【請求項17】
キャンドルにおける、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物の使用。
【請求項18】
紙コーティング、ボックスコーティング、フルーツコーティング、OSBのためのブロードサイジング、タイヤ及びゴム、ポリ塩化ビニルの配管、クレヨン、並びにパーソナルケアにおける、請求項1に記載の可撓性ワックス組成物の使用。
【請求項19】
可撓性ワックス組成物の製造方法であって、
脂肪酸及び/又は油、脂肪酸ダイマー、並びにグリセリンを混合して混合物を形成することと、
可撓性ワックス組成物を得るために、前記混合物が1.5未満の酸価を達成するまで、苛性又は酵素触媒を前記混合物に添加してエステル化及びエステル交換反応を促進することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年1月15日に出願された、米国特許仮出願第62/617,378号に対する優先権の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、天然油系ワックス組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
蜜蝋は、先史時代から使用されてきた天然に生じるワックスである。蜜蝋は、現代でも依然として有用であるが、次第に高価かつ稀少になってきている。19世紀におけるパラフィンワックスの出現は、石油精製の開発と並行して、蜜蝋の豊富かつ低コストの代替物を提供した。今日、パラフィンは、キャンドル及び他のワックス系製品を生産するために使用される主な工業用ワックスである。
【0004】
パラフィンから生産される従来のキャンドルは、典型的には、燃焼時に煙、粒子、及び臭気を放出する。パラフィンの量が低減されているか又はパラフィンを全く含まないキャンドルが好ましい。現代のキャンドルメーカーはますます高度化し、増大する消費者の期待を満たす製品を提供すると同時に、製造効率を向上させる材料を求めている。
【0005】
したがって、キャンドル及び他のワックス製品を製造するための改善された材料を有することが有利であろう。このような材料が生分解性であり、天然油などの再生可能な原材料に由来する場合、環境的かつ経済的に望ましい。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、約20重量%~約45重量%のモノアシルグリセリドと、約28重量%~約40重量%のジアシルグリセリドと、約10重量%~約45重量%のアシルグリセリドポリマーとを有する可撓性ワックス組成物であって、アシルグリセリドポリマーが、1つ以上のダイマー化脂肪酸残基及び複数のグリセロール部分を含有する化合物である、組成物を提供する。
【0007】
本開示はまた、可撓性ワックス組成物であって、組成物の約40重量%~約75重量%が、約200Da~約580Daの重量平均分子量(Mw)を有するアシルグリセリドであり、組成物の少なくとも10重量%が、約900Da~約3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである、組成物を提供する。
【0008】
本開示は、更に、可撓性ワックス組成物の製造方法を提供する。この方法は、脂肪酸及び/又は油、脂肪酸ダイマー、並びにグリセリンを混合して反応混合物を形成することと、可撓性ワックス組成物を得るために、当該混合物が1.5未満の酸価(acid value、AV)を達成するまで、当該混合物に苛性又は酵素触媒を添加してエステル交換反応を促進することと、を含む。
【0009】
本明細書に記載の可撓性ワックス組成物は、キャンドル、コーティング、配向性ストランドボード(oriented strand board、OSB)のためのブロードサイジング(broadsizing)、タイヤ及びゴム用途、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)配管、クレヨン、並びにパーソナルケア製品に有用である。これらの用途の多くでは、材料を所望の製品に容易に成形することを可能にする、例えば、滴点、硬度、又は展性の観点で特定の物理的特徴を有するワックスが望ましい。具体的には、キャンドルの場合、ワックスは、魅力的な外観及び感触を有するワックスの製造を提供すると同時に、製造の容易さを改善することができる特性を有することが望ましい。
【0010】
本開示の実施形態によって、利点(そのうちのいくつかは予想外である)が達成される。例えば、本明細書に記載の様々な組成物は、有利には、変形したとき又は低温に曝されたときに亀裂耐性がある。可撓性ワックス組成物は、約30MPa未満、約25MPa未満、約20MPa未満、約15MPa未満、又は約10MPa未満の平均クリープ剛性(60秒及び22℃で測定)を有する。平均クリープ剛性の低下は、改善された亀裂耐性を反映している。本明細書の様々な組成物は、従来のワックス処方物と比較して、より低い平均クリープ剛性を示し、したがって、可撓性及び亀裂耐性が増大していることを示す。
【0011】
本開示の可撓性ワックス組成物はまた、改善された製造特性を有する。例えば、様々な実施形態では、可撓性ワックス組成物は、従来のパラフィンワックスよりも速く冷却され、冷却中、当該組成物は、いくつかの従来のワックスに示される内部温度の上昇などの有害な内部温度の上昇を全く示さない。キャンドル形成中の一貫した冷却が重要であり、冷却中に内部温度を上昇させる結晶化熱を示す組成物を避けることが有利である。また、キャンドル製造には、キャンドルが形成されるガラス容器への付着量に関連する別の課題も存在する。ガラスに完全に付着するキャンドルは、ガラスに部分的に付着するキャンドルよりも良好な消費者訴求力を有する。更に、十分な付着を欠くキャンドルは、容器内でガタガタ揺れる場合がある。本開示の様々な可撓性ワックス組成物は、ガラス容器への付着を実質的に改善するという利点を有する。このような改善された付着特性は、また、様々なコーティングベースの用途のためのワックスの使用を改善することも期待される。
【0012】
更なる利点として、本明細書に記載の様々な組成物は、天然油系ワックスであり、したがって、生分解性、再生可能、かつ環境に優しい成分を含むという利点を有する。例えば、本開示の可撓性ワックス組成物は、天然油から調製することができ、更に、亀裂耐性、より速い冷却、及び改善されたガラス付着の上記利点を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】様々なワックス組成物の経時的な(秒)平均クリープ剛性(MPa)を示すプロットを示す。このプロットは、完全に精製されたパラフィンワックス、本明細書に記載の様々な例示的な可撓性ワックス組成物、及び脂肪酸ダイマーを用いずに調製した比較ワックス処方物のデータを示す。
図2】様々な植物ワックス組成物の経時的な(秒)平均クリープ剛性(MPa)を示すプロットを示す。このプロットは、例示されたワックス組成物及び脂肪酸ダイマーを用いずに調製した比較処方物のデータを示す。
図3】約6時間にわたって冷却したときの様々なワックス組成物の内部温度(°F)を示すプロットを示す。周囲空気温度もプロットする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、開示される課題の特定の実施形態について詳細に言及する。開示される課題は、列挙される請求項と共に説明されるが、例示される課題は、当該請求項を開示される課題に限定することを意図するものではないことが理解されるであろう。
【0015】
この文書全体を通して、範囲形式で表される値は、範囲の限度として明示的に列挙された数値を含むだけでなく、各数値及び部分範囲が明示的に列挙されているかのように、その範囲内に包含される全ての個々の数値又は部分範囲も含むように、柔軟に解釈されるべきである。例えば、「約0.1%~約5%」又は「約0.1%~5%」の範囲は、正確に約0.1%~約5%だけでなく、指定の範囲内の個々の値(例えば、1%、2%、3%及び4%)及び部分範囲(例えば、0.1%~0.5%、1.1%~2.2%、3.3%~4.4%)も含むと解釈されるべきである。別段の指示がない限り、「約X~Y」という記述は、「約X~約Y」と同じ意味を有する。同様に、「約X、Y、又は約Z」という記述は、別途記載のない限り、「約X、約Y、又は約Z」と同じ意味を有する。
【0016】
本明細書で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈がそうでない旨を明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「置換基(a substituent)」への言及は、単一の置換基に加えて2つ以上の置換基などを包含する。単数形の任意の用語は、その複数の対応物を含み得、逆もまた同様であることが理解される。
【0017】
用語「又は」は、別途記載のない限り、非排他的な「又は」を指すために使用される。「A及びBのうちの少なくとも1つ」という記述は、「A、B、又はA及びB」と同じ意味を有する。
【0018】
更に、本明細書で使用され、特に定義されない表現又は用語は、説明のみを目的とするものであり、限定を目的とするものではないことを理解されたい。なんらかのセクション見出しの使用は、文書の読解を支援することを意図しており、限定として解釈されるべきではない。セクション見出しに関連する情報は、その特定のセクション内に存在する場合もあり、当該セクション外に存在する場合もある。本文書で参照される任意の刊行物、特許、及び特許文献は、参照により個々に組み込まれているかのように、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。この文書とこのように参照により組み込まれる文書との間で使用が一貫していない場合、組み込まれる参考文献における使用は、この文書における使用を補足するものであると解釈されるべきである。相容れない矛盾の場合、この文書における使用を優先する。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「例えば(for example)」、「例えば(for instance)」、「など(such as)」、又は「含む(including)」という用語は、より全般的な課題を更に明確にする例を導入することを意味する。特に断らない限り、これらの例は、本開示において例証される用途を理解するための補助としてのみ提供され、いかなる方法でも限定することを意味するものではない。
【0020】
本明細書に記載の方法では、時間的又は動作的な順序が明示的に列挙されている場合を除いて、本開示の原理から逸脱することなくいかなる順序で行為を実行してもよい。更に、明示的な「特許請求の範囲」の文言によって別個に実行されことが記載されていない限り、特定の行為を並行して実行することができる。例えば、Xを行う請求された行為及びYを行う請求された行為を単一の動作内で同時に実施することができ、結果として得られるプロセスは、請求されるプロセスの逐語的な範囲内に入る。
【0021】
本明細書で使用するとき、用語「約」は、例えば、指定の値又は指定の範囲の限度の10%以内、5%以内、又は1%以内の値又は範囲内のばらつきの程度を許容することができ、正確な指定の値又は範囲を含む。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「実質的に」は、少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、99.99%、又は少なくとも約99.999%若しくはそれ以上、又は100%のような大部分又はほとんどの部分を指す。
【0023】
本明細書で使用するとき、以下の用語は、そうではないことが明示的に記載されていない限り、以下の意味を有する。
【0024】
本明細書で使用するとき、用語「天然油」は、植物又は動物資源に由来する油を指し得る。用語「天然油」は、別途記載のない限り、天然油誘導体を含む。天然油の例としては、植物油、藻油、動物脂、トール油、これらの油の誘導体、これらの油のいずれかの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。植物油の代表的な非限定例としては、キャノーラ油、菜種油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、ベニバナ油、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、パーム核油、桐油、ジャトロファ油、カラシ油、カメリナ油、ペニークレス油、大麻油、藻油、及びヒマシ油が挙げられる。動物脂の代表的な非限定例としては、ラード、タロー、家禽脂、黄色油脂、及び魚油が挙げられる。トール油は、木材パルプ製造の副産物である。いくつかの態様では、天然油は、精製、漂白、及び/又は脱臭されてもよい。いくつかの態様では、天然油は、部分的に又は完全に水素添加されてもよい。いくつかの態様では、天然油は、個々に又はこれらの混合物として存在する。
【0025】
本明細書で使用するとき、用語「天然油誘導体」は、当該技術分野において既知の方法のいずれか1つ又は組み合わせを使用する天然油由来の化合物又は化合物の混合物を指し得る。このような方法としては、鹸化、エステル交換(transesterification)、エステル化、エステル交換(interesterification)、水素添加(部分又は完全)、異性化、酸化、及び還元が挙げられる。天然油誘導体の代表的な非限定例としては、ガム、リン脂質、ソーダ油滓、ダーク油、留出物又は留出物スラッジ、脂肪酸及び脂肪酸アルキルエステル(例えば、2-エチルヘキシルエステルなどの非限定例)、天然油のこれらのヒドロキシ置換された異形が挙げられる。
【0026】
本明細書で使用するとき、「天然油系」組成物とは、当該組成物が、主に、実質的に又は全体的に天然油及び天然油誘導体に由来する油及び脂肪酸を含有することを意味する。天然油系ワックスの例としては、植物油系ワックス及び動物油系ワックスが挙げられる。植物油系ワックスの例は、大豆油系ワックスである。天然油系ワックスは、様々な実施形態では、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.9%、99.99%、又は約100%天然油である油を含有していてよい。様々な実施形態では、天然油系ワックスは、パラフィンを実質的に含んでいなくてよい。様々な更なる実施形態では、天然油系ワックスは、非蜜蝋天然油系ワックスであってよい。
【0027】
「モノアシルグリセリド」は、エステル結合を介して連結された単一の脂肪酸残基を有するグリセロール部分を有する分子を指す。用語「モノアシルグリセロール」、「モノアシルグリセリド」、「モノグリセリド」、及び「MAG」は、本明細書において互換的に使用される。モノアシルグリセリドとしては、2-アシルグリセリド及び1-アシルグリセリドが挙げられる。
【0028】
「ジグリセリド」は、エステル結合を介して連結された2つの脂肪酸残基を有するグリセロール部分を有する分子を指す。用語「ジアシルグリセロール」、「ジアシルグリセリド」、「ジグリセリド」、及び「DAG」は、本明細書において互換的に使用される。ジアシルグリセリドとしては、1,2-ジアシルグリセリド及び1,3-ジアシルグリセリドが挙げられる。
【0029】
「トリアシルグリセリド」は、エステル結合を介して3つの脂肪酸残基に連結されたグリセロール部分を有する分子を指す。用語「トリアシルグリセロール」、「トリアシルグリセリド」、「トリグリセリド」、及び「TAG」は、本明細書において互換的に使用される。
【0030】
「アシルグリセリド」は、エステル結合を介して連結された少なくとも1つの脂肪酸残基を有する少なくとも1つのグリセロール部分を有する分子を指す。例えば、アシルグリセリドとしては、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、トリアシルグリセリド、及びアシルグリセリドポリマーを挙げることができる。アシルグリセリドという群は、更なる記述用語によって更に絞り込むことができ、特定の小集団のアシルグリセリドを明示的に除くか又は含むように修飾することができる。例えば、モノ-及びジ-アシルグリセリドという語句は、MAG及びDAGを指し、一方、非MAG/非DAGアシルグリセリドという語句は、MAG及びDAGを除くアシルグリセリドの群を指す。別の例として、C36ダイマー脂肪酸残基を含むアシルグリセリドは、特定の残基を有するアシルグリセリドのみを指す。
【0031】
「アシルグリセリドポリマー」は、ダイマー化脂肪酸残基などの少なくとも1つの二酸連結残基によって一緒に連結された2つ以上のグリセロール部分を有する化合物を指す。例えば、アシルグリセリドポリマーは、式Iの構造を有する化合物を指し得る:
【0032】
【化1】
【0033】
、X、及びXの各存在は、独立して、H、脂肪酸残基、ダイマー化脂肪酸残基、又は式IIの構造を有する残基である。
【0034】
【化2】
【0035】
式I中、X、X、及びXのうちの少なくとも1つは、式IIによる構造を有する残基である。
【0036】
Gは、置換又は無置換のグリセロール単位である。Gは、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、又はトリアシルグリセリドであり得る。例えば、Gは、式Iの構造(式中、X、X、及びXのうちの1つが、結合で置き換えられている)であってよい。したがって、式Iの更なる例では、X、X、及びXの各存在は、独立して、H、非ダイマー化脂肪酸残基、ダイマー化脂肪酸残基、又は式IIa若しくは式IIbによる構造を有する残基であり、X、X、及びXのうちの少なくとも1つは、式IIa又は式IIbによる構造を有する残基である。
【0037】
【化3】
【0038】
Aは、任意の好適な二価の基である。例えば、Aは、-R-Z-R-又は-R-R-であってよい。したがって、式Iの別の例では、X、X、及びXの各存在は、独立して、H、非ダイマー化脂肪酸残基、ダイマー化脂肪酸残基、又は式IIc、式IId、式IIe若しくは式IIfによる構造を有する残基であり、X、X、及びXのうちの少なくとも1つは、式IIc、式IId、式IIe又は式IIfによる構造を有する残基である。
【0039】
【化4】
【0040】
及びXの各存在は、独立して、H、非ダイマー化脂肪酸残基、ダイマー化脂肪酸残基、又は式IIc、式IId、式IIe、若しくは式IIfによる構造を有する残基である。
【0041】
及びRは、それぞれ独立して、置換又は無置換の脂肪族基である。脂肪族基は、飽和脂肪酸側鎖又は1つ、2つ、3つ、若しくはそれ以上の二重結合を有する不飽和脂肪酸側鎖に対応し得る。脂肪族基は、例えば、炭素数1~30、炭素数5~25、炭素数7~21、炭素数12~21、炭素数15~19、又は炭素数17であってよい。任意に、R及びRは置換されていてもよく、置換基の例としては、アルキル、アルコール、ハライド、及びエポキシド環を形成するための酸素が挙げられる。R及びRは、7、9、11、13、15、17、19又は21個の炭素を有する飽和又は不飽和直鎖脂肪族基であり得る。R及びRがそれぞれ炭素数17の飽和又は不飽和基である場合、得られるダイマー化脂肪酸残基は36個の炭素を有する。R及びRは、水素、炭素、酸素、及び窒素原子を含んでいてもよく、又はR及びRは、炭素、水素、及び酸素原子からなっていてもよく、又はR及びRは、炭素原子及び水素原子からなっていてもよい。連結基Zは、結合、酸素原子、又は任意の他の好適な連結基である。連結基Zは、任意の位置を介してR及びRに結合してよい。
【0042】
別の例として、アシルグリセリドポリマーは、式IIIの構造を有する化合物を指し得る:
【0043】
【化5】
【0044】
Gは、置換又は無置換のグリセロール単位である。Gは、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、又はトリアシルグリセリドであり得る。例えば、Gは、式Iの構造(式中、X、X、及びXのうちの1つが、結合で置き換えられている)であってよい。
【0045】
Aは、二価の基である。例えば、Aは、-R-Z-R-又は-R-R-(式中、R及びRのそれぞれが独立して、脂肪酸側鎖、例えば、炭素数11~21のアルキル又はアルケニル鎖に対応する二価脂肪族基であり、連結基Zは、結合又はR及びRの任意の位置に結合した酸素である)であってよい。
【0046】
別の例として、アシルグリセリドポリマーは、式IVa、式IVb、及び/又は式IVcの構造を有する化合物を指し得る:
【0047】
【化6】
【0048】
Xの各存在は、H、非ダイマー化脂肪酸残基、ダイマー化脂肪酸残基、又は式II、式IIa、式IIb、式IIc、式IId、式IIe、式IIf、若しくは式IIgの構造を有する残基である。
【0049】
【化7】
【0050】
Aは、二価の基である。例えば、Aは、-R-Z-R-又は-R-R-(式中、R及びRのそれぞれが独立して、脂肪酸側鎖、例えば、炭素数11~21のアルキル又はアルケニル鎖に対応する二価脂肪族基であり、連結基Zは、結合又はR及びRの任意の位置に結合した酸素である)であってよい。
【0051】
別の例として、アシルグリセリドポリマーは、以下の構造によるモノマー残基を含むポリマーを指し得る:
【0052】
【化8】
【0053】
モノマーAの各例は、モノマーBの1、2、又は3に直接連結される。モノマーBに連結されていないモノマーAの各位置は、終端する。モノマーAは、H又は脂肪酸残基で終端する。
【0054】
モノマーBの各例は、モノマーAの1又は2に連結される。モノマーAに連結されていないモノマーBの各位置は、終端する。モノマーBは、-OHで終端する。更なる例では、モノマーBの実質的に全ての例は、モノマーAの2に連結される。モノマーBは、二酸連結残基であり、Aは、二価の連結基である。例えば、モノマーBは、ダイマー化脂肪酸残基であってよい。更なる実施形態では、Aは、-R-Z-R-又は-R-R-(式中、R及びRのそれぞれが独立して、脂肪酸側鎖、例えば、炭素数11~21のアルキル又はアルケニル鎖に対応する二価脂肪族基であり、連結基Zは、結合又はR及びRの任意の位置に結合した酸素である)であってよい。
【0055】
したがって、アシルグリセリドポリマーは、複数のグリセロール部分及び複数の二酸連結残基を有する化合物を含む。アシルグリセリドポリマーは、直鎖ポリマー又は架橋ポリマーであってよい。別途記載のない限り、用語アシルグリセリドポリマーはまた、単一の二酸連結残基によって一緒に連結された2つのグリセロール部分のみを有する化合物も含む。同時に、用語アシルグリセリドポリマーは、例えば、2以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、75以上、100以上、250以上、500以上、若しくは1,000以上のグリセロール単位を有する化合物、又は2以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、75以上、100以上、250以上、500以上、若しくは1,000以上のダイマー化脂肪酸連結残基を有する化合物、又はこのような特徴の任意の組み合わせの、より大きな化合物を指し得る。
【0056】
用語「二酸連結残基」は、以下の構造を有する残基を指す:
【0057】
【化9】
【0058】
二酸連結残基は、分子の2つの別個の部分を連結するように機能し得る二価の基である。二酸連結残基は、2価の基Aによって分離された2つの末端アシル基を含有する。二価の基Aは、任意の好適な二価連結基であり得る。例えば、Aは、二価アルキル基、二価アルケニル基、二価芳香族基、又はこれらの組み合わせなどの炭化水素であってよい。別の例として、Aは、-R-Z-R-又は-R-R-(式中、R及びRのそれぞれが独立して、脂肪酸側鎖、例えば、炭素数11~21のアルキル又はアルケニル鎖に対応する二価脂肪族基であり、連結基Zは、結合又はR及びRの任意の位置に結合した酸素である)であってよい。更なる例として、二酸連結残基は、ダイマー化脂肪酸残基である。
【0059】
本明細書で使用するとき、用語「重量平均分子量」は、ΣM /ΣM(式中、nは、分子量Mの分子の数である)に等しいMを指す。様々な例において、重量平均分子量は、光散乱、小角中性子散乱、X線散乱、及び沈降速度を使用して決定することができる。
【0060】
本明細書で使用するとき、用語「脂肪酸」は、炭化水素鎖及び末端カルボン酸基を含む分子を指し得る。本明細書で使用するとき、脂肪酸のカルボン酸基は、例えば脂肪酸がグリセリド又は別の分子に組み込まれたときに生じるように修飾又はエステル化(例えば、COOR(式中、Rは、例えば炭素原子を指す))されてもよい。あるいは、カルボン酸基は、遊離脂肪酸又は塩の形態(すなわち、COO”又はCOOH)であってもよい。脂肪酸の「尾部」又は炭化水素鎖はまた、脂肪酸鎖、脂肪酸側鎖、又は脂肪鎖と呼ばれる場合もある。脂肪酸の炭化水素鎖は、典型的には、飽和又は不飽和脂肪族基である。N個の炭素数を有する脂肪酸は、典型的には、N-1個の炭素を有する脂肪酸側鎖を有する。しかしながら、本願はまた、脂肪酸の修飾形態、例えば、ダイマー化脂肪酸にも関し、したがって、脂肪酸という用語は、記載されるように脂肪酸が置換されているか、又は別の方法で修飾されている状況で使用されてもよい。例えば、様々な実施形態では、脂肪酸を別の脂肪酸とダイマー化してダイマー化脂肪酸を得ることができる。特に断らない限り、本明細書で使用するとき、脂肪酸という用語は、非ダイマー化脂肪酸を指し、他方、ダイマー化脂肪酸などの用語は、脂肪酸のダイマー形態を指す。
【0061】
「脂肪酸残基」は、アシル又はエステル化形態の脂肪酸である。
【0062】
特定の種類の脂肪酸の濃度は、本明細書では、油又はワックスの総脂肪酸含量のパーセントで提供され得る。特に断りのない限り、このようなパーセントは、実験的に計算された遊離脂肪酸及びエステル化脂肪酸を含む全脂肪酸に基づく重量パーセントである。
【0063】
「飽和」脂肪酸は、炭化水素鎖に炭素-炭素二重結合を全く含有しない脂肪酸である。「不飽和」脂肪酸は、1つ以上の炭素-炭素二重結合を含有する。「多価不飽和」脂肪酸は、2つ以上のこのような炭素-炭素二重結合を含有し、他方、「一不飽和」脂肪酸は、1つの炭素-炭素二重結合のみを含有する。炭素-炭素二重結合は、シス及びトランスで示される2つの立体配置のうちの1つであってよい。天然に生じる不飽和脂肪酸は、概して「シス」形態である。
【0064】
脂肪酸の非限定的な例としては、C8、C10、C12、C14、C16(例えば、C16:0、C16:1)、C18(例えば、C18:0、C18:1、C18:2、C18:3、C18:4)、C20及びC22脂肪酸が挙げられる。例えば、脂肪酸は、カプリル酸(8:0)、カプリン酸(10:0)、ラウリン酸(12:0)、ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、及びリノレン(18:3)酸であり得る。
【0065】
油の脂肪酸組成は、当該技術分野において既知の方法によって決定することができる。米国油化学会(The American Oil Chemist’s Society、AOCS)は、植物油に対して実施される多種多様な試験のための分析方法を維持管理している。遊離脂肪酸を製造するための油成分の加水分解、遊離脂肪酸のメチルエステルへの変換、及び気液クロマトグラフィー(gas-liquid chromatography、GLC)による分析が、油サンプルの脂肪酸組成を決定するための一般的に受け入れられている標準的な方法である。AOCS手順Ce 1-62に、使用される手順が記載されている。
【0066】
用語「脂肪酸ダイマー」及び「ダイマー化脂肪酸」は、本明細書において互換的に使用され、全般的に、それぞれの脂肪酸側鎖が、例えば結合又は連結基を介して互いに共有結合している2つの脂肪酸サブユニットを含有する化合物を指す。したがって、本明細書に記載のように、脂肪酸ダイマーは、共有結合性脂肪ダイマーである。脂肪酸ダイマーは、ヘテロダイマー又はホモダイマーであり得る。本明細書で使用するとき、脂肪酸ダイマーのカルボン酸基は、例えば脂肪酸ダイマーがグリセリドに組み込まれたか、又は別の分子に結合したときに生じるように修飾又はエステル化されてもよい。好適な脂肪酸ダイマーは、市販されており、例えば、Radiacid 0960 Hydrogenated Standard Dimer及びRadiacid 0970 Distilled Dimer Acid(Oleon N.V.,Belgium)、並びにUNIDYME 18 Dimer Acid(Kraton Corporation,Houston,TX)である。
【0067】
本明細書で使用するとき、用語「脂肪酸ダイマー残基」又は「ダイマー化脂肪酸残基」は、全般的に、グリセロール又はアシルグリセリドなどの親化合物に少なくとも1つのエステル結合によって連結された脂肪酸ダイマーを指す。脂肪酸ダイマー残基は、1つ以上の末端カルボン酸がアシル基で置き換えられている脂肪酸ダイマーに相当する。脂肪酸ダイマー残基は、分子の2つの別個の部分を、エステル結合を介して連結させることができる一種の連結基又は連結残基である。好適な脂肪酸ダイマー残基としては、市販の脂肪酸ダイマーに由来するものが挙げられる。
【0068】
一例として、ダイマー化脂肪酸残基は、以下の構造を有し得る:
【0069】
【化10】
【0070】
ダイマー化脂肪酸残基の例では、R及びRは、それぞれ独立して、置換又は無置換の脂肪族基である。脂肪族基は、飽和脂肪酸側鎖又は1つ、2つ、3つ、若しくはそれ以上の二重結合を有する不飽和脂肪酸側鎖に対応し得る。脂肪族基は、例えば、炭素数1~30、炭素数5~25、炭素数7~21、炭素数12~21、炭素数15~19、又は炭素数17であってよい。任意に、R及びRは置換されていてもよく、置換基の例としては、アルキル、アルコール、ハライド、及びエポキシド環を形成するための酸素が挙げられる。R及びRは、7、9、11、13、15、17、19又は21個の炭素を有する飽和又は不飽和直鎖脂肪族基であり得る。R及びRがそれぞれ炭素数17の飽和又は不飽和基である場合、得られるダイマー化脂肪酸残基は36個の炭素を有する。R及びRは、水素、炭素、酸素、及び窒素原子を含んでいてもよく、又はR及びRは、炭素、水素、及び酸素原子からなっていてもよく、又はR及びRは、炭素原子及び水素原子からなっていてもよい。
【0071】
連結基Zは、結合、酸素原子、又は任意の他の好適な連結基である。連結基Zは、任意の位置を介してR及びRに結合してよい。例えば、連結基Zは、末端炭素以外のR及びRの位置に結合してもよい。別の例として、R及びRは、脂肪酸側鎖に対応する直鎖脂肪族基であってもよく、連結基Zは、ω数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17などで結合していてもよく、あるいは連結基Zは、末端(ω-1)炭素で連結されていてもよい。別の例では、Z基は、R及びRがそれらの間に炭素環又は複素環を形成するために連結するように、複数の結合を表す。Zが結合である場合、ダイマー化脂肪酸残基は、以下の構造を有し得る:
【0072】
【化11】
【0073】
「複数」は、2つ以上を指す。例えば、複数のグリセロール単位を有するポリマー化合物は、2以上のグリセロール単位、10以上のグリセロール単位、100以上のグリセロール単位、1,000以上のグリセロール単位などを有することができる。
【0074】
「滴点(drop point又はdropping point)」は、全般的に、所与の標準化試験の条件下で決定したとき、ワックスが軟化し、十分に流動する流体になる温度を指す。本明細書で使用するとき、滴点は、AOCS標準手順Cc 18-80(Official Methods and Recomsided Practices of the American Oil Chemists’ Society,7th Edition)を介して決定される。滴点は、化合物の熱特性を反映するという点で融点と同様であるが、滴点は、明確な融点を有さない材料に有用であり得る。
【0075】
ワックス組成物の「平均クリープ剛性」は、ベンディングビームレオメーター試験を使用してアスファルトバインダーの曲げクリープ剛性を決定するための標準的な試験方法、ASTM Method D 6648-08によって決定することができ、この方法で使用される通常の950Nよりも低いクリープ荷重である約500Nのクリープ荷重を使用して、室温で又はおよそ室温(例えば、約22℃~約25℃)で実行される。本明細書で使用するとき、試験は、3回の試験の平均を報告するために、490±50Nの一定荷重下で22℃にて3反復で実施した。クリープ挙動は、基本的に、粘弾性の理論を通じた緩和特性に関連し得る。簡潔にするために、ベンディングビームレオメーター試験によって示されるようなワックスのクリープ及び緩和特性は、本明細書では「可撓性」と称される。
【0076】
「酸価」(AV)は、試験サンプル1g中に存在する有機酸を中和するために必要なKOHの重量(mg)として定義され、組成物中に存在する遊離脂肪酸の尺度である。AVは、AOCS Official Method Cd 3 d-63によって決定することができる。
【0077】
可撓性ワックス組成物
本明細書に記載の可撓性ワックス組成物は、従来の植物ワックス及びパラフィンワックスよりも可撓性であるワックスを提供する、固有の組成を有する。この可撓性ワックス組成物は、ダイマー脂肪酸と、グリセリンで化学的又は酵素的にエステル化された脂肪酸又はトリグリセリドのいずれかとを使用することによって達成される。ダイマー脂肪酸は、グリセリド間の架橋剤として作用する。典型的には、ワックス製造において、当業者は、DAG及びTAGなどのより大きな成分を除去することによって、アシルグリセリドの平均分子量を低減することを意図する。ここで、驚くべきことに、より高分子量の成分を使用すると、有利には亀裂耐性であり、かつより速い冷却及び改善されたガラス付着などの改善された製造特性を有する可撓性ワックス組成物が提供された。
【0078】
本開示は、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、及びアシルグリセリドポリマーを含む可撓性ワックス組成物を提供する。組成物の約20重量%~約45重量%はモノアシルグリセリドであり、組成物の約28重量%~約40重量%はジアシルグリセリドであり、組成物の少なくとも10重量%はアシルグリセリドポリマーである。アシルグリセリドポリマーは、1つ以上のダイマー化脂肪酸残基及び複数のグリセロール部分を含有する。
【0079】
様々な実施形態では、アシルグリセリドポリマーは、本明細書に記載のアシルグリセリドポリマー構造のいずれかによる構造を有する。例えば、アシルグリセリドポリマーは、式I、式II、式IIa、式IIb、式IIc、式IId、式IIe、式IIf、式IIg、式III、式IVa、式IVb、若しくは式IVcのうちの1つ以上による構造、又はこれらの任意の組み合わせ若しくは配列を有することができる。更なる例として、アシルグリセリドポリマーは、モノマーA及びモノマーBによるモノマーを有していてよい。
【0080】
様々な実施形態では、アシルグリセリドポリマーは、組成物の約10重量%~約45重量%であり得る。例えば、組成物の約10重量%~約38重量%、約10重量%~約35重量%、約10重量%~約30重量%、約10重量%~約25重量%、約10重量%~約20重量%、約14重量%~約38重量%、約14重量%~約35重量%、約14重量%~約30重量%、約14重量%~約25重量%、又は約14重量%~約20重量%が、アシルグリセリドポリマーである。
【0081】
組成物は、少なくとも10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、若しくは40重量%のアシルグリセリドポリマーを有してもよく、組成物は、最大15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、若しくは45重量%のアシルグリセリドポリマーを有してもよく、又はその両方であってもよい。
【0082】
モノアシルグリセリドは、例えば、組成物の約21重量%~約45重量%、約25重量%~40重量%、又は21重量%~約40重量%で存在し得る。ジアシルグリセリドは、例えば、組成物の約20重量%~約40重量%、約25重量%~40重量%、又は30重量%~約39重量%で存在し得る。トリアシルグリセリドは、例えば、組成物の約1重量%~約17重量%、約1重量%~約10重量%、約3重量%~約8重量%、又は約1重量%~5重量%で存在し得る。様々な実施形態では、組成物の約40重量%~約75重量%は、モノアシルグリセリド及びジアシルグリセリドである。
【0083】
組成物は、最小限の量の遊離脂肪酸及びグリセリンを含み得る。例えば、組成物は、約2重量%未満の遊離脂肪酸及び遊離グリセリンを含み得る。別の実施形態では、組成物は、約1重量%未満、約2.5重量%、約5重量%未満、又は約10重量%未満の遊離脂肪酸、遊離グリセリン及びトリアシルグリセリドを含み得る。
【0084】
一例の実施形態では、組成物の約21重量%~約40重量%はモノアシルグリセリドであり、組成物の約30重量%~約39重量%はジアシルグリセリドであり、組成物の約14重量%~約38重量%はアシルグリセリドポリマーである。更なる実施形態では、組成物は、約2重量%~約17重量%のトリアシルグリセリドを含有する。
【0085】
本発明の可撓性ワックス組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)によって決定することができる平均分子量分布の観点で更に説明することができる。
【0086】
例えば、様々な実施形態では、組成物の少なくとも10重量%が、900Da、1000Da、1100Da、1200Da、1300Da、1400Da、1500Da、1600Da、1700Da、1800Da、1900Da、2000Da、又はそれ以上の重量平均分子量を有するアシルグリセリドである。様々な実施形態では、組成物の約10重量%~約45重量%は、900Da、1000Da、1100Da、1200Da、1300Da、1400Da、1500Da、1600Da、1700Da、1800Da、1900Da、2000Da、又はそれ以上の重量平均分子量を有するアシルグリセリドである。
【0087】
別の実施形態では、組成物は、900Da~3000の重量平均分子量を有するアシルグリセリドを少なくとも11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、又は40重量%有してよい。更なる実施形態では、組成物は、900Da~3000の重量平均分子量を有するアシルグリセリドを最大15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、又は45重量%有してよい。様々な実施形態では、組成物の約10重量%~約45重量%が、900Da~3000Da、1000Da~3000Da、1200Da~3000Da、又は1500Da~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである。
【0088】
更なる実施形態では、組成物の約10重量%~約38重量%、約10重量%~約35重量%、約10重量%~約30重量%、約10重量%~約25重量%、約10重量%~約20重量%、約14重量%~約38重量%、約14重量%~約35重量%、約14重量%~約30重量%、約14重量%~約25重量%、又は約14重量%~約20重量%が、900Da~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである。
【0089】
様々な更なる実施形態では、組成物の約20重量%~約60重量%が、580Da~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである。更なる実施形態では、組成物の約20重量%~約50重量%、約20重量%~約40重量%、約20重量%~約35重量%、約20重量%~約30重量%、約25重量%~約50重量%、約25重量%~約40重量%、約25重量%~約35重量%、又は約25重量%~約30重量%が、580Da~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである。例えば、組成物の約25重量%、26重量%、27重量%、28重量%、29重量%、又は30重量%が、580~900Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドであり得る。
【0090】
組成物は、580以上の重量平均分子量を有するアシルグリセリドを少なくとも15重量%、20重量%、25重量%、又は30重量%有してもよく、又は580Da~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドを少なくとも15重量%、20重量%、25重量%、又は30重量%有してもよい。様々な実施形態では、組成物は、580以上の重量平均分子量を有するアシルグリセリドを60重量%未満、55重量%未満、又は50重量%未満有し、又は580Da~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドを60重量%、55重量%、又は50重量%未満有する。例えば、組成物の約13重量%、14重量%、又は15重量%が、580~3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドであってよい。
【0091】
様々な実施形態では、組成物は、580~900Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドを25重量%、24重量%、23重量%、22重量%、21重量%、20重量%、19重量%、18重量%、17重量%、16重量%、15重量%、又は14重量%未満有する。例えば、組成物の約13重量%、14重量%、又は15重量%が、580~900Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドであってよい。
【0092】
本明細書に記載の可撓性ワックス組成物は、約30MPa未満、約25MPa未満、約20MPa未満、約15MPa未満、及び約10MPa未満の平均クリープ剛性(60秒及び22℃で測定)を有する。
【0093】
可撓性ワックス組成物は、約50~60℃の範囲の滴点を有する。可撓性ワックス組成物は、天然油又は天然油誘導体に由来する。可撓性ワックス組成物は、キャンドル、紙コーティング、ボックスコーティング、フルーツコーティング、OSBのためのブロードサイジング、タイヤ及びゴム、ポリ塩化ビニル(PVC)配管、クレヨン、及びパーソナルケアにおいて使用することができる。
【0094】
本開示はまた、ポリマー、MAG、DAG、及びTAGの組み合わせによって特徴付けられる可撓性ワックス組成物についても記載する。一実施形態では、可撓性ワックス組成物は、約10~45重量%のポリマー、約20~45重量%のMAG、約28~40重量%のDAG、及び約10~17重量%のTAGを含む。別の実施形態では、可撓性ワックス組成物は、約14~38重量%のポリマー、約21~40重量%のMAG、約30~39重量%のDAG、及び約13~17重量%のTAGを含む。
【0095】
本開示はまた、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、及び約900Da~約3000Daの重量平均分子量を有する高分子量アシルグリセリドを含む可撓性ワックス組成物を提供する。組成物の約40重量%~約75重量%は、約200Da~約580Daの重量平均分子量を有するモノアシルグリセリド及びジアシルグリセリドであり、組成物の少なくとも10重量%は、約900Da~約3000Daの重量平均分子量を有するアシルグリセリドである。
【0096】
ダイマー化脂肪酸残基
本開示の可撓性ワックス組成物は、例えば、可撓性ワックス組成物の少なくとも10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、又は40重量%のダイマー化脂肪酸残基を有するアシルグリセリドを含有してよい。1つ以上のダイマー化脂肪酸残基を含有するアシルグリセリドは、1つ、2つ、又はそれ以上のグリセロール単位を含有してよい。このようなアシルグリセリドの一例は、本明細書に記載のアシルグリセリドポリマーである。別の例は、単一のグリセロール及び1つ以上のダイマー化脂肪酸残基を有するアシルグリセリドである。
【0097】
ダイマー化脂肪酸残基は、20~60個の炭素を有してよい。様々な実施形態では、ダイマー化脂肪酸残基は、30~40個の炭素を有する。ダイマー化脂肪酸残基は、炭素数36の残基であってよい。例えば、ダイマー化脂肪酸残基は、リノール酸ダイマー残基、オレイン酸ダイマー残基、又はオレイン酸-リノール酸ヘテロダイマー残基であってよい。
【0098】
脂肪酸ダイマー残基は、市販されている脂肪酸ダイマー、例えば、Radiacid 0960 Hydrogenated Standard Dimer及びRadiacid 0970 Distilled Dimer Acid(Oleon N.V.,Belgium)、並びにUNIDYME 18 Dimer Acid(Kraton Corporation,Houston,TX)のエステル化形態であってよい。
【0099】
一例として、ダイマー化脂肪酸残基は、以下の構造を有し得る:
【0100】
【化12】
【0101】
及びRは、R及びRが同じであっても異なっていてもよいように、それぞれ独立して定義された二価脂肪酸鎖である。R及びRが同じである場合、ダイマー化脂肪酸残基は、脂肪酸ホモダイマーを表す。R及びRが異なる場合、ダイマー化脂肪酸残基は、脂肪酸ヘテロダイマーを表す。様々な実施形態では、R及びRのそれぞれは、独立して、飽和脂肪酸側鎖又は1つ、2つ、3つ、若しくはそれ以上の二重結合を有する不飽和脂肪酸側鎖に対応する置換若しくは無置換のC-C21脂肪族基である。R及びRは、天然に生じる脂肪酸の側鎖の置換形態を表すことができる。例えば、R及びRは、それぞれ独立して、7、9、11、13、15、17、19又は21個の炭素を有する飽和又は不飽和直鎖脂肪族基であってよい。R及びRがそれぞれ炭素数17の飽和又は不飽和基である場合、得られるダイマー化脂肪酸残基は36個の炭素を有する。R及びRは、水素、炭素、酸素、及び窒素原子を含んでいてもよく、又はR及びRは、炭素、水素、及び酸素原子からなっていてもよく、又はR及びRは、炭素原子及び水素原子からなっていてもよい。
【0102】
連結基Zは、結合、酸素原子、又は任意の他の好適な連結基である。連結基Zは、任意の位置を介してR及びRに結合してよい。Zが結合である場合、ダイマー化脂肪酸残基は、以下の構造を有し得る:
【0103】
【化13】
【0104】
ダイマー化脂肪酸残基の非限定的な例は、以下の構造を有する残基である:
【0105】
【化14】
【0106】
及び/又はRの非限定的な例は、以下である:
【0107】
【化15】
【0108】
脂肪酸のダイマー化の結果、通常、ダイマー構造の混合物が形成され得る。したがって、本明細書に記載の組成物は、様々な実施形態では、ダイマー化脂肪酸残基に対応する複数の異なる構造を含有することができる。別途記載のない限り、ダイマー化脂肪酸残基の1つの構造の存在によって定義される組成物は、他の追加のダイマー化脂肪酸残基が存在しないことを意味するものではない。
【0109】
可撓性ワックス組成物の調製方法
本開示は、また、可撓性ワックス組成物の製造方法を提供する。本方法は、1つ以上の脂肪酸及び/又は油、脂肪酸ダイマー、並びにグリセリンを混合することを含む。得られた混合物を、エステル化及びエステル交換を誘起するエステル化触媒で処理する。可撓性ワックス組成物を提供するために、反応混合物が1.5未満の酸価に達するまで反応を進行させる。
【0110】
油は、植物油又は動物油を含む天然油であってよい。油の例としては、キャノーラ油、菜種油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、ベニバナ油、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、パーム核油、桐油、ジャトロファ油、カラシ油、カメリナ油、ペニークレス油、大麻油、藻油、ヒマシ油、ラード、タロー、家禽脂、黄色油脂、魚油、又はこれらの混合物が挙げられる。脂肪酸はまた、混合物に直接添加してもよく、例えば、前述の油のいずれかに由来していてもよいが、得られるワックスの物理的特性をより良好に制御するために別々に添加してもよい。
【0111】
様々な実施形態では、脂肪酸ダイマーは、以下の構造を有する。
【0112】
【化16】
【0113】
及びRは、R及びRが同じであっても異なっていてもよいように、それぞれ独立して定義された二価脂肪酸鎖である。R及びRが同じである場合、ダイマー化脂肪酸は、脂肪酸ホモダイマーを表す。R及びRが異なる場合、ダイマー化脂肪酸は、脂肪酸ヘテロダイマーを表す。様々な実施形態では、R及びRのそれぞれは、独立して、飽和鎖又は1つ、2つ、3つ、若しくはそれ以上の二重結合を有する不飽和脂肪酸側鎖に対応する置換若しくは無置換のC-C21脂肪族基である。R及びRは、天然に生じる脂肪酸の側鎖の置換形態を表すことができる。例えば、R及びRは、それぞれ独立して、7、9、11、13、15、17、19又は21個の炭素を有する飽和又は不飽和直鎖脂肪族基であってよい。R及びRがそれぞれ炭素数17の飽和又は不飽和基である場合、得られるダイマー化脂肪酸は36個の炭素を有する。R及びRは、水素、炭素、酸素、及び窒素原子を含んでいてもよく、又はR及びRは、炭素、水素、及び酸素原子からなっていてもよく、又はR及びRは、炭素原子及び水素原子からなっていてもよい。
【0114】
連結基Zは、結合、酸素原子、又は硫黄原子である。連結基Zは、任意の位置を介してR及びRに結合してよい。Zが結合である場合、ダイマー化脂肪酸は、以下の構造を有してよい:
【0115】
【化17】
【0116】
ダイマー化脂肪酸の非限定的な例としては、Radiacid 0960 Hydrogenated Standard Dimer及びRadiacid 0970 Distilled Dimer Acid(Oleon N.V.,Belgium)、並びにUNIDYME 18 Dimer Acid(Kraton Corporation,Houston,TX)として市販されているものが挙げられる。ダイマー化脂肪酸は、天然油に由来していてよい。別の例として、T18ダイマー酸を使用することができる。
【0117】
本明細書に記載の方法は、以下の工程を含み得る。天然油及び/又は天然誘導体から供給される脂肪酸及び/又は油は、反応容器に添加する前に予め融解され、60~80℃の範囲の温度まで加熱される。脂肪酸は、C8、C10、C12、C14、C16、C18:0、C18:1、C20、又はC22:0脂肪酸、及びこれらの組み合わせから構成され得るが、これらに限定されない。融解した脂肪酸及び/又は油は、酸化を防止するために窒素スパージと一緒に反応容器に添加される。ダイマー酸及びグリセリンの両方を脂肪酸及び/又は油に添加して、反応混合物を形成する。
【0118】
反応混合物は、典型的には、約20~30重量%のグリセリン及び約15~30重量%のダイマーを含み、残りの残部は、脂肪酸及び/又は油で構成される。化学的又は酵素的なエステル交換及びエステル化を誘導するために、反応混合物を処理する。
【0119】
化学エステル交換を行うために、反応混合物に対して約0.1重量%の量で触媒を添加してよい。触媒の例は、水酸化カリウム又は水酸化カルシウムであってよい。次いで、反応温度を約200~250℃に上昇させてよい。1.5未満の酸価が達成されるまでこの反応温度を維持する。酸、例えばリン酸などの鉱酸を約0.2重量%の量で添加して、わずかに過剰の触媒を中和することができる。このような酸は、反応前又は反応後のいずれに添加してもよい。次いで、反応混合物を約60~80℃の範囲の温度に冷却してよい。濾材、例えば、酸活性化砂利粘土を、反応混合物に対して約2重量%の量で反応混合物に添加して、ワックスから不純物を除去してよい。次いで、最終生成物、すなわち可撓性ワックス組成物を濾過して、塩及び粘土混合物を除去する。
【0120】
酵素エステル交換を行うために、酵素触媒を反応混合物に対して2重量%の量で添加してよい。酵素触媒の例は、Lipase Novozyme 435であってよい。反応が行われる際に、約50トールの真空を使用して水を除去することができる。1.5未満の酸価が達成されるまで、約60~80℃の範囲の反応温度を維持する。次いで、適切なフィルター装置を用いて酵素触媒を濾別して、最終生成物、すなわち可撓性ワックス組成物を得ることができる。
【0121】
いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、アシルグリセリドの脂肪酸ダイマーによるエステル化の結果、ポリマー及び架橋されたアシルグリセリドが形成されると考えられる。ダイマーが架橋した結果として、結晶構造がよりランダムに整列することにより、脆性の低い組成物が得られるように、固化したワックス生成物の物理的配列が変化し、それによって、破断ではなく屈曲することができる。
【実施例
【0122】
【表1】
【実施例1】
【0123】
以下の化学エステル交換法を行って、図中のサンプル405-3、405D、405E、405F、1120-1、及び607-1を作製した。表2に記載の全ての脂肪酸(ダイマーを含む)又は油を、反応容器に添加する前に予め融解させ、70℃に加熱した。次いで、融解した脂肪酸又は油を反応容器に添加し、反応中に生成物を酸化しないようにするために、窒素スパージを開始した。次いで、グリセリンを添加し、撹拌機をオンにして内容物を混合した。苛性触媒(水酸化カリウム(KOH)又は水酸化カルシウム(Ca(OH)))を0.1%の投入量で添加した。全ての成分を添加し、十分に混合してから、温度を200~250℃に上昇させた。反応温度を変化させて、反応時間が生成物の特性に対して有する影響を決定した。1.5以下の酸価が達成されるまで、この反応温度を維持した。酸、リン酸(85%濃度)を0.2%で添加して、わずかに過剰の触媒を中和した。混合物を70℃に冷却し、酸活性化漂白粘土B80を2%で反応に添加し、触媒から塩を吸収させた。次いで、生成物を濾過して、塩及び粘土混合物並びに他の不純物を除去した。
【実施例2】
【0124】
サンプル405 Lipoを作製するために、以下の酵素エステル交換法を行った。表2に記載の全ての脂肪酸又は油を、反応容器に添加する前に予め融解させ、70℃に加熱した。次いで、融解した脂肪酸又は油を反応容器に添加し、反応中に生成物を酸化しないようにするために、窒素スパージを開始した。次いで、グリセリンを添加し、撹拌機をオンにして内容物を混合した。2%の酵素触媒、Lipase Novozyme 435を反応に添加した。反応が行われた際に、サンプルを約50トールの真空に引いて、水を全て除去した。1.5以下の酸価が達成されるまで、70℃の温度を維持した。ブフナー漏斗及び濾紙を用いて酵素触媒を濾別した。
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
表2は、各試験サンプルの処方を提供する。405Fを除く表2中の全てのサンプルは、処方物中に存在するダイマーを有し、本明細書に記載のワックス組成物によって想到される。なお、パラフィンは表2には含まれていないが、部分水素添加大豆ワックスであるS-130に加えて、市販のパラフィン(基本的な工業規格パラメーターを満たす)が比較例として含まれていた。表3は、2 1に列挙される脂肪酸成分の脂肪酸構成を示す。
【0128】
表4は、本明細書に記載のワックス組成物のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)結果を提供する。表5は、GPC法のパラメーターを提供する。エステル化/エステル交換反応中にダイマー架橋によって引き起こされるポリマー、MAG、DAG、及びTAGの組み合わせは、他の市販のワックス組成物と識別可能である。
【0129】
【表4】
【0130】
ピークAは、最高分子量成分(922~2751のMw範囲に対応する)に相当する。ピークAは、アシルグリセリドポリマーを表す。ピークBは、中~高分子量成分(582~891のMw範囲に対応する)に相当する。ピークBは、トリアシルグリセリド成分を含むばかりでなく、他の中~高分子量成分も含む分画を表す。ピークCは、低分子量成分(400~568のMw範囲に対応する)に相当する。ピークCは、ジアシルグリセリド成分を表す。ピークDは、最低分子量成分(218~358のMw範囲に対応する)に相当する。ピークDは、モノアシルグリセリド成分を表す。
【0131】
【表5】
【0132】
脂肪酸ダイマーの使用は、他の市販のワックス組成物が提供しないワックス組成物の滴点にわたって望ましい可撓性を提供する。表6、図1、及び図2は、平均クリープ剛性データ(ベンディングビームレオメーターを使用してアスファルトバインダーの曲げクリープ剛性を決定するための標準的な試験方法、ASTM Method D 6648-08によって決定したとき)を提供する。表6はまた、AOCS法Cc 18-80によって測定したときの滴点(℃)も提供する。
【0133】
【表6】
【0134】
図1は、具体的には、本明細書に記載のワックス組成物の可撓性を、市販のワックス、パラフィンワックス、及び部分水素添加大豆ワックス(S-130)と比較する。図1に示すように、パラフィン及びS-130ははるかに高いクリープ剛性値を有し、これは、本明細書に記載のワックス組成物よりも剛性が高いことを示す。図2は、具体的には、本明細書に記載の植物系ワックスの可撓性を比較し、ダイマー架橋サンプルにおける所望のワックスの可撓性を強調する。特に、ダイマー架橋を含有しない405-Fは、本明細書に記載の可撓性ワックス組成物の所望の可撓性特徴を達成しないが、パラフィン及び通常の植物系ワックスよりも更に可撓性である。
【実施例3】
【0135】
内部温度を監視しながら、いくつかのワックス組成物を加熱し、冷却した。試験したワックス組成物は、S-130ワックス(従来の部分水素添加大豆ワックス)、従来のパラフィンワックス、S-130とパラフィンワックスとのブレンド、及び実施例405-3であった。約6時間にわたって冷却を測定した。
【0136】
図3に示されるように、従来の大豆ワックスは、速い速度の初期冷却を有するが、その後、約45分間の冷却後に著しい温度上昇を示す。従来のパラフィンワックスは、最も遅い冷却速度を示す。従来の大豆ワックスと従来のパラフィンワックスとのブレンドは、低速の冷却を示すが、30分~3時間の期間中に平坦化する冷却速度も示す。対照的に、実施例405-3は、S-130ワックスに匹敵する速度を有する速い冷却速度を示すが、S-130ワックスが示す温度上昇期間の問題を有しない。
【0137】
従来の大豆ワックスによって生じる温度スパイクは、冷却プロセスを妨害し、悪影響を及ぼす。また、温度上昇の出現は、この種の内部結晶構造の生成熱に起因している可能性があり、これによってワックスに亀裂が入りやすくなる可能性がある。対照的に、本開示によるワックスは、温度上昇を全く示さない。理論に限定されるものではないが、上述の改善、例えば、亀裂耐性についての1つの可能な説明は、ワックスの結晶構造が破壊され、それによって、冷却時に剛性パターンではなくランダムパターンで結晶を整列させるためというものであり得る。この異なる内部構造によって、ワックスが、破断ではなく、屈曲及び伸張することが可能になると考えられる。
【0138】
列挙される実施形態
以下の例示的な実施形態が提供され、その付番は、重要度のレベルを指定するものと解釈されるべきではない。
【0139】
実施形態1は、約10~45重量%のポリマー、20~45重量%のMAG、28~40重量%のDAG、及び10~17重量%のTAGを含む可撓性ワックス組成物を提供する。
【0140】
実施形態2は、約30MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態1に記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0141】
実施形態3は、約25MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態1に記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0142】
実施形態4は、約20MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態1に記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0143】
実施形態5は、約15MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態1の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0144】
実施形態6は、約10MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態1に記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0145】
実施形態7は、約50~60℃の範囲の滴点を有する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0146】
実施形態8は、天然油又は天然油誘導体に由来する、実施形態1~7のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0147】
実施形態9は、キャンドルにおける実施形態1~8のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物の使用を提供する。
【0148】
実施形態10は、紙コーティング、ボックスコーティング、フルーツコーティング、OSBのためのブロードサイジング、タイヤ及びゴム、ポリ塩化ビニル(PVC)配管、クレヨン、並びにパーソナルケアにおける実施形態1~8のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物の使用を提供する。
【0149】
実施形態11は、可撓性ワックス組成物を製造する方法であって、
脂肪酸及び/又は油、ダイマー、並びにグリセリンを混合して反応混合物を形成することと、
苛性又は酵素触媒を添加して、反応が1.5未満の酸価を達成するまでエステル交換反応を促進して、約10~45重量%のポリマー、20~45重量%のMAG、28~40重量%のDAG、及び10~17重量%のTAGを含む可撓性ワックス組成物を得ることと、を含む、方法を提供する。
【0150】
実施形態12は、可撓性ワックス組成物が、約30MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態11に記載の方法を提供する。
【0151】
実施形態13は、可撓性ワックス組成物が、約25MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態11に記載の方法を提供する。
【0152】
実施形態14は、可撓性ワックス組成物が、約20MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態11に記載の方法を提供する。
【0153】
実施形態15は、可撓性ワックス組成物が、約15MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態11に記載の方法を提供する。
【0154】
実施形態16は、可撓性ワックス組成物が、約10MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態11に記載の方法を提供する。
【0155】
実施形態17は、可撓性ワックス組成物が、約50~60℃の範囲の滴点を有する、実施形態11~16のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0156】
実施形態18は、可撓性ワックス組成物が天然油又は天然油誘導体に由来する、実施形態11~17のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0157】
実施形態19は、可撓性ワックス組成物であって、
約40重量%~約75重量%の約200Da~約580Daの重量平均分子量を有するモノアシルグリセリド及びジアシルグリセリドと、
少なくとも10重量%の約900Da~約3000Daの重量平均分子量(Mw)を有するアシルグリセリドと、を含む、可撓性ワックス組成物を提供する。
【0158】
実施形態20は、可撓性ワックス組成物であって、
約20重量%~約45重量%のモノアシルグリセリドと、
約28重量%~約40重量%のジアシルグリセリドと、
少なくとも10重量%の約900Da~約3000Daの重量平均分子量(Mw)を有するアシルグリセリドと、を含む、可撓性ワックス組成物を提供する。
【0159】
実施形態21は、可撓性ワックス組成物であって、
約20重量%~約45重量%のモノアシルグリセリドと、
約28重量%~約40重量%のジアシルグリセリドと、
約10重量%~約45重量%の、1つ以上のダイマー化脂肪酸残基及び複数のグリセロール部分を含有する化合物であるアシルグリセリドポリマーと、を含む、可撓性ワックス組成物を提供する。
【0160】
実施形態22は、ダイマー化脂肪酸残基が以下の構造を有する、実施形態21に記載の可撓性ワックス組成物を提供する:
【0161】
【化18】
【0162】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、二価のC7-C21脂肪族基であり、Zは、結合又は酸素原子である)。
【0163】
実施形態23は、R及びRがそれぞれ二価のC18脂肪族基であり、Zが結合である、実施形態21又は22に記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0164】
実施形態24は、約1重量%~約17重量%のトリアシルグリセリドを含む、実施形態19~23のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0165】
実施形態25は、組成物の約40重量%~約75重量%がモノアシルグリセリド及びジアシルグリセリドである、実施形態19~24のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0166】
実施形態26は、約2重量%未満の遊離脂肪酸及び遊離グリセリンを含む、実施形態19~25のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0167】
実施形態27は、組成物の約20重量%~約45重量%が、約200Da~約380Daの重量平均分子量(Mw)を有するアシルグリセリドである、実施形態19~26のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0168】
実施形態28は、組成物の約28重量%~約40重量%が、約380Da~約580Daの重量平均分子量(Mw)を有するアシルグリセリドである、実施形態19~27のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0169】
実施形態29は、組成物の約10重量%~約17重量%が、約580Da~約900Daの重量平均分子量(Mw)を有するアシルグリセリドである、実施形態19~28のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0170】
実施形態30は、組成物の約10重量%~約45重量%が、900Da~約3000Daの重量平均分子量(Mw)を有するアシルグリセリドである、実施形態19~29のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0171】
実施形態31は、組成物の少なくとも20重量%が、約580Da~約3000Daの重量平均分子量(Mw)を有するアシルグリセリドである、実施形態19~30のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0172】
実施形態32は、組成物の少なくとも40重量%が大豆油である、実施形態19~31のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0173】
実施形態33は、約50~60℃の範囲の滴点を有する、実施形態19~32のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0174】
実施形態34は、天然油系ワックスである、実施形態19~33のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0175】
実施形態35は、約30MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態19~34のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0176】
実施形態36は、約25MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態19~34のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0177】
実施形態37は、約20MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態19~34のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0178】
実施形態38は、約15MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態19~34のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0179】
実施形態39は、約10MPa未満の平均クリープ剛性を有する、実施形態19~34のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物を提供する。
【0180】
実施形態40は、キャンドルにおける、実施形態1~39のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物の使用を提供する。
【0181】
実施形態41は、紙コーティング、ボックスコーティング、フルーツコーティング、OSBのためのブロードサイジング、タイヤ及びゴム、ポリ塩化ビニル(PVC)配管、クレヨン、並びにパーソナルケアにおける、実施形態1~39のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物の使用を提供する。
【0182】
実施形態42は、実施形態1~39のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物の製造方法であって、
脂肪酸及び/又は油、脂肪酸ダイマー、並びにグリセリンを混合して反応混合物を形成することと、
可撓性ワックス組成物を得るために、エステル化及びエステル交換を促進する苛性触媒又は酵素触媒を添加し、当該混合物が1.5未満の酸価を達成するまで反応を進行させることと、を含む、方法を提供する。
【0183】
実施形態43は、可撓性ワックス組成物を製造する方法であって、
脂肪酸及び/又は油、脂肪酸ダイマー、並びにグリセリンを混合して反応混合物を形成することと、
可撓性ワックス組成物を得るために、エステル化及びエステル交換を促進する苛性触媒又は酵素触媒を添加し、当該混合物が1.5未満の酸価を達成するまで反応を進行させることと、を含む、方法を提供する。
【0184】
実施形態44は、1つ以上の脂肪酸と1つ以上の油とを混合して反応混合物を形成することを含む、実施形態42又は43に記載の方法を提供する。
【0185】
実施形態45は、脂肪酸ダイマーが以下の構造を有する、実施形態42~44のいずれか1つに記載の方法を提供する:
【0186】
【化19】
【0187】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、二価のC7-C21脂肪族基であり、Zは、結合又は酸素原子である)。
【0188】
実施形態46は、触媒が、Lipase Novozyme 435、水酸化カリウム(KOH)、又は水酸化カルシウム(Ca(OH))である、実施形態42~45のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0189】
実施形態47は、脂肪酸が、C8遊離脂肪酸、C10遊離脂肪酸、C12遊離脂肪酸、C14遊離脂肪酸、C16遊離脂肪酸、C18:0遊離脂肪酸、C18:1遊離脂肪酸、又はキャノーラ油、菜種油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、ベニバナ油、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、パーム核油、桐油、ジャトロファ油、カラシ油、カメリナ油、ペニークレス油、大麻油、藻油、ひまし油、ラード、タロー、家禽脂、黄色油脂、若しくは魚油由来の遊離脂肪酸、又はこれらの混合物である、実施形態42~46のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0190】
実施形態48は、油が、キャノーラ油、菜種油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、ベニバナ油、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、パーム核油、桐油、ジャトロファ油、カラシ油、カメリナ油、ペニークレス油、大麻油、藻油、ひまし油、ラード、タロー、家禽脂、黄色油脂、魚油、又はこれらの混合物である、実施形態42~47のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0191】
実施形態49は、油が、大豆油である、実施形態42~48のいずれか1つに記載の方法を提供する。
【0192】
実施形態50は、実施形態1~8及び19~41のいずれか1つに記載の可撓性ワックス組成物から調製された、又は実施形態11~18及び42~49のいずれか1つに記載の方法を介して調製されたキャンドルを提供する。
【0193】
実施形態51は、所望により、列挙された全ての要素又は選択肢が、使用又は選択するために利用可能であるように構成された、実施形態1~50のいずれかの組み合わせの組成物、方法又は使用を提供する。
図1
図2
図3