IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化薬株式会社の特許一覧

特許7390320ジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、有機薄膜及び有機エレクトロニクスデバイス
<>
  • 特許-ジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、有機薄膜及び有機エレクトロニクスデバイス 図1
  • 特許-ジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、有機薄膜及び有機エレクトロニクスデバイス 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、有機薄膜及び有機エレクトロニクスデバイス
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20231124BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231124BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231124BHJP
   H01L 31/0256 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
C09K3/00 105
H05B33/14 B
H01L31/04 320
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020571154
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003632
(87)【国際公開番号】W WO2020162345
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2019018554
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井内 俊文
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄太
(72)【発明者】
【氏名】貞光 雄一
(72)【発明者】
【氏名】青竹 達也
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-137264(JP,A)
【文献】特開2016-166284(JP,A)
【文献】国際公開第18/079653(WO,A1)
【文献】国際公開第13/035303(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056559(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159610(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R乃至Rは、それぞれ独立に水素原子、非置換の脂肪族炭化水素基、非置換のアルコキシ基、非置換のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい芳香族基、非置換の複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基、又は非置換のアシル基を表す。前記芳香族基が有してもよい置換基は、炭素数1乃至4のアルキル基、ハロゲン原子及びフェニル基から選択される。但し、R乃至Rの少なくとも一つは水素原子以外を表し、かつR乃至Rの少なくとも一つは水素原子以外を表す。
乃至R12は、それぞれ独立に水素原子、非置換の脂肪族炭化水素基、非置換のアルコキシ基、非置換のアルキルチオ基、下記式(2)で表される芳香族基、非置換の複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基又は非置換のアシル基を表す。
【化2】
(式(2)中、R 21 乃至R 25 は、それぞれ独立に水素原子、非置換のアルコキシ基、非置換のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい芳香族基、非置換の複素環基、非置換アミノ基又は電子受容性の置換基若しくは原子を表し、前記芳香族基が有してもよい置換基は、炭素数1乃至4のアルキル基、ハロゲン原子及びフェニル基から選択される。R 21 とR 22 が結合して、又はR 22 とR 23 が結合して、芳香族環又は複素環を形成してもよい。但し、R 21 乃至R 25 の少なくとも一つは電子受容性の置換基若しくは原子を表すか、又はR 21 とR 22 が結合して、若しくはR 22 とR 23 が結合して電子受容性の芳香環若しくは複素環を形成する。))で表される化合物。
【請求項2】
乃至Rの少なくとも一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって、かつR乃至Rの少なくとも一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
乃至Rの少なくとも一つがハロゲン原子であって、かつR乃至Rの少なくとも一つがハロゲン原子である請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
乃至Rの少なくとも一つが芳香族基又は複素環基であって、かつR乃至Rの少なくとも一つが芳香族基又は複素環基である請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
とRが同一であって、RとRが同一であって、RとRが同一であって、かつRとRが同一である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
及びR10の少なくとも一つが芳香族基又は複素環基であって、かつR11及びR12の少なくとも一つが芳香族基又は複素環基である請求項1乃至5のいずれか一項に記載
の化合物。
【請求項7】
及びR12が水素原子であって、かつR10及びR11が芳香族基又は複素環基である請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
21乃至R25の少なくとも一つが、ハロゲン原子、ホルミル基、アセチル基、アルコキシカルボニル基、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、トルエンスルホニル基、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ピリジル基、キノリル基、ピラジル基、キノキサリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、ベンゾチアジアゾリル基、スクシンイミドイル基及びフタルイミドイル基からなる群より選択される電子受容性の置換基又は原子である請求項に記載の化合物。
【請求項9】
21とR22が結合して、又はR22とR23が結合して、窒素原子及び/又は硫黄原子を含む複素環を形成している請求項に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の化合物を含む近赤外光吸収材料。
【請求項11】
請求項10に記載の近赤外光吸収材料を含む有機薄膜。
【請求項12】
請求項11に記載の有機薄膜を含む有機エレクトロニクスデバイス。
【請求項13】
請求項11に記載の有機薄膜を含む有機光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光領域に吸収帯を有する新規なジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、並びに該化合物を含む近赤外光吸収材料、薄膜及び有機エレクトロニクスデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
700乃至2500nmの波長領域に吸収帯を有する近赤外光吸収材料は、従来から産業上の様々な用途への利用が検討されてきた。その具体的な用途としては、CD-R(Compact Disc-Recordable)等の光情報記録媒体;サーマルCTP(Computer To Plate)、フラッシュトナー定着、レーザー感熱記録等の印刷用途;熱遮断フィルム等が挙げられる。また、選択的に特定波長領域の光を吸収するという特性を生かして、PDP(Plasma Display Panel)等に用いられる近赤外光カットフィルターや、植物成長調整用フィルム等にも使用されている。更には、近赤外光吸収材料を含む色素を溶媒に溶解又は分散させることにより、近赤外光吸収インクとして使用することも可能である。該近赤外光吸収インクによる印字物は、近赤外光検出器等でのみ読み取りが可能であって目視での認識が困難(不可視画像)なことから、例えば偽造防止等を目的とした印字等に使用される。
【0003】
このような不可視画像形成用の近赤外光吸収材料としては、無機系近赤外光吸収材料と有機系近赤外光吸収材料が知られている。このうち、無機系近赤外光吸収材料としては、イッテルビウム等の希土類金属や、銅リン酸結晶化ガラス等が挙げられる。しかしながら、これら無機系近赤外光吸収材料は近赤外領域の光吸収能が十分でないため、不可視画像の形成のために近赤外光吸収材料が単位面積あたり多量に必要となる。しかも形成した不可視画像の上にさらに可視画像を形成すると、下地となる不可視画像表面の凹凸が可視画像の表面状態に影響を及ぼす場合がある。
【0004】
それに対し、有機系近赤外光吸収材料は近赤外領域の光の吸収性が十分であるため、不可視画像の形成のために必要な単位面積あたりの近赤外線吸収材料の使用量を無機系近赤外光吸収材料よりも減らすことが可能であり、無機系近赤外光吸収材料を使用した場合のような不都合は生じない。そのため、現在に至るまで多くの有機系近赤外光吸収材料の開発が進められている。
【0005】
ところで、有機エレクトロニクスデバイスは、原材料に希少金属などを含まず、安定した供給が可能であるのみならず、無機材料には無い屈曲性を有する点や湿式成膜法による製造が可能な点から、近年非常に興味が持たれている。有機エレクトロニクスデバイスの具体例としては有機EL素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子及び有機トランジスタ素子等が挙げられ、さらに、有機材料の特色を活かした用途が検討されている。
【0006】
これらの有機エレクトロニクスデバイスのうち、有機太陽電池素子及び有機光電変換素子についてはこれまで主に可視光領域での吸光特性に関する研究がなされている。そして、現在はバルクヘテロジャンクション構造による光電変換効率の向上と暗電流値抑制の両立について検討が行われている。また更なる性能の向上に加えて、セキュリティ用途及び生体イメージング用途等への新たな用途展開のために、近赤外領域での吸収特性が注目され始めている。しかしながら、近赤外領域の光吸収色素の有機太陽電池素子及び有機光電変換素子への応用展開は未だ始まったばかりであり、その報告数は多くない。例えば特許文献1では、先に述べた赤外線吸収材料の一つであるスクアリリウム等の既存の色素を、近赤外領域での光電変換材料に適用することを目的とした検討がなされているが、スクアリリウムを用いた有機エレクトロニクス材料は堅牢性に乏しく実用的ではない。
【0007】
非特許文献1及び2では、赤色又は近赤外光領域に吸収帯から蛍光帯を示し、堅牢性の優れた色素としてボロンジピロメテン(boron-dipyrromethene、以下「BODIPY」と称す。)色素に関する報告がなされている。
また特許文献2には、単純なBODIPY色素は500nm付近に強い吸収帯を有するとともに、π共役系の拡張や、電子供与性置換基を導入した芳香族基の導入により、近赤外光領域まで吸収波長を伸ばすことが可能であることが記載されている。
【0008】
更に特許文献3乃至5には、BODIPY骨格を有する化合物をB-Oキレート化することにより、化合物の光に対する堅牢性が更に向上すると共に、吸収波長を長波長側にシフトさせることができることが記載されており、特に、特許文献3及び4には、これらB-Oキレート化した化合物を有機太陽電池素子及び有機光電変換素子に応用した例も記載されている。しかしながら、特許文献3及び4に記載の化合物は吸収波長の長波長化が充分とは言えず、また、特許文献5では吸収波長や近赤外領域での光電変換特性については何ら言及されていない。
特許文献6には、チオフェン環とB-Oキレート化した化合物を用いた近赤外領域に吸収を有する光電変換素子が例示されているが、900nmを超える光に対する明暗比は低く、近赤外光電変換用途に使用するためには更なる光電変換波長の長波長化、近赤外領域における光電変換特性の高感度化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-137264号公報
【文献】特開1999-255774号公報
【文献】特開2012-199541号公報
【文献】特開2016-166284号公報
【文献】国際公開第2013/035303号
【文献】国際公開第2018/079653号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Chem.Soc.Rev.,2014,43,4778-4823
【文献】Chem.Rev.,2007,107,4891-4932
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、近赤外領域に広く吸収を持ち、近赤外領域での光電変換効率に優れた有機化合物、該化合物を含有する近赤外光吸収材料、該近赤外光吸収材料を含む有機薄膜及び該有機薄膜を含む有機エレクトロデバイス並びに有機光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記諸課題を解決するべく考究し、有機エレクトロニクスデバイスへ用いた際に十分な性能を発揮するような、新規のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物を開発し、加えて、これを用いた有機エレクトロニクスデバイスが、近赤外光電変換素子として機能することを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである。
[1]下記式(1)
【0013】
【化1】
【0014】
(式(1)中、R乃至Rは、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基、又はアシル基を表す。但し、R乃至Rの少なくとも一つは水素原子以外を表し、かつR乃至Rの少なくとも一つは水素原子以外を表す。R乃至R12は、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基又はアシル基を表す。)で表される化合物、
[2]R乃至Rの少なくとも一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって、かつR乃至Rの少なくとも一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子である前項[1]に記載の化合物、
[3]R乃至Rの少なくとも一つがハロゲン原子であって、かつR乃至Rの少なくとも一つがハロゲン原子である前項[2]に記載の化合物、
[4]R乃至Rの少なくとも一つが芳香族基又は複素環基であって、かつR乃至Rの少なくとも一つが芳香族基又は複素環基である前項[2]に記載の化合物、
[5]RとRが同一であって、RとRが同一であって、RとRが同一であって、かつRとRが同一である前項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の化合物、
[6]R及びR10の少なくとも一つが芳香族基又は複素環基であって、かつR11及びR12の少なくとも一つが芳香族基又は複素環基である前項[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の化合物、
[7]R及びR12が水素原子であって、かつR10及びR11が芳香族基又は複素環基である前項[6]に記載の化合物、
[8]R10及びR11が下記式(2)
【0015】
【化2】
【0016】
(式(2)中、R21乃至R25は、それぞれ独立に水素原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、置換アミノ基、非置換アミノ基又は電子受容性の置換基若しくは原子を表し、R21とR22が結合して、又はR22とR23が結合して、芳香族環又は複素環を形成してもよい。但し、R21乃至R25の少なくとも一つは電子受容性の置換基若しくは原子を表すか、又はR21とR22が結合して、若しくはR22とR23が結合して電子受容性の芳香環若しくは複素環を形成する。)で表される置換基である前項[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の化合物、
[9]R21乃至R25の少なくとも一つが、ハロゲン原子、ホルミル基、アセチル基、アルコキシカルボニル基、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、トルエンスルホニル基、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ピリジル基、キノリル基、ピラジル基、キノキサリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、ベンゾチアジアゾリル基、スクシンイミドイル基及びフタルイミドイル基からなる群より選択される電子受容性の置換基又は原子である前項[8]に記載の化合物、
[10]R21とR22が結合して、又はR22とR23が結合して、窒素原子及び/又は硫黄原子を含む複素環を形成している前項[8]に記載の化合物、
[11]前項[1]乃至[10]いずれか一項に記載の化合物を含む近赤外光吸収材料、
[12]前項[11]に記載の近赤外光吸収材料を含む有機薄膜、
[13]前項[12]に記載の有機薄膜を含む有機エレクトロニクスデバイス、及び
[14]前項[12]に記載の有機薄膜を含む有機光電変換素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明の新規な化合物を用いた有機薄膜は近赤外光領域に主たる吸収帯を有するものである。また、該化合物及び/又は該有機薄膜を用いることにより、近赤外光電変換素子が実現する。該化合物は、各種有機エレクトロニクスデバイスへの利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の有機光電変換素子の実施態様を例示した断面図を示す。
図2図2は、有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。ここに記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づくものであるが、本発明はそれらの実施態様や具体例に限定されない。なお、本明細書において、近赤外領域とは750乃至2500nmの範囲内にある光の波長領域を意味し、近赤外光吸収材料(又は色素)とは近赤外光領域に主たる吸収波長をもつ材料(又は色素)を、近赤外発光材料(又は色素)とは近赤外光領域において発光する材料(又は色素)をそれぞれ意味する。
【0020】
本発明の化合物は、下記式(1)で表される。
【0021】
【化3】
【0022】
式(1)中、R乃至Rは、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基、又はアシル基を表す。但し、R乃至Rの少なくとも一つは水素原子以外を表し、かつR乃至Rの少なくとも一つは水素原子以外を表す。
【0023】
式(1)中のR乃至Rが表す脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和の直鎖状、分岐鎖状又は環状の脂肪族炭化水素であることができ、その炭素数は1乃至30が好ましく、1乃至20がより好ましく、3乃至10がさらに好ましい。ここで、飽和又は不飽和の直鎖状、分岐鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、アリル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-セチル基、n-ヘプタデシル基、n-ブテニル基、2-エチルへキシル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、3-ブチルノニル基、4-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、3-オクチルウンデシル基、4-オクチルドデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
式(1)中のR乃至Rが表す脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましく、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、2-エチルへキシル基、2-メチルプロピル基又は2-ブチルオクチル基であることが更に好ましく、n-ヘキシル基、n-オクチル基又は2-メチルプロピル基であることが特に好ましい。
【0024】
式(1)中のR乃至Rが表すアルコキシ基とは、酸素原子とアルキル基が結合した置換基であり、アルコキシ基中のアルキル基としては、例えば式(1)中のR乃至Rが表す脂肪族炭化水素基の項に具体例として記載したアルキル基が挙げられる。式(1)中のR乃至Rが表すアルコキシ基は、例えばアルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
式(1)中のR乃至Rが表すアルキルチオ基とは、硫黄原子とアルキル基が結合した置換基であり、アルキルチオ基中のアルキル基としては、例えば式(1)中のR乃至Rが表す脂肪族炭化水素基の項に具体例として記載したアルキル基が挙げられる。式(1)中のR乃至Rが表すアルキルチオ基は、例えばアルキルチオ基等の置換基を有していてもよい。
【0025】
式(1)中のR乃至Rが表す芳香族基とは、芳香族化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基であれば特に限定されず、例えばフェニル基、ビフェニル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、フェナンスニル基及びメスチル基等が挙げられ、フェニル基又はナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。尚、芳香族基と成り得る芳香族化合物は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されないが、炭素数1乃至4のアルキル基、ハロゲン原子又はフェニル基が好ましく、メチル基、ハロゲン原子又はフェニル基がより好ましい。
【0026】
式(1)中のR乃至Rが表す複素環基とは、複素環化合物の複素環から水素原子を一つ除いた残基であれば特に限定されず、例えばフラニル基、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、N-メチルイミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、インドリル基、ベンゾピラジル基、ベンゾピリミジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、ピリジノチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピリジノイミダゾリル基、N-メチルベンゾイミダゾリル基、ピリジノ-N-メチルイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリジノオキサゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、ピリジノチアジアゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基、ピリジノオキサジアゾリル基、カルバゾリル基、フェノキサジニル基及びフェノチアジニル基等が挙げられ、チエニル基、チエノチエニル基、チアゾリル基、ピリジル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基又はピリジノチアジアゾリル基が好ましく、チエニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基又はベンゾチアジアゾリル基がより好ましい。尚、複素環基と成り得る複素環化合物は置換基を有していてもよく、該有していても良い置換基は特に限定されない。
【0027】
式(1)中のR乃至Rが表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0028】
式(1)中のR乃至Rが表す置換アミノ基は、アミノ基の水素原子の一つ又は二つが、置換基で置換された置換基である。置換アミノ基の有する置換基としては、アルキル基又は芳香族基が好ましく、芳香族基がより好ましい。これら置換基の具体例としては、式(1)中のR乃至Rが表す脂肪族炭化水素基の項に記載したアルキル基及び式(1)中のR乃至Rが表す芳香族基と同じものが挙げられる。
式(1)中のR乃至Rが表す非置換アミノ基とはNH基を意味する。
式(1)中のR乃至Rが表すアシル基とは、カルボニル基と芳香族基又はアルキル基が結合した置換基であり、アシル基中のアルキル基及び芳香族基としては、式(1)中のR乃至Rが表す脂肪族炭化水素基の項に記載したアルキル基、及び式(1)中のR乃至Rが表す芳香族基と同じものが挙げられる。
【0029】
式(1)におけるR乃至Rとしては、R乃至Rの少なくとも一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であって、かつR乃至Rの少なくとも一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であることが好ましく、R乃至Rの少なくとも一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって、かつR乃至Rの少なくとも一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であることがより好ましく、R乃至Rのうちの一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって残りの三つが水素原子であり、かつR乃至Rのうちの一つが脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって残りの三つが水素原子であることが更に好ましく、R乃至Rのうちの一つが芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって残りの三つが水素原子であり、かつR乃至Rのうちの一つが芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって残りの三つが水素原子であることが特に好ましく、R乃至Rのうちの一つがハロゲン原子であって残りの三つが水素原子であり、かつR乃至Rのうちの一つがハロゲン原子であって残りの三つが水素原子であることが最も好ましい。
【0030】
また、上記したR乃至Rのうちの一つが置換基又はハロゲン原子であって残りの三つが水素原子であり、かつR乃至Rのうちの一つが置換基又はハロゲン原子であって残りの三つが水素原子である態様の場合の置換基又はハロゲン原子の置換位置は、R及びR、又はR及びRが好ましい。なお、置換基とは、R乃至Rとして挙げられたうち、水素原子及びハロゲン原子以外のものをいう。 より詳しくは、R及びRがそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であってR、R乃至R及びRが水素原子であるか、R及びRがそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であってR、R、R、R、R及びRが水素原子であることが好ましく、R及びRがそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であってR、R乃至R及びRが水素原子であるか、R及びRがそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であってR、R、R、R、R及びRが水素原子であることがより好ましく、R及びRがそれぞれ独立に芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であってR、R乃至R及びRが水素原子であるか、R及びRがそれぞれ独立に芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であってR、R、R、R、R及びRが水素原子であることが更に好ましく、R及びRがそれぞれ独立にハロゲン原子であってR、R乃至R及びRが水素原子であるか、R及びRがそれぞれ独立にハロゲン原子であってR、R、R、R、R及びRが水素原子であることが特に好ましい。
【0031】
更には、式(1)におけるR乃至Rとしては、RとRが同一であって、RとRが同一であって、RとRが同一であって、かつRとRが同一であることも好ましい態様である。
例えば、上記したR及びR、又はR及びRが置換基又はハロゲン原子であってそれ以外が水素原子である態様の場合には、R及びRの両者が同一の脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であってR、R乃至R及びRが水素原子であるか、R及びRの両者が同一の脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であってR、R、R、R、R及びRが水素原子であることが好ましく、R及びRの両者が同一の脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であってR、R乃至R及びRが水素原子であるか、R及びRの両者が同一の脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であってR、R、R、R、R及びRが水素原子であることがより好ましく、R及びRの両者が同一の芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であってR、R乃至R及びRが水素原子であるか、R及びRの両者が同一の芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であってR、R、R、R、R及びRが水素原子であることが更に好ましく、R及びRの両者が同一のハロゲン原子であってR、R乃至R及びRが水素原子であるか、R及びRの両者が同一のハロゲン原子であってR、R、R、R、R及びRが水素原子であることが特に好ましい。
【0032】
また、式(1)におけるR乃至Rのうちの二つ以上がそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であって、かつR乃至Rのうちの二つ以上がそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であることも好ましく、R乃至Rのうちの二つ以上がそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって、かつR乃至Rのうちの二つ以上がそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であることがより好ましく、R乃至Rのうちの二つ以上がそれぞれ独立に芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって、かつR乃至Rのうちの二つ以上がそれぞれ独立に芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であることが更に好ましい。
更には、R乃至Rのうちの二つがそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であって残りの二つが水素原子であり、かつR乃至Rのうちの二つがそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基であって残りの二つが水素原子であることが好ましく、R乃至Rのうちの二つがそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって残りの二つが水素原子であり、かつR乃至Rのうちの二つがそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子であって残りの二つが水素原子であることがより好ましく、R乃至Rのうちの一つがハロゲン原子であって別の一つがハロゲン原子、芳香族基又は複素環基であって残りの二つが水素原子であり、かつR乃至Rのうちの一つがハロゲン原子であって別の一つがハロゲン原子、芳香族基又は複素環基であって残りの二つが水素原子であることが更に好ましい。
【0033】
式(1)中、R乃至R12は、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基又はアシル基を表す。
式(1)のR乃至R12が表す脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、置換アミノ基及びアシル基としては、式(1)のR乃至Rが表す脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、置換アミノ基及びアシル基と同じものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0034】
式(1)におけるR乃至R12としては、それぞれ独立に水素原子、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又はシアノ基であることが好ましく、それぞれ独立に芳香族基又は複素環基であることがより好ましい。
より詳しくは、R及びR10の少なくとも一つが芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又はシアノ基であって、かつR11及びR12の少なくとも一つが芳香族基、複素環基、ハロゲン原子又はシアノ基であることが好ましく、R及びR10の少なくとも一つが芳香族基又は複素環基であって、かつR11及びR12の少なくとも一つが芳香族基又は複素環基であることがより好ましく、R10及びR11が芳香族基又は複素環基であることが更に好ましく、R及びR12が水素原子であって、かつR10及びR11が芳香族基又は複素環基であることが更に好ましい。
更に詳しくは、R及びR10の少なくとも一つが下記式(2)で表される置換基であって、かつR11及びR12の少なくとも一つが下記式(2)で表される置換基であることが好ましく、R10及びR11が下記式(2)で表される置換基であることがより好ましく、R及びR12が水素原子であって、かつR10及びR11が同一の又は異なる下記式(2)で表される置換基であることが更に好ましく、R及びR12が水素原子であって、かつR10及びR11が同一の下記式(2)で表される置換基であることが特に好ましい。
【0035】
【化4】
【0036】
式(2)中、R21乃至R25は、それぞれ独立に水素原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、置換アミノ基、非置換アミノ基、アシル基、又は電子受容性の置換基若しくは原子を表し、R21とR22が結合して、又はR22とR23が結合して、芳香族環又は複素環を形成してもよい。但し、R21乃至R25の少なくとも一つは電子受容性の置換基若しくは原子を表すか、又はR21とR22が結合して、若しくはR22とR23が結合して電子受容性の芳香環若しくは複素環を形成する。
式(2)のR21乃至R25が表すアルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、置換アミノ基及びアシル基としては、式(1)のR乃至Rが表すアルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、置換アミノ基及びアシル基と同じものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0037】
式(2)中のR21乃至R25の少なくとも一つが表す電子受容性(電子求引性)の置換基又は原子は、電子受容性を有する置換基又は原子でありさえすれば特に限定されないが、たとえばHammett則などで知られるハロゲン原子、ホルミル基、アセチル基、アルコキシカルボニル基、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、トルエンスルホニル基、メタンスルホニル基及びトリフルオロメタンスルホニル基等や、電子欠損のヘテロ環であるピリジル基、キノリル基、ピラジル基、キノキサリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、ベンゾチアジアゾリル基、スクシンイミドイル基及びフタルイミドイル基等が挙げられる。これらのうち、ハロゲン原子、アセチル基、トリフルオロメチル基、シアノ基、ピリジル基、チアゾリル基又はベンゾチアゾリル基が好ましく、ハロゲン原子、シアノ基、チアゾリル基又はベンゾチアゾリル基がより好ましい。
【0038】
式(2)中のR21とR22が結合して、又はR22とR23が結合して、芳香族環又は複素環を形成してもよい。
21とR22が結合して、又はR22とR23が結合して形成する芳香族環又は複素環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フラン環、ピロール環、イミダゾール環、チオフェン環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、トリアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環等の五員環又は六員環の芳香族環または複素環が挙げられる。
上記したR21とR22が結合して、又はR22とR23が結合して形成する芳香族環又は複素環の具体例のうち、電子受容性を有するものは、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、トリアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環であり、窒素原子及び/又は硫黄原子を含む複素環を形成することがより好ましい。
21とR22が結合して、又はR22とR23が結合して形成する芳香族環又は複素環は置換基を有してもよく、該有していてもよい置換基としては、式(1)中のR乃至Rが表す脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基及びアシル基と同様のものが挙げられる。
【0039】
上記式(1)で表される化合物は、Tetrahedron Letters,2010,51,1600の記載を参照して、例えば下記の反応工程で得られる。
【0040】
【化5】
【0041】
上記反応工程において、化合物(A)及び化合物(B)を反応させて化合物(C)を得る工程(a)は、例えばアルコールおよび酢酸の混合溶媒中、アンモニウム塩(例えば酢酸アンモニウム、塩化アンモニウムなど)又はアンモニア水を加えることにより行うことができる。尚、化合物(A)と化合物(B)の構造が同一の場合は、工程(a)は化合物(A)単独で行うことも出来る。次いで化合物(C)から化合物(D)を得る工程(b)は、例えば化合物(C)を第三級アミン(例えばトリエチルアミンなど)の存在下で三フッ化ホウ素類(例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体など)と反応させることによって行うことができる。最後に化合物(D)から式(1)で表される化合物を得る工程(c)は、例えば、化合物(D)を三臭化ホウ素と反応させることによって行うことができる。
尚、化合物(A)乃至(D)中のR乃至R12は、式(1)中のR乃至R12と同じ意味を表す。
式(1)で表される化合物の精製方法は特に限定されず、例えば洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー、真空昇華等が採用でき、必要に応じてこれらの方法を組み合わせることができる。
【0042】
式(1)で表される化合物の具体例として、No.1乃至No.24で表される化合物を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、具体例として示した構造式は共鳴構造の一つを表したものにすぎず、図示した共鳴構造に限定されない。
【0043】
【化6】
【0044】
【化7】
【0045】
【化8】
【0046】
【化9】
【0047】
本発明の近赤外光吸収材料は、上記式(1)で表される化合物を含有する。
本発明の近赤外光吸収材料中の式(1)で表される化合物の含有量は、近赤外光吸収材料を用いる用途において必要とされる近赤外光の吸収能力が発現する限り特に限定されないが、通常は50質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
本発明の近赤外光吸収材料には、式(1)で表される化合物以外の化合物(例えば式(1)で表される化合物以外の近赤外光吸収材料(色素)等)や添加剤等を併用してもよい。併用し得る化合物や添加剤等は、近赤外光吸収材料を用いる用途において必要とされる近赤外光の吸収能力が発現する限り特に限定されない。
【0048】
〔有機薄膜〕
本発明の有機薄膜は、本発明の近赤外光吸収材料を含有する。
本発明の有機薄膜は、一般的な乾式成膜法や湿式成膜法により作製することができる。具体的には真空プロセスである抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング及び分子積層法、溶液プロセスであるキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等が挙げられる。
一般的な近赤外光吸収材料の有機薄膜の形成は、加工の容易性という観点から化合物を溶液状態で塗布するようなプロセスが望まれているが、有機膜を積層するような有機エレクトロニクスデバイスの場合、塗布溶液が下層の有機膜を侵す恐れがあることから不向きである。
【0049】
この様な積層構造を実現するためには、乾式成膜法、例えば抵抗加熱蒸着等の乾式成膜法に用いることができる蒸着可能な材料であることが適切である。したがって、近赤外領域に主たる吸収波長を有し、且つ蒸着可能な近赤外光吸収材料が近赤外光電変換材料として好ましい。
【0050】
各層の成膜には上記の手法を複数組み合わせた方法を採用してもよい。各層の厚みは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定することはできないが、通常は0.5乃至5,000nmの範囲であり、好ましくは1乃至1,000nmの範囲、より好ましくは5乃至500nmの範囲である。
【0051】
上記式(1)で表される化合物の分子量は、例えば式(1)で表される化合物を含む有機薄膜を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1,500以下であることが好ましく、1,200以下であることがより好ましく、1,000以下であることがさらに好ましい。分子量の下限値は、式(1)で表される化合物がとり得る最低分子量の値である。
なお、式(1)で表される化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
尚、本明細書における分子量は、EI-GCMS法で算出した値を意味する。
【0052】
〔有機エレクトロニクスデバイス〕
本発明の有機エレクトロニクスデバイスは本発明の有機薄膜(以下、有機薄膜を単に「薄膜」と言う場合もある)を含む。有機エレクトロニクスデバイスとしては、例えば、有機薄膜トランジスタ、有機光電変換素子、有機太陽電池素子、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」又は「有機発光素子」と表す。)、有機発光トランジスタ素子、有機半導体レーザー素子などが挙げられる。本発明では、特に近赤外用途の展開が期待される有機光電変換素子、有機EL素子に着目する。ここでは本発明の実施形態の一つである近赤外光吸収材料を用いた有機光電変換素子、近赤外発光特性を利用した有機EL素子、有機半導体レーザー素子について説明する。
なお、ここでは詳細に説明しないが、700nmを超える近赤外光は、生体組織に対する透過性が高い。従って、生体内組織の観測のための利用も可能であるため、近赤外蛍光プローブ等、医療分野での病理解明、診断等において、その目的に応じて様々な態様での適用が可能である。
【0053】
〔有機光電変換素子〕
上記式(1)で表される化合物は近赤外光吸収特性を有する化合物であることから、有機光電変換素子としての利用が期待される。特に、上記式(1)で表される化合物は、本発明の有機光電変換素子に於ける光電変換層に用いることができる。当該素子に於いては、光に対する応答波長光の吸収帯の極大吸収が700乃至2500nmであることが好ましい。ここで、有機光電変換素子としては近赤外光センサ、有機撮像素子、近赤外光イメージセンサ等が挙げられる。
尚、本明細書における吸収帯の極大吸収とは、吸収スペクトル測定で測定した吸光度のスペクトルにおける極大の吸光度の値を意味し、極大吸収波長(λmax)は極大吸収の中で最も長波長側の極大吸収となる波長を意味する。
【0054】
有機光電変換素子は、対向する一対の電極膜間に光電変換部(膜)を配置した素子であって、電極膜の上方から光が光電変換部に入射されるものである。光電変換部は前記の入射光に応じて電子と正孔を発生する機能を有し、このような光電変換部を備える有機光電変換素子は、半導体により前記電荷に応じた信号が読み出され、光電変換膜部の吸収波長に応じた入射光量を示す素子である。光が入射しない側の電極膜には読み出しのためのトランジスタが接続される場合もある。有機光電変換素子は、アレイ状に多数配置されている場合、入射光量に加え入射位置情報をも示すため、撮像素子となる。また、より光源近くに配置された光電変換素子が、光源側から見てその背後に配置された光電変換素子の吸収波長を遮蔽しない(透過する)場合は、複数の光電変換素子を積層して用いてもよい。
【0055】
本発明の有機光電変換素子は、上記式(1)で表される化合物を上記光電変換部の構成材料として用いたものである。
光電変換部は、光電変換層と、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層及び層間接触改良層等から成る群より選択される一種又は複数種の光電変換層以外の有機薄膜層とから成ることが多い。上記式(1)の化合物は光電変換層以外にも用いることもできるが、光電変換層の有機半導体膜の材料として用いることが好ましい。光電変換層は上記式(1)で表される化合物のみで構成されていてもよいが、上記式(1)で表される化合物以外に、公知の近赤外光吸収材料やその他を含んでいてもよい。
【0056】
本発明の有機光電変換素子に用いられる電極膜は、後述する光電変換部に含まれる光電変換層が、正孔輸送性を有する場合や光電変換層以外の有機薄膜層が正孔輸送性を有する正孔輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から正孔を取り出してこれを捕集する役割を果たし、又光電変換部に含まれる光電変換層が電子輸送性を有する場合や、光電変換層以外の有機薄膜層が電子輸送性を有する電子輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から電子を取り出して、これを吐出する役割を果たすものである。よって、電極膜として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する光電変換層やその他の有機薄膜層との密着性や電子親和力、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極膜として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属;ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質;ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー;炭素等が挙げられる。これらの材料は、必要により複数を混合して用いてもよいし、異なる材料の電極膜を2層以上積層して用いてもよい。電極膜に用いる材料の導電性も、光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、光電変換素子の信号強度や、消費電力の観点から出来るだけ高いことが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極膜として充分機能するが、数Ω/□程度の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能となっていることから、この様な高い導電性を有する基板を使用することが望ましい。ITO膜(電極膜)の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nm程度である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法等が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV-オゾン処理やプラズマ処理等を施してもよい。
【0057】
電極膜のうち、少なくとも光が入射する側の何れか一方に用いられる透明電極膜の材料としては、ITO、IZO、SnO、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)等が挙げられる。光電変換層の吸収ピーク波長における透明電極膜を介して入射した光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。
【0058】
検出する波長の異なる光電変換層を複数積層する場合、それぞれの光電変換層の間に用いられる電極膜(これは上記した一対の電極膜以外の電極膜である)は、それぞれの光電変換層が検出する波長を有する光以外の光を透過させる必要があり、該電極膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。
【0059】
電極膜はプラズマフリーで作製することが好ましい。プラズマフリーでこれらの電極膜を作製することにより、電極膜が設けられる基板にプラズマが与える影響が低減され、光電変換素子の光電変換特性を良好にすることができる。ここで、プラズマフリーとは、電極膜の成膜時にプラズマを用いないか、又はプラズマ発生源から基板までの距離を2cm以上、好ましくは10cm以上、更に好ましくは20cm以上離すことにより、基板に到達するプラズマが減ぜられるような状態を意味する。
【0060】
プラズマを用いずに電極膜を形成できる装置としては、例えば、電子線蒸着装置(EB蒸着装置)やパルスレーザー蒸着装置等が挙げられる。EB蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をEB蒸着法と称し、パルスレーザー蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をパルスレーザー蒸着法と称する。
【0061】
成膜時のプラズマを減ずることが出来る装置としては、例えば、対向ターゲット式スパッタ装置やアークプラズマ蒸着装置等が挙げられる。
【0062】
透明導電膜を電極膜(例えば第一の導電膜)とした場合、DCショート、あるいはリーク電流の増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層に発生する微細なクラックがTCO(Transparent Conductive Oxide)などの緻密な膜によって被覆され、第一の導電膜とは反対側の電極膜(第二の導電膜)との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る材料を電極に用いた場合、リーク電流の増大は生じにくい。電極膜の膜厚を、光電変換層の膜厚(クラックの深さ)に応じて制御することにより、リーク電流の増大を抑制することができる。
【0063】
通常、導電膜を所定の厚さより薄くすると、急激な抵抗値の増加が起こる。本実施形態の1つである光センサ用光電変換素子における導電膜のシート抵抗は、通常100乃至10,000Ω/□であり、膜厚を適宜設定することができる。又、透明導電膜が薄いほど吸収する光の量が少なくなり、一般に光透過率が高くなる。光透過率が高くなると、光電変換層で吸収される光が増加して光電変換能が向上するため非常に好ましい。
【0064】
本発明の有機光電変換素子が有する光電変換部は、光電変換層のみからなる場合もあれば、光電変換層以外の有機薄膜層を含む場合もある。光電変換部を構成する光電変換層には一般的に有機半導体膜が用いられるが、その有機半導体膜は一層若しくは複数の層であってもよく、一層の場合は、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。一方、複数の層である場合は、層の数は、2乃至10程度であり、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)の何れかを積層した構造であり、層間にバッファ層が挿入されていてもよい。なお、上記の混合膜により光電変換層を形成する場合、本発明の式(1)で表される化合物をp型半導体材料として用い、n型半導体材料としては一般的なフラーレンや、その誘導体を用いることが好ましい。
【0065】
本発明の有機光電変換素子において、光電変換部を構成する光電変換層以外の有機薄膜層は、光電変換層以外の層、例えば、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層又は層間接触改良層等として用いられる。特に電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層及び正孔ブロック層(以下「キャリアブロック層」とも表す。)から成る群より選択される一種以上の薄膜層として用いることにより、弱い光エネルギーでも効率よく電気信号に変換する素子が得られるため好ましい。
【0066】
加えて、有機光電変換素子の中でも有機撮像素子では、高コントラスト化や省電力化を目的として、暗電流の低減により性能の向上を目指す手法が一般的であることから、層構造内にキャリアブロック層を挿入する手法が好ましい。これらのキャリアブロック層は、有機エレクトロニクスデバイス分野では一般に用いられており、其々のデバイスの構成膜中において正孔若しくは電子の逆移動を制御する役割を果たす。
【0067】
電子輸送層は、光電変換層で発生した電子を電極膜へ輸送すると共に、電子輸送先の電極膜から光電変換層に正孔が移動するのをブロックする役割を果たす。正孔輸送層は、発生した正孔を光電変換層から電極膜へ輸送すると共に、正孔輸送先の電極膜から光電変換層に電子が移動するのをブロックする役割を果たす。電子ブロック層は、電極膜から光電変換層への電子の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する役割を果たす。正孔ブロック層は、電極膜から光電変換層への正孔の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する役割を果たす。
【0068】
図1に本発明の有機光電変換素子の代表的な素子構造を示すが、本発明はこの構造に限定されるものではない。図1の態様例においては、1が絶縁部、2が一方の電極膜(上部電極膜)、3が電子ブロック層、4が光電変換層、5が正孔ブロック層、6が他方の電極膜(下部電極膜)、7が絶縁基材又は他の有機光電変換素子をそれぞれ表す。図中には記載していない読み出し用のトランジスタは、2又は6の電極膜と接続されていればよく、更には光電変換層4が透明であれば、光が入射する側とは反対側の電極膜の外側に成膜されていてもよい。有機光電変換素子への光の入射は、光電変換層4を除く構成要素が、光電変換層の主たる吸収波長の光を入射することを極度に阻害することがなければ、上部若しくは下部からの何れからでもよい。
【0069】
〔有機EL素子〕
次に有機EL素子について説明する。
本発明の式(1)で表される化合物は近赤外発光特性を有することから、有機EL素子への利用が期待される。
【0070】
有機EL素子は固体で自己発光型の大面積カラー表示や照明などの用途に利用できることが注目され、数多くの開発がなされている。その構成は、陰極と陽極からなる対向電極の間に、発光層及び電荷輸送層の2層を有する構造のもの;対向電極の間に積層された電子輸送層、発光層及び正孔輸送層の3層を有する構造のもの;及び3層以上の層を有するもの;等が知られており、また発光層が単層であるもの等が知られている。
【0071】
ここで正孔輸送層は、正孔を陽極から注入させ、発光層へ正孔を輸送し、発光層への正孔の注入を容易にする機能と電子をブロックする機能とを有する。また、電子輸送層は、電子を陰極から注入させ、発光層へ電子を輸送し、発光層への電子の注入を容易にする機能と正孔をブロックする機能とを有する。さらに発光層においてはそれぞれ注入された電子と正孔が再結合することにより励起子が生じ、その励起子が放射失活する過程で放射されるエネルギーが発光として検出される。以下に有機EL素子の好ましい態様を記載する。
【0072】
有機EL素子は、陽極と陰極との電極間に1層又は複数層の有機薄膜が形成された素子で、電気エネルギーにより発光する素子である。
【0073】
有機EL素子において使用されうる陽極は、正孔を正孔注入層、正孔輸送層及び発光層に注入する機能を有する電極である。一般的に仕事関数が4.5eV以上の金属酸化物や金属、合金、導電性材料などが適している。具体的には、有機EL素子の陽極に適した材料は特に限定されるものでないが、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物、金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、タングステンなどの金属、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーや炭素が挙げられる。それらの中でも、ITOやNESAを用いることが好ましい。
【0074】
陽極は、必要であれば複数の材料を用いても、また異なる材料からなる2層以上で構成されていてもよい。陽極の抵抗は素子の発光に十分な電流を供給できさえすれば限定されないが、素子の消費電力の観点からは低いことが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下のITO基板であれば素子電極として機能するが、数Ω/□程度の基板の供給も可能になっていることから、低抵抗品を使用することが望ましい。ITOの厚みは抵抗値に合わせて任意に選ぶ事ができるが、通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nmの間で用いられる。ITOなどの膜形成方法としては、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、塗布法などが挙げられる。
【0075】
有機EL素子において使用されうる陰極は、電子を電子注入層、電子輸送層及び発光層に注入する機能を有する電極である。一般的に仕事関数の小さい(おおよそ4eV以下である)金属や合金が適している。具体的には、白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムが挙げられるが、電子注入効率を上げて素子特性を向上させるためにはリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム又はマグネシウムが好ましい。合金としては、これら低仕事関数の金属を含むアルミニウムもしくは銀等の金属との合金、又はこれらを積層した構造の電極等が使用できる。積層構造の電極にはフッ化リチウムのような無機塩の使用も可能である。また、陽極側でなく陰極側へ発光を取り出す場合は、陰極は、低温で製膜可能な透明電極としてもよい。陰極膜形成方法としては、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、塗布法などが挙げられるが、特に制限されるものではない。陰極の抵抗は素子の発光に十分な電流が供給できるものであれば限定されないが、素子の消費電力の観点からは低いことが好ましく、具体的には数100乃至数Ω/□程度が好ましい。陰極の膜厚は通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nmの範囲で用いられる。
【0076】
酸化チタン、窒化ケイ素、酸化珪素、窒化酸化ケイ素、酸化ゲルマニウムなどの酸化物、窒化物、又はそれらの混合物、ポリビニルアルコール、塩化ビニル、炭化水素系高分子、フッ素系高分子などで陰極を保護し、酸化バリウム、五酸化リン、酸化カルシウム等の脱水剤と共に封止することができる。
【0077】
また発光を取り出すために、一般的には素子の発光波長領域で十分な透明性を有する基板上に電極を作製することが好ましい。透明な基板としてはガラス基板やポリマー基板が挙げられる。ガラス基板にはソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英などが用いられる。基板は機械的・熱的強度を保つのに十分な厚さがあればよく、0.5mm以上が好ましい。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ないもの、例えば無アルカリガラスが好ましい。このようなものとして、SiOなどのバリアコートを施した市販のソーダライムガラスを使用することもできる。またポリマー基板としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエーテルサルホン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル基板などが挙げられる。
【0078】
有機EL素子の有機薄膜は、陽極と陰極の電極間に、1層又は複数の層で形成されている。その有機薄膜に上記式(1)で表される化合物を含有させることにより、電気エネルギーにより発光する素子が得られる。
【0079】
有機薄膜により形成される「層」とは、正孔輸送層、電子輸送層、正孔輸送性発光層、電子輸送性発光層、正孔阻止層、電子阻止層、正孔注入層、電子注入層、発光層、又は下記構成例9)に示すように、これらの層が有する機能を併せ持つ単一の層を意味する。有機EL素子の一態様を図2に示す。図2において、1Eは基板、2Eは陽極、3Eは正孔注入層、4Eは正孔輸送層、5Eは発光層、6Eは電子輸送層、7Eは陰極を示す。このような態様に加えて、有機EL素子において有機薄膜を形成する層の構成は、以下の構成例1)から9)のいずれであってもよい。
【0080】
構成例
1)正孔輸送層/電子輸送性発光層。
2)正孔輸送層/発光層/電子輸送層。
3)正孔輸送性発光層/電子輸送層。
4)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層。
5)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層。
6)正孔輸送性発光層/正孔阻止層/電子輸送層。
7)前記1)から6)の組み合わせのそれぞれにおいて、正孔輸送層もしくは正孔輸送性発光層の前に正孔注入層を更にもう一層付与した構成。
8)前記1)から3)、5)から7)の組み合わせのそれぞれにおいて、電子輸送層もしくは電子輸送性発光層の前に電子注入層を更にもう一層付与した構成。
9)前記1)から8)の組み合わせにおいて使用する材料をそれぞれ混合し、この混合した材料を含有する一層のみを有する構成。
なお、前記9)は、一般にバイポーラー性の発光材料と言われる材料で形成される単一の層;又は、発光材料と正孔輸送材料又は電子輸送材料を含む層を一層設けるだけでもよい。一般的に多層構造とすることで、効率良く電荷、すなわち正孔及び/又は電子を輸送し、これらの電荷を再結合させることができる。また電荷のクエンチングなどが抑えられることにより、素子の安定性の低下を防ぎ、発光の効率を向上させることができる。
【0081】
正孔注入層及び正孔輸送層は、正孔輸送材料を単独で、又は二種類以上の該材料の混合物を積層することにより形成される。正孔輸送材料としては、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’’-ジフェニル-1,1’-ジアミン、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンなどのトリフェニルアミン類;ビス(N-アリルカルバゾール)又はビス(N-アルキルカルバゾール)類;ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体やポルフィリン誘導体に代表される複素環化合物;ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどが好ましく使用できるが、素子作製に必要な薄膜を形成し、電極から正孔が注入できて、さらに正孔を輸送できる物質であれば特に限定されるものではない。正孔注入性を向上するための、正孔輸送層と陽極の間に設ける正孔注入層としては、フタロシアニン誘導体、m-MTDATA(4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン)等のスターバーストアミン類、高分子系ではPEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))等のポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール誘導体等で作製されたものが挙げられる。
【0082】
電子輸送層は、電子輸送材料を単独で、又は二種類以上の該材料の混合物を積層することにより形成される。電子輸送材料としては、電界を与えられた電極間において負極からの電子を効率良く輸送することが必要である。電子輸送材料は、電子注入効率が高く、注入された電子を効率良く輸送することが好ましい。そのためには、電子輸送材料は、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時及び使用時に発生しにくい物質であることが要求される。このような条件を満たす物質として、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム錯体に代表されるキノリノール誘導体金属錯体、トロポロン金属錯体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、ナフタルイミド誘導体、ナフタル酸誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、キノキサリン誘導体などが挙げられるが特に限定されるものではない。これらの電子輸送材料は単独でも用いられるが、異なる電子輸送材料と積層又は混合して使用しても構わない。電子注入性を向上するための、電子輸送層と陰極の間に設ける電子注入層としては、セシウム、リチウム、ストロンチウムなどの金属やフッ化リチウムなどが挙げられる。
【0083】
正孔阻止層は、正孔阻止性物質を単独で又は二種類以上を混合して積層することにより形成される。正孔阻止性物質としては、バソフェナントロリン、バソキュプロイン等のフェナントロリン誘導体、シロール誘導体、キノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体などが好ましい。正孔阻止性物質は、正孔が陰極側から素子外部に流れ出てしまい発光効率が低下するのを阻止することができる化合物であれば特に限定されるものではない。
【0084】
発光層とは、発光する有機薄膜の意味であり、例えば強い発光性を有する正孔輸送層、電子輸送層又はバイポーラー輸送層であると言うことができる。発光層は、発光材料(ホスト材料、ドーパント材料など)により形成されていればよく、これはホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であっても、いずれでもよい。ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の材料の組み合わせであってもよい。
【0085】
ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれであってもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれであってもよい。発光層として例えば前述の正孔輸送層や電子輸送層が挙げられる。発光層に使用される材料としては、カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体、ナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フェニルブタジエン誘導体、スチリル誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、テトラセン誘導体、ペリレン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ポルフィリン誘導体や燐光性金属錯体(Ir錯体、Pt錯体、Eu錯体など)などが挙げられる。
【0086】
有機EL素子の有機薄膜の形成方法は、一般的に、真空プロセスである抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、溶液プロセスであるキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を採用しうる。各層の厚みは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定されるものではないが、0.5乃至5,000nmの間から選ばれる。好ましくは1乃至1,000nm、より好ましくは5乃至500nmである。
【0087】
有機EL素子を構成する有機薄膜のうち、陽極と陰極の電極間に存在する、発光層、正孔輸送層、電子輸送層などの薄膜の1層又は複数層に上記式(1)で表される化合物を含有させることにより、低電気エネルギーでも効率良く発光する素子が得られる。
【0088】
上記式(1)で表される化合物は正孔輸送層や発光層、電子輸送層として好適に用いることができる。例えば前述した電子輸送材料又は正孔輸送材料、発光材料などと組み合わせて使用することや混合して使用することができる。
【0089】
上記式(1)で表される化合物をドーパント材料と組み合わせたホスト材料として用いる場合のドーパント材料の具体例としては、ビス(ジイソプロピルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸イミドなどのペリレン誘導体、ペリノン誘導体、4-(ジシアノメチレン)-2メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4Hピラン(DCM)やその類縁体、マグネシウムフタロシアニン、アルミニウムクロロフタロシアニンなどの金属フタロシアニン誘導体、ローダミン化合物、デアザフラビン誘導体、クマリン誘導体、オキサジン化合物、スクアリリウム化合物、ビオラントロン化合物、ナイルレッド、5-シアノピロメテン-BF錯体等のピロメテン誘導体、さらに燐光材料としてアセチルアセトンやベンゾイルアセトンとフェナントロリンなどを配位子とするEu錯体や、Ir錯体、Ru錯体、Pt錯体、Os錯体などのポルフィリン、オルトメタル金属錯体などを用いることができるが特にこれらに限定されるものではない。また2種類のドーパント材料を混合する場合は、ルブレンのようなアシストドーパントを用いてホスト色素からのエネルギーを効率良く移動して色純度の向上した発光を得ることも可能である。いずれの場合も高輝度特性を得るためには、蛍光量子収率が高いものをドーピングすることが好ましい。
【0090】
ドーパント材料の使用量が多すぎると濃度消光現象が起きるため、通常はホスト材料に対して30質量%以下となる量を用いる。好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下である。発光層におけるドーパント材料をホスト材料にドーピングする方法としては、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着してもよい。また、ホスト材料にサンドイッチ状に挟んで使用することも可能である。この場合、一層又は二層以上のドーパント層として、ホスト材料と積層してもよい。
【0091】
これらのドーパント層は、ドーパント材料単独で形成することもできるし、ドーパント材料を混合して形成してもよい。また、ドーパント材料を、高分子結着剤としてポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリ(メチル)(メタ)アクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリブタジエン、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリサルフォン、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂)、ポリウレタン樹脂などの溶剤可溶性樹脂や、フェノール樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの硬化性樹脂に溶解又は分散させて用いることも可能である。
【0092】
有機EL素子はフラットパネルディスプレイとして好適に使用することができる。またフラットバックライトとしても用いることができ、この場合、有色光を発するものでも白色光を発するものでもいずれでも使用できる。バックライトは、主に自発光しない表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶表示装置、時計、オーディオ機器、自動車パネル、表示板、標識などに使用される。特に、液晶表示装置、中でも薄型化が課題となっている、パソコン用途のための従来のバックライトは、蛍光灯や導光板からなっているため薄型化が困難であったが、本発明の発光素子を用いたバックライトは、薄型、軽量が特徴であるため上記問題点は解消される。同様に照明にも有用に用いることができる。
【0093】
本発明の上記式(1)で表される化合物を用いると、発光効率が高く、寿命が長い有機EL表示装置を得る事が出来る。さらに薄膜トランジスタ素子を組み合わせることで印加電圧のオンオフ現象を電気的に高精度に制御した有機EL表示装置を低コストで供給することが可能となる。
【0094】
[有機半導体レーザー素子]
上記式(1)で表される化合物は近赤外発光特性を有する化合物であることから、有機半導体レーザー素子としての利用が期待される。すなわち、上記式(1)で表される化合物を含有する有機半導体レーザー素子と共振器構造を組み合わせ、効率的にキャリアを注入して励起状態の密度を十分に高めることが出来れば、光が増幅されレーザー発振に至る事が期待される。従来、有機半導体レーザー素子は、光励起によるレーザー発振が観測されるのみであり、電気励起によるレーザー発振に必要とされる高密度の励起状態を発生させるのは非常に困難と言われてきた。しかし、上記式(1)で表される化合物を含有する有機半導体素子を用いることで、高効率な発光(電界発光)が起こる可能性が期待される。
【実施例
【0095】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。合成例に記載の化合物は、必要に応じて質量分析スペクトル(MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)により構造を決定した。実施例におけるH-NMRスペクトルの測定はJNM-ECS400(日本電子株式会社)により、MSスペクトルの測定はISQTM 7000 シングル四重極GC-MSシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック)により、それぞれ測定した。吸収スペクトルの測定は紫外可視分光光度計UV-1700(株式会社島津製作所)により測定した。実施例・比較例中の有機光電変換素子の電流電圧の印可測定は、半導体パラメータアナライザ4200-SCS(ケースレーインスツルメント社製)を用いて行った。入射光の照射はPVL-3300(朝日分光社製)により、照射光強度130μW、半値幅20nmの光源で350nm乃至1100nmの範囲で測定を行った。
【0096】
[実施例1]
実施例1では、3-メトキシ-2-チエノチオフェンカルボン酸メチルを原料として既報(例えばTetrahedron Letters,2008,49,3716-3721)と同様の方法によって合成した下記式(2-1)で表される化合物を出発原料として、下記の合成フローに準じて下記式(1-1)で表される本発明の化合物を合成した。
【0097】
【化10】
【0098】
(工程1)式(2-2)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、上記式(2-1)で表される(1-アセチル-4-フルオロフェニル)(3-メトキシ-2-チエノチエニル)メタノン(32mmol)をエタノール(350mL)及び酢酸(75mL)に溶解し、65℃に加熱して酢酸アンモニウム(200mmol)及び塩化アンモニウム(35mmol)を加え、90℃に昇温して3時間撹拌した。反応液を空冷して飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和したのち、生じた固体を濾過により回収することにより、式(2-2)で表される中間体化合物を得た(8.4mmol、収率:53%)。
式(2-2)で表される中間体化合物の質量分析スペクトルの測定結果は以下の通りであった。
EI-MS(m/z):616[M]
【0099】
(工程2)式(2-3)で表される中間体化合物の合成
フラスコに、工程1で得られた式(2-2)で表される化合物(8.4mmol)、トルエン(350mL)及びトリエチルアミン(84mmol)を加えて80℃に加熱後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(84mmol)を滴下して100℃まで昇温して一晩撹拌した。反応液を空冷して飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和したのち、生じた固体を濾過により回収することにより、式(2-3)で表される中間体化合物を得た(3.0mmol、収率:36%)。
式(2-3)で表される中間体化合物の核磁気共鳴スペクトル(NMR)の測定結果は以下の通りであった。
1H-NMR(400MHz,CDCl) δ(ppm)=7.86(q,2H),7.67(s,1H),7.43(d,2H),7.33(dd,2H),7.24-7.22(m,2H),7.21(d,2H),3.96(s,6H)
【0100】
(工程3)式(1-1)で表される本発明の化合物1の合成
フラスコに、工程2で得られた式(2-3)で表される中間体化合物(1.8mmol)及びジクロロメタン(60mL)を加えて攪拌し、三臭化ホウ素(9mL)を滴下した後に室温で5時間攪拌した。飽和重曹水を加えて生じた沈殿をろ過により回収し、水とメタノールで繰り返し洗浄することにより、黒色の式(1-1)で表される本発明の化合物1を得た(1.6mmol、収率:89%)。
式(1-1)で表される化合物1の質量分析スペクトル及び吸収スペクトルの測定結果は以下の通りであった。
EI-MS(m/z):596[M]
λmax=845nm(クロロホルム)
【0101】
【化11】
【0102】
[実施例2]
(工程4)下記式(1-2)で表される本発明の化合物2の合成
式(2-1)で表される化合物のかわりに、(1-アセチル-4-フルオロフェニル)(5-(4-シアノフェニル)-3-メトキシ-2-チエノチエニル)メタノンを用いたこと以外は実施例1の工程1乃至3に準じて、式(1-2)で表される本発明の化合物2を得た(収率:89%)。
式(1-2)で表される本発明の化合物2の質量分析スペクトル及び吸収スペクトルの測定結果は以下の通りであった。
EI-MS(m/z):798[M]
λmax=890nm(クロロホルム)
【0103】
【化12】
【0104】
[実施例3]
(工程5)下記式(1-3)で表される本発明の化合物3の合成
式(2-1)で表される化合物のかわりに、(1-アセチル-4-フルオロフェニル)(5-(ベンゾビスチアジアゾール)-3-メトキシ-2-チエノチエニル)メタノンを用いたこと以外は実施例1の工程1乃至3に準じて、式(1-3)で表される本発明の化合物3を得た(収率:55%)。
式(1-3)で表される本発明の化合物3の質量分析スペクトル及び吸収スペクトルの測定結果は以下の通りであった。
EI-MS(m/z):864[M]
λmax=900nm(クロロホルム)
【0105】
【化12】
【0106】
[実施例4]
(工程6)下記式(1-4)で表される本発明の化合物4の合成
式(2-1)で表される化合物のかわりに、(1-アセチル-3-フェニル)―4-フルオロフェニル)(5-(ベンゾビスチアジアゾール)-3-メトキシ-2-チエノチエニル)メタノンを用いたこと以外は実施例1の工程1乃至3に準じて、式(1-4)で表される本発明の化合物4を得た(収率:30%)。
式(1-4)で表される本発明の化合物4の質量分析スペクトル及び吸収スペクトルの測定結果は以下の通りであった。
EI-MS(m/z):1016[M]
λmax=913nm(クロロホルム)
【0107】
【化13】
【0108】
[比較例1]
比較用化合物1の合成
特許文献2に記載の方法に準じて、下記式(3-1)で表される比較用化合物1を得た。この化合物のクロロホルム溶液のλmaxは790nmであった。
【0109】
【化14】
【0110】
[比較例2]
比較用化合物2の合成
特許文献6に記載の方法に準じて、下記式(3-2)で表される比較用化合物2を得た。この化合物のクロロホルム溶液のλmaxは769nmであった。
【0111】
【化15】
【0112】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4で得られた本発明の化合物1~4(式(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)で表される化合物)は比較用化合物1、2(式(3-1)及び(3-2)で表される化合物)よりも長波長領域に溶液中の極大吸収波長を有しており、900nm付近の近赤外光を効率よく吸収できることは明らかである。
【0113】
[実施例5]
本発明の有機薄膜1の作製及び吸収スペクトル測定
ガラス基板上に実施例1で得られた式(1-1)で表される本発明の化合物1を真空下、抵抗加熱法により蒸着して本発明の有機薄膜1を得た。得られたガラス基板上の有機薄膜1の吸収スペクトルを測定した結果、吸収スペクトルのλmaxは870nmであった。
【0114】
[実施例6]
本発明の有機薄膜2の作製及び吸収スペクトル測定
実施例1で得られた式(1-1)で表される本発明の化合物1の代りに、実施例2で得られた式(1-2)で表される本発明の化合物2を用いた以外は実施例5に準じて、本発明の有機薄膜2を得た。得られたガラス基板上の有機薄膜2の吸収スペクトルを測定した結果、吸収スペクトルのλmaxは905nmであった。
【0115】
[実施例7]
本発明の有機薄膜3の作製及び吸収スペクトル測定
実施例1で得られた式(1-1)で表される本発明の化合物1の代りに、実施例3で得られた式(1-3)で表される本発明の化合物3を用いた以外は実施例5に準じて、本発明の有機薄膜3を得た。得られたガラス基板上の有機薄膜3の吸収スペクトルを測定した結果、吸収スペクトルのλmaxは960nmであった。
【0116】
[実施例8]
本発明の有機薄膜4の作製及び吸収スペクトル測定
実施例1で得られた式(1-1)で表される本発明の化合物1の代りに、実施例4で得られた式(1-4)で表される本発明の化合物3を用いた以外は実施例5に準じて、本発明の有機薄膜3を得た。得られたガラス基板上の有機薄膜3の吸収スペクトルを測定した結果、吸収スペクトルのλmaxは984nmであった。
【0117】
[比較例3]
比較用有機薄膜1の作製及び吸収スペクトル測定
実施例1で得られた式(1-1)で表される本発明の化合物1の代りに、比較例1で得られた式(3-1)で表される比較用化合物1を用いた以外は実施例5に準じて、比較用有機薄膜1を得た。得られたガラス基板上の比較用の有機薄膜1の吸収スペクトルを測定した結果、吸収スペクトルのλmaxは760nmであった。
【0118】
[比較例4]
比較用有機薄膜2の作製及び吸収スペクトル測定
実施例1で得られた式(1-1)で表される本発明の化合物1の代りに、比較例2で得られた式(3-2)で表される比較用化合物2を用いた以外は実施例5に準じて、比較用有機薄膜2を得た。得られたガラス基板上の比較用の有機薄膜2の吸収スペクトルを測定した結果、吸収スペクトルのλmaxは810nmであった。
【0119】
実施例5、6、7、8及び比較例3、4の結果より、本発明の化合物を含む実施例の有機薄膜は、比較例の有機薄膜よりも長波長側にλmaxを持ち、薄膜においてもより効率的に900nm付近の近赤外光を吸収できることは明らかである。
【0120】
[実施例9]
本発明の有機薄膜を含む有機光電変換素子1の作製と評価
予め洗浄したITO透明導電硝子(ジオマテック社製、ITO膜厚150nm)上に、実施例1で得られた式(1-1)で表される本発明の化合物1を抵抗加熱真空蒸着して厚さ100nmの有機薄膜を形成した。次いで、得られた有機薄膜上に、アルミニウムを抵抗加熱真空蒸着して厚さ100nmの電極を成膜することにより、本発明の有機光電変換素子1を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、350nmから1100nmの光照射を行った状態で電圧1Vを印加した際の光電流応答性を測定した結果、最大光電流波長は906nmであった。
【0121】
[実施例10]
本発明の有機薄膜を含む有機光電変換素子2の作製と評価
予め洗浄したITO透明導電硝子(ジオマテック社製、ITO膜厚150nm)上に、実施例2で得られた式(1-2)で表される本発明の化合物2を抵抗加熱真空蒸着して厚さ100nmの有機薄膜を形成した。次いで、得られた有機薄膜上に、アルミニウムを抵抗加熱真空蒸着して厚さ100nmの電極を成膜することにより、本発明の有機光電変換素子2を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、350nmから1100nmの光照射を行った状態で電圧1Vを印加した際の光電流応答性を測定した結果、最大光電流波長は981nmであった。
【0122】
[実施例11]
本発明の有機薄膜を含む有機光電変換素子3の作製と評価
予め洗浄したITO透明導電硝子(ジオマテック社製、ITO膜厚150nm)上に、実施例3で得られた式(1-3)で表される本発明の化合物3を抵抗加熱真空蒸着して厚さ100nmの有機薄膜を形成した。次いで、得られた有機薄膜上に、アルミニウムを抵抗加熱真空蒸着して厚さ100nmの電極を成膜することにより、本発明の有機光電変換素子3を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、350nmから1100nmの光照射を行った状態で電圧1Vを印加した際の光電流応答性を測定した結果、最大光電流波長は990nmであった。
【0123】
[比較例5]
比較用有機薄膜を含む比較用有機光電変換素子1の作製と評価
式(1-1)で表される化合物1の代わりに式(3-1)で表される比較用化合物1を用いたこと以外は実施例9に準じて比較用有機光電変化素子1を作製し、光電流応答性を測定した。ITOとアルミニウムを電極として、350nmから1100nmの光照射を行った状態で電圧1Vを印加した際の光電流応答性を測定した結果、最大光電流波長は772nmであった。
【0124】
[比較例6]
比較用有機薄膜を含む比較用有機光電変換素子2の作製と評価
式(1-1)で表される化合物1の代わりに式(3-2)で表される比較用化合物2を用いたこと以外は実施例9に準じて比較用有機光電変化素子2を作製し、光電流応答性を測定した。ITOとアルミニウムを電極として、350nmから1100nmの光照射を行った状態で電圧1Vを印加した際の光電流応答性を測定した結果、最大光電流波長は824nmであった。
【0125】
本発明の有機薄膜を含む有機光電変換素子の明暗比率の評価
実施例9乃至11で得られた本発明の有機光電変換素子1、2、3を用いて、実施例9乃至11と同じ条件の光照射及び印可電圧で光電流値(A/cm)と暗電流値(A/cm)を測定し、900nm及び1000nmにおける明暗比を算出し、結果を表1に示した。
【0126】
比較用有機薄膜を含む有機光電変換素子の明暗比率の評価
比較例5乃至6で得られた比較用有機光電変換素子1、2を用いて、比較例5乃至6と同じ条件の光照射及び印可電圧で光電流値(A/cm)と暗電流値(A/cm)を測定し、900nm及び1000nmにおける明暗比を算出し、結果を表1に示した。
【0127】
【表1】
【0128】
上記結果より、本発明の化合物の有機薄膜を含む実施例の有機光電変換素子は、比較例用有機光電変換素子よりも長波長側に最大光電流波長を示し、900nm以上の近赤外光を吸収できることは明らかである。また、本発明の有機薄膜を含む有機光電変換素子は近赤外付近の光に対して高い明暗比を示しており、本発明の化合物は撮像素子や光センサー用の材料として有効であることがわかった。

近赤外付近でも高い明暗比であり、撮像素子の材料として有効であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
近赤外光領域に主たる吸収帯を有する本発明の化合物は合成が容易であり、かつ近赤外領域における吸収特性と蒸着可能な特性を兼ね備えているため、近赤外領域において動作する有機エレクトロニクスデバイス材料として非常に有用である。
【符号の説明】
【0130】
図1
1 絶縁部
2 上部電極膜
3 電子ブロック層
4 光電変換層
5 正孔ブロック層
6 下部電極膜
7 絶縁基材若しくは他光電変換素子
【0131】
図2
1E 基板
2E 陽極
3E 正孔注入層
4E 正孔輸送層
5E 発光層
6E 電子輸送層
7E 陰極


図1
図2