(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置および三次元積層造形方法
(51)【国際特許分類】
B22F 12/40 20210101AFI20231124BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20231124BHJP
B22F 10/368 20210101ALI20231124BHJP
B22F 10/85 20210101ALI20231124BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20231124BHJP
B29C 64/264 20170101ALI20231124BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20231124BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231124BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231124BHJP
【FI】
B22F12/40
B22F10/28
B22F10/368
B22F10/85
B29C64/153
B29C64/264
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
(21)【出願番号】P 2021045456
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】袁 志雄
(72)【発明者】
【氏名】宮北 歩
(72)【発明者】
【氏名】金子 雄平
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0174695(US,A1)
【文献】特開2016-074132(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/010144(JP,A1)
【文献】特開2018-197372(JP,A)
【文献】特表2017-500233(JP,A)
【文献】再公表特許第2019/088114(JP,A1)
【文献】特表2017-515970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料が層状に敷き詰められる造形プレートと、
前記造形プレート上に敷き詰められた前記粉末材料にビームを照射するビーム照射装置と、
を備える三次元積層造形装置であって、
前記ビーム照射装置は、前記造形プレート上に敷き詰められた前記粉末材料の造形領域を複数のラインに分けてビーム走査することにより、前記造形領域内の前記粉末材料をラインごとに溶融させるとともに、M番目(Mは自然数)のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの間に、前記粉末材料を溶融させない状態で前記ビームを走査するダミー走査を行い、
前記ビーム照射装置は、前記M番目のラインの長さが所定長さよりも短い場合には前記ダミー走査を行い、前記M番目のラインの長さが前記所定長さよりも長い場合には前記ダミー走査を行わずに前記M+1番目のラインのビーム走査を行
い、
前記ビーム照射装置は、前記所定長さと前記M番目のラインの長さとの差分に応じて、前記ダミー走査の時間を調整する
三次元積層造形装置。
【請求項2】
粉末材料が層状に敷き詰められる造形プレートと、
前記造形プレート上に敷き詰められた前記粉末材料にビームを照射するビーム照射装置と、
を備える三次元積層造形装置であって、
前記ビーム照射装置は、前記造形プレート上に敷き詰められた前記粉末材料の造形領域を複数のラインに分けてビーム走査することにより、前記造形領域内の前記粉末材料をラインごとに溶融させるとともに、M番目(Mは自然数)のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの間に、前記粉末材料を溶融させない状態で前記ビームを走査するダミー走査を行い、
前記ビーム照射装置は、前記M番目のラインをビーム走査するのに要する時間が所定時間よりも短い場合には前記ダミー走査を行い、前記M番目のラインをビーム走査するのに要する時間が前記所定時間よりも長い場合には前記ダミー走査を行わずに前記M+1番目のラインのビーム走査を行
い、
前記ビーム照射装置は、前記所定時間と前記M番目のラインをビーム走査するのに要する時間との差分に応じて、前記ダミー走査の時間を調整する
三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記粉末材料を溶融させない状態とは、前記M番目のラインをビーム走査するときよりも前記ビームを暈かした状態、および、前記M番目のラインをビーム走査するときよりも前記ビームの走査速度を速めた状態のうち、少なくともいずれか一方の状態である
請求項1または2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
前記所定長さは、ビーム電流に応じて異なる
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項5】
前記所定時間は、ビーム電流に応じて異なる
請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項6】
前記ビーム照射装置は、前記M番目のラインおよび前記M+1番目のラインを含む前記造形領域とは異なる別領域で前記ダミー走査を行う
請求項1または2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項7】
前記別領域は、前記M番目のラインおよび前記M+1番目のラインを含む前記造形領域の後にビーム走査を行う予定の造形領域である
請求項
6に記載の三次元積層造形装置。
【請求項8】
前記ビーム照射装置は、前記ダミー走査中にビーム電流を変更する
請求項1または2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項9】
造形プレート上に粉末材料を敷き詰める工程と、
前記粉末材料にビームを照射するとともに、造形物の横断面形状に対応する造形領域を複数のラインに分けてビーム走査することにより、前記粉末材料を溶融および凝固させる工程と、
を含む三次元積層造形方法であって、
前記粉末材料を溶融および凝固させる工程では、
M番目(Mは自然数)のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの間に、前記粉末材料を溶融させない状態で前記ビームを走査するダミー走査を行い、
前記粉末材料を溶融および凝固させる工程では、前記M番目のラインの長さが所定長さよりも短い場合には前記ダミー走査を行い、前記M番目のラインの長さが前記所定長さよりも長い場合には前記ダミー走査を行わずに前記M+1番目のラインのビーム走査を行
い、前記ダミー走査の時間は、前記所定長さと前記M番目のラインの長さとの差分に応じて調整される
三次元積層造形方法。
【請求項10】
造形プレート上に粉末材料を敷き詰める工程と、
前記粉末材料にビームを照射するとともに、造形物の横断面形状に対応する造形領域を複数のラインに分けてビーム走査することにより、前記粉末材料を溶融および凝固させる工程と、
を含む三次元積層造形方法であって、
前記粉末材料を溶融および凝固させる工程では、
M番目(Mは自然数)のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの間に、前記粉末材料を溶融させない状態で前記ビームを走査するダミー走査を行い、
前記粉末材料を溶融および凝固させる工程では、前記M番目のラインをビーム走査するのに要する時間が所定時間よりも短い場合には前記ダミー走査を行い、前記M番目のラインをビーム走査するのに要する時間が前記所定時間よりも長い場合には前記ダミー走査を行わずに前記M+1番目のラインのビーム走査を行
い、前記ダミー走査の時間は、前記所定時間と前記M番目のラインをビーム走査するのに要する時間との差分に応じて調整される
三次元積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形装置および三次元積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、造形プレート上に層状に敷き詰められた粉末材料にビームを照射して粉末材料を溶融および凝固させるとともに、凝固させた層を造形プレートの移動により順に積み上げて三次元の造形物を形成する三次元積層造形装置が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元積層造形装置で粉末材料を溶融させる場合は、粉末材料の造形領域を複数のラインに分け、各々のラインを順にビーム走査することにより、粉末材料をラインごとに溶融させる。ビーム走査とは、ビームを走査するという意味である。その際、M番目のラインをビーム走査した後に、M+1番目のラインをビーム走査すると、M番目のラインで溶融した金属により形成されるメルトプールが、M+1番目のラインをビーム走査するときの熱の影響を受けて乱れ、造形物に欠陥が生じやすくなる。特に、ビーム走査の対象となるラインの長さ(以下、「ライン長」ともいう。)が短い場合は、M番目のラインのビーム走査を開始してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの時間間隔が短くなるため、次ラインの熱の影響を受けやすくなる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、粉末材料をビーム走査によって溶融させる場合に、次ラインをビーム走査するときの熱の影響が、その1つ前のラインで溶融する金属に及ぶことを抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る三次元積層造形装置は、粉末材料が層状に敷き詰められる造形プレートと、造形プレート上に敷き詰められた粉末材料にビームを照射するビーム照射装置と、を備える。ビーム照射装置は、造形プレート上に敷き詰められた粉末材料の造形領域を複数のラインに分けてビーム走査することにより、造形領域内の粉末材料をラインごとに溶融させるとともに、M番目(Mは自然数)のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの間に、粉末材料を溶融させない状態でビームを走査するダミー走査を行い、ビーム照射装置は、M番目のラインの長さが所定長さよりも短い場合にはダミー走査を行い、M番目のラインの長さが所定長さよりも長い場合にはダミー走査を行わずにM+1番目のラインのビーム走査を行い、ビーム照射装置は、所定長さとM番目のラインの長さとの差分に応じて、ダミー走査の時間を調整する。
【0007】
本発明に係る三次元積層造形方法は、造形プレート上に粉末材料を敷き詰める工程と、粉末材料にビームを照射するとともに、造形物の横断面形状に対応する造形領域を複数のラインに分けてビーム走査することにより、粉末材料を溶融および凝固させる工程と、を含む。粉末材料を溶融および凝固させる工程では、M番目(Mは自然数)のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの間に、粉末材料を溶融させない状態でビームを走査するダミー走査を行い、粉末材料を溶融および凝固させる工程では、M番目のラインの長さが所定長さよりも短い場合にはダミー走査を行い、M番目のラインの長さが所定長さよりも長い場合にはダミー走査を行わずにM+1番目のラインのビーム走査を行い、ダミー走査の時間は、所定長さとM番目のラインの長さとの差分に応じて調整される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粉末材料をビーム走査によって溶融させる場合に、次ラインをビーム走査するときの熱の影響が、その1つ前のラインで溶融する金属に及ぶことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の基本的な動作の手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の第1実施形態において、データ処理装置が積層造形データを作成するときの処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】造形領域を複数の溶融点に分解した状態を示す模式図である。
【
図5】ダミー走査の要否判断に適用される閾値の設定例(その1)を示す図である。
【
図6】ダミー走査の要否判断に適用される閾値の設定例(その2)を示す図である。
【
図7】制御部が積層造形データを基に電子ビームを制御するときの処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】ダミー走査の経路の一例を模式的に示す平面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態におけるダミー走査の経路の一例を模式的に示す平面図である。
【
図10】本発明の第3実施形態において、データ処理装置が積層造形データを作成するときの処理手順を示すフローチャートである。
【
図11】ビーム走査条件を決定するためのテーブルデータの一例を示す図である。
【
図12】本発明の第3実施形態において、制御部が積層造形データを基に電子ビームを制御するときの処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側面図である。以降の説明では、三次元積層造形装置の各部の形状や位置関係などを明確にするために、
図1の左右方向をX方向、
図1の奥行き方向をY方向、
図1の上下方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する方向である。また、X方向およびY方向は水平方向に平行な方向であり、Z方向は鉛直方向に平行な方向である。
【0012】
図1に示すように、三次元積層造形装置10は、真空チャンバー12と、ビーム照射装置14と、粉末供給装置16と、造形テーブル18と、造形ボックス20と、回収ボックス21と、造形プレート22と、インナーベース24と、プレート移動装置26と、を備えている。
【0013】
真空チャンバー12は、図示しない真空ポンプによってチャンバー内の空気を排気することにより、真空状態を作り出すためのチャンバーである。
【0014】
ビーム照射装置14は、対象物にビームを照射する装置である。本実施形態において、ビーム照射装置14は、ビームの一例として、荷電粒子ビームのひとつである電子ビームを照射するものとする。ビーム照射装置14は、電子ビーム15の発生源となる電子銃141と、電子銃141が発生した電子ビーム15を集束させる集束レンズ142と、集束レンズ142で集束させた電子ビーム15を偏向する偏向レンズ143と、制御部17と、を有している。
【0015】
集束レンズ142は集束コイルを用いて構成され、集束コイルが発生する磁界によって電子ビーム15を集束させる。また、偏向レンズ143は偏向コイルを用いて構成され、偏向コイルが発生する磁界によって電子ビーム15を偏向する。制御部17は、電子銃141、集束レンズ142および偏向レンズ143を介して電子ビーム15を制御する。たとえば、制御部17は、電子銃141を介して電子ビーム15のビーム電流を制御する。また、制御部17は、集束レンズ142を介して電子ビーム15のフォーカス状態を制御する。また、制御部17は、偏向レンズ143を介して電子ビーム15の偏向角度および偏向速度を制御する。
【0016】
なお、水平面(XY平面)における電子ビーム15のスポット径は、電子ビーム15のフォーカス状態に応じて変化する。このため、電子ビーム15のフォーカス状態を制御することは、対象物に照射される電子ビーム15のスポット径を制御することを意味する。また、水平面における電子ビーム15の照射位置は、電子ビーム15の偏向角度に応じて変化する。このため、電子ビーム15の偏向角度を制御することは、電子ビーム15の照射位置を制御することを意味する。また、水平面において電子ビーム15のスポットが移動する速度、すなわちビームの走査速度は、電子ビーム15の偏向速度に応じて変化する。このため、電子ビーム15の偏向速度を制御することは、電子ビーム15の走査速度を制御することを意味する。
【0017】
制御部17は、データ処理装置19と通信可能に接続されている。データ処理装置19は、目的とする造形物の設計データである三次元CAD(Computer-Aided Design)データを基に積層造形データを作成し、この積層造形データを制御部17に転送する。積層造形データは、電子銃141、集束レンズ142および偏向レンズ143を駆動して電子ビーム15を制御するために必要な各種のパラメータを含むデータである。データ処理装置19は、ビーム照射装置14を構成する要素の1つであってもよいし、ビーム照射装置14とは独立した要素であってもよい。また、データ処理装置19の機能を制御部17に組み込んでもよい。
【0018】
粉末供給装置16は、造形物38の原材料となる粉末材料の一例として、金属粉末32を造形テーブル18上に供給する装置である。粉末供給装置16は、ホッパー16aと、粉末投下器16bと、スキージアーム16cとを有している。ホッパー16aは、金属粉末を貯蔵するための容器である。粉末投下器16bは、ホッパー16aに貯蔵されている金属粉末を造形テーブル18上に投下する機器である。スキージアーム16cは、Y方向に長い長尺状の部材である。スキージアーム16cは、粉末投下器16bによって投下された金属粉末を造形テーブル18上に敷き詰める。スキージアーム16cは、造形テーブル18の全面に金属粉末を敷き詰めるために、X方向に移動可能に設けられている。
【0019】
造形テーブル18は、真空チャンバー12の内部に水平に配置されている。造形テーブル18は、粉末供給装置16よりも下方に配置されている。造形テーブル18の中央部は開口している。造形テーブル18の開口形状は、平面視円形または平面視角形(たとえば、平面視四角形)である。
【0020】
造形ボックス20は、造形用の空間を形成するボックスである。造形ボックス20の上端部は、造形テーブル18の開口縁に接続されている。造形ボックス20の下端部は、真空チャンバー12の底壁に接続されている。
【0021】
回収ボックス21は、粉末供給装置16によって造形テーブル18上に供給された金属粉末32のうち、必要以上に供給された金属粉末32を回収するボックスである。回収ボックス21は、X方向の一方と他方に1個ずつ設けられている。
【0022】
造形プレート22は、金属粉末32を用いて造形物38を形成するためのプレートである。造形物38は、造形プレート22上に積層して成形される。造形プレート22は、造形テーブル18の開口形状に合わせて平面視円形または平面視角形に形成される。造形プレート22は、電気的に浮いた状態とならないよう、アース線34によってインナーベース24に接続(接地)されている。インナーベース24は、GND(グランド)電位に保持されている。造形プレート22およびインナーベース24の上には金属粉末32が敷き詰められる。
【0023】
インナーベース24は、上下方向(Z方向)に移動可能に設けられている。造形プレート22は、インナーベース24と一体に上下方向に移動する。インナーベース24は、造形プレート22よりも大きな外形寸法を有する。インナーベース24は、造形ボックス20の内側面に沿って上下方向に摺動する。インナーベース24の外周部にはシール部材36が取り付けられている。シール部材36は、インナーベース24の外周部と造形ボックス20の内側面との間で、摺動性および密閉性を保持する部材である。シール部材36は、耐熱性および弾力性を有する材料によって構成される。
【0024】
プレート移動装置26は、造形プレート22およびインナーベース24を上下方向に移動させる装置である。プレート移動装置26は、シャフト26aと、駆動機構部26bとを備えている。シャフト26aは、インナーベース24の下面に接続されている。駆動機構部26bは、図示しないモータと動力伝達機構とを備え、モータを駆動源として動力伝達機構を駆動することにより、造形プレート22およびインナーベース24をシャフト26aと一体に上下方向に移動させる。動力伝達機構は、たとえば、ラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構などによって構成される。
【0025】
<三次元積層造形装置の基本的な動作>
続いて、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置10の基本的な動作について
図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
なお、造形を開始する前は、造形プレート22の上面を除いて、造形プレート22の三方が金属粉末32によって覆われる。また、造形プレート22の上面は、造形テーブル18上に敷き詰められた金属粉末32の上面とほぼ同じ高さに配置される。
【0026】
まず、造形プレート22を加熱する(ステップS1)。
ステップS1において、ビーム照射装置14は、制御部17の制御下で動作することにより、造形プレート22に電子ビーム15を照射する。これにより、造形プレート22は、電子ビーム15の照射によって加熱される。また、造形プレート22は、金属粉末32が仮焼結する程度の温度に加熱される。
【0027】
次に、造形プレート22を所定量だけ下降させる(ステップS2)。
ステップS2において、プレート移動装置26は、造形テーブル18上に敷き詰められた金属粉末32の上面よりも造形プレート22の上面が僅かに下がった状態となるように、インナーベース24を所定量だけ下降させる。このとき、造形プレート22は、インナーベース24と共に所定量だけ下降する。ここで記載する所定量(以下、「ΔZ」とも記す。)は、造形物38を積層によって造形するときの一層分の厚さに相当する。
【0028】
次に、造形プレート22上に金属粉末32を敷き詰める(ステップS3)。
ステップS3において、粉末供給装置16は、ホッパー16aから粉末投下器16bに供給された金属粉末32を、粉末投下器16bによって造形テーブル18上に投下した後、スキージアーム16cをX方向の一端側から他端側へと移動させることにより、インナーベース24上に金属粉末32を敷き詰める。このとき、金属粉末32は、ΔZ相当の厚さで造形テーブル18の上に敷き詰められる。また、余分な金属粉末32は、回収ボックス21に回収される。
【0029】
次に、金属粉末32を仮焼結させる(ステップS4)。
ステップS4において、ビーム照射装置14は、制御部17の制御下で動作することにより、造形プレート22上の金属粉末32に電子ビーム15を照射する。また、制御部17は、造形物38を形成するための領域(以下、「造形領域」ともいう。)よりも広範囲に電子ビーム15を走査するように、偏向レンズ143を制御する。これにより、造形領域に存在する金属粉末32と、造形領域の周囲に存在する金属粉末32とが仮焼結される。
なお、
図1において、符号E1は、未焼結の金属粉末32が存在する未焼結領域を示し、符号E2は、仮焼結された金属粉末32が存在する仮焼結領域を示している。
【0030】
次に、金属粉末32を溶融および凝固させる(ステップS5)。
ステップS5においては、上述のように仮焼結させた金属粉末32を電子ビーム15の照射によって溶融および凝固させることにより、仮焼結体としての金属粉末32を本焼結させる。ステップS5において、ビーム照射装置14は、目的とする造形物38の三次元CADデータを一定の厚み(ΔZに相当する厚み)にスライスした二次元データに基づいて造形領域を特定し、この造形領域を対象に電子ビーム15を走査(以下、「ビーム走査」ともいう。)することにより、造形プレート22上の金属粉末32を選択的に溶融する。電子ビーム15の照射によって溶融した金属粉末32は、電子ビーム15が通過した後に凝固する。これにより、1層目の造形が完了する。
なお、
図1に示す造形物38は、各々の層において、仮焼結させた金属粉末32を電子ビーム15の照射によって溶融および凝固させることにより得られるものである。
【0031】
次に、次層の金属粉末32を敷き詰めるための準備として、造形面32aを加熱する(ステップS6)。造形面32aは、上述した本焼結(金属粉末32の溶融および凝固)を終えた後の金属粉末32の上面に相当する。
ステップS6において、ビーム照射装置14は、制御部17の制御下で動作することにより、造形面32aに電子ビーム15を照射する。
【0032】
次に、造形プレート22を所定量(ΔZ)だけ下降させる(ステップS7)。
ステップS7において、プレート移動装置26は、造形テーブル18上に敷き詰められた金属粉末32の上面よりも造形面32aが僅かに下がった状態となるように、インナーベース24をΔZだけ下降させる。
【0033】
次に、造形プレート22上に金属粉末32を敷き詰める(ステップS8)。
ステップS8において、粉末供給装置16は、上記ステップS3と同様に動作する。
【0034】
次に、金属粉末32を仮焼結させる(ステップS9)。
ステップS9において、ビーム照射装置14は、上記ステップS4と同様に動作する。
【0035】
次に、金属粉末32を溶融および凝固させる(ステップS10)。
ステップS10において、ビーム照射装置14は、上記ステップS5と同様に動作する。これにより、2層目の造形が完了する。
【0036】
以降は、ステップS11において造形物38の造形が完了するまで、上記ステップS6~S10の工程を繰り返す。造形物38の造形は、造形物38の造形に必要な層の数だけ金属粉末32の溶融および凝固が行なわれた段階で完了となる。これにより、目的とする造形物38が得られる。
【0037】
図3は、本発明の第1実施形態において、データ処理装置19が積層造形データを作成するときの処理手順を示すフローチャートである。
まず、データ処理装置19は、造形物38の三次元CADデータを一定の厚みにスライスした二次元データを層ごとに抽出する(ステップS21)。二次元データは、造形物38の横断面形状を表すデータである。造形物38の三次元CADデータは、
図3に示す処理を開始する前にデータ処理装置19に与えられる。三次元CADデータは、たとえば、三次元積層造形装置10を使用するユーザーがデータ処理装置19に入力してもよいし、データ処理装置19が図示しない不揮発性記憶装置から読み出してもよいし、データ処理装置19が図示しない端末装置から通信によって取得してもよい。
【0038】
次に、データ処理装置19は、二次元データによって特定される造形領域を溶融点に分解する(ステップS22)。造形領域は、目的とする造形物38の形状や個数などにより、各層に1つだけ存在する場合と、各層に複数存在する場合とがあり得る。溶融点は、上述したステップS5およびステップS10において、金属粉末32を溶融するために電子ビーム15が照射される点である。たとえば、
図4に示すように、目的とする造形物38の造形領域39が逆三角形である場合は、この造形領域39を複数の溶融点40に分解する。
【0039】
次に、データ処理装置19は、複数の溶融点40から直線成分を抽出する(ステップS23)。直線成分は、造形領域39を電子ビーム15の照射によって溶融させるときの、電子ビーム15の走査方向に所定の間隔で並ぶ溶融点40の集合として抽出される。
図4においては、一例として、電子ビーム15の走査方向がX方向である場合を示している。電子ビーム15の走査方向は、造形領域39の各ラインにおいて電子ビーム15の照射位置(スポットの位置)が移動する方向である。また、データ処理装置19は、X方向と直交するY方向において、電子ビーム15の走査が
図4に示す造形領域39の上から下に向かってラインごとに順に行われるものとすると、
図4の上から順番に直線成分を1つずつ抽出する。その際、データ処理装置19が最初に抽出する直線成分は1番目のラインに相当し、次に抽出する直線成分は2番目のラインに相当し、その次に抽出する直線成分は3番目のラインに相当する。このようにデータ処理装置19が直線成分を抽出することにより、1つの造形領域39が複数のラインに分けて処理される。また、
図4に示す造形領域39の最も下に位置するラインが50番目のラインであると仮定すると、データ処理装置19は、ステップS23の処理を1回行うたびに1つの直線成分を抽出し、これを繰り返すことで1番目のラインから50番目のラインまで順に直線成分を抽出する。
【0040】
次に、データ処理装置19は、上記ステップS23で抽出した直線成分の長さ、すなわちラインの長さSL(
図4を参照)と、予め設定された閾値とを比較し、この比較結果に基づいて、ダミー走査の要否を判断する(ステップS24)。具体的には、データ処理装置19は、ラインの長さが閾値以上である場合はダミー走査が不要であると判断し、ラインの長さが閾値よりも短い場合はダミー走査が必要であると判断する。ステップS23でデータ処理装置19が抽出するラインの長さは、
図4のY方向において、いずれの位置(何番目)のラインを直線成分として抽出するかによって変わる。たとえば、
図4に示すように造形領域39が逆三角形であれば、データ処理装置19が抽出する直線成分の位置が下方にずれるたびに、抽出する直線成分の長さが短くなる。一方、閾値は、Y方向で隣り合うライン間での熱の影響を考慮して設定される。ダミー走査については後段で詳しく説明する。
【0041】
図5は、ダミー走査の要否判断に適用される閾値の設定例を示す図である。
図5においては、直線成分の長さであるラインの長さと比較される閾値(以下、「第1の閾値」ともいう。)が、電子ビーム15のビーム電流に応じて異なる値に設定されている。具体的には、ビーム電流が5mAのときに適用される閾値は3mmに設定され、ビーム電流が10mAのときに適用される閾値は5mmに設定され、ビーム電流が20mAのときに適用される閾値は10mmに設定されている。造形領域39に照射される電子ビーム15のビーム電流は、金属粉末32の材質や造形物38の大きさ、形状などに応じて予め設定される。そして、造形領域39に照射される電子ビーム15のビーム電流が仮に10mAに設定されるものとすると、データ処理装置19は、上記ステップS24で閾値=5mmを適用してダミー走査の要否を判断する。
【0042】
なお、ダミー走査の要否判断に適用される閾値は、ラインの長さと比較される閾値に限らず、該当するラインをビーム走査するのに要する時間と比較される閾値(以下、「第2の閾値」という。)であってもよい。その場合の閾値の設定例を
図6に示す。
図6においては、上記ステップS23で直線成分として抽出したラインをビーム走査するのに要する時間(以下、「ビーム走査所要時間」ともいう。)と比較される閾値が、電子ビーム15のビーム電流に応じて異なる値に設定されている。具体的には、ビーム電流が5mAのときに適用される閾値は3msに設定され、ビーム電流が10mAのときに適用される閾値は5msに設定され、ビーム電流が20mAのときに適用される閾値は10msに設定されている。
【0043】
なお、各々のラインを電子ビーム15で走査するときの走査速度が一定である場合は、1つのラインの長さと、そのラインをビーム走査するのに要する時間との間には比例関係が成り立つ。したがって、ダミー走査の要否は、ラインの長さ、および、ビーム走査所用時間のうち、どちらを基準に判断してもよい。
【0044】
また、ビーム電流が5mA超10mA未満の場合や、ビーム電流が10mA超20mA未満の場合は、ダミー走査の要否判断に適用する閾値を補間法などによって決定すればよい。
【0045】
再び
図3に戻って説明すると、データ処理装置19は、上記ステップS24においてダミー走査が不要であると判断した場合は、後述するステップS26に移行する。また、データ処理装置19は、上記ステップS24においてダミー走査が必要であると判断した場合は、その前のステップS23で抽出した直線成分をダミー走査の対象に設定するとともに、ダミー走査の時間を設定する(ステップS25)。ステップS23で抽出した直線成分をダミー走査の対象に設定する場合は、その直線成分の後に、ダミー走査のための描画情報を挿入する。これにより、実際の三次元積層造形加工においては、ダミー走査の対象に設定された直線成分(ライン)のビーム走査が終了した時点でダミー走査に移行する。ダミー走査は、上記描画情報が示す走査経路にしたがって行われる。また、ダミー走査は、次のラインのビーム走査を開始するまで行われる。つまり、ダミー走査は、M番目(Mは自然数)のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの間に行われる。
【0046】
上記ステップS25で設定するダミー走査の時間は、ダミー走査を開始してから終了するまでの時間である。ダミー走査の時間は、上記ステップS24で比較対象とした閾値とラインの長さとの差分に応じて設定することが好ましい。たとえば、第1の閾値が5mmで、ラインの長さが4mmである場合は、それらの差分である1mmの長さをビーム走査するのに要する時間と同じか、それよりも少し長い時間となるように、ダミー走査の時間を設定するとよい。また、第2の閾値が5msで、上述したビーム走査所要時間が3msである場合は、それらの差分である2msと同じか、それよりも少し長い時間となるように、ダミー走査の時間を設定するとよい。これにより、ダミー走査の時間を適切に設定することができる。
【0047】
次に、データ処理装置19は、未抽出の直線成分が残っているかどうかを確認する(ステップS26)。たとえば、
図4に示す造形物38が計50本の直線成分(ライン)に分けて処理される場合、データ処理装置19は、ステップS23で今回抽出した直線成分が50番目のライン、すなわち最終のラインに相当するか否かを確認する。そして、データ処理装置19は、今回抽出した直線成分が50番目のラインに相当しない場合は、未抽出の直線成分が残っていると判断して上記ステップS23に戻る。また、データ処理装置19は今回抽出した直線成分が50番目のラインに相当する場合は、すべての直線成分の抽出を終えたと判断して一連の処理を終える。
【0048】
以上の処理により、データ処理装置19は、積層造形データを作成する。また、データ処理装置19は、作成した積層造形データを制御部17に転送する。
【0049】
一方、制御部17は、データ処理装置19から受け取った積層造形データに基づいてビーム照射装置14の各部(電子銃141、集束レンズ142、偏向レンズ143等)の動作を制御する。また、制御部17は、上記ステップS5およびステップS10において特定した造形領域39(
図4参照)を、上記積層造形データを基に複数のラインに分けてビーム走査することにより、造形領域39内の金属粉末32をラインごとに溶融させる。
【0050】
図7は、制御部17が上記積層造形データを基に電子ビーム15を制御するときの処理手順を示すフローチャートである。
まず、制御部17は、変数Mの値を初期値(M=1)に設定する(ステップS31)。
次に、制御部17は、M番目のラインをビーム走査する(ステップS32)。これにより、制御部17は、データ処理装置19が積層造形データを作成する場合に、M番目のラインとして抽出した直線成分を対象にビーム走査を行う。
【0051】
次に、制御部17は、M番目のライン(直線成分)がダミー走査の対象に設定されているか否かを確認する(ステップS33)。そして、制御部17は、M番目のラインがダミー走査の対象に設定されていると判断すると、そのラインのビーム走査を終了した時点でダミー走査を行う(ステップS34)。このとき、制御部17は、上記ステップS25でデータ処理装置19が設定した条件に基づいてビーム照射装置14の各部(電子銃141、集束レンズ142、偏向レンズ143等)の動作を制御することにより、ダミー走査の時間を調整する。また、制御部17は、M番目のラインをビーム走査するときは、金属粉末32を溶融させるために電子ビーム15のスポット径を小さく絞った状態でビーム走査し、その後にダミー走査を行うときは、金属粉末32を溶融させないように電子ビーム15のスポット径を広げた状態でビーム走査する。また、制御部17は、M番目のラインをビーム走査するときは、金属粉末32を溶融させるために遅い速度でビームを走査し、その後にダミー走査を行うときは、金属粉末32を溶融させないように速い速度でビーム走査する。
【0052】
なお、ダミー走査の条件は、金属粉末32に与えられる熱エネルギーを、金属粉末32が溶融しない程度まで減らすことができる条件であれば、どのような条件を適用してもよい。また、本実施形態においては、ダミー走査を行うにあたって、電子ビーム15のフォーカス状態、および、電子ビーム15の走査速度の両方を変えるものとするが、いずれか一方のみを変えてもよい。
【0053】
次に、制御部17は、変数Mの値を1だけインクリメントした後(ステップS35)、現在設定されているM番目のラインが最終のラインを超えたか否かを確認する(ステップS36)。最終のラインは、上記
図3に示す処理手順でデータ処理装置19が積層造形データを作成する場合に、最後に直線成分を抽出したラインに相当する。現在設定されているM番目のラインが最終のラインを超えていない場合は、上記ステップS32に戻る。また、現在設定されているM番目のラインが最終のラインを超えた場合は、一連の処理を終える。
【0054】
続いて、ダミー走査について詳しく説明する。
ダミー走査は、次ラインをビーム走査するときの熱の影響が、その1つ前のラインで溶融する金属に及ぶことを抑制するために行われるビーム走査である。このため、ダミー走査は、金属粉末32を溶融させるために行われるビーム走査とは異なる条件で行われる。すなわち、ダミー走査では、金属粉末32を溶融させない状態で電子ビーム15を走査する。具体的には、M番目のラインをビーム走査する場合と比較して、金属粉末32に与えられる熱エネルギーが少なくなるように、電子ビーム15のフォーカス状態を変えたり、電子ビーム15の走査速度を変えたりする。電子ビーム15のフォーカス状態については、M番目のラインをビーム走査するときよりも電子ビーム15を暈かした状態にする。また、電子ビーム15の走査速度については、M番目のラインをビーム走査するときよりも電子ビーム15の走査速度を速めた状態にする。
【0055】
図8は、ダミー走査の経路の一例を模式的に示す平面図である。
図8に示すように、M番目のラインがダミー走査の対象に設定されている場合は、M番目のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの期間、ダミー走査を行う。
図8に示す例では、M番目のラインにおけるビーム走査の開始位置がP1、終了位置がP2であり、M+1番目のラインにおけるビーム走査の開始位置がP3、終了位置がP4となっている。そうした場合、制御部17は、まず、M番目のラインでP1位置からP2位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査することにより、金属粉末32を溶融させる。次に、制御部17は、以下に述べる走査経路でダミー走査を行う。
【0056】
まず、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をP2位置からPd1位置へと移動させる。次に、制御部17は、Pd1位置からPd2位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd2位置からPd3位置へと移動させる。次に、制御部17は、Pd3位置からPd4位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd4位置からPd5位置へと移動させる。次に、制御部17は、Pd5位置からPd6位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd6位置からPd7位置へと移動させる。次に、制御部17は、Pd7位置からPd8位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd8位置からPd9位置へと移動させる。
【0057】
次に、制御部17は、Pd9位置からPd10位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd10位置からPd11位置へと移動させる。次に、制御部17は、Pd11位置からPd12位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd12位置からPd13位置へと移動させる。次に、制御部17は、Pd13位置からPd14位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd14位置からPd15位置へと移動させる。次に、制御部17は、Pd15位置からPd16位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd16位置からPd17位置へと移動させる。次に、制御部17は、Pd17位置からPd18位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査する。次に、制御部17は、電子ビーム15の照射位置をPd18位置からP3位置へと移動させる。
【0058】
制御部17は、このような走査経路でダミー走査を行った後、M+1番目のラインでP3位置からP4位置に向かって電子ビーム15をX方向に走査することにより、金属粉末32を溶融させる。
【0059】
以上説明したように、本発明の第1実施形態において、制御部17は、M番目のラインのビーム走査を終了してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの間にダミー走査を行うよう、ビーム照射装置14の各部の動作を制御する。これにより、M番目のラインのビーム走査を開始してからM+1番目のラインのビーム走査を開始するまでの時間間隔を、ダミー走査の時間の分だけ長く確保することができる。このため、M+1番目のラインをビーム走査するときの熱の影響が、M番目のラインで溶融する金属に及ぶことを抑制できる。その結果、M番目のラインで溶融した金属のメルトプールに乱れが生じにくくなる。よって、造形物38に欠陥が生じることを抑制することが可能となる。
【0060】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態においては、上述した第1実施形態と比較して、ダミー走査を行うときの走査経路が異なる。具体的には、上述した第1実施形態において、ビーム照射装置14は、
図8に示すように造形領域39に一部重なるようにダミー走査を行うが、本第2実施形態においては、
図9に示すようにM番目のラインおよびM+1番目のラインを含む造形領域39とは異なる別領域42でダミー走査を行う。別領域42は、造形プレート22上に1層分の金属粉末32を敷き詰めたときに形成される粉末層の表面領域のうち、現時点でビーム走査の対象となっている造形領域39と重ならない領域である。別領域42は、好ましくは、造形領域39の後にビーム走査を行う予定の造形領域であり、より好ましくは、造形領域39の次にビーム走査を行う予定の造形領域である。
【0061】
このように、ダミー走査を行う領域を、造形領域39とは異なる別領域42に設定することにより、ダミー走査による熱が造形領域39に与える影響を抑制することができる。また、造形領域39の後にビーム走査を行う予定の造形領域を別領域42に設定することにより、ダミー走査による熱を利用して別領域42を加温することができる。
【0062】
<第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。
本発明の第3実施形態においては、上述した第1実施形態と比較して、データ処理装置19が積層造形データを作成するときの処理手順と、制御部17が積層造形データを基に電子ビーム15を制御するときの処理手順とが異なる。
【0063】
図10は、本発明の第3実施形態において、データ処理装置19が積層造形データを作成するときの処理手順を示すフローチャートである。
まず、データ処理装置19は、造形物38の三次元CADデータを一定の厚みにスライスした二次元データを層ごとに抽出する(ステップS51)。次に、データ処理装置19は、二次元データによって特定される造形領域をラインに分解し、そのラインの長さを取得する(ステップS52)。
次に、データ処理装置19は、上記ステップS52で取得したラインの長さを基にビーム走査条件を決定する(ステップS53)。
【0064】
図11は、ビーム走査条件を決定するためのテーブルデータの一例を示す図である。
図11に示すように、ビーム走査条件には、電子ビーム15のビーム電流(mA)の他に、ビームスポット径(μm)、ビーム滞在時間(μs)、溶融点ピッチ(μm)、ラインピッチ(μm)などの制御パラメータが含まれる。ビームスポット径は、
図4に示す溶融点40に電子ビーム15を照射するときのスポット径φBである。ビーム滞在時間は、
図4に示す溶融点40に電子ビーム15を照射するときに、1つの溶融点40につき電子ビーム15のスポットを滞在(停止)させる時間である。溶融点ピッチは、電子ビーム15の走査方向であるX方向で隣り合う2つの溶融点40間のピッチMp(
図4参照)である。ラインピッチは、Y方向で隣り合う2つのライン間のピッチLp(
図4参照)である。
【0065】
データ処理装置19は、上記ステップS52で取得したラインの長さが5mmである場合は、ビーム電流を3mA、ビームスポット径を500μm、ビーム滞在時間を50μs、溶融点ピッチを20μm、ラインピッチを30μmに決定する。また、データ処理装置19は、上記ステップS52で取得したラインの長さが10mmである場合は、ビーム電流を5mA、ビームスポット径を600μm、ビーム滞在時間を40μs、溶融点ピッチを30μm、ラインピッチを40μmに決定する。また、上記ステップS52で取得したラインの長さが20mmである場合は、ビーム電流を10mA、ビームスポット径を700μm、ビーム滞在時間を30μs、溶融点ピッチを40μm、ラインピッチを50μmに決定する。なお、ラインの長さが5mm超10mm未満の場合や、ラインの長さが10mm超20mm未満の場合は、ビーム走査条件の各パラメータを補間法などによって決定すればよい。
【0066】
再び
図10に戻って説明すると、データ処理装置19は、上記ステップS53で決定したビーム走査条件のうち、ビーム電流に変更があるか否かを判定する(ステップS54)。具体的には、データ処理装置19は、今回のラインに適用するビーム電流が、その前(前回)のラインに適用したビーム電流と異なる場合は、ステップS54でYESと判定し、それ以外(今回と前回でビーム電流が同じ場合)はステップS54でNOと判定する。ステップS54でYESと判断した場合はステップS55に進み、ステップS54でNOと判定した場合はステップS57に移行する。
【0067】
次に、データ処理装置19は、今回のラインをダミー走査の対象に設定する(ステップS55)。今回のラインをダミー走査の対象とする場合は、今回のラインの後にダミー走査のための描画情報を挿入する。
次に、データ処理装置19は、ビーム電流の変更コマンドを挿入する(ステップS56)。ビーム電流の変更コマンドには、変更後のビーム電流を指定する情報が含まれる。
【0068】
次に、データ処理装置19は、今回のラインを上記ビーム走査条件にしたがって複数の溶融点に分解する(ステップS57)。
【0069】
次に、データ処理装置19は、すべてのラインについてビーム走査条件の決定を終えたか否かを確認する(ステップS58)。そして、データ処理装置19は、ビーム走査条件の決定を終えていないラインが残っている場合は、ステップS58でNOと判断し、すべてのラインについてビーム走査条件の決定を終えた場合は、ステップS58でYESと判断する。ステップS58でNOと判断した場合は上記ステップS53に戻り、ステップS58でYESと判断した場合は、その時点で一連の処理を終える。
【0070】
図12は、本発明の第3実施形態において、制御部17が積層造形データを基に電子ビーム15を制御するときの処理手順を示すフローチャートである。
まず、制御部17は、変数Mの値を初期値(M=1)に設定した後(ステップS71)、M番目のラインをビーム走査する(ステップS72)。
【0071】
次に、制御部17は、M番目のラインがダミー走査の対象に設定されているか否かを確認する(ステップS73)。そして、制御部17は、M番目のラインがダミー走査の対象に設定されていると判断すると、そのラインのビーム走査を終了した時点でダミー走査を行う(ステップS74)。このとき、制御部17は、上記
図10のステップS56でデータ処理装置19が挿入したビーム電流の変更コマンドにしたがってビーム照射装置14に制御指令を与える。また、ビーム照射装置14は、制御部17から与えられる制御指令に従って、ダミー走査中にビーム電流を変更する。ダミー走査中とは、ダミー走査を開始してから終了するまでの期間をいう。ビーム電流を変更するタイミングは、ダミー走査を終えた時点で、変更後のビーム電流で安定した状態が得られるようであれば、任意のタイミングに設定してよい。また、実際にビーム電流を変更してから、変更後のビーム電流で安定するまでの時間をなるべく長く確保するという観点では、ダミー走査を開始した直後にビーム電流を変更することが好ましい。
【0072】
次に、制御部17は、変数Mの値を1だけインクリメントした後(ステップS75)、現在設定されているM番目のラインが最終のラインを超えたか否かを確認する(ステップS36)。そして、M番目のラインが最終のラインを超えていない場合は、上記ステップS72に戻り、M番目のラインが最終のラインを超えた場合は、一連の処理を終える。
【0073】
このように本発明の第3実施形態においては、M番目のラインがダミー走査の対象に設定されている場合に、そのラインのビーム走査を終了した時点でダミー走査を行うとともに、ダミー走査中にビーム電流を変更する。これにより、M+1番目のラインを、安定したビーム電流でビーム走査することができる。
【0074】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0075】
たとえば、上記実施形態においては、M番目のラインの長さが第1の閾値よりも短い場合や、M番目のラインをビーム走査するのに要する時間が第2の閾値よりも短い場合に、ダミー走査を行うようにしたが、本発明はこれに限らず、造形領域39の全ラインを対象にダミー走査を行ってもかまわない。ただし、M番目のラインの長さが第1の閾値よりも短い場合や、M番目のラインをビーム走査するのに要する時間が第2の閾値よりも短い場合にのみ、ダミー走査を行うほうが、造形物38を効率よく製造することができる。
【符号の説明】
【0076】
10…三次元積層造形装置
14…ビーム照射装置
15…電子ビーム(ビーム)
22…造形プレート
32…金属粉末(粉末材料)
39…造形領域
42…別領域