(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】病的石灰化状態を治療するための組成物およびそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20231124BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20231124BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20231124BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231124BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231124BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231124BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231124BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20231124BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K47/68
A61K47/65
A61P43/00 105
A61P17/00
A61P27/02
A61P9/00
C12N9/16 B
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2021202984
(22)【出願日】2021-12-15
(62)【分割の表示】P 2017560327の分割
【原出願日】2016-05-19
【審査請求日】2022-01-13
(32)【優先日】2015-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503469393
【氏名又は名称】イエール ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ブラドック デメトリオス
(72)【発明者】
【氏名】オルブライト ロナルド
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/126965(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要がある対象において、弾力線維性仮性黄色腫(PXE)を治療または予防するのに用いるための薬学的組成物であって、該組成物が式(I):
タンパク質-Z-ドメイン (I)
の可溶性エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ-1 (ENPP1)ポリペプチドを含み、
式中、
タンパク質は、SEQ ID NO: 20の23~849番目の残基、またはSEQ ID NO: 18の23~852番目の残基、またはSEQ ID NO: 16の93~925番目の残基を含み;
ドメインは、ヒトIgG1のFcドメインを含み;
Zは、トリペプチドリンカーLIN(SEQ ID NO: 28)であり;かつ
該ポリペプチドが、負に荷電している骨標的化配列を欠いている、
前記薬学的組成物。
【請求項2】
前記タンパク質が、SEQ ID NO: 20の23~849番目の残基によって表されるアミノ酸配列(PSCAKE…~…QED)を含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記タンパク質が、SEQ ID NO: 18の23~852番目の残基によって表されるアミノ酸配列(GLKPSCAKE…~…QED)を含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記タンパク質が、SEQ ID NO: 16の93~925番目の残基によって表されるアミノ酸配列(FTAGLKPSCAKE…~…QED)を含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記ドメインが、SEQ ID NO: 26に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
負に荷電している骨標的化配列がポリアスパラギン酸ドメインである、請求項1~5のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
PXEがABCC6遺伝子における機能喪失型変異によって引き起こされる、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記対象が、動脈の内部弾性板の弾性線維の石灰化を示す、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記対象がヒトである、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記対象に局所投与、局部投与、または全身投与される、請求項1~5のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記対象に皮下投与、クモ膜下腔内投与、静脈内投与、または経皮投与される、請求項1~5のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項12】
皮下投与される、請求項1~5のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記対象が、前記薬学的組成物の投与前に正常なレベルのPPiより低下したPPiレベルを示す、請求項10~12のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、35U.S.C.119条(e)に基づいて、2015年5月19日に出願された米国特許仮出願第62/163,500号に係る優先権を主張する。米国特許仮出願第62/163,500号は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
乳児全身性動脈石灰化症(GACI)は、大型血管および中型血管における広範囲の動脈石灰化が乳児期に発症し、その結果として、新生児期に心血管虚脱および死亡が起こることを特徴とする極めてまれな新生児疾患である。この疾患は、臨床面では、心不全、呼吸困難、高血圧、チアノーゼ、および心臓肥大が現れる。予後は重篤であり、6ヶ月での死亡率が85%という古い報告があるのに対して、最近では、ビスホスホネートによる集中治療によって6ヶ月での死亡率が55%まで低下している。この明らかな進歩を抑えているのは、GACI患者におけるエトリドネート(etridonate)の長期使用に関連する重篤な骨格毒性である。利用可能なデータが限られているために、ビスホスホネート処置が本当に保護をするのか、またはあまり効かなかった患者では疾患の自然史を反映し、初期に開始した場合でも一部の患者では死亡を阻止するのにビスホスホネートの効果が無かったことを反映しているのかどうか確かめることが難しいという意見がある。
【0003】
GACIの全発生率はまれであり、医学文献では200件の症例が報告されており、疾患頻度は391,000人に1人である。この疾患は1901年にBryantとWhiteによって初めて述べられたが、血清PPiレベルとENPP1酵素活性がGACI患者では著しく低下しているとRutschと同僚らが気付いたのは2000年になってからだった。ENPP1(NPP1またはPC-1とも知られる)は、ホスホジエステラーゼ活性を特徴とするエクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ(ENPPまたはNPPとも知られる)酵素ファミリーのメンバーであり、骨芽細胞および軟骨細胞の無機質沈着マトリックス小胞(mineral-depositing matrix vesicle)上に、ならびに脳毛細血管の血管表面に位置するII型細胞外膜結合糖タンパク質である。ENPP1は細胞外ATPをAMPとPPiに分解する。PPiは、おそらく、新生ヒドロキシアパタイト(HA)結晶または成長中のヒドロキシアパタイト(HA)結晶の表面にあるPi部位の一部を占有し、それによって、結晶成長の拡大を遅らせるか、または終わらせる不規則さを作り出すことによって異所性の組織石灰化を阻害する。ENPP1の不活性化変異はGACI患者の75%を占め、残りの患者のかなり多くの部分は、abcc6遺伝子によってコードされるATP依存性膜輸送体MRP6の不活性化変異に起因する。abcc6変異は、ヌクレオシド三リン酸の細胞外濃度を低下させ、それによって、ENPP1によるATPから細胞外PPiへの代謝を制限することと結び付けられている。
【0004】
腎臓は、リン酸排出を含む正常な骨と無機質の代謝の維持に不可欠である。腎不全患者は血清中無機質のバランスを適切に調節することができず、様々な食物成分から吸収したリン酸を保持する傾向がある。高い血清中リン酸レベルは、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることと、血管を含む軟部組織が石灰化する傾向に関連する。
【0005】
腎不全患者では、血液透析中または腹膜透析中にリン酸イオンとピロリン酸イオンが過剰に除去されることがある。これらの陰イオンが組織および血漿から枯渇すると、骨軟化症および軟部組織石灰化および骨疾患を含む、骨と無機質の代謝の障害が起こる。ピロリン酸欠損症は、皮膚の小さな血管にカルシウムが沈着して、皮膚と、基礎をなす組織の壊疽をまねいて重篤な慢性疼痛の原因となり得るカルシフィラキシスと呼ばれる炎症性血管炎を引き起こす危険因子になる場合がある。カルシフィラキシスは、冒された手足の切断を必要とする場合があり、この状態には有効な治療法が無く、一般的に致死性である。異所性石灰化は無処置のままにしておいたら罹患および死亡の上昇の原因となる。系においてピロリン酸量を調節し、患者においてカルシフィラキシスの発生を抑えることが重要である。
【0006】
National Kidney Foundation Kidney Disease Outcomes Quality Initiative(NKFK/DOQI)が明らかにしたように、2003年には1950万人の米国成人が慢性腎臓病(CKD)にかかり、1360万人がステージ2~5のCKDにかかった。慢性腎臓病の有害なアウトカムは、多くの場合、早期の検出および処置によって予防することができるか、または遅らせることができる。
【0007】
末期腎臓病(ESRD)の羅患率は驚くべき速度で増加している。2000年には米国において90,000人超が末期腎臓病を発症した。透析療法を受けているか、または移植を必要としている患者集団は2003年には380,000人で、2010年には651,000人の患者になった。米国では、ESRD患者の治療に、毎年、180億ドル超がすでに費やされており、これは医療制度にとって大きな負担である。
【0008】
石灰沈着性尿毒症性動脈病(calcific uremic arteriolopathy)(CUAとも知られる)は、透析を受けている慢性腎臓病(CKD)患者において見られる致死性の疾患である。小さな動脈が石灰化すると組織および皮膚の虚血、梗塞、ならびに血栓症が起こり、患者の死亡率は80%に近い。現在、米国には、CUAにかかるリスクのある透析患者が450,000人おり、FDAにより承認された、この疾患の治療法は無い。CUAには、GACIおよび他の石灰化障害に似た顕著な特徴があり、低レベルのPPiと高レベルの線維芽細胞増殖因子23(すなわちFGF23)を示す。透析を必要とするESRD患者では、この石灰化プロセスはもっと速まり、平均余命は5~6年である。
【0009】
弾力線維性仮性黄色腫(PXE)は、弛緩と弾力性喪失が付随する皮膚病変、動脈不全、心血管疾患、および黄斑変性につながる網膜出血をもたらす、皮膚、動脈、および網膜における弾性線維石灰化を特徴とする遺伝性障害である。PXEに関連する変異もabcc6遺伝子に位置している。PXEの最もよくある特徴の中に皮膚症状があるが、眼症状および心血管症状が、この疾患の病的状態を担っている。一般的に、特徴的な皮膚病変部(典型的には顔、首、腋窩、前肘窩、膝窩、鼡径部、および臍周囲領域に見られる、黄色がかった丘疹およびプラーク、ならびに弛緩と弾力性喪失)がPXEの初期徴候であり、真皮中央における異常な石灰化弾性線維の蓄積に起因する。皮膚病変部は、通常、小児期または青年期に検出され、ゆっくりと、多くの場合は予測不可能に進行する。PXE診断は、真皮の中央および下部に、断片化した弾性線維の石灰化を示す皮膚生検によって確定することができる。
【0010】
PXEの一般的な心血管合併症は、異常な石灰化弾性線維が中型動脈の内部弾性板に存在することによるものである。広範囲の表現型には、時期尚早なアテローム動脈硬化性変化、アンギナもしくは間欠性跛行またはその両方を引き起こす内膜性線維増殖、早期の心筋梗塞、および高血圧が含まれる。心内膜および房室弁の線維性肥厚によって拘束型心筋症も引き起こされることがある。PXE患者の約10%は全身動脈壁石灰化の結果として胃腸出血ならびに中枢神経系合併症(例えば、脳卒中および認知症)も発症する。さらに、PXE患者では腎血管性高血圧および心房中隔動脈瘤を認めることができる。
【0011】
血清中リン酸レベルが低い状態は低リン酸血症と呼ばれ、血清中リン酸レベルが高い状態は高リン酸血症と呼ばれる。低リン酸血症は、腎臓リン酸消耗に起因することが多く、X染色体低リン血症性くる病(XLH)、高カルシウム尿症を伴う遺伝性低リン血症性くる病(HHRH)、低リン血症性骨疾患(HBD)、および常染色体優性低リン血症性くる病(ADHR)を含む多数の遺伝障害によって引き起こされる。適切な血清中リン酸濃度が維持される正確な分子機構は十分に理解されていないが、前述の疾患の症状を軽減するために血清中リン酸レベルを維持することは重要である。
【0012】
従って、病的石灰化および/または病的骨化に関連する疾患および障害を治療するための新規の組成物および方法が当技術分野において必要とされている。このような組成物および方法は他の生理学的プロセスを不必要に乱してはならない。本発明は、この必要性を満たす。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、式(I)の化合物またはその塩もしくは溶媒和化合物を提供する。さらに、本発明は、病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害の治療または予防を必要とする対象において、病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害を治療または予防する方法を提供する。さらに、本発明は、GACIおよびPXEからなる群より選択される少なくとも1つの疾患または障害にかかっている乳児において心臓石灰化、動脈石灰化、および/または弾性線維石灰化を低減または予防する方法を提供する。
【0014】
ある特定の態様では、式(I)の化合物はタンパク質-Z-ドメイン-X-Y (I)であり、(I)において、タンパク質は、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:19、およびSEQ ID NO:24からなる群より選択され、ドメインは、ヒトIgG Fcドメイン(Fcとも呼ばれる)、ヒト血清アルブミンタンパク質(ALBとも呼ばれる)およびそれらの断片からなる群より選択され、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~20個のアミノ酸を含むポリペプチドであり、Yは存在しないか、または
からなる群より選択される配列であり、mは1~15の整数であり、nは1~10の整数である。
【0015】
ある特定の態様では、ドメインはFcまたはその断片である。他の態様では、ドメインはALBまたはその断片である。
【0016】
ある特定の態様では、Yは存在せず、前記化合物は、負に荷電している骨標的化配列を欠いている。
【0017】
ある特定の態様では、タンパク質は、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に変異を有する。他の態様では、タンパク質またはその変異体のヌクレアーゼドメインは存在しない。さらに他の態様では、タンパク質またはその変異体には、SEQ ID NO:1と比べて約524番目~約885番目の残基のヌクレアーゼドメインが存在しない。さらに他の態様では、タンパク質またはその変異体には、NPP2の細胞外領域の、フューリンまたはシグナルペプチド切断部位を含有するセグメントが、置換によって導入されているかまたは導入されていない。
【0018】
ある特定の態様では、ドメインはFcまたはその断片であり、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:15)-Z-(Fcもしくはその断片)、(SEQ ID NO:17)-Z-(Fcもしくはその断片)、(SEQ ID NO:19)-Z-(Fcもしくはその断片)、(SEQ ID NO:24)-Z-(Fcもしくはその断片)、またはそれらの変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0019】
ある特定の態様では、タンパク質-Z-ドメインは、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:20、(SEQ ID NO:24)-Z-(SEQ ID NO:26)、またはそれらの変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0020】
ある特定の態様では、ドメインはALBまたはその断片であり、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:15)-Z-(ALBもしくはその断片)、(SEQ ID NO:17)-Z-(ALBもしくはその断片)、(SEQ ID NO:19)-Z-(ALBもしくはその断片)、(SEQ ID NO:24)-Z-(ALBもしくはその断片)、またはそれらの変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0021】
ある特定の態様では、タンパク質-Z-ドメインは、SEQ ID NO:21、(SEQ ID N:17)-Z-(SEQ ID NO:27)、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:25、またはそれらの変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0022】
ある特定の態様では、前記化合物は、約3.4(±0.4)s-1酵素-1より大きいか、またはこれに等しいkcat値を有し、kcatは、化合物のATP加水分解速度を測定することによって求められる。
【0023】
ある特定の態様では、前記化合物は、約2μMより小さいか、またはこれに等しいKM値を有し、KMは、化合物のATP加水分解速度を測定することによって求められる。
【0024】
ある特定の態様では、NPP1ポリペプチドは、エクトヌクレオチドピロリン酸/ホスホジエステラーゼ-2(NPP2)膜貫通ドメインを含む前駆体NPP1ポリペプチドの切断産物である。
【0025】
ある特定の態様では、NPP2膜貫通ドメインは、SEQ ID NO:23に相当する、NCBIアクセッション番号NP_001124335(SEQ ID NO:2)の12~30番目の残基である。
【0026】
ある特定の態様では、前記方法は、本発明の少なくとも1つの化合物の治療的有効量を対象に投与する工程を含む。
【0027】
ある特定の態様では、疾患は、乳児全身性動脈石灰化症(GACI)、特発性乳児動脈石灰化症(Idiopathic Infantile Arterial Calcification)(IIAC)、後縦靭帯骨化症(Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament)(OPLL)、低リン血症性くる病、変形性関節症、およびアテローム性動脈硬化プラークの石灰化(calcification of atherosclerotic plaques)からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0028】
ある特定の態様では、疾患は、PXE、遺伝性および非遺伝性の変形性関節症、強直性脊椎炎、加齢と共に発生する動脈の硬化、末期腎臓病に起因するカルシフィラキシス、および早老症からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0029】
ある特定の態様では、Yは存在せず、前記化合物は、負に荷電している骨標的化配列を欠いている。
【0030】
ある特定の態様では、前記方法は、エクトヌクレオチドピロリン酸/ホスホジエステラーゼ-1(NPP1)ポリペプチドとIgG Fcドメインとを含む所定のポリペプチドの治療的有効量を乳児に投与する工程を含み、所定のポリペプチドはポリアスパラギン酸ドメインを欠いており、所定のポリペプチドの投与によって乳児において細胞外ピロリン酸(PPi)濃度が上昇する。
【0031】
ある特定の態様では、前記方法は、エクトヌクレオチドピロリン酸/ホスホジエステラーゼ-1(NPP1)ポリペプチドとALBとを含む所定のポリペプチドの治療的有効量を乳児に投与する工程を含み、所定のポリペプチドはポリアスパラギン酸ドメインを欠いており、所定のポリペプチドの投与によって乳児において細胞外ピロリン酸(PPi)濃度が上昇する。
【0032】
ある特定の態様では、投与は、吸入投与、経口投与、鼻投与、直腸投与、非経口投与、舌下投与、経皮投与、経粘膜投与(例えば、舌下投与、舌投与、(経)頬投与、(経)尿道投与、腟投与(例えば、経腟投与および膣周囲投与)、鼻(鼻腔内)投与、ならびに(経)直腸投与)、膀胱内投与、肺内投与、十二指腸内投与、胃内投与、くも膜下腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、動脈内投与、静脈内投与、気管支内投与、吸入投与、ならびに局所投与からなる群より選択される少なくとも1つである。他の態様において、投与は皮下投与である。
【0033】
ある特定の態様では、投与によって、乳児の細胞外ピロリン酸濃度が、GACIおよび/またはPXEにかかっていない乳児において見出される範囲内のレベルまで回復する。
【0034】
ある特定の態様では、乳児は投与の前に「成長障害」を示し、かつ/または「成長障害」と診断されている。
[本発明1001]
式(I):
タンパク質-Z-ドメイン-X-Y (I)
の化合物またはその塩であって、
(I)において、
タンパク質は、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:19、およびSEQ ID NO:24からなる群より選択され;
ドメインは、ヒトIgG Fcドメイン(Fc)、ヒト血清アルブミンタンパク質(ALB)、およびそれらの断片からなる群より選択され;
XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~20個のアミノ酸を含むポリペプチドであり;かつ
Yは、存在しないか、または
からなる群より選択される配列であり、mは1~15の整数であり、nは1~10の整数である、
前記化合物またはその塩。
[本発明1002]
前記ドメインが、Fcまたはその断片である、本発明1001の化合物。
[本発明1003]
前記ドメインが、ALBまたはその断片である、本発明1001の化合物。
[本発明1004]
Yが存在せず、前記化合物が、負に荷電している骨標的化配列を欠いている、本発明1001の化合物。
[本発明1005]
前記タンパク質が、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に変異を有する、本発明1001の化合物。
[本発明1006]
前記タンパク質またはその変異体のヌクレアーゼドメインが存在しない、本発明1001の化合物。
[本発明1007]
前記タンパク質またはその変異体において、SEQ ID NO:1と比べて約524番目~約885番目の残基のヌクレアーゼドメインが存在しない、本発明1001の化合物。
[本発明1008]
NPP2の細胞外領域の、フューリンまたはシグナルペプチド切断部位を含有するセグメントが、置換によって前記タンパク質またはその変異体に導入されているかまたは導入されていない、本発明1001の化合物。
[本発明1009]
前記ドメインがFcまたはその断片であり、前記タンパク質-Z-ドメインが、
(SEQ ID NO:15)-Z-(Fcもしくはその断片)、(SEQ ID NO:17)-Z-(Fcもしくはその断片)、(SEQ ID NO:19)-Z-(Fcもしくはその断片)、(SEQ ID NO:24)-Z-(Fcもしくはその断片)、またはそれらの変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体
を含む、本発明1001の化合物。
[本発明1010]
前記タンパク質-Z-ドメインが、
SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:20、(SEQ ID NO:24)-Z-(SEQ ID NO:26)、またはそれらの変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体
を含む、本発明1009の化合物。
[本発明1011]
前記ドメインがALBまたはその断片であり、前記タンパク質-Z-ドメインが、
(SEQ ID NO:15)-Z-(ALBもしくはその断片)、(SEQ ID NO:17)-Z-(ALBもしくはその断片)、(SEQ ID NO:19)-Z-(ALBまもしくはその断片)、(SEQ ID NO:24)-Z-(ALBもしくはその断片)、またはそれらの変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体
を含む、本発明1001の化合物。
[本発明1012]
前記タンパク質-Z-ドメインが、
SEQ ID NO:21、(SEQ ID N:17)-Z-(SEQ ID NO:27)、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:25、またはそれらの変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体
を含む、本発明1011の化合物。
[本発明1013]
前記化合物が、3.4(±0.4)s
-1酵素
-1以上のk
cat値を有し、該k
catが、該化合物のATP加水分解速度を測定することによって求められる、本発明1001の化合物。
[本発明1014]
前記化合物が、2μM以下のK
M値を有し、該K
Mが、該化合物のATP加水分解速度を測定することによって求められる、本発明1001の化合物。
[本発明1015]
病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害の治療または予防を必要とする対象において、病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害を治療または予防する方法であって、本発明1001~1014のいずれかの少なくとも1つの化合物の治療的有効量を該対象に投与する工程を含み、該疾患が、乳児全身性動脈石灰化症(GACI)、特発性乳児動脈石灰化症(IIAC)、後縦靭帯骨化症(OPLL)、低リン血症性くる病、変形性関節症、およびアテローム性動脈硬化プラークの石灰化からなる群より選択される少なくとも1つを含む、前記方法。
[本発明1016]
Yが存在せず、前記化合物が、負に荷電している骨標的化配列を欠いている、本発明1015の方法。
[本発明1017]
病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害の治療または予防を必要とする対象において、病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害を治療または予防する方法であって、本発明1001~1014のいずれかの少なくとも1つの化合物の治療的有効量を該対象に投与する工程を含み、該疾患が、PXE、遺伝性および非遺伝性の変形性関節症、強直性脊椎炎、加齢と共に発生する動脈の硬化、末期腎臓病に起因するカルシフィラキシス、および早老症からなる群より選択される少なくとも1つを含む、前記方法。
[本発明1018]
Yが存在せず、前記化合物が、負に荷電している骨標的化配列を欠いている、本発明1017の方法。
[本発明1019]
GACIおよびPXEからなる群より選択される少なくとも1つの疾患または障害にかかっている乳児において心臓石灰化、動脈石灰化、および/または弾性線維石灰化を低減または予防する方法であって、エクトヌクレオチドピロリン酸/ホスホジエステラーゼ-1(NPP1)ポリペプチドとFcとを含む所定のポリペプチドの治療的有効量を該乳児に投与する工程を含み、該所定のポリペプチドがポリアスパラギン酸ドメインを欠いており、該所定のポリペプチドの投与によって該乳児における細胞外ピロリン酸(PPi)濃度が上昇し、それによって、該乳児において心臓石灰化、動脈石灰化、および/または弾性線維石灰化が低減または予防される、前記方法。
[本発明1020]
前記投与が皮下投与である、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記投与によって、前記乳児の細胞外ピロリン酸濃度が、GACIおよび/またはPXEにかかっていない乳児において見出される範囲内のレベルまで回復する、本発明1019の方法。
[本発明1022]
前記乳児が前記投与の前に「成長障害」を示し、かつ/または「成長障害」と診断されている、本発明1019の方法。
[本発明1023]
前記NPP1ポリペプチドが、エクトヌクレオチドピロリン酸/ホスホジエステラーゼ-2(NPP2)膜貫通ドメインを含む前駆体NPP1ポリペプチドの切断産物である、本発明1019の方法。
[本発明1024]
NPP2膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:23に相当する、NCBIアクセッション番号NP_001124335(SEQ ID NO:2)の12~30番目の残基である、本発明1019の方法。
[本発明1025]
GACIおよびPXEからなる群より選択される少なくとも1つの疾患または障害にかかっている乳児において心臓石灰化、動脈石灰化、および/または弾性線維石灰化を低減または予防する方法であって、NPP1ポリペプチドとALBとを含む所定のポリペプチドの治療的有効量を該乳児に投与する工程を含み、該所定のポリペプチドがポリアスパラギン酸ドメインを欠いており、該投与によって該乳児における細胞外PPi濃度が上昇し、それによって、該乳児において心臓石灰化、動脈石灰化、および/または弾性線維石灰化が低減または予防される、前記方法。
[本発明1026]
前記投与が皮下投与を含む、本発明1025の方法。
[本発明1027]
前記投与によって、前記乳児の細胞外ピロリン酸濃度が、GACIおよび/またはPXEにかかっていない乳児において見出される範囲内のレベルまで回復する、本発明1025の方法。
[本発明1028]
前記乳児が前記投与の前に「成長障害」を示し、かつ/または「成長障害」と診断されている、本発明1025の方法。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明の例示的な態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と組み合わせて読めばさらに深く理解されるだろう。本発明を例示するために、特定の態様を図面に示した。しかしながら、本発明は、図面に示した態様の正確な配置および手段に限定されないことが理解されるはずである。
【0036】
【
図1A】
図1A~1Gは、自然史研究を図示した一組の画像およびグラフを含む。
図1A:アクセラレーションダイエット(acceleration diet)を与えたENPP1-asj/asjおよびENPP1-WT同胞ペアの毎日の体重の平均。70日間にわたってアクセラレーションダイエットを与えたENPP1-WTの毎日の体重(シアンブルー色の四角)およびENPP1-asj/asjマウスの毎日の体重(緑色の丸)。ENPP1-asj/asjコホートでは26日目に、体重がENPP1-WTから分かれる成長障害点が認められる。死亡事象は赤色の矢印で印を付けた。
【
図1B】
図1B:生存曲線、自然史研究。ENPP1-asj/asjの生存時間の平均は58日であった。ENPP1-WTコホートでは死亡は観察されなかった。
【
図1D】代表的な組織学、自然史研究。一部のasj/asj動物は、E)に、はっきり見える、心臓および大動脈の著しい石灰化を示した。大動脈のアリザリンレッドによって示されたように、ENPP1-asj/asjマウスの大動脈は全て、血管壁全体に広がった、ほぼ全周性の石灰化を有した。
【
図1F】
図1F:asj/asjマウス左心室の組織構造(40x)。瘢痕組織で囲まれた広範囲にわたる石灰化から、繰り返された、古い、治癒した心筋梗塞が存在することが明らかになった。
【
図1G】
図1G:asj/asjマウス、中隔の組織構造(100X)。さらに典型的には、asjマウスは、ここでは心筋中隔に見られるように、これも以前の心筋梗塞の診断となる、周囲瘢痕組織を伴う小さな石灰化病巣を示した。
【
図2A】
図2A~2Eは、本発明の治療用タンパク質の代謝経路、ならびに設計、安定性、および反応速度特性を図示した一組の画像およびグラフを含む。
図2A:異所性石灰化に関連したプリン(purinergic)代謝の代謝経路の模式図。ENPP1は細胞外ATPをAMPおよびPPiに変換し、TNAPはPPiをPiに変換し、CD73はAMPをアデノシンおよびPiに変換する。abcc6遺伝子は、ATPの細胞外濃度を高める膜輸送体であるMRP6をコードする。TNAPに機能喪失型変異があると家族性低ホスファターゼ血症が起こる。ENPP1に機能喪失型変異があるとGACIが起こり、MRP6に機能喪失型変異があるとPXEが起こり、CD73に機能喪失型変異があると「ACDC」と呼ばれる動脈石灰化および関節石灰化の疾患が起こる。
【
図2B】
図2B:ENPP1タンパク質治療剤の設計。可溶性組換えタンパク質を産生するために、以前に述べられた通りに、NPP2の細胞外領域におけるフューリン切断部位を含有するセグメントを置換によってENPP1に導入し、このタンパク質のC末端をヒト免疫グロブリン1(IgG1)のFcドメインと融合した。
【
図2C】
図2C:ENPP1治療剤の安定性。ENPP1-Fc Ap3A活性は、-80℃で保管した後に、PBS中での凍結融解サイクルに対して安定なことが認められた。
図2D~2E:hENPP1-Fcの定常状態の反応速度。
【
図2D】
図2D:(下から上に)1.0μM、2.0μM、7.8μM、125μM、および250μM ATPに10nM hNPP1-Fcを添加した後にHPLC分析によって測定したAMP形成の時間経過。データを介した滑らかな曲線は、非線形反応速度時間経過分析によって得られたフィット(fit)である。挿入図は、パネルAにおける低[ATP]時間経過、(下から上に)1.0μM、2.0μM、7.8μM ATPを示す。1.0μMATPの時間経過から、ATPは1分後に完全に使い尽くされ、従って、速度を求めることができなかったことが分かる。
【
図2E】
図2E:酵素あたりのATP濃度依存性のATP加水分解初速度。7.8μMから後の初速度は本質的に同じであり、k
cat(平均)=3.4(±0.4)s
-1酵素
-1である。2.0μM ATP濃度での初速度はk
cat値の約半分であり、従って、hNPP1-Fcタンパク質によるATP加水分解については約2μMのK
Mが見積もられた。
【
図3-1】
図3A~3Dは、概念実証試験を図示した一組の画像およびグラフを含む。
図3A:動物の毎日の体重。PBSに溶解したマウスENPP1-Fc(mENPPI-Fc)500au/Kg 1日1回を毎日投薬し、GK1.5免疫抑制を毎週投薬したENPP1-asj/asj同胞ペアと比較した、ビヒクル(毎週1回のGK1.5を補った毎日1回のPBS注射)を投薬したENPP1-WTおよびENPP1-asj/asj同胞ペアの毎日の体重の平均。14日目に投薬および体重測定を開始した。ENPP1-asj/asj+ビヒクルコホートにおける死亡は死亡日に赤色の矢印で示した。ENPP1-WT+ビヒクルまたはENPP1-asj/asj+ENPP1-Fcコホートでは死亡は認められなかった。
【
図3-2】
図3B:生存曲線、概念実証試験。
図3C:左心室の組織構造、(40x、H&E)。無処置のasj/asjマウスは自由壁に石灰化の大きな病巣と微小梗塞を示した。
図3D:左心室の組織構造、(40x、H&E)、処置したasj/asjマウス。処置したENPP1-asjマウスはどれも異常な左心室組織構造を示さなかった。
【
図4-1】
図4A~4Gは、代表的な組織構造および概念実証試験を図示した一組の画像を含む。
図4A~4B:大動脈(40x、アリザリンレッド)。無処置のENPP1-asjマウス(
図4A)は、ほぼ全周性の大動脈石灰化を示したのに対して、処置したENPP1-asjマウス(
図4B)は大動脈石灰化を示さなかった。
図4C:無処置のENPP1-asj/asjマウス、右心室(40x、H&E)。2匹の無処置のENPP1-asjマウスには、右心室の自由壁に大きな融合性の心筋梗塞があった。
【
図4-2】
図4D:処置したENPP1-asj/asjマウス、右心室(40x、H&E)。処置したENPP1-asjマウスは全て正常な右心室心筋を示した。
図4E:無処置のENPP1-asj/asjマウス、冠状動脈(100x、H&E)。無処置のENPP1-asj/asjマウスは全て冠状動脈石灰化を有し、ほとんどが、虚血および心筋梗塞の診断となる、瘢痕組織で囲まれた冠状動脈の周囲石灰化を示した。
【
図4-3】
図4F:無処置のENPP1-asj/asjマウス、心筋中隔(100x、H&E)。ほぼ全ての動物(77%)は、この動物の心筋中隔において証明されるように、瘢痕組織で囲まれた心臓内石灰化を示した。
図4G:表現型比較、処置したENPP1-asj/asjマウスと無処置のENPP1-asj/asjマウス。処置した動物と無処置の動物には著しいサイズの違いがあり、動物の移動性および健康状態には顕著な違いがある。最良のものが、補足データで提出された動画で見られる。
【
図5-1】
図5A~5Fは、疾患応答のバイオマーカーを図示した一組の画像およびグラフを含む。
図5A:死後高分解能マイクロ-CTスキャンから、無処置のENPP1-asj/asjマウスでは、心臓、冠状動脈、ならびに上行大動脈および下行大動脈に広範囲にわたる石灰化があったが、処置したENPP1-asj/asjコホートまたはENPP1-WTマウスでは、これらの臓器に石灰化は全く無かったことが明らかになった。
図5B:ENPP1-WTならびに処置したENPP1-asj/asj動物および無処置のENPP1-asj/asj動物における血漿中[PPi]から、ENPP1-FCで処置すると、ENPP1-asj/asjマウスの[PPi]はWTレベルを上回って増加し、無処置のENPP1-asj/asjマウスに存在する、ほとんど検出できないレベルをかなり上回って増加したことが明らかになった。
【
図5-2】
図5C~5D:WTおよびasj/asj動物の頭部における注射された
99mPYPの取り込み率(%)。自然史研究における動物の頭部における
99mPYPの取り込み率(%)を、アクセラレーションダイエットを与えたWTおよびasj/asj動物において毎週記録した。このことから、
99mPYP取り込みは出生後80日間にわたってほぼ一定のままであるが、2つの実験群間で著しく異なることが証明された。
図5D:自然史研究において、WT動物の頭部における
99mPYP取り込みの平均は80日間にわたって注射量の約15%であったのに対して、asj/asj動物におけるPYP取り込みは約20%であった(p<0.001,スチューデント両側t検定)。
【
図5-3】
図5E~5F:WTならびに処置したasj/asjマウスおよび無処置のasj/asjマウスの頭部における
99mPYPの注射量に対する取り込み率(%)。実験群において、
99mPYP取り込みを試験の半ば(30~35日目、(
図5e))または試験の終わり(50~65日目、
図5F)に記録した。WTおよび処置したasj/asj動物の頭蓋における取り込み率(%)は約15%であったのに対して、無処置のENPP1-asj/asjコホートは20%であったか、20%を上回った。処置したENPP1-asjマウスと、無処置のENPP1-asjマウスとの差は統計的に有意であったのに対して(p<0.001,スチューデント両側t検定)、WTと、処置したENPP1-asjマウスとの差異は統計的に有意でなかった。
【
図6】パネルa~hを含めて、NPP1融合タンパク質のある特定の非限定的な構築物を図示する。XおよびYは、一部の態様における任意のペプチドである。Zは、FcドメインまたはHSAドメインをNPP1タンパク質のC末端に接続する任意のリンカーである。
図6では、NPP1タンパク質のN末端領域およびC末端領域をNおよびCで表した。パネルa~dは、NPP1酵素ドメインと共に、(「
*」で印を付けた)NPP2の膜貫通ドメインと(「
**」で印を付けた)NPP1の膜貫通ドメインを含む融合タンパク質を図示する。NPP1の酵素ドメインはPSCAKEアミノ酸配列として始まり、QEDアミノ酸配列で終わる。パネルe~hは、NPP1酵素ドメインと共に、(「
*」で印を付けた)NPP2のシグナルペプチドと(「
**」で印を付けた)NPP1の膜貫通ドメインを含む融合タンパク質を図示する。
【
図7】実施例1に記載のようにENPP1-Fcで処置したマウスにおける血漿中PPiレベルの測定値を示したグラフである。
【
図8】SEQ ID NO:22を発現させるのに使用したプラスミドの模式図である。
【
図9】SEQ ID NO:25を発現させるのに使用したプラスミドの模式図である。
【
図10】精製されたヒトNPP1-Fc構築物およびマウスNPP1-Fc構築物からの銀染色画像を図示した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明は、ある特定のNPP1含有ポリペプチド、その変異体、または変異体断片が、血漿中ピロリン酸アンバランス、病的石灰化、および/または病的骨化を伴う疾患および障害の治療に有用だという発見に関する。本発明の組成物および方法によって治療可能な病的石灰化および/または病的骨化を伴う疾患および障害には、乳児全身性動脈石灰化症(GACI)、慢性腎臓病(CKD)、末期腎臓病(ESRD)、特発性乳児動脈石灰化症(IIAC)、後縦靭帯骨化症(OPLL)、低リン血症性くる病、アテローム性動脈硬化プラークの石灰化、弾力線維性仮性黄色腫(PXE)、遺伝性および非遺伝性の変形性関節症、強直性脊椎炎、加齢と共に発生する動脈の硬化、カルシフィラキシス(例えば、末期腎臓病に起因する)、および早老症が含まれるが、これに限定されない。
【0038】
このような疾患は無数にある原因の結果である。遺伝子変異であるものもあり、糖尿病、心不全、または大規模な透析の結果としての合併症であるものもある。だが、ある特定の態様では、このような疾患には、共通して、血漿中ピロリン酸アンバランスおよび/または広範囲にわたる石灰化の症状がある。
【0039】
定義
特に定義のない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は全て、本発明が属する当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な任意の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および材料を説明する。
【0040】
本明細書で使用する、以下の用語はそれぞれ、このセクションにおいて、それぞれの用語に関連する意味を有する。
【0041】
冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、冠詞の文法上の目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書において用いられる。例として、「要素」とは1つの要素または複数の要素を意味する。
【0042】
本明細書で使用する「約」とは、測定可能な値、例えば、量、期間などを指している場合には、指定値からの±20%または±10%、ある特定の態様では±5%、ある特定の態様では±1%、ある特定の態様では±0.1%のばらつきが、開示された方法を実施するのに適している場合に、このようなばらつきを包含することを意味する。
【0043】
「異常な」という用語は、生物、組織、細胞、またはその成分の文脈において用いられた場合は、少なくとも1つの観察可能または検出可能な特徴(例えば、年齢、処置、時刻など)の点で、「正常な」(期待された)それぞれの特徴を示す生物、組織、細胞、またはその成分とは異なる、生物、組織、細胞、またはその成分を指す。ある細胞または組織タイプにとって正常な、または期待される特徴は、異なる細胞または組織タイプにとっては異常であるかもしれない。
【0044】
本明細書で使用する「ALB」という用語はヒト血清アルブミンタンパク質を指す。
【0045】
疾患もしくは障害の症状の重篤度、このような症状を患者が経験する頻度、またはその両方が低下すれば、疾患または障害は「軽減」されている。
【0046】
本明細書で使用する「変化」、「欠損」、「バリエーション」、または「変異」という用語は、遺伝子がコードするポリペプチドの機能、活性、発現(転写もしくは翻訳)、またはコンホメーションに影響を及ぼす、細胞にある遺伝子の変異を指す。本発明に含まれる変異は、コードされるタンパク質の発現の完全な非存在を含む、コードされるポリペプチドの機能、活性、発現、またはコンホメーションの強化または破壊をもたらす、細胞にある遺伝子の任意の変異でよく、例えば、ミスセンス変異およびナンセンス変異、挿入、欠失、フレームシフト、ならびに早すぎる終結を含んでもよい。本発明に含まれる変異は、次に言うように限定されることはないが、mRNAのスプライシングを変えてもよく(スプライス部位変異)、読み枠のシフトを引き起こしてもよい(フレームシフト)。
【0047】
「アミノ酸配列バリアント」という用語は、天然配列ポリペプチドとある程度まで異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。通常、アミノ酸配列バリアントは、天然ポリペプチドに対して少なくとも約70%の相同性、少なくとも約80%の相同性、少なくとも約90%の相同性、または少なくとも約95%の相同性を有する。アミノ酸配列バリアントは、天然アミノ酸配列のアミノ酸配列内にある、ある特定の位置に置換、欠失、および/または挿入を有する。
【0048】
本明細書で使用する「抗体」という用語は、抗原上にある特定のエピトープに特異的に結合することができる免疫グロブリン分子を指す。抗体は天然供給源または組換え供給源に由来するインタクトな免疫グロブリンでもよく、インタクトな免疫グロブリンの免疫反応性部分でもよい。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体(「イントラボディ(intrabody)」)、Fv、FabおよびF(ab)2、ならびに単鎖抗体(scFv)、重鎖抗体、例えば、ラクダ科の動物の抗体、合成抗体、キメラ抗体、ならびにヒト化抗体を含む様々な形式で存在してもよい(Harlow, et al., 1999, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Harlow, et al., 1989, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York; Houston, et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Bird, et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0049】
本明細書で使用する「Ap3P」という用語は、アデノシン-(5')-トリホスホ-(5')-アデノシンまたはその塩を指す。
【0050】
本明細書で使用する「小児」および「乳児」という用語は同義に用いられる。
【0051】
本明細書で使用する「コード配列」という用語は、mRNAおよび/もしくはポリペプチドまたはその断片を産生するように転写および/または翻訳することができる、核酸もしくはその相補鎖の配列またはその一部を意味する。コード配列には、ゲノムDNAまたは未熟な一次RNA転写物にあるエキソンが含まれ、エキソンは、成熟mRNAを生じるように細胞の生化学的機構によってつなぎ合わされる。アンチセンス鎖は、このような核酸の相補鎖であり、アンチセンス鎖からコード配列を推定することができる。対照的に、本明細書で使用する「ノンコード配列」という用語は、インビボでアミノ酸に翻訳されないか、またはアミノ酸を配置するようにtRNAが相互作用しないか、もしくはアミノ酸を配置しようとしない核酸もしくはその相補鎖またはその一部の配列を意味する。ノンコード配列には、ゲノムDNAまたは未熟な一次RNA転写物にあるイントロン配列と、遺伝子に関連する配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなどが含まれる。
【0052】
本明細書で使用する「相補的な」または「相補性」という用語は、塩基対合の規則によって関係付けられるポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)に関して用いられる。例えば、配列「A-G-T」は配列「T-C-A」に相補的である。相補性は「部分的」であってもよく、この場合、塩基対合の規則に従って核酸塩基の一部しか一致しない。または、核酸間には「完全な」または「全体の」相補性があってもよい。核酸鎖間の相補性の程度は核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に大きな影響を及ぼす。このことは、核酸間の結合に左右される増幅反応ならびに検出方法において特に重要である。
【0053】
本明細書で使用する「保存的バリエーション」または「保存的置換」という用語は、アミノ酸残基と別の生物学的に類似する残基との交換を指す。保存的バリエーションまたは保存的置換はペプチド鎖の形状を変える可能性が低い。保存的バリエーションまたは保存的置換の例には、ある疎水性残基、例えば、イソロイシン、バリン、ロイシン、もしくはメチオニンと別の疎水性残基との交換、またはある極性残基と別の極性残基との交換、例えば、リジンからアルギニンへの置換、アスパラギン酸からグルタミン酸への置換、またはアスパラギンからグルタミンへの置換が含まれる。
【0054】
「疾患」とは、動物がホメオスタシス維持することができない、動物の健康状態であり、疾患が良くならなければ、動物の健康は悪化し続ける。
【0055】
動物における「障害」とは、動物がホメオスタシス維持することができる健康状態であるが、障害が存在しない場合より動物の健康状態は好ましくない。無処置のままにしておいたら、障害は、必ず、動物の健康状態をさらに低下させるとは限らない。
【0056】
本明細書で使用する「ドメイン」という用語は、疎水性、極性、球状、およびヘリックスのドメインまたは特性などがあるが、これに限定されない、共通の物理化学的特徴を有する、分子または構造の一部を指す。結合ドメインの具体的な例には、DNA結合ドメインおよびATP結合ドメインが含まれるが、これに限定されない。
【0057】
本明細書で使用する「有効量」、「薬学的有効量」、および「治療的有効量」という用語は、望ましい生物学的結果をもたらすのに無毒であるが十分な薬剤の量を指す。この結果は、疾患の徴候、症状、もしくは原因の低減および/もしくは軽減でもよく、生物系の他の任意の望ましい変化でもよい。任意の個々の症例における適切な治療上の量は日常的な実験方法を用いて当業者によって決定することができる。
【0058】
「コードする」とは、生物学的プロセスにおいて、規定されたヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA、およびmRNA)または規定されたアミノ酸配列を有し、結果として生じる生物学的特性を有する他のポリマーおよび高分子を合成するためのテンプレートとして働くようなポリヌクレオチド、例えば、遺伝子、cDNA、またはmRNAにおける特定のヌクレオチド配列の固有の性質を指す。従って、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳によって細胞または他の生物系においてタンパク質が産生されるのであればタンパク質をコードする。mRNA配列と同一であり、通常、配列表に示されているヌクレオチド配列であるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写用のテンプレートとして用いられる非コード鎖はいずれも、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると言うことができる。
【0059】
本明細書で使用する「Fc」という用語は、ヒトIgG Fcドメインを指す。
【0060】
本明細書で使用する「成長障害」という用語は、現在の体重または体重増加速度が、年齢および性別が似ている他の小児の体重または体重増加速度より少ない小児または乳児を指す。小児または乳児が「成長障害」を示す状況は、医療専門家に相談することによって、および/または小児もしくは乳児の体重もしくは体重増加速度を既知の年齢別の体重もしくは体重増加速度データの平均と比較することによって特定することができる。
【0061】
本明細書で使用する「断片」という用語は、核酸に適用される場合には、さらに大きな核酸の部分配列を指す。核酸の「断片」は、長さが少なくとも約15ヌクレオチド、例えば、少なくとも約50ヌクレオチド~約100ヌクレオチド;少なくとも約100~約500ヌクレオチド、少なくとも約500~約1000ヌクレオチド;少なくとも約1000ヌクレオチド~約1500ヌクレオチド;約1500ヌクレオチド~約2500ヌクレオチド;または約2500ヌクレオチド(およびその間の任意の整数値)でもよい。本明細書で使用する「断片」という用語は、タンパク質またはペプチドに適用される場合には、さらに大きなタンパク質またはペプチドの部分配列を指す。タンパク質またはペプチドの「断片」は、長さが少なくとも約20アミノ酸、例えば、長さが少なくとも約50アミノ酸;長さが少なくとも約100アミノ酸;長さが少なくとも約200アミノ酸;長さが少なくとも約300アミノ酸;または長さが少なくとも約400アミノ酸(およびその間の任意の整数値)でもよい。
【0062】
「相同の」とは、2つのポリペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性または配列同一性を指す。2つの比較分子の両方にある位置が同じ塩基またはアミノ酸単量体サブ単位によって占められている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにある位置がアデニンによって占められているのであれば、当該分子はその位置において相同である。2つの配列間の相同性の割合(%)は、2つの配列が共有する一致する位置または相同な位置の数/比較した位置の数X100の関数である。例えば、2つの配列中にある位置の10個のうち6個が一致しているか、または相同であれば、2つの配列は60%相同である。例として、DNA配列ATTGCCおよびTATGGCは50%相同である。一般的に、相同性が最大になるように2つの配列がアラインメントされた場合に比較が行われる。
【0063】
本明細書で使用する「イムノアッセイ」とは、標的分子を検出および定量するために、標的分子に特異的に結合することができる抗体を使用する任意の結合アッセイを指す。
【0064】
本明細書で使用する「免疫グロブリン」または「Ig」という用語は、抗体として機能するタンパク質のクラスと定義される。B細胞が発現する抗体は、BCR(B細胞受容体)または抗原受容体と呼ばれることもある。このクラスのタンパク質に含まれる5つのメンバーは、IgA、IgG、IgM、IgD、およびIgEである。IgAは、身体分泌物、例えば、唾液、涙、母乳、胃腸分泌物、ならびに気道および尿生殖器管の粘液分泌物に存在する一次抗体である。IgGは最も一般的な循環抗体である。IgMは、ほとんどの対象において一次免疫応答で産生される主要な免疫グロブリンである。IgMは、凝集、補体結合、および他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌およびウイルスに対する防御において重要である。IgDは、抗体機能が分かっていないが、抗原受容体として役立つ可能性がある免疫グロブリンである。IgEは、アレルゲンに曝露されたときマスト細胞および好塩基球からのメディエーターの放出を引き起こすことによって即時型過敏症を媒介する免疫グロブリンである。
【0065】
「教材」とは、この用語が本明細書において用いられる場合には、本明細書において列挙された様々な疾患または障害を特定または軽減または治療するためのキットの中にある、本発明の核酸、ペプチド、および/または化合物の有用性を伝えるのに使用することができる刊行物、記録、図、または他の任意の表現媒体を含む。任意で、または代わりに、教材は、対象の細胞または組織における疾患または障害を特定または軽減する1つまたは複数の方法を説明してもよい。キットの教材は、例えば、本発明の核酸、ポリペプチド、および/または化合物を収める容器に貼り付けられてもよく、核酸、ポリペプチド、および/または組成物を収める容器と一緒に発送されてもよい。または、教材は、教材および化合物がレシピエントによって協同して用いられる意図をもって、容器とは別々に発送されてもよい。
【0066】
「単離された」とは、自然状態から変えられている、または取り出されていることを意味する。例えば、生きている動物に天然で存在する核酸またはポリペプチドは「単離されて」いないが、自然状態の同時に存在する材料から部分的または完全に分離されている同じ核酸またはポリペプチドは「単離され」ている。単離された核酸またはタンパク質は実質的に精製された形で存在してもよく、例えば、宿主細胞などの自然ではない環境に存在してもよい。
【0067】
「単離された核酸」とは、天然状態で隣接する配列から分離されている、核酸セグメントまたは断片、例えば、DNA断片に通常隣接する配列、例えば、DNA断片が天然で生じるゲノム内でDNA断片に隣接する配列から除去されているDNA断片を指す。この用語はまた、天然で付随する他の成分、例えば、細胞内で天然で付随するRNAもしくはDNAまたはタンパク質から実質的に精製されている核酸にも適用される。従って、この用語は、例えば、ベクター、自己複製プラスミドもしくはウイルス、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれたか、あるいは他の配列とは独立した別々の分子として(例えば、PCRまたは制限酵素消化によって生じたcDNAまたはゲノム断片もしくはcDNA断片として)存在する組換えDNAを含む。この用語はまた、さらなるポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAも含む。
【0068】
本明細書で使用する「NPP」または「ENPP」という用語は、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼを指す。
【0069】
「核酸」とはポリヌクレオチドを指し、ポリリボヌクレオチドおよびポリデオキシリボヌクレオチドを含む。本発明による核酸は、ピリミジン塩基、好ましくは、シトシン、チミン、およびウラシルと、プリン塩基、好ましくは、グアニンの任意のポリマーまたはオリゴマーを含んでもよい。全ての目的のために、その全体が本明細書に組み入れられる、Albert L. Lehninger, Principles of Biochemistry, 793-800 (Worth Pub. 1982)を参照されたい。実際に、本発明は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、またはペプチド核酸成分、およびその任意の化学的バリアント、例えば、これらの塩基のメチル化型、ヒドロキシメチル型、またはグルコシル化型などを意図する。これらのポリマーまたはオリゴマーは組成が不均一でも均一でもよく、天然供給源から単離されてもよく、人工的にまたは合成により生成されてもよい。さらに、核酸はDNAもしくはRNA、またはその混合物でもよく、ホモ二重鎖、ヘテロ二重鎖、およびハイブリッド状態を含めて一本鎖または二本鎖の形で永久に、または一過的に(transitionally)存在してもよい。
【0070】
「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」は、長さが少なくとも2ヌクレオチド、ある特定の態様では少なくとも8ヌクレオチド、15ヌクレオチド、または25ヌクレオチドの核酸であるが、50ヌクレオチド長、100ヌクレオチド長、1000ヌクレオチド長、または5000ヌクレオチド長まででもよく、ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする化合物でもよい。ポリヌクレオチドには、天然供給源から単離されてもよく、組換えにより生成されてもよく、人工的に合成されてもよい、デオキシリボ核酸(DNA)もしくはリボ核酸(RNA)またはそのミメティックの配列が含まれる。本発明のポリヌクレオチドのさらなる例はペプチド核酸(PNA)でもよい(その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,156,501号を参照されたい)。本発明はまた、ある特定のtRNA分子において特定されており、三重らせんに存在すると想定されている、フーグスティーン塩基対合などの普通ではない塩基対合がある状況も包含する。「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は本明細書において同義に用いられる。ヌクレオチド配列が本明細書においてDNA配列(例えば、A、T、G、およびC)で表される場合には、これは、「U」が「T」の代わりに用いられる、対応するRNA配列(例えば、A、U、G、C)も含むことが理解される。
【0071】
本明細書で使用する「患者」、「個体」、または「対象」という用語は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物を指す。非ヒト哺乳動物には、例えば、家畜およびペット、例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、およびマウスの哺乳動物が含まれる。ある特定の態様では、患者、個体、または対象はヒトである。
【0072】
本明細書で使用する「予防する」または「予防」という用語は、何も起こっていなければ、障害の発症も疾患の発症も無いこと、または障害もしくは疾患が既に発症していれば、これ以上の障害の発症も疾患の発症も無いことを意味する。障害または疾患に関連する症状の一部または全てを予防できることも考慮される。
【0073】
本明細書で使用する「薬学的組成物」または「組成物」という用語は、薬学的に許容される担体との、本発明において有用な少なくとも1種類の化合物の混合物を指す。薬学的組成物は、患者への化合物の投与を容易にする。静脈内投与、経口投与、エアロゾル投与、吸入投与、直腸投与、腟投与、経皮投与、鼻腔内投与、頬投与、舌下投与、非経口投与、くも膜下腔内投与、胃内投与、眼投与、肺投与、および局所投与を含むが、これに限定されない、化合物を投与する複数の技法が当技術分野において存在する。
【0074】
本明細書で使用する「薬学的に許容される」という用語は、化合物の生物学的活性または生物学的特性を無くさない、比較的無毒の材料、例えば、担体または希釈剤を指す。すなわち、この材料は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、またはこの材料が含まれる組成物のどの成分とも有害に相互作用することなく個体に投与することができる。
【0075】
本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明において有用な化合物が、意図された機能を果たすことができるように、本発明において有用な化合物を患者の中に、または患者に運搬もしくは輸送することに関与する、薬学的に許容される材料、組成物、または担体、例えば、液体または固体の増量剤、安定剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒、またはカプセル化材料を意味する。典型的には、このような構築物は、ある臓器または身体の一部から別の臓器または身体の一部に運搬または輸送される。それぞれの担体は、本発明において有用な化合物を含む、製剤の他の成分と適合し、患者に害を及ぼさないという意味で「許容」されなければならない。薬学的に許容される担体として役立ち得る材料のいくつかの例には、糖、例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロース;粉末トラガカントゴム;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、カカオ脂および坐剤ろう;油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、およびダイズ油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;界面活性剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張性食塩水;リンガー液、エチルアルコール;リン酸緩衝液;ならびに薬学的製剤において用いられる他の無毒の適合性物質が含まれる。本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」はまた、本発明において有用な化合物の活性と適合し、患者に生理学的に許容される、任意のおよび全てのコーティング、抗菌剤および抗真菌剤、および吸収遅延剤なども含む。補助的な活性化合物も組成物に組み込まれてもよい。「薬学的に許容される担体」は、本発明において有用な化合物の薬学的に許容される塩をさらに含んでもよい。本発明の実施において用いられる薬学的組成物に含まれ得る他のさらなる成分は当技術分野において公知であり、例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences (Genaro, Ed., Mack Publishing Co., 1985, Easton, PA)に記載されている。
【0076】
本明細書で使用する「薬学的に許容される塩」という言葉は、無機酸、無機塩基、有機酸、無機塩基、その溶媒和化合物、水和物、および包接化合物を含む、薬学的に許容される無毒の酸および塩基から調製された、投与される化合物の塩を指す。適切な薬学的に許容される酸添加塩は無機酸から調製されてもよく、有機酸から調製されてもよい。無機酸の例には、硫酸塩、硫酸水素塩、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、ならびにリン酸(リン酸一水素塩およびリン酸二水素塩を含む)が含まれる。適切な有機酸は、有機酸の脂肪族クラス、脂環式クラス、芳香族クラス、アリール芳香族(araliphatic)クラス、複素環式クラス、カルボキシル基を含むクラス、およびスルホン基を含むクラスより選択されてもよい。この例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(embonic acid)(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β-ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸、およびガラクツロン酸が含まれる。本発明の化合物の適切な薬学的に許容される塩基添加塩には、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、および遷移金属塩、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、および亜鉛塩を含む金属塩が含まれる。薬学的に許容される塩基添加塩にはまた、例えば、N,N'-ジベンジルエチレン-ジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)、およびプロカインなどの塩基性アミンから作られた有機塩も含まれる。これらの塩は全て、対応する化合物から、例えば、適切な酸または塩基と化合物を反応させることによって調製することができる。
【0077】
本明細書で使用する「ポリヌクレオチド」とは、cDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスRNA、リボザイム、ゲノムDNA、合成型、および混合ポリマー、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含み、非天然の、または誘導体化された、合成の、もしくは半合成のヌクレオチド塩基を含有するように化学的または生化学的に改変されてもよい。1つもしくは複数のヌクレオチドの欠失、挿入、置換、または他のポリヌクレオチド配列との融合を含むが、これに限定されない野生型遺伝子または合成遺伝子の変化も意図される。
【0078】
本明細書で使用する「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合を介して連結したアミノ酸残基、その関連する天然構造バリアント、および合成の非天然類似体で構成されるポリマー化合物を指す。合成ポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成機を用いて合成することができる。本明細書で使用する「タンパク質」という用語は、典型的には、大きなポリペプチドを指す。本明細書で使用する「ペプチド」という用語は、典型的には、短いポリペプチドを指す。ポリペプチド配列を表すために本明細書では従来の表記法が用いられる。すなわち、ポリペプチド配列の左側の末端がアミノ末端であり、ポリペプチド配列の右側の末端がカルボキシル末端である。
【0079】
本明細書で使用するアミノ酸は、以下:アスパラギン酸(Asp/D);グルタミン酸(Glu/E);リジン( Lys/K);アルギニン(Arg/R);ヒスチジン(His/H);チロシン(Tyr/Y);システイン(Cys/C);アスパラギン(Asn/N);グルタミン(Gln/Q);セリン(Ser/S);スレオニン(Thr/T);グリシン(Gly/G);アラニン(Ala/A);バリン(Val/V);ロイシン(Leu/L);イソロイシン(Ile/I);メチオニン(Met/M);プロリン(Pro/P);フェニルアラニン(Phe/F);トリプトファン(Trp/W)に示したように、そのフルネームで表されるか、それに対応する三文字表記で表されるか、それに対応する一文字表記で表される。
【0080】
本明細書で使用する「試料」または「生物学的試料」とは、対象から単離された生物学的材料を意味する。生物学的試料は、対象においてmRNA、ポリペプチド、または生理学的プロセスもしくは病的プロセスの他のマーカーを検出するのに適した任意の生物学的材料を含有してよく、個体から得られた流体、組織、細胞材料、および/または非細胞材料を含んでもよい。
【0081】
抗体に関して、本明細書で使用する「特異的に結合する」という用語は、特定の抗原を認識するが、試料中にある他の分子を実質的に認識も結合もしない抗体を意味する。例えば、ある種に由来する抗原に特異的に結合する抗体は、1種類または複数種の種に由来する抗原にも結合することがある。しかし、このような異種間反応性は、それだけでは、抗体が特異的だと分類されるのを変えない。別の例では、抗原に特異的に結合する抗体はまた、抗原の異なる対立遺伝子型にも結合することがある。しかしながら、このような交差反応性は、それだけでは、抗体が特異的だと分類されるのを変えない。場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、相互作用が、化学種に特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)が存在することに依存することを意味するために、抗体、タンパク質、またはペプチドと別の化学種との相互作用に関して使用することができる。例えば、抗体は、タンパク質全体ではなく特定のタンパク質構造を認識し、これに結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的であれば、標識された「A」と抗体を含有する反応物に、エピトープAを含有する分子(または遊離の、標識されていないA)が存在すると、抗体に結合する、標識されたAの量は少なくなる。
【0082】
本明細書で使用する「実質的に精製された」とは、他の成分を本質的に含まないことを指す。例えば、実質的に精製されたポリペプチドは、天然状態で通常関連する他の成分から分離されているポリペプチドである。
【0083】
本明細書で使用する「治療/処置」または「治療/処置する」という用語は、疾患もしくは障害、疾患もしくは障害の症状、または疾患もしくは障害を発症する可能性を治すか、治癒するか、軽減するか、緩和するか、変えるか、いやすか、寛解させるか、改善するか、またはこれに影響を及ぼす目的で、疾患もしくは障害を有するか、疾患もしくは障害の症状を有するか、または疾患もしくは障害を発症する可能性を有する患者への、治療剤、すなわち、本発明において有用な化合物の(単独で、もしくは別の薬学的な薬剤と組み合わせた)適用もしくは投与、または患者に由来する単離された組織もしくは細胞株への治療剤の適用もしくは投与(例えば、診断もしくはエクスビボ適用の場合)と定義される。このような治療/処置は、ファーマコゲノミクスの分野から得られた知識に基づいて個別に合わせられてもよく、変更されてもよい。
【0084】
本明細書で使用する「野生型」という用語は、天然供給源から単離された遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型遺伝子は、集団内で最も頻繁に観察され、従って、任意で、遺伝子の「正常」型または「野生」型だと指定された遺伝子である。対照的に、「改変された」または「変異体」という用語は、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に配列および/または機能的特性の改変(すなわち、特徴の変化)を示す遺伝子または遺伝子産物を指す。天然変異体は単離することができる。これらは、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に特徴の変化(核酸配列の変化を含む)を有するという事実によって特定される。
【0085】
範囲: 本願全体を通じて、本発明の様々な局面を範囲の形で提示することができる。範囲の形での説明は単なる便宜および簡略のためのものであり、本発明の範囲に対する融通の利かない限定として解釈してはならないことが理解されるはずである。従って、範囲の説明は、可能性のある全ての部分範囲(subrange)ならびにその範囲内にある個々の数値を具体的に開示したとみなされるはずである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、ならびにその範囲内にある個々の数値、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を具体的に開示したとみなされるはずである。これは範囲の幅に関係なく適用される。
【0086】
説明
ENPP1は体内にある細胞外PPiの主な供給源である。GACIの複数の遺伝的病因と、発現、進行、および重篤度の多因性があるのにもかかわらず、本発明の結果から、NPP1の細胞外プリン代謝の破壊が、GACIに関連する病理学的続発症と死亡を説明し、ENPP1を用いた酵素補充療法が扱いやすい治療アプローチであることが証明される。このことは、「アクセラレーションダイエット」を与えたGACIのENPP1-asjマウスモデルを用いて証明された。
【0087】
異所性組織石灰化の疾患は、GACIなどの極めてまれな疾患から、動脈の硬化および変形性関節症などの加齢集団にほぼ普遍的にある病気まで多岐にわたる。ヒトGACIの遺伝的病因から、致死性の動脈石灰化が、ENPP1の機能喪失型変異、またはENPP1によって細胞外PPiに代謝されるヌクレオチド三リン酸の上流低減のいずれかによる細胞外プリン代謝の機能低下に起因することが示唆される。本明細書において証明されたように、非標的化ENPP1または非標的化ENPP1-Fcによる皮下補充は、GACIの動物モデルにおいて死亡ならびに心臓石灰化および動脈石灰化を無くすのに十分に細胞外PPi濃度を増加させる。これらの結果から、非標的化酵素補充療法は、GACIと、制御されない血管石灰化の原因となる他の疾患に効果があり得ることが分かる。
【0088】
本発明の結果は、効力を得るには骨標的化モチーフが必要だと主張した、遺伝性低ホスファターゼ血症(HPP)を処置した以前の研究を考慮すれば驚くべきことである。HPPは、骨石灰化が少ない/骨石灰化が無い、くる病に似た疾患であり、組換えTNAPを用いた処置は、臨床効果を得るために骨標的化の必要性を呼び起こした(Millan, et al., 2008, J. Bone Mineral Res. 23:777-787; Whyte, et al., 2012, New Engl. J. Med. 366:904-913)。非標的化TNAPで強化した血清を用いてHPPを処置することを試みた臨床試験は失敗した(Whyte, et al., 1982, J. Pediatrics 101:379-386; Whyte, et al., 1984, J. Pediatrics 105:926-933; Weninger, et al., 1989, Acta Paediatrica Scandinavica Suppl. 360:154-160)。さらに、本発明の時点の文献から、非標的化NPP1はインビトロ石灰化アッセイでは効力を示さなかったことが示され(QuinnらへのWO2012/125182、例えば、その中にある
図23)、従って、骨標的化はNPP1含有生物製剤のインビボでの生物学的活性に必要不可欠なことが示された。しかしながら、ある特定の態様では、本発明の結果は骨標的化が治療効力に必要でないことを示す。
【0089】
GACIの動脈石灰化は、別のまれな疾患PXEの典型である、皮膚および網膜での血管外石灰化を伴うことがある。PXEはGACIと密接に関連しているが、そうではなく、皮膚、眼、および心臓血管系に影響を及ぼす異所性の弾性線維組織石灰化の原因となる。PXEは進行が遅発型でゆっくりとしており、GACIよりも比較的よくみられ、発生率は1/25,000~1/75,000である。臨床症状は皮膚では小さな黄色がかった丘疹の発症から始まり、丘疹は合体して、さらに大きな革のような皮膚のプラークになり、その後に、眼には、出血、瘢痕、血管新生、進行性の視力喪失、および失明につながる網膜色素線条が生じる。心臓血管系も、進行性の中型動脈血管石灰化の影響を受ける場合があり、これは高血圧、跛行、不定期の腸動脈出血、および(まれに)早すぎる心筋梗塞の原因となる。PXEの遺伝的基盤はabcc6遺伝子の機能喪失型変異である。この変異によってMRP6タンパク質の機能が損なわれ、インビトロおよびインビボでの細胞外ヌクレオ三リン酸(nucleotriphosphate)(NTP)濃度が低下する。これによって、ENPP1基質濃度は低下し、PPiの細胞外産生は制限される。
【0090】
GACIのNPP1-asjマウスモデルはヒトGACIの遺伝的病因と病理学的特徴を両方とも有するが、このマウスは、GACIに特徴的ではないが、変形性関節症および後縦靭帯骨化症(OPLL)などの無秩序な関節周囲石灰化のヒト疾患を思い出させる関節周囲石灰化も発症する。当初、ENPP1ミスセンス変異(V246D)を有するマウスは、マウスの前肢に進行性の関節周囲石灰化が発症することを表す「associated with stiffened joints」にちなんで「asj」マウスと呼ばれた。マウスのENPP1変異は、OPLLへの洞察を得るためにttw/ttwマウスにおいて傍脊柱石灰化をモデル化するのに用いられるが、GACIにおいてENPP1変異が特定されたことで、これらの動物における血管石灰化の存在が再評価された。Uittoと共同研究者らは、NPP1-asjマウスが、Ca+2が多く、Mg+2が少ない特殊な飼料が与えられたときに、ヒトGACIの必須の特徴の多くを再現したことに気付いた。ENPP1タンパク質レベルは、ヒトにおける軟骨石灰化および変形性関節症の重篤度と逆の相関関係があり、ENPP1遺伝子バリアントは、遺伝性の当該疾患になりやすい患者集団における変形性手関節症のかなりの割合の説明となる。ある特定の態様では、ENPP1酵素補充療法は、ENPP1欠損症および/または細胞外PPi濃度の低減に起因する、いくつかの種類の変形性関節症に対する実行可能な治療戦略である。このような状態には、PXE、遺伝性および非遺伝性の変形性関節症、強直性脊椎炎、加齢と共に発生する動脈の硬化、および末期腎臓病に起因するカルシフィラキシスが含まれるが、これに限定されない。
【0091】
組成物
ある特定の態様では、本発明の組成物は、式(I):
タンパク質-Z-ドメイン-X-Y (I)
の少なくとも1つの化合物またはその溶媒和化合物もしくは塩(例えば、薬学的に許容される塩)を含み、(I)において、
タンパク質は、NPP121(SEQ ID NO:15)、NPP71(SEQ ID NO:17)、NPP1 N末端GLKを欠くNPP71(SEQ ID NO:19)、およびNPP51(SEQ ID NO:24)からなる群より選択される少なくとも1つであり;
ドメインは、ヒトIgG Fcドメイン(Fc)、ヒト血清アルブミンタンパク質(ALB)、およびそれらの断片からなる群より選択される少なくとも1つであり;
XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~20個のアミノ酸を含むポリペプチドであり;かつ
Yは、存在しないか、または
からなる群より選択される配列であり、mは1~15の整数であり、nは1~10の整数である。
【0092】
ある特定の態様では、本発明の組成物は、式(II):
タンパク質-Z-ドメイン-X-Y (II)
の少なくとも1つの化合物またはその薬学的な塩を含み、(II)において、
タンパク質は、NPP121(SEQ ID NO:15)、NPP71(SEQ ID NO:17)、NPP1 N末端GLKを欠くNPP71(SEQ ID NO:19)、およびNPP51(SEQ ID NO:24)からなる群より選択される少なくとも1つであり;
ドメインは、ヒトIgG Fcドメイン(Fc)、ヒト血清アルブミンタンパク質(ALB)、およびそれらの断片からなる群より選択される少なくとも1つであり;
XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~20個のアミノ酸を含むポリペプチドであり;かつ
Yは、
からなる群より選択される配列であり、mは1~15の整数であり、nは1~10の整数である。
【0093】
ある特定の態様では、ドメインは、ヒトIgG Fcドメインまたはその断片を含む。他の態様では、ドメインはヒトIgG Fcドメインまたはその断片から本質的になる。さらに他の態様では、ドメインはヒトIgG Fcドメインまたはその断片からなる。
【0094】
ある特定の態様では、ドメインは、ヒト血清アルブミンタンパク質またはその断片を含む。他の態様では、ドメインは、ヒト血清アルブミンタンパク質またはその断片から本質的になる。さらに他の態様では、ドメインは、ヒト血清アルブミンタンパク質またはその断片からなる。
【0095】
ある特定の態様では、Yは、負に荷電している骨標的化配列である。ある特定の態様では、Yは存在しない。ある特定の態様では、Yは存在せず、式(I)または(II)の化合物は、負に荷電している骨標的化配列を欠いている。さらに他の態様では、ポリアスパラギン酸ドメインおよびSEQ ID NO:4~14は、負に荷電している骨標的化配列の非限定的な例である。
【0096】
ある特定の態様では、タンパク質は、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に変異を有する。他の態様では、タンパク質またはその変異体はヌクレアーゼドメインを除去するように切断されている。さらに他の態様では、タンパク質またはその変異体は、タンパク質の触媒活性を保存するのに役立つ、SEQ ID NO:1と比べて約186番目~約586番目の残基の触媒ドメインだけを残して、SEQ ID NO:1と比べて約524番目~約885番目の残基のヌクレアーゼドメインを除去するように切断されている。
【0097】
ある特定の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:15)-Z-(Fcもしくはその断片)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。他の態様では、Zはトリペプチドである。さらに他の態様では、ZはLINである。さらに他の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、SEQ ID NO:16、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0098】
ある特定の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:17)-Z-(Fcもしくはその断片)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。他の態様では、Zはトリペプチドである。さらに他の態様では、ZはLINである。さらに他の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、SEQ ID NO:18、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0099】
ある特定の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:19)-Z-(Fcもしくはその断片)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。他の態様では、Zはトリペプチドである。さらに他の態様では、ZはLINである。さらに他の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、SEQ ID NO:20、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0100】
ある特定の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:24)-Z-(Fcもしくはその断片)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。他の態様では、Zはトリペプチドである。さらに他の態様では、ZはLINである。さらに他の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:24)-Z-(SEQ ID NO:26)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0101】
ある特定の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:15)-Z-(ALBもしくはその断片)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。他の態様では、Zはトリペプチドである。さらに他の態様では、Zは、SEQ ID NO:28~30からなる群より選択される1つである。さらに他の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、SEQ ID NO:21、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0102】
ある特定の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:17)-Z-(ALBもしくはその断片)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。他の態様では、Zはトリペプチドである。さらに他の態様では、Zは、SEQ ID NO:28~30からなる群より選択される1つである。さらに他の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:17)-Z-(SEQ ID NO:27)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含み、Zは、SEQ ID NO:28~30からなる群より選択される1つである。
【0103】
ある特定の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:19)-Z-(ALBもしくはその断片)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。他の態様では、Zはトリペプチドである。さらに他の態様では、Zは、SEQ ID NO:28~30からなる群より選択される1つである。さらに他の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、SEQ ID NO:22、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0104】
ある特定の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、(SEQ ID NO:24)-Z-(ALBもしくはその断片)、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。他の態様では、Zはトリペプチドである。さらに他の態様では、Zは、SEQ ID NO:28~30からなる群より選択される1つである。さらに他の態様では、(I)または(II)において、タンパク質-Z-ドメインは、SEQ ID NO:25、またはその変異体であって、SEQ ID NO:1と比べて、Ser532、Tyr529、Tyr451、Ile450、Ser381、Tyr382、Ser377、Phe346、Gly531、Ser289、Ser287、Ala454、Gly452、Gln519、Glu526、Lys448、Glu508、Arg456、Asp276、Tyr434、Gln519、Ser525、Gly342、Ser343、およびGly536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に少なくとも1つの変異を含む変異体を含む。
【0105】
ある特定の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~18個のアミノ酸を含むポリペプチドである。他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~16個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~14個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~12個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~10個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~8個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~6個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~5個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~4個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~3個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1~2個のアミノ酸を含むポリペプチドである。さらに他の態様では、XおよびZは、独立して、存在しないか、または1個のアミノ酸である。
【0106】
ある特定の態様では、mは1である。他の態様では、mは2である。さらに他の態様では、mは3である。さらに他の態様では、mは4である。さらに他の態様では、mは5である。さらに他の態様では、mは6である。さらに他の態様では、mは7である。さらに他の態様では、mは8である。さらに他の態様では、mは9である。さらに他の態様では、mは10である。さらに他の態様では、mは11である。さらに他の態様では、mは12である。さらに他の態様では、mは13である。さらに他の態様では、mは14である。さらに他の態様では、mは15である。さらに他の態様では、mのそれぞれの出現は、独立して、1~15、2~15、3~15、4~15、5~15、6~15、7~15、8~15、9~15、10~15、11~15、12~15、13~15、14~15、1~14、2~14、3~14、4~14、5~14、6~14、7~14、8~14、9~14、10~14、11~14、12~14、13~14、1~13、2~13、3~13、4~13、5~13、6~13、7~13、8~13、9~13、10~13、11~13、12~13、1~12、2~12、3~12、4~12、5~12、6~12、7~12、8~12、9~12、10~12、11~12、1~11、2~11、3~11、4~11、5~11、6~11、7~11、8~11、9~11、10~11、1~10、2~10、3~10、4~10、5~10、6~10、7~10、8~10、9~10、1~9、2~9、3~9、4~9、5~9、6~9、7~9、8~9、1~8、2~8、3~8、4~8、5~8、6~8、7~8、1~7、2~7、3~7、4~7、5~7、6~7、1~6、2~6、3~6、4~6、5~6、1~5、2~5、3~5、4~5、1~4、2~4、3~4、1~3、2~3、および1~2の整数からなる群より選択される。
【0107】
ある特定の態様では、nは1である。他の態様では、nは2である。さらに他の態様では、nは3である。さらに他の態様では、nは4である。さらに他の態様では、nは5である。さらに他の態様では、nは6である。さらに他の態様では、nは7である。さらに他の態様では、nは8である。さらに他の態様では、nは9である。さらに他の態様では、nは10である。さらに他の態様では、nのそれぞれの出現は、独立して、1~10、2~10、3~10、4~10、5~10、6~10、7~10、8~10、9~10、1~9、2~9、3~9、4~9、5~9、6~9、7~9、8~9、1~8、2~8、3~8、4~8、5~8、6~8、7~8、1~7、2~7、3~7、4~7、5~7、6~7、1~6、2~6、3~6、4~6、5~6、1~5、2~5、3~5、4~5、1~4、2~4、3~4、1~3、2~3、および1~2の整数からなる群より選択される。
【0108】
ある特定の態様では、タンパク質またはその変異体は、SEQ ID NO:1と比較して、NPP2の細胞外領域におけるフューリン切断部位を含有するセグメントを用いて改変されている。他の態様では、タンパク質またはその変異体は、SEQ ID NO:1と比較して、NPP2の細胞外領域におけるフューリン切断部位を含有するセグメントを用いて改変されていない。
【0109】
ある特定の態様では、タンパク質またはその変異体は、SEQ ID NO:1と比較して、NPP2の細胞外領域におけるシグナルペプチダーゼ切断部位を含有するセグメントを用いて改変されている。他の態様では、タンパク質またはその変異体は、SEQ ID NO:1と比較して、NPP2の細胞外領域におけるシグナルペプチダーゼ切断部位を含有するセグメントを用いて改変されていない。
【0110】
ある特定の態様では、式(I)または(II)の化合物は可溶性である。他の態様では、式(I)または(II)の化合物は組換えポリペプチドである。さらに他の態様では、式(I)または(II)の化合物は、NPP1膜貫通ドメインを欠く、NPP1ポリペプチドまたはその変異体を含む。さらに他の態様では、式(I)または(II)の化合物は、NPP1膜貫通ドメインまたはその変異体が除去(および/または切断)されて別のポリペプチド(例えば、非限定的な例としてNPP2)の膜貫通ドメインと交換されている、NPP1ポリペプチドまたはその変異体を含む。
【0111】
ある特定の態様では、式(I)または(II)の化合物は、複数の膜貫通ドメインをさらに含む、NPP1ポリペプチドまたはその変異体を含む。
【0112】
ある特定の態様では、NPP1のC末端はヒト免疫グロブリン1(IgG1)のFcドメインと融合される。
【0113】
ある特定の態様では、NPP1のC末端はヒト血清アルブミンと融合される。
【0114】
ある特定の態様では、NPP1の断片および/またはバリアントはヒト血清アルブミンまたはそのバリアントおよび/もしくは断片と融合される。ヒト血清アルブミンは、天然の、または操作されたジスルフィド結合を含むが、これに限定されない化学リンカーを介して、あるいはNPP1またはその断片および/もしくはバリアントとの遺伝子融合によってNPP1タンパク質に結合体化されてもよい。
【0115】
ある特定の態様では、式(I)または(II)の化合物は、NPP1および別のポリペプチド(例えば、非限定的な例としてNPP2)の膜貫通ドメインを含む、NPP1ポリペプチドまたはその変異体を含む。
【0116】
ある特定の態様では、式(I)の化合物は、SEQ ID NO:21、22、および25からなる群より選択される配列を有する。
【0117】
ある特定の態様では、式(I)の化合物は、SEQ ID NO:21、22、25、(SEQ ID NO:17)-Z-(SEQ ID NO:27)からなる群より選択される配列を有する。
【0118】
ある特定の態様では、式(I)の化合物は、SEQ ID NO:16、18、20、および(SEQ ID NO:24)-Z-(SEQ ID NO:26)からなる群より選択される配列を有する。
【0119】
ある特定の態様では、本発明の化合物は複数の膜貫通ドメインを有する。他の態様では、さらに、本発明の化合物はペグ化される。さらに他の態様では、本発明の化合物は複数の膜貫通ドメインを有し、さらに、ペグ化される。
【0120】
ある特定の態様では、式(I)または(II)の化合物は、約3.4(±0.4)s-1酵素-1より大きいか、またはこれに等しいkcat値を有し、kcatは、化合物のATP加水分解速度を測定することによって求められる。
【0121】
ある特定の態様では、式(I)または(II)の化合物は、約2μMより小さいか、またはこれに等しいKM値を有し、KMは、化合物のATP加水分解速度を測定することによって求められる。
【0122】
ある特定の態様では、式(I)または(II)の化合物は液体製剤として処方される。
【0123】
さらに、本発明は、治療量の式(I)または(II)の化合物を含む薬学的組成物の乾燥製品形態を提供し、乾燥製品は、液体の形をとる化合物の溶液に再構成することができる。
【0124】
方法
本発明は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片の活性またはレベルの増加が望ましい対象において障害および疾患を治療または予防する方法を提供する。ある特定の態様では、対象には、本発明の少なくとも1つの化合物の治療的有効量が投与される。
【0125】
さらに、本発明は、病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害の治療または予防を必要とする対象において、病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害を治療または予防する方法であって、式(I)または(II)の少なくとも1つの化合物の治療的有効量を対象に投与する工程を含み、疾患が、GACI、IIAC、OPLL、低リン血症性くる病、変形性関節症、およびアテローム性動脈硬化プラークの石灰化を含む、方法を提供する。
【0126】
さらに、本発明は、病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害の治療または予防を必要とする対象において、病的石灰化または病的骨化に関連する疾患または障害を治療または予防する方法であって、式(I)または(II)の少なくとも1つの化合物の治療的有効量を対象に投与する工程を含み、疾患が、PXE、遺伝性および非遺伝性の変形性関節症、強直性脊椎炎、加齢と共に発生する動脈の硬化、または末期腎臓病に起因するカルシフィラキシスを含む、方法を提供する。
【0127】
さらに、本発明は、乳児全身性動脈石灰化症(GACI)にかかっている乳児において心臓石灰化および/または動脈石灰化を低減または予防する方法を提供する。ある特定の態様では、前記方法は、IgG Fcドメインを含む(またはこれと融合した)エクトヌクレオチドピロリン酸/ホスホジエステラーゼ-1(NPP1)ポリペプチドを含む(またはこれからなる)化合物の治療的有効量を乳児に投与する工程を含み、前記化合物はポリアスパラギン酸ドメインを欠いており、化合物の投与によって細胞外ピロリン酸(PPi)濃度が上昇し、それによって、乳児における心臓石灰化および/または動脈石灰化は低減または予防される。
【0128】
さらに、本発明は、乳児全身性動脈石灰化症(GACI)にかかっている乳児において心臓石灰化および/または動脈石灰化を低減または予防する方法を提供する。ある特定の態様では、前記方法は、ヒト血清アルブミンドメインまたはその断片を含む(またはこれと融合した)エクトヌクレオチドピロリン酸/ホスホジエステラーゼ-1(NPP1)ポリペプチドを含む(またはこれからなる)化合物の治療的有効量を乳児に投与する工程を含み、前記化合物はポリアスパラギン酸ドメインを欠いており、投与によって細胞外ピロリン酸(PPi)濃度が上昇し、それによって、乳児における心臓石灰化および/または動脈石灰化が低減または予防される。
【0129】
ある特定の態様では、障害および疾患は、GACI、IIAC、OPLL、低リン血症性くる病、変形性関節症、早老症、およびアテローム性動脈硬化プラークの石灰化からなる群より選択される少なくとも1つを含む。他の態様では、障害または疾患は、PXE、遺伝性および非遺伝性の変形性関節症、強直性脊椎炎、加齢と共に発生する動脈の硬化、早老症、および末期腎臓病に起因するカルシフィラキシスからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0130】
ある特定の態様では、前記化合物は対象に短期間または長期間にわたって投与される。他の態様では、前記化合物は対象に局所に、局部に、または全身に投与される。さらに他の態様では、投与は皮下投与である。さらに他の態様では、対象は哺乳動物である。さらに他の態様では、哺乳動物はヒトである。
【0131】
ある特定の態様では、式(I)もしくは(II)の化合物、それらの断片または変異体は、対応する野生型NPP1ポリペプチドまたはその断片と比較して低いAp3A加水分解活性を有する。他の態様では、式(I)または(II)の化合物、それらの断片または変異体は、対応する野生型NPP1ポリペプチドまたはその断片と比較して実質的に同じATP加水分解活性を有する。さらに他の態様では、式(I)または(II)の化合物、それらの断片または変異体は、対応する野生型NPP1ポリペプチドまたはその断片と比較して低いAp3A加水分解活性と、実質的に同じATP加水分解活性を有する。
【0132】
ある特定の態様では、NPP1ポリペプチドは、NPP2膜貫通ドメインを含む前駆体NPP1ポリペプチドの切断産物を含む。
【0133】
ある特定の態様では、NPP2膜貫通ドメインは、NCBIアクセッション番号NP_001124335(SEQ ID NO:2)の12~30番目の残基を含み、これは
に相当する。
【0134】
ある特定の態様では、治療的有効量の投与は約3~15mg/kg 1日1回のNPP1-Fcポリペプチドを含む。
【0135】
ある特定の態様では、投与によって、乳児の細胞外ピロリン酸濃度が、GACIにかかっていない乳児において見出される範囲内のレベルまで低減する。ある特定の態様では、乳児は投与の前に「成長障害」を示し、かつ/または「成長障害」と診断されている。
【0136】
当業者は、本明細書において提供される開示に基づいて、本発明が、病的石灰化または病的骨化に対して全部(例えば、全身)または一部(例えば、局所、組織、臓器)が治療されているか、または治療されることになっている対象において有用なことを理解するだろう。ある特定の態様では、本発明は、病的石灰化または病的骨化の治療または予防において有用である。当業者は、本明細書において提供される教示に基づいて、本明細書に記載の組成物および方法によって治療可能な疾患および障害が、石灰化または骨化の減少が正の治療アウトカムを促進する任意の疾患または障害を包含することを認める。
【0137】
本明細書において詳述される方法を含む本開示を得た場合に、本発明は、確立されたら疾患の治療にも障害の治療にも限定されないことが当業者によって認められる。特に、疾患または障害の症状は対象を害する程度まで現れている必要はない。実際に、治療剤が投与される前に、疾患または障害は対象において検出される必要はない。すなわち、本発明が利益を与える可能性がある前に、疾患または障害による目立った病状が生じる必要はない。従って、本明細書の他の場所で議論されるように、式(I)もしくは(II)の化合物またはその変異体は、疾患または障害が発症する前に対象に投与することができ、それによって、疾患または障害が発症しないようにすることができるので、本発明は、本明細書においてさらに完全に説明されるように、対象において疾患および障害を予防するための方法を含む。
【0138】
本明細書における開示を得た場合に、当業者は、対象における疾患または障害の予防が、疾患または障害に対する予防的措置として式(I)もしくは(II)の化合物またはその変異体を対象に投与する工程を包含することを認めるだろう。
【0139】
本発明は、本発明の方法を実施するための式(I)もしくは(II)の化合物またはその変異体の投与を包含する。当業者は、本明細書において提供される開示に基づいて、式(I)もしくは(II)の化合物またはその変異体を処方し、対象に投与するやり方を理解するだろう。しかしながら、本発明は、任意の特定の投与方法にも治療レジメンにも限定されない。このことは、当技術分野において認められている病的石灰化または病的骨化のモデルを用いた具体化(reduction to practice)を含む本明細書において提供される開示が授けられた場合に、本発明の化合物を投与する方法が薬理学分野の当業者によって決定できることが当業者によって認められる場合に特に当てはまる。
【0140】
薬学的組成物および製剤
本発明は、本発明の方法の中にある式(I)または(II)の化合物を含む薬学的組成物を提供する。
【0141】
このような薬学的組成物は対象への投与に適した形をとる。または、薬学的組成物は、1種類もしくは複数種の薬学的に許容される担体、1種類もしくは複数種のさらなる成分、またはこれらの何らかの組み合わせをさらに含んでもよい。薬学的組成物の様々な成分は、当技術分野において周知のように、生理学的に許容される塩の形で、例えば、生理学的に許容されるカチオンまたはアニオンと組み合わせて存在してもよい。
【0142】
態様において、本発明の方法を実施するのに有用な薬学的組成物は、1ng/kg/day~100mg/kg/dayの用量を送達するために投与されてもよい。他の態様では、本発明を実施するのに有用な薬学的組成物は1ng/kg/day~500mg/kg/dayの用量を送達するために投与されてもよい。
【0143】
本発明の薬学的組成物中にある活性成分、薬学的に許容される担体、および任意のさらなる成分の相対量は、処置される対象の身元(identity)、大きさ、および状態に応じて、さらには、組成物が投与される経路に応じて変化する。例として、前記組成物は約0.1%~約100%(w/w)の活性成分を含んでもよい。
【0144】
本発明の方法において有用な薬学的組成物は、投与の吸入経路用、経口経路用、直腸経路用、腟経路用、非経口経路用、局所経路用、経皮経路用、肺経路用、鼻腔内経路用、頬経路用、眼経路用、くも膜下腔内経路用、静脈内経路用、または別の経路用に適宜、開発されてもよい。他の意図される製剤は、射出されるナノ粒子、リポソーム調製物、活性成分を含有する再封入された赤血球、および免疫に基づく製剤を含む。投与経路は当業者に容易に明らかであり、治療される疾患のタイプおよび重篤度、治療される獣医学患畜またはヒト患者のタイプおよび年齢などを含む任意の数の要因に左右される。
【0145】
本明細書に記載の薬学的組成物の製剤は、薬理学の分野において公知の任意の方法によって調製されてもよく、薬理学の分野において将来開発される任意の方法によって調製されてもよい。一般的に、このような準備方法は、活性成分を担体または1種類もしくは複数種の他のアクセサリー成分と結合させる工程、次いで、必要であれば、または所望であれば、生成物を望ましい単回投与単位または多回(複数回)投与単位に成型または包装する工程を含む。
【0146】
本明細書で使用する「単位用量」とは、活性成分の予め決められた量を含む、薬学的組成物の別々の量である。活性成分の量は、一般的に、対象に投与される活性成分の投与量に等しいか、またはこのような投与量の便利な一部分、例えば、このような投与量の1/2もしくは1/3である。単位剤形は単回一日量用の単位剤形でもよく、複数回一日量(例えば、1日につき約1~4回またはそれより多い回数)のうちの1つの単位剤形でもよい。複数回一日量が用いられる場合、単位剤形は各用量について同じでもよく異なってもよい。
【0147】
本明細書において提供される薬学的組成物の説明は、主に、ヒトへの倫理的投与に適した薬学的組成物に向けられるが、このような組成物は、一般的に、全種類の動物に投与するのに適していることが当業者に理解される。組成物を様々な動物に投与するのに適するようにするために、ヒトに投与するのに適した薬学的組成物を改良することは良く理解されており、通常の知識を有する獣医薬理学者(veterinary pharmacologist)が、もしあれば普通の実験だけで、このような改良を設計および実施することができる。本発明の薬学的組成物の投与が意図される対象には、ヒトおよび他の霊長類、商業的に関連する哺乳動物、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、およびイヌを含む哺乳動物が含まれるが、これに限定されない。
【0148】
ある特定の態様では、前記組成物は、1種類または複数種の薬学的に許容される賦形剤または担体を用いて処方される。ある特定の態様では、薬学的組成物は、活性薬剤の治療的有効量と、薬学的に許容される担体を含む。有用な薬学的に許容される担体には、グリセロール、水、食塩水、エタノール、ならびに他の薬学的に許容される塩溶液、例えば、リン酸塩および有機酸の塩が含まれるが、これに限定されない。これらの、および他の薬学的に許容される担体の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 1991, Mack Publication Co., New Jerseyに記載されている。
【0149】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒でもよい。例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合では必要とされる粒径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって適切な流動性を維持することができる。微生物の活動は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって阻止することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウム、または多価アルコール、例えば、マンニトールおよびソルビトールが組成物中に用いられる。注射用組成物の長期吸収は、吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによって可能になる。
【0150】
製剤は、従来の賦形剤、すなわち、当業者に公知の経口投与、非経口投与、鼻投与、静脈内投与、皮下投与、経腸投与、または他の任意の適切な投与方法に適した、薬学的に許容される有機担体物質または無機担体物質と混合して用いられてもよい。薬学的調製物は滅菌されてもよく、所望であれば、補助剤、例えば、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、緩衝液、着色物質、着香物質、および/または芳香物質などと混合されてもよい。これらは、所望の場合、他の活性薬剤、例えば、他の鎮痛剤と組み合わされてもよい。
【0151】
本明細書で使用する「さらなる成分」には、以下:賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;造粒剤および崩壊剤;結合剤;潤滑剤;甘味剤;着香剤;着色剤;防腐剤;生理学的に分解性の組成物、例えば、ゼラチン;水性のビヒクルおよび溶媒;油性のビヒクルおよび溶媒;懸濁剤;分散剤または湿潤剤;乳化剤、粘滑薬;緩衝液;塩;増粘剤;増量剤;乳化剤;酸化防止剤;抗生物質;抗真菌剤;安定剤;ならびに薬学的に許容されるポリマー材料または疎水性材料の1つまたは複数が含まれるが、これに限定されない。本発明の薬学的組成物において含まれ得る他の「さらなる成分」は当技術分野において公知であり、例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Genaro, ed., 1985, Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PAに記載されている。
【0152】
本発明の組成物は、組成物の総重量に対して約0.005%~2.0%の防腐剤を含んでもよい。防腐剤は、環境にある汚染物質に曝露された場合に劣化するのを防ぐために用いられる。本発明に従って有用な防腐剤の例には、ベンジルアルコール、ソルビン酸、パラベン、イミドウレア(imidurea)、およびその組み合わせからなる群より選択される防腐剤が含まれるが、これに限定されない。特定の防腐剤は、約0.5%~2.0%のベンジルアルコールと0.05%~0.5%のソルビン酸の組み合わせである。
【0153】
前記組成物は、化合物の分解を阻害する抗酸化物質およびキレート剤を含んでもよい。一部の化合物に例示的な抗酸化物質は、組成物の総重量に対して約0.01重量%~0.3重量%の例示的な範囲にあるBHT、BHA、α-トコフェロール、およびアスコルビン酸、例えば、0.03重量%~0.1重量%の範囲にあるBHTである。キレート剤は、組成物の総重量に対して0.01重量%~0.5重量%の量で存在してもよい。例示的なキレート剤には、組成物の総重量に対して約0.01重量%~0.20重量%の重量範囲にある、例えば、0.02重量%~0.10重量%の範囲にあるエデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)およびクエン酸が含まれる。キレート剤は、製剤の貯蔵寿命に有害な場合がある、組成物中にある金属イオンをキレート化するのに有用である。BHTおよびエデト酸二ナトリウムが、それぞれ、一部の化合物のための例示的な抗酸化物質およびキレート剤であるが、他の適切で等価な抗酸化物質およびキレート剤が、当業者に公知のように代用されてもよい。
【0154】
液体懸濁液は、活性成分を水性または油性のビヒクルに懸濁する従来の方法を用いて調製することができる。水性ビヒクルには、例えば、水および等張性食塩水が含まれる。油性ビヒクルには、例えば、扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、植物油、例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、またはヤシ油、分留した植物油、および鉱油、例えば、流動パラフィンが含まれる。液体懸濁液は、懸濁剤、分散剤または湿潤剤、乳化剤、粘滑薬、防腐剤、緩衝液、塩、香料、着色剤、および甘味剤を含むが、これに限定されない1種類または複数種のさらなる成分をさらに含んでもよい。油性懸濁液は増粘剤をさらに含んでもよい。公知の懸濁剤には、ソルビトールシロップ、水素添加された食用脂、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アラビアゴム、およびセルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース)が含まれるが、これに限定されない。公知の分散剤または湿潤剤には、天然のホスファチド、例えば、レシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸の縮合生成物、アルキレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、アルキレンオキシドと、脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物、またはアルキレンオキシドと、脂肪酸とヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、それぞれ、ポリオキシエチレンステアレート、ヘプタデカエチレンオキシセタノール(heptadecaethyleneoxycetanol)、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が含まれるが、これに限定されない。公知の乳化剤にはレシチンおよびアラビアゴムが含まれるが、これに限定されない。公知の防腐剤には、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸エチル、またはパラヒドロキシ安息香酸n-プロピル、アスコルビン酸、およびソルビン酸が含まれるが、これに限定されない。公知の甘味剤には、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、スクロース、およびサッカリンが含まれる。油性懸濁液用の公知の増粘剤には、例えば、蜜ろう、固形パラフィン、およびセチルアルコールが含まれる。
【0155】
水性溶媒または油性溶媒に溶解した活性成分の液体溶液は、液体懸濁液と実質的に同じやり方で調製することができ、主な違いは、活性成分が溶媒に懸濁されるのではなく溶解されることである。本明細書で使用する「油性」液体とは、炭素を含有する液体分子を含み、水より極性の低い特徴を示す液体である。本発明の薬学的組成物の液体溶液は、液体懸濁液について述べられた各成分を含んでもよく、懸濁剤は、必ずしも、活性成分を溶媒に溶解するのを助けるというわけではないと理解される。水性溶媒には、例えば、水および等張性食塩水が含まれる。油性溶媒には、例えば、扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、植物油、例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、またはヤシ油、分留した植物油、および鉱油、例えば、流動パラフィンが含まれる。
【0156】
本発明の薬学的組成物の粉末状および顆粒状の製剤は公知の方法を用いて調製することができる。このような製剤は、直接、対象に投与されてもよく、例えば、錠剤を形成するのに、カプセルを充填するのに、または水性もしくは油性のビヒクルを添加することによって水性もしくは油性の懸濁液もしくは溶液を調製するのに使用されてもよい。これらの製剤はそれぞれ、分散剤または湿潤剤、懸濁剤、および防腐剤の1つまたは複数をさらに含んでもよい。これらの製剤には、増量剤および甘味剤、香料、または着色剤などの、さらなる賦形剤も含まれてもよい。
【0157】
本発明の薬学的組成物はまた、水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョンの形で調製、包装、または販売されてもよい。油相は、植物油、例えば、オリーブ油もしくは落花生油、鉱油、例えば、流動パラフィン、またはこれらの組み合わせでもよい。このような組成物は、1種類または複数種の乳化剤、例えば、天然ゴム、例えば、アラビアゴムまたはトラガカントゴム、天然ホスファチド、例えば、ダイズホスファチドまたはレシチンホスファチド、脂肪酸とヘキシトール無水物の組み合わせに由来するエステルまたは部分エステル、例えば、ソルビタンモノオレエート、およびこのような部分エステルと酸化エチレンの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートをさらに含んでもよい。これらのエマルジョンはまた、例えば、甘味剤または着香剤を含む、さらなる成分を含有してもよい。
【0158】
材料を化学的組成物で含浸する、またはコーティングさせるための方法は当技術分野において公知であり、化学的組成物を表面に付着または結合する方法、材料の合成中に(すなわち、例えば、生理学的に分解性の材料と共に)化学的組成物を材料の構造に組み入れる方法、および後で乾燥させて、または後で乾燥させることなく、水性または油性の溶液または懸濁液を吸収材料に吸収させる方法を含むが、これに限定されない。
【0159】
投与/投薬
投与計画は、有効量を構成するものに影響を及ぼす可能性がある。例えば、いくつかの分割投与量ならびに時間をずらした(staggered)投与量が毎日または連続して投与されてもよい。または、用量は連続注入されてもよく、ボーラス注射でもよい。さらに、治療状況または予防状況の切迫した要件により示されるように、治療用製剤の投与量は比例して増やしてもよく減らしてもよい。
【0160】
本発明の組成物は、公知の手順を用いて、患者にある疾患または障害を治療するのに有効な投与量および期間で、患者、例えば、哺乳動物、例えば、ヒトに投与することができる。治療効果を実現するのに必要な治療用化合物の有効量は、使用される特定の化合物の活性、投与時間、化合物の排出速度、処置期間、化合物と併用される他の薬物、化合物、または材料、疾患または障害の状態、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、身体全体の健康、および前病歴などの要因、ならびに医学分野において周知の同様の要因に従って変化することがある。最適な治療応答を提供するように投与計画が調整されてもよい。例えば、いくつかの分割量が毎日投与されてもよい。または、治療状況の切迫した要件により示されるように用量が比例して減らされてもよい。本発明の治療用化合物の有効な用量範囲の非限定的な例は約0.01~50mg/体重kg/日である。当業者であれば、関連する要因を研究し、過度の実験なく治療用化合物の有効量に関する決定を下すことができるだろう。
【0161】
前記化合物は、1日に数回もの頻度で動物に投与されてもよく、1日に1回、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回などのもっと少ない頻度で、あるいは数ヶ月に1回もしくは1年に1回、またはそれ未満などのさらにもっと少ない頻度で投与されてもよい。1日あたりに投薬される量の化合物は、非限定的な例では、毎日、1日おきに、2日ごとに、3日ごとに、4日ごとに、または5日ごとに投与されてもよいことが理解される。例えば、1日おきに投与する場合、月曜日に1日あたり5mgの用量が開始し、水曜日に、その後の1日あたり5mgの第1の用量が投与され、金曜日に、その後の1日あたり5mgの第2の用量が投与されてもよい。投薬の頻度は当業者に容易に明らかであり、処置されている疾患のタイプおよび重篤度ならびに動物のタイプおよび年齢などがあるが、これに限定されない任意の数の要因に左右される。
【0162】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者への毒性が無く、特定の患者、組成物、および投与方法について望ましい治療応答を実現するのに有効な活性成分の量を得るように変えられてもよい。
【0163】
当技術分野において通常の知識を有する医師(medical doctor)、例えば、医師(physician)または獣医師は、必要とされる薬学的組成物の有効量を容易に決定し、薬学的組成物の有効量を処方することができる。例えば、医師または獣医師は、望ましい治療効果を実現するために必要なレベルより少ないレベルで、薬学的組成物において用いられる本発明の化合物の投薬を開始し、望ましい効果が実現するまで投与量を除去に増やすことができるだろう。
【0164】
特定の態様では、投与を容易にするために、および投与量を均一にするために化合物を単位剤形で処方することが特に有利である。本明細書で使用する単位剤形とは、処置しようとする患者への単位投与として適した物理的に別個の単位を指す。それぞれの単位は、必要とされる薬学的ビヒクルに結合して望ましい治療効果を生じるように計算された所定量の治療用化合物を含有する。本発明の単位剤形は、(a)治療用化合物の独特の特徴と、実現しようとする特定の治療効果と、(b)患者にある疾患または障害を治療するために、このような治療用化合物を配合/処方する分野に固有にある制約によって決められ、かつこれらに直接左右される。
【0165】
ある特定の態様では、本発明の組成物は、1日に1~5回またはそれより多い投薬で患者に投与される。他の態様では、本発明の組成物は、1日1回、2日に1回、3日に1回から1週間に1回、および2週間に1回を含むが、これに限定されない投薬の範囲で患者に投与される。年齢、治療される疾患または障害、性別、健康全般、および他の要因を含むが、これに限定されない多くの要因に応じて、本発明の様々な組み合わせ組成物の投与の頻度が対象ごとに異なることは当業者に容易に明らかである。従って、本発明は、任意の特定の投与計画に限定されると解釈してはならず、任意の患者に投与される正確な投与量および組成物は、患者についての他の全ての要因を考慮に入れて、主治医によって決定される。
【0166】
投与用の本発明の化合物は、約1μg~約7,500mg、約20μg~約7,000mg、約40μg~約6,500mg、約80μg~約6,000mg、約100μg~約5,500mg、約200μg~約5,000mg、約400μg~約4,000mg、約800μg~約3,000mg、約1mg~約2,500mg、約2mg~約2,000mg、約5mg~約1,000mg、約10mg~約750mg、約20mg~約600mg、約30mg~約500mg、約40mg~約400mg、約50mg~約300mg、約60mg~約250mg、約70mg~約200mg、約80mg~約150mg、ならびにその間の任意の、および全ての全増加分または部分的な増加分の範囲でもよい。
【0167】
一部の態様では、本発明の化合物の用量は約0.5μg~約5,000mgである。一部の態様では、本明細書に記載の組成物において用いられる本発明の化合物の用量は、約5,000mg未満、または約4,000mg未満、または約3,000mg未満、または約2,000mg未満、または約1,000mg未満、または約800mg未満、または約600mg未満、または約500mg未満、または約200mg未満、または約50mg未満である。同様に、一部の態様では、本明細書に記載の第2の化合物の用量は、約1,000mg未満、または約800mg未満、または約600mg未満、または約500mg未満、または約400mg未満、または約300mg未満、または約200mg未満、または約100mg未満、または約50mg未満、または約40mg未満、または約30mg未満、または約25mg未満、または約20mg未満、または約15mg未満、または約10mg未満、または約5mg未満、または約2mg未満、または約1mg未満、または約0.5mg未満、ならびにその任意の、および全ての全増加分または部分的な増加分である。
【0168】
ある特定の態様では、本発明は、単独で、または第2の薬学的薬剤と組み合わせて、本発明の化合物の治療的有効量を収容するための容器と、患者において疾患または障害の1つまたは複数の症状を治療、予防、または低減するために前記化合物を使用するための説明書を備える、包装された薬学的組成物に関する。
【0169】
「容器」という用語は、薬学的組成物を収容するための任意の入れ物を含む。例えば、ある特定の態様では、容器は、薬学的組成物を収める包装容器である。他の態様では、容器は、薬学的組成物を収める包装容器でない。すなわち、容器は、包装された薬学的組成物または包装されていない薬学的組成物と、薬学的組成物を使用するための説明書を収める入れ物、例えば、箱またはバイアルである。さらに、包装する技法は当技術分野において周知である。薬学的組成物を使用するための説明書は、薬学的組成物を収める包装容器の表面に収められてもよいことが理解されるはずである。従って、説明書は、包装された製品と増大した機能的関係を築く。しかしながら、説明書は、化合物が、意図された機能、例えば、患者における疾患または障害の治療、予防、または低減を果たす能力に関する情報を収めてもよいことが理解されるはずである。
【0170】
投与経路
本発明の任意の組成物の投与経路には、吸入投与、経口投与、鼻投与、直腸投与、非経口投与、舌下投与、経皮投与、経粘膜投与(例えば、舌下投与、舌投与、(経)頬投与、(経)尿道投与、腟投与(例えば、経腟投与および膣周囲投与)、鼻(鼻腔内)投与、ならびに(経)直腸投与)、膀胱内投与、肺内投与、十二指腸内投与、胃内投与、くも膜下腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、動脈内投与、静脈内投与、気管支内投与、吸入投与、ならびに局所投与が含まれる。
【0171】
適切な組成物および剤形には、例えば、錠剤、カプセル、カプレット、丸剤、ゲルキャップ(gel cap)、トローチ、分散液、懸濁液、溶液、シロップ、顆粒、ビーズ、経皮パッチ、ゲル、散剤、ペレット、マグマ剤、ロゼンジ、クリーム、パスタ剤、硬膏剤、ローション剤、ディスク(disc)、坐剤、鼻投与用または経口投与用の液体スプレー、吸入用の乾燥粉末またはエアロゾル化製剤、膀胱内投与用の組成物および製剤などが含まれる。本発明において有用な製剤および組成物は、本明細書に記載の特定の製剤および組成物に限定されないことが理解されるはずである。
【0172】
経口投与
経口適用の場合、錠剤、糖衣錠、液体、ドロップ、坐剤、またはカプセル、カプレットおよびゲルキャップが特に適している。経口投与に適した他の製剤には、粉末状もしくは顆粒状の製剤、水性もしくは油性の懸濁液、水性もしくは油性の溶液、パスタ剤、ゲル、練り歯磨き、口腔洗浄薬、コーティング、オーラルリンス(oral rinse)、またはエマルジョンが含まれるが、これに限定されない。経口使用を目的とした組成物は、当技術分野において公知の任意の方法に従って調製することができ、このような組成物は、錠剤の製造に適した不活性な無毒の薬学的賦形剤からなる群より選択される1種類または複数種の薬剤を含有してもよい。このような賦形剤には、例えば、不活性希釈剤、例えば、ラクトース;造粒剤および崩壊剤、例えば、コーンスターチ;結合剤、例えば、デンプン;ならびに潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムが含まれる。
【0173】
錠剤はコーティングされなくてもよく、対象の胃腸管内での崩壊を遅らせ、それによって、活性成分を持続的に放出および吸収するように公知の方法を用いてコーティングされてもよい。例として、錠剤をコーティングするために、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンなどの材料が用いられてもよい。さらに、例として、錠剤は、浸透圧により制御される放出錠剤を形成するために、米国特許第4,256,108号;同第4,160,452号;および同第4,265,874号に記載の方法を用いてコーティングされてもよい。錠剤は、薬学的にすばらしく、かつ味のよい調製物を提供するために、甘味剤、着香剤、着色剤、防腐剤、またはこれらの何らかの組み合わせをさらに含んでもよい。
【0174】
活性成分を含む硬カプセルは、ゼラチンなどの生理学的に分解性の組成物を用いて作られてもよい。このような硬カプセルは活性成分を含み、例えば、不活性な固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリンを含む、さらなる成分をさらに含んでもよい。
【0175】
活性成分を含む軟ゼラチンカプセルは、ゼラチンなどの生理学的に分解性の組成物を用いて作られてもよい。このような軟カプセルは活性成分を含み、活性成分は、水または油媒体、例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン、またはオリーブ油と混合されてもよい。
【0176】
経口投与の場合、本発明の化合物は、薬学的に許容される賦形剤、例えば、結合剤;増量剤;潤滑剤;崩壊剤;または湿潤剤を用いて従来の手段によって調製された錠剤またはカプセルの形をとってもよい。所望であれば、錠剤は、適切な方法およびコーティング材料、例えば、Colorcon, West Point,Paから入手可能なOPADRY(商標)フィルムコーティングシステム(例えば、OPADRY(商標) OY Type, OYC Type, Organic Enteric OY-P Type, Aqueous Enteric OY-A Type, OY-PM TypeおよびOPADRY(商標) White, 32K18400)を用いてコーティングされてもよい。
【0177】
経口投与用の液体調製物は溶液、シロップ、または懸濁液の形をとってもよい。液体調製物は、薬学的に許容される添加物、例えば、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、または水素添加された食用脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアラビアゴム);非水性ビヒクル(例えば、扁桃油、油性エステル、またはエチルアルコール);および防腐剤(例えば、パラヒドロキシ安息香酸メチルもしくはパラヒドロキシ安息香酸プロピルまたはソルビン酸)を用いて従来の手段によって調製されてもよい。経口投与に適した本発明の薬学的組成物の液体製剤は、液体の形で、または使用前に水もしくは別の適切なビヒクルで再構成することを目的とした乾燥製品の形で調製、包装、または販売されてもよい。
【0178】
活性成分を含む錠剤は、例えば、任意で、1種類または複数種のさらなる成分と共に、活性成分を圧縮または成型することによって作られてもよい。散剤または顆粒状調製物などの自由に流動することができる形をした活性成分を、任意で、結合剤、潤滑剤、賦形剤、界面活性剤、および分散剤の1つまたは複数と混合して適切な機械の中で圧縮することによって圧縮錠が調製されてもよい。活性成分と、薬学的に許容される担体と、少なくとも、混合物を湿らせるのに十分な液体の混合物を適切な機械の中で成型することによって湿製錠が作られてもよい。錠剤の製造において用いられる薬学的に許容される賦形剤には、不活性な希釈剤、造粒剤および崩壊剤、結合剤、ならびに潤滑剤が含まれるが、これに限定されない。公知の分散剤には、バレイショデンプンおよびデンプングリコール酸ナトリウムが含まれるが、これに限定されない。公知の界面活性剤にはラウリル硫酸ナトリウムが含まれるが、これに限定されない。公知の希釈剤には、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、結晶セルロース、リン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、およびリン酸ナトリウムが含まれるが、これに限定されない。公知の造粒剤および崩壊剤にはトウモロコシデンプンおよびアルギン酸が含まれるが、これに限定されない。公知の結合剤には、ゼラチン、アラビアゴム、予め糊化した(pre-gelatinized)トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースが含まれるが、これに限定されない。公知の潤滑剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリカ、およびタルクが含まれるが、これに限定されない。
【0179】
活性成分の出発粉末または他の粒子状物質を改変するために造粒法が薬学分野において周知である。この粉末は典型的には結合剤材料と混合されて、「造粒」と呼ばれる、さらに大きな、長持ちのする、自由に流動することができる集塊物または顆粒になる。例えば、溶媒を用いた「湿式」造粒プロセスは、一般的に、粉末を結合剤材料と混合し、湿った粒状塊を形成する条件下で水または有機溶媒で湿らし、次いで、湿った粒状塊から溶媒を蒸発させなければならない点を特徴とする。
【0180】
一般的に、溶融造粒は、本質的に、添加される水または他の液体溶媒の非存在下で、粉末状材料または他の材料の造粒を促進するために、室温で固体または半固体の(すなわち、比較的低い軟化点または融点範囲を有する)材料を使用することにある。低融点固体は融点範囲の温度まで加熱されると液化して結合剤または造粒媒体として働く。液化した固体は、そのままで、接触している粉末状材料の表面に広がり、冷却されると、初期材料が結び付けられた固体の粒状塊を形成する。次いで、結果として生じた溶融造粒は打錠機に供給されてもよく、経口剤形を調製するためにカプセルに入れられてもよい。溶融造粒は、固体分散体(solid dispersion)または固溶体(solid solution)を形成することによって活性成分(すなわち、薬物)の溶出速度およびバイオアベイラビリティを改善する。
【0181】
米国特許第5,169,645号は、改善された流動特性を有する、直接圧縮可能な、ろう含有顆粒を開示する。ろうが溶解状態で、ある特定の流動改善添加物と混合され、その後に、混合物の冷却と造粒が行われた場合に、顆粒が得られる。ある特定の態様では、ろうそれ自体は、ろうと添加物を溶融して組み合わせた場合にしか溶融せず、他の場合では、ろうと添加物は両方とも溶融する。
【0182】
本発明はまた、本発明の方法において有用な1種類または複数種の化合物を遅延放出する層と、本発明の方法において有用な1種類または複数種の化合物を即時放出するさらなる層を含む多層錠剤を含む。ろう/pH感受性ポリマー混合物を用いて、活性成分を閉じ込めて、活性成分の遅延放出を確かなものにする、胃の中で不溶性の組成物を得ることができる。
【0183】
非経口投与
本明細書で使用する、薬学的組成物の「非経口投与」は、対象の組織に物理的に穴を作り、組織にある穴を通して薬学的組成物を投与することを特徴とする任意の投与経路を含む。従って、非経口投与には、薬学的組成物の注射、外科的切開部を通した薬学的組成物の適用、組織を貫通する非外科的創傷を通した薬学的組成物の適用などによる薬学的組成物の投与が含まれるが、これに限定されない。特に、非経口投与は、皮下注射、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、胸骨内注射、および腎臓透析注入法を含むが、これに限定されないことが意図される。
【0184】
非経口投与に適した薬学的組成物の製剤は、薬学的に許容される担体、例えば、滅菌水または滅菌した等張性食塩水と組み合わされた活性成分を含む。このような製剤は、大量瞬時投与または連続投与に適した形で調製、包装、または販売されてもよい。注射用製剤は、単位剤形で、例えば、アンプルに入れられて、または防腐剤を含有する多回投与容器に入れられて調製、包装、または販売されてもよい。非経口投与用の製剤には、懸濁液、溶液、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルに溶解したエマルジョン、パスタ剤、および移植可能な持続放出製剤または生分解性製剤が含まれるが、これに限定されない。このような製剤は、懸濁剤、安定剤、または分散剤を含むが、これに限定されない1種類または複数種のさらなる成分をさらに含んでもよい。非経口投与用の製剤の一態様において、再構成された組成物を非経口投与する前に適切なビヒクル(例えば、滅菌した、発熱物質を含まない水)を用いて再構成するために、活性成分は乾燥した形(すなわち、粉末状または顆粒状)で提供される。
【0185】
薬学的組成物は、滅菌した注射用の水性または油性の懸濁液または溶液の形で調製、包装、または販売されてもよい。この懸濁液または溶液は公知の技術に従って処方されてもよく、活性成分に加えて、本明細書に記載の分散剤、湿潤剤、または懸濁剤などの、さらなる成分を含んでもよい。このような滅菌した注射用製剤は、無毒の非経口的に許容される希釈剤または溶媒、例えば、水または1,3-ブタンジオールを用いて調製されてもよい。他の許容される希釈剤および溶媒には、リンガー液、等張性塩化ナトリウム溶液、および不揮発性油、例えば、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドが含まれるが、これに限定されない。有用な他の非経口(parentally)投与可能な製剤には、微結晶の形をとるか、リポソーム調製物に入れられているか、または生分解性ポリマー系の成分として活性成分を含む製剤が含まれる。持続放出または移植のための組成物は、薬学的に許容されるポリマー材料または疎水性材料、例えば、エマルジョン、イオン交換樹脂、やや溶けにくいポリマー、またはやや溶けにくい塩を含んでもよい。
【0186】
さらなる投与形態
本発明のさらなる剤形には、米国特許第6,340,475号、同第6,488,962号、同第6,451,808号、同第5,972,389号、同第5,582,837号、および同第5,007,790号に記載の剤形が含まれる。本発明のさらなる剤形はまた、米国特許出願第20030147952号、同第20030104062号、同第20030104053号、同第20030044466号、同第20030039688号、および同第20020051820号に記載の剤形も含む。本発明のさらなる剤形はまた、PCT出願番号WO03/35041、WO03/35040、WO03/35029、WO03/35177、WO03/35039、WO02/96404、WO02/32416、WO01/97783、WO01/56544、WO01/32217、WO98/55107、WO98/11879、WO97/47285、WO93/18755、およびWO90/11757に記載の剤形も含む。
【0187】
徐放製剤および薬物送達系
本発明の薬学的組成物の徐放製剤または持続放出製剤は従来の技術を用いて作製することができる。場合によっては、使用される剤形は、例えば、望ましい放出プロファイルを提供するために、比率の異なる、ヒドロプロピルメチル(hydropropylmethyl)セルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル、透析膜、浸透圧系、多層コーティング、微粒子、リポソーム、もしくはマイクロスフェア、またはその組み合わせを用いて、その中にある1種類または複数種の活性成分をゆっくりと放出するか、または徐放するものとして提供することができる。本明細書に記載の徐放製剤を含む、当業者に公知の適切な徐放製剤は、本発明の薬学的組成物と共に使用するために容易に選択することができる。従って、徐放用に合わせられた、経口投与に適した単一単位剤形、例えば、錠剤、カプセル、ゲルキャップ、およびカプレットが本発明に含まれる。
【0188】
ほとんどの徐放薬学的製品には、制御されていない対応物よって成し遂げられるものよりも薬物療法を改善するという共通の目標がある。理想的には、医学的処置における、最適に設計された徐放調製物の使用は、最短時間で状態を治すか、または管理するために最小量の原薬が用いられることを特徴とする。徐放製剤の利点には、薬物活性が長期間にわたること、投与頻度が少ないこと、および患者コンプライアンスが高いことが含まれる。さらに、徐放製剤は、作用の開始時間または他の特徴、例えば、薬物の血中濃度に影響を及ぼすのに使用することができ、従って、副作用の発生に影響を及ぼすことができる。
【0189】
ほとんどの徐放製剤は、最初に、望ましい治療効果を迅速に生じる量の薬物を放出し、このレベルの治療効果を長期間にわたって維持する他の量の薬物を徐々に、かつ継続して放出するように設計される。体内で、この一定の薬物レベルを維持するためには、身体から代謝および排泄される薬物の量の代わりを補う速度で、剤形から薬物を放出しなければならない。
【0190】
活性成分の徐放は、様々な誘導因子、例えば、pH、温度、酵素、水、または他の生理状態もしくは化合物によって刺激することができる。「徐放成分」という用語は、本発明の文脈では、活性成分の徐放を容易にする、ポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル、透析膜、リポソーム、もしくはマイクロスフェア、またはその組み合わせを含むが、これに限定されない化合物と本明細書において定義される。
【0191】
ある特定の態様では、本発明の製剤は、短期製剤、急速作用消失(rapid-offset)製剤、ならびに徐放製剤、例えば、持続放出製剤、遅延放出製剤、および拍動放出(pulsatile release)製剤でもよいが、これに限定されない。
【0192】
持続放出という用語は、長期間にわたって薬物を徐々に放出し、必ずしもそうであるとは限らないが、長期間にわたって実質的に一定の薬物血中濃度をもたらし得る薬物製剤を指すために従来の意味で用いられる。期間は1ヶ月以上と長くてもよく、ボーラスの形で投与される等量の薬剤より長い放出になるはずである。持続放出の場合、化合物は、化合物に持続放出特性を付与する適切なポリマー材料または疎水性材料を用いて処方されてもよい。従って、本発明の方法を使用するための化合物は、微粒子の形で、例えば、注射によって投与されてもよく、カシェ剤またはディスクの形で移植によって投与されてもよい。本発明のある特定の態様では、本発明の化合物は、持続放出製剤を用いて、単独で、または別の薬学的薬剤と組み合わせて患者に投与される。
【0193】
遅延放出という用語は、本明細書では、薬物が投与された後に、いくらかの遅延の後に薬物を初めて放出し、必ずしもそうであるとは限らないが、約10分から約12時間までの遅延を含んでもよい薬物製剤を指すために従来の意味で用いられる。拍動放出という用語は、本明細書では、薬物が投与された後に、薬物パルス血漿プロファイルを生じるように薬物を放出する薬物製剤を指すために従来の意味で用いられる。即時放出という用語は、薬物が投与された直後に薬物を放出する薬物製剤を指すために従来の意味で用いられる。
【0194】
本明細書で使用する短期とは、薬物が投与された後の、約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分、ならびにその任意の、および全ての全増加分または部分的な増加分までの、またはこれらを含む任意の期間を指す。
【0195】
本明細書で使用する急速作用消失とは、薬物が投与された後の、約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分、ならびにその任意の、および全ての全増加分および部分的な増加分までの、またはこれらを含む任意の期間を指す。
【0196】
当業者は、本明細書に記載の特定の手順、態様、クレーム、および実施例に対する非常に多くの等価物を認識しているか、または日常的な実験法だけを用いて認めることができる。このような等価物は本発明の範囲内だとみなされ、添付の特許請求の範囲によってカバーされた。例えば、当技術分野において認められている代案による、および日常的な実験法だけを用いた、反応時間、反応サイズ/容積、および実験試薬、例えば、溶媒、触媒、圧力、雰囲気条件、例えば、窒素雰囲気、および還元剤/酸化剤を含むが、これに限定されない反応条件の変更は本願の範囲内であると理解されるはずである。
【0197】
値および範囲が本明細書において提供される場合は必ず、これらの値および範囲に含まれる全ての値および範囲は本発明の範囲内に含まれることが意図されると理解されなければならない。さらに、これらの範囲内にある値は全て、ならびに値の範囲の上限または下限も本願に含まれる。
【0198】
以下の実施例は本発明の局面をさらに例示する。しかしながら、以下の実施例は、本明細書において示された本発明の教示も開示も限定するものではない。
【実施例】
【0199】
これより、以下の実施例に関連して本発明を説明する。これらの実施例は例示目的のためだけに提供される。本発明は、これらの実施例に限定されず、本明細書において提供される教示の結果として明らかな全てのバリエーションを包含する。
【0200】
方法および材料:
ENPP1-asj GACIマウスモデル:
子宮内でアクセラレーションダイエット(acceleration diet)(TD00.442, Harlan Laboratories, Madison WI)に曝露されたENPP1-WTおよびENPP1-asj/asj同胞ペアを作製するために、実験全体を通してヘテロ接合性ENPP1-asj/+繁殖ペアに「アクセラレーションダイエット」を与えて飼育した。8日目に同腹仔(liter)の遺伝子型を同定し、21日目に離乳させた。離乳後に、同胞ペアを実験コホートに分け、研究が終了するまで全実験動物にアクセラレーションダイエットを与えて飼育した。
【0201】
ENPP1-Fc設計:
可溶性組換えタンパク質を発現するように改変した改変ヒトNPP1および改変マウスNPP1(ヒト:NCBIアクセッションNP_006199;マウス:NCBIアクセッションNP_03839)をサブクローニングによってIgG1と融合させて、それぞれ、pFUSE-hIgG1-Fc1またはpFUSE-mIgG1-Fc1プラスミド(InvivoGen, San Diego CA)を得た。
【0202】
タンパク質産生:
振盪フラスコ: ENPP1-Fcの安定トランスフェクションをHEK293細胞においてゼオシン(zeocin)選択下で確立し、付着性のHEK293細胞を懸濁増殖に適合させた。適合した細胞を用いて、37℃および5%CO2で、振盪フラスコの中に入っているFreeStyle培地(Gibco#12338-018)に溶解した液体培養増殖物に播種し、高湿度で120rpmで攪拌した。培養物を望ましい目標体積まで段階的に拡大し、次いで、細胞外タンパク質を蓄積するために、さらに12日間維持した。維持期の間に、タンパク質産生を強化するために培養物にCD EfficientFeed C AGT(Gibco#A13275-05)を補充した。
【0203】
バイオリアクター: 溶存酸素およびpHの制御装置を備える10リットルバイオリアクターの中で細胞を増殖させた。80RPMの攪拌速度で、3リットル/分を超えない空気と酸素の混合物を培養物に供給することで、溶存酸素を40%空気飽和に保った。pHが7.4を超えたらCO2を散布することでpHを7.4に制御した。培養増殖の後に、細胞数、細胞生存率、グルコース濃度および乳酸濃度の測定を行った。両産生方法の最終収率は、培養物1リットルあたり約5mgの精製ENPP1-Fcであった。
【0204】
タンパク質精製:
液体培養液を4300xgで15分間、遠心分離し、上清を0.2μm膜で濾過し、Pellicon(登録商標)3 0.11m
2 Ultracell(登録商標)30kDカセット(Millipore, Billerica MA)を用いてタンジェンシャルフローで濃縮した。次いで、濃縮した上清を多段階プロセスでクロマトグラフィー法の組み合わせによって精製した。これらの技法は連続して行われ、以下:プロテインAまたはプロテインGを用いたアフィニティクロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性交換クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、沈殿工程、抽出工程、凍結乾燥工程、および/または結晶化工程のどれを含んでもよい。タンパク質化学分野において教育を受けた者は、これらの工程のいずれか1つを連続して用いて、銀染色ゲル上に汚染タンパク質バンドが無くなるように(非限定的な例示では
図10)、述べられた組成物を均一になるまで精製することができる。次いで、全てにエンドトキシンが無いことを確かめるために、結果として生じたタンパク質試料を、Pierce LAL Chromogenic Endotoxin Quantitation Kit(cat.88282)を用いて試験した。
【0205】
酵素学:
ヒトNPP1によるATPの定常状態加水分解をHPLCによって確かめた。簡単に述べると、酵素反応は、20mM Tris, pH7.4、150mM NaCl、4.5mM KCl、14μM ZnCl2、1mM MgCl2、および1mM CaCl2を含有する反応緩衝液に溶解した様々な濃度のATPに10nM NPP1を添加することによって開始した。様々な時点で、50μL反応溶液を取り出し、等量の3Mギ酸を用いてクエンチした。クエンチした反応溶液を、15mM酢酸アンモニウム(pH6.0)溶液で平衡化したC-18(5μm 250X4.6mm)カラム(Higgins Analytical)にロードし、0%~20%メタノール勾配で溶出させた。基質と生成物を259nmでのUV吸光度によってモニタリングし、これらの対応するピークの積分と検量線に従って定量した。
【0206】
ビヒクル:
送達されるビヒクルの体積が体重1グラムあたり16μlのビヒクルになるように、mENPP1-Fcをビヒクルに溶解して処方した。ビヒクルは、エンドトキシンフリー水で1xまで希釈し、14μM CaCl2と14μM ZnCl2を補ったamericanBio 10X PBS(Stock#AB11072)からなった。
【0207】
投薬:
動物にビヒクルを投薬したか、またはビヒクルで処方したマウスENPP1-Fc(mENPP1-Fc)を投薬した。14日目から始めて、マウスに500au/Kg mENPP1-Fcの用量レベルの毎日皮下注射を投薬した。
【0208】
酵素活性:
ある特定の態様では、本発明において有用な酵素には、Albright, et al., 2015, Nature Comm. 6:10006に記載のようなミカエリスメンテン(Michaelis Menton)定数で酵素活性がある(ATP加水分解の場合、KM約2μM; kcat3.46(±0.44)s-1)。
【0209】
血漿中PPiの定量:
最後に、ENPP1-WTおよび投薬したENPP1-asj/asj動物を、ヘパリン処理マイクロピペット(micropiptte)を用いて後眼窩から採血し、すぐに、血液をヘパリン処理エッペンドルフチューブに分配し、ぬれた氷の上に置いた。試料を、4℃に予め冷却した微量遠心機で4000rpmで5分間、回転させ、血漿を収集し、ある体積の50mM Tris-酢酸pH=8.0で希釈し、-80℃で凍結した。血清PPiの定量を以前に述べられたように行った(Cheung & Suhadolnik, 1977, Anal Biochem 83:61-63)。
【0210】
マイクロ-CTスキャン:
インビボ99mPYP画像化: 動物コホートにおいて、骨画像化剤である99mTc-ピロリン酸(Pharmalucence, Inc)を、デュアル1mmピンホールコリメータ(X-SPECT, Gamma Medica-Ideas)を備える前臨床マイクロSPECT/CTハイブリッドイメージングシステムを用いて評価した。各動物に2~5mCiの放射性標識トレーサーをip注射し、注射して1~1.5時間後に画像化した。SPECT画像との解剖学的共存のために、CTスキャン(50kVp、800uAで512回の投影および1.25の拡大係数(magnification factor))を取得した。SPECT画像化は、逆時計回りの回転で180°/コリメータヘッド(collimator head)、32回の投影、60秒/投影、ROR 7.0cm、FOV 8.95cm、およびエネルギーウィンドウ140keV±20を用いて取得した。CT画像は、フィルタ補正逆投影(filtered back-projection)アルゴリズムを用いたFLEX X-O CTソフトウェア(Gamma Medica-Ideas)によって再構築した。SPECT画像は、FLEX SPECTソフトウェア(5反復(iteration)、4サブセット(subset))を用いて再構築し、その後にCT画像と融合し、AMIRAソフトウェアとオフラインの社内スクリプトを用いて分析した。注射量に対する割合(%ID)を得るために減衰および注射量に対してデータを補正した。
【0211】
99mPYP取り込みの定量: 99mPYPマウススキャンのために、注射して2時間後に動物を画像化した。結果として生じたSPECTスキャンをNIHのImageJ画像処理ソフトウェアにインポートし、各動物の頭部(標的臓器)および全身を囲んでROIを描いた。注射した放射能に対する割合(%)(percent injected activity:PIA)は「注射量に対する割合(%)(percent injected dose)」(%ID)と呼ばれることが多く、放射性トレーサーがROI(頭部)に吸収される親和性を測定するために、頭部のカウントと全身のカウントの比を比較することによって計算し、%IDで表した。スキャンごとの全カウントを注射量の全身尺度とみなした。
【0212】
配列:
NPP1アミノ酸配列(NCBIアクセッションNP_006199)(SEQ ID NO:1)
【0213】
NPP2アミノ酸配列(NCBIアクセッションNP_001124335)(SEQ ID NO:2)
【0214】
NPP4アミノ酸配列(NCBIアクセッションAAH18054.1)(SEQ ID NO:3)
(DSS)
n(SEQ ID NO:4)。nは1~10の整数である。
(ESS)
n(SEQ ID NO:5)。nは1~10の整数である。
(RQQ)
n(SEQ ID NO:6)。nは1~10の整数である。
(KR)
n(SEQ ID NO:7)。nは1~10の整数である。
R
m(SEQ ID NO:8)。mは1~15の整数である。
E
m(SEQ ID NO:14)。mは1~15の整数である。
【0215】
NPP121アミノ酸配列(SEQ ID NO:15)
【0216】
一重下線:移行位置(**)で切断するためにNPP2の1~27番目の残基と交換した残基;二重下線:NPP1タンパク質(始まりと終わり)
【0217】
NPP121-Fcアミノ酸配列(SEQ ID NO:16)
一重下線:移行位置(
**)で切断するためにNPP2の1~27番目の残基と交換した残基;
二重下線:NPP1タンパク質(始まりと終わり);太字:hIgG1(Fc)
【0218】
NPP71アミノ酸配列(SEQ ID NO:17)
一重下線:NPP7;
二重下線:NPP1タンパク質(始まりと終わり)
【0219】
NPP71-Fcアミノ酸配列(SEQ ID NO:18)
一重下線:NPP7;
二重下線:NPP1タンパク質(始まりと終わり);太字:hIgG1(Fc)
【0220】
(NPP1 N末端GLKを欠くNPP71)アミノ酸配列(SEQ ID NO:19)
一重下線:NPP7;
二重下線:NPP1タンパク質(始まりと終わり)(NPP1のN末端にある最初の3アミノ酸GLKを省いた)
【0221】
(NPP1 N末端GLKを欠くNPP71)-Fcアミノ酸配列(SEQ ID NO:20)
一重下線:NPP7;
二重下線:NPP1タンパク質(始まりと終わり)(NPP1のN末端にある最初の3アミノ酸を省いた);太字:hIgG1(Fc)
【0222】
NPP121-ALBアミノ酸配列(SEQ ID NO:21)
太字のイタリック体:NPP1細胞質および膜貫通;
一重下線:移行位置(
**)で切断するためにNPP2の1~27番目の残基と交換した残基;
二重下線:NPP1膜貫通;普通:NPP1細胞外ドメイン;
太字の下線:リンカー;太字:アルブミン
【0223】
(NPP1 N末端GLKを欠くNPP71)-ALBアミノ酸配列(SEQ ID NO:22)
二重下線:NPP7;普通の文字:NPP1;太字:スペーサー配列;
一重下線:アルブミン
【0224】
IISLFTFAVGVNICLGFTA(SEQ ID NO:23)
【0225】
NPP51アミノ酸配列(SEQ ID NO:24)
下線:NPP5;普通:NPP1
【0226】
NPP51-ALBアミノ酸配列(SEQ ID NO:25)
二重下線:NPP5;普通:NPP1;太字:スペーサー;
一重下線:アルブミン
【0227】
ヒトIgG Fcドメイン、Fc(SEQ ID NO:26)
【0228】
実施例1:ENPP1-asj PXEマウスモデル
本発明のある特定のポリペプチド(例えば、ENPP1-Fc)をPXEおよび変形性関節症(OA)のマウスモデルにおいて試験した。PXEがあるヒトと同様に、PXEマウスはマルチパス(multi-pass)膜輸送体ABCC6に機能喪失型変異を示す。OAの哺乳動物モデルとしてANKマウスを使用した。
【0229】
子宮内で「アクセラレーションダイエット(TD00.442, Harlan Laboratories, Madison WI)に曝露されたENPP1-WTおよびENPP1-asj/asj同胞ペアを作製するために、実験全体を通して、ヘテロ接合性ENPP1-asj/+繁殖ペアに「アクセラレーションダイエット」を与えて飼育した。8日目に同腹仔の遺伝子型を同定し、21日目に離乳させた。離乳後に、同胞ペアを実験コホートに分け、研究が終了するまで全実験動物にアクセラレーションダイエットを与えて飼育した。本明細書に記載のように、動物を研究するために、本発明の選択されたポリペプチドを投与し、骨を分析した。
【0230】
図7に図示したように、最初のうち、PXEマウスおよびANKマウスはいずれも、文献においてPXEの発病を説明するために報告されたバイオマーカーであるPPiが低い(Jansen, et al., 2014, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 34:1985-1989)。
【0231】
2匹のPXEマウスにENPP1-Fcを1週間投薬した。これらの動物における血漿中PPiの平均は約4μMまで増加した。このことから、本発明のポリペプチドを哺乳動物に投与するとPPiの細胞外レベルが上昇し、PXEが処置されることが分かる。
【0232】
低PPiの生物学的機構は低ATP濃度と関連していると考えられていたので、このポリペプチドがPPiを増やす能力は予想されていなかった(Jansen, et al., 2013, PNAS U S A 110(50):20206-20211)。実際に、PXEを処置するには、この疾患において血漿中PPiを補正することで十分だと先行技術において提案された(Jansen, et al., 2013, PNAS U S A 110(50):20206-20211)。本発明の時点の先行技術に基づけば、細胞外空間に十分な基質が無いので、PXEの状況ではENPP1酵素はPPiを生じることができないと当業者は考えるだろう。本明細書において証明されたように、明らかに、これは本当のことではない。
【0233】
実施例2:
アクセラレーションダイエットを与えた時に、26日目にENPP1-asj/asjマウスの毎日の体重はWT同胞ペアから分かれた。この時、ENPP1-asj/asjマウスは「成長障害」事象を経験し、体重が減り始めた(
図1A)。26日目より後では、ENPP1-asj/asj動物は、進行性のこわばりと、身体活動の低下を示した。35~71日目にENPP1-asj/asj動物は全て死亡し、寿命の中央値は58日であった(
図1G)。ENPP1-asj/asjおよびENPP1-WTマウスにおける石灰化の存在を、マイクロ-CTスキャンと、心臓、大動脈、および腎臓から採取した組織切片によって死後に評価した。マイクロ-CT画像化によって、ENPP1-asj/asjマウスの約1/3には心臓に、目に見える石灰化があり、2/3には大動脈に、目に見える石灰化があった(表2)。組織検査時には、これらの割合は100%まで増加した。組織検査から、動物の多くの大動脈壁には、著しい、ほぼ全周性の石灰化があることも分かった(
図1D~1E)。組織検査から、冠状動脈の100%に動脈壁石灰化があり、動物の70%に、心筋梗塞と一致する局所性または融合性の心筋壊死領域があったことも明らかになった(
図1F~1G)。反対に、ENPP1-WTマウスは、これらの異常をいずれも示さなかった。これらの所見から、この動物モデルは、大型動脈および中型動脈の顕著な石灰化と心臓の死(demise)を特徴とするヒトのGACIを再現すると証明される。
【0234】
インビボで使用するための可溶性組換えENPP1を産生するために、ENPP1をIgG1のFcドメインに融合し(以下、ENPP1-Fcと呼ぶ、
図2B)、当該融合タンパク質を、安定哺乳動物(HEK293)細胞株において発現させた。タンパク質発現を昆虫細胞から哺乳動物細胞に切り替えたことと、ENPP1をIgG1のFcドメインに融合したことの複合効果によって、ATP基質に対するENPP1の親和性が2桁超増加したと同時に、K
catも1/4~1/3低減したことで、ミカエリスメンテン反応速度が変化した(
図2C~2E)。ENPP1-Fcの活性は4℃で保管された時には30日間にわたって減少することが認められたが、この酵素は-80℃で凍結することができ、解凍した時には、ほぼ完全な活性を保持することができた(
図2C)。従って、この酵素は、精製後に必要になるまで凍結原液として保管された。
【0235】
精製後に、ENPP1-Fcを、ZnおよびMgを補ったPBS(PBSplus)に対して透析し、5~7mg/mlまで濃縮し、200~500μlのアリコートで-80℃で凍結した。使用直前にアリコートを解凍し、PBSplusで希釈することで溶液の比活性を31.25au/ml(または調製物に応じて約0.7mg/ml)に調整した。
【0236】
投薬は、異なるタンパク質調製物における比活性のばらつきを説明するために動物体重1Kgあたりの活性単位(au)に従って行った。酵素の比活性はタンパク質調製物ごとに異なり、臨床応答が酵素比活性に大きく依存することが認められたので、比活性が40au/mg未満のタンパク質調製物を不合格にした。概念実証試験用の初期投薬レベルを確かめるために、限られた数の動物(1~2匹/用量レベル)において用量漸増試験を行った。用量漸増試験ではヒトバージョンとマウスバージョンのENPP1を両方とも使用したが、概念実証試験はENPP1-Fcのマウスアイソフォーム(mENPP1-Fc)を用いて行った。生後14日目のENPP1-asj/asjマウスに、mENPP1-Fcの皮下注射を毎日投薬し、GK1.5の腹腔内(I.P.)注射を毎週投薬した。組換えタンパク質の免疫拒絶反応を最小限にするために後者を加えた。500au/Kg 1日1回のmEnpp1-Fcを皮下投薬すると、未投薬のENPP1-asj/asj動物において観察された「成長障害」危機が観察されることなく、体重に強い初期応答が起こることが証明された。
【0237】
用量漸増試験の結果に基づいて、8匹のNPP1-asj/asj動物のコホートに、500au/Kg 1日1回のmNPP1-Fcと、GK1.5を用いた毎週1回のIP注射を投薬した(
図3)。投薬したコホートと同じやり方で、対照群(NPP1-WT+ビヒクルおよびNPP1-asj/asj+ビヒクル)にビヒクルを毎日投薬し、GK1.5を毎週投薬した。試験期間を55日に短縮した。8匹の処置したENPP1-asj/asj動物は全て全55日の試験を生き残った。この治療試験では、処置したNPP1 asj/asj動物では著しい臨床応答が観察されたのに対して、無処置のNPP1 asj/asj動物の寿命の中央値は58日から37日に短くなった。これは、おそらく、GK1.5免疫抑制剤を毎週、IP注射したことに起因する。無処置のENPP1-asj/asj動物は全て26日目に、体重減少と、次の30日にわたって麻痺および死亡へと不定に進行する移動性の制約を特徴とする成長障害危機も経験した。55日の試験にわたって、1匹を除く全ての無処置のENPP1-asj/asj動物が死んだが、対照的に、処置したENPP1-asj/asjマウスは全てENPP1-WTマウスと比較して体重が増加し、移動性の低下の徴候もこわばりの徴候も示さなかった。
【0238】
試験の終了時に、ビヒクルで処置したENPP1-asj/asjマウスの100%が心臓、大動脈、および冠状動脈に石灰化を示し、動物の77%が心筋梗塞の組織学的証拠を示した(表1)。ほとんどの場合で、これは小さな心筋細胞壊死領域の形をとり、心臓石灰化の近くで無くなったが(
図3C~3D、
図4C~4E)、2匹の動物(22%)では、右心室の自由壁に大きな全層(full thickness)心筋梗塞があった(
図4C~4D)。冠状動脈石灰化に隣接する心筋組織の心筋線維症は、よくある所見であった(
図4E)。このことは、冠状動脈石灰化による虚血が心筋疾患を説明する可能性が高いことを示している。対照的に、ENPP1-Fcで処置したENPP1-asj/asj動物はどれも、組織学によっても死後マイクロ-CTによっても心臓石灰化も動脈石灰化も大動脈石灰化も示さなかった(表1ならびに
図3Dおよび
図4D)。
【0239】
生存、動物の毎日の体重、および末端組織構造に加えて、処置に対する応答性を、血管石灰化、血漿中[PPi]濃度、およびTc99PPi(
99mPYP)取り込みを画像化する死後高分解能マイクロ-CTスキャンでも評価した(
図5および表1)。これらのパラメータの全てによって測定された時に生化学的応答および生理学的応答は終了した。無処置のENPP1-asj/asjコホートの大動脈、冠状動脈、および心臓に著しい石灰化が認められたこととは対照的に、WTにも、処置したENPP1-asj/asj動物にもマイクロ-CTによって血管石灰化があると認められなかった(
図5A)。さらに、処置したENPP1-asj/asj動物の血清PPi濃度はWT動物を上回って上昇し(処置したENPP1-asj/asjでは約30μMに対して、WTでは約10μM)、無処置のENPP1-asj/asjレベル(<0.5μM)をかなり上回って上昇した(
図5B)。さらに、処置したENPP1-asj/asj動物の血清PPi濃度(約30μM)は、無処置のENPP1-asj/asjレベル(<0.5μM)をかなり上回って上昇し、WT動物の血清PPi濃度(約10μM)を上回って上昇した(
図5B)。
【0240】
99mPYPは心臓画像化および骨リモデリングにおいて一般的に用いられる画像化剤であり、処置に対する応答性のマーカーとして使用した。なぜなら、血漿中[PPi]が低減し、異所性石灰化部位にある「開いている(open)」PPi結合部位が増えると予想されたために、機能的なENPP1が無い動物では
99mPYP取り込みは増えるはずだと予想されたためである。この仮説を試験する目的で、同胞ペア間のPYP取り込みの違いを検出するために、ENPP1-WTおよび未投薬のENPP1-asj/asj動物においてインビボ
99mPYP画像化を毎週行った(
図5C~5D)。
99mPYP取り込みの分析は、軟骨性骨(頭蓋)および軟部組織(震毛)の両方で構成される頭部に限定された。頭部は、このGACIのマウスモデルにおける公知の異所性石灰化部位である。さらに、データ収集を簡単にするために分析は頭部に限定された。なぜなら、頭部は、データ収集中に起こる180°カメラ回転の間に一過的な
99mPYP取り込みを示した内部臓器(例えば、膀胱、心臓、および横隔膜)と重複しないからである。
【0241】
ENPP1-WTおよび無処置のENPP1-asj/asj動物を毎週、連続画像化することによって、ENPP1-asj/asj動物の頭蓋における
99mPYPの注射量に対する取り込み率(%)はENPP1-WT動物より多く、実験群内での
99mPYP取り込みは試験中に大きく変化しないことが証明された(
図5C~5D)。処置したENPP1-asj/asj動物および無処置のENPP1-asj/asj動物における
99mPYP取り込みを30~35日目と試験の終了時(50~65日目)の2つの時点で比較した。これらの実験群の比較によって、ENPP1-Fc処置はGACIマウスにおける
99mPYP取り込みをWTレベルに戻したことが証明される(
図5E~5F)。このことから、ENPP1-Fc処置は、開いているPPi結合部位を、おそらく、治療剤によって誘導された血漿中PPi濃度の増加から生じた「非放射性(cold)の」PPiで飽和させることによって、ENPP1-asj/asjマウスにおける無秩序な組織石灰化および頭蓋石灰化を抑止できることが示唆される。
【0242】
【0243】
【0244】
実施例3:アルブミン融合タンパク質の発現
ヒト血清アルブミン(HSA)は585アミノ酸のタンパク質であり、血清浸透圧のかなりの割合を担っており、内因性リガンドおよび外因性リガンドの担体としても機能する。現在、臨床使用のためのHSAはヒト血液から抽出することによって生成される。微生物における組換えHSA(rHSA)の産生はEP0330451およびEP0361991に開示されている。
【0245】
担体分子としてのアルブミンの役割と、その不活性な性質は、ポリペプチドの安定剤および輸送体として使用するのに望ましい特性である。他のタンパク質を安定化するために、アルブミンを融合タンパク質の成分として使用することはWO93/15199、WO93/15200、およびEP0413622に開示されている。ポリペプチドに融合するためにHSAのN末端断片を使用することも開示されている(EP0399666)。ポリペプチドとの融合は、HSAをコードするDNAまたはその断片が、ポリペプチドをコードするDNAとつなげられるように遺伝子操作によって成し遂げられる。次いで、融合ポリペプチドを発現するように適切なプラスミド上で並べられた融合ヌクレオチド配列を用いて、適切な宿主が形質転換またはトランスフェクトされる。Nomura, et al., 1995, Biosci. Biotechnol. Biochem. 59(3):532-4は、S.セレビジエ(S.cerevisae)において、分泌を誘導するHSAプレ配列を用いて、ヒトアポリポタンパク質EをHSAまたはHSA断片との融合タンパク質として発現させることを試みた。完全長HSAと融合すると低レベルのタンパク質が培地に分泌されるのに対して(6.3mg/リットルの最大収率)、HSA(1-198)またはHSA(1-390)と融合しても培地への分泌は起こらない。
【0246】
ヒト血清アルブミンは正常HSA(以下「HSA」と呼ぶ)のバリアントでもよい。本明細書で使用する「バリアント」は保存的または非保存的な挿入、欠失、および置換を含み、このような変化は、アルブミンの膨張の(oncotic)有用なリガンド結合特性および非免疫原特性の1つまたは複数を実質的に変えない。特に、「バリアント」は、ヒトアルブミンおよびヒトアルブミン断片の天然の多型バリアント、例えば、EP0322094に開示された断片(すなわち、HA(1-n)、式中、nは369~419である)を含む。アルブミンまたは成長ホルモン(GH)は、任意の脊椎動物、特に、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、雌鶏、またはサケに由来してもよい。融合のアルブミンおよびGH部分は異なる動物に由来してもよい。
【0247】
「保存的置換」は、Gly/Ala;Val/Ile/Leu;Asp/Glu;Asn/Gln;Ser/Thr;Lys/Arg;およびPhe/Tyrなどのグループ内での意図された交換である。バリアントは、通常、バリアントと同じ長さである、ある長さの正常HSAと少なくとも75%(例えば、少なくとも80%、90%、95%、または99%)の配列同一性を有し、この技術分野において従来通り欠失および挿入が許されたら、他のどの長さの正常HSAよりも同一性が高い。一般的に言って、HSAバリアントは少なくとも100アミノ酸長であり、一部の態様では少なくとも150アミノ酸長である。HSAバリアントは、少なくとも1つのHSAドメイン全体、例えばドメイン1(1-194)、2(195-387)、3(388-585)、1+2(1-387)、2+3(195-585)、または1+3(1-194、+388-585)からなってもよく、これを含んでもよい。各ドメインそのものは、2つの相同サブドメイン、すなわち、1-105、120-194、195-291、316-387、388-491、および512-585と、残基Lys106~Glu199、Glu292~Val315、およびGlu492~Ala511を含む可動性のあるサブドメイン間リンカー領域からできた。一部の態様では、NPP1融合のHSA部分は、HAの少なくとも1つのサブドメインもしくはドメインまたはその保存的改変を含む。
【0248】
細菌(例えば、大腸菌(E.coli)および枯草菌(Bacillus subtilis))、酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveronmyces lactis)、およびピキア・パストリス(Pichia pastoris))、糸状菌(例えば、アスペルギルス属)、植物細胞、動物細胞、ならびに昆虫細胞を含む多くの発現系が公知である。
【0249】
望ましいタンパク質は、従来のやり方で、例えば、宿主染色体の中に挿入されたコード配列から、または遊離プラスミド上にあるコード配列から産生することができる。
【0250】
有用な任意のやり方、例えば、エレクトロポレーションで、酵母を、望ましいタンパク質のコード配列で形質転換することができる。エレクトロポレーションによって酵母を形質転換する方法は、Becker & Guarente, 1990, Methods Enzymol. 194:182に開示されている。首尾良く形質転換された細胞、すなわち、本発明のDNA構築物を含有する細胞は周知の技法によって特定することができる。例えば、発現構築物の導入に起因した細胞を増殖させて、望ましいポリペプチドを産生することができる。細胞を収集および溶解し、Southern, 1975, J. Mol. Biol. 98:503および/またはBerent, et al., 1985, Biotech 3:208に記載の方法などの方法を用いて、DNAが存在するかどうかDNA内容物を調べることができる。または、上清中のタンパク質の存在は、抗体を用いて検出することができる。
【0251】
有用な酵母プラスミドベクターはpRS403-406およびpRS413-416を含み、一般的に、Stratagene Cloning Systems, La Jolla, CA, USAから入手可能である。プラスミドpRS403、pRS404、pRS405、およびpRS406は酵母組み込みプラスミド(Yeast Integrating plasmid)(YIp)であり、酵母選択マーカーHIS3、TRP1、LEU2、およびURA3を組み込んでいる。プラスミドpRS413-416は酵母セントロメアプラスミド(YCp)である。
【0252】
相補的な付着末端を介してDNAをベクターに機能的に連結するために、様々な方法が開発されてきた。例えば、相補的なホモポリマートラクトを、ベクターDNAに挿入しようとするDNAセグメントに付加することができる。次いで、相補的なホモポリマーテール間の水素結合によってベクターおよびDNAセグメントをつないで、組換えDNA分子を形成する。
【0253】
1つまたは複数の制限部位を含有する合成リンカーは、DNAセグメントをベクターにつなげるための代替方法となる。エンドヌクレアーゼ制限消化によって作製したDNAセグメントを、3'-5'-エキソヌクレアーゼ活性で突出3'-一本鎖末端を除去し、重合活性で陥凹3'-末端をフィルインする酵素であるバクテリオファージT4 DNAポリメラーゼまたは大腸菌DNAポリメラーゼIで処理する。
【0254】
従って、これらの活性を組み合わせることで平滑末端DNAセグメントが生じる。次いで、平滑末端セグメントを、平滑末端DNA分子の連結を触媒することができる酵素、例えば、バクテリオファージT4 DNAリガーゼの存在下で、多量のモル過剰のリンカー分子とインキュベートする。従って、反応の生成物は、末端にポリマーリンカー配列を有するDNAセグメントである。次いで、これらのDNAセグメントを適切な制限酵素で切断し、DNAセグメントの末端と適合する末端を生じる酵素で切断されている発現ベクターに連結する。
【0255】
様々な制限エンドヌクレアーゼ部位を含有する合成リンカーは、International Biotechnologies Inc, New Haven, CT, USAを含む多数の供給元から市販されている。
【0256】
本発明に従ってDNAを改変する望ましい手法は、例えば、HAバリアントを調製しようとするのであれば、Saiki, et al., 1988, Science 239:487-491に開示されたようにポリメラーゼ連鎖反応を使用する手法である。この方法では、酵素的に増幅しようとするDNAを、増幅DNAに組み込まれる2つの特異的なオリゴヌクレオチドに隣接させる。特異的プライマーは、当技術分野において公知の方法を用いて発現ベクターにクローニングするのに使用することができる制限エンドヌクレアーゼ認識部位を含有してもよい。
【0257】
ENPP1-ALB設計:
可溶性組換えタンパク質を発現するように改変した、改変ヒトNPP1および改変マウスNPP1(ヒト:NCBIアクセッションNP_006199;マウス:NCBIアクセッションNP_03839)をサブクローニングによってヒト血清アルブミン(HSA)と融合させて、それぞれ、pFUSEプラスミド(InvivoGen, San Diego CA)を得た。
【0258】
タンパク質産生:
振盪フラスコ: ENPP1-ALBの安定トランスフェクションをHEK293細胞においてゼオシン選択下で確立する。付着性のHEK293細胞を懸濁増殖に適合することができる。適合した細胞を用いて、37℃および5%CO2で、振盪フラスコの中に入っているFreeStyle培地(Gibco#12338-018)に溶解した液体培養増殖物に播種し、高湿度で120rpmで攪拌する。培養物を望ましい目標体積まで段階的に拡大し、次いで、細胞外タンパク質を蓄積するために、さらに12日間維持する。維持期の間にタンパク質産生を強化するために培養物にCD EfficientFeed C AGT(Gibco #A13275-05)を補充する。
【0259】
バイオリアクター: 溶存酸素およびpHの制御装置を備える10リットルバイオリアクターの中で細胞を増殖させる。80RPMの攪拌速度で、3リットル/分を超えない空気と酸素の混合物を培養物に供給することで、溶存酸素を40%空気飽和に保つ。pHが7.4を超えたらCO2を散布することでpHを7.4に制御する。培養増殖の後に、細胞数、細胞生存率、グルコース濃度および乳酸濃度の測定を行う。
【0260】
タンパク質精製:
液体培養液を4300xgで15分間、遠心分離し、上清を0.2μm膜で濾過し、Pellicon(登録商標)3 0.11m2Ultracell(登録商標)30kDカセット(Millipore, Billerica MA)を用いてタンジェンシャルフローで濃縮する。濃縮した上清をプロテイン-AGカラムにロードする。濃縮した上清は、50mMクエン酸ナトリウム、150mM NaCl、3mM ZnCl2、3mM CaCl2、pH=3.5を含む緩衝液で溶出することができる。酵素活性を含有する画分をプールし、IXPBS緩衝液pH7.4、11μM ZnCl2、20μM CaCl2に対して透析し、次いで、6mg/mlまで濃縮し、小さなアリコートに分配し、-80℃で保管する。
【0261】
全てにエンドトキシンが無いことを確かめるために、結果として生じたタンパク質試料を、Pierce LAL Chromogenic Endotoxin Quantitation Kit(cat.88282)を用いて試験する。
【0262】
酵素学
本明細書の他の場所に記載した実施例1および実施例2で議論した実験プロトコールに従って、精製後のNPP1-アルブミン融合タンパク質を特徴付ける。
【0263】
本明細書において引用された全ての特許、特許出願、および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明は特定の態様に関連して開示されたが、本発明の他の態様およびバリエーションが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのこのような態様および等価なバリエーションを含むと解釈されることが意図される。
【配列表】