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特許7390351ワイヤ放電加工機の制御方法およびワイヤ放電加工機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機の制御方法およびワイヤ放電加工機
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
B23H7/02 A
B23H7/02 R
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021214637
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023098106
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 正
(72)【発明者】
【氏名】出口 新
(72)【発明者】
【氏名】袋舘 大輝
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-087946(JP,A)
【文献】特開平11-048040(JP,A)
【文献】特開2011-016172(JP,A)
【文献】特開平06-114632(JP,A)
【文献】特開平05-154717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するワイヤ電極とワークとの間に所定のパルス電力を印加して、該ワークを加工するワイヤ放電加工機の制御方法において、
前記ワイヤ電極の走行方向に加工液を噴射するノズルを前記ワークに密着させ、
前記ノズルに供給ポンプによって加工液を供給し、
前記ノズルに供給される加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記供給ポンプを制御し、
前記ワイヤ電極の走行方向に対して横断方向に前記ワークを前記ワイヤ電極に対して相対移動させ、
前記ノズルに加工液を供給する供給ポンプに供給される電流の周波数を測定し、
前記測定された周波数が所定の閾値周波数(F th を超えたとき、前記供給ポンプの制御を圧力一定制御から、前記ノズルに、前記所定の閾値周波数(F th )よりも小さい周波数(F c )に対応する一定の流量の加工液を供給する流量一定制御に切り換え、
前記ノズルに供給される加工液の圧力を測定し、
前記供給ポンプが流量一定制御により制御されている間、前記測定された圧力が所定の閾値圧力(P th を超えたとき、前記供給ポンプに対する流量一定制御を停止して、前記閾値圧力(P th )よりも大きい前記所定の一定圧力(P c )とする前記圧力一定制御により前記供給ポンプを制御することを特徴としたワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項2】
前記測定された周波数が所定の閾値周波数(F th を超えたとき、前記ワイヤ電極と前記ワークとの間に印加されるパルス電力のパルス幅とパルス電流の一方または双方を低減することを更に含む請求項1に記載のワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項3】
前記測定された圧力が所定の閾値圧力(P th を超えたとき、前記ワイヤ電極と前記ワークとの間に印加されるパルス電力のパルス幅とパルス電流の一方または双方を増加させることを更に含む請求項1に記載のワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項4】
加工液を噴射する上ノズルと下ノズルとの間で走行するワイヤ電極とワークとの間にパルス電力を印加し、前記上ノズルと下ノズルから前記ワークへ向けて加工液を噴射して前記ワークを加工するワイヤ放電加工機の制御方法において、
前記ワークの上面と下面とが互いに前記ワイヤ電極の走行方向に対向するようにワークを配置し、
前記ワークの最も高い上面に密着可能に前記上ノズルを位置決めし、
前記ワークの最も低い下面に密着可能に下ノズルを位置決めし、
前記上ノズルと下ノズルの各々に所定の一定圧力(P c で加工液を供給し、
前記ワイヤ電極の走行方向に対して横断方向に前記ワークを前記ワイヤ電極に対して相対移動させ、
前記上ノズルに加工液を供給する第1の供給ポンプに供給する電流の周波数と、前記上ノズルに供給される加工液の圧力とを測定し、
前記下ノズルに加工液を供給する第2の供給ポンプに供給する電流の周波数と、前記下ノズルに供給される加工液の圧力とを測定し、
前記ワークの上面に前記上ノズルが密着する間、前記上ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記第1の供給ポンプを制御し、
前記ワークの下面に前記下ノズルが密着する間、前記下ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記第2の供給ポンプを制御し、
前記第1の供給ポンプへ供給される電流と、前記第2の供給ポンプへ供給される電流の何れか一方または双方の周波数が所定の閾値周波数(F th を超えたとき、該閾値周波数(F th を超えた電流を供給される供給ポンプの制御を前記圧力一定制御から、前記所定の閾値周波数(F th )よりも小さい周波数(F c )に対応する所定の一定の流量の加工液を吐出する流量一定制御に切り換え、
前記第1と第2の供給ポンプの一方または双方が流量一定制御により制御されている間、前記測定された圧力が所定の閾値圧力(P th を超えたとき、該所定の閾値圧力(P th を超えた加工液を吐出する供給ポンプに対する流量一定制御を前記閾値圧力(P th )よりも大きい前記所定の一定圧力(P c )とする圧力一定制御に切り換えることを特徴としたワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項5】
前記第1と第2の供給ポンプの一方または双方の前記測定された周波数が所定の閾値周波数(F th を超えたとき、前記ワイヤ電極と前記ワークとの間に印加されるパルス電力のパルス幅とパルス電流の一方または双方を低減することを更に含む請求項4に記載のワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項6】
第1と第2の供給ポンプの一方または双方の前記測定された圧力が所定の閾値圧力(P th を超えたとき、前記ワイヤ電極と前記ワークとの間に印加されるパルス電力のパルス幅とパルス電流の一方または双方を増加させることを更に含む請求項4に記載のワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項7】
加工液を噴射する上ノズルと下ノズルとの間で走行するワイヤ電極とワークとの間にパルス電力を印加し、前記上ノズルと下ノズルから前記ワークへ向けて加工液を噴射して前記ワークを加工するワイヤ放電加工機において、
前記ワークの上面と下面とが互いに前記ワイヤ電極の走行方向に対向するようにワークを位置決めするワーク取付台と、
前記ワークの最も高い上面に密着可能に設けられた前記上ノズルと、
前記ワークの最も低い下面に密着可能に設けられた下ノズルと、
前記上ノズルと下ノズルの各々に加工液を供給する第1と第2の供給ポンプと、
前記ワイヤ電極の走行方向に対して横断方向に前記ワークを固定した前記ワーク取付台を前記ワイヤ電極に対して相対移動させる送り装置と、
前記第1と第2の供給ポンプの吐出圧力を測定する第1と第2の圧力計と、
前記第1と第2の供給ポンプを制御する制御装置とを具備し、
前記制御装置が、前記ワークの上面に前記上ノズルが密着する間、前記上ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記第1の供給ポンプを制御し、前記ワークの下面に前記下ノズルが密着する間、前記下ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記第2の供給ポンプを制御し、前記第1の供給ポンプへ供給される電流と、前記第2の供給ポンプへ供給される電流の何れか一方または双方の周波数が所定の閾値周波数(F th を超えたとき、該閾値周波数(F th を超えた電流を供給される供給ポンプの制御を前記圧力一定制御から、前記所定の閾値周波数(F th )よりも小さい周波数(F c )に対応する所定の一定の流量の加工液を吐出する流量一定制御に切り換え、前記第1と第2の供給ポンプの一方または双方が流量一定制御により制御されている間、前記測定された圧力が所定の閾値圧力(P th を超えたとき、該所定の閾値圧力(P th を超えた加工液を吐出する供給ポンプに対する流量一定制御を前記閾値圧力(P th )よりも大きい前記所定の一定圧力(P c )とする圧力一定制御に切り換えることを特徴としたワイヤ放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高さ方向位置が変化する起伏を有したワークを加工するワイヤ放電加工機の制御方法およびワイヤ放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークとワイヤ電極との放電加工部に一定圧力下で加工液を噴出するワイヤ放電加工機において、加工液の流量を検出して、検出した加工液の流量が適正範囲にない場合に、パルス電力を低減するようにしたワイヤ放電加工機が記載されている。
【0003】
特許文献2には、放電加工を行なう前に所定の設定圧力の加工液噴流を上下加工液噴流ノズルから被加工物の表面に向けて供給しながら空運転を行ない、上下加工液噴流ノズルにおける加工液の圧力を測定して相対移動軌跡上の相対位置と関連付けて記憶させ、実際の放電加工中は、記憶されている負荷圧力と測定された負荷圧力とを照合して、段差部で放電エネルギを漸増または漸減するように加工条件に段階的に変更するようにしたワイヤ放電加工機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-048040号公報
【文献】特開2010-240761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載されているように放電加工部へ向けてノズルから加工液を噴射しながらワイヤ電極とワークとの間にパルス電力を印加して、放電加工するワイヤ放電加工機で、ワークの表面に凹部が形成されているような表面が実質的に不連続な起伏のあるワークを加工すると、ワイヤ電極が凹部内に露出したときに、ワイヤ電極が振動してワイヤ電極が断線したり、ワークの加工面に筋状の加工痕が形成されることがある。こうした問題は、特許文献1、2に記載されたワイヤ放電加工機では解決するこができない。
【0006】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題とし、ワイヤ放電加工機により起伏のあるワークを加工する際、ワーク形状の変化を形状変化箇所を加工する前に検知して、それに適合するよう加工液の供給を変更するようにしたワイヤ放電加工機の制御方法およびワイヤ放電加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、走行するワイヤ電極とワークとの間に所定のパルス電力を印加して、該ワークを加工するワイヤ放電加工機の制御方法において、前記ワイヤ電極の走行方向に加工液を噴射するノズルを前記ワークに密着させ、前記ノズルに供給ポンプによって加工液を供給し、前記ノズルに供給される加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記供給ポンプを制御し、前記ワイヤ電極の走行方向に対して横断方向に前記ワークを前記ワイヤ電極に対して相対移動させ、前記ノズルに加工液を供給する供給ポンプに供給される電流の周波数を測定し、前記測定された周波数が所定の閾値周波数(F th を超えたとき、前記供給ポンプの制御を圧力一定制御から、前記ノズルに、前記所定の閾値周波数(F th )よりも小さい周波数(F c )に対応する一定の流量の加工液を供給する流量一定制御に切り換え、前記ノズルに供給される加工液の圧力を測定し、前記供給ポンプが流量一定制御により制御されている間、前記測定された圧力が所定の閾値圧力(P th を超えたとき、前記供給ポンプに対する流量一定制御を停止して、前記閾値圧力(P th )よりも大きい前記所定の一定圧力(P c )とする前記圧力一定制御により前記供給ポンプを制御するようにしたワイヤ放電加工機の制御方法が提供される。
【0008】
更に本発明によれば、加工液を噴射する上ノズルと下ノズルとの間で走行するワイヤ電極とワークとの間にパルス電力を印加し、前記上ノズルと下ノズルから前記ワークへ向けて加工液を噴射して前記ワークを加工するワイヤ放電加工機の制御方法において、前記ワークの上面と下面とが互いに前記ワイヤ電極の走行方向に対向するようにワークを配置し、前記ワークの最も高い上面に密着可能に前記上ノズルを位置決めし、前記ワークの最も低い下面に密着可能に下ノズルを位置決めし、前記上ノズルと下ノズルの各々に所定の一定圧力(P c で加工液を供給し、前記ワイヤ電極の走行方向に対して横断方向に前記ワークを前記ワイヤ電極に対して相対移動させ、前記上ノズルに加工液を供給する第1の供給ポンプに供給する電流の周波数と、前記上ノズルに供給される加工液の圧力とを測定し、前記下ノズルに加工液を供給する第2の供給ポンプに供給する電流の周波数と、前記下ノズルに供給される加工液の圧力とを測定し、前記ワークの上面に前記上ノズルが密着する間、前記上ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記第1の供給ポンプを制御し、前記ワークの下面に前記下ノズルが密着する間、前記下ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記第2の供給ポンプを制御し、前記第1の供給ポンプへ供給される電流と、前記第2の供給ポンプへ供給される電流の何れか一方または双方の周波数が所定の閾値周波数(F th を超えたとき、該閾値周波数(F th を超えた電流を供給される供給ポンプの制御を前記圧力一定制御から、前記所定の閾値周波数(F th )よりも小さい周波数(F c )に対応する所定の一定の流量の加工液を吐出する流量一定制御に切り換え、前記第1と第2の供給ポンプの一方または双方が流量一定制御により制御されている間、前記測定された圧力が所定の閾値圧力(P th を超えたとき、該所定の閾値圧力(P th を超えた加工液を吐出する供給ポンプに対する流量一定制御を前記閾値圧力(P th )よりも大きい前記所定の一定圧力(P c )とする圧力一定制御に切り換えるようにしたワイヤ放電加工機の制御方法が提供される。
【0009】
更に本発明によれば、加工液を噴射する上ノズルと下ノズルとの間で走行するワイヤ電極とワークとの間にパルス電力を印加し、前記上ノズルと下ノズルから前記ワークへ向けて加工液を噴射して前記ワークを加工するワイヤ放電加工機において、前記ワークの上面と下面とが互いに前記ワイヤ電極の走行方向に対向するようにワークを位置決めするワーク取付台と、前記ワークの最も高い上面に密着可能に設けられた前記上ノズルと、前記ワークの最も低い下面に密着可能に設けられた下ノズルと、前記上ノズルと下ノズルの各々に加工液を供給する第1と第2の供給ポンプと、前記ワイヤ電極の走行方向に対して横断方向に前記ワークを固定した前記ワーク取付台を前記ワイヤ電極に対して相対移動させる送り装置と、前記第1と第2の供給ポンプの吐出圧力を測定する第1と第2の圧力計と、前記第1と第2の供給ポンプを制御する制御装置とを具備し、前記制御装置が、前記ワークの上面に前記上ノズルが密着する間、前記上ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記第1の供給ポンプを制御し、前記ワークの下面に前記下ノズルが密着する間、前記下ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力(P c とする圧力一定制御により前記第2の供給ポンプを制御し、前記第1の供給ポンプへ供給される電流と、前記第2の供給ポンプへ供給される電流の何れか一方または双方の周波数が所定の閾値周波数(F th を超えたとき、該閾値周波数(F th を超えた電流を供給される供給ポンプの制御を前記圧力一定制御から、前記所定の閾値周波数(F th )よりも小さい周波数(F c )に対応する所定の一定の流量の加工液を吐出する流量一定制御に切り換え、前記第1と第2の供給ポンプの一方または双方が流量一定制御により制御されている間、前記測定された圧力が所定の閾値圧力(P th を超えたとき、該所定の閾値圧力(P th を超えた加工液を吐出する供給ポンプに対する流量一定制御を前記閾値圧力(P th )よりも大きい前記所定の一定圧力(P c )とする圧力一定制御に切り換えるようにしたワイヤ放電加工機が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポンプに供給される電流の周波数を測定し、測定された周波数が所定の閾値周波数を超えたとき、ポンプの制御を圧力一定制御からノズルに所定の一定の流量の加工液を供給する流量一定制御に切り換えるようにしたので、ワークの凹部に露出するワイヤ電極が振動して、ワイヤ電極の破断や、ワークの加工面に筋状の加工痕が形成されることが防止される。また、加工液の供給の変更に合せて、加工電力条件を予め定めた値に制御すれば、加工能率を必要以上に下げることなく、加工時間の短縮も実現する。更に、本制御は、ワーク上面の高さ位置が変化する起伏と、ワーク下面の高さ位置が変化する起伏に対して独立して行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の好ましい実施形態によるワイヤ放電加工機の制御装置のブロック図である。
図2】起伏のあるワークを加工する様子を示す略図である。
図3図2において矢視線III-IIIの方向に見た平面図である。
図4】加工中に上ノズルが図2、3の位置X-2に到達し、ワークの凹部の側壁に差し掛かったとき、上ノズルの先頭部分に形成される開口を説明するための略図である。
図5】加工中に上ノズルが図2、3の位置X-3に到達し、ワークの凹部の反対側の側壁に差し掛かったとき、上ノズルの先頭部分がワークの上面によって閉塞されることを説明するための略図である。
図6】供給ポンプへ供給される交流電流の周波数および供給ポンプの吐出圧力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の好ましい実施形態による放電加工機を示す図である。
ワイヤ放電加工機10は、対向配置された上下ヘッド12、14と、ワーク17を固定するワーク取付台37、放電加工部に加工液を供給する加工液供給装置18、ワイヤ電極16とワーク17との間に所定のパルス電圧を印加する電源装置38およびワイヤ放電加工機10の作動を制御する制御装置50を備えている。
【0013】
ワイヤ電極16は、図示しないワイヤ電極供給リールから複数のガイドローラ(図示せず)により画成される走行路を経由して、上下ヘッド12、14間を走行するように供給され、ワイヤ電極回収装置(図示せず)に回収される。ワーク17は、ワーク取付台37に固定され、上下ヘッド12、14の間、より詳細には、上ヘッド12のノズル12a(上ノズル12a)と、下ヘッド14のノズル14a(下ノズル14a)の間に配置される。
【0014】
なお、本開示では、ワイヤ電極16の走行方向にZ軸を、そしてワイヤ電極16の走行方向に垂直な平面内で、互いに直交する2つの方向にX軸、Y軸を定義する。典型的には、鉛直方向にZ軸が、そして2つの直交する水平方向にX軸、Y軸が定義される。図1では、紙面に垂直な方向にY軸、左右方向にX軸、そして上下方向にZ軸が定義されている。
【0015】
ワイヤ電極16とワーク17は電源装置38に接続されており、両者間に所定のパルス電力が印加される。これにより、ワイヤ電極16とワーク17の間に放電が発生し、この放電のエネルギによりワーク17に放電加工が行われる。ワイヤ電極16は上ヘッド12内または上ヘッド12の近傍に配設された給電子(図示せず)を介して電源装置38に接続される。ワーク17は、ワーク取付台37を介して電源装置38に接続される。そして、放電加工過程にワーク17がワーク取付台37と共にX-Y平面内で送り制御を受けることにより、所望の軌跡に沿って放電加工が進行し、ワーク17から所望形状を有した製品が加工される。
【0016】
なお、ワーク17は、上ノズル12aと下ノズル14aの何れか一方または双方に対面する表面が実質的に不連続な起伏のあるワークである。図2、3を参照すると、一例として示すワーク17は、上ノズル12aに対面する上面USに凹部17a、17bが形成され、下ノズル14aに対面するする下面BSに凹部17cが形成されている。凹部17a、17b、17cはステップ状に凹んでおり、典型的には、各々の側壁17d、17e;17f、17g;17h、17iがワイヤ電極16の走行方向またはZ軸方向に対して略平行となっている。
【0017】
本実施形態では、ワイヤ放電加工機10は、ワーク取付台37をX軸、Y軸方向に送るX軸送り装置(図示せず)およびY軸送り装置(図示せず)を備え、前記ワーク取付台37はX軸、Y軸方向に移動可能に設けられている。更に、ワイヤ放電加工機10は、上ヘッド12をZ軸方向に位置決めするZ軸送り装置(図示せず)を備えている。本実施形態では、下ヘッド14はワイヤ放電加工機10のコラム等の静止部(図示せず)に固定され、上ヘッド12のみがZ軸方向に移動可能となっている。ワーク17を治具(図示せず)を用いて適切な高さにワーク取付台37に固定することによって、下ヘッド14とワーク17とがZ軸方向に相対的に位置決めされる。
【0018】
X軸、Y軸およびZ軸送り装置は、X軸、Y軸およびZ軸方向に延設されたX軸ボールねじ(図示せず)、Y軸ボールねじ(図示せず)およびZ軸ボールねじ(図示せず)と、ワーク取付台37に取り付けられ、X軸ボールねじおよびY軸ボールねじにそれぞれ係合するナット、上ヘッド12に取り付けられ、Z軸ボールねじに係合するナット、X軸ボールねじ、Y軸ボールねじおよびZ軸ボールねじの各々の一端に結合されたX軸サーボモータ34、Y軸サーボモータ35およびZ軸サーボモータ36を含むことができる。X軸、Y軸および/またはZ軸送り装置は、ボールねじとサーボモータとの組み合わせに替えて、X軸、Y軸およびZ軸方向に延在するステータ(図示せず)を備えたリニアモータ(図示せず)を用いてもよい。
【0019】
加工液供給装置18は、清浄な加工液を貯留する清浄タンク19a、放電加工に使用された加工液を回収する回収タンク19b、回収タンク19bから清浄タンク19aに加工液を供給する濾過ポンプ26、濾過ポンプ26の出口側配管に配設されたフィルタ28、清浄タンク19aから上ヘッド12へ供給管路22a、22bを介して加工液を供給する第1の供給ポンプ20、および、清浄タンク19aから下ヘッド14へ供給管路23a、23bを介して加工液を供給する第2の供給ポンプ21を含む。清浄タンク19aと回収タンク19bとの間に調整管29を設け、清浄タンク19aよりオーバーフローした加工液を回収タンク19bに回収するようにしてもよい。
【0020】
第1と第2の供給ポンプ20、21は流量可変のポンプであり、一例として、以下の説明では、第1と第2の供給ポンプ20、21へ供給する交流電流の周波数を制御することによって、その吐出流量を制御可能なインバータポンプにより構成されている。つまり、第1と第2の供給ポンプ20、21は、回転数を制御することによって、吐出する流量を制御するようになっている。こうしたポンプの吐出流量は、一般的に、ポンプを駆動するモータへ供給する交流電流の周波数に概ね比例する。
【0021】
第1と第2の供給ポンプ20、21の下流側の供給管路22b、23bには、第1と第2の供給ポンプ20、21から吐出される加工液の圧力または上下ヘッド12、14に供給される加工液の圧力を測定する第1と第2の圧力センサ30、31が配設されている。
【0022】
上下ヘッド12、14には、加工液供給用の上下ノズル12a、14aが備えられている。上ノズル12aは上ヘッド12に固定され、Z軸送り装置によって、上ヘッド12と共にZ軸方向に位置決めされる。下ノズル14aは、下ヘッド14に固定されている。加工液供給装置18から上下ヘッド12、14に加工液が供給される。上下ヘッド12、14に供給された加工液は、上下ノズル12a、14aからワーク17へ向けて噴射される。
【0023】
より詳細には、第1の供給ポンプ20によって、清浄タンク19aから供給管路22a、22bを介して上ヘッド12へ供給された加工液は、上ノズル12aからワーク17の上面USに向けて噴射される。第2の供給ポンプ21によって、清浄タンク19aから供給管路23a、23bを介して下ヘッド14へ供給された加工液は、下ノズル14aからワーク17の下面BSに向けて噴射される。
【0024】
上ノズル12aおよび下ノズル14aの各々の先端には、円形の穴(墳口)12b、14b(図4参照)形成されており、該墳口の中心部をワイヤ電極16が挿通される。ワイヤ電極16は、上ヘッド12および下ヘッド14内に配設されたワイヤガイド(図示せず)によって、X-Y平面内で上ノズル12aおよび下ノズル14aに対して中心に位置決めされる。上下ヘッド12、14は、上下ノズル12a、14aの先端がワーク17の表面に密着するように、ワーク17に対してZ軸方向に位置決めされる。より詳細には、上ノズル12aは、ワーク17の上面USの最も高い表面に密着するように配置され、下ノズル14aは、ワーク17の下面BSの最も低い表面に密着するように配置される。上下ノズル12a、14aが、ワーク17の上面USと下面BSに密着した状態で、加工液が、上下ノズル12a、14aから、ワイヤ放電加工によって形成された加工軌跡の空隙GPm(図3参照)に噴流状に供給される。
【0025】
本実施形態では、第1と第2の供給ポンプ20、21は、第1と第2のインバータ32、33に接続されており、第1と第2のインバータ32、33から各々の駆動モータ(図示せず)に供給される交流電流の周波数を制御することによって、第1と第2の供給ポンプ20、21から吐出される加工液の圧力を独立に制御するようになっている。図1には、2つのインバータ(第1と第2のインバータ32、33)が図示されているが、出力される交流電流の周波数を独立に変更可能な2つの出力ポートを備えた1つのインバータを用いてもよい。
【0026】
上下ノズル12a、14aからワーク17へ向けて噴射された加工液は、ワイヤ放電加工によって発生する熱や加工屑を除去した後、下ノズル14aの下側に配設された加工液回収部としての加工液パン24に受容され、加工液パン24から回収配管25を経由して加工液の回収タンク19bへ戻される。ここから濾過ポンプ26、フィルタ28を介して清浄タンク19aに送出されて再利用される。回収管路25は、加工液パン24からの加工液を回収タンク19bへ向けて圧送する回収ポンプ(図示せず)を備えていてもよい。
【0027】
制御装置50は、NC部51、ポンプ制御部52、第1と第2の圧力制御部55、56、記憶部53および判定部54を主要な構成要素として備えている。ポンプ制御部52、第1と第2の圧力制御部55、56、記憶部53および判定部54は、CPU(中央演算素子)、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)のようなメモリ装置、出入力ポート、および、これらを相互接続する双方向バスを含むコンピュータおよび関連するソフトウェアから構成することができる。制御装置50は、HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)のような記憶デバイスを含んでいてもよい。
【0028】
NC部51は、一般的なNC装置により形成することができ、NC部に入力された加工プログラムを読取り、解釈して、X軸、Y軸およびZ軸サーボモータ34、35、36を制御する。電源装置38は、NC部51が読み込んだ加工プログラム中に記述されている電源オン-オフ指令に基づいて起動、停止するようにできる。また、ポンプ制御部52、第1と第2の圧力制御部55、56、記憶部53および判定部54は、NC部51を形成するNC装置の一部として構成してもよい。
【0029】
ポンプ制御部52は、第1と第2のインバータ32、33に直接接続されると共に、第1と第2の圧力制御部55、56を介して第1と第2のインバータ32、33に接続されている。ポンプ制御部52は、第1と第2のインバータ32、33に周波数指令値出力し、第1と第2のインバータ32、33から第1と第2の供給ポンプ20、21に出力される交流電流の周波数を制御することを通じて第1と第2の供給ポンプ20、21を制御することができる。
【0030】
また、ポンプ制御部52は、第1と第2の供給ポンプ20、21が、後述の圧力一定制御される間、第1と第2の圧力制御部55、56にそれぞれ独立して目標圧力指令を出力する。目標圧力は、ワーク17の厚さ(ワイヤ電極16の走行方向の寸法)によって適切な圧力が変わるので、予め実験等により適切な値を決定し、ワーク17の厚さに関連させて記憶部53に格納しておくことができる。
【0031】
第1と第2の圧力制御部55、56は、第1と第2のインバータ32、33に接続されると共に、第1と第2の供給ポンプ20、21の各々の下流側の供給管路22b、23bに配設されている第1と第2の圧力センサ30、31に接続されている。第1と第2の供給ポンプ20、21の吐出圧力と、第1と第2の供給ポンプ20、21に供給される交流電流の周波数との関係は、予め実験によって求めておくことができる。
【0032】
第1と第2の圧力制御部55、56は、ポンプ制御部52からの目標圧力指令値と、第1と第2の圧力センサ30、31が検知した、第1と第2の供給ポンプ20、21の吐出圧力(測定圧力)との差分に基づき、第1と第2の供給ポンプ20、21の吐出圧力が目標圧力になるように、第1と第2のインバータ32、33に対して周波数指令値を出力する。
【0033】
ここで、第1の供給ポンプ20は、上述のように、第1のインバータ32により周波数一定制御され、供給される交流電流の周波数に比例させて加工液を吐出し、また一般的に、流量は圧力の平方根に比例する(ベルヌーイの定理)ので、第1と第2のインバータ32、33から第1と第2の供給ポンプ20、21へ供給される交流電流の周波数の増分が、目標圧力と測定圧力との差分の平方根に比例するように、第1と第2の圧力制御部55、56から第1と第2のインバータ32、33へ周波数指令が出力される。
【0034】
第1と第2の供給ポンプ20、21に供給される交流電流の周波数と、第1と第2の供給ポンプ20、21の吐出圧力は、ワーク17の厚さ(ワイヤ電極16の走行方向の寸法)によって変わるので、周波数と吐出圧力との関係を予め実験等により求め、記憶部53に格納しておくことができる。
【0035】
こうして、ポンプ制御部52は、フィードバック制御により、第1と第2の供給ポンプ20、21の吐出圧力が、ポンプ制御部52から指令される目標圧力になるように、第1と第2の供給ポンプ20、21を制御することができる。
【0036】
このように、ポンプ制御部52は、第1と第2のインバータ32、33に直接周波数指令値を出力する周波数一定制御と、第1と第2の圧力制御部55、56に圧力指令を出力する圧力一定制御とによって、第1と第2の供給ポンプ20、21を制御する。本実施形態では、後述のように、ポンプ制御部52は、判定部54からの判定結果に基づいて、周波数一定制御と圧力一定制御とを切り替えるようになっている。
【0037】
判定部54は、第1と第2の供給ポンプ20、21各々の下流側管路22b、23bに設けられた第1と第2の圧力センサ30、31、および、第1と第2の供給ポンプ20、21への第1と第2のインバータ32、33の各々の出力40、41に接続されている。判定部54は、更に、電源装置38に接続されている。
【0038】
既述したように本発明では、ワーク17は、上ノズル12aと下ノズル14aの何れか一方または双方に対面する表面に不連続な凹部を有した起伏のあるワークとなっている。図2、3を参照すると、一例として、ワーク17は、上ノズル12aに対面する上面USに形成された凹部17a、17bと、下ノズル14aに対面する下面BSに形成された凹部17cとを有している。
【0039】
ワーク取付台37に固定されたワーク17は、X軸送り装置およびY軸送り装置(図1ではX軸サーボモータ34およびY軸サーボモータ35のみ図示されている)によって、ワーク取付台37と共にX-Y平面内で送られる。一例として示す図2、3では、ワーク17はX軸に沿って左方向に移動し、その結果、上ノズル12aおよび下ノズル14aは、ワーク17に対して矢印Amの方向に移動するように図示されている。つまり、図2、3では、矢印Amは、ワーク17に対する上下ノズル12a、14aの相対的な移動を示している。
【0040】
図2、3において、X-1は、ワーク17の端縁17ESにワイヤ電極16が係合する直前の位置(ワーク17に対する上下ノズル12a、14aおよびワイヤ電極16の相対的な位置)を、X-2は、上下ノズル12a、14aが、X-1からワーク17に対して矢印Amの方向へ移動し、ワイヤ電極16が凹部17aの側壁17dを破断する直前の位置を、そしてX-3は、ワイヤ電極16が、凹部17aを横断して矢印Amの方向にワーク17に対して更に移動し、凹部17aの側壁17dに対面する反対側の側壁17eに係合する直前の位置を示している。
【0041】
図4は、上ノズル12aが位置X-2にあるときの上ノズル12aとワーク17の凹部17aとの位置関係を示す拡大図である。上ノズル12aが位置X-2に到達し、ワーク17の凹部17aの側壁17dに差し掛かると、上ノズル12aの先頭部分がワーク17の上面に接触しなくなり、図4に示すように、上ノズル12aの先頭部分に開口NOが形成される。このとき、ワイヤ電極16は、凹部17aの側壁17dに未だ到達していない。
【0042】
上ノズル12aは、上述のように、ワーク17の上面に密接させた状態で、ワーク17に対して矢印Amの方向に移動する。従って、上ノズル12aから噴出する加工液は、ワイヤ放電加工によって形成された加工軌跡の空隙GPm内に流入することとなる。また、この間、第1の供給ポンプ20は、吐出圧力が一定になるように圧力一定制御されている。
【0043】
上述のように、上ノズル12aが、ワーク17の凹部17aの側壁17dに差し掛かり、開口NOが出現すると、上ノズル12aの墳口12bからの加工液は、空隙GPmはもとより、開口NOへも流入するようになる。上ノズル12aが矢印Amの方向に更に移動すると、開口NOの面積は次第に大きくなるので、上ノズル12aの移動の間、第1の圧力センサ30が検知する第1の供給ポンプ20の下流側の供給管路22b内の圧力は低下する傾向を示す。
【0044】
上ノズル12aが、ワーク17に対して矢印Amの方向に更に移動し、ワイヤ電極16が凹部17aの側壁17dを破断すると、ワイヤ電極16の一部が凹部17a内に露出する。ワイヤ電極16において凹部17a内に露出した部分は、上ノズル12aから噴出する加工液によって振動し、ワイヤ電極16が破断したり、加工面が筋状に損傷したりする。本発明では、これを防止するために、ワイヤ電極16が凹部17aに露出する直前に、後述のように、上ノズル12aから吐出される加工液の流量を低減するようになっている。
【0045】
上述のように、開口NOが出現したとき、第1の供給ポンプ20は、吐出圧力が一定となるように圧力一定制御されている。従って、供給管路22b内の圧力低下によって、ポンプ制御部52からの目標圧力指令値と、第1の圧力センサ30が検知した第1の供給ポンプ20の吐出圧力との差分が大きくなると、第1の圧力制御部55は、第1のインバータ32に対して、第1の供給ポンプ20へ供給する交流電流の周波数を高めるよう指令する。その結果、第1の供給ポンプ20へ供給される交流電流の周波数が次第に高くなる。
【0046】
本実施形態では、第1の供給ポンプ20が圧力一定制御されている間、第1の供給ポンプ20へ供給される交流電流の周波数が所定の閾値(閾値周波数)を超えたときに、第1の供給ポンプ20の制御を、吐出圧力が一定となる圧力一定制御から、第1の供給ポンプ20へ予め決定された所定の一定周波数の交流電流を供給する周波数一定制御に切り替えるようになっている。このときの前記閾値周波数は、予め実験等により適切な値を決定することができる。
【0047】
こうして、判定部54は、第1の供給ポンプ20が圧力一定制御されてる間、第1のインバータ32が出力する交流電流の周波数を監視し、これが閾値周波数を超えたときに、第1の供給ポンプ20の制御を圧力一定制御から流量一定制御に切り替える。つまり、判定部54は、ポンプ制御部52に対して、第1の供給ポンプ20の制御方式の切換を指令する。こうして、上ノズル12aへの加工液の供給方式が、所定の一定の圧力から、所定の一定の流量に切り換えられる。
【0048】
判定部54は、また、第1のインバータ32が出力する交流電流の周波数が閾値周波数を超えたときに、電源装置38に、ワイヤ電極16とワーク17との間に印加されるパルス電力を所定の低パルス電力に低減するよう指示する。このパルス電力は、パルス幅とパルス電流の一方または双方を低減することによって低減することができる。
【0049】
このときの加工液の所定の一定の流量は予め実験等によって決定することができる。この場合、第1の供給ポンプ20の下流側の供給管路22bに加工液の流量を測定する流量計(図示せず)を配設し、供給管路22bを流通する加工液の流量をフィードバック制御するようにできる。
【0050】
また、加工液の上記所定の一定の流量および低パルス電力は、凹部17a、17bのそれぞれの深さに応じて変更してもよい。この場合、加工液の流量および低パルス電力を、凹部17a、17bのそれぞれの深さに関連させて記憶部53に格納することができる。また、凹部17a、17bの深さは、オペレータが制御装置50に手動で入力することができる。また、凹部17a、17bの位置座標に関連させて凹部17a、17bのそれぞれの深さをワーク17のための加工プログラムに記入しておき、判定部54が、加工中に凹部17a、17bの深さをNC部51から読取り、第1のインバータ32が出力する交流電流の周波数が閾値周波数を超えたときの、X、Y座標値と対照させることによって、凹部17aまたは18bの深さを求めるようにしてもよい。
【0051】
また、上ノズル12aから吐出される加工液の流量は、第1の供給ポンプ20へ供給する交流電流の周波数に比例するので、これにより、上ノズル12aからは、所定流量の加工液が噴出するようになる。従って、第1のインバータ32が出力する交流電流の周波数が前記閾値周波数を超えたとき、第1の供給ポンプ20の吐出流量が一定になるように制御することに代えて、第1のインバータ32の出力する交流電流の周波数を所定の一定周波数に制御してもよい。
【0052】
本実施形態では、圧力一定制御から流量一定制御への制御方式の切換指令を判定部54から受けると、ポンプ制御部52は、第1の圧力制御部55に対して、第1のインバータ32への指令の出力を停止する指令を発する、或いは、第1の圧力制御部55に出力する目標圧力を0(零)にすると共に、所定の一定の周波数の交流電流を第1の供給ポンプ20へ供給すべき旨の指令を第1のインバータ32に指令する、或いは、第1の供給ポンプ20へ供給する交流電流の一定の周波数を指定するようになっている。これにより、予め決定された所定の一定周波数の交流電流が第1の供給ポンプ20に供給される。第1の供給ポンプ20を周波数一定制御する間の前記一定の周波数は、予め実験等によって決定することができる。
【0053】
この一定の周波数は、凹部17a、17bのそれぞれの深さに応じて変更してもよい。この場合、複数の一定の周波数を、凹部17a、17bのそれぞれの深さに関連させて記憶部53に格納することができる。また、凹部17a、17bの深さは、オペレータが制御装置50に手動で入力することができる。また、凹部17a、17bの位置座標に関連させて凹部17a、17bのそれぞれの深さをワーク17のための加工プログラムに記入しておき、判定部54が、加工中に凹部17a、17bの深さをNC部51から読取り、第1のインバータ32が出力する交流電流の周波数が閾値周波数を超えたときの、X、Y座標値と対照させることによって、凹部17aまたは17bの深さを求めるようにしてもよい。
【0054】
上ノズル12aが、矢印Amの方向に更に移動し、上ノズル12aの移動方向の先頭部分が、ワーク17の凹部17aの側壁17dの反対側の側壁17eに差し掛かると(位置X-3)、図5に示すように、上ノズル12aの先頭部分とワーク17の上面USとが接触する。これにより、上ノズル12aの墳口12bの先頭部分がワーク17の上面USによって部分的に閉塞される。図5では、ワイヤ電極16は、凹部17aの側壁17eに接触していない。
【0055】
上述のように、上ノズル12aが、ワーク17の凹部17aを横断する間、第1の供給ポンプ20は、吐出する流量が一定である流量一定制御、或いは、供給される交流電流の周波数が一定である周波数一定制御されているので、上ノズル12aが凹部17aの側壁17eに差し掛かり、墳口12bが部分的に閉塞されると、第1の供給ポンプ20の下流側の管路23b内の加工液の圧力が増加する。管路23b内の加工液の圧力が増加し始めても、図5に示すように、ワイヤ電極16は、未だ凹部17aの側壁17eには到達していない。
【0056】
ワイヤ電極16が、凹部17aの側壁17eに到達すると、凹部17aによって露出していたワイヤ電極16の一部とワーク17との間で放電が始まる。ワイヤ電極16が凹部17aの側壁17eに接触した後に、上ノズル12aが、更にワーク17に対して矢印Amの方向に移動すると、該側壁17eが削られワーク17に空隙GPmが形成される。つまり、凹部17a内に露出していたワイヤ電極16の部分は、ワーク17内に進入していくので、上ノズル12aから吐出される加工液の制御を従前の圧力一定制御に戻さなければならない。
【0057】
本実施形態では、第1の供給ポンプ20が、吐出量が一定の流量一定制御、または、供給される交流電流の周波数が一定の周波数一定制御されている間、第1の供給ポンプ20の吐出圧力が所定値を超えたときに、第1の供給ポンプ20の制御方式を、流量一定制御または周波数一定制御から、第1の供給ポンプ20の吐出圧力が一定である圧力一定制御に切り換えるようになっている。このときの第1の供給ポンプ20の一定の吐出圧力は、上述した目標圧力である。
【0058】
こうして、判定部54は、第1の圧力センサ30の検知する圧力を監視し、これが閾値圧力を超えたときに、第1の供給ポンプ20の制御方式を流量一定制御または周波数一定制御から圧力一定制御に切り替える。
【0059】
判定部54は、また、第1の圧力センサ30の検知する圧力が閾値圧力を超えたときに、電源装置38に、ワイヤ電極16とワーク17との間に印加されるパルス電力を従前のパルス電力に増加するよう指示する。このパルス電力の増加は、パルス幅とパルス電流の一方または双方を増加することによって実施することができる。
【0060】
図6は、本実施形態によるワイヤ放電加工機により図2、3に示すワークを加工したときの第1のインバータ32の出力する電流の周波数の変化と、第1の供給ポンプ20の吐出圧力(第1の圧力センサ30の測定圧力)の変化を示すグラフである。
図6において、X=X0でワイヤ電極16とワーク17の端縁部が係合し始める。その後、X0~X1で、加工液は、圧力一定制御CPのもと、所定の一定圧力PCで上ノズル12aに供給される。ここで、X0、X1、X2、X3は、それぞれワーク端縁部、側壁17d、側壁17e、側壁17fのX方向位置を示す(図3)。
【0061】
上述のように、上ノズル12aが、図2、3の位置X-2に到達し、ワーク17の凹部17aの側壁17dに差し掛かると、上ノズル12aの先頭部分に開口NOが形成され、それによって、圧力センサ30が測定する圧力値は低減される傾向を示し、それにつれて第1のインバータ32が出力する電流の周波数は次第に増加する。
【0062】
ワイヤ電極16が、X=X1近傍に到達すると、第1のインバータ32の出力する電流の周波数Fが、所定の閾値周波数Fthとなり、第1の供給ポンプ20の制御方式が、それまでの圧力一定制御CPから流量一定制御に切り換えられる。本実施形態では、第1の供給ポンプ20のための制御方式が、目標圧力と吐出圧力との差分に基づくフィードバック制御から、ポンプ制御部52から出力される周波数指令に基づく周波数一定制御CFに切り換えられる。こうして、第1のインバータ32から第1の供給ポンプ20に一定の周波数FCの電流が供給される。
【0063】
上ノズル12aが更に移動して、図2、3の位置X-3に到達し、上ノズル12aの移動方向の先頭部分が、ワーク17の凹部17aの側壁17dの反対側の側壁17eに差し掛かると、上ノズル12aの墳口12bの先頭部分がワーク17の上面USによって部分的に閉塞され、それによって、圧力センサ30が測定する圧力値は増加する傾向を示す。
【0064】
ワイヤ電極16が、X=X2の近傍に到達すると、圧力センサ30が測定する圧力値が所定の閾値圧力Pthとなり、第1の供給ポンプ20の制御方式が、それまでの流量一定制御(または周波数一定制御CF)から圧力一定制御CPに切り換えられる。本実施形態では、第1の供給ポンプ20のための制御方式が、ポンプ制御部52から出力される周波数指令に基づく周波数一定制御から、目標圧力と吐出圧力との差分に基づくフィードバック制御に切り換える。こうして、第1の供給ポンプ20から一定の圧力PCの加工液が上ノズル12aに供給される。
【0065】
ワイヤ電極16が、X=X3の近傍に到達すると、上記X=X1と同様に、第1の供給ポンプ20のための制御方式が、圧力一定制御CPから流量一定制御(周波数一定制御CF)に切り換えられ、そして、X=X4の近傍に到達すると、上記X=X2と同様に、流量一定制御(周波数一定制御CF)から圧力一定制御CPに切り換えられる。
【0066】
なお、上ノズル12aに加工液を供給する第1の供給ポンプ20に関連して本発明の好ましい実施形態を説明したが、ポンプ制御部52は、第1の供給ポンプ20とは独立して下ノズル14aに加工液を供給する第2の供給ポンプ21を制御するので、第2の供給ポンプ21も第1の供給ポンプ20と同様に制御される。すなわち、下ノズル14aがワーク17の下面BSに密着する間、第2の供給ポンプ21は、下ノズルへ供給する加工液の圧力を所定の一定圧力とする圧力一定制御により制御され、第2の供給ポンプ21へ供給される電流の周波数が所定の閾値周波数を超えたとき、第2の供給ポンプ21の制御方式が、圧力一定制御から、第2の供給ポンプ21から所定の一定の流量の加工液が吐出される流量一定制御に切り換えられ、そして流量一定制御の間、第2の供給ポンプ21の測定圧力が所定の閾値圧力を超えたとき、第2の供給ポンプ21の制御方式が、流一定制御から圧力一定制御に切り換えられる。
【符号の説明】
【0067】
10 ワイヤ放電加工機
12 上ヘッド
12a 上ノズル
14 下ヘッド
14a 下ノズル
16 ワイヤ電極
17 ワーク
18 加工液供給装置
20 第1の供給ポンプ
21 第2の供給ポンプ
37 ワーク取付台
38 電源装置
50 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6