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特許7390369発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/80 20060101AFI20231124BHJP
   C07C 1/24 20060101ALI20231124BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20231124BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20231124BHJP
   C12P 7/18 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C07C29/80
C07C1/24
C07C11/167
C07C31/20 B
C12P7/18
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021515445
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2019075123
(87)【国際公開番号】W WO2020058381
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】102018000008820
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519463673
【氏名又は名称】ベルサリス エッセ.ピー.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バルダッサーレ マリオ
(72)【発明者】
【氏名】セサナ アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ボルデス ファブリツィオ
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-065834(JP,A)
【文献】特表2012-528885(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054874(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103987852(CN,A)
【文献】特表2016-516096(JP,A)
【文献】国際公開第2014/170759(WO,A2)
【文献】特表2007-502325(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0069997(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0275465(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0313633(US,A1)
【文献】特表2017-537876(JP,A)
【文献】国際公開第2018/073282(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/80
C07C 1/24
C07C 11/167
C07C 31/20
C12P 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法であって、
(a)発酵ブロスを分離に供する工程と、
(b)工程(a)で得られた生成物をイオン交換樹脂による処理に供する工程と、
(c)工程(b)で得られた生成物を第1の蒸発に供する工程と、
(d)工程(c)で得られた生成物を第2の蒸発に供する工程と、
(e)工程(d)で得られた生成物を第3の蒸発に供し、精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールを得る工程と、
を含
前記第1の蒸発工程(c)が、30℃~100℃の範囲の温度で、及び、5mbar~100mbarの範囲の圧力で、行われ、
前記第2の蒸発工程(d)が、30℃~150℃の範囲の温度で、及び、1mbar~100barの範囲の圧力で、行われ、
前記第3の蒸発工程(e)が、30℃~150℃の範囲の温度で、及び、5mbar~100barの範囲の圧力で、行われる、
方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、
(a1a)精密濾過工程と、
(a)ナノ濾過工程と、
を含む、請求項1に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項3】
前記工程(a)が、
(a1b)遠心分離工程と、
(a)ナノ濾過工程と、
を含む、請求項1に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項4】
前記精密濾過工程(a1a)が、
0.01μm~1.0μmの範囲、好ましくは0.02μm~0.08μmの範囲の平均孔径を有する膜によって、及び/又は、
0.1bar~8barの範囲、好ましくは1bar~5barの範囲の膜間圧で操作して、
なお、前記膜間圧は、精密濾過モジュールの上流で測定された圧力と下流で測定された圧力との間の平均圧力として定義される;、及び/又は、
20℃~90℃の範囲、好ましくは40℃~70℃の範囲の温度、より好ましくは発酵温度において、及び/又は、
浸漬型若しくはクロスフロー構成若しくは動的クロスフロー構成のセラミック膜、又は浸漬型若しくはクロスフロー構成の平膜若しくは中空繊維ポリマー膜によって、
行われる、請求項2に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項5】
前記遠心分離工程(a1b)が、
20℃~90℃の範囲、好ましくは25℃~70℃の範囲の温度、より好ましくは室温(25℃)で、及び/又は、
50L/時~1000L/時の範囲、好ましくは90L/時~500L/時の範囲の遠心供給速度で操作して、及び/又は、
2000rpm~50000rpmの範囲、好ましくは3000rpm~9000rpmの範囲の回転速度で、
行われる、請求項3に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項6】
前記ナノ濾過工程(a)が、
100ダルトン~500ダルトンの範囲、好ましくは120ダルトン~400ダルトンの範囲の「分子量カットオフ」(MWCO)を有するナノ濾過膜によって、及び/又は、
15℃~100℃の範囲、好ましくは20℃~80℃の範囲の最大操作温度を有するナノ濾過膜によって、及び/又は、
10bar~50barの範囲、好ましくは20bar~40barの範囲の膜間圧で操作して、
行われ、前記膜間圧は、ナノ濾過モジュールの上流で測定された圧力と下流で測定された圧力との間の平均圧力として定義される、請求項2又は3に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項7】
イオン交換樹脂による前記処理工程(b)が、
(b)アニオン交換工程と、
(b)カチオン交換工程と、
の2つの工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項8】
前記工程(b)が、弱アニオン樹脂を含むカラムを用いて行われる、請求項7に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項9】
前記工程(b)が、強カチオン樹脂を含むカラムを用いて行われる、請求項7に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項10】
前記工程(b)及び前記工程(b)が、2BV/時~4BV/時の範囲、好ましくは2.5BV/時~3.5BV/時の範囲(BV=「ベッドボリューム」=単一カラムあたりの樹脂の容量)の流量(1時間あたりに工程(a)で得られる生成物のリットル量)で行われる、請求項7~9のいずれか一項に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項11】
前記工程(b)及び前記工程(b)から得られた生成物が、0.1μS/cm~100μS/cmの範囲、好ましくは0.5μS/cm~15μS/cmの範囲の残留導電率を有する、請求項7~10のいずれか一項に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項12】
工程(a)で得られた生成物が工程(b)に供給され、続いて工程(b)に供給されるか、又は工程(b)に供給され、続いて工程(b)に供給される、請求項7~11のいずれか一項に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項13】
前記第1の蒸発工程(c)が、
0℃~70℃の範囲の温度で、及び/又は、
0mbar~80mbarの範囲の圧力で、
行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項14】
前記第2の蒸発工程(d)が、
0℃~130℃の範囲の温度で、及び/又は、
mbar~80mbarの範囲の圧力で、
行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項15】
前記第3の蒸発工程(e)が、
0℃~130℃の範囲の温度で、及び/又は、
mbar~80mbarの範囲の圧力で、
行われる、請求項1~14のいずれか一項に記載の発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法。
【請求項16】
バイオ-1,3-ブタジエンを製造する方法であって、
請求項1~15のいずれか一項に従って得られたバイオ-1,3-ブタンジオールを含む混合物(i)を、少なくとも1つの脱水触媒の入った第1の反応器に供給し、アルケノールと、水と、任意に未反応の不純物及び/又はバイオ-1,3-ブタンジオールとを含み、前記第1の反応器から出るストリーム(ii)を得ることと、
任意に、前記ストリーム(ii)を第1の精製セクションに供給し、
アルケノールと、水と、任意に不純物とを含むストリーム(iii)、
水と、任意に不純物及び/又は未反応のバイオ-1,3-ブタンジオールとを含むストリーム(iv)、及び任意に、
不純物を含むストリーム(v)、
を得ることと、
前記ストリーム(iii)及び/又は前記ストリーム(iv)を少なくとも1つの脱水触媒の入った第2の反応器に供給し、バイオ-1,3-ブタジエンと、水と、任意に不純物及び/又は未反応のアルケノールとを含み、前記第2の反応器から出るストリーム(vi)を得ることと、
前記ストリーム(vi)を第2の精製セクションに供給し、
純粋なバイオ-1,3-ブタジエンを含むストリーム(vii)、
水と、任意に未反応のアルケノールとを含むストリーム(viii)、及び任意に、
不純物を含むストリーム(ix)、
を得ることと、
を含む、方法。
【請求項17】
エラストマー及び(コ)ポリマーの製造におけるモノマー又は中間体としての、請求項16に従って得られたバイオ-1,3-ブタジエンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法であって、(a)発酵ブロスを分離に供する工程と、(b)工程(a)で得られた生成物をイオン交換樹脂による処理に供する工程と、(c)工程(b)で得られた生成物を第1の蒸発に供する工程と、(d)工程(c)で得られた生成物を第2の蒸発に供する工程と、(e)工程(d)で得られた生成物を第3の蒸発に供し、精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールを得る工程とを含む、方法に関する。
【0003】
上記精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールは、バイオ-1,3-ブタジエンの製造に有利に使用することができ、さらに、バイオ-1,3-ブタジエンは、エラストマー及び(コ)ポリマーの製造においてモノマー又は中間体として有利に使用することができる。
【0004】
したがって、本発明の更なる主題は、上記のように得られた精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールからバイオ-1,3-ブタジエンを製造する方法、並びにエラストマー及び(コ)ポリマーの製造におけるモノマーとしての又は中間体としての上記バイオ-1,3-ブタジエンの使用である。
【0005】
さらに、上記のバイオ-1,3-ブタジエンの製造方法から、特にバイオ-1,3-ブタンジオールの脱水から、他のアルケノール、すなわちバイオ-2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)、バイオ-3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)、バイオ-3-ブテン-1-オール(アリルカルビノール)、より具体的にはバイオ-2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)及びバイオ-3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)が得られ、これらを、バイオ-1,3-ブタジエンの製造に加えて、さらに、ファインケミストリー、農芸化学、薬化学又は石油化学で使用することができる中間体の製造に有利に使用可能であることに留意されたい。
【0006】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的では、バイオ-2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)という用語は、シス異性体及びトランス異性体の混合物、シス異性体のみ、及びトランス異性体のみを指す。
【背景技術】
【0007】
例えば、バイオ-2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)は、ハロゲン化物、クロチルエステル、又はクロチルエーテルの前駆物質として使用することができ、さらに、例えば、モノマーの製造、ファインケミストリー(例えば、ソルビン酸、トリメチルヒドロキノン、クロトン酸、3-メトキシブタノールの製造用)、農芸化学、薬化学において中間体として使用することができる。
【0008】
バイオ-3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)は、溶媒として、ファインケミストリーにおいて、例えばポリオレフィン等のポリマーの変性における成分として使用され得る(例えば、特許文献1に記載される)。
【0009】
バイオ-3-ブテン-1-オール(アリルカルビノール)は、例えば、薬化学、農芸化学、香水、樹脂において原料として使用することができる。例えば、パラジウムによって触媒される、バイオ-3-ブテン-1-オール(アリルカルビノール)とハロゲン化アリールとのカップリング反応から、薬化学において、例えば葉酸代謝拮抗物質として使用することができるアリール置換アルデヒドが得られる。
【0010】
ポリオールを精製する方法は当該技術分野で知られている。
【0011】
例えば、特許文献2は、発酵ブロスから1つ以上のポリオール、特に1,3-プロパンジオール(1,3-PDO)を単離する方法であって、(a)発酵ブロスに塩基を添加して7よりも高いpHに上げる工程と、(b)発酵ブロスからポリオール、特に1,3-プロパンジオールを単離する工程とを含む、方法に関する。特に関心のあるポリオールは、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセロール、エチレングリコールである。単離工程(b)は、蒸発、蒸留、濾過、抽出又は結晶化によって行われる。上記方法は、工程(b)から得られた生成物中に存在する沈殿した固体を、1)濾過若しくは遠心分離、又は2)真空下での蒸留によって除去する工程(c)を更に含み得る。この特許では、1,3-ブタンジオールについては具体的に言及されていない。
【0012】
特許文献3は、1,3-プロパンジオールを産生することができる微生物から得られた発酵ブロスからバイオ-1,3-プロパンジオールを精製する方法であって、(a)発酵ブロスを濾過に供する工程と、(b)工程(a)で得られた生成物を、(i)アニオン交換、及び(ii)カチオン交換を含むイオン交換による精製の2つの工程に供してイオン性不純物を除去する工程と、(c)工程(ii)で得られた生成物を化学還元に供する工程と、(d)工程(c)で得られた生成物を、少なくとも2つの蒸留塔を含む少なくとも2つの蒸留プロセスに供して(ここで、上記蒸留塔の1つは、1,3-プロパンジオールの沸点よりも高い沸点を有する分子を除去し、もう1つは1,3-プロパンジオールの沸点よりも低い沸点を有する分子を除去する)、不純物の総濃度が約400ppm未満、275nmでの吸光度が0.075未満、及びab色値(CIE L)が約0.15未満の精製バイオ-1,3-プロパンジオールを得る工程とをこの順で含む、方法に関する。
【0013】
特許文献4は、発酵ブロスから1,4-ブタンジオール(1,4-BDO)を単離する方法であって、細胞を含む固形分から1,4-BDOに富む液分を分離することと、上記液分から水を除去することと、上記液分から塩を除去することと、1,4-BDOを精製することとを含む、方法に関する。上記方法は、細胞の除去(遠心分離及び/又は精密濾過及び/又は限外濾過)、二重又は三重効用蒸発器を備える蒸発システムによる水及び軽質化合物の除去、ナノ濾過及び/又はイオン交換樹脂及び/又は沈殿及び/又は結晶化による塩の除去等の様々な工程を含む。この特許出願は、そこに記載されている方法が、1,3-ブタンジオールの単離を目的とする場合には容易に変更することができると述べているが、この点で例は示されていない。
【0014】
特許文献5は、1,4-ブタンジオール(1,4-BDO)を精製する方法であって、(a)1,4-BDOの原料混合物を第1の蒸留塔に供して1,4-BDOの沸点よりも低い沸点を有する化合物を除去して、1,4-BDOを含む第1のストリームを得る工程と、(b)1,4-BDOを含む上記第1のストリームを第2の蒸留塔に供して、1,4-BDOの沸点よりも高い沸点を有する化合物を除去し、高沸点化合物の第1のストリームを得て、精製された1,4-BDOを製造する工程とを含み、上記精製された1,4-BDOは上記第2の蒸留塔から横方向に抽出される、方法に関する。上記方法を使用して精製することができる化合物の中に、1,3-ブタンジオールが挙げられているが、この点で例は示されていない。
【0015】
特許文献6は、1,4-ブタンジオールを製造する方法であって、(a)アンモニア化合物以外及びアミン化合物以外のアルカリ性物質を発酵ブロスに由来する1,4-ブタンジオールを含む水溶液に添加する工程と、(b)工程(a)で得られた混合物を蒸留する工程と、(c)蒸気流から1,4-ブタンジオールを含む溶液を回収する工程とを含み、ここで、上記アルカリ性物質を添加する前に、発酵ブロスに由来する1,4-ブタンジオールを含む上記水溶液を、透過物が回収されるナノ濾過工程及び/又はイオン交換工程に供する、方法に関する。得られた精製1,4-ブタンジオールは、ポリエステルの製造用材料として有利に使用されると言われている。
【0016】
しかしながら、発酵ブロスから1,3-プロパンジオール又は1,4-ブタンジオールを単離及び精製するこれらの方法は、幾つかの困難を提示し得る。例えば、これらの方法は、1つ以上の蒸留塔を使用することによる精製の工程を必要とし、その結果、処理時間が長くなり、処理費用が増える。
【0017】
さらに、これらの方法の幾つかは、1,3-ブタンジオールの精製にも適用可能であると言われているが、1,3-ブタンジオールを精製する重要な工程の1つは、蒸留である。実際、特定の汚染物質(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))が、発酵ブロスにおいて、他のジオールを製造するための発酵ブロスに存在するものと異なる濃度で存在するだけでも、蒸留自体の間に制御されていない反応を引き起こす可能性がある。
【0018】
実際、例えば、非特許文献1でIchikawa N.らによって記載されるように、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B)は低温(例えば100℃~120℃)でも脱水して3-ブテン-2-オン(MVK)になる可能性があり、これは、酸性部位の存在によって促進されることがわかっている。1,3-ブタンジオールを含む溶液の蒸留中にケトンが存在すると、1,3-ブタンジオールと3-ブテン-2-オン(MVK)との間の反応によりケタールが形成され、精製された1,3-ブタンジオールを含む画分を汚染する可能性があり、除去に成功したとしても、(以下に報告する実施例3(比較)からわかるように)1,3-ブタンジオールの一部が失われるため、このプロセスの収率が低下する。1,3-ブタンジオールを含む上記溶液を高真空下で蒸留すると、3-ブテン-2-オン(MVK)の形成、したがってケタールの形成が阻害されるが、使用される同じカラムに対して、上記溶液のボイラー内における滞留時間が増加する結果、(以下に報告する実施例4(比較)からわかるように)1,3-ブタンジオールの熱分解生成物が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】独国特許第1,908,620号
【文献】米国特許第6,361,983号
【文献】米国特許第7,919,658号
【文献】国際公開第2014/141780号
【文献】米国特許出願公開第2014/0275465号
【文献】米国特許第9,533,931号
【非特許文献】
【0020】
【文献】"Catalysis Communications" (2005), Vol. 6, pp. 19-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本出願人は、上記で報告された欠点を克服することができる、発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法を見つけるという課題を自らに課した。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本出願人は、ここで、当該技術分野で知られている蒸留工程を回避し、第1、第2、及び第3の蒸発工程を使用することにより、上記の欠点を克服することができることを見出した。特に、本出願人は、発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法であって、(a)発酵ブロスを分離に供する工程と、(b)工程(a)で得られた生成物をイオン交換樹脂による処理に供する工程と、(c)工程(b)で得られた生成物を第1の蒸発に供する工程と、(d)工程(c)で得られた生成物を第2の蒸発に供する工程と、(e)工程(d)で得られた生成物を第3の蒸発に供し、精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールを得る工程とを含む、方法を見出した。
【0023】
前述の方法によって多くの利点が達成される。例えば、上記方法は、バイオ-1,3-ブタンジオールとバイオ-3-ブテン-2-オン(MVK)との間の反応によるケタールの形成及びバイオ-1,3-ブタンジオールの熱分解の両方を回避することを可能にし、その結果、プロセスの収率が増加する。さらに、蒸留塔の使用を回避することにより、システムと処理の両方が簡素化され、その結果、経済的観点と処理時間の観点の両方から節約される。
【0024】
さらに、上記方法は、バイオ-1,3-ブタジエンの製造に有利に使用することができる精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールを得ることを可能にし、さらに、バイオ-1,3-ブタジエンは、エラストマー及び(コ)ポリマーの製造においてモノマー又は中間体として有利に使用することができる。
【0025】
したがって、本発明の更なる主題は、上記のように得られた精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールからバイオ-1,3-ブタジエンを製造する方法、並びにエラストマー及び(コ)ポリマーの製造におけるモノマー又は中間体としての上記バイオ-1,3-ブタジエンの使用である。
【0026】
したがって、本発明の主題は、発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製する方法であって、
(a)発酵ブロスを分離に供する工程と、
(b)工程(a)で得られた生成物をイオン交換樹脂による処理に供する工程と、
(c)工程(b)で得られた生成物を第1の蒸発に供する工程と、
(d)工程(c)で得られた生成物を第2の蒸発に供する工程と、
(e)工程(d)で得られた生成物を第3の蒸発に供し、精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールを得る工程と、
を含む、方法を含む。
【0027】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的では、別段の指定がない限り、数値範囲の定義には常にエンドポイントが含まれる。
【0028】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的では、「含む」という用語は、「実質的に~からなる」又は「~からなる」という用語も含む。
【0029】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的では、「精製されたバイオ-1,3-ブタンジオール」という用語は、本発明による方法の終了時に、すなわち第3の蒸発工程(e)の終了時に以下の水溶液が得られることを示す:
バイオ-1,3-ブタンジオールが、上記水溶液の総重量に対して、85重量%以上、好ましくは90重量%以上の濃度で存在する;
水が、上記水溶液の総重量に対して、15重量%以下、好ましくは8重量%以下の濃度で存在する;
任意の有機不純物(例えば、酸、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))が、上記水溶液の総重量に対して、2重量%以下の量で、好ましくは1重量%以下の量で存在し得る;
バイオ-1,3-ブタンジオールの分解に由来する任意の生成物(例えば、3-ブテン-2-オン、2-ブテン-1-オール(シス異性体及びトランス異性体)、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-2-オール)が、上記水溶液の総重量に対して、0.01重量%以下、好ましくは0.005重量%以下の量で存在し得る;
任意の糖(例えば、グルコース)が、0.001g/l以下、好ましくは0.0005g/l以下の量で存在し得る。
【0030】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的では、「バイオ-1,3-ブタンジオール」という用語は、上記1,3-ブタンジオールが、好ましくは細菌、酵母、真菌及び他の有機体の菌株を含む、1つ以上の生物の種又は株から合成されることを示す。
【0031】
一般に、上記発酵ブロスは、1,3-ブタンジオールを産生するように遺伝子改変された少なくとも1つの微生物の存在下で、適切な培養培地で行われる、市販の糖の発酵に由来し得るか、又は再生可能な資源に由来し得る。一般に、上記微生物は、1,3-ブタンジオールの産生に向けられた酵素経路に属する化合物をコードする1つ以上の外因性遺伝子を導入することによって遺伝子改変されている。任意に、上記微生物は、1,3-ブタンジオールの産生のための所望の経路を通る炭素のフローを最適化するための遺伝子破壊を更に含み得る。上記再生可能資源は、一般に植物起源のバイオマスであり、この目的では、例えば、サトウキビ及びビートを糖源(例えば、グルコース、アラビノース、キシロース、スクロース)として、又はトウモロコシ及びジャガイモをデンプン、したがってデキストロースの供給源として使用することが可能である。しかしながら、将来に目を向けると、トウモロコシの茎、穀物のわら、ダンチク(arundo)、アザミの茎、グアユール(guayule)バガス等、セルロース及びヘミセルロースの分解によって糖を提供する可能性のある非食品バイオマスの関心が高まっている。一般に、植物起源のバイオマスは、化学的及び/又は酵素的加水分解に供されて基質を取得し、これをその後、生体触媒によって処理して、目的の化学生成物を得ることができる。上記基質には、炭水化物の混合物と並んで、バイオマス中に存在するセルロース、ヘミセルロース及びリグニンに由来する芳香族化合物及び他の生成物が含まれる。上記バイオマスの加水分解から得られる炭水化物は、5個及び6個の炭素原子を有する糖が豊富な混合物であり、例えば、発酵に使用されるスクロース、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノース及びフルクトースが挙げられる。1,3-ブタンジオールの合成のための前述の方法に関する更なる詳細は、例えば、米国特許出願公開第2010/330635号、米国特許出願公開第2012/329113号、米国特許出願公開第2013/066035号、米国特許出願公開第2013/109064号に見ることができ、これらの出願は引用することにより本明細書の一部をなす。
【0032】
発酵ブロスからバイオ-1,3-ブタンジオールを精製するため、最初に、細胞バイオマスと並んで、細胞片及び比較的高分子量を有する汚染物質を上記発酵ブロスから分離することが望ましい。濾過、遠心分離等の、細胞バイオマス及び粒子の形態の他の化合物を液体から分離するのに有用な方法が、当該技術分野で知られている。
【0033】
本発明の好ましい実施の形態において、上記工程(a)は、
(a1a)精密濾過工程と、
(a)ナノ濾過工程と、
を含むことができる。
【0034】
本発明の更に好ましい実施の形態において、上記工程(a)は、
(a1b)遠心分離工程と、
(a)ナノ濾過工程と、
を含むことができる。
【0035】
本発明の好ましい実施の形態において、上記精密濾過工程(a1a)は、0.01μm~1.0μmの範囲、好ましくは0.02μm~0.08μmの範囲の平均孔径を有する膜によって行うことができる。
【0036】
本発明の好ましい実施の形態において、上記精密濾過工程(a1a)は、0.1bar~8barの範囲、好ましくは1bar~5barの範囲の膜間圧で操作して行うことができ、上記膜間圧は、精密濾過モジュールの上流で測定された圧力と下流で測定された圧力との間の平均圧力として定義される。
【0037】
本発明の好ましい実施の形態において、上記精密濾過工程(a1a)は、20℃~90℃の範囲、好ましくは40℃~70℃の範囲の温度、より好ましくは発酵温度において行うことができる。
【0038】
本発明の好ましい実施の形態において、上記精密濾過工程(a1a)は、浸漬型若しくはクロスフロー構成若しくは動的クロスフロー構成のセラミック膜、又は浸漬型若しくはクロスフロー構成の平膜若しくは中空繊維ポリマー膜によって行うことができる。
【0039】
本発明の目的に使用することができ、市販されている膜の例は、Sartorius製の「Hydrosart(商標)精密濾過カセット」の製品、又はTami製のCeram inside(商標)の製品、又はPall製のSchumasiv(商標)若しくはMembralox(登録商標)の製品、又は旭化成株式会社製のMicroza(登録商標)の製品である。
【0040】
上記精密濾過工程(a1a)の終了時に、上記のようにナノ濾過工程(a)に送ることができ、或いはイオン交換樹脂による処理工程(b)に直接送ることもできる、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、残留不純物(例えば、糖、他の有機不純物、塩)とを含む透過物、並びに細胞バイオマス及び任意の細胞片を含む保持液が得られる。上記保持液を、乾燥して、埋め立て地に処分するか又は焼却することができ、或いは水処理施設に直接送ることができる。
【0041】
本発明の好ましい実施の形態において、上記遠心分離工程(a1b)は、20℃~90℃の範囲、好ましくは25℃~70℃の範囲の温度、より好ましくは室温(25℃)において行うことができる。
【0042】
本発明の好ましい実施の形態において、上記遠心分離工程(a1b)は、50L/時~1000L/時の範囲、好ましくは90L/時~500L/時の範囲の遠心供給速度で操作して行うことができる。
【0043】
本発明の好ましい実施の形態において、上記遠心分離工程(a1b)は、2000rpm~50000rpmの範囲、好ましくは3000rpm~9000rpmの範囲の回転速度で行うことができる。
【0044】
本発明の目的では、上記遠心分離工程(a1b)は、当該技術分野で知られている任意のタイプの遠心分離機で実施することができ、特に、自動パネル排出機能を備えたディスク遠心分離機、Andritz製のモデルCA21-Pが使用されてきた。
【0045】
上記遠心分離工程(a1b)の終了時に、上記のようにナノ濾過工程(a)に送ることができ、或いはイオン交換樹脂による処理工程(b)に直接送ることができる、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、残留不純物(例えば、糖、他の有機不純物、塩)とを含むより軽い水相(上清)、並びに細胞バイオマス及び任意の細胞片を含むより重い第2の水相(沈殿)が得られる。上記第2の水相(沈殿物)を、乾燥して、埋め立て地に処分するか又は焼却することができ、或いは水処理施設に直接送ることができる。
【0046】
本発明の好ましい実施の形態において、上記ナノ濾過工程(a)は、100ダルトン~500ダルトンの範囲、好ましくは120ダルトン~400ダルトンの範囲の「分子量カットオフ」(MWCO)を有するナノ濾過膜によって行うことができる。
【0047】
本発明の好ましい実施の形態において、上記ナノ濾過工程(a)は、15℃~100℃の範囲、好ましくは20℃~80℃の範囲の最大操作温度を有するナノ濾過膜によって行うことができる。
【0048】
本発明の好ましい実施の形態において、上記ナノ濾過工程(a)は、10bar~50barの範囲、好ましくは20bar~40barの範囲の膜間圧で操作して行うことができ、上記膜間圧は、ナノ濾過モジュールの上流で測定された圧力と下流で測定された圧力との間の平均圧力として定義される。
【0049】
前述の親水性ナノ濾過膜は、フラットシート、中空繊維、管状膜、スパイラル型膜(spiral-wound membranes)の形態、又は他の有益な形態であり得る。
【0050】
本発明の目的で有利に使用され得るナノ濾過膜は、GE Power & Water製のDKシリーズ、又はKoch Membrane Systems製のSR3D(商標)膜の商品名で知られている製品である。
【0051】
上記ナノ濾過工程(a)の終了時に、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、残留不純物(例えば、塩、酸)とを含み、イオン交換樹脂による処理工程(b)に送られる透過液、並びに高い立体障害を有する化合物(例えば、タンパク質、二価塩)を含む保持液が得られる。上記保持液を水処理施設に直接送ることができる。
【0052】
本発明の好ましい実施の形態において、イオン交換樹脂による上記処理工程(b)は、
(b)アニオン交換工程と、
(b)カチオン交換工程と、
の2つの工程を含むことができる。
【0053】
本発明の好ましい実施の形態において、上記工程(b)は、弱アニオン樹脂を含むカラムを用いて行うことができる。
【0054】
本発明の目的に有利に使用され得る弱アニオン樹脂は、Dow Chemical製のDowex(登録商標)Monosphere(登録商標)77、又は三菱ケミカル株式会社製のDiaion(登録商標)WA30の商品名で知られている製品である。
【0055】
本発明の好ましい実施の形態において、上記工程(b)は、強カチオン樹脂を含むカラムを用いて行うことができる。
【0056】
本発明の目的に有利に使用され得る強カチオン樹脂は、Dow Chemical製のDowex(登録商標)Monosphere(登録商標)88、又はRohm & Haas Resins製のAmberlite(登録商標)MB150の商品名で知られている製品である。
【0057】
本発明の好ましい実施の形態において、上記工程(b)及び工程(b)は、15℃~50℃の範囲、好ましくは20℃~45℃の範囲の温度で行うことができる。
【0058】
本発明の好ましい実施の形態において、上記工程(b)及び工程(b)は、2BV/時~4BV/時の範囲、好ましくは2.5BV/時~3.5BV/時の範囲(BV=「ベッドボリューム」=単一カラムあたりの樹脂の容量)の流量(1時間あたりに工程(a)で得られる生成物のリットル量)で行うことができる。
【0059】
本発明の好ましい実施の形態において、上記工程(b)及び工程(b)から得られた生成物は、0.1μS/cm~100μS/cmの範囲、好ましくは0.5μS/cm~15μS/cmの範囲の残留導電率を有することができる。
【0060】
本発明の好ましい実施の形態において、工程(a)で得られた生成物を工程(b)に供給し、続いて工程(b)に供給するか、又は工程(b)に供給し、続いて工程(b)に供給することができる。
【0061】
イオン交換樹脂による上記処理工程(b)の終了時に、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、軽質有機化合物(例えば、エタノール)と、重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))と、未変換糖と、任意の除去されていない塩とを含む水溶液が得られる。上記水溶液は第1の蒸発工程(c)に送られる。
【0062】
上記工程(b)の終了時に、前述の工程(b)及び工程(b)で使用されたイオン交換樹脂を含むカラムは、当該技術分野で知られている方法に従って操作して、酸又は塩基の溶液を用いた再生に供される。
【0063】
本発明の好ましい実施の形態において、上記第1の蒸発工程(c)は、30℃~100℃の範囲、好ましくは40℃~70℃の範囲の温度で行うことができる。
【0064】
本発明の好ましい実施の形態において、上記第1の蒸発工程(c)は、5mbar~100mbarの範囲、好ましくは10mbar~80mbarの範囲の圧力で行うことができる。
【0065】
当該技術分野で知られている任意のタイプの蒸発器を、上記工程(c)の目的に有利に使用することができる。有利に使用することができる蒸発器の具体例は、ロータリーエバポレーター、単純に沸騰によって引き起こされる動きで蒸発がもたらされる「自然循環」蒸発器、ケトル蒸発器、循環ポンプを使用して速度及び乱流を増加させる強制循環によって蒸発がもたらされる蒸発器(強制循環型蒸発器)、ME-EV蒸発器(多効用蒸発器)、単段又は多段蒸発器、単効用蒸発器、STV蒸発器(垂直短管型蒸発器)、LTV蒸発器(垂直長管型蒸発器)、バスケット型蒸発器、水平管蒸発器、流下膜式蒸発器、ワイプドフィルム蒸発器、フラッシュ蒸発器、多段フラッシュ蒸発器等である。好ましくは、ME-EV蒸発器(多効用蒸発器)が、上記工程(c)で使用され得る。
【0066】
上記第1の蒸発工程(c)の終わりに、バイオ-1,3-ブタンジオール、水と、重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))と、未変換の糖と、任意の除去されていない塩とを含み、第2の蒸発工程(d)に送られる濃縮溶液、並びに主に水と、微量のエタノール及びバイオ-1,3-ブタンジオールとを含み、(a1a)精密濾過工程、(a1b)遠心分離工程、(a)ナノ濾過工程、(b)イオン交換樹脂による処理工程のうち1つにリサイクルされ得る水相が得られる。或いは、上記水相を水処理施設に直接送ることができる。
【0067】
本発明の好ましい実施の形態において、上記第2の蒸発工程(d)は、30℃~150℃の範囲、好ましくは40℃~130℃の範囲の温度で行うことができる。
【0068】
本発明の好ましい実施の形態において、上記第2の蒸発工程(d)は、1mbar~100barの範囲、好ましくは8mbar~80mbarの範囲の圧力で行うことができる。
【0069】
当該技術分野で知られている任意のタイプの蒸発器を、前述の工程(d)の目的で有利に使用することができる。有利に使用することができる蒸発器の具体例は、上記で報告したものである。好ましくは、ワイプドフィルム蒸発器が上記工程(d)で使用され得る。
【0070】
上記第2の蒸発工程(d)の終了時に、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、微量の重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))、未変換糖及び任意の除去されていない塩とを含み、第3の蒸発工程(e)に送られる濃縮溶液、並びに主に水と、バイオ-1,3-ブタンジオールの沸点よりも低い沸点を有する有機化合物と、微量のバイオ-1,3-ブタンジオールとを含み、水処理施設に直接送ることができる水相が得られる。
【0071】
本発明の好ましい実施の形態において、上記第3の蒸発工程(e)は、30℃~150℃の範囲、好ましくは40℃~130℃の範囲の温度で行うことができる。
【0072】
本発明の好ましい実施の形態において、上記第3の蒸発工程(e)は、5mbar~100barの範囲、好ましくは8mbar~80mbarの範囲の圧力で行うことができる。
【0073】
当該技術分野で知られている任意のタイプの蒸発器を、前述の工程(e)の目的で有利に使用することができる。有利に使用することができる蒸発器の具体例は、上記で報告したものである。好ましくは、ワイプドフィルム蒸発器が上記工程(e)で使用され得る。
【0074】
上記第3の蒸発工程(e)の終了時に以下の2つの相が得られる:
精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールを含む水相;
バイオ-1,3-ブタンジオールの沸点よりも高い沸点を有する任意の有機化合物と、微量の未精製のバイオ-1,3-ブタンジオール、未変換糖及び任意の除去されていない塩とを含む有機相。
【0075】
使用される蒸発器のタイプの更なる詳細は、例えば、"Process Heat Transfer", Donald Q. Kern, McGraw-Hill (1950), Chapter 14, Evaporator, pp. 375-510、Perry's Chemical Engineers' Handbook, McGraw-Hill (7th ed.-1997), Section 11, pp. 108-118に見ることができる。
【0076】
上記蒸発工程(c)、工程(d)及び工程(e)では、蒸発速度は、蒸発の開始時に最大になり、蒸発の終了時にゼロになるまで減少し続けることに留意されたい。
【0077】
上記のように、上記工程(e)の終了時に回収されたバイオ-1,3-ブタンジオールは、バイオ-1,3-ブタジエンを製造する方法において有利に使用され得る。
【0078】
したがって、本発明の更なる主題は、バイオ-1,3-ブタジエンを製造する方法であって、
上述の方法に従って得られたバイオ-1,3-ブタンジオールを含む混合物(i)を、少なくとも1つの脱水触媒の入った第1の反応器に供給し、アルケノールと、水と、任意に未反応の不純物及び/又は未反応のバイオ-1,3-ブタンジオールとを含み、上記第1の反応器から出るストリーム(ii)を得ることと、
任意に、上記ストリーム(ii)を第1の精製セクションに供給し、
アルケノールと、水と、任意に不純物とを含むストリーム(iii)、
水と、任意に不純物及び/又は未反応のバイオ-1,3-ブタンジオールとを含むストリーム(iv)、及び任意に、
不純物を含むストリーム(v)、
を得ることと、
上記ストリーム(iii)及び/又は上記ストリーム(iv)を少なくとも1つの脱水触媒の入った第2の反応器に供給し、バイオ-1,3-ブタジエンと、水と、任意に不純物及び/又は未反応のアルケノールとを含み、上記第2の反応器から出るストリーム(vi)を得ることと、
上記ストリーム(vi)を第2の精製セクションに供給し、
純粋なバイオ-1,3-ブタジエンを含むストリーム(vii)、
水と、任意に未反応のアルケノールとを含むストリーム(viii)、及び任意に、
不純物を含むストリーム(ix)、
を得ることと、
を含む、方法である。
【0079】
本発明の目的では、バイオ-1,3-ブタジエンを製造する上記方法は、有利には、本出願人名義の米国特許出願公開第2017/313633号に記載されるように実施することができ、この出願は引用することにより本明細書の一部をなす。
【0080】
しかしながら、上記バイオ-1,3-ブタンジオールは、例えば、本出願人の名義の国際公開第2015/173780号、米国特許出願公開第2018/0002250号、米国特許出願公開第2018/0002249号に記載されているように操作する、当該技術分野で知られている方法のいずれかに従ったバイオ-1,3-ブタジエンの製造に有利に使用することができることに留意されたい。これらの出願は、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0081】
上記のように、本発明の更なる主題は、エラストマー及び(コ)ポリマーの製造におけるモノマー又は中間体としての、上記バイオ-1,3-ブタジエンの使用でもある。
【0082】
ここで、添付の図1及び図2を参照して、実施態様によって本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】本発明による方法は、例えば図1に示すように実施することができる。これに関連して、バイオ-1,3-ブタンジオールと水とを含む発酵ブロス(1)、好ましくはバイオマスから得られた糖の発酵に由来する発酵ブロスを精密濾過工程に送り、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、残留不純物(例えば、糖、その他の有機不純物、塩)とを含み、ナノ濾過工程に送られる透過液(2)、並びに細胞バイオマスと、任意の細胞片とを含み、乾燥して、埋め立て地に処分するか又は焼却することができ、或いは水処理施設に直接送ることができる保持液(図1には示していない)を得る。上記ナノ濾過工程の終了時に、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、残留不純物(例えば、塩)とを含み、イオン交換樹脂による処理工程に送られる透過液(3)、並びに高い立体障害を有する化合物(例えば、タンパク質、二価塩)を含み、水処理施設に直接送ることができる保持液(図1には示していない)を得る。そのため、上記透過液(3)を、イオン交換樹脂による処理工程、すなわち、弱アニオン樹脂を含むカラムでの処理、続いて強カチオン性樹脂を含むカラムでの処理、又はその逆の工程(図1には示していない)に供し、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、軽質有機化合物(例えば、エタノール)と、重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))と、未変換糖と、任意の除去されていない塩とを含む水溶液(4)を得る。上記水溶液(4)を第1の蒸発工程に送り、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))と、未変換の糖と、任意の除去されていない塩とを含み、第2の蒸発工程に送られる濃縮溶液(5)、並びに主に水と、微量のエタノール及びバイオ-1,3-ブタンジオールとを含み、(a1a)精密濾過工程(4c)、(a)ナノ濾過工程(4b)、(b)イオン交換樹脂による処理工程(4a)(図1中、破線で示される)のうち1つにリサイクルされ得る水相(図1には示していない)を得る。上記第2の蒸発工程から、バイオ-1,3-ブタンジオールと、水と、微量の重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))、未変換糖及び任意の除去されていない塩とを含み、第3の蒸発工程に送られる濃縮溶液(6)、並びに主に水と、バイオ-1,3-ブタンジオールの沸点よりも低い沸点を有する有機化合物と、微量のバイオ-1,3-ブタンジオールとを含み、水処理施設に直接送ることができる水相(図1には示していない)を得る。上記第3の蒸発工程から、2つの相、すなわち、精製されたバイオ-1,3-ブタンジオールを含む水相(7)、並びに、バイオ-1,3-ブタンジオールの沸点よりも高い沸点を有する任意の有機化合物と、微量の未精製のバイオ-1,3-ブタンジオール、未変換糖及び任意の除去されていない塩とを含む有機相(図1には示していない)を得る。
図2】本発明によるバイオ-1,3-ブタジエンを製造する方法の実施態様を示す図である。図2では、本発明の対象である方法に従って得られたバイオ-1,3-ブタンジオールを含む混合物(i)を少なくとも1つの脱水触媒の入った第1の反応器に供給し、アルケノールと、水と、任意に不純物及び/又は未反応のバイオ-1,3-ブタンジオールを含み、上記第1の反応器から出るストリーム(ii)を得る。上記ストリーム(ii)を第1の精製セクションに供給し、アルケノールと、水と、任意に不純物とを含むストリーム(iii)、水と、任意に不純物及び/又は未反応のバイオ-1,3-ブタンジオールとを含むストリーム(iv)(図2には示していない)、及び不純物を含むストリーム(v)(図2には示していない)を得る。上記ストリーム(iii)を少なくとも1つの脱水触媒の入った第2の反応器に供給し、バイオ-1,3-ブタジエンと、水と、任意に不純物及び/又は未反応のアルケノールとを含み、上記第2の反応器から出るストリーム(vi)を得て、これを第2の精製セクションに供給し、純粋なバイオ-1,3-ブタジエンを含むストリーム(vii)、水と任意に未反応のアルケノールとを含むストリーム(viii)(図2には示していない)、及び任意に、不純物を含むストリーム(ix)(図2には示していない)を得る。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本発明をよりよく理解し、それを実施するために、その例示的で非限定的な例を以下に報告する。
【実施例
【0085】
実施例1
バイオ-1,3-ブタンジオールの精製
この目的では、表1に報告されている平均組成を有するバイオ-1,3-ブタンジオール(以下、簡略化のためバイオ-1,3-BDOと称する)を含むモデル発酵ブロスを使用した。
【0086】
【表1】
【0087】
希釈溶液(すなわち、150g/l未満の1,3-BDO濃度を有する水溶液)中の糖及び有機酸、並びにバイオ-1,3-ブタンジオールの含有量を、バイナリポンプ、脱ガス装置、オートサンプラー、及びサーモスタット付きカラム用のコンパートメントを備えたWaters 2690 Alliance「モジュールシステム」クロマトグラフを使用して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって決定した。使用したカラムは、Phenomenex Rezex ROA-有機酸Hであり、300mm×7.8mmの寸法を有し、45℃にて、流量0.6ml/分で0.005N硫酸(HSO)の水溶液によりアイソクラティック(isocratic)である。Waters 2487 UV/Visデュアル吸光度検出器(DAD)及びWaters 2410屈折率検出器(RID)の2つの検出器を使用した。
【0088】
表1に報告されている発酵ブロスを3つの別々のバッチ、すなわち「バッチ03」、「バッチ04」及び「バッチ05」に分け、以下のように操作して精製した。
【0089】
精密濾過による細胞バイオマスの除去
細胞バイオマスを除去するため、0.05μmの平均孔径を有し、クロスフロー構成のMembralox(商標)セラミック膜を備える精密濾過モジュールに発酵ブロス、すなわち「バッチ04」及び「バッチ05」を送った。上記精密濾過モジュールは、直径6mm及び総濾過面積0.36mを有する19のチャネルに細分されていた。試験中、膜内の流速を4m/秒~5m/秒に維持して、膜のファウリングを制限し、供給された発酵ブロスの量と得られる透過液の量との間の比として定義される濃度係数(体積濃度比(VCR))が5を超え、好ましくは6~10の範囲に到達するように試みた。精密濾過を実施した操作条件に関する更なるデータを表2に報告する。精密濾過の終了時に、バイオ-1,3-BDOと、水と、残留不純物(例えば、糖、その他の有機不純物、塩)とを含み、以下に記載するように作動するナノ濾過モジュールに送られる透過液、並びに細胞バイオマスと任意の細胞片とを含み、乾燥して埋め立て地に処分される保持液を得た。回収されたバイオ-1,3-BDOの量も表2に報告する。
【0090】
遠心分離による細胞バイオマスの除去
細胞バイオマスを除去するために、発酵ブロス、すなわち「バッチ03」を、自動パネル排出機能を備えたディスク遠心分離機、モデルCA 21-P(Andritz)を使用して、以下の条件下で操作して遠心分離に供した。
供給速度:100リットル/時;
パネル排出間隔:5分;
排出方法:水噴射;
回転速度:8000rpm;
温度:室温(25℃)。
【0091】
遠心分離を実施した操作条件に関する更なるデータを表2に報告する。遠心分離の終了時に、バイオ-1,3-BDOと、水と、残留不純物(例えば、糖、他の有機不純物、塩)とを含み、以下に記載するように作動するナノ濾過モジュールに送られるより軽い第1の水相(上清)、及び細胞バイオマスと、任意の細胞「片」とを含み、乾燥して埋め立て地に処分されるより重い第2の水相(沈殿物)を得た。回収されたバイオ-1,3-BDOの量も表2に報告する。
【0092】
【表2】
【0093】
ナノ濾過
水及び残留不純物(例えば、糖、他の有機不純物、塩)を除去するため、ナノ濾過工程を実施した。
【0094】
「バッチ04」及び「バッチ05」に由来する精密濾過モジュールを出る透過液を、スパイラル型膜を備えるナノ濾過モジュールに供給し、一方、「バッチ03」に由来する遠心分離機を出る第1の水相(上清)を、VSEP(振動剪断強化処理ユニット-New Logic Research Inc.)と称される振動ナノ濾過システムに供給した。両方のシステムは、150ダルトン~300ダルトンの範囲の分子量カットオフ(MWCO)を有するGE DK膜(Koch Membrane Systems)を備えていた。
【0095】
ナノ濾過を実施した操作条件に関する更なるデータを表3に報告する。ナノ濾過の終了時に、バイオ-1,3-BDOと、水と、残留不純物(例えば、塩、酸)とを含み、イオン交換樹脂による処理に送られる透過液、及び立体障害の高い化合物(例えば、タンパク質、二価塩)を含み、乾燥させ、埋め立て地に処分される保持液を得た。回収されたバイオ-1,3-BDOの量も表3に報告する。
【0096】
【表3】
【0097】
イオン交換樹脂による処理
残留不純物(例えば、塩、酸)を除去するため、イオン交換樹脂による処理工程を実施した。
【0098】
この目的では、「バッチ03」に由来するナノ濾過モジュールから出る透過液を、「バッチ03-1」及び「バッチ03-2」と称する2つのアリコートに分割してから、イオン交換樹脂による処理工程に送った。
【0099】
「バッチ03」(すなわち「バッチ03-1」及び「バッチ03-2」)、「バッチ04」及び「バッチ-05」に由来するナノ濾過モジュールを出る透過液を、イオン交換樹脂による処理のシステムに供給した。
【0100】
このシステムは、直径=151mm、高さ=1200mmの寸法を有する、2つの透明なポリ塩化ビニルカラム(PVC-U、GF Piping System)で構成されていた。イオン交換樹脂を充填した、上記2つのカラムを直列につないだ。第1のカラムには強カチオン樹脂(Dowex(登録商標)Monosphere(登録商標)88、Dow Chemical)を充填し、一方、第2のカラムには弱アニオン樹脂(Dowex(登録商標)Monosphere(登録商標)77、Dow Chemical)を充填した。
【0101】
操作の目的は、第2のカラムから出る生成物の導電率15μS/cm未満を取得することであり、排出する生成物の導電率がそれより高い場合には、樹脂の再生後、上記生成物を再び上記システムに供給した。
【0102】
イオン交換樹脂による上記処理工程を室温(25℃)で行い、この間、流量は、計量ポンプ(ソレノイドダイヤフラム計量ポンプDelta(登録商標)4、ProMinent)を使用して3.3BV/時であった。
【0103】
イオン交換樹脂による処理工程を実施した操作条件に関する更なるデータを表4に報告する。イオン交換樹脂による上記処理の終了時に、バイオ-1,3-BDOと、水と、軽質有機化合物(例えば、エタノール)と、重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))と、未変換の糖と、任意の除去されていない塩とを含み、ロータリーエバポレーター(第1の蒸発工程)に供給される水溶液を得た。回収されたバイオ-1,3-BDOの量も表4に報告する。
【0104】
【表4】
【0105】
第1の蒸発
水及び軽質有機化合物(例えばエタノール)を除去するため、イオン交換樹脂による処理工程から得られた水溶液を第1の蒸発工程に供した。
【0106】
イオン交換樹脂による処理工程から得られた溶液を、このようにして20リットル容のローディングボールフラスコを備えたBuchi Rotavapor(商標)ロータリーエバポレーターに供給し、これを恒温水槽に浸漬して加熱した。溶液をローディングボールフラスコに半連続的に供給し、気相をエバポレーターから取り除いて、バイオ-1,3-BDOと、水と、重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))と、未変換の糖と、任意の除去されていない塩とを含み、第2の蒸発工程に送られる濃縮溶液、並びに主に水と、微量のエタノール及びバイオ-1,3-BDOとを含み、(a1a)精密濾過工程、(a1b)遠心分離工程、(a)ナノ濾過工程、(b)イオン交換樹脂による処理工程のうち1つにリサイクルされ得る水相を得た。
【0107】
上記第1の蒸発工程の条件は以下のとおりであった:
恒温槽の温度:60℃;
圧力:70mbar~10mbar。
【0108】
蒸気の凝縮が終わると、蒸発が完了したと見なした。
【0109】
バイオ-1,3-BDOを含む濃縮溶液を、以下に報告する例に記載されているように更に精製した。特に、
「バッチ04」に由来する濃縮溶液を、2つのアリコート、すなわち「バッチ04-1」及び「バッチ04-2」に分けた。
「バッチ03-2」及び「バッチ04-2」に由来する濃縮溶液を、それぞれ実施例2(本発明)及び実施例5(本発明)に記載されるように更に精製した。
「バッチ03-1」に由来する濃縮溶液を、実施例3(比較)に記載されるように更に精製した。
「バッチ05」及び「バッチ04-1」に由来する濃縮溶液を、それぞれ実施例4(比較)及び実施例6(比較)に記載されるように更に精製した。
【0110】
実施例2
バイオ-1,3-BDOの精製(第2及び第3の蒸発)(本発明)
表5に報告されている操作条件下で、以下に報告されているように、第2の蒸発工程及び第3の蒸発工程を実施した。
【0111】
この目的では、第1の蒸発工程に由来する濃縮溶液、すなわち「バッチ03-2」(約2.6kg)を、2リットル容のローディングボールフラスコを備えたロータリーエバポレーター(Laborota(商標)4003コントロール、Heidolph)に供給した。
【0112】
サーモスタットを装備した油浴にローディングボールフラスコを浸漬することによって加熱を提供した。凝縮器はガラスコイルで形成され、その内部では水及びエチレングリコール(約10%)が閉回路で循環していた。冷媒流体の冷却を、空気/液体クライオスタットによって提供した。
【0113】
試料からの蒸発がないことが確認されるまで、第1の蒸発工程の操作条件(すなわち、恒温槽内で60℃、圧力70mbar~30mbar)で試験を開始した。回収された水相は全て廃棄した。続いて、第2の蒸発工程及び第3の蒸発工程に採用された操作条件は、表5:第2の蒸発(工程II)及び第3の蒸発(工程III)に報告されているものである(蒸気の凝縮が終わると、蒸発が完了したと見なした)。以下に定義するように、回収された相(II)及び相(III)の量も表5に報告する。
【0114】
【表5】
【0115】
工程II(第2の蒸発工程)から、水と、バイオ-1,3-BDOの沸点よりも低い沸点を有する有機化合物と、微量の未精製のバイオ-1,3-BDOとを含み、埋立地に処分される水相、並びにバイオ-1,3-BDOと、水と、微量の重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン(4-OH-2B))、未変換糖及び任意の除去されていない塩とを含み、第3の蒸発工程(工程III)への供給物を形成する濃縮溶液(相II)を得た。
【0116】
工程III(第3の蒸発工程)から、精製されたバイオ-1,3-BDOを含む水相(相III)、並びにバイオ-1,3-BDOの沸点よりも高い沸点を有する任意の有機化合物と、微量の未精製のバイオ-1,3-BDO、未変換糖及び任意の除去されていない塩とを含む有機相(相IV)を得た。
【0117】
表6は、回収された相及び供給物(「バッチ03-2」)に対して、上記の実施例1で記載されるとおりに行ったガスクロマトグラフィー(GC)分析を報告する。
【0118】
【表6】
【0119】
相IVはキャラメル色の外観を有し、上記の実施例1で記載したように操作して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってのみ分析した。
【0120】
一方、相II及び相IIIの分析には、長さ25m、直径0.32mm、1μmフィルムのQuadrex 007 FFAPカラムにスプリット/スプリットレス注入器を装備したAgilent HP6890ガスクロマトグラフ(GC)を使用し、キャリアとしては速度50cm/秒でヘリウムを使用し、検出器は火炎検出器であった。既知の個々の構成成分の検量線と共に内部標準を使用して決定を行った。カールフィッシャー滴定(831 KFクーロメーターメトローム)を相(III)の水の分析に更に使用した(相IIの場合、水の量を差によって計算した)。
【0121】
続いて、相IIIを、以下の実施例7に記載されるように操作して、ブテノールを製造するための脱水システムに供給した。
【0122】
実施例3
バイオ-1,3-BDOの精製(比較)
「バッチ03-1」に由来する約2.7kgの濃縮溶液を蒸留塔に供給し、バッチで処理した。蒸留は、5リットル容のボイラー及びSulzer充填物を含む断熱カラム(直径=2cm、高さ=60cm)を使用して実施した。蒸留中、残留水、及び水の沸点とバイオ-1,3-BDOの沸点との間の沸点を有する有機化合物が除去されたが、高沸点有機化合物、残留塩及び未変換糖は、ボイラーに残った。蒸留から得られた画分を表7に報告する。
【0123】
【表7】
【0124】
バイオ-1,3-BDOに富む画分は、画分7及び画分8である。しかしながら、回収された全ての画分は、出発溶液に存在しない分子によって汚染されてしまい、上記分子は、様々分析方法(FT-IR、GC-MS、GC、NMR)を使用して、バイオ-1,3-BDOと3-ブテン-2-オン(MVK)との間の反応によって形成されるケタール、すなわち、2,4-ジメチル-2-ビニル-1,3-ジオキサン(DMV13Diox)として特定された。特に、上記の実施例1に記載のように実施されたガスクロマトグラフィー分析(GC)によって得られたクロマトグラムは、全ての画分における出発供給物には存在しない新たなピークの存在を観察することを可能にした。様々な画分のピークの強度は異なっていたため、異なる分析手法を異なる画分に使用した。
【0125】
溶液中のNMR分析、FT-IR及びGC-MSにより、上記分子は2,4-ジメチル-2-ビニル-1,3-ジオキサン(DMV13Diox)であると特定された。上記の分析を以下のとおりに実施した。
【0126】
画分1の試料の分光NMR分析
NMRスペクトルを、重アセトン溶液中でBruker Avance 400 NMRツールを使用して記録した。H-NMRスペクトルの2.05ppm及び13C-NMRスペクトルの29.5ppmに位置するアセトンのCHのシグナルを基準シグナルとした。
【0127】
様々な生成物をH-NMRスペクトルで特定した(異なる強度において、これらのうち最も豊富にあるのは、5.80ppm、5.32ppm及び5.29ppmの明らかに認識可能なビニル基CH=CH-の存在を特徴とするものであり、CH-O-及びCH-Oに起因する一連のシグナルに強度が対応し、不思議なことに、非常に高い結合定数を特徴とし、これは一般に環状脂肪族系でのみ見られる)。上記結果は、ケタール種を特定することを可能にし、特に、画分の主要な化合物がDMV13Dioxであるとわかった。いずれのカップリングも、更に二次元COSY H-Hスペクトルのみを用いて評価した。
【0128】
画分7の試料の質量スペクトル
画分7を、ヘッドスペース法を使用して、単一四重極分光計(Trace DSQ、Thermo)でのガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)によって分析した。試料をヘッドスペースバイアルで測定し、80℃で約1時間加熱した。続いて、液体(検査中の試料に由来する領域及び蒸気)上の気相上澄み1mlを、有機成分から空気(過剰)を分離することを可能にする方法によってガスクロマトグラフに注入した。使用した分析条件は次のとおりであった:ガスクロマトグラフの温度スキームは4℃/分で50℃→300℃、スプリットモードでの注入、注入器の温度280℃、搬送ライン250℃。質量スペクトルを、電子イオン化(EI)モードで35ダルトンから500ダルトンまで記録した。
【0129】
保持時間3.9分の種の質量スペクトル(EI)
分子イオンは見ないが、分子イオンからメチル(CH)が失われてイオン127(相対存在量22.5%)が生成され、27(アリル)が失われてイオン115(相対存在量80.9%)が生成されると想定することができる。そのため、分子量は142であると想定され、これにより、上記で報告されたNMR分析に基づいて提唱された仮説が確認され得る。NMR分析により仮定された構造から始めて、EI-MSスペクトルで得られた他のフラグメントイオンを説明することも可能となる(実際、EI技術は一般に有機分子の高度なフラグメンテーションを含むため、構造の再構築又は確認が可能となる)。特に、
主イオン55(相対存在量100%)は、種CH=CHCHCH +*に対応し得る。
イオン71(相対存在量35.3%)種CH=CHCHOCH +*
【0130】
保持時間4.44分の種の質量スペクトル(EI)
主イオン55(相対存在量100%)種CH=CHCHCH +*、イオン71(相対存在量19.3%)種CH=CHCHOCH +*
【0131】
分子イオンからのメチルの喪失によるイオン127(相対存在量32.5%);イオン115の場合、分子イオンからの27(アリル)の損失(相対存在量11.9%)。
【0132】
画分1の試料のFT-IRスペクトル
KBrウィンドウに配置された試料のFT-IRスペクトルを、64スキャン及び2cm-1の分解能でNicolet Nexus FT-IR分光計を使用して取得した。
【0133】
生成物DMV13Dioxのビニル基に起因するバンドは、3088cm-1(CH非対称伸縮)、985cm-1及び916cm-1(CH及びCHの揺れ)に見られたが、1200cm-1~1100cm-1の範囲及び962cm-1のバンドは、それぞれC-O結合の非対称伸縮及び対称伸縮に起因する。同様に、生成物DMV13Dioxから、1050cm-1のC-O-C結合、及び1640cm-1のC=C二重結合の振動を特定することができた。
【0134】
表8は、実施例1に記載するように実施された、供給物(「バッチ03-1」)、「バッチ03-1」の蒸留に由来する画分7及び画分8、並びに蒸留の終わりに得られたボイラー残留物のガスクロマトグラフィー(GC)分析を報告する。
【0135】
【表8】
【0136】
ボイラー残留物はキャラメル色の外観を有し、上記の実施例1に記載されるように操作して、HPLCによってのみ分析した。カールフィッシャー滴定(831 KFクーロメーターメトローム)を、画分7及び画分8の水の分析に更に使用した。
【0137】
実施例4
バイオ-1,3-BDOの精製(比較)
「バッチ05」に由来する約4.2kgの溶液を蒸留塔に供給し、バッチで処理した。蒸留は、5リットル容のボイラー及びSulzer充填物を含む断熱カラム(直径=2cm、高さ=60cm)を使用して実施した。蒸留中、残留水、及び水の沸点とバイオ-1,3-BDOの沸点との間の沸点を有する有機化合物が除去されたが、高沸点有機化合物、残留塩及び未変換糖は、ボイラーに残った。表9は蒸留から得られた画分を報告する。
【0138】
【表9】
【0139】
1,3-BDOに富む画分は、画分6及び画分7である。
【0140】
カラム内の圧力、したがってシステムの温度を下げることにより、3-ブテン-2-オン(MVK)及び対応するケタールの形成が回避される。しかしながら、最後に蒸留された画分(画分7)では、蒸留の収率の低下につながるバイオ-1,3-BDOの分解生成物の存在が指摘されている。表10は、バイオ-1,3-BDOに富む画分に対して、上記の実施例1に記載されるとおりに行ったガスクロマトグラフィー分析を報告する。
【0141】
【表10】
【0142】
ボイラー残留物はキャラメル色の外観を有し、上記の実施例1に記載されるように操作して、HPLCによってのみ分析した。カールフィッシャー滴定(831 KFクーロメーターメトローム)を、画分5、画分6及び画分7の水の分析に更に使用した。
【0143】
続いて、「バッチ5」の画分6を、以下の実施例7に記載されるように操作して、ブテノールを製造するための脱水システムに供給した。
【0144】
実施例5
バイオ-1,3-BDOの精製(第2の蒸発及び第3の蒸発)(本発明)
表11に報告されている操作条件下で、以下に報告されているように、第2の蒸発工程及び第3の蒸発工程を実施した。
【0145】
この目的では、第1の蒸発工程に由来する濃縮溶液、すなわち「バッチ04-2」(約6.8kg)を、2リットル容のローディングボールフラスコを備えたロータリーエバポレーター(Laborota(商標)4003コントロール、Heidolph)に供給した。
【0146】
サーモスタットを装備した油浴にローディングボールフラスコを浸漬することによって、加熱を提供した。凝縮器はガラスコイルで形成され、その内部では水及びエチレングリコール(約10%)が閉回路で循環していた。冷媒流体の冷却を、空気/液体クライオスタットによって提供した。
【0147】
試料からの蒸発がないことが確認されるまで、第1の蒸発工程の操作条件(すなわち、恒温槽内で60℃、圧力70mbar~30mbar)で試験を開始した。回収された水相は全て廃棄した。続いて、第2の蒸発工程及び第3の蒸発工程に採用された操作条件は、表11:第2の蒸発(工程II)及び第3の蒸発(工程III)に報告されているものである(蒸気の凝縮が終わると蒸発は完了したと見なした)。以下に定義するように、回収された相(II)及び相(III)の量も表11に報告する。
【0148】
【表11】
【0149】
工程II(第2の蒸発工程)から、水と、バイオ-1,3-BDOの沸点よりも低い沸点を有する有機化合物と、微量の未精製のバイオ-1,3-BDOとを含み、埋め立て地に処分される水相、並びにバイオ-1,3-BDOと、水と、微量の重質有機化合物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ブタノン)、未変換糖及び任意の除去されていない塩とを含み、第3の蒸発工程(工程III)への供給物を形成する濃縮溶液(相II)を得た。
【0150】
工程III(第3の蒸発工程)から、精製されたバイオ-1,3-BDOを含む水相(相III)、並びにバイオ-1,3-BDOの沸点よりも高い沸点を有する任意の有機化合物と、微量の未精製のバイオ-1,3-BDO、未変換糖及び任意の除去されていない塩とを含む有機相(相IV)を得た。
【0151】
表12は、回収された相及び供給物(「バッチ04-2」)に対して、上記の実施例1で記載されるとおりに行ったガスクロマトグラフィー(GC)分析を報告する。
【0152】
【表12】
【0153】
相IVはキャラメル色の外観を有し、上記の実施例1に記載されるように操作して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってのみ分析した。
【0154】
カールフィッシャー滴定(831 KFクーロメーターメトローム)を相(III)の水の分析に更に使用した(相IIの場合、水の量を差によって計算した)。
【0155】
続いて、相IIIを、以下に報告する実施例7に記載されるように操作して、ブテノールを製造するための脱水システムに供給した。
【0156】
実施例6
バイオ-1,3-BDOの精製(比較)
「バッチ04-1」に由来する約4.05kgの溶液を蒸留塔に供給し、バッチで処理した。蒸留は、5リットル容のボイラー及びSulzer充填物を含む断熱カラム(直径=2cm、高さ=60cm)を使用して実施した。蒸留中、残留水、及び水の沸点とバイオ-1,3-BDOの沸点との間の沸点を有する有機化合物が除去されたが、高沸点有機化合物、残留塩及び未変換糖は、ボイラーに残った。表13は蒸留から得られた画分を報告する。
【0157】
【表13】
【0158】
1,3-BDOに富む画分は、画分4及び画分5である。
【0159】
カラム内の圧力、したがってシステムの温度を下げることにより、3-ブテン-2-オン(MVK)及び対応するケタールの形成が回避される。しかしながら、最後に蒸留された画分(画分5)では、蒸留の収率の低下につながるバイオ-1,3-BDOの分解生成物の存在が指摘されている。表14は、バイオ-1,3-BDOに富む画分及び供給物(「バッチ04-1」)に対して、上記で報告された実施例1に記載されるとおりに行ったガスクロマトグラフィー(GC)分析を報告する。
【0160】
【表14】
【0161】
ボイラー残留物はキャラメル色の外観を有し、上記の実施例1に記載されるように操作して、HPLCによってのみ分析した。カールフィッシャー滴定(831 KFクーロメーターメトローム)を、画分3、画分4及び画分5の水の分析に更に使用した。
【0162】
続いて、「バッチ04-1」の画分4を、以下に報告する実施例7に記載されるように操作して、ブテノールを製造するための脱水システムに供給した。
【0163】
表15は、実施例2(本発明)(「バッチ03-2」の相III)、実施例4(比較)(「バッチ05」の画分6)、実施例5(本発明)(「バッチ04-2」の相III)及び実施例6(比較)(「バッチ04-1」の画分4)の収率を報告する。1,3-BDOに富む画分は、2,4-ジメチル-2-ビニル-1,3-ジオキサン(DMV13Diox)によって汚染され、ブテノールの製造のための脱水システムに送られないため、実施例3(比較)の収率は報告されていない。
【0164】
【表15】
【0165】
総回収速度は、回収された相又は画分の合計(g)を、試験の全時間(時間)で割ったものとして計算されるものであり、除去された最初の凝縮液滴から数えた。バイオ-1,3-BDO回収速度は、回収された精製相画分の量(g)を、この個々の相又は画分を精製するための時間(時)で割ったものとして計算され、上記相又は画分から除去された最初の凝縮液滴から数えた。
【0166】
表15に報告されるデータから、実施例2及び実施例5(本発明)は、実施例4及び実施例6(比較)よりも高い収率(すなわち、バイオ-1,3-BDOに富む相又は画分の回収率)をもたらすことがわかり、使用された相又は画分からのバイオ-1,3-BDO回収速度ははるかに高くなる。
【0167】
実施例7
バイオ-1,3-BDOからのバイオ-ブテノールの製造
実施例2(本発明)で得られた精製1,3-BDO(「バッチ03-2」の相III)及び実施例4(比較)で得られた精製バイオ-1,3-BDO(「バッチ05」の画分6)を、以下のように操作して、接触脱水に供した。
【0168】
この目的では、以下のように操作して触媒A及び触媒Bを最初に合成した。
【0169】
触媒Aの合成
マグネチックバースターラーを備えたガラスビーカー内で、室温(25℃)で激しく撹拌することにより、硝酸セリウム六水和物870gを水4200gに溶かした溶液を調製した。得られた溶液を棒状の撹拌棒を備えたガラス反応器に移し、撹拌しながら15分間保持した。得られた溶液に、28%~30%の市販の水溶液を希釈してあらかじめ調製した15%水酸化アンモニウム(NHOH)水溶液790gを、蠕動ポンプにより撹拌しながら、3時間かけて加え、その間、Metrohm 691 pHメーターに接続したMetrohmガラスpH電極(6.0248.030)によってpHをモニターした。溶液の添加の終了時、懸濁液のpHは9.0であり、全体を撹拌しながら、同じ条件で64時間放置し、その終了時にpHは4.3になった。続いて、得られた懸濁液に、上記のようにあらかじめ調製した15%水酸化アンモニウム(NHOH)水溶液を更に90g、蠕動ポンプにより撹拌しながら、25分かけて加えて、pH9.0の懸濁液を得た。懸濁液を撹拌しながら24時間放置し、その終了時にpHを再度測定すると最終的には8.8になり、沈殿物が得られた。得られた沈殿物を濾過し、約10リットルの水で洗浄し、続いて120℃で2時間オーブン乾燥した。乾燥後、得られた固体を600℃で6時間か焼した。
【0170】
触媒Bの合成
テフロン(登録商標)三日月形ブレードを有する撹拌棒を備えたビーカーに、約30%の水酸化アンモニウム(NHOH)水溶液200gを加え、pHを測定するため、電極(Metrohm 780 pHメーターに接続された、MetrohmガラスpH電極(6.0248.030))を導入した。マグネチックバースターラーを備えた別のビーカーで、200gの水に200gの硝酸セリウム六水和物を溶かした溶液を調製し、次いで、室温(25℃)で激しく撹拌することにより硝酸セリウムを可溶化した。得られた溶液をスポイトに導入し、常に激しく撹拌しながら、ビーカーに含まれる前述の水酸化アンモニウム溶液に6分かけて1滴ずつ供給した。得られた懸濁液のpHは10.1であった。激しく撹拌しながら全体を3時間放置し、その間に200mlの水を加え、pHを測定すると9.6であった。激しく撹拌しながら全体を更に1.5時間放置し、その終了時に更に200mlの水を加え、再度pHを測定したところ9.5であった。上記懸濁液を激しく撹拌しながら64時間放置し、その終了時に、再度pHを測定したところ4.5であった。続いて、約30%の水酸化アンモニウム(NHOH)水溶液23gを更に加えて、pH9.0を得て、全体を撹拌しながら6時間放置し、pH8.5を得た。続いて、約30%の水酸化アンモニウム(NHOH)水溶液16gを加え、pH9.0を得た。激しく撹拌しながら全体を17時間放置し、その終了時、pHは7.9であり、沈殿物が得られた。得られた沈殿物を濾過し、2リットルの水で洗浄し、続いて120℃で2時間オーブン乾燥した。乾燥後、得られた固体を600℃で5時間か焼した。
【0171】
脱水反応
バイオ-1,3-BDOの脱水反応を、長さ400mm、内径9.65mmのAISI316L鋼製固定床連続管状反応器で行った。電気ヒーターを使用して反応器を反応温度に温度調節する。反応器内の温度を最適に調節するために、その軸に沿って、温度調節用の熱電対を収容する3mmの外径を有するウェルが存在する。
【0172】
試験に使用する触媒を、篩にかけ、0.5mm~1mmの範囲の画分を選択する。3gに等しい触媒荷重を、不活性材料(コランダム)の2つの層の間の反応器に挿入し、触媒床を反応器の基部に配置された焼結鋼隔壁によって所定の位置に保持した。
【0173】
不活性材料で満たされた領域の上の反応器の上部から供給を行い、この領域は蒸発器としても機能し、触媒と接触する前に、試薬が気体状態に移行し、反応温度に到達するのを可能にする。そのため、反応器は下向流に設定する。
【0174】
液体試薬を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で使用されるタイプの計量ポンプを使用して供給した。気体を熱質量流量計(TMF)によって供給した。反応器の下流で、得られた生成物を熱交換器で冷却し、凝縮した液体を、一連の時間制御バルブを使用してガラスバイアルに収集した。収集した液体試料を、長さ25m、直径0.32、1μmフィルムのQuadrex 007 FFAPカラムにスプリット/スプリットレス注入器を装備したAgilent HP6890ガスクロマトグラフ(GC)を使用するガスクロマトグラフィー分析で分析した。キャリアとしては速度50cm/秒でヘリウムを使用し、検出器は火炎検出器であった。既知の個々の成分の検量線と共に内部標準を使用して決定を行った。
【0175】
一方、凝縮できないガスはオンラインガスクロマトグラフ(GC)で分析し、最終的に容積測定ドラム型ガスメーターに送って、容積を測定した。ガスのオンライン分析は、長さ50m、直径0.53mm、15ミクロンフィルムのHP-Al/Sカラムを備えたAgilent HP7890ガスクロマトグラフ(GC)によって実施した。キャリアとしては速度30cm/秒でヘリウムを使用し、検出器は火炎検出器であった。既知の個々の成分の検量線と共に外部標準を使用して決定を行った。
【0176】
表16及び表17に報告されている触媒性能は、以下に報告されている式に従ってバイオ-1,3-BDOの変換率(C1,3-BDO)及びブテノールの選択性を計算することによって表される。
【数1】
(式中、
(モル1,3-BDOin=投入時の1,3-ブタンジオールのモル数;
(モル1,3-BDOout=排出時の1,3-ブタンジオールのモル数;
モルブテノール=アルケノール(3-ブテン-2-オール(メチルビニルカルビノール)及び2-ブテン-1-オール(クロチルアルコール)を指す)の総モル数)。
【0177】
全ての生成物の選択性の合計が100%を超える場合、試験の結果を、100に正規化されたブテノールの選択性として表す。すなわち、
【数2】
【0178】
触媒試験を開始する前に、触媒を窒素流(N)中において300℃にてin situで処理する。続いて、上記反応器に、大気圧(絶対圧1bar)で、83.3%1,3-ブタンジオール水溶液を36g/時で供給する。
【0179】
約3.19kgの実施例4(比較)に記載のとおりに得られた「バッチ05」の画分6を640gの水で希釈した。得られた溶液を、触媒Aを使用して370℃の温度で脱水反応器に供給したが、触媒は、活性の喪失又は収率の喪失の問題を示さなかった。
【0180】
続いて、触媒Bを使用した第2の試験では、2.135kgの実施例2(本発明)に記載のとおりに得られた「バッチ03-2」の相IIIに428gの水を加えて供給した。反応温度を355℃に設定した。この場合も、触媒は活性の喪失又は収率の喪失の問題を示さなかった。
【0181】
表16は、上記のように計算された、変換率(C%)及び選択性(S%)に関して得られた触媒の結果を報告する。
【0182】
【表16】
【0183】
実施例8
実施例5(本発明)で得られた精製バイオ-1,3-BDO(「バッチ04-2」の相III)及び実施例6(比較)で得られた精製バイオ-1,3-BDO(「バッチ04-1」の画分4)を、以下のとおりに操作して、接触脱水に供した。
【0184】
この目的のため、以下のように操作して触媒Cを最初に合成した。
【0185】
触媒Cの合成
押出成形酸化セリウムに基づく触媒の調製
押出成形触媒は、本出願人の名義で国際特許出願である国際公開第2015/173780号の実施例9に記載されているように操作することによって得られた。
【0186】
この目的では、マグネチックバースターラーを備えたガラスビーカー内で、室温(25℃)で激しく撹拌することにより、水4200g中に硝酸セリウム六水和物870g(99%、Aldrich、製品コード238538;CAS番号10294-41-4)が溶けた溶液を調製した。得られた溶液を棒状の撹拌棒を備えたガラス反応器に移し、撹拌しながら15分間保持した。得られた溶液に、28%~30%の市販の水溶液(Aldrich、28%~30%NH Basis ACS試薬、製品コード221228;CAS番号1336-21-6)を希釈してあらかじめ調製した15%水酸化アンモニウム(NHOH)水溶液790gを、蠕動ポンプにより撹拌しながら、3時間かけて加え、その間、Metrohm 691 pHメーターに接続したMetrohmガラスpH電極6.0248.030によってpHをモニターした。溶液の添加の終了時、懸濁液のpHは9.0であり、全体を撹拌下で64時間放置すると、その終了時にpHは4.3になった。続いて、得られた懸濁液に、上記のようにあらかじめ調製した15%水酸化アンモニウム(NHOH)水溶液を更に90g、蠕動ポンプにより撹拌しながら、25分かけて加えて、pH9.0の懸濁液を得た。懸濁液を撹拌しながら24時間放置し、その終了時に、pHを再度測定すると8.8になり、沈殿物が得られた。得られた沈殿物を濾過し、約10リットルの水で洗浄し、続いて120℃で2時間オーブン乾燥した。
【0187】
十分な量の材料を得るのに適した幾つかのバッチについて上記調製を繰り返し、続いて得られた固形物を合わせ、乳鉢で粉砕した。このようにして得られた1905gの粉末を、その後、AMDモデルモーターを備えたErweka遊星型ミキサーに入れた。
【0188】
粉末を1時間乾式混合し、続いて、28%~30%の市販の水溶液(Aldrich、28%~30%NH Basis ACS試薬;製品コード221228;CAS番号1336-21-6)を希釈することによりあらかじめ調製した25%水酸化アンモニウム(NHOH)水溶液250gを、50分かけて連続して滴下することにより加え、250mlの脱塩水も同様に50分かけて加えて、ペーストを得て、これを2mmの穴を有するローラーが取り付けられたハット(Hutt)押出機を使用して押し出した。押出成形により得られたペレットを2日間風乾させた。
【0189】
続いて、重量134gのペレットの試料を120℃で2時間オーブン乾燥し、続いて、600℃で6時間か焼して、酸化セリウムに基づく触媒を得た。次いで、触媒を粉砕し、それを篩にかけ、0.5mm~1mmの範囲の画分を選択することによって、触媒試験用に触媒を調製する。
【0190】
上記のようにして得られた触媒Cを反応器に装填し、実施例7に記載される予備操作に供した。試験を、非生物学的起源の83.3%1,3-BDO溶液(Sigma-Aldrich、B84784)を用いて、脱塩水中、温度370℃、流量36g/時で開始した。
【0191】
約125時間の操作後、実施例6(比較)に記載のとおりに得られた「バッチ04-1」の画分4を適切に希釈して得た83.3%バイオ-1,3-BDO水溶液4.072kgを脱水反応器に供給した。表17は、上記のように計算された、変換率(C%)及び選択性(S%)に関して得られた触媒の結果を報告する。試験中、性能は一定のままであり、触媒は活性の喪失又は収率の喪失の問題を示さなかった。
【0192】
非生物学的起源の1,3-BDO出発溶液を使用して試験を継続した。この工程では、反応温度を375℃に設定して、わずかな変換損失を回復した。続いて、同じ試験中に、実施例5(本発明)に記載のとおりに得られた「バッチ04-2」の相IIIを、83.3%の溶液が得られるように脱塩水で希釈して得た溶液4.226kgを供給した。この場合も、表17は、上記のように計算された、変換率(C%)及び選択性(S%)に関して得られた触媒の結果を報告する。前の場合のように、性能は一定のままであり、触媒は活性の喪失又は収率の喪失の問題を示さなかった。
【0193】
【表17】
【0194】
一方、表18は、最後の精製工程の収率と脱水の収率との間に生じると理解されているブテノールの全体的な収率を報告する。
【0195】
【表18】
【0196】
表18に報告されるデータから、発酵ブロスからバイオ-ブテノールを製造する本発明による方法は、平均全収率に関して従来技術の改善であることがわかるだろう。
図1
図2