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特許7390389SAWモジュールを備えた香味吸引器具およびSAWモジュールを備えた香味吸引器具の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】SAWモジュールを備えた香味吸引器具およびSAWモジュールを備えた香味吸引器具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20231124BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20231124BHJP
   A24F 40/40 20200101ALI20231124BHJP
   A24F 40/10 20200101ALI20231124BHJP
   B05B 17/06 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H03H9/145 C
H03H3/08
A24F40/40
A24F40/10
B05B17/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021550434
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032308
(87)【国際公開番号】W WO2021070501
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019185128
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188329
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 義行
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕樹
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-087094(JP,A)
【文献】特開2008-073570(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063374(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24F 40/10
A24F 40/40
B05B 17/06
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SAWモジュールを備えた香味吸引器具であって、
前記SAWモジュール
圧電体を含む圧電素子基板と、
前記圧電素子基板の表面上に設けられ、櫛形電極対によって構成されるIDTと、
前記圧電素子基板および前記IDTを被覆するコーティング層と、を備え、
前記コーティング層は、前記圧電素子基板の表面、前記圧電素子基板の端面、および前記圧電素子基板の表面と前記圧電素子基板の端面との間の角部に設けられている
香味吸引器具
【請求項2】
請求項1に記載の香味吸引器具であって、
前記コーティング層は、前記圧電素子基板の表面において、600nm~1400nmの厚みを有する
香味吸引器具
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の香味吸引器具であって、
前記コーティング層は、前記圧電素子基板の端面において、600nm以上であって、かつ前記圧電素子基板の表面における前記コーティング層の厚みの50%以上の厚みを有する
香味吸引器具
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の香味吸引器具であって、
前記コーティング層は、前記圧電素子基板の表面と前記圧電素子基板の端面との間の角部において、600nm以上であって、かつ前記圧電素子基板の表面における前記コーティング層の厚みの50%以上の厚みを有する
香味吸引器具
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の香味吸引器具であって、
前記コーティング層は、SiO2およびSiNのいずれかを含む
香味吸引器具
【請求項6】
SAWモジュールを備えた香味吸引器具の製造方法であって、
圧電体を含む圧電素子基板のウエハの表面に、櫛形電極対によって構成されるIDTを複数形成する工程と、
前記ウエハをモジュール単位に切断する工程と、
切断された前記圧電素子基板および前記IDTを被覆するコーティング層を形成する工程と、を有し、
前記コーティング層を形成する工程では、前記圧電素子基板の表面、前記圧電素子基板の端面、および前記圧電素子基板の表面と前記圧電素子基板の端面との間の角部に前記コーティング層を形成する
SAWモジュールを備えた香味吸引器具の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載のSAWモジュールを備えた香味吸引器具の製造方法であって、
前記コーティング層を形成する工程では、CVD法、ALD法およびスプレーコーティングのいずれかにより前記コーティング層を形成する
SAWモジュールを備えた香味吸引器具の製造方法。
【請求項8】
請求項または請求項に記載のSAWモジュールを備えた香味吸引器具の製造方法であって、
前記コーティング層に親水性を高める処理を行う工程をさらに有する
SAWモジュールを備えた香味吸引器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAWモジュール、香味吸引器具およびSAWモジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、櫛形電極対によって構成されるIDT(Interdigital Transducer)を有する圧電素子基板を用いて表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)を発生させることによって液体を霧化するSAWモジュールが知られている(例えば、特許文献1~2参照)。
【0003】
また、このようなSAWモジュールを香味吸引器具に用いる技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、IDTの表面に絶縁性のコーティング層を形成する技術も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-24646号公報
【文献】特表2016-513992号公報
【文献】米国特許2017/0280771号明細書
【文献】特開平11-114467号公報
【発明の概要】
【0005】
第1の特徴は、SAWモジュールであって、圧電体を含む圧電素子基板と、圧電素子基板の表面上に設けられ、櫛形電極対によって構成されるIDTと、圧電素子基板およびIDTを被覆するコーティング層と、を備え、コーティング層は、圧電素子基板の表面、圧電素子基板の端面、および圧電素子基板の表面と圧電素子基板の端面との間の角部に設けられていることを要旨とする。
【0006】
第2の特徴は、第1の特徴において、コーティング層は、圧電素子基板の表面において、600nm~1400nmの厚みを有することを要旨とする。
【0007】
第3の特徴は、第1の特徴または第2の特徴において、コーティング層は、圧電素子基板の端面において、600nm以上であって、かつ圧電素子基板の表面におけるコーティング層の厚みの50%以上の厚みを有することを要旨とする。
【0008】
第4の特徴は、第1の特徴から第3の特徴のいずれかにおいて、コーティング層は、圧電素子基板の表面と圧電素子基板の端面との間の角部において、600nm以上であって、かつ圧電素子基板の表面におけるコーティング層の厚みの50%以上の厚みを有することを要旨とする。
【0009】
第5の特徴は、第1の特徴から第4の特徴のいずれかにおいて、コーティング層は、SiO2およびSiNのいずれかを含むことを要旨とする。
【0010】
第6の特徴は、第1の特徴から第5の特徴のいずれかのSAWモジュールを備えた香味吸引器具であることを要旨とする。
【0011】
第7の特徴は、SAWモジュールの製造方法であって、圧電体を含む圧電素子基板のウエハの表面に、櫛形電極対によって構成されるIDTを複数形成する工程と、ウエハをモジュール単位に切断する工程と、切断された圧電素子基板およびIDTを被覆するコーティング層を形成する工程と、を有し、コーティング層を形成する工程では、圧電素子基板の表面、圧電素子基板の端面、および圧電素子基板の表面と圧電素子基板の端面との間の角部にコーティング層を形成することを要旨とする。
【0012】
第8の特徴は、第7の特徴において、コーティング層を形成する工程では、CVD法、ALD法およびスプレーコーティングのいずれかによりコーティング層を形成することを要旨とする。
【0013】
第9の特徴は、第7の特徴または第8の特徴において、コーティング層に親水性を高める処理を行う工程をさらに有することを要旨とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るSAWモジュールを示す図である。
図2】SAWモジュールを圧電素子基板の表面側から見た平面視を示す図である。
図3】SAWモジュールの断面を示す図である。
図4】SAWの振動により剥離したコーティング層を示す図である。
図5A】圧電素子基板の表面に1000nmのコーティング層を形成し、SAWモジュールを250回駆動させた後のSAWモジュールの断面を示す図である。
図5B】圧電素子基板の表面に1000nmのコーティング層を形成し、SAWモジュールを250回駆動させた後のSAWモジュールの断面の表面側の一部を示す図である。
図5C】圧電素子基板の表面に1000nmのコーティング層を形成し、SAWモジュールを250回駆動させた後のSAWモジュールの断面の端面の一部を示す図である。
図5D】圧電素子基板の表面に1000nmのコーティング層を形成し、SAWモジュールを250回駆動させた後のSAWモジュールの断面の裏面側の一部を示す図である。
図6】コーティング層の厚み毎に、コーティング層の剥離および圧電素子基板のクラックの発生を確認した結果を示す図である。
図7】圧電素子基板の端面や角部において剥離したコーティング層を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、実施形態について説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる場合があることに留意すべきである。
【0016】
したがって、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合があることは勿論である。
【0017】
[開示の概要]
背景技術で説明したように、IDTの表面に絶縁性のコーティング層を形成する技術が提案されている。しかしながら、圧電素子基板の端面で液体を霧化させる場合には、SAWの振動によりIDTの表面に形成したコーティング層が剥離することがある。また、圧電素子基板の表面にマイクロクラックが入っている場合には、SAWの振動により圧電素子基板にクラックを生じることがある。そのため、SAWモジュールの耐久性についてさらなる改善が望まれている。
【0018】
開示の概要に係るSAWモジュールは、圧電体を含む圧電素子基板と、圧電素子基板の表面上に設けられ、櫛形電極対によって構成されるIDTと、圧電素子基板およびIDTを被覆するコーティング層と、を備える。コーティング層は、圧電素子基板の表面、圧電素子基板の端面、および圧電素子基板の表面と圧電素子基板の端面との間の角部に設けられている。
【0019】
開示の概要によれば、コーティング層は、圧電素子基板の表面、圧電素子基板の端面、および圧電素子基板の表面と圧電素子基板の端面との間の角部に設けられている。したがって、コーティング層の剥離や圧電素子基板のクラックの発生を抑制し、SAWモジュールの耐久性を向上させることができる。
【0020】
[実施形態]
(SAWモジュール)
以下において、実施形態に係るSAWモジュールについて説明する。図1は、実施形態に係るSAWモジュール30を示す図である。図2は、SAWモジュール30を圧電素子基板31の表面側から見た平面視を示す図である。図3は、SAWモジュール30の断面を示す図である。SAWモジュール30は、例えば図示しない香味吸引器具に用いられ、例えば図示しない液貯蔵部から供給される、霧化すべき液体を霧化する。
【0021】
図1図3に示すように、SAWモジュール30は、圧電素子基板31と、電極(本体部分32および櫛形電極対33によって構成されるIDT)と、コーティング層34と、放熱機構35とを有する。圧電素子基板31は、櫛形電極対33に高周波数(共振周波数)で電圧を印加することによって生じるSAWの振動によって液体を霧化するように構成される。
【0022】
圧電素子基板31は、本体部分32および櫛形電極対33が配置される表面31Fと、表面31Fの反対側に設けられる裏面31Bと、表面31Fと裏面31Bとを接続する端面31Eと、表面31Fと端面31Eとの間の角部31Cとを有する。圧電素子基板31は、電圧の印加によって伸縮する圧電体を含む。圧電素子基板31のうち、櫛形電極対33が配置される部分を配置部分30Aと称することもある。圧電体は、少なくとも表面31Fを構成していればよい。圧電体としては、石英、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム等のセラミック等によって構成される既知の圧電体を用いることができる。
【0023】
本体部分32は、図示しない香味吸引器具の電源と電気的に接続される。本体部分32は、櫛形電極対33の一方である第1櫛形電極33Aと一体である第1本体部分32Aと、櫛形電極対33の他方である第2櫛形電極33Bと一体である第2本体部分32Bとを有する。第1本体部分32Aおよび第2本体部分32Bは、SAWの進行方向Aに対する直交方向Bにおいて配置部分30Aを挟んで配置される。電源から出力される電力は、本体部分32を通じて櫛形電極対33に供給される。
【0024】
櫛形電極対33は、第1櫛形電極33Aおよび第2櫛形電極33Bを有する。第1櫛形電極33Aおよび第2櫛形電極33Bは、SAWの進行方向Aにおいて交互に配置される。第1櫛形電極33Aは、第1本体部分32Aから直交方向Bに沿って延びる形状を有する。第2櫛形電極33Bは、第2本体部分32Bから直交方向Bに沿って延びる形状を有する。例えば、櫛形電極対33は、スパッタ法や蒸着法で形成された金属等によって構成される。
【0025】
図3において、コーティング層34は、圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cを覆うように設けられ、圧電素子基板31、本体部分32および櫛形電極対33を被覆する絶縁性の層である。なお、コーティング層34は、SAWの進行方向Aに平行な圧電素子基板31の端面31E等、液体の霧化に寄与しない領域において、一部省略されてもよい。
【0026】
コーティング層34は、液体の付着等に伴う圧電素子基板31の変性を抑制する材料であって、かつ高い電気抵抗、低い水分透過率、並びに圧電素子基板31と同等のヤング率、熱膨張係数および密度を有する材料によって構成されていればよい。例えば、コーティング層34は、テフロン、パリレン、二酸化ケイ素、窒化ケイ素およびアルミナのような材料によって構成されてもよい。また、コーティング層34は、表面31F、端面31Eおよび角部31Cに均一に付着する必要があるため、CVD法、ALD法およびスプレーコーティングのいずれかにより形成されている。
【0027】
上述したように、IDTの表面のみにコーティング層34を形成した場合、圧電素子基板31の端面31Eで液体を霧化させると、SAWの振動によりコーティング層34が剥離することがある。図4は、SAWの振動により剥離したコーティング層34を示す図である。図4において、破線で囲んだ領域36は、圧電素子基板31の端面31Eおいて液体が供給され、SAWの振動によりコーティング層34が剥離した領域を示している。これは、圧電素子基板31の表面31Fとコーティング層34との隙間から液体が浸入し、SAWの振動によって液体が霧化することにより、コーティング層34が圧電素子基板31の表面31Fから押し上げられて剥離するものと考えられる。
【0028】
そこで、コーティング層34を、圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cを覆うように設けることにより、圧電素子基板31への液体の接触を抑制することができる。また、コーティング層34は、圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cに加えて、圧電素子基板31の裏面31Bに設けられてもよい。このような構成によれば、圧電素子基板31への液体の接触をさらに抑制することができる。
【0029】
また、コーティング層34を設けることにより、圧電素子基板31の表面31Fにマイクロクラックが入っている場合であっても、コーティング層34がマイクロクラックを覆って、SAWの振動による圧電素子基板31のクラックの発生を抑制することができる。これは、コーティング層34が、振動エネルギーの一部によって生じる温度変化による圧電素子基板31の伸縮を抑制するためであると考えられる。
【0030】
ここで、発明者等は、コーティング層34の厚みを最適化する実験を行った。具体的には、発明者等は、ニオブ酸リチウムを圧電体として含む圧電素子基板31に、二酸化ケイ素によって構成されたコーティング層34をプラズマCVD法により形成して、SAWモジュール30を製造し、コーティング層34の剥離および圧電素子基板31のクラックの発生を確認した。なお、コーティング層の成膜の条件は、圧力:60Pa、温度:300℃、プラズマ印加電力のパワー:1.2W/cm2、プリカーサー(Bis(ethylmethylamino)silane)流量:5~10sccm、Ar流量:100sccm、O2流量:150sccm、ES(電極-基板)距離:30mmとした。
【0031】
コーティング層34の厚みを最適化する実験は、以下の2つの観点から行われたものである。1点目は、コーティング層34が薄い場合に、SAWの振動により例えば圧電素子基板31の角部31Cにクラックが生じ、そこから液体が浸入してコーティング層34が剥離したり、コーティング層34が圧電素子基板31の伸縮を抑制しきれず、圧電素子基板31にクラックを生じたりすることである。
【0032】
2点目は、コーティング層34が厚い場合に、圧電素子基板31とコーティング層34との熱膨張率の差による影響が大きくなり、圧電素子基板31とコーティング層34との間にひずみが発生して、圧電素子基板31にクラックを生じることである。
【0033】
図5A図5Dは、圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cに1000nmのコーティング層34を形成し、SAWモジュール30を250回(1750sec)駆動させた後のSAWモジュール30の断面を示す図である。図5Aは、SAWモジュール30の断面を示し、図5Bは、SAWモジュール30の断面の表面31F側の一部を示し、図5Cは、SAWモジュール30の断面の端面31Eの一部を示し、図5Dは、SAWモジュール30の断面の裏面31B側の一部を示している。
【0034】
SAWモジュール30の駆動条件は、液体の供給速度:3ul/sec、駆動電力:9Wとした。図5A図5Dに示すように、圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cに1000nmのコーティング層34を形成した場合には、圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cのいずれにおいても、コーティング層34の剥離も圧電素子基板31のクラックも発生していないことが分かる。
【0035】
図6は、コーティング層34の厚み毎に、コーティング層34の剥離および圧電素子基板31のクラックの発生を確認した結果を示す図である。図6に示すように、コーティング層34の表面31Fの厚みが600nm~1400nmの範囲において、コーティング層34の剥離も圧電素子基板31のクラックも発生していないことが確認された。
【0036】
図6において、◎は、SAWモジュール30を250回(1750sec)駆動させた後であっても、コーティング層34の剥離または圧電素子基板31のクラックが発生していないことを示している。また、○は、SAWモジュール30を150回(1250sec)程度駆動させた場合に、コーティング層34の剥離または圧電素子基板31のクラックが発生したことを示している。また、×は、SAWモジュール30の駆動が10回(50sec)未満で、コーティング層34の剥離または圧電素子基板31のクラックが発生したことを示している。なお、図6において○であっても、SAWモジュール30の駆動電力を低くした場合には、コーティング層34の剥離は発生しにくくなる。
【0037】
図7は、圧電素子基板31の端面31Eや角部31Cにおいて剥離したコーティング層34を示す図である。図7では、圧電素子基板31の表面31Fに1000nmのコーティング層34を形成し、圧電素子基板31の端面31Eおよび角部31Cに400nmのコーティング層34を形成している。
【0038】
図7に示すように、圧電素子基板31の表面31Fにおけるコーティング層34の厚みに対して、圧電素子基板31の端面31Eおよび角部31Cにおけるコーティング層34の厚みが薄い場合には、圧電素子基板31の端面31Eや角部31Cにおいて、コーティング層34の剥離が発生することが分かる。
【0039】
これら結果と、圧電素子基板31の端面31Eおよび角部31Cには、圧電素子基板31の表面31Fよりもコーティング層34が形成されにくいことに基づいて、発明者等は、圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cにおけるコーティング層34の所望の厚みが、以下の通りであることを見出した。
【0040】
すなわち、圧電素子基板31の表面31Fにおいて、最適なコーティング層34の厚みは、600nm~1400nm、好ましくは1000nm~1400nmである。また、圧電素子基板31の端面31Eにおいて、最適なコーティング層34の厚みは、600nm以上であって、圧電素子基板31の表面31Fにおけるコーティング層34の厚みの50%以上である。また、圧電素子基板31の角部31Cにおいて、最適なコーティング層34の厚みは、600nm以上であって、圧電素子基板31の表面31Fにおけるコーティング層34の厚みの50%以上である。
【0041】
圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cにおけるコーティング層34の厚みを上記のようにすることにより、コーティング層34の剥離および圧電素子基板31のクラックの発生を抑制し、SAWモジュール30の耐久性を向上させることができる。
【0042】
図3に戻って、放熱機構35は、圧電素子基板31の角部31Cにおける表面弾性波の反射によって生じる熱を奪うように構成された機構である。放熱機構35は、圧電素子基板31の熱伝導性よりも高い熱伝導性を有する材料によって構成される放熱層およびペルチェ素子の少なくともいずれか1つを含む。
【0043】
図3に示す例では、放熱機構35は、圧電素子基板31の裏面31Bに配置される放熱層である。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、放熱機構35は、圧電素子基板31と接触していればよく、圧電素子基板31の表面31Fに配置されてもよい。放熱機構35は、ペルチェ素子であってもよい。放熱機構35は、放熱層およびペルチェ素子の双方を含んでもよい。
【0044】
例えば、放熱層としては、アルミニウム、銅、鉄等の金属が用いられてもよく、カーボン、窒化アルミニウム、セラミックが用いられてもよい。例えば、ペルチェ素子は、接着剤(グリース、エポキシ樹脂、金属ペースト)によって圧電素子基板31に貼り合わされてもよい。接着剤の熱伝導性は0.1W/m/Kよりも高いことが好ましい。さらには、接着剤の熱伝導性は0.5W/m/Kよりも高いことが好ましい。接着層は薄い方が望ましく、薄い接着層はスクリーン印刷によって実現可能である。
【0045】
図3に示すように、圧電素子基板31の裏面31Bの側には、液体を圧電素子基板31に供給するように構成された液供給部60が設けられる。液供給部60は、圧電素子基板31の端面31Eを介して液体を圧電素子基板31の表面31Fに供給する。例えば、液供給部60は、シリンジポンプである。シリンジポンプは、手動式であってもよく、電動式であってもよい。なお、液供給部60は毛管現象によって液体を供給する部材であってもよい。
【0046】
また、櫛形電極対33と液体が供給される圧電素子基板31の端面31Eとの間において、圧電素子基板31の表面31Fに形成されたコーティング層34の少なくとも一部が、後述する親水性を高める処理によって親水化されてもよい。これにより、液供給部60から供給される液体が圧電素子基板31の表面31Fの移動しやすく、霧化が促進される。
【0047】
液供給部60は、液貯蔵部がカートリッジである場合には、カートリッジの装着に応じて自動的に液体をSAWモジュール30に供給してもよい。液供給部60は、香味吸引器具1を駆動するための電源スイッチが設けられる場合には、電源スイッチのオンに応じて自動的に液体をSAWモジュール30に供給してもよい。
【0048】
(SAWモジュールの製造方法)
以下において、実施形態に係るSAWモジュールの製造方法について説明する。まず、圧電体を含む圧電素子基板31のウエハの表面に、櫛形電極対33によって構成されるIDTを複数形成する。続いて、IDTが形成されたウエハをSAWモジュール30のモジュール単位に切断する。
【0049】
次に、切断された圧電素子基板31およびIDTを被覆するコーティング層34を形成する。ここで、コーティング層34を形成する工程では、圧電素子基板31の表面31F、圧電素子基板31の端面31E、および圧電素子基板31の表面31Fと端面31Eとの間の角部31Cにコーティング層34を形成する。このとき、コーティング層34は、CVD法、ALD法およびスプレーコーティングのいずれかにより形成されてもよい。また、コーティング層34に親水性を高める処理を行う工程をさらに有していてもよい。親水性を高める処理としては、例えばコーティング層34の表面に親水性を有する素材をさらにコーティングしたり、コーティング層34の表面に微細な凹凸を物理的な加工により設けたりすることが挙げられる。
【0050】
このように、ウエハをSAWモジュール30のモジュール単位に切断した後に、圧電素子基板31およびIDTを被覆するコーティング層34を形成することにより、圧電素子基板31の表面31F、端面31Eおよび角部31Cにコーティング層34を形成することができる。その結果、コーティング層34の剥離および圧電素子基板31のクラックの発生を抑制し、SAWモジュール30の耐久性を向上させることができる。
【0051】
上記構成の香味吸引器具1によれば、SAWモジュール30は、圧電体を含む圧電素子基板31と、圧電素子基板31の表面31F上に設けられ、櫛形電極対33によって構成されるIDTと、圧電素子基板31およびIDTを被覆するコーティング層34と、を備え、コーティング層34は、圧電素子基板31の表面31F、圧電素子基板31の端面31E、および圧電素子基板31の表面31Fと圧電素子基板31の端面31Eとの間の角部31Cに設けられている。そのため、コーティング層34の剥離や圧電素子基板31のクラックの発生を抑制し、SAWモジュール30の耐久性を向上させることができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれる。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…香味吸引器具
30…SAWモジュール
31…圧電素子基板
32…本体部分
33…櫛形電極対
34…コーティング層
35…放熱機構
31B…裏面
31C…角部
31E…端面
31F…表面
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7