(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】改良されたカソードアーク源
(51)【国際特許分類】
C23C 14/32 20060101AFI20231124BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20231124BHJP
H05H 1/50 20060101ALI20231124BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C23C14/32 C
H01J37/08
H05H1/50
C23C14/24 F
(21)【出願番号】P 2021555503
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2020056860
(87)【国際公開番号】W WO2020187743
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-09-14
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510302157
【氏名又は名称】ナノフィルム テクノロジーズ インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanofilm Technologies International Limited
【住所又は居所原語表記】28 Ayer Rajah Crescent,#02-02/03,139959 Singapore SINGAPORE
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】シ,シュ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ミン チュウ
(72)【発明者】
【氏名】タン,コク ホウ
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-514950(JP,A)
【文献】特表2001-521065(JP,A)
【文献】特開2007-305336(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102936717(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101363114(CN,A)
【文献】特開2015-159113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01J 37/08
H05H 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードアーク源であって、
カソード標的のためのステーション;
該標的ステーションとコーティングされる基材との間の位置で使用するための該標的ステーションの上方に位置する第1の磁場源;
該標的ステーションの下方に位置する第2の磁場源;および
該第1の磁場源と該第2の磁場源との間に位置し、かつ該第1の磁場源と反対の極性を有する第3の磁場源;
を備え、
該第1の磁場源、該第2の磁場源および該第3の磁場源から得られる磁場が、該標的より上方の位置で該標的ステーションに対して垂直な方向にゼロ場強度を有し、そして該第2の磁場源が該第1の磁場源と反対の極性を有
し、該標的が金属標的または合金標的である、カソードアーク源。
【請求項2】
前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および/または前記第3の磁場源が磁場発生コイルである、請求項1に記載のカソードアーク源。
【請求項3】
前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および前記第3の磁場源のうちの少なくとも1つの強度が調整可能である、請求項1または2に記載のカソードアーク源。
【請求項4】
前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および前記第3の磁場源のうちの少なくとも2つの強度が調整可能である、請求項3に記載のカソードアーク源。
【請求項5】
前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および前記第3の磁場源の強度が全て調整可能である、請求項1から4のいずれかに記載のカソードアーク源。
【請求項6】
前記第1の磁場源および前記第3の磁場源が磁場発生コイルであり、そして前記第2の磁場源が永久磁石である、請求項1から5のいずれかに記載のカソードアーク源。
【請求項7】
前記標的の上方または下方のいずれかへの前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および前記第3の磁場源の少なくとも1つの距離が調整可能である、請求項1から6のいずれかに記載のカソードアーク源。
【請求項8】
前記標的の上方または下方のいずれかへの前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および前記第3の磁場源の少なくとも2つの距離が調整可能である、請求項7に記載のカソードアーク源。
【請求項9】
前記標的の上方または下方のいずれかへの前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および前記第3の磁場源の距離が全て調整可能である、請求項1から8のいずれかに記載のカソードアーク源。
【請求項10】
前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および前記第3の磁場源から得られる前記磁場が、前記標的より上方10cmまでの位置で前記標的ステーションに対して垂直な方向にゼロ場強度を有する、請求項1から
9のいずれかに記載のカソードアーク源。
【請求項11】
前記標的が5cmから15cmの直径を有する、請求項1から
10のいずれかに記載のカソードアーク源。
【請求項12】
基材上にコーティングを析出させる方法であって、請求項1から
11のいずれかに記載のカソード真空アーク源において標的から陽イオンを生成する工程、および該基材上に該イオンを析出させる工程を含み、該標的がアルミニウム、クロムまたはチタン以外の金属である、方法。
【請求項13】
前記標的が銅またはニッケルを含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記コーティングが請求項1から
11のいずれかに記載のカソードアーク源を使用して析出する、請求項
12または
13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の磁場源、前記第2の磁場源および前記第3の磁場源が、前記標的より上方10cmまでの位置で前記標的ステーションに対して垂直な方向にゼロ場強度の領域を提供するように構成されている、請求項
12から
14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良されたカソードアーク源、特に改良されたフィルタードカソード真空アーク(FCVA)源に関する。改良されたカソードアーク源は、従来のカソードアーク源と比較して、広範な材料が標的に使用されることを可能にし、したがって、より広範な材料が、カソードアーク源析出/コーティングプロセスでコーティングとして使用されることを可能にする。
【背景技術】
【0002】
カソードアーク源が、とりわけ、基材に良好な接着性を有する低温で基材上に硬く、緻密で薄いコーティングを生成するために使用されている。コーティングは、炭素ベース(例えば四面体アモルファスカーボンコーティング)または非常に限られた範囲の金属であってもよい。コーティングが炭素ベースのコーティングである場合、グラファイトが標的として使用される。コーティングが金属である場合、バルク金属または合金が標的として使用され得る。
【0003】
従来のカソードアーク源における1つの問題は、その強烈なアークスポットが標的から生成されたプラズマを汚染するマクロ粒子を大量に生成し、今度は析出したコーティングを生成することである。コーティング中のマクロ粒子の数を減らすという問題は、標的とコーティングされる基材との間のプラズマビームからマクロ粒子をフィルタリングする手段の提供によって従来から取り組まれている。
【0004】
公知の市販装置は、45°の曲げ角度をもって、ビームからマクロ粒子をフィルタリングする。また、WO96/026531は、同じ目的のためのダブルベンドフィルターダクトを備えた装置として記載している。この後者の装置は特に効率的であるが、析出されたコーティングにおけるマクロ粒子を低減するための代替手段および/または追加の手段を提供することが望ましい。
【0005】
WO98/03988は、グラファイト標的と、磁場強度がゼロの標的に対して実質的に垂直な方向に磁場を発生させる手段とを含むカソードアーク源を記載している。磁場は、代表的には、対向方向の2つの磁場源によって生成され、1つは標的の上方に位置し、もう1つは標的の下に位置する。WO98/03988の装置は、アークを安定化させ、コーティングされる基材上のマクロ粒子の析出を低減させることができる。
【0006】
しかし、WO98/03988に記載された装置は、カーボンコーティングを形成するためのグラファイト標的とうまく機能する一方で、この装置は金属標的にはあまり適していない。
【0007】
関連する問題は、陰極アーク技術を用いたマクロ粒子生成は、理論的には低アーク電流を用いて低減できるということである。しかし、実際にはアークは、電流が最小安定電流(またはチョッピング電流)を下回ると消える。これは、カソードアーク源が特に安定しておらず、一度点火すると長期間点灯し続けないようになったので、金属標的にとって問題がある。したがって、アークスポットの安定性を向上させるためには、より高いアーク電流が必要となる。20A~30Aの低いアーク電流はグラファイト標的に使用できるのに対し、従来100Aを超える電流が金属標的に必要とされてきた。これらのより高いアーク電流は、すべての金属標的(銅やニッケル標的など)と互換性があるわけではない。 したがって、これまで、金属コーティングの製造におけるカソードアーク源の使用はクロム、アルミニウムおよびチタンコーティングの製造に限定されており、このような標的でさえ、装置の限られた範囲および/または一定の監督の下でしか使用できない。このように、金属標的の長期使用は不可能であり、また、金属標的を用いた過去の実験室規模の装置開発もなかった。
【0008】
他の物理的な蒸気析出コーティング方法は既知であるが(例えば スパッタリング)、これらの方法のすべてがすべてのタイプの金属との使用に適しているわけではない。例えば、ニッケルコーティングはスパッタリング技術を用いて満足に製造することができない。
【0009】
EP0495447A1(株式会社神戸製鋼所)は、真空アーク蒸着のアークスポットおよび蒸発源を制御する方法を記載している。US7,381,311B2(Aksenovら)は、さらなるカソードアークプラズマ源を記載している。これらの両方の蒸発源では、標的から基材に放出されるイオンを導くために磁場が使用される。US2004/0137725は、FCVA装置を使用して形成された金属コーティングを記載し、CN108456844は、FCVAプロセスを使用してNi/Cuコーティングを形成することを記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、改良されたカソードアーク源装置、特に金属標的を利用して基材上に金属コーティングを製造することができるものの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
WO96/026531中の装置を改変することにより、安定したアークスポットが低アーク電流を用いて達成できることが分かっており、したがって、改変された装置は、特に金属および合金標的を含む、より広い範囲の標的での使用に適している。これは、ニッケル、タングステン、銅などの金属が、FCVA法によって初めて析出させることができ、金属標的は一般的に産業規模で使用され得ることを意味する。
【0012】
したがって、本発明は、以下を備えるカソードアーク源を提供する:
カソード標的のためのステーション;
標的ステーションの上方に位置した第1の磁場源;
標的ステーションの下に位置した第2の磁場源;および
第1の磁場源と第2の磁場源との間に位置し、第1の磁場源と反対の極性を有する第3の磁場源;
を備え、
第1、第2および第3の磁場源からの得られた磁場は、標的ステーションの上の位置で標的に対して実質的に垂直な方向にゼロの磁場強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、従来のカソードアーク源の側面断面模式図を示す。
【
図2A】
図2Aは、本発明の第1の実施形態によるカソードアーク源の同様の図を示す。
【
図2B】
図2Bは、本発明の第2の実施形態によるカソードアーク源の図を示す。
【
図4A】
図4Aは、フィルタおよびアノードコイルのみを含む(すなわち、本発明の第3の補助コイルを含まない)装置における標的上方の距離の関数としてシミュレートされた磁場強度を示す。
【
図4B】
図4Bは、本発明の装置(すなわち、フィルタ、アノードおよび補助コイルを含む装置)における標的上方の距離の関数としてのシミュレートされた磁場強度を示す。
【
図5A】
図5Aは、フィルタおよびアノードコイルのみを含む(すなわち、本発明の第3の補助コイルを含まない)装置内中央の標的からの放射状距離の関数としてシミュレートされた磁場強度を示す。
【
図5B】
図5Bは、本発明の装置(すなわち、フィルタ、アノードおよび補助コイルを含む装置)内中央の標的からの放射状距離の関数としてシミュレートされた磁場強度を示す。
【
図6】
図6は、本発明の装置および方法を用いて銅でコーティングされたポリマーサンプル片を示す。
【
図7】
図7A~7Eは、アーク電流を85Vに設定した(バイアス印加なし)、本発明の装置および方法を用いてクロムでコーティングしたアルミニウム合金ハードディスクドライブプラッタのサンプルを示す。
【
図8】
図8A~8Eは、アーク電流を160Vに設定した(バイアス印加なし)、本発明の装置及び方法を用いてクロムでコーティングしたアルミニウム合金ハードディスクドライブプラッタのサンプルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
装置の使用時には、標的は標的ステーションに位置する。公知の装置は、標的の上方(かつアークチャンバ内)にゼロ垂直場の地点を提供した。本発明による第3の磁場源の添加は、標的に垂直な方向の磁場強度がゼロとなる標的上方の領域を維持しながら、公知の装置と比較して、3つの全ての源から得られる磁場の放射強度を減少させる。
【0015】
また意外にも、第3の磁場源の付加は、標的に対して実質的に垂直な方向で磁界の強度が低い、標的上方に位置する領域の大きさを増大させることが分かった(
図4A~5Bおよび本明細書に記載の実施例を参照)。
【0016】
本明細書で用いられる「垂直」という用語は、標的の表面に直交する方向を指す。本明細書において用いられる「放射」という用語は、標的の表面の平面における方向を指す。
【0017】
カソード標的を参照して、より強い横方向場がスポット運動を促進することが見い出された。見かけのスポット運動で作出された新しい放出中心ごとに、より多くのプラズマがカソードで生成される。プラズマは、標的での導電率を向上させ、それによりアークを維持するために必要な電流を低減させる。逆に、より強い垂直場はプラズマ輸送を促進し、これは、減少したプラズマ密度を補うためにより多くのエネルギーが必要となるためアークを不安定化させる。
【0018】
第3の磁場源を追加すると、得られる磁場を扱う自由度が高まる。標的表面は第2の磁場源と第3の磁場源との間に位置しているので、第3の磁場源は第2の磁場源に対して対向する放射磁場を生成する。したがって、第3の磁場源によって生じる磁場強度を変更することで、単に垂直場からもっぱら横方向の場までの範囲にわたり、かつ標的表面でまたはそのちょうど上の垂直場と横方向場との比率を効果的に変化させる磁場を達成することができる。
【0019】
したがって、第3の磁場源は、標的表面のより大きな部分を横切って垂直方向に磁場強度がゼロのエリアまたは領域を生成するために使用することができる。これは、上述のようにアークを安定化させ、したがって、より低いアーク電流を使用することを可能とする。
【0020】
カソードアーク源は、陽イオン(例えば炭素または金属の陽イオン)をカソード標的から生成し、当該イオンはカソード標的の前面に対して実質的に垂直な方向に放出される。また、カソードアーク源は、真空チャンバおよび(第1の磁場源、第2の磁場源および第3の磁場源から)得られる磁場を含み、そして標的の前面に対して実質的に垂直な方向および標的の上方かつ真空チャンバ内の位置でゼロ場強度を有する。真空チャンバ内で得られる磁場は、カソード標的の前面に対して実質的に垂直な方向に磁場強度がゼロとなる点を含む。
【0021】
標的は、カソードアーク源に使用される任意の材料であり得る。特に、それは金属または合金であるかまたはそれを含む。金属および合金の標的に適した金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル、タングステン、クロム、亜鉛、チタンおよび銀、ならびにそれらの2種またはそれ以上、あるいは3種またはそれ以上の合金が挙げられる。炭素含有標的もまた本発明と共に使用され得るが、一般に第3の磁場源は炭素標的から安定したFCVA析出を得るために必要ではない。
【0022】
使用において、本発明のカソードアーク源は、本明細書に記載されている第1の磁場源、第2の磁場源および第3の磁場源を有しないカソードアーク源と比較して、マクロ粒子の数を減少させた陽イオンのビームを生成する。したがって、マクロ粒子をさらに低減するプラズマビームのフィルタリングは、本発明の(好ましいが)任意の特徴である。本発明の源は、フィルタリング装置の有無にかかわらず使用に適している。本発明を組み込んだ装置の例としては、特に、シングルベンドまたはダブルベンドのフィルタダクト(WO96/126531に記載のものなど)が挙げられる。さらに、アーク源を用いる際には、アークスポットは、下方アーク電流を用いて維持されることができ、これまでこのような析出法、特に種々の金属および合金に以前に不適当と考えられていた標的を用いてカソードアーク源の動作を可能にする。
【0023】
カソードアーク源は、第1の磁場源、第2の磁場源および第3の磁場源を備え得る:
(1)標的の前面にて、前面に対して実質的に垂直である得られる磁場方向は、前面に面している;
(2)前面に対して実質的に垂直な方向の磁場強度は、標的からゼロ垂直場強度の点または領域までの距離が増加するに伴い減少する;
(3)ゼロ垂直場強度の点または領域から、標的からの距離が増大するに伴い、場の方向は標的の前面から離れている。
【0024】
この構成では、標的の前面から放出された陽イオンは、最初に、その方向が陽イオンの方向とは実質的に反対である磁場を通過し、第2に、その方向の磁場強度がゼロである点または領域を通過し、そして第3に、その方向が陽イオンの方向と実質的に同じである磁場を通過する。後者の場は、陽イオンをフィルタリング装置(存在する場合、特にダブルベンドフィルタ)に通し、コーティングされる基材に向けて操縦するために使用することができる。
【0025】
ここで、標的の前面に対して実質的に垂直な方向にゼロ場強度の点または領域は、ヌルポイントまたは領域とも呼ばれる。
【0026】
カソードアーク源は、第1の磁場源、第2の磁場源および第3の磁場源に加えて、以下の1つまたはそれ以上を含み得る:カソード標的(例えばグラファイト、金属または合金標的)、アノード、アーク電源、基材、およびカソードからアーク中に陽イオンを生成する手段。
【0027】
カソードアーク源を使用する場合、第1の磁場源、第2の磁場源および第3の磁場源が作動している間に、標的にアークが打ち付けられる。
【0028】
好都合には、望ましい磁場が3つの別々の磁場から生じる。本発明の好ましい装置において、1つまたはそれ以上、あるいは各磁場源の強度を、これら3つの場の重複が基材に向かう途中で通過するヌルポイントを生成するように選択または調整することができる。他の場所で説明されているように、ヌルポイントは、現在よりも低い放射磁場強度かつ現在よりも大きなサイズで作出され得る。
【0029】
したがって、カソードアーク源は、ゼロ垂直磁場強度の位置を変化させるように、磁場源の1つまたはそれ以上(例えば2つまたはそれ以上、あるいは3つ以上)の強度を変化させる手段を含んでもよい。このような構成は、標的の前面とヌルポイントとの間の距離の調整に便利である。特に便利なことに、特に工業的に使用される装置について、第1の磁場源および第2の磁場源を固定し、そして単に第3の場を変化させることによってヌルポイントパラメータが調整される。
【0030】
さらに、磁場源と標的との間の距離を、標的表面に垂直な方向に平行な軸に沿って変化させることができるように、磁場源の1つまたはそれ以上がカソードアーク源上に可動的に取り付けられ得る。磁場源の移動は、ヌルポイントまたは領域の位置を変更するためにも使用され得る。
【0031】
代表的には、磁界強度は、標的の表面の上方10cmまで(標的の表面に垂直な方向)の距離でヌル領域を生成するように選択される。好ましくは、ヌル領域は、標的の表面の上方8cmまで、代表的には6cmまで、例えば5cmまで、好ましくは4cmまでの距離で標的の上方に延びる。
【0032】
磁場源は、代表的には磁場発生コイルまたは永久磁石である。磁場源が永久磁石である場合、磁石はフェライト磁石、アルニコ磁石、ネオジム磁石、コバルト磁石およびこれらの混合物から選択され得る。
【0033】
第1の磁場源(例えばコイル/磁石)は標的の上方に位置しており、使用中は標的と基材の間にある。このような磁場コイルは、従来フィルタードカソードアーク源で見出される。これは、標的からフィルタリング装置(例えば、バッフルなどのシングルまたはダブルベンド、および他のフィルタリング構造を含む)を通過して基材に向かって生成されるプラズマの操縦を支援する磁場を提供する。コイルによって生じた場は、カソード標的に対して実質的に垂直であり、代表的には、その方向は標的から離れて基材に向かう。
【0034】
第2の磁場源(例えばコイル/磁気)は標的の下方、すなわち基材からの標的の反対側に位置する。この第2の源は、代表的には、第1の源によって生成された方向と実質的に同軸であるが反対の方向に磁場を生成する。その効果は、(第3の場と組み合わせて)相対的場強度を調整することによって、標的の上方の点で垂直場がヌルポイントを有するように、第2の源によって生成された場が第1の源によって生成された場を部分的に相殺することである。上述したように、第2の磁場源は、標的の表面に垂直な方向に移動可能であってもよい。第2の磁場源は標的表面の下方に位置するので、磁場源をそれぞれ標的表面に近づけたり遠ざけたりするように、上向きおよび下向きの位置で移動可能であり得る。例えば、第2の磁場源は、標的表面下の0cmから15cm、例えば、標的表面下の1cmから12cm、好ましくは、標的面の下方4cmから9cmの距離間でまでである。
【0035】
第3の磁場源(例えばコイル/磁石)は第1の磁場源と第2の磁場源との間に位置する。第3の磁場源は、代表的には、標的の上方に位置しているが、第1の磁場源の下方にある。第3の磁場源は、代表的には、第1の源および第2の源によって生成された場に対して実質的に同軸方向の磁場を生成した。第3の磁場源は、第1の磁場源とは反対の極性を有するが、代表的には第2の磁場源に対して同じ極性を有する磁場を生成する。効果は、標的上方の位置で全ての相対的な磁場強度を調整することにより、垂直場がヌルポイントを有するように、第3の源によって生成された場が、第1の源(例えばコイル)によって生成された場を平衡させることで第2の源を助けることである。さらに、また、ヌルポイントの周囲では、第3の源は、標的に対して放射状の(すなわち、標的の前面に対して実質的に横方向または平行な方向の)磁場の強度を低下させる。このことがより安定したアークを作出し、潜在的な標的材料を拡張することが分かった。
【0036】
得られる磁場の十分な制御は、第1の磁場源および第3の磁場源の強度を変化させることによって達成され得る。したがって、第1の磁場源および第3の磁場源は(可変)磁場発生コイルであり得、一方、第2の磁場源は永久磁石であり得る。第2の磁場源としてコイルとは対照的に永久磁石を使用すると、装置の電気消費量が減少する。
【0037】
第2の磁場源が永久磁石である場合、磁石を上述のように標的に対して垂直な方向に移動可能に構成することによって、得られる磁場を変化させることができる。
【0038】
標的は、代表的には5cm~15cm、好ましくは7cm~12cm、例えば約9cmの直径を有する。他のサイズは、装置設計および内部寸法にしたがって有用であり得る。
【0039】
磁場源がコイルである場合、コイルはカソードアーク源の真空チャンバの外側に巻き付けられて、真空チャンバ内に磁場を提供し得る。
【0040】
それぞれのコイルの電流が変化するので、ヌル領域(すなわち、標的の前面に対して実質的に垂直な方向のゼロ場の点)は、標的の表面からさらに遠く離れたり、さらに先に移動したりする。この特殊な結果にも関わらず、本発明は、従来のアーク電源で使用するためのものであり、特定場の強度に限定されるものではなく、一般に、交差磁場または逆転磁場を有するか、あるいは標的と基材との間にヌルポイントを有する磁場を提供するカソードアーク源に適用される。
【0041】
さらに、得られた磁場(平衡場の強度の変動によって生成される)の強さは、アーク挙動および析出速度の両方に影響を与えることが観察される。ヌルポイントが標的に近づくと、アークはより強くなりかつ標的により近くに位置し、強い青色プラズマが見られ、析出速度が低下する。ヌルポイントが標的から遠く離れるにつれて、標的表面の磁場の強度が増加し、アークを維持し、アークを打ちつけることが問題になる。析出速度の低下も見られる。
【0042】
したがって、ヌルポイントは中間位置になるように好都合に選択され、拡散したアークフレームと低減したアークスポット強度とを有するアークが生成される。異なるアーク源セットアップについて、適切な操作パラメータを見出だすには、いくつかの試行錯誤または校正が必要になる場合がある。
【0043】
アーク電流が流れている間、(陽イオンが集中しているエリアである)「こぶ」が標的表面の上方に形成される。ほとんどの陽イオンは、標的表面(これは負の電位(代表的には約-30ボルト)にある)に向かって加速され、通常は、高エネルギーで標的表面に衝突し、アークを永続させる。標的の表面上の原子がイオンと電子に分解するにつれて電流が流れ、アースされ、したがってゼロボルトにあるアノードに流れる。アーク電流が約100Aであれば、プラズマ電流(すなわちプラズマビームを形成する陽イオン)は約1Aであり得る。したがって、陽イオンのプラズマビームを形成するようになる電流は、全アーク電流の非常に低い割合である。本発明の第3の場では、より低いアーク電流での操作が可能である。
【0044】
正味磁場の強さを変化させると、ヌルポイントの位置に対応する変動が生じる。ヌルポイントが標的表面に近すぎる場合、より多くの電子がカソードからヌルポイントの位置レベルのアノードに直接流れる。したがって、プラズマ出力がはるかに少ない。ヌルポイントが正しく選択された場合、プラズマの列が生成され、事実上マクロ粒子のないコーティングが良好な速度で析出する。
【0045】
前述のように、カソードアーク源は、代表的には、カソード、アノード、およびストライカーが位置する真空チャンバを備える。アノードは、代表的には、内壁によって形成される。また、標的およびアノードの側面間のアークの発生を防ぐために標的を囲む絶縁シュラウドを設けてもよい。アノードとカソードは電源に接続される。ストライカーは、代表的には真空チャンバの壁に回転可能に取り付けられ、カソードアークの点火を達成するためにカソード標的に向かって回転し、接触するように適合される。
【0046】
本発明の実施形態において、アーク源は、真空チャンバと実質的に中央に位置するカソードを備える。チャンバの内面は、カソードを囲みかつチャンバの内壁に沿ってカソードから離れて延びるようにアノードとしてアースされる。標的はカソードと電気的に接触し、そして(標的よりむしろ)カソードとアノードとの間のアークの発生を防ぐために、電気絶縁シュラウドがカソードを囲む。標的の外側のエッジからアノードまでの距離は、標的の周り全体にわたって実質的に同じであることが好ましい。例えば、これは、円筒形のアノード内の中央に配置された実質的に円形の標的の提供によって達成される。さらに、標的の1つまたは複数のエッジは、アノードと標的の前面との間にのみアークが形成されるように、必要に応じて覆われる。
【0047】
過熱によって機器が損傷するのを防ぐために、代表的には、アノードの周囲の水冷ジャケットによって冷却が提供され、アノードが最も加熱される最大冷却を提供するために、冷水の入口がヌルポイントにほぼ隣接して存在する。水は、ヌルポイントとほぼ同じレベルで冷却ジャケットに流れ込み、内側のスパイラルを上って流れ、その後、ジャケットの外側の部分を流れ落ち、出口パイプを介して出るまで内側のスパイラルを上って流れる。水冷却アノードは当該技術分野で知られており、これらのアノードは、代表的には、標的の直径に似た直径を有する。
【0048】
標的の上方および/または下方の磁界コイル内の電流は、ヌルポイントとさらに水入口との両方が標的表面上方にほぼ同じ距離になるように調整され得る。
【0049】
本発明のカソードアーク源によって生成されたプラズマビームは、その後、従来のシングルまたはダブルベンドダクトを使用してフィルタリングされ得る。プラズマビームの磁気ステアリングは、プラズマビームが、当技術分野で周知であるように磁場の力線に従うため、実現される(例えば、WO96/026531参照)。
【0050】
本発明はまた、カソード標的にアークを当てる方法を提供し、代表的には本発明の装置において、以下の工程を含む:
(i)以下:
(a)第1の場の方向を有する第1の磁場;
(b)第2の場を有する第2の磁場;および
(c)第2の場の方向に対して実質的に並行な第3の場の方向を有する第3の磁場;
を生成し、第1の磁場、第2の磁場および第3の磁場から生じる磁場を生成する工程;ならびに
(ii)得られた場でアークを当てる工程。
【0051】
第2の磁場は、第1の磁場の逆方向であってもよい。
【0052】
第1の磁場および第2の磁場は、それぞれ、標的の上方および下方に位置する磁場源(例えばコイル)から発生することができ、一方、第3の磁場は、本明細書に記載されているように第1の磁場源と第2の磁場源との間の磁場源(例えばコイル)から発生し得る。第1のコイルは、必要に応じて、シングルまたはダブルベンドダクトを介してプラズマを導くことによって、アークによって生成されたプラズマからマクロ粒子をフィルタリングするための手段の一部を形成する。上述したように、得られる場は、標的上方のヌルポイントを含み、この点で、標的に対して垂直な場の強度がゼロであり、コイル電流の変動は、標的からのヌルポイントの距離を変化させる。
【0053】
本発明のカソードアーク源によって生成されるプラズマビームは、基材にコーティングまたはフィルムを付与するために使用され得る。したがって、本発明はまた、物質上にコーティングを析出させる方法であって、以下を含む方法を提供する:
(a)カソード材料をイオン化するために、本明細書に記載の方法に従ってカソード標的でアークを当てる工程;および
(b)イオン化カソード材料を基材上に向け、基材上にコーティングを形成する工程。
【0054】
上記で説明したように、第3の磁場源を使用すると、安定したアークを生成するために必要なアーク電流が低下し、それによってより多くの範囲の材料がFCVAを使用してコーティングされることを可能とする。
【0055】
本発明のアーク源は、CVAプロセスを用いて基材上に金属膜を析出させることを可能とした。したがって、本発明はまた、コーティング方法、および特に基材上にイオンを析出させる方法であって、カソード真空アーク源内の標的から陽イオンを生成する工程、および基材上にイオンを析出させる工程を含み、標的が金属である、方法を提供する。
【0056】
本発明のこれらの方法を操作することにより、アークの繰り返し再打撃を必要とせずに安定した長期的な操作と陽イオンの持続的な生産を意味する、金属および/または合金から作られた金属標的を一般的かつ工業的規模で使用してCVA(特にFCVA)析出を行うことが可能となる。
【0057】
本発明のこれらの方法の特定は、一般に標的がアルミニウム、クロムまたはチタンでないこのような方法を提供する。長期の安定的な操作、例えば少なくとも5分間、好ましくは少なくとも10分間、より好ましくは少なくとも20分間再打撃を伴うことなくアークの維持を提供する、本発明のこのような実施形態では、標的は一般的に金属であり得る。疑念の回避のために、本発明のこれらの実施形態については、標的は炭素でもない。以下の具体例では、銅がFCVAによってポリマー基材上に析出され、導電性であることが判明した。以下のさらなる具体例では、ニッケルがFCVAによって析出され、磁性を有することが判明した。
【0058】
本発明の方法は、好ましくはCVA(特にFCVA)の方法である。これらの実施形態の方法は、好ましくは本発明のカソードアーク源を用いて実施される。好ましい方法は、金属および/または合金標的、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、タングステン、クロム、亜鉛、チタンおよび/または銀、ならびに2種またはそれ以上のあるいは3種またはそれ以上の合金から選択される標的を用いることを別途含み得る。特に好ましい標的材料は、例えば銅および/またはニッケルなどの金属およびエッチング可能なコーティングを製造する。本発明の方法はまた、CVA(特にFCVA)による第1の金属標的を用いた少なくともシード層を析出させる工程、および再度CVA(特にFCVA)による第1のものとは異なる金属の別の金属標的を用いた少なくともさらなる層を析出させる工程を含む。以下に記載の具体例では、ニッケルシード層をポリマー基材上に析出し、その上に銅層を析出した。
【0059】
金属標的から得られ得る安定したアークは、本発明のさらなる有利な用途およびアプリケーションおよび拡張を可能にする。FVCAベースの反応性コーティングの製造もまた可能である。
【0060】
したがって、本発明はさらに、基材にコーティングを析出させる方法であって、カソード真空アーク源において標的から陽イオンを生成する工程、および基材上にイオンを析出させる工程を含み、ここで標的が金属である、方法を提供し、そしてこの方法は、金属の化合物を含む反応性コーティングを得るように析出チャンバにガスを導入する工程をさらに含む。
【0061】
したがって、本発明は、チャンバ内のガスと金属または合金標的を使用してCVAおよび特にFCVAの反応性コーティングを作製する方法を提供する。適切には、この方法は、基材またはその近傍にガスを導入する工程を含む。CVA析出(特にFCVA析出)は、窒素、酸素、メタンまたはエチン環境(例えばN2、C2H2、CH4、O2等として存在する)内で行われ、その結果コーティングはまた、窒素、酸素、炭素または水素などの気体元素も含み得る。そのため、得られるコーティングは、金属酸化物、金属窒化物および/または金属炭化物であり得るかまたは含み得、CVA(特にFCVA)プロセスを使用して得られるようになった。
【0062】
本発明の源および他の方法の他の任意および好ましい特徴は、このようなコーティングおよび反応性コーティングの製造に適用される。
【0063】
したがって、本発明は、その方法から得られた製品および得られ得る製品もまた提供する。本発明は、金属コーティングでコーティングした基材であって、ここでコーティングはCVA(特にFCVA)プロセスによって析出されている基材を提供する。好ましくは、金属はアルミニウム、クロムまたはチタン以外である。FCVAによる幾分かの析出は、それらの標的を用いて、限られた程度のみであったがこれまで可能であった。また好ましくは、コーティングは、銅、ニッケル、タングステン、亜鉛および/または銀、ならびにアルミニウム、銅、ニッケル、タングステン、クロム、亜鉛、チタンおよび/または銀の2種またはそれ以上あるいは3種またはそれ以上の合金であるかまたはそれを含む。好ましい例では、金属または合金はエッチング可能である。より好ましくは、金属は、銅であるかまたはそれを含む。以下に記載する一例は、ポリマー上の銅の層を含み、FCVAによって析出される。銅がエッチング可能であるため、これは電子用途で使用される。また、より好ましくは、金属はニッケルであるかまたはそれを含む。ニッケル銅がエッチング可能であるため、これも電子用途で使用される。
【0064】
さらに本発明により提供される基材は、CVA(特にFCVA)プロセスによって金属または合金の第1層、およびCVA(特にFCVA)プロセスによって析出した、第1層とは異なる金属または合金の第2層でコーティングした基材である。以下に記載する一例は、ニッケルの層および銅の層を含み、いずれもFCVAによってポリマー上に析出される。両方ともエッチング可能であるため、これは電子用途で使用される。ここでシード層は、ポリマー基材への銅層の接着性を促進する。本発明のさらに具体的な実施形態は、本明細書に記載されるようにCVA(特にFCVA)によって析出された、1つまたはそれ以上の金属層でコーティングされた基材を含む電子部品を提供する。
【0065】
さらに本発明により提供されるのは、本発明のCVA(特にFCVA)を用いて反応性コーティングでコーティングした基材である。本発明の上記の方法および製品の他の任意および好ましい特徴は、このような反応性コーティングによるコーティング基材に適用される。
【0066】
このように、本発明は、1つまたは複数のポリマーを含む基材をコーティングするために有利に使用され得る。基材、例えば、FCVAを介して析出した金属コーティングまたは合金コーティングでコーティングされた、ポリマーから製造された(例えば、そのポリマーを含むかまたはそれからなる)基材は、本発明の特定の実施形態を構成する。
【0067】
本発明は、添付の図面を参照して、以下の具体的な例に記載されており、これらは発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0068】
図1は、従来のカソードアーク源(10)を示し、これはWO98/03988にさらに詳細に記載されている。
【0069】
源(10)は、非絶縁シュラウド(13)によって覆われたカソード(12)、および真空チャンバ(11)の内壁によって形成されているアノード(14)を備える。標的(16)は、カソード(12)と電気的に接触している。絶縁シュラウド(17)は標的を囲み、標的(16)およびアノード(14)の側面間のアーク発生を回避する。カソード(12)およびアノード(14)は、アーク電源(図示せず)に接続されている。
【0070】
カソードの冷却は、水入口(20)および水出口(22)を介した冷却水の供給を介して達成される。アノードの冷却は、同様に、アノード冷却ジャケット(27)の水入口および水出口(図示せず)を介した冷却水の供給によって達成される。
【0071】
回転可能なストライカー(28)が真空チャンバの壁に取り付けられ、カソードアークの点火を達成するために標的(16)に向かって回転し、接触するように適合される。
【0072】
ガス入口(31)用のスウェージロック継手を含むビューポート(30)は、操作中のアークの目視検査のためにソースの側面に取り付けられている。
【0073】
標的(16)の上方にはフィルタコイル(32)があり、これは第1の磁場源として作用しかつ標的(16)の上方に取り付けられており、そしてチャンバの円筒壁の周囲には第2の磁場源として作用するアノードコイル(34)がある。
【0074】
図2Aは、本発明の一実施形態によるカソードアーク源を示す。カソードアーク源は、
図1に示す従来のカソードアーク源と同様に、また上述の通りカソード(12)、非絶縁シュラウド(13)、アノード(14)、真空チャンバ(11)、標的(16)、絶縁シュラウド(17)、水入口(20)、水出口(22)、アノード冷却ジャケット(27)、ストライカー(28)、ビューポート(30)、ガス入口(31)、ならびに第1および第2の磁気コイル(32,34)(それぞれフィルタコイル、アノードコイルと呼ばれる)を備える。
【0075】
さらに、
図2Aに示すカソードアーク源は補助コイル(36)を備え、これは第3の磁場源として作用し、フィルタコイル(32)とアノードコイル(34)との間の位置で真空チャンバ(11)を囲む。ストライカー(28)の位置のため、補助コイル(36)は
図2Aに示すカソードアーク源の左側にのみ見ることができる。
【0076】
あるいは、アノードコイル(34)は、
図2Bに示すように、円筒状永久磁石(34B)に置き換えることができる。以下の装置の操作の説明において、アノードコイル(34)は、本発明の実施に実質的な影響を与えることなくこの永久磁石(34B)に置き換えることができることが理解される。
【0077】
磁石(34B)は500mTの強度を有する。
【0078】
磁石(34B)はロッド40に取り付けられ、このロッドは、標的表面下4cmから9cmまでの距離で標的(16)に対して垂直な方向に磁石を上下に移動させるために使用され得る。磁石はまた、磁石が乾燥したままであることを保証するために、水冷却チャンバ(入口(20)により供給される)から磁石(34B)を分離するために壁(42)で囲まれていてもよい。
【0079】
カソードアーク源(10)の操作中、磁場がそれぞれのコイル(32,34,36)によって発生し、得られる磁場が真空チャンバ(11)内で生成され、その結果、標的上方の領域では、磁場強度は、標的(16)に対して実質的に垂直な方向にゼロ(または最小)になる。ゼロ場強度の領域、または「ヌル領域」は、真空チャンバ(11)内および標的(16)上方の短い距離にある。それぞれのコイル(32,34)内の電流の変化は、標的(16)の表面とヌルポイントとの間の距離を変化させる。
【0080】
このカソードアーク源の使用において、それぞれの第1、第2および第3のコイル(32,34,36)の電流は、ヌル領域(すなわち標的に対して実質的に垂直な方向の磁場がゼロ強度である領域)が、0.5cmと約5cmとの間分、標的(16)から離れているように変化する。
【0081】
フィルタコイル(32)とアノードコイル(34)とは極性が反対であり、したがって、標的(16)に対して垂直な方向に互いに打ち消し、それにより、得られる磁場が標的に対して垂直な方向にゼロである標的上方のエリアが存在する。しかし、フィルタコイル(32)およびアノードコイル(34)からの磁場は、標的(16)に対して放射状の位置で互いに補強し合い、それ故に(補助コイル(36)と共に)標的(16)に対して放射状の磁場強度が大きい。(第1のコイルと第2のコイルとの間に位置する)補助コイル(36)は、フィルタコイル(32)と反対の極性を有する。補助コイル(36)によって発生する磁場は、放射磁場強度を低下させる。これは模式
図3Aおよび3Bに示され、これらの図は、従来のカソードアーク源(
図3A)および本発明のカソードアーク源(
図3B)で得られた磁場の磁力線を示す。本発明のカソードアーク源において放射状磁場強度が減少したことは、
図3Bに見ることができる。
【0082】
また、補助コイル(36)は、標的の上方の低い磁場強度の領域のサイズを増大させる(
図4A、4B、5Aおよび5Bを参照)。
図4A、4B、5Aおよび5Bは、シミュレートした磁場強度プロットである。
図4Aおよび5Aは、従来のカソードアーク源(すなわち、2つの別個の磁場源のみを含むもの)を代表するものであり、一方、
図4Bおよび5Bは、本発明のカソードアーク源を代表するものである。
【0083】
各プロットの対について、本発明のカソードアーク源については、標的上方の場強度がより低い領域のサイズが大きくなること、および標的に対して放射状の位置(すなわち、第1のコイル(32)と第3のコイル(36)との間の領域)の場強度が減少することの両方が見られ得る。
【実施例】
【0084】
(実施例1-様々なアノード/補助コイル電流を使用したチョッパ電流とプラズマ出力)
低電流でのアーク安定性を判定するために、
図2Aの装置を用い、アノードコイル(34)と補助コイル(36)とを通る電流を、使用したアーク電流と共に変化させた。フィルタコイル(32)の電流は12Aで一定に保った。標的は、9cmの直径を有する99.95%の純銅標的であった。
【0085】
チョッパ電流(すなわち、アークのチョッピングが観察される最も高いアーク電流)を測定し、かつアノードと補助電流のために異なるコイル電流について記録した。これを下記の表1Aおよび1Bに示す。また、アーク電流が85Aであったときに、補助コイルとアノードコイルの電流の組み合わせごとにプラズマ出力を測定し、記録した。これらを表2Aおよび2Bす。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
そこで、本発明者は3つの異なる磁場源を有するカソードアーク源を用いることは、磁場強度が低い標的上方の面積を増加させ、また、標的に対する放射磁場の強度を低下させることを発見した。これは安定したアークがより低い電流で作り出され得、よって基材上により広い範囲の金属コーティングを析出させるためにカソードアーク源を用いることができるようになったことを意味する。
【0091】
(実施例2-磁場強度シミュレーション研究)
また、補助コイルの追加が標的の磁界強度に及ぼす影響を評価するシミュレーション研究を行った。
【0092】
図4Aは、補助コイルが存在しない装置において、標的下方0.05mから標的上方0.4mの高さまでのシミュレートされた垂直磁場強度(T)を示す(比較例)。
図4Bは、3つのコイル(フィルタコイル、アノードコイルおよび補助コイル)を備える本発明の装置において、標的下方0.05mから標的上方0.4mの高さまでのシミュレートされた垂直磁場強度(T)を示す。
【0093】
第3の補助コイルを加えた場合、垂直磁場強度がゼロである領域がより大きくなることが見られ得る(
図4Aの0.03m近くと比較して、
図4Bでは標的下方約0.05mから標的上方0.05mまでである)。
【0094】
さらに、放射状磁場強度を、標的の中心からの半径距離で0.15mまでシミュレートした。
図5Aは、補助コイルが存在しない装置におけるシミュレートされた放射状磁場強度(T)を示す(比較例)。
図5Bは、3つのコイル(フィルタコイル、アノードコイルおよび補助コイル)を含む本発明の装置におけるシミュレートされた放射磁場強度(T)を示す。
【0095】
図5Aとは対照的に、
図5Bでは、標的の中心から0.05から0.15mの領域における放射磁界強度が有意に低下することが分かる。これは、本明細書に記載されるように、第3の補助コイルの添加が、得られた放射場強度を低下させることに起因する。
【0096】
(実施例3-コーティングの例)
本発明のFCVA源と銅標的を用いて、銅の薄膜(c.200nm)をポリマー片上に析出させた。サンプルを
図6に示す。銅膜の導電性を試験した。導電性は、すべてのケースでバルク銅に近く、いくつかの場合ではバルク銅に匹敵することが判明した。これらの片の異なる外観は、FCVA銅析出前の基底の表面形態を反映している。
【0097】
(実施例4-コーティング品質)
5つのアルミニウム合金ハードディスクドライブプラッタ2セットを、共通の操作パラメータ(アノードコイル電流1.2A、補助コイル電流4Aおよびフィルタコイル電流12A)、標的および基材を用いて、本発明の3コイル装置を用いてクロムでコーティングした。セット1とセット2との間ではアーク電流のみを変えた。次に、コーティングされたディスクを表面粒子含有量について調べた。
【0098】
結果を
図7および8に示す。
図7A~7Eは、85Aのアーク電流を用いてコーティングした5つのディスクの3000倍の倍率の光学顕微鏡解析を示し(セット1)、そして
図8A~8Eは、160Aのアーク電流を用いてコーティングした5つのディスクを用いる3000倍の倍率の光学顕微鏡解析を示す(セット2)。
【0099】
これらの結果は、160Aのアーク電流を用いて作られたコーティングにはより目に見える粒子があり、160Aアーク電流で作出された粒子は目に見えて大きかったことを示した。
【0100】
セット1およびセット2のサンプルの粗さをRaおよびRz値についてそれぞれ2つの位置で分析し、全体の粗さの指標(外側の点を中和する)およびコーティングに亘る最も高いピークから最低の谷に基づく粗さをそれぞれ分析した。結果を次の表に示す。
【0101】
【0102】
各測定されたコーティングサンプルの厚さは類似していた。アーク電流85Aで作られたコーティングは、一般的にRzがより低いものの、アーク電流160Aで作られたものと同様のRaを有していた。
【0103】
(実施例5-ニッケルコーティング)
本発明のFCVA源およびニッケル標的(チャンバに搭載された磁気リングに囲まれ、ニッケル標的を囲む)を用いて、ニッケルの薄膜(c.200nm厚)をポリマー片上に析出させた。これらのコーティングは磁性を有していたことが判明し、したがってバルクニッケルのこの特性を示していた。
【0104】
(実施例6-エッチング可能なニッケルおよび銅コーティング)
本発明のFCVA源およびニッケル標的(チャンバに搭載され、ニッケル標的を囲む磁気リングに囲まれた)を用いて、ニッケル(c.30nm)の薄膜をシード層としてポリマース片上に析出させ、次いで、上に銅の薄い上層(c.200nm)を銅標的を用いて析出させた。これらのコーティングされた基材は、例えば回路基材の一部として、電子部品へのエッチングに適している。
【0105】
したがって、本発明は、特に金属および合金標的で使用するために改善されたカソードアーク源を提供する。