(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】防錆塗料、防錆方法及び塗膜
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20231124BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231124BHJP
C09D 5/10 20060101ALI20231124BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231124BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20231124BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20231124BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20231124BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D5/10
C09D7/61
B05D7/14 P
B05D1/02 Z
B05D5/00 Z
B05D7/24 303C
B05D7/24 303J
B05D7/24 302P
B05D7/24 303B
(21)【出願番号】P 2022012360
(22)【出願日】2022-01-28
【審査請求日】2023-07-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508061549
【氏名又は名称】阪神高速技術株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107000
【氏名又は名称】シャープ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512138965
【氏名又は名称】内外構造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138896
【氏名又は名称】森川 淳
(72)【発明者】
【氏名】五百木 竜也
(72)【発明者】
【氏名】梅本 晶太
(72)【発明者】
【氏名】福井 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】笠原 康弘
(72)【発明者】
【氏名】西芝 貴光
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 準也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 秀敏
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-40929(JP,A)
【文献】特開2016-79493(JP,A)
【文献】特開平11-241048(JP,A)
【文献】国際公開第2010/086953(WO,A1)
【文献】特開2002-273339(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032654(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不揮発分が30質量%以上70質量%以下の水性アクリル樹脂エマルジョンを60~85質量%、鱗片状ステンレススチール箔を5~30質量%、酸化亜鉛を0.1~3質量%含有する(但し、合計量は100質量%を超えない。)ことを特徴とす
る防錆塗料。
【請求項2】
請求項
1に記載の防錆塗料を、鋼製の部材にスプレーで塗布して塗膜を形成することを特徴とする防錆方法。
【請求項3】
上記鋼製の部材は、閉鎖した空間に存在することを特徴とする請求項
2に記載の防錆方法。
【請求項4】
請求項
1に記載の防錆塗料から得られる塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋梁等の鋼製部材の防錆に好適な防錆塗料、防錆方法及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋梁を構成する桁や梁等の鋼製の部材には、腐食を防止するため、塗装による防錆が行われている。塗装が施された鋼製部材は、経年による塗膜や素地の劣化が生じると、劣化の程度に応じて塗り替えや補修が行われる。塗装の塗り替えは、塗膜や素地の劣化が比較的広範囲に生じた場合に行われ、大規模な足場を設置し、鋼製部材の全面に新たな塗膜を形成する。
【0003】
一方、塗装の補修は、塗膜や素地の劣化の範囲が比較的狭い場合に、劣化が生じた部位に局所的に塗膜を形成して行われる。塗装の補修は、比較的短い期間おきに行われる定期点検の際に、応急措置として行われる場合が多い。
【0004】
従来、鋼製部材の防錆のため、エポキシ樹脂系の主剤と、アミン系の硬化剤とを混合してなるエポキシ樹脂系塗料が用いられている(例えば、特許文献1)。この種のエポキシ樹脂系塗料を塗装の補修に用いる場合、主剤と硬化剤を混合した後、鋼製部材の劣化部位にスプレーで吹き付けて塗布する。塗布されたエポキシ樹脂系塗料が硬化し、劣化部位を覆う塗膜を形成することにより、劣化部位の防錆を行うことができる。このエポキシ樹脂系塗料は、主剤と硬化剤に加えて、エチルベンゼンやキシレンやトルエン等の芳香族炭化水素系溶剤を含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
橋梁の鋼製部材には、箱桁のように内部に閉鎖空間を形成するものがあり、鋼製部材の閉鎖空間は、雨水が滞留して腐食が生じやすい。このような橋梁の閉鎖空間内で塗装の補修を行う場合、上記従来のエポキシ樹脂系塗料を使用すると、エポキシ樹脂系塗料に含まれる芳香族炭化水素系溶剤が揮発し、閉鎖空間内に充満する。
【0007】
芳香族炭化水素系溶剤であるエチルベンゼンやキシレンやトルエン等は、神経障害や癌の誘発といった人体への悪影響が指摘されている。このため、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤を含む物質を取り扱う場合は、特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則により、排気設備の設置や、有機ガス用防毒マスク又は送気マスク等の呼吸用保護具の使用が義務付けられている。
【0008】
しかしながら、橋梁の多くは高所に存在するため、閉鎖空間に排気設備を設置することが困難である。また、橋梁の閉鎖空間や、閉鎖空間に至るまでの経路には、橋梁の構成部材が近接して存在するため、呼吸用保護具を着用すると作業や移動が困難である。したがって、上記従来のエポキシ樹脂系塗料は、橋梁の閉鎖空間で使用することは、事実上不可能であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、換気が困難な場所や、呼吸用保護具を着用した作業が困難な場所においても使用でき、しかも十分な防錆効果が得られる防錆塗料、使用方法及び塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の防錆塗料は、水性アクリル樹脂エマルジョンと、鱗片状ステンレススチール箔を含有することを特徴とする。
【0011】
一実施形態の防錆塗料は、酸化亜鉛を更に含有する。
【0012】
一実施形態の防錆塗料は、水性アクリル樹脂エマルジョンを60~85質量%、鱗片状ステンレススチール箔を5~30質量%、酸化亜鉛を0.1~3質量%含有する(但し、合計量は100質量%を超えない。)。
【0013】
一実施形態の防錆塗料は、上記鱗片状ステンレススチール箔は、50%粒子径が10μm以上300μm以下、厚さが0.1μm以上5.0μm以下、アスペクト比が1以上20以下である。
【0014】
また、本発明の防錆方法は、上記防錆塗料を、鋼製の部材にスプレーで塗布して塗膜を形成する。
【0015】
一実施形態の防錆方法は、上記鋼製の部材は、閉鎖した空間に存在する。
【0016】
また、本発明の塗膜は、上記防錆塗料から得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の防錆塗料によれば、発がん性が指摘されているエチルベンゼンやキシレンやトルエン等を含有しないので、閉鎖空間で問題無く使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の防錆塗料、防錆方法及び塗膜の実施形態を説明する。本実施形態の防錆塗料は、鋼の防食に好適に用いられる。特に、既存の橋梁等の構造物に使用されている鋼製部材のうち、劣化部分に、スプレーで局所的に塗布する用途に好適な防錆塗料である。
【0019】
本実施形態の防錆塗料は、水性アクリル樹脂エマルジョンと、鱗片状ステンレススチール箔を含有して形成される。
【0020】
<水性アクリル樹脂エマルジョン>
本実施形態の防錆塗料において、ビヒクルとして用いられる水性アクリル樹脂エマルジョンは、市販の水性アクリル樹脂エマルジョンを用いることができ、少なくとも(メタ)クリル酸誘導体を含む合成樹脂エマルジョン等を用いることができる。水性アクリル樹脂エマルジョンとしては、エチレン/酢酸ビニル/(メタ)クリル酸誘導体共重合体エマルジョン、エチレン/(メタ)クリル酸誘導体共重合体エマルジョン、ポリ(メタ)クリル酸誘導体エマルジョン、スチレン/(メタ)クリル酸誘導体共重合体エマルジョン、酢酸ビニル/(メタ)クリル酸誘導体エマルジョン等を用いることができる。(メタ)クリル酸誘導体は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、これらのエステルなどの酸誘導体を意味し、少なくともこれらの成分を1種以上含む。
【0021】
上記(メタ)クリル酸誘導体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
【0022】
防錆塗料に水性アクリル樹脂エマルジョンを用いることにより、作業者が安全に防錆塗料を塗布できると共に、この防錆塗料で形成される塗膜において、素地に対する良好な密着性と、高い耐候性が得られるので、長期に渡って優れた防錆機能が得られる。
【0023】
水性アクリル樹脂エマルジョンに含まれる合成樹脂成分のガラス転移温度(Tg)は、0℃以上50℃以下が好ましく、10℃以上40℃以下が特に好ましい。これにより、本実施形態の防錆塗料で形成された塗膜は、優れた防水機能が得られる。
【0024】
また、水性アクリル樹脂エマルジョンに含まれる合成樹脂成分の最低造膜温度(MFT)は、-20℃以上50℃以下が好ましく、0℃以上30℃以下が特に好ましい。これにより、本実施形態の防錆塗料は、良好な造膜性が得られる。なお、最低造膜温度は、ISO2115に準拠する温度勾配板法で求めることができる。
【0025】
水性アクリル樹脂エマルジョンは、公知の製造方法により得られるものを用いることができ、例えば、乳化剤の存在下に、重合開始剤を用いて、水又は含水溶媒中で合成樹脂の原料となる重合性モノマーを乳化重合する方法等により製造することができる。
【0026】
乳化剤としては、公知のものを用いることができ、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤やポリビニルアルコール等の保護コロイド等を挙げることができる。
【0027】
水性アクリル樹脂エマルジョンは、エマルジョン中に含まれる合成樹脂の不揮発分については特に限定されないが、水性アクリル樹脂エマルジョンの安定性やハンドリング性の点から、不揮発分は30質量%以上70質量%以下であるのが好ましく、40質量%以上60質量%以下が特に好ましい。ここで、不揮発分とは、JIS K6828-1に規定された「合成エマルジョン-第1部:不揮発分の求め方」に準拠して測定でき、乾燥条件は加熱温度が105℃、乾燥時間が1時間である。
【0028】
水性アクリル樹脂エマルジョンは、素地への密着性を確保するため、500mpa・s以上100,000mpa・s以下の粘度を有するのが好ましい。防錆塗料をスプレーで塗布する場合には液だれが少ない一方、塗布量の調整が容易な点で、2,000mpa・s以上6,000mpa・s以下が特に好ましい。ここで、粘度は、BH型粘度計を用いて、23℃かつ回転数10rpmにおける粘度を測定して求められる値である。
【0029】
水性アクリル樹脂エマルジョンは、安定した塗料液性状を確保するため、pHが7.0~10.0であるのが好ましい。
【0030】
<鱗片状ステンレススチール箔>
本実施形態の防錆塗料に用いる鱗片状ステンレススチール箔は、塗膜の内部で厚み方向に積層し、ラビリンス構造を形成する。この鱗片状ステンレススチール箔で形成されるラビリンス構造により、劣化の原因となる水や酸素や各種イオン等の素地への供給を効果的に遮断し、素地の腐食を低減することができる。本発明において、鱗片状とは、鱗形状に限るものではなく、直線又は曲線を描く細長の線形状等でもよく、薄片の形状が広く該当する。特に、線形状のステンレススチール箔が、鱗形状等の他の形状のステンレススチール箔と共に存在するのが好ましい。この場合、線形状のステンレススチール箔が、他の形状のステンレススチール箔の相互の隙間を埋めて、防食性能を更に高めることができる。
【0031】
この鱗片状ステンレススチール箔の材料であるステンレスの種類は特に制限されず、公知のステンレスを用いることができる。公知のステンレスとして、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、2相系ステンレス等が挙げられる。特に、高い耐食性および高い加工性を有する点で、フェライト系ステンレスまたはオーステナイト系ステンレスを用いることが好ましい。フェライト系ステンレスのなかでも、SUS430が好ましく、オーステナイト系ステンレスのなかでも、SUS304、SUS316、SUS316Lが好ましい。なお、ステンレスは不可避不純物を含んでいてもよく、また、本発明の効果を発揮する限り、その組成は特に制限されないが、耐食性および加工性の観点から、鱗片状ステンレススチール箔における不可避不純物の含有割合は1質量%以下であることが好ましい。
【0032】
この鱗片状ステンレススチール箔は、積算分布において50%となる粒子径である50%粒子径(以下、Dp50という)が、10μm以上300μm以下であるのが好ましく、20μm以上50μm以下であるのが特に好ましい。また、鱗片状ステンレススチール箔は、厚さが0.1μm以上5.0μm以下であるのが好ましく、0.2μm以上1.0μm以下であるのが特に好ましい。また、鱗片状ステンレススチール箔は、アスペクト比が、1以上20以下であるのが好ましく、2以上15以下であるのが特に好ましい。このような鱗片状ステンレススチール箔を用いることにより、塗膜中に安定してラビリンス構造を形成することができ、優れた防錆性能を有する塗膜が得られる。また、ステンレススチール製の箔を用いることにより、耐衝撃性と、耐摩耗性と、熱安定性と、耐薬品性を、高く確保することができる。
【0033】
<酸化亜鉛>
本実施形態の防錆塗料は、鱗片状ステンレススチール箔の積層構造による素地の防錆作用に加えて、犠牲防食による素地の防錆作用を付加するため、防錆顔料として酸化亜鉛を含有するのが好ましい。酸化亜鉛の物性等は特に制限されるものではないが、平均粒径が0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上1.0μm以下の範囲であることが特に好ましい。このような粒径の酸化亜鉛を用いることにより、鱗片状ステンレススチール箔の積層構造の形成不良を生じることなく、犠牲防食による素地の防錆効果を発揮することができる。
【0034】
本実施形態の防錆塗料において、上記水性アクリル樹脂エマルジョンの含有量は、形成される塗膜の基材への密着性と、アクリル樹脂による劣化因子の遮断効果等の観点から、防錆塗料の組成物の総量を基準として、60質量%以上85質量%以下の範囲内であることが好ましく、65質量%以上80質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0035】
また、本実施形態の防錆塗料において、上記鱗片状ステンレススチール箔の含有量は、塗膜中での積層体の形成と、これによるラビリンス構造の形成の観点から、防錆塗料の組成物の総量を基準として、5質量%以上30質量%以下の範囲内であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。防錆塗料に対する鱗片状ステンレススチール箔の含有量が5質量%よりも少ないと、ラビリンス構造の形成が不十分になり、防錆効果が得にくくなる。一方、防錆塗料に対する鱗片状ステンレススチール箔の含有量が30質量%よりも多いと、鱗片状ステンレススチール箔の配向に乱れが生じて、防錆効果が不十分になる。
【0036】
また、本実施形態の防錆塗料において、上記酸化亜鉛の含有量は、犠牲防食による防食効果の発揮と鱗片状ステンレススチール箔によるラビリンス構造の形成を妨げない観点から、防錆塗料の組成物の総量を基準として、0.1質量%以上3質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の塗膜の形成方法は、上記実施形態の防錆塗料を基材上に塗装することによりウェット塗膜(未硬化の塗膜)を形成した後、このウェット塗膜を硬化させることにより塗膜を形成することができる。上記実施形態の防錆塗料は、ウェット塗膜の硬化の過程で揮発する成分にエチルベンゼンやキシレンやトルエン等を含有しないので、防錆塗料の使用位置やその周辺に、発がん性物質を拡散する不都合が無い。したがって、換気が困難な場所や閉鎖空間においても、排気設備や、有機ガス用防毒マスク又は送気マスク等の呼吸用保護具を使用することなく、防錆塗料の塗布作業を行うことができる。特に、橋梁の箱桁のように、内部に閉鎖空間が形成され、かつ、排気設備の設置が困難である場合や、有機ガス用防毒マスク又は送気マスクを装着した状態では作業が行い難い場合において、排気設備や呼吸用保護具が不要であるので、迅速かつ容易に防錆塗料の塗布作業を行うことができる。
【0038】
本実施形態の防錆塗料を基材に塗布する方法は、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、回転霧化塗装機、浸漬塗装、アプリケーター、刷毛、ローラー、型内被覆等により塗布することができるが、特に、エアスプレーやエアレススプレー等のスプレーによる塗布が、迅速性や塗膜の密着性や作業性の観点から好ましい。
【0039】
本実施形態の防錆塗料で形成される塗膜の厚みは、硬化膜厚で5μm以上100μm以下であるのが好ましく、特に好ましくは20μm以上70μm以下である。
【0040】
本実施形態の防錆塗料が塗布される基材の材質は、形成される塗膜と基材との密着性や、上記防錆塗料による防錆効果等の観点から、鋼であることが好ましい。すなわち、基材は、鋼製の部材であるのが好ましい。このような鋼製部材としては、橋梁等の土木構造物、建築物、船舶、タンク等に用いられるものが好ましい。これらの鋼製部材の材質の例として、JIS G3101で規定される一般構造用圧延鋼材(例えば、SS400等)、JIS G3106で規定される溶接構造用圧延鋼材(例えば、SM400等)、及び、JIS G3136で規定される建築構造用圧延鋼材(例えば、SN400等)等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。実施例において、「%」は、特記しない限り、質量基準による。また、塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づくものである。
【0042】
[水性アクリル樹脂エマルジョン]
実施例でビヒクルとして使用する水性アクリル樹脂エマルジョンは、市販のAP-6750(昭和電工株式会社製)を用いた。この水性アクリル樹脂エマルジョンの物性は、次のとおりである。
組成:スチレン‐アクリル共重合エマルジョン
ガラス転移温度(Tg):36℃
最低造膜温度(MFT):0℃
不揮発分:45(44-47)%
粘度:3000(2000-6000)mPa・s
pH:8(7-9)
ここで、括弧内は規格値である。
【0043】
[鱗片状ステンレススチール箔]
実施例で金属箔として使用する鱗片状ステンレススチール箔は、市販のRFA4500(東洋アルミニウム株式会社製)を用いた。この鱗片状ステンレススチール箔の物性は、次のとおりである。
材質:SUS316L
50%粒子径:28μm
厚さ:0.3μm
アスペクト比:2.1
【0044】
[酸化亜鉛]
実施例で防錆顔料として使用する酸化亜鉛は、市販の酸化亜鉛JIS規格2種相当品(ハクスイテック株式会社製)を用いた。この酸化亜鉛の物性は、次のとおりである。
平均粒径:0.3μm
【0045】
上記水性アクリル樹脂エマルジョン、鱗片状ステンレススチール箔及び酸化亜鉛等を、表1に示す配合割合で混合し、十分に撹拌して実施例1、2、3及び4の防錆塗料を製造した。実施例2及び4では、顔料として酸化チタンを添加した。顔料としての酸化チタンは、組成が二酸化チタンであり、密度が4.1で、平均粒径が0.25μmであり、市販のTITANIX JR-600A(テイカ株式会社製)を用いた。なお、実施形態の防錆塗料では、酸化チタンの平均粒径は0.01μm以上5.0μm以下でもよく、防錆塗料に対する配合割合は5%以上50%以下に設定可能である。顔料として酸化チタンを含有することにより、塗膜の補強効果が得られて、塗膜の強度を向上できる。
【0046】
この防錆塗料をエアスプレーにて試験体に塗布し、防錆試験と耐候試験を行った。また、市販の日新インダストリ―株式会社製のアクアシールドスプレーを比較例1とし、日新インダストリ―株式会社製のジンクプラスSスプレーを比較例2とし、日新インダストリ―株式会社製の変性エポスプレーnextを比較例3とし、実施例と同様の試験を行った。また、比較例4として、実施例と同様の水性アクリル樹脂エマルジョン、鱗片状ステンレススチール箔及び酸化亜鉛を用いて、鱗片状ステンレススチール箔の含有量が30質量%よりも大きいものを設定した。また、比較例5として、実施例と同様の水性アクリル樹脂エマルジョン、鱗片状ステンレススチール箔及び酸化亜鉛を用いて、鱗片状ステンレススチール箔の含有量が5質量%よりも小さいものを設定した。比較例の成分と配合割合は、表1に示すとおりである。表1において、添加剤としての分散剤は、顔料及び金属箔を分散させるものであり、DISPERBYK-2015(BYK-Chemie社製)を用いた。また、添加剤として、上記分散剤に加え、消泡剤(BYK-1610、BYK-Chemie社製)を1%以下の割合で用いた。
【表1】
【0047】
[防錆試験]
鋼板に、実施例及び比較例の防錆塗料を乾燥膜厚が65μmとなるように塗装し、23℃で7日間乾燥させたものを試験片とした。JIS K5600-7-1の耐中性塩水噴霧性に準拠して、塩水噴霧に60日間曝した後の試験片のスクラッチ部や塗面に生じた錆び及び膨れの発生程度を、下記の基準に基づいて評価した。評価結果は、表2に示すとおりである。
〇:スクラッチ部の錆幅0~1mm、塗面に錆び又は膨れ等が無いか、わずかに有る
×:スクラッチ部の錆幅1mmを超え、塗面に錆び又は膨れが発生
[耐候試験]
防錆試験と同様の試験片を、岩崎電気製の促進耐候試験機スーパーUVテスター(SUV)を使用して、紫外線の4時間照射(照射強度90mW、ブラックパネル温度63℃湿度70%)と、4時間暗黒(ブラックパネル温度63℃湿度90%)と、4時間結露(ブラックパネル温度30℃湿度95%)を1サイクルとし、360時間試験を実施した。この後の試験片の塗面の状態について、次の基準に基づいて評価を行ったところ、評価結果は表2に示すとおりである。
〇:白化部分が無い
×:白化部分が有る
【表2】
【0048】
表2から分かるように、実施例1~4の防錆塗料は、比較例1~3の防錆塗料と同等の防錆作用を有すると共に、比較例2、4、5と同等の耐候性を有する。しかも、実施例1~4の防錆塗料は、エチルベンゼン等の溶剤を用いないので、揮発物質に起因する神経障害や癌の誘発や、比較例2のような亜鉛粉末に起因する毒性等も無い。したがって、例えば橋梁の箱桁の内部のような閉鎖空間でも、呼吸用保護具の着用や換気を行うことなく、スプレーにより塗布作業を行うことができる。
【0049】
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されるものではなく、多くの変形が、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。