(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】車体上部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/06 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
B62D25/06 A
(21)【出願番号】P 2022034927
(22)【出願日】2022-03-08
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 沙弥加
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
(72)【発明者】
【氏名】清水 かおり
(72)【発明者】
【氏名】山口 将未
(72)【発明者】
【氏名】千葉 由布伽
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-233243(JP,A)
【文献】国際公開第2013/077085(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に沿って延び、車両前後方向におけるセンタピラの設置位置に配置されてルーフパネルを補強するルーフアーチを有する車体上部構造において、
前記センタピラは、少なくともアウタパネル部材とインナパネル部材とを備え、
前記センタピラと前記ルーフアーチとは、前記アウタパネル部材と前記インナパネル部材と前記ルーフアーチとからなる三者が結合された第1結合部位と、前記
インナパネル部材と前記ルーフアーチとからなる二者が結合された第2結合部位とを有し、
前記第2結合部位は、前記第1結合部位よりも車幅方向内側に配置され
、
さらに、インナパネル部材は、前記第1結合部位を通り超して車幅方向内側の前記第2結合部位まで延出していると共に、前記第1結合部位及び前記第2結合部位の両方で接合されていることを特徴とする車体上部構造。
【請求項2】
請求項1記載の車体上部構造において、
前記第1結合部位及び前記第2結合部位を含む領域には、前記ルーフアーチの車両前後方向の幅寸法が他の領域と比較して小さい幅狭部が設けられていることを特徴とする車体上部構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の車体上部構造において、
車体側部には、ルーフサイドレールに沿ってスライド可能なスライドドアが設けられ、
前記ルーフアーチの車幅方向外側端部と前記センタピラの上端部との間には、前記ルーフサイドレールの車両前方部分が臨む戸袋が設けられ、
前記アウタパネル部材は、前記戸袋を含み、
前記ルーフアーチの車幅方向外側端部は、前記戸袋と結合されていることを特徴とする車体上部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車等の車両の車体上部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、センタピラ上部と、ルーフパネルを補強するルーフアーチ(ルーフリインフォースメント)の車幅方向端部とを連結する連結部材(ルーフガセット)を備えた車体上部構造が開示されている。
【0003】
また、側突荷重に対処するため、例えば、センタピラの中間部に対してセンタピラスティフナを配置する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、昨今の自動車業界では、側突荷重に対するセンタピラの剛性・強度を維持しながら、車体重量を軽減するために、センタピラスティフナの小型・軽量化が求められている。
【0006】
しかしながら、センタピラスティフナを小型・軽量化した場合、側突荷重の入力時にルーフアーチと連結部材との連結部位(溶接部位)に応力が集中して、この溶接部位が破断するおそれがある。
【0007】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、従前と比較してセンタピラスティフナを小型化した場合であっても、側突荷重入力時に溶接部位が破断することを回避することが可能な車体上部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、車幅方向に沿って延び、車両前後方向におけるセンタピラの設置位置に配置されてルーフパネルを補強するルーフアーチを有する車体上部構造において、前記センタピラは、少なくともアウタパネル部材とインナパネル部材とを備え、前記センタピラと前記ルーフアーチとは、前記アウタパネル部材と前記インナパネル部材と前記ルーフアーチとからなる三者が結合された第1結合部位と、前記インナパネル部材と前記ルーフアーチとからなる二者が結合された第2結合部位とを有し、前記第2結合部位は、前記第1結合部位よりも車幅方向内側に配置され、さらに、インナパネル部材は、前記第1結合部位を通り超して車幅方向内側の前記第2結合部位まで延出していると共に、前記第1結合部位及び前記第2結合部位の両方で接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、センタピラスティフナを小型化した場合であっても、側突荷重入力時に溶接部位が破断することを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る車体上下構造が適用された車体の概略構造斜視図である。
【
図3】
図2に示す状態から戸袋の上壁部を取り除いた状態を示す部分拡大斜視図である。
【
図4】
図2のIV-IV線に沿った拡大端面図である。
【
図6】ルーフアーチの端部に設けられた幅狭部を示す拡大平面図である。
【
図7】本実施形態において、側突荷重が入力されてルーフアーチが折れ変形した状態を示す斜視図である。
【
図8】本出願人が案出した比較例の拡大端面図である。
【
図9】
図8に示す比較例において、側突荷重が入力されてルーフアーチが変形した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、「前後」は、車両前後方向、「左右」は、車幅方向(左右方向)、「上下」は、車両上下方向(鉛直上下方向)、をそれぞれ示している。
【0012】
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る車体上下構造が適用された車体10の側面には、ドア開口部12が設けられている。このドア開口部12は、フロントドア開口部14と、リヤドア開口部16とを有する。フロントドア開口部14には、図示しないフロントドアがドアヒンジを介して開閉可能に取り付けられる。リヤドア開口部16には、図示しないリヤスライドドアが、後記するレール49(
図3参照)に沿ってスライド可能に取り付けられている。
【0013】
フロントドア開口部14とリヤドア開口部16との間には、下方のサイドシル20から上方のルーフ部22に向かって立設するセンタピラ24が設けられている。このセンタピラ24は、アウタパネル26と、インナパネル28と、センタピラスティフナ30とを備えて構成されている。センタピラスティフナ30は、フロントドア開口部14を構成する車両後方側面に設けられ、アウタパネル26の上下方向に沿った中央よりもやや下方に配置されている。
【0014】
ルーフ部22の車幅方向両側には、ルーフ側部に沿って車両前後方向に延在するルーフサイドレール18が設けられている。
【0015】
車両前後方向におけるセンタピラ24の設置位置には、車幅方向に沿って延び、ルーフパネル34を補強するルーフアーチ36が配置されている(
図1参照)。
【0016】
図6に示されるように、ルーフアーチ36は、車幅方向に沿って延びる長尺な板体(
図1参照)からなる本体部38と、本体部38の車幅方向外側端部に設けられた幅狭部40とから構成されている。本体部38の前縁部及び後縁部には、断面略ハット状を呈し上側に向かって凸形状を有するビード42が設けられている(
図2参照)。本体部38の車幅方向外側端部において、後記する第1接合部位46及び第2接合部位44を含む領域には、ルーフアーチ36の車両前後方向の幅寸法が本体部38(他の領域)と比較して小さい幅狭部40が設けられている(
図6参照)。
【0017】
ルーフアーチ36の車幅方向外側端部37とセンタピラ24の上端部との間には、レール49の車両前方部分が臨む戸袋48が設けられている(
図3、
図4参照)。ルーフアーチ36の車幅方向外側端部37は、戸袋48と接合されている(
図4参照)。
【0018】
図2に示されるように、戸袋48は、上側に位置する上壁部50と、下側に位置する下壁部52とが、一体的に接合して構成されている。
図3に示されるように、下壁部52には、平面視して略三角形状を呈し、下方に向かって窪む凹部54が設けられている。この凹部54には、車幅方向内側に向かって屈曲するレール49の屈曲部32が取付部材56を介して取り付けられている。
【0019】
また、上壁部50の車幅方向内側には、下壁部52の車幅方向内側端面53と比較して、車幅方向内側(ルーフアーチ側)に向かって所定長だけ突出する第1突出部58が設けられている(
図2参照)。換言すると、車幅方向内側において、戸袋48の下壁部52の車幅方向内側端面53(
図3参照)は、上壁部50の第1突出部58と比較して車幅方向外側に引っ込んだ位置に設けられている(
図2と
図3とを比較参照)。
【0020】
図4に示されるように、下壁部52の下方には、ルーフアーチ36の車幅方向外側端部37と、センタピラ24のインナパネル28の上端部とを連結する連結部材60が設けられている。この連結部材60は、車幅方向内側において、上壁部50の第1突出部58よりも車幅方向内側(ルーフアーチ36側)に向かって所定長だけ突出する第2突出部62が設けられている。また、連結部材60は、下方に向かって窪む凹部64を有し、前記凹部64の下端部は、センタピラ24のインナパネル28の上端に接合されている(
図4参照)。
【0021】
なお、戸袋48は、「センタピラのアウタパネル部材」として機能するものである。この戸袋48は、戸袋48の下壁部52を介して、センタピラ24のアウタパネル26の上端に連結されている(
図4参照)。また、ルーフアーチ36の車幅方向外側端部37は、第1接合部位46を介して、戸袋48と連結されている(
図4参照)。さらに、連結部材60は、「センタピラのインナパネル部材」として機能するものである。この連結部材60の下端側は、センタピラ24のインナパネル28の上端に連結されている(
図4参照)。
【0022】
図2及び
図5に示されるように、センタピラ24とルーフアーチ36とは、アウタパネル部材(戸袋48を含む)とインナパネル部材(連結部材60を含む)とルーフアーチ36とからなる三者が一体的に接合された第1接合部位(第1結合部位)46と、
インナパネル部材(
連結部材60を含む)とルーフアーチ36とからなる二者が一体的に接合された第2接合部位(第2結合部位)44とを有している。二者が接合された第2接合部位44は、三者が接合された第1接合部位46よりも車幅方向内側に配置されている。
【0023】
換言すると、センタピラ24とルーフアーチ36との間において、
図5に示されるように、車幅方向外側に配置された第1接合部位46は、上から下に向かって、戸袋48を構成する上壁部50の第1突出部58と、連結部材60の第2突出部62と、ルーフアーチ36の車幅方向外側端部37とからなる三者が、例えば、スポット溶接等によって上下方向において一体的に接合されている。また、第1接合部位46よりも車幅方向内側に配置された第2接合部位44は、上から下に向かって、連結部材60の第2突出部62と、ルーフアーチ36の車幅方向外側端部37とからなる二者が、例えば、スポット溶接等によって上下方向において一体的に接合されている。
【0024】
次に、本出願人が案出した比較例について説明する。
図8に示されるように、この比較例では、車幅方向内側において三者が一体的に接合された第3接合部位70が設けられ、第3接合部位70よりも車幅方向外側において二者が一体的に接合された第4接合部位72が設けられている。
【0025】
具体的には、第3接合部位70は、ルーフアーチ36の車幅方向外側端部37と、戸袋48を構成する上壁部50の第1突出部74と、連結部材60の第2突出部76とからなる三者が、スポット溶接等によって一体的に接合されている。また、第3接合部位70よりも車幅方向外側に位置する第4接合部位72は、ルーフアーチ36の車幅方向外側端部37と、連結部材60の第2突出部76とからなる二者が、スポット溶接等によって一体的に接合されている。なお、比較例において、第4接合部位72は、2枚接合で構成されているが、戸袋48を構成する上壁部50及び下壁部52の下方に設けられているため、第3接合部位70(3枚接合)よりも剛性が高くなっている。
【0026】
図7は、本実施形態の車体上部構造が適用された車体のセンタピラに対して側突荷重が入力されたときのルーフアーチの変形状態を示す一部破断斜視図、
図9は、比較例に係る車体のセンタピラに対して側突荷重が入力されたときのルーフアーチの変形状態を示す一部破断斜視図である。
【0027】
本実施形態では、
図7から了解されるように、三者が接合された第1接合部位46よりも車幅方向内側に位置し、二者が接合された第2接合部位44に側突荷重の応力が集中してルーフアーチ36の折れ点(折れ変形の起点、脆弱部)となっている。従って、本実施形態では、側突荷重の入力時に第2接合部位44を起点としてルーフアーチ36が折れ変形することで側突荷重が吸収され、スポット溶接部位である第1接合部位46への負荷を軽減している。この結果、本実施形態では、従前と比較してセンタピラスティフナ30の形状を小型化した場合であっても、側突荷重入力時に溶接部位(第2接合部位44)が破断することを回避することが可能な車体上部構造を得ることができる。
【0028】
これに対して、本出願人が案出した比較例では、
図9から了解されるように、側突荷重の入力時にルーフアーチ36の車幅方向外側端部37で折れることがなく、ルーフアーチ36が全体的に弓形に変形する。この結果、比較例では、第3接合部位70よりも車幅方向外側に位置する第4接合部位72に対して大きな負荷がかかり、二者が接合されたスポット溶接部位(第4接合部位72)が破断するおそれがある。
【0029】
換言すると、
図9に示されるように、比較例では、側突荷重入力時、接合部位(第3接合部位70、第4接合部位72)以外の部位で折れ変形が発生すると、かえって接合部位に強い応力が付与されて接合部位の破断を招き易くなる。これに対して、
図7に示されるように、本実施形態では、折れ変形の起点に向かって、三者接合部位(第1接合部位46)から二者接合部位(第2接合部位44)へと徐々に脆弱化していき、折れ変形の起点で屈曲するようにすることで、屈曲によって発生する応力で接合部位が破断することを好適に回避することができる。
【0030】
また、本実施形態では、第1接合部位46及び第2接合部位44を含む領域に、ルーフアーチ36の車両前後方向の幅寸法が本体部38(他の領域)と比較して小さい幅狭部40が設けられている(
図6参照)。これにより、本実施形態では、幅狭部40に対して側突荷重の応力を集約(集中)させることが可能となり、第2接合部位44を起点としてルーフアーチ36を折れ変形させることができる。
【0031】
なお、本実施形態では、センタピラ24とルーフアーチ36との間に戸袋48を備える構成としているが、これに限定されるものではない。例えば、ルーフアーチ36が戸袋48を介することがなく、センタピラ24に直接接合されている構成も含まれる。
【符号の説明】
【0032】
10 車体
24 センタピラ
34 ルーフパネル
36 ルーフアーチ
38 本体部(他の領域)
40 幅狭部
44 第2接合部位(第2結合部位)
46 第1接合部位(第1結合部位)
48 戸袋(アウタパネル部材)
60 連結部材(インナパネル部材)