(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】コーティング組成物、および基板上へのSi含有膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/082 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
C01B21/082 C
(21)【出願番号】P 2022039332
(22)【出願日】2022-03-14
(62)【分割の表示】P 2019528733の分割
【原出願日】2017-12-11
【審査請求日】2022-04-08
(32)【優先日】2016-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ・サンチェス
(72)【発明者】
【氏名】ゲンナジー・アイトフ
(72)【発明者】
【氏名】マニッシュ・カンデルウォール
(72)【発明者】
【氏名】コール・リッター
(72)【発明者】
【氏名】ペン・ツァン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マルク・ジラード
(72)【発明者】
【氏名】ジユン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】グレン・クーヘンベイザー
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・オーバン
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・ケリガン
(72)【発明者】
【氏名】リノ・ペザレージ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ダミアン・スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ギョーム・フッソン
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-162072(JP,A)
【文献】特表2015-530964(JP,A)
【文献】特表2016-522784(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0004421(US,A1)
【文献】特開2012-004349(JP,A)
【文献】SCHANTLIN, W. M. et al.,Inorganic Chemistry,1972年12月01日,Vol.11,pp.3082-3084,<DOI:10.1021/ic50118a041>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/082
C01B 33/00 - 33/193
C08G 77/00 - 77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
500~1,000,000の範囲の分子量を有し、式[-N(SiH
3)
x(SiH
2-)
y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位を含み、標準温度および圧力で液体である、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザンを含む、コーティング組成物。
【請求項2】
前記N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザンが1.5:1~2.5:1の範囲のSi:N比を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
500~1,000,000の範囲の分子量を有し、式[-N(SiH
3)
x(SiH
2-)
y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位を含む、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザンを含
み、
前記N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザンが-Si(-)(H)-を有さず、3.5~4.5の範囲のSiH
2
:SiH
3
比を有する、コーティング組成物。
【請求項4】
前記N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザンが-Si(-)(H)-を有さず、3.5~4.5の範囲のSiH
2:SiH
3比を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
溶媒または溶媒系をさらに含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記溶媒または前記溶媒系が、炭化水素、ケトン、エーテル、アミン、エステル、またはこれらの組み合わせを含む、請求項
5に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記溶媒または前記溶媒系が、ベンゼン、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、メシチレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ピリジン、メチルピリジン、2-ヒドロキシエチルプロピオネート、ヒドロキシエチルアセテート、又はそれらの組み合わせを含む、請求項
5に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のコーティング組成物を、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、またはスリットコーティング法により基板と接触させてSi含有膜を形成することを含む、基板上へのSi含有膜の形成方法。
【請求項9】
前記基板が1:1~1:100の範囲のアスペクト比を有するトレンチを含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記トレンチが10nm~1ミクロンの範囲の臨界寸法を有する、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティング組成物が、溶媒または溶媒系をさらに含む、請求項
8に記載の基板上へのSi含有膜の形成方法。
【請求項12】
前記溶媒または前記溶媒系が、炭化水素、ケトン、エーテル、アミン、エステル、またはそれらの組み合わせを含む、請求項
11に記載の基板上へのSi含有膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月11日に出願された米国仮特許出願第62/432,592号明細書および2017年7月27日に出願された米国特許出願第15/661,412号明細書の利益を主張するものであり、どちらもあらゆる目的のためにその全体を本明細書に援用する。
【0002】
式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有する単位を含む、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含む固体または液体のペルヒドロポリシラザン組成物が開示される。その合成方法および利用も開示される。
【背景技術】
【0003】
ペルヒドロポリシラザン(PHPS)は、-SiHx-NH-単位(x=0~2)を繰り返すこと、およびケイ素原子がN原子またはH原子にのみ結合していることを特徴とする、Si、H、およびNのみを含む分子、オリゴマー、またはポリマーである。PHPSを製造するためにいくつかの方法が使用され記載されている。例えば、Gaulの米国特許第4,395,460号明細書、Seyferthらの米国特許第4,482,669号明細書、Nakaharaらの米国特許第5,905,130号明細書、Abelらの米国特許第6,329,487号明細書、およびIsodaらのJ.of Inorganic and Organometallic Polymers(1992)Vol.2,Issue 1,pp.151-160を参照のこと。
【0004】
Reinbergの米国特許第4,200,666号明細書には、揮発性モノマーである液体トリシリルアミンの分解からの、グロー放電によるケイ素窒化物膜の作製方法が開示されている。
【0005】
Scantlinらは、ペンタボラン(9)により触媒されるシリルアミンの縮合を開示している。Chemical Communications,1971,p.1246。
【0006】
Blumらは、オリゴシラザンを合成するための触媒的方法を開示している。Organometallics 1986,5,2081-2086。より具体的には、HSiMe2NHMe2SiHが、触媒としてのRu3(CO)12を使用してNH3と反応させられる。
【0007】
Parkらの米国特許出願公開第2013/0017662号明細書には、式SiaNbOcHd(1.96<a<2.68、1.78<b<3.21、0<c<0.19、4<d<10である)を有する化合物を含む、ギャップを充填するためのフィラーが開示されている。要約。フィラーは、ピリジン中で水素化ポリシラザンまたは水素化ポリシロキサンをトリシリルアミンと反応させることにより合成される。同上、第0064段落~第0065段落。この出願は、膜の収縮を減らすために、約0.7~約0.95のN:Siモル比を有する化合物を目標にしている。同上、第0051段落。
【0008】
PHPSの典型的な合成は、H3Si-N(-)-SiH3単位を含む鎖を形成するた
めのシランのアンモノリシスを含む。アンモノリシス方法は、次のような、NH3と、ハロシラン(好ましくはジハロシラン)との反応を含む:
nH2SiX2+2nNH3→(-SiH2-NH-)n+nNH4Cl
【0009】
形成される直鎖(-SiH2-NH-)nペルヒドリドポリシラザンは、トリクロロシランのような三官能性シランを添加することによって分岐させることができる。例えばHoppeらの米国特許出願公開第2014/341794号明細書を参照のこと。直鎖ポリシラザンは、Si-H/N-H脱離による架橋および環化を行って新しいSi-N結合を生成し、ペルヒドリドポリシラザンのH含有量を部分的に減少させることもできる。例えばAbelらの米国特許第6,329,487号明細書を参照のこと。
【0010】
Hoppeらの米国特許出願公開第2014/341794号明細書には、液相中でのトリシリルアミン(TSA)およびポリシラザンの調製方法が開示されており、この中で、不活性溶媒中に溶解されたアンモニアは、同様に不活性溶媒中に存在するモノクロロシランに対して化学量論量未満の量で最初に導入される。
【0011】
Songらの韓国特許出願公開第2014/0087903号明細書には、三級アミンまたはアンモニアなどの求核性化合物を、式NR3を有するアミノシランと反応させることによる、塩素を含まないポリシラザンポリマーの製造方法が開示されており、この中の各Rは独立してH、SiR’3、アルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルキル、またはアリールオキシカルボニル、アシル、またはアシルオキシ基であり、各R’は独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはアリールオキシ基である。例示的なアミノシランとしては、(H3Si)NH2、(H3Si)2NH、(H3Si)NMe2、(H3Si)2NMe、(H3Si)3N、(H2MeSi)NH2、(H2MeSi)(H3Si)NH、(H2MeSi)(H3Si)2N、(H2MeSi)2NH、(H2MeSi)3N、(H2PhSi)3N、(H2PhSi)NH2、(H2PhSi)2NH、(H2(MeO)Si)3N、(H2(MeO)Si)2NH、(H(MeO)2Si)2NH、(H(MeO)2Si)3N、(H2(MeO)Si)NH2、(H(MeO)2Si)NH2、(H3Si)2NMe、(H3Si)2NPh、これらの誘導体、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0012】
Fujiwaraらの米国特許出願公開第2015/004421号明細書には、(a)ジクロロシランを有機溶媒中でアンモノリシスしてクロロシランとNH基の両方を含むオリゴマーを形成し、(b)系を加熱することで工程(a)で得られたオリゴマーを重合させ、(c)必要に応じて樹脂中に残存するSi-Clをアンモニアで末端処理することにより合成される、Si:Nの比が1.30:1以上の無機ポリシラザン樹脂が開示されている。
【0013】
(ジ)ハロシランのアンモノリシスから製造されるPHPSはNHを含み、固体(NH4Cl)を形成し、これはPHPSを残留する微量のClで汚染する傾向がある。例えばFujiwaraらの米国特許出願公開第2015/004421号明細書の実施例1を参照のこと。さらに、Si:N比は典型的には1.4:1未満である。同上、第0028段落。これらのPHPS配合物をコーティングのために使用する場合、膜は、通常、高温(>400℃、通常は550~700℃)で酸化雰囲気(O2、O3、H2O、H2O2)と接触させることによってケイ素酸化物へと変換される。そのような変換を行うと膜が収縮する傾向があり、これはケイ素酸化物のギャップフィル用途における利用に関して問題を生じさせる。例えば、400℃~1000℃の範囲の硬化温度でPHPS膜が16~18%収縮したことを示すEMD Performance Materialsのウェブサイト(http://www.emd-performance-materials.com/en/electronic_materials/glossary/p
hps/phps.html)を参照のこと。PHPSがより高いSi:N比を有することはそのような収縮の傾向を減らすことが示されている。例えば米国特許出願公開第2015/004421号明細書の表1および2を参照のこと。
【0014】
アンモノリシスから製造されたPHPSは、不活性雰囲気または窒化雰囲気中でこれらを高温(典型的には>700℃)に加熱することによってケイ素窒化物へと変換することもできる。得られるケイ素窒化物は、耐酸化性の固体、膜、繊維、または粉末状の材料になる。しかしながら、窒化ケイ素セラミックへの架橋を可能にするためのPHPSの熱硬化は、N(SiH
3)
3などのケイ素含有基の脱離に関連した著しい質量損失を伴う。Gunthner et al.,Journal of the European Ceramic Society,32(2012)1883-1892。その結果、N-H含有PHPSを固体材料へと変換する際に膜の収縮が観察される。
図2の熱重量データは、質量損失が200℃未満の温度で開始し、質量損失が材料収縮の原因であることを示している。同上。
【0015】
実施例17に示されるように、NH基を含みアンモノリシスにより製造されていると推定される市販のPHPSは空気の影響を受けやすい。
【0016】
そのため、酸化時に最小限の収縮しか示さないSiO2コーティングの形成のための高いSi:N比を有するPHPSが依然として必要とされている。室温(RT)から600℃の間の範囲、好ましくはRTから200℃の間の範囲の温度で固体のケイ素窒化物へと変換することができるPHPSも依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
室温で空気に触れても反応性を全く示さないかほとんど示さないPHPS配合物およびポリマーを得ることも依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含む、ペルヒドロポリシラザンの合成方法が開示される。方法は、トリシリルアミンと触媒とを混合して、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を製造することを含む。あるいは、方法は、トリシリルアミンと触媒とを混合して、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を製造することから本質的になる。これらの方法のいずれも、以下の実施形態のうちの1つ以上を含み得る:
・トリシリルアミンと触媒とを溶媒中で混合する;
・溶媒がペンタンである;
・溶媒がトルエンである;
・トリシリルアミンと触媒とを無溶媒で混合する;
・触媒がB(C6F5)3である;
・触媒がB(C6FH4)3である;
・触媒がBPh3である;
・触媒がPdCl2である;
・触媒がCo2(CO)8である;
・触媒がRu3(CO)12である;
・触媒がゼオライトY(H)Si:Alである;
・触媒のCに対するM(M/C、MはPt、Ru、Pd、Rh、またはNiである)が約0.1重量%~約10重量%である;
・トリシリルアミンと触媒とを室温および大気圧で混合する;
・1ppmモル%~50モル%の触媒を混合する;
・5ppmモル%~5モル%の触媒を混合する;
・10ppmモル%~0.1モル%の触媒を混合する;
・NH3反応物を使用しない;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約1.5:1~約2.5:1の範囲のSi:N比を有する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が望まれる分子量を得たときにクエンチング剤を添加する;
・クエンチング剤が三級アミン(すなわちNR3、R=C1~C6の炭化水素)である;・クエンチング剤がNEt3である;
・クエンチング剤がNBu3である;
・触媒がB(C6F5)3であり、N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物がNMR、IR、および/またはラマン分光法によって測定される望まれる分子量を得たときにクエンチング剤を添加する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を濾過により単離する;・N-H結合を除去するために組成物を処理することなしに、N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を製造する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、N-H結合を除去するための加熱を要することなしにN-Hを含まない;
・基板上でトリシリルアミンと触媒とを混合する;
・基板上に触媒を堆積させる;
・トリシリルアミン蒸気が触媒を含む基板上に凝縮するように、反応チャンバーおよび基板の温度および圧力を維持する:
・トリシリルアミンと触媒の両方の蒸気が基板上に凝縮するように、反応チャンバーおよび基板の温度および圧力を維持する:
・トリシリルアミンと触媒の両方の気相を反応器の中に同時に注入する;または
・トリシリルアミンと触媒の両方の気相を反応器の中に逐次的に注入する;
【0019】
別の代替形態では、方法は、トリシリルアミンと触媒とを混合して、N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を製造することからなる。本開示の方法は、以下の実施形態のうちの1つ以上を含み得る:
・触媒がB(C6F5)3である;
・触媒がB(C6FH4)3である;
・触媒がBPh3である;
・触媒がPdCl2である;
・触媒がCo2(CO)8である;
・触媒がRu3(CO)12である;
・触媒がゼオライトY(H)Si:Alである;
・触媒のCに対するM(M/C、MはPt、Ru、Pd、Rh、またはNiである)が約0.1重量%~約10重量%である;
・トリシリルアミンと触媒とを室温および大気圧で混合する;
・1ppmモル%~50モル%の触媒を混合する;
・5ppmモル%~5モル%の触媒を混合する;
・10ppmモル%~0.1モル%の触媒を混合する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約1.5:1~約2.5:1の範囲のSi:N比を有する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザンが約1~約5の範囲のSiH2:SiH3比を有する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザンが約3.5~約4.5の範囲のSiH2:SiH3比を有する;
・基板上でトリシリルアミンを触媒と混合する;
・基板上に触媒を堆積させる;
・トリシリルアミン蒸気が触媒を含む基板上に凝縮するように、反応チャンバーおよび基板の温度および圧力を維持する:
・トリシリルアミンと触媒の両方の蒸気が基板上に凝縮するように、反応チャンバーおよび基板の温度および圧力を維持する:
・トリシリルアミンと触媒の両方の気相を反応器の中に同時に注入する;または
・トリシリルアミンと触媒の両方の気相を反応器の中に逐次的に注入する;
【0020】
また別の代替形態では、方法は、(a)トリシリルアミンと触媒とを溶媒中で混合してN-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を製造すること、および(b)N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が望まれる分子量を得たときおよび架橋をしたときにクエンチング剤を添加することからなる。また別の代替形態では、方法は、(a)トリシリルアミンと触媒とを溶媒中で混合することでN-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を製造すること、(b)N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が望まれる分子量を得たときおよび架橋をしたときにクエンチング剤を添加すること、および(c)N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を単離すること、からなる。本開示の方法のいずれも、以下の実施形態のうちの1つ以上を含み得る:
・溶媒がペンタンである;
・溶媒がトルエンである;
・触媒がB(C6F5)3である;
・触媒がB(C6FH4)3である;
・触媒がBPh3である;
・触媒がPdCl2である;
・触媒がCo2(CO)8である;
・触媒がRu3(CO)12である;
・触媒がゼオライトY(H)Si:Alである;
・触媒のCに対するM(M/C、MはPt、Ru、Pd、Rh、またはNiである)が約0.1重量%~約10重量%である;
・クエンチング剤が三級アミン(すなわちNR3、R=C1~C6の炭化水素)である;・クエンチング剤がNEt3である;
・クエンチング剤がNBu3である;
・トリシリルアミンと触媒とを室温および大気圧で混合する;
・トリシリルアミンを溶媒/触媒混合物に添加する;
・1ppmモル%~50モル%の触媒を混合する;
・5ppmモル%~5モル%の触媒を混合する;
・10ppmモル%~0.1モル%の触媒を混合する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約1.5:1~約2.5:1の範囲のSi:N比を有する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約1:1~約5:1の範囲のSiH2:SiH3比を有する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約2.5:1~約4.5:1の範囲のSiH2:SiH3比を有する;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が-Si(-)(H)-部位を実質的に含まない;
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を濾過により単離する;・N-H結合を除去するために組成物を処理することなしに、N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を製造する;または
・N-Hを含まずSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、N-H結合を除去するための加熱を要することなしにN-Hを含まない。
【0021】
約332ダルトン~約100,000ダルトンの範囲の分子量を有し上の方法のいずれかの方法により製造される、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物も開示される。N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物は、以下の実施形態のうちの1つ以上を含み得る:
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位を含む;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位から本質的になる;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位からなる;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約1.5:1~約2.5:1の範囲のSi:N比を有する;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約0重量%~約1重量%のN-H含有単位を含む;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、約99重量%~約100重量%の、3つのケイ素原子に結合しているN原子をシェービングするN-Hを含まない繰り返し単位を含む;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が標準温度および圧力で液体である;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約17,000~約80,000の範囲の平均分子量Mnを有する;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約20,000~約50,000の範囲の平均分子量Mnを有する;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が-Si(-)(H)-を有さない;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約1~約5の範囲のSiH2:SiH3比を有する;または
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が好ましくは約3.5~約4.5の範囲の平均分子量Mnを有する;
【0022】
上の方法のいずれかにより製造されたN-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物を含むSi含有膜形成組成物も開示される。Si含有膜形成組成物は次の実施形態のうちの1つ以上を有し得る:
・Si含有膜形成組成物がスピンオン膜形成組成物である;
・Si含有膜形成組成物が蒸着膜形成組成物である;
・Si含有膜形成組成物が、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザンから本質的になる;
・Si含有膜形成組成物が、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザンからなる;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつ
y=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位を含む;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位から本質的になる;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位からなる;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約1.5:1~約2.5:1の範囲のSi:N比を有する;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約0重量%~約1重量%のN-H含有単位を含む;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約99重量%~約100重量%の、3つのケイ素原子に結合しているN原子をシェービングするN-Hを含まない繰り返し単位を含む;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が標準温度および圧力で液体である;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約17,000~約80,000の範囲の平均分子量Mnを有する;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約20,000~約50,000の範囲の平均分子量Mnを有する;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が-Si(-)(H)-を有さない;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が約1~約5の範囲のSiH2:SiH3比を有する;o
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物が好ましくは約3.5~約4.5の範囲の平均分子量Mnを有する;
・さらに溶媒を含む;
・溶媒が炭化水素、ケトン、エーテル、アミン、エステル、またはこれらの組み合わせである;
・溶媒がベンゼン、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、メシチレン、またはこれらの組み合わせである;
・溶媒がメチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、またはこれらの組み合わせである;
・溶媒がエチルエーテル、テトラヒドロフラン、またはこれらの組み合わせである;
・溶媒がピリジン、キシレン、メチルピリジン、またはこれらの組み合わせである;
・溶媒が2-ヒドロキシエチルプロピオネート、ヒドロキシルエチルアセテート、またはこれらの組み合わせである;
・溶媒が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位を含む、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物である;
・溶媒が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位から本質的になる、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物である;
・溶媒が、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位からなる、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物である;
・N-Hを含まずSiを多く含む液体のペルヒドロポリシラザン組成物の中に溶解または分散されている、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含む固体のペルヒドロポリシラザン組成物を、Si含有膜形成組成物が含む。
・N-Hを含まずSiを多く含む液体のペルヒドロポリシラザン組成物の中に溶解または分散されている、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含む固体のペルヒドロポリシラザン組成物からSi含有膜形成組成物が本質的に構成される;
・N-Hを含まずSiを多く含む液体のペルヒドロポリシラザン組成物の中に溶解または分散されている、N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含む固体のペルヒドロポリシラザン組成物からSi含有膜形成組成物が構成される;
【0023】
基板上へのケイ素含有膜の堆積方法も開示される。上で開示されたSi含有膜形成組成物は、基板が中に配置されている反応器の中に導入される。N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物の少なくとも一部は、基板上に堆積されることでケイ素含有膜を形成する。本開示の方法は、次の態様のうちの1つ以上をさらに含み得る:
・反応器の中に反応物を導入する;
・反応物がプラズマ処理される;
・反応物がリモートプラズマ処理される;
・反応物がプラズマ処理されない;
・反応物がH2、H2O、N2H4、NH3、SiH4、Si2H6、Si3H8、SiH2Me2、SiH2Et2、N(SiH3)3、これらの水素ラジカル、およびこれらの混合物からなる群から選択される;
・反応物がH2である;
・反応物がNH3である;
・反応物がO2、O3、H2O、H2O2、NO、N2O、NO2、これらの酸素ラジカル、およびこれらの混合物からなる群から選択される;
・反応物がO3、1Δg一重項酸素、1Σg
+一重項酸素、3Σg
-三重項酸素、またはこれらの組み合わせである;
・反応物がH2Oである;
・反応物がプラズマ処理されたO2である;
・反応物がO3である;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物と反応物とが反応器の中に同時に導入される;
・反応器が化学気相成長用に構成される;
・反応器がプラズマ支援化学気相成長用に構成される;
・N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むペルヒドロポリシラザン組成物および反応物がチャンバーの中に逐次的に導入される;
・反応器が原子層堆積用に構成される;
・反応器がプラズマ支援原子層堆積用に構成される;
・反応器が空間的原子層堆積用に構成される;
・ケイ素含有膜がケイ素酸化物(SimOn、式中の各mおよびnは1~6の範囲の全てを含む整数である)である;
・ケイ素酸化物がSiO2である;
・ケイ素酸化物膜が約10nm~約50nmの厚さを有する;
・ケイ素酸化物膜が約15nm~約30nmの厚さを有する;
・ケイ素含有膜がケイ素窒化物(SiuNv、式中の各uおよびvは1~6の範囲の全てを含む整数である)である;または
・ケイ素窒化物がSi3N4である;
【0024】
基板上にSi含有膜を形成するコーティング方法も開示される。上で開示したSi含有膜形成組成物は、基板と接触し、Si含有膜がスピンコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、またはスリットコーティング法により形成される。本開示の方法は次の態様を含み得る:
・スピンコーティング法によりSi含有膜を形成する;
・スプレーコーティング法によりSi含有膜を形成する;
・ディップコーティング法によりSi含有膜を形成する;
・スリットコーティング法によりSi含有膜を形成する;
・Si含有膜を熱硬化する;
・Si含有膜を光硬化する;
・Si含有膜をアニールする;
・Si含有膜をレーザー処理する;
・Si含有膜がSiO2である;
・SiO2膜が、1100℃で熱酸化成長したものと比較して約1~約5の範囲のウェットエッチング速度を有する;
・SiO2膜が、1100℃で熱酸化成長したものと比較して約1~約3の範囲のウェットエッチング速度を有する;
・Si含有膜がSiNである;
・Si含有膜がSiONである;
・基板が約1:1~約1:100の範囲のアスペクト比を有するトレンチを含む;または・トレンチが約10nm~約1ミクロンの範囲の臨界寸法を有する。
【0025】
表記法および命名法
ある特定の略号、記号、および用語は、以下に続く記述および請求項全体で使用されており、それには以下のものが含まれる。
【0026】
本明細書で使用される不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」は、「1つまたは複数の」を意味する。
【0027】
本明細書で使用される「およそ」または「約」という用語は、示されている値の±10%を意味する。
【0028】
本明細書において、用語「含む」は包括的または無制限であり、列挙されていない追加の材料または方法工程を排除するものではなく;用語「から本質的になる」は、請求項の範囲を、規定されている材料または工程、および請求項に記載の発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない追加の材料または工程に限定し;用語「からなる」は、請求項で規定されていない追加の材料または方法工程を除外する。
【0029】
本明細書において、「N-Hを含まない」とは、物質中の全てのN原子のうちの典型的には1%未満がN-H結合を有し、約99%~約100%のN原子が3個のケイ素原子に結合していることを意味する。当業者であれば、既知の濃度についてピーク/高さ面積を測定し、それから検量線を作成することによって試料中に存在するN-H結合のモルパーセンテージを定量的に決定するために、FTIRおよび/または1HNMRを使用できることを認識するであろう。
【0030】
本明細書において、「Cを含まない」とは、N-Hを含まない繰り返し単位がSi-C
結合を有さないことを意味する。当業者であれば、既知の濃度についてピーク/高さ面積を測定し、それから検量線を作成することによって試料中に存在するSi-C結合のモルパーセンテージを定量的に決定するために、FTIRおよび/または29SiNMRを使用できることを認識するであろう。
【0031】
本明細書において、「Siを多く含む」PHPSは、2.5:1~1.5:1の範囲のSi:N比を有するPHPSを意味する。Si:N比は、通常、PHPS生成物の屈折率を測定することによって見積もることができ、式[N]/[Si]=[4(na-Si:H-n)]/[3(n+na-Si:H-2na-Si3N4)]=4(3.3-n)/3(n-0.5)を使用して計算される。式中のna-Si:H=3.3およびna-Si3N4=1.9はa-Si:Hおよびほぼ化学量論量のa-Si3N4の屈折率である。例えばLongjuan et al.,Journal of Semiconductors,Vol.30,No.9(Sept 2009)のセクション3.1を参照のこと。
【0032】
本明細書において、略語「MW」は分子量を表し、略語「RT」は室温または約18℃~約25℃の範囲の温度を意味する。
【0033】
本明細書において、略語Mnは、数平均分子量、または試料中の全てのポリマー分子の総重量を試料中のポリマー分子の総数で割ったもの(すなわちMn=ΣNiMi/ΣNi、Niは重量Miの分子の数)を表し;略語Mwは、重量平均分子量、または各種類の分子の重量分率に各種類の分子の総質量を掛けたものの合計(すなわちMw=Σ[(NiMi/ΣNiMi)*NiMi])を表し;用語「「多分散指数」またはPDIは、Mw:Mnの比を意味し;用語「揮発性PHPS」は107~450の範囲のMnを有する分子複合体を意味し、用語「オリゴマー」は典型的には450~20,000の範囲のMnを有する液体の分子複合体を意味し;用語「ポリマー」は典型的には10,000~2,000,000の範囲のMnを有する固体の分子複合体を意味する。
【0034】
本明細書において、「限界寸法」とは、アスペクト比の幅、またはトレンチ/ギャップ/ビアの始まりから終わりまでの距離を意味する。
【0035】
本明細書で使用される「独立に」という用語は、R基のことを述べている文脈で使用される場合、対象となるR基が、同一または異なる下付き文字または上付き文字を持っている別のR基との関連で独立に選択されるというだけでなく、その同じR基の任意の更なる化学種との関連で独立に選択されることも表すと理解すべきである。例えば、式MR1
x(NR2R3)(4-x)[式中、xは2または3である]の場合、2つまたは3つのR1基は、互いに同じであっても、各R2と同じであっても、各R3と同じであっても構わない(但し、同じである必要があるわけではない)。さらに、特に断りがなければ、R基の意味は、異なる式で使用されている場合、互いに無関係であることを理解すべきである。
【0036】
本明細書において、用語「ヒドロカルビル基」は炭素および水素を含む官能基を指し;用語「アルキル基」は炭素原子および水素原子のみを含む飽和官能基を指す。ヒドロカルビル基は飽和であっても不飽和であってもよい。いずれの用語も直鎖、分岐、または環状の基を指す。直鎖アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基などがあるが、これらに限定されない。分岐アルキル基の例としては、イソプロピル、またはt-ブチルがあるが、これらに限定されない。環状アルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などがあるが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書において、略語「Me」はメチル基を指し、略語「Et」はエチル基を指し、略語「Pr」はプロピル基を指し、略語「nPr」は「ノルマル」または直鎖のプロピル基を指し、略語「iPr」はイソプロピル基を指し、略語「Bu」はブチル基を指し、略語「nBu」は「ノルマル」または直鎖のブチル基を指し、略語「tBu」はtert-ブチル基(別名1,1-ジメチルエチル)を指し、略語「sBu」はsec-ブチル基(別名1-メチルプロピル)を指し、略語「iBu」はiso-ブチル基(別名2-メチルプロピル)を指し、用語「amyl」はアミルまたはペンチル基(すなわちC5アルキル基)を指し、用語「tAmyl」はtert-アミル基(別名1,1-ジメチルプロピル)を指し、略語「Ph」はフェニル基を指し、用語「ハライド」はハロゲンアニオンであるF-、Cl-、Br-、およびI-を指し、用語「シリル」は配位子R3Si-(各Rは独立してHまたはC1-C4アルキル基である)を指す。
【0038】
本明細書では元素周期表からの元素の標準的な省略形が使用されている。元素はこれらの省略形(例えばMnはマンガンを指し、Siはケイ素を指し、Cは炭素を指す、等)によって言及される場合があることを理解すべきである。さらに、3族は周期表の3族(すなわちSc、Y、La、またはAc)を指す。同様に、4族は周期表の4族(すなわちTi、Zr、またはHf)を指し、5族は周期表の5族(すなわちV、Nb、またはTa)を指す。
【0039】
本明細書で列挙されている任意のおよび全ての範囲は、「全てを含める」という用語が使用されているか否かに関わらず、それらの端点を含む(すなわち、「x=1~4」または「xは1~4の範囲」には、x=1、x=4、およびx=これらの間の任意の数、が含まれる)。
【0040】
ケイ素酸化物、ケイ素酸窒化物、またはケイ素窒化物の膜は、その適切な化学量論量に言及することなしに明細書および請求項全体にわたって言及される場合があることに留意されたい。層は窒化物(SikNl)層、酸化物(SinOm)層、またはケイ素酸窒化物(SikOmNl、式中のk、l、m、n、o、およびpは、1~6(両端含む)の範囲である)などのこれらの組み合わせを含んでいてもよい。例えば、ケイ素酸化物はSinOm(nは0.5~1.5の範囲であり、mは1.5~3.5の範囲である)である。より好ましくは、ケイ素酸化物層はSiO2である。ケイ素窒化物はSikNl(kは2~6の範囲であり、lは3~6の範囲である)である。より好ましくは、ケイ素窒化物層はSi3N4である。ケイ素酸窒化物はSikOmNl(kは0.5~1.5の範囲であり、mは0.5~1.5の範囲であり、lは0.5~1.5の範囲である)である。より好ましくは、ケイ素酸窒化物層はSiONである。これらの膜は、水素も典型的には0原子%~15原子%含み得る。しかし、通常は測定されないため、特段の明示的な記載がない限り、H含有率は無視して全ての膜の組成が示される。
【0041】
本発明の本質および目的をいっそう理解するには、添付図に関連して以下に行う詳細な説明を参照する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】PHPS組成物に付加したトリシリルアミン反応物の数に対するSi:Nの比のグラフである。
【
図2】例示的な堆積プロセスについてのフローチャートである。
【
図3】実施例1のペルヒドロポリシラザンの昇温後の重量損失のパーセンテージ(TGA-実線)および昇温に伴う温度差(DTA-点線)を示す熱重量分析(TGA)/示差熱分析(DTA)グラフである。
【
図4】実施例3における、反応時間10分後および4時間後の、TSA反応物、ペンタン溶媒、およびビス(ジシリルアミノ)シラン反応中間体[(SiH
3)
2-N-SiH
2-N-(SiH
3)
2またはBDSASI]ピークを示す比較のガスクロマトグラフ(GC)スペクトルである。
【
図5】実施例3で生成した無色結晶固体のフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルである。
【
図6】実施例3のペルヒドロポリシラザン結晶固体の昇温後の重量損失のパーセンテージ(TGA-実線)および昇温に伴う温度差(DTA-点線)を示すTGA/DTAグラフである。
【
図7】実施例7における、反応時間30分後および15時間後の、(H
3Si)
2N(SiH
2NiPr
2)反応物および重いオリゴマー反応生成物ピークを示す比較のGCスペクトルである。
【
図8】実施例7で生成した粘稠オイルのFTIRスペクトルである。
【
図9】実施例7で生成した粘稠オイルのゲル浸透クロマトグラフ(GPC)スペクトルである。
【
図10】実施例7のペルヒドロポリシラザン粘稠オイルの昇温後の重量損失のパーセンテージ(TGA-実線)および昇温に伴う温度差(DTA-点線)を示すTGA/DTAグラフである。
【
図11】実施例8のペルヒドロポリシラザンオイルのGCスペクトルである。
【
図12】揮発性物質が除去された後の実施例8で生成したオイルのFTIRスペクトルである。
【
図13】実施例9のペルヒドロポリシラザンオイルのGCスペクトルである。
【
図14】実施例9で生成したオイルのFTIRスペクトルである。
【
図15】実施例10のペルヒドロポリシラザンオイルのGCスペクトルである。
【
図16】実施例10で生成したオイルのFTIRスペクトルである。
【
図17】実施例11のペルヒドロポリシラザン固体のGCスペクトルである。
【
図18】実施例11で生成した固体のFTIRスペクトルである。
【
図19】SiH
2:SiH
3の比に対するPHPS反応生成物中のN原子数のグラフである。
【
図20】実施例18で堆積されたスピンオンSiON膜のパーセント透過率に対するnm単位での波長のグラフである。
【
図21】実施例19で堆積されたスピンオンケイ素酸化物膜の、%収縮に対する%H2O(ひし形)およびウェットエッチング速度(正方形)のグラフである。
【
図22】プリベーク後(実線)ならびにH
2O
2およびH
2O中で2時間硬化後(点線)の、実施例20のSi含有膜の比較のFTIRスペクトルである。
【
図23】
図23Aは、エッチング前の実施例21の切断した基板の走査型電子顕微 鏡側面画像である。
図23Bは、1%のHF水溶液を使用して20秒間エッチングし た後の実施例21の切断した基板の走査型電子顕微鏡側面画像である。
【
図24】例示のPHPS組成物および市販の製品から製造した、堆積したままのSi含有膜および3か月経過後のSi含有膜の比較のFTIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
N-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含む、ペルヒドロポリシラザン(PHPS)組成物が開示される。PHPS組成物は、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位を含む。これらのPHPS組成物は、全てのNがSiに直接結合していることから、N-H結合をほとんど含まないか全く含まない。
【0044】
合成
本開示のN-Hを含まず、Cを含まず、かつSiを多く含むPHPS組成物は、トリシリルアミン[N(SiH3)3または「TSA」]の触媒による脱シリルカップリング、
またはビス(ジシリルアミノ)シラン(H3Si)2-N-SiH2-N-(SiH3)2などの類似の無機(SiH3)2N-末端のN-Hを含まない低分子量シラザン(MW<450amu)(本明細書では「揮発性PHPS」と呼ぶ)から合成される。あるいは、TSAまたは揮発性PHPSは、揮発性PHPSが少なくとも2つの-SiH3シリル基を含むことを条件として、部分的に置換されたNR1R2基(式中のR1およびR2は独立して直鎖または分岐のC1-C4アルキルから選択される)を含んでいてもよい。
【0045】
例えば、揮発性PHPSは、(R4-SiH2-)(R3-SiH2-)-N-SiHR5-NR1R2(式中のR1およびR2は、独立して直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキル、直鎖もしくは分岐のC1-C8アルケニル、直鎖もしくは分岐のC1-C8アルキニル、C6~C10アリール、直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキルエーテル、シリル、トリメチルシリル、または直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキル置換シリルからなる群から選択され;R3、R4、およびR5は、独立してH、直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキル、直鎖もしくは分岐のC1-C8アルケニル、直鎖もしくは分岐のC1-C8アルキニル、C6-C10アリール、直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキルエーテル、シリル、トリメチルシリル、または直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキル置換シリルから選択される)などの、Sanchezらの国際公開第2015/047914号パンフレットに開示の化合物を含み得る。より具体的には、揮発性PHPSは、(H3Si)2-N-SiH2-NR1R2(式中のR1およびR2は独立して直鎖または分岐のC1-C4アルキルである)を含み得る。
【0046】
TSAは市販されている。揮発性PHPS反応物は、本明細書に開示の方法またはSanchezらの国際公開第2015/047914号パンフレットに開示の方法を使用して合成することができる。
【0047】
反応物はSi-X(XはCl、I、またはBrである)を含まず、そのため得られるN-Hを含まないPHPS組成物中のハロゲンによる汚染が抑制され、また腐食性の副生成物の形成も防止される。
【0048】
出発物質、好ましくはトリシリルアミンは、反応物に対して不活性な雰囲気、例えばAr、N2、H2、またはHe下で触媒と混合される。触媒の量は、出発反応物および選択される触媒の両方に応じて変わることになる。反応に必要とされる触媒の量は、1ppmモル%~50モル%、好ましくは5ppmモル%~5モル%、より好ましくは10ppmモル%~0.1モル%の範囲とすることができる。
【0049】
例示的な触媒としては、市販のルイス酸またはルイス塩基が挙げられる。ルイス酸としては、遷移金属およびのその化合物(金属カルボニル等)、ハロゲン化ホウ素および有機ホウ素、ハロゲン化アルミニウム、アルカリおよびアルカリ土類金属ならびにその化合物などが挙げられる。ルイス酸はその均一相であっても不均一相であってもよく、担体(炭素、Al2O3、ポリマー、樹脂など)に固定されていてもよい。具体的なルイス酸としては、限定するものではないが、B(C6F5)3、B(C6FH4)3、またはBPh3などの、式BR3(Rは6~12個の炭素原子を有するアリールまたは置換アリール基である)を有するトリアリールボランが挙げられる。ルイス塩基としては、アミン、ホスフィン、エーテル、チオエーテル、ハライド、アルキン、アレーンなどが挙げられる。具体的なルイス塩基としては、Ph2PCl、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、エチルジメチルアミン(EtMe2N)、トリエチルアミン(Et3N)、ジエチルアミン(Et2NH)、ジイソプロピルアミン(iPr2NH)、イソプロピルアミン(iPrNH2)、不均一系触媒(パラジウム炭素(Pd/C)、白金炭素(Pt/C)、白金アルミニウム(Pt/Al)等)、または均一系触媒(Co2(CO)8、Ru3(CO)12、および他のCoまたはRuカルボニル含有化合物、1,4
-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンルテニウム(II)クロリド、(2-アミノメチル)ピリジン[RuCl2((AMPY(DPPB))]、Rh(PPh3)3、クロロ[(R,R)-1,2-ジフェニル-N1-(3-フェニルプロピル)-N2-(p-トルエンスルホニル)-1,2-エタンジアミン]ルテニウム[(R,R)-teth-TsDpenRuCl]、PdCl2、ヨウ化メチル(MeI)、塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)等)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0050】
好ましくは、得られるN-Hを含まないPHPS組成物の塩化物による汚染を防止するために、触媒は塩化物を含まない。塩化物を含まない例示的な触媒としては、B(C6F5)3、B(C6FH4)3、BPh3、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、パラジウム炭素(Pd/C)、白金炭素(Pt/C)、白金アルミニウム(Pt/Al)、Co2(CO)8、Ru2(CO)8、(2-アミノメチル)ピリジン、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
選択される触媒は、出発反応物およびN-Hを含まないPHPS組成物の望まれる用途に依存するであろう。例えば、以下の実施例で示されるように、無溶媒のTSAおよび0.2モル%のB(C6F5)3は、室温で5分間で固体のPHPS(MW>>1000)を生成する。ペンタン溶媒を添加すると、同じ温度で反応時間が17時間まで遅くなる。出発反応物をTSAから(H3Si)2-N-SiH2-N-(SiH3)2に変更すると、1週間後にPHPSオイルが得られる。(H3Si)2-N-SiH2-N-(SiH3)2出発物質から1週間で生成するPHPSオイルは、ペンタン中でTSAから生成する固体のPHPSよりも低い分子量を有する。3つ全ての反応において、ガスクロマトグラフィーによる測定から出発反応物の100%が消費された。しかしながら、0.2モル%のB(C6F5)3ルイス酸触媒を2~5モル%のBPh3ルイス酸触媒に変えても(H3Si)2-N-SiH2-N-(SiH3)2しか生成せず、室温で1週間後に約1%未満のTSA出発反応物しか変換されない。P(Tolyl)3、P(Ph)3、担持P(Ph)3、およびEt3Nなどのルイス塩基はあまりうまくいかず、進行させるためにはより長い反応時間またはより高い温度を必要とするであろう。
【0052】
出願人らは、触媒の活性が三級アミンなどのルイス塩基を添加することによって高められることも見出した。ルイス塩基は、出発物質(TSAまたは他の揮発性PHPS)と反応しないように、および/または触媒を少なくとも部分的に可溶化する溶媒の存在によって、選択される。ルイス塩基は溶媒として同時に機能して触媒活性を高めることができる。
【0053】
反応物および触媒は、無溶媒で混合されても溶媒中で混合されてもよい。例示的な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、他のアルカン、またはアルカン混合物などの炭化水素が挙げられる。他の溶媒としては、ジクロロメタンまたはクロロホルムなどのハロ炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)またはterブチルエーテルなどのエーテル類;が挙げられ、より一般的には、アセトニトリル、ベンゼン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性溶媒、またはこれらの組み合わせが挙げられる。以下の実施例に示されるように、反応プロセスを遅くするために溶媒が使用されてもよい。あるいは、触媒および/または出発反応物は溶媒に可溶性であってもよい。触媒が溶媒に可溶性である場合、触媒はより効率的になり、反応はより迅速に進行することができる。溶媒は、粉末形態の固体PHPS反応生成物を生成するためにも役立ち得る。溶媒はまた、分子内対分子間の脱シリルカップリングの速度に影響を及ぼす場合もあり、そのため生成物のSiH2:SiH3およびSi:Nの比にも影響を及ぼし得る。例えば、PHPS反応生成物は、ペンタンなどの一部のアルカンへの溶解度が限定的である。その結果、ペンタン中での反応は低分子量のPHPS反応生成物を生成させる。対照的に、PHPSはトルエンなどの芳香族炭化水素
に溶けやすい。そのため、トルエン中での反応はより高分子量のPHPS反応生成物を生成する。当業者であれば、望まれるPHPS反応生成物に到達させるために適切な溶媒を選択できるであろう。
【0054】
触媒は、反応物が入っている容器に添加することができる。あるいは、触媒が入っている容器に反応物を添加してもよい(逆添加)。別の代替形態では、反応物と触媒を同時に容器に添加することができる。また別の代替形態では、反応物の一部が入っている容器に触媒を添加し、反応物の残りの部分を容器の中の触媒/反応物混合物に添加することができる。4つ全ての実施形態において、添加速度は望まれるPHPS反応生成物に依存するであろう。
【0055】
本開示のN-Hを含まないPHPS組成物の合成は、PHPS反応生成物を分解するかいずれかのSi-N結合またはSi-H結合の熱的切断をもたらす温度よりも温度が低いままである限り、任意の適切な温度で行うことができる。実用上の理由から、TSAの沸点(52℃)または(SiH3)2-N-SiH2-N-(SiH3)2(以降「BDSASi」)の沸点(103℃)よりも低い温度で反応を行うことが望ましい。例えば、室温で5分間、無溶媒でTSAおよび0.2モル%のB(C6F5)3から製造される固体のPHPS組成物については、例えば約-78℃~0℃の範囲などの室温よりも低い温度を使用することによって反応を遅くすることが望ましい場合がある。対照的に、一部の遅い反応の速度を上げるために熱が必要とされる場合がある。例えば、いくつかの合成反応のためには、温度は約28℃~約50℃の範囲であってもよい。別の反応のためには、室温(すなわち約18℃~約24℃)が適切な場合がある。他の代替形態では、反応は約-10℃~約27℃の範囲の温度で行われてもよい。当業者であれば、反応温度が高いほどPHPS合成の反応速度が増加し得ることを認識するであろう。より高い反応温度は、(オリゴマー間の)分子間脱シリル化による架橋を誘導してより架橋したより大きいSiH2:SiH3比のオリゴマーまたは分岐した生成物を生じることにより、より高い分子量の生成物も生成することができる。
【0056】
以下の実施例に示されているように、TSAからBDSASIへの最初の脱シリル化重合反応は急速に生じる。比較すると、その後のより大きなPHPS組成物へのBDSASIの脱シリル化重合はよりゆっくり起こる。出願人らは、ポリマーが末端SiH3単位での逐次反応によって形成され得ると考えている:
【0057】
【0058】
反応が継続するにつれて、PHPS組成物の鎖の長さが増加する:
【0059】
【0060】
この反応は直鎖状に進行する:
【0061】
【0062】
あるいは、分岐する形で進行する:
【0063】
【0064】
分子間反応:
【0065】
【0066】
または分子内反応も生じ得る:
【0067】
【0068】
理解されるように、これらの反応はSiH4副生成物を生成する。これは低温トラップすることができ、必要に応じてさらに使用されてもよく、あるいは反応器から排出されて廃棄されてもよい。
【0069】
これも同様に理解されるように、これらの反応は、-SiH2-および-SiH3基のみを有する(-SiH-基を含まない)反応生成物をもたらす。
【0070】
必要に応じて、出発反応物が100%消費される前に、または-SiH3部位間の分子内または分子間の脱シリルカップリング反応が停止する前に、反応を任意選択的にクエンチ(停止)してもよい。例えば、適切な分子量(MW)またはMW分布に到達した時点で、触媒活性は、XNR4(X=F、Cl、Br、I;R=アルキル)、R-CN、R2S、PR3などのような配位化合物を添加することによりクエンチされてもよい。あるいは、NR3(R=C1-C6炭化水素)などの三級アミンを使用してもよい。好ましい三級アミンとしては、NEt3およびNBu3が挙げられる。本出願人らは、より重いアミン(すなわちR=C3-C6の場合)がより安定なPHPS組成物を与え得ると考えている。
【0071】
クエンチング剤がいつ必要とされるかを決定するために、NMR、IR、および/またはラマン分光計を使用して反応の進行をin situで追跡することができる。あるいは、クエンチング剤は、以前の実験で決定された時間に基づいて反応を停止させることが
できる。別の代替形態では、反応を完結させることによって望まれる生成物が得られるように出発物質の量および種類を選択することができる。以下の実施例に示されるように、クエンチング剤が反応に早く添加されるほど、PHPS生成物のMW分布は小さくなる。
【0072】
生成物の意図される用途に応じて、PHPS組成物は、[-N(SiH3)x(SiH2-)y]単位、出発反応物、触媒、溶媒、クエンチング剤、および/または意図される用途のために必要とされる任意の他の成分の組み合わせを含んでいてもよい。
【0073】
あるいは、PHPS組成物は[-N(SiH3)x(SiH2-)y]単位から本質的に構成されていてもよい。この文脈での「から本質的に構成される」という用語は、PHPS組成物が、約90重量%~約98重量%の[-N(SiH3)x(SiH2-)y]単位を含み、反応混合物の全ての残りの成分の合計が約2重量%~約10重量%に過ぎないことを意味する。
【0074】
別の代替形態では、PHPS組成物は、[-N(SiH3)x(SiH2-)y]単位のみ、または約98重量%~約100重量%の[-N(SiH3)x(SiH2-)y]単位のみから構成されていてもよい。
【0075】
[-N(SiH3)x(SiH2-)y]単位が液体を形成する場合、揮発性成分(溶媒、低分子量化合物)をストリッピングすることにより、および/または触媒(不均一系触媒について)または任意の不溶性のクエンチされた触媒を濾過することにより、反応混合物から液体を分離することができる。触媒含有量を減らすために追加の処理がさらに役立つ場合がある。例えば、液体組成物は、アモルファスカーボンなどの吸着剤、またはRohm&HaasによりAmberlystTMという商標で販売されている製品などのイオン交換樹脂を通過させることができる。[-N(SiH3)x(SiH2-)y]単位が固体を形成する場合、固体は濾過によって反応混合物から分離することができる。そのような場合、それが濾過により除去されることができるため(溶媒も使用される場合は溶媒と同時に)、液体触媒の使用は固体PHPSの合成のために好ましい。
【0076】
合成方法は、当該技術分野において公知の装置構成を使用して行うことができる。望まれる温度範囲、圧力範囲、局所的な制御等に基づいて、構成要素のある程度のカスタマイズが必要とされる場合がある。例示的な装置の供給業者としては、Buchi Glass Uster AG、Shandong ChemSta Machinery Manufacturing Co. Ltd.,Jiangsu Shajabang Chemical Equipment Co. Ltdなどが挙げられる。
【0077】
以下の本開示および実施例は、N-Hを含まない揮発性PHPSならびにPHPSオリゴマーおよびポリマーに焦点が当てられているものの、構造N(SiR1
3)(SiHR2
2)(SiH3)を有する任意の有機トリシリルアミン誘導体の触媒による重合からも同様の反応およびN-Hを含まない反応生成物の形成が見込まれ、直鎖の繰り返し単位[-N(SiR1
3)(SiR2
2-)](式中のR1およびR2はそれぞれ独立してH、C1~C6ヒドロカルビル(メチル、エチル、ビニル、アリル、フェニル等)、またはジアルキルアミノ基から選択される)を有するポリマーが得られると見込まれる。非直鎖ポリマーの形成は、全てのR2がHであることを暗に意味する。出願人らは、脱シリルカップリングをするためにこのシリル基へ近づくことを妨げることになる立体障害を回避するために、R2が小さい基(好ましくはC1-C3ヒドロカルビル)である必要があると考えている。
【0078】
In Situ合成
PHPSオリゴマーまたはポリマー(MW>450、好ましくは固体膜まで)の形成は
、触媒の存在下でTSAまたは揮発性PHPS(MW<450)反応物の蒸気を基板上に凝縮させることによって基板上で行われてもよい。触媒は、不揮発性であって基板上に既に存在していてもよく、あるいはTSAおよび/またはNHを含まない揮発性のPHPS反応物と共に基板上に同時注入および同時凝縮されてもよい。in situ合成は、半導体、太陽電池、LCD-TFT、またはフラットパネル型デバイスの製造において有用な場合がある。
【0079】
基板は、限定するものではないが、シリコンウェハ、ガラスシート、またはプラスチックシートであってもよい。凝縮したTSAおよび/またはN-Hを含まない揮発性PHPS反応物の反応は、低温(室温~100℃)で触媒の存在下で起こり得るため、このプロセスは、この反応温度に耐える任意の基板上で行われ得る。基板は、限定するものではないが、ケイ素、ケイ素-ゲルマニウム、ゲルマニウム、SiC、SiOC、SiO2、SiN、有機膜、金属膜(Cu、Al、W、Co、Ru、Ta、Ti等)、およびこれらの窒化物およびケイ化物などの半導体デバイス製造に典型的な追加の層をその表面に有するシリコンウェハであってもよい。基板は、10μm~5nmの範囲、より典型的には500nm~10nmの範囲の開口部を有するトレンチおよびホールなどのフィーチャおよび3Dトポグラフィを有していてもよく、これらのトレンチは、基板上に形成される不揮発性PHPSで充填されることが意図されている。
【0080】
以下のいくつかの実施例に示されるように、本開示の反応は、例えば5ppmモル%~5モル%、より好ましくは10ppmモル%~0.1モル%の範囲の少量の触媒を用いて行われてもよい。触媒は、(気相堆積、触媒を含有する溶液のスピンコーティングなどを介して)基板上に予め堆積されていてもよく、あるいは触媒が十分に揮発性である場合には気相中に逐次的にまたは同時に注入されてもよい。反応は熱凝縮によって進行する。熱凝縮は、反応物をその気相に維持する温度に反応器を設定し、基板を蒸気の分圧における蒸気の露点に近いかそれより低い温度に設定することによって生じる。
【0081】
別の代替形態では、TSA蒸気、揮発性PHPS、または液体PHPSオリゴマーを、例えばマスキング、インクジェット印刷、または選択的堆積によって、触媒が特定の領域に選択的に堆積した基板と接触させることによって、PHPSオリゴマーまたはポリマー(MW>450)が選択された領域に形成されてもよい。
【0082】
代替の実施形態では、液体PHPSオリゴマーを低活性触媒と混合し、これに対して触媒を活性化して液体PHPSオリゴマーを固体PHPSへと変換する処理を行ってもよい。そのような処理は、熱処理または光子もしくは電子への照射を含み得る。
【0083】
PHPSはまた、「流動性CVD」と呼ばれる堆積プロセス中にシリコン基板上にin-situで形成されてもよく、この場合トリシリルアミンまたは揮発性PHPS蒸気はプラズマで活性化されたNH3と共にチャンバーの中に注入される。反応生成物は、ウェハ表面上のフィーチャの中に実際に流れ込むPHPS液体膜であり、PHPS配合物のスピンオン塗布と同様の結果をもたらす。CVD堆積されたPHPS膜は、その後、アニールプロセスにおいて、またはプラズマ活性化プロセスによって、ケイ素酸化物に変換することができる。例えばWangらの米国特許出願公開第2012/0142198号明細書を参照のこと。
【0084】
1つの非限定的なin situ堆積プロセスでは、TSA反応物の気相および触媒であるPh2PClの気相が反応チャンバーに導入されて反応して基板上に本開示のPHPS組成物を形成する。その後、膜は、ケイ素窒化物またはケイ素酸化物への変換のための後処理を受ける。このプロセス手順(堆積/硬化)は、望まれる膜厚を与えることができ、あるいは必要な厚さを有する膜が得られるまで繰り返すことができる。
【0085】
別の非限定的なin situ堆積プロセスでは、TSA反応物の気相が、基板上に堆積された触媒を有する基板が入っている反応チャンバーの中に導入される。TSAは触媒と反応して、N-Hを含まずCを含まないPHPS反応生成物を形成する。望まれる膜がケイ素窒化物である場合、このプロセスは望まれる膜厚を与えることができ、あるいは必要な厚さを有する膜が得られるまで繰り返すことができる。
【0086】
例示的なPHPS反応生成物
本開示の方法は、Si、N、およびHのみからなるNHを含まないPHPS反応生成物を生成する。
【0087】
出発反応物、触媒、任意選択的な溶媒、および任意選択的なクエンチング剤の選択、ならびに反応継続時間および温度に応じて、反応は、様々な分子量(MW)分布を有するN-Hを含まずCを含まないPHPS組成物を生成する。PHPS組成物は、約182ダルトンの[(SiH3)3N-SiH2-N(SiH3)2、ビス-ジシリルアミノシラン、「BDSASi」]から約100,000(固体)までの範囲、好ましくは約257ダルトン[(SiH3)3N-SiH2-N(SiH3)-SiH2-N(SiH3)2、「TDSASi」]から約100,000ダルトン(固体)までの範囲、より好ましくは約332ダルトン[(SiH3)3N-SiH2-N(SiH3)-SiH2-N(SiH3)-SiH2-N(SiH3)2、「QDSASi」]から約100,000ダルトン(固体)までの範囲のMWを有し得る。これらのパラメータは、蒸着プロセスまたは凝縮プロセスで使用するためのBDSASiなどの低分子量揮発性化合物を生じるように選択することができる。そのような場合、目標とするMW分布は、182ダルトンを中心とし、できるだけ狭くすることができる。あるいは、スピンオン堆積、ファイバースピニング、射出成形、キャスティングなどにおいて使用することができる液体オリゴマーを得ることができる。そのような場合、目標とするMWは、典型的には350ダルトン~80,000ダルトン、好ましくは10,000~50,000ダルトン、より好ましくは15,000~35,000ダルトンである。別の代替形態では、反応は、ゲルまたは固体のN-Hを含まないPHPSポリマーが形成されるまで進行されてもよい。固体ポリマーは、溶媒の存在、溶媒中での希釈率、および反応器中での撹拌に応じて、モノリシックガラス状固体から粉末状固体までの範囲の異なる形状およびテクスチャで形成することができる。粉末状の場合、固体を反応溶液から濾別し、任意選択的に溶媒で洗浄し、任意選択的に熱処理し、さらなる用途(焼結、フィラーとしての使用等)のために使用することができる。
【0088】
上述したように、反応物、好ましくはトリシリルアミン、触媒、および任意選択的な溶媒は、望まれる特性を有するN-Hを含まないPHPS組成物が得られるように選択することができる。得られたPHPS組成物は、式[-N(SiH3)x(SiH2-)y](式中、x+y=2のときx=0、1、または2、かつy=0、1、または2であり;x+y=3のときx=0、1、または2、かつy=1、2、または3である)を有するN-Hを含まない繰り返し単位を含む。例示的な単位としては次のものが挙げられる:
【0089】
x=2、y=0、x+y=2、かつm=1の場合、得られる単位は
【0090】
【0091】
である。
【0092】
x=0、y=3、x+y=3、かつm=1の場合、得られる単位は
【0093】
【0094】
である。
【0095】
x=1、y=2、x+y=3、かつm=1の場合、得られる単位は
【0096】
【0097】
である。
【0098】
x=2、y=1、x+y=3、かつm=1の場合、得られる単位は
【0099】
【0100】
である。
【0101】
当業者であれば、本開示のPHPS組成物が2つ以上の異なる[-N(SiH3)x(SiH2-)y]単位を含み得ることを認識するであろう。各単位は、より大きいPHPS反応生成物の一部を構成する。
【0102】
例えば、x=2かつy=1である1つの単位がx=2かつy=0である1つの単位と組み合わされる場合、得られる直鎖PHPSの組成は(H3Si)2-N-SiH2-N-(SiH3)2またはビス(ジシリルアミノ)シラン[本明細書ではBDSASIと呼ぶ]である。x=2かつy=1である1つの単位と、x=1かつy=1である2つの単位およびx=2かつy=0である1つの単位との組み合わせは、式(H3Si)2-N-SiH2-N(SiH3)-SiH2-N(SiH3)-SiH2-N(SiH3)2を有する直鎖PHPS組成物(以降「TDSASI」)を形成する。x=1かつy=1である追加の単位を添加すると、式(H3Si)2-N-SiH2-N(SiH3)-SiH2-N(SiH3)-SiH2-N(SiH3)-SiH2-N(SiH3)2を有する直鎖PHPS組成物(以下「QDSASI」)が生成する。出願人らは、x=1かつy=1で最大約400のMnを有するPHPS組成物が、非直鎖の分岐が起こり始める前に合成され得ると考えている(すなわち(H3Si)2-N-SiH2-[N(SiH3)-SiH2-]m-N-(SiH3)2、m=1~5)。
【0103】
以下のような単位:
【0104】
【0105】
を組み合わせて直鎖を形成することができる。
【0106】
以下のような単位:
【0107】
【0108】
を組み合わせて環状鎖を形成することもできる。
【0109】
PHPS反応生成物は、環状の単位と直鎖の単位の両方の混合物も含み得る。
【0110】
様々な単位について上に示したように、PHPS組成物のいずれの末端部分も-SiH3である。
【0111】
当業者であれば、本明細書では二次元描写が与えられているものの、本開示のPHPS組成物が三次元で形成されることを認識するであろう。
【0112】
反応物、触媒、および他の合成パラメータに応じて、直鎖のPHPS反応生成物は、より低い反応温度(例えば約-78℃~約20℃)で得ることができる。反応温度を低くすると、ポリマー鎖の末端-SiH3での反応を促進することができる。反応物を触媒に、または触媒を反応物に、ゆっくりと添加することも、直鎖のPHPS反応生成物をもたらし得る。
【0113】
対照的に、分岐PHPS組成物は、より高い温度、より速い反応物/触媒添加時間、および/またはより長い触媒との接触時間で形成することができる。例示的な分岐PHPS組成物は、式:
【0114】
【0115】
を有するPHPS組成物を製造するために、3つのx=2かつy=0である単位で終端する1つのx=0かつy=3である単位を含む。
【0116】
さらに分岐した成長は、分類することがより困難になる。例えば、以下のPHPS組成物は、x=0かつy=3である1つの単位、x=0かつy=2である3つの単位、およびx=2かつy=0である6つの単位の組み合わせとして説明することができる:
【0117】
【0118】
代替形態では、PHPS組成物は、-SiH3および/または[-N(SiH3)2]で終端する直鎖単位と分岐単位との組み合わせを含み得る。
【0119】
【0120】
得られるPHPS組成物は、限定するものではないが、粘度(液体生成物について)、熱重量分析(TGA)、示差走査熱量測定(DSC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、核磁気共鳴(NMR)分光法、ラマン分光法などを含む、当該技術分野における標準的な技術を用いてキャラクタリゼーションすることができる。
【0121】
以下の実施例で示されているように、N-Hを含まない多くのPHPS組成物は、熱重量分析(TGA)中に温度が上昇してもほとんどまたは全く質量損失を示さない。TGAによって観察される全ての質量損失は、材料における収縮および応力の可能性の証拠である。これはいくつかの用途のためには扱いやすい場合があるものの、PHPSをSiNに変換するために必要とされる高温アニールと材料の収縮に関連する応力の両方によって、半導体用途におけるケイ素窒化物膜を製造するためのPHPSの使用は妨げられてきた。
【0122】
N-H非含有
以下の実施例および添付のIRスペクトルにおいて示されているように、PHPS反応生成物は、アンモノリシスによって形成されないこと、および出発物質(TSA、BDSASi、または他の揮発性PHPS反応物)もN-Hを含まないことから、N-H結合を全く含まない。つまり、これらの反応は、アンモニア(NH3)反応物を必要とせず、あるいは使用しない。出願人らは、NH3反応物が先行技術のPHPS組成物に含まれるN-H結合の起源としての役割を果たし得ると考えている。本開示の合成プロセスにおいてTSA反応物を使用し、かつNH3反応物がないことは、ハライド副生成物を除去することおよび/または追加のプロセスによりHの量を減らすことの必要性をなくす。
【0123】
出願人らは、PHPS反応生成物中にN-Hが存在しないことにより、低温でのPHPSからSiO2への変換が先行技術のN-H含有PHPS組成物よりも容易になり得ると考えている。
【0124】
出願人らはさらに、PHPS反応生成物中にN-Hが存在しないことが、請求項に記載のPHPSの空気および水に対する反応性を先行技術のペルヒドロポリシラザンよりも低くすると考えている。これは、実施例17において部分的に実証されている。このより低い反応性は、不活性雰囲気中ではなく空気中で行われるスピンオン堆積を可能することができる。これだけで製造コストが大幅に削減されるであろう。さらに、請求項に記載のPHPS材料は、先行技術のペルヒドロポリシラザンよりも安定である。先行技術のN-H含有ペルヒドロポリシラザンは、N-HとSi-Hとの間で架橋し、結果としてH2が放出される可能性があり、そのため低温貯蔵が必要である。その結果、請求項に記載のPHPS材料の貯蔵は、先行技術のN-H含有ペルヒドロポリシラザンの貯蔵よりも容易かつ安全であろう。より低い反応性は、制御されていない酸化によって生じる欠陥の数も減らし得る。実施例17に示されているように、先行技術のペルヒドロポリシラザンは空気に触れると濁った。濁りは粒子のコロイド懸濁液に起因し、粒子は半導体産業において有害であることがよく知られている。
【0125】
Si:N比
直鎖、分岐、または両者の混合物のいずれであるかに関わらず、PHPSのサイズの増加に伴い、Si:N比は、TSA反応物についての最大の3:1(すなわち3Si:1N)から、BDSASIについての2.5:1(すなわち5Si:2N)に、最小の1.5:1(全てのNが3個のSiH2に結合し、全てのSiH2が2個のNに結合し、最小の3Si:2Nまたは1.5Si:Nの比を生じる以下の構造を参照のこと)まで、減少する。
【0126】
PHPS反応生成物が、同じ分子に属する2個のSiH3の分子内カップリングなしで連続的な脱シリルカップリングのみによって形成される場合、Si:N比は2.5:1(BDSASi)から2:1(すなわち(-SiH2-N(SiH3)-)n構造を有する無限直鎖ポリマーについて、または中心にのみSiH2を有し鎖の末端にSiH3を有する完全分岐構造について)の範囲である。
【0127】
その全ての-SiH3基間で分子内脱シリルカップリングした完全に脱シリル化されたPHPS(例えば以下の無限ラダーの場合によって理想化される)は、各-SiH2-が2つのNに結合中であり、各Nが3つのSiに結合しているため、1.5:1のSi:N比を有するであろう。
【0128】
別の代替形態では、ポリマーまたはオリゴマーは、3つ以上の(-N(SiH2または3)SiH2-)単位から形成される環状単位を含み得る。そのようなオリゴマーは、ラ
ダー構造間のSi:N比未満(すなわち、Si:N>1.5:1)を有するが、同数のN原子を有するポリマーの純粋に直鎖状の場合以下(すなわち、Si:N≦2:1)であろう。
【0129】
この現象は、y軸上のSi:N比およびx軸上のトリシリルアミン反応物の付加の数を示す
図1に描かれている。
図1から分かるように、曲線は、直鎖PHPS反応生成物については2:1、架橋PHPS反応生成物については1:5:1のSi:N比に近づく漸近線となる。
【0130】
本開示のPHPS組成物は、2.5:1~1.5:1、好ましくは2.5:1~1.75:1であるが1.5:1以上である範囲のSi:N比を有する。
【0131】
後述するように、PHPS組成物は、半導体用途のために使用されるケイ素酸化物膜を形成するために使用することができる。Fujiwaraらの米国特許出願公開第2015/004421号明細書は、Siを多く含むPHPS(すなわち1:1よりも大きいSi:N比を有する)の使用がスピンオンおよび酸化的アニールによって得られる膜の低収縮を実現するために有益であることを示している。Fujiwaraらは、(PHPSが依然としてSi-Cl結合を含むように)PHPSを過剰のハロシラン中で形成することにより、1:1より大きいSi:N比を得ている。Fujiwaraらは、部分的に塩素化されたPHPSオリゴマーを40~200℃、好ましくは100~200℃の範囲の温度でさらに処理することでSi-ClをポリマーのN-H部位とさらに反応させ、それによりポリマー中に-(SiH2)2NSiH2-構造を形成することを試みている。同上、第0036段落~第0037段落および第0043段落。あるいは、Fujiwaraらは、同様の結果を得るために、NH含有PHPSにハロシランを添加している。同上、第0038段落。しかし、Fujiwaraらの方法は、塩素化されたシランを処理する必要がある(その結果として実施例3においてNH4Cl固体が形成される)という問題を抱えており、有効なSi:N比が1.4:1に制限される。同上、表1。また、PHPSは依然としてN-H部位も含んでおり、そのためさらなる架橋および分子量分布の広がりをもたらすSi-H/N-H脱離に対して不安定である。
【0132】
後述するように、PHPS組成物はケイ素窒化物を形成するためにも使用され得る。半導体産業において使用されるHFを主成分とする溶液によるケイ素窒化物膜のウェットエッチング速度は、ケイ素窒化物膜のSi:N比およびH濃度に依存する(Longjuan et al.,Journal of Semiconductors,Vol.30,No.9,September 2009)。Longjuanらは、(a)堆積パラメータの最適化により膜のSi:N比を増加させること(すなわち、SiH4ガス流量を増加させること、ならびに/またはNH3およびN2ガス流量を減少させること)、および(b)高温高速熱アニール(RTA)を使用して成膜後にHを放出させること、によってケイ素窒化物のエッチング速度を減少させた。同上。しかしながら、Hiraoらは、ケイ素窒化物膜をアニールすると、N-H結合からではなくN-N結合およびSi-H結合からHが失われることによりH濃度が減少することを開示している。Japanese Journal of Applied Physics,Vol.27,Part1,Number 1。本開示のN-Hを含まずSiを多く含むPHPS組成物は、N-H結合をほとんどまたは全く有さないケイ素窒化物膜を製造するために使用することができ、これはその後のアニールによる膜中の残りのHの除去を可能にする。出願人らは、ケイ素窒化物中にN-H結合がないことは、N-H結合を含有する膜に必要とされるよりも低い温度でのアニールおよび/またはより速いUV硬化を可能にし得ると考えている。より具体的には、本開示のPHPS組成物は、薄いHF溶液(0.5~1%HF)を使用して、熱成長ケイ素酸化物のエッチング速度の半分以下、好ましくは1/10未満のウェットエッチング速度を有するケイ素窒化物膜を生成する。
【0133】
このように、本開示のSi-Xを含まないプロセスは、低収縮率ケイ素酸化物またはケイ素窒化物、および低応力のケイ素酸化物を得るために、高いSi:N比を有しN-H部位を含まないPHPS組成物を生成する。
【0134】
SiH2:SiH3比
PHPS組成物は、1:4(BDSASi)~1:0の範囲、好ましくは1:2.5~1:0の範囲、より好ましくは1:2~1:0の範囲のSiH2:SiH3比を有する。PHPSポリマーにおける最小のSiH2:SiH3比は、BDSASIについての1:4である。TSA反応物との逐次的な脱シリルカップリングが起こるのに伴い、その比は1:1(-SiH2-N(SiH3)-)の繰り返し単位に向かって収束する。最終的には、オリゴマー分子内または2つのオリゴマー分子間の-SiH3基間の分子間または分子内の脱シリルカップリングは、SiH2:SiH3比を、1:1未満まで、全てのNが3個の-SiH2-に結合している無限ポリマーの場合には潜在的には1:0まで、さらに減少させ、N(SiH2-)3の平均組成を有するポリマーを生成する。そのようなオリゴマー構造の例を以下に示す:
【0135】
【0136】
PHPS組成物がこのラダー構造を有する場合、オリゴマーまたはポリマーの長さが増加するのに伴って、SiH2:SiH3比は1:0に近づく(全ての末端SiH3基によってのみ制限される)。それと同時に、Si:N比は1.5:1に向かって収束する傾向があるが、1.5:1未満にはならない。結果として、SiH2:SiH3比は、PHPS反応生成物によって示される架橋の量を決定するのに役立つ。実際には、液体PHPSを維持する最大のSiH2:SiH3比は典型的には5:1であり、望ましい範囲は2.5:1~4.5:1である。
【0137】
さらに、PHPSポリマーは、Si-H開裂を誘発する温度に加熱されない限り、単一のH原子に結合しているケイ素原子(すなわち-Si(-)(H)-)を全く含まない。つまり、PHPSポリマー中の全てのSi原子は、最低2個のH原子に結合している(すなわちSiHx(N-)4-x、式中のxは2~3である)。
【0138】
当業者であれば、PHPS組成物中の-Si(-)(H)-、-SiH2-、および-SiH3の量を決定するために、1Hおよび/または29Si NMRのスペクトル積分を使用できることを認識するであろう。
【0139】
気相用途
これらの合成方法から得られた本開示のN-Hを含まずSiを多く含むPHPS組成物は、様々な用途において使用することができる。好ましくは、揮発性PHPS組成物は気相用途に使用される。これらの揮発性PHPS組成物は、原子層堆積または化学気相成長(熱活性化またはプラズマ活性化)などの蒸着技術によって、エレクトロニクス産業で使用されるケイ素窒化物膜またはケイ素酸化物膜を形成するために使用することができる。
【0140】
蒸着方法は、本開示のPHPS組成物の蒸気を、内部に基板が配置されている反応器の中に導入することと、本開示のPHPS組成物の少なくとも一部を堆積プロセスによって基板上に堆積させてSi含有層を形成することとを含む。
【0141】
本開示の方法は、基板上への二元素含有層の形成、より詳しくは、SiMOxまたはSiMNx膜(xは0~4であってもよく、MはTa、Nb、V、Hf、Zr、Ti、Al、B、C、P、As、Ge、ランタノイド(Er等)、またはこれらの組み合わせである)の堆積も提供する。
【0142】
揮発性PHPSは、これらのプロセスにおいて無溶媒で使用されてもよい。あるいは、揮発性PHPS組成物は、堆積における使用に適した溶媒をさらに含んでいてもよい。例示的な溶媒としては、特に、C1~C16飽和または不飽和炭化水素が挙げられる。揮発性PHPSは溶媒中に様々な濃度で存在することができる。例えば、得られる濃度は約0.05M~約2Mの範囲であってもよい。
【0143】
基板上への本開示のケイ素含有層の形成方法は、半導体、太陽電池、LCD-TFT、またはフラットパネル型デバイスの製造において有用な場合がある。Si含有膜は、当該技術分野で公知の任意の蒸着法を使用して堆積させることができる。適切な蒸着法の例としては、化学蒸着(CVD)または原子層堆積(ALD)が挙げられる。例示的なCVD法としては、熱CVD、プラズマ支援CVD(PECVD)、パルスCVD(PCVD)、低圧CVD(LPCVD)、減圧CVD(SACVD)、または大気圧CVD(APCVD)、流動CVD(f-CVD)、金属有機化学気相成長(MOCVD)、ホットワイヤーCVD(HWCVD、cat-CVDとしても知られており、ホットワイヤーが堆積プロセスのためのエネルギー源として機能する)、ラジカル組み込みCVD、およびこれらの組み合わせが挙げられる。例示的なALD法としては、熱ALD、プラズマ促進ALD(PEALD)、空間分離ALD、熱線ALD(HWALD)、ラジカル導入ALD、およびこれらの組み合わせがある。超臨界流体付着も使用できる。付着法は、適切な工程カバレージおよび膜厚さの制御を行えるようにするために、好ましくは、ALD、空間的ALD、またはPE-ALDである。
【0144】
揮発性PHPS組成物の蒸気は、基板が入っている反応チャンバーの中に導入される。蒸着プロセスに関しては、反応チャンバー内部の温度および圧力ならびに基板の温度は、少なくとも一部のPHPS組成物を基板上に蒸着するのに適した条件に保持される。つまり、気化した組成物をチャンバーに導入した後、チャンバーの中の条件は、気化した前駆体の少なくとも一部が基板上に堆積してケイ素含有膜を形成するようにされる。Si含有層の形成を補助するために蒸着プロセスにおいて反応物も使用することができる。
【0145】
反応チャンバーは、付着法が行われる装置(平行板型反応器、コールドウォール型反応器、ホットウォール型反応器、単一ウェハ反応器、複数ウェハ反応器、または他のそのよ
うなタイプの付着装置などがあるが、これらに限定されない)の任意のエンクロージャまたはチャンバーであってよい。これらの例示的な反応チャンバーは全て、ALDまたはCVDの反応チャンバーとしての役割を果たすことができる。反応チャンバーは、約0.5ミリトル~約760トルの範囲の圧力に維持できる。さらに、反応チャンバー内の温度は、約20℃~約700℃の範囲にすることができる。ごく普通の実験によって、所望の結果が得られるように温度を最適化できることを、当業者なら理解するであろう。
【0146】
反応器の温度は、基板保持器の温度を制御するか、または反応器壁の温度を制御することにより制御できる。基板の加熱に使用される装置は当該技術分野において知られている。反応器壁を、所望の物理的状態および組成かつ十分な成長速度で所望の膜を得るのに十分な温度まで加熱する。反応器壁についての非限定的な例示的温度範囲は、およそ20℃~およそ700℃を含んで加熱することができる。プラズマ蒸着プロセスを使用する場合、付着温度は、およそ20℃~およそ550℃の範囲にすることができる。あるいはまた、熱プロセスを実施する場合、付着温度はおよそ300℃~およそ700℃の範囲にすることができる。
【0147】
あるいはまた、基板を、所望の物理的状態および組成かつ十分な成長速度で所望のケイ素含有膜を得るのに十分な温度まで加熱する。基板を加熱させることのできる非限定的な例示的温度範囲としては、150℃~700℃がある。好ましくは、基板の温度は、500℃以下に維持される。いくつかの実施形態では、ケイ素含有膜は、室温(すなわち約20℃~約27℃)で形成することができる。
【0148】
ケイ素含有膜が上に堆積される基板の種類は、意図される最終用途に応じて変わるであろう。基板は一般に、プロセスを実施する対象となる物質と定義される。基板は、半導体、光起電力、フラットパネル、またはLCD-TFTデバイスの製造で用いられる任意の好適な基板であってよい。好適な基板の例としては、ケイ素、結晶シリコン、シリカ、ガラス、GeまたはGaAsのウェハなどのウェハがある。ウェハは、前の製造工程で付着された様々な物質の1つまたは複数の層を有することができる。層は、平面であっても、パターン化されていてもよい。いくつかの実施形態では、基板は、水素化炭素(例えば、CHx(式中、xはゼロより大きい(例えば、x≦4)))で作られたパターン化フォトレジスト膜であってよい。開示されているプロセスでは、ケイ素含有層を、ウェハ上に直接、またはウェハの上部の層の1つまたは複数(パターン化層が基板を形成する場合)に直接付着させることができる。さらに、本明細書で使用される「膜」または「層」という用語は、表面の上に配置された(あるいは広げられた)ある物質の厚さを表すこと、またその表面は溝または線であってよいことを、当業者なら理解するであろう。本明細書および請求項全体を通じて、ウェハおよびその上にある関連した層はいずれも、基板と呼ばれる。利用される実際の基板は、利用される具体的な前駆体の実施形態にも依存し得る。
【0149】
基板は、高いアスペクト比を有するビアまたはトレンチを含むようにパターン化されていてもよい。例えば、SiO2などのコンフォーマルなSi含有膜は、約3:1~約100:1の範囲のアスペクト比を有するシリコン貫通電極(TSV)の上に任意のALD技術を使用して堆積されてもよい。
【0150】
揮発性PHPS組成物は、配管および/または流量計などの従来の手段によって、蒸気の形態で反応器の中に導入される。蒸気の形態は、直接気化や蒸留などの従来の気化工程によりPHPS組成物を蒸発させることによって、吹き込みによって、あるいはXuらの国際公開第2009/087609号パンフレットに開示されているものなどの昇華装置を使用することによって、生成させることができる。PHPS組成物は、気化器へ液体状態で供給されてもよく、組成物はここで気化されてから反応器の中に導入される。あるいは、PHPS組成物は、組成物が入った容器の中にキャリアガスを通すことによって、あ
るいは組成物の中にキャリアガスを吹き込むことによって、気化されてもよい。キャリアガスとしては、Ar、He、またはN2、およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。キャリアガスを用いた吹き込みは、組成物中に存在する溶存酸素を除去することもできる。キャリアガスおよびPHPS組成物は、その後蒸気として反応器の中に導入される。
【0151】
必要に応じて、容器は、PHPS組成物がその液相になり十分な蒸気圧を有することを可能にする温度まで加熱されてもよい。容器は、例えば0~150℃の範囲の温度に維持されてもよい。当業者は、気化したPHPS組成物の量を制御するために容器の温度を公知の方法で調節できることを認識している。
【0152】
反応ガスは、反応器の中に導入してもよい。反応ガスは、酸素含有ガス(O2;O3;H2O;H2O2のうちの1つなど);酸素含有ラジカル(O・またはOH・、NO、NO2など);カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸など)、ラジカル種(NO、NO2、またはカルボン酸のもの);パラ-ホルムアルデヒド;およびそれらの混合物であってよい。好ましくは、酸素含有ガスは、O2、O3、H2O、H2O2、その酸素含有ラジカル(O・またはOH・など)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、ALDプロセスを実施する場合、反応物はプラズマ処理された酸素、オゾン、またはそれらの組合せである。酸素含有ガスを使用する場合、得られるケイ素含有膜は酸素も含むであろう。
【0153】
あるいは、反応ガスは、H2、NH3、(SiH3)3N、ヒドロシラン類(SiH4、Si2H6、Si3H8、Si4H10、Si5H10、Si6H12等)、クロロシランおよびクロロポリシラン類(SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Cl、Si2Cl6、Si2HCl5、Si3Cl8等)、アルキルシラン類(Me2SiH2、Et2SiH2、MeSiH3、EtSiH3等)、ヒドラジン類(N2H4、MeHNNH2、MeHNNHMe等)、有機アミン類(NMeH2、NEtH2、NMe2H、NEt2H、NMe3、NEt3、(SiMe3)2NH等)、エチレンジアミンやジメチルエチレンジアミンやテトラメチルエチレンジアミンなどのジアミン類、ピラゾリン、ピリジン、B含有分子類(B2H6、トリメチルホウ素、トリエチルホウ素、ボラジン、置換ボラジン、ジアルキルアミノボラン等)、アルキル金属類(トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛等)、これらのラジカル種、またはこれらの混合物のうちの1つなどの水素含有ガスであってもよい。水素含有ガスが使用される場合、得られるケイ素含有膜は純粋なSiであり得る。
【0154】
またあるいは、反応ガスは、エチレン、アセチレン、プロピレン、イソプレン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ペンテン、ペンチン、シクロペンタン、ブタジエン、シクロブタン、テルピネン、オクタン、オクタン、またはこれらの組み合わせなどの(これらに限定されない)、飽和または不飽和の、直鎖、分岐、または環状の炭化水素であってもよい。当業者であれば、いくつかの蒸着法が酸化剤、還元剤、および/または炭化水素の組み合わせを使用できることを認識するであろう。
【0155】
反応ガスを分解してラジカル形態にするために、反応ガスをプラズマで処理できる。プラズマで処理する際に、N2も反応物として利用してよい。例えば、プラズマは、約50W~約500W、好ましくは約100W~約200Wの範囲の電力で生じさせることができる。プラズマは、反応器そのものの中で発生または存在しうる。あるいはまた、プラズマは一般に、反応器から取り出された場所(例えば、離れた場所に置かれたプラズマシステム)にあるであろう。当業者なら、そのようなプラズマ処理に適した方法および装置が分かるであろう。
【0156】
PHPS組成物と1種以上の反応物は、反応チャンバーの中に同時に(化学蒸着)、逐次的に(原子層堆積)、または別の組み合わせで導入されてもよい。例えば、PHPS組成物は、1パルスで導入されてもよく、2種の追加的な前駆体が別のパルスで一緒に導入されてもよい(改良型原子層堆積)。あるいは、PHPS組成物の導入の前に反応チャンバーに既に共反応物が入っていてもよい。反応物は、局在しているか反応チャンバーから離れているプラズマシステムを通過し、ラジカルに分解されてもよい。あるいは、他の前駆体または反応物がパルス(パルス化学蒸着)によって導入される一方で、PHPS組成物が反応チャンバーに連続的に導入されてもよい。別のやり方では、PHPS成組成物および1種または複数種の反応物を、シャワーヘッドから同時に吹き付けることができ、その場合、いくつかのウェハを保持するサセプタが回転される(空間的ALD)。
【0157】
1つの非限定的な例示的な原子層蒸着プロセスでは、PHPS組成物(例えば、BDSASI)の蒸気相を反応チャンバーに送り込み、そこで、好適な基板と接触させる。その後、過剰の組成物は、反応チャンバーのパージおよび/または排気により反応チャンバーから除去することができる。酸素源を反応チャンバーに送り込み、そこで、酸素源は、自己制御的な仕方で吸収PHPS組成物と反応する。過剰の酸素源はいずれも、反応チャンバーのパージおよび/または排気により反応チャンバーから除去する。所望の膜が酸化ケイ素膜である場合、この2段階プロセスにより、所望の膜厚さを得ることができるか、または必要な厚さの膜が得られるまでそれを繰り返すことができる。
【0158】
あるいはまた、所望の膜がケイ素金属/半金属酸化物膜(すなわち、SiMOx[式中、xは0~4であってよく、Mは、B、Zr、Hf、Ti、Nb、V、Ta、Al、Si、Ga、Ge、またはそれらの組合せである])である場合、上の2段階プロセスの後、金属または半金属含有前駆体の蒸気を反応チャンバーに送り込むことができる。金属または半金属含有前駆体は、付着させるケイ素金属/半金属酸化物膜の性質に基づいて選択されるであろう。反応チャンバーに送り込んだ後、金属または半金属含有前駆体を基板と接触させる。過剰の金属または半金属含有前駆体はいずれも、反応チャンバーのパージおよび/または排気により反応チャンバーから除去する。もう一度、酸素源を反応チャンバーに送り込んで金属または半金属含有前駆体と反応させることができる。過剰の酸素源は、反応チャンバーのパージおよび/または排気により反応チャンバーから除去する。所望の厚さの膜が得られたなら、プロセスを終了させることができる。しかし、より厚い膜が望ましいなら、4段階プロセス全体を繰り返すことができる。PHPS組成物、金属または半金属含有前駆体、および酸素源の供給量を変えることにより、所望の組成および厚さの膜を付着させてもよい。
【0159】
さらに、パルスの数を変えることにより、M:Siの所望の化学量論比を有する膜を得ることができる。例えば、PHPS組成物の1パルスと金属または半金属含有前駆体の1パルスとによってSiMO2膜を得ることができ、各パルスの後に酸素源のパルスを送る。所望の膜を得るのに必要なパルスの数は、得られる膜の化学量論比と同じではないことがあることを、当業者なら理解するであろう。
【0160】
望ましいケイ素含有膜は、限定するものではないが、例えばB、P、As、Zr、Hf、Ti、Nb、V、Ta、Al、Si、またはGeなどの別の元素も含み得る。上述のプロセスにより得られるケイ素含有膜は、SiO2;SiC;SiN;SiON;SiOC;SiONC;SiBN;SiBCN;SiCN;SiMCO(Mは当然Mの酸化状態に応じてZr、Hf、Ti、Nb、V、Ta、Al、Geから選択される)を含み得る。当業者であれば、適切なPHPS組成物および反応物の適切な選択をすることによって、望ましい膜組成が得られることを認識するであろう。
【0161】
コーティング用途
PHPS組成物は、エレクトロニクス産業および光学産業において使用されるケイ素窒化物、ケイ素酸化物、ケイ素酸窒化物の膜を形成するためのコーティング堆積プロセスで使用することもできる。ケイ素酸化物膜は、O2、O3、H2O、H2O2、およびこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含有する酸化雰囲気下で堆積膜を熱処理することで得られる。PHPS組成物は、航空宇宙産業、自動車産業、軍需産業、または鉄鋼産業、または高温に耐えることができる強い材料が必要とされる任意の他の産業で使用するための保護コーティングまたはプレセラミック材料を形成するために使用することができる。本開示のPHPS組成物は、固体推進剤組成物中の燃料または燃焼速度触媒としても使用することができる(例えば独国特許出願公開第2231008号明細書ならびに米国特許第3,137,599号明細書および同第4,412,874号明細書を参照のこと)。
【0162】
PHPS組成物は、粘度や層の厚さなどのコーティング組成物の特性を調節するために、溶媒または異なる沸点を有する溶媒系をさらに含んでいてもよい。例示的な溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、またはn-ヘキサンなどの炭化水素;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、または2-ヘプタノンなどのケトン類;エチルエーテル、ジブチルエーテル、またはテトラヒドロフランなどのエーテル類;ピリジン、キシレン、またはメチルピリジンなどのアミン類;2-ヒドロキシエチルプロピオネートまたはヒドロキシルエチルアセテートなどのエステル類;およびこれらの組み合わせが挙げられる。例示的な溶媒系は、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、シクロヘキサン、アセトンなどの、30℃~100℃の間の沸点(BP)を有する、より低温で沸騰する1つの溶媒を含み得る。溶媒系は、トルエン、THF、キシレン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、グリコールなどの70℃~200℃の間のBPを有する、より高い沸点を有し得る第2の溶媒も含んでいてもよい。コーティング方法に適したものにするためには、PHPS組成物は、約500~約1,000,000、好ましくは約1,000~約100,000、より好ましくは約3,000~約50,000の範囲の分子量を有するべきである。PHPS組成物は、コーティング組成物の約0.5重量%~約40重量%、好ましくは約1重量%~約20重量%、より好ましくは約5重量%~約15重量%を構成していてもよい。
【0163】
コーティング組成物に適した他の添加剤としては、重合開始剤、界面活性剤、顔料、UV吸収剤、pH調整剤、表面改質剤、可塑剤、分散剤、触媒、およびこれらの組み合わせが挙げられる。触媒は、PHPS組成物を合成するために使用される触媒と同じであっても異なっていてもよい。例示的な触媒は、さらなる脱シリルカップリング(DSC)、架橋、またはH2脱離を触媒することによって、後続の処理工程におけるPHPSのさらなる緻密化を促進するように選択することができる。そのような触媒は、貯蔵時に組成物を安定に保ち、室温より高い温度、理想的には50℃~200℃に加熱されたときにのみ反応を生じさせるように室温でのそれらの低い活性について選択されるべきである。例えば、P(Ph)3、P(Tolyl)3、または金属カルボニルは、高温活性化に適した触媒であろう。組成物は、ラジカル開始剤、カチオン性開始剤、アニオン性光開始剤などのような(モノアリールケトン、トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィネート、および/またはホスフィンオキシド等)、光-酸発生剤および光開始剤などの、光子に曝されるとさらなる架橋を誘発する光活性材料も含んでいてもよい。
【0164】
触媒は、PHPSのシリカへの変換も促進し得る。
【0165】
Si含有膜は、当該技術分野で公知の任意のコーティング方法を使用して堆積させることができる。適切なコーティング方法の例としては、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、ファイバースピニング、押出し、成形、キャスティング、含浸、ロールコーティング、トランスファーコーティング、スリットコーティングな
どが挙げられる。液体PHPS配合物は、BN、SiN、SiCN、SiC、Al2O3、ZrO2、Y2O3、および/またはLi2O粉末などのセラミックフィラーも含有していてもよい。コーティング方法は、好ましくは、適切な膜厚制御を得るためにスピンコーティングである。
【0166】
PHPS組成物の液体形態は、基板の中心に直接塗布されてから回転されることによって基板全体に広げられてもよく、あるいは噴霧によって基板全体に塗布されてもよい。基板の中心に直接塗布する場合、基板上に組成物を均一に分布させるために基板を回転させて遠心力を利用してもよい。当業者であれば、基板の回転が必要であるかに関してPHPS組成物の粘度が寄与することを認識するであろう。あるいは、基板はPHPS組成物の中に浸されてもよい。得られる膜は、溶媒もしくは膜の揮発性成分を蒸発させるために一定時間室温で乾燥されてもよく、または強制乾燥または焼成によって、またはイオン刺激、電子線照射、UVおよび/または可視光照射などのような熱硬化および照射を含む任意の適切なプロセスのうちの1つまたは組み合わせを使用することによって、乾燥されてもよい。
【0167】
PHPS含有配合物は、スピンオン誘電体膜配合物(例えばトーン反転層)を形成するために、または反射防止膜のために使用することができる。PHPS含有配合物は、犠牲膜または非犠牲(すなわち後に残る)膜のいずれかのための、半導体デバイス(シリコントレンチ絶縁体(STI)、プリメタル誘電体(PMD)、リソグラフィのトーン反転層等)の上にギャップフィルケイ素酸化物またはケイ素窒化物の絶縁膜を形成するためのリソグラフィ用途のために使用することができる。スピンオンPHPS組成物は、光学用途に適した透明なケイ素酸窒化物膜の形成にも使用することができる。
【0168】
スピンコーティング、ディップコーティング、またはスプレーコーティングのために使用される場合、PHPS組成物は、水分もしくは酸素のバリアとして、またはディスプレイ、発光デバイス、および光起電素子における不動態化層として有用であるケイ素酸化物またはケイ素窒化物のバリア層の形成のために使用することができる。
【0169】
半導体用途では、PHPS組成物は、本質的に、トレンチまたはホールを誘電体材料で充填する必要があるギャップフィル用途(例えば、シャロートレンチアイソレーション、プレメタル誘電体など)のためのスピンオン配合物として使用することができる。トレンチまたはホールは、約3:1~約100:1の範囲のアスペクト比を有していてもよい。PHPS含有配合物は、典型的には基板上にスピン塗布され、50℃~200℃でプリベークされ、最終的には400~900℃の範囲の温度で酸化雰囲気(典型的にはO2、O3、H2O、H2O2を含む)中で基板をアニールすることによってケイ素酸化物へと変換される。酸化物の品質は、様々な雰囲気(酸化的または不活性)における多段階アニールプロセスによって改善することができる。
【0170】
図2は、例示的なスピンコーティングプロセスのフローチャートを示している。当業者であれば、本明細書の教示から逸脱することなしに、
図2で示されているものよりも少ないまたは追加の工程が行われ得ることを認識するであろう。例えば、研究開発の状況で利用されているキャラクタリゼーション工程は、実機操業では必要とされないであろう。当業者であれば、膜の望ましくない酸化を防止するために不活性雰囲気下で、および/または膜の粒子汚染を防止するために汚染の防止に役立つクリーンルーム内で、このプロセスが好ましくは行われることをさらに認識するであろう。
【0171】
工程1~4の堆積プロセスのために、上にSi含有膜が堆積されることになる平坦なまたはパターン化されている基板を準備することができる。準備プロセスでは高純度のガスおよび溶媒が使用される。ガスは典型的には半導体グレードのものであり、粒子汚染がな
い。半導体用途のためは、溶媒は粒子を含まないべきであり、典型的には100粒子/mL未満(0.5μm粒子、より好ましくは10粒子/mL未満)であり、また表面汚染につながる不揮発性残留物を含まないべきである。50ppb未満の金属汚染(各元素について好ましくは5ppb未満)を有する半導体グレードの溶媒が推奨される。
【0172】
工程1では、基板は、アセトン中で、室温(約20℃~約25℃)で約60秒~約120秒間、好ましくは約90秒間超音波処理される。工程2では、平らなまたはパターン化されている基板が、室温でイソプロピルアルコール(IPA)中で約60秒~約120秒間、好ましくは約90秒間超音波処理される。当業者であれば、これらの工程が同じまたは異なる超音波処理装置において行われ得ることを認識するであろう。異なる超音波処理装置はより多くの機器を必要とするが、より簡単なプロセスを提供する。超音波処理装置は、両方のために使用される場合、基板のあらゆる汚染を防ぐために、工程1と2の間に徹底的に洗浄されなければならない。本開示の方法に適した例示的な超音波処理装置としては、Leela Electronics Leela Sonic モデル50、60、100、150、200、250、もしくは500、またはBransonのBシリーズが挙げられる。工程3では、基板がIPA超音波処理装置から取り出され、新鮮なIPAですすがれる。工程4では、すすがれた基板は、N2またはArなどの不活性ガスを使用して乾燥される。当業者であれば、工程1から4までが1つの例示的なウェハ準備プロセスを提供することを認識するであろう。本明細書の教示から逸脱することなしに、複数のウェハ準備プロセスが存在し、それを利用することができる。例えば、Handbook of Silicon Wafer Cleaning Technology,3rd Edition,2017(William Andrew)を参照のこと。例えば、より親水性の表面が望まれる場合、UV/オゾンプロセスが使用されてもよい。当業者であれば、少なくとも基板材料および必要とされる清浄度に基づいて適切なウェハ準備プロセスを決定することができる。
【0173】
この4工程の準備の後、基板はスピンコーターに移される。例示的な好適なスピンコーターとしては、Brewer ScienceのCee(登録商標)Precisionスピンコーター、Laurellの650シリーズスピンコーター、Specialty
Coating SystemのG3スピンコーター、またはTokyo ElectronのCLEAN TRACK ACT装置系統が挙げられる。上で開示した任意のPHPS組成物が工程5で基板上に分注され、工程6でウェハが回転される。当業者であれば、工程5および工程6を逐次的に(静的モード)または同時に(動的モード)行えることを認識するであろう。工程5は、手動または自動の分注装置(ピペット、シリンジ、または液体流量計など)を使用して行われる。工程5と工程6が同時に行われる場合、初期回転速度はゆっくりである(すなわち約5rpm~約999rpm、好ましくは約5rpm~約300rpm)。全てのPHPS組成物が分注された後(すなわち工程5が静的モードまたは動的モードのいずれかで完了したとき)、回転速度は約1000rpm~約4000rpmの範囲である。ウェハは、基板全体にわたって均一なコーティングが得られるまで回転され、これは典型的には約10秒から約3分間要する。工程5および工程6は、ウェハ上にSi含有膜を生成する。当業者であれば、スピンコーティングプロセスの必要とされる継続時間、加速度、溶媒蒸発速度などが、目標の膜厚および均一性を得るために各新しい配合物について最適化を必要とする調整可能なパラメータであることを認識するであろう(例えば、University of Louisville,Micro/Nano Technology Center-Spin Coating Theory,October 2013を参照のこと)。
【0174】
Si含有膜が形成された後、PHPS組成物の残留揮発性有機成分および/またはスピンコーティングプロセス由来の副生成物を除去するために、工程7でウェハはプリベークまたはソフトベークされる。工程7は、約25℃~約200℃の範囲の温度で、約1分~
約120分の範囲の時間、サーマルチャンバー内またはホットプレート上で行うことができる。例示的なホットプレートとしては、Brewer ScienceのCee(登録商標)モデル10もしくは11またはPoloの精密ベイクプレートが挙げられる。
【0175】
工程8では、基板は望まれる誘電体材料を製造するために硬化される。3つの非限定的な選択肢が
図2に示されている。3つの選択肢のいずれも、不活性ガスまたは反応性ガスを使用して行うことができる。例示的な不活性ガスとしては、N
2、Ar、He、Kr、Xeなどが挙げられる。反応性ガスは、酸素、窒素、または炭素を膜に導入するために使用することができる。酸素を膜に導入する例示的な反応性ガスとしては、O
2、O
3、空気、H
2O、H
2O
2などのような酸素含有ガスが挙げられる。窒素を膜に導入する例示的な反応性ガスとしては、NH
3、N
2H
4、NR
3(RはC1~C4炭化水素である)などの窒素含有ガスが挙げられる。炭素を膜に導入する例示的な反応性ガスとしては、炭素含有ガス、具体的にはアルケンおよびアルキン(エチレン、アセチレン、プロピレン等)などの不飽和炭素含有ガスが挙げられる。
【0176】
工程8aでは、基板は、不活性ガスまたは反応性ガスの下で、約101℃~約1,000℃、好ましくは約200℃~約800℃の範囲の温度で熱硬化を受ける。熱硬化プロセスを行うために炉または急速熱処理装置を使用することができる。例示的な炉としては、ThermoFisher Lindberg/BlueMTM管状炉、Thermo Scientific ThermolyneTMベンチトップ管状炉もしくはマッフル炉、Inseto卓上型石英管状炉、NeyTech Vulcanベンチトップ炉、Tokyo Electron TELINDYTM熱処理装置、またはASM International ADVANCE(登録商標)縦型炉が挙げられる。例示的な急速熱処理装置としては、Solaris100、ULVAC RTP-6、またはAnnealsys As-one 100が挙げられる。
【0177】
あるいは、工程8bにおいて、基板は、単色または多色の光源を用いて約190nm~約400nmの範囲の波長でUV硬化される。工程8bを行うために適した例示的なVUVまたはUV硬化システムとしては、限定するものではないが、Nordson Coolwaves(登録商標)2UV硬化システム、Heraeus Noblelight
Light Hammer(登録商標)10製品プラットフォーム、またはRadium Xeradex(登録商標)ランプが挙げられる。
【0178】
別の代替形態では、熱プロセスとUVプロセスの両方を、工程8aおよび工程8bについて指定した同じ温度および波長の基準で行うことができる。当業者であれば、硬化方法および硬化条件の選択が、望まれる目標のケイ素含有膜によって決定されることを認識するであろう。
【0179】
別の代替形態では、熱硬化プロセスは段階的な形で進行してもよい。より具体的には、熱硬化は、不活性ガスまたは反応性ガスの下、約10分から約30分の範囲の時間、約50℃~約500℃の範囲の温度で開始することができる。温度は、約50℃~約150℃まで上げられ、さらに10~30分間維持されてもよい。必要に応じて、追加の増分の温度上昇が使用されてもよい。あるいは、特定の傾斜を用いて温度が上げられてから特定の温度で短時間維持されてもよい。例えば、ウェハは、約1℃/分~約100℃/分、好ましくは約5℃/分~約40℃/分、より好ましくは約10℃/分~約20℃/分の昇温速度で加熱される室温のチャンバーの中に配置されてもよい。温度が例えば約100℃~約400℃などの望まれる加熱温度に到達した後、昇温は特定の時間、例えば約5分~約120分の範囲の時間停止されてもよい。その後、チャンバー温度を次の望まれる加熱温度、例えば約300℃~約600℃まで上昇させるために、同じまたは異なる昇温速度が使用されてもよく、また例えば5分間~約120分間の範囲などの別の特定の時間維持され
てもよい。例えば約500℃~約1,000℃のような第3の加熱温度が望まれる場合、これは再び繰り返されてもよく、そして例えば約5分~約300分の範囲の別の特定の時間維持されてもよい。さらに別の代替形態では、硬化は、任意の特定の温度で任意の特定の経過時間ではなくゆっくりとした一定の昇温(例えば約0.5/分~約3℃/分)を使用してもよい。硬化が完了した後、炉は約1℃/分~約100℃/分の範囲の冷却速度で室温まで冷却される。本出願人らは、これらの熱硬化工程のいずれもが、得られる膜における亀裂および空孔の形成を減らすのに役立ち得ると考えている。
【0180】
さらに、実施例19に示されるように、酸素含有雰囲気が必要とされる場合には、O2:H2O比を制御することによって収縮をさらに減少させることができる。好ましくは、O2:H2O比は約6:1~約2.5:1の範囲である。あるいは、H2O2:H2O雰囲気を使用して収縮を減少させることができる。本開示のPHPS組成物は、約1%~約15%、好ましくは約1%~約13%の範囲の収縮率を得ることができる。収縮率はハードベークされた膜の厚さをプリベークされた膜の厚さで割ることにより計算される。硬化後、得られるSiO2膜は、約1.8:1~約2.1:1の範囲のO:Si比を有する。得られるSiO2膜のC含有率は、約0原子%~約7原子%、好ましくは約0原子%~約5原子%の範囲である。Si、O、およびCの濃度は、X線光電子分光法(XPS)によって決定することができる。1%HF水溶液を用いた硬化したSiO2膜のウェットエッチング速度比は、1100℃で成長した熱酸化物と比較して約1:1~約5:1の範囲である。
【0181】
工程9において、硬化した膜は標準的な分析ツールを用いてキャラクタリゼーションされる。例示的なツールとしては、限定するものではないが、エリプソメーター、X線光電子分光法、原子間力顕微鏡、蛍光X線、フーリエ変換赤外分光法、走査型電子顕微鏡、二次イオン質量分析法(SIMS)、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)、応力分析のための表面粗さ計、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0182】
上述の方法により得られるケイ素含有膜は、SiO2;SiC;SiN;SiON;SiOC;SiONC;SiBN;SiBCN;SiCN;SiMCO(Mは当然Mの酸化状態に応じてZr、Hf、Ti、Nb、V、Ta、Al、Geから選択される)を含み得る。当業者であれば、適切なPHPS組成物および共反応物の適切な選択をすることによって、望ましい膜組成が得られることを認識するであろう。
【0183】
以下の実施例に示されるように、本開示のPHPS組成物を用いたスピンオン堆積は、350~800nmの波長範囲において約80%~約100%の透過率を有するSiON膜を生成する。これらの結果は、PHPSで被覆された基板が未被覆のガラス基板(実線)と同程度に透明であり、そのため光学用途に優れていることを示している。
【0184】
本開示のPHPS組成物を用いたスピンオン堆積は、約1.45の屈折率を有するケイ素酸化物膜を製造することもできた。1100℃でハードベークした熱酸化物が60Å/分であったのに対して、800℃でハードベークした膜のウェットエッチング速度は90Å/分であった。ケイ素酸化膜は、9:1のアスペクト比を有するトレンチ内で優れたギャップフィルも示した。
【0185】
堆積後処理
in-situで形成されるか、蒸着されるか、またはコーティングされるかに関わらず、得られた膜をさらに緻密化および脱水素化するために、得られたSi含有膜に対して、熱アニール、炉アニール、高速熱アニール、UVもしくは電子線硬化、および/またはプラズマガス曝露などの追加的な処理が行われてもよい。当業者はこれらの追加的な処理工程を行うために利用されるシステムおよび方法を認識している。例えば、ケイ素含有膜
は、SiN含有層を形成するために不活性雰囲気(例えばAr、He)、H含有雰囲気(例えばNH3)、N含有雰囲気(例えばN2)、またはこれらの組み合わせの下で、あるいはシリカ層を形成するためにO含有雰囲気(例えばO2、O3)の下で、約200℃~約1000℃の範囲の温度に約0.1秒~約7200秒の範囲の時間曝露されてもよい。最も好ましくは、温度は3600秒未満の間で600℃である。さらに好ましくは、温度は400℃未満である。アニール工程は、中で堆積プロセスが行われるものと同じ反応チャンバーの中で行われてもよい。あるいは、基板が反応チャンバーの中から取り出され、アニール/フラッシュアニールプロセスが別の装置の中で行われてもよい。上の後処理方法のいずれも、特にはUV硬化が、膜の結合性および架橋の強化、ならびに膜がSiN含有膜である場合の膜のH含有率の低減、に有効であることが見出された。典型的には、約50℃~約900℃の範囲の温度(好ましくは約100℃~300℃)までの熱アニールとUV硬化との組み合わせが、最も高い密度の膜を得るために使用される。
【0186】
別の用途
得られるPHPSは、以下の形でも使用することができる:
・固体PHPS組成物は、焼結のために、または他の液体配合物へのフィラーとして使用することができる。
・合成から直接、またはPHPS配合物の追加の処理(コーティング、焼結、キャスティング…)によって得られたSiN含有材料は、非常に高い硬度、強度、破壊靭性、耐摩耗性、および耐クリープ性を有するケイ素窒化物への変換のために1850℃までの温度でさらに焼成することができる。
・液体または固体のPHPSは、ロケット燃料の燃焼速度触媒として使用することができる。例えばAlsgaardの米国特許第3,137,599号明細書およびHuskinsらの米国特許第4,412,874号明細書を参照のこと。低いSiH2:SiH3比を有するPHPS組成物は、高い比エネルギーを有する。ロケット燃料としてのこのようなPHPSの使用の別の利点は、提案されているペルヒドリドポリシラン、オルガノシラン、またはアミノシラン(TSA自体を含む)組成物と比較して、空気中での反応性が低いために本質的に安全である。
・PHPS(MW>450)液体配合物は、PHPSを硬くて不活性な固体へと局所的に硬化させて緻密化するために、局所的に加熱するか放射に暴露することによって固体を形成するために使用できる。そのような配合物は、例えばケイ素窒化物の3D印刷のために使用することができる。この場合、PHPSは、加熱Tまたは放射への暴露時にのみ活性化される触媒を含んでいてもよい。
・ファイバースピニング、含侵、コーティングのいずれかのために、PHPSを高温に曝すとケイ素窒化物を生じるプレセラミック材料。例えば、PHPS組成物は、鋼材上にバリアコーティングを形成するために、または航空宇宙および旅客、軍用、および貨物用の車両産業において使用するための軽量耐熱構造材料として、使用することができる。
・PHPSからシリカ膜への変換によるガラス上の保護コーティング
【実施例】
【0187】
以降の実施例は、本明細書の開示と組み合わせて行われる実験を例示する。実施例は全てを網羅することを意図しておらず、また本明細書に記載の開示の範囲を限定することを意図していない。
【0188】
実施例1:ペルヒドロポリシラザンの合成(無溶媒)
窒素雰囲気下、ガラスバイアル中でトリシリルアミン[N(SiH3)3またはTSA](1.2g、11.2mmol)をトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(10mg、0.02mmol)と混合した。激しいガスの発生が観察され、数分以内に無色透明の液体が無色の結晶固体(0.5g)に変わった。本出願人らは、TSAが直鎖状におよび/または樹状に重合してシランガスを放出すると考えている。
【0189】
【0190】
得られた固体をテトラヒドロフラン(THF)で洗浄し、真空下で乾燥した。この固体は、THF、トルエン、または炭化水素系溶媒(ペンタン等)には不溶性である。固体をフーリエ変換赤外(FTIR)分光法および熱重量分析(TGA)/示差熱分析(DTA)によって分析した。TGA/DTAの結果を
図3に示す。図から分かるように、固体は温度の上昇と共にごくわずかな重量損失を示した(500℃までで約15重量%)。本出願人らは、得られる生成物がほとんどまたは全くN-H結合を含まないことを実証することによって、少量のTGA重量損失が提案された反応機構を裏付けると考えている。結果として、この生成物はより長い保存寿命およびより少ないケイ素窒化物の応力を有するであろう。
【0191】
実施例2:ビス(ジシリルアミノ)シラン(BDSASi)の合成(無溶媒)
アルゴン雰囲気のグローブボックスの中で、磁気撹拌子を備えたガラスシンチレーションバイアルにTSA(2.03g、18.9mmol)を添加した。固体の塩化パラジウム粉末(0.43g、1.84mmol)を撹拌されているTSAの中にゆっくりと添加した。TSAのバイアルに近づくと、赤色のパラジウム材料が黒く変わるのが観察された。無色の液体TSAは激しく泡立ちながら黒色の懸濁液に変化した。これは気体状の生成物の形成を示唆している。
【0192】
反応を室温(約23℃)で3時間撹拌したところ、その時点で泡立ちはゆっくりになった。反応混合物の一定分量をGCMSによって分析したところ約70%のTSAが残存しており、いくつかの微量の他のオリゴマーと共に約21%のビス(ジシリルアミノ)シラン(BDSASi)が形成したことが明らかになった。反応を室温でさらに13時間撹拌したところ、その時点でそれ以上の泡立ちは観察されなかった。新しい一定分量をGCMSによって分析した。その結果が表1にまとめられている。
【0193】
【0194】
【化18】
出願人らは、分岐異性体がGCカラム中でより長く保持されることを記載する先行技術文献に基づいて、4DSAS-Aが直鎖異性体であり4DSAS-Bが分岐異性体である
と考えている。
【0195】
示されたように、塩化物含有触媒は、いくつかの塩化物含有PHPS反応生成物を生じ得る。
【0196】
実施例3:ペンタン中でのペルヒドロポリシラザンの合成
TSA(5g、46.6mmol)をペンタン(6.3g、10mL)に混合し、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(25mg、0.05mmol)を窒素雰囲気下でガラスバイアルの中に添加した。穏やかなガスの発生が観察され、無色透明の液体は数分以内に濁った。反応の進行はガスクロマトグラフィー(GC)分析により監視した。
図4は、反応時間10分後および4時間後の、TSA反応物、ペンタン溶媒、およびビス(ジシリルアミノ)シラン反応中間体([(SiH
3)
2-N-SiH
2-N-(SiH
3)
2またはBDSASI)のピークを示す比較のGCグラフである。
図4に示されているように、TSA反応物は4時間で消費され、BDSISI反応中間体の量も時間と共に減少する。
【0197】
濁った溶液を室温で一晩放置した。この時点で、ゲル状の固体が形成された。溶媒を真空下で除去し、無色の結晶固体(2.6g)を得た。固体をFTIRおよびTGA/DTAにより分析した。FTIRの結果を
図5に示す。当業者であれば、得られた固体がNHスペクトルを示さない(典型的には3300~3500の範囲で見られる)ことを認識するであろう。TGA/DTAの結果は
図6に示されている。ここでも同様に見られるように、固体は温度の上昇と共に非常にわずかな重量損失を示した(500℃までで約15重量%)。結果として、この反応の最適化は、さらなる処理時に最小限しか収縮しないケイ素窒化物膜のin situ形成のための方法を提供し得る。
【0198】
実施例4:BDSASIを使用することによるペンタン中でのペルヒドロポリシラザンの合成
BDSASI(5g、27.4mmol)をペンタン(6.3g、10mL)中で混合し、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(25mg、0.05mmol)を窒素雰囲気下でガラスバイアルの中に添加した。目に見えるガスの発生は観察されず、無色透明の液体は数分以内に濁った。反応の進行をGC分析によって監視した。BDSASI反応物の大部分は室温で5日後に消費された。
【0199】
この実施例は、BDSASi反応物を使用する反応がTSA反応物を用いるよりもはるかに遅く起こり、そして非常に遅いガスの発生を示すことを実証している。
【0200】
実施例5:ポリスチレン担持ホスホニウム塩を用いたペルヒドロポリシラザンの合成
窒素を充填したグローブボックス中で、磁気撹拌器を備えたガラスシンチレーションバイアルに、0.7~1.3mmol/g(400mg、0.28mmol)のポリスチレン担持トリフェニルホスホニウムクロリドおよびトルエン(4mL)を入れた。この撹拌されている混合物に、TSA(3g、28mmol)のトルエン(4mL)溶液を4分かけて滴下し、その後反応物を室温でさらに8日間撹拌した。続いて混合物を濾過し、濾液の一定分量を低磁場1H NMR分光法で分析したところ、SiH2:SiH3の比が2.1:1であることが示唆された。ゲル浸透クロマトグラフィー分析から、平均分子量(Mn)が803であると決定された。
【0201】
実施例6:テトラブチルホスホニウムクロリドを触媒として用いるペルヒドロポリシラザンの合成
窒素充填グローブボックス中で、磁気撹拌子を備えた100mL丸底フラスコに、塩化テトラブチルホスホニウム(206mg、0.70mmol)、トルエン(3mL)、お
よびヘプタン(4mL)を入れた。この混合物に、トルエン(3mL)およびヘプタン(4mL)中のTSA(3g、28mmol)の溶液を20分かけて滴下した。この混合物をさらに27時間撹拌し、引き続き-35℃まで冷却し、その後濾過した。濾液の一定分量を、低磁場1H NMR分光法およびゲル浸透クロマトグラフィーによる分析のために採取した。1H NMR分析からは、SiH2/SiH3の比が2.12であることが示唆された。ゲル浸透クロマトグラフィー分析により、平均分子量(Mn)が10,900であると決定された。
【0202】
実施例7:オルガノポリシラザンの合成
窒素雰囲気下、ガラスバイアル中で(H
3Si)
2N(SiH
2NiPr
2)(3.3g、16mmol)をトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(20mg、0.04mmol)と混合した。ゆっくりとしたガスの発生が観察され、無色透明の液体は、室温で18時間放置した後に無色の粘稠オイルへと変化した。得られたオイルのGC分析は、いくらかの未反応(H
3Si)
2N(SiH
2NiPr
2)および重いオリゴマーに対応する複数のピークを示した。
図7は、反応時間30分後および18時間後の、(H
3Si)
2N(SiH
2NiPr
2)反応物および重いオリゴマー反応生成物のピークを示す比較のGCスペクトルである。
図7に示されているように、(H
3Si)
2N(SiH
2NiPr
2)反応物の量は、30分のピークから18時間のピークまで減少する。
【0203】
(H
3Si)
2N(SiH
2NiPr
2)反応物は室温で3日後に消費された。出願人らは、(H
3Si)
2N(SiH
2NiPr
2)反応物が実施例1~3のTSA反応物と同じ脱シリル化反応機構を受けると考えている。得られた粘稠オイルをFTIR、TGA/DTA、およびゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析した。FTIRの結果を
図8に示す。当業者であれば、得られたオイルがNHスペクトルをほとんどまたは全く示さない(典型的には3300~3500の範囲で見られる)ことを認識するであろう。得られた生成物は、2950~2850の範囲であると推定されるiPr配位子由来のアルキルC-H伸縮を示す。
【0204】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、屈折率検出器を用いてポリスチレン標準に基づいて行った。GPCの結果を
図9に示す。反応は、962ダルトンのM
nおよび1315ダルトンのM
wを有するPHPS生成物を生成した。得られた1.4の多分散指数(PDI)は、狭いオリゴマーサイズ分布を示している。
【0205】
TGA/DTAの結果を
図10に示す。図から分かるように、オイルは500℃まで温度が上昇するのに伴って約43重量%の損失を示した。PHPS反応生成物の分子量は小さすぎて実施例1および3の望ましい低質量損失TGAを示さず、また好ましいMwが2,000~50,000ダルトン、好ましくは4,000~30,000ダルトンの範囲である理由を示さなかった。
【0206】
実施例8:ペルヒドロポリシラザンの反応のクエンチ
TSA(30g、0.28mol)を、ペンタン(266mL)と触媒(B(C6F5)3)(1.4mmol、0.7g)との懸濁液に添加した。反応混合物を室温で0.5時間撹拌した。次いで、ドライアイス/IPA浴を用いて反応器を-78℃まで冷却し、揮発性物質(主にシラン)を-196℃でステンレス鋼製レクチャーボトル(sslb)の中に低温トラップした。その後、ペンタン(5mL)中の溶液としての1mLのトリエチルアミンを添加することによって反応をクエンチした。反応器を不活性雰囲気下で開放し、濁った混合物を蒸留した。揮発性物質を除去した後、無色透明の粘稠なオイルを得た(16.5g)。粘稠なオイルに対してGC、GPC、NMR、およびFTIR分析を行った。
【0207】
図11は、ペンタンおよび揮発性物質を除去した後のトルエンで希釈したオイルのGCスペクトルである(1gのオイルを1mLのトルエンで希釈した)。微量のシランが観察された(挿入図)。
【0208】
図12は、揮発性物質を除去した後のオイルのFTIRスペクトルである。
【0209】
計算されたSiH2:SiH3比は0.63であり、SiH2よりもSiH3が多いことを示唆している。これは、反応中に分子内カップリングがほとんど起こらなかったことを意味する。
【0210】
Si:N比は
図1に含まれており、M
nに基づいて2.08であると計算される。
【0211】
GPCの結果は、950のMnおよび1310のMwを示している。得られた1.4の多分散性指数(PDI)は、狭いオリゴマーサイズ分布を示している。
【0212】
実施例9:ペルヒドロポリシラザン反応のクエンチ
TSA(55g、0.51mol)を、ペンタン(266mL)と触媒(B(C6F5)3)(1.2mmol、0.7g)との懸濁液に添加した。反応混合物を室温で40分間撹拌した。次いで、ドライアイス/IPA浴を用いて反応器を-78℃に冷却し、揮発性物質(主にシラン)を-196℃でステンレス鋼製レクチャーボトル(sslb)の中に低温トラップした。次いで、反応器を不活性雰囲気下で開放し、2mLのTEAを透明な溶液に添加して反応をクエンチした。得られた濁った混合物を濾過した。その後、無色の濁ったペンタン溶液を蒸留した。揮発性物質を除去した後、濁った粘稠なオイルが得られた(30.5g)。オイルに対して、GPC、FTIR、およびTGA、およびNMR分析を行った。
【0213】
図13は、トルエンで希釈したオイルのGCスペクトルである。微量のペンタン、トリエチルアミン(TEA)、およびBDSASIが観察された(挿入図)。
【0214】
図14は、揮発性物質を除去した後のオイルのFTIRスペクトルである。
【0215】
NMRは計算されたSiH2:SiH3比が1.19であることを示しており、SiH3よりもSiH2が多いことを示唆している。これは、追加の10分の反応時間が分子内カップリングが始まるのに十分な時間を与えることを示している。
【0216】
Si:N比は
図1にあり、M
nに基づいて1.99であると計算される。
【0217】
GPCの結果は、1446のMnおよび2532のMwを示している。得られた1.8の多分散性指数(PDI)は、実施例8よりも大きいオリゴマーサイズ分布を示している。
【0218】
粘度<50cps
【0219】
実施例10:ペルヒドロポリシラザン反応のクエンチ
TSA(30g、0.28mol)を、ペンタン(266mL)と触媒(B(C6F5)3)(1.2mmol、0.7g)との懸濁液に添加した。反応混合物を室温で1.5時間撹拌した。次いで、ドライアイス/IPA浴を用いて反応器を-78℃に冷却し、揮発性物質(主にシラン)を-196℃でステンレス鋼製レクチャーボトル(sslb)の中に低温トラップした。その後、反応器を不活性雰囲気下で開放し、2mLのTEAを透明な溶液に添加して反応をクエンチした。得られた濁った混合物を濾紙を通して濾過して
白色固体(0.25g)を得た。その後、無色の透明なペンタン溶液を蒸留した。揮発性物質を除去した後、無色透明の粘稠なオイルが得られた(18.5g)。固体をFTIRにより分析して、固体が触媒と阻害剤との付加物であることを確認した。オイル状のPHPS反応生成物に対してGC、GPC、FTIR、およびTGA分析を行った。
【0220】
図15は、トルエンで希釈したオイルのGCスペクトルである。微量のペンタン、トリエチルアミン(TEA)、およびBDSASIが観察された(挿入図)。
【0221】
図16は、揮発性物質を除去した後のオイルのFTIRスペクトルである。1350cm
-1の鋭いピークはシリコングリースであると帰属された。微量のペンタンが約2900cm
-1でのC-H伸縮をもたらした。
【0222】
計算されたSiH2:SiH3比は1.8であり、SiH3よりもSiH2が多いことを示唆している。予想通り、実施例8および9と比較したこの実施例の追加の反応時間は、PHPS反応生成物中により多くの架橋をもたらす。
【0223】
Si:N比は
図1の中に含まれており、M
nに基づいて1.97であると計算される。
【0224】
GPCの結果は、2150のMnおよび6390のMwを示している。得られた3.0の多分散性指数(PDI)は、幅広いオリゴマーサイズ分布を示している。
【0225】
実施例11:ペルヒドロポリシラザン反応のクエンチ
TSA(30g、0.28mol)を、ペンタン(266mL)と触媒(B(C6F5)3)(1.4mmol、0.7g)との懸濁液に添加した。反応混合物を室温で18時間撹拌した。次いで、ドライアイス/IPA浴を用いて反応器を-78℃に冷却し、揮発性物質(主にシラン)を-196℃でステンレス鋼製レクチャーボトル(sslb)の中に低温トラップした。その後、反応器を不活性雰囲気下で開放し、2mLのトリエチルアミンを添加して反応をクエンチした。固体(10.8g)を濾別して乾燥した。ペンタン溶液を蒸留した。ペンタンおよび過剰のトリエチルアミンを除去した後、粘稠な濁ったオイルが得られた(4.5g)。固体をFTIRにより分析して、固体が触媒と阻害剤との付加物であることを確認した。オイル状のPHPS反応生成物に対してGC、FTIR、およびTGA分析を行った。
【0226】
図17はオイルのGCスペクトルである。微量のシランおよびBDSASIのみが観察された(挿入図)。
【0227】
図18は、揮発性物質を除去した後のオイルのFTIRスペクトルである。
【0228】
実施例8~11の結果は、望まれるオリゴマーサイズが生成したときにPHPS合成方法を停止できることを示している。
【0229】
実施例12:トルエン溶媒を用いたペルヒドロポリシラザンの合成
TSA反応物、B(C6F5)3触媒、およびトルエン溶媒を用いて室温で追加の合成反応を試験した。結果を表2に示す:
【0230】
【0231】
表1ならびに実施例3および8~11から分かるように、少なくとも一部には、トルエン溶媒中の触媒の溶解度が触媒活性を改善させることにより、合成はペンタン溶媒中よりもトルエン溶媒中でより速く進行する。通常、トルエン溶媒中で合成されたPHPS組成物は、ペンタン溶媒中で製造されたPHPS組成物よりも大きいMnおよび高い架橋度を有する。結果として、溶媒中への触媒の溶解度は、望まれるPHPS反応生成物が得られるように選択することができる。これらの初期反応は研究開発施設で小規模で行われた。したがって、収率はさらなるプロセスの最適化とスケールアップによって改善するであろう。
【0232】
実施例13:別の触媒および触媒混合物
TSA反応物および別の触媒または触媒混合物を使用して、溶媒を使用せずに(すなわち無溶媒)、追加の合成反応を試験した。結果を表3に示す:
【0233】
【0234】
これらの反応は大部分は高温ではあるものの、本開示の方法において別の触媒も使用できることを示している。これらのプロセスは、望まれるPHPS反応生成物が低分子量分布を有する場合に有用であろう。
【0235】
これも同様に、これらの初期反応は研究開発施設で小規模で行われた。したがって、収率はさらなるプロセスの最適化とスケールアップによって改善するであろう。
【0236】
実施例14:ゼオライト触媒
TSA反応物およびゼオライト触媒を用いて室温で追加の合成反応を試験した。結果を表4に示す:
【0237】
【0238】
B(C6F5)3、PdCl2、およびCo2(CO)8のように、これらのゼオライト触媒は本開示の方法において室温で使用することができる。
【0239】
これも同様に、これらの初期反応は小規模の研究開発施設で行われた。したがって、収率はさらなるプロセスの最適化とスケールアップによって改善するであろう。
【0240】
実施例15:触媒添加量
室温でトルエン中のTSA出発材料を使用して、MnおよびSiH2:SiH3比に対するB(C6F5)3触媒添加量の影響を評価するために、追加の合成反応を行った。結果を表5に示す:
【0241】
【0242】
これらの結果から明らかなように、所定時間で触媒添加量を増加させると、数平均分子量(Mn)およびSiH2:SiH3比が増加する。
【0243】
実施例16:SiH
2:SiH
3比とMWとの間の相関
図19は、PHPS反応生成物中のN原子の数対SiH
2:SiH
3比のグラフである。黒い実線は、100%架橋したPHPS反応生成物の傾向を示している。一点短鎖線は、100%直鎖のPHPS反応生成物の傾向を示している。二点短鎖線は、環状PHPS反応生成物の傾向を示している。点線は、異なる量の触媒、異なる反応時間、および異なる添加方法を使用してトルエン中でB(C
6F
5)
3とTSAとを反応させることによって合成された5つの異なるバッチのPHPS反応生成物についての結果を示している。破線は、異なる量の触媒および異なる反応時間を使用してペンタン中でB(C
6F
5)
3とTSAとを反応させることによって合成された4つの異なるバッチのPHPS反応生成物についての結果を示している。
【0244】
このグラフは、溶媒の選択が反応プロセスおよびSiH2:SiH3比に及ぼす影響を示している。トルエンのプロセスは、ペンタンによって生成されるものよりも大きいSiH2:SiH3比を有し、したがってより多くの架橋を有する生成物を生成する。
【0245】
実施例17:PHPS配合物の空気安定性
トルエン中10重量%のPHPS配合物(N-Hを含まない)5mLを窒素充填グローブボックス中の滴下漏斗の中に入れた。10重量%のPHPS配合物は、30gのTSAおよび0.25モル%のB(C6F5)触媒の逆添加を使用してトルエン中で合計1時間5分の反応時間で合成したPHPS生成物を使用した。PHPS生成物は、50,000のMw、7200のMn、および6.9のGPCを有していた。漏斗を密封し、空気安定性試験のためにドラフトチャンバーに移した。漏斗中のPHPS配合物をペトリ皿の中にゆっくり入れた。配合物の外観のあらゆる変化を30分間観察し、ビデオカメラで記録した。比較のために、5mLの市販のNH含有PHPS配合物を準備し、同じ条件下で試験した。両方の配合物は共に、ペトリ皿に入れられる前は透明であった。ドラフトチャンバー内で30分間周囲空気に直接触れさせた後も、N-Hを含まないPHPS配合物は濁りがなく透明なままであった。時間が経つと、配合物は粘性になり、最終的には溶媒の蒸発のため透明な固体に変化した。全く対照的に、市販のN-H含有PHPS配合物は、空気に触れてから5分以内に濁った白色に変わり、最終的には30分後に白色の固体に変化した。この違いは、NHを含まないPHPS配合物がNH基を有する同等のものよりも空気に安定であることを示している。
【0246】
実施例18:SiON膜の堆積
トルエン中の10重量%PHPS配合物を、1500rpmのスピン速度でガラス基板上にスピンコーティングした。このプロセスでは実施例17で使用したのと同じ10重量%PHPS配合物を使用した。その後、コーティングされた基板を窒素中で100℃で5分間プリベークした。次に、プリベークした基板を2つの別個の工程でハードベークした。最初に、これらを空気中で350℃で0.5時間酸化した。2番目に、酸化された基板を窒素中で350℃で0.5時間、紫外線照射によってさらに硬化させた。
図20に示されているように、PHPS膜の透過率は、UV-VIS分光計によって各処理工程後に記録した。これらの透過率は350~800nmの波長範囲で80%を超えたままであった。これらの結果は、PHPSでコーティングされた基板がコーティングされていないガラス基板(実線)と同じくらい透明であり、したがって光学用途のために優れていることを示している。
【0247】
実施例19:ケイ素酸化物膜の収縮を最適化するためのO2/H2O比の制御
トルエン中の10重量%PHPS配合物を、1500rpmのスピン速度で平坦なSi基板上にスピンコーティングして、400~500nmの範囲の厚さを有する膜を形成した。このプロセスでは実施例17で使用したのと同じ10重量%PHPS配合物を使用した。その後、コーティングされた基板を窒素中で150℃で3分間プリベークした。次に、プリベークした基板を、窒素中に酸素および水蒸気が含まれている制御された雰囲気の中で、400℃で20分間、500℃で20分間、そして最後に600℃または800℃で20分間、ハードベークした。表6に異なる水蒸気分圧を使用した結果が示されている。膜厚および屈折率(RI)はエリプソメーターによって測定した。収縮率は、1-(ハードベークされた膜厚/プリベークされた膜厚)として計算した。ウェットエッチング速度は、1%のHF水溶液中で行った。ウェットエッチング速度は、同じ条件下でウェットエッチングされた市販の熱酸化膜のものに正規化した。膜6については、膜を800℃で60分間維持した。膜7については、工程1)の後、膜を800℃で20分後にオーブンから取り出し、分析のために冷却した後、工程2)に記載の雰囲気下で400℃で20分間、500℃で20分間、そして最後に800℃で90分間加熱した。
【0248】
収縮(またはウェットエッチング速度)と600℃での水蒸気分圧との間の相関関係を
図21に示す。データは、0%のH
2Oでハードベークした膜1と比較して、水蒸気分圧が高くO
2分圧が低いほどより高い膜収縮およびより低いウェットエッチング速度になることを示している。800℃でプロセスを行うと同様の収縮が維持されたが、ウェットエッチング速度は大きく改善した。
【0249】
【0250】
実施例20:ケイ素酸化物膜の収縮を最適化するためのH2O2/H2O硬化
トルエン中の10重量%PHPS配合物を、1500rpmのスピン速度でSi基板上にスピンコーティングした。このプロセスでは実施例17で使用したのと同じ10重量%PHPS配合物を使用した。その後、コーティングされた基板を窒素中で150℃で3分間プリベークした。次に、プリベークした基板を、窒素中に57%のN2、10%のH2O2、および33%の水蒸気が含まれている制御された雰囲気中で、400℃で2時間ハードベークした。得られた膜の屈折率は1.45であり、収縮率は9.5%であり、ウェットエッチング速度は2.9であった。膜厚および屈折率(RI)はエリプソメーターによって測定した。収縮率は、1-(ハードベークされた膜厚/プリベークされた膜厚)として計算した。ウェットエッチング速度は、1%のHF水溶液中で行った。ウェットエッチング速度は、同じ条件下でウェットエッチングされた市販の熱酸化膜のものに正規化した。出願人は、プロセスをさらに最適化するために継続的な研究を行っている。
【0251】
請求項に記載のN-Hを含まないPHPSを用いたスピンオン堆積およびそれに続くH2O2雰囲気中での熱硬化は、別の酸化剤の使用よりも著しく少ない収縮をもたらした。さらに、H2O2酸化剤は、ハードベークプロセスを別の酸化剤よりも低い温度で行うことを可能にし、これはその前に堆積された層への損傷を少なくすることができる。
【0252】
前述したように、本開示のPHPS組成物は-SiH
2-および-SiH
3基を含むが
SiHを含まない(NMRによる)。
図22は、プリベーク後(実線)ならびにH
2O
2およびH
2O中で2時間硬化後(点線)の堆積膜を示す比較のFTIRスペクトルである。プリベークされたPHPS膜のFTIRスペクトルは、-SiH
2-および-SiH
3基の存在から生じる、約2200cm-1の特徴的なSi-H伸縮ピークを示す。N
2中にH
2O
2および水蒸気を含む雰囲気下で400℃で2時間硬化した後、Si-H伸縮ピークはスペクトルから完全に除去された。その結果、膜は、約1070cm-1および810cm-1にSi-O伸縮シグナルのみを有する純粋なケイ素酸化物膜に変わった。この結果は、H
2O
2が、低い焼成温度で本開示のPHPSをSiHを含まない純粋なケイ素酸化物へと変換させる助けとなり得ることを裏付けている。
【0253】
実施例21:パターン化ウェットエッチング
トルエン中の10重量%PHPS配合物(N-Hを含まない)を、パターン化されたSi基板上に1500rpmのスピン速度でスピンコーティングした。このプロセスでは実施例17で使用したのと同じ10重量%PHPS配合物を使用した。パターン化されたSi基板は20:1のアスペクト比を有するフィーチャを有していた。その後、コーティングされた基板を窒素中で150℃で3分間プリベークした。次に、プリベークした基板を、80%N
2/20%H
2O雰囲気中で、400℃で20分間、500℃で20分間、そして最後に800℃で20分間ハードベークした。基板を冷却し、次いで80%N
2/20%H
2O雰囲気中で、400℃で20分間、500℃で20分間、そして最後に800℃で20分間ハードベークした。充填されたフィーチャの側面画像を得るためにウェハを切断した。
図23Aは、エッチング前の切断した基板の走査型電子顕微鏡の側面画像である。
図23Bは、1%HF水溶液を用いて20秒間エッチングした後の切断した基板の走査型電子顕微鏡の側面画像である。見られるように、エッチングは起こらなかった。膜のXPS分析からは、C濃度が3.7原子%、O濃度が63.1原子%、Si濃度が33.2原子%であることが明らかになった。
【0254】
実施例22:N-Hを含まないPHPS膜の空気安定性
トルエン中の10重量%PHPS配合物(N-Hを含まない)を、平坦なSi基板上に1500rpmのスピン速度でスピンコーティングした。このプロセスでは実施例17で使用したのと同じ10重量%PHPS配合物を使用した。その後、コーティングされた基板を窒素中で150℃で3分間プリベークした。比較例として、市販のNH含有PHPS配合物を同じ条件下でスピンコーティングしてからプリベークした。次に、2つの堆積したままの膜についてFTIRスペクトルを収集した。その後、両方の膜を周囲空気中で3ヶ月間エージングし、それらのFTIRスペクトルを再び収集して空気安定性を評価した。
図24のFTIRスペクトルは、Si-O伸縮ピークが大きく強まったことから、NH基を含む市販のPHPS膜が3ヶ月のエージング後に著しく酸化を受けたことを示している。全く対照的に、NH基を含まないPHPS膜は空気酸化に対してより耐性があり、非常に弱いSi-O伸縮ピークのみがエージング後に観察された。
【0255】
比較例1-韓国特許出願公開第20140087903号明細書
アンモノリシスによるPHPSの製造のための出発物質としてのトリシリルアミンまたはトリシリルアミン誘導体の使用は、Songらの韓国特許出願公開第20140087903号明細書に記載されている。この事例では、トリシリルアミンのSi-Xを含まない性質(NH4Clの形成なし)が利用される。しかしながら、アミンにより触媒される反応は、それでもやはりアンモノリシスによって、すなわちアミン基によるSi上のHの置換およびアミノシランのさらなる縮合によって進行する。そのため、得られる無機PHPS(すなわちアミンとしてアンモニアを使用する)はNH結合を含むことになる。
【0256】
比較例2-米国特許第4200666号明細書
Reinbergの米国特許第4,200,666号明細書には、揮発性モノマーであ
る液体トリシリルアミンの分解からの、グロー放電によりケイ素窒化物膜を作製する方法が開示されている。出願人らは、そのようなプラズマ支援蒸着プロセスがHを多く含むSiN固体膜を生じ、H含有率が典型的には5~30原子%であり、HがSi結合とN結合の間にランダムに分布すると考えている。出願人らはさらに、プラズマが前駆体構造を完全に破壊してその骨格構造を維持しないと考えている。
【0257】
比較例3-米国特許出願公開第2014/0341794号明細書
Hoppeらの米国特許出願公開第2014/0341794号明細書(Evonik)は、液相中でのモノクロロシラン(SiClH3またはMCS)とNH3との反応からのトリシリルアミンの合成が、重質残留物中に、(H3Si)2-N-SiH2-NH(SiH3)、(H3Si)2-N-SiH2-N(SiH3)2、(H3Si)2-N-SiH2-NH-SiH2-NH(SiH3)、およびそれより多くのものなどの複数のポリシラザンの形成をもたらすことに気付いた。これらのポリシラザンの生成源は記載されていないものの、それらが反応の終わりに依然としてSi-Clを含み、また二官能性ケイ素結合(すなわち「-SiH2-」)を含むという事実は、ジクロロシランがそのようなポリシラザンの生成に関与することを示している。ジクロロシランの供給源は、2MCS→SiH4+SiH2Cl2(例えばBehmらの米国特許出願公開第2012/0103857号明細書の第0058段落を参照のこと)によれば、MCS出発物質の周知の不均化によると推定される。最後に、アンモニアを用いたポリシラザン混合物の最終処理(残りのSi-Cl結合のアンモノリシス)は、ポリシラザン混合物中のN-H結合の形成を意味する。
【0258】
本発明の実施形態を示し説明してきたが、当業者であれば、本発明の要旨および教示の範囲内でそれらの変更を行うであろう。本明細書に記載した実施形態は、単なる例示であって、それらに限定されない。組成物および方法は、本発明の範囲内で多数の変形形態および変更形態が可能である。したがって、保護範囲は、本明細書に記載した実施形態に限定されず、続く請求項によってのみ限定される。その範囲には、請求項の内容と同等のもの全てが含まれるものとする。