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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】短絡接地器具及びこれを用いた接地工法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20231124BHJP
   H01R 11/15 20060101ALI20231124BHJP
   H01R 4/66 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H02G1/02
H01R11/15
H01R4/66 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022179460
(22)【出願日】2022-11-09
【審査請求日】2023-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222015
【氏名又は名称】株式会社ユアテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】森 ヤスシ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】新貝 昌大
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-057198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/02
H01R 11/15
H01R 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空送電線の作業回線を把持する把持部と、当該把持部を絶縁操作棒で操作する操作部と、一端側が前記把持部に接続され他端側が接地部に接続される接地導線とを具備する短絡接地器具であって、
前記把持部は、前記作業回線に掛けるための側方に開いた開放部を有する概略C字状のフック体と、当該フック体が掛けられた前記作業回線を当該フック体との間で把持する把持位置と当該作業回線を解放する解放位置との間を回動自在で把持位置に回転付勢されるように当該フック体に枢支された把持部材と、当該把持部材を解放位置に保持する保持位置と当該把持部材を解放する解除位置との間を移動自在で前記フック体が掛けられた前記作業回線に押されて解除位置へ移動するように前記フック体に支持されたトリガ部材と、前記把持部材を把持位置に拘束するように当該把持部材に一端が当接するロック位置と当該把持部材から離れて蓄勢される非ロック位置との間を軸線方向移動自在でロック位置に付勢されかつ放勢位置と蓄勢位置との間で軸周り回転自在に前記フック体に支持されたノック棒と、一端側において前記フック体に固着され前記ノック棒を軸線方向移動自在及び放勢位置と蓄勢位置との間で軸周り回転自在に挿通させ蓄勢位置において当該ノック棒を非ロック位置に蓄勢して保持し放勢位置においてロック位置に解放する挿通管とを具備し、
前記操作部は、前記絶縁操作棒の先端部を前記ノック棒と接続、分離可能に受け入れるように前記ノック棒に支持されることを特徴とする短絡接地器具。
【請求項2】
前記フック体は、前記作業回線に掛けられる上顎部と、前記開放部を介して当該上顎部に対向する下顎部とを具備し、
前記把持部材は、基端側において前記上顎部の先端側に枢支され、先端側において当該上顎部との間に前記作業回線を把持するようにばねで把持位置に回転付勢され、
前記トリガ部材は、前記上顎部に上下動自在に支持され、下位の保持位置において前記把持部材に当接して当該把持部材を解放位置に保持し、前記フック体が掛けられた前記作業回線に押されて前記把持部材から離れた上位の解除位置へ移動して当該把持部材の把持位置へ回動を許容するように設けられることを特徴とする請求項1に記載の短絡接地器具。
【請求項3】
前記ノック棒は、前記下顎部と前記挿通管を貫通し、当該挿通管内において外周に突出するストッパピンを具備し、当該挿通管との間に介設された押しばねによりロック位置に付勢され、
前記挿通管は、内周部に前記ストッパピンが移動自在に係合して前記ノック棒のロック位置と非ロック位置間の軸線方向の移動を許容する縦溝と当該縦溝の下端に連続し当該ノック棒の放勢位置と蓄勢位置間の軸周り回転を許容する円周方向の横溝とを具備し、当該ストッパピンが当該横溝の末端に係合した蓄勢位置にあるとき前記押しばねを蓄勢して前記ノック棒を非ロック位置に保持し、当該ストッパピンが当該縦溝に係合した放勢位置あるとき当該ノック棒を解放してロック位置への突出を許容するように設けられることを特徴とする請求項2に記載の短絡接地器具。
【請求項4】
前記上顎部の下面には、前記作業回線を当該上顎部の中央部に誘導するための概略転倒V字状の凹部が設けられ、
前記トリガ部材の下部中央が前記凹部の中央に配置されるように設けられることを特徴とする請求項2に記載の短絡接地器具。
【請求項5】
前記フック体は、前記作業回線に掛けられる上顎部と、前記開放部を介して当該上顎部に対向する下顎部とを具備し、
前記ノック棒は、前記下顎部を自在に貫通して前記挿通管に挿通され、
前記下顎部の上面は、前記開放部の外側に下がる傾斜面に形成されると共に、非ロック位置にある前記ノック棒の先端が当該傾斜面下に没するように設けられ、それにより、前記フック体の上向き移動時に当該フック体が掛けられた前記作業回線が当該傾斜面を相対摺動し前記開放部の外側へ誘導されるように設けられることを特徴とする請求項1に記載の短絡接地器具。
【請求項6】
前記操作部は、前記ノック棒の下端に固着され内側上部に軸周り係合部を具備する外筒と、当該外筒の下端に軸周り相対回転自在に接続され前記絶縁操作棒の先端部を受け入れて軸周り回転操作可能な下広がりフレア筒状の接続管と、当該接続管への前記絶縁操作棒の受け入れ時にのみ当該接続管と前記外筒とを軸周り回転方向に結合する回転伝達機構とを具備し、
前記接続管は、前記絶縁操作棒の外周に突出する係合ピンを軸線方向に受け入れ、軸周り相対回転した固定位置で当該絶縁操作棒を当該接続管に軸周り回転方向に結合するツイスト係合溝を具備し、
前記回転伝達機構は、前記接続管へ受け入れられる前記絶縁操作棒により上位の係合位置に押し上げられたとき当該接続管と前記外筒とを軸周り回転方向に接続し下位の非係合位置において当該接続管と前記外筒とを非接続とするクラッチ部材と、当該クラッチ部材を下位の非係合位置へ付勢する付勢ばねとを具備し、
前記クラッチ部材は、前記外筒内において前記軸周り係合部の下方に対向して配置され上位の係合位置で当該軸周り係合部と係合し下位の非係合位置で当該軸周り係合部から離脱する係脱部と、当該係脱部から前記接続管内へ延びる軸部とを具備し、前記外筒及び前記接続管に上下動自在、当該接続管に軸周り相対回転不能に設けられ、前記接続管に受け入れられる前記絶縁操作棒の回転操作により、前記接続管及び前記外筒を介して前記ノック棒を前記挿通管に対して放勢位置へ回転させ、それにより当該ノック棒をばね力でロック位置へ突出させるように設けられることを特徴とする請求項1に記載の短絡接地器具。
【請求項7】
架空送電線の作業回線を把持する把持部と、当該把持部の動作を絶縁操作棒で操作する操作部と、一端側が前記把持部に接続され他端側が接地部に接続される接地導線とを具備する短絡接地器具において、
前記把持部は、前記作業回線に掛けるための側方に開いた開放部を有する概略C字状のフック体と、当該フック体が掛けられた前記作業回線を当該フック体との間に上端部で保持、解放するように前記フック体を貫通して支持されたノック棒とを具備し、
前記ノック棒は、前記作業回線を保持するロック位置と解放する非ロック位置との間を軸線方向に移動自在で、ロック位置に付勢され、かつ放勢位置と蓄勢位置との間で軸周り回転自在に前記フック体に支持され、
前記操作部は、前記ノック棒の下端に固着され内側上部に軸周り係合部を有する外筒と、当該外筒の下端に軸周り相対回転自在に接続され前記絶縁操作棒の先端部を受け入れて軸周り回転操作可能な下広がりフレア筒状の接続管と、当該接続管への前記絶縁操作棒の受け入れ時にのみ当該接続管と前記外筒とを軸周り回転方向に接続する回転伝達機構とを具備し、
前記接続管は、前記絶縁操作棒の外周に突出する係合ピンを軸線方向に受け入れ、軸周り相対回転した固定位置で当該絶縁操作棒を当該接続管に軸周り回転方向に結合するツイスト係合溝を具備し、
前記回転伝達機構は、前記接続管へ受け入れられる前記絶縁操作棒により上位の係合位置に押し上げられたとき当該接続管と前記外筒とを軸周り回転方向に接続し下位の非係合位置において当該接続管と前記外筒とを非接続とするクラッチ部材と、当該クラッチ部材を下位の非係合位置へ付勢する付勢ばねとを具備し、
前記クラッチ部材は、前記外筒内において前記軸周り係合部の下方に対向して配置され上位の係合位置で当該軸周り係合部と係合し下位の非係合位置で当該軸周り係合部から離脱する係脱部と、当該係脱部から前記接続管内へ延びる軸部とを具備し、前記外筒及び前記接続管に上下動自在、当該接続管に軸周り相対回転不能に設けられ、前記接続管に受け入れられる前記絶縁操作棒の回転操作により、前記接続管及び前記外筒を介して前記ノック棒を前記フック体に対して放勢位置へ回転させ、それにより当該ノック棒をばね力でロック位置へ突出させるように設けられることを特徴とする短絡接地器具。
【請求項8】
請求項1に記載の短絡接地器具を用いた接地工法であって、前記接地導線を接地部に接続する第1の工程と、
前記フック体に対して前記把持部材を解放位置へ回動させて蓄勢すると共に、前記トリガ部材を保持位置へ移動させて前記把持部材を解放位置に保持し、かつ前記ノック棒を前記把持部材から離れた非ロック位置へ軸線方向に移動させつつ、蓄勢位置へ回動させて前記挿通管に係止する第2の工程と、
前記絶縁操作棒の先端側を前記操作部に挿入して非ロック位置にある前記ノック棒に接続する第3の工程と、
前記絶縁操作棒を介して前記フック体を離れた位置にある前記作業回線に掛け、当該作業回線を前記トリガ部材下に配置する第4の工程と、
前記絶縁操作棒を介して前記フック体を引き下げ、前記トリガ部材下に位置する前記作業回線で保持位置にある当該トリガ部材を解除位置へ押し上げ、それにより前記把持部材を把持位置へ回動させ、前記フック体との間に前記作業回線を把持する第5の工程と、
前記絶縁操作棒を介して非ロック位置にある前記ノック棒を放勢位置へ軸周り回転させることにより、前記把持部材の下面に圧接させる第6の工程と、
前記絶縁操作棒の前記ノック棒との接続を解いて前記操作部から抜き取り、当該操作部と前記把持部を前記作業回線上に残置させる第7の工程と、
前記作業回線上での作業完了後、当該作業回線上にある操作部に前記絶縁操作棒の先端側を接続して前記ノック棒を前記把持部材から離れた非ロック位置へ引き下げつつ、蓄勢位置へ軸周りに回動させて前記挿通管に係止する第8の工程と、
前記第8の工程に続いて、前記絶縁操作棒を介して前記フック体を押し上げ、前記作業回線の押圧力により、前記把持部材を解放位置へ回動させて、当該作業回線から前記フック体を取り外す第9の工程とを含むことを特徴とする接地工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線の作業を行うに当たって作業回線の接地のために使用される接地器具と、これを用いた接地工法に関する。
【背景技術】
【0002】
架空送電線の回線作業を行うときは、作業者の感電事故を防止するために作業回線を鉄塔などの接地体に接地する措置がとられる。回線作業においては、安全を確保するために作業回線の接地が確実に行われたことを確認した後に作業が行われること、また、作業中に接地が解除されないことが重要である。
従来、短絡接地器具として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この器具は、固定アームと、回動可能な可動アームとにより作業回線を挟持可能とすると共に、可動アームの回動をロック部により規制する。ロック部は、ラチェット歯車と、これに向かって付勢される係止爪とを備え、係止爪には、ラチェット歯車と係止爪との係止を解除するためのロック解除部が設けられる。一方、固定アーム側には、器具を支持するための操作棒を嵌挿可能な嵌挿部が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-177898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の短絡接地器具においては、これを作業回線に着脱する際に、器具を操作棒で支持しながら、別の操作棒(バインド打ち器)でロック部の操作をする必要があり、なお作業回線への取り付け及び取り外しの操作に煩雑さを伴う問題点がある。
従って、本発明は、単一の操作棒の操作のみで作業回線への取り付け及び取り外しが容易に行えると共に、作業中に脱落しないように確固に作業回線へ取り付けることができる短絡接地器具を提供し、またこれを用いた接地工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の説明において添付図面の符号を参照するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明の短絡接地器具1は、架空送電線の作業回線Wを把持する把持部2と、把持部2を絶縁操作棒16で操作する操作部3と、一端側が把持部2に接続され他端側が接地部に接続される接地導線4とを具備する。把持部2は、作業回線Wに掛けるための側方に開いた開放部51を有する概略C字状のフック体5と、フック体5が掛けられた作業回線Wをフック体5との間で把持、解放するようにフック体5に枢支された把持部材6と、把持部材6の把持、解放動作を制御するようにフック体5に支持されたトリガ部材7と、把持部材6を把持位置に拘束、解放するようにフック体5に支持されたノック棒8と、ノック棒8を挿通させるようにフック体5に支持された挿通管9とを具備する。把持部材6は、把持位置と解放位置との間を回動自在で、把持位置に回転付勢される。トリガ部材7は、把持部材6を解放位置に蓄勢保持する保持位置と把持部材6を解放して把持動作させる解除位置との間を移動自在で、フック体5の引っ張り操作で作業回線Wに押されて解除位置へ移動する。ノック棒8は、把持部材6に当接してこれを把持位置に拘束するロック位置と把持部材6から離れてこれを解放する非ロック位置との間を軸線方向移動自在で、ロック位置に付勢され、かつ放勢位置と蓄勢位置との間で軸周り回転自在である。挿通管9は、ノック棒8を軸線方向移動自在及び放勢位置と蓄勢位置との間で軸周り回転自在に挿通させ、蓄勢位置においてノック棒8を非ロック位置に蓄勢して保持し、放勢位置においてノック棒8を解放してロック位置に突出させる。操作部3は、ノック棒8を軸周り回転操作する絶縁操作棒16を受け入れるようにノック棒8に支持された接続部材を具備する。
また、本発明の短絡接地器具1を用いた接地工法は、接地導線4を接地部に接続する第1の工程と、フック体5に対して把持部材6を解放位置へ回動させて蓄勢すると共に、トリガ部材7を保持位置へ移動させて把持部材6を解放位置に保持し、かつノック棒8を把持部材6から離れた非ロック位置へ軸線方向に移動させつつ、蓄勢位置へ回動させて挿通管9に係止する第2の工程と、絶縁操作棒16の先端側を操作部3に挿入して非ロック位置にあるノック棒8に接続する第3の工程と、絶縁操作棒16を介してフック体5を離れた位置にある作業回線Wに掛け、当該作業回線Wをトリガ部材7下に配置する第4の工程と、絶縁操作棒16を介してフック体5を引き下げ、トリガ部材7下に位置する作業回線Wで保持位置にあるトリガ部材7を解除位置へ押し上げ、それにより把持部材6を把持位置へ回動させ、フック体5との間に作業回線Wを把持する第5の工程と、絶縁操作棒16を介して非ロック位置にあるノック棒8を放勢位置へ軸周り回転させることにより、把持部材6の下面に圧接させる第6の工程と、絶縁操作棒16のノック棒8との接続を解いて操作部3から抜き取り、操作部3と把持部2を作業回線W上に残置させる第7の工程と、作業回線W上での作業完了後、当該作業回線W上にある操作部3に絶縁操作棒16の先端側を接続してノック棒8を把持部材6から離れた非ロック位置へ引き下げつつ、蓄勢位置へ軸周りに回動させて挿通管9に係止する第8の工程と、第8の工程に続いて絶縁操作棒を介してフック体5を押し上げ、作業回線Wの押圧力により、把持部材6を解放位置へ回動させて、当該作業回線Wからフック体5を取り外す第9の工程とを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、単一の操作棒の操作のみで作業回線への取り付け及び取り外しが容易に行えると共に、作業中に脱落しないように確固に作業回線へ取り付けることができる短絡接地器具と、これを用いて簡易かつ確実に短絡接地がとれる接地工法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の第1の実施形態に係る短絡接地器具の斜視図である。
図2図1の短絡接地器具の正面図である。
図3-1】図1の短絡接地器具の側面図であり、作業回線を把持する前の状態を示す。
図3-2】図1の短絡接地器具の側面図であり、作業回線を把持した状態を示す。
図4図1の短絡接地器具の平面図である。
図5図1の短絡接地器具の一部を切欠した正面図である。
図6図1の短絡接地器具の一部を切欠した側面図である。
図7図1の短絡接地器具の一部を切欠した平面図である。
図8図1の短絡接地器具の一部の分解斜視図である。
図9-1】図1の短絡接地器具における操作部と絶縁操作棒及びノック棒との関係を示す縦断面図であり、絶縁操作棒の挿入前の状態を示す。
図9-2】図1の短絡接地器具における操作部と絶縁操作棒及びノック棒との関係を示す縦断面図であり、絶縁操作棒を挿入して係合突起をツイストロック溝の横溝部に配置した状態を示す。
図9-3】図1の短絡接地器具における操作部と絶縁操作棒及びノック棒との関係を示す縦断面図であり、絶縁操作棒を挿入して係合突起をツイストロック溝の保持溝部に配置した状態を示す。
図10】10-1(A)は、図9―3におけるa―a部、同(B)は、図9―3におけるb―b部、同(C)は、図9―3におけるc―c部の概略的横断面図、10-2 (A)は、絶縁操作棒で接続管とともにノック棒を矢線方向へ回転させた状態における図9―3におけるa―a、同(B)は、同じく図9―3におけるb―b、同(C)は、同じく図9―3におけるc―c相当部の概略的横断面図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係る短絡接地器具の一部を切欠した側面図である。
図12】本発明の第3の実施形態に係る短絡接地器具の一部を切欠した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1ないし図10を参照して本発明の第1の実施の形態を説明する。
図において、短絡接地器具1は、架空送電線の作業回線Wを把持する把持部2と、当該把持部2を絶縁操作棒16で操作する操作部3と、一端側が把持部2に接続され他端側が接地部に接続される接地導線4とを具備する。以下、便宜上、把持部2側を上方、操作部3側を下方として説明するが、短絡接地器具1は、常にこの方向で使用されるものではない。
【0009】
把持部2は、作業回線Wに掛けるためのフック体5と、当該フック体5が掛けられた作業回線Wをフック体5との間で把持する把持部材6と、把持部材6を保持、解放するトリガ部材7と、把持部材6に当接、離間するノック棒8と、ノック棒8を挿通させる挿通管9とを具備する。
【0010】
フック体5は、側方に開いた開放部51を有する概略C字状の金属部材で、作業回線Wに掛けられる上顎部52と、開放部51を介して上顎部52に対向する下顎部53とを具備する。上顎部52は平行一対の板部52aで構成される。上顎部52の下面には、作業回線Wを上顎部52の中央部に誘導するための概略転倒V字状の凹部52bが設けられる。下顎部53の上面は外方下がりの斜面53bとなっている。
【0011】
把持部材2は、基端側において上顎部52の先端側の板部52a間に枢ピン61で枢支され、上顎部52との間に作業回線Wを把持する把持位置(図3(B))と、作業回線Wを解放する解放位置(図3(A))との間を回動自在で、ばね62で把持位置に回転付勢される。
【0012】
トリガ部材7は、上下方向平行一対の長孔7aを有する概略方形状の金属ブロック材で、把持部材2の基端側に隣接するように、上顎部52の板部52a間に支持ピン71で上下動自在に支持される。
【0013】
トリガ部材7は、下位の保持位置(図3-1)において把持部材6をばね力に抗して解放位置に保持し、上位の解除位置(図3-2)において把持部材6を解放し、把持位置への回動を許容する。図6によく示すように、把持部材2の基端部と、これに隣接するトリガ部材7の側面には、それぞれ当接平面6a,7bが形成され、把持部材6が解放位置にあって、トリガ部材7が下位の保持位置にあるとき、両当接平面6a,7bが互いに当接して拘束し合うように構成される。
【0014】
トリガ部材7は、把持部材6をばね力に抗して解放位置へ回動させると、自重で下位の保持位置へ移動し、作業回線Wに掛けられたフック体5が引き下げられると、相対に作業回線Wに押し上げられ、上位の解除位置へ移動する。
【0015】
トリガ部材7の下面中央には、下方開きの概略V字状の凹部7cが形成される。トリガ部材7は、下面中央が上顎部52の凹部52bの中央と概略一致する位置に配置される。
【0016】
図6によく示すように、ノック棒8は、上端がトリガ部材7に対向し、下顎部53の貫通孔53aを上下方向に自由に貫通して延び、中間部外周にストッパピン81を有し、下端は外筒10に固着される。ノック棒8は、上位のロック位置(図3-2)と下位の非ロック位置との間で上下動自在である。ノック棒8は、ロック位置にあるとき、上端が把持部材6に当接して把持部材6を把持位置に拘束し、非ロック位置あるとき、把持部材6から離れる。
【0017】
挿通管9は、外管91とその内側に嵌合固着された内管92とからなる。図8によく示すように、内管92に、軸線方向の縦溝921aと円周方向の横溝921bとからなる概略L字状のツイストロック溝921が形成される。このツイストロック溝921にノック棒8のストッパピン81が移動自在に係合する。挿通管9は、上端が下顎部53の貫通孔53aに差し込まれて固着され、ノック棒8を、ツイストロック溝921の範囲で軸線方向上下に移動自在、軸周り回転自在に挿通させる。
【0018】
ノック棒8には押しばね82が外挿され、それの上端がノック棒8の上端部に係止される。押しばね82はノック棒8と共に挿通管9内に挿入され、下端は挿通管9内に固着されたばね受け93に係止される。この押しばね82により、ノック棒8は上位のロック位置に付勢される。
【0019】
ノック棒8は、上端が貫通孔53a内に没する下位の非ロック位置において押しばね82を圧縮している。この非ロック位置において、ノック棒8が軸周り方向の蓄勢位置へ回わされると、ストッパピン81がツイストロック溝921の横溝921bに係合し、ノック棒8は非ロック位置に保持される。ノック棒8がそこから反対方向の放勢位置へ軸周り略90°回わされると、ストッパピン81が縦溝921aに達して解放され、ロック位置に突出する。
【0020】
図6によく示すように、操作部3は、挿通管9から延出したノック棒8の下端部に支持され、絶縁操作棒16の上端部を受け入れ、それにより、絶縁操作棒16をノック棒8に軸周り回転操作できるように接続する。
【0021】
図8によく示すように、操作部3は、外筒10、接続管11、回転伝達機構12を具備する。
【0022】
外筒10は、ノック棒8の下端に固着され、内側上部に、一対の係合ピン101からなる軸周り係合部が突出する(図5)。
【0023】
接続管11は、外筒10の下端に軸周り相対回転自在に接続される。回転伝達機構12は、絶縁操作棒16を受け入れたときだけ接続管11と外筒10とを軸周り回転方向に結合する。
【0024】
接続管11は、絶縁操作棒16の先端部を下方から受け入れるように、下広がりのフレア筒状であり、上部は外筒10に連通する。接続管11は、下縁部に絶縁操作棒16の係合ピン16aを係合させるツイスト係合溝111を具備する。ツイスト係合溝111は、下端が接続管11の下縁に開放して軸線方向に延びる縦溝111aと、それの上端に連続して円周方向に延びる横溝111bと、それの末端に連続して下方へ直角に延びる保持溝111cとを具備する。
【0025】
回転伝達機構12は、クラッチ部材13と、これを接続管11に対して下方へ付勢するばね14とを具備する。クラッチ部材13は、接続管11へ受け入れられる絶縁操作棒16により上位の係合位置に押し上げられたとき、係合ピン101を介して接続管11と外筒10とを軸周り回転方向に結合し、下位の非係合位置において接続管11と外筒10とを非結合とする。
【0026】
クラッチ部材13は、外筒10内に配置される係脱部131と、係脱部131の中央から接続管11内へ直角に延びる軸部132とを具備する。
【0027】
係脱部131は、外筒10内の係合ピン101の下方に対向して配置され、上位の係合位置で係合ピン101と係合し、下位の非係合位置で係合ピン101から離脱するように設けられる。図示の実施形態において係脱部131は、外筒10内に軸周り回転自在に嵌合し、外筒10内で半径方向に対向する一対の係合片131aを有する。係合片131aは、クラッチ部材13が上位の係合位置にあるとき、略90°回転ごとに係合ピン101に係合することで、外筒10と接続管11とを軸周り回転方向に結合する。
【0028】
軸部132は、接続管11に対して上下動自在、軸周り相対回転不能に設けられる。したがって、クラッチ部材13は、接続管11と一体回転し、上位の係合位置(図9―3)にあるとき、その回転を係脱部131,係合ピン101、外筒10を介してノック棒8に伝える。
【0029】
したがって、絶縁操作棒16を接続管11に挿入することにより、クラッチ部材13を係合位置へ押し上げた状態(図9―3)で、絶縁操作棒16を回転操作することにより、接続管11及び外筒10を介してノック棒8を挿通管9に対して放勢位置(図10―2)へ回転させ、それにより、ノック棒8を押しばね82でロック位置(図3―2)へ突出させることができる。絶縁操作棒16が接続管11に挿入されない状態(図9―1)では、クラッチ部材13が非係合位置にあるため、接続管11と外筒10とは、相互に軸周り方向にフリーで、接続管11の回転はノック棒8に伝わらない。
【0030】
以上の構成の短絡接地器具1を用いて作業回線Wの接地作業を行う場合には、接地導線4を例えば鉄塔等の接地部に接続する。鉄塔上の作業者は、把持部2を初期状態にセットした短絡接地器具1に絶縁操作棒16の先端部を接続し、絶縁操作棒16を支え持って、短絡接地器具1を鉄塔から離れた位置にあるジャンパ線のような作業回線Wに掛け、絶縁操作棒16を介して所要の遠隔操作を行う。
【0031】
短絡接地器具1の把持部2の初期状態へのセットは、例えば以下のように行う。フック体5に対して把持部材6を、ばね62に抗して解放位置へ回動させ、トリガ部材7を保持位置へ下ろし、当接平面6a,7bを当接させることで、把持部材6を解放位置に保持する。また、押しばね82に抗してノック棒8を下位の非ロック位置へ引き下げたうえ、軸周りに回動させて蓄勢位置に配置する。この間、ノック棒8のストッパピン81は、挿通管9のツイストロック溝921の縦溝921aに沿って下降し、横溝921bに沿ってその末端まで移動する。これで把持部2の初期状態へのセットが完了する。
【0032】
次いで、係合ピン16aを接続管11のツイスト係合溝111に合わせて絶縁操作棒16を接続管11に軸線方向に挿入する。絶縁操作棒16の挿入によって、クラッチ部材13が付勢ばね14に抗して係合位置の上まで押し上げられる。次いで、絶縁操作棒16を軸周りに回転させて、係合ピン16aを横溝111b上(図9―2)、あるいは保持溝111c内(図9―3)に配置する。ここまで、絶縁操作棒16は、単独で回転し、接続管11は回転せず(図9―1~9―3)、クラッチ部材13は図10―1に示す位置を維持する。
【0033】
こうして初期状態にセットされた短絡接地器具1を、絶縁操作棒16を介して作業回線Wに接近させ、開放部51から作業回線Wをフック体5内に取り込み、トリガ部材7の下に配置する(図3―1)。
【0034】
次いで、絶縁操作棒16を引いて短絡接地器具1を引き下げると、トリガ部材7が作業回線Wにより相対的に解除位置へ押し上げられ(図3―2)、当接平面6a,7bの当接が外れると同時に、把持部材6が、ばね62で把持位置へ回動し、フック体5との間に作業回線Wを把持する。
【0035】
次いで、絶縁操作棒16を介して接続管11を図10―1において矢線方向へ回転させると、クラッチ部材13を介して、外筒10と共にノック棒8が非係合位置へ回動し(図10―2)、ストッパピン81が挿通管9の横溝921bを縦溝921aまで移動する。これでノック棒8が解放されて、ロック位置へ突出し、それの先端が把持部材6の下面に圧接される(図3―2)。この状態で、把持部2による作業回線Wの挟持が確固となり、短絡接地器具1が外力により容易に作業回線Wから離脱することがない。
【0036】
次いで、絶縁操作棒16を押し上げて軸周りに回転させると、係合ピン16aが接続管11の保持溝111cから外れ、横溝111b、縦溝111aへと移動するから、絶縁操作棒16を接続管11から引き抜き、短絡接地器具1を作業回線W上に残置させることができる。
【0037】
このようにして接地を確保した上で、作業者が作業回線W上での所要の作業を行う。作業中に作業者の衣服等が短絡接地器具1の末端の接続管11に接触しても、接続管11が軸周りに自由に回転するので、作業の妨げになることがないし、作業中に短絡接地器具1が作業回線から脱落することもない。
【0038】
作業回線W上での作業完了後、鉄塔上の作業者が、絶縁操作棒16を再び接続管11に接続して操作し、短絡接地器具1を手元に回収する。この作業を説明する。絶縁操作棒16の先端を、離れた位置にある作業回線W上の接続管11に挿入し、軸周り回動させることで、係合ピン16aをツイスト係合溝111の保持溝111c内に係合させる。
【0039】
この状態で絶縁操作棒16を介して短絡接地器具1を引き、押しばね82に抗してノック棒8を下位の非ロック位置へ引き下げたうえ、軸周りに回動させて蓄勢位置に保持する。次いで、短絡接地器具1を押し上げると、把持部材6が、作業回線Wに押されて解放位置へ回動する。この間、作業回線Wは、把持部材6を押し開きながらフック体5の内側を下降し、下顎部53の斜面53bを摺動して、自動的にフック体5外へ脱出する。次いで、絶縁操作棒16を引き寄せて、短絡接地器具1を手元に回収する。
【0040】
次に、図11を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。この実施形態の短絡接地器具201は、先の実施形態のものと操作部3の構造が相違するほかは、先の実施形態と同等である。したがって、図において、先の実施形態と同等の構成部に同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
この実施形態においては、先の実施形態と同様、作業回線Wがフック体5の上顎部52と把持部材6とで挟持され、さらにノック棒8で把持部材6が開き止めされるので、把持部2が外力で容易に作業回線Wから離脱する恐れがない。
【0042】
先の実施形態における外筒10、回転伝達機構12は具備しない。したがって、接続管11が、ノック棒8の下端に直接固着され、ノック棒8に対してフリーになることはない。このため、作業回線Wに装着された短絡接地器具201の接続管11は、相対回動することがない。
【0043】
次に、図12を参照して本発明の第3の実施形態を説明する。この実施形態の短絡接地器具301は、第1の実施形態のものと把持部2の構造が相違するほかは、第1の実施形態と同等である。したがって、図において、同等の構成部に同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
この実施形態においては、把持部2に、第1の実施形態における把持部材6を具備しない。把持部2はフック体5とノック棒8とで構成される。
【0045】
初期状態へのセットは、ノック棒8を外筒10、接続管11と共に押しばね82に抗して非ロック位置へ引き下げ、軸周りに回転させてストッパピン81を挿通管9に係止し、フック体5の開放部51を開放状態に保持して行う。
【0046】
第1の実施形態と同じく、接続管11は、常時はノック棒8に対して自由に回転し、絶縁操作棒16を装着して、クラッチ部材13を係合位置へ押し上げた状態で、初めて接続管11とノック棒8とが軸周り回転方向に一体回転可能となる。
【0047】
したがって、絶縁操作棒16を接続管11から引き抜き、短絡接地器具301を作業回線W上に残置させた後、作業者が作業回線W上で作業を行う間、接続管11に接触しても、接続管11が自由に軸周りに回転するので、作業の妨げになることがないし、作業中に短絡接地器具1が作業回線から脱落することもない。
【符号の説明】
【0048】
1 短絡接地器具
2 把持部
3 操作部
4 接地導線
5 フック体
51 開放部
52 上顎部
52a 板部
52b 凹部
53 下顎部
53a 貫通孔
53b 斜面
6 把持部材
6a 当接平面
61 枢ピン
62 ばね
7 トリガ部材
7a 長孔
7b 当接平面
7c 凹部
71 支持ピン
8 ノック棒
81 ストッパピン
82 押しばね
9 挿通管
91 外管
92 内管
921 ツイストロック溝
921a 縦溝
921b 横溝
93 ばね受け
10 外筒
101 係合ピン(軸周り係合部)
11 接続管
111 ツイスト係合溝
111a 縦溝
111b 横溝
111c 保持溝
12 回転伝達機構
13 クラッチ部材
131 係脱部
131a 係合片
132 軸部
14 付勢ばね
16 絶縁操作棒
16a 係合ピン
201 短絡接地器具(第2の実施形態)
301 短絡接地器具(第3の実施形態)
W 作業回線
【要約】
【課題】単一の操作棒で容易に作業回線へ取り付け、取り外しでき、作業中に脱落しない短絡接地器具を提供する。
【解決手段】短絡接地器具1は、作業回線Wを把持する把持部2と、把持部2を絶縁操作棒16で操作する操作部3と、把持部2に接続された接地導線4とを具備する。把持部2は、フック体5と把持部材6で、作業回線Wを把持、解放する。トリガ部材7は、作業回線Wへの装着前に把持部材6に接してこれを解放位置に保持し、装着時に作業回線Wに押されて把持部材6を把持位置へ解放する。ノック棒8は、装着前、挿通管9にツイストロックされて非ロック位置にセットされ、装着時に操作部3に接続された絶縁操作棒16でセットを解除され、ばね力でロック位置に突出して把持部材6を把持位置にロックする。
【選択図】図8
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10
図11
図12