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  • 特許-標準試料およびその作製方法 図1A
  • 特許-標準試料およびその作製方法 図1B
  • 特許-標準試料およびその作製方法 図1C
  • 特許-標準試料およびその作製方法 図1D
  • 特許-標準試料およびその作製方法 図1E
  • 特許-標準試料およびその作製方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】標準試料およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20231124BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20231124BHJP
   G01Q 40/02 20100101ALI20231124BHJP
【FI】
G01N1/00 102
G01N1/28 F
G01Q40/02
G01N1/00 102B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022522439
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2020019260
(87)【国際公開番号】W WO2021229755
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小平 晃
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隆志
(72)【発明者】
【氏名】奥 哲
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-251682(JP,A)
【文献】特開平7-176585(JP,A)
【文献】特開2006-220517(JP,A)
【文献】国際公開第2010/052840(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/069067(WO,A1)
【文献】特開2008-224258(JP,A)
【文献】特開2010-271228(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203406(WO,A1)
【文献】米国特許第6869480(US,B1)
【文献】Åオーダでの高さ方向の校正、装置性能の評価 AFM(原子間力顕微鏡) 高さ校正用標準試料,NTTアドバンステクノロジ株式会社,2015年,https://web.archive.org/ web/20150714034621/https://keytech.ntt-at.co.jp/support/docs/afm.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 1/28
G01Q 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡を含むナノメータサイズの観察が可能な顕微鏡の評価に用いる標準試料であって、
結晶から構成されて、主表面が(110)とされた基板と、
前記基板の主表面から前記基板の内部にかけて形成された凹部と
を備え、
前記凹部は、前記基板の主表面に対して垂直とされた1つの平面を形成する側面を備え、
前記側面は、ファセット面とされ、(111)面から傾斜した傾斜面とされている
ことを特徴とする標準試料。
【請求項2】
請求項1記載の標準試料において、
前記基板は、シリコンの単結晶から構成されていることを特徴とする標準試料。
【請求項3】
請求項1記載の標準試料において、
前記基板は、InPまたはGaAs結晶から構成され、前記側面は、(111)A面から傾斜した傾斜面とされていることを特徴とする標準試料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の標準試料において、
前記基板の主表面と前記側面とにより形成される前記凹部のエッジ部は、
前記側面のステップによる段差を備えることを特徴とする標準試料。
【請求項5】
走査型プローブ顕微鏡を含むナノメータサイズの観察が可能な顕微鏡の評価に用いる標準試料の作製方法であって、
結晶から構成されて、主表面が(110)とされた基板の上に、平面視で直線部を有する開口を備えたマスクパターンを形成する第1工程と、
前記マスクパターンをマスクとして、結晶異方性を有するエッチング処理により前記基板をエッチングし、前記基板の主表面から前記基板の内部にかけて凹部を形成する第2工程と
を備え、
前記凹部は、前記基板の主表面に対して垂直とされた1つの平面を形成する側面を備え、
前記側面は、ファセット面とされ、(111)面から傾斜した傾斜面とされている
ことを特徴とする標準試料の作製方法。
【請求項6】
請求項5記載の標準試料の作製方法において、
前記基板は、シリコンの単結晶から構成されていることを特徴とする標準試料の作製方法。
【請求項7】
請求項5記載の標準試料の作製方法において、
前記基板は、GaAsまたはInPの結晶から構成され、前記側面は、(111)A面から傾斜した傾斜面とされていることを特徴とする標準試料の作製方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の標準試料の作製方法において、
前記基板の主表面と前記側面とにより形成される前記凹部のエッジ部は、
前記側面のステップによる段差を備えることを特徴とする標準試料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡などの評価に用いる標準試料およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IEEEが2017年に策定したロードマップIRDS(International Roadmap for Device and System)中で、半導体の微細化は、2021年までにロジックデバイス中のパターン寸法は、ハーフピッチ12nm、ラインエッジラフネス(Line Edge Roughness:LER)は2nm未満という目標が明記され、目標に向けたパターンの作製方法や検査方法が議論されている。なお、LERは、リソグラフィー技術でマスクとして用いられるレジストパターンのエッジの凹凸を示す。
【0003】
LERの評価方法としては、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)などのナノメータサイズの観察が可能な(ナノメータサイズの分解能を有する)顕微鏡による測定がある。この種の測定において、SEMなどの計測装置から出力される画像を用いてラフネスを高精度に計測するために、画像信号に含まれるノイズを除去している(特許文献1参照)。この技術では、画像信号に含まれるノイズを除去するために、予めLERが制御された標準試料が用いられている。
【0004】
また、AFMなどの測定技術では、分解能や誤差を保証するために、最小構造の大きさが100nm以下の標準試料を用いてナノメートルサイズの探針による測定を実施し、得られた画像データから分解能を求めている(特許文献2参照)。ただし、この標準試料は、寸法が決定されているが、パターンエッジの形状が不確定である。
【0005】
一方、現在用いられている標準試料としては、米国NIST(the National Institute of Standards and Technology)が準備している標準試料がある。この標準試料では、最小サイズで130nmのナノワイヤである。
【0006】
また国内では、国立研究開発法人産業技術総合研究所が、タングステンドットアレイにより長さ方向の認証を実施している。しかしながら、この標準試料の大きさは、最小119nmであり、現在問題となっている数nmオーダーの凹凸を評価するためには不十分である。
【0007】
さらに、国立研究開発法人産業技術総合研究所は、10nm以上の構造については認証を実施しているが、1nmオーダーの寸法の形状について、どのようにして正確に測るかについては技術がまだ定まっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-078578号公報
【文献】特開2007-078679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した標準試料は、例えば、成膜技術、リソグラフィー技術、エッチング技術などの半導体装置の製造技術を用いることで作製することが考えられる。しかしながら、これらの製造方法で形成した周期的なパターンでは、パターンのエッジ部にナノメートルサイズのLERが発生し、ナノメートルサイズの欠陥との差を見分けることが困難であるため標準試料として十分ではない。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、1nmオーダーのラインエッジラフネスの評価が可能な標準試料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る標準試料は、走査型プローブ顕微鏡を含むナノメータサイズの観察が可能な顕微鏡の評価に用いる標準試料であって、結晶から構成されて、主表面が(110)とされた基板と、基板の主表面から基板の内部にかけて形成された凹部とを備え、凹部は、基板の主表面に対して垂直とされた1つの平面を形成する側面を備え、側面は、ファセット面とされ、(111)面から傾斜した傾斜面とされている。
【0012】
また、本発明に係る標準試料の作製方法は、走査型プローブ顕微鏡を含むナノメータサイズの観察が可能な顕微鏡の評価に用いる標準試料の作製方法であって、結晶から構成されて、主表面が(110)とされた基板の上に、平面視で直線部を有する開口を備えたマスクパターンを形成する第1工程と、マスクパターンをマスクとして、結晶異方性を有するエッチング処理により基板をエッチングし、基板の主表面から基板の内部にかけて凹部を形成する第2工程とを備え、凹部は、基板の主表面に対して垂直とされた1つの平面を形成する側面を備え、側面は、ファセット面とされ、(111)面から傾斜した傾斜面とされている。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ファセット面とされ、(111)面から傾斜した傾斜面とされている側面を備える凹部を、主表面が(110)とされた基板に形成するので、1nmオーダーのラインエッジラフネスの評価が可能な標準試料が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1Aは、本発明の実施の形態に係る標準試料の作製方法を説明するための途中工程の標準試料の状態を示す断面図である。
図1B図1Bは、本発明の実施の形態に係る標準試料の作製方法を説明するための途中工程の標準試料の状態を示す平面図である。
図1C図1Cは、本発明の実施の形態に係る標準試料の作製方法を説明するための途中工程の標準試料の状態を示す断面図である。
図1D図1Dは、本発明の実施の形態に係る標準試料の作製方法を説明するための途中工程の標準試料の状態を示す断面図である。
図1E図1Eは、本発明の実施の形態に係る標準試料の作製方法を説明するための途中工程の標準試料の状態を示す平面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る標準試料の一部構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る標準試料の作製方法について図1A図1Eを参照して説明する。この作製方法は、走査型プローブ顕微鏡を含むナノメータサイズの観察が可能な(ナノメータサイズの分解能を有する)顕微鏡の評価に用いる標準試料の作製方法である。
【0016】
まず、図1A図1Bに示すように、結晶から構成されて、主表面が(110)とされた基板101の上に、マスクパターン102を形成する(第1工程)。マスクパターン102は、平面視で直線部を有する開口103を備える。基板101は、例えば、シリコンの単結晶から構成されている。基板101は、GaAsまたはInPの結晶から構成することもできる。開口103は、例えば、平面視で長方形とされている。例えば、平面視で長方形の長手方向の辺の側面103aが、単結晶シリコンから構成された基板101の、(111)面から1°傾斜したファセット面に平行な面となるように、開口103を形成する。例えば、上述した長方形の長手方向を、<111>方向より1°回転する方向に延在する状態とすることで、側面103aを、(111)面から1°傾斜したファセット面に平行な面とすることができる。
【0017】
また、開口103は、複数形成されている。マスクパターン102は、例えば、複数の開口103をスペースパターンとした、ラインアンドスペースパターンと呼ばれるものである。例えば、ライン幅200nm、スペース幅200nmとすることができる。例えば、公知のリソグラフィー技術により、マスクパターン102を形成することができる。
【0018】
次に、図1Cに示すように、マスクパターン102をマスクとして、結晶異方性を有するエッチング処理により基板101をエッチングし、基板101の主表面から基板101の内部にかけて凹部104を形成する(第2工程)。例えば、単結晶シリコンから構成した基板101は、アルカリ溶液をエッチング液としたウエットエッチングにより、結晶異方性を有するエッチング処理ができる。よく知られているように、アルカリ溶液で、単結晶シリコンをエッチングすると、(111)面が、(100)面や(110)面などの他の面に比較して、エッチングレートが1/1000以下であり、ほとんどエッチングされない。
【0019】
このため、マスクパターン102をマスクとしてアルカリ溶液でエッチングすると、開口103の底面に露出する基板101の(100)面は、エッチングされ、基板101の厚さ方向にエッチングが進行する。これに対し、このエッチングの進行に伴い形成される、開口103の側面103aに平行な凹部104の側面105は、ほぼ(111)面であり、エッチングがほとんど進行しない。この結果、凹部104の長手方向に垂直な断面の形状は、長方形となる。なお、マスクパターン102の開口103は、平面視で長方形とされているので、凹部104の開口は、平面視で長方形となり、凹部104は、例えば、直方体状に形成される。
【0020】
なお、上述したアルカリ溶液のエッチングでは、アルカリ溶液としては、例えば、濃度33wt%の水酸化カリウムの水溶液を用い、エッチング処理を、例えば、5分間程度実施する。このように、凹部104を形成した後、マスクパターン102を除去すれば、図1D図1Eに示すように、基板101に凹部104が形成された標準試料が得られる。この標準試料における凹部104は、基板101の主表面に対して垂直とされた1つの平面を形成する側面105を備え、側面105は、ファセット面とされ、(111)面から傾斜した(例えば1°傾斜した)傾斜面とされたものとなる。
【0021】
上述したように、異方性エッチングにより形成された側面105は、単結晶シリコンの(111)面から傾斜させたファセット面としている。このため、基板101の主表面と側面105とにより形成される凹部104のエッジ部は、図2に示すように、側面105のステップ(原子ステップ)106による段差を備えるものとなる。側面105を(111)面から1°傾斜させると、上述した段差は、2nm程度となり、120nm毎に、規則正しく発生する。従って、基板101の主表面と側面105とにより形成される凹部104のエッジ部には、nmオーダーの周期的な段差構造が形成されるものとなる。この標準試料は、AFMなどの走査型プローブ顕微鏡や、測長SEM(Critical Dimension-Scanning Electron Microscope:CD-SEM)などの電子顕微鏡の校正に用いることができる。
【0022】
なお、ステップ106による段差の大きさは、(111)面からの傾斜の角度により変化する。(111)面からの傾斜の角度が大きくなれば、ステップ106による段差も大きくなる。従って、(111)面からの傾斜の角度は、所望とする段差の大きさに適合させたものとすることができる。
【0023】
ところで、上述では、基板101を、シリコンの単結晶から構成した場合を例に説明したが、これに限るものではない。基板101は、InPまたはGaAsの結晶から構成することもできる。この場合、側面105は、(111)A面から傾斜した傾斜面とすることができる。
【0024】
例えば、基板101をInPから構成する場合、臭素と臭化水素酸との水溶液や塩酸とリン酸との水溶液をエッチング液として用いることができる。このウエットエッチングでは、InPの(111)A面が他の結晶面に比較してエッチングされ難いので、上述同様の結晶異方性を有するエッチング処理ができ、マスクパターン102を用いて凹部104が形成できる。
【0025】
また、基板101をGaAsから構成する場合、アンモニア水溶液と過酸化水素水の混合液をエッチング液として用いることができる。このウエットエッチングでも、GaAsの(111)A面が他の結晶面に比較してエッチングされ難いので、上述同様の結晶異方性を有するエッチング処理ができ、マスクパターン102を用いて凹部104が形成できる。
【0026】
以上に説明したように、本発明によれば、ファセット面とされ、(111)面から傾斜した傾斜面とされている側面を備える凹部を、主表面が(110)とされた基板に形成するので、1nmオーダーのラインエッジラフネスの評価が可能な標準試料が提供できる。
【0027】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0028】
101…基板、102…マスクパターン、103…開口、103a…側面、104…凹部、105…側面、106…ステップ(原子ステップ)。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2