IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-物理量計測装置 図1
  • 特許-物理量計測装置 図2
  • 特許-物理量計測装置 図3
  • 特許-物理量計測装置 図4
  • 特許-物理量計測装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】物理量計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/66 20220101AFI20231127BHJP
   G01F 1/667 20220101ALI20231127BHJP
   G01N 29/024 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
G01F1/66 101
G01F1/667 A
G01N29/024
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020128811
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022025751
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真人
(72)【発明者】
【氏名】名和 基之
(72)【発明者】
【氏名】三好 麻子
(72)【発明者】
【氏名】松田 正誉
(72)【発明者】
【氏名】中林 裕治
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-240159(JP,A)
【文献】特開2004-144563(JP,A)
【文献】特開2004-347374(JP,A)
【文献】特開2006-162286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/66-1/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測流体が流れる矩形断面の主流路と、
前記主流路を多層に分割する仕切板が配置された多層部と、
前記多層部に配置した一対の超音波送受波器と、
前記多層部の上流側に設けた上流開口部と、
前記多層部の下流側に設けた下流開口部と、
前記多層部の外方向に設けられ前記上流開口部と前記下流開口部とを接続する副流路と、
前記被計測流体の温度を検知する温度センサと、
前記一対の超音波送受波器からの信号と前記温度センサからの信号を受けて流体の流量と成分濃度を計測する信号処理部とを備え、
前記副流路は、前記主流路に対して重力方向下側になる位置に配置し、前記上流開口部は前記多層部の上流端近傍に配置し、前記下流開口部は前記多層部の下流端近傍に配置するとともに、
前記一対の超音波送受波器は、前記多層部において流れの中に突出させて配置した物理量計測装置。
【請求項2】
前記仕切板は、前記一対の超音波送受波器との間に隙間を設けた切欠き部を有する、
請求項1に記載の物理量計測装置。
【請求項3】
前記副流路の前記上流開口部は、前記仕切板の上流端に衝突して滴下した水分が流入できる位置にある、
請求項2に記載の物理量計測装置。
【請求項4】
前記主流路および前記副流路は、下流側が重力方向で下方になるよう傾斜して設置されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の物理量計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を含んだ流体から水滴の影響を除去して、流体の流量あるいは流体に含まれる成分の濃度を計測するための物理量計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体に含まれる水滴の影響を受けることなく、流体の流量および流体に含まれる成分の濃度計測を行うことが必要とされる用途がある。
【0003】
従来、流体の流量を測定する計測装置として、測定流路を複数に分割し、流れの二次元性の向上により計測精度を向上したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図5は、特許文献1に記載された超音波流量計の断面図を示したものである。
【0005】
この超音波流量計では、計測流路101は複数の仕切板102で多層に分割して多層流路103を形成し、この多層流路103の上流側と下流側にチャンバ部104を設けるとともに、このチャンバ部104を介して一対の超音波送受波器105を対向させて配置している。
【0006】
この多層流路103において、超音波を伝搬させて流速を計測し、流量計測を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-43015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の構成では、水滴が混入した流体では多層部に水滴がそのまま混入し、超音波の伝搬が阻害されて超音波による計測精度が保証できず、また、溜まった水滴を排出できず、装置が使用できなくなるという課題がある。また、計測流路の上流・下流に大きな空間容積を占めるチャンバ構成のため、計測装置が大きくなり小型コンパクト化ができないという課題がある。
【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、気相の流体中に水滴が含まれていても、流体の流量や流体に含まれる成分の濃度を計測できる物理量計測装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決するために、本発明の物理量計測装置は、被計測流体が流れる矩形断面の主流路と、前記主流路を多層に分割する仕切板が配置された多層部と、前記多層部に配置した一対の超音波送受波器と、前記多層部の上流側に設けた上流開口部と、前記多層部の下流側に設けた下流開口部と、前記多層部の外方向に設けられ前記上流開口部と前記下流開口部とを接続する副流路と、前記被計測流体の温度を検知する温度センサと、前記一対の超音波送受波器からの信号と前記温度センサからの信号を受けて流体の流量と成分濃度を計測する信号処理部とを備え、前記副流路は、前記主流路に対して重力方向下側になる位置に配置し、前記上流開口部は前記多層部の上流端近傍に配置し、前記下流開口部は前記多層部の下流端近傍に配置するとともに、前記一対の超音波送受波器は、前記多層部において流れの中に突出させて配置した構成とすることで、超音波が伝搬する多層部への水滴の侵入抑制と、超音波送受波器への水滴の付着抑制を図る。これにより超音波伝搬路における超音波の送受信特性の劣化を防止し、流体の流量や流体に含まれる成分の濃度を計測することができる
【発明の効果】
【0011】
本発明の物理量計測装置は、多層部で構成される主流路の外方に設けられた副流路を、この主流路に対して重力方向下側になる位置に配置し、また、超音波送受波器は多層部において流れの中に突出させて配置することで、超音波伝搬路への水滴の侵入抑制と超音波送受波器への水滴の付着抑制により、流入する被計測流体に水滴が含まれていても、流体流量や被計測流体に含まれる成分の濃度の計測をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態1における物理量計測装置の構成断面図
図2】本発明の実施の形態1における図1のA-A断面の平面図
図3】本発明の実施の形態1における図1のB-B断面での流路部の横断面図
図4】本発明の実施の形態1における副流路の入口側を示すC部拡大図
図5】従来の超音波流量計の構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の発明は、被計測流体が流れる矩形断面の主流路と、前記主流路を多層に分割する仕切板が配置された多層部と、前記多層部に配置した一対の超音波送受波器と、前記多層部の上流側に設けた上流開口部と、前記多層部の下流側に設けた下流開口部と、前記多層部の外方向に設けられ前記上流開口部と前記下流開口部とを接続する副流路と、前記被計測流体の温度を検知する温度センサと、一対の前記超音波送受波器からの信号と前記温度センサからの信号を受けて流体の流量と成分濃度を計測する信号処理部とを備え、前記副流路は、前記主流路に対して重力方向下側になる位置に配置し、前記上流開口部は前記多層部の上流端近傍に配置し、前記下流開口部は前記多層部の下流端近傍に配置するとともに、前記超音波送受波器は、前記多層部において流れの中に突出させて配置した物理量計測装置で、超音波が伝搬する多層部への水滴の侵入抑制と、超音波送受波器への水滴の付着抑制を図る。これにより超音波伝搬路における超音波の送受信特性の劣化を防止し、流入する流れに水滴が含まれていても、流体の流量や流体に含まれる成分の濃度を計測することができる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0015】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1について、図1図4を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態1における物理量計測装置の構成断面図であり、図2図1のA-A断面を示す平面図である。図3は、図1のB-B断面での流路部の横断面図であり、図4は、図1における副流路の入口側を示すC部拡大図である。なお、図1の断面図は、副流路の構造を分かりやすくするため、図3のD―D断面図となっている。
【0018】
図1において、物理量計測装置20は、被計測流体が流入する入口4および被計測流体が流出する出口5を備える。流量及び成分濃度の計測が行われる主流路1は、図3に示すように、その断面が長辺を幅W、短辺を高さHで示す矩形断面の流路を、ほぼ水平方向に配置した複数の仕切板2により多層に分割して多層部3を形成する構成としている。なお、本実施の形態では、5つの仕切板2によって、6つの層に分割している。
【0019】
これにより、各層の断面のアスペクト比を大きくし、二次元流れを実現する流路としている。図2に示すように、この多層部3には、多層の流れを斜めによぎる方向に一対の超音波送受波器6、7を、多層部3の積層方向のほぼ中央において、互いに対向させて配置し、超音波伝搬路を形成している。
【0020】
また、上流側の超音波送受波器6および下流側の超音波送受波器7は多層部3内に流れの中に突出するように配置している。超音波送受波器6、7を流れに突出させるため、仕切板2には切欠き部8を設けて超音波送受波器6、7が当接しないようにしている。しかも、この切欠き部8において、超音波送受波器6、7の超音波の送受波部である先端と仕切板2との隙間Lは、被計測流体中の水滴が集積して表面張力によって張り付いた場合、超音波送受波器6、7の先端に滞留しないように、あるいは滴下するように寸法を設定している。
【0021】
図1において、複数の仕切板2により形成した多層部3の上流端近傍の下側に上流開口部9を設け、多層部3の下流端近傍の下側に下流開口部10を設けるとともに、この上流開口部9と下流開口部10とを接続する副流路11が主流路1に対して重力方向下側(図1での下方向)になるように配置している。
【0022】
この副流路11は、多層部3の幅W方向に延びる幅W、隙間Gのスリット状の上流開口部9(詳細を図4に示す)、と、斜め下方に延びる上流傾斜路12と、底部に設けた水路13と、斜め上方に延びる下流傾斜路14と、上流側と同様、多層部3の幅W方向に延びる幅W、隙間G(図示せず)のスリット状の下流開口部10と、を順次接続した流路で構成している。なお、上流傾斜路12と下流開口部10は、共に幅W、隙間Gで水路13に至り、水路13は、図3に示すように、幅W方向の両端に2つ配置され、共に幅W1,高さFの矩形断面であり、流路高さFは、想定される量の水が流入しても水が滞留することなく流動できる寸法に設定している。
【0023】
このように主流路1の重力方向下側に副流路11を併設している。また、使用状態において、主流路1および副流路11は、下流側が下方になるように全体を僅かに傾斜させて設置している。
【0024】
また、図2に示すように、主流路1の上流側および下流側には一対の温度センサ15を設け、その位置は、計測を行う多層流路の流れに影響を及ぼさない位置としている。また、2つの温度センサ15で計測された温度を平均化することにより超音波伝搬路の被計測流体の温度が算出できるようにその位置を設定している。更に、超音波伝搬路と同じ層の流体の圧力を計測するために、圧力センサ16を多層部3の中央の複数の層にまたがるように設けている。
【0025】
図1において、上記に示した一対の超音波送受波器6、7と、温度センサ15と、圧力センサ16は信号処理部17と電気的に接続され(図示せず)、この信号処理部17はこの一対の超音波送受波器6、7からの信号と温度センサ15および圧力センサ16からの信号を受けて被計測流体の流速や流量を計測し、さらに、被計測流体の成分濃度を計測する。この信号処理部17で計測処理した結果などは表示部18で表示する。
【0026】
次に、本発明の物理量計測装置の動作について説明する。
【0027】
図1において、主流路1を流れる水滴を含んだ気体である被計測流体は、入口4から白抜き矢印Eで示す方向で流入し、水滴の一部は、重力により下方に滴下する。次に、主流路1に設けた多層部3の仕切板2の上流端2aに衝突した水滴の一部は、下方へ滴下する。重力により滴下した水滴および仕切板2の上流端2aに衝突し滴下した水滴は、多層部3の上流端2a近傍に開口したスリット状の上流開口部9から副流路11に流入する。
【0028】
この上流開口部9から副流路11に流入した水滴は、テーパ状に傾斜した上流傾斜路12を経て底部に設けた水路13に流入する。水路13は、図3に示したように流路高さFを適切な寸法に設定しているので、水滴の滞留防止とともに、流動性が高められている。水路13内を流れる水滴は、下流開口部10において斜め上方に延びる下流傾斜路14を経て、スリット状の下流開口部10より流出し、主流路1の流れに合流して出口5から流出する。
【0029】
物理量計測装置20は、主流路1及び副流路11の水路13が下流に向かって斜めに傾斜するように設置している。従って、この副流路11内の流れは、副流路11の水路13が、下流に向かって下方に傾斜していることによる重力の作用と、多層部3より流出する流れの誘引作用とによって生じるものである。
【0030】
このようにして、多層部3への水滴の侵入は抑制されるが、多層部3の仕切板2の上流端部で滴下しなかった水滴の一部が存在しうる。これら仕切板2に付着し、仕切板2の表面上を下流側へと流れ去り、超音波伝搬に直接悪影響を与えることは無い。
【0031】
また、被計測流体中の微細な水滴が、多層部3の層内に流れ込むが、超音波送受波器6、7は、いずれも、流路内に突出しているため、この微細な水滴は、超音波送受波器6、7の側面に衝突付着するのみで、超音波の送受信に影響する超音波送受波器6,7の表面に付着することは無い。
【0032】
このようにして、多層部3においては、大きな水滴を生じることがなく、また、微細な水滴の影響を受けることもなく超音波送受波器6,7間の超音波伝搬信号の送受信が保証されるものである。
【0033】
その一方で、温度センサ15は、主流路1の上流側および下流側で多層部3を避けた位置に一対設けているので、この2つの温度センサ15で計測された温度を平均化することにより、超音波伝搬路における被計測流体の正確な温度を計測することができる。
【0034】
また、圧力センサ16は、超音波伝搬路と同じ層の被計測流体の圧力を計測するために、図1に示すように受圧面が多層部3の中央の複数の層にまたがるように設けているため、正確な圧力を計測することができる。
【0035】
このようにして得られた、一対の超音波送受波器6、7による、送受信の伝搬時間を用いて、公知の伝搬時間逆数差法により、流速、流量が求められる。
【0036】
また、送受信の伝搬時間を用いて得られる音速、および温度センサ15の測定値を基に、公知の方法を用いて、被計測流体に含まれる成分の濃度を求めることができる。
【0037】
圧力センサ16により計測された圧力の値は、成分の濃度を求めるに際して、標準状態への換算が必要とされる場合の補正用に用いられる。
【0038】
以上のように、本実施の形態によると、副流路11により超音波が伝搬する多層部3への水滴の侵入を抑制することができ、また、超音波送受波器6、7を主流路内に突出して配置したことにより超音波送受波器6、7の送受波面への水滴の付着を抑制することができるので、物理量計測装置に流入する被計測流体に水滴が含まれていても、被計測流体の流量や被計測流体に含まれる成分の濃度の計測を行うことができる。
【0039】
なお、本発明の実施の形態において、多層部3は仕切板2をほぼ水平に設置する場合を示したが、仕切板を垂直に設置しても良く、この場合、衝突により生じた水滴の一部に関して、仕切板を伝って滴下し易くすることができる。
【0040】
また、上流側および下流側に一対の温度センサ15を設ける場合を示したが、流体の温度勾配が少ない場合などでは1個の温度センサでも良く、その場合は、低コスト化が、可能となる。
【0041】
また、圧力センサ16は、その受圧面が多層部3の中央の複数の層に対して対向するように仕切板2に水平方向(即ち、図3の左右方向)に配置する場合を示したが、多層部3の最外層側で仕切板2に垂直方向(即ち、図3の上下方向)に配置しても良く、特に、信号処理部17側(即ち、図3の上方向)に配置する場合には、信号処理部17を構成する制御基板部への一体配置や接続配線の簡略化など構成のコンパクト化および低コスト化が可能となる。
【0042】
また、成分の濃度計測に関しては、超音波以外のサーマルセンサ、水素センサによる成分の濃度計測も可能である。
【0043】
また、被計測流体への水滴の混入を事例として説明したが、水滴のみならず、水以外の液滴についても同様の効果が期待されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明の物理量計測装置は、副流路に流体中の水滴を流入させ、主流路での水滴を抑制する構成の計測装置を提供できるもので、流量計と成分計測の両方を有するだけでなく、流量計だけの装置でも、あるいは成分計測だけの装置でも適用が可能となり、汎用性の高い物理量計測装置を実現できる。
【符号の説明】
【0045】
1 主流路
2 仕切板
3 多層部
6、7 超音波送受波器
9 上流開口部
10 下流開口部
11 副流路
15 温度センサ
17 信号処理部
20 物理量計測装置
図1
図2
図3
図4
図5