(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】電動工具、カムアウト検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20231127BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20231127BHJP
B25B 23/14 20060101ALI20231127BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
B25B21/00 510C
B25B21/00 530Z
B25B21/02 Z
B25B23/14 640M
B25F5/00 A
B25F5/00 C
(21)【出願番号】P 2019207502
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 尊大
(72)【発明者】
【氏名】中原 雅之
(72)【発明者】
【氏名】草川 隆司
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/230141(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230140(WO,A1)
【文献】特開平10-328952(JP,A)
【文献】特許第5483086(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00
B25B 21/02
B25B 23/14
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータをベクトル制御する制御部と、
先端工具と連結される出力軸と、
前記モータの動力を前記出力軸に伝達する伝達機構と、
前記モータの動作中に前記先端工具と前記先端工具による作業対象のねじとの嵌合が解除される現象であるカムアウト又は前記カムアウトの予兆を、前記モータに供給される励磁電流の
正のピーク値に基づいて検知するカムアウト検知部と、を備え
、
前記カムアウト検知部は、前記カムアウトと前記カムアウトの予兆とを区別せずに検知し、
前記カムアウト検知部は、所定の判定時間において前記正のピーク値がカムアウト閾値を上回った回数が所定回数以上であること、又は、前記所定の判定時間内における前記正のピーク値のばらつきが所定値を超えることをもって、前記カムアウトが生じた、又は、前記カムアウトの予兆が有ると判定する、
電動工具。
【請求項2】
前記制御部は、前記カムアウト検知部が前記カムアウト又は前記カムアウトの予兆を検知すると前記モータの回転数を低下させる又は前記モータを停止させるカムアウト応答機能を有する、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記制御部は、互いに切替え可能な動作モードとして、前記カムアウト応答機能を有効にする第1のモードと、前記カムアウト応答機能を無効にする第2のモードと、を有する、
請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記カムアウト検知部が前記カムアウト又は前記カムアウトの予兆を検知すると通知を行う通知部を備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記伝達機構は、前記出力軸に加えられるトルクの大きさに応じて前記出力軸に打撃力を加える打撃動作を行うインパクト機構を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項6】
モータと、
前記モータをベクトル制御する制御部と、
先端工具と連結される出力軸と、
前記モータの動力を前記出力軸に伝達する伝達機構と、を備える電動工具を対象として実行されるカムアウト検知方法であって、
前記カムアウト検知方法は、カムアウト検知部が、
前記モータの動作中に前記先端工具と前記先端工具による作業対象のねじとの嵌合が解除される現象であるカムアウト又は前記カムアウトの予兆を、前記モータに供給される励磁電流の正のピーク値に基づいて検知し、
前記カムアウトと前記カムアウトの予兆とを区別せずに検知し、
所定の判定時間において前記正のピーク値がカムアウト閾値を上回った回数が所定回数以上であること、又は、前記所定の判定時間内における前記正のピーク値のばらつきが所定値を超えることをもって、前記カムアウトが生じた、又は、前記カムアウトの予兆が有ると判定する、
カムアウト検知方法。
【請求項7】
請求項6に記載のカムアウト検知方法を、1以上のプロセッサに実行させるための、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具、カムアウト検知方法及びプログラムに関し、より詳細には、ベクトル制御されるモータを備える電動工具、この電動工具を対象として実行されるカムアウト検知方法、及び、このカムアウト検知方法を実行するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のインパクト工具(電動工具)は、モータと、駆動軸と、出力軸と、ソケット(先端工具)と、を有する。モータの回転は駆動軸を介して出力軸に伝達される。出力軸は、ソケットに連結される。ソケットは、被締め付け部材であるボルト(ねじ)の頭部やナットと嵌合する角孔を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のインパクト工具等の電動工具において、電動工具の動作中にソケット等の先端工具がボルト等のねじから外れる現象であるカムアウトが起きることがある。
【0005】
本開示は、カムアウト又はカムアウトの予兆を検知することができる電動工具、カムアウト検知方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動工具は、モータと、制御部と、出力軸と、伝達機構と、カムアウト検知部と、を備える。前記制御部は、前記モータをベクトル制御する。前記出力軸は、先端工具と連結される。前記伝達機構は、前記モータの動力を前記出力軸に伝達する。前記カムアウト検知部は、カムアウト又は前記カムアウトの予兆を、前記モータに供給される励磁電流の正のピーク値に基づいて検知する。前記カムアウトは、前記モータの動作中に前記先端工具と前記先端工具による作業対象のねじとの嵌合が解除される現象である。前記カムアウト検知部は、前記カムアウトと前記カムアウトの予兆とを区別せずに検知する。前記カムアウト検知部は、所定の判定時間において前記正のピーク値がカムアウト閾値を上回った回数が所定回数以上であること、又は、前記所定の判定時間内における前記正のピーク値のばらつきが所定値を超えることをもって、前記カムアウトが生じた、又は、前記カムアウトの予兆が有ると判定する。
【0007】
本開示の一態様に係るカムアウト検知方法は、モータと、制御部と、出力軸と、伝達機構と、を備える電動工具を対象として実行されるカムアウト検知方法である。前記制御部は、前記モータをベクトル制御する。前記出力軸は、先端工具と連結される。前記伝達機構は、前記モータの動力を前記出力軸に伝達する。前記カムアウト検知方法は、カムアウト検知部が、カムアウト又は前記カムアウトの予兆を、前記モータに供給される励磁電流の正のピーク値に基づいて検知する。前記カムアウトは、前記モータの動作中に前記先端工具と前記先端工具による作業対象のねじとの嵌合が解除される現象である。前記カムアウト検知方法は、前記カムアウト検知部が、前記カムアウトと前記カムアウトの予兆とを区別せずに検知し、所定の判定時間において前記正のピーク値がカムアウト閾値を上回った回数が所定回数以上であること、又は、前記所定の判定時間内における前記正のピーク値のばらつきが所定値を超えることをもって、前記カムアウトが生じた、又は、前記カムアウトの予兆が有ると判定する。
【0008】
本開示の一態様に係るプログラムは、前記カムアウト検知方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、カムアウト又はカムアウトの予兆を検知することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電動工具のブロック図である。
【
図3】
図3は、同上の電動工具の制御部によるベクトル制御の説明図である。
【
図4】
図4は、同上の電動工具の作業対象であるねじの断面図である。
【
図5】
図5は、同上の電動工具の動作例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、同上の電動工具の別の動作例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、同上の電動工具におけるカムアウト検知方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に係る電動工具1について、図面を用いて説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の1つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0012】
(1)概要
本実施形態の電動工具1は、インパクト工具である。電動工具1(
図2参照)は、例えば、インパクトドライバ、ハンマドリル、インパクトドリル、インパクトドリルドライバ又はインパクトレンチとして用いられる。本実施形態では、代表例として、電動工具1がねじをねじ締めするためのインパクトドライバとして用いられる場合について説明する。
図1、
図2に示すように、電動工具1は、モータ15と、制御部4と、出力軸21と、伝達機構18と、カムアウト検知部54と、を備える。制御部4は、モータ15をベクトル制御する。出力軸21は、先端工具28と連結される。伝達機構18は、モータ15の動力を出力軸21に伝達する。カムアウト検知部54は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、モータ15に供給される励磁電流(電流測定値id1)の振幅に相関する物理量に基づいて検知する。カムアウトは、モータ15の動作中に先端工具28と先端工具28による作業対象のねじ(締付部材30)との嵌合が解除される現象である。
【0013】
本実施形態の電動工具1によれば、カムアウト又はカムアウトの予兆を検知することができる。そのため、カムアウト又はカムアウトの予兆の検知に応じた対処を、自動にて又は作業者の操作にて行うことができる。
【0014】
モータ15は、ブラシレスモータである。特に、本実施形態のモータ15は、同期電動機であり、より詳細には、永久磁石同期電動機(PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor))である。モータ15は、永久磁石131を有する回転子13と、コイル141を有する固定子14と、を含んでいる。回転子13は、回転動力を出力する回転軸16を有している。コイル141と永久磁石131との電磁的相互作用により、回転子13は、固定子14に対して回転する。
【0015】
ベクトル制御は、モータ15のコイル141に供給される電流を、磁束を発生する電流成分(励磁電流)とトルク(回転力)を発生する電流成分(トルク電流)とに分解し、それぞれの電流成分を独立に制御するモータ制御方式の一種である。
【0016】
電流測定値id1は、ベクトル制御と、カムアウト又はカムアウトの予兆の検知と、の両方に用いられる。そのため、ベクトル制御のための回路の一部とカムアウト又はカムアウトの予兆の検知のための回路の一部とを共有することができる。これにより、電動工具1に備えられる回路の面積及び寸法の低減、並びに、回路に要するコストの低減を図ることができる。
【0017】
(2)電動工具
図2に示すように、電動工具1は、電源部32と、モータ15と、モータ回転測定部27と、伝達機構18と、出力軸21と、ソケット23と、先端工具28と、を備えている。また、電動工具1は、トリガスイッチ29と、制御部4と、を備えている。制御部4は、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する打撃検知部49を有している。
【0018】
出力軸21は、モータ15から伝達機構18を介して伝達された駆動力により回転する部分である。ソケット23は、出力軸21に固定されている。ソケット23には、先端工具28が着脱自在に取り付けられる。先端工具28は、出力軸21と一緒に回転する。電動工具1は、モータ15の駆動力で出力軸21を回転させることで、先端工具28を回転させる。すなわち、電動工具1は、先端工具28をモータ15の駆動力で駆動する工具である。先端工具28(ビットとも言う)は、例えば、ドライバビット又はドリルビット等である。各種の先端工具28のうち用途に応じた先端工具28が、ソケット23に取り付けられて用いられる。なお、出力軸21に直接に先端工具28が装着されてもよい。
【0019】
なお、本実施形態の電動工具1はソケット23を備えることで、先端工具28を用途に応じて交換可能であるが、先端工具28が交換可能であることは必須ではない。例えば、電動工具1は、特定の先端工具28のみ用いることができる電動工具であってもよい。
【0020】
本実施形態の先端工具28は、締付部材30(ねじ)を締める又は緩めるためのドライバビットである。より詳細には、先端工具28は、先端部280が+(プラス)形に形成されたプラスドライバビットである。すなわち、出力軸21は、ねじを締める又は緩めるためのドライバビットを保持し、モータ15から動力を得て回転する。以下では、電動工具1によりねじを締める場合について説明する。ねじの種類は特に限定されず、例えば、ボルト、ビス又はナットであってよい。
図2に示すように、本実施形態の締付部材30は、木ねじである。締付部材30は、頭部301と、円筒部302と、ねじ部303と、を有している。円筒部302の第1端に、頭部301がつながっている。円筒部302の第2端に、ねじ部303がつながっている。頭部301には、先端工具28に適合するねじ穴310(
図4参照)が形成されている。ねじ穴310は、例えば、+形の穴である。ねじ部303には、ねじ山が形成されている。
【0021】
先端工具28は、締付部材30と嵌合する。すなわち、先端工具28は、締付部材30の頭部301のねじ穴310に挿入される。この状態で、先端工具28は、モータ15に駆動されて回転し、締付部材30を回転させる。これにより、締付部材30(木ねじ)は、ねじ締め対象の部材(例えば壁材)に穴とねじ溝とを形成しながら、ねじ締め対象の部材に埋め込まれる。すなわち、先端工具28は、締付部材30に締め付ける力(又は緩める力)を加える。
【0022】
本実施形態では、締付部材30のねじ穴310(
図4参照)に先端工具28の先端部280の少なくとも一部が挿入された状態を指して、先端工具28と締付部材30とが嵌合していると言う。また、モータ15の動作(回転)中に、先端工具28と締付部材30とが嵌合している状態から、先端工具28の先端部280がねじ穴310の外に出ることを指して、先端工具28と締付部材30との嵌合が解除される現象、すなわち、カムアウトが起きると言う。そして、先端部280がねじ穴310の中に有るときであって、これからカムアウトが起きることが予測されるとき、カムアウトの予兆が有ると言う。
【0023】
電源部32は、モータ15を駆動する電流を供給する。電源部32は、例えば、電池パックである。電源部32は、例えば、1又は複数の2次電池を含む。
【0024】
伝達機構18は、遊星歯車機構25と、駆動軸22と、インパクト機構17と、を有している。伝達機構18は、モータ15の回転軸16の回転動力を出力軸21に伝達する。より詳細には、伝達機構18は、モータ15の回転軸16の回転動力を調整して、出力軸21の回転として出力する。
【0025】
モータ15の回転軸16は、遊星歯車機構25に接続されている。駆動軸22は、遊星歯車機構25と、インパクト機構17と、に接続されている。遊星歯車機構25は、モータ15の回転軸16の回転動力を所定の減速比で減速して、駆動軸22の回転として出力する。
【0026】
インパクト機構17は、出力軸21と連結されている。インパクト機構17は、遊星歯車機構25及び駆動軸22を介して受け取ったモータ15(回転軸16)の回転動力を出力軸21に伝達する。また、インパクト機構17は、出力軸21に打撃力を加える打撃動作を行う。
【0027】
インパクト機構17は、ハンマ19と、アンビル20と、ばね24と、を備えている。ハンマ19は、駆動軸22にカム機構を介して取り付けられている。アンビル20はハンマ19に接触しており、ハンマ19と一体に回転する。ばね24は、ハンマ19をアンビル20側に押している。アンビル20は、出力軸21と一体に形成されている。なお、アンビル20は、出力軸21とは別体に形成されて出力軸21に固定されていてもよい。
【0028】
出力軸21に所定の大きさ以上の負荷(トルク)がかかっていない場合には、インパクト機構17は、モータ15の回転動力により出力軸21を連続的に回転させる。すなわち、この場合には、カム機構により連結された駆動軸22とハンマ19とが一体に回転し、さらにハンマ19とアンビル20とが一体に回転するので、アンビル20と一体に形成された出力軸21が回転する。
【0029】
一方で、出力軸21に所定の大きさ以上の負荷がかかった場合には、インパクト機構17は、打撃動作を行う。インパクト機構17は、打撃動作において、モータ15の回転動力をパルス状のトルクに変換して打撃力を発生する。すなわち、打撃動作では、ハンマ19は、駆動軸22との間のカム機構による規制を受けながら、ばね24に抗して後退する(つまり、アンビル20から離れる)。ハンマ19の後退によりハンマ19とアンビル20との結合が外れた時点で、ハンマ19は回転しながら前進して(つまり、出力軸21側へ移動して)アンビル20に回転方向の打撃力を加え、出力軸21を回転させる。つまり、インパクト機構17は、アンビル20を介して出力軸21に軸(出力軸21)周りの回転打撃を加える。インパクト機構17の打撃動作では、ハンマ19がアンビル20に回転方向の打撃力を加える動作が繰り返される。ハンマ19が前進と後退とを1回ずつ行う間に、打撃力が1回発生する。
【0030】
トリガスイッチ29は、モータ15の回転を制御するための操作を受け付ける操作部である。トリガスイッチ29を引く操作により、モータ15のオンオフを切替可能である。また、トリガスイッチ29を引く操作の引込み量で、モータ15の回転速度を調整可能である。その結果として、トリガスイッチ29を引く操作の引込み量で、出力軸21の回転速度を調整可能である。上記引込み量が大きいほど、モータ15及び出力軸21の回転速度が速くなる。制御部4は、トリガスイッチ29を引く操作の引込み量に応じて、モータ15及び出力軸21を回転又は停止させ、また、モータ15及び出力軸21の回転速度を制御する。この電動工具1では、先端工具28がソケット23を介して出力軸21に連結される。そして、トリガスイッチ29への操作によってモータ15及び出力軸21の回転速度が制御されることで、先端工具28の回転速度が制御される。
【0031】
モータ回転測定部27は、モータ15の回転角を測定する。モータ回転測定部27としては、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを採用することができる。
【0032】
電動工具1は、インバータ回路部51(
図1参照)を備えている。インバータ回路部51は、モータ15に電流を供給する。制御部4は、インバータ回路部51と共に用いられ、フィードバック制御によりモータ15の動作を制御する。
【0033】
(3)制御部
制御部4は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部4の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0034】
図1に示すように、制御部4は、指令値生成部41と、速度制御部42と、電流制御部43と、第1の座標変換器44と、第2の座標変換器45と、磁束制御部46と、推定部47と、脱調検出部48と、打撃検知部49と、カムアウト検知部54と、通知部55と、を有している。また、電動工具1は、複数(
図1では2つ)の電流センサ61、62を備えている。
【0035】
複数の電流センサ61、62はそれぞれ、例えば、ホール素子電流センサ又はシャント抵抗素子を含んでいる。複数の電流センサ61、62は、電源部32(
図2参照)からインバータ回路部51を介してモータ15に供給される電流を測定する。ここで、モータ15には、3相電流(U相電流、V相電流及びW相電流)が供給されており、複数の電流センサ61、62は、少なくとも2相の電流を測定する。
図1では、電流センサ61がU相電流を測定して電流測定値i
u1を出力し、電流センサ62がV相電流を測定して電流測定値i
v1を出力する。
【0036】
推定部47は、モータ回転測定部27で測定されたモータ15の回転角θ1を時間微分して、モータ15の角速度ω1(回転軸16の角速度)を算出する。
【0037】
取得部60は、2つの電流センサ61、62と、第2の座標変換器45と、を有している。取得部60は、モータ15に供給されるd軸電流(励磁電流)及びq軸電流(トルク電流)を取得する。すなわち、2つの電流センサ61、62で測定された2相の電流が第2の座標変換器45で変換されることで、d軸電流の電流測定値id1及びq軸電流の電流測定値iq1が算出される。
【0038】
第2の座標変換器45は、複数の電流センサ61、62で測定された電流測定値iu1、iv1を、モータ回転測定部27で測定されたモータ15の回転角θ1に基づいて座標変換し、電流測定値id1、iq1を算出する。すなわち、第2の座標変換器45は、3相電流に対応する電流測定値iu1、iv1を、磁界成分(d軸電流)に対応する電流測定値id1と、トルク成分(q軸電流)に対応する電流測定値iq1とに変換する。
【0039】
指令値生成部41は、モータ15の角速度の指令値cω1を生成する。指令値生成部41は、例えば、トリガスイッチ29(
図2参照)を引く操作の引込み量に応じた指令値cω1を生成する。すなわち、指令値生成部41は、上記引込み量が大きいほど、角速度の指令値cω1を大きくする。
【0040】
速度制御部42は、指令値生成部41で生成された指令値cω1と推定部47で算出された角速度ω1との差分に基づいて、指令値ciq1を生成する。指令値ciq1は、モータ15のトルク電流(q軸電流)の大きさを指定する指令値である。速度制御部42は、指令値cω1と角速度ω1との差分を小さくするように指令値ciq1を決定する。
【0041】
磁束制御部46は、推定部47で算出された角速度ω1と、電流制御部43で生成される指令値cvq1(後述する)と、電流測定値iq1と、に基づいて、指令値cid1を生成する。指令値cid1は、モータ15の励磁電流(d軸電流)の大きさを指定する指令値である。すなわち、制御部4は、モータ15のコイル141に供給される励磁電流(d軸電流)を指令値cid1に近づけるようにモータ15の動作を制御する。
【0042】
本実施形態では、磁束制御部46で生成される指令値cid1は、励磁電流の大きさを0にするための指令値である。ただし、磁束制御部46は、常時励磁電流の大きさを0にするための指令値cid1を生成してもよいし、必要に応じて、励磁電流の大きさを0よりも大きく又は小さくするための指令値cid1を生成してもよい。励磁電流の指令値cid1が0より小さくなると、モータ15にマイナスの励磁電流(弱め磁束電流)が流れる。
【0043】
電流制御部43は、磁束制御部46で生成された指令値cid1と第2の座標変換器45で算出された電流測定値id1との差分に基づいて、指令値cvd1を生成する。指令値cvd1は、モータ15のd軸電圧の大きさを指定する指令値である。電流制御部43は、指令値cid1と電流測定値id1との差分を小さくするように指令値cvd1を決定する。
【0044】
また、電流制御部43は、速度制御部42で生成された指令値ciq1と第2の座標変換器45で算出された電流測定値iq1との差分に基づいて、指令値cvq1を生成する。指令値cvq1は、モータ15のq軸電圧の大きさを指定する指令値である。電流制御部43は、指令値ciq1と電流測定値iq1との差分を小さくするように指令値cvq1を生成する。
【0045】
第1の座標変換器44は、指令値cvd1、cvq1を、モータ回転測定部27で測定されたモータ15の回転角θ1に基づいて座標変換し、指令値cvu1、cvv1、cvw1を算出する。すなわち、第1の座標変換器44は、磁界成分(d軸電圧)に対応する指令値cvd1と、トルク成分(q軸電圧)に対応する指令値cvq1とを、3相電圧に対応する指令値cvu1、cvv1、cvw1に変換する。指令値cvu1はU相電圧に、指令値cvv1はV相電圧に、指令値cvw1はW相電圧に対応する。
【0046】
制御部4は、インバータ回路部51をPWM(Pulse Width Modulation)制御することにより、モータ15に供給される電力を制御する。これにより、インバータ回路部51は、指令値cvu1、cvv1、cvw1に応じた3相電圧をモータ15に供給する。
【0047】
モータ15は、インバータ回路部51から供給された電力(3相電圧)により駆動され、回転動力を発生させる。
【0048】
この結果、制御部4は、モータ15のコイル141に流れる励磁電流が、磁束制御部46で生成された指令値cid1に対応した大きさとなるように励磁電流を制御する。また、制御部4は、モータ15の角速度が、指令値生成部41で生成された指令値cω1に対応した角速度となるようにモータ15の角速度を制御する。
【0049】
脱調検出部48は、第2の座標変換器45から取得した電流測定値id1、iq1と、電流制御部43から取得した指令値cvd1、cvq1と、に基づいて、モータ15の脱調を検出する。脱調が検出された場合は、脱調検出部48は、インバータ回路部51に停止信号cs1を送信して、インバータ回路部51からモータ15への電力供給を停止させる。
【0050】
打撃検知部49は、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。打撃検知部49についての詳細は後述する。
【0051】
(4)ベクトル制御の詳細
以下、制御部4によるベクトル制御について更に詳細に説明する。
図3は、ベクトル制御の解析モデル図である。
図3には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸が示されている。ベクトル制御では、モータ15の回転子13に設けられた永久磁石131が作る磁束の回転速度と同じ速度で回転する回転座標系が考慮される。回転座標系において、永久磁石131が作る実際の磁束の方向をd軸の方向とし、制御部4によるモータ15の制御に対応する座標軸であってd軸に対応する座標軸を、γ軸とする。また、d軸から電気角で90度進んだ位相にq軸を取り、γ軸から電気角で90度進んだ位相にδ軸を取る。
【0052】
dq軸は回転しており、その回転速度をωで表す。γδ軸も回転しており、その回転速度をω
eで表す。
図3のω
eは、
図1のω1と一致する。また、dq軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たd軸の角度(位相)をθで表す。同様に、γδ軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たγ軸の角度(位相)をθ
eで表す。
図3のθ
eは、
図1のθ1と一致する。θ及びθ
eにて表される角度は、電気角における角度であり、回転子位置又は磁極位置とも呼ばれる。ω及びω
eにて表される回転速度は、電気角における角速度である。
【0053】
θとθeとが一致しているとき、d軸及びq軸はそれぞれγ軸及びδ軸と一致する。ベクトル制御において、制御部4は、基本的に、θとθeとが一致するように制御を行う。そのため、d軸電流の指令値cid1が0の場合に、モータ15にかかる負荷が増加又は減少すると、制御部4は、これにより生じるθとθeとの差分を補償するように制御を行うので、d軸電流の電流測定値id1が正の値又は負の値となる。具体的には、モータ15にかかる負荷が小さくなった直後は、d軸電流の電流測定値id1は正の値となり、モータ15にかかる負荷が大きくなった瞬間は、電流測定値id1は負の値となる。
【0054】
(5)打撃検知
インパクト機構17は、出力軸21に加えられるトルクの大きさに応じて打撃動作を行う。打撃検知部49は、モータ15のコイル141に供給されるトルク電流及び励磁電流のうち少なくとも一方に基づいて、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。以下では、
図5、
図6を参照して、打撃検知部49による打撃動作の有無の検知方法の一例を説明する。ユーザが先端工具28を締付部材30に押し付ける力は、
図5の場合に、
図6の場合と比較して小さいため、
図5と
図6とで電動工具1の挙動が異なっている。
図5、
図6において、N1は、モータ15(回転子13)の回転数であり、cN1は、モータ15の回転数の指令値である。つまり、指令値cN1は、モータ15の角速度の指令値cω1を回転数に換算した値である。Bd1は、単位時間あたりのd軸電流の電流測定値id1の最大値(ピーク値)を、単位時間(例えば、数ミリ秒~数十ミリ秒)ごとにプロットした値である。Bd2は、単位時間あたりのd軸電流の電流測定値id1の最小値を、単位時間(例えば、数ミリ秒~数十ミリ秒)ごとにプロットした値である。ここでは、Bd1は正の値であり、Bd2は負の値である。以下では、Bd1を正のd軸電流測定値と称し、Bd2を負のd軸電流測定値と称す。
【0055】
正のd軸電流測定値Bd1及び負のd軸電流測定値Bd2は、d軸電流(励磁電流)の振幅に相関する物理量である。d軸電流の振幅に相関する物理量とは、d軸電流の振幅そのものと、d軸電流の振幅から算出される物理量と、を含む。
【0056】
ここでは、打撃検知部49は、電流測定値id1、iq1の両方に基づいて打撃動作の有無を検知する。より詳細には、電流測定値id1に関しては、打撃検知部49は、次の第1条件が満たされるか否かの判定を行う。第1条件は、電流測定値id1の振幅が所定のd軸閾値よりも大きいことである。電流測定値id1の振幅は、例えば、単位時間あたりの電流測定値id1の最大値と最小値との差分の1/2として定義される。つまり、電流測定値id1の振幅は、例えば、単位時間あたりの正のd軸電流測定値Bd1の最大値と負のd軸電流測定値Bd2の最小値との差分の1/2として定義される。打撃検知部49は、例えば、単位時間ごとに、第1条件が満たされるか否かを判定する。
図5に図示されている振幅A1は、ある時点t5から単位時間(例えば、数ミリ秒~数十ミリ秒)が経過するまでの間の各時点の電流測定値id1により定義される、電流測定値id1の振幅の2倍の値である。
【0057】
このように、打撃検知部49は、電流測定値id1(励磁電流)の振幅に基づいて打撃動作の有無を検知する。
【0058】
また、電流測定値iq1に関しては、打撃検知部49は、次の第2条件が満たされるか否かの判定を行う。第2条件は、所定時間(例えば、数十ミリ秒)あたりの電流測定値iq1の減少量が所定のq軸閾値よりも大きいことである。打撃検知部49は、例えば、上記所定時間ごとに、第2条件が満たされるか否かを判定する。
【0059】
このように、打撃検知部49は、所定時間あたりの電流測定値iq1(トルク電流)の減少量に基づいて打撃動作の有無を検知する。
【0060】
打撃検知部49は、例えば、第1条件及び第2条件のうち一方が満たされてから、他方が満たされるまでに要した時間が所定の時間閾値以下の場合に、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果を出力する。また、打撃検知部49は、それ以外の場合に、インパクト機構17が打撃動作をしていないという検知結果を出力する。
【0061】
つまり、モータ15にかかる負荷は時々刻々と増減し、打撃動作が開始することにより、モータ15にかかる負荷の増減量が大きくなるので、θとθeとの差分が大きくなり、励磁電流の電流測定値id1の振幅が大きくなる。また、打撃動作が開始することにより、モータ15にかかる負荷が増減を繰り返しながら減少するので、トルク電流の電流測定値iq1が減少する。打撃検知部49は、このような変化の有無を第1条件及び第2条件により判定することで、打撃動作の有無を検知する。
【0062】
d軸閾値及びq軸閾値等の閾値は、例えば、制御部4を構成するマイクロコントローラのメモリに予め記録されている。
【0063】
なお、打撃検知部49は、モータ15の始動時(回転開始時)から所定のマスク期間Tm1が経過した後に、インパクト機構17の打撃動作の有無の検知を開始する。そのため、マスク期間Tm1において打撃検知部49が打撃動作を誤検知することを抑制できる。
【0064】
図5では、時点t0にモータ15が動作を開始した後、時点t1に、インパクト機構17が打撃動作を開始する。時点t1から少し時間が経過してから、電流測定値id1の振幅が増加する。また、時点t1から時点t2まで、電流測定値iq1は、増減を繰り返しながら減少する。時点t1から時点t2までの間に、第2条件が1回又は2回満たされる。打撃検知部49は、時点t1と時点t2との間の少なくとも一部の期間において、第1条件及び第2条件に基づいて打撃動作を検知することができる。
【0065】
図6では、
図5と同様に、時点t0にモータ15が動作を開始した後、時点t1に、インパクト機構17が打撃動作を開始する。時点t1の後の時点t2に、打撃検知部49は、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果を出力する。
【0066】
図5、
図6では、時点t6に、締付部材30を締める作業が完了する。すなわち、時点t6に、締付部材30が着座する。そこで、時点t6に、ユーザがトリガスイッチ29を引き込む操作をやめる。これにより、指令値cN1が0[rpm]まで低下するので、回転数N1が0[rpm]となる。すなわち、モータ15が停止する。
【0067】
(6)カムアウトが起きるメカニズム
以下、
図4を参照して、カムアウトについて説明する。まず、電動工具1においてカムアウトが起きるメカニズムの第1例を説明する。モータ15の回転数N1が不安定である場合等に、ハンマ19は移動可能な範囲における前端まで前進し、その結果、先端工具28から締付部材30への押付力が瞬間的に増加することがある。その後、締付部材30から先端工具28への反作用により先端工具28が締付部材30から離れ、カムアウトが起きることがある。
【0068】
次に、電動工具1においてカムアウトが起きるメカニズムの第2例を説明する。締付部材30のねじ穴310(
図4参照)にはテーパ面311が設けられており、締付部材30の軸方向と交差する方向の力が先端工具28からテーパ面311に加わると、先端工具28は、テーパ面311に沿ってねじ穴310の外へ移動することがある。すなわち、カムアウトが起きることがある。例えば、締付部材30に対する先端工具28の向きが斜め向きであるために先端工具28から締付部材30に加わる力のうち締付部材30の軸方向と交差する方向の成分が比較的大きくなる場合等に、第2例のメカニズムでカムアウトが起きることがある。また、モータ15の回転数N1に対して先端工具28から締付部材30への押付力が不足している場合等に、第2例のメカニズムでカムアウトが起きることがある。
【0069】
第1例で説明したメカニズム、第2例で説明したメカニズム、又はそれらの両方が原因となって、カムアウトが起きることがある。
【0070】
(7)カムアウト又はその予兆の検知
次に、カムアウト検知部54がカムアウト又はその予兆を検知する過程の一例を、
図5、
図6を参照して説明する。
【0071】
カムアウト検知部54は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、モータ15に供給される励磁電流(電流測定値id1)の振幅に相関する物理量に基づいて検知する。ここで、カムアウト検知部54は、励磁電流の正のピーク値を、励磁電流の振幅に相関する物理量として用いる。つまり、カムアウト検知部54は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、正のd軸電流測定値Bd1に基づいて検知する。
【0072】
より詳細には、カムアウト検知部54は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、励磁電流の正のピーク値の変動に基づいて検知する。言い換えると、カムアウト検知部54は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、正のd軸電流測定値Bd1の変動に基づいて検知する。
【0073】
一例として、カムアウト検知部54は、カムアウト閾値Th1を設定し、カムアウト閾値Th1と正のd軸電流測定値Bd1とを比較することで、カムアウト又はカムアウトの予兆を検知する。より詳細には、カムアウト検知部54は、所定の判定時間において正のd軸電流測定値Bd1がカムアウト閾値Th1を上回った回数が所定回数以上であることをもって、カムアウトが生じた又はカムアウトの予兆が有ると判定する。
【0074】
ユーザが先端工具28を締付部材30に押し付ける力は、
図5の場合に、
図6の場合と比較して小さい。そのため、
図5では、先端工具28が締付部材30のねじ穴310の内面から離れやすい。言い換えると、
図5では、電動工具1は、カムアウトが生じやすい(カムアウトの予兆が有る)状態になっている。先端工具28がねじ穴310の内面から離れた瞬間は、モータ15にかかる負荷が小さくなるため、電流測定値id1は正の値となり大きくなる。すなわち、正のd軸電流測定値Bd1が大きくなる。そして、カムアウトの予兆が有る状態においては、先端工具28がねじ穴310の内面から離れる事象と内面に接する事象とを繰り返す可能性が高い。よって、カムアウト検知部54は、正のd軸電流測定値Bd1がカムアウト閾値Th1を上回った回数を監視することで、カムアウトの予兆を検知できる。
【0075】
また、カムアウトが生じる場合も同様に、カムアウトが起きる前に、正のd軸電流測定値Bd1が大きくなるので、カムアウト検知部54は、正のd軸電流測定値Bd1がカムアウト閾値Th1を上回った回数を監視することで、カムアウトを検知できる。
【0076】
本実施形態のカムアウト検知部54は、カムアウトとカムアウトの予兆とを区別せずに検知する。つまり、カムアウト検知部54がカムアウトを検知する条件とカムアウトの予兆を検知する条件とは同じであり、カムアウト検知部54は、電動工具1においてカムアウトが生じた場合とカムアウトの予兆が有る場合とで、同じ検知結果を出力する。
【0077】
判定時間は、例えば、200[ms]である。所定回数は、例えば、10回である。つまり、この例では、カムアウト検知部54は、200[ms]の間に正のd軸電流測定値Bd1がカムアウト閾値Th1を10回以上上回ると、カムアウトが生じた又はカムアウトの予兆が有ると判定する。
【0078】
図5では、時点t3から時点t4までの間の時間(判定時間)において、正のd軸電流測定値Bd1がカムアウト閾値Th1を上回った回数は、12回である。そのため、時点t4において、カムアウト検知部54は、カムアウトが生じた又はカムアウトの予兆が有ると判定する。
【0079】
図6では、
図5と比較して正のd軸電流測定値Bd1が小さい。
図6では、時点t0以降の任意の判定時間において、正のd軸電流測定値Bd1がカムアウト閾値Th1を上回った回数は、10回未満となる。そのため、カムアウト検知部54は、カムアウトが生じておらず、かつ、カムアウトの予兆が無いと判定する。
【0080】
ところで、カムアウト閾値Th1は、打撃検知部49が打撃動作を検知しているときと、していないときとで、異なる値であってもよい。打撃検知部49が打撃動作を検知しているときは、していないときよりも正のd軸電流測定値Bd1が大きくなる傾向がある。そのため、カムアウト閾値Th1は、打撃検知部49が打撃動作を検知しているとき、していないときよりも大きい値であってもよい。
【0081】
電動工具1の通知部55は、カムアウト検知部54がカムアウト又はカムアウトの予兆を検知すると通知を行う。通知部55は、例えば、発光ダイオード等の発光部を備えており、発光状態を変更することで、ユーザへ通知を行う。発光状態を変更するとは、例えば、点灯と消灯とを切り替えること、明るさを変更すること、及び、光の色を変更すること等である。あるいは、通知部55は、例えば、ブザー又はスピーカ等を備えており、音(音声を含む)によりユーザへ通知を行う。音声による通知とは、例えば、「電動工具をねじに強く押し付けてください。」というメッセージを発することである。あるいは、通知部55は、例えば、通信インタフェースを備えており、有線通信又は無線通信により信号を外部装置へ送信することにより、外部装置へ通知を行う。
【0082】
カムアウトの予兆が検知されたときに通知部55が通知を行うことで、ユーザがカムアウトの予兆を知ることができる。また、カムアウトが検知されたときに通知部55が通知を行うことで、ユーザが締付部材30を視認できない状況であっても、ユーザは、カムアウトが生じたことを知ることができる。
【0083】
(8)カムアウト応答機能
制御部4は、カムアウト応答機能を有する。カムアウト応答機能において、制御部4は、カムアウト検知部54がカムアウト又はカムアウトの予兆を検知するとモータ15の回転数N1を低下させる又はモータ15を停止させる。
【0084】
また、制御部4は、互いに切替え可能な動作モードとして、カムアウト応答機能を有効にする第1のモードと、カムアウト応答機能を無効にする第2のモードと、を有する。
図5、
図6は、制御部4の動作モードが第2のモードのときのグラフである。ただし、
図5の破線部cN2は、仮に制御部4の動作モードが第1のモードである場合の、時点t4以降の指令値cN1の変化を示している。
【0085】
制御部4の動作モードが第1のモードの場合に、
図5では、時点t4において、カムアウト検知部54は、カムアウト又はカムアウトの予兆を検知する。すると、制御部4は、モータ15の回転数N1を低下させる又はモータ15を停止させる。ここでは、制御部4がモータ15の回転数N1を低下させるとして説明する。すなわち、時点t4において、制御部4は、破線部cN2で示されるように、モータ15の回転数N1の指令値cN1を低下させる。これにより、回転数N1も低下する。制御部4は、例えば、カムアウト検知部54がカムアウト又はカムアウトの予兆を検知した時点以降には、トリガスイッチ29の引込み量に応じて指令値cN1を仮決定した後に、指令値cN1を低下させる。より具体的には、制御部4の指令値生成部41が、角速度の指令値cω1を低下させることで、実質的に回転数N1の指令値cN1を低下させる。
【0086】
なお、制御部4は、低下前の回転数N1に基づいて、低下後の回転数N1を決定してもよい。例えば、制御部4は、カムアウト検知部54がカムアウト又はカムアウトの予兆を検知すると、その時点における指令値cN1に0よりも大きく1よりも小さい所定の値(例えば、0.9)を乗じた値を、新たな指令値cN1としてもよい。また、制御部4は、カムアウト検知部54がカムアウト又はカムアウトの予兆を検知すると、その時点における指令値cN1から所定の値(例えば、2000[rpm])を引いた値を、新たな指令値cN1としてもよい。ただし、制御部4は、指令値cN1が0以上となるように、適宜上記所定の値を調整する。
【0087】
モータ15の回転数N1を低下させることにより、インパクト機構17の打撃動作における打撃力の大きさが低下する。その結果、先端工具28から締付部材30に加わる力が低下する。また、締付部材30から先端工具28に作用する、先端工具28を締付部材30から離れさせる向きの力(反力)が低下する。その結果、カムアウトが起きる可能性を低減できる。
【0088】
また、モータ15の回転数N1が低下することで、インパクト機構17の打撃動作における打撃力の発生間隔(すなわち、ハンマ19とアンビル20との衝突の周期)が長くなるので、カムアウトが起きる可能性を低減できる。
【0089】
なお、カムアウト又はその予兆が検知された場合に制御部4がモータ15を停止させる場合には、モータ15の停止後、ユーザは、次のような対処を取ることができる。ユーザは、改めてトリガスイッチ29を引いてモータ15を始動させ、先端工具28を締付部材30に更に強く押し付けることで、カムアウトが起きる可能性を低減させることができる。また、ユーザは、先端工具28を締付部材30に適した種類の先端工具へと取り換えることで、カムアウトが起きる可能性を低減させることができる。通知部55は、ユーザが取り得る対処の内容を通知してもよい。
【0090】
なお、電動工具1は、例えば、ユーザの操作を受け付ける第1のユーザインターフェースを備えている。第1のユーザインターフェースは、例えば、釦、スライドスイッチ又はタッチパネル等である。第1のユーザインターフェースに対するユーザの操作に応じて、制御部4は、動作モードを第1のモードと第2のモードとの間で切り替える。一例として、ユーザは、電動工具1を用いてねじ締めをする場合に制御部4の動作モードを第1のモードにし、それ以外の場合に第2のモードにする。
【0091】
また、第1のユーザインターフェースは、第1のモードへの切替えに対応する位置に、カムアウト検知に対応する表示を有していてもよい。上記表示は、例えば、「カムアウト検知モード」若しくは「カムアウト防止モード」等の文字、又は、ねじがカムアウトする様子を表す図、絵若しくは写真等である。第1のモードに切り替えるための機械的な釦又はタッチパネルの画面に表示された釦に、上記表示が設けられていてもよいし、釦の近傍に上記表示が設けられていてもよい。また、第1のモードのときのスライドスイッチの位置の近傍に、上記表示が設けられていてもよい。
【0092】
(変形例)
以下、実施形態の変形例を列挙する。以下の変形例は、適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0093】
電動工具1と同様の機能は、カムアウト検知方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。
【0094】
一態様に係るカムアウト検知方法は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、モータ15に供給される励磁電流の振幅に相関する物理量に基づいて検知する。
【0095】
すなわち、
図7に示すように、カムアウト検知部54は、正のd軸電流測定値Bd1を取得する(ステップST1)。さらに、カムアウト検知部54は、判定時間において正のd軸電流測定値Bd1がカムアウト閾値Th1を上回った回数が所定回数以上であるか否かを判定する(ステップST2)。カムアウト検知部54は、判定時間において正のd軸電流測定値Bd1がカムアウト閾値Th1を上回った回数が所定回数以上の場合は(ステップST2:YES)、カムアウトが生じた又はカムアウトの予兆が有ると判定する(ステップST3)。カムアウト検知部54がカムアウトが生じた又はカムアウトの予兆が有ると判定すると、制御部4は、モータ15の回転数N1を低下させる(ステップST4)。
【0096】
一態様に係るプログラムは、上記のカムアウト検知方法を1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0097】
本開示における電動工具1は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における電動工具1としての機能の一部が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1ないし複数の電子回路で構成される。
【0098】
また、電動工具1における複数の機能が、1つの筐体内に集約されていることは電動工具1に必須の構成ではなく、電動工具1の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。さらに、電動工具1の少なくとも一部の機能、例えば、カムアウト検知部54の一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0099】
モータ15は、交流モータであってもよいし、直流モータであってもよい。
【0100】
先端工具28は、電動工具1の構成に含まれていなくてもよい。
【0101】
先端工具28は、プラスドライバビットに限定されず、例えば、マイナスドライバビットであってもよいし、トルクス(登録商標)ビットであってもよいし、レンチビットであってもよい。
【0102】
打撃検知部49は、制御部4とは別に設けられていてもよい。つまり、モータ15をベクトル制御する制御部4の機能を実現する構成と、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する打撃検知部49の機能を実現する構成とが、別々に設けられていてもよい。
【0103】
カムアウト検知部54は、制御部4とは別に設けられていてもよい。つまり、モータ15をベクトル制御する制御部4の機能を実現する構成と、カムアウト又はその予兆を検知するカムアウト検知部54の機能を実現する構成とが、別々に設けられていてもよい。
【0104】
モータ回転測定部27に代えて、モータ15の回転軸16の角加速度又は周方向の加速度を測定する加速度センサを用いてもよい。
【0105】
打撃検知部49は、電流測定値id1に関する第1条件及び電流測定値iq1に関する第2条件のうち少なくとも一方が満たされることをもって、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果を出力してもよい。また、打撃検知部49は、第1条件のみに基づいて打撃動作の有無を判定してもよいし、第2条件のみに基づいて打撃動作の有無を判定してもよい。
【0106】
また、打撃検知部49は、第2条件として、電流測定値iq1の絶対値に関する条件を用いてもよい。例えば、打撃検知部49は、電流測定値iq1(瞬時値)の絶対値が所定の閾値を超えることを、第2条件としてもよい。そして、打撃検知部49は、例えば、第2条件が満たされた後に第1条件が満たされることをもって、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果を出力してもよい。あるいは、打撃検知部49は、例えば、第1条件及び第2条件のうち一方が満たされてから、他方が満たされるまでに要した時間が所定の時間閾値以下の場合に、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果を出力してもよい。
【0107】
また、打撃検知部49は、電流測定値iq1の絶対値が所定の閾値を超え、その後、所定時間あたりの電流測定値iq1の減少量が所定のq軸閾値よりも大きいことを、第2条件としてもよい。そして、打撃検知部49は、例えば、第1条件及び第2条件のうち一方が満たされてから、他方が満たされるまでに要した時間が所定の時間閾値以下の場合に、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果を出力してもよい。
【0108】
このように、打撃検知部49は、電流測定値iq1(トルク電流)の絶対値と所定時間あたりの電流測定値iq1(トルク電流)の減少量とのうち少なくとも一方に基づいて打撃動作の有無を検知してもよい。
【0109】
また、打撃検知部49は、電流測定値id1、iq1のうち少なくとも一方に加えて、モータ15の回転数N1に基づいて、打撃動作の有無を検知してもよい。
【0110】
打撃検知部49は、トルク電流の電流測定値iq1に代えて、指令値ciq1に基づいて打撃動作の有無を検知してもよい。すなわち、実施形態及び各変形例での打撃動作の有無の検知において、電流測定値iq1を指令値ciq1に置き換えてもよい。
【0111】
打撃検知部49は、励磁電流の電流測定値id1に代えて、正のd軸電流測定値Bd1及び負のd軸電流測定値Bd2の少なくとも一方に基づいて打撃動作の有無を検知してもよい。
【0112】
制御部4は、カムアウト閾値Th1を変更する機能を有していてもよい。電動工具1は、例えば、ユーザの操作を受け付ける第2のユーザインターフェースを備えていてもよい。第2のユーザインターフェースは、例えば、釦、スライドスイッチ又はタッチパネル等である。第2のユーザインターフェースに対するユーザの操作に応じて、制御部4は、カムアウト閾値Th1を変更する。あるいは、電動工具1は、例えば、信号の入力を受け付ける受信部を備えていてもよい。受信部は、電動工具1の外部装置から上記信号を受信し、これに応じて、制御部4は、カムアウト閾値Th1を変更する。外部装置と受信部との間の通信方式は、無線通信であってもよいし、有線通信であってもよい。第2のユーザインターフェースと第1のユーザインターフェースとの間で、少なくとも一部の構成が共用されていてもよい。
【0113】
また、制御部4は、電流測定値id1に基づいてカムアウト閾値Th1を変更してもよい。制御部4は、例えば、所定の判定時間(例えば、200[ms])ごとに、判定時間内における正のd軸電流測定値Bd1の最大値を求め、求めた最大値を、次の判定時間で用いられるカムアウト閾値Th1としてもよい。
【0114】
カムアウト検知部54は、カムアウト又はその予兆の検知を、正のd軸電流測定値Bd1に代えて、負のd軸電流測定値Bd2に基づいて行ってもよい。また、カムアウト検知部54は、カムアウト又はその予兆の検知を、正のd軸電流測定値Bd1と負のd軸電流測定値Bd2とに基づいて行ってもよい。また、カムアウト検知部54は、カムアウト又はその予兆の検知を、正のd軸電流測定値Bd1及び負のd軸電流測定値Bd2に代えて、電流測定値id1の振幅に基づいて行ってもよい。
【0115】
また、カムアウト検知部54は、電流測定値id1の振幅に相関する物理量のばらつきに基づいて、カムアウト又はその予兆を検知してもよい。カムアウト検知部54は、例えば、所定の判定時間内における電流測定値id1の振幅に相関する物理量のばらつきが所定値を超えることをもって、カムアウトが生じた又はその予兆が有ると判定してもよい。
【0116】
カムアウト検知部54は、カムアウト又はその予兆の検知を、励磁電流(正のd軸電流測定値Bd1等)に加えて、トルク電流(電流測定値iq1等)に更に基づいて行ってもよい。カムアウト検知部54は、励磁電流に加えて、例えば、トルク電流の大きさ、振幅に相関する物理量及び波形パターンのうち少なくとも1つに更に基づいて、カムアウト又はその予兆の検知を行ってもよい。
【0117】
実施形態のカムアウト検知部54は、カムアウトとカムアウトの予兆とを区別せずに検知するが、これに限定されず、カムアウトとカムアウトの予兆とを区別して検知してもよい。カムアウトの予兆が有る状態では、先端工具28がねじ穴310の内面から離れる事象と内面に接する事象とを繰り返すため、電流測定値iq1(又は正のd軸電流測定値Bd1)がカムアウト閾値Th1を何度も上回るという事象が発生する。カムアウト検知部54は、これを検知することをもって、カムアウトの予兆と判定できる。一方で、カムアウトが起こる場合には、まず、カムアウトの予兆が検知され、その後、カムアウトが発生することで、先端工具28がねじ穴310の内面から離れ、内面に接する事象が起きなくなるため、電流測定値iq1の振幅(又は正のd軸電流測定値Bd1)が減少する。カムアウト検知部54は、電流測定値iq1の振幅(又は正のd軸電流測定値Bd1)の減少を検知することをもって、カムアウトの発生と判定できる。
【0118】
制御部4は、カムアウト検知部54がカムアウト又はその予兆を検知する度に、モータ15の回転数N1を低下させてもよい。あるいは、モータ15が始動してからモータ15が停止するまでの間に、制御部4がモータ15の回転数N1を低下させる回数の上限が決まっていてもよい。上限は、1回でもよいし、2回以上であってもよい。
【0119】
電動工具1は、インパクト機構17を備えていなくてもよい。
【0120】
(まとめ)
以上説明した実施形態等から、以下の態様が開示されている。
【0121】
第1の態様に係る電動工具(1)は、モータ(15)と、制御部(4)と、出力軸(21)と、伝達機構(18)と、カムアウト検知部(54)と、を備える。制御部(4)は、モータ(15)をベクトル制御する。出力軸(21)は、先端工具(28)と連結される。伝達機構(18)は、モータ(15)の動力を出力軸(21)に伝達する。カムアウト検知部(54)は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、モータ(15)に供給される励磁電流(電流測定値id1)の振幅に相関する物理量に基づいて検知する。カムアウトは、モータ(15)の動作中に先端工具(28)と先端工具(28)による作業対象のねじ(締付部材30)との嵌合が解除される現象である。
【0122】
上記の構成によれば、カムアウト又はカムアウトの予兆を検知することができる。
【0123】
また、第2の態様に係る電動工具(1)では、第1の態様において、制御部(4)は、カムアウト応答機能を有する。カムアウト応答機能において、制御部(4)は、カムアウト検知部(54)がカムアウト又はカムアウトの予兆を検知するとモータ(15)の回転数(N1)を低下させる又はモータ(15)を停止させる。
【0124】
上記の構成によれば、カムアウトが発生する可能性を低減できる。
【0125】
また、第3の態様に係る電動工具(1)では、第2の態様において、制御部(4)は、互いに切替え可能な動作モードとして、第1のモードと、第2のモードと、を有する。第1のモードでは、制御部(4)は、カムアウト応答機能を有効にする。第2のモードでは、制御部(4)は、カムアウト応答機能を無効にする。
【0126】
上記の構成によれば、必要に応じて、カムアウト応答機能の有無を切り替えることができる。
【0127】
また、第4の態様に係る電動工具(1)は、第1~3の態様のいずれか1つにおいて、通知部(55)を備える。通知部(55)は、カムアウト検知部(54)がカムアウト又はカムアウトの予兆を検知すると通知を行う。
【0128】
上記の構成によれば、カムアウトの発生又はカムアウトの予兆をユーザ等が知ることができる。
【0129】
また、第5の態様に係る電動工具(1)では、第1~4の態様のいずれか1つにおいて、伝達機構(18)は、インパクト機構(17)を有する。インパクト機構(17)は、出力軸(21)に加えられるトルクの大きさに応じて出力軸(21)に打撃力を加える打撃動作を行う。
【0130】
上記の構成によれば、打撃動作におけるカムアウト又はカムアウトの予兆を検知することができる。
【0131】
また、第6の態様に係る電動工具(1)では、第1~5の態様のいずれか1つにおいて、カムアウト検知部(54)は、励磁電流(電流測定値id1)の正のピーク値を、励磁電流の振幅に相関する物理量として用いる。
【0132】
上記の構成によれば、カムアウト又はカムアウトの予兆の検知精度を高められる。
【0133】
また、第7の態様に係る電動工具(1)では、第6の態様において、カムアウト検知部(54)は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、励磁電流(電流測定値id1)の正のピーク値の変動に基づいて検知する。
【0134】
上記の構成によれば、カムアウト又はカムアウトの予兆の検知精度を更に高められる。
【0135】
第1の態様以外の構成については、電動工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【0136】
また、第8の態様に係るカムアウト検知方法は、電動工具(1)を対象として実行される。電動工具(1)は、モータ(15)と、制御部(4)と、出力軸(21)と、伝達機構(18)と、を備える。制御部(4)は、モータ(15)をベクトル制御する。出力軸(21)は、先端工具(28)と連結される。伝達機構(18)は、モータ(15)の動力を出力軸(21)に伝達する。カムアウト検知方法は、カムアウト又はカムアウトの予兆を、モータ(15)に供給される励磁電流(電流測定値id1)の振幅に相関する物理量に基づいて検知する。カムアウトは、モータ(15)の動作中に先端工具(28)と先端工具(28)による作業対象のねじ(締付部材30)との嵌合が解除される現象である。
【0137】
上記の構成によれば、カムアウト又はカムアウトの予兆を検知することができる。
【0138】
また、第9の態様に係るプログラムは、第8の態様に係るカムアウト検知方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0139】
上記の構成によれば、カムアウト又はカムアウトの予兆を検知することができる。
【0140】
上記態様に限らず、実施形態に係る電動工具(1)の種々の構成(変形例を含む)は、方法及びプログラムにて具現化可能である。
【符号の説明】
【0141】
1 電動工具
4 制御部
15 モータ
17 インパクト機構
18 伝達機構
21 出力軸
28 先端工具
30 締付部材(ねじ)
54 カムアウト検知部
55 通知部
id1 電流測定値(励磁電流)
N1 回転数