(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】樹脂粉末、封止材、電子部品、及び樹脂粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
C08J3/12 101
C08J3/12 CEZ
(21)【出願番号】P 2020511685
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2019011071
(87)【国際公開番号】W WO2019193959
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2018071132
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018071134
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】續 貴徳
(72)【発明者】
【氏名】高城 順一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 大三
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-094981(JP,A)
【文献】特開2013-127022(JP,A)
【文献】特開平08-003472(JP,A)
【文献】特開平06-144918(JP,A)
【文献】特開2016-031387(JP,A)
【文献】特開2011-008163(JP,A)
【文献】特開2005-132700(JP,A)
【文献】特開平11-114403(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017801(WO,A1)
【文献】特開2017-127997(JP,A)
【文献】特開2017-214658(JP,A)
【文献】特開2013-243259(JP,A)
【文献】特開2017-188646(JP,A)
【文献】特開2015-040260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の球状粒子の集合体
と、ナノフィラーとからな
り、安息角が26°以下である樹脂粉末であって、
前記樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む樹脂成分と、電気絶縁性無機粒子及び/又は磁性粒子を含む非樹脂成分と、を含有し、
前記
球状粒子同士の間に前記ナノフィラーが介在し、
前記ナノフィラーが、シリカ、アルミナ、フェライト、ゼオライト、酸化チタン、及びカーボンブラックからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む、
樹脂粉末。
【請求項2】
前記球状粒子は、少なくとも1個以上の前記電気絶縁性無機粒子からなる核体と、前記核体を被覆する前記樹脂成分と、を有する、
請求項1に記載の樹脂粉末。
【請求項3】
前記球状粒子は、少なくとも1個以上の前記磁性粒子からなる核体と、前記核体を被覆する前記樹脂成分と、を有する、
請求項1に記載の樹脂粉末。
【請求項4】
体積基準の粒度分布において、平均粒子径が10μm以上200μm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂粉末。
【請求項5】
体積基準の粒度分布において、粒子径が50μm以上100μm以下の前記球状粒子の割合が、前記集合体に対して70質量%以上である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂粉末。
【請求項6】
体積基準の粒度分布において、頻度のピークが1つ存在する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂粉末。
【請求項7】
前記集合体の平均円形度が0.90以上1.00以下である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂粉末。
【請求項8】
前記樹脂成分は未硬化状態である、
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂粉末。
【請求項9】
前記ナノフィラーの含有量は、前記樹脂粉末に対して、0.1質量%以上2質量%以下である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂粉末。
【請求項10】
前記ナノフィラーの平均粒子径は、1nm以上150nm以下である、
請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂粉末。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂粉末を含む封止材。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂粉末の成形体を含む電子部品。
【請求項13】
熱硬化性樹脂を含む樹脂成分と、電気絶縁性無機粒子及び/又は磁性粒子を含む非樹脂成分と、を含有するスラリーを調製し、スプレードライ法により造粒して
乾燥粉末を得た後、前記
乾燥粉末にナノフィラーを添加する、
樹脂粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、樹脂粉末、封止材、電子部品、及び樹脂粉末の製造方法に関し、より詳細には、電子部品に用いられる樹脂粉末、封止材、電子部品、及び樹脂粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル家電等の高機能化、小型化に伴い、半導体素子の樹脂封止技術として、圧縮成型方式が利用されている。圧縮成型方式では、金型のキャビティ内に直接封止材料を装入し、溶融した樹脂組成物をゆっくりと半導体素子に押し当てるように圧力をかけて成形する。
【0003】
特許文献1には、圧縮成型方式の封止材料として顆粒状半導体封止用樹脂組成物(以下、顆粒状樹脂組成物)が開示されている。この顆粒状樹脂組成物は、以下のようにして製造される。まず、熱硬化性樹脂、硬化剤、無機充填材、硬化促進剤及び添加剤をヘンシェルミキサーで予備混合し、二軸混練機ホッパーに投入した後、二軸混練機を用いて、樹脂組成物温度100℃で溶融混練し、押出機先端部に設置されたTダイから角柱状に押し出す。冷却された角状の組成物を粉砕式増粒機のホッパーに投入し、複数のナイフにより角状組成物を切断し、整粒する。このようにして顆粒状樹脂組成物が得られる。
【0004】
特許文献1に記載の顆粒状樹脂組成物は破砕型造粒機により造粒されるため、顆粒状樹脂組成物を構成する粒子の形状は角張った破砕状となる。そのため、顆粒状樹脂組成物を金型のキャビティに装入する等の取扱い時に、粒子同士が擦れ合うことで微粉が発生し、この微粉が飛散して、設備汚染、計量トラブルを招くおそれがある。さらに、顆粒状樹脂組成物は嵩高く、顆粒状樹脂組成物を金型のキャビティ内に均一に装入することができないおそれがあり、顆粒状樹脂組成物を溶融し硬化させてなる封止樹脂に外観不良が発生するおそれがあった。
【0005】
特許文献2には、圧粉磁心が高周波において良好な特性を得るための条件の1つとして、金属磁性粉末の電気抵抗を高くし、粉末粒子寸法を最適化して金属磁性粉末粒子内の渦電流を小さくすることが記載されている。圧粉磁心は、例えば、金属磁性粉末を絶縁性の有機バインダと混合した後、加圧成型し、更に必要に応じて有機バインダを加熱硬化させて得られる。
【0006】
しかしながら、金属磁性粉末粒子内の渦電流を小さくするために、金属磁性粉末粒子を微粒化すると、微粉の飛散による設備汚染、計量トラブルなども招きやすく、取扱いに注意が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-116768号公報
【文献】特開平9-102409号公報
【発明の概要】
【0008】
本開示の目的は、取扱いが容易な樹脂粉末、封止材、電子部品、及び樹脂粉末の製造方法を提供することである。
【0009】
本開示の一態様に係る樹脂粉末は、樹脂組成物の球状粒子の集合体からなる。前記樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む樹脂成分と、電気絶縁性無機粒子及び/又は磁性粒子を含む非樹脂成分と、を含有する。
【0010】
本開示の一態様に係る封止材は、前記樹脂粉末を含む。
【0011】
本開示の一態様に係る電子部品は、前記樹脂粉末の成形体を含む。
【0012】
本開示の一態様に係る樹脂粉末の製造方法は、スラリーを調製し、スプレードライ法により造粒する。前記スラリーは、熱硬化性樹脂を含む樹脂成分と、電気絶縁性無機粒子及び/又は磁性粒子を含む非樹脂成分と、を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1-1で得られた樹脂粉末の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像(倍率:100倍)である。
【
図2】
図2Aは、実施例1-1で得られた樹脂粉末の個数基準粒度分布のグラフである。
図2Bは、実施例1-1で得られた樹脂粉末の体積基準粒度分布のグラフである。
【
図3】
図3Aは、実施例1-1で得られた樹脂粉末のアスペクト比のグラフである。
図3Bは、実施例1-1で得られた樹脂粉末の円形度のグラフである。
【
図4】
図4Aは、実施例1-1の試料の画像である。
図4Bは、比較例1-
2の試料の画像である。
【
図5】
図5Aは、底面を3回叩いた後の、試験管中の実施例1-1の試料及び試験管中の比較例1-2の試料の画像である。
図5Bは、
図5Aの試験管中の実施例1-1の試料及び試験管中の比較例1-2の試料の拡大画像である。
図5A及び
図5B中、左側の試料が実施例1-1の試料であり、右側の試料が比較例1-2の試料である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0015】
<第1実施形態>
(1)樹脂粉末
本実施形態の樹脂粉末(以下、樹脂粉末)は、樹脂組成物の球状粒子の集合体からなる。樹脂組成物は、樹脂成分と、非樹脂成分(本実施形態では電気絶縁性無機粒子)と、を含有する。
【0016】
ここで、球状とは、樹脂粉末の平均円形度が0.90以上、かつ樹脂粉末の平均アスペクト比が0.80以上であることをいう。平均円形度は、各球状粒子の円形度の平均値であり、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。円形度は、ISO 9276-6で定義されている「Circularity」と同義である。平均アスペクト比は、各球状粒子のアスペクト比の平均値であり、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。アスペクト比は、ISO 9276-6で定義されている「Aspect Ratio」と同義である。
【0017】
一方、特許文献1に記載の顆粒状樹脂組成物は、その製造の際に粉砕式増粒機で複数のナイフで切断されることによって得られる。そのため、顆粒状樹脂組成物を構成する粒子の形状を制御することはできず、顆粒状樹脂組成物を構成する粒子の形状は球状ではない。
【0018】
また、樹脂組成物の球状粒子の集合体からなるとは、樹脂粉末が、樹脂組成物の球状粒子のみからなる場合だけでなく、本開示の効果を阻害しない範囲内で球状でない樹脂組成物の粒子を含む場合も包含する。
【0019】
樹脂粉末は上記構成からなるので、樹脂粉末の取扱い時に、球状粒子同士は擦れ合いにくく、微粉が発生しにくい。そのため、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体用封止材として使用する場合、微粉の飛散による設備汚染、計量トラブルなどを招きにくい。さらに、樹脂粉末は、従来の破砕状粒子の集合体ではなく、球状粒子の集合体であるので、嵩高くない。そのため、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体封止材として使用する場合、樹脂粉末を金型のキャビティに均一に装入しやすく、従来の破砕状粒子の集合体を用いる場合に比べて、樹脂粉末を溶融し硬化させてなる封止樹脂の外観不良の発生を抑制することができる。
【0020】
樹脂粉末の体積基準粒度分布において、平均粒子径(以下、体積平均粒子径)の上限は、好ましくは200μm、より好ましくは100μmである。樹脂粉末の体積平均粒子径の下限は、好ましくは1μm、より好ましくは10μmである。樹脂粉末の体積平均粒子径が上記範囲内であれば、例えば、樹脂粉末を半導体封止材として好適に使用することができる。樹脂粉末の体積平均粒子径は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。
【0021】
体積基準の粒度分布において、粒子径(以下、体積粒子径)が50μm以上100μm以下の樹脂組成物の球状粒子の割合の上限は、樹脂組成物の球状粒子全体に対して、好ましくは100質量%である。体積粒子径が50μm以上100μm以下の樹脂組成物の球状粒子の割合の下限は、樹脂組成物の球状粒子全体に対して、より好ましくは70質量%、さらに好ましくは80質量%、特に好ましくは90質量%である。体積粒子径が50μm以上100μm以下の樹脂組成物の球状粒子の割合が上記範囲内であれば、樹脂粉末の体積基準の粒度分布はシャープと評価でき、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体封止材として使用する場合、樹脂粉末を金型のキャビティ内の狙った位置により装入しやすくなる。
【0022】
一方、特許文献1に記載の顆粒状樹脂組成物は、その製造の際に粉砕式増粒機で複数のナイフで切断されることによって得られる。そのため、顆粒状樹脂組成物の大きさを制御することはできず、顆粒状樹脂組成物の体積基準の粒度分布はブロードと評価できる。
【0023】
粒子径が50μm以上100μm以下の樹脂組成物の球状粒子の割合は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。体積粒子径が50μm以上100μm以下の樹脂組成物の球状粒子の割合を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する方法、樹脂粉末を篩にかけて分級する方法などが挙げられる。
【0024】
樹脂粉末は、体積基準粒度分布において、頻度のピークが1つ存在することが好ましい。これにより、樹脂粉末を金型のキャビティ内の狙った位置により装入しやすくなる。さらに、樹脂粉末が溶融する温度に樹脂粉末を曝した際に、樹脂粉末が均一に溶融しやすくなり、得られる封止材に外観不良が発生しにくくなる。頻度のピークの存在は、実施例に記載の方法と同様にして確認することができる。
【0025】
頻度のピークが1つ存在する樹脂粉末に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する方法、樹脂粉末を篩にかけて分級する方法などが挙げられる。
【0026】
樹脂粉末は、個数基準粒度分布において、粒子径が1μm以上10μm以下の範囲と、粒子径が10μm超100μm以下の範囲とに、頻度のピークをそれぞれ少なくとも1つ有することが好ましい。これにより、大きい粒子径の球状粒子同士の隙間に小さい粒子径の球状粒子が入り込み、樹脂粉末の嵩高さは低減し、樹脂粉末を金型のキャビティ内により均一に装入しやすくなる。頻度のピークの存在は、実施例に記載の方法と同様にして確認することができる。
【0027】
個数基準粒度分布において、粒子径が1μm以上10μm以下の範囲と、粒子径が10μm超100μm以下の範囲とに、頻度のピークをそれぞれ少なくとも1つ有する樹脂粉末に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する方法、樹脂粉末を篩にかけて分級する方法などが挙げられる。
【0028】
樹脂粉末の平均円形度の上限は、好ましくは1.00である。樹脂粉末の平均円形度の下限は、好ましくは0.90、より好ましくは0.95、さらに好ましくは0.98である。樹脂粉末の平均円形度が上記範囲内であれば、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体封止材として使用する場合、樹脂粉末を金型のキャビティに均一により装入しやすくなる。
【0029】
樹脂粉末の平均円形度を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する際、ロータリーアドマイザー方式を採用し、ディスクの回転数を調整する方法などが挙げられる。
【0030】
樹脂粉末の平均アスペクト比の上限は、好ましくは1.00である。樹脂粉末の平均アスペクト比の下限は、好ましくは0.80、より好ましくは0.85、特に好ましくは0.90である。樹脂粉末の平均アスペクト比が上記範囲内であれば、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体封止材として使用する場合、樹脂粉末を金型のキャビティに均一により装入しやすくなる。
【0031】
樹脂粉末の平均アスペクト比を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する際、ロータリーアドマイザー方式を採用し、ディスクの回転数を調整する方法などが挙げられる。
【0032】
球状粒子は、少なくとも1個以上の電気絶縁性無機粒子からなる核体と、核体の全体を被覆する樹脂成分とを有することが好ましい。これにより、表面に電気絶縁性無機粒子が剥き出した状態の球状粒子を含む場合よりも、樹脂粉末の取扱い時に、球状粒子同士が擦れ合うことによる発生する微粉の発生を抑制することができる。また、成型時に樹脂粉末が熱溶融した際に、隣接する球状粒子同士の樹脂成分と樹脂成分とがスキン層となってヌレ性が向上し流動し易い球状粒子となる。
【0033】
球状粒子が、核体と、核体の全体を被覆する樹脂成分とを有するか否かは、実施例に記載の方法と同様にして確認することができる。核体と、核体の全体を被覆する樹脂成分とを有する球状粒子に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーの粘度を変えることで調整することも可能で、スプレードライ法により造粒する方法などが挙げられる。
【0034】
樹脂成分は未硬化状態であることが好ましい。すなわち、樹脂成分は、Aステージの状態と評価できることが好ましい。これにより、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体封止材として使用する場合、得られる封止剤の外観不良の発生を抑制することができる。
【0035】
一方、特許文献1に記載の顆粒状樹脂組成物は、その製造の際に二軸混練機を用いて100℃で所定時間かけて溶融混練されている。そのため、顆粒状樹脂組成物中の樹脂成分はBステージの状態と評価でき、なかには溶融混練中に反応が進行したCステージの状態の粒(以下、硬化粒)を含むおそれがある。この硬化粒は、顆粒状樹脂組成物が溶融する温度に顆粒状樹脂組成物を曝しても溶融しないため、得られる封止材に外観不良が発生するおそれがある。
【0036】
ここで、Aステージ、Bステージ又はCステージは、JISK6900:1994に定義されているAステージ、Bステージ又はCステージと同義である。すなわち、Aステージとは、ある種の熱硬化性樹脂の調製において、その材料がなおある種の液体に可溶性であり、かつ可融性である初期の段階をいう。Bステージとは、ある種の熱硬化性樹脂の反応において、材料がある種の液体に接触する場合には膨潤しかつ加熱する場合には軟化するが、しかし完全には溶解又は溶融しない中間段階をいう。Cステージとは、ある種の熱硬化性樹脂の反応において、その材料が事実上不溶不融となる最終段階をいう。樹脂成分を未硬化状態にする方法としては、後述するようにスラリーの粘度を変えることで調整することも可能で、スプレードライ法により造粒する方法などが挙げられる。
【0037】
樹脂粉末の金属含有量の上限は、樹脂粉末に対して、好ましくは1ppm、より好ましくは0.5ppmである。樹脂粉末の金属含有量の上限が上記範囲内であれば、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体封止材として使用する場合、配線が腐食されること等を抑制し、得られる封止材の信頼性を向上させることができる。一方、特許文献1に記載の顆粒状樹脂組成物は、その製造の際に二軸混練機で溶融混練され、粉砕式増粒機で複数のナイフで切断されることによって得られる。そのため、顆粒状樹脂組成物は、その製造過程で設備由来の金属成分を含有するおそれがある。樹脂粉末の金属含有量は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。樹脂粉末の金属含有量を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する方法などが挙げられる。
【0038】
樹脂粉末のアセトン不溶分量の上限は、樹脂粉末に対して、好ましくは1ppm、より好ましくは0.5ppmである。樹脂粉末のアセトン不溶分が上記範囲内であれば、樹脂粉末中に硬化物類似成分がほとんどなく、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体封止材として使用する場合、樹脂粉末を溶融して成形する際に充填不良が発生しにくく、得られる封止材の外観不良の発生を抑制することができる。アセトン不溶分は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。アセトン不溶分を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する方法などが挙げられる。
【0039】
樹脂粉末の残存溶剤量の上限は、樹脂粉末に対して、好ましくは1質量%、より好ましくは0.5質量%である。樹脂粉末の残存溶剤量が上記範囲内であれば、樹脂粉末を圧縮成型方式の半導体封止材として使用する場合、得られる封止材中にボイドが発生することなどを抑制し、封止材の信頼性を向上させることができる。樹脂粉末の残存溶剤量は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。樹脂粉末の残存溶剤量を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する方法などが挙げられる。
【0040】
(1.1)樹脂組成物
樹脂組成物は、非樹脂成分と、樹脂成分と、を含有する。
【0041】
(1.1.1)非樹脂成分
非樹脂成分は、電気絶縁性無機粒子を含む。電気絶縁性無機粒子は、電気絶縁性を有する。電気絶縁性とは、電気絶縁性無機粒子の材料の体積固有抵抗率が1×109Ω/cm以上であることを意味する。このような電気絶縁性無機粒子の材料として、金属酸化物、金属窒化物、金属炭酸塩、又は金属水酸化物などが挙げられる。金属酸化物としては、例えば、アルミナ、溶融シリカ、結晶性シリカ、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅、又は酸化亜鉛などが挙げられる。金属窒化物としては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、又は窒化ケイ素などが挙げられる。金属炭酸塩としては、例えば、炭酸マグネシウム又は炭酸カルシウムなどが挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムなどが挙げられる。樹脂粉末中の電気絶縁性無機粒子の材質は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0042】
電気絶縁性無機粒子の形状は、樹脂粉末の用途などに応じて適宜選択すればよく、例えば、球状、扁平状、楕円状、チューブ状、ワイヤ状、針状、板状、ピーナッツ状、不定形状などが挙げられる。樹脂粉末を溶融した樹脂組成物の溶融物は流動性などに優れる点で球状が好ましい。樹脂粉末中の電気絶縁性無機粒子の形状は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0043】
樹脂粉末中の電気絶縁性無機粒子の大きさは、樹脂粉末の球状粒子よりも小さければよい。樹脂組成物の球状粒子中の電気絶縁性無機粒子の含有量は、特に限定されない。その上限は、樹脂組成物の球状粒子に対して、好ましくは90体積%、より好ましくは85体積%である。その下限は、樹脂組成物の球状粒子に対して、好ましくは40体積%、より好ましくは50体積%である。
【0044】
(1.1.2)樹脂成分
樹脂成分は、熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂は、熱により架橋反応を起こしうる反応性化合物である。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、イミド樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。多官能エポキシ樹脂は、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する樹脂である。イミド樹脂としては、ビスアリルナジイミド樹脂などが挙げられる。樹脂成分に含まれる熱硬化性樹脂は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。樹脂成分の含有量は、特に限定されない。その上限は、樹脂組成物の球状粒子に対して、好ましく60体積%、より好ましくは50体積%である。その下限は、樹脂組成物の球状粒子に対して、好ましく10体積%、より好ましくは15体積%である。
【0045】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂の種類などに応じて、硬化剤をさらに含んでもよい。硬化剤は、熱硬化性樹脂を硬化させる添加剤である。硬化剤として、ジシアンジアミド、フェノール系硬化剤、シクロペンタジエン、アミン系硬化剤、酸無水物などが挙げられる。フェノール系硬化剤は、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する。フェノール系硬化剤として、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、ビスフェノール樹脂などが挙げられる。ビスフェノール樹脂として、例えば、ビスフェノールA樹脂、ビスフェノールF樹脂などが挙げられる。
【0046】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂の種類などに応じて、硬化促進剤をさらに含んでもよい。硬化促進剤として、例えば、三級アミン、三級アミン塩、イミダゾール、ホスフィン、ホスホニウム塩などが挙げられる。イミダゾールとして、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどを用いることができる。
【0047】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂の種類などに応じて、カップリング剤をさらに含んでもよい。これにより、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する際に、樹脂成分と電気絶縁性無機粒子とのなじみをよくし、より均一なスラリーとすることができる。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシシラン、アミノシラン、チタネートアルミキレート、ジルコアルミネートなどが挙げられる。
【0048】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂の種類などに応じて、分散剤をさらに含有してもよい。これにより、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する際に、スラリーの粘度を低減するとともに、樹脂成分と電気絶縁性無機粒子とのなじみをよくし、より均一なスラリーとすることができる。分散剤としては、例えば、高級脂肪酸リン酸エステル、高級脂肪酸リン酸エステルのアミン塩、高級脂肪酸リン酸エステルのアルキレンオキサイドなどが挙げられる。高級脂肪酸リン酸エステルとしては、オクチルリン酸エステル、デシルリン酸エステル、ラウリルリン酸エステルなどが挙げられる。
【0049】
樹脂成分は、樹脂粉末の用途などに応じて、熱可塑性樹脂、エラストマー、難燃化剤、着色剤、揺変性付与剤、イオン捕捉剤、着色剤、揺変性付与剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、又は反応性希釈剤などをさらに含有してもよい。熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂などが挙げられる。エラストマーとして、例えば、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。難燃化剤としては、例えば、臭素化エポキシ樹脂、酸化アンチモンなどが挙げられる。
【0050】
(1.2)樹脂粉末の用途
樹脂粉末は、例えば、半導体封止材、プリント板の絶縁材などの原料として好適に用いられる。樹脂粉末を半導体封止材に用いる場合、半導体素子の樹脂封止技術としては、特に限定されず、例えば、トランスファーモールド方式、圧縮成型方式、アンダーフィル工法などが挙げられる。なかでも、取扱い時に微粉が発生しにくく、金型のキャビティ内に均一に装入しやすいなどの点から、圧縮成型方式に好適に用いられる。また、樹脂粉末を溶融した樹脂組成物の溶融物は、流動性、充填性、プリント配線の回路の埋め込み性に優れるなどの点から、アンダーフィル工法、プリント板の絶縁材にも好適に用いられる。
【0051】
(2)半導体封止材
本実施形態の半導体封止材(以下、半導体封止材)は、上述した樹脂粉末を含む。半導体封止材の形態としては、半導体封止材の用途などに応じて適宜選択さればよく、例えば、固形状、液状、ペースト状、フィルム状などが挙げられる。固形状としては、粉末状、タブレット状などが挙げられる。ペースト状とは、半導体封止材が溶剤を含有せずとも室温において流動性を有することをいう。半導体封止材の材質は、半導体封止材の使用形態などに応じて、樹脂粉末のみであってもよいし、樹脂粉末の他に、溶剤、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを含んでもよい。これらの樹脂粉末を除く樹脂は、常温において液状でも、粉末状などの固形でもよい。
【0052】
(3)樹脂粉末の製造方法
本実施形態の樹脂粉末の製造方法は、スラリーを調製し、スプレードライ法により造粒する。スラリーは、樹脂成分、及び電気絶縁性無機粒子を含有する。これにより、上述した樹脂粉末が得られる。さらに、スプレードライ法によれば、従来の混練機を用いて100℃で混練しても溶融混練せず、粉状又はシート状にも成形できなかった樹脂成分の構成成分を用いて、樹脂粉末を製造することができる。
【0053】
(3.1)スラリーの調製
スラリーを調製する方法としては、例えば、上述した電気絶縁性無機粒子からなる粉末(以下、無機粉末)及び上述した樹脂成分、必要に応じて溶剤を添加した後、均一になるように撹拌する方法などが挙げられる。
【0054】
無機粉末の平均粒子径は、樹脂粉末の用途などに応じて適宜選択すればよい。無機粉末の平均粒子径の上限は、好ましくは75μm、より好ましくは50μmである。無機粉末の平均粒子径の下限は、好ましくは1μm、より好ましくは5μmである。無機粉末の平均粒子径は、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径をいう。
【0055】
無機粉末の添加割合は、樹脂粉末の用途などに応じて適宜選択すればよい。無機粉末の配合割合の上限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは95質量部、より好ましくは85質量部である、無機粉末の添加割合の下限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは40質量部、より好ましくは50質量部である。無機粉末の配合割合が上記範囲内であれば、樹脂粉末を半導体封止材として好適に使用することができる。スラリー中の固形分とは、電気絶縁性無機粒子及び樹脂成分から溶剤を除いた分である。
【0056】
樹脂成分を構成する熱硬化性樹脂などの構成成分は、スラリーとして調製することができれば、常温において液状でも、粉末状などの固形でもよい。すなわち、樹脂成分の構成成分は、従来のように混練機を用いて100℃で混練した際に溶融混練しない樹脂であっても、スラリーとして調製できるものであれば、特に限定されない。
【0057】
100℃で混練した際に溶融混練しない構成成分としては、例えば、融点が140℃以上の樹脂などが挙げられる。融点が140℃以上の樹脂としては、得られる硬化物の耐熱性に優れるイミド樹脂、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンなどが挙げられる。
【0058】
熱硬化性樹脂の含有量の上限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは65質量部、より好ましくは55質量部である。熱硬化性樹脂の含有量の下限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは10質量部、より好ましくは15質量部である。
【0059】
硬化剤の含有量の上限は、スラリーの固形分に対して、好ましくは50質量部である。硬化促進剤の含有量は、熱硬化性樹脂及び硬化剤の種類に応じて適宜調整すればよい。カップリング剤の含有量の上限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは1質量部である。
【0060】
溶剤として、メチルエチルケトン(MEK)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)などを用いることができる。溶剤を1種のみ使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。溶剤を2種以上混合する場合、混合比(質量比及び体積比)は特に限定されない。溶剤の含有量は、特に限定されない。スラリー中の固形分の含有割合の上限は、スラリーに対して、好ましくは99質量%、より好ましくは98質量%である。スラリー中の固形分の含有割合の下限は、スラリーに対して、好ましくは50質量%、より好ましくは60質量%である。
【0061】
(3.2)スプレードライ法による造粒
スラリーをスプレードライ法により造粒する方法としては、例えば、スラリーを噴霧乾燥機に投入し、得られる粉末を捕集する方法などが挙げられる。噴霧乾燥機は、乾燥機内において、スラリーを噴霧して微粒化し、単位体積あたりの表面積を増大させながら連続して熱風に接触させることにより瞬間的に乾燥及び造粒を行う。つまり、スラリーをある程度の大きさの液滴にし、それを急激に乾燥させ、表面張力により球状にすることで、ほぼ同じ粒径の球状粉末とすることができ、非常に小さい飛散し易い粉末が発生しにくい。逆にスラリーの粘度が適正であればそれを液滴にする際に大き過ぎる液滴にもならないのでほぼ大きさが揃った樹脂粉末が得られるために、破砕粉末のような不具合は発生し難い。このように、噴霧乾燥機を用いれば、体積基準の粒度分布において、頻度がシャープな球状粒子からなる樹脂粉末が得られるので、従来のように、顆粒状樹脂組成物を篩にかけて分級する必要はない。これにより、例えば、噴霧乾燥機から捕集した樹脂粉末をそのまま半導体封止材として使用でき、半導体封止材を製造する際の分級工程を省略でき、従来よりも大幅に手間を省くことができる。また、従来のように、無機粉末及び樹脂成分を混練機で溶融混練して、粉砕式増粒機で切断する必要はないので、得られる樹脂粉末中には金属異物が含まれない。さらに、得られる樹脂粉末の樹脂成分は、熱風と瞬間的に接触するのみであるので熱履歴がほとんどなく、Aステージの状態と評価できる。
【0062】
スラリーの噴霧方式は、特に限定されず、例えば、ロータリーアドマイザー方式、ノズル方式などが挙げられる。ロータリーアドマイザー方式では、高速回転するディスクにスラリーを連続的に送液し、遠心力を利用して噴霧する。このロータリーアドマイザー方式を用いれば、体積基準の粒度分布において、粒子径を20μm以上200μm以下、かつ頻度がシャープな樹脂粉末が得られやすい。ディスクの回転数の上限は、好ましくは25000rpm、より好ましくは20000rpmである。ディスクの回転数の下限は、好ましくは5000rpm、より好ましくは10000rpmである。ディスクの回転数を高く設定するほど、得られる樹脂粉末の体積平均粒子径を小さくすることができる。ディスクの回転数を低く設定するほど、得られる樹脂粉末の体積平均粒子径が大きくなり、真円状の粒子が得られる。すなわち、ディスクの回転数を低く設定するほど、平均円形度及び平均アスペクト比がそれぞれ1.0に近い樹脂粉末が得られやすい。ノズル方式としては、例えば、二流体ノズル方式、一流体ノズル方式などが挙げられる。二流体ノズル方式を用いれば、体積基準の粒度分布において、粒子径が20μm以下の樹脂粉末が得られやすく、スラリー供給速度を調整することで、得られる樹脂粉末の体積平均粒子径を調整することができる。スラリー供給速度の上限は好ましくは2.0kg/時である。スラリー供給速度の下限は好ましくは0.5kg/時である。スラリー供給速度を高く設定することで、得られる樹脂粉末の体積平均粒子径が大きくなる。
【0063】
噴霧乾燥機の熱乾燥条件は、特に限定されず、例えば、乾燥は常圧で行われる。供給する熱風の温度(入口温度)の上限は、好ましくは200℃、より好ましくは150℃である。入口温度の下限は、好ましくは60℃、より好ましくは80℃である。乾燥機出口の温度(出口温度)の上限は、好ましくは170℃、より好ましくは120℃である。出口温度の下限は、好ましくは30℃、より好ましくは50℃である。
【0064】
樹脂粉末の捕集方式は、特に限定されず、得られる樹脂粉末の用途などに応じて適宜選択すればよい。捕集方式としては、例えば、二点捕集方式、サイクロン捕集方式、バグフィルター捕集方式などが挙げられる。二点捕集方式は、乾燥室下及び乾燥機に接続されたサイクロン下の2点で捕集し、分級効果を有する。乾燥機下では球形の樹脂粉末が得られ、サイクロン下では微粒子の樹脂粉末が得られる。サイクロン捕集方式は、乾燥室に接続されたサイクロンで一括捕集する。バグフィルター捕集方式は、乾燥室に接続されたバグフィルターで一括捕集し、サイクロン捕集方式では得られない微粒子の捕集に適する。
【0065】
<第2実施形態>
(1)樹脂粉末
本実施形態の樹脂粉末(以下、樹脂粉末)は、樹脂組成物の球状粒子の集合体からなる。樹脂組成物は、樹脂成分と、非樹脂成分(本実施形態では磁性粒子)と、を含有する。以下、第1実施形態と共通する構成については、詳細な説明を省略する。
【0066】
樹脂粉末は上記構成からなるので、取扱いが容易である。すなわち、樹脂粉末の取扱い時に、球状粒子同士は擦れ合いにくく、微粉の発生をより抑制することができる。そのため、微粉の飛散による設備汚染、計量トラブルなどを招きにくい。さらに、樹脂粉末は、従来の破砕状粒子の集合体ではなく、球状粒子の集合体であるので、嵩高くない。そのため、充填性に優れる。
【0067】
樹脂粉末の体積基準粒度分布において、平均粒子径(以下、体積平均粒子径)の上限は、好ましくは200μm、より好ましくは100μmである。樹脂粉末の体積平均粒子径の下限は、好ましくは1μm、より好ましくは10μmである。樹脂粉末の体積平均粒子径が上記範囲内であれば、例えば、磁性粒子内における渦電流を低減することができるという特性と、成型性とのバランスをとることができる。すなわち、樹脂粉末を高充填しやすく、樹脂粉末を熱溶融させた際の粘度も体積平均粒子が上記範囲外の樹脂粉末よりも上昇しにくいため、成型性の悪化を招きにくいとともに、樹脂粉末を圧粉磁心の原料に用いる場合、圧粉磁心の渦電流損を抑制することができる。樹脂粉末の体積平均粒子径は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。
【0068】
体積基準の粒度分布において、粒子径(以下、体積粒子径)が50μm以上100μm以下の樹脂組成物の球状粒子の割合の上限は、樹脂組成物の球状粒子全体に対して、好ましくは100質量%である。体積粒子径が50μm以上100μm以下の樹脂組成物の球状粒子の割合の下限は、樹脂組成物の球状粒子全体に対して、好ましくは70質量%、より好ましくは80質量%である。体積粒子径が50μm以上100μm以下の樹脂組成物の球状粒子の割合が上記範囲内であれば、樹脂粉末の体積基準の粒度分布はシャープと評価でき、樹脂粉末はより飛散しにくくなる。
【0069】
樹脂粉末は、体積基準粒度分布において、頻度のピークが1つ存在することが好ましい。これにより、樹脂粉末はより飛散しにくくなる。
【0070】
樹脂粉末は、個数基準粒度分布において、粒子径が1μm以上10μm以下の範囲と、粒子径が10μm超100μm以下の範囲とに、頻度のピークをそれぞれ少なくとも1つ有することが好ましい。これにより、大きい粒子径の球状粒子同士の隙間に小さい粒子径の球状粒子が入り込み、樹脂粉末の嵩はより低くなり、充填性により優れる。
【0071】
樹脂粉末の平均円形度の上限は、好ましくは1.00である。樹脂粉末の平均円形度の下限は、好ましくは0.90、より好ましくは0.95、さらに好ましくは0.98である。樹脂粉末の平均円形度が上記範囲内であれば、樹脂粉末の取扱い時に、球状粒子同士が擦れ合いにくく、微粉の発生をより抑制でき、樹脂粉末の取扱いがより容易となる。
【0072】
樹脂粉末の平均円形度を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーの粘度を変えることで調整することも可能で、スプレードライ法により造粒する際、ロータリーアドマイザー方式を採用し、ディスクの回転数を調整する方法などが挙げられる。
【0073】
樹脂粉末の平均アスペクト比の上限は、好ましくは1.00である。樹脂粉末の平均アスペクト比の下限は、好ましくは0.80、より好ましくは0.85、特に好ましくは0.90である。樹脂粉末の平均アスペクト比が上記範囲内であれば、樹脂粉末の取扱い時に、球状粒子同士が擦れ合いにくく、微粉の発生をより抑制でき、樹脂粉末の取扱いがより容易となる。
【0074】
樹脂粉末の平均アスペクト比を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーの粘度を変えることで調整することも可能で、スプレードライ法により造粒する際、ロータリーアドマイザー方式を採用し、ディスクの回転数を調整する方法などが挙げられる。
【0075】
球状粒子は、少なくとも1個以上の磁性粒子からなる核体と、核体の全体を被覆する樹脂成分とを有することが好ましい。これにより、表面に磁性粒子が剥き出した状態の球状粒子を含む場合よりも、樹脂粉末の取扱い時に、球状粒子同士が擦れ合いにくく、微粉の発生をより抑制することができる。また、成型時に樹脂粉末が熱溶融した際に、隣接する球状粒子同士の樹脂成分と樹脂成分とがスキン層となってヌレ性が向上し流動し易い球状粒子となる。
【0076】
球状粒子が、核体と、核体の全体を被覆する樹脂成分とを有するか否かは、実施例に記載の方法と同様にして確認することができる。核体と、核体の全体を被覆する樹脂成分とを有する球状粒子に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーの粘度を変えることで調整することも可能で、スプレードライ法により造粒する方法などが挙げられる。
【0077】
樹脂成分は未硬化状態であることが好ましい。すなわち、樹脂成分は、Aステージの状態と評価できることが好ましい。これにより、得られる樹脂成分は、Cステージの状態の粒(以下、硬化粒)を含まないので、例えば、樹脂粉末を熱溶融し、硬化させて得られる硬化物の外観不良の発生を抑制することができる。この硬化粒は、熱に曝しても溶融しないため、得られる硬化物に外観不良が発生するおそれがある。
【0078】
樹脂粉末のアセトン不溶分量の上限は、樹脂粉末に対して、好ましくは2ppm、より好ましくは1ppmである。樹脂粉末のアセトン不溶分が上記範囲内であれば、樹脂粉末中に硬化物類似成分がほとんどなく、樹脂粉末を溶融して成形する際に充填不良が発生しにくく、得られる硬化物の外観不良の発生を抑制することができる。アセトン不溶分は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。アセトン不溶分を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する方法などが挙げられる。
【0079】
樹脂粉末の残存溶剤量の上限は、樹脂粉末に対して、好ましくは1質量%、より好ましくは0.5質量%である。樹脂粉末の残存溶剤量が上記範囲内であれば、樹脂粉末を熱溶融し、硬化させて得られる硬化物中にボイドが発生することなどを抑制することができる。樹脂粉末の残存溶剤量は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。樹脂粉末の残存溶剤量を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する方法などが挙げられる。
【0080】
(1.1)樹脂組成物
樹脂組成物は、非樹脂成分と、樹脂成分と、を含有する。
【0081】
(1.1.1)非樹脂成分
非樹脂成分は、磁性粒子を含む。磁性粒子は、外部磁場により磁性を帯びることが可能な物質(磁性体)で構成される粒子である。
【0082】
磁性粒子の材料としては、例えば、硬磁性材料、軟磁性材料などが挙げられる。硬磁性材料としては、例えば、NdFeB、NdFeボンド磁石、LaCoSrフェライト(LaxSr1-xFe12O19)などが挙げられる。軟磁性材料としては、例えば、金属系軟磁性材料、スピネル系フェライト、ガーネット系フェライト、六方晶フェライト、酸化鉄、酸化クロム、コバルトなどが挙げられる。金属系軟磁性材料は、鉄を主成分とする非酸化物の材料であり、例えば、カーボニル鉄、電磁鋼板、パーマロイ、アモルファス合金、ナノ結晶金属磁性材料などが挙げられる。アモルファス合金としては、例えば、Fe基のアモルファス合金、Co基のアモルファス合金などが挙げられる。ナノ結晶金属磁性材料は、Fe基のアモルファス合金を熱処理によりナノ結晶化した材料である。スピネル系フェライトは、MFe2O3の組成を有する。Mは、二価の金属であり、例えば、Mn、Zn、及びFeであるもの(MnZnフェライト)、主にNi、Zn、Cuであるもの(NiZnフェライト)などが挙げられる。ガーネット系フェライトは、GdxY3-xFe5O12(Gd置換型YIG)などが挙げられる。六方晶系フェライトとしては、例えば、マグネトプラムバイト(M)型フェライト、フェロックスプラナ型フェライトなどが挙げられる。M型フェライトは、Baフェライト又はSrフェライトを原組成とし、その成分の一部をTi、Ca、Cu、Coなどと置換したものである。フェロックスプラナとしては、例えば、W型(Ba1M2Fe16O27)、Y型(Ba2M2Fe12O22)、Z型(Ba3M2Fe24O41)などが挙げられる。式中、Mは2価の金属である。樹脂粉末中の磁性粒子の材質は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0083】
磁性粒子の形状は、樹脂粉末の用途などに応じて適宜選択すればよく、例えば、球状、扁平状、楕円状、チューブ状、ワイヤ状、針状、板状、ピーナッツ状、不定形状などが挙げられる。樹脂粉末中の磁性粒子の形状は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0084】
磁性粒子は、樹脂粉末の用途などに応じて、絶縁処理が施されていてもよい。すなわち、各磁性粒子はその表面が電気的絶縁性皮膜で覆われていてもよい。これにより、隣接する磁性粒子同士にまたがって流れる粒子間渦電流の発生を抑制し、渦電流損をより低減することができる。絶縁処理の方法としては、例えば、磁性粉末と電気的絶縁性フィラーを含む水溶液とを混合して乾燥させる方法などが挙げられる。電気的絶縁性フィラーの材質としては、例えば、リン酸、ホウ酸、酸化マグネシウムなどを用いることできる。
【0085】
樹脂粉末中の磁性粒子の大きさは、樹脂粉末の球状粒子よりも小さければよい。樹脂組成物の球状粒子中の磁性粒子の含有量は、特に限定されない。その上限は、樹脂組成物の球状粒子に対して、好ましくは90体積%、より好ましくは85体積%である。その下限は、樹脂組成物の球状粒子に対して、好ましくは40体積%、より好ましくは50体積%である。
【0086】
(1.1.2)樹脂成分
樹脂成分は、熱硬化性樹脂の種類などに応じて、カップリング剤をさらに含んでもよい。これにより、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する際に、樹脂成分と磁性粒子とのなじみをよくし、より均一なスラリーとすることができる。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシシラン、アミノシラン、チタネートアルミキレート、ジルコアルミネートなどが挙げられる。
【0087】
樹脂成分は、熱硬化性樹脂の種類などに応じて、分散剤をさらに含有してもよい。これにより、後述するようにスラリーをスプレードライ法により造粒する際に、スラリーの粘度を低減するとともに、樹脂成分と磁性粒子とのなじみをよくし、より均一なスラリーとすることができる。分散剤としては、例えば、高級脂肪酸リン酸エステル、高級脂肪酸リン酸エステルのアミン塩、高級脂肪酸リン酸エステルのアルキレンオキサイドなどが挙げられる。高級脂肪酸リン酸エステルとしては、オクチルリン酸エステル、デシルリン酸エステル、ラウリルリン酸エステルなどが挙げられる。
【0088】
(1.2)樹脂粉末の用途
樹脂粉末は、例えば、ラインフィルター、電波吸収体、トランス、磁気シールド、インダクタ(コイル)、温度スイッチ、アクチュエーター、静磁波素子、複写機のトナー、爆薬のマーカー、半導体封止材、プリント板の絶縁材などの原料として好適に用いられる。
【0089】
(2)樹脂粉末の製造方法
本実施形態の樹脂粉末の製造方法は、スラリーを調製し、スプレードライ法により造粒する。スラリーは、樹脂成分、及び磁性粒子を含有する。このように、磁性粒子の原料である磁性粉末をスラリー中で混ぜるため、樹脂粉末の製造の際に、樹脂粉末が飛散するおそれがない。さらに、スプレードライ法によれば、従来の混練機を用いて100℃で混練しても溶融混練せず、粉状又はシート状にも成形できなかった樹脂成分の構成成分を用いて、樹脂粉末を製造することができる。
【0090】
(2.1)スラリーの調製
スラリーを調製する方法としては、例えば、上述した磁性粒子からなる粉末(以下、磁性粉末)及び上述した樹脂成分、必要に応じて溶剤を添加した後、均一になるように撹拌する方法などが挙げられる。
【0091】
磁性粉末の平均粒子径は、樹脂粉末の用途などに応じて適宜選択すればよい。磁性粉末の平均粒子径の上限は、好ましくは75μm、より好ましくは50μmである。磁性粉末の平均粒子径の下限は、好ましくは1μm、より好ましくは5μmである。磁性粉末の平均粒子径は、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径をいう。
【0092】
磁性粉末の添加割合は、樹脂粉末の用途などに応じて適宜選択すればよい。磁性粉末の配合割合の上限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは95質量部、より好ましくは85質量部である、磁性粉末の添加割合の下限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは40質量部、より好ましくは50質量部である。磁性粉末の配合割合が上記範囲内であれば、樹脂粉末を磁性材料として好適に使用することができる。スラリー中の固形分とは、磁性粒子及び樹脂成分から溶剤を除いた分である。
【0093】
熱硬化性樹脂の含有量の上限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは65質量部、より好ましくは55質量部である。熱硬化性樹脂の含有量の下限は、スラリーの固形分100質量部に対して、好ましくは2質量部、より好ましくは5質量部である。
【0094】
(2.2)スプレードライ法による造粒
スラリーをスプレードライ法により造粒する方法としては、例えば、スラリーを噴霧乾燥機に投入し、得られる粉末を捕集する方法などが挙げられる。噴霧乾燥機は、乾燥機内において、スラリーを噴霧して微粒化し、単位体積あたりの表面積を増大させながら連続して熱風に接触させることにより瞬間的に乾燥及び造粒を行う。つまり、スラリーをある程度の大きさの液滴にし、それを急激に乾燥させ、表面張力により球状にすることで、ほぼ同じ粒径の球状粉末とすることができ、非常に小さい飛散し易い粉末が発生しにくい。逆にスラリーの粘度が適正であればそれを液滴にする際に大き過ぎる液滴にもならないのでほぼ大きさが揃った樹脂粉末が得られるために、破砕粉末のような不具合は発生し難い。このように、噴霧乾燥機を用いれば、体積基準の粒度分布において、頻度がシャープな球状粒子からなる樹脂粉末が得られるので、篩にかけて分級する必要はない。また、磁性粉末及び樹脂成分を混練機で溶融混練して、粉砕式増粒機で切断する必要はないので、得られる樹脂粉末中には金属異物が含まれない。さらに、得られる樹脂粉末の樹脂成分は、熱風と瞬間的に接触するのみであるので熱履歴がほとんどなく、Aステージの状態と評価できる。
【0095】
<第3実施形態>
(1)樹脂粉末
本実施形態の樹脂粉末(以下、樹脂粉末)は、樹脂組成物の球状粒子の集合体と、ナノフィラーとからなる。樹脂組成物は、樹脂成分と、非樹脂成分(本実施形態では電気絶縁性無機粒子及び/又は磁性粒子)と、を含有する。以下、第1実施形態及び第2実施形態と共通する構成については、詳細な説明を省略する。
【0096】
(1.1)樹脂組成物
(1.1.1)ナノフィラー
ナノフィラーとしては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、フェライト、ゼオライト、酸化チタン、及びカーボンブラックなどの顔料が挙げられる。
【0097】
ナノフィラーの含有量は、樹脂粉末に対して、0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましい。ナノフィラーの含有量が上記範囲内であれば、樹脂粉末の流動性を向上させることができる。ナノフィラーの含有量の上限は、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0098】
ナノフィラーの平均粒子径は、樹脂粉末の用途などに応じて適宜選択すればよい。ナノフィラーの平均粒子径の上限は、好ましくは150nm、より好ましくは100nmである。ナノフィラーの平均粒子径の下限は、好ましくは1nm、より好ましくは10nmである。ナノフィラーの平均粒子径が上記範囲内であれば、樹脂粉末の流動性を向上させることができる。ナノフィラーの平均粒子径は、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径をいう。
【0099】
樹脂粉末の流動性の指標として、例えば安息角が挙げられる。安息角とは、樹脂粉末を積み上げたときに自発的に崩れることなく安定を保つ斜面の最大角度のことである。具体的には、安息角は、実施例に記載の方法と同様にして求めることができる。安息角が小さいほど、粉末としての流動性が良好である。さらに充填性も向上する。
【0100】
樹脂粉末の安息角は、好ましくは26°以下、より好ましくは25.5°以下、さらに好ましくは25°以下である。樹脂粉末の安息角の下限は、好ましくは20°以上、より好ましくは21°以上、さらに好ましくは22°以上である。
【0101】
(1.1.2)非樹脂成分及び樹脂成分
非樹脂成分及び樹脂成分については、第1実施形態又は第2実施形態と共通する。
【0102】
(1.2)樹脂粉末の用途
樹脂粉末は、特に限定されないが、例えば、電子部品に用いられる。電子部品は、樹脂粉末の成形体を含む。電子部品としては、特に限定されないが、例えば、トランジスタ、ダイオード、コンデンサ、抵抗、インダクタ(コイル)、及びコネクタなどが挙げられる。
【0103】
(2)樹脂粉末の製造方法
(2.1)スラリーの調製及びスプレードライ法による造粒
スラリーの調製及びスプレードライ法による造粒については、第1実施形態又は第2実施形態と共通する。
【0104】
(2.2)ナノフィラーの添加
樹脂粉末は、スプレードライ法により乾燥粉末を得た後、この乾燥粉末にナノフィラーを添加することで得られる。樹脂組成物の球状粒子同士の間に、これらよりも小さいナノフィラーが介在することで、樹脂粉末の流動性が第1実施形態及び第2実施形態に比べて更に向上する。さらに取扱い性も向上する。
【0105】
<変形例>
第1実施形態の樹脂粉末は、磁性粒子を更に含有してもよい。
【0106】
第2実施形態の樹脂粉末は、電気絶縁性無機粒子を更に含有してもよい。
【0107】
第1~3実施形態の樹脂粉末を含む封止材は、半導体素子以外の電子部品も封止可能である。
【実施例】
【0108】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明するが、本開示は実施例に限定されない。
【0109】
スラリーの原料を以下に示す。
【0110】
[電気絶縁性無機粒子]
・球状アルミナ(デンカ株式会社製の「DAW-07」、D50:8μm)
[磁性粒子]
・磁性粉末(エプソンアトミックス株式会社製の「27μm品」、粒径:27μm)
[樹脂成分]
(エポキシ樹脂)
・ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(DIC株式会社製の「エピクロン850S」)・ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製の「NC-3000」)
(イミド樹脂)
・ビスマレイミド(大和化成工業株式会社製の「BMI-2300」、融点:70~145℃)
・ビスアリルナジイミド(丸善石油化学株式会社製の「BANI-M」、融点:75℃)(硬化剤)
・ジシアンジアミド(日本カーバイド工業株式会社製の「ジシアンジアミド」)
(硬化促進剤)
・2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製の「2E4MZ」)
(カップリング剤)
・エポキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A187」)
(ナノフィラー)
・ナノシリカ(株式会社アドマテックス製の「YA050C-SM1」、粒径:50nm)
以下、樹脂粉末の粒子形状、粒度分布、金属含有量、アセトン不溶分、及び残存溶剤量の測定方法を以下に示す。
【0111】
[粒子形状]
樹脂粉末の粒子形状は、樹脂粉末の平均アスペクト比及び平均円形度を求め、下記基準により評価した。樹脂粉末の平均アスペクト比及び平均円形度は、粒子画像分析装置(マルバーン社(Malvern Instruments Ltd)製の「モフォロギg3(Morphologi G3)」、以下同じ)を用いて、各粒子のアスペクト比及び円形度を測定し、各測定値の平均値から求めた。この装置は、自動乾式分散ユニットにより試料を均一に分散させ、試料の静止画像を解析することにより、試料の物性を測定する。
【0112】
平均アスペクト比が0.80以上、かつ平均円形度が0.90以上である場合、樹脂粉末の粒子形状を「球状」と評価した。平均アスペクト比及び平均円形度が上記条件を満たさない場合、樹脂粉末の粒子形状を「不定形状」と評価した。
【0113】
[粒度分布]
樹脂粉末の粒度分布は、樹脂粉末の体積基準粒度分布を求め、下記基準により評価した。樹脂粉末の体積基準粒度分布は、粒子画像分析装置を用いて測定した。
【0114】
体積基準の粒度分布において、粒子径が50μm以上100μm以下の球状粒子の割合が、樹脂粉末に対して80質量%以上である場合、樹脂粉末の粒度分布を「シャープ」と評価した。粒子径が50μm以上100μm以下の球状粒子の割合が上記条件を満たさない場合、「ブロード」と評価した。
【0115】
[金属異物]
樹脂粉末の金属異物は、下記基準により評価した。誘導結合プラズマ質量分析法(ICP/MS)により樹脂粉末の金属含有量を求めた。得られた金属含有量が樹脂粉末に対して1ppm以下である場合、樹脂粉末の金属異物は「無」と評価した。得られた金属異物が樹脂粉末に対して1ppm超である場合、樹脂粉末の金属含有は「有」と評価した。
【0116】
[アセトン不溶分]
樹脂粉末のアセトン不溶分は、下記基準により評価した。まず、樹脂粉末300gをアセトンに溶解させ、100メッシュの金網にてろ過し、不溶分を取り出す。残留物を薬包紙に落とし、これを秤量し、もとの樹脂の質量300gで除することでアセトン不溶分量(ppm)を計算した。得られたアセトン不溶分量が樹脂粉末に対して1ppm以下である場合、樹脂粉末のアセトン不溶分を「無」と評価した。得られたアセトン不溶分量が樹脂粉末に対して1ppm超である場合、樹脂粉末のアセトン不溶分を「有」と評価した。
【0117】
[残存溶剤量]
樹脂粉末の残存溶剤量は、以下のようにして測定した。樹脂粉末5g相当を163℃/15分間乾燥機中に入れ、揮発分(溶剤)を除去した。乾燥機投入前後での樹脂粉末の質量減量を測定した。乾燥機投入前の樹脂粉末の質量に対する質量減量揮を算出し、これを残存溶剤量とした。
【0118】
[安息角]
安息角は、以下のようにして測定した。まず、樹脂粉末6gを試験管(外径12mm、内径10mm、長さ120mm)に入れる。次に、試験管の開口部を平板で塞ぎ、そのまま試験管を逆さにして、水平な基板の上に置く。次に、平板を水平にスライドさせて外し、試験管をゆっくり垂直に持ち上げる。そして、試験管からこぼれ出て生成された樹脂粉末の円錐状堆積物の直径及び高さから底角を算出し、この底角を安息角とした。
【0119】
(実施例1-1及び実施例1-7)
表1に示す配合割合に従って各成分を配合した樹脂組成物、及び溶剤を混合して、スラリーを得た。溶剤は、メチルエチルケトン(MEK、沸点:79℃)と、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、沸点:153℃)とを、質量比(MEK/DMF)で(7/3)となるように調製したもの(以下、混合溶剤という)を用いた。スラリー中の固形分の含有割合は、スラリーに対して、92質量%であった。
【0120】
得られたスラリーを噴霧乾燥させ、得られた乾燥粉末を一括捕集して、樹脂粉末を得た。噴霧乾燥は、噴霧乾燥機(株式会社プリス製の「P260」、噴霧方式:ロータリーアトマイザー方式、捕集方式:サイクロン捕集方式)を用いて、下記の運転条件で行った。
【0121】
ロータリーアトマイザーの回転数:20000rpm
スラリー供給速度 :2kg/時
熱風温度(入口温度) :100℃
排風温度(出口温度) :60℃
図1は、粒子画像分析装置で撮影した、実施例1-1で得られた樹脂粉末のSEM画像(倍率:100倍)である。
図2Aは、粒子画像分析装置で測定した、実施例1-1で得られた樹脂粉末の個数基準粒度分布のグラフである。
図2Bは、粒子画像分析装置で測定した、実施例1-1で得られた樹脂粉末の体積基準粒度分布のグラフである。
図3Aは、粒子画像分析装置で測定した、実施例1-1で得られた樹脂粉末のアスペクト比のグラフである。
図3Bは、粒子画像分析装置で測定した、実施例1-1で得られた樹脂粉末の円形度のグラフである。
【0122】
図1から、実施例1-1の樹脂粉末を構成する粒子10は、球状であることが確認できた。さらに、
図1から、球状粒子10は、少なくとも1個以上の電気絶縁性無機粒子からなる核体11と、核体11の全体を被覆する樹脂成分12とを有することが確認できた。
図2Aから、樹脂粉末は、個数基準粒度分布において、粒子径が1μm以上10μm以下の範囲と、粒子径が10μm超100μm以下の範囲とに、頻度のピークをそれぞれ1つ有することが確認できた。
図2Bから、体積基準粒度分布において、頻度のピークが1つ存在することが確認できた。
【0123】
実施例1-1で得られた樹脂粉末の平均粒子径は、70μmであった。樹脂粉末の平均粒子径は、粒子画像分析装置で測定した、実施例1-1で得られた樹脂粉末の体積基準粒度分布のメジアン径(D50)である。
【0124】
実施例1-1で得られた樹脂粉末の平均円形度は、0.96であった。実施例1-1で得られた樹脂粉末の平均アスペクト比は、0.86であった。
【0125】
実施例1-1で得られた樹脂粉末において、体積基準粒度分布において、粒子径が50μm以上100μm以下の球状粒子の割合が、球状粒子の集合体に対して81質量%であった。実施例1-7で得られた樹脂粉末の平均粒子径は、実施例1-1と同様にして求めたところ、65μmであった。
【0126】
(実施例1-2~実施例1-6)
表1に示す配合割合に従って各成分(ナノフィラーを除く)を配合した樹脂組成物、及び混合溶剤を混合して、スラリーを得た。実施例1-1と同様にスラリーを噴霧乾燥させて乾燥粉末を得た。この乾燥粉末に表1に示す配合割合に従ってナノフィラーを添加し、均一に分散させて、樹脂粉末を得た。
【0127】
実施例1-2~実施例1-6は、ナノフィラーを含む点で実施例1-1と相違するだけであり、実施例1-2~実施例1-6と実施例1-1とは噴霧乾燥機の運転条件が同じであるので、実施例1-2~実施例1-6の樹脂粉末と、実施例1-1の樹脂粉末とは、粒子形状、粒度分布などの物性評価が同等であると推測される。
【0128】
(実施例2-1)
表1に示す配合割合に従って各成分を配合した樹脂組成物、及び混合溶剤を混合して、スラリーを得た。スラリー中の固形分の含有割合は、スラリーに対して、95質量%であった。スラリー供給速度を2.5kg/時にした他は、実施例1-1と同様にして、樹脂粉末を得た。
【0129】
実施例2-1で得られた樹脂粉末の平均粒子径は、70μmであった。樹脂粉末の平均粒子径は、粒子画像分析装置で測定した、実施例2-1で得られた樹脂粉末の体積基準粒度分布のメジアン径(D50)である。実施例2-1で得られた樹脂粉末の平均円形度は、0.95であった。実施例2-1で得られた樹脂粉末の平均アスペクト比は、0.85であった。
【0130】
実施例2-1の磁性粉末と実施例1-1のアルミナ粒子とは平均粒子径が同等であり、実施例2-1と実施例1-1とは噴霧乾燥機の運転条件が同じであるので、実施例2-1の樹脂粉末と、実施例1-1の樹脂粉末とは、粒子形状、粒度分布などの物性評価が同等であると推測される。
【0131】
(比較例1-1)
表1に示す配合割合に従って各成分を配合した樹脂組成物、及び混合溶剤を二軸混練機に投入し、100℃で混練した。しかし、樹脂組成物の成分であるビスマレイミドの融点が高く、樹脂組成物と溶剤を溶融混練することができなかった。
【0132】
(比較例1-2)
表1に示す配合割合に従って各成分を配合した樹脂組成物、及び混合溶剤を二軸混練機に投入し、100℃で10分間混練し、樹脂組成物及び溶剤の溶融混練物を得た。得られた混練物を冷却し、カッターミルで粉砕して、樹脂粉末を得た。比較例1-2で得られた樹脂粉末の平均粒子径は、目視で確認したところ、1mm超であることが明らかであった。比較例1-2で得られた樹脂粉末を粒子画像分析装置で観察したところ、粒子の形状は角張った破砕状であった。
【0133】
(比較例2-1)
表1に示す配合割合に従って各成分を配合した樹脂組成物、及び混合溶剤を二軸混練機に投入し、100℃で15分間混練し、樹脂組成物及び溶剤の溶融混練物を得た。得られた混練物を冷却し、カッターミルで粉砕して、樹脂粉末を得た。比較例2-1で得られた樹脂粉末の平均粒子径は、目視で確認したところ、1mm超であることが明らかであった。
【0134】
【0135】
[樹脂粉末の嵩高さ]
樹脂粉末の嵩高さは、下記基準により評価した。
【0136】
まず、同体積になるように、実施例1-1で得られた樹脂粉末(比重:3g/cm
3)6gを秤量して試料20を準備した。さらに比較例1-2で得られた樹脂粉末(比重:2g/cm
3)4gをそれぞれ秤量して試料30を準備した。
図4Aは、実施例1-1の試料20の画像である。
図4Bは、比較例1-
2の試料30の画像である。
【0137】
試料20、試料30を別々の試験管(外径12mm、内径10mm、長さ120mm)に入れた後、試験管の底面を3回トントン叩いて試験管の側面に付着した粉末を軽く落とした。
図5Aは、3回叩いた後の試験管中の実施例1-1の試料20及び試験管中に比較例1-2の試料30の画像である。
図5Bは、
図5Aの試験管中の実施例1-1の試料20及び試験管中の比較例1-2の試料30の拡大画像である。
図5A及び
図5B中、左側の試料が実施例1-1の試料20であり、右側の試料が比較例1-2の試料30である。
【0138】
物差で試験管の底面から試料の高さを測定したところ、実施例1-1の試料20の高さは44mm、比較例1-2の試料30の高さは48mmであった。
図5Bから明らかなように、実施例1-1の試料20は、比較例1-2の試料30よりも密に充填していることがわかる。これらの結果から、比較例1-2の試料30は、実施例1-1の試料20よりも嵩高いと評価できる。そのため、実施例1-1の試料20は、比較例1-2の試料30よりも金型のキャビティ内に均一に装入しやすいことがわかった。また、試験管の直径が小さいほど、実施例1-1の試料20と比較例1-2の試料30との嵩高さの評価の差がより顕著となる。すなわち、実施例1-1の試料20は、比較例1-2の試料30よりも狭い隙間に充填できる。
【符号の説明】
【0139】
10 樹脂組成物の球状粒子
11 少なくとも1個以上の電気絶縁性無機粒子からなる核体
12 樹脂成分
20 実施例1-1で得られた試料
30 比較例1-2で得られた試料