(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】ガラス構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 19/06 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
C03B19/06 D
(21)【出願番号】P 2019200777
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-09-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月10日、「第14回 日本セラミックス協会関西支部 学術講演会 講演予稿集」の第55頁にて、「バイオミネラリゼーションを用いたバイオガラスの低温焼結プロセス」のタイトルのもとに公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月10日、「第14回 日本セラミックス協会関西支部 学術講演会」にて、「バイオミネラリゼーションを用いたバイオガラスの低温焼結プロセス」のタイトルで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月1日、「2nd Global Forum on Advanced Materials and Technologies for Sustainable Development(GFMA-2)and 4th International Conference on Innovations in Biomaterials,Biomanufacturing,and Biotechnologies(Bio-4),ABSTRACT BOOK」の第71頁にて、「Low-temperature Sintering Process of Bioactive Glass Nanoparticles Under Hydrothermal Conditions」のタイトルのもとに公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月25日、「2nd Global Forum on Advanced Materials and Technologies for Sustainable Development(GFMAT-2)」にて、「Low-temperature Sintering Process of Bioactive Glass Nanoparticles Under Hydrothermal Conditions」のタイトルで発表
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】関野 徹
(72)【発明者】
【氏名】趙 成訓
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知代
(72)【発明者】
【氏名】徐 寧浚
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-261315(JP,A)
【文献】特開2010-241617(JP,A)
【文献】Yeongjun Seo et al.,Synthesis of Sol-Gel Derived Bioactive Glass Nanoparticles and Their Low-temperature Sintering,第59回ガラスおよびフォトニクス材料討論会講演要旨集,2018年09月,2D0930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/06,
C01B 25/00-25/46,
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO
2、CaO及びP
2O
5を含む複数のガラス粒子と、
前記ガラス粒子同士を結合し、フッ素を含むアパタイトを含有する結合部と、
を備え、
気孔率が15%以下である、ガラス構造体。
【請求項2】
Cu-Kα線で測定したX線回折パターンにおいて、
2θ=25.0°以上26.0°以下、
2θ=31.0°以上33.0°以下、及び、
2θ=39.0°以上40.0°以下、に回折ピークを有する結晶相を含有する、請求項1に記載のガラス構造体。
【請求項3】
前記ガラス粒子におけるSiO
2の組成比が20質量%以上である、請求項1又は2に記載のガラス構造体。
【請求項4】
前記ガラス粒子におけるCaOの組成比が20質量%以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス構造体。
【請求項5】
前記ガラス粒子におけるP
2O
5の組成比が50質量%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス構造体。
【請求項6】
前記ガラス粒子はアパタイト形成能を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のガラス構造体。
【請求項7】
SiO
2、CaO及びP
2O
5を含む複数のガラス粒子と、カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液とを混合して、混合物を調製する工程と、
前記混合物を加熱及び加圧する工程と、
を有する、ガラス構造体の製造方法。
【請求項8】
前記混合物を加熱する際の温度は40℃以上300℃以下である、請求項7に記載のガラス構造体の製造方法。
【請求項9】
前記混合物を加圧する際の圧力は1MPa以上である、請求項7又は8に記載のガラス構造体の製造方法。
【請求項10】
前記混合物を加熱及び加圧する時間は10分以上である、請求項7から9のいずれか一項に記載のガラス構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスからなる無機部材の製造方法として、従来より焼結法が知られている。焼結法は、無機物質からなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。しかしながら、焼結法は、固体粉末を高温で加熱する必要があることから、製造時のエネルギー消費が大きく、コストが掛かるという問題がある。そのため、無機物質からなる固体粉末を低温で結合させる方法の開発が行われている。
【0003】
非特許文献1では、無機物質としてバイオガラスを用いて低温焼結を行う方法が開示されている。具体的には、SiO2-CaO-P2O5からなるバイオガラスのナノ粒子に水溶液を加えた後、室温から200℃まで加熱しつつ、数百MPaで加圧することにより、バイオガラスナノ粒子の焼結体が得られることが開示されている。また、非特許文献1では、SiO2-CaO-P2O5からなるバイオガラスのナノ粒子がゾルゲル法で合成できることが開示されている。この低温焼結法では、バイオガラスナノ粒子の加熱温度が200℃程度であることから、製造時のエネルギー消費を大きく低減することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】関野 徹、“Synthesis of Sol-Gel Derived Bioactive Glass Nanoparticles and Their Low-temperature Sintering”、2018年7月22日、12th International Conference on Ceramic Materials and Components for Energy and Environmental Applications (CMCEE)予稿集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1で開示されたバイオガラスナノ粒子の焼結体において、バイオガラスナノ粒子同士を連結している結合部には、非晶質のヒドロキシアパタイトが含まれている。しかしながら、ヒドロキシアパタイトは耐酸性が低いため、焼結体全体の耐酸性も不十分になるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、低温焼結法で製造することができ、かつ、耐酸性に優れたガラス構造体、及びガラス構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様に係るガラス構造体は、SiO2、CaO及びP2O5を含む複数のガラス粒子と、当該ガラス粒子同士を結合し、フッ素を含むアパタイトを含有する結合部と、を備える。そして、ガラス構造体は、気孔率が15%以下である。
【0008】
本発明の第二の態様に係るガラス構造体の製造方法は、SiO2、CaO及びP2O5を含む複数のガラス粒子と、カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液とを混合して、混合物を調製する工程と、当該混合物を加熱及び加圧する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、低温焼結法で製造することができ、かつ、耐酸性に優れたガラス構造体、及びガラス構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るガラス構造体の一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】ガラス粒子の表面にフルオロアパタイト及びヒドロキシアパタイトが生成するメカニズムを説明するための概略図である。
【
図3】(a)は、ガラス構造体の製造工程において、隣接するガラス粒子の間に水溶液が存在する状態を示す概略図である。(b)は、隣接するガラス粒子の間にフルオロアパタイト及びヒドロキシアパタイトを含む結合部が形成された状態を示す概略図である。
【
図4】(a)は、試験サンプル1~4のX線回折パターン、並びに、JCPDS 15-0876として登録されたフルオロアパタイトのX線回折パターンを示すグラフである。(b)は、試験サンプル1~5のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図5】走査型電子顕微鏡で観察した試験サンプル1~4の反射電子像を示す図である。
【
図6】試験サンプル1~4に対し、エネルギー分散型X線分析法(EDX)により、フッ素のマッピング分析を行った結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本実施形態に係るガラス構造体及びガラス構造体の製造方法について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
[ガラス構造体]
本実施形態のガラス構造体1は、
図1に示すように、複数のガラス粒子2を含んでいる。そして、隣接するガラス粒子2同士が互いに結合することにより、ガラス粒子2が連結してなるガラス構造体1を形成している。さらに、隣接するガラス粒子2の間には、気孔3が存在している。
【0013】
ガラス粒子2は、少なくとも二酸化ケイ素(SiO2)、酸化カルシウム(CaO)及び五酸化二リン(P2O5)を含んでいる。また、ガラス粒子2は、少なくともSiO2、CaO及びP2O5を含むバイオガラスからなることが好ましい。バイオガラスは、生体内にて、その表層にヒドロキシアパタイトを形成することにより、骨と結合する性質を有する。このようなバイオガラスとしては、SiO2、CaO及びP2O5からなるSiO2-CaO-P2O5;SiO2、CaO、Na2O及びP2O5からなるSiO2-CaO-Na2O-P2O5;SiO2、CaO、Na2O、P2O5、K2O及びMgOからなるSiO2-CaO-Na2O-P2O5-K2O-MgO;SiO2、CaO、Al2O及びP2O5からなるSiO2-CaO-Al2O-P2O5からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0014】
ここで、ガラス粒子2におけるSiO2の組成比は、20質量%以上であることが好ましい。また、ガラス粒子2におけるCaOの組成比は、20質量%以上であることが好ましい。さらに、ガラス粒子2におけるP2O5の組成比は、50質量%以下であることが好ましい。後述するように、隣接するガラス粒子2は結合部を介して結合しており、さらに結合部は、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)に由来するフッ素含有アパタイトを含有している。そのため、ガラス粒子2におけるSiO2、CaO及びP2O5の組成比が上記範囲内であることにより、後述する製造方法により、ヒドロキシアパタイト及びそれに由来するフッ素含有アパタイトの生成を促進することができる。なお、必要に応じて、ガラス粒子2はフッ素を含んでもよい。これにより、フッ素含有アパタイトの生成を促進することができる。
【0015】
ガラス構造体1を構成するガラス粒子2の平均粒子径は特に限定されないが、5nm以上10μm以下であることが好ましく、10nm以上0.2μm以下であることがより好ましい。ガラス粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、ガラス粒子2同士が強固に結合し、ガラス構造体1の強度を高めることができる。また、ガラス粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、後述するように、ガラス構造体1の内部に存在する気孔3の割合が15%以下となることから、ガラス構造体1の強度を高めることが可能となる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0016】
ガラス粒子2の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、ガラス粒子2は、立方体および直方体を含む多面体状の粒子、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。多面体状粒子、ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性が高まるため、ガラス構造体1全体の強度を高めることが可能となる。
【0017】
上述のように、ガラス構造体1は、ガラス粒子2の粒子群により構成されている。つまり、ガラス構造体1は、バイオガラスを主体にしてなる複数のガラス粒子2により構成されており、ガラス粒子2同士が互いに結合することにより、ガラス構造体1が形成されている。この際、ガラス粒子2同士は、点接触の状態であってもよく、ガラス粒子2の粒子面同士が接触した面接触の状態であってもよい。
【0018】
ガラス構造体1において、隣接するガラス粒子2は、フッ素含有アパタイトを含有する結合部を介して結合している。後述するように、ガラス構造体1は、ガラス粒子2と、カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液との混合物を加圧しながら加熱することにより、形成することができる。そして、当該混合物を加圧しながら加熱した際、ガラス粒子2の表面にはフッ素含有アパタイトが生成するため、フッ素含有アパタイトにより隣接するガラス粒子2同士を連結することができる。
【0019】
ここで、アパタイトとは、本来、組成式:M10(ZO4)6(X)2で表される鉱物名であるが、当該組成を有する合成化合物の総称としても用いられている。組成式:M10(ZO4)6(X)2において、Mにはアルカリ土類金属及び鉛の少なくとも一方が配位することができる。また、ZにはP、As、V及びSからなる群より選ばれる少なくとも一つ、XにはF、Cl、Br、OH、O及びCO3からなる群より選ばれる少なくとも一つが配位することができる。そのため、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)において、X位置のOH-は、F-、Cl-又はCO3
2-と置換することができる。
【0020】
上述のように、非特許文献1の焼結体は、非晶質のヒドロキシアパタイトを含有している。ただ、ヒドロキシアパタイト、特に非晶質のヒドロキシアパタイトは耐酸性に劣ることが知られている。そのため、仮に結合部がヒドロキシアパタイトのみからなる場合、酸によりヒドロキシアパタイトが溶解し、焼結体の機械的強度が低下する場合がある。したがって、本実施形態のガラス構造体1では、結合部は、フッ素を含むアパタイトを含有している。フッ素含有アパタイトは、ヒドロキシアパタイトに比べて耐酸性に優れていることが知られている。そのため、フッ素含有アパタイトが結合部に含まれることにより、結合部の耐酸性を高め、ガラス構造体全体の耐酸性も向上させることが可能となる。なお、フッ素を含むアパタイトとしては、フルオロアパタイト(Ca10(PO4)6(F)2)、及び(Ca10(PO4)6((OH)1-xFx))2を挙げることができる。
【0021】
上述のように、隣接するガラス粒子2を連結する結合部は、少なくともフッ素含有アパタイトを含有しており、フッ素含有アパタイトが主成分であることが好ましい。また、結合部は、フッ素含有アパタイトからなる部位であってもよい。ただ、後述するように、結合部に含まれるフッ素含有アパタイトは、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)のOH-がF-と置換することにより生成する。そのため、結合部には、フッ素含有アパタイトに加えてヒドロキシアパタイトが含まれていてもよい。また、上述のように、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)において、OH-は、Cl-又はCO3
2-と置換することができる。そのため、結合部は、例えば、ヒドロキシアパタイトの一部のOH-がCl-又はCO3
2-と置換したアパタイトが含まれていてもよい。さらに、結合部は、アパタイトの他に、ガラス粒子2に由来する成分、又は、カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液に由来する成分が含まれていてもよい。
【0022】
ガラス構造体1の結合部において、フッ素含有アパタイトは、非晶質であってもよく、結晶質であってもよい。フッ素含有アパタイトは、結晶構造に関わらず、ヒドロキシアパタイトよりも耐酸性に優れている。ただ、結合部において、フッ素含有アパタイトの少なくとも一部は結晶質であることが好ましい。結晶質のフッ素含有アパタイトは、非晶質のものと比べて機械的強度が高い性質を有する。そのため、結合部に含まれるフッ素含有アパタイトの少なくとも一部が結晶質の場合には、結合部の機械的強度が高まることから、ガラス構造体1の機械的強度も向上することができる。
【0023】
ガラス構造体1の断面における気孔率は15%以下であることが好ましい。つまり、ガラス構造体1の断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が15%以下であることが好ましい。気孔率が15%以下の場合、ガラス粒子2同士が結合する割合が増加するため、ガラス構造体1が緻密になり、機械的強度を向上させることが可能となる。また、気孔率が15%以下の場合には、気孔3を起点として、ガラス構造体1にひび割れが発生することが抑制されるため、ガラス構造体1の曲げ強さを高めることが可能となる。なお、ガラス構造体1の断面における気孔率は10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ガラス構造体1の断面における気孔率が小さいほど、気孔3を起点としたひび割れが抑制されるため、ガラス構造体1の強度を高めることが可能となる。
【0024】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、ガラス構造体1の断面を観察し、ガラス粒子2及び気孔3を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔3の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔3の割合を求める。このような単位面積あたりの気孔3の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔3の割合の平均値を気孔率とする。なお、ガラス構造体1の断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔3の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0025】
ガラス構造体1の内部に存在する気孔3の大きさは特に限定されないが、可能な限り小さい方が好ましい。気孔3の大きさが小さいことにより、気孔3を起点としたひび割れが抑制されるため、ガラス構造体1の機械的強度を高めることが可能となる。なお、ガラス構造体1の気孔3の大きさは、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。ガラス構造体1の内部に存在する気孔3の大きさは、上述の気孔率と同様に、ガラス構造体1の断面を顕微鏡で観察することにより、求めることができる。
【0026】
ガラス構造体1は、ガラス粒子2同士が結合部を介して互いに結合しており、気孔率が15%以下である構造を有していればよい。そのため、ガラス構造体1はこのような構造を有していれば、その形状は限定されない。ガラス構造体1の形状は、例えば板状、膜状、矩形状、塊状、棒状、球状とすることができる。また、ガラス構造体1が板状又は膜状の場合、その厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。本実施形態のガラス構造体1は、後述するように、加圧加熱法により形成している。そのため、厚みの大きなガラス構造体1を容易に得ることができる。なお、ガラス構造体1の厚みtは1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。ガラス構造体1の厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0027】
このように、本実施形態のガラス構造体1は、SiO2、CaO及びP2O5を含む複数のガラス粒子2と、ガラス粒子2同士を結合し、フッ素を含むアパタイトを含有する結合部と、を備える。そして、ガラス構造体1の気孔率が15%以下である。ガラス構造体1は、複数のガラス粒子2がフッ素含有アパタイトを含有する結合部4を介して結合している。フッ素含有アパタイトにより結合部の耐酸性が高まることから、ガラス構造体1の耐酸性も向上することが可能となる。さらに、ガラス構造体1は気孔率が15%以下であることから、ガラス粒子2が緻密に配置され、ガラス構造体1の機械的強度が高まる。そのため、ガラス構造体1は、高い機械加工性を有することができる。
【0028】
また、ガラス構造体1は、Cu-Kα線で測定したX線回折パターンにおいて、回折角2θ=25.0°以上26.0°以下、2θ=31.0°以上33.0°以下、及び、2θ=39.0°以上40.0°以下、に回折ピークを有する結晶相を含有することが好ましい。ガラス構造体1に対してX線回折測定を行い、上記範囲内に回折ピークを有する場合には、ガラス構造体1は、結晶質のフッ素含有アパタイトを含有していることになる。そして、この場合、結合部は結晶質のフッ素含有アパタイトを含有していることから、ガラス構造体1の機械的強度を高めることが可能となる。
【0029】
ガラス粒子2は、アパタイト形成能を有することが好ましい。後述するように、ガラス構造体1は、ガラス粒子2と、カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液との混合物を加圧しながら加熱することにより、形成することができる。そのため、ガラス粒子2が上記水溶液と反応し、アパタイトを形成する作用を有する場合には、フッ素含有アパタイトを含有する結合部を効率的に生成し、ガラス粒子2同士を強固に結合することが可能となる。
【0030】
[ガラス構造体の製造方法]
次に、本実施形態に係るガラス構造体1の製造方法について説明する。ガラス構造体1の製造方法は、複数のガラス粒子2と、カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液とを混合して、混合物を調製する工程と、当該混合物を加熱及び加圧する工程と、を有する。
【0031】
本実施形態に係るガラス構造体1の製造方法は、生物が自身の体内に鉱物(無機化合物)を作り出す生物鉱物形成作用、いわゆるバイオミネラリゼーション反応を利用した方法である。つまり、上述のように、ガラス粒子2は、その成分中にCaOとP2O5を含んでいるため、体液と反応し、表面にアパタイトを生成する性質を有する。ガラス構造体1の製造方法は、このメカニズムを利用し、上記水溶液とガラス粒子2とを加熱しながら加圧することにより、水溶液とガラス粒子2とを反応させ、ヒドロキシアパタイト由来のフッ素含有アパタイトを含む結合部を形成している。
【0032】
具体的には、まず、ガラス粒子2と、カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液と混合して混合物を調製する。SiO2、CaO及びP2O5を含むガラス粒子2の調製方法は特に限定されないが、例えばSiO2、CaO及びP2O5の前駆体を用いて、ゾルゲル法により調製することができる。SiO2の前駆体としては、例えばオルトけい酸テトラエチル(Si(OC2H5)4)を用いることができる。CaOの前駆体としては、例えば硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O)を用いることができる。P2O5の前駆体としては、例えばリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)を用いることができる。
【0033】
水溶液と混合するガラス粒子2の平均一次粒子径は特に限定されないが、5nm以上10μm以下であることが好ましく、10nm以上0.2μm以下であることがより好ましい。ガラス粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、水溶液との反応性を高め、結合部を容易に形成することが可能となる。
【0034】
カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液としては、例えば、フッ素を含有する疑似体液を使用することができる。疑似体液は、無機イオン濃度をヒトの細胞外液とほぼ等しくした水溶液であり、この溶液を用いることにより、体内における材料表面の反応を生体外でも簡便に予測することができる。そして、SiO2、CaO及びP2O5を含むガラス粒子2は、疑似体液と反応して、ガラス粒子2の表面にヒドロキシアパタイトを生成する性質を有する。そのため、水溶液として疑似体液を用いることにより、ヒドロキシアパタイトを容易に生成することができる。なお、疑似体液の組成の一例を、ヒトの血漿の組成と共に表1に示す。
【0035】
ここで、通常、疑似体液にはフッ素が含まれていない。そのため、本実施形態の製造方法では、疑似体液中の塩化物イオン(Cl-)の一部をフッ素イオン(F-)と置換することにより、疑似体液中にフッ素を含ませたものを、上記水溶液として使用することが好ましい。なお、フッ素を含有する疑似体液の組成の一例を表1に合わせて示す。
【0036】
【0037】
ガラス粒子2に対する水溶液の添加量は、バイオミネラリゼーション反応が十分に進行する量であることが好ましい。水溶液の添加量は、ガラス粒子2に対して1~200質量%であることが好ましく、7~100質量%であることがより好ましい。
【0038】
次いで、ガラス粒子2と水溶液とを混合してなる混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、ガラス粒子2が高充填化し、ガラス粒子2の粒子同士が互いに結合することで高密度化する。つまり、ガラス粒子2と水溶液とを混合してなる混合物を加熱しながら加圧した場合、
図2に示すバイオミネラリゼーション反応が進行する。
【0039】
詳細に説明すると、
図2及び
図3(a)に示すように、ガラス粒子2が水溶液4aと接触すると、ガラス粒子2から水溶液4aにカルシウムイオン(Ca
2+)が溶出すると共に、ガラス粒子2の表面に多量のシラノール(Si-OH)基が生成する。そして、シラノール基がアパタイトの不均一核形成を誘起し、一方で溶出したCa
2+が周囲の水溶液4aにおけるアパタイトの過飽和度を上昇させ、アパタイトの核形成を促進する。このようにして形成されたアパタイトの核は、周囲の水溶液4aからカルシウムイオンとリン酸一水素イオンを取り込み、アパタイト層を生成する。
【0040】
ここで、アパタイト層に含まれるヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)のOH-は、疑似体液中に含まれるF-と容易に置換される。そのため、アパタイト層中のヒドロキシアパタイトは、フッ素含有アパタイト、つまりフルオロアパタイト(Ca10(PO4)6(F)2)になる。
【0041】
その後、隣接するガラス粒子2に表面に生成したアパタイト層同士が結合することにより、
図3(b)に示すように、隣接するガラス粒子2のネッキング部に、フッ素含有アパタイトを含有する結合部4が形成される。ここで、ガラス粒子2と水溶液とを混合してなる混合物の加熱加圧時間を長くすることにより、フッ素含有アパタイトの結晶化が進行し、結晶質のフッ素含有アパタイトの割合が増加する。そのため、混合物の加熱及び加圧工程を所定時間行うことにより、結晶質のフッ素含有アパタイトを含む結合部4を形成することができる。
【0042】
なお、ガラス粒子2と水溶液とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、ガラス粒子2と当該水溶液との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、ガラス粒子2と水溶液とを混合してなる混合物を、40℃以上300℃以下に加熱しつつ、1MPaの圧力で加圧することが好ましい。さらに、当該混合物を加熱及び加圧する時間は、10分以上であることが好ましい。このような条件により、フッ素含有アパタイトを含む結合部4を容易に形成することができる。なお、混合物を加圧する際の圧力は、1~1000MPaであることが好ましく、10~500MPaであることがより好ましい。また、混合物を加熱及び加圧する際の時間は、1分~24時間であることが好ましく、30分~12時間であることがより好ましい。
【0043】
最後に、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複数のガラス粒子2同士が結合部4を介して結合したガラス構造体1を得ることができる。
【0044】
このように、本実施形態のガラス構造体1の製造方法は、SiO2、CaO及びP2O5を含む複数のガラス粒子2と、カルシウム、リン及びフッ素を含有し、pHが4.0以上である水溶液とを混合して、混合物を調製する工程を有する。ガラス構造体1の製造方法は、さらに、当該混合物を加熱及び加圧する工程を有する。なお、混合物を加熱する際の温度は、40℃以上300℃以下であることが好ましい。また、混合物を加圧する際の圧力は、1MPa以上であることが好ましい。さらに、混合物を加熱及び加圧する時間は、10分以上であることが好ましい。本実施形態の製造方法では、このような低温条件下でガラス構造体1を成形することから、製造時のエネルギー消費が少なくなり、製造コストを抑制することが可能となる。
【0045】
[ガラス構造体を備える部材]
次に、本実施形態に係るガラス構造体1を備える部材について説明する。本実施形態のガラス構造体1は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができる。また、ガラス構造体1は、機械的強度が高く、一般的なセラミックス部材と同様に切断することができると共に、表面加工することもできる。そのため、ガラス構造体1は、建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては特に限定されないが、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。
【0046】
なお、一般的にヒドロキシアパタイトは、透光性を有する。そのため、ガラス構造体1は、結合部4において透光性を有する場合がある。そして、結合部4が透光性を有する場合には、ガラス構造体全体の意匠性も高めることが可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本実施形態のガラス構造体をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0048】
[試験サンプル1~4の作製]
まず、SiO2-CaO-P2O5からなる三成分系バイオガラスのナノ粒子を調製した。具体的には、前駆体としてオルトけい酸テトラエチル(Si(OC2H5)4)、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O)、及びリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)を準備した。次に、9.167gのオルトけい酸テトラエチルと7.639gの硝酸カルシウム四水和物を、超純水とエタノールの混合溶液に投入した。なお、当該混合溶液における超純水とエタノールの比率は、2mol:1molとした。そして、この混合溶液を、1.087gのリン酸水素二アンモニウムを含有する超純水に投入し、アンモニア水でpHを11に調節しつつ、48時間混合した。その後、混合溶液を24時間熟成させ、遠心分離を行うことにより、白色ゲルを得た。次に、得られたゲルを、6000g/molのポリエチレングリコール水溶液(1%(w/v))と混合し、凍結乾燥した。最後に、凍結乾燥後のゲル粉末を700℃で仮焼することで、バイオガラスナノ粒子を得た。この方法により合成したバイオガラスナノ粒子は、透過型電子顕微鏡による解析の結果、平均一次粒子径が約28nmであった。
【0049】
次に、0.3gのバイオガラスナノ粒子と、フッ素入り疑似体液とを混合することにより、混合物を得た。なお、フッ素入り疑似体液は、蒸留水、NaCl、NaHCO3、KCl、K2HPO4・3H2O、MgCl2・6H2O、CaCl2、Na2SO4、KFの各試薬、pH調節用のトリスヒドロキシメチルアミノメタン((CH2OH)3CNH2) 緩衝剤及び1Mの塩酸(HCl)を表1に示す組成となるように混合することで調製した。また、フッ素入り疑似体液は、バイオガラスナノ粒子に対して43質量%となるように混合した。
【0050】
次いで、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型の内部に投入した。そして、当該混合物を、120℃、300MPaの条件で加熱及び加圧を行った。なお、加熱加圧時間は、0.5時間、1.0時間、2.0時間又は6.0時間とした。ここで、加熱加圧時間を0.5時間としたサンプルを試験サンプル1とし、1.0時間としたサンプルを試験サンプル2とした。また、加熱加圧時間を2.0時間としたサンプルを試験サンプル3とし、6.0時間としたサンプルを試験サンプル4とした。このようにして、加熱加圧時間が異なる試験サンプル1~4を得た。
【0051】
[試験サンプル5の作製]
まず、上述と同様にして、平均一次粒子径が28nm程度のバイオガラスナノ粒子を調製した。
【0052】
次に、0.3gのバイオガラスナノ粒子と、フッ素を含んでいない疑似体液とを混合することにより、混合物を得た。なお、フッ素を含んでいない疑似体液は、表1に示す成分を含有しており、さらにバイオガラスナノ粒子に対して40質量%となるように混合した。
【0053】
次いで、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型の内部に投入した。そして、当該混合物を、120℃、300MPa、0.5時間の条件で加熱及び加圧を行った。このようにして、フッ素を含んでいない試験サンプル5を得た。
【0054】
[評価]
(X線回折測定)
上述のようにして得られた試験サンプル1~5について、X線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した。X線回折装置は、ブルカー社製のX線回折装置、D8 ADVANCEを用いた。なお、X線回折パターンは、管電圧が40kV、管電流が40mA、回折角2θが10°~60°、ステップサイズが0.02°の条件で測定した。
図4(a)では、試験サンプル1~4のX線回折パターン、及び、JCPDS 15-0876として登録されたフルオロアパタイトのX線回折パターンを示す。また、
図4(b)では、試験サンプル1~5のX線回折パターンを示す。
【0055】
図4(a)に示すように、試験サンプル2~4では、フルオロアパタイトに由来する回折ピークが認められた。具体的には、試験サンプル2~4では、Cu-Kα線で測定したX線回折パターンにおいて、2θ=25.0°以上26.0°以下、2θ=31.0°以上33.0°以下、及び、2θ=39.0°以上40.0°以下、に回折ピークが認められた。そのため、試験サンプル2~4は、結晶質のフルオロアパタイトを含有することが分かる。
【0056】
なお、加熱加圧時間が0.5時間の試験サンプル1では、フルオロアパタイトに由来する回折ピークを認めることができなかった。そのため、試験サンプル1では、結晶質のフルオロアパタイトを含んでいないことが分かる。
【0057】
なお、
図4(b)より、加熱加圧時間が0.5時間の試験サンプル5では、フルオロアパタイトに由来する回折ピークを認めることができず、さらに他の成分の回折ピークも認めることができなかった。そのため、試験サンプル5では、少なくとも結晶質のアパタイトを含んでいないことが分かる。
【0058】
(相対密度測定)
試験サンプル1~4について、相対密度を測定した。なお、相対密度は、試験サンプルの密度をアルキメデス法により測定した値を、バイオガラスの密度で除した値とした。その結果、試験サンプル1の相対密度は82%であり、試験サンプル2の相対密度は85%であり、試験サンプル3の相対密度は88%であり、試験サンプル4の相対密度は89%であった。つまり、試験サンプルの加熱加圧時間が長くなるにつれて、相対密度が高まり、構造体が緻密になることが分かる。
【0059】
(走査型電子顕微鏡観察)
まず、オスミウム・プラズマコーターを用いて、試験サンプル2~6の断面に、非晶質のオスミウム金属被膜を形成した。なお、オスミウム・プラズマコーターは、SPI Supplies社製のオスミウム・プラズマコーターOPC-60Aを用いた。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、オスミウム金属被膜を形成した試験サンプル2~6の断面について、反射電子像を観察した。なお、走査型電子顕微鏡は、(株)日立ハイテクノロジーズ製の超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡SU9000を用い、加速電圧を30keVとした。
【0060】
図5では、試験サンプル1~4の反射電子像を示しており、各写真の右上には拡大写真を示す。また、各写真の左上には、各試験サンプルの相対密度を示す。
図5より、試験サンプルの加熱加圧時間が長くなるにつれて、試験サンプルの断面に存在する気孔の数が少なくなり、構造体が緻密になることが分かる。
【0061】
また、
図5の試験サンプル1~4の反射電子像から気孔部分の面積割合を算出し、気孔率を求めた。その結果、試験サンプル1~4の気孔率は、全て15%以下であった。
【0062】
(エネルギー分散型X線分析法(EDX)による成分分析)
試験サンプル1~5について、エネルギー分散型X線分析法により元素分析を行った。なお、エネルギー分散型X線分析装置としては、株式会社堀場製作所製のものを使用した。試験サンプル1~5に対する元素分析の結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表2に示すように、試験サンプル2~4はフッ素を含んでおり、さらに、上述のように、試験サンプル2~4は、フルオロアパタイトの回折ピークが観測されることから、これらの試験サンプルの結合部は、結晶質のフルオロアパタイトを含むことが分かる。また、試験サンプル1もフッ素を含んでいることから、上述のメカニズムより、試験サンプル1の結合部には、非晶質のフルオロアパタイトが含まれていると推測される。
【0065】
なお、表2に示すように、試験サンプル5には、フッ素が含まれていないことから、結合部にフルオロアパタイトが含まれていないことが分かる。
【0066】
また、
図6では、試験サンプル1~4に対し、エネルギー分散型X線分析法(EDX)により、フッ素のマッピング分析を行った結果を示している。
図6より、試験サンプル1~4いずれも、試験サンプルの表面でフッ素原子が高分散していることが分かる。
【0067】
このように、本実施形態に係る試験サンプル1~4は、耐酸性に優れるフルオロアパタイトを含んでいることから、試験サンプル1~4に係るガラス構造体は耐酸性に優れることが分かる。さらに、試験サンプル2~4は、結晶質のフルオロアパタイトを含んでいることから、ガラス構造体の機械的強度も向上することが分かる。また、バイオガラスナノ粒子とフッ素入り疑似体液との混合物の加熱加圧時間が長くなるにつれて、ガラス構造体の相対密度が高まり、フルオロアパタイトの結晶化が進行するため、ガラス構造体の機械的強度も向上することが分かる。
【0068】
(耐酸性試験)
試験サンプル4及び5について、耐酸性試験を行った。具体的には、試験サンプル4及び5について、次の方法で、酸に対する成分の溶出量を比較した。
【0069】
まず、容量30mLのプラスチック容器に、濃度3%の塩酸水溶液を6mL入れた後、塩酸水溶液に各試験サンプル片を浸漬した。そして、試験サンプル片を室温で1時間浸漬した後、塩酸水溶液から試験サンプル片を取り出した。
【0070】
次に、試験サンプル片を取り出した後の溶液を18mLのイオン交換水で希釈した後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により、溶液中のカルシウム(Ca)およびリン(P)のイオン濃度を測定した。そして、試験サンプルから塩酸水溶液に対する、カルシウム(Ca)およびリン(P)の溶出量を求めた。なお、ICP-AESの測定には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置iCAP7400 Duoを用いた。試験サンプル4及び試験サンプル5における、サンプル質量当たりの各イオンの溶出量を表3に示す。
【0071】
【0072】
表3に示すように、試験サンプル5よりも試験サンプル4の方が各イオンの溶出量が少ないことが認められた。このことから、フッ素を含む試験サンプル4の方が、フッ素を含まない試験サンプル5よりも耐酸性が高いことが分かった。
【0073】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【符号の説明】
【0074】
1 ガラス構造体
2 ガラス粒子
3 気孔
4 結合部
4a 水溶液