(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】段ボール原紙、及び段ボール
(51)【国際特許分類】
D21H 27/10 20060101AFI20231127BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20231127BHJP
D21H 27/30 20060101ALI20231127BHJP
D21H 19/38 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
D21H27/10
B65D65/02 E
D21H27/30 B
D21H19/38
(21)【出願番号】P 2019101711
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519196704
【氏名又は名称】株式会社氷感
(73)【特許権者】
【識別番号】501425049
【氏名又は名称】旭紙業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 清
(72)【発明者】
【氏名】秋山 隆二
(72)【発明者】
【氏名】工藤 康弘
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-005808(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105638845(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 27/10
B65D 65/02
D21H 27/30
D21H 19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層の原紙で構成され、少なくともいずれか一層の前記原紙が
JIS K 6271に準拠して測定した表面抵抗率が0.1~100万Ω/Sqである電場雰囲気が存在する保存庫用の包装材で構成されている、ことを特徴とする段ボール原紙。
【請求項2】
電場雰囲気が存在する保存庫用の段ボールであって、
前記段ボールは少なくとも表原紙及び裏原紙が積層されて形成されたものであり、
前記表原紙の裏面に導電性が付与され、かつ前記裏原紙の裏面に防湿性が付与されている、ことを特徴とする段ボール。
【請求項3】
電場雰囲気が存在する保存庫用の段ボールであって、
前記段ボールは少なくとも表原紙及び裏原紙が積層されて形成されたものであり、
前記表原紙の裏面に、カーボンブラックが含有された水性樹脂を有する導電性塗工剤が塗布され、かつ前記裏原紙の裏面に、顔料を有する防湿性塗工剤が塗布され、
前記導電性塗工剤の塗布量が0.04~6.0g/m
2であり、前記防湿性塗工剤が2.0~12.0g/m
2である、ことを特徴とする段ボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段ボール原紙、及び段ボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電場雰囲気で食品を冷蔵保存する方法、いわゆる氷感技術を利用した冷蔵設備には通電性電極をフロアに設置し、そのフロア上に直接段ボール箱等からなる保管用ケースを段積みする方法(直接方式)と通電性電極を壁面等に設置し、その壁面等から離して段ボール箱等からなる保管用ケースを置く方法(間接方式)があるが、いずれの場合も通電性電極から距離が離れるほど、電場雰囲気が弱くなる。また、例えば、保管用ケースが段ボール箱であり、保管物が青果物である場合等においては、青果物から蒸散する水分が段ボール箱に吸収され、段ボール箱の強度が低下したり、蒸散した水分が段ボール箱外に放出することで青果物が萎びたりすることがあり、青果物の鮮度保持期間を長期間保つ上での障害となり得る。
【0003】
電場雰囲気のバラツキを軽減する方法としては、通電性電極に保管ケースを直接又は間接的に接触させる通電チェーンを設ける方法(例えば、特許文献1等参照。)や、導電性のシートで保管用ケースを覆う方法、通電性電極上に導電性の部材で組んだ段で仕切られたラックを設置し、ラックの各段に保管用ケースを置く方法(直接方式)、通電性電極上に保管用ケースを平置きする保法(直接方式)等が存在する。また、段ボール箱内を多湿に保つ方法としては、発泡スチロールのケースを使う方法や、青果物を内装袋に入れた後、保管用ケースに入れる方法等が存在する。
【0004】
しかしながら、通電チェーンを設ける方法や導電性のシートで保管用ケースを覆う方法によると、段積みした段ボール箱間や段ボール箱内の電場雰囲気にバラツキが生じやすく、段ボール箱内の青果物の鮮度にバラツキが生じる可能性がある。また、導電性の部材で組んだ段で仕切られたラックを設置する方法によると、単位体積当りの保管量が制約され、しかも保管ラックへのハンドリングが煩瑣になる。一方、発泡スチロールのケースを使う方法は、箱内を多湿に保つことは出来るが、通電性が阻害されるとの問題を有する。また、青果物を内装袋に入れる方法は、手間がかかるとともに、余分な包材がかかるとの問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする主たる課題は、電場雰囲気で食品を冷蔵保存する方法に適する段ボール原紙、及び段ボールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
【0008】
(参考となる手段1)
電場雰囲気が存在する保存庫用の包装材であり、
JIS K 6271-1に準拠して測定した表面抵抗率が0.1~100万Ω/Sqである、ことを特徴とする包装材。
【0009】
(参考となる手段2)
JIS Z 208に準拠して測定した透湿度が20~500g/m2・24hrである、参考となる手段1に記載の包装材。
【0010】
(請求項1に記載の手段)
複数層の原紙で構成され、少なくともいずれか一層の前記原紙がJIS K 6271に準拠して測定した表面抵抗率が0.1~100万Ω/Sqである電場雰囲気が存在する保存庫用の包装材で構成されている、ことを特徴とする段ボール原紙。
【0011】
(請求項2に記載の手段)
電場雰囲気が存在する保存庫用の段ボールであって、
前記段ボールは少なくとも表原紙及び裏原紙が積層されて形成されたものであり、
前記表原紙の裏面に導電性が付与され、かつ前記裏原紙の裏面に防湿性が付与されている、ことを特徴とする段ボール。
【0012】
(請求項3に記載の手段)
電場雰囲気が存在する保存庫用の段ボールであって、
前記段ボールは少なくとも表原紙及び裏原紙が積層されて形成されたものであり、
前記表原紙の裏面に、カーボンブラックが含有された水性樹脂を有する導電性塗工剤が塗布され、かつ前記裏原紙の裏面に、顔料を有する防湿性塗工剤が塗布され、
前記導電性塗工剤の塗布量が0.04~6.0g/m2であり、前記防湿性塗工剤が2.0~12.0g/m2である、ことを特徴とする段ボール。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、電場雰囲気で食品を冷蔵保存する方法に適する段ボール原紙、及び段ボールとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】段積み状態の段ボール箱、及びこの段ボール箱を構成する段ボールの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0016】
本形態の包装材は、当該包装材で構成される複数層の原紙からなる段ボール原紙として使用するのに好適であり、当該段ボール原紙は適宜加工して段ボールとし、電場雰囲気が備わる保存庫内に設置する、つまり当該保存庫内に段積み等する段ボール箱の構成材料として使用するに好適である。なお、電場雰囲気が備わる保存庫としては、現在、氷感技術を利用した冷蔵設備、いわゆる氷感庫が実用化されている。
【0017】
本形態の包装材は、JIS K 6271-1(2015)に準拠して測定した表面抵抗率が、好ましくは0.1~100万Ω/Sq、より好ましくは0.1~10万Ω/Sq、特に好ましくは0.1~1.0万Ω/Sqである。表面抵抗率が0.1Ω/Sqを下回ると、塗工での生産が困難になる。他方、表面抵抗率が100万Ω/Sqを上回ると、期待する通電性能が得られなくなるおそれがある。なお、以上の範囲内における表面抵抗率は、内容物、付加する電圧、ケース寸法、箱段数等に基づいて適宜選定するとよい。
【0018】
また、包装材は、JIS Z 0208(1976)に準拠して測定した透湿度が好ましくは20~500g/m2・24hr、より好ましくは100~400g/m2・24hr、特に好ましくは200~350g/m2・24hrであることがより好適である。透湿度が20g/m2・24hrを下回ると塗工での生産が困難となるおそれがある。他方、透湿度が500g/m2・24hrを上回ると、十分な保湿効果が期待できないおそれがある。
【0019】
上記したように、本形態の包装材は、複数層の原紙で構成される段ボールの原紙として使用することができ、段ボール、あるいは段ボールを適宜、裁断加工、折り曲げ加工等して得られる段ボール箱等として利用することができる。
【0020】
具体的には、
図1に示すように、少なくとも表原紙3及び裏原紙2が積層され、更に通常は両原紙2,3の間に図示しない中芯が積層されて形成されている段ボールを加工して得られる段ボール箱1において、上記包装材が表原紙3や裏原紙2として使用される。なお、図示例においては、通電フロアFに段ボール箱1が段積みされた状態を示している。
【0021】
より好ましい形態においては、表原紙3の裏面3aに導電性塗工剤5が塗布され、かつ裏原紙2の裏面2aに防湿性塗工剤4が塗布されることで、上記表面抵抗率や透湿度が実現される。この点、裏原紙2の表面や表原紙3に防湿性塗工剤4が塗布されていても防湿性能を確保することができるが、例えば、裏原紙2の表面に塗布されていると、青果物等の蒸散量が多い場合において蒸散した水分が段ボール箱内で結露する可能性がある。そして、裏原紙2の表面と図示しない中芯との接合部にこの水分が吸着すると、同接合部の接合強度が弱まるおそれがある。また、表原紙3の表面に導電性塗工剤5を塗布することも考えられるが、段ボール箱1の美粧性等を損なう可能性がある。さらに、裏原紙に導電性塗工剤5を塗布することも考えられるが、この方法によると段ボール箱1間の導電面に距離ができ、電圧降下が顕著に現れる可能性がある。この点、本発明者等が試験したところによると、表原紙3の表面に導電性塗工剤を付与した場合と、表原紙3の裏面3aに付与した場合とで静電電圧に有意な差が認められなかった。
【0022】
なお、導電性能の付与方法としては、以上のような導電性塗工剤の塗布のほか、導電性フィルムのラミネート、クラフト紙と導電性フィルムのサンドイッチ等の方法によることもできる。
【0023】
導電性塗工剤5としては、例えば、水性樹脂にカーボンブラック、白色導電性酸化チタン、アルミ粉末、銅粉末、銀粉末等を含有させ、分散させて使用することができる。ただし、導電性塗工剤5としては、水性樹脂にカーボンブラックを分散して使用するのが好ましい。カーボンブラックを使用すると、安価での生産が可能である。
【0024】
また、カーボンブラックを用いた導電性塗工剤を使用する場合の塗布量は、カーボンブラックの固形分で、好ましくは0.04~6.0g/m2、より好ましくは0.40~5.0g/m2、特に好ましくは1.5~5.0g/m2である。塗布量が0.04g/m2を下回ると、期待の導電性を得られないおそれがある。他方、塗布量が6.0g/m2を上回ると、後工程で塗工面のカーボンが脱落するおそれがある。
【0025】
一方、防湿性塗工剤4としては、例えば、スチレンアクリル系水性樹脂やウレタン系水性樹脂に顔料を含有させ、分散させた防湿剤(以下顔料系防湿剤という)、ワックス系防湿剤等を使用することができる。ただし、防湿性塗工剤4としては、顔料系防湿剤を使用するのが好ましい。顔料系防湿剤を使用すると、段ボールケースにする場合のジョイント部分の糊貼りが可能である。
【0026】
なお、防湿性能の付与方法としては、以上のような防湿性塗工剤の塗布のほか、防湿性フィルムのラミネート、クラフト紙と防湿性フィルムのサンドイッチ等の方法によることもできる。
【0027】
また、顔料系防湿剤を使用する場合の塗布量は、固形分で、好ましくは2.0~12.0g/m2、より好ましくは5.0~12.0g/m2、特に好ましくは8.0~10.0g/m2である。塗布量が2.0g/m2を下回ると、十分な防湿性能を得ることが出来なくなるおそれがある。他方、塗布量が12.0g/m2を上回ると、塗布量に見合った防湿性能を得ることが出来なくなるおそれがある。
【0028】
(その他)
原紙(包装材)の原料としては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ等のケミカルパルプ、ケミグランドパルプ、ケミメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ等のバージンパルプ、脱墨離解パルプ等を使用することができる。
【0029】
各原紙2,3の坪量は、好ましくは120~310g/m2、より好ましくは170~280g/m2、特に好ましくは210~280g/m2である。坪量が120g/m2を下回ると、保管容器として十分な強度を保てなくなるおそれがある。他方、坪量が350g/m2を上回ると、後工程での生産性に支障をきたすおそれがある。
【0030】
本形態の包装材は、段ボール原紙の外装ライナー、内装ライナー、中芯原紙等のいずれにも使用することができる。本形態の導電性塗工剤5や防湿性塗工剤4には、澱粉、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAM)等を添加することもできる。また、例えば、防滑剤、滑剤、サイズ剤、填料分散剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、蛍光消去剤等の公知の添加剤を、単独で、あるいは2種以上を混合して添加することもできる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0032】
(試験例1)
試験例1は、表原紙に280g/m2のライナー、裏原紙に280g/m2のライナー、中芯に200g/m2の強化中芯原紙を用い、段ボール原紙とし、段ボールに加工したものとした。
その際、導電性塗工剤は、サカタインクス(株)製 NG-8導電を用い、フレキソ印刷機にてアニロックスロール(インキ転移ロール)165線(セルボリューム19cc/m2)にて1回塗工(塗工量2.4g/m2)した。また、防湿性塗工剤は、サカタインクス(株)製 ブライトーンFC-3075を用い、フレキソ印刷機にてアニロックスロール(インキ転移ロール)120線(セルボリューム37cc/m2)にて2回塗工(塗工量8.0g/m2)した。
なお、導電防湿とは防湿性塗工剤を塗工し、さらにその上から、導電性塗工剤を塗工したものである。
【0033】
(試験例2~10)
各性能塗工剤の塗工面と種類を表1に示すとおりに変えて得た段ボールを試験例2~10とした。
【0034】
<評価試験>
前記試験例1~10の各段ボールについて、内容物質量減少割合(内容物は、ブロッコリー)と導電性を検証した。評価試験は以下の通りである。
(1)今回の試験に使用した氷感倉庫の概要及び試験条件は以下のとおりである。
氷感倉庫:2坪、3600mm×1800mm×2200mm
試験条件:電圧3500V、電流2.5mA、消費電力20VA(氷感ユニットのみ)、設定温度0℃
(2)電圧測定については、架台と試験段ボールを測定し、各々3500Vの電位を計測した。
(3)デジタルマルチメーターとして、CD771 三和電機測定器株式会社、高電圧プローグ 80K-40 株式会社フルークを使用した。
なお前記試験例1~9について、冷蔵設備を有する氷感倉庫を使用し、試験例10は冷蔵設備のみ(氷感燥庫ではない)を使用し、評価試験を行った。
【0035】
<導電性>
空段ボールケースを10段積層させて、最下段に3500Vの電圧をかけて最上段の電圧を測定して、電圧降下を評価した。
◎:電圧降下が100V以下
○:電圧降下が100Vを超え500V以下
△:電圧降下が500Vを超え2,000V以下
×:電圧降下が2,000Vを超える
【0036】
<内容物質量減少割合>
試験例1~10について、評価試験を開始した当初の内容物の質量(当初質量)、及び所定期間経過後の内容物の質量(所定期間経過後質量)を測定した。測定した質量について減少割合を求めた。ここで、所定期間は、3週間、6週間、9週間とした。内容物の質量減少割合は以下の数式で求めた。
【0037】
[数1]
(内容物質量減少割合)={(当初質量)-(所定期間経過後質量)}÷(当初質量)×100
【0038】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、段ボール原紙、及び段ボールとして利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 段ボール箱
2 裏原紙
3 表原紙
4 防湿性能付与剤
5 導電性塗工剤