(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】風車後流演算装置、及び風車後流演算方法
(51)【国際特許分類】
F03D 1/06 20060101AFI20231127BHJP
F03D 9/30 20160101ALI20231127BHJP
【FI】
F03D1/06 A
F03D9/30
(21)【出願番号】P 2020001603
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】谷山 賀浩
(72)【発明者】
【氏名】深谷 侑輝
(72)【発明者】
【氏名】谷川 慎次
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】乾 真規
(72)【発明者】
【氏名】吉田 忠相
(72)【発明者】
【氏名】野呂 芙有子
(72)【発明者】
【氏名】中野 三知子
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-088974(JP,A)
【文献】特開2016-164706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356478(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/00-80/80
G06F 30/00-30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記抗力係数は、前記抵抗体部において前記ブレードの回転中心からの距離に応じて小さくなる又は大きくな
る、風車後流演算装置。
【請求項2】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記抗力係数は、前記回転中心からの所定半径における円周上の位置に応じて変更され
る、風車後流演算装置。
【請求項3】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記抗力係数は、風向に対して上流に位置する風車との離隔距離に応じて変更され
る、風車後流演算装置。
【請求項4】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記抗力係数は、風向に対して上流に位置する風車との離隔距離と、上流側に位置する風車と下流側に位置する風車とを結ぶ直線と風向とのなす角度とに応じて変更され
る、風車後流演算装置。
【請求項5】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記抗力係数は、前記風車のハブ高さにおける風速の風速階級に応じて変更され
る、風車後流演算装置。
【請求項6】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記モデル生成部は、風車ハブ高さにおける風速の風速階級と風向との関数となる前記抗力係数を付与す
る、風車後流演算装置。
【請求項7】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記モデル生成部は、ブレードの回転中心を中心とする所定半径の円上の位置における風速の風速階級と風向との関数となる前記抗力係数を生成する、風車後流演算装置。
【請求項8】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記抗力係数は、風車ハブ高さにおける流入風の乱流強度に応じて変更され
る、風車後流演算装置。
【請求項9】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記モデル生成部は、風車ハブ高さにおける流入風の温度、湿度、気圧の少なくともいずれかに応じて抗力係数を生成す
る、風車後流演算装置。
【請求項10】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記抗力係数は、前記風車の所定位置における大気安定度に応じて変更され
る、風車後流演算装置。
【請求項11】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記モデル生成部は、風車形状に応じた抗力係数を生成す
る、風車後流演算装置。
【請求項12】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記モデル生成部は、前記風車のナセル部とタワー部の少なくとも一部を固体モデル部として生成す
る、風車後流演算装置。
【請求項13】
複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子ごとの風速及び風向を演算する演算制御部と、
を備え、
前記モデル生成部は、前記抵抗体部内の周方向に、等間隔に配置された少なくとも2つ以上の複数の領域内の半径方向に沿って異なる抗力係数を生成す
る、風車後流演算装置。
【請求項14】
複数の計算メッシュで構成される計算格子を生成する計算格子生成工程と、
ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成工程と、
支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子の計算メッシュ毎の風速及び風向を演算する風速演算工程と、
を備え、
前記抗力係数は、前記抵抗体部において前記ブレードの回転中心からの距離に応じて小さくなる又は大きくなる、風車後流演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、風車後流演算装置、及び風車後流演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風車を用いた風力発電機(WTG:Wind Turbine Generator)は、脱化石燃料、二酸化炭素の削減に対してコストパフォーマンスが高いことが一般に知られている。このため、数基の風力発電機から数十基以上の風力発電機から構成される大型のウィンドファーム(WF:Wind Farm)に至るまで、風力発電施設は急速に増加している。
【0003】
日本の陸上風力発電では、山岳地域に大型の風車を複数基集中的に建設せざるを得ない状況になりつつある。このため、風車相互の干渉により全体の発電電力量が低下しないように、その離隔距離を決める後流の状態を評価する後流解析モデル(ウエイクモデル)の開発が重要視されている。さらに、風車の大型化などにともない、風車における後流の状態を現実的な演算回数で演算可能な後流解析モデルの開発が望まれている。また、洋上風力発電においても、同様の状況である。
【0004】
このような後流解析モデルとして、Jensenモデルなどの工学モデルや、固体円板、アクチュエータディスクを用いたモデルなどが知られている。ところが、固体円板モデルでは風車後流の速度欠損の再現性が低くなってしまい、アクチュエータディスクモデルでは風車背後の後流と外部流の運動量の交換の再現性が低くなってしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Katic, I., Hojstrup, J., Jensen, N. O.: A simple model for cluster efficiency, EWEC’86. Proceedings, 1 (1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、風車における後流の状態をより少ない演算回数でより高精度に再現可能な風車後流演算装置、及び風車後流演算方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る風車後流演算装置は、複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを生成する計算格子生成部と、ブレードの回転中心からの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部を風車のモデルとして生成するモデル生成部と、支配方程式に基づき、前記抵抗体部を用いて前記計算格子毎の風速及び風向を演算する演算制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、風車における後流の状態をより少ない演算回数でより高精度に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る風車後流演算装置の構成を示すブロック図。
【
図2】複数の計算格子で構成されるメッシュモデルを示す図。
【
図5】風車の抵抗体部の設定範囲と風車後流とを模式的に示す図。
【
図6】抵抗体部と受風面との範囲を異ならせた例を示す図。
【
図7】抵抗体部の正面図であり、抵抗体部の抗力係数の一例を示す図。
【
図8A】区分けされた範囲に付与する抗力係数を模式的に示した図。
【
図8B】区分けされた範囲に抗力係数を離散的に変化させた例を示す図。
【
図9A】ハブ中心から所定の半径を有する円周上の抗力係数を示す図。
【
図9B】円周上の抗力係数を離散的に変更した例を示す図。
【
図11】外力項を計算するための各変数の関係を示す図。
【
図16】風速階級及び複数の風車間の角度と抗力係数との関係を示す図。
【
図17】抵抗体部の位置における抗力係数と風速階級との関係を示す図。
【
図19】異なる形状を有する風車ごと円周上の抗力係数を示す図。
【
図20】抗力係数の別の一例を示す抵抗体部の正面図。
【
図21】風車後流演算装置における演算処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る風車後流演算装置、及び風車後流演算方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る風車後流演算装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る風車後流演算装置1は、風車における後流の状態を演算し、解析する装置であり、風車後流演算部10と、入力部20と、表示部30とを備えて構成されている。
【0013】
風車後流演算部10は、風車における後流の状態を演算する。風車後流演算部10の詳細な構成は、後述する。
【0014】
入力部20は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力情報を風車後流演算部10に出力する。例えば、入力部20は、地形データや複数の風車の配置位置の情報を含む配置条件と、風向、風速、および乱流強度などの風の流入条件と、風車形状などの風車に関する情報等を操作者から受け付ける。例えば、入力部20は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック等により実現される。
【0015】
表示部30は、各種の情報を表示する。例えば、表示部30は、風車後流演算部10によって解析された風車後流の状態を示す画像を表示する。例えば、表示部30は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等によって構成される。
【0016】
ここで、風車後流演算部10の詳細な構成を説明する。風車後流演算部10は、入力部20から入力される入力情報から風車後流の状態を演算する。本実施形態においては、風車後流演算部10は、演算部102と、記憶部104とを有する。この演算部102は、モデル生成部106と、表示制御部108と、演算制御部110と、診断評価部112と、を有する。演算部102の構成の詳細は後述する。
【0017】
記憶部104は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。記憶部104は、例えば、風速データ、地形データ、及び風車形状に関するデータ、演算結果などを格納する。また、記憶部104は、各種のプログラムを格納する。
【0018】
ここで、演算部102の詳細な構成を説明する。
図1における実施形態では、モデル生成部106、表示制御部108、演算制御部110、診断評価部112にて行われる各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶部104に格納されている。演算部102はプログラムを記憶部104から読み出し、実行することで、各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路は、
図1の演算部102内に示された各機能を有することとなる。ここで、プロセッサという文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit: ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device: SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device: CPLD)、及び、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array: FPGA)等の回路を意味する。
【0019】
モデル生成部106は、風車の後流解析モデルを生成する。このモデル生成部106は、計算格子生成部106aと、モデル生成部106bとを有する。
【0020】
図2は、複数の計算格子40aで構成されるメッシュモデル40を示す図である。主流方向をxで示し、主流に直交する方向をyで示し、鉛直方向をzで示している。すなわち、xy面は水平面に対応する。
【0021】
図2中には、風車に対応する領域42が示されている。
図2に示すように、計算格子生成部106aは、複数の計算格子40aで構成されるメッシュモデル40を生成する。より詳細には、計算格子生成部106aは、本実施形態に係る支配方程式であるナビエ・ストークス(Navier-Stokes)方程式に基づき物理量を算出するためのメッシュモデル40を生成する。また、ここで、支配方程式とは、メッシュモデル内の物理法則を数学的な方程式で表したものである。
【0022】
図3は、支配方程式の例を示す図である。
図3に示すように、支配方程式は、例えばナビエ・ストークス方程式であり、ρは流体の密度、νは流体の動粘性係数を示す。また、ナビエ・ストークス方程式には、後述する風車ロータから受ける力の外力項Fが加えられている。(Fx、Fy、Fz)は外力項Fのx、y、z方向の外力を示す。このように、本実施形態に係る演算では計算格子40a毎にナビエ・ストークス方程式が演算される。
【0023】
ここで、
図4乃至
図9Bに基づき、モデル生成部106bが生成するモデルである抵抗体部52について説明する。抵抗体部52は、流入風4に対する抵抗となる領域を風車のモデルとしてモデル化したものである。例えば、抵抗体部52は、ロータの回転範囲の一部を少なくとも含む領域をモデル化している。
【0024】
図4は、風車2の正面図、及び側面図である。
図4に示すように、一般に風車2は、ブレード2a、ハブ2b、ナセル2c、タワー2dを有する。ブレード2aは、風を受け回転する。ハブ2bは、ブレード2aの付け根をロータ軸に連結する。ナセル2cは、ハブ2bからロータ軸を通じて連結された増速機、及び発電機などを収納する。タワー2dは、ブレード2a、ハブ2b、ナセル2cを支え、各種のケーブルの経路となる。地上からハブ中心hmまでの高さはハブ高さと言われる。ハブ中心hmは、ブレード2aの回転中心に対応している。このため、本実施形態では、ハブ中心hmをブレード2aの回転中心hm又はロータの回転中心hmと呼ぶ場合がある。
【0025】
受風面54は、風車ロータの回転受風面である。この受風面54は、ブレード2aの回転中心hmからロータ外径までの範囲に対応している。すなわち、受風面54の面積はブレードが回転により空間を横切る領域とハブ2bの領域をロータ軸に直交する面に投影した領域である。抵抗体部52の範囲は、例えば正面から見ると受風面54の範囲であり、側面から見ると例えばブレードを囲む2fの範囲である。本実施形態に係る抵抗体部52は、例えばブレードを囲む2fの範囲に対応する円柱状の領域である。この抵抗体部52は、例えばハブ2bのハブ中心hmからの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与したモデルである。
【0026】
図5は、風車2の抵抗体部52の設定範囲と風車後流とを模式的に示す図である。
図5では流入風4と、翼端渦6と、風車後流と外部流の境界8と、ハブ中心hmとを更に図示している。翼端渦6は、ブレードの翼端で発生する渦である。後ろ側の風車2の流入風4が前側の風車2の影響を受けている例を示している。
【0027】
上述のように、受風面54は、ブレードの回転中心hmからロータ外径までの範囲に対応している。
図5は、抵抗体部52の範囲と受風面54の範囲を一致させた例である。なお、本実施形態に係る抵抗体部52の受風面54側の面及び対向する面を平面として扱うが、これに限定されず、例えば曲面や円錐面でもよい。
【0028】
図6は、抵抗体部52と受風面54との範囲を異ならせた例を示す図である。例えば、前側の風車2(
図5)の影響を受ける場合などに、抵抗体部52の範囲を受風面54の範囲より広く設定してもよい。これにより、実環境に近い流入風4に対する抵抗範囲を設定可能となる。逆に、抵抗体部52の範囲を受風面54の範囲よりも狭く設定しても良い。
【0029】
図7は、抵抗体部52の正面図であり、抵抗体部52の抗力係数の一例を示す図である。上述のように、抵抗体部52の範囲は風車ロータの受風面54に対応する。ラインLは、ハブ中心hmを横切る水平線である。角度θは、ハブ中心hmを横切る線のラインLに対する角度θを示している。なお、このθは後述する
図9A、Bの説明などに用いる。
【0030】
図7に示すように、例えば抵抗体部52は、5つの範囲に区分けされ、ハブ中心hmからの距離が大きくなるに従い大きくなる抗力係数1、2、4、7、10が割振られている。このように、抵抗体部52はハブ中心hmからロータ外径、もしくはその近傍までの範囲で所定の間隔で、少なくとも一箇所以上の範囲に区分けされ、範囲毎に抗力係数が割振られている。例えば、ブレードの回転中心hmから外径までの範囲に均等な幅で区分けされている。
【0031】
図8Aは、抵抗体部52の区分けされた範囲に付与する抗力係数を模式的に示した図である。
図8Aは、抗力係数を連続的に変化させた例である。横軸は、
図7のラインL上の位置、すなわちハブ中心hmからロータ外径方向までの半径を示し、縦軸は、抗力係数を示している。
図8Aに示すように、抵抗体部52には、ハブ中心hmからの距離が大きくなるに従いより大きくなる抗力係数が付与されている。すなわち、抵抗体部52には、回転中心hmからの半径に応じた抗力係数が付与されている。
【0032】
図8Bは抗力係数を離散的に変化させた例を示す図である。横軸は、
図7のラインL上の位置、すなわちハブ中心hmからロータ外径方向までの半径を示し、縦軸は、抗力係数を示している。
図8Bに示すように、抵抗体部52には、ハブ中心hmからの距離が大きくなるに従いより大きくなる抗力係数が離散的に付与されている。
【0033】
このように、抵抗体部52には、ブレードの回転中心hmからの距離に応じて異なる抗力係数を連続的に変えて付与しても良い。或いは、抵抗体部52には、ブレードの回転中心hmからの距離に応じて異なる抗力係数を離散的に変えて付与しても良い。
【0034】
図9Aは、抵抗体部52のハブ中心hm(
図7)から所定の半径を有する円周上の抗力係数を示す図である。横軸は、直線Lが回転中心hmを中心として回転する角度θ(
図7)を示す。縦軸は、抗力係数を示している。
図9Aは、円周上の抗力係数を連続的に変化させた例である。
【0035】
図9Bは、抵抗体部52のハブ中心hm(
図7)から所定の半径を有する円周上の抗力係数を離散的に変更した例を示す図である。横軸は、直線Lが回転中心hmを中心として回転する角度θ(
図7)を示す。縦軸は、抗力係数を示している。このように、円周の周方向に応じて、抗力係数を変更しても良い。例えば、地面などの影響により、流入風4(
図5)は、不均一に抵抗体部52に流入する。円周の周方向に応じて、抗力係数を変更することにより、不均一に抵抗体部52に流入する流入風4などを再現可能となる。
【0036】
図10は、風車2のモデルを側面から見た図である。風車2のモデルには、抵抗体部52に加えてナセル部2c、及びタワー部2dを加えてもよい。モデル生成部106bは、風車2のモデルとして、風車のナセル部2cとタワー部2dの少なくとも一部を固体モデル部として生成する。固体モデル部は、風速が0の領域として演算される。
【0037】
このように、本実施形態に係るモデル生成部106b(
図1)は、例えばブレードの回転中心から風車ロータの回転受風面、およびその外径側近傍までの範囲の少なくとも一部に対応するメッシュモデル40(
図2)の範囲に、固体モデル部を生成する。これにより、タワーシェイドなど、流体が通過できないことに伴う流体現象の再現と、風車後流との相互干渉が評価でき、より実際に即した後流の演算が可能となる。
【0038】
なお、本実施形態では、ブレードの回転中心hmから風車ロータの受風面54、およびその外径側近傍までの範囲に抵抗体部52を生成するが、これに限定されない。例えば、ナセル前方のハブに対応する領域を固体モデル部にするなど、ブレードの回転中心からロータ径までの風車ロータの回転受風面の範囲の一部の範囲に他のモデルを配置してもよい。このように、ブレード2aの揚力係数CL(後述する(1)式)が比較的低い範囲に固体モデル部を配置することで、風車後流の速度欠損の再現が可能となる。
【0039】
表示制御部108は、演算部102での演算結果を図示して表示部30に表示させる。例えば、風速に応じた濃淡処理、色処理などを行うことにより、風車後流状態の視認性をより向上させる処理を行う。
【0040】
演算制御部110は、入力部20から指示された演算条件にしたがい、モデル生成部106でのモデル生成を含め演算部102全体の制御を行う。より具体的には、計算格子生成部106aに対して計算格子40aの数、大きさ、形状などを指示して計算格子を生成させる。モデル生成部106bに対しては演算毎に外力項の値を生成させる。そして、支配方程式に従い、計算格子生成部106aが生成したメッシュモデル40の計算格子40a毎の風向ベクトル、すなわち風速及び風向の演算を演算毎に実施する。
【0041】
診断評価部112は、演算部102で得られた結果と、風車観測値及び外部シミュレーション結果との比較を行うことで、発電量や設備利用率を評価する。
【0042】
ここで、モデル生成部106bのより詳細な構成例を説明する。
図11は、外力項(Fx、Fy、Fz)を計算するための各変数の関係を示す図である。
図11に示すように、モデル生成部106bは、各計算格子に抗力係数(抵抗係数)を付与した抵抗体部52を生成する。より具体的には、モデル生成部106bは、ブレードの回転中心から風車ロータの回転受風面、およびその外径側近傍までの範囲に対応する計算格子40a(
図2)毎の外力項(Fx、Fy、Fz)(
図2)を任意のブレードの半径位置rや周方向位置θ、すなわち回転中心から距離rとのアジマス角θにおける翼弦長c、抗力係数C
D、揚力係数C
L、ブレードへの流入迎角α、ピッチ角γの関数として生成する。これら回転中心から距離rとのアジマス角θにおける翼弦長c、抗力係数C
D、揚力係数C
L、ブレードへの流入迎角α、ピッチ角γは、予め風車のタイプ別に記憶部104に格納されている。これら抗力係数は、CFD(Computational Fluid Dynamics)による計算結果や風洞での模型試験結果、風車実機での実測データから分析・評価された値である。これにより、モデル生成部106bは、抵抗体部52内の計算格子40a毎に、ブレードが回転することで発生する接線力とスラスト力を、流体が受ける主流方向および回転方向の反力として、ナビエ・ストークス方程式の外力項(Fx、Fy、Fz)(
図3)に付加する。抗力係数C
D、揚力係数C
Lは、風車の設計データを用いて演算してもよい。なお、本実施形態に係る外力項(Fx、Fy、Fz)(
図3)が、受風面における流体抵抗に対応する。
【0043】
より詳細には、モデル生成部106bは、まず、数式1、及び数式2に示すように、ロータ平面が主流方向Xと正対する風車(
図2)における、回転中心からブレードの半径方向に距離rの位置の翼素drに作用する揚力dF
Lおよび抗力dF
Dと相対風速Vとの関係を演算する。
【数1】
【数2】
ここで、cは翼弦長、Vは相対風速である。
【0044】
次に、モデル生成部106bは、数式3、及び数式4に示すように、推力dF
xおよび接線力dF
θを演算する。
【数3】
【数4】
【0045】
次に、モデル生成部106bは、数式5、及び数式6に示すように、原点に位置するブレードの回転中心から半径方向にrのポイントにおける流体がロータから受ける体積力のX方向成分f
xおよびθ方向成分f
θを演算する。ここで、ブレード枚数はBであり、Rは抗力係数を付与する抵抗体部の最外径に対応する。そして、モデル生成部106bは、f
xを外力項F(
図3)のF
x成分として出力し、f
θをそれぞれの方向に分解して、F
y、F
z成分として出力する。Δxは抵抗体部52の主流方向の厚みを示している。
【数5】
【数6】
【0046】
図12は、風車2の側面図である。
図12に示すように、風車2の受風面が地表面に対して任意のチルト角度を持って傾いている場合、抵抗体部52の厚みΔxの範囲もチルト角度の傾きに応じて変更される。これにより、風車2の受風面の傾きに応じた風車2の後流の状態を演算可能となる。
【0047】
このように、各計算格子に抗力係数を付与した抵抗体部52では、ブレード2aが回転することで発生する接線力とスラスト力を、流体が受ける主流方向および回転方向の反力として、ナビエ・ストークス方程式に外力項として付加することが可能となる。これにより、物体としての壁面境界条件を無くすことができ、抵抗体としての減速効果を考慮できる。
【0048】
次に、風車2の外部環境の影響をも考慮した抵抗体部52を生成する例について説明する。
図13は、複数の風車2間の離隔距離Lを示す図である。離隔距離Lは、風車2間のタワー中心Tm間の距離を意味する。モデル生成部106bは、風車2の上流に位置する風車との離隔距離に基づく関数として、抵抗体部52の外力項(
図3)を与えてもよい。すなわち、抗力係数C
D(式2)は、風向に対して風車2の上流に位置する風車との離隔距離に応じて変更される。これにより、上流に位置する風車の後流の影響を考慮して、後流をより効率的にかつ精度良く演算可能となる。
【0049】
図14は、複数の風車2間の角度(偏角)αを示す図である。
図14に示すように、モデル生成部106bは、風車2の上流に位置する風車との離隔距離Lと、風車2と風車2の上流に位置する風車とを結ぶ直線と風向との成す角度αの関数として、抵抗体部52の外力項を与えてもよい。すなわち、抗力係数C
D(式2)は、風向に対して上流に位置する風車との離隔距離Lと、上流側に位置する風車と下流側に位置する風車とを結ぶ直線と風向とのなす角度αに応じて変更される。これにより、さらに風車2の後流を精度良く演算可能となる。
【0050】
図15は、風速階級と抗力係数との関係を示す図である。横軸は、風速階級を示し、縦軸は抗力係数C
D(式2)を示す。
図15に示すようにモデル生成部106bは、風車ハブ高さにおける流入風速の風速階級に応じて抵抗体部52の外力項を与えてもよい。すなわち、抗力係数C
D(式2)は、風車のハブ高さ(
図4)における風速の風速階級に応じて変更される。例えば、抗力係数C
D(式2)は、風速階級が大きくなるにしたがいより小さく設定される。これにより、風車ブレードの回転数に応じて変更されるブレードの迎え角による風力抵抗の変化を抗力係数C
D(式2)に反映可能となる。このため、抗力係数C
D(式2)を風速階級に応じて変更することにより、ブレードの迎え角を制御するピッチ制御の効果を得ることが可能となり、後流をより精度良く演算できる。
【0051】
図16は、風速階級及び複数の風車2間の角度αと抗力係数との関係を示す図である。横軸は、風速階級を示し、縦軸は抗力係数を示す。曲線は角度α=0、A、Bの場合を示す。0<A<Bの関係がある。
図16に示すように風速階級が同じ場合には、角度αが大きくなるに従い抗力係数C
D(式2)が小さくなる。このように、モデル生成部106bは、風車ハブ高さにおける風速の風速階級と風向との関数となる抗力係数C
D(式2)を生成する。
【0052】
すなわち、モデル生成部106bは、風車ハブ高さにおける流入風速の風速階級と、風車2と風車2の上流に位置する風車とを結ぶ直線と風向との成す角に基づき、抵抗体部52の外力項を与える。これにより、風車ブレードの回転数に応じてブレードの迎え角を制御するピッチ制御の効果と風向による迎え角の変化を抵抗体部52の外力項に反映可能となり、風車2の後流をより精度良く表現できる。
【0053】
図17は、ブレードの回転中心hmからの半径rの円の周方向θの位置(
図7)における抗力係数C
D(r、θ)と風速の風速階級との関係を示す図である。横軸は風速階級を示し、縦軸は抗力係数C
D(r、θ)(式2)を示す。
【0054】
ここで、C
D(r、θ)=f(α、L、WS)なる関係がある。すなわち、C
D(r、θ)は、風車2と風車2の上流に位置する風車とを結ぶ直線と風向との成す角α、風車2と風車2の上流に位置する風車との離隔距離L、ブレードの回転中心hmから半径rの円の周方向θの位置(
図7)における流入風速の風速階級WSの関数である。
図17に示すように、α、Lが固定値である場合には、抗力係数C
D(r、θ)は、風速階級が大きくなるにしたがいより小さくなる。
【0055】
すなわち、モデル生成部106bは、ブレードの回転中心hmからの半径rの円の周方向θの位置における抵抗体部52の外力項(
図3)を、風車2と風車2の上流に位置する風車とを結ぶ直線と風向との成す角α、風車2と風車2の上流に位置する風車との離隔距離L、およびブレードの回転中心hmから半径rの円の周方向θの位置(
図7)における流入風速の風速階級WSに基づき生成する。これにより、上流に位置する風車の後流の影響をより正確に反映した後流影響を演算可能となる。
【0056】
図18は、乱流強度と抗力係数との関係を示す図である。横軸は、乱流強度を示し、縦軸は抗力係数を示す。
図18に示すように、モデル生成部106bは、風車ハブ高さにおける流入風の乱流強度の関数として、抗力係数C
D(式2)を生成する。すなわち、風車ハブ高さにおける流入風の乱流強度に応じて抵抗体部52の外力項(
図3)を与えることでもよい。例えば、乱流強度が大きくなるに従い、抗力係数C
D(式2)は小さくなる。これにより、上流に位置する風車の後流による乱流の影響や、セクターマネジメントなどの運用制御を模擬した後流影響も表現可能となる。
【0057】
また、抵抗体部52の外力項(
図3)を風車ハブ高さ(
図4)における流入風の温度、湿度、気圧の少なくとも1つ以上の関数として与えることも有効である。モデル生成部106bは、例えば、風気象庁などのデータベースに記録される解析対象地域における風速及び風向などのデータに基づき、抗力係数C
D(式2)を生成する。これにより、ウィンドファーム(WF)サイトごとの風の状態に即した後流の再現が可能となる。
【0058】
さらにまた、モデル生成部106bは、解析対象地域における大気安定度の関数として抗力係数CD(式2)を生成してもよい。これにより、解析対象地域における大気安定度に応じた抵抗体部52の外力項を与えることが可能となり、天候や昼夜の違いによる影響を把握することができる。以上が風車2の外部環境の影響をも考慮した抵抗体部52の抗力係数の説明である。
【0059】
図19は、抵抗体部52のハブ中心hm(
図7)から所定の半径を有する円周上の抗力係数を示す図である。横軸は、直線Lが回転中心hmを中心として回転する角度θ(
図7)を示す。縦軸は、抗力係数を示している。第1形状の風車の抗力係数19aと、第1形状と異なる第2形状の風車の抗力係数19bと示す。このように、風車の形状に応じて抗力係数を変更しても良い。これにより、解析対象地域内にハブ高さやブレード形状が異なる風車機種が複数設置されている場合に、風車ごとの形状に応じた後流が演算可能となる。
【0060】
図20は、抵抗体部52の抗力係数の別の一例を示す抵抗体部52の正面図である。上述のように、抵抗体部52の範囲は風車ロータの受風面54に対応する。
図20に示すように、モデル生成部106bは、抵抗体部52は、3箇所の半径方向の領域52a、b、cに抗力係数C
D(式2)を生成する。領域52a、b、cのそれぞれは、ハブ中心hmに対する回転角が120度ごと異なる同等な形状を有する領域である。また、領域52a、b、cは、4つの範囲に区分けされ、ハブ中心hmからの距離が大きくなるに従い小さくなる抗力係数10、7、5、3が割振られている。
【0061】
このように、モデル生成部106bは、受風面54に対応する範囲の一部の領域に抗力係数CD(式2)を生成する。より具体的には、モデル生成部106bは、抵抗体部52内の周方向に、等間隔に配置された3つの領域52a、b、c内の半径方向に沿って異なる抗力係数を与えた抵抗体部52を生成するまた、この抵抗体部52をハブ中心hmに対して回転させてもよい。これにより、風車ブレードの回転を模擬した解析手法を適用することにより、後流影響の時間変化についても評価も可能となる。
【0062】
以上が本実施形態に係る構成の説明であるが、以下に本実施形態に係る風車後流演算装置1における演算処理の動作例を説明する。
【0063】
図21は、風車後流演算装置1における演算処理の流れを示すフローチャートである。
図11に示すように、操作者は、入力部20により演算に用いる風車2の受風面の情報を入力する(ステップS100)。操作者は、例えば表示部30に表示される風車形式の一覧の中から風車形式を選択する。続けて、演算制御部110は、選択された風車形式の受風面の情報を記憶部104から読み込み、モデル生成部106bに供給する。また、演算制御部110は、選択された風車形式に従い、回転中心から距離rにおける翼弦長c、抗力係数C
D、揚力係数C
L、ブレードへの流入迎角αの情報を記憶部104から読み込み、モデル生成部106bに供給する。
【0064】
次に、操作者は、入力部20により計算格子の生成条件、例えば風速、風向、乱流強度、大気安定度などを含む流入風条件を計算条件として入力する(ステップS102)。演算制御部110は、入力された計算条件に従い、計算格子生成部106aに対して計算格子の数、大きさ、形状などを指示して計算格子を生成させる。
【0065】
次に、演算制御部110は、計算格子生成部106aが生成した各計算格子40aに初期値を設定する(ステップS104)。続けて、演算制御部110は、時間t=0として、演算を開始する(ステップS106)。
【0066】
次に、モデル生成部106bは、初期値に基づきブレードの回転中心からロータ径に対応するメッシュモデル40の範囲内の各計算格子40aに外力項の値(
図3)を設定し、抵抗体部52を生成する(ステップS108)。続けて、演算制御部110は、各計算格子40aに設定された初期値に基づき、抵抗体部52内の各計算格子40aに対応する外力項の値(
図3)を演算する(ステップS110)。
【0067】
次に、演算制御部110は、各計算格子40aに対応するナビエ・ストークス方程式を演算し(ステップS112)、各物理量を演算する(ステップS114)。続けて、演算制御部110は、各物理量を記憶部104に格納すると共に、表示制御部108に各物理量の情報を含む信号を出力する。表示制御部108は、表示部30に風車2の後流の情報を示す画像を表示する。
【0068】
次に、演算制御部110は、演算時間tがtmax未満か否かを判定し(ステップS116)、tがtmax未満であれば(ステップS116がNOの場合)、抵抗体部に付与する抗力係数を条件によって変更し(ステップS118)、各計算格子40aの情報を更新し、ステップS110からの演算を繰り返す。一方で、tがtmax以上であれば(ステップS116がYESの場合)、全体の処理を終了する。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、モデル生成部106bがブレードの回転中心hmからロータ径に対応するメッシュモデル40の範囲に、ブレード2aの回転中心hmからの距離に応じて風流に対する抵抗の度合いを示す抗力係数を付与した抵抗体部52を生成することとした。これにより、風車2の速度欠損の再現性を維持しつつ風車2の後流と外部流の境界8の広がり(
図4)の再現性を向上させることができる。
【0070】
本実施形態による風車後流演算装置1におけるデータ処理方法の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、データ処理方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。また、データ処理方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0071】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置、方法及びプログラムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置、方法及びプログラムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
1:風車後流演算装置、2:風車、2a:ブレード、40:メッシュモデル、40a:計算格子、52:抵抗体部、106a:計算格子生成部、106b:モデル生成部、110:演算制御部、112:診断評価部。