(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】ステッピングモータ異常検知装置
(51)【国際特許分類】
H02P 8/36 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
H02P8/36
(21)【出願番号】P 2020109221
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 純平
(72)【発明者】
【氏名】豊田 興一
(72)【発明者】
【氏名】尾本 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】堀池 良雄
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-158546(JP,A)
【文献】特開平07-099796(JP,A)
【文献】特開2015-061341(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043001(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 8/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータを駆動する駆動パルスを出力するステッピングモータ駆動部と、
前記ステッピングモータ駆動部に電源を供給する電源部と、
前記ステッピングモータ駆動部に流れる電流を検出する電流レベル検出部と、
前記電流レベル検出部で検出した電流レベルと、前記ステッピングモータが正常に動作する場合の電流レベルに基づいて予め定めた判定閾値と比較して、前記ステッピングモータが正常な動作状態にあるか否か判定する判定部と、
を備え
、
前記電流レベル検出部は、前記電源部の電源インピーダンスを推定する電源インピーダンス推定部を有し、前記推定した電源インピーダンスに基づいて前記判定閾値あるいは前記電流レベルを補正することを特徴とするステッピングモータ異常検知装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記判定閾値として前記ステッピングモータが断線状態にあると判定する為の第1の判定閾値を有する、請求項1記載のステッピングモータ異常検知装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記判定閾値として前記ステッピングモータが固着状態にあると判定する為の第2の判定閾値を有する、請求項1記載のステッピングモータ異常検知装置。
【請求項4】
前記電流レベル検出部は、瞬時電流を積分する積分部で構成されたことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のステッピングモータ異常検知装置。
【請求項5】
前記電流レベル検出部は、前記電源部と前記ステッピングモータ駆動部との間に抵抗を挿入し、前記積分部は前記抵抗と前記ステッピングモータ駆動部の接続点の信号を、抵抗を介してコンデンサーで積分する構成とした、請求項4記載のステッピングモータ異常検知装置。
【請求項6】
前記電流レベル検出部は、前記電流レベルを電流レベルに応じたデジタル信号に変換するアナログ・デジタル変換部を有することを特徴とした、請求項1から5のいずれか1項に記載のステッピングモータ異常検知装置。
【請求項7】
前記電源インピーダンス推定部は、前記ステッピングモータ駆動部の動作ON時と動作OFFでの前記電源部の出力電圧差が大きいほど前記電源インピーダンスが大きいと推定することを特徴とした、請求項
1から6のいずれか1項に記載のステッピングモータ異常検知装置。
【請求項8】
前記ステッピングモータ駆動部の動作ON時と動作OFFでの前記電源部の出力電圧差は、前記ステッピングモータ駆動部が動作ONから動作OFFに変化後の前記電源部の出力電圧と前記積分部の出力の比を用いたことを特徴とした、請求項
7記載のステッピングモータ異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステッピングモータの駆動に対して異常を検知する装置に関する。特にガスメータに用いられるガスの流れを開閉する双方向弁に用いるステッピングモータの異常を検知する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ステッピングモータがストール状態または脱調状態を判定する遮断弁装置を開示する。
【0003】
この遮断弁装置は、ステッピングモータの駆動制御を行う駆動制御回路部と、ステッピングモータがストール状態または脱調状態にあるものと判定する弁動異常回路部を備える。これにより、
図4に示すように、ステッピングモータから検出される駆動電圧波形における極大値または当該極大値の波高を予め定められたしきい値と比較して、ストール状態または脱調状態を判定することができる。
【0004】
特許文献2は、ステッピングモータの脱調検出方法を開示する。この脱調検出方法は、ステッピングモータを駆動するステッピングモータドライバにおけるモータの電流波形を矩形波に、その矩形波を電圧信号に変換し、得られた電圧値に基づいて基準電圧と比較することにより脱調状態の有無を判断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-118642号公報
【文献】特開1999-187697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2は、共に正常時と脱調時における電流・電圧波形の違いに着目している。これは安定した脱調状態であれば前記波形の違いを検出することができるが、実際はステッピングモータが若干回転したり戻ったり、不安定な動作を繰り返すことが多い。その場合上記波形の違いが不明確になり、正常時と脱調時の判別が難しくなるという課題があった。
【0007】
本開示は、不安定な状態で検出した波形を補正し、安定してステッピングモータの異常を検知することに有効なステッピングモータ異常検知装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示におけるステッピングモータ異常検知装置は、瞬時電流検出部と積分部と判定部とを備える。瞬時電流検出部は、ステッピングモータの基準電流を取得する。積分部は、平均駆動電流を生成する。判定部は、基準電流に基づいて、平均駆動電流に対して予め定めたしきい値と比較をして異常かどうかの判定を行う。
【発明の効果】
【0009】
本開示におけるステッピングモータ異常検知装置は、不安定な動作環境でもステッピングモータの異常を検知することに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1におけるステッピングモータ異常検知装置の構成を示すブロック図
【
図2】実施の形態1におけるステッピングモータ異常検知装置の詳細な構成を示すブロック図
【
図3】実施の形態1における判定部の動作を説明するためのフローチャート
【
図4】ステッピングモータ駆動中の電流レベル変化を示すグラフ
【
図5】実施の形態1におけるステッピングモータ駆動中の電流レベルの補正後の電流レベルの変化を示すグラフ
【
図6】通常動作時の電流レベルと異常動作時の電流レベルを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0012】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0013】
(実施の形態1)
以下、
図1~5を用いて、実施の形態1を説明する。
【0014】
[1-1.構成]
[1-1-1.異常検知装置の構成]
図1は、実施の形態1にかかるステッピングモータ異常検知装置100の構成を示すブロック図である。ステッピングモータ4はステッピングモータ駆動部3に接続され、電流レベル検出部2を介して電源部1へと接続される。また、電流レベル検出部2は、判定部5にも接続され、判定部5とステッピングモータ駆動部3は、制御部6によって制御される。
【0015】
電源部1は、リチウム一次電池を複数本並列接続して構成され、電気系統が検定満了期間(例えば、15年間)に消費する電流容量に相当する電池容量を保有する。
【0016】
電流レベル検出部2は、ステッピングモータ駆動部3に流れる瞬時電流レベルを検出する瞬時電流レベル検出部21を有し、検出した電流レベルを積分する積分部22と、電源部1のインピーダンス(以降、電源インピーダンスと称す)を推定する電源インピーダンス推定部23を備える。
【0017】
ステッピングモータ駆動部3は、制御部6によって制御され、ステッピングモータ4を駆動させる。
【0018】
ステッピングモータ4は、ガスメータに用いられる場合にはガスの流量を制御する弁として扱われる。この場合、ステッピングモータ4は、ガスを遮断する遮断動作とガスの遮断を解除する復帰動作の二種類の動作を行う。
【0019】
判定部5は、電流レベル検出部2で検出され、積分部22によって積分された電流レベルを電源インピーダンス推定部23で得られた電源インピーダンスによって補正を行う補正部55を有する。また、第一のコンパレータ53と第二のコンパレータ54を備え、補正された電流レベルを予め定められた判定閾値と比較する。なお、判定閾値は、第1の判
定閾値設定部51、第2の判定閾値設定部52で設定される。
【0020】
制御部6は、ステッピングモータ駆動部3を制御し、ステッピングモータ4を動作させることにより、ガスメータにおける遮断動作と復帰動作を行う。また、電流レベル検出部2によって電流レベルを検出するタイミング情報を保持しており、判定部5によって得られた判定結果を格納する。
【0021】
[1-1-2.電流レベル検出部の構成]
図2は、電流レベル検出部2の構成を示すブロック図である。
【0022】
瞬時電流レベル検出部21は、抵抗20を備える。
【0023】
積分部22は、抵抗20からステッピングモータ駆動部3へ流れる電流を抵抗30とコンデンサー31によって積分する。コンデンサー31はGNDへと接続される。
【0024】
アナログ・デジタル変換部40は、入力された電流をアナログ値からデジタル値へと変化する機能を有する。具体的には、電源部1の出力電圧を基準電圧として抵抗20に流れる電流を積分部22によって積分した電圧をデジタル値へと変換する。従って、このデジタル値が小さい程、電流が大きいことを意味し、このデジタル値を本実施の形態では電流レベルとしている。この変換されたデジタル値は判定部5へと渡され判定が行われる。また、アナログ・デジタル変換部40は電源インピーダンス推定部23を兼ね備えている。
【0025】
[1-2.動作]
以上のように構成されたステッピングモータ異常検知装置100について、その動作を以下説明する。ステッピングモータ異常検知装置100は、ステッピングモータ4が駆動中の電流レベルを瞬時電流レベル検出部21で取得し、電源インピーダンス推定部23で推定された電源インピーダンスによりこの電流レベルを補正し、予め設定された判定閾値と比較をすることによりステッピングモータの異常の有無を判定する。以下、それぞれの動作について詳細に説明する。
【0026】
[1-2-1.電流レベルの取得]
電流レベル検出部2は、電流レベルを検出するタイミング情報を保持しており、このタイミング情報に基づき、ステッピングモータ駆動中の所定のタイミングにおける電流レベルを取得する。具体的には、制御部6によってステッピングモータ駆動部3が駆動し、駆動中に瞬時電流レベル検出部21によって取得された電流レベルをアナログ・デジタル変換部40にてデジタル値へ変換する。デジタル値を取得するタイミングは任意に指定することができ、ステッピングモータ4の駆動中であることに限られる。デジタル値を取得する回数は1回に限らず、複数回取得して平均することでノイズ等による誤判定を防止することができる。
【0027】
[1-2-1.補正]
図4は、ステッピングモータを遮断弁の駆動に用いた場合の駆動中の電流レベルの変化を電源インピーダンスの違いで示す図で、ステッピングモータ駆動部3がタイミングAでONし、遮断弁が全開状態から遮断し全閉状態となり、ステッピングモータ4の回転が止まった後にステッピングモータ駆動部3がタイミングBでOFFになるまでの電流レベルの変化を表している。なお、
図4において、電流レベルは前述のデジタル値である。
【0028】
図4のタイミングBの直前の電流レベルの変化は、ステッピングモータ4の回転が止まったことによる負荷増加を示している。また、
図4では、電源部1が高インピーダンス時に通常時と比較して電流レベルが高くなることが示されている。これは、電源部1を構成
するリチウム電池が温度変化や電池容量の減少によって内部インピーダンスが大きくなり、より多くの電流が流れていることが確認できる。
【0029】
また、電流レベルはステッピングモータ駆動部3に流れる瞬時電流を抵抗20で電圧に変換したものであり、検出した電流レベルを電源部1の電圧値で割った値に1024をかけて算出している。つまり、ステッピングモータ4が動作していない場合には検出電流レベルと電源部1の電圧値が等しくなるため算出される電流レベルは1024となる。
図4において、タイミングBからタイミングCまでの電流レベルの変化は、タイミングBでステッピングモータ4の消費電流が0となった後、積分部22の作用により、緩やかに電流レベルが1024に達する状態を示している。
【0030】
ステッピングモータ異常検知装置100は、動作ONと動作OFFの瞬間に電源インピーダンス推定部23によって電源インピーダンスを取得する。具体的には、電流レベルの上限である1024から動作ON(タイミングA)と動作OFF(タイミングB)のタイミングで検出された電流レベルの差を求めることで電源インピーダンスを計算する。
図4に示されるように、電源インピーダンスが高い場合は動作ONでは前記差が小さく、動作OFFでは前記差が大きくなる。補正部55は、電源インピーダンス推定部23で求められた電源インピーダンスをもとに電流レベルを補正する。
【0031】
以上の様に、電流レベル検出部2は、ステッピングモータ駆動中のあるタイミングに流れる電流を、アナログ・デジタル変換部40によってデジタル電流レベルへと変換する。また、補正部55は、電源インピーダンス推定部23で求めた電源インピーダンスを用いて、積分部22で求めた電流レベルを異常判定に用いる電流レベルに補正する。
【0032】
図5は、
図4に示した電圧レベルを補正部55で補正した後のグラフである。
図4では、電源インピーダンスが高いとき、ステップモータの動作ONおよび動作中の電流レベルの絶対値は高くなり、動作OFFでは電流レベルの絶対値は小さくなることが確認できる。この電源インピーダンスによる電流レベルの変動に対し前記補正を行うことで、
図5に示すように一定の電流レベルに変換することができる。これにより、後述する判定部5における電源インピーダンスの変動による誤判定を無くすことができ、精度の高い異常検知が可能となる。
【0033】
[1-2-1.閾値と比較]
図3は、
図2の判定部5における異常判定方法を説明するためのフローチャートである。
【0034】
また、
図6は、正常に動作した場合のステッピングモータ4の電流レベルと、断線時のステッピングモータ4駆の電流レベルと、脱調および固着時のステッピングモータ4の電流レベルと、閾値1(第1の判定閾値)と、閾値2(第2の判定閾値)を示すグラフである。
【0035】
まず、ステッピングモータ異常検知装置100は、ステッピングモータ駆動中に流れる所定タイミングにおける補正された電流レベルZ1を検出する(S1)。本実施の形態において、所定タイミングは
図6のD点~E点の電流レベルが安定している期間に設定している。次に、電流レベルZ1を閾値1と比較し(S2)、閾値1以上であった場合(S2でYes)、断線と判定する(R1)。一方、電流レベルZ1が閾値1以下だった場合(S2でNo)、電流レベルZ1を閾値2と比較し(S3)、電流レベルZ1が閾値2以下であった場合(S3でYes)、脱調または固着状態と判定する(R2)。閾値1および閾値2においても異常と判定されなかった場合(S3でNo)、ステッピングモータ4は正常に動作したと判定する(R3)。また、処理S2と処理S3の順序は逆になってもよ
い。
【0036】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、ステッピングモータ異常検知装置100は、電源部1と、電流レベル検出部2と、ステッピングモータ駆動部3と、判定部5と、を備える。電流レベル検出部2は、電源部1からステッピングモータ駆動部3に流れる瞬時電流レベルを検出し、積分を行い、電源インピーダンスを推定する。判定部5は、電源インピーダンス値を用いて前記積分値を補正し、予め定められた閾値と比較する。
【0037】
これにより、ステッピングモータ異常検知装置100は、不安定な動作中でも電源インピーダンスに応じて電流レベルの補正を行うため、ステッピングモータの不安定な動作の影響を受けることなく、高い精度で断線、固着といったステッピングモータの動作異常を検知することができる。
【0038】
なお、本実施の形態では、電流レベルの検出を電流レベルが安定している期間で行っているが、電流レベルが変化している期間であっても、閾値1、閾値2を判定可能な値に設定することで、ステッピングモータの異常を検知できることは言うまでもない。
【0039】
また、本実施の形態において、ステッピングモータ異常検知装置100は、瞬時電流レベル検出部21および積分部22を用いることなく、ステッピングモータ駆動部3に流れる電流レベルのみをアナログ・デジタル変換部40に入力してもよい。
【0040】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本開示は、(本開示の作用)ステッピングモータを用いる電池機器に適用可能である。具体的には、水道メータなどに、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 電源部
2 電流レベル検出部
3 ステッピングモータ駆動部
4 ステッピングモータ
5 判定部
6 制御部
20 抵抗
30 抵抗
31 コンデンサー
40 アナログ・デジタル変換部
100 ステッピングモータ異常検知装置