(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】点検装置
(51)【国際特許分類】
G01B 15/02 20060101AFI20231127BHJP
B63B 35/44 20060101ALI20231127BHJP
E02B 9/04 20060101ALI20231127BHJP
E03F 7/00 20060101ALI20231127BHJP
F16L 55/00 20060101ALI20231127BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20231127BHJP
G01N 21/954 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
G01B15/02 C
B63B35/44 Z
E02B9/04 A
E03F7/00
F16L55/00 D
G01C15/00 104Z
G01N21/954 A
(21)【出願番号】P 2022102887
(22)【出願日】2022-06-27
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】394019370
【氏名又は名称】株式会社ウオールナット
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】武居 直行
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰成
(72)【発明者】
【氏名】久保田 直行
(72)【発明者】
【氏名】財部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】沖安 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】比留間 純一
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特許第5487409(JP,B2)
【文献】特開2019-011971(JP,A)
【文献】特開2020-063665(JP,A)
【文献】特開2007-113240(JP,A)
【文献】特開2020-117943(JP,A)
【文献】特開2011-106177(JP,A)
【文献】特開2005-037212(JP,A)
【文献】特開2021-017771(JP,A)
【文献】特開2009-198377(JP,A)
【文献】特開2002-357563(JP,A)
【文献】特開2021-110695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/02
G01C 15/00
G01N 21/954
B63B 35/44
E02B 9/04
E03F 7/00
F16L 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路トンネル内を水流にしたがい流下しつつ前記水路トンネルを非接触に点検する点検装置であって、
前記水路トンネル内の水に浮かぶ浮体と、
前記水に浮かぶ前記浮体の前記水路トンネルの両側壁からの相対位置及び三次元姿勢を
自律制御する制御手段と、
前記浮体の外方を撮像するカメラと、
このカメラにより撮像された画像中の特徴点に基づき自己位置を推定する自己位置推定手段と、を備え
、
前記制御手段は、
水に浮かぶ前記浮体の位置を前記水路トンネルの両側壁から略等しい距離に保つとともに水流の流下方向に前記浮体の前部を向けた状態を保つように自律制御する位置制御手段と、
水に浮かぶ前記浮体の回転及び揺れを打ち消すことで三次元姿勢を自律制御する揺れ制御手段と、を有する
ことを特徴とする点検装置。
【請求項2】
自己位置推定手段は、カメラにより撮像された画像中のピクセルサイズと、この画像中の特徴点から算出した画像フレーム間の移動ピクセル数と、に基づいて前記画像フレーム間毎の移動量を積算することで、水路トンネル内の移動距離を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の点検装置。
【請求項3】
自己位置推定手段は、
カメラの撮像方向における前記カメラと水路トンネルの壁面との距離を計測する測距手段と、
この測距手段により計測された前記距離に基づき前記カメラにより撮像された画像中のピクセルサイズを算出する算出手段と、を有する
ことを特徴とする請求項2記載の点検装置
。
【請求項4】
位置制御手段は、
スラスタと、
水路トンネルの両側壁までの距離を計測する側壁計測手段と、
この側壁計測手段により計測された前記距離に基づき浮体と前記両側壁との距離を略一定とするとともに、前記距離から推定される水流の流下方向に前記浮体の前部を向けるように、前記スラスタを制御するコントローラと、を有する
ことを特徴とする請求項
1ないし3いずれか一記載の点検装置。
【請求項5】
揺れ制御手段は、
スラスタと、
水に浮かぶ浮体の三軸回転を検出するジャイロセンサと、
このジャイロセンサにより検出された前記浮体の回転を打ち消す方向に前記スラスタを制御するコントローラと、を有する
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の点検装置。
【請求項6】
浮体の上方に電磁波を放射しその反射波を取得するレーダ装置を備える
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の点検装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路トンネルを非接触に点検する点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水路トンネル内を点検する点検装置が知られている。この点検装置は、水路トンネル内を流れる水に浮遊して流下しつつセンサやカメラ等を用いて水路トンネル内や水路トンネルの壁、及び、水路トンネルが形成されている地山の空洞等を点検することで、断水をすることなく通水状態での点検が可能となっている(例えば、特許文献1ないし3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5487409号公報
【文献】特開2020-2756号公報
【文献】特開2020-117943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水路トンネル内においては、点検装置の自己位置の特定が困難である。例えばGPS等の衛星測位システムからの電波信号は、水路トンネル内で受信することができず、LiDARを用いた水路トンネルの形状判断に基づく自己位置推定は、水路トンネルの形状変化や特徴が少ないために移動情報が得にくく、画像を用いた自己位置推定も、照度不足や点検装置の揺れにより精度が悪い。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、水路トンネル内でも高精度に自己位置推定が可能な点検装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の点検装置は、水路トンネル内を水流にしたがい流下しつつ前記水路トンネルを非接触に点検する点検装置であって、前記水路トンネル内の水に浮かぶ浮体と、前記水に浮かぶ前記浮体の前記水路トンネルの両側壁からの相対位置及び三次元姿勢を自律制御する制御手段と、前記浮体の外方を撮像するカメラと、このカメラにより撮像された画像中の特徴点に基づき自己位置を推定する自己位置推定手段と、を備え、前記制御手段は、水に浮かぶ前記浮体の位置を前記水路トンネルの両側壁から略等しい距離に保つとともに水流の流下方向に前記浮体の前部を向けた状態を保つように自律制御する位置制御手段と、水に浮かぶ前記浮体の回転及び揺れを打ち消すことで三次元姿勢を自律制御する揺れ制御手段と、を有するものである。
【0007】
請求項2記載の点検装置は、請求項1記載の点検装置において、自己位置推定手段は、カメラにより撮像された画像中のピクセルサイズと、この画像中の特徴点から算出した画像フレーム間の移動ピクセル数と、に基づいて前記画像フレーム間毎の移動量を積算することで、水路トンネル内の移動距離を算出するものである。
【0008】
請求項3記載の点検装置は、請求項2記載の点検装置において、自己位置推定手段は、カメラの撮像方向における前記カメラと水路トンネルの壁面との距離を計測する測距手段と、この測距手段により計測された前記距離に基づき前記カメラにより撮像された画像中のピクセルサイズを算出する算出手段と、を有するものである。
【0009】
請求項4記載の点検装置は、請求項1ないし3いずれか一記載の点検装置において、位置制御手段は、スラスタと、水路トンネルの両側壁までの距離を計測する側壁計測手段と、この側壁計測手段により計測された前記距離に基づき前記浮体と前記両側壁との距離を略一定とするとともに、前記距離から推定される水流の流下方向に前記浮体の前部を向けるように、前記スラスタを制御するコントローラと、を有するものである。
【0010】
請求項5記載の点検装置は、請求項1ないし3いずれか一記載の点検装置において、揺れ制御手段は、スラスタと、水に浮かぶ浮体の三軸回転を検出するジャイロセンサと、このジャイロセンサにより検出された前記浮体の回転を打ち消す方向に前記スラスタを制御するコントローラと、を有するものである。
【0011】
請求項6記載の点検装置は、請求項1ないし3いずれか一記載の点検装置において、浮体の上方に電磁波を放射しその反射波を取得するレーダ装置を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水路トンネル内でも高精度に自己位置推定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施の形態の点検装置を模式的に示す平面図である。
【
図2】同上点検装置を背面側から模式的に示す説明図である。
【
図3】同上点検装置の内部構造を示すブロック図である。
【
図4】同上点検装置による水路トンネルの点検状態を模式的に示す斜視断面図である。
【
図5】(a)は同上点検装置の水路トンネルの直線状の部分を流下する際の位置制御を模式的に示す説明図、(b)は同上点検装置の水路トンネルの曲がった部分を流下する際の位置制御を模式的に示す説明図である。
【
図6】同上点検装置の揺れ制御を正面側から模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1ないし
図4において、1は点検装置を示す。点検装置1は、暗渠等の水路トンネル2内を水流にしたがい流下しつつ水路トンネル2を非接触に点検する水路トンネル用点検装置である。
【0016】
点検装置1は、浮体3を備える。浮体3は、水路トンネル2内の水Wに浮かぶように構成されている。図示される例では、浮体3は、例えば平面視で円形状に形成されている。浮体3には、レーダ装置4が配置されている。レーダ装置4は、浮体3に対して上方に電磁波Eを放射し、その反射波を取得する。レーダ装置4により取得された反射波を解析処理することで、点検装置1は水路トンネル2の天井面2a等を構成する覆工コンクリート厚、鉄筋状況、及び、背面側の空洞Cの有無や厚み等を調査することが可能となっている。レーダ装置4により取得された反射波のデータは、本実施の形態では、浮体3に配置されたメモリ等の記憶手段5に記憶される。
【0017】
水Wに浮かぶ浮体3は、制御手段6により水路トンネル2の両側壁2bからの相対位置及び三次元姿勢が制御される。本実施の形態では、制御手段6は、水Wに浮かぶ浮体3の位置を水路トンネル2の両側壁2bから略等しい距離に保つ位置制御手段8を有する。すなわち、位置制御手段8は、浮体3が水路トンネル2の左右方向の略中央部を流下するように制御する。また、位置制御手段8は、浮体3の前部を常に流下方向に向けるように制御する。
【0018】
図示される例では、位置制御手段8は、スラスタ10を備える。本実施の形態において、スラスタ10は、浮体3を水Wに浮かべた状態で水面下(水中)に少なくとも一部が位置して水流による推進力を生じさせることで浮体3の向きや傾きを制御するスクリュである。スラスタ10は、浮体3の下部に複数配置されている。本実施の形態において、スラスタ10は、浮体3の前後に一対、左右に一対、それぞれ配置されている。スラスタ10は、浮体3の下部の外縁付近に配置され、スラスタ10の周方向に等配または略等配されている。そのため、本実施の形態において、スラスタ10は、浮体3の周方向に略90°毎に配置されている。図示される例では、前後のスラスタ10a,10bは、左右方向に回転軸を有し、左右のスラスタ10c,10dは、前後方向に回転軸を有する。これに限らず、スラスタ10は、水流により浮体3の位置及び姿勢を任意方向に制御できれば、任意の位置に任意の個数を配置してもよく、その回転軸の方向も限定されない。
【0019】
スラスタ10の動作は、マイコン等のコントローラ11により制御される。コントローラ11は、駆動すべきスラスタ10を決定するとともにスラスタ10毎の駆動力を演算する演算部と、演算部での演算結果に応じてスラスタ10を駆動するドライバと、を有する。本実施の形態では、コントローラ11は、浮体3に配置されている。本実施の形態において、位置制御手段8では、コントローラ11が、側壁計測手段12の計測結果に基づきスラスタ10の動作を制御する。
【0020】
図5(a)及び
図5(b)に示すように、側壁計測手段12は、この側壁計測手段12から水路トンネル2の両側壁2bまでの距離を計測する。側壁計測手段12は、浮体3の前方側の所定範囲の距離を計測する測域センサである。側壁計測手段12としては、例えばLiDAR(ライダ)が用いられる。側壁計測手段12は、浮体3の上部の前部に位置する。側壁計測手段12は、水平方向の所定範囲、例えば前方から左右に135°ずつの範囲R1にパルス状にレーザを照射し、その散乱光を測定することで、水路トンネル2の両側壁2bまでの距離、すなわち両側壁2bの形状を測定する。換言すれば、側壁計測手段12は、水流と平行な方向の水路トンネル2の断面形状を計測する断面形状計測手段である。
【0021】
また、
図3に示す制御手段6は、水Wに浮かぶ浮体3の三次元姿勢を制御する揺れ制御手段15を有する。本実施の形態において、揺れ制御手段15は、スラスタ10を備える。図示される例では、揺れ制御手段15のスラスタ10は、位置制御手段8のスラスタ10と兼用される。これに限らず、揺れ制御手段15の専用のスラスタを用いてもよい。また、スラスタ10の動作は、コントローラ11により制御される。図示される例では、揺れ制御手段15のコントローラ11は、位置制御手段8のコントローラ11と兼用される。これに限らず、揺れ制御手段15の専用のコントローラを用いてもよい。
【0022】
本実施の形態において、揺れ制御手段15では、コントローラ11が、ジャイロセンサ(ジャイロスコープ)16の検出結果に基づきスラスタ10の動作を制御する。したがって、本実施の形態において、コントローラ11は、位置制御手段8による制御と、揺れ制御手段15による制御と、をAND制御する。
【0023】
図1及び
図2に示すジャイロセンサ16は、水Wに浮かぶ浮体3の前後方向に沿うx軸、左右方向に沿うy軸、及び、上下方向に沿うz軸の三軸回転(ロール、ピッチ、ヨー)を検出する。ジャイロセンサ16は、例えば浮体3の中央部に配置されている。図示される例では、ジャイロセンサ16は、点検装置1(浮体3)が水路トンネル2内の水Wに浮かんだ状態で水面下となる位置にある。
【0024】
さらに、点検装置1は、浮体3の外方を所定の画角CA(
図2)で撮像するカメラ20を備える。カメラ20は、所定のフレームレートで浮体3の外方を連続的に撮像する。カメラ20は、浮体3の上部に配置されている。図示される例では、カメラ20は、浮体3の上部の後部に配置されている。すなわち、カメラ20は、浮体3の平面視での中央部を基準として、側壁計測手段12とは反対側に位置する。本実施の形態において、カメラ20は、例えば浮体3の上方、すなわち水路トンネル2の天井面2aを撮像する。カメラ20による撮像は、照明手段からの照明により補助されてもよい。カメラ20で撮像された画像は、記憶手段5に記憶される。そして、点検装置1は、カメラ20により撮像された画像中の特徴点に基づき自己位置推定手段21により自己位置を推定する。
【0025】
自己位置推定手段21は、カメラ20により撮像された画像中の1ピクセルに撮像される撮像対象の実際の大きさすなわちピクセルサイズと、この画像中の特徴点から算出した画像フレーム間の移動ピクセル数と、に基づいて画像フレーム間毎の移動量を積算することで、水路トンネル2内の点検装置1の移動距離を算出する。このカメラ20の画像は、記憶手段5に記憶されたもの、あるいはカメラ20の画像に対し歪み補正やトリミング等の所定の一次画像処理を施したものを用いてもよいし、カメラ20から直接出力されたものを用いてもよい。
【0026】
そのため、自己位置推定手段21は、カメラ20の撮像方向におけるカメラ20と水路トンネル2との距離を計測する測距手段23を有する。測距手段23は、浮体3の上方側の所定範囲の距離を計測する測域センサである。測距手段23としては、例えばLiDAR(ライダ)が用いられる。測距手段23は、浮体3の上部の前部に位置する。本実施の形態では、測距手段23は、側壁計測手段12の直上に位置する。測距手段23は、垂直方向の所定範囲、例えば鉛直上方から左右に135°ずつの範囲R2(
図2)にパルス状にレーザを照射し、その散乱光を測定することで、カメラ20の撮像方向、本実施の形態では上方の水路トンネル2の壁である天井面2aまでの距離D(
図2)及び両側壁2aまでの距離、すなわち水路トンネル2の内壁の断面形状を測定する。図示される例では、測距手段23は、少なくとも水面よりも上方に位置する水路トンネル2の内壁の水流と直交する断面形状を測定する断面形状計測手段である。
【0027】
また、自己位置推定手段21は、測距手段23により計測された距離Dに基づきカメラ20により撮像された画像中のピクセルサイズを算出する算出手段25を有する。算出手段25は、予め分かっているカメラ20の画角CA(
図2)と測距手段23により計測された距離D(
図2)とから、画像に撮像された撮像対象の範囲の実際の縦横の寸法を算出し、その寸法をピクセル数で除することにより、1ピクセルに写っている撮像対象の実際の縦横のサイズを算出することが可能になる。
【0028】
そして、
図3に示すように、自己位置推定手段21は、算出手段25により算出されたピクセルサイズと、画像中の特徴点から算出した画像フレーム間の移動ピクセル数と、に基づいて画像フレーム間毎の移動量を積算する積算手段27を有する。積算手段27は、カメラ20により撮像されたフレーム毎の画像中の特徴点をエッジ検出等により抽出し、その特徴点が画像フレーム間で何ピクセル移動したかに応じて(ピクセルサイズ×移動ピクセル数)、画像フレーム間での点検装置1の移動量を算出するとともに、その移動量を積算することで、水路トンネル2内の点検装置1の移動距離を算出可能である。画像フレーム間での点検装置1の移動量は、複数の特徴点のフレーム間での移動量の平均値、最頻値、最大値、あるいは最小値等の代表値として求めてもよい。
【0029】
また、自己位置推定手段21は点検装置1の流下中にリアルタイムで移動量を算出する必要はなく、流下後に記憶手段5に記憶された測距データおよびカメラ画像をもとに移動量を算出してもよい。
【0030】
点検装置1に備えられた各部は、バッテリ等の電源部29からの給電により動作する。電源部29は、一次電池、二次電池等、任意のものを用いることが可能である。電源部29は、浮体3に重量バランスを考慮して配置されている。点検装置1の起動及び停止等は、電源スイッチ等を用いて実施される。
【0031】
次に、一実施の形態の動作を説明する。
【0032】
図1ないし
図4に示すように、点検装置1は、水路トンネル2における所定の開始位置から、浮体3を水Wに浮かばせて水路トンネル2内の水流に任せて流下しつつ、レーダ装置4により上方に電磁波Eを放射し、その反射波を取得して、記憶手段5に記憶していく。
【0033】
このとき、点検装置1は、制御手段6の位置制御手段8において、側壁計測手段12によって水路トンネル2の両側壁2bまでの距離及び両側壁2bの形状を検出し、その検出した距離及び形状に応じて、点検装置1(浮体3)の前部が常に水流の下流側を向き、かつ、点検装置1(浮体3)が両側壁2bから略等しい位置、すなわち水路トンネル2の中央部を通るように、コントローラ11がスラスタ10を制御する。
【0034】
例えば、
図5(a)に示すように、水路トンネル2の直線状の部分を通過する場合、側壁計測手段12により検出した両側壁2bまでの距離から、水路トンネル2の中央部に沿う目標中心線CLに沿って流下するように、コントローラ11(
図3)がスラスタ10(
図3)を制御する。また、浮体3の前部が流下方向(矢印Fに示す)に対して左方向を向いている場合には、浮体3の前部を下流側に向けるように、つまり浮体3の前部を右側へと向かわせるようにコントローラ11(
図3)がスラスタ10(
図3)を制御する。
【0035】
また、例えば
図5(b)に示すように、水路トンネル2の湾曲した部分を通過する場合、側壁計測手段12により検出した両側壁2bまでの距離から、水路トンネル2の中央部に沿う目標中心線CLに沿って流下するように、コントローラ11(
図3)がスラスタ10(
図3)を制御する。また、浮体3の前部が流下方向(矢印Fに示す)に対して目標中心線CLが右方向に湾曲している場合には、浮体3の前部をその湾曲方向に沿って下流側に向けるように、つまり浮体3の前部を右側へと向かわせるようにコントローラ11(
図3)がスラスタ10(
図3)を制御する。
【0036】
また、点検装置1は、制御手段6の揺れ制御手段15において、ジャイロセンサ16によって浮体3の三軸回転を検出し、その検出した回転を打ち消すようにコントローラ11がスラスタ10を制御する。例えば、
図6の矢印Rに示すように、点検装置1(浮体3)が一側(図中の右側)に傾こうとした場合には、それを検出したジャイロセンサ16の出力に応じて、コントローラ11(
図3)が前側及び/または後側のスラスタ10を動作させて傾きを打ち消し、浮体3が水平を保つようにする。
【0037】
したがって、点検装置1は、制御手段6により、水路トンネル2に対し中心位置をほぼ合わせ、かつ、水平状態を保った、安定した姿勢でレーダ装置4による電磁波Eの出力及び反射波の取得、カメラ20による浮体3の外方の画像の撮像、及び、測距手段23による測距を実施できる。そのため、カメラ20により撮像された画像に歪みが生じにくいので、この画像中の特徴点に基づき、GPS信号等の衛星測位システムからの電波が届かず、形状変化による移動情報を得にくい水路トンネル2内であっても、自己位置推定手段21によって、開始位置からの移動距離、すなわち自己位置を高精度に推定可能となる。
【0038】
すなわち、例えば衛星測位システムからの電波は水路トンネル2内に届かず、車輪等を用いた場合のエンコーダによる距離計測は、水路トンネル2を流下する点検装置1では用いることが困難であり、レーザ距離計による距離計測は、計測する面までの距離を一定にする必要がある点、通水状態で壁面や天井までの距離を安定して保持することが困難であり、レーダドップラーによる距離計測は、水路トンネル2の壁面の角度変化が誤差となって安定した精度が得られず、LiDARによる形状計測に基づく距離計測は、水路トンネル2の形状変化が少ないことから移動情報が得にくく困難である、という課題がある。また、画像を用いた自己位置推定の場合でも、水路トンネル2内では、多視点の画像が得られず、一定方向に移動する画像から処理を行うと、画像フレームの中心位置のずれや点検装置の回転、揺れに起因する画像の傾きが誤差要因となり、精度が低下する。それに対し、本実施の形態によれば、制御手段6によって常に安定した姿勢として撮像したカメラ20の画像に基づき自己位置推定手段21が自己位置を推定するので、自己位置の推定精度が高い。
【0039】
この結果、安定した姿勢でレーダ装置4により取得されたデータと、自己位置推定手段21により高精度に推定された点検装置1の自己位置と、を照合することにより、水路トンネル2を高精度に点検できる。
【0040】
自己位置推定手段21は、カメラ20により撮像された画像中のピクセルサイズと、この画像中の特徴点から算出した画像フレーム間の移動ピクセル数と、に基づいて画像フレーム間毎の移動量を積算することで、水路トンネル2内の移動距離を算出するので、高精度な自己位置推定を容易に実現できる。
【0041】
具体的に、自己位置推定手段21は、カメラ20の撮像方向におけるカメラ20と水路トンネル2との距離を測距手段23で測定し、この測距手段23により計測された距離に基づきカメラ20により撮像された画像中のピクセルサイズを算出手段25により算出することで、高精度な自己位置推定を容易に実現できる。
【0042】
水Wに浮かぶ浮体3の位置を位置制御手段8により水路トンネル2の両側壁2bから略等しい距離に保つことで、水路トンネル2の左右方向の略中央部に沿って点検装置1を流下させることができる。
【0043】
側壁計測手段12により水路トンネル2の両側壁2bまでの距離を計測し、その距離に基づき浮体3と両側壁2bとの距離を略一定とするとともに、その距離(形状)から推定される水流の流下方向に浮体3の前部を向けるように、コントローラ11によりスラスタ10を制御することで、浮体3を水路トンネル2の略中央部に沿って下流側に向かい、水流にしたがって流下させることができる。
【0044】
水Wに浮かぶ浮体3の三軸回転をジャイロセンサ16により検出し、その浮体3の回転を打ち消す方向にコントローラ11がスラスタ10を制御することで、水流にしたがい流下する浮体3の三軸回転すなわち揺れを抑制できる。
【0045】
なお、本実施の形態において、スラスタ10は、あくまでも点検装置1(浮体3)の位置及び姿勢の制御に用いられるのみであり、水路トンネル2内の水上を移動する推進力を付与するものではない。
【0046】
なお、上記の一実施の形態において、記憶手段5は、点検装置1の浮体3に配置されたものとしたが、これに限らず、有線または無線の通信手段により各種データを送信することで、点検装置1の外部に位置する記憶手段に記憶するようにしてもよい。外部に位置する記憶手段としては、インターネット等のネットワーク上のクラウドサーバ等でもよい。
【0047】
また、レーダ装置4により取得したデータは、外部の技術者や人工知能等手段によって解析してもよいし、そのデータの解析手段を点検装置1に搭載し、解析結果を記憶手段に記憶するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 点検装置
2 水路トンネル
3 浮体
4 レーダ装置
6 制御手段
8 位置制御手段
10 スラスタ
11 コントローラ
12 側壁計測手段
15 揺れ制御手段
16 ジャイロセンサ
20 カメラ
21 自己位置推定手段
23 測距手段
25 算出手段
【要約】
【課題】水路トンネル内でも高精度に自己位置推定が可能な点検装置を提供する。
【解決手段】点検装置1は、水路トンネル内を水流にしたがい流下しつつ水路トンネルを非接触に点検する点検装置である。点検装置1は、水路トンネル内の水に浮かぶ浮体3と、水に浮かぶ浮体3の水路トンネルの両側壁からの相対位置及び三次元姿勢を制御する制御手段6と、浮体の外方を撮像するカメラ20と、カメラ29により撮像された画像中の特徴点に基づき自己位置を推定する自己位置推定手段21と、を備える。
【選択図】
図1