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特許7390632ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法及びそれに用いる浮選剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法及びそれに用いる浮選剤
(51)【国際特許分類】
   B03D 1/012 20060101AFI20231127BHJP
   B03D 1/02 20060101ALI20231127BHJP
   C22B 1/11 20060101ALI20231127BHJP
   B03D 101/02 20060101ALN20231127BHJP
   B03D 103/02 20060101ALN20231127BHJP
【FI】
B03D1/012
B03D1/02
C22B1/11
B03D101:02
B03D103:02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022545526
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2021026559
(87)【国際公開番号】W WO2022044599
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2020143568
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 太郎
(72)【発明者】
【氏名】今野 広祐
(72)【発明者】
【氏名】小野 竜大
(72)【発明者】
【氏名】マグワネン リフィルウェ サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】馬場 由成
(72)【発明者】
【氏名】與 久仁子
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-100961(JP,A)
【文献】特開2020-104095(JP,A)
【文献】特開2012-241249(JP,A)
【文献】特開2013-209719(JP,A)
【文献】特開2021-074640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03D 1/00-1/26
C22B 1/00-1/26、15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法であって、
前記混合物に水を加えてスラリーを形成するスラリー化工程と、捕収剤を含む浮選剤を前記スラリーに添加し、前記ヒ素含有銅鉱物を選択的に浮上させて選鉱する浮選工程とを備え、
前記捕収剤が以下の式(1)で表される、回収方法。
-S-R ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは炭素数が5~10のアルキル基であり、Rは炭素数が1~10のアルキル基である)
【請求項2】
前記捕収剤のRは、直鎖アルキル基である、請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
前記捕収剤のRは、炭素数が1又は2のアルキル基である、請求項1又は2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記スラリー化工程と前記浮選工程との間に、スラリーのpHを調整するpH調整工程を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項5】
前記ヒ素含有銅鉱物が、硫ヒ銅鉱を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項6】
前記ヒ素非含有銅鉱物が、黄銅鉱、斑銅鉱、銅藍、若しくは輝銅鉱のいずれか又はこれらの組合せを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項7】
ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法に用いられる、以下の式(1)で表される捕収剤を含む浮選剤。
-S-R ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは炭素数が5~10のアルキル基であり、Rは炭素数が1~10のアルキル基である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法、及びそれに用いる浮選剤に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、いわゆる鉱山国である外国(例えば、チリ、ペルー等の南米各国)から銅精鉱を輸入して、国内で製錬して銅地金を生産している。海外で採掘された銅鉱石中には、一般に、ヒ素を含有する銅鉱物(例えば、硫ヒ銅鉱)とヒ素を含有しない銅鉱物(例えば、黄銅鉱、斑銅鉱、銅藍、輝銅鉱)が含まれているが、近年、銅精鉱中のヒ素の含有量が増加傾向にある。
【0003】
銅精鉱中に含まれるヒ素は、製錬の過程でスラグや煙灰等に分配され、それらは製錬所で安定的な形に固定して処理されるものの、含有量増加に起因した処理費用の上昇や製錬所内外の保管場所等の問題が懸念されている。このため、銅製錬工程の前段階である選鉱工程において、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する技術が求められている。
【0004】
非特許文献1には、従来の浮選では硫化銅鉱物と含ヒ素銅鉱物の物性が似ており分離が困難であったため、抑制剤として亜硫酸ナトリウム、捕収剤としてPotassium Amyl Xanthate(PAX)を用いたこと、硫化銅鉱物として黄銅鉱と斑銅鉱、含ヒ素銅鉱物として硫ヒ銅鉱とヒ四面銅鉱という4種の鉱物を対象とし、回収率に対する各試薬の影響などを検討したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】折居優太、Suyantara Gde Pandhe Wisnu、三木一、笹木圭子、平島剛、黒岩樹人、青木悠二、「亜硫酸ナトリウム添加による硫化銅鉱物と含ヒ素銅鉱物の浮選分離に関する研究」、資源・素材講演集、Vol.6 (2019)、No.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、非特許文献1に記載の浮選分離法では、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物の分離効率など、更なる改善の余地があることが判明した。
【0007】
本発明は、銅精鉱中の有害物質であるヒ素を低減するために、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法及びそれに用いる浮選剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する浮選工程に用いる浮選剤の成分である捕収剤として、メチルn-オクチルスルフィドやジn-オクチルスルフィドなどの、R-S-R(式中、Rは、炭素数が5~10のアルキル基であり、Rは炭素数が1~10のアルキル基)の構造を持つスルフィド化合物が、分離効率などに優れていることを見出した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法であって、
前記混合物に水を加えてスラリーを形成するスラリー化工程と、捕収剤を含む浮選剤を前記スラリーに添加し、前記ヒ素含有銅鉱物を選択的に浮上させて選鉱する浮選工程とを備え、
前記捕収剤が以下の式(1)で表される、回収方法。
-S-R ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは炭素数が5~10のアルキル基であり、Rは炭素数が1~10のアルキル基である)
[2] 捕収剤のRは、直鎖アルキル基である、[1]に記載の回収方法。
[3] 捕収剤のRは、炭素数が1又は2のアルキル基である、[1]又は[2]に記載の回収方法。
[4] スラリー化工程と浮選工程との間に、スラリーのpHを調整するpH調整工程を備える、[1]~[3]のいずれかに記載の回収方法。
[5] ヒ素含有銅鉱物が、硫ヒ銅鉱を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の回収方法。
[6] ヒ素非含有銅鉱物が、黄銅鉱、斑銅鉱、銅藍、若しくは輝銅鉱のいずれか又はこれらの組合せを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の回収方法。
[7] ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法に用いられる、以下の式(1)で表される捕収剤を含む浮選剤。
-S-R ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは炭素数が5~10のアルキル基であり、Rは炭素数が1~10のアルキル基である)
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法及びそれに用いる浮選剤を提供できる。その結果、銅製錬工程に供する銅精鉱中のヒ素を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の回収方法の工程の一例を示すフロー図である。
図2】試験で用いた各種銅鉱物標本(硫ヒ銅鉱、黄銅鉱、斑銅鉱、銅藍、輝銅鉱)の-150+75μmに整粒後の粒度分布である。
図3】実施例で用いた簡易浮選機(ハリモンドチューブ)の概略図である。
図4】実施例1でヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物のそれぞれの浮鉱に回収された重量割合(回収率)を示す図である。
図5】実施例2でヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物のそれぞれの浮鉱に回収された重量割合(回収率)を示す図である。
図6】実施例3でヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物のそれぞれの浮鉱に回収された重量割合(回収率)を示す図である。
図7】実施例4でヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物のそれぞれの浮鉱に回収された重量割合(回収率)を示す図である。
図8】実施例5でヒ素含有銅鉱の浮鉱に回収された重量割合(回収率)を浮選時間(分)に対してプロットした図である。
図9】実施例5でヒ素非含有銅鉱の浮鉱に回収された重量割合(回収率)を浮選時間(分)に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0013】
本実施形態の回収方法は、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法である。
本実施形態の回収方法の工程の一例をフロー図として図1に示す。図1に示すように、本実施形態の回収方法では、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物の混合物に水を加えてスラリーを形成する工程(スラリー形成工程:S1)、スラリーのpHを調整する工程(pH調整工程:S2)、捕収剤を含む浮選剤をスラリーに添加する工程(添加工程:S3)、及びヒ素含有銅鉱物を選択的に浮上させて選鉱する工程(浮選工程:S4)を備える。
【0014】
本実施形態の回収方法は、スラリー形成工程S1において、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物を含む混合物に水を加えてスラリーを形成する。
【0015】
ヒ素含有銅鉱物とは、ヒ素を含有する銅鉱物である。より具体的には化学組成としてヒ素(As)元素を含む銅鉱物をいい、例えば、硫ヒ銅鉱(Enargite、CuAsS)、ヒ四面銅鉱(Tennantite、Cu[Cu(Fe,Zn)]As13)、ジロー鉱(Giraudite、Cu[Cu(Fe,Zn)]AsSe13)、ゴールドフィールド鉱(Goldfieldite、CuCuTe(Sb,As)13)、銀ヒ四面銅鉱(Argentotennantite、Ag[Cu(Fe,Zn)]As13)などが挙げられる。
【0016】
ヒ素非含有銅鉱物とは、ヒ素を含有しない銅鉱物である。より具体的には化学組成としてヒ素元素を含まない銅鉱物である。例えば、黄銅鉱(Chalcopyrite、CuFeS)、斑銅鉱(Bornite、CuFeS)、銅藍(Covellite、CuS)、輝銅鉱(Chalcocite、CuS)などが挙げられる。
【0017】
なお、ヒ素含有銅鉱物は、ヒ素非含有銅鉱物との片刃粒子を含んでいてもよい。また、ヒ素非含有銅鉱物は、ヒ素含有銅鉱物との片刃粒子を微量(例えば0.1wt%以下)含んでいてもよい。また、ヒ素非含有銅鉱物は不純物として微量(例えば0.1wt%以下)のヒ素を含んでいてもよい。
【0018】
ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物とは、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とが混合されたものであればよい。例えば、粉砕されて微粒化されたヒ素含有銅鉱物の微粒子とヒ素非含有銅鉱物の微粒子とが混合された混合物であってもよい。また、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む銅精鉱であってもよく、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物を含む銅鉱石であってもよい。
【0019】
ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物の混合物におけるヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物との混合比率は、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収することができれば特に制限されない。例えば、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物を、同じ割合で混合してもよいし、あるいはヒ素含有銅鉱物がヒ素非含有銅鉱物よりも多い混合量であってもよく、その逆であってもよい。
【0020】
本実施形態において、スラリーとは、水溶液中に鉱物粒子(ヒ素含有銅鉱物粒子やヒ素非含有銅鉱物粒子)が懸濁した流動体を意味する。ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物に加える水は、特に制限されず、例えば蒸留水であってもよく、水道水や天然水であってもよい。また、水道水や天然水などをRO膜という超微細な逆浸透膜フィルターでろ過した水(RO水)であってもよい。ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物に加える水の添加量は、スラリーが形成されれば特に制限されず、例えばヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物1gに対して2mL~500mLであってもよい。
【0021】
本実施形態の回収方法では、スラリー形成工程S1において形成されたスラリーのpHを調整する(pH調整工程S2)。
【0022】
pH調整工程S2において、調整されるスラリーのpHは5より高いことが好ましく、pH6以上であってもよく、pH7以上であることがより好ましい。本実施形態で用いるヒ素含有銅鉱物は、アルカリ性領域のスラリー中で浮上しやすく、特にpH8以上の弱アルカリ性領域で化学的吸着性が良好となりヒ素含有銅鉱物が浮上しやすい傾向にある。
【0023】
スラリーの温度は、ヒ素含有銅鉱物を浮選できる温度であれば特に制限されず、例えば20~25℃の常温でもよい。
【0024】
本実施形態の回収方法では、pH調整工程S2で調整されたスラリーに、捕収剤を含む浮選剤を添加する(添加工程S3)。
【0025】
添加工程S3で用いられる浮選剤は、以下の式(1)の捕収剤を含むものであれば特に制限されない。
-S-R ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは炭素数が5~10のアルキル基であり、Rは炭素数が1~10のアルキル基である)
【0026】
捕収剤のRは、直鎖アルキル基であってもよい。Rが直鎖アルキル基であることによって疎水性が向上し、ヒ素含有銅鉱物をより浮上させやすくなる傾向にある。Rは炭素数が7~9の直鎖アルキル基であってもよい。
【0027】
捕収剤のR及びRは、同じ構造のアルキル基であってもよい。R及びRが同じ構造のアルキル基であることによって、例えばジn-オクチルスルフィドのようにヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物との分離効率が向上する傾向にある。
【0028】
捕収剤のRは、炭素数が1又は2のアルキル基であってもよい。Rが1又は2の炭素数のアルキル基であることによって、例えばメチルn-オクチルスルフィドのようにヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物との分離効率が向上する傾向にある。
【0029】
式(1)の捕収剤としては、例えばメチルn-オクチルスルフィド、ジn-オクチルスルフィド、メチルn-アミルスルフィド、ジn-アミルスルフィド、ジn-ヘキシルスルフィド、メチルn-ヘプチルスルフィド、ジn-ヘプチルスルフィド、ジn-ノニルスルフィド、ジn-デシルスルフィド、メチルn-デシルスルフィドなどを挙げることができる。これらの中でも、分離効率や沈鉱中のヒ素(As)品位の点から、メチルn-オクチルスルフィドやジn-オクチルスルフィドが好ましく、特にメチルn-オクチルスルフィドが好ましい。
【0030】
本発明者らが、捕収剤として、式(1)のスルフィド化合物を独自に着想して具体化した経由は以下のとおりである。まずスルフィド化合物のS原子はCu(I)及びAs(III)に対して親和性が高いことに着目した。次いでヒ素含有銅鉱物の代表例である硫ヒ銅鉱中のAsは5価(V)であるもののCuは1価(I)であって3つあることから、スルフィド化合物のS原子との親和性が高くなるのではないかと着想した。さらに、スルフィド化合物のS基はアルキル基と同様に疎水性が高く、疎水性相互作用によりS原子を含む硫ヒ銅鉱粒子への吸着が起こりやすいのではないかとの着想から、上記式(1)のスルフィド化合物を選定し、具体化するに至った。
【0031】
捕収剤の添加量は、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物1t当たり、50g~2000gであってもよく、60g~1500gであってもよく、70g~1300gであってもよい。捕収剤の添加量が混合物1t当たり、50g未満になるとヒ素含有銅鉱物の回収率が低くなる傾向にあり、2000gより多くしても回収率はそれほど向上せず、むしろ選択性が低下する傾向にある。捕収剤の添加量は、溶液(水)に対する捕収剤の溶解度の上限の0.25~4倍であってもよい。なお、上記添加量は銅精鉱をベースにしたものであり、銅鉱石の場合は含まれるヒ素含有銅鉱物やヒ素非含有銅鉱物の割合が低くなるため、それに応じて適宜添加量を調整すればよい。
【0032】
浮選剤は、上記捕収剤以外に、抑制剤、起泡剤などを含んでもよい。また、浮選剤は捕収剤以外の物質は特に含まずに、捕収剤そのものであってもよい。
【0033】
以上のとおり、本実施形態の浮選剤は、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法に用いられる、以下の式(1)で表される捕収剤を含む浮選剤である。
-S-R ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは炭素数が5~10のアルキル基であり、Rは炭素数が1~10のアルキル基である)
【0034】
本実施形態の回収方法においては、添加工程S3で捕収剤を含む浮選剤が添加されたスラリーについて、ヒ素含有銅鉱物を選択的に浮上させて選鉱する(浮選工程S4)。
【0035】
本実施形態において、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収するとは、浮選工程でヒ素含有銅鉱物をスラリー溶液中の表面側へ浮上させて選鉱することを意味し、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを選択的に分離することを含み、浮上する浮鉱(フロス(froth))にはヒ素含有銅鉱物が含まれる。ここで、浮上する浮鉱にはヒ素含有銅鉱物だけでなく、ヒ素非含有銅鉱物や他の鉱物、不純物などが含まれていてもよい。本実施形態において、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収するとは、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物の混合物から効率よくヒ素含有銅鉱物を除去することも意味し、後工程の製錬工程において、選択的に回収されたヒ素含有銅鉱物からヒ素を取り除いて銅を得ることもできる。
【0036】
ヒ素含有銅鉱物を浮上させて選鉱する本実施形態の回収方法において、ヒ素非含有銅鉱物をスラリー溶液中の底部側へ沈降させて回収することもできる。すなわち、いわゆる逆浮選プロセスにより、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物の混合物から効率よく、ヒ素非含有銅鉱物を含むヒ素含有量の少ない濃縮物を得ることができる。
【0037】
浮選(浮遊選鉱)は、鉱物粒子を水に懸濁させたスラリーに空気を吹き込むことで、鉱物粒子のうち疎水性粒子が気泡に付着し、浮上する一方、鉱物粒子のうち親水性粒子は、気泡に付着できずスラリー中を滞留することを利用した分離法である。捕収剤は、目的とする鉱物粒子に選択的に吸着する部位と、気泡に付着しやすい疎水基からなっている。本実施形態においては、必要としない鉱物粒子に気泡を付着させ、浮上させて分離することで、スラリー中の必要とする鉱物粒子の濃度を高める手法を逆浮選という。本実施形態の捕収剤は疎水基を持ち、ヒ素非含有銅鉱物には吸着せず、ヒ素含有銅鉱物に選択的に吸着する部位を持っていることで、ヒ素含有銅鉱物(粒子)のみ気泡に付着し、選択的にスラリー上面に浮上させることによって浮鉱(フロス(froth))はヒ素が濃縮した高ヒ素銅精鉱となる。さらに、スラリー中のヒ素非含有銅鉱物(粒子)の濃度を高める逆浮選処理を行うことで、効率よく分離することが可能である。これにより、ヒ素非含有銅鉱物は沈鉱(テーリング(tailing))に濃縮され、沈鉱はヒ素が低減した低ヒ素銅精鉱となる。すなわち、本実施形態の回収方法は、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法であって、混合物に水を加えてスラリーを形成するスラリー化工程と、捕収剤を含む浮選剤をスラリーに添加し、ヒ素含有銅鉱物を選択的に浮上させて選鉱するとともにスラリー中のヒ素非含有銅鉱物を濃縮する逆浮選工程を備える回収方法ということもできる。
【0038】
本実施形態において、回収率及び分離効率は、以下のように求めることができる。なお、一部の式では、ヒ素含有銅鉱物が硫ヒ銅鉱である場合を例として記載した。
【数1】
【0039】
【数2】
【0040】
【数3】
【0041】
【数4】
【0042】
本実施形態においては、ヒ素含有銅鉱物の回収率及び分離効率は高い方が好ましい。また、ヒ素含有銅鉱物の回収率が高くなれば、スラリー中のヒ素非含有銅鉱物(粒子)が濃縮され、沈鉱はよりヒ素が低減した低ヒ素銅精鉱となる点でも好ましい。
【0043】
なお、本実施形態が対象とする含銅鉱物は鉱物標本に限定されるものでなく、銅鉱石であってもよい。
銅鉱石に対する本実施形態の回収方法としては、まず従来から行われている一般的な浮遊選鉱法を用いて不純物を多く含む銅精鉱を回収し、次いで本実施形態の回収方法が備える工程に従ってヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱を分離して高ヒ素品位銅精鉱と低ヒ素品位銅精鉱を回収することができる。なお、銅精鉱を用いる場合、不純物を多く含む銅精鉱回収時に使用した試薬が、銅精鉱の表面に付着している場合があることから、例えばアセトンで銅精鉱の表面を洗浄する前処理を行うことが好ましく、及び/又は、再磨鉱などの物理処理によって試薬などが付着した面を剥離する処理を行うことが好ましい。このような前処理や剥離処理により、浮選処理におけるヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物との分離効率が向上しやすくなる。すなわち、ヒ素含有銅精鉱からヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを分離して高ヒ素品位銅精鉱と低ヒ素品位銅精鉱を回収する場合にも本発明を適用することができる。この場合、中間原料となる不純物を高濃度に含む銅精鉱の銅品位には特に限定がない。
さらに銅鉱石に対する本実施形態の回収方法として、銅鉱石から、直接ヒ素含有銅鉱をスラリー中で選択的に浮上させ、高ヒ素品位銅精鉱を回収する、ヒ素含有銅鉱優先浮選に用いることもできる。
【0044】
浮選(浮遊選鉱)を行う場合、ヒ素含有銅鉱物やヒ素非含有銅鉱物が単体粒子で存在しているとより効果的に選鉱することができるため、粉砕等の前処理を行って、ヒ素含有銅鉱物やヒ素非含有銅鉱物の多くが単体分離されているようにすることが望ましい。微粉化されたヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物との混合物の平均粒径は、10μm以上が好ましく、このようにすることで鉱物粒子が気泡に吸着しやすくなる傾向にある。
【0045】
以上のとおり、本実施形態の回収方法によれば、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、効率よくヒ素含有銅鉱物を選択的に回収することができる。また、本実施形態によれば、当該方法に用いる優れた捕収剤を含む浮選剤も提供できる。その結果、銅製錬工程に供する銅精鉱中のヒ素を効率よく低減することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例に基づき、本発明の効果について、更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[手順1:試験試料の調製]
鉱物標本として、ヒ素非含有銅鉱物及びヒ素含有銅鉱物を検討対象として採用した。具体的には、ヒ素含有銅鉱物として、鉱物標本名=硫ヒ銅鉱を鉱物標本xに設定し、ヒ素非含有銅鉱物として、鉱物標本名=黄銅鉱、斑銅鉱、銅藍及び輝銅鉱を、それぞれ鉱物標本a~dに設定した。まず、鉱物標本x及びa~dを、目視により手選別して不要なものを排石した。次いでFRITSCHE製のディスクミルを使用して、各鉱物標本を粉砕し、150μmふるいを通過させ、75μmでふるい分けられたものを試験試料とした。
【0048】
[手順2:試験試料の分析]
各試験試料の品位分析として、元素品位を、以下の分析フローで求めた。
まず、各試験試料の重量測定を行い、次いで、マイクロウェーブ加熱・酸溶解を行い、メスアップを行って定容し、分析試料溶液とした。これらの各分析試料溶液を、Agilent Technologies製のICP-OES 5110を用いて、ICP分析を行い、溶液中の元素濃度として定量分析した。具体的には、メスアップ後の溶液体積に、ICPで分析した各成分元素の溶液濃度を乗じたものを、酸溶解した試料の重量で除して、元素品位(wt%)とした。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
各試験試料の鉱物含有率を、以下のフローで求めた。
まず、各試験試料の樹脂埋めを行い、表面を研磨し、分析試料とした。これらの各分析試料を、FEI製のMLA(Quanta650)を用いて、品位分析と形状分析を行った。MLAはMineral Liberation Analyzerの略で、SEM-EDSに鉱物解析ソフトウェアが組み込まれた鉱物自動分析装置である。MLAを用いて、定量分析として鉱物含有率(Modal Mineralogy)を測定し、形状分析として粒度分布を測定した。結果をそれぞれ表2及び図2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
[手順3:混合物試料の調製]
鉱物標本名=硫ヒ銅鉱である鉱物標本xと、各種ヒ素非含有銅鉱物である鉱物標本名=黄銅鉱、斑銅鉱、銅藍、輝銅鉱(それぞれ鉱物標本a~d)を、それぞれ1:1の重量割合で混合した混合物を作製し、混合物試料として試験に使用した。以下、それぞれ混合物試料A~Dと呼び、表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
捕収剤として、ジn-ブチルスルフィドとジn-オクチルスルフィド、及びメチルn-オクチルスルフィドを用いた。また比較用として一般的な捕収剤であるPotassiumu Amyl Xanthate(PAX)を用いた。これらの捕収剤をRO水に溶解し、又は分散させて0.1wt%捕収剤溶液を作製し、試験に使用した。
【0055】
[実施例1]
分離評価試験を、以下のフローで、図3に示す公知の簡易浮選試験機10(ハリモンドチューブ)を用いて行った。
まず、ビーカーに、1gの所定の混合物試料と100mLのRO水を加えた後、所定のpHに設定するための量のNaOHを加えpH調整を行った。次に、浮選剤として所定の量の0.1wt%捕収剤溶液を添加し、ビーカー内で10分間撹拌した後、スラリーを簡易浮選試験機10に充填した。次いで、管11の下方から空気4を導入し、気泡1を発生させて、浮選処理による分離を行った。具体的には、高疎水性粒子2(ヒ素含有銅鉱物粒子)は、気泡に付着して浮上し、浮上した気泡1は上方で破裂し、管11に接続された管12内に沈降し、堆積する(浮鉱A、フロス)。一方で、低疎水性粒子(ヒ素非含有銅鉱物粒子、図示せず)の大半は気泡1に付着せず、元の管11内で滞留する(沈鉱B、テーリング)。
得られた沈鉱B(低ヒ素産物)のヒ素の元素品位(wt%)を、ICP分析を用いた上記手順2と同様な分析フローを用いて求めた。
また、上記発明の詳細な説明における[数1]~[数4] の記載の手順に沿って、回収率及び分離効率を求めた。
【0056】
実施例1では、混合物試料として混合物試料A(鉱物標本名と混合比率が、硫ヒ銅鉱:黄銅鉱=1:1)を用い、pHを10に調整し、捕収剤として、PAX、ジn-メチルスルフィド、ジn-オクチルスルフィド、メチルn-オクチルスルフィドをそれぞれ1tの鉱石に対して100gとなる割合で添加した場合、捕収剤を添加しない場合(Blank)について、上記の分離評価試験を行った。ヒ素含有銅鉱物及びヒ素非含有銅鉱物の回収率を表4、図4に示す。また、沈鉱のAs品位を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
上記表4及び図4に示すように、硫ヒ銅鉱と黄銅鉱の混合物においては、ジn-オクチルスルフィドやメチルn-オクチルスルフィドを適用することにより、PAX等と比べて効果的に硫ヒ銅鉱(ヒ素含有銅鉱物)の浮上を促進し、分離効率を向上させ、沈鉱のAs品位を低減させることができた。
【0059】
[実施例2]
実施例2では、混合物試料として混合物試料B(鉱物標本名と混合比率が、硫ヒ銅鉱:斑銅鉱=1:1)を用いた以外は、実施例1と同様にして分離評価試験を行った。ヒ素含有銅鉱物及びヒ素非含有銅鉱物の回収率を表5、図5に示す。また、沈鉱のAs品位を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
上記表5及び図5に示すように、硫ヒ銅鉱と斑銅鉱の混合物においては、ジn-オクチルスルフィドやメチルn-オクチルスルフィドを適用することにより、PAX等と比べて効果的に硫ヒ銅鉱(ヒ素含有銅鉱物)の浮上を促進し、分離効率を向上させ、沈鉱のAs品位を低減させることができた。
【0062】
[実施例3]
実施例3では、混合物試料として混合物試料C(鉱物標本名と混合比率が、硫ヒ銅鉱:銅藍=1:1)を用いた以外は、実施例1と同様にして分離評価試験を行った。ヒ素含有銅鉱物及びヒ素非含有銅鉱物の回収率を表6、図6に示す。また、沈鉱のAs品位を表6に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
上記表6及び図6に示すように、硫ヒ銅鉱と銅藍の混合物においては、ジn-オクチルスルフィドやメチルn-オクチルスルフィドを適用することにより、PAX等と比べて効果的に硫ヒ銅鉱(ヒ素含有銅鉱物)の浮上を促進し、分離効率を向上させ沈鉱のAs品位を低減させることができた。
【0065】
[実施例4]
実施例4では、混合物試料として混合物試料D(鉱物標本名と混合比率が、硫ヒ銅鉱:輝銅鉱=1:1)を用いた以外は、実施例1と同様にして分離評価試験を行った。ヒ素含有銅鉱物及びヒ素非含有銅鉱物の回収率を表7、図7に示す。また、沈鉱のAs品位を表7に示す。
【0066】
【表7】
【0067】
上記表7及び図7に示すように、硫ヒ銅鉱と輝銅鉱の混合物においては、ジn-オクチルスルフィドやメチルn-オクチルスルフィドを適用することによりPAX等と比べて効果的に硫ヒ銅鉱(ヒ素含有銅鉱物)の浮上を促進し、分離効率を向上させ、沈鉱のAs品位を低減させることができた。
【0068】
[実施例5]
試料として銅精鉱(目開き75μmのふるいを通過し、目開き38μmのふるいを通過しなかった産物)を用いた。なお、銅精鉱については、元々付着していると考えられる浮選試薬を除去するため、ソックスレー抽出器を用いて、2時間アセトン洗浄を行ってから用いた。
試料として用いた銅精鉱の元素品位(wt%)を、実施例1と同様の分析フローを用いて求めた。結果を以下に示す。
As 4.16 wt%
Cu 29.60 wt%
Fe 17.65 wt%
また、前記銅精鉱の鉱物組成を、実施例1と同様にMLAを用いて分析し、主な鉱物組成の組成比を求めた。結果を以下に示す。
黄鉄鉱 35.3 wt%
銅藍 15.0 wt%
黄銅鉱 9.7 wt%
斑銅鉱 13.0 wt%
硫砒銅鉱 20.1 wt%
分離評価試験を、以下のフローで、アジテア型浮選試験機を用いて行った。
まず、アジテア型浮選試験機用500mLセルに、25gの所定の銅精鉱と475mLのRO水を加えた後、所定のpHに設定するための量のNaOHを加えpH調整を行った。次に、浮選剤として所定の量の0.1wt%捕収剤溶液を添加し、セル内で10分間撹拌した。次いで、起泡剤を鉱石1tあたり250gに相当する量を添加し、セル内で30秒間撹拌した。その後、撹拌を継続し、空気を吹き込み、8分間浮選処理による分離を行った。
浮選処理にて得られた各浮選時間区間の浮鉱と沈鉱を上記発明の詳細な説明における[数1]~[数4] の記載の手順に沿って、回収率及び分離効率を求めた。
ヒ素含有銅鉱物及びヒ素非含有銅鉱物の回収率を、それぞれ図8及び図9、並びに表8に示す。図8及び図9、並びに表8に示すように、ジn―オクチルスルフィドを適用することにより、PAXと比べて分離効率を向上させることができた。
【0069】
【表8】
【0070】
(pHの試験)
実施例1と同じ条件で、捕収剤としてジn-オクチルスルフィド、メチルn-オクチルスルフィドを用い、添加量をヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物1t当たり100gとし、pH7、pH8、pH9、pH10のアルカリ領域で、硫ヒ銅鉱と黄銅鉱、硫ヒ銅鉱と斑銅鉱、硫ヒ銅鉱と銅藍、硫ヒ銅鉱と輝銅鉱の分離効率と沈鉱品位を測定した。その結果、pH7~10のアルカリ領域においては、pHを上昇させるほど、分離効率が向上し沈鉱のヒ素品位が低減する傾向を確認できた。
(添加量の試験)
実施例1と同じ条件で、捕収剤として、ジn-オクチルスルフィドを用い、添加量をヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物1t当たり100gもしくは1000gとし、pH10のアルカリ領域で、硫ヒ銅鉱と黄銅鉱、硫ヒ銅鉱と斑銅鉱、硫ヒ銅鉱と銅藍、硫ヒ銅鉱と輝銅鉱の分離効率と沈鉱品位を測定した。その結果、捕収剤添加量を増加させるほど、分離効率が向上し沈鉱のヒ素品位が低減する傾向を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、ヒ素含有銅鉱物とヒ素非含有銅鉱物とを含む混合物から、ヒ素含有銅鉱物を選択的に回収する方法及びそれに用いる新規な浮選剤が提供され、その結果として、銅製錬工程に供する銅精鉱中のヒ素を低減することができるので、産業上の利用可能性を有する。
図1
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図9