(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】固体電解質膜の製造方法、全固体電池の製造方法、固体電解質膜の製造装置および全固体電池の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20231127BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231127BHJP
H01M 6/18 20060101ALN20231127BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M6/18 A
(21)【出願番号】P 2019085279
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 諭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 緑
(72)【発明者】
【氏名】南部 壮太郎
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-335218(JP,A)
【文献】特開平07-335217(JP,A)
【文献】特開平07-335216(JP,A)
【文献】特開2013-127982(JP,A)
【文献】国際公開第2018/212568(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/0585
H01M 6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池用の固体電解質膜の製造方法であって、
(a)樹脂からなるファイバーを有する不織布を形成する工程、
(b)前記不織布上に、固体電解質粒子を含有するスラリーを塗工する工程、
(c)前記不織布上の前記スラリーをヒータにより乾燥する工程、
(d)前記不織布上の前記スラリーをローラにより加圧する工程、
を有
し、
前記(a)工程は、極性フィラーを含有する樹脂をレーザーエレクトロスピニング法によりファイバー状とし、前記不織布を形成する工程である、固体電解質膜の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の固体電解質膜の製造方法において、
前記極性フィラーは、セルロースである、固体電解質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の固体電解質膜の製造方法において、
前記樹脂は、ポリエチレンまたはポリプロピレンである、固体電解質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項
1に記載の固体電解質膜の製造方法において、
前記極性フィラーを含有する樹脂は、押出機により、極性フィラーと溶融樹脂とを混練することにより形成される、固体電解質膜の製造方法。
【請求項5】
全固体電池の製造方法であって、
(a)樹脂からなるファイバーを有する不織布を形成する工程、
(b)前記不織布上に、固体電解質粒子を含有するスラリーを塗工する工程、
(c)前記不織布上の前記スラリーをヒータにより乾燥する工程、
(d)前記不織布上の前記スラリーをローラにより加圧する工程、
(e)前記(d)工程により形成された固体電解質膜の一方の側に正極部材を形成する工程、
(f)前記固体電解質膜の他方の側に負極部材を形成する工程、
を有
し、
前記(a)工程は、極性フィラーを含有する樹脂をレーザーエレクトロスピニング法によりファイバー状とし、前記不織布を形成する工程である、全固体電池の製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の全固体電池の製造方法において、
前記(b)工程から前記(f)工程までを連続して行う、全固体電池の製造方法。
【請求項7】
請求項
5に記載の全固体電池の製造方法において、
前記極性フィラーは、セルロースである、全固体電池の製造方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の全固体電池の製造方法において、
前記樹脂は、ポリエチレンである、全固体電池の製造方法。
【請求項9】
請求項
6に記載の全固体電池の製造方法において、
前記樹脂は、押出機により、極性フィラーと溶融樹脂とを混練することにより形成される、全固体電池の製造方法。
【請求項10】
押出機と、不織布製造機と、全固体電池用積層体製造機と、を有し、
前記押出機は、樹脂を溶融しつつ混練し、
前記不織布製造機は、前記樹脂をファイバー状とすることにより不織布を形成し、
前記全固体電池用積層体製造機は、前記不織布上に、固体電解質粒子を含有するスラリーを塗工し、乾燥し、加圧することにより固体電解質膜を形成する、固体電解質膜の製造装置。
【請求項11】
請求項
10に記載の固体電解質膜の製造装置において、
前記不織布製造機は、極性フィラーを含有する樹脂をレーザーエレクトロスピニング法によりファイバー状とすることにより不織布を形成し、
前記押出機は、前記極性フィラーと溶融樹脂とを混練する、固体電解質膜の製造装置。
【請求項12】
押出機と、不織布製造機と、全固体電池用積層体製造機と、を有し、
前記押出機は、樹脂を溶融しつつ混練し、
前記不織布製造機は、前記樹脂をファイバー状とすることにより不織布を形成し、
前記全固体電池用積層体製造機は、
(a)前記不織布上に、固体電解質粒子を含有するスラリーを塗工し、乾燥し、加圧することにより固体電解質膜を形成し、
(b)前記固体電解質膜の一方の側に正極部材を形成し、前記固体電解質膜の他方の側に負極部材を形成する、全固体電池の製造装置。
【請求項13】
請求項
12に記載の全固体電池の製造装置において、
前記不織布製造機は、極性フィラーを含有する樹脂をレーザーエレクトロスピニング法によりファイバー状とすることにより不織布を形成し、
前記押出機は、前記極性フィラーと溶融樹脂とを混練する、全固体電池の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質膜の製造方法、全固体電池の製造方法、固体電解質膜の製造装置および全固体電池の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、大きな流れとして、鉛電池、ニカド電池、ニッケル水素電池(Ni-MH電池)、リチウム電池(LIB)の順に開発されてきた。その用途としては、携帯電話、ノートパソコン、特に電気自動車(Electric Vehicle,EV)の電源としての需要が急速に拡大しつつある。なかでもLIBは、他の二次電池に比べて、エネルギー密度・充放電エネルギーが高いことに加え、パッケージもコンパクトにできることなど、優れた点が多いため、二次電池としては主流となっている。LIBは、少なくとも正極、セパレータ、負極の三層を有し、これらが電解質に覆われた構造に形成されていることが知られている。電解質としては、可燃性物質である有機溶媒が一般的に用いられるが、最近では、より安全性の高い電池を開発すべく、全固体電池が注目されている。全固体電池は、可燃性の有機電解液が不燃性の無機固体電解質等に置き換えられたものであり、安全性が従来よりも向上している。また、このような全固体電池では、電池の性能面に関してもより一層の向上が期待され、例えば、電池の高エネルギー密度化が期待される。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2010-250982号公報)には、Li、P、Sを含む固体電解質ガラス粒子を含む粉末を成型したシートであって、前記ガラス粒子が、繰り返し測定したラマンスペクトルの330cm-1から450cm-1の間に存在するピークを波形分離し、得られた各ピークの面積強度比の標準偏差がいずれも4.0未満である固体電解質用のシートが開示されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2017-103146号公報)には、全固体電池に優れたエネルギー密度及び出力特性を付与することができ、しかも、全固体電池を連続プロセスにより大量に生産することを可能とする固体電解質シート及びその製造方法に関する技術が開示されている。具体的に、固体電解質シートは、固体電解質と、支持体とを備え、支持体は複数の貫通孔を有し、固体電解質は貫通孔に充填されている。上記固体電解質シートの製造方法は、支持体上に形成された複数の貫通孔に固体電解質を充填する工程と、貫通孔に固体電解質が充填された支持体をプレスする工程と、を備えている。
【0005】
また、特許文献3(特開2018-204140号公報)には、レーザーエレクトロスピニング(LES)法によりPET繊維ウェブを作製する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-250982号公報
【文献】特開2017-103146号公報
【文献】特開2018-204140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全固体電池において、例えば、上記特許文献1においては、Li等の元素を含む固体電解質ガラス粒子粉体を成型してシート状に形成させ、これを固体電解質に適用させている。しかしながら、粉末の材料のみで形成される固体電解質では、粉末どうしの接触で導通をとるようにしているため、接触面積が小さくなり、電解液を用いたリチウム電池に比べて出力特性が劣りやすい。また、粉末の材料を用いると、単一材料で形成される層からなる薄膜シートの形成も難しく、製造工程が複雑になりやすい。
【0008】
一方、上記特許文献2においては、フォトエッチング法によって穴開け加工した一辺200~800μm角の複数の貫通孔を有するポリイミドシート様支持体に、固体電解質を充填後、プレス機で加熱・加圧処理することにより固体電解質シート(厚さ:37~138μm)を製造している。しかしながら、この場合、支持体となるポリイミドシートを貫通させる際、クロム系溶媒を用いたウェットエッチング法を用いるため、有害な有機溶剤を使用することから、コスト・環境問題が深刻である。また、開口部のサイズが大きく、固体電解質の比重が大きいことから、バインダーレスとした場合に、シート支持体から固体電解質が徐々に脱落する恐れがあり、耐久性が低くなりやすい。さらには、固体電解質層が厚いため、電極間抵抗が高くなる。
【0009】
以上のことからより良い固体電解質膜を得るため、本発明者らは薄肉かつ微細多孔を有する高強度・高耐熱性ナノファイバー不織布が固体電解質粉体の支持体に適するとの知見に至り、レーザーエレクトロスピニング(LES)の技術(特許文献3)を応用し、鋭意検討の結果、固体電解質膜の製造方法、全固体電池の製造方法、固体電解質膜の製造装置および全固体電池の製造装置を見出すに至った。
【0010】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0012】
本願において開示される一実施の形態に示される固体電解質膜の製造方法は、(a)樹脂からなるファイバーを有する不織布を形成する工程、(b)前記不織布上に、固体電解質粒子を含有するスラリーを塗工する工程、(c)前記不織布上の前記スラリーをヒータにより乾燥する工程、(d)前記不織布上の前記スラリーをローラにより加圧する工程、を有する。
【0013】
本願において開示される一実施の形態に示される全固体電池の製造方法は、(a)樹脂からなるファイバーを有する不織布を形成する工程、(b)前記不織布上に、固体電解質粒子を含有するスラリーを塗工する工程、(c)前記不織布上の前記スラリーをヒータにより乾燥する工程、(d)前記不織布上の前記スラリーをローラにより加圧する工程、(e)前記(d)工程により形成された固体電解質膜の一方の側に正極部材を形成する工程、(f)前記固体電解質膜の他方の側に負極部材を形成する工程、を有する。
【0014】
本願において開示される一実施の形態に示される固体電解質膜の製造装置は、押出機と、不織布製造機と、全固体電池用積層体製造機と、を有し、前記押出機は、樹脂を溶融しつつ混練し、前記不織布製造機は、前記樹脂をファイバー状とすることにより不織布を形成し、前記全固体電池用積層体製造機は、前記不織布上に、固体電解質粒子を含有するスラリーを塗工し、乾燥し、加圧することにより固体電解質膜を形成する。
【0015】
本願において開示される一実施の形態に示される固体電解質膜の製造装置は、押出機と、不織布製造機と、全固体電池用積層体製造機と、を有し、前記押出機は、樹脂を溶融しつつ混練し、前記不織布製造機は、前記樹脂をファイバー状とすることにより不織布を形成し、前記全固体電池用積層体製造機は、(a)前記不織布上に、固体電解質粒子を含有するスラリーを塗工し、乾燥し、加圧することにより固体電解質膜を形成し、(b)前記固体電解質膜の一方の側に正極部材を形成し、前記固体電解質膜の他方の側に負極部材を形成する。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される代表的な実施の形態に示される固体電解質膜の製造方法によれば、特性の良好な固体電解質膜を効率よく製造することができる。本願において開示される代表的な実施の形態に示される全固体電池の製造方法によれば、特性の良好な全固体電池を効率よく製造することができる。本願において開示される代表的な実施の形態に示される固体電解質膜の製造装置によれば、特性の良好な固体電解質膜を効率よく製造することができる。本願において開示される代表的な実施の形態に示される全固体電池の製造装置によれば、特性の良好な全固体電池を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態の全固体電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施の形態の固体電解質膜の製造工程を示す図である。
【
図3】比較例の全固体電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】比較例の全固体電池の固体電解質シートの製造工程を示す図である。
【
図5】レーザーエレクトロスピニング装置の構成を示す模式図である。
【
図6】HDPEの繊維ウェブ形成時のノズル先端の様子を示す図(写真)である。
【
図8】CeNF添加HDPEの繊維ウェブ形成時のノズル先端の様子を示す図(写真)である。
【
図9】CeNF添加HDPEの繊維ウェブSEM写真である。
【
図10】全固体電池の製造工程を示す断面図である。
【
図11】実施の形態2の製造装置(システム)の構成を示す模式図である。
【
図16】全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。
【
図17】応用例5の全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。
【
図18】応用例6の全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。
【
図19】応用例7の全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。
【
図20】応用例8の全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
[全固体電池の構成]
図1は、実施の形態の全固体電池の構成を模式的に示す断面図である。この全固体電池はリチウムイオン二次電池である。なお、本明細書において、全固体電池とは、少なくとも電解液(液状の電解質)を有さない電池を意味する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態のリチウムイオン二次電池は、負極20と、正極30と、これらの間に配置された固体電解質膜(固体電解質層)40とを有している。
【0020】
負極20は、負極合剤層20Aと、負極集電体20Bとを有する。負極合剤層20Aは、負極活物質2APおよび固体電解質材料(負極用の固体電解質材料)を有する。負極合剤層20Aは、さらに、負極導電助剤や負極バインダなどを有していてもよい。負極集電体20Bは、金属箔(例えば、銅箔)よりなる。
【0021】
負極活物質2APとしては、リチウムを吸蔵、放出できる物質、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛など)等を用いることができる。負極活物質2APは、粒状である。
【0022】
正極30は、正極合剤層30Aと、正極集電体30Bとを有する。正極合剤層30Aは、正極活物質3APおよび固体電解質材料(正極用の固体電解質材料)を有する。正極合剤層30Aは、さらに、正極導電助剤や正極バインダなどを有していてもよい。正極集電体30Bは、金属箔(例えば、アルミニウム箔)よりなる。
【0023】
正極活物質3APとしては、リチウムを吸蔵、放出できる物質、例えば、リチウムを含む酸化物(LiCoO2,LiNiO2,LiMnO2など)等を用いることができる。正極活物質3APは、粒状である。
【0024】
固体電解質膜40は、固体電解質材料から構成される。固体電解質材料としては、Liイオン伝導性を有する材料を用いることができる。固体電解質材料は、粒状である。
【0025】
固体電解質材料としては硫化物系固体電解質または酸化物系固体電解質を用いることができる。
【0026】
硫化物系固体電解質としては、例えば、LiおよびPを含む硫化物を用いることができる。具体的には、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5、Li2S-GeS2、Li2S-B2S3、Li2S-Ga2S3、Li2S-Al2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-Al2S3-P2S5、Li2S-P2S3、Li2S-P2S3-P2S5、LiX-Li2S-P2S5、LiX-Li2S-SiS2、LiX-Li2S-B2S3(X:I、Br、ClまたはI)などが挙げられる。
【0027】
酸化物系固体電解質としては、例えば、Liを含む酸化物を用いることができる。具体的には、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、Li2.9PO3.3N0.46、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3などが挙げられる。
【0028】
固体電解質は、一種を単独で用いてもよく、必要に応じて、二種以上を併用してもよい。また、上記正極および負極に含まれる固体電解質は、同じ種類であってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
ここで、本実施の形態においては、固体電解質膜40は、極細ファイバー不織布UFNと固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)とを有する。具体的には、極細ファイバー不織布UFNを支持体として、固体電解質粒子4APが取り込まれている(
図1の丸部参照、
図2、
図10(a)も参照)。別の言い方をすれば、極細ファイバー不織布UFNの微細孔中に固体電解質粒子4APが埋没している、または、極細ファイバー不織布UFNの微細孔中に固体電解質粒子4APが充填されている。
【0030】
極細ファイバー不織布UFNは、後述するように、レーザーエレクトロスピニング(LES)法により形成することができる。極細ファイバー不織布UFNは、極細ファイバーUFが相互に絡まって積層された構成となっている。そして、極細ファイバーUF間は、微細な孔(微細孔、微細貫通孔)となっている。このように、極細ファイバー不織布UFNは微多孔質である。そして、極細ファイバーUFとして、ファイバー径が細く、その均一性が高いものを用いることにより、孔径が微細化するとともに、そのばらつきが小さくなる。
【0031】
よって、このような極細ファイバー不織布UFNを支持体として、固体電解質材料(粒子)を取り込んだ構成とすることで、固体電解質膜40の特性を向上させることができる。具体的には、微細な粒子である固体電解質材料を極細ファイバーUFで支持(固定)することで、固体電解質膜40中の固体電解質材料の割合を大きくでき、また、膜の表面における固体電解質材料の専有面積(露出面積)を大きくすることができる。これにより、固体電解質膜40と、正極(正極活物質)や負極(負極活物質)との接触面積を向上することができ、全固体電池の特性(出力特性、充放電特性)を向上することができる。また、微細な粒子である固体電解質材料を極細ファイバーUFで支持(固定)することで、固体電解質膜40の膜厚を小さくでき、正極と負極間の抵抗を低減することができ、全固体電池の特性(出力特性、充放電特性)を向上することができる。
【0032】
また、微細な粒子である固体電解質材料を極細ファイバーUFで支持(固定)することで、固体電解質材料を強固に固定することができ、固体電解質材料の脱落や崩壊を防止することができる。また、固体電解質膜を高強度化することができる。
【0033】
次いで、固体電解質膜の製造工程を説明するとともに、固体電解質膜の構成をより詳細に説明する。
【0034】
[固体電解質膜の製法]
<極細ファイバー不織布の製法>
レーザーエレクトロスピニング(LES)法とは、繊維原料(原料樹脂)を一定速度で送り出しながら、ノズルに高電圧(例えば、11~24kV程度)を印加した状態で、レーザー光を照射して繊維原料を瞬間的に均一加熱溶融し、静電力によって引き伸ばして極細繊維を作製する方法である。レーザー光で加熱のため加熱時間が短く、熱分解を極力抑えられ、また、静電力で引き伸ばすため応用集中が起こり難く、安定した紡糸が可能であるという特徴を有する。
【0035】
図5は、レーザーエレクトロスピニング装置の構成を示す模式図である。
図5に示すように、レーザーエレクトロスピニング装置は、原料樹脂を送り出すノズル3と、ノズル3の先端部にレーザー(CO
2レーザー)10を照射するレーザー照射部8と、ノズル3から放出されるファイバーを静電力によって引き伸ばすコレクター(繊維捕集部)6とを有する。コレクター6とノズル3との間には、高電圧発生源5により高電圧が印加され、コレクター6は接地電位7に接続されている。レーザー照射部8は、スリット9を介してレーザー10をノズル3の先端部に照射する。ノズル3には、原料となる糸状の樹脂(原料樹脂)1がローラ2を介して供給される。
【0036】
ノズル3とコレクター6との間に高電圧発生源5により高電圧を印加した状態で、ノズル3から押し出された原料樹脂1にレーザー10が照射されると、原料樹脂1が瞬間的に均一に加熱溶融し、静電力によって引き伸ばされ極細ファイバーUFになるとともに、コレクター6上に捕捉される。このような極細ファイバーUFが相互に絡まりながら積層されることにより不織布(繊維ウェブ)UFNを得ることができる。
【0037】
原料樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、軟化温度が100℃以上であり、かつ、20℃の有機溶媒(例えば、キシレン)に溶解しない熱可塑性樹脂を用いることができる。軟化温度とは、熱可塑性プラスチックが急速に軟化を開始する温度であり、測定方法としては、JISK7206「熱可塑性プラスチック‐ビカット軟化温度」に準拠した方法で測定することができる。原料樹脂として具体的には、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイドなどを用いることができる。原料樹脂として、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンを用いることが好ましい。特に、高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることで、高強度で耐熱性の高い極細ファイバー不織布を形成することができる。また、ポリプロピレンは、ポリエチレンに比べ、結晶化速度がやや遅い傾向があるが、後述するセルロースナノファイバー(CeNF)の核剤の機能により、結晶化が促進するため、原料樹脂として用いて好ましい。
【0038】
ここで、本実施の形態においては、原料樹脂中にセルロースナノファイバー(CeNF)を添加する。CeNFを添加することで、極細ファイバーがより細く、均一となる。これは、原料樹脂にCeNFを添加することで静電力による伸長効果が大きくなり極細化が促進するものと考えられる。CeNFを添加した極細ファイバーのファイバー径(平均繊維直径)は、10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。原料樹脂に対するCeNFの添加量は、例えば、0.1体積%以上10体積%以下である。これに対し、CeNFを添加していないファイバーのファイバー径(平均繊維直径)は、十数μmである。
【0039】
CeNFは、微細な粉末状のセルロースである。セルロース(cellulose、Cell-OH)は、(C6H10O5)nで表される炭水化物である。CeNFは、パルプなどを原料とし、パルプなどに含まれるセルロース繊維をナノメートルサイズまで微細化したものである。例えば、パルプを加水分解し、生成したものをセルロースナノファイバーとして用いることができる。セルロースの分子鎖が緻密かつ規則的に存在する部分を結晶セルロースと言うことがある。
【0040】
セルロースナノファイバーを構成する粉末状のセルロース繊維について、その形状に制限はないが、例えば、細長い粒子形状のもの、また、略球形状のものを用いることができる。
【0041】
セルロースナノファイバーは、軽量であり、かつ、高強度であり、耐熱性がある。このため原料樹脂に添加することで、極細ファイバーや極細ファイバー不織布の強度や耐熱性を向上させることができる。
【0042】
セルロースは、解繊処理(微細化処理)によりナノ化してもよい。解繊処理には化学処理法や機械処理法などがある。これらを組み合わせた方法を用いてもよい。このような解繊処理(微細化処理)により、繊維長さや繊維径を小さくすることができる。
【0043】
原料樹脂に添加するセルロースナノファイバー(CeNF)は、繊維長さ(L)が0.5μm以上10μm以下、繊維径(R)が0.001μm以上10μm以下を用いることが好ましい。そして、少なくとも、極細ファイバー径Rより、繊維長さ(L)および繊維径(R)が小さいものを用いることが好ましい。
【0044】
このようなセルロースナノファイバー(CeNF)を原料樹脂中に添加することで、形成される極細ファイバーがより細く、均一となる。これは、セルロースの水酸基(-OH)が極性を有する基であるため、コレクター6の静電力により、引き寄せられやすくなり、より細く、均一となる、即ち、伸長効果が大きくなるものと考えられる。
【0045】
このように、原料樹脂にCeNFのような極性フィラー(極性基を有する充填剤)を添加することで、LES法で得られる極細ファイバーのファイバー径の微細化および均一化を図ることができる。また、LES法で得られる極細ファイバー不織布の孔径の微細化および均一化を図ることができる。
【0046】
なお、上記においては、セルロースナノファイバー(CeNF)を例に説明したが、セルロースナノクリスタルやセルロースナノウィスカーを用いてもよい。セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタルおよびセルロースナノウィスカーは、ナノセルロースと呼ばれる。
【0047】
<極細ファイバー不織布を用いた固体電解質膜の製法>
図2は、本実施の形態の固体電解質膜の製造工程を示す図である。前述の<極細ファイバー不織布の製法>により得られた極細ファイバー不織布を用いて固体電解質膜を形成する。
【0048】
まず、
図2(a)に示す極細ファイバー不織布UFNと固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)を含有するスラリーSとを準備する。スラリーSは、固体電解質材料を液体(溶媒、分散媒)に分散させたものである。必要に応じて、バインダなどを添加してもよい。次いで、
図2(b)に示すように、極細ファイバー不織布UFN上に固体電解質材料を含有するスラリーSを塗工する。次いで、
図2(c)に示すように、スラリーSを加圧しながら加熱することで、スラリーSの液体成分を気化するとともに、固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)を極細ファイバー不織布の微細孔に埋没(充填)する。これにより、極細ファイバーUFが相互に絡まって積層された極細ファイバー不織布UFNの微細孔に固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)が取り込まれた固体電解質膜40を形成することができる(
図2(c))。このように、簡易な工程、低コストで固体電解質膜40を形成することができる。なお、液体成分が除去された後の固体電解質材料を“40A”で示す。また、スラリーSの液体成分の除去工程(乾燥工程)と、固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)の加圧工程とを別工程としてもよい。
【0049】
図3は、比較例の全固体電池の構成を模式的に示す断面図である。また、
図4は、比較例の全固体電池の固体電解質シートの製造工程を示す図である。例えば、
図3および
図4に示す比較例においては、フォトエッチング法によって穴開け加工した一辺200~800μm角の複数の貫通孔を有するポリイミドシート様支持体(
図4(a))に、固体電解質を充填後(
図4(b))、プレス機で加熱・加圧処理することにより固体電解質シート(厚さ:37~138μm)を製造している(
図4(c))。
【0050】
このような、比較例の場合、穴は一辺200~800μm角で、開口率に制限がある。つまり、開口率を大きくした場合、前述した固体電解質と正極や負極との接触面積を大きくできるが、固体電解質材料の脱落や崩壊が懸念される。また、シートの厚さ(T2)が37~138μmと厚い。これに対し、本実施の形態では、固体電解質膜40の膜厚(T)の調整がし易く、例えば、膜厚を20μm以下とすることができる。なお、LES法によれば、処理条件(印加電圧、ノズルとレーザー照射部との距離、処理時間など)を調整することで、極細ファイバー不織布の特性(厚さ、ファイバー径、細孔径など)を容易に調整することができる。特に、支持体となる不織布の固体電解質膜に占める体積比率を抑制することができ、例えば、10体積%以上30体積%以下とすることができる。
【0051】
このように、本実施の形態においては、固体電解質膜の特性を向上させることができる。
【0052】
[実施例]
(実施例1)
本実施例では、レーザーエレクトロスピニング(LES)法によりHDPEの繊維ウェブ(不織布、繊維束、繊維シートともいう)を作製した。LES装置としては、カトーテック社製のエレクトロスピニング(ES)装置と鬼塚硝子製の炭酸ガスレーザー発生装置(PIN-30R)を組み合わせた装置を使用した。繊維を送り出すニードルには、20G規格のものを用い、これをノズルとして使用した。なお、LES装置はアクリル樹脂製の包囲ボックスによって覆われており、この包囲ボックス内の雰囲気はドライエアの流し込みにより湿度10-30%RHに保たれている。これにより、繊維形成時における湿度の影響をなくすことができる。
【0053】
CO2レーザー光の波長は10.6μmであり、装置から水平に照射したレーザービームを鏡で反射させ、その真下にある原料樹脂に照射した。射出時のレーザービーム断面は繊維径6mmの円形であるが、ビーム形状変換素子(エキスパンダー)によって変換し、照射部では繊維軸方向2.1mm、繊維軸と水平な方向13mmにした。また、スリットを用いてレーザービームの照射径を繊維軸方向約1.1mm、垂直方向約8.0mmにした。
【0054】
原料樹脂(繊維状)の直径は0.5mm程度であり、ノズル-コレクター間距離は80mm、ノズルからレーザー光中心軸までの距離は0.7mm、送り出し速度は40mm/分である。繊維のコレクター(捕集プレート)としてローラー(回転なし、トラバース速度2mm/秒)を使用し、レーザー出力を11~16W、印加電圧を11~24kVに変化させてHDPEの繊維ウェブを作製した。
【0055】
図6は、HDPEの繊維ウェブ形成時のノズル先端の様子を示す図(写真)である。
図7は、HDPEの繊維ウェブSEM写真である。SEM(KYENCE、VE-7800)を用いて形態観察を行った。観察前に、SEM観測を可能にするためにイオンスパッター(HITACHI社製のE-1010)により金蒸着を施した。画像解析ソフトImageJを用い、得られたSEM画像中の繊維1本につき繊維径方向の2点間距離を1点として合計100点測定することにより繊維径を求めた。ファイバー径は、十数μm以上であった。
【0056】
(実施例2)
本実施例では、レーザーエレクトロスピニング(LES)法によりCeNF添加HDPEの繊維ウェブを作製した。原料樹脂として、CeNF添加したHDPEを用いて実施例1と同様に繊維ウェブを作製した。CeNFのHDPEに対する添加量は、1体積%(CeNF1体積%、HDPE99体積%)とし、CeNFとしては、セオラスFD101(旭化成ケミカルズ(株)製)を用いた。
【0057】
図8は、CeNF添加HDPEの繊維ウェブ形成時のノズル先端の様子を示す図(写真)である。
図9は、CeNF添加HDPEの繊維ウェブSEM写真である。CeNF添加HDPEの繊維ウェブのファイバー径は、5μm以下(4μm程度)であった。
【0058】
本実施例においては、CeNFを添加していない実施例1の場合と比較し、伸長がスムーズとなり、安定的に紡糸され、ファイバー径も小さくなり、太さが均一な繊維ウェブが得られた。
【0059】
[全固体電池の製法]
図1を参照しながら説明した上記全固体電池の製法に制限はないが、例えば、以下の様にして作製することができる。
図10は、全固体電池の製造工程を示す断面図である。
【0060】
前述した[固体電解質膜の製法]に基づき極細ファイバーUF間に固体電解質粒子4APが取り込まれた固体電解質膜40を形成する(
図10(a))。
【0061】
次いで、固体電解質膜40の上面側(正極側)に、正極活物質3APと、固体電解質材料との混合物を搭載し、さらに、正極集電体30Bを搭載し、加圧する(押圧する)。これにより、固体電解質膜40の上面に、正極(正極合剤層30Aと、正極集電体30B)が形成される(
図10(b))。
【0062】
次いで、固体電解質膜40の下面側(負極側)を上とし、負極活物質2APと、固体電解質材料との混合物を搭載し、さらに、負極集電体20Bを搭載し、加圧する(押圧する)。これにより、固体電解質膜40の下面側(負極側)に、負極(負極合剤層20Aと、負極集電体20B)が形成される(
図10(c))。
【0063】
このようにして、正極集電体30B-正極合剤層30A-固体電解質膜40-負極合剤層20A-負極集電体20Bよりなる電極群が形成される。
【0064】
この後、例えば、上記電極群を電池ケースに挿入し封止することにより、全固体電池を形成することができる。
【0065】
なお、加圧工程についは、正極集電体30B上に、正極活物質3AP等、固体電解質膜40、負極活物質2AP等、負極集電体20Bを順次積層した後、一度に加圧してもよい。
【0066】
[全固体電池の動作]
上記全固体電池において、充電過程には、正極合剤層30Aの正極活物質3APからリチウムイオンが脱離し、放電過程には、負極合剤層20Aの負極活物質2APから脱離したリチウムイオンが挿入される。このように、リチウムイオンの挿入、離脱により、充放電を行うことができる。
【0067】
このように、極細ファイバー不織布UFNを支持体として、固体電解質材料(粒子)を取り込んだ固体電解質膜40を用いて全固体電池を製造することにより、特性の良好な全固体電池を製造することができる。具体的には、前述したように、微細な粒子である固体電解質材料を極細ファイバーUFで支持(固定)することで、固体電解質膜40中の固体電解質材料の割合を大きくでき、また、膜の表面における固体電解質材料の専有面積(露出面積)を大きくすることができる。これにより、固体電解質膜40と、正極(正極活物質)や負極(負極活物質)との接触面積を向上することができ、全固体電池の特性(出力特性、充放電特性)を向上することができる。また、微細な粒子である固体電解質材料を極細ファイバーUFで支持(固定)することで、固体電解質膜40の膜厚を小さくでき、正極と負極間の抵抗を低減することができ、全固体電池の特性(出力特性、充放電特性)を向上することができる。
【0068】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、全固体電池の製造方法に用いて好適な製造装置(製造システム)について説明する。
【0069】
図11は、本実施の形態の製造装置(システム)の構成を示す模式図である。
図12は、二軸混練押出機の構成を示す図であり、
図13は、押出機の一部の構成を示す図であり、
図14は、スクリュの構成を示す図である。また、
図15は、不織布製造機の構成を示す図であり、
図16は、全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。
【0070】
図11に示すように、S1は二軸混練押出機による処理区間、S2は不織布製造機による処理区間、S3は全固体電池用積層体製造機による処理区間を示す。
【0071】
二軸混練押出機EMは、投入された原料を2本の互いに噛み合うスクリュを有する軸により溶融混練し(
図12~
図14参照)、押し出す装置である。ここでは、CeNFを溶融樹脂に混練する。
【0072】
樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等を用いることができる。これらの樹脂は、単体で用いてもよく、また、複数種類の混合物を用いてもよい。樹脂を構成するポリマーの分子量としては、1000以上100000以下のものを用いることができる。特に、原料樹脂として、高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることで、高強度で耐熱性の高い極細ファイバー不織布を形成することができる。極細ファイバー不織布を構成する極細ファイバーのファイバー径(繊維径)は、例えば、5~35μm程度である。
【0073】
CeNFは、CeNF分散液として添加することができる。CeNFとしては、実施の形態1において説明したものを用いることができる。また、CeNFとして、表面処理を施されたものを用いてもよい。このように、表面処理を行うことにより、CeNFの解繊性が向上し、また、樹脂との親和性が良くなる。分散媒(溶媒)としては、例えば、水や、エタノール、トルエンなどの有機溶媒、流動パラフィンやプロセスオイルなどの油のように常温で液体である物資が好ましい。これらの分散媒は単体で用いてもよく、また、複数種類の混合物を用いてもよい。
【0074】
フィラー分散液の濃度は、あまり濃すぎると樹脂と混練する装置内へ搬送するポンプなどで送液することが困難となるため好ましくなく、また、薄すぎると分散媒の比率が高くなり、樹脂中から取り除く工程が必要となるため好ましくない。よって、フィラー分散液の濃度は、5~80重量%が好ましく、10~60重量%がより好ましい。
【0075】
熱可塑性樹脂とフィラー分散液の混練装置は、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機などを用いることができる。このような押出機を用いることで、連続的に材料を速やかに混合して、CeNFを均一に分散させることができる。
【0076】
CeNF分散液の注入場所については、樹脂の可塑化領域より下流側であることが好ましく、注入点の上流側において、溶融樹脂を充満させた状態で、CeNF分散液を注入する。注入装置(例えば、注入ノズル)は1箇所に設けてもよいが、分散を良くするために複数箇所に設けてもよい。
【0077】
樹脂に対するフィラーの添加量は、0.1体積%~40体積%が好ましく、0.1体積%~10体積%がより好ましく、1体積%~10体積%がさらに好ましい。なお、フィラーの機能を表す指標として、ここでは体積%で添加割合を示すものとする。
【0078】
図12に示すように押出機EMは、図示しない温調手段によって温度制御されるシリンダ11と、シリンダ11内に、回転駆動機構15により回転可能(回転自在)に配設されたスクリュ(12)と、シリンダ11の上流側に配設されたホッパ(投入口)13と、シリンダ11の下流端に配設されたダイス14とを有しており、ホッパ13側からダイス14へ向かって順次、可塑化ゾーン(可塑化部)A、混練ゾーン(混練部)B、脱揮ゾーン(脱気部)Cを有している。また、シリンダ11における混練ゾーンBに対応する部位にはフィラー分散液を注入するための注入ノズル160が設けられており、シリンダ11における脱揮ゾーンCには真空ポンプ(脱気装置)112に接続された強制排気口111が設けられている。注入ノズル160には、プランジャーポンプ(液添ポンプ)17が接続されている。
【0079】
図13に示すように、シリンダ11の内部には、2本のスクリュ(軸に装着された複数のスクリュ)が回転可能に挿入され内蔵されている。2本のスクリュは、互いに噛み合うように配置され回転する。このように、2本のスクリュが互いのスクリュ表面付近を通過することにより、セルフクリーニング効果によってスクリュ表面付近での樹脂およびフィラーの滞留を抑制することができる。スクリュは、複数のスクリュピースを有する。
図14は、スクリュ(スクリュピース)の形状例を示す斜視図である。
図14(a)は、フルフライトスクリュ、
図14(b)は、ニーディングディスクである。なお、
図13に示す構成は一例であり、スクリュピースの組み合わせは適宜変更可能である。
【0080】
ホッパ13より供給された熱可塑性樹脂は、押出機EMにおける可塑化ゾーンAにおいて溶融し、混練ゾーンBへ移送される。そして、注入ノズル160より、溶融樹脂中にフィラー分散液が注入され、溶融樹脂とフィラー分散液とが混合・混練されたのち、脱揮ゾーンCへ移送される。脱揮ゾーンCにおいて強制排気口111よりガス化した分散媒が除去(排気)されたのちダイス(ダイ)14よりストランドとして押し出される。
【0081】
図15は、レーザーエレクトロスピニング装置の構成を示す模式図である。前述したとおり、レーザーエレクトロスピニング装置は、原料樹脂を送り出すノズル3と、ノズル3の先端部にレーザー(CO
2レーザー)10を照射するレーザー照射部8と、ノズル3から放出されるファイバーを静電力によって引き伸ばすコレクター(繊維捕集部)6とを有する。コレクター6とノズル3との間には、高電圧発生源5により高電圧が印加され、コレクター6は接地電位7に接続されている。レーザー照射部8は、スリット9を介してレーザー10をノズル3の先端部に照射する。ノズル3には、原料となる糸状の樹脂(原料樹脂)1がローラ2を介して供給される。
【0082】
ノズル3とコレクター6との間に高電圧発生源5により高電圧を印加した状態で、ノズル3から押し出された原料樹脂1にレーザー10が照射されると、原料樹脂1が瞬間的に均一に加熱溶融し、静電力によって引き伸ばされ極細ファイバーUFになるとともに、コレクター6上に捕捉される。このような極細ファイバーUFが相互に絡まりながら積層されることにより不織布(繊維ウェブ)UFNを得ることができる。
【0083】
前述したように、このようなセルロースナノファイバー(CeNF)を樹脂中に添加することで、形成される極細ファイバーがより細く、均一となる。これは、セルロースの水酸基(-OH)が極性を有する基であるため、コレクター6の静電力により、引き寄せられやすくなり、より細く、均一となる、即ち、伸長効果が大きくなるものと考えられる。
【0084】
このように、原料樹脂にCeNFのような極性フィラー(極性基を有する充填剤)を添加することで、LES法で得られる極細ファイバーのファイバー径の微細化および均一化を図ることができる。また、LES法で得られる極細ファイバー不織布の孔径の微細化および均一化を図ることができる。
【0085】
図16は、全固体電池用積層体製造機の構成を示す模式図である。全固体電池用積層体製造機は、レーザーエレクトロスピニング装置により製造された不織布(繊維ウェブ)UFNを搬送するローラR1、R2と、不織布(繊維ウェブ)UFN上にスラリーを塗工するノズルN1、N2と、塗工膜(塗布膜)を乾燥させるためのヒータH1、H2とを有する。そして、さらに、塗工膜を加圧するプレスPR1(ローラR3、R4)と、塗工膜の一方の面上に正極部材を送り出す送り出し機W1と、塗工膜の他方の面上に負極部材を送り出す送り出し機W2と、塗工膜、正極部材EL1および負極部材EL2の積層体を加圧するプレスPR2と、加圧後の積層体を巻き取る巻き取り機Wとを有する。
【0086】
即ち、不織布(繊維ウェブ)UFNの表面に、固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)を含有するスラリーをノズルN1から吐出する。例えば、スリット状のノズル孔からスラリーを不織布(繊維ウェブ)UFN上に吐出する。吐出されたスラリーは、ヒータH1により加熱(乾燥)され、塗工膜となる。次いで、不織布(繊維ウェブ)UFNの裏面に固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)を含有するスラリーをノズルN2から吐出する。例えば、スリット状のノズル孔からスラリーを不織布(繊維ウェブ)UFNの裏面に吐出する。吐出されたスラリーは、ヒータH2により加熱(乾燥)され、塗工膜となる。
【0087】
そして、不織布(繊維ウェブ)UFNの両面の塗工膜は、ローラR3、R4よりなるプレスPR1により加圧される。このようにして、スラリーの液体成分を気化するとともに、固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)を極細ファイバー不織布UFNの微細孔に埋没(充填)し、極細ファイバーUFが相互に絡まって積層された極細ファイバー不織布UFNの微細孔に固体電解質材料(固体電解質粒子4AP)が取り込まれた固体電解質膜40を形成することができる(
図2(c)も参照)。
【0088】
次いで、送り出し機W1から正極部材EL1を固体電解質膜40の表面に積層し、また、送り出し機W2から負極部材EL2を固体電解質膜40の裏面に積層する。正極部材EL1は、例えば、正極合剤層30Aと、正極集電体30Bとを有する正極30よりなり、負極部材EL2は、例えば、負極合剤層20Aと、負極集電体20Bとを有する負極20よりなる。送り出し機W1、W2は、合剤層側が固体電解質膜40と接するように各部材を送り出す。なお、前述したように、合剤層には、活物質および固体電解質材料が含まれ、Liイオンの伝導を可能としている。
【0089】
次いで、正極部材EL1、固体電解質膜40および負極部材EL2の積層体をプレスPR2により加圧し、加圧後の積層体を巻き取り機Wに巻き取る。
【0090】
このように、本実施の形態においては、固体電解質膜40や、正極部材EL1、固体電解質膜40および負極部材EL2の積層体を効率良く製造することができる。
【0091】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、上記実施の形態1、2の各種応用例について説明する。
【0092】
(応用例1)
実施の形態1においては、極細ファイバー不織布UFNの片面に固体電解質材料を含有するスラリーを塗工したが、極細ファイバー不織布UFNの両面に固体電解質材料を含有するスラリーを塗工してもよい。また、実施の形態2(
図17)において、ノズルN2、ヒータH2を省略し、極細ファイバー不織布UFNの片面に固体電解質材料を含有するスラリーを塗工してもよい。
【0093】
(応用例2)
実施の形態2においては、送り出し機を用いて正極部材、負極部材を固体電解質膜40と積層したが、固体電解質膜40に、活物質および固体電解質材料が含まれるスラリーを塗工、乾燥することにより、合剤層を形成し、さらに、合剤層上に集電体を積層することにより、正極部材EL1、固体電解質膜40および負極部材EL2の積層体を形成してもよい。
【0094】
(応用例3)
実施の形態2においては、極細ファイバー不織布UFNへの固体電解質材料を含有するスラリーの塗工をノズルを用いて行ったが、グラビア塗工機を用いてスラリーを塗工してもよい。また、上記応用例2の活物質および固体電解質材料が含まれるスラリーの塗工にグラビア塗工機を用いてもよい。
【0095】
(応用例4)
実施の形態2においは、セルロースナノファイバー(CeNF)を添加した樹脂により不織布(UFN)を形成したが、セルロースナノファイバー(CeNF)の添加を省略してもよい。このように、実施の形態2において説明した製造装置(
図11)は、セルロースナノファイバー(CeNF)の添加をしていない不織布(UFN)を用いた全固体電池の製造に用いることができる。また、実施の形態2において説明した製造装置は、セルロースナノファイバー(CeNF)以外のフィラーを添加した不織布(UFN)を用いた全固体電池の製造に用いることができる。
【0096】
なお、フィラーとしては、例えば、CeNFを含むセルロースの他、ラミー、ジュート、ケナフ、バンブー、バガスなどの天然材料、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンブラックなどの炭素材料、ガラス、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルクなどの鉱物系材料などを用いることができる。なお、フィラーとして、表面処理を施されたものを用いてもよい。
【0097】
(応用例5)
実施の形態2(
図11)において、二軸混練押出機による処理(S1)、不織布製造機による処理(S2)、全固体電池用積層体製造機による処理(S3)は、必ずしも連続して行う必要はない。
【0098】
例えば、二軸混練押出機(S1)により溶融樹脂をストランドとして押し出した後、このストランドをストランドバスで冷却し、ストランドカッター(切断装置)によって逐次ペレット状に切断してもよい。そして、このペレットを溶融し、所望の径のストランドとした後、不織布製造機(S2)により処理してもよい。
【0099】
また、二軸混練押出機(S1)により溶融樹脂を所望の径のストランド(原料樹脂)として押し出したものを巻き取り、巻き取っておいた所望の径のストランド(原料樹脂)を不織布製造機(S2)により処理してもよい。
【0100】
また、不織布製造機(S2)により形成された不織布(UFN)を巻き取り機WUに巻き取とってもよい。そして、
図17に示すように、巻き取られた不織布(UFN)を送り出し、実施の形態2で説明したように、正極部材EL1、固体電解質膜40および負極部材EL2の積層体を形成してもよい。
図17は、応用例5の全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。
【0101】
また、レーザーエレクトロスピニング(LES)法以外の方法で形成された不織布(UFN)を形成し、巻き取っておいた不織布(UFN)を用いて正極部材EL1、固体電解質膜40および負極部材EL2の積層体を形成してもよい(
図17)。
【0102】
(応用例6)
実施の形態2においては、極細ファイバー不織布UFNへの固体電解質材料を含有するスラリーの塗工毎に加熱を行ったが、ヒータを省略し、極細ファイバー不織布UFNの両面のスラリーを一度に加熱してもよい。
図18は、応用例6の全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。例えば、ノズルN1aで不織布(UFN)の表面のスラリーを塗工し、ノズルN1bで不織布(UFN)の裏面のスラリーを塗工した後、ヒータH1で加熱し、ローラR3、R4で加圧する。
【0103】
(応用例7)
例えば、応用例6においては、不織布(UFN)の両面にスラリーを塗工し、2つの塗工層を設けたが、さらに、多層の塗工層を設けてもよい。この際、異なる固体電解質材料を用いて3層以上の塗工層を設けてもよい。
図19は、応用例7の全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。例えば、ノズルN1aで不織布(UFN)の表面のスラリーを塗工し、ノズルN1bで不織布(UFN)の裏面のスラリーを塗工した後、ヒータH1で加熱し、ローラR3、R4で加圧する。次いで、送り出し機W1から他の固体電解質膜を塗工層の表面に積層し、また、送り出し機W2から他の固体電解質膜を塗工層の裏面に積層する。この後、4層の固体電解質材料をローラR5、R6で加圧する。
【0104】
(応用例8)
図20は、応用例8の全固体電池用積層体製造機の構成を示す図である。上記応用例7の送り出し機W1、W2から送り出される他の固体電解質膜を、ノズルN2a、N2bからのスラリーの塗工およびヒータH3、H4による熱処理により形成してもよい。
【0105】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態、実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態、実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0106】
例えば、上記においては、リチウム電池として二次電池を例示したが、一次電池に本発明を適用することもできる。また、上記においては、リチウム電池を例示したが、他の全固体電池に本発明を適用してもよい。また、上記においては、極性フィラーとして水酸基(-OH)を有するCeNFを例示したが、極性基を有する他のフィラー(充填剤)を用いてもよい。フィラー(充填剤)としては、無機物、有機物のいずれを用いてもよい。
【0107】
また、上記実施の形態、実施例および応用例は、その要旨を逸脱しない範囲で種々の組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 原料樹脂
2 ローラ
2AP 負極活物質
3 ノズル
3AP 正極活物質
4AP 固体電解質粒子
5 高電圧発生源
6 コレクター
7 接地電位
8 レーザー照射部
9 スリット
10 レーザー
11 シリンダ
12 スクリュ
13 ホッパ
14 ダイス
15 回転駆動機構
17 プランジャーポンプ(液添ポンプ)
20 負極
20A 負極合剤層
20B 負極集電体
30 正極
30A 正極合剤層
30B 正極集電体
40 固体電解質膜
111 強制排気口
112 真空ポンプ(脱気装置)
160 注入ノズル
A 可塑化ゾーン(可塑化部)
B 混練ゾーン(混練部)
C 脱揮ゾーン(脱気部)
EL1 正極部材
EL2 負極部材
EM 二軸混練押出機(押出機)
H1 ヒータ
H2 ヒータ
H3 ヒータ
H4 ヒータ
N1 ノズル
N1a ノズル
N1b ノズル
N2 ノズル
N2a ノズル
N2b ノズル
PR1 プレス
PR2 プレス
R1 ローラ
R2 ローラ
R3 ローラ
R4 ローラ
R5 ローラ
R6 ローラ
S スラリー
S1 二軸混練押出機による処理
S2 不織布製造機による処理
S3 全固体電池用積層体製造機による処理
UF 極細ファイバー
UFN 極細ファイバー不織布(不織布)
W 巻き取り機
W1 送り出し機
W2 送り出し機
WU 巻き取り機