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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】歩行補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/60 20060101AFI20231127BHJP
   A61F 2/74 20060101ALI20231127BHJP
   A61H 3/00 20060101ALI20231127BHJP
   B25J 11/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61F2/60
A61F2/74
A61H3/00 B
B25J11/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019161098
(22)【出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2021037141
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 靖
(72)【発明者】
【氏名】小林 信行
(72)【発明者】
【氏名】福沢 祐二
(72)【発明者】
【氏名】西沢 真一
(72)【発明者】
【氏名】小金澤 鋼一
(72)【発明者】
【氏名】菊地 喬之
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0305895(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0202057(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0265018(US,A1)
【文献】特開平11-019105(JP,A)
【文献】特開2005-065895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/60
A61F 2/74
A61H 3/00
B25J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の大腿部に取り付けられる支持部材と、
前記支持部材に対して屈曲方向及び伸展方向に回動可能に連結される下腿部材と、
前記下腿部材に対して底屈方向及び背屈方向に回動可能に連結される足部材と、
前記支持部材と前記下腿部材との間に設けられ、前記支持部材に対して前記下腿部材が屈曲方向に回動すると収縮する第1液圧シリンダと、
前記下腿部材と前記足部材との間に設けられ、前記下腿部材に対して前記足部材が背屈方向に回動すると収縮する第2液圧シリンダと、
前記第1液圧シリンダが収縮するときに液体を排出する一方側圧力室と前記第2液圧シリンダが収縮するときに液体を排出する一方側圧力室とを連通させる第1連通路と、
前記下腿部材に対して伸展方向に回動するように前記支持部材を付勢する第1付勢部材と、
前記下腿部材に対して底屈方向に回動するように前記足部材を付勢する第2付勢部材と、
を備える、
ことを特徴とする歩行補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載の歩行補助装置であって、
前記下腿部材は、
前記第1液圧シリンダの一方の端部を支持する第1フレームと、
前記第2液圧シリンダの一方の端部を支持する第2フレームと、
前記第1フレームと前記第2フレームとの間に設けられる長さ調整部材と、
を有する、
ことを特徴とする歩行補助装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歩行補助装置であって、
前記第1液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室と前記第2液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室とを連通させる第2連通路と、
前記第2連通路と前記第1連通路とを連通させる第3連通路と、
前記第3連通路に設けられ、前記第1連通路から前記第2連通路に流れる液体を絞る絞り弁と、
を更に備える、
ことを特徴とする歩行補助装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の歩行補助装置であって、
前記第1液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室と前記第2液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室とを連通させる第2連通路と、
前記第1連通路と前記第2連通路との連通を、前記第1液圧シリンダの一方側圧力室と前記第2液圧シリンダの他方側圧力室とが連通し前記第2液圧シリンダの一方側圧力室と前記第1液圧シリンダの他方側圧力室とが連通するように切り換え可能な切換弁と、
を更に備える、
ことを特徴とする歩行補助装置。
【請求項5】
請求項に記載の歩行補助装置であって、
前記切換弁は、前記第1連通路の連通及び前記第2連通路の連通を共に遮断し、前記第1液圧シリンダと前記第2液圧シリンダとのいずれかの前記一方側圧力室と前記他方側圧力室とを連通させることが可能である、
ことを特徴とする歩行補助装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の歩行補助装置であって、
前記第1液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室と前記第2液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室とを連通させる第2連通路と、
前記第1連通路と前記第2連通路との一方と連通するロッド側室と、前記第1連通路と前記第2連通路との他方と連通するピストン側室と、を有する第3液圧シリンダと、
を更に備える、
ことを特徴とする歩行補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の歩行動作を補助する歩行補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、足底部位置に配置される入力シリンダと、大腿側リンクと下腿側リンクとの間に配置される出力シリンダと、を備える膝継手が開示されている。この膝継手では、歩行動作中に入力シリンダが床反力により圧縮されると、出力シリンダが大腿側リンクに伸展トルクを発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-233421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の膝継手では、歩行中に足が地面に着いて体重がかかっている立脚期には、使用者の足底部が地面に着いていることにより入力シリンダが圧縮されて、出力シリンダが膝関節を伸展させる方向に伸長することで、膝が曲がる膝折れが防止される。そのため、踵が着いてからつま先が離れるまで足底部が地面に着いている間は膝を曲げることができないので、自然な歩行動作をとることが困難である。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、自然な歩行動作をとることが可能な歩行補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、使用者の大腿部に取り付けられる支持部材と下腿部材との間に設けられ、支持部材に対して下腿部材が屈曲方向に回動すると収縮する第1液圧シリンダと、下腿部材と足部材との間に設けられ、下腿部材に対して足部材が背屈方向に回動すると収縮する第2液圧シリンダと、第1液圧シリンダが収縮するときに液体を排出する一方側圧力室と第2液圧シリンダが収縮するときに液体を排出する一方側圧力室とを連通させる第1連通路と、下腿部材に対して伸展方向に回動するように支持部材を付勢する第1付勢部材と、下腿部材に対して底屈方向に回動するように足部材を付勢する第2付勢部材と、を備える。
【0007】
この発明では、使用者が前方へ歩行する際、前方に踏み出した足部材の底部が地面に着くときには、足首関節部は底屈方向に回動しており膝関節部は軽度に屈曲している。使用者が更に前進すると、足首関節部が背屈方向に回動し膝関節部は伸展方向に回動する。このとき、第2液圧シリンダが徐々に収縮するのに伴い、第2液圧シリンダから排出された液体が第1連通路を介して第1液圧シリンダに移動することで、第1液圧シリンダは徐々に伸長する。よって、第1液圧シリンダ及び第2液圧シリンダは、膝関節部及び足首関節部に、使用者の歩行動作に合った動きをさせることができる。また、第1付勢部材が下腿部材に対して支持部材を伸展方向に付勢し、第2付勢部材が下腿部材に対して足部材を底屈方向に付勢することで、遊脚期(足が地面から離れたとき)に膝関節部及び足首関節部を自然な状態に戻すことができる。
【0008】
また、本発明では、下腿部材は、第1液圧シリンダの一方の端部を支持する第1フレームと、第2液圧シリンダの一方の端部を支持する第2フレームと、第1フレームと第2フレームとの間に設けられる長さ調整部材と、を有する。
【0009】
この発明では、使用者の反対側の脚の長さに応じて長さ調整部材の長さを調整することで、使用者の左右の脚の長さを合わせることができる。
【0012】
また、本発明は、第1液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室と第2液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室とを連通させる第2連通路と、第2連通路と第1連通路とを連通させる第3連通路と、第3連通路に設けられ、第1連通路から第2連通路に流れる液体を絞る絞り弁と、を更に備える。
【0013】
この発明では、例えば、使用者が階段を降りる場合には、足首関節部が背屈方向に回動すると共に膝関節部が屈曲方向に回動する動作が要求される。このような場合に、絞り弁が設けられることで、第1液圧シリンダの一方側圧力室から排出された液体を、絞り弁を通じて第1液圧シリンダの他方側圧力室に供給することができる。よって、平地を歩行する場合だけでなく、階段を昇降する場合にも、使用者は、歩行補助装置を用いて自然な歩行動作をとることができる。
【0014】
また、本発明は、第1液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室と第2液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室とを連通させる第2連通路と、第1連通路と第2連通路との連通を、第1液圧シリンダの一方側圧力室と第2液圧シリンダの他方側圧力室とが連通し第2液圧シリンダの一方側圧力室と第1液圧シリンダの他方側圧力室とが連通するように切り換え可能な切換弁と、を更に備える。
【0015】
この発明では、切換弁は、第1連通路と第2連通路との連通を、第1液圧シリンダの一方側圧力室と第2液圧シリンダの他方側圧力室とが連通し第2液圧シリンダの一方側圧力室と第1液圧シリンダの他方側圧力室とが連通するように切り換えることができる。これにより、第1液圧シリンダ及び第2液圧シリンダを共に伸長させる動作、若しくは第1液圧シリンダ及び第2液圧シリンダを共に収縮させる動作が可能になる。
【0016】
また、本発明では、切換弁は、第1連通路の連通及び第2連通路の連通を共に遮断し、第1液圧シリンダと第2液圧シリンダとのいずれかの一方側圧力室と他方側圧力室とを連通させることが可能である。
【0017】
この発明では、第1連通路の連通及び第2連通路の連通が共に遮断され、第1液圧シリンダと第2液圧シリンダとのいずれかの一方側圧力室と他方側圧力室とが連通するので、第1液圧シリンダと第2液圧シリンダとの一方を伸縮しない状態で保持し、第1液圧シリンダと第2液圧シリンダとの他方を伸縮可能な状態にすることができる。これにより、第1液圧シリンダと第2液圧シリンダとの一方のみを収縮又は伸長させる動作が可能になる。
【0018】
また、本発明は、第1液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室と第2液圧シリンダが収縮するときに液体が供給される他方側圧力室とを連通させる第2連通路と、第1連通路と第2連通路との一方と連通するロッド側室と、第1連通路と第2連通路との他方と連通するピストン側室と、を有する第3液圧シリンダと、を更に備える。
【0019】
この発明では、第3液圧シリンダに液圧エネルギを貯められるので、蓄圧器を設ける必要がない。よって、蓄圧器が設けられる液圧回路と比較して小型化が可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、自然な歩行動作をとることが可能な歩行補助装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態に係る歩行補助装置の右側面図である。
図2図2は、図1における正面図である。
図3図3は、図1における背面図である。
図4図4は、図1において下腿部材が屈曲方向に回動し足部材が背屈方向に回動した状態を示す図である。
図5図5は、図1の歩行補助装置に長さ調整部材が挿入された状態を示す図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る歩行補助装置の液圧回路である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る歩行補助装置の第1の変形例に係る液圧回路の液圧回路図である。
図8図8は、使用者が平地を歩行する場合における液圧回路の第1の変形例の動作について説明する図である。
図9図9は、使用者が階段を昇降する場合における液圧回路の第1の変形例の動作について説明する図である。
図10図10は、本発明の実施形態に係る歩行補助装置の第2の変形例に係る液圧回路の液圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1から図10を参照して、本発明の実施形態に係る歩行補助装置としての油圧義足1について説明する。油圧義足1では、液体として作動油が用いられる。非圧縮性流体であればよいので、作動油に代えて、作動水など他の液体を用いてもよい。
【0023】
以下では、大腿部に対して下腿部を曲げる方向(脹脛を大腿部に近付ける方向)を「屈曲方向」と称し、大腿部に対して下腿部を伸ばす方向(脹脛を大腿部から離す方向)を「伸展方向」と称する。また、下腿部に対して足部を曲げる方向(つま先を下腿部に近付ける方向)を「背屈方向」と称し、下腿部に対して足部を伸ばす方向(つま先を下腿部から離す方向)を「底屈方向」と称する。また、足が地面に着いているときを「立脚期」と称し、足が地面から離れているときを「遊脚期」と称する。
【0024】
まず、図1から図5を参照して、油圧義足1の全体構成について説明する。
【0025】
図1は、油圧義足1の右側面図である。図2は、図1における正面図である。図3は、図1における背面図である。図4は、図1において下腿部材3が屈曲方向に回動し足部材4が背屈方向に回動した状態を示す図である。図5は、図1の油圧義足1に長さ調整部材33aが挿入された状態を示す図である。
【0026】
図1から図3に示すように、油圧義足1は、大腿骨を切断した大腿切断の使用者が用いる大腿義足である。油圧義足1は、支持部材2と、下腿部材3と、足部材4と、膝関節部5と、足首関節部6と、第1液圧シリンダとしての油圧シリンダ7と、第2液圧シリンダとしての油圧シリンダ8と、第1付勢部材としてのコイルばね9と、第2付勢部材としてのコイルばね10と、液圧回路としての油圧回路100(図6参照)と、を備える。
【0027】
支持部材2は、使用者の大腿部に取り付けられて大腿部を支持する。支持部材2の上部には、使用者の大腿部の断端(切断箇所)を装着するソケット(図示省略)が取り付けられる。支持部材2は、油圧シリンダ7の後述するロッド72の先端部72a(図3参照)が回動可能に取り付けられるシリンダ取付部21を有する。シリンダ取付部21は、支持部材2の後端部近傍に設けられる。
【0028】
支持部材2は、下腿部材3の後述する回動規制部34aと当接する回動規制部22を有する。回動規制部22は、支持部材2の前端部近傍に設けられる。回動規制部22は、下腿部材3の回動規制部34aと当接したときに、下腿部材3の伸展方向への回動を規制する(図1に示す状態)。
【0029】
下腿部材3は、支持部材2に対して屈曲方向及び伸展方向に回動可能に連結される。下腿部材3は、油圧シリンダ7の後述するシリンダ部71(一方の端部)を支持する第1フレーム31と、油圧シリンダ8の後述するシリンダ部81(一方の端部)を支持する第2フレーム32と、第1フレーム31と第2フレーム32との間に設けられる長さ調整機構33と、を有する。
【0030】
第1フレーム31は、回動軸51を介して支持部材2と連結される。第1フレーム31は、回動軸51を中心として支持部材2に対して回動する(図4参照)。第1フレーム31は、一対の側部部材34と、側部部材34の下端部どうしを連結する下端部材35と、を有する。
【0031】
側部部材34は、支持部材2を介して入力される使用者の体重を受ける。一対の側部部材34の間には、油圧シリンダ7が設けられる。一対の側部部材34の間には、シリンダ支持軸38が挿通する。シリンダ支持軸38には、油圧シリンダ7のシリンダ部71が回動可能に連結される。
【0032】
下端部材35は、一対の側部部材34を下方から支持する。下端部材35は、第2フレーム32の後述する上端部材37と上下方向に対向する。下端部材35には、長さ調整機構33の上端部33bが連結される。
【0033】
第2フレーム32は、長さ調整機構33を介して第1フレーム31の下部に連結される。第2フレーム32は、一対の側部部材36と、側部部材36の上端部どうしを連結する上端部材37と、を有する。
【0034】
側部部材36は、上端部材37を下方から支持する。側部部材36は、上端部材37を介して入力される使用者の体重を受ける。一対の側部部材36の間には、油圧シリンダ8が設けられる。一対の側部部材36の間には、シリンダ支持軸39が挿通する。シリンダ支持軸39には、油圧シリンダ8のシリンダ部81が回動可能に連結される。
【0035】
側部部材36は、足部材4の後述する回動規制部41と当接する回動規制部36aと、足部材4の後述する回動規制部42と当接する回動規制部36bと、を有する。
【0036】
上端部材37は、第1フレーム31の下端部材35と上下方向に対向する。上端部材37には、長さ調整機構33の下端部33cが連結される。
【0037】
長さ調整機構33は、長さ調整部材33a(図5参照)を有する。長さ調整機構33では、長さ調整部材33aを異なる長さのものに交換可能である。これにより、使用者の反対側の脚の長さに応じて長さ調整部材33aの長さを調整することで、使用者の左右の脚の長さを合わせることができる。
【0038】
油圧シリンダ7のシリンダ部71を支持する第1フレーム31と、油圧シリンダ8のシリンダ部81を支持する第2フレーム32とは、長さ調整部材33aを挟んで別々に設けられる。そのため、長さ調整部材33aを調整することで、油圧シリンダ7及び油圧シリンダ8の大きさを変更することなく、下腿部材3の長さだけを変更することができる。
【0039】
足部材4は、下腿部材3に対して底屈方向及び背屈方向に回動可能に連結される。足部材4は、回動軸61を介して下腿部材3と連結される。足部材4は、回動軸61を中心として下腿部材3に対して回動する(図4参照)。
【0040】
足部材4は、靴などを装着可能なように、健常者の足と同様の形状に形成される。足部材4は、油圧シリンダ8の後述するロッド82の先端部82a(図1参照)が回動可能に取り付けられるシリンダ取付部43を有する。シリンダ取付部43は、足部材4において回動軸61を介して下腿部材3と連結される位置よりも前方に設けられる。
【0041】
足部材4は、下腿部材3の回動規制部36aと当接する回動規制部41と、下腿部材3の回動規制部36bと当接する回動規制部42と、を有する。回動規制部41は、下腿部材3の前方に設けられる。回動規制部41は、下腿部材3の回動規制部36aと当接したときに、足部材4の背屈方向への回動を規制する。回動規制部42は、下腿部材3の後方に設けられる。回動規制部42は、下腿部材3の回動規制部36bと当接したときに、足部材4の底屈方向への回動を規制する。
【0042】
膝関節部5は、回動軸51を有する。回動軸51は、支持部材2と下腿部材3とを屈曲方向及び伸展方向に回動可能に連結する。
【0043】
足首関節部6は、回動軸61を有する。回動軸61は、下腿部材3と足部材4とを底屈方向及び背屈方向に回動可能に連結する。
【0044】
油圧シリンダ7は、支持部材2と下腿部材3との間に設けられる。油圧シリンダ7が収縮すると、下腿部材3が支持部材2に対して屈曲方向に回動する。油圧シリンダ7が伸長すると、下腿部材3が支持部材2に対して伸展方向に回動する。油圧シリンダ7は、シリンダ部71と、ロッド72と、を有する。
【0045】
シリンダ部71は、一対の側部部材34の間に設けられる。シリンダ部71ついては、図6の油圧回路100を参照しながら、後で詳細に説明する。
【0046】
ロッド72は、シリンダ部71に対して進退する。ロッド72がシリンダ部71から退出すると、油圧シリンダ7は伸長する。一方、ロッド72がシリンダ部71に進入すると、油圧シリンダ7は収縮する。
【0047】
油圧シリンダ8は、下腿部材3と足部材4との間に設けられる。油圧シリンダ8は、下腿部材3に対して足部材4が背屈方向に回動すると収縮する。油圧シリンダ8は、下腿部材3に対して足部材4が底屈方向に回動すると伸長する。油圧シリンダ8は、シリンダ部81と、ロッド82と、を有する。
【0048】
シリンダ部81は、一対の側部部材36の間に設けられる。シリンダ部81ついては、図6の油圧回路100を参照しながら、後で詳細に説明する。
【0049】
ロッド82は、シリンダ部81に対して進退する。ロッド82がシリンダ部81から退出すると、油圧シリンダ8は伸長する。一方、ロッド82がシリンダ部81に進入すると、油圧シリンダ8は収縮する。
【0050】
油圧シリンダ8は、油圧シリンダ7よりも全長が短い。これにより、油圧シリンダ7の収容部と比較してスペースの小さい足首関節部6に油圧シリンダ8を収容することができる。油圧シリンダ7と油圧シリンダ8とは、シリンダ部71,81の径を変更することで、使用者の歩行動作に応じたセッティングが可能である。
【0051】
コイルばね9は、ロッド72の外周に設けられる。コイルばね9は、下腿部材3に対して伸展方向に回動するように支持部材2を付勢する。コイルばね9は、ロッド72がシリンダ部71から退出すると、ロッド72の伸長と共に伸長する。一方、コイルばね9は、ロッド72がシリンダ部71に進入すると、ロッド72の収縮と共に収縮する。
【0052】
コイルばね10は、ロッド82の外周に設けられる。コイルばね10は、下腿部材3に対して底屈方向に回動するように足部材4を付勢する。コイルばね10は、ロッド82がシリンダ部81から退出すると、ロッド82の伸長と共に伸長する。一方、コイルばね10は、ロッド82がシリンダ部81に進入すると、ロッド82の収縮と共に収縮する。
【0053】
コイルばね9が下腿部材3に対して支持部材2を伸展方向に付勢し、コイルばね10が下腿部材3に対して足部材4を底屈方向に付勢することで、遊脚期に膝関節部5及び足首関節部6を自然な状態に戻すことができる。
【0054】
コイルばね9及びコイルばね10に代えて、他のばねなどを第1付勢部材及び第2付勢部材として設けてもよい。また、コイルばね9及びコイルばね10を、ロッド72及びロッド82の外周ではなく、油圧シリンダ7及び油圧シリンダ8とは別の位置に独立して設けてもよい。
【0055】
次に、図6を参照して、油圧義足1の油圧回路100について説明する。図6は、油圧義足1の油圧回路100である。
【0056】
油圧回路100は、油圧シリンダ7及び油圧シリンダ8の動作に応じて作動油を移動させるものである。油圧回路100は、油圧義足1の第1フレーム31と第2フレーム32との内側に収容される。油圧回路100は、第1連通路101と、第2連通路102と、第3連通路103と、逆止弁104と、絞り弁105と、蓄圧器としてのアキュムレータ106と、を備える。
【0057】
油圧シリンダ7は、シリンダ部71と、ロッド72と、ピストン73と、一方側圧力室としてのピストン側室74と、他方側圧力室としてのロッド側室75と、を有する。
【0058】
ロッド72は、ピストン73と一体に設けられてシリンダ部71の外部へ延出される。ピストン73は、シリンダ部71内を摺動する。ピストン73は、シリンダ部71内にピストン側室74及びロッド側室75を画成する。ピストン側室74は、油圧シリンダ7が収縮するときに作動油を排出する。ロッド側室75には、油圧シリンダ7が収縮するときに作動油が供給される。
【0059】
油圧シリンダ8は、シリンダ部81と、ロッド82と、ピストン83と、一方側圧力室としてのピストン側室84と、他方側圧力室としてのロッド側室85と、を有する。
【0060】
ロッド82は、ピストン83と一体に設けられてシリンダ部81の外部へ延出される。ピストン83は、シリンダ部81内を摺動する。ピストン83は、シリンダ部81内にピストン側室84及びロッド側室85を画成する。ピストン側室84は、油圧シリンダ8が収縮するときに作動油を排出する。ロッド側室85には、油圧シリンダ8が収縮するときに作動油が供給される。
【0061】
第1連通路101は、油圧シリンダ7のピストン側室74と油圧シリンダ8のピストン側室84とを連通させる。第2連通路102は、油圧シリンダ7のロッド側室75と油圧シリンダ8のロッド側室85とを連通させる。
【0062】
油圧シリンダ8が収縮する場合には、第1連通路101を通じて作動油がピストン側室84からピストン側室74に移動すると共に、第2連通路102を通じて作動油がロッド側室75からロッド側室85に移動して、油圧シリンダ7が伸長する。一方、油圧シリンダ8が伸長する場合には、第1連通路101を通じて作動油がピストン側室74からピストン側室84に移動すると共に、第2連通路102を通じて作動油がロッド側室85からピストン側室84に移動して、油圧シリンダ7が収縮する。
【0063】
第3連通路103は、第2連通路102と第1連通路101とを連通させる。第3連通路103には、逆止弁104と絞り弁105とが、互いに並列に並ぶように設けられる。
【0064】
逆止弁104は、第1連通路101から第2連通路102に作動油が流れないように、作動油の流れを止める。即ち、逆止弁104が設けられる通路においては、第1連通路101から第2連通路102へは作動油が流通しない。
【0065】
絞り弁105は、第1連通路101から第2連通路102に流れる作動油を絞る。即ち、第1連通路101から第2連通路102へは、絞り弁105によって絞られた作動油が流通する。なお、絞り弁105は、作動油の流れを絞る状態だけでなく完全に閉じた状態にも調整可能である。これにより、第1連通路101から第2連通路102へ作動油が流通しないようにもできる。
【0066】
アキュムレータ106は、第2連通路102に連通するように設けられる。アキュムレータ106は、シリンダ部71及びシリンダ部81に対してロッド72及びロッド82が進退する長さに応じて変化する油圧回路100内の作動油の体積変化を補償する。また、アキュムレータ106は、温度変化による作動油の体積変化を補償する。
【0067】
次に、油圧義足1を用いた歩行動作について説明する。ここでは、一方の脚に油圧義足1を装着した使用者が平地を歩行する場合について説明する。
【0068】
使用者が前方へ歩行する際には、他方の脚を前方に踏み出した後、油圧義足1を装着した一方の脚を前方に踏み出す。前方に踏み出した足部材4の底部が地面に着くときには、足首関節部6は底屈方向に回動しており膝関節部5は軽度に屈曲している。この状態から、使用者が更に前進すると、足首関節部6が背屈方向に回動し膝関節部5は伸展方向に回動する。
【0069】
このとき、油圧シリンダ8が徐々に収縮するのに伴い、油圧シリンダ8から排出された作動油が第1連通路101を介して油圧シリンダ7に移動する。これにより、油圧シリンダ7は徐々に伸長する。
【0070】
よって、油圧シリンダ7及び油圧シリンダ8は、膝関節部5及び足首関節部6に、使用者の歩行動作に合った動きをさせることができる。したがって、使用者は、油圧義足1を用いて自然な歩行動作をとることができる。
【0071】
また、例えば、使用者が階段を降りる場合には、足首関節部6が背屈方向に回動すると共に膝関節部5が屈曲方向に回動する動作が要求される。このような場合に、絞り弁105が設けられることで、油圧シリンダ7のピストン側室74から排出された作動油を、絞り弁105を通じてロッド側室75に供給することができる。よって、平地を歩行する場合だけでなく、階段を昇降する場合にも、使用者は、油圧義足1を用いて自然な歩行動作をとることができる。
【0072】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0073】
前方に踏み出した足部材4の底部が地面に着くときには、足首関節部6は底屈方向に回動しており膝関節部5は軽度に屈曲している。この状態から、使用者が更に前進すると、足首関節部6が背屈方向に回動し膝関節部5は伸展方向に回動する。このとき、油圧シリンダ8が徐々に収縮するのに伴い、油圧シリンダ8から排出された作動油が第1連通路101を介して油圧シリンダ7に移動する。これにより、油圧シリンダ7は徐々に伸長する。よって、油圧シリンダ7及び油圧シリンダ8は、膝関節部5及び足首関節部6に、使用者の歩行動作に合った動きをさせることができる。したがって、使用者は、油圧義足1を用いて自然な歩行動作をとることができる。
【0074】
以下、図7から図10を参照して、油圧義足1の第1及び第2の変形例に係る油圧回路200,300について説明する。なお、以下に示す各々の変形例では、上記の実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0075】
まず、図7を参照して、油圧義足1の第1の変形例に係る油圧回路200について説明する。図7は、油圧回路200の油圧回路図である。
【0076】
図7に示すように、油圧回路200は、第1連通路101と、第2連通路102と、一対のアキュムレータ106と、切換弁201と、を備える。
【0077】
第1連通路101及び第2連通路102は、切換弁201が後述する第1遮断位置201a若しくは第2遮断位置201cに切り換えられると、油圧シリンダ7,8の間で分断される。そのため、アキュムレータ106は、切換弁201によって分断された各々の第2連通路102に連通するように一対設けられる。
【0078】
なお、油圧シリンダ7(若しくは油圧シリンダ8)のピストン側室74(若しくはピストン側室84)とロッド側室75(若しくはロッド側室85)とを連通させる第3連通路(図示省略)を設け、第3連通路に逆止弁104及び絞り弁105を各々設けてもよい。
【0079】
切換弁201は、第1連通路101と第2連通路102との連通を、油圧シリンダ7のピストン側室74と油圧シリンダ8のロッド側室85とが連通し油圧シリンダ8のピストン側室84と油圧シリンダ7のロッド側室75とが連通するように切り換え可能である。また、切換弁201は、第1連通路101の連通及び第2連通路102の連通を共に遮断し、油圧シリンダ7のピストン側室74とロッド側室75とを、若しくは油圧シリンダ8のピストン側室84とロッド側室85とを連通させることが可能である。
【0080】
具体的には、切換弁201は、4ポート4位置の切換弁である。切換弁201は、第1遮断位置201aと、第1連通位置201bと、第2遮断位置201cと、第2連通位置201dと、を有する。
【0081】
切換弁201は、第1遮断位置201aに切り換えられると、第1連通路101及び第2連通路102が油圧シリンダ7と油圧シリンダ8との間で分断され、油圧シリンダ7と油圧シリンダ8との間で作動油は流通しない。同時に、切換弁201は、油圧シリンダ7のピストン側室74とロッド側室75とを、第1連通路101及び第2連通路102を介して連通させる。
【0082】
このように、切換弁201が第1遮断位置201aに切り換えられると、油圧シリンダ8のピストン側室84とロッド側室85とは連通しないのに対して、油圧シリンダ7のピストン側室74とロッド側室75とは連通する。そのため、油圧シリンダ8を伸縮しない状態で保持しながら、油圧シリンダ7を単独で伸縮させることが可能である。
【0083】
切換弁201は、第1連通位置201bに切り換えられると、油圧シリンダ7のピストン側室74と油圧シリンダ8のピストン側室84とを連通させる。同時に、切換弁201は、油圧シリンダ7のロッド側室75と油圧シリンダ8のロッド側室85とを連通させる。これにより、油圧シリンダ7と油圧シリンダ8との一方が収縮する場合には他方は伸長する。
【0084】
切換弁201は、第2遮断位置201cに切り換えられると、第1連通路101及び第2連通路102が油圧シリンダ7と油圧シリンダ8との間で分断され、油圧シリンダ7と油圧シリンダ8との間で作動油は流通しない。同時に、切換弁201は、油圧シリンダ8のピストン側室84とロッド側室85とを、第1連通路101及び第2連通路102を介して連通させる。
【0085】
このように、切換弁201が第2遮断位置201cに切り換えられると、油圧シリンダ7のピストン側室74とロッド側室75とは連通しないのに対して、油圧シリンダ8のピストン側室84とロッド側室85とは連通する。そのため、油圧シリンダ7を伸縮しない状態で保持しながら、油圧シリンダ8を単独で伸縮させることが可能である。
【0086】
切換弁201は、第2連通位置201dに切り換えられると、油圧シリンダ7のピストン側室74と油圧シリンダ8のロッド側室85とを連通させる。同時に、切換弁201は、油圧シリンダ7のロッド側室75と油圧シリンダ8のピストン側室84とを連通させる。これにより、油圧シリンダ7と油圧シリンダ8との一方が収縮する場合には他方も収縮し、油圧シリンダ7と油圧シリンダ8との一方が伸長する場合には他方も伸長する。
【0087】
以上のように、切換弁201は、第1連通路101と第2連通路102との連通を、油圧シリンダ7のピストン側室74と油圧シリンダ8のロッド側室85とが連通し油圧シリンダ8のピストン側室84と油圧シリンダ7のロッド側室75とが連通するように切り換えることができる。これにより、油圧シリンダ7,8を共に伸長させる動作、若しくは油圧シリンダ7,8を共に収縮させる動作が可能になる。
【0088】
また、切換弁201は、第1連通路101の連通及び第2連通路102の連通を共に遮断し、油圧シリンダ7のピストン側室74とロッド側室75とを、若しくは油圧シリンダ8のピストン側室84とロッド側室85とを連通させることができる。これにより、油圧シリンダ7,8の一方のみを単独で伸長又は収縮させる動作が可能になる。
【0089】
以下、図8及び図9を参照して、第1の変形例に係る油圧回路200が適用された油圧義足1を用いた歩行動作について説明する。
【0090】
図8は、使用者が平地を歩行する場合における油圧回路200の動作について説明する図である。図9は、使用者が階段を昇降する場合における油圧回路200の動作について説明する図である。
【0091】
図8及び図9には、脚姿勢に対して要求される油圧シリンダ7,8の動作と、それに対応する油圧回路200における切換弁201の切り換え位置を示している。図8及び図9では、実線で示す脚姿勢は、油圧義足1が装着された一方の脚であり、破線で示す脚姿勢は、油圧義足1が装着されていない他方の脚である。
【0092】
まず、図8を参照して、使用者が平地を歩行する場合について説明する。
【0093】
脚姿勢Aでは、使用者は、他方の脚に対して一方の脚を前方に踏み出している。このとき、油圧シリンダ7が収縮して膝関節部5を屈曲方向に回動させ、油圧シリンダ8が伸長して足首関節部6を底屈方向に回動させる動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1連通位置201bに切り換える。
【0094】
脚姿勢Bでは、使用者が更に前進して、一方の脚が立脚期となり一方の脚に体重をかけ、他方の脚を遊脚期として次の動作に備えている。このとき、使用者の体重を支持するために油圧シリンダ7は伸縮せず、油圧シリンダ8のみが収縮して足首関節部6を背屈方向に回動させる動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第2遮断位置201cに切り換える。
【0095】
脚姿勢Cでは、使用者が更に前進して、一方の脚に対して他方の脚を前方に踏み出している。このとき、油圧シリンダ7のみが伸長して膝関節部5を伸展方向に回動させ、足首関節部6の角度を維持するために油圧シリンダ8は伸縮しない動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1遮断位置201aに切り換える。
【0096】
脚姿勢Dでは、使用者が更に前進して、一方の脚に対して他方の脚を更に前方に踏み出している。このとき、油圧シリンダ7のみが収縮して膝関節部5を屈曲方向に回動させ、足首関節部6の角度を維持するために油圧シリンダ8は伸縮しない動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1遮断位置201aに切り換えたままである。
【0097】
脚姿勢Eでは、使用者が更に前進して、他方の脚が立脚期となり他方の脚に体重をかけ、一方の脚を遊脚期として次の動作に備えている。このとき、油圧シリンダ7が収縮して膝関節部5を屈曲方向に回動させ、油圧シリンダ8が収縮して足首関節部6を背屈方向に回動させる動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第2連通位置201dに切り換える。
【0098】
脚姿勢Fでは、使用者が更に前進して、他方の脚は立脚期のままであり他方の脚に体重をかけ、一方の脚を遊脚期として前方に踏み出している。このとき、油圧シリンダ7のみが伸長して膝関節部5を伸展方向に回動させ、足首関節部6の角度を維持するために油圧シリンダ8は伸縮しない動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1遮断位置201aに切り換える。
【0099】
使用者は、平地を歩行する際には、脚姿勢Aから脚姿勢Fまでの動作を行った後、再び脚姿勢Aに戻って同じ動作を繰り返す。
【0100】
以上のように、切換弁201を切り換えて油圧シリンダ7,8の動作を制御することで、上記実施形態に係る油圧回路100と比較して、使用者は更に自然な歩行動作をとることができる。
【0101】
次に、図9を参照して、使用者が階段を昇降する場合について説明する。脚姿勢Gから脚姿勢Jは、使用者が階段を昇る場合であり、脚姿勢Kから脚姿勢Lは、使用者が階段を降りる場合である。
【0102】
脚姿勢Gでは、使用者は、他方の脚に対して一方の脚を、階段の一つ上の段に踏み出している。このとき、油圧シリンダ7が収縮して膝関節部5を屈曲方向に回動させ、油圧シリンダ8が伸長して足首関節部6を底屈方向に回動させる動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1連通位置201bに切り換える。
【0103】
脚姿勢Hでは、使用者は、一方の脚に対して他方の脚を、階段の一つ上の段に踏み出している。このとき、使用者を次の段に向けて持ち上げるために油圧シリンダ7が伸長して膝関節部5を伸展方向に回動させ、油圧シリンダ8が収縮して足首関節部6を底屈方向に回動させる動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1連通位置201bに切り換えたままである。
【0104】
脚姿勢Iでは、使用者が更に階段を昇り、一方の脚が立脚期となり一方の脚に体重をかけ、他方の脚を一つ上の段に着いて立脚期としている。このとき、使用者を次の段に向けて持ち上げるために油圧シリンダ7のみが伸長して膝関節部5を伸展方向に回動させ、足首関節部6の角度を維持するために油圧シリンダ8は伸縮しない動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1遮断位置201aに切り換える。
【0105】
脚姿勢Jでは、使用者が更に階段を昇り、他方の脚が立脚期となり他方の脚に体重をかけ、一方の脚を遊脚期として次の動作に備えている。このとき、油圧シリンダ7が収縮して膝関節部5を屈曲方向に回動させ、足首関節部6の角度を維持するために油圧シリンダ8は伸縮しない動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1遮断位置201aに切り換えたままである。
【0106】
使用者は、階段を昇る際には、脚姿勢Gから脚姿勢Jまでの動作を行った後、再び脚姿勢Gに戻って同じ動作を繰り返す。
【0107】
以上のように、切換弁201を切り換えて油圧シリンダ7,8の動作を制御することで、階段を昇る際にも、使用者は更に自然な歩行動作をとることができる。
【0108】
脚姿勢Kでは、使用者が、他方の脚に対して一方の脚を、階段の一つ下の段に踏み出している。このとき、油圧シリンダ7が収縮して膝関節部5を屈曲方向に回動させ、油圧シリンダ8が収縮して足首関節部6を背屈方向に回動させる動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第2連通位置201dに切り換える。
【0109】
脚姿勢Lでは、使用者が更に階段を降り、他方の脚を一つ下の段に着いて立脚期として他方の脚に体重をかけ、一方の脚を一つ前の段(一つ上の段)から一つ下の段に移動させている。このとき、油圧シリンダ7が伸長して膝関節部5を伸展方向に回動させ、足首関節部6の角度を維持するために油圧シリンダ8は伸縮しない動作が要求される。そのため、油圧回路200では、切換弁201を第1遮断位置201aに切り換える。
【0110】
以上のように、切換弁201を切り換えて油圧シリンダ7,8の動作を制御することで、階段を降りる際にも、使用者は更に自然な歩行動作をとることができる。
【0111】
次に、図10を参照して、油圧義足1の第2の変形例に係る油圧回路300について説明する。図10は、油圧回路300の油圧回路図である。
【0112】
油圧回路300は、第1連通路101と、第2連通路102と、一対の第3連通路103と、一対の逆止弁104と、一対の絞り弁105と、第3液圧シリンダとしての油圧シリンダ307と、を備える。
【0113】
油圧シリンダ307は、シリンダ部301と、ロッド302と、ピストン303と、ピストン側室304と、ロッド側室305と、を有する。ロッド302の外周には、第3付勢部材としてのコイルばね11が設けられる。
【0114】
ロッド302は、ピストン303と一体に設けられてシリンダ部301の外部へ延出される。ピストン303は、シリンダ部301内を摺動する。ピストン303は、シリンダ部301内にピストン側室304及びロッド側室305を画成する。
【0115】
ピストン側室304は、油圧シリンダ307が収縮するときに作動油を排出する。ピストン側室304は、第1連通路101と連通する。
【0116】
ロッド側室305には、油圧シリンダ307が収縮するときに作動油が供給される。ロッド側室305は、第2連通路102と連通する。
【0117】
これに代えて、ピストン側室304が第2連通路102と連通するようにしてもよい。この場合、ロッド側室305が第1連通路101と連通する。即ち、ピストン側室304は、第1連通路101と第2連通路102との他方と連通し、ロッド側室305は、第1連通路101と第2連通路102との一方と連通する。
【0118】
コイルばね11は、ロッド302がシリンダ部301から退出すると、ロッド302の伸長と共に伸長する。一方、コイルばね11は、ロッド302がシリンダ部301に進入すると、ロッド302の収縮と共に収縮する。
【0119】
以上より、油圧回路300では、油圧シリンダ307に油圧エネルギを貯められるので、アキュムレータを設ける必要がない。よって、一対のアキュムレータ106が設けられる油圧回路200と比較して小型化が可能である。
【0120】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0121】
油圧義足1は、使用者の大腿部に取り付けられる支持部材2と、支持部材2に対して屈曲方向及び伸展方向に回動可能に連結される下腿部材3と、下腿部材3に対して底屈方向及び背屈方向に回動可能に連結される足部材4と、支持部材2と下腿部材3との間に設けられ、支持部材2に対して下腿部材3が屈曲方向に回動すると収縮する油圧シリンダ7と、下腿部材3と足部材4との間に設けられ、下腿部材3に対して足部材4が背屈方向に回動すると収縮する油圧シリンダ8と、油圧シリンダ7が収縮するときに作動油を排出するピストン側室74と油圧シリンダ8が収縮するときに作動油を排出するピストン側室84とを連通させる第1連通路101と、を備える。
【0122】
この構成では、前方に踏み出した足部材4の底部が地面に着くときには、足首関節部6は底屈方向に回動しており膝関節部5は軽度に屈曲している。この状態から、使用者が更に前進すると、足首関節部6が背屈方向に回動し膝関節部5は伸展方向に回動する。このとき、油圧シリンダ8が徐々に収縮するのに伴い、油圧シリンダ8から排出された作動油が第1連通路101を介して油圧シリンダ7に移動する。これにより、油圧シリンダ7は徐々に伸長する。よって、油圧シリンダ7及び油圧シリンダ8は、膝関節部5及び足首関節部6に、使用者の歩行動作に合った動きをさせることができる。したがって、使用者は、油圧義足1を用いて自然な歩行動作をとることができる。
【0123】
また、下腿部材3は、油圧シリンダ7のシリンダ部71(一方の端部)を支持する第1フレーム31と、油圧シリンダ8のシリンダ部81(一方の端部)を支持する第2フレーム32と、第1フレーム31と第2フレーム32との間に設けられる長さ調整部材33aと、を有する。
【0124】
この構成によれば、使用者の反対側の脚の長さに応じて長さ調整部材33aの長さを調整することで、使用者の左右の脚の長さを合わせることができる。また、油圧シリンダ7のシリンダ部71を支持する第1フレーム31と、油圧シリンダ8のシリンダ部81を支持する第2フレーム32とは、長さ調整部材33aを挟んで別々に設けられる。そのため、長さ調整部材33aを調整することで、油圧シリンダ7及び油圧シリンダ8の大きさを変更することなく、下腿部材3の長さだけを変更することができる。
【0125】
また、油圧義足1は、下腿部材3に対して伸展方向に回動するように支持部材2を付勢するコイルばね9と、下腿部材3に対して底屈方向に回動するように足部材4を付勢するコイルばね10と、を備える。
【0126】
この構成によれば、コイルばね9が下腿部材3に対して支持部材2を伸展方向に付勢し、コイルばね10が下腿部材3に対して足部材4を底屈方向に付勢することで、遊脚期に膝関節部5及び足首関節部6を自然な状態に戻すことができる。
【0127】
また、油圧義足1は、油圧シリンダ7が収縮するときに作動油が供給されるロッド側室75と油圧シリンダ8が収縮するときに作動油が供給されるロッド側室85とを連通させる第2連通路102と、第2連通路102と第1連通路101とを連通させる第3連通路103と、第3連通路103に設けられ、第1連通路101から第2連通路102に流れる作動油を絞る絞り弁105と、を備える。
【0128】
この構成によれば、例えば、使用者が階段を降りる場合には、足首関節部6が背屈方向に回動すると共に膝関節部5が屈曲方向に回動する動作が要求される。このような場合に、絞り弁105が設けられることで、油圧シリンダ7のピストン側室74から排出された作動油を、絞り弁105を通じてロッド側室75に供給することができる。よって、平地を歩行する場合だけでなく、階段を昇降する場合にも、使用者は、油圧義足1を用いて自然な歩行動作をとることができる。
【0129】
また、油圧義足1は、油圧シリンダ7が収縮するときに作動油が供給されるロッド側室75と油圧シリンダ8が収縮するときに作動油が供給されるロッド側室85とを連通させる第2連通路102と、第1連通路101と第2連通路102との連通を、油圧シリンダ7のピストン側室74と油圧シリンダ8のロッド側室85とが連通し油圧シリンダ8のピストン側室84と油圧シリンダ7のロッド側室75とが連通するように切り換え可能な切換弁201と、を備える。
【0130】
この構成では、切換弁201は、第1連通路101と第2連通路102との連通を、油圧シリンダ7のピストン側室74と油圧シリンダ8のロッド側室85とが連通し油圧シリンダ8のピストン側室84と油圧シリンダ7のロッド側室75とが連通するように切り換えることができる。これにより、油圧シリンダ7,8を共に伸長させる動作、若しくは油圧シリンダ7,8を共に収縮させる動作が可能になる。
【0131】
また、切換弁201は、第1連通路101の連通及び第2連通路102の連通を共に遮断し、油圧シリンダ7のピストン側室74とロッド側室75とを、若しくは油圧シリンダ8のピストン側室84とロッド側室85とを連通させることが可能である。
【0132】
この構成によれば、第1連通路101の連通及び第2連通路102の連通が共に遮断され、ピストン側室74とロッド側室75とが、若しくはピストン側室84とロッド側室85とが連通するので、油圧シリンダ7,8の一方を伸縮しない状態で保持し、油圧シリンダ7,8の他方を伸縮可能な状態にすることができる。これにより、油圧シリンダ7,8の一方のみを単独で伸長又は収縮させる動作が可能になる。
【0133】
また、油圧義足1は、油圧シリンダ7が収縮するときに作動油が供給されるロッド側室75と油圧シリンダ8が収縮するときに作動油が供給されるロッド側室85とを連通させる第2連通路102と、第1連通路101と第2連通路102との一方と連通するロッド側室305と、第1連通路101と第2連通路102との他方と連通するピストン側室304と、を有する油圧シリンダ307と、を備える。
【0134】
この構成によれば、油圧シリンダ307に油圧エネルギを貯められるので、アキュムレータを設ける必要がない。よって、一対のアキュムレータ106が設けられる油圧回路200と比較して小型化が可能である。
【0135】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0136】
例えば、油圧シリンダ7を、シリンダ部71が支持部材2に取り付けられロッド72が下腿部材3に取り付けられるように配置してもよい。同様に、油圧シリンダ8を、シリンダ部81が足部材4に取り付けられロッド82が下腿部材3に取り付けられるように配置してもよい。
【0137】
この場合、油圧シリンダ7,8では、ロッド72,82が一方の端部に該当し、ロッド側室75,85が一方側圧力室に該当し、ピストン側室74,84が他方側圧力室に該当する。
【0138】
また、歩行補助装置は、油圧義足1に限らず、例えば障害者や高齢者など脚力の弱い使用者が用いるパワーアシスト装置であってもよい。パワーアシスト装置は、歩行動作の負荷を減らすために健常者が用いるものであってもよい。この場合、支持部材2は、使用者の大腿部に沿って設けられて大腿部に外側から取り付けられ、下腿部材3は、使用者の下腿部に沿って設けられて下腿部に外側から取り付けられ、足部材4は、使用者の足に沿って設けられて足に外側から取り付けられる。これにより、使用者の歩行動作を、自然な動きでアシストすることができる。
【0139】
また、本実施形態の油圧回路100,200,300を、使用者の歩行動作の補助ではなく、使用者の腕の動作をアシストするパワーアシスト装置にも適用することができる。この場合、支持部材2に相当する部材が、使用者の上腕部に沿って設けられて上腕部に外側から取り付けられ、下腿部材3に相当する部材が、使用者の前腕部に沿って設けられて前腕部に外側から取り付けられ、足部材4に相当する部材が、使用者の手に沿って設けられて手に外側から取り付けられる。
【符号の説明】
【0140】
1・・・油圧義足(液圧義足,歩行補助装置),2・・・支持部材,3・・・下腿部材,4・・・足部材,7・・・油圧シリンダ(第1液圧シリンダ),8・・・油圧シリンダ(第2液圧シリンダ),9・・・コイルばね(第1付勢部材),10・・・コイルばね(第2付勢部材),31・・・第1フレーム,32・・・第2フレーム,33a・・・長さ調整部材,74・・・ピストン側室(一方側圧力室),75・・・ロッド側室(他方側圧力室),84・・・ピストン側室(一方側圧力室),85・・・ロッド側室(他方側圧力室),102・・・第2連通路,103・・・第3連通路,104・・・逆止弁,105・・・絞り弁,304・・・ピストン側室,305・・・ロッド側室,307・・・油圧シリンダ(第3液圧シリンダ)
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