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特許7390648インターコネクタ部材、および、インターコネクタ部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】インターコネクタ部材、および、インターコネクタ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/021 20160101AFI20231127BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20231127BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20231127BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20231127BHJP
   H01M 8/0236 20160101ALI20231127BHJP
   H01M 8/0245 20160101ALI20231127BHJP
   H01M 8/0247 20160101ALI20231127BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20231127BHJP
   C25D 13/02 20060101ALI20231127BHJP
   C25D 13/00 20060101ALI20231127BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
H01M8/021
H01M8/0215
H01M8/0228
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/0236
H01M8/0245
H01M8/0247
H01M8/0258
C25D13/02 Z
C25D13/00 307Z
C23C28/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019227820
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021096964
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 朋来
(72)【発明者】
【氏名】田中 智雄
(72)【発明者】
【氏名】吉本 修
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 功
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-081804(JP,A)
【文献】特開2017-117743(JP,A)
【文献】特開2020-144985(JP,A)
【文献】特開2018-206693(JP,A)
【文献】特開2017-152282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
C25D 13/00
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeとCrとを含有する金属部材と、
前記金属部材における第1の方向の一方側に配置され、Cr酸化物を含有する第1の被膜層と、
前記第1の被膜層における前記一方側に配置され、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有する第2の被膜層と、を備えるインターコネクタ部材であって、
前記第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2であり、
前記第2の被膜層における前記一方側の部分を外側部分とし、前記第2の被膜層のうちの前記外側部分と前記第1の被膜層との間に位置する部分を内側部分としたとき、
前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面において、前記外側部分における気孔率S1(%)は、前記内側部分における気孔率S2(%)よりも大きい、
ことを特徴とするインターコネクタ部材。
【請求項2】
請求項1に記載のインターコネクタ部材であって、
前記第2の被膜層の前記外側部分に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である、
ことを特徴とするインターコネクタ部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のインターコネクタ部材において、
前記インターコネクタ部材は、電解質層と前記電解質層を挟んで前記第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含み、前記空気極および前記燃料極の少なくとも一方である特定電極の表面に面するガス室が形成された電気化学反応単セルを備える複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、前記金属部材に、前記第1の方向の前記一方に突出する複数の凸部が形成され、前記複数の凸部が前記第1の被膜層および前記第2の被膜層によって覆われており、前記複数の凸部が前記特定電極に接続されることにより前記特定電極に電気的に接続される導電性部材であり、
前記第1の方向における前記一方とは反対の方向を他方とし、前記第1の方向に直交する方向を第2の方向とし、前記第2の被膜層のうち、前記第1の方向における前記金属部材の前記一方側の先端を通る前記第2の方向の仮想直線よりも前記一方に位置する部分を第1の部分とし、前記仮想直線よりも前記他方に位置し、少なくとも一部が前記ガス室に面する部分を第2の部分としたとき、
前記第2の被膜層の前記第1の部分の気孔率Saは、前記第2の被膜層の前記第2の部分の気孔率Sbよりも少ない、
ことを特徴とするインターコネクタ部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のインターコネクタ部材の製造方法であって、
前記金属部材を準備する第1の工程と、
前記金属部材に、泳動電析によりMn酸化物層を形成する第2の工程と、
前記Mn酸化物層に、メッキによりCoを含有するCoメッキ層を形成する第3の工程と、
前記第1の工程、前記第2の工程、および前記第3の工程を経た前記金属部材を焼成することにより、前記金属部材に前記第1の被膜層および前記第2の被膜層を形成する第4の工程と、を備える、
ことを特徴とするインターコネクタ部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のインターコネクタ部材の製造方法であって、
前記第2の工程において、前記金属部材を浸す溶剤として、ケトン類の溶剤を用いる、
ことを特徴とするインターコネクタ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、インターコネクタ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池発電単位(以下、「発電単位」という。)は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)と、インターコネクタ部材とを備える。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向(以下、「第1の方向」という。)に互いに対向する空気極および燃料極とを含む。インターコネクタ部材は、単セルを構成する空気極または燃料極に電気的に接続される。
【0003】
インターコネクタ部材は、FeとCrとを含有する金属(例えば、フェライト系ステンレス)により形成された金属部材を備える。インターコネクタ部材を構成する金属部材に含まれるCrが空気中の酸素と反応すると、金属部材の表面に、Cr酸化物(例えば、Cr(クロミア))を含有する酸化被膜層が形成される。Cr酸化物を含有する酸化被膜層は酸素透過性が低いため、金属部材にとってより好ましくないFeの酸化を抑制する。一方、Cr酸化物を含む酸化被膜層は高い電気抵抗を有するため、該酸化被膜層がさらに成長すると、インターコネクタ部材の電気抵抗が上昇して発電単位の性能が低下するおそれがある。
【0004】
また、インターコネクタ部材を構成する金属部材に含まれるCrが蒸散して単セルの電極に付着すると、電極における反応速度が低下する「Cr被毒」と呼ばれる現象が発生し、単セル(発電単位)の性能が低下するおそれがある。
【0005】
これらのような発電単位の性能低下を抑制するために、インターコネクタ部材を構成する金属部材の表面上(より詳細には、金属部材の表面上に配置された酸化被膜層における金属部材とは反対側の表面上)に、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物(例えば、MnCo)を含有する被膜層(以下、「Mn-Co被膜層」という。)が形成された構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構成のインターコネクタ部材では、Mn-Co被膜層が酸素の透過を抑制するため、酸化被膜層のさらなる成長が抑制され、その結果、インターコネクタ部材の電気抵抗の上昇(すなわち、発電単位の性能低下)を抑制することができる。また、このような構成のインターコネクタ部材では、Mn-Co被膜層が金属部材からのCrの蒸散を抑制するため、単セルのCr被毒の発生が抑制され、その結果、発電単位の性能低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-99159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のインターコネクタ部材においては、例えばインターコネクタ部材の周囲において温度変化が生じると、Mn-Co被膜層(MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有する被膜層)の温度が変化し、これにより、Mn-Co被膜層と、酸化被膜層(Cr酸化物を含有する被膜層)との熱膨張差による応力が生じ、これによりMn-Co被膜層が酸化被膜層から剥離することがある。
【0008】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」ともいう。)の構成単位である電解セル単位を構成するインターコネクタ部材にも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池発電単位と電解セル単位とをまとめて電気化学反応単位と呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単位にも共通の課題である。
【0009】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示されるインターコネクタ部材は、FeとCrとを含有する金属部材と、前記金属部材における第1の方向の一方側に配置され、Cr酸化物を含有する第1の被膜層と、前記第1の被膜層における前記一方側に配置され、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有する第2の被膜層と、を備えるインターコネクタ部材であって、前記第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2であり、前記第2の被膜層における前記一方側の部分を外側部分とし、前記第2の被膜層のうちの前記外側部分と前記第1の被膜層との間に位置する部分を内側部分としたとき、前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面(以下、「特定断面」という。)において、前記外側部分における気孔率S1(%)は、前記内側部分における気孔率S2(%)よりも大きい。
【0012】
これに対し、本インターコネクタ部材では、上述の通り、前記特定断面において、前記第2の被膜層の前記外側部分における気孔率S1(%)は、(前記第2の被膜層の)前記内側部分における気孔率S2(%)よりも大きい。そのため、前記特定断面において、前記第2の被膜層に形成された気孔の存在により、前記第2の被膜層における熱伝導率が低減され、ひいては、前記第2の被膜層の変形(熱膨張および熱収縮)が抑制される。また、前記第2の被膜層に形成された気孔の存在により、前記第2の被膜層の変形(熱膨張および熱収縮)が吸収され、これにより、前記第2の被膜層の変形(熱膨張および熱収縮)が抑制される。そのため、本インターコネクタ部材によれば、前記第2の被膜層と前記第1の被膜層との熱膨張差による応力が生じることに起因する前記第2の被膜層の(前記第1の被膜層からの)剥離を抑制することができる。
【0013】
(2)上記インターコネクタ部材において、前記第2の被膜層の前記外側部分に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である構成としてもよい。本インターコネクタ部材においては、前記第2の被膜層の前記外側部分に存在するMnの物質量が(前記外側部分に存在する)Coの物質量に対して十分多いことにより、前記第2の被膜層における熱伝導率は低下し、また、前記第2の被膜層における電子移動による熱移送は低下する。そのため、本インターコネクタ部材によれば、前記第2の被膜層における熱伝導が抑制され、ひいては前記第2の被膜層と前記第1の被膜層との熱膨張差による応力が生じることに起因する前記第2の被膜層の(前記第1の被膜層からの)剥離をより効果的に抑制することができる。
【0014】
(3)上記インターコネクタ部材において、前記インターコネクタ部材は、電解質層と前記電解質層を挟んで前記第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含み、前記空気極および前記燃料極の少なくとも一方である特定電極の表面に面するガス室が形成された電気化学反応単セルを備える複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、前記金属部材に、前記第1の方向の前記一方に突出する複数の凸部が形成され、前記複数の凸部が前記第1の被膜層および前記第2の被膜層によって覆われており、前記複数の凸部が前記特定電極に接続されることにより前記特定電極に電気的に接続される導電性部材であり、前記第1の方向における前記一方とは反対の方向を他方とし、前記第1の方向に直交する方向を第2の方向とし、前記第2の被膜層のうち、前記第1の方向における前記金属部材の前記一方側の先端を通る前記第2の方向の仮想直線よりも前記一方に位置する部分を第1の部分とし、前記仮想直線よりも前記他方に位置し、少なくとも一部が前記ガス室に面する部分を第2の部分としたとき、前記第2の被膜層の前記第1の部分の気孔率Saは、前記第2の被膜層の前記第2の部分の気孔率Sbよりも少ない構成としてもよい。
【0015】
本インターコネクタ部材では、前記特定断面において、前記第2の被膜層の前記外側部分における気孔率S1(%)は、(前記第2の被膜層の)前記内側部分における気孔率S2(%)よりも大きいことにより、前記第2の被膜層と前記第1の被膜層との熱膨張差による応力が生じることに起因する前記第2の被膜層の(前記第1の被膜層からの)剥離を抑制することができる。ここで、本インターコネクタ部材では、上述した通り、前記第2の被膜層の前記第1の部分の気孔率Saは、前記第2の被膜層の前記第2の部分の気孔率Sbよりも少ない。(少なくとも一部が前記ガス室に面する)前記第2の部分においては、前記ガス室を通るガスの温度変化の影響により、前記第2の被膜層の(前記第1の被膜層からの)剥離が生じやすい。一方で、前記特定電極に接続される前記第2の部分は、前記ガス室に面していない(ごく一部を除く)ため、比較的、前記第2の被膜層の(前記第1の被膜層からの)剥離のおそれは無い。本インターコネクタ部材によれば、前記第2の被膜層のうち、(少なくとも一部が前記ガス室に面する)前記第2の部分の気孔率Sbが比較的多いことにより、上述した前記第2の被膜層の(前記第1の被膜層からの)剥離を抑制する効果を十分に奏しながらも、前記特定電極に接続される前記第2の部分の気孔率Sbが比較的少ないことにより、上記インターコネクタ部材(の前記凸部)と前記特定電極との間において、効率よく電流を流すことができ、ひいては前記電気化学反応セルスタックの性能を向上させることができる。
【0016】
(4)上記インターコネクタ部材の製造方法において、前記金属部材を準備する第1の工程と、前記金属部材に、泳動電析によりMn酸化物層を形成する第2の工程と、前記Mn酸化物層に、メッキによりCoを含有するCoメッキ層を形成する第3の工程と、前記第1の工程、前記第2の工程、および前記第3の工程を経た前記金属部材を焼成することにより、前記金属部材に前記第1の被膜層および前記第2の被膜層を形成する第4の工程と、を備える構成としてもよい。本インターコネクタ部材の製造方法によれば、前記第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2であり、前記特定断面において、前記第2の被膜層の前記外側部分における気孔率S1(%)は、前記内側部分における気孔率S2(%前記Mn酸化物層)よりも大きい構成とされた上記インターコネクタ部材を容易に製造することができる。また、本インターコネクタ部材の製造方法においては、泳動電析により前記Mn酸化物層を形成した後(前記第2の工程)、前記Mn酸化物層に生じた隙間にCoメッキ層を形成するため(前記第3の工程)、前記第2の被膜層と前記第1の被膜層との密着性が良好なものとなり、これにより前記第2の被膜層の(前記第1の被膜層からの)剥離が抑制される。
【0017】
(5)上記インターコネクタ部材の製造方法において、前記第2の工程において、前記金属部材を浸す溶剤として、ケトン類の溶剤を用いる構成としてもよい。そのため、本インターコネクタ部材の製造方法によれば、前記第2の工程の工程において、より効率的に、前記Mn酸化物層を形成することができる。
【0018】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、インターコネクタ部材、インターコネクタ部材と電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)とを備える電気化学反応単位(燃料電池発電単位または電解セル単位)、複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。
図2図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。
図3図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。
図4図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
図5図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
図6図4のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
図7図4のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
図8】本実施形態におけるインターコネクタ複合体200(の空気極側集電体134が形成されている部分)の詳細構成を示す説明図である。
図9】本実施形態におけるインターコネクタ複合体200(のうち、空気極側集電体134が形成されていない部分)の詳細構成を示す説明図である。
図10】本実施形態におけるインターコネクタ複合体200の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図11】本実施形態におけるインターコネクタ複合体200の製造方法の一例の一部を概略的に示す説明図である。
図12】本実施形態におけるインターコネクタ複合体200の製造方法の一例の一部を概略的に示す説明図である。
図13】本実施形態における性能評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.実施形態:
A-1.燃料電池スタック100の構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1(および後述する図6,7)のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1(および後述する図6,7)のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
【0021】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。
【0022】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0023】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0024】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0025】
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0026】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0027】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0028】
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。図5の上部には、発電単位102の一部分のYZ断面構成が拡大して示されている。また、図6は、図4のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図であり、図7は、図4のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【0029】
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0030】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
【0031】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112の上下方向(第1の方向)の一方側(下側)に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112の上下方向の他方側(上側)に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0032】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。すなわち、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0033】
空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄)により形成されている。
【0034】
燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。
【0035】
中間層180は、略矩形の平板形状部材であり、GDC(ガドリニウムドープセリア)を含むように形成されている。中間層180は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO)が生成されることを抑制する。
【0036】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0037】
図4~6に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0038】
図4,5,7に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0039】
図4,5,7に示すように、燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0040】
図4~6に示すように、空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素から構成されており、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、インターコネクタ150からZ軸負方向(Z軸方向の上記一方側(空気極114の側))に突出する凸状に形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接続されている(接している)。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。
【0041】
なお、図4および図5に示すように、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材(以下、「金属部材190」と呼ぶ。)の内、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形状の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形状の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の集電体要素が空気極側集電体134として機能する。
【0042】
図5に示すように、金属部材190の表面上に、Cr酸化物(例えば、Cr(クロミア))を含有する酸化被膜層194が形成されている。また、図4および図5に示すように、金属部材190の表面(より詳細には、金属部材190の表面上に配置された酸化被膜層194における金属部材190とは反対側の表面)は、導電性のMn-Co被膜層196によって覆われている。なお、酸化被膜層194は、特許請求の範囲における第1の被膜層に相当し、Mn-Co被膜層196は、特許請求の範囲における第2の被膜層に相当する。
【0043】
図4および図5に示すように、空気極114と空気極側集電体134とは、導電性の接合部138により接合されている。接合部138は、例えば、スピネル型結晶構造を有する酸化物(例えば、Mn1.5Co1.5やMnCo、ZnCo、ZnMn、ZnMnCoO、CuMn)により形成されている。接合部138により、空気極114と空気極側集電体134とが電気的に接続される。先に、空気極側集電体134は空気極114の表面に接続されている(接している)と説明したが、正確には、空気極側集電体134と空気極114との間には接合部138が介在している。
【0044】
以下の説明では、金属部材190(インターコネクタ150と空気極側集電体134との一体部材)と、金属部材190の表面上に形成された酸化被膜層194と、酸化被膜層194における金属部材190に対向する表面とは反対側の表面上に形成されたMn-Co被膜層196とを、まとめてインターコネクタ複合体200と呼ぶ。インターコネクタ複合体200は、接合部138を介して空気極114に電気的に接続されており、また、燃料極側集電体144を介して燃料極116に電気的に接続されている。インターコネクタ複合体200の構成については、後に詳述する。なお、インターコネクタ複合体200は、特許請求の範囲におけるインターコネクタ部材に相当する。
【0045】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0046】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は接合部138を介してインターコネクタ複合体200(金属部材190、酸化被膜層194、Mn-Co被膜層196の集合体)に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介してインターコネクタ複合体200に電気的に接続されている。すなわち、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0047】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2および図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3および図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0048】
A-3.インターコネクタ複合体200の詳細構成:
図8は、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200(の空気極側集電体134されている部分)の詳細構成を示す説明図である。図8には、図5のX1部の断面構成が拡大して示されている。図9は、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200(のうち、空気極側集電体134が形成されていない部分)の詳細構成を示す説明図である。図8には、図5のX2部の断面構成が拡大して示されている。上述したように、インターコネクタ複合体200は、金属部材190(空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材)と、金属部材190の表面上に配置された酸化被膜層194と、酸化被膜層194における金属部材190とは反対側の表面上に配置されたMn-Co被膜層196とを備える。
【0049】
金属部材190は、Feを主成分として含有すると共に、Crを含有している。なお、本明細書において、主成分とは、最も濃度の高い成分を意味する。なお、本実施形態では、金属部材190は、さらに、その他の元素を含有していてもよい。
【0050】
酸化被膜層194は、Cr酸化物(例えば、Cr(クロミア))を含有している。酸化被膜層194のCr濃度は、金属部材190のCr濃度より高くなっている。酸化被膜層194の厚さは、例えば0.5μm以上であることが好ましい。酸化被膜層194は、酸素透過性が低いため、金属部材190にとってより好ましくないFeの酸化を抑制する。すなわち、酸化被膜層194は、耐酸化性の被膜として機能する。一方、酸化被膜層194は、比較的高い電気抵抗を有するため、例えば燃料電池スタック100の使用に伴い、酸化被膜層194がさらに成長することは好ましくない。
【0051】
Mn-Co被膜層196は、スピネル型結晶構造を有し、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物(例えば、MnCo)を含有する導電性の層である。なお、本実施形態では、Mn-Co被膜層196は、さらに、Niを含有している。Mn-Co被膜層196の厚さは、例えば5μm以上(より好ましくは、8~20μm)であることが好ましい。Mn-Co被膜層196は、酸素の透過を抑制するため、電気抵抗の高い酸化被膜層194の成長を抑制することができ、その結果、インターコネクタ複合体200の電気抵抗の上昇(ひいては、発電単位102の性能低下)を抑制することができる。また、Mn-Co被膜層196は、金属部材190からのCrの蒸散を抑制するため、単セル110の電極(例えば空気極114)のCr被毒の発生を抑制することができ、その結果、発電単位102の性能低下を抑制することができる。
【0052】
Mn-Co被膜層196におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2である。Mn-Co被膜層196におけるMnの濃度とCoの濃度との比が、このような値に設定されているのは、当該比がこのような値から外れた構成においては、金属部材190や酸化被膜層194との熱膨張係数の差が大きくなり、ひいてはMn-Co被膜層196が(酸化被膜層194から)剥離しやすくなるためである。
【0053】
Z軸方向に平行な任意の断面(例えば、図8に示す断面、および図9に示す断面)において、Mn-Co被膜層196におけるZ軸負方向側の部分(以下、「外側部分」という。)197における気孔率S1(%)は、Mn-Co被膜層196のうちの外側部分197と酸化被膜層194との間に位置する部分(以下、「内側部分」という。)198における気孔率S2(%)よりも大きい。なお、「外側部分197における気孔率S1(%)」とは、外側部分197の面積に対する外側部分197に存在する各気孔の面積の合計の割合を意味し、「内側部分198における気孔率S2(%)」とは、内側部分198の面積に対する内側部分198に存在する各気孔の面積の合計の割合を意味する。以下において「気孔率」というときも同様である。
【0054】
図8および図9に示すように、Mn-Co被膜層196のうち、Z軸方向における金属部材190のZ軸負方向側の先端を通るY軸方向(Z軸方向に直交する方向)の仮想直線LよりもZ軸正方向に位置する部分(以下、「第1の部分」という。)1961の気孔率Saは、Mn-Co被膜層196のうち、仮想直線LよりもZ軸負方向に位置する部分(以下、「第2の部分」という。)1962の気孔率Sbよりも少ない。本実施形態では、Mn-Co被膜層196の気孔率は、第1の部分1961の側から第2の部分1962の側に向かうにつれて、グラデーションのように徐々に小さくなっている。
【0055】
外側部分197に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である。なお、外側部分197に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)未満であるとしてもよい。
【0056】
A-4.インターコネクタ複合体200の製造方法:
次に、インターコネクタ複合体200の製造方法について説明する。図10は、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200の製造方法の一例を示すフローチャートである。また、図11および図12は、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200の製造方法の一例を概略的に示す説明図である。
【0057】
はじめに、金属部材190を準備する(S110)。なお、金属部材190の表面の洗浄のために、アセトンを用いた脱脂処理を行ってもよい。なお、本実施形態では、金属部材190に、メッキによりNiを含有するNiメッキ層151を形成する(図11のA)。なお、S110の工程は、特許請求の範囲における第1の工程に相当する。
【0058】
次に、Niメッキ層151に、泳動電析によりMn酸化物層152を形成する(S120、図11のB)。より具体的には、まず、電解槽Ec1を準備する。電解槽Ec1内に、ケトン類の溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン)を含む溶液Es1を入れる。次に、電解槽Ec1内の溶液Es1に、Mn酸化物(例えば、MnO)の粉末を入れる。また、電解槽Ec1内の溶液Es1に、I(ヨウ素)を、入れる(例えば0.6g/L濃度でIを分散させる)。これにより、ケト・エノール互変異性が生じ、プロトン(水素イオン)が生成され、生成されたプロトンはMn酸化物に吸着し、帯電した状態となる。溶液Es1中に、金属部材190と、例えばC(炭素)で形成された電極E1とを入れ、電源P1を用いて、金属部材190と電極E1との間に電圧を印可する(本実施形態では、金属部材190は負極となり、電極E1は正極となる)。これにより、溶液Es1中に電界を生じさせることにより、プロトンが付着したMn酸化物は、Niメッキ層151の側に引き寄せられ、Niメッキ層151に付着する。Niメッキ層151に付着したプロトンは電子を受け取ることによりH(水素)となり、このHがNiメッキ層151から脱離し、Niメッキ層151に、Mn酸化物が残る。これにより、多孔質のMn酸化物層152が形成される。なお、S120の工程は、特許請求の範囲における第3の工程に相当する。
【0059】
次に、Mn酸化物層152に、メッキ(メッキ処理)によりCoを含有するCoメッキ層153を形成する(S130、図12のC,D)。より具体的には、まず、図12のCに示すように、電解槽Ec2内に、Coイオンを含む溶液Es2を準備する。次に、溶液Es2中に、金属部材190と、例えばCoで形成された電極E2とを入れ、電源P2を用いて、金属部材190と電極E2との間に電圧を印可する(本実施形態では、金属部材190は負極となり、電極E2は正極となる)。これにより、溶液Es2中に電界を生じさせる。これにより、Coイオンは、Mn酸化物層152の側に引き寄せられ、(Mn酸化物層152に形成された気孔を埋めるように)Mn酸化物層152に付着する。これにより、Coメッキ層153が形成される。なお、S130の工程は、特許請求の範囲における第3の工程に相当する。なお、図12のDにおいて、符号「152,153」が示す部分のうち、ドット状のハッチングが付されている部分は、Mn酸化物層152に形成された気孔を埋めるCoメッキ層153が比較的少ない(従って、気孔率が比較的高い)部分であり、これに対して、斜線状のハッチングが付されている部分は、Mn酸化物層152に形成された気孔を埋めるCoメッキ層153が比較的多い(従って、気孔率が比較的低い)部分である。
【0060】
次に、S110の工程、S120の工程、およびS130の工程を経た金属部材190(より厳密には、表面に、Niメッキ層151、Mn酸化物層152、およびCoメッキ層153が形成された金属部材190)を焼成することにより、金属部材190に酸化被膜層194およびMn-Co被膜層196を形成する(S140、図12のD)。より具体的には、例えば1000℃以下の所定の温度で所定の時間、熱処理を行う。当該熱処理を行うことにより、金属部材190に含まれるCrが拡散して大気中の酸素と反応する。これにより、金属部材190の表面に、Cr酸化物(例えば、Cr(クロミア))を含む酸化被膜層194が形成される。また、当該熱処理を行うことにより、Coメッキ層153に含まれるCoおよび他の元素(Mn)が拡散して大気中の酸素と反応する。これにより、酸化被膜層194の表面上に、Co酸化物(例えば、MnCo)を含むMn-Co被膜層196が形成される。以上説明した製造方法により、上述した構成のインターコネクタ複合体200が製造される。なお、S140の工程は、特許請求の範囲における第4の工程に相当する。
【0061】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200は、FeとCrとを含有する金属部材190と、金属部材190におけるZ軸負方向側(Z軸方向の一方側)に配置され、Cr酸化物を含有する酸化被膜層194と、酸化被膜層194におけるZ軸負方向側に配置され、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有するMn-Co被膜層196とを備えている。Mn-Co被膜層196におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2である。Z軸方向に平行な任意の断面(例えば、図8に示す断面、および図9に示す断面)において、Mn-Co被膜層196の外側部分197(Mn-Co被膜層196におけるZ軸負方向側の部分)における気孔率S1(%)は、内側部分198(Mn-Co被膜層196のうちの外側部分197と酸化被膜層194との間に位置する部分)における気孔率S2(%)よりも大きい。
【0062】
従来のインターコネクタ部材においては、例えばインターコネクタ部材の周囲(特に、インターコネクタ部材に対してZ軸負方向側)において温度変化が生じると、MnとCoとを含有する被膜層(本実施形態のMn-Co被膜層196に対応。以下、「Mn-Co被膜層」という。)のうちのZ軸負方向側の部分等の温度が変化し、これにより、Mn-Co被膜層と、Cr酸化物を含有する被膜層(本実施形態の酸化被膜層194に対応。以下、「酸化被膜層」という。)との熱膨張差による応力が生じ、これによりMn-Co被膜層が酸化被膜層から剥離することがある。
【0063】
これに対し、本実施形態のインターコネクタ複合体200では、上述の通り、Z軸方向に平行な任意の断面において、Mn-Co被膜層196の外側部分197における気孔率S1(%)は、(Mn-Co被膜層196の)内側部分198における気孔率S2(%)よりも大きい。そのため、Z軸方向に平行な任意の断面において、Mn-Co被膜層196に形成された気孔の存在により、Mn-Co被膜層196における熱伝導率が低減され、ひいては、Mn-Co被膜層196の変形(熱膨張および熱収縮)が抑制される。また、Mn-Co被膜層196に形成された気孔の存在により、Mn-Co被膜層196の変形(熱膨張および熱収縮)が吸収され、これにより、Mn-Co被膜層196の変形(熱膨張および熱収縮)が抑制される。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、Mn-Co被膜層196と酸化被膜層194との熱膨張差による応力が生じることに起因するMn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離を抑制することができる。
【0064】
なお、Mn-Co被膜層196と酸化被膜層194との熱膨張差による応力が生じることに起因するMn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離を抑制する観点から、Mn-Co被膜層196の外側部分197における気孔率S1(%)は、20%以上(より好ましくは、30%以上)であることが好ましい。また、Mn-Co被膜層196の外側部分197における気孔率S1(%)と、内側部分198おける気孔率S2(%)との差は、10%以上(より好ましくは、20%以上)であることが好ましい。
【0065】
また、本実施形態のインターコネクタ複合体200では、Mn-Co被膜層196の外側部分197に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200においては、Mn-Co被膜層196の外側部分197に存在するMnの物質量が(外側部分197に存在する)Coの物質量に対して十分多いことにより、Mn-Co被膜層196における熱伝導率は低下し、また、Mn-Co被膜層196における電子移動による熱移送は低下する。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、Mn-Co被膜層196における熱伝導が抑制され、ひいてはMn-Co被膜層196と酸化被膜層194との熱膨張差による応力が生じることに起因するMn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離をより効果的に抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態のインターコネクタ複合体200は、電解質層112と電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114と燃料極116とを含み、空気極114の表面に面する空気室166(および燃料極116の表面に面する燃料室176)が形成された単セル110を備える複数の(本実施形態では7つの)発電単位102を備える燃料電池スタック100において、金属部材190に、Z軸負方向(Z軸方向の上記一方側)に突出する複数の空気極側集電体134が形成され、当該複数の空気極側集電体134が酸化被膜層194およびMn-Co被膜層196によって覆われており、当該複数の空気極側集電体134が空気極114に接続されることにより、空気極114に電気的に接続される導電性部材である。Mn-Co被膜層196の第1の部分1961(Mn-Co被膜層196のうち、Z軸方向における金属部材190のZ軸負方向側の先端を通るY軸方向(Z軸方向に直交する方向)の仮想直線LよりもZ軸正方向に位置する部分)の気孔率Saは、Mn-Co被膜層196の第2の部分1962(仮想直線LよりもZ軸負方向に位置する部分)の気孔率Sbよりも少ない。
【0067】
本実施形態のインターコネクタ複合体200では、Z軸方向に平行な任意の断面において、Mn-Co被膜層196の外側部分197における気孔率S1(%)は、(Mn-Co被膜層196の)内側部分198における気孔率S2(%)よりも大きいことにより、Mn-Co被膜層196と酸化被膜層194との熱膨張差による応力が生じることに起因するMn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離を抑制することができる。ここで、本実施形態のインターコネクタ複合体200では、上述した通り、Mn-Co被膜層196の第1の部分1961の気孔率Saは、Mn-Co被膜層196の第2の部分1962の気孔率Sbよりも少ない。(少なくとも一部が空気室166に面する)第2の部分1962においては、空気室166を通るガス(酸化剤ガスOG)の温度変化の影響により、Mn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離が生じやすい。一方で、空気極114に接続される第2の部分1962は、空気室166に面していない(ごく一部を除く)ため、比較的、Mn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離のおそれは無い。本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、Mn-Co被膜層196のうち、(少なくとも一部が空気室166に面する)第2の部分1962の気孔率Sbが比較的多いことにより、上述したMn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離を抑制する効果を十分に奏しながらも、空気極114に接続される第2の部分1962の気孔率Sbが比較的少ないことにより、インターコネクタ複合体200(の空気極側集電体134)と空気極114との間において、効率よく電流を流すことができ、ひいては燃料電池スタック100の発電性能を向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法は、金属部材190を準備する工程(S110)と、金属部材190に、泳動電析によりMn酸化物層を形成する工程(S120)と、Mn酸化物層152に、メッキによりCoを含有するCoメッキ層を形成する工程(S130)と、S110の工程、S120の工程、およびS130の工程を経た金属部材190を焼成することにより、金属部材190に酸化被膜層194およびMn-Co被膜層196を形成する工程(S140)とを備える。本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法によれば、Mn-Co被膜層196におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2であり、Z軸方向に平行な任意の断面において、Mn-Co被膜層196の外側部分197における気孔率S1(%)は、内側部分198における気孔率S2(%)よりも大きい構成とされたインターコネクタ複合体200を容易に製造することができる。また、本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法においては、泳動電析によりMn酸化物層152を形成した後(S120)、Mn酸化物層152に生じた隙間にCoメッキ層153を形成するため(S130)、Mn-Co被膜層196とMn酸化物層152との密着性が良好なものとなり、これによりMn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離が抑制される。
【0069】
また、本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法では、S120の工程において、金属部材190を浸す溶剤として、ケトン類の溶剤を用いる。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法によれば、S120の工程において、より効率的に、Mn酸化物層152を形成することができる。
【0070】
A-6.性能評価:
インターコネクタ複合体200のサンプルを作製し、該サンプルを用いて性能評価を行った。図13は、本実施形態における性能評価結果を示す説明図である。なお、図13の「気孔率の勾配」とは、外側部分197における気孔率S1(%)が内側部分198における気孔率S2(%)よりも大きいことを意味し、「外側部分197におけるMnの物質量の割合」とは、外側部分197に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合を意味する。
【0071】
A-6-1.各サンプルについて:
図13に示すように、本性能評価には、4つのサンプル(サンプルSp1、Sp2、Sp3)を用いた。
【0072】
サンプルSp1およびサンプルSp2は、上述した本実施形態のインターコネクタ複合体200のサンプルである。サンプルSp1においては、外側部分197に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合が60atm%以上(より具体的には、70atm%)であるのに対し、サンプルSp2においては、サンプルSp1に対して、当該割合が60atm%未満(より具体的には、50atm%)である点のみ異なっている。サンプルSp1およびサンプルSp2では、Z軸方向に平行な任意の断面(例えば、図8に示す断面、および図9に示す断面)において、Mn-Co被膜層196の外側部分197(Mn-Co被膜層196におけるZ軸負方向側の部分)における気孔率S1(%)は、内側部分198(Mn-Co被膜層196のうちの外側部分197と酸化被膜層194との間に位置する部分)における気孔率S2(%)よりも大きい。より具体的には、本性能評価では、サンプルSp1およびサンプルSp2として、Mn-Co被膜層196の外側部分197における気孔率S1(%)が30%以上であり、外側部分197における気孔率S1(%)と、内側部分198おける気孔率S2(%)との差が10%以上(より具体的には、20%)であるものを用いた。より具体的には、サンプルSp1及びサンプルSp2について、外側部分197における気孔率S1は30%であり、内側部分198における気孔率S2は10%であった。
【0073】
サンプルSp3は、比較例のインターコネクタ複合体のサンプルである。サンプルSp3のインターコネクタ複合体は、Mn-Co被膜層196の気孔率が均一である(外側部分197における気孔率S1(%)と、内側部分198おける気孔率S2(%)との差が10%未満である。)構成とされた点がサンプルSp1およびサンプルSp2(本実施形態)のインターコネクタ複合体200と異なる。より具体的には、サンプルSp3について、外側部分197における気孔率S1は20%であり、内側部分198における気孔率S2は15%であった。サンプルSp3の外側部分のMnの物質量は、60atm%以上(より具体的には、70atm%)であった。
【0074】
A-6-2.評価方法および評価結果:
大気雰囲気で、室温および900℃の各温度における1時間の保持について、100℃/時間の昇温速度及び100℃/時間の降温速度で、繰り返し熱サイクル試験を10回行った。その後、上記の各サンプル(サンプルSp1、Sp2、Sp3)に対して900℃大気中において、一定の電流(例えば、0.5A/cm)を流し、電気抵抗(接触抵抗)(Ωcm)を測定した。10回の熱サイクル試験後の900℃大気雰囲気における電気抵抗値が小さいほど、高い評価である(Mn-Co被膜層196の剥離が抑制された)と判定した。具体的には、電気抵抗値が2.0Ωcm以下であれば「◎」、電気抵抗値が2.0Ωcmより大きく、かつ3.0Ωcm以下であれば「○」、電気抵抗値の上昇値が3.0Ωcmより大きければ「×」と判定した。「◎」か「○」である場合は「合格」と判定し、「×」である場合は「不合格」と判定した。
【0075】
サンプルSp3では、電気抵抗値は、3.0Ωcmよりも大きかった。従って、サンプルSp3のインターコネクタ複合体についての評価は、「×」であった。従って、サンプルSp3のインターコネクタ複合体の評価結果は、「不合格」とされた。
【0076】
サンプルSp1では、電気抵抗値は、2.0Ωcm以下であった。サンプルSp1のインターコネクタ複合体200についての評価は、「◎」であった。従って、サンプルSp1のインターコネクタ複合体200の評価結果は、「合格」とされた。
【0077】
また、サンプルSp2のインターコネクタ複合体200では、電気抵抗値は、2.0Ωcmより大きく、かつ3.0Ωcm以下であった。従って、サンプルSp2のインターコネクタ複合体200についての評価は、「○」であった。従って、サンプルSp2のインターコネクタ複合体200の評価結果は、「合格」とされた。
【0078】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0079】
上記実施形態における単セル110、発電単位102または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0080】
また、上記実施形態では、S130の工程において、泳動電析により、Mn酸化物層152を形成するとしているが、その他の手法(例えば、泳動電着、電着塗装、または電気泳動堆積(electrophoretic deposition:EPD)法)により、Mn酸化物層152を形成するとしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、S130の工程において、金属部材190を浸す溶剤として、ケトン類の溶剤を用いるとしているが、その他の溶剤(例えば、エタノールに塩酸を入れた溶剤)用いるとしてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、インターコネクタ150と空気極側集電体134とが一体部材(金属部材190)であるとしているが、インターコネクタ150と空気極側集電体134とが別部材であってもよい。その場合において、本発明は、インターコネクタ150または空気極側集電体134と、酸化被膜層194とMn-Co被膜層196とから構成されるインターコネクタ部材にも適用可能である。
【0083】
また、上記実施形態では、空気極側集電体134が接合部138を介して空気極114に接しているが、空気極側集電体134が接合部138を介さずに空気極114に接しているとしてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位および電解セルスタックにおいても、上述した構成のインターコネクタ複合体200を採用することにより、Cr-Mn反応層の存在に起因する初期の電気抵抗の増大が抑制される。従って、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、より効率的に電流を流すことができる。
【0085】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104:エンドプレート 106:エンドプレート 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 124:接合部 130:空気極側フレーム 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 138:接合部 140:燃料極側フレーム 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 149:スペーサー 150:インターコネクタ 151:Niメッキ層 152:Mn酸化物層 153:Coメッキ層 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:中間層 190:金属部材 194:酸化被膜層 196:Mn-Co被膜層 200:インターコネクタ複合体 E1:電極 E2:電極 Ec1:電解槽 Ec2:電解槽 Es1:溶液 Es2:溶液 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス P1:電源 P2:電源
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
図11
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図13