(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】被処理物の調製方法並びに粉粒体の処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20231127BHJP
B09C 1/00 20060101ALI20231127BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20231127BHJP
B03C 1/015 20060101ALI20231127BHJP
B03C 1/16 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
G21F9/28 Z
B09C1/00 ZAB
B03C1/00 B
B03C1/015
B03C1/16
(21)【出願番号】P 2020017589
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019021340
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507234438
【氏名又は名称】広島県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】三苫 好治
(72)【発明者】
【氏名】石渡 寛之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 将義
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-167829(JP,A)
【文献】特開2004-098032(JP,A)
【文献】特開2005-137973(JP,A)
【文献】特開2005-334737(JP,A)
【文献】特開2007-000682(JP,A)
【文献】特開2017-039123(JP,A)
【文献】特開2017-105688(JP,A)
【文献】特開2017-113744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0231353(US,A1)
【文献】国際公開第2011/052205(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/012081(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/168048(WO,A1)
【文献】田尻雄大 ほか,フェライト法と磁気分離を用いた重金属汚染土の不溶化及び浄化効果,土木学会西部支部研究発表会,日本,土木学会,2008年03月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
B09C 1/00
B03C 1/00
B03C 1/015
B03C 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を磁力選別可能に調製する方法であって、
前記被処理物が粉粒体であり、
前記粉粒体と2価の鉄イオンと3価の鉄イオンとが共存した状態でこれを
200℃以上300℃以下の温度で加熱する加熱工程を含み、
前記2価の鉄イオンは、2価の鉄イオンを含有する水溶液として与えられ、
前記粉粒体の表面に磁性物質を生成・吸着させることを特徴とする被処理物の調製方法。
【請求項2】
前記3価の鉄イオンは、前記粉粒体に含まれる鉄成分に由来のもの及び/又は前記水溶液に含まれる2価の鉄イオンからの化学変化によるものであることを特徴とする請求項1に記載の被処理物の調製方法。
【請求項3】
前記3価の鉄イオンが、3価の鉄イオンを含有する水溶液として与えられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の被処理物の調製方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の被処理物の調製方法において、前記2価の鉄イオンを含有する水溶液はアルカリ剤を含有し、
又は請求項3に記載の被処理物の調製方法において、前記2価の鉄イオンを含有する水溶液及び/又は3価の鉄イオンを含有する水溶液はアルカリ剤を含有することを特徴とする被処理物の調製方法。
【請求項5】
前記粉粒体が有機物を含み、
前記有機物は、前記加熱工程で炭化され、炭化物の表面に前記磁性物質が生成・吸着することを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の被処理物の調製方法。
【請求項6】
前記2価の鉄イオンを含有する水溶液及び/又は3価の鉄イオンを含有する水溶液、又はこれらにアルカリ剤を含有する水溶液を薬剤としたとき、下記(A)群の1つ以上を制御することにより前記粉粒体の表面に生成・吸着させる磁性物質の磁着力を制御することを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の被処理物の調製方法。
(A)2価の鉄イオン濃度,2価の鉄イオンに対する3価の鉄イオンの割合,アルカリ剤の種類,アルカリ剤の濃度,薬剤の添加量,粉粒体と薬剤との混合物に対する撹拌強度,薬剤添加後の静置時間,加熱温度,加熱時間,昇温速度,水溶液のアニオンの種類
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の被処理物の調製方法により得られる被処理物を磁力選別により分級する分級工程を備
え、
前記粉粒体が土壌
、焼却灰、汚泥、有機物、これら混合物、又はこれらに汚染物質が固着、吸着又は付着したものであることを特徴とする粉粒体の処理方法。
【請求項8】
少なくとも2価の鉄イオンを含有する水溶液を含む薬剤と被処理物である粉粒体とを共存下で加熱し、前記粉粒体の表面に磁性物質を生成・吸着させる反応装置と、前記反応装置に前記薬剤を供給する薬剤供給装置と、を備える被処理物の調製装置と、
前記被処理物の調製装置を介して得られる被処理物を磁力選別する磁選機と、
を含み、
前記粉粒体が土壌
、焼却灰、汚泥、有機物、これら混合物、又はこれらに汚染物質が固着、吸着又は付着したものであることを特徴とする粉粒体の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質に汚染された土壌など粉粒体の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災に端を発する福島第一原発事故により、原発周辺地域への放射性物質(特に放射性セシウム、以降、放射性Cs)の飛散が深刻な環境問題を引き起こした。原発から放出した放射性Csは降雨により土壌に沈着し,それらは、(I)フミン物質や土壌粒子表面にイオン吸着、あるいは(II)2:1型粘土内部に捕捉された形態をとった。近年(I)の吸着形態にある放射性Csも、その多くは形態(II)として安定化され、仮置き場の汚染土壌(概算2,200万トン,うち2/3が農地土壌)を中間貯蔵施設に全て持ち込むことは非現実的と考えられ、今後、形態(II)の汚染土壌に対する小型化可能な減容化技術の開発が急務となっている。
【0003】
このようななか、事故後の除染技術の開発動向は3つに大別される。第1区分として「抽出/吸着法」系区分がある。最近では上記形態(II)の割合が増し,放射性Csの抽出が極めて困難となったため、亜臨界状態で土壌解砕を行い、溶存態Csを抽出分離する技術も開発された。しかしながら、亜臨界法は回分式のために十分な処理量を稼げない等課題がある。
【0004】
一方で、土壌粒子に吸着した放射性Csを土壌微粒子ごと取り除く技術が先行している。なかでも「マイクロバブル浮選/分級法」がその代表例である(第2区分)。最近、より高度な懸濁水処理技術として、超電導磁気分離法による廃水中の土壌微粒子の分離技術も提案されている。これらは、大掛かりな廃水処理がプロセス下流に必須であることや根毛を多く含む農地土壌の処理に不向きであり、後者はコストや処理量に課題がある。
【0005】
第3区分に「加熱分離」あるいは「熱減容」処理のような乾式処理が挙げられる。例えば、黒雲母を主成分とする汚染土に土量と1/2~等量のCaCl2を加え、2時間、800℃弱の温度で加熱を行い、塩化Csとし分離する方法がある。この方法にも廃棄物量が多い等の技術課題がある。
【0006】
上記除染技術とは異なり、無廃水かつ常温で乾式土壌を分級し除染する方法がある(例えば特許文献1、2参照)。この方法は、汚染土壌と強磁性粉末とを混合し、これを磁選することで汚染土壌を分級するものである。放射性Csに汚染された土壌は、粒度の小さいものほど放射性Csの濃度が高いため、粒度の小さい汚染土壌を取り除くことで除染できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-39123号公報
【文献】特開2017-113744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1あるいは特許文献2に記載された方法は、廃水等を含め余分な廃棄物が新たに発生することもなく、また簡便で優れた方法と考えられるが、この方法は乾式ゆえに粉じんを生じやすくその対策が必要となる。また汚染土壌には、木くず、根毛等が含まれているためこれらの処理も必要となる。
【0009】
本発明の目的は、余分な廃棄物を発生させることなく簡単な操作で安価に実施可能な粉粒体の処理方法及び装置、その粉粒体の処理方法で使用可能な被処理物の調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、被処理物を磁力選別可能に調製する方法であって、前記被処理物が粉粒体であり、前記粉粒体と2価の鉄イオンと3価の鉄イオンとが共存した状態でこれを200℃以上300℃以下の温度で加熱する加熱工程を含み、前記2価の鉄イオンは、2価の鉄イオンを含有する水溶液として与えられ、前記粉粒体の表面に磁性物質を生成・吸着させることを特徴とする被処理物の調製方法である。
【0011】
本発明の被処理物の調製方法において、前記3価の鉄イオンは、前記粉粒体に含まれる鉄成分に由来のもの及び/又は前記水溶液に含まれる2価の鉄イオンからの化学変化によるものであることを特徴とする。
【0012】
本発明の被処理物の調製方法において、前記3価の鉄イオンが、3価の鉄イオンを含有する水溶液として与えられることを特徴とする。
【0013】
本発明の被処理物の調製方法において、前記2価の鉄イオンを含有する水溶液はアルカリ剤を含有し、又は本発明の被処理物の調製方法において、前記2価の鉄イオンを含有する水溶液及び/又は3価の鉄イオンを含有する水溶液はアルカリ剤を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の被処理物の調製方法において、前記粉粒体が有機物を含み、前記有機物は、前記加熱工程で炭化され、炭化物の表面に前記磁性物質が生成・吸着することを特徴とする。
【0016】
本発明の被処理物の調製方法において、前記2価の鉄イオンを含有する水溶液及び/又は3価の鉄イオンを含有する水溶液、又はこれらにアルカリ剤を含有する水溶液を薬剤としたとき、下記(A)群の1つ以上を制御することにより前記粉粒体の表面に生成・吸着させる磁性物質の磁着力を制御することを特徴とする。
(A)2価の鉄イオン濃度,2価の鉄イオンに対する3価の鉄イオンの割合,アルカリ剤の種類,アルカリ剤の濃度,薬剤の添加量,粉粒体と薬剤との混合物に対する撹拌強度,薬剤添加後の静置時間,加熱温度,加熱時間,昇温速度,水溶液のアニオンの種類
【0017】
本発明は、前記被処理物の調製方法により得られる被処理物を磁力選別により分級する分級工程を備え、前記粉粒体が土壌、焼却灰、汚泥、有機物、これら混合物、又はこれらに汚染物質が固着、吸着又は付着したものであることを特徴とする粉粒体の処理方法である。
【0019】
本発明は、少なくとも2価の鉄イオンを含有する水溶液を含む薬剤と被処理物である粉粒体とを共存下で加熱し、前記粉粒体の表面に磁性物質を生成・吸着させる反応装置と、前記反応装置に前記薬剤を供給する薬剤供給装置と、を備える被処理物の調製装置と、前記被処理物の調製装置を介して得られる被処理物を磁力選別する磁選機と、を含み、前記粉粒体が土壌、焼却灰、汚泥、有機物、これら混合物、又はこれらに汚染物質が固着、吸着又は付着したものであることを特徴とする粉粒体の処理装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、余分な廃棄物を発生させることなく簡単な操作で安価に実施可能な粉粒体の処理方法及び装置、その粉粒体の処理方法で使用可能な被処理物の調製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の一形態としての粉粒体の処理方法を説明するフロー図である。
【
図2】本発明の実施の一形態としての粉粒体の処理装置1の構成図である。
【
図3】本発明の実施例で実施した磁力選別の要領を示す模式図である。
【
図4】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときのFeCl
2・4H
2Oの添加量と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図5】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときのFeCl
3の添加量と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図6】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときのアルカリ剤の種類と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図7】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときのNaOHの添加量と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図8】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときの薬剤の添加順と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図9】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときの薬剤の添加量と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図10】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときの撹拌手段と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図11】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときの薬剤添加後加熱操作前の放置時間と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図12】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときの加熱温度と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図13】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときの加熱時間と磁着率との関係を示す実験データである。
【
図14】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときの昇温速度と磁着率との関係を示す実験データである。
【
図15】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときのカウンターアニオンの種類と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図16】本発明の粉粒体の処理方法における真砂土を供試土壌としたときのFe
2+添加量と磁着率増加比との関係を示す実験データである。
【
図17】本発明の粉粒体の処理方法における供試土壌である黒土の加熱前後の粒度分布測定結果である。
【
図18】本発明の粉粒体の処理方法における黒土を供試土壌としたときのFeCl
2・4H
2Oの添加量と磁着増加率との関係を示す実験データである。
【
図19】本発明の粉粒体の処理方法における黒土を供試土壌としたときのNaOHの添加量と磁着増加率との関係を示す実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の一形態としての粉粒体の処理方法を説明するフロー図である。本発明の粉粒体の処理方法は、前段と後段との2つの工程に大別できる。前段は、被処理物である粉粒体(粉粒状物)を磁力選別可能に調製する工程(ステップS1)であり、後段は、前段で磁力選別可能に調製された粉粒体を磁力選別し磁着物と非磁着物とに選別する磁力選別工程(ステップS2)である。
【0025】
粉粒体を磁力選別可能に調製する工程は、具体的には粉粒体の表面に磁石に吸着可能な磁性物質を生成・吸着させる工程(磁性物質生成吸着工程)であり、粉粒体に薬剤を添加する薬剤添加工程(ステップS1-a)と、薬剤と粉粒体との混合物を加熱する加熱工程(ステップS1-b)とを含む。
【0026】
本処理方法において、被処理物である粉粒体は特に限定されるものではなく、粉粒体としては土壌、焼却灰、汚泥、これら混合物、さらにこれらに汚染物質が固着、吸着又は付着するものが挙げられる。汚染物質としては、重金属、ダイオキシン類、PCB、農薬など残留性有機汚染物質(POPs)、放射性物質等が挙げられる。放射性物質も特定の物質に限定されるものではなく、セシウムCs、プルトニウムPu、ウランU、ラジウムRaなど幅広い放射性物質を対象とすることができる。
【0027】
汚染物質が主として土壌の表面に固着、吸着又は付着した汚染土壌は、通常、粒径の小さい物ほど汚染物質の濃度が高くなる(例えば特許第5313387号公報の明細書に記載の表1参照)。これは粒径の小さい土壌ほど比表面積が大きいことによる。本処理方法は、後述のように磁力選別により汚染土壌を分級できるため、高濃度の汚染土壌を分離し、除染することができる。
【0028】
粉粒体の粒径は、特に限定されるものではないが、本処理方法は、篩分けが難しい粉粒体の処理に好適に使用することができる。粉粒体の含水率も特に限定されるものではない。絶乾状態、水分を含む粉粒体であってもそのまま処理することができる。水分が多くても加熱工程で加熱され水分は蒸発するが、水分が多いほどそれを蒸発させるに必要なエネルギーが多くなるため粉粒体に含まれる水分は少ない方がよい。粉粒体に対して脱水操作が可能であれば予め脱水操作を行い、含水率を低下させておくことが好ましい。
【0029】
粉粒体の中には、塊状となったものが含まれる場合もある。後述の実施例に示すように粉粒体と薬剤との混合物に対して撹拌操作を行うと磁力選別工程において磁着率が低下し、撹拌強度が大きい程磁着率は低くなった。このことからこのような塊状物は、前段階で解砕しておくことが好ましい。
【0030】
また塊状物を解砕する際は、塊状物以外の粉粒体が破砕されないように行うのがよい。上記のように汚染物質が主として土壌の表面に固着、吸着又は付着した汚染土壌は、粒径が大きいものほど相対的に汚染物質の濃度が低い。このような粒径の大きい汚染土壌が粉砕されると、汚染濃度の低い粒径の小さい汚染土壌が生成するため除染効率が低下する。
【0031】
また粉粒体には、植物、木の葉、木くず、根毛などの有機物を含むものもあるがこのような粉粒体も本処理方法で処理可能である。本実施形態の粉粒体の処理方法は、加熱工程を備えるので、この加熱工程で有機物は炭化物になる。
【0032】
本発明では、磁性物質の生成に2価の鉄イオンFe2+と3価の鉄イオンFe3+とを使用する。2価の鉄イオンFe2+は、薬剤として供給するが、3価の鉄イオンFe3+の供給態様は複数ある。このため3価の鉄イオンFe3+の供給態様により使用する薬剤が異なる。
【0033】
具体的には、3価の鉄イオンFe3+が被処理物である粉粒体から得られるとき及び/又は薬剤として供給した2価の鉄イオンFe2+の一部が化学変化し3価の鉄イオンFe3+になる場合には、薬剤として2価の鉄イオンFe2+を含む水溶液を使用する。3価の鉄イオンFe3+が被処理物である粉粒体から得られないとき及び/又は薬剤として供給した2価の鉄イオンFe2+から所定量の3価の鉄イオンFe3+が得られないときには、薬剤として2価の鉄イオンFe2+、3価の鉄イオンFe3+を含む水溶液を使用する。
【0034】
2価の鉄イオンFe2+を含む水溶液及び3価の鉄イオンFe3+を含む水溶液は特に限定されるものではないが、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む水溶液が好ましい。2価の鉄イオンFe2+を含む薬剤としては、FeCl2・4H2Oの他にFeSO4・7H2O,Fe(NH4)2(SO4)2・6H2O等がある。これら鉄塩は、水に対する溶解度、さらに単価も異なる。FeCl2・4H2Oは、他の鉄塩に比較して溶解度が大きいため濃度調整が容易であり、単価も低く好ましい。
【0035】
2価の鉄イオンFe2+及び/又は3価の鉄イオンFe3+の濃度は、粉粒体の表面に生成・吸着する磁性物質の磁着力に影響を与える。後述の実施例に示すように水溶液中の2価の鉄イオンFe2+が特定の濃度のときに磁着率がピークとなった。一方、3価の鉄イオンFe3+の濃度と磁着率増加比との関係では、3価の鉄イオンFe3+の濃度が高いほど磁着率が低下した。
【0036】
粉粒体の表面に生成・吸着する磁性物質の磁着力は、磁性物質の粒子径、凝集性、さらには生成・吸着量に相関するため、2価の鉄イオンFe2+及び/又は3価の鉄イオンFe3+の濃度によりこれらが変化することが考えられる。以上のことから水溶液中の2価の鉄イオンFe2+の濃度、3価の鉄イオンFe3+の濃度、2価の鉄イオンFe2+と3価の鉄イオンFe3+との割合を調整することで所望の磁着率を得ることができる。
【0037】
粉粒体に対する薬剤の添加量、つまり2価の鉄イオンFe2+及び/又は3価の鉄イオンFe3+の添加量も磁着率に大きく影響する。後述の実施例に示すように磁着率は、薬剤の添加量に比例して大きくなった。これは2価の鉄イオンFe2+及び/又は3価の鉄イオンFe3+の添加量に比例して磁性物質の生成・吸着量さらには磁着力が大きくなることを示していると言える。以上のことから粉粒体に対する薬剤の添加量を調整することで所望の磁着率を得ることができる。薬剤の添加量と土壌の種類との関係では、後述の実施例から判断して、土壌に含まれる有機物の含有量が多いほど薬剤の添加量を多くする必要がある。
【0038】
さらに薬剤添加工程において、薬剤としてpH調整剤を添加する。ここでpH調整剤はアルカリ剤であり、水溶液状態で添加される。アルカリ剤は、特に限定されるものではないが、後述の実施例に示すように磁着率を大きくすることができる点、単価、入手の容易性等を考慮すれば水酸化ナトリウムNaOHが好ましい。アルカリ剤の添加量は、後述の実施例に示すように磁着率に大きく影響する。以上のことからアルカリ剤の種類及び添加量を調整することで所望の磁着率を得ることができる。
【0039】
3価の鉄イオンFe3+を薬剤として供給する場合、以下の方法が考えられる。水に所定量の2価の鉄塩及びアルカリ剤を加え調整した2価の鉄イオンFe2+を含む水溶液と、水に所定量の3価の鉄塩及びアルカリ剤を加え調整した3価の鉄イオンFe3+を含む水溶液とを別々に調整し、これらを別々に加える。またはこれら2つの水溶液を予め混合した上で粉粒体に添加する。さらには水に所定量の2価の鉄塩、3価の鉄塩及びアルカリ剤を加え調整した2価の鉄イオンFe2+及び3価の鉄イオンFe3+を含む水溶液を粉粒体に添加する。
【0040】
後述の実施例に記載のように2価の鉄イオンFe2+を含む水溶液と3価の鉄イオンFe3+を含む水溶液とを別々に添加する方法は、2価の鉄イオンFe2+と3価の鉄イオンFe3+とを一緒に添加する方法に比較して磁着率が低かった。また粉粒体に薬剤を添加した後の混合を考慮すれば、3価の鉄イオンFe3+を薬剤として供給するときには、2価の鉄イオンFe2+と3価の鉄イオンFe3+とを一緒に添加するのがよい。
【0041】
粉粒体に添加する薬剤の液量は、粉粒体の表面に液が僅かに浮くくらいが好ましい。換言すれば、被処理物である粉粒体に薬剤を添加したとき、粉粒体が全て液中に浸かるのが好ましい。このようにすれば粉粒体と薬剤とを確実に接触させることができ、特に撹拌操作を行う必要がない。一方で添加する薬剤の液量を必要以上に多くしても、水分は加熱工程で蒸発させるため不経済である。
【0042】
粉粒体に添加する薬剤の液量を少なくした場合には、薬剤と粉粒体とを均一化するための撹拌混合操作が必要となる。この撹拌混合操作は、薬剤添加と並行して行っても、薬剤添加後に行っても、あるいは加熱工程で行ってもよい。撹拌混合に使用する装置、撹拌方法は特に限定されるものではないが、撹拌操作により粉粒体が粉砕されないように、また発塵しないようにするのがよい。
【0043】
加熱工程(ステップS1-b)は、薬剤と粉粒体との混合物を加熱する工程である。後述の実施例に示すように加熱温度に比例して磁着率が増加するが、300℃を超えると逆に低下する。また加熱温度が350℃を超えるとダイオキシンの再合成が懸念される。これらから加熱温度は200℃以上300℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以上300℃以下であり、250℃前後の温度がさらに好ましい。加熱温度が350℃以下であれば、マグネタイトの磁性喪失の心配はない(キュリー点:858K)。
【0044】
加熱工程における加熱操作は特に限定されるものではないが、粉粒体に薬剤を添加した後、加熱開始までの静置時間(放置時間)、室温から所定の加熱温度に達するまでの昇温速度、所定の加熱温度に達した後の加熱温度を保持する時間(加熱時間)により磁着率が異なる。後述の実施例に示すように静置時間を長くし、あるいは昇温速度を大きくすると磁着率は低下した。加熱時間が30min以上であれば加熱時間によらず磁着率はほぼ一定であった。以上のことから加熱操作において、粉粒体に薬剤を添加した後加熱開始までの静置時間(放置時間)、昇温速度、加熱時間を調整することで磁着率を調節することができる。
【0045】
加熱工程において温度の均一化、水分の除去、さらには粉粒体の凝集を防ぐ観点から撹拌混合操作を併用するのが好ましい。ここでも粉粒体が粉砕されないように撹拌混合するのがよい。加熱工程における加熱温度・加熱時間は、基本的に磁性物質の磁着力が所望の値となるように設定されるが、粉粒体に有機物が含まれる場合、この有機物が炭化され、この炭化物の表面に磁性物質が生成・吸着するように加熱温度・加熱時間を決定するのが好ましい。
【0046】
粉粒体の表面に生成・吸着する磁性物質の粒径・分散性は、加熱工程における温度、時間のみならず反応場の雰囲気、具体的には反応場が酸化性雰囲気か還元性雰囲気かに影響を受ける。これは2価の鉄イオンFe2+が酸化され3価の鉄イオンFe3+に変化することに影響する。このため加熱工程における反応場の雰囲気を調整することで磁着率を調節することができる。
【0047】
以上の構成からなる磁性物質生成吸着工程における、粉粒体の表面に磁性物質が生成・吸着するメカニズムは以下のように考えられる。以下、粉粒体を土壌として説明する。
【0048】
土壌に薬剤を添加すると、土壌中の1価のイオン種と2価の鉄イオンFe2+や3価の鉄イオンFe3+とのイオン交換が行われる。次いで土壌表面で化学反応が起こり、土壌の表面に磁性物質を生成し、当該磁性物質は、土壌の表面に吸着する。
【0049】
2:1型粘土鉱物と1:1型粘土鉱物との陽イオン交換容量(CEO)は、前者の方が最大で約80倍以上大きいことが知られている。このため2価の鉄イオンFe2+や3価の鉄イオンFe3+は、2:1型粘土鉱物に優先的に吸着され、磁性物質も2:1型粘土鉱物の表面に優先的に生成・吸着する。
【0050】
背景技術の欄にも記したように、原発事故により放出された放射性Csは、降雨により土壌に沈着し,最終的には2:1型粘土内部に捕捉される。このことから本実施形態に示す磁性物質生成吸着工程、さらには本実施形態に示す粉粒体の処理方法は、放射性Csに汚染された土壌の処理に好適に使用できることが分かる。
【0051】
本粉粒体の処理方法において、磁性物質生成吸着工程を経て得られる粉粒体は、次工程で磁力選別に供されるため、磁性物質生成吸着工程では磁力選別に適した被磁選物を得ることができ、それを効率的に生成できる方法が好ましい。この点において本方法で得られる磁性物質は磁着力も調節可能であり、また磁性物質生成吸着工程も簡便であり、好ましい方法といえる。
【0052】
磁力選別の点から粉粒体の表面に生成・吸着する磁性物質は、粒径が小さく表面に均一に分散するものがよい。また磁性物質を生成・吸着させるに使用する薬剤の使用量が少ないものが好ましい。
【0053】
上述又は後述の実施例に示すように下記(A)群の1つ以上を制御することにより粉粒体の表面に生成させる磁性物質の磁着力を制御することができるので、粒度分布、鉄成分含有量・有機物の含有量など被処理物の特性、さらには目標とする磁着率に応じて適宜、磁性物質生成吸着工程の条件を設定すればよい。
(A)2価の鉄イオン濃度,2価の鉄イオンに対する3価の鉄イオンの割合,アルカリ剤の種類,アルカリ剤の濃度,薬剤の添加量,粉粒体と薬剤との混合物に対する撹拌強度,薬剤添加後の静置時間,加熱温度,加熱時間,昇温速度,水溶液のアニオンの種類
【0054】
磁力選別工程(ステップS2)は、前工程(ステップS1)を経て得られる表面に磁性物質が生成・吸着した粉粒体を磁力選別する。磁力選別工程で使用される磁選機、磁選方法は特に限定されるものではなく、公知の磁選機、磁選方法を使用することができる。なお磁選機、磁選方法によっては、高温の被磁選物を処理できない場合もある。このような場合には、磁性物質生成吸着工程と磁力選別工程との間に被磁選物(粉粒体)を冷却する冷却工程を設ければよい。
【0055】
以上の構成からなる本処理方法の処理メカニズムの概要は、次の通りである。磁性物質生成吸着工程において、磁性物質が粉粒体に生成・吸着する量(粉粒体単位質量当たり)は、比表面積の関係から粒径の小さい粉粒体ほど多くなる。磁力選別工程において、粒径の小さい粉粒体は自重が小さく、さらに磁性物質の生成・吸着量が多いため磁着物となる。一方、粒径の大きい粉粒体は自重が大きく、さらに磁性物質の生成・吸着量が少ないため非磁着物となる。
【0056】
以上のように粉粒体に対して磁性物質生成吸着工程において、磁性物質を生成・吸着させ、これを磁力選別することで粉粒体を分級することができる。放射性物質汚染土壌は、粒径の小さい物ほど汚染物質の濃度が高いため、本処理方法を用いて放射性物質汚染土壌を処理することで放射性物質汚染物の濃縮、除染等を行うことができる。
【0057】
本処理方法において、粉粒体に含まれる有機物は、加熱工程(ステップS1-b)で炭化物となるため被処理物が減容化される。また磁性物質生成吸着工程の段階で炭化物の表面にも磁性物質が生成・吸着する。炭化物は、汚染土壌に比較して密度が小さいため磁力選別工程では磁着物となる。
【0058】
本発明の粉粒体の処理方法は、上記実施形態の粉粒体の処理方法を基本に種々変更することができる。以下、粉粒体の処理方法の変形例について説明する。
【0059】
上記実施形態の粉粒体の処理方法では、被処理物として粉粒体をそのまま使用するが、本処理方法に先立ち、粉粒体を篩などを用いて分級し、粒径の大きいものを取り除いてもよい。放射性物質汚染土壌は、粒度の小さい物ほど放射性物質の濃度が高く、逆に粗粒物の放射性物質の濃度は比較的低いことが知られている(例えば、特許第5313387号公報の明細書に記載の表1参照)。このため予め粗粒物を取り除き、残りの汚染土壌を磁力選別すれば効率的に放射性物質汚染物の濃縮、除染が行える。
【0060】
次に本発明の実施の一形態としての粉粒体の処理装置1について説明する。
図2は、本発明の粉粒体の処理装置1の構成図である。以下、粉粒体が放射性物質汚染土壌(以下、汚染土壌と記す)であるとし、粉粒体の処理装置の構成について説明する。
【0061】
本発明の粉粒体の処理装置1は、汚染土壌を連続的に処理する連続処理装置であり、汚染土壌の表面に磁性物質を生成・吸着させる反応装置31、反応装置31に薬剤を供給する薬剤供給装置21、反応装置31に汚染土壌を供給する汚染土壌供給装置11、反応後の汚染土壌を冷却する冷却装置41、冷却後の汚染土壌を磁力選別する磁力選別装置51を含む。
【0062】
汚染土壌供給装置11は、反応装置31に汚染土壌を定量供給する装置であり、ホッパー12付きのスクリューフィーダ13である。粉粒体の定量供給装置としては、スクリューフィーダの他にテーブルフィーダ等がある。ここでは汚染土壌を定量供給可能であれば特に型式等は問われないが、搬送過程で粉粒体が破砕・粉砕されず、また表面が削り取られないものが好ましい。
【0063】
薬剤供給装置21は、反応装置31に薬剤を定量供給する装置であり、撹拌機23を備える薬剤供給タンク22と、定量供給ポンプ24とを含む。薬剤供給タンク22には、2価の鉄塩及びアルカリ剤を水に溶解させた水溶液が充填されている。
【0064】
本実施形態の粉粒体の処理装置1では、3価の鉄イオンFe3+は、汚染土壌及び2価の鉄イオンFe2+が酸化され供給されるため薬剤には含まれていない。汚染土壌及び2価の鉄イオンFe2+の酸化では3価の鉄イオンFe3+が不足する場合は、薬剤供給装置21を介して3価の鉄塩を供給すればよい。
【0065】
また本実施形態では、汚染土壌に対して汚染土壌が浸かるだけの薬剤を添加するため汚染土壌と薬剤とを混合する装置を経由させることなく反応装置31に汚染土壌及び薬剤を供給するが、汚染土壌に対する薬剤の供給量が少ないような場合には、汚染土壌と薬剤とを混合装置で混合し反応装置31に供給すればよい。
【0066】
反応装置31は、汚染土壌と薬剤との混合物を加熱し、薬剤を反応させ汚染土壌の表面に磁性物質を生成・吸着させる装置である。反応装置31は、駆動装置(図示省略)と連結し回転する内筒32と、内筒32を覆うように固定された外筒37とを備える間接加熱方式のロータリーキルンである。
【0067】
内筒32は、一端に汚染土壌供給装置11から供給される汚染土壌及び薬剤供給装置21から供給される薬剤を受け入れるための入口部33を備え、他端部に加熱した混合物を排出するための出口フード34を備える。内筒32の入口部33に近い部分には、供給された薬剤が直ちに出口フード34側に移動することを防止するための堰(図示省略)が設けられている。供給された汚染土壌は、内筒32の回転に伴い堰を乗り越え出口フード34側に移動する。
【0068】
入口部33及び出口フード34は、内筒32内で発生するガスの漏洩を防ぐように内筒32と連結する。出口フード34の上部には、混合物の加熱に伴い発生する水蒸気等のガスを排出するための排気口35が、出口フード34の下部には、加熱された混合物を排出する排出口36が設けられている。
【0069】
外筒37は、長手方向が3つに区分けされ、それぞれの区画に加熱ガスの供給口38と排出口39とが設けられており、加熱ガス供給装置(図示省略)から送られる加熱ガスを受け入れ、これを加熱媒体として内筒32内の混合物を加熱する。それぞれの区画に温度の異なる加熱ガスを供給することで、内筒32内の混合物及び汚染土壌を所望の温度、温度分布に調節することができる。
【0070】
汚染土壌と薬剤との混合物は、スラリー状態で内筒32に供給され、内筒32の入口部33から排出口36に移動する過程で、所定時間・所定温度で加熱され、汚染土壌の表面に磁性物質を生成・吸着させる。表面に磁性物質が生成・吸着した汚染土壌は、排出口36から排出される。一方、汚染土壌と薬剤との混合物の加熱操作に伴い発生する水蒸気等のガスは、排気口35から排気ガス処理装置(図示省略)に導かれる。
【0071】
反応装置31は、汚染土壌と薬剤との混合物を所定時間・所定温度で加熱し、汚染土壌の表面に磁性物質を生成・吸着させることができればよく、装置の型式も特に限定されるものではないが、反応性及び温度の均一化、さらに汚染土壌の凝集を防ぐ点において撹拌混合機能を備えるものが好ましい。このとき汚染土壌が破砕・粉砕されず、また表面が削り取られないものが好ましく、この点においてロータリーキルンは好ましい装置といえる。
【0072】
冷却装置41は、反応装置31から排出される表面に磁性物質が生成・吸着した汚染土壌を、後段の磁力選別装置51に供給可能な温度まで冷却する。冷却装置41は、ジャケット付きの横型1軸の撹拌装置であり、撹拌槽42内に横型1軸のスクリュー43を備え、撹拌槽42を覆うようにジャケット44が取付けられている。ジャケット44に供給される冷却媒体は水である。
【0073】
撹拌槽内42の出口部には、冷却された汚染土壌を後段の磁力選別装置51に定量供給する装置としてロータリーフィーダ46が設けられている。
【0074】
冷却装置41は、反応装置31から排出される表面に磁性物質が生成・吸着した汚染土壌を、後段の磁力選別装置51に供給可能な温度まで冷却することができれば型式等は特に限定されるものではない。また冷却した汚染土壌を磁力選別装置51に定量供給する定量供給装置もロータリーフィーダ46に限定されるものではないが、これらは汚染土壌が破砕・粉砕されず、また表面が削り取られないものが好ましい。
【0075】
磁力選別装置51は、ロータリーフィーダ46を介して定量供給される汚染土壌を磁力選別する。ここに示す磁力選別装置51は、公知のコンベアタイプの磁選機であり、汚染土壌を磁着物と非磁着物とに分類する。ここでは特定の磁力選別装置51に限定されることなく、ドラム式の磁選機、汚染土壌を3つ以上に分別できる磁選機など種々の磁力選別装置を使用することができる。
【0076】
次に
図2に示す粉粒体の処理装置1による汚染土壌の処理要領について説明する。
【0077】
汚染土壌及び薬剤は、スラリー状態で反応装置31の入口部33を経由して内筒32に送られる。汚染土壌及び薬剤の混合物は、内筒32を入口部33から排出口36に向って移動しつつ加熱される。この過程で薬剤が反応し、汚染土壌の表面に磁性物質が生成・吸着する。汚染土壌に根毛などの植物を含む場合、これらは反応装置31内で炭化物となり、汚染土壌と同様に表面に磁性物質が生成・吸着する。表面に磁性物質が生成・吸着した汚染土壌は、排出口36と繋がる冷却装置41に送られる。混合物を加熱する過程で発生した水蒸気等のガスは、排気口35から排気ガス処理装置(図示省略)に導かれる。
【0078】
反応装置31から排出される表面に磁性物質が生成・吸着した汚染土壌は、冷却装置41により磁力選別装置51に供給可能な温度まで冷却された後、ロータリーフィーダ46を介して磁力選別装置51に定量供給され、ここで磁着物と非磁着物とに分別される。
【0079】
磁性物質は、比表面積の関係から粒径の小さい汚染土壌ほど生成・吸着量(汚染土壌単位質量当たり)が多くなる。また粒径の小さい汚染土壌は自重が小さく、さらに磁性物質の生成・吸着量が多いため磁着物となる。一方、粒径の大きい汚染土壌は自重が大きく、さらに磁性物質の生成・吸着量が少ないため非磁着物となる。
【0080】
以上のように粉粒体の処理装置1を使用することで汚染土壌を粒径により選別する、つまり分級が可能となる。放射性物質汚染土壌は、粒径の小さい土壌ほど放射性物質の濃度が高いため本処理装置1を使用することで除染することができる。
【0081】
本発明の粉粒体の処理装置は、
図2に示す処理装置に限定されるものではない。
図2に示す粉粒体の処理装置1は、冷却装置41を備え、反応装置31から排出される汚染土壌を冷却するが、反応装置31から排出される汚染土壌の温度が磁力選別装置51の仕様を満足するものであれば冷却装置41は不要である。このような場合には反応装置31の排出口36にロータリーフィーダなどの定量供給装置を設置すればよい。
【0082】
反応場の雰囲気を制御することにより汚染土壌の表面に生成・吸着させる磁性物質の生成・吸着量等を制御する場合には、反応装置内にガスを供給するための雰囲気ガス供給管を設け、ここから空気、窒素ガス、燃焼排ガス、炭酸ガス、あるいはこれらガスの混合物を供給すればよい。
【0083】
本発明の粉粒体の処理装置は、連続式の処理装置に限定されるものではなく、半回分式、回分式の処理装置であってもよい。
【0084】
上記実施形態に示すように本発明の粉粒体の処理方法及び処理装置を使用することで余分な廃棄物を発生させることなく簡単な操作で安価に汚染土壌等を処理することができる。また本発明の被処理物の調製方法及び装置を本発明の粉粒体の処理方法及び処理装置の前処理方法及び前処理装置として好適に使用することができる。
【0085】
また本発明の被処理物の調製方法及び粉粒体の処理方法は、汚染土壌等の粉粒体に液状の薬剤を添加し、これを反応させて粉粒体の表面に磁性物質を生成・吸着させるため、磁性物質を均一に生成・吸着させ易く、さらに粉じんの発生が抑えられる。また汚染土壌等に木くず、根毛等が含まれていてもそのまま処理できるなど実用的な方法、装置と言える。
【0086】
また本発明の被処理物の調製方法及び粉粒体の処理方法は、粉粒体の表面に生成・吸着させる磁性物質の磁着力を制御することができるため少ない薬剤の量で効率的に粉粒体を処理可能である。さらに本処理方法を種々の粉粒体の処理、幅広い用途に使用することができる。
【0087】
図面を参照しながら好適な実施形態を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更及び修正を容易に想定するであろう。従って、そのような変更及び修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。また本発明は、後述の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
供試土壌(山砂)
供試土壌に山砂を用いた。山砂は、市販されている山砂(真砂土)を入手し、これを風乾させ含水率1wt%以下としたものを使用した。真砂土の粒度を試験篩及び湿式レーザー法(エタノール中)で求めた結果、粒径600μmオーバーが61.8wt%であり、粒径75μm未満のものが7.3wt%、粒径20μm未満のものが2.1wt%であった。真砂土の化学組成をJIS-M8853により分析した結果、Fe2O3が2wt%含まれていた。また真砂土には、砂鉄が0.19±0.06wt%含まれていた。
【0089】
磁着選別用試料の調整方法
磁着選別用試料の調整方法の代表的な手順を示す。供試土壌である真砂土10gに薬剤6mlを添加し、これを室温化下で5分間放置した。真砂土10gに薬剤6mlを添加すると、真砂土は全て薬剤に浸かり、真砂土の上面から僅かに薬剤が浮いている。その後、大気下、管状炉を用いて室温から200℃まで18℃/minの速度で昇温し、200℃から250℃まで5℃/minの速度で昇温し、250℃で2時間保持した。その後、デシケーター内で放冷し、これを磁着選別用の試料とした。薬剤は、水に所定量のNaOH,FeCl3,FeCl2・4H2Oを添加したものである。以下、特に断りがないときは、当該方法で磁着選別用試料を調整した。
【0090】
磁力選別方法
試料を
図3に示す専用の混合瓶101に入れ、混合瓶101の上部に鉄心102を挿入し、さらにネオジム磁石(表面磁束密度573mT)103を付けて(
図3(A)参照)、手で30秒程度混合瓶101を振った(
図3(B)参照)。その後、瓶上部のプラスチックカバー104を外し、受け皿の上でネオジム磁石103と鉄心102を引き抜き、磁着物を回収した(
図3(C)参照)。その後、プラスチックカバー104、ネオジム磁石103及び鉄心102を取付け、残渣(非磁着物)を先と同じ要領で磁選を行った。この磁選操作は、各試料に対して5回実施した。
【0091】
磁着率及び磁着率増加比の定義
磁着率は、式(1)で示される。磁着率増加比は、式(2)で示され、ブランクの磁着率は、薬剤未添加及び未加熱の真砂土(以下、未処理土壌)の磁着率である。目標磁着率を設定することもできる。例えば、真砂土に含まれる20μm未満の粒径のものを分級(分離)することを目標とした場合、目標磁着率は、真砂土に含まれる粒径20μm未満のものの含有率と同じとなる。本実施例で使用する真砂土の場合、目標磁着率は、2.1wt%、目標磁着率比は、12.3となる。
【0092】
【0093】
未処理土壌の磁着率
真砂土の未処理物の磁着率は、0.186wt%であった。
【0094】
未処理土壌の加熱の影響
真砂土のみを大気下(空気雰囲気下)、管状炉を用いて250℃で2時間加熱したところ、加熱前に比較して磁着率が1.6倍増加した。加熱後の真砂土の粒度を測定した結果、加熱前に比較して1000μm未満のものが17.5wt%増加した。加熱により微細粒子が増加し、また磁性酸化物が生成したことより磁着率が増加したと考えられる。
【0095】
FeCl2・4H2Oの添加量の影響
真砂土10gに対して、NaOH,FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるNaOHは1.0mmol、FeCl3は、0.18mmolである。FeCl2・4H2Oについては、0.26~3.58mmolの範囲で濃度を変えた。
【0096】
結果を
図4に示した。磁着率増加比は、FeCl
2・4H
2Oの添加量により変化した。FeCl
2・4H
2Oが0.26~1.37mmolの範囲において、FeCl
2・4H
2Oの添加量に比例して磁着率増加比は増加した。一方、FeCl
2・4H
2Oが1.37~3.58mmolの範囲においては、FeCl
2・4H
2Oの添加量に比例して磁着率増加比は減少した。磁着率増加比は、FeCl
2・4H
2Oの添加量が1.37mmolでピークとなり、そのときの値は16.5であった。
【0097】
FeCl3の添加量の影響
真砂土10gに対して、NaOH、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるNaOHは1.0mmol、FeCl2・4H2Oは、0,1.4,1.6mmolの3種類とし、FeCl3については、0~0.43mmolの範囲で濃度を変えた。
【0098】
結果を
図5に示した。磁着率増加比は、FeCl
2・4H
2Oを1.4mmol,1.6mmol添加した場合、ともにFeCl
3の添加量に比例して減少した。FeCl
2・4H
2Oが1.6mmolの場合、FeCl
3の添加量が0で磁着率増加比は15.3、FeCl
3の添加量が0.43で磁着率増加比は約2であった。FeCl
2・4H
2Oを1.4mmol添加した場合と1.6mmol添加した場合とを比較すると、前者の方が僅かに磁着率増加比は高かった。FeCl
2・4H
2Oを添加しなかった場合、FeCl
3の添加量(0~0.43mmol)によらず、磁着率増加比は約2.0でほぼ一定であった。
【0099】
アルカリ剤の種類の影響
真砂土10gに対して、アルカリ剤、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるFeCl2・4H2Oは、1.61mmol、FeCl3は0.18mmolであり、アルカリ剤は1.0mmolである。アルカリ剤には、LiOH・H2O,NaOH,KOH,Be(OH)2,Mg(OH)2,Ba(OH)2,Al(OH)3を使用した。
【0100】
結果を
図6に示した。磁着率増加比は、アルカリ剤の種類で大きく異なり、アルカリ剤にNaOHを使用した場合が、磁着率増加比14.8で最も大きかった。
【0101】
NaOHの添加量の影響
真砂土10gに対して、NaOH、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるFeCl2・4H2Oは、0.18mmol、FeCl3は0.18mmolであり、NaOHは、0~2.0mmolの範囲で添加量を変化させた。
【0102】
結果を
図7に示した。磁着率増加比は、NaOHの添加量で大きく異なり、NaOHが1.0mmolの場合に磁着率増加比が8.4であり最も大きかった。
【0103】
鉄イオンの添加順の影響
FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液(計6ml)の添加順を変えた実験を行った。第1のケースでは、FeCl2・4H2Oを添加した後にFeCl3を添加した。第2のケースでは、FeCl3を添加した後にFeCl2・4H2Oを添加した。第3のケースでは、FeCl2・4H2OとFeCl3とを混合した状態で添加した。添加量は、真砂土10gに対して、NaOHは1.0mmol、FeCl2・4H2Oは0.2mmol,1.3mmolの2種類,FeCl3は0.2mmolとした。薬剤添加後の加熱及び磁着選別は、前述の方法で実施した。
【0104】
結果を
図8に示した。磁着率増加比は、FeCl
2・4H
2OとFeCl
3とを混合し同時に添加する場合が最も高く、FeCl
2・4H
2Oを添加した後にFeCl
3を添加する場合が、磁着率増加比が最も小さかった。またFeCl
2・4H
2Oの濃度が高い方が、鉄イオンの添加順の影響が顕著であった。
【0105】
薬剤の添加量の影響
真砂土10gに対して、NaOH、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液を添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。ここでは溶液の量を6mL,12mL,30mLの3種類とした。6mLの溶液に含まれるNaOHは1.0mmol、FeCl2・4H2O及びFeCl3は0.2mmolである。
【0106】
結果を
図9に示した。磁着率増加比は、薬剤の添加量に比例して増加し、真砂土10gに対して薬剤を30mL添加した場合、つまりNaOHを5.0mmol、FeCl
2・4H
2O及びFeCl
3をそれぞれ1.0mmol添加した場合、磁着率増加比は52であった。
【0107】
撹拌の影響
真砂土に薬剤を添加した後の撹拌要領と磁着率増加比との関係を検討した。真砂土10gに対して、NaOH、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、加熱前に撹拌装置を用いて真砂土と薬剤との混合溶液を撹拌し、または5min間静置させた。その後大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱し、放冷後、磁力選別を行った。溶液に含まれるNaOHは1.0mmol、FeCl2・4H2Oは1.44mmol、FeCl3は0.18mmolである。
【0108】
撹拌装置にはガラス棒、超音波洗浄器(AS ONE ASU-6M)、恒温水槽(yamato scientific BW101)、ボルテックス(Thermo Fisher Scientific miniRotoS56)、スターラー(AS ONE MN-01)を使用した。
【0109】
結果を
図10に示した。磁着率増加比は、無撹拌の場合が22.0と最も大きく、スターラーを使用した場合が、2.0で最も小さかった。この結果から撹拌強度が高い程、磁着率増加比が小さくなることが分かる。これは撹拌に伴い真砂土が破砕され、単位表面積当たりの鉄濃度が低下したことに起因するものと思われる。
【0110】
薬剤添加後の静置時間の影響
真砂土に薬剤を添加した後、加熱前までの静置時間(放置時間)と磁着率増加比との関係を検討した。真砂土10gに対して、NaOH、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、室内で所定時間静置させ、その後、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるNaOHは1.0mmol、FeCl2・4H2Oは1.44mmol、FeCl3は0.18mmolである。静置時間は、0min,960min,1440minとした。
【0111】
結果を
図11に示した。磁着率増加比は、真砂土に対して薬剤を添加後直ちに加熱操作に移行した場合が約20と最も大きく、静置時間が長いほど小さかった。1日放置した後に加熱操作に移行した場合、磁着率増加比は4.3であった。
【0112】
加熱温度の影響
加熱温度と磁着率増加比との関係を検討した。真砂土10gに対して、NaOH、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて80~350℃の範囲内で温度を選択し、各々の温度で2時間加熱した。昇温速度は、加熱温度~50℃までは18℃/min、以降加熱温度までの昇温速度は5℃/minとした。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるNaOHは1.0mmol、FeCl2・4H2Oは、0.18又は1.43mmol、FeCl3は0.18mmolである。
【0113】
結果を
図12に示した。磁着率増加比は、FeCl
2・4H
2Oの添加量によらず80℃~300℃の範囲内においては温度に比例して上昇した。FeCl
2・4H
2Oの添加量が1.43mmolの場合、磁着率増加比は、加熱温度250℃で14.9、加熱温度300℃で18.9であった。加熱温度が300℃を超えると磁着率増加比は、7~8.5程度に低下した。被処理物に有機物が含まれている場合、ダイオキシン類の発生を抑制し有機物を炭化させる点から加熱温度は250℃が好ましいといえる。
【0114】
加熱時間の影響
加熱時間の影響を検討した。真砂土10gに対して、NaOH、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて250℃到達後の保持時間(加熱時間)を0~3時間の範囲内で選択し、各々の加熱時間で加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。加熱時間は、0,0.5,1.0,1.5,2.0,2.5,3.0時間とした。溶液に含まれるNaOHは1.01mmol、FeCl2・4H2Oは0.18mmol、FeCl3は0.18mmolである。
【0115】
結果を
図13に示した。加熱時間0時間の磁着率に対する各加熱時間における磁着率の割合は、加熱時間0.5~3.0時間の範囲内においては大差なく約1.4~1.6であった。
【0116】
昇温速度の影響
昇温速度の影響を検討した。真砂土10gに対して、NaOH、FeCl2・4H2O及びFeCl3を含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて室温から200℃に達するまでの昇温速度を1.5~36℃/minの範囲内で選択し、各々の昇温速度で加熱し、以降250℃まで5℃/minで昇温した。加熱温度250℃で2時間加熱した後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるNaOHは1.01mmol、FeCl2・4H2Oは1.44mmol、FeCl3は0.18mmolである。
【0117】
結果を
図14に示した。昇温速度1.5℃/minの磁着率に対する各昇温速度における磁着率の割合は、昇温速度が大きくなるに従って低下する傾向が見られた。昇温速度1.5℃/minの磁着率に対する昇温速度36℃/minの磁着率は、約0.6であった。昇温速度を大きくし過ぎると、Fe
2+の酸化速度が速まり磁性物質の生成にFe
2+が不足することが懸念される。
【0118】
カウンターアニオンの影響
カウンターアニオンと磁着率増加比との関係を検討した。真砂土10gに対して、NaOH(1.5mmol)とFeCl2・4H2O又はFeSO4・7H2O又はFe(NH4)2(SO4)2・6H2Oとを含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるFe2+は、いずれも0.6mmolである。
【0119】
結果を
図15に示した。カウンターアニオンの種類により磁着率増加比は、大きく異なった。磁着率増加比は、FeSO
4・7H
2Oを使用した場合が最も高く18.0であり、FeCl
2・4H
2Oを使用した場合が最も低く2.8であった。
【0120】
各鉄塩におけるFe2+添加量の影響
各鉄塩におけるFe2+添加量と磁着率増加比との関係を検討した。真砂土10gに対して、NaOH(1.5mmol)、FeCl2・4H2O(0.63~1.43mmol)又はFeSO4・7H2O(0.63~0.90mmol)又はFe(NH4)2(SO4)2・6H2O(0.63mmol)を含む溶液6mlを添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。
【0121】
結果を
図16に示した。FeCl
2・4H
2Oは、溶解度が160g/100ml(at10℃)と大きいため添加量の調整が容易であり、Fe
2+添加量を大きく変化させることができる。またFeCl
2・4H
2Oを用いた場合、磁着率増加比は、FeCl
2・4H
2Oの添加量により大きく異なることから薬剤として好ましい。これに対してFeSO
4・7H
2Oは、溶解量が26g/100ml(at20℃)であり、Fe(NH
4)
2(SO
4)
2・6H
2Oは、溶解量が27g/100ml(at20℃)であり、共に溶解度が小さいためFe
2+添加量を大きく変化させることができない。
【0122】
模擬セシウム汚染土壌の分級
模擬セシウム汚染土壌を以下の要領で得た。粒度が2mm未満の真砂土200gに、塩化セシウムCsClの濃度が0.14mol/Lの塩化セシウム水溶液250mlを加え、ドラフト内で一晩風乾させた。その後、40~50℃のホットプレートで2時間加熱し、含水率が1wt%以下の模擬セシウム汚染土壌を得た。
【0123】
以下の要領で磁着選別用試料を2種類調整した。模擬セシウム汚染土壌100gに、FeCl2・4H2O及びNaOHを含む水溶液60mlを添加し、150℃のホットプレートで2時間加熱し磁着選別用試料を得た。一方の磁着選別用試料では、水溶液60mlにFeCl2・4H2Oが7.2mmolとNaOHが15mmol含まれる。他方の磁着選別用試料では、水溶液60mlにFeCl2・4H2Oが8.8mmolとNaOHが15mmol含まれる。
【0124】
2種類の磁着選別用試料をそれぞれ適量採取し、それぞれについて磁力選別した。磁力選別方法は、本明細書の段落[0090]、[0091]に記載の通りである。本明細書の段落[0090]では磁選操作が5回とあるが、ここでは磁選操作を10回実施した。磁着物及び残渣それぞれを酸分解し(60℃,120min)、これをICP-MSを用いて分析した。またCs濃度を式(3)より算出した。
【0125】
【0126】
結果を表1に示した。模擬セシウム汚染土壌100gにFeCl2・4H2Oを7.2mmol添加した場合、濃縮率(磁着物Cs濃度/残渣Cs濃度)は、9.6倍、模擬セシウム汚染土壌100gにFeCl2・4H2Oを8.8mmol添加した場合、濃縮率(磁着物Cs濃度/残渣Cs濃度)は、5.4倍となった。
【0127】
【0128】
供試土壌(黒土)
以下の実験では、供試土壌に黒土(有機性土壌)を用いた。非加熱状態の黒土の化学組成を表2に示した。非加熱状態の黒土に含まる有機物(強熱減量;Ig-Loss)は、23%であった。また非加熱状態の黒土をXRD分析した結果、黒土は、主に石英、曹長石、灰長石、ソーダ雲母、クリストバル石、黄鉄鉱、アロフェン等からなっていた。
【0129】
【0130】
非加熱黒土(含水率13~14wt%)及び非加熱黒土(含水率13~14wt%)を250℃で2時間加熱した後の黒土(加熱黒土)の粒度分布を測定した。粒度分布の測定には篩(75、125、250、500、1000μm)を使用した。結果を
図17に示した。非加熱黒土には、75μm未満の粒子が10wt%含まれ、加熱黒土には75μm未満の粒子が15wt%含まれていた。加熱により塊状物が分散し、また有機物が消失したことより75μm未満の粒子が増加したものと思われる。
【0131】
薬剤未添加黒土及び薬剤未添加加熱黒土の磁着率
薬剤未添加の非加熱黒土の磁着率は、3.4±0.1wt%であった。薬剤未添加の加熱黒土の磁着率は、6.0±0.1wt%であった。加熱することで磁着率が約1.8倍増加した。黒土が加熱されることで磁着率が増加することは、真砂土と同じであり、加熱により微細粒子が増加し、また磁性酸化物が生成したことにより磁着率が増加したと考えられる。磁着率は式(1)で示され、磁着率の測定要領は、本明細書の段落[0090]、[0091]に基づき実施した。
【0132】
ここで薬剤未添加の加熱黒土に含まれる75μm未満の粒子を磁力選別により分級することを目標とした場合、目標磁着増加率は、式(4)で示される。本実施例において、薬剤未添加の加熱黒土に含まれる75μm未満の粒子の含有率が15wt%、薬剤未添加の加熱黒土の磁着率は、6.0±0.1wt%であるから、目標磁着増加率は2.5となる。また磁着増加率を式(5)で定義した。
【数3】
【0133】
黒土を供試土壌としたときの磁着選別用試料の調整方法、磁力選別方法、磁着率の定義は、基本的に真砂土を供試土壌としたときの磁着選別用試料の調整方法、磁力選別方法、磁着率の定義と同じであり、本明細書の段落[0090]~[0092]に記載の通りである。
【0134】
FeCl2・4H2Oの添加量の影響
黒土10gに対して、FeCl2・4H2O及びNaOHを含む溶液を添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるNaOHは、1.5mmol、FeCl2・4H2Oは、0~9mmolの範囲で添加量を変えた。FeCl3は、未添加である。
【0135】
結果を
図18に示した。磁着増加率は、FeCl
2・4H
2Oの添加量により変化した。FeCl
2・4H
2Oが0~4.5mmolの範囲において、FeCl
2・4H
2Oの添加量に比例して磁着増加率は増加し、FeCl
2・4H
2Oの添加量0.9mmolで磁着増加率は、1.03、FeCl
2・4H
2Oの添加量4.5mmolで磁着増加率は、1.15であった。一方、FeCl
2・4H
2Oが4.5~9.0mmolの範囲においては、FeCl
2・4H
2Oの添加量に比例して磁着増加率は減少した。磁着増加率は、FeCl
2・4H
2Oの添加量が4.5mmolでピークとなった。
【0136】
FeCl
2・4H
2Oの添加量と磁着率との関係を供試土壌で比較すると、
図4及び
図18に示すように供試土壌によらず同じ傾向を示した。具体的には、山砂(真砂土)及び黒土とも磁着率は、ある特定のFeCl
2・4H
2O添加量において極大値を示した。
【0137】
NaOHの添加量の影響
黒土10gに対して、FeCl2・4H2O及びNaOHを含む溶液を添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で2時間加熱した。その後、放冷し磁力選別を行った。溶液に含まれるFeCl2・4H2Oは、4.5mmol、NaOHは、0~12mmolの範囲で添加量を変えた。FeCl3は、未添加である。
【0138】
結果を
図19に示した。磁着増加率は、NaOHの添加量により変化した。NaOHが0~9.0mmolの範囲において、NaOHの添加量に比例して磁着増加率は増加し、NaOHの添加量9.0mmolで磁着増加率がピークとなり、そのときの磁着増加率は、2.46であった。一方、NaOHが9.0~12mmolの範囲においては、NaOHの添加量に比例して磁着増加率は減少した。
【0139】
NaOHの添加量と磁着率との関係を供試土壌で比較すると、
図7及び
図19に示すように供試土壌によらず同じ傾向を示した。具体的には、山砂(真砂土)及び黒土とも磁着率は、ある特定のNaOH添加量において極大値を示した。
【0140】
加熱温度の影響
黒土10gに対して、NaOH及びFeCl2・4H2Oを含む溶液を添加し、大気下、管状炉を用いて250℃及び300℃で加熱した。前者は、室温~200℃までは18℃/min、200℃~250℃までは5℃/minで昇温し、250℃で2時間保持し、後者は、室温~200℃までは18℃/min、200℃~300℃までは10℃/minで昇温し、300℃で2時間保持した。溶液に含まれるNaOHは9.0mmol、FeCl2・4H2Oは4.5mmolであり、FeCl3は未添加である。
【0141】
実験結果、250℃で2時間加熱した場合、磁着率は14.7±0.7%、300℃で2時間加熱した場合、磁着率は20.5±0.4%であった。磁着増加率で示せば、前者で2.4±0.1、後者で3.4±0.1であった。加熱温度250℃と300℃とでは、後者の方が磁着率が高かった。
【0142】
加熱温度と磁着率との関係を供試土壌で比較すると、山砂(真砂土)及び黒土とも加熱温度250℃と300℃とでは、後者の方が磁着率が高かった。
【0143】
加熱時間の影響
黒土10gに対して、NaOH及びFeCl2・4H2Oを含む溶液を添加し、大気下、管状炉を用いて250℃で加熱時間を変えた実験を行った。具体的には、一方は、室温~200℃までは18℃/min、200℃~250℃までは5℃/minで昇温し、250℃で2時間保持した。他方は、室温~200℃までは18℃/min、200℃~250℃までは5℃/minで昇温し、250℃で0.5時間保持した。溶液に含まれるFeCl2・4H2Oは0.9mmol、NaOHは1.5mmolであり、FeCl3は未添加である。
【0144】
実験結果、250℃で2時間加熱した場合、磁着率は6.2±0.2%、250℃で0.5時間加熱した場合、磁着率は5.5±0.1%であった。磁着増加率で示せば、前者で1.0±0.0、後者で0.9±0.0であった。加熱時間が2時間と0.5時間とでは、前者の方が少し磁着率が高かった。
【0145】
加熱時間と磁着率との関係を供試土壌で比較すると、
図13に示すように山砂(真砂土)の場合、加熱時間0.5~2時間の範囲で磁着率は加熱時間の影響を殆ど受けなかった。一方、黒土の場合、加熱時間0.5~2時間の範囲で磁着率は、加熱時間が長いほど大きかった。
【0146】
昇温速度の影響
黒土10gに対して、NaOH及びFeCl2・4H2Oを含む溶液を添加し、大気下、管状炉を用いて250℃までの昇温速度を変えた実験を行った。具体的には、一方は、室温~200℃までは18℃/min、200℃~250℃までは5℃/minで昇温し、250℃で2時間保持した。他方は、室温~230℃までは42℃/min、230℃~250℃までは4℃/minで昇温し、250℃で2時間保持した。溶液に含まれるFeCl2・4H2Oは0.9mmol、NaOHは1.5mmolであり、FeCl3は未添加である。
【0147】
実験結果、昇温速度の遅い前者で磁着率は6.2±0.2%、昇温速度の速い後者で磁着率は6.7±0.2%であった。磁着増加率で示せば、前者で1.0±0.0、後者で1.1±0.0であった。黒土を用いた実験において、磁着率に対する昇温速度の影響は殆どなかった。
【0148】
加熱時間と磁着率との関係を供試土壌で比較すると、
図14に示すように山砂(真砂土)においても昇温速度18℃/minと昇温速度36℃/minとで磁着率はほぼ同じである。よって昇温速度18℃/min~42℃/minの範囲内では、供試土壌の種類によらず磁着率に対する昇温速度の影響は殆どないと言える。
【符号の説明】
【0149】
1 粉粒体の処理装置
11 汚染土壌供給装置
21 薬剤供給装置
31 反応装置
41 冷却装置
51 磁力選別装置