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特許7390655植物育成システム、コントローラ、植物育成方法、及び、コンピュータプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】植物育成システム、コントローラ、植物育成方法、及び、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20231127BHJP
   A01G 9/24 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A01G7/00 601Z
A01G9/24 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020025628
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021129502
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】道関 隆国
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜実
(72)【発明者】
【氏名】岡本 修一
(72)【発明者】
【氏名】古守 凌馬
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 文靖
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-148029(JP,A)
【文献】特開2019-013183(JP,A)
【文献】特開2001-272373(JP,A)
【文献】特開2005-328715(JP,A)
【文献】特開2017-051125(JP,A)
【文献】特開2020-000188(JP,A)
【文献】特開2017-085993(JP,A)
【文献】特開2014-060934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 9/24
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物中の水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサと、
環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサと、
育成対象の植物を前記第1のセンサが測定することによって得られた前記第1のセンサからのセンサ信号と、前記育成対象の植物を育成する環境を前記第2のセンサが測定することによって得られた前記第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、前記育成対象の植物の育成環境の適否を判定し、その判定結果に基づいて、前記育成環境のうちの、前記第2のセンサで測定される前記環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御するコントローラと、を備える
植物育成システム。
【請求項2】
前記第1のセンサは、第1の電極及び第2の電極を有し、
前記水分量に応じたセンサ信号を出力することは、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に存在する水分中の電解質によって生じる電気エネルギー量に応じた時間間隔で前記センサ信号を出力することを含む
請求項1に記載の植物育成システム。
【請求項3】
前記第1の電極と前記第2の電極との少なくとも一方は前記育成対象の植物に取り付けられる
請求項2に記載の植物育成システム。
【請求項4】
前記第1の電極と前記第2の電極とのうちの一方電極は前記育成対象の植物に取り付けられ、他方電極は前記植物の育成される培地に設置される
請求項3に記載の植物育成システム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記特定の環境パラメータについて前記第1のセンサからのセンサ信号についての第1の閾値、及び、前記第2のセンサからのセンサ信号についての第2の閾値を記憶し、前記第1のセンサからのセンサ信号と前記第1の閾値との比較、及び、前記第2のセンサからのセンサ信号と前記第2の閾値との比較によって前記育成環境の適否を判定し、その判定結果に基づいて前記特定の環境パラメータを制御する
請求項1~4のいずれか一項に記載の植物育成システム。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記第1のセンサからのセンサ信号と前記第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、前記特定の環境パラメータのうちの第1の環境パラメータを制御し、
前記第1の環境パラメータの制御の後に得られた前記第1のセンサからのセンサ信号と前記第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、前記特定の環境パラメータのうちの第2の環境パラメータを制御する
請求項1~5のいずれか一項に記載の植物育成システム。
【請求項7】
前記第1の環境パラメータ及び前記第2の環境パラメータは前記第1のセンサからのセンサ信号の出力と所定以上の相関を有するパラメータであって、
前記第1の環境パラメータが前記第2の環境パラメータよりも前記相関が高い
請求項6に記載の植物育成システム。
【請求項8】
前記第1の環境パラメータは、前記育成対象の植物周囲の空気の飽差である
請求項6又は7に記載の植物育成システム。
【請求項9】
植物中の水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサからのセンサ信号の入力を受け付けるための第1の入力部と、
環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサからのセンサ信号の入力を受け付けるための第2の入力部と、
育成対象の植物を前記第1のセンサが測定することによって得られた前記第1のセンサからのセンサ信号と、前記育成対象の植物を育成する環境を前記第2のセンサが測定することによって得られた前記第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、前記育成対象の植物の育成環境の適否を判定し、その判定結果に基づいて、前記育成環境のうちの、前記第2のセンサで測定される前記環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御するためのプロセッサと、を備える
コントローラ。
【請求項10】
水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサを用いて、育成対象の植物中の水分量を示すデータを得、
環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサを用いて、前記育成対象の植物周囲の環境条件を示すデータを得、
前記第1のセンサからのセンサ信号と、前記第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、前記育成対象の植物の育成環境の適否を判定し、その判定結果に基づいて、前記育成環境のうちの、前記第2のセンサで測定される前記環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御する、ことを含む
植物育成方法。
【請求項11】
コンピュータに植物育成のための制御を実行させるプログラムであって、
前記制御は、
水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサから、育成対象の植物中の水分量を示すデータを得ることと、
環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサから、前記育成対象の植物周囲の環境条件を示すデータを得ることと、
前記第2のセンサで測定される前記環境条件に応じた特定の環境パラメータについての前記第1のセンサからのセンサ信号についての第1の閾値と前記第1のセンサからのセンサ信号とを比較し、前記第2のセンサからのセンサ信号についての第2の閾値と前記第2のセンサからのセンサ信号とを比較することによって育成環境の適否を判定することと、
前記判定の結果に基づいて前記環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御することと、を含む
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物育成システム、コントローラ、植物育成方法、及び、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2014-60934号公報(以下、特許文献1)は、植物が植えられた土壌の水分値の測定値に基づく頻度で水分の測定値の情報を管理装置にアップロードし、管理装置にて土壌の含水レベルを判定する植物支援システムを開示している。特許文献1に開示されているように、植物の育成を管理するための一般的なシステムは、環境を測定して測定値を用いて育成を管理するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-60934号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、測定で得られた環境の値は、環境を示す値であって、育成している植物の状態を直接示しているものではない。そのため、実際の植物の状態を考慮した育成システムが望まれる。
【0005】
ある実施の形態に従うと、植物育成システムは、植物中の水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサと、環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサと、育成対象の植物を第1のセンサが測定することによって得られた第1のセンサからのセンサ信号と、育成対象の植物を育成する環境を第2のセンサが測定することによって得られた第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、育成対象の植物の育成環境のうちの、第2のセンサで測定される環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御するコントローラと、を備える。
【0006】
他の実施の形態に従うと、コントローラは、植物中の水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサからのセンサ信号の入力を受け付けるための第1の入力部と、環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサからのセンサ信号の入力を受け付けるための第2の入力部と、育成対象の植物を第1のセンサが測定することによって得られた第1のセンサからのセンサ信号と、育成対象の植物を育成する環境を第2のセンサが測定することによって得られた第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、育成対象の植物の育成環境のうちの、第2のセンサで測定される環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御するためのプロセッサと、を備える。
【0007】
他の実施の形態に従うと、植物育成方法は、水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサを用いて、育成対象の植物中の水分量を示すデータを得、環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサを用いて、育成対象の植物周囲の環境条件を示すデータを得、第1のセンサからのセンサ信号と、第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、育成対象の植物の育成環境のうちの、第2のセンサで測定される環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御する、ことを含む。
【0008】
他の実施の形態に従うと、コンピュータプログラムは、コンピュータに植物育成のための制御を実行させるプログラムであって、制御は、水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサから、育成対象の植物中の水分量を示すデータを得ることと、環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサから、育成対象の植物周囲の環境条件を示すデータを得ることと、第2のセンサで測定される環境条件に応じた特定の環境パラメータについての第1のセンサからのセンサ信号についての第1の閾値と第1のセンサからのセンサ信号とを比較し、第2のセンサからのセンサ信号についての第2の閾値と第2のセンサからのセンサ信号とを比較することと、比較の結果に基づいて環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御することと、を含む。
【0009】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る植物育成システム(以下、システム)の構成概略図である。
図2図2は、システムに含まれる検出装置の回路図である。
図3図3は、センサの蓄電部の電圧特性の例を示す図である。
図4図4は、センサの検出信号の間隔を示す図である。
図5図5は、センサの検出信号の間隔を示す図である。
図6図6は、センサにおける発電の原理図である。
図7図7は、ミニトマト育成時の気温、地温、及び湿度の測定結果である。
図8図8は、ミニトマト育成時の飽差の測定結果である。
図9図9は、ミニトマト育成時の日射量及び二酸化炭素濃度の測定結果である。
図10図10は、ミニトマト育成時の培地の水分割合(土壌水分)の測定結果である。
図11図11は、ミニトマト育成時の第1のセンサからの無線信号間隔である。
図12図12は、図7の気温と図11の無線信号間隔との相関を示した図である。
図13図13は、図7の湿度と図11の無線信号間隔との相関を示した図である。
図14図14は、図7の地温と図11の無線信号間隔との相関を示した図である。
図15図15は、図8の飽差と図11の無線信号間隔との相関を示した図である。
図16図16は、図9の日射量と図11の無線信号間隔との相関を示した図である。
図17図17は、図9の二酸化炭素濃度と図11の無線信号間隔との相関を示した図である。
図18図18は、図10の土壌水分と図11の無線信号間隔との相関を示した図である。
図19図19は、コントローラの構成の概略図である。
図20図20は、コントローラで行われる演算処理の流れを表したフローチャートである。
図21図21は、コントローラで行われる演算処理の流れを表したフローチャートである。
図22図22は、昼間の無線信号間隔と日射量の測定値とを示した図である。
図23図23は、夜間の無線信号間隔と土壌水分割合の測定値とを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.植物育成システム、コントローラ、植物育成方法、及び、コンピュータプログラムの概要>
【0012】
(1)本実施の形態に従う植物育成システムは、植物中の水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサと、環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサと、育成対象の植物を第1のセンサが測定することによって得られた第1のセンサからのセンサ信号と、育成対象の植物を育成する環境を第2のセンサが測定することによって得られた第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、育成対象の植物の育成環境のうちの、第2のセンサで測定される環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御するコントローラと、を備える。
【0013】
第1のセンサと第2のセンサとを用いることで、環境条件の測定値に加えて、育成対象の植物の実際の状態を表す測定値を用いて環境パラメータの適否を判定している。これにより、実際の植物の状態を考慮して育成管理を行うことができる。
【0014】
(2)好ましくは、第1のセンサは、第1の電極及び第2の電極を有し、水分量に応じたセンサ信号を出力することは、第1の電極及び第2の電極の間に存在する水分中の電解質によって生じる電気エネルギー量に応じた時間間隔でセンサ信号を出力することを含む。これにより、時間間隔によって育成対象の植物の状況を測定できる。
【0015】
(3)好ましくは、第1の電極と第2の電極との少なくとも一方は育成対象の植物に取り付けられる。これにより、育成対象の植物中の水分量を得ることができる。
【0016】
(4)好ましくは、第1の電極と第2の電極とのうちの一方電極は育成対象の植物に取り付けられ、他方電極は植物の育成される培地に設置される。これにより、育成対象の植物及び培地中の水分量を得ることができる。
【0017】
(5)好ましくは、コントローラは、特定の環境パラメータについて第1のセンサからのセンサ信号についての第1の閾値、及び、第2のセンサからのセンサ信号についての第2の閾値を記憶し、第1のセンサからのセンサ信号と第1の閾値との比較、及び、第2のセンサからのセンサ信号と第2の閾値との比較に基づいて特定の環境パラメータを制御する。これにより、実際の植物の状態を考慮して育成管理を行うことができる。
【0018】
(6)好ましくは、コントローラは、第1のセンサからのセンサ信号と第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、特定の環境パラメータのうちの第1の環境パラメータを制御し、第1の環境パラメータの制御の後に得られた第1のセンサからのセンサ信号と第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、特定の環境パラメータのうちの第2の環境パラメータを制御する。これにより、第1の環境パラメータの影響を排した後に第2の環境パラメータを制御できる。
【0019】
(7)好ましくは、第1の環境パラメータ及び第2の環境パラメータは第1のセンサからのセンサ信号の出力と所定以上の相関を有するパラメータであって、第1の環境パラメータが第2の環境パラメータよりも相関が高い。相関性の高い環境パラメータから順に制御することでより高精度に環境条件を調整できる。
【0020】
(8)好ましくは、第1の環境パラメータは、育成対象の植物周囲の空気の飽差である。発明者らの測定及び分析によって、飽差は第1のセンサからのセンサ信号の出力に対して高い相関性を示すことが確認された。そのため、飽差を最初に制御することで高精度に環境条件を調整できる。
【0021】
(9)本実施の形態に従うコントローラは、植物中の水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサからのセンサ信号の入力を受け付けるための第1の入力部と、環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサからのセンサ信号の入力を受け付けるための第2の入力部と、育成対象の植物を第1のセンサが測定することによって得られた第1のセンサからのセンサ信号と、育成対象の植物を育成する環境を第2のセンサが測定することによって得られた第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、育成対象の植物の育成環境のうちの、第2のセンサで測定される環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御するためのプロセッサと、を備える。
【0022】
(10)本実施の形態に従う植物育成方法は、水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサを用いて、育成対象の植物中の水分量を示すデータを得、環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサを用いて、育成対象の植物周囲の環境条件を示すデータを得、第1のセンサからのセンサ信号と、第2のセンサからのセンサ信号とを用いて、育成対象の植物の育成環境のうちの、第2のセンサで測定される環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御する、ことを含む。第1のセンサと第2のセンサとを用いることで、環境条件の測定値に加えて、育成対象の植物の実際の状態を表す測定値を用いて環境パラメータの適否を判定している。これにより、実際の植物の状態を考慮して育成管理を行うことができる。
【0023】
(11)本実施の形態に従うコンピュータプログラムはコンピュータに植物育成のための制御を実行させるプログラムであって、制御は、水分量に応じたセンサ信号を出力する第1のセンサから、育成対象の植物中の水分量を示すデータを得ることと、環境条件の測定値に応じたセンサ信号を出力する第2のセンサから、育成対象の植物周囲の環境条件を示すデータを得ることと、第2のセンサで測定される環境条件に応じた特定の環境パラメータについての第1のセンサからのセンサ信号についての第1の閾値と第1のセンサからのセンサ信号とを比較し、第2のセンサからのセンサ信号についての第2の閾値と第2のセンサからのセンサ信号とを比較することと、比較の結果に基づいて環境条件に応じた特定の環境パラメータを制御することと、を含む。第1のセンサと第2のセンサとを用いることで、環境条件の測定値に加えて、育成対象の植物の実際の状態を表す測定値を用いて環境パラメータの適否を判定している。これにより、実際の植物の状態を考慮して育成管理を行うことができる。
【0024】
<2.植物育成システム、コントローラ、植物育成方法、及び、コンピュータプログラムの例>
【0025】
[第1の実施の形態]
【0026】
図1を参照して、本実施の形態に係る植物育成システム(以下、システム)100は、ビニルハウスや植物工場などの施設Hにおいて植物Pを育成するために用いられる。施設Hには、育成環境の調整手段の一例として、窓51、空調設備52、及び、照明装置53が設けられている。
【0027】
窓51、空調設備52、及び、照明装置53は、それぞれ、開閉を調整するための調整部50A、オンオフや強弱を調整するための調整部50B,50Cを有している。調整部50A,50B,50Cを代表させて調整部50とも称する。これにより、施設H内の植物Pの育成のための環境条件が調整される。
【0028】
植物Pの育成のための環境条件は、1又は複数の環境パラメータを含む。環境パラメータは、植物Pの育成に必要であって、育成に影響するパラメータである。環境パラメータは、例えば、気温、地温、湿度、飽差、日射量、土壌水分量、などである。
【0029】
システム100は、調整部50を制御するコントローラ10を含む。コントローラ10は、例えばコンピュータによって構成されている。コントローラ10は調整部50と通信可能に接続されて、調整部50に対して開閉や、オンオフや、強弱の調整を指示する制御信号を出力する。コントローラ10は、施設H内、又はその近傍に設置されてもよい。又は、コントローラ10はインターネットなどの通信網を介して通信することで、施設Hから離れた、遠隔に設置されるものであってもよい。
【0030】
システム100は、植物P中の水分量を測定するための検出装置20を有する。検出装置20は、施設H内の植物Pに対して設置され、植物P中の水分量に応じたセンサ信号SG1を出力するセンサSE1を有する。詳しくは、検出装置20は、第1電極21及び第2電極22を備える。第1電極21と第2電極22との間に介在する電解質によって、電気エネルギーが発生する。このように第1電極21及び第2電極22は、化学電池(ガルバニ電池)における電極として機能し、発電部23(図2)を構成する。
【0031】
センサSE1は、第1電極21と第2電極22との間で生じる電気エネルギーを検出し、電気エネルギーを示すセンサ信号SG1を出力する。センサ信号SG1は、例えば、無線によって、センサSE1からコントローラ10へ送信される。センサ信号SG1は、有線で送信されてもよい。なお、センサSE1の仕組みについては後述する。
【0032】
第1電極21及び第2電極22の少なくとも一方は植物Pに取り付けられる。植物Pに取り付けられることは、植物Pの内部に接するように設置されることを指し、一例として、幹中に差し込むことである。第1電極21及び第2電極22は、差し込みが容易となるように、例えば、針状に形成される。
【0033】
一例として、第1電極21は、培地S中に設置される。第1電極21は、例えば、地表から地中に差し込むことによって設置される。第1電極21は、例えば、植物Pの近傍に設置される。第2電極22は、植物Pに取り付けられる。第2電極22は、例えば、植物の幹に取り付けられる。第2電極22は、植物Pの枝に取り付けられてもよい。第2電極22は、植物P中に差し込まれることによって植物P中の樹液(sap)と接触する。この場合、センサ信号SG1は、第1電極21と第2電極22との間に介在する培地S及び植物Pとに含まれる電解質を表している。
【0034】
他の例として、第1電極21及び第2電極22のいずれもが植物Pに取り付けられてもよい。この場合、センサ信号SG1は、植物Pに含まれる電解質を表している。
【0035】
システム100は、さらに、環境条件を測定するための第2のセンサSE2を有する。センサSE2は、環境条件に含まれる環境パラメータを測定する。センサSE2は、例えば、温度計、湿度計、照度計、及び、これらのうちの2以上の組み合わせなどである。
【0036】
センサSE2は、測定した環境パラメータの値に応じたセンサ信号SG2を出力する。センサ信号SG2は、例えば、無線によって、センサSE2からコントローラ10へ送信される。センサ信号SG2は、有線で送信されてもよい。
【0037】
コントローラ10は、センサ信号SG1及びセンサ信号SG2を用いて演算処理を実行し、その処理結果に従って植物Pの育成のために調整部50を制御する。コントローラ10での演算処理については後述する。
【0038】
センサSE1での植物P中の水分量のセンシングについて、図2図7を用いて説明する。図2は、センサSE1の回路構成の概略図である。図2を参照して、センサSE1は、蓄電部24を有する。蓄電部24は、例えば、キャパシタ(コンデンサ)により構成される。蓄電部24は、電極21,22間で生じる電気エネルギー(電荷)を蓄える。
【0039】
センサSE1は、間欠電源部25を備える。蓄電部24に所定量の電荷が蓄えられると、間欠電源部25は、その電荷を放出させることによって電力を受け、作動する。蓄電部24から電荷が放出されると発電部23によって蓄電部24に再び電荷が蓄えられる。したがって、蓄電部24は、電荷の蓄積(充電)と放出(放電)とが繰り返し行われ、間欠電源部25は、蓄電部24が放電する度に間欠的に作動する。
【0040】
センサSE1は、発電部23によって発電された電力によって、検出信号を送信することができるため、発電部23以外の電源(電池等)を必要としない。
【0041】
図3は、発電部23によって発電された電力を、蓄電容量10mFの蓄電部24に蓄えた場合における蓄電部24の電圧特性の例を示している。図3に示すように、約1時間後に、蓄電部24の電圧は約0.8Vになる。間欠電源部25は、例えば、0.8Vが動作電圧であり、蓄電部24の電圧が0.8Vを超えると、蓄電部24に蓄えられた電力を、送信機26の電源電力として出力する。蓄電部24に蓄えられた電力が送信機26によって消費されると、蓄電部24には、再び電力が蓄えられる。蓄電部24の電圧が、間欠電源部25の動作電圧に達するまでの時間は、発電部23の発電量に依存して変化する。
【0042】
送信機26は、間欠電源部25から間欠的に供給される電力を受けてセンサ信号SG1を送信する送信動作を間欠的に行う。図4は、例えば、送信機26が、約1時間ごとにセンサ信号SG1を送信することを示している。発電部23の発電量が多くなると、送信機26が必要な電力が蓄電部24に蓄えられる時間が短くなるため、送信機26は頻繁にセンサ信号SG1を送信することができる。例えば、図5に示すように、発電部23の発電量が多くなると、送信機26は、例えば、約30分ごとにセンサ信号SG1を送信し、送信間隔が小さくなる。このように、間欠的に送信されるセンサ信号SG1の間隔(以下、無線信号間隔とも称する)は、発電部23の発電量を示す。本実施形態では、間欠的に送信されるセンサ信号SG1を、発電部23によって生じた電気エネルギーの検出信号として扱う。
【0043】
図6は、発電部23による発電の原理を示している。培地S中に設置される第1電極21は、カソードである。第1電極21は、ステンレス鋼などの不活性金属によって構成される。植物Pに取り付けられる第2電極22は、アノードである。第2電極22は、活物質を含む。活物質は、例えば、Znである。
【0044】
培地Sは、一般に、負に帯電しており、土中の陽イオン(K,Ca2+,Mg2+など)を吸着している。陽イオンは、イオン交換により、植物Pの根から吸収され、植物Pの樹液中の水素イオンが、培地S中に放出される。植物Pに吸収された陽イオンは、植物Pの養分となる。
【0045】
植物Pに挿入された第2電極(Zn)22は、酸化してZnイオンとなり、樹液中に溶解する。これにより、電子が、第2電極22から第1電極21へ流れる。土中に放出された水素イオンは、第1電極21において、第2電極22から流れてきた電子によって、水素に還元する。したがって、発電部23による発電の量は、植物Pの樹液及び培地S中の水素イオンの量に依存する。
【0046】
発電部23による発電の量は、電極間の水分量に対する依存性を有する。電気エネルギーが生じるには、植物P中の水素イオンが第1電極21に到達する必要がある。しかし、電極間の水分が少ないと、水素イオンが第1電極21に到達し難くなり、発電量が低下する。
【0047】
第1電極21及び第2電極22の少なくとも一方が植物Pに設置されていることで、発電部23による発電量の変化は植物P中の水分量の変化を示すことになる。また、第1電極21及び第2電極22が、それぞれ、植物P側及び培地S側に配置されていることで、発電部23による発電量の変化は植物P及び培地S中の水分量の変化を示すことになる。
【0048】
第1電極21及び第2電極22間の水分量、すなわち、植物P中の水分量は、植物Pが光合成を活発に行っているほど増加する。すなわち、植物Pは、光合成のため、陽イオンを含む水を根から吸い上げるため、植物Pが光合成を活発に行っているほど発電部23の発電量が増加する。従って、電極間の水分量の水分量は、植物Pの育成状況を表すことにもなる。
【0049】
また、上記のように、発電部23の発電量が多くなると無線信号間隔が小さくなる。そのため、植物Pが光合成を活発に行っているほど無線信号間隔が小さくなる。つまり、無線信号間隔は、植物Pの育成状況を表すことにもなる。
【0050】
なお、検出装置20は植物P中の水分量を測定するための装置であるため、上記のセンサSE1を有する装置に限定されない。例えば、サップフローセンサを有し、樹液量を計測する装置であってもよい。
【0051】
植物Pの光合成は、環境条件の影響を受ける。例えば、光合成は日射量の影響を受ける。そのため、発電部23の発電量は環境条件も表していると考察される。この考察を検証するため、発明者らは特定の植物Pについて環境条件に含まれる複数の環境パラメータそれぞれと、無線信号間隔とを測定し、その関係を解析した。
【0052】
まず、発明者らは、施設Hで育成されているミニトマトの品種「アイコ」を育成対象の植物Pとし、理想的な育成状態であるときに第2のセンサSE2を用いて数日間にわたって環境パラメータを測定して図7図10の結果を得た。図7は気温、地温、及び湿度の測定結果、図8は飽差の測定結果、図9は日射量及び二酸化炭素濃度の測定結果、並びに、図10は培地Sの水分割合(土壌水分)の測定結果である。図7図10の横軸は時間軸で日時を表し、縦軸が各環境パラメータの測定値を表している。図7図10のグレーに着色された区間は午後6時~午前6時の夜間の期間を表している。
【0053】
また、発明者らは、同時に第1のセンサSE1を用いて植物P中の水分量を数日間にわたって測定し、図11の結果を得た。図11の横軸は時間軸で日時を表し、縦軸が時間軸で無線信号間隔を表している。
【0054】
図7図10を参照して、いずれの環境パラメータも一日周期の増減を繰り返す、サーカディアンリズムを示している。これは、図9に示されたように日射量が一日周期の増減を繰り返し、それによって各環境パラメータが影響を受けるためである。
【0055】
また、図11を参照して、無線信号間隔もサーカディアンリズムを示している。これは、植物Pの光合成は昼間において優位となり、呼吸は夜間において優位となるためである。従って、図7図10図11とを比較すると、各環境パラメータの測定値と無線信号間隔とは相関があることが推測される。
【0056】
この推測を検証するため、発明者らは、気温、湿度、地温、飽差、日射量、二酸化炭素濃度、及び、培地Sの水分割合(土壌水分)の測定値と無線信号間隔との相関値を算出し、それぞれ、図12図18の結果を得た。また、これら結果から得られた各環境パラメータの相関係数は以下の通りである。
気温:0.737447536
湿度:-0.763352535
地温:0.399763803
飽差:0.810709863
日射量:0.794373128
二酸化炭素濃度:-0.519718622
培地Sの水分割合:0.01631674
【0057】
図12図18、及び、算出された相関係数より、±0.8~±1.0の範囲にある飽差については無線信号間隔に対して強い相関があると言える。また、±0.40~±0.79の範囲にある日射量、湿度、気温、及び、二酸化炭素濃度については無線信号間隔に対して中程度の相関があると言える。また、この順に相関性が高いと言える。また、±0.20~±0.39の範囲にある地温については無線信号間隔に対して弱い相関があると言える。なお、それ以下の培地Sの水分割合については、この測定結果からは相関があると言えない。
【0058】
以上の測定及び解析より、育成対象の植物Pの環境条件のうちの特定の環境パラメータについては、理想的な値の時間変化と無線信号間隔とに高い相関性があることが分かった。そこで、システム100では、第1のセンサSE1で得られた無線信号間隔と、第2のセンサSE2で得られた環境パラメータの測定値とを用いて、植物Pの育成を管理する。コントローラ10の実行する演算処理は、植物Pの育成を管理するための処理である。
【0059】
図19を参照して、コントローラ10は、プロセッサ11とメモリ12とを有するコンピュータで構成される。メモリ12は、一次記憶装置であってもよいし、二次記憶装置であってもよい。
【0060】
コントローラ10は、センサSE1,SE2と無線通信するための第1通信装置14とを有する。第1通信装置14は、第1のセンサSE1からのセンサ信号SG1の入力を受け付ける第1の入力部として機能し、かつ、第2のセンサSE2からのセンサ信号SG2の入力を受け付ける第2の入力部として機能する。コントローラ10は、調整部50と通信するための第2通信装置13をさらに有する。第1通信装置14及び第2通信装置13は共通であってもよい。
【0061】
メモリ12は、変化モデルデータベース(DB)121と、閾値DB122と、を有する。変化モデルDB121は、後述するモデル変化を登録するデータベースである。モデル変化は、育成対象の植物Pが理想的な育成状態であるときの無線信号間隔の変化を指す。植物Pがミニトマトの品種「アイコ」であるときに変化モデルは、例えば、図11に示された無線信号間隔の変化である。
【0062】
モデル変化は、メモリ12に予め登録されていてもよいし、植物Pを育成しながら学習し、更新されてもよい。また、モデル変化は、サーバなどのコントローラ10とは異なる装置に登録され、インターネットなどの通信網を介してコントローラ10が取得してもよい。
【0063】
閾値DB122は環境パラメータごとに、植物Pの育成に適切、不適切の境界となる閾値を登録するデータベースである。閾値は、メモリ12に予め登録されていてもよいし、植物Pを育成しながら学習し、更新されてもよい。また、閾値は、サーバなどのコントローラ10とは異なる装置に登録され、インターネットなどの通信網を介してコントローラ10が取得してもよい。
【0064】
また、メモリ12は、第1のセンサSE1から取得したセンサ信号SG1に関する情報を記憶するための記憶領域である第1センサ信号記憶部123と、第2のセンサSE2から取得したセンサ信号SG2に関する情報を記憶するための記憶領域である第2センサ信号記憶部124とを有する。センサ信号SG1に関する情報は、センサ信号SG1の受信間隔を示すデータを含み、例えば、無線信号間隔である。センサ信号SG2に関する情報は、環境パラメータの測定値や、測定値から計算された値、などである。
【0065】
また、メモリ12は、プロセッサ11によって実行されるプログラム125を記憶している。プロセッサ11は、プログラム125を実行することによって、植物Pの育成を管理するための演算処理を実行する。
【0066】
プロセッサ11が実行する演算処理は、抽出処理111を含む。抽出処理111は、第1センサ信号記憶部123及び第2センサ信号記憶部124から、植物Pの育成の管理に必要な制御のための期間のセンサ信号SG1に関する情報及びセンサ信号SG2に関する情報を抽出する処理である。
【0067】
演算処理は、さらに、算出処理112を含む。算出処理112は、センサ信号SG2を用いて環境パラメータの値を算出する処理であって、プロセッサ11は必要に応じて算出処理112を実行する。例えば、環境パラメータとして飽差を用いる場合、プロセッサ11は、温度計から得られた温度、及び、湿度計から得られた湿度を用いて飽差の値を算出してもよい。
【0068】
演算処理は、さらに、判定処理113を含む。判定処理113は、植物Pの育成条件が適切であるか否かを判定する処理である。判定処理113は、第2のセンサ信号SG2を閾値と比較する第1比較処理114と、第1のセンサ信号SG1を変化モデルと比較する第2比較処理115と、を含む。そして、判定処理113でプロセッサ11は、第1比較処理114の結果及び第2比較処理115の結果に基づいて、植物Pの育成条件が適切であるか否かを判定する。
【0069】
演算処理は、さらに、制御処理116を含む。制御処理116は、判定処理113での判定結果に基づいて環境パラメータを制御する処理である。環境パラメータを制御する処理は、対象の環境パラメータに関連する機構を動作させるための調整部50に、必要な動作させるための制御信号を第2通信装置13に渡して調整部50に送信させる処理を含む。これにより、判定処理133での判定結果に従って植物Pの育成に適するように環境パラメータが制御される。
【0070】
図1を用いて、本システムでの植物Pの育成方法について説明する。図1を参照して、システム100では、第1のセンサSE1を用いて、植物P中の水分量を示すデータを得る(ステップS1)。植物P中の水分量を示すデータは、コントローラ10のプロセッサ11によって、センサ信号SG1の受信間隔を測定することによって得られる。
【0071】
また、システム100では、第2のセンサSE2を用いて、植物P周囲の環境条件を示すデータを得る(ステップS2)。植物P周囲の環境条件を示すデータは、コントローラ10のプロセッサ11によって、センサ信号SG2から測定値を読み出す、又は、センサ信号SG2の示す値を用いて算出する、などによって得られる。
【0072】
システム100では、植物P中の水分量を示すデータ及び植物P周囲の環境条件を示すデータを用いて、植物Pの育成環境のうちの、制御対象の環境パラメータについて育成に適しているか否かが判定され(ステップS3)、その結果に従って制御対象の環境パラメータが制御される(ステップS4)。環境パラメータの制御は、例えば、温度を低下させる、湿度を上昇させる、飽差を上昇させる、水分割合を上昇させる、などであり、ステップS4ではそのために、必要な機構の調整部50に対して動作を指示する制御信号が出力される。例えば、飽差を上昇させる場合、調整部50A及び調整部50Bそれぞれに対して、窓51を閉め、空調設備52の温度を上昇させるための制御信号を出力する。
【0073】
システム100では、ステップS4の制御を受けて調整部50が動作し(ステップS5)、これにより環境パラメータが制御される。上の例の場合、窓51が閉まり、空調設備52の温度が上昇する。これにより、飽差が上昇する。
【0074】
図20及び図21のフローチャートを用いて、コントローラ10で行われる演算処理について説明する。図20のフローチャートに示された演算処理は、環境パラメータを調整するタイミングに行われる。環境パラメータを調整するタイミングは、例えば、一定の時間間隔や、所定のイベント発生時、などである。そして、そのタイミングより前の所定期間、第1のセンサSE1からのセンサ信号SG1に基づくデータ、及び、第2のセンサSE2からのセンサ信号SG2に基づくデータが、それぞれ、メモリ12の第1センサ信号記憶部123及び第2センサ信号記憶部124に記憶されている。
【0075】
図20を参照して、制御のタイミングとなると、コントローラ10のプロセッサ11は、第2センサ信号記憶部124から、判定に用いる期間の、制御対象の環境パラメータに関連するセンサ信号SG2に基づくデータを読み出す(ステップS101)。
【0076】
好ましくは、制御対象の環境パラメータは、無線信号間隔との相関性が高いものである。発明者らの上記の測定及び解析に基づくと、より好ましくは、飽差を制御対象の環境パラメータとする。より好ましくは、環境条件に含まれる複数の環境パラメータを制御対象とし、その場合、無線信号間隔との相関性が高い順に制御する。従って、上記ステップS101ではプロセッサ11は、飽差を得るためのセンサ信号SG2に基づくデータである温度及び湿度の測定値を、判定に用いる期間分、読み出す。そして、プロセッサ11は、読み出した測定値を用いて、判定に用いる期間の飽差を算出する(ステップS103)。ここで算出される飽差は、例えば、判定に用いる期間の飽差の変化である。なお、飽差は、飽差計を用いて測定されるものであってもよく、その場合、ステップS103の処理は不要となる。
【0077】
プロセッサ11は、算出した飽差の値と閾値DB122に登録されている飽差の閾値とを比較する(ステップS105)。登録されている飽差の閾値は、例えば、特定の期間の飽差の閾値群である。特定の期間は、例えば一日であって、その場合、飽差の閾値は図8に示された一日分周期の変化となる。
【0078】
プロセッサ11は、計算又は測定された飽差の閾値からの乖離が、予め記憶している許容範囲以上であった場合に、飽差に関しては理想的な環境条件でない可能性があると判定する(ステップS107でNG)。上記許容範囲内であった場合には、飽差に関しては理想的な環境条件と判定する(ステップS107でOK)。
【0079】
飽差に関して理想的な環境条件でない可能性がある場合(ステップS107でNG)、プロセッサ11は、第1センサ信号記憶部123から、判定に用いる期間のセンサ信号SG1に基づくデータを読み出す(ステップS109)。そして、プロセッサ11は、読み出したデータから、判定に用いる期間の無線信号間隔を算出する(ステップS111)。
【0080】
プロセッサ11は、判定に用いる期間について得られた無線信号間隔の変化と、変化モデルDB121に登録されている変化モデルとを比較する(ステップS113)。登録されている変化モデルは、例えば、特定の期間の飽差の変化である。特定の期間は、例えば一日であって、その場合、飽差の閾値は図11に示された一日分周期の変化となる。
【0081】
プロセッサ11は、無線信号間隔の変化の変化モデルからの乖離が、予め記憶している許容範囲以上であった場合(ステップS115でNG)、プロセッサ11は、上記したような飽差の制御を実行する(ステップS117)。
【0082】
無線信号間隔の変化の変化モデルからの乖離が上記許容範囲内であった場合には(ステップS115でOK)、プロセッサ11は、他の環境パラメータについて育成に不適切である可能性を考慮する。好ましくは、プロセッサ11は、無線信号間隔との相関性が次に高い環境パラメータについて判定を行う。
【0083】
すなわち、プロセッサ11は、センサ信号SG2に基づくデータを読み出して他の環境パラメータについての測定値を得、閾値と比較する(ステップS119)。ステップS119は、ステップS101~S105と同様の処理である。そして、他の環境パラメータの値の閾値からの乖離が、予め記憶している許容範囲以上であった場合に(ステップS121でNG)、その環境パラメータを制御する(ステップS123)。
【0084】
すなわち、プロセッサ11は、環境条件に含まれるすべての環境パラメータについて、同様に判定し、すべての環境パラメータの値について、閾値からの乖離が予め記憶している許容範囲内であった場合には(ステップS121でOK)、処理を終了する。
【0085】
ステップS117又はステップS123で環境パラメータの制御を実行すると、プロセッサ11は、次の環境パラメータについて制御を行う。このため、プロセッサ11は、制御を行う順を予め記憶しておき、順に実行する。制御を行う順は、一例として、無線信号間隔との相関性の高い順である。他の例として、制御しやすい順や、植物Pの育成に影響しやすい順であってもよい。
【0086】
図21を参照して、プロセッサ11は、次に制御対象とする環境パラメータがある場合(ステップS201でYES)、センサ信号SG2に基づくデータを読み出して他の環境パラメータについての測定値を得、閾値と比較する(ステップS203,S205)。ステップS203,S205はステップS101~S105と同様の処理である。そして、その環境パラメータの値の閾値からの乖離が、予め記憶している許容範囲以上であった場合に、その環境パラメータに関しては理想的な環境条件でない可能性があると判定する(ステップS207でNG)。上記許容範囲内であった場合には、飽差に関しては理想的な環境条件と判定する(ステップS207でOK)。
【0087】
制御対象の環境パラメータに関して理想的な環境条件でない可能性がある場合(ステップS207でNG)、プロセッサ11は、第1センサ信号記憶部123から、判定に用いる期間のセンサ信号SG1に基づくデータを読み出す(ステップS209)。そして、プロセッサ11は、読み出したデータから、判定に用いる期間の無線信号間隔を算出する(ステップS211)。
【0088】
このとき読み出されて算出される無線信号間隔は、ステップS117又はステップS123で環境パラメータの制御が行われた後の植物Pから測定されたセンサ信号SG1に基づくものである。すなわち、ステップS117又はステップS123によって対象の環境パラメータが適切な値となるように制御され、その影響が排された後の植物Pの状態となる。このように制御後にさらに他の環境パラメータの制御の要否を判定することで、環境パラメータの影響を順に排しながら植物Pの育成環境を適正化することができる。
【0089】
以降、プロセッサ11は、図20と同様の処理を行う。すなわち、プロセッサ11は、判定に用いる期間について得られた無線信号間隔の変化と、変化モデルDB121に登録されている変化モデルとを比較し(ステップS213)、無線信号間隔の変化の変化モデルからの乖離が、予め記憶している許容範囲以上であった場合に、その環境パラメータに関しては理想的な環境条件ではないと判定する(ステップS215でNG)。この場合、プロセッサ11は、その環境パラメータの制御を実行する(ステップS217)。
【0090】
また、無線信号間隔の変化の変化モデルからの乖離が上記許容範囲内であった場合(ステップS215でOK)、プロセッサ11は、さらに他の環境パラメータについての測定値を得て、閾値と比較する(ステップS219)。そして、他の環境パラメータの値の閾値からの乖離が、予め記憶している許容範囲以上であった場合に(ステップS221でNG)、その環境パラメータを制御する(ステップS223)。プロセッサ11は、すべての環境パラメータについて上記の処理を繰り返す。
【0091】
本システム100は、上記のように、環境条件の測定値に加えて、植物Pの実際の状態を表す測定値である無線信号間隔を用いて環境パラメータの適否を判定している。つまり、本システム100では、実際の植物の状態を考慮して育成管理を行うことができる。
【0092】
[第2の実施の形態]
【0093】
なお、第1の実施の形態に係るシステム100は、コントローラ10が調整部50を制御することで実際の環境パラメータを適した値に変更するものである。育成の管理することは、この手法に替えて、又は、この手法に加えて、他の手法を含んでもよい。他の手法は、例えば、他の装置に判定結果を出力することであってよい。
【0094】
具体的には、第2の実施の形態に係るシステム100は、他の装置として、図1に示されたように端末装置70を含んでもよい。端末装置70は、例えば、植物Pの育成を管理する作業者の携帯するタブレット端末などが想定される。この場合、図1に示されたように、コントローラ10はステップS3の判定を行い、その結果を示すデータを端末装置70に送信する(ステップS4-2)。
【0095】
このデータを受信した端末装置70では、ディスプレイに判定結果を表示させることができる(ステップS5-2)。これにより、作業者は環境パラメータについて変更する必要を知ることができる。そのため、この手法であっても、適切な環境条件とすることができる。
【0096】
[第3の実施の形態]
【0097】
なお、無線信号間隔と環境パラメータの測定値との相関係数を、特定の時間帯について算出してもよい。植物Pの光合成も環境パラメータも日照の影響を受けるためである。例えば、無線信号間隔と日射量の測定値とを昼間だけ抽出すると、図22に示されたように強い相関を示す。また、無線信号間隔と土壌水分割合の測定値とを夜間だけ抽出すると、図23に示されたように強い相関を示す。
【0098】
第3の実施の形態に係るシステム100では、コントローラ10のメモリ12には、変化モデルは時間帯別に記憶され、判定に用いる期間の時間帯に応じた変化モデルが用いられてもよい。
【0099】
これにより、相関係数をより向上させることができ、環境条件の調整の精度を向上させることができる。
【0100】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0101】
10 :コントローラ
11 :プロセッサ
12 :メモリ
13 :第2通信装置
14 :第1通信装置
20 :検出装置
21 :第1電極
22 :第2電極
23 :発電部
24 :蓄電部
25 :間欠電源部
26 :送信機
50 :調整部
50A :調整部
50B :調整部
50C :調整部
51 :窓
52 :空調設備
53 :照明装置
70 :端末装置
100 :システム
111 :抽出処理
112 :算出処理
113 :判定処理
114 :第1比較処理
115 :第2比較処理
116 :制御処理
121 :変化モデルDB
122 :閾値DB
123 :第1センサ信号記憶部
124 :第2センサ信号記憶部
125 :プログラム
133 :判定処理
H :施設
P :植物
S :培地
SE1 :第1のセンサ
SE2 :第2のセンサ
SG1 :第1のセンサ信号
SG2 :第2のセンサ信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23