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特許7390656インク、貼付用キット、貼付用シート、及び貼付用シートを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】インク、貼付用キット、貼付用シート、及び貼付用シートを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/03 20140101AFI20231127BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20231127BHJP
   C09D 11/033 20140101ALI20231127BHJP
   C08B 16/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C09D11/03
C09D11/106
C09D11/033
C08B16/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020027438
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021130786
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】楠亀 晴香
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】川島 知子
(72)【発明者】
【氏名】谷池 優子
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-517268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C08B 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生セルロースを含む生体適合膜を着色するインクであって、
水と、
顔料と、
24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有するポリマーを含むバインダーと、を含有している、
インク。
【請求項2】
前記ポリマーは、アクリル系ポリマーを含む、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記顔料の含有量に対する前記バインダーの含有量の比は、質量基準で0.1以上8以下である、請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
2価アルコール及び3価アルコールの少なくとも1つをさらに含有している、請求項1から3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
前記顔料及び前記バインダーの少なくとも1つを分散させる分散剤をさらに含有している、請求項1から4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のインクと、
再生セルロースを含む生体適合膜と、を備え、
前記生体適合膜の表面における水の接触角が0°より大きく100°以下である、
貼付用キット。
【請求項7】
前記再生セルロースは、150,000以上の重量平均分子量を有し、
前記生体適合膜は、20nm以上1300nm以下の厚さを有する、
請求項6に記載の貼付用キット。
【請求項8】
前記再生セルロースは、12%以下の結晶化度を有する、請求項6又は7に記載の貼付用キット。
【請求項9】
前記生体適合膜は、生体に有効な成分を含有している、請求項6から8のいずれか1項に記載の貼付用キット。
【請求項10】
貼付用シートであって、
再生セルロースを含む生体適合膜と、
顔料及びバインダーを含有し、前記貼付用シートの表面の少なくとも一部をなすインクの固化物と、を備え、
前記生体適合膜の表面における水の接触角が0°より大きく100°以下であり、
前記バインダーは、24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有するポリマーを含む、
貼付用シート。
【請求項11】
前記ポリマーは、アクリル系ポリマーを含む、請求項10に記載の貼付用シート。
【請求項12】
前記固化物において、前記顔料の含有量に対する前記バインダーの含有量の比は、質量基準で0.1以上8以下である、請求項10又は11に記載の貼付用シート。
【請求項13】
前記再生セルロースは、150,000以上の重量平均分子量を有し、
前記生体適合膜は、20nm以上1300nm以下の厚さを有する、
請求項10から12のいずれか1項に記載の貼付用シート。
【請求項14】
前記再生セルロースは、12%以下の結晶化度を有する、請求項10から13のいずれか1項に記載の貼付用シート。
【請求項15】
前記生体適合膜は、生体に有効な成分を含有している、請求項10から14のいずれか1項に記載の貼付用シート。
【請求項16】
再生セルロースを含む生体適合膜の表面に、請求項1から5のいずれか1項に記載のインクを塗布することと、
前記表面に塗布された前記インクを乾燥させることと、を含み、
前記表面における水の接触角が0°より大きく100°以下である、
貼付用シートを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インク、貼付用キット、貼付用シート、及び貼付用シートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、再生セルロースを含む生体貼付用膜が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、重量平均分子量が150,000以上の再生セルロースで構成された、20nm以上1300nm以下の厚さを有する生体貼付用膜が記載されている。この生体貼付用膜は、接着剤なしに皮膚に貼付可能であり、皮膚に長時間貼り付けられた場合でも皮膚にストレスを与えにくい。
【0004】
一方、従来、生体安定性が高いインクについて検討されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、生体安定性が高いインクジェット用インクが記載されている。このインクジェット用インクは、顔料と、アクリル系粒子と、アルコールと、水とを含む。アルコールは3価のアルコールを含んでいる。インクジェット用インクの全質量に対するアルコールの含有量は30質量%以下である。顔料10質量部に対するアクリル系粒子の量が0.5から10質量部である。インクジェット用インクにおいて、皮膚刺激性が陰性である。このインクジェット用インクは、生体適合性を有する材料からなるシートにも印刷可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/092362号
【文献】特開2017-057261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、再生セルロースを含む生体適合膜の着色に使用でき、高い耐水性を有する着色を実現する観点から有利なインクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示におけるインクは、
再生セルロースを含む生体適合膜を着色するインクであって、
水と、
顔料と、
24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有するポリマーを含むバインダーと、を含有している。
【発明の効果】
【0009】
上記のインクは、再生セルロースを含む生体適合膜の着色に使用でき、高い耐水性を有する着色を実現する観点から有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1におけるインク及び実施の形態2における貼付用キットを示す図
図2】天然セルロースのX線回折(XRD)パターンを示すグラフ
図3】実施の形態3における貼付用シートの側面図
図4】実施の形態4における貼付用シートの側面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見)
本発明者らが本開示を想到するに至った当時、特許文献1に記載の通り、再生セルロースで構成された生体貼付膜に関する技術があった。セルロースは、天然に豊富に存在する有機高分子であり、低コストで入手可能な高分子材料である。セルロースは、親水性でありながら水に不溶であること及び生体適合性を有すること等種々の有用な性質を有している。そのため、セルロースは、例えば、衣類用の繊維及び透析膜等の分離膜等の用途で幅広く利用されており、セルロースのさらなる応用が期待されている。
【0012】
セルロースの加工技術についても検討がなされている。例えば、特許文献1に記載の生体貼付用膜は、セルロースをイオン液体で溶解させて加工することによって作製されている。
【0013】
再生セルロースを含む生体適合膜は、皮膚等の生体組織に触れた場合であっても、生体に対して物理的又は化学的なストレスを与えにくく安全性が高い膜である。そのため、例えば、皮膚等の生体組織に貼付可能である生体貼付用膜として使用できる。その場合、生体組織に長時間貼り付けられた場合でも生体組織にストレスを与えにくい。生体適合膜を着色できれば、再生セルロースを含む生体適合膜の用途が広がる。例えば、着色された再生セルロースを含む生体貼付用膜を肌の保護、彩色、又は美化のための化粧用のシートに使用することが考えられる。この他、衣類等の物品に貼付するために、着色された再生セルロースを含む生体適合膜を用いることも考えられる。
【0014】
特許文献1には、再生セルロース膜を着色することが記載されている。しかし、特許文献1では、再生セルロースを含む生体適合膜の着色に適したインクは何ら検討されていない。特許文献2に記載のインクジェット用インクは、生体適合性を有する材料からなるシートにも印刷可能である。一方、特許文献2によれば、このインクジェット用インクのろ紙に対するインクの定着性は評価されているものの、再生セルロースを含む生体適合膜に対するインクの定着性は評価されていない。本発明者らの検討によれば、顔料と、アクリル系ポリマーと、3価のアルコールと、水とを含むインクによって、再生セルロースを含む生体適合膜に対して高い耐水性を有する着色を施すことができるとは限らないことが分かった。このように、本発明者らは再生セルロースを含む生体適合膜に対し高い耐水性を有する着色を施すことは容易でないという課題があることを発見し、この課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0015】
そこで、本開示は、再生セルロースを含む生体適合膜の着色に使用でき、高い耐水性を有する着色を実現する観点から有利なインクを提供する。
【0016】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細な説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0017】
(実施の形態1)
以下、図1を用いて、実施の形態1を説明する。
【0018】
[1-1.構成]
図1に示すインク10は、再生セルロースを含む生体適合膜を着色するインクであり、水と、顔料と、バインダーとを含有している。バインダーは、24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有するポリマーを含む。HSP値は、ハンセン溶解度パラメーターの値である。HSP値は、Hansen Solubility Parameters: A User's Handbook, Second Edition. Charles M. Hansenの記載に準拠した方法によって決定できる。
【0019】
バインダーに含まれるポリマーは、24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有する限り、特定のポリマーに限定されない。そのポリマーは、アクリル系ポリマーであってもよい。アクリル系ポリマーは生体安全性が高く、構造にカルボン酸を持つため、親水基を持つ再生セルロースとなじみやすい。また、アクリル系ポリマーは、種々の置換基の導入及び他のモノマーとの共重合が容易であり物性を制御しやすい。
【0020】
バインダーは、例えば、インク10において溶解可能又は安定的に分散可能である。バインダーは、例えば、インク10において分散している。この場合、インク10においてバインダーが溶解している場合と比べて、インク10の粘度が低くなりやすい。このため、インク10におけるバインダーの濃度を高めやすい。加えて、インク10の粘度が低くなりやすいので、再生セルロースを含む生体適合膜にインク10を塗布する方法が特定の方法に限定されにくい。例えば、アクリル系モノマーを乳化重合させることによってアクリル系ポリマーを含むバインダーが水中に分散した分散液を得ることができる。なお、バインダーは、インク10において溶解していてもよい。
【0021】
アクリル系ポリマーは、薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載されている成分から選択されてもよく、化粧料に用いられている公知のアクリル系ポリマーであってもよい。
【0022】
アクリル系ポリマーの例は、アクリル系モノマーの単独重合体、二種類以上のアクリル系モノマーの共重合体、及びアクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体である。バインダーには、一種類のみのアクリル系ポリマーが含まれていてもよく、二種類以上のアクリル系ポリマーが含まれていてもよい。
【0023】
アクリル系モノマーの例は、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸アミド、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロニトリル、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシロピルアクリレート、グリシジルアクリレート、プロピレングリコールモノアクリレート、酢酸ビニル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸アミド、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ハイドロキシエチル、メタクリル酸フェニル、アクロレイン、クロトン酸、フマール酸、イタコン酸などのジカルボン酸、及びN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート又はそれらの無水物や一部/全てがエステル化した化合物を含む。
【0024】
アクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマーの例は、スチレン、酢酸ビニル、シリコーンマクロマー、ウレタン、テトラフルオロエチレンなどのフッ素系モノマー、エチレン、プロピレン、塩化ビニル等の塩化物系モノマー、及びアルコキシシラン不飽和単量体である。
【0025】
インク10におけるバインダーの含有量は、特定の値に限定されない。インク10におけるバインダーの含有量は、例えば、40質量%以下である。この場合、インク10においてバインダーが凝集しにくい。
【0026】
顔料は、特定の顔料に限定されない。顔料は、公知の無機顔料又は有機顔料であってもよい。顔料の種類は、例えば、再生セルロースを含む生体適合膜の着色に要求される色及び外観に応じて決定される。ここでいう顔料による着色とは、色や質感や光沢などを変化させることに加え、対象物への外部からの光の反射率、屈折率、透過率を変化させることなどを含む。顔料は、インク10を着色するための顔料、体質顔料、又はパール顔料を含んでいてもよい。体質顔料は、例えば、再生セルロースを含む生体適合膜にインクによって形成される層の質感及び光沢を調整する。パール顔料は、再生セルロースを含む生体適合膜にインクによって形成される層に光沢を付与する。インクは、一種類の顔料のみを含有していてもよく、二種類以上の顔料を含有していてもよい。
【0027】
顔料の形状は、特定の形状に限定されない。顔料の形状は、球状であってもよく、針状であってもよく、ロッド状であってもよく、フレーク状であってもよく、繊維状であってもよく、不定形であってもよい。
【0028】
顔料の例として、以下に示す顔料を挙げることができる。
酸化鉄、水酸化鉄、及びチタン酸鉄等の無機赤色顔料
γ-酸化鉄等の無機褐色系顔料
黄酸化鉄及び黄土等の無機黄色系顔料
黒酸化鉄及びカーボンブラック等の無機黒色顔料
酸化チタン等の無機白色顔料
マンガンバイオレット及びコバルトバイオレット等の無機紫色顔料
水酸化クロム、酸化クロム、酸化コバルト、及びチタン酸コバルト等の無機緑色顔料
紺青(フェロシアン化第二鉄)及び群青等の無機青色系顔料
各種タール系色素をレーキ化した顔料
各種天然色素をレーキ化した顔料
上記の顔料の少なくとも1つを含む粉体を樹脂で複合化した合成樹脂粉体
【0029】
体質顔料の例は、タルク、カオリン、無水ケイ酸、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウムである。パール顔料の例は、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆マイカ、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、魚鱗箔、及び酸化チタン被覆着色雲母である。
【0030】
インク10に含まれる水は、顔料及びバインダーの溶媒又は分散媒としての機能を果たす。この水は、再生セルロースを含む生体適合膜にインク10が塗布された後、その膜に吸収されることもあるし、揮発することもある。
【0031】
インク10において、顔料の含有量に対するバインダーの含有量の比は、特定の値に限定されない。その比は、例えば、質量基準で0.1以上8以下である。
【0032】
インク10は、2価アルコール及び3価アルコールの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。2価のアルコールは、特定のアルコールに限定されない。2価のアルコールの例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール、プロピレンジオール、及びヘキサンジオールである。3価アルコールの例は、特定のアルコールに限定されない。3価アルコールは、例えば皮膚刺激性がないアルコールである。3価アルコールの例は、グリセリンである。グリセリンは、高い生体安全性を有する。
【0033】
インク10は、分散剤をさらに含有していてもよい。分散剤は、顔料及びバインダーの少なくとも1つを分散させる。分散剤は、顔料及びバインダーの少なくとも1つを分散させる限り、特定の物質に限定されない。分散剤は、低分子分散剤であってもよく、高分子分散剤であってもよく、無機系分散剤であってもよい。
【0034】
低分子分散剤は、特定の物質に限定されない。低分子分散剤の例は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤である。ノニオン系界面活性剤の例は、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、(ポリ)プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(ポリ)エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステロール・水素添加ステロール、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルである。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの例は、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、及びポリオキシエチレンベヘニルエーテルである。アニオン系界面活性剤の例は、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸エステル塩、及びアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンスルホコハク酸アルキルエステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルカンスルホン酸塩、アシルイセチオネート、アシルメチルタウレート、高級脂肪酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、アシルグルタミン酸塩、アラニン誘導体、グリシン誘導体、アルギニン誘導体である。カチオン系界面活性剤の例は、ステアラミドプロピルジメチルアミンやベヘナミドプロピルジメチルアミン等の脂肪酸アミドアミン塩、セトリモニウムクロリドやステアルトリモニウムクロリドやベヘントリモニウムクロリドやベヘントリモニウムメトサルフェート等のモノアルキル型四級アンモニウム塩、ジステアリルジモニウムクロリドやクオタニウム-18等のジアルキル型四級アンモニウム塩、ジアルキル型四級アンモニウム塩などのベンザルコニウム型四級アンモニウム塩、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、酸化アルコキシプロピルトリメチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、及びアルキルピリジウムクロリドである。両性界面活性剤の例は、アルキルアミドプロピルベタイン類、アルキルカルボキシベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルアミドプロピルベタイン類、アルキルアンフォアセテート類、及びジアセテート類である。
【0035】
高分子分散剤は、特定の物質に限定されない。高分子分散剤の例は、ポリアクリル酸塩、スチレン-マレイン酸共重合物、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアスパラギン酸及びその塩、ポリグルタミン酸及びその塩、ポリアルギン酸及びその塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリマーでんぷん、大豆レシチン誘導体、ポリエチレンイミン、アミノアルキル(メタ)アクリレート共重合物、ポリビニルイミダソリン、サトキンサン、キサンタンガム、及びキトサンである。
【0036】
無機系分散剤は、特定の物質に限定されない。無機系分散剤の例は、ヘキサメタリン酸ナトリウム、無水ピロリン酸ナトリウム、変性ベンナイト、及び合成ヘクトライトである。
【0037】
インク10は、1種類の分散剤のみを含んでいてもよいし、2種類以上の分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載された成分から選択されたものであってもよく、化粧料に使用されている公知の化合物であってもよい。
【0038】
インク10は、他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例は、増粘剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、防腐防カビ剤、脱酸素剤、酸化防止剤、防腐剤、褪色防止剤、消泡剤、香料、一価アルコール、及びアルコール及び水以外の溶媒又は分散媒である。
【0039】
インク10を調製する方法は、特定の方法に限定されない。インク10は、水、顔料、及びバインダー等の成分を十分に混合することによって調製できる。この場合、必要に応じて、水、顔料、及びバインダー以外の成分が添加されうる。混合に用いられる機械は、特定の機械に限定されない。混合に用いられる機械の例は、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、及びホモミキサーである。
【0040】
[1-2.効果等]
以上のように本実施の形態において、インク10は、再生セルロースを含む生体適合膜を着色するインクであり、水と、顔料と、バインダーとを含有している。バインダーは、24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有するポリマーを含む。
【0041】
バインダーに含まれるポリマーが31.0MPa1/2未満であることにより、再生セルロースを含む生体適合膜をインク10で着色したときに、バインダーと水との親和性が低くインク10の固化物の耐水性が高くなりやすい。一方、バインダーに含まれるポリマーが24MPa1/2以上であることにより、バインダーと再生セルロースとの親和性が高く保たれやすい。そのため、再生セルロースを含む生体適合膜に対して高い耐水性を有する着色を実現しやすい。
【0042】
本実施の形態のように、ポリマーは、アクリル系ポリマーを含んでいてもよい。
【0043】
これにより、インク10において、バインダーが溶解又は安定的に分散しやすい。
【0044】
本実施の形態のように、インク10において、顔料の含有量に対するバインダーの含有量の比は、質量基準で0.1以上8以下であってもよい。
【0045】
顔料の含有量に対するバインダーの含有量の比が質量基準で0.1以上であることにより、再生セルロースを含む生体適合膜に対して高い耐水性を有する着色をより確実に実現しやすい。一方、顔料の含有量に対するバインダーの含有量の比が質量基準で8以下であることにより、インク10の粘度を所望の範囲に調整しやすく、インク10の塗工性及び印刷のしやすさが高く保たれやすい。
【0046】
本実施の形態のように、インク10は、2価アルコール及び3価アルコールの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
【0047】
これにより、インク10に含まれる水の揮発が抑制され、インク10における顔料の濃度変化が起こりにくい。そのため、インク10は、高い貯蔵安定性を有しやすい。
【0048】
本実施の形態のように、インク10は、顔料及びバインダーの少なくとも1つを分散させる分散剤をさらに含有していてもよい。
【0049】
これにより、例えば、インク10における顔料の分散性が高くなりやすい。このため、インク10を塗布しやすく、インク10の固化物の発色が良好になりやすい。
【0050】
(実施の形態2)
以下、図1及び図2を用いて、実施の形態2を説明する。
【0051】
[2-1.構成]
図1において、貼付用キット1は、インク10と、生体適合膜20とを備えている。インク10の詳細な説明については、実施の形態1の記載を参照できる。生体適合膜20は、再生セルロースを含む。生体適合膜20の表面における水の接触角は、0°より大きく100°以下である。生体適合膜20の表面における水の接触角は、例えば、θ/2法に従って決定できる。
【0052】
再生セルロースは、天然セルロースに特有の結晶構造Iを持たないセルロースを意味する。セルロースの結晶構造は、例えばXRDパターンによって確認できる。図2は、天然セルロースのXRDパターンを示す。このXRDパターンは、50kV及び300mAの条件でCuKα線を用いて得られたパターンである。このXRDパターンでは、結晶構造Iに特有の14-17°及び23°付近のピークが現れている。一方、再生セルロースは、結晶構造IIであることが多く、12°、20°および22°付近にピークを有し、14-17°および23°付近にピークを有しない。
【0053】
再生セルロースは、天然セルロース特有の結晶構造Iを持たないので、再生セルロースの結晶化度は、天然セルロースの結晶化度よりも低い傾向を示す。このため、再生セルロースは、結晶の形成に関与しない水酸基を多く含むので、多くの水を保持しやすい。加えて、再生セルロースは、セルロースの特徴である調湿機能を発揮できるので、蒸れ及び気触れ等を防止でき、皮膚のストレスが少ない状態で、多くの水分を保持できる。そのため、再生セルロースを含む生体適合膜は、生体に対して優れた保湿性能を有する。このため、生体適合膜20は、生体貼付用膜として使用できる。
【0054】
生体適合膜20の表面における水の接触角は、90°以下であってもよく、80°以下であってもよく、75°以下であってもよい。
【0055】
生体適合膜20は、例えば、自己支持型の膜である。本明細書において、「自己支持型の膜」とは、支持体なしに膜としての形態を維持できる膜を意味する。例えば、指又はピンセットなどを用いて生体適合膜20の一部をつまんで生体適合膜20を持ち上げたときに、生体適合膜20を破損させることなく、かつ、支持体なしに生体適合膜20の全体を持ち上げることができる。
【0056】
生体適合膜20に含まれる再生セルロースの重量平均分子量は、特定の値に限定されない。その重量平均分子量は、例えば150,000以上である。再生セルロースの重量平均分子量は、例えば、1,000,000以下であり、望ましくは500,000以下であり、より望ましくは300,000以下である。
【0057】
生体適合膜20の厚さは、特定の値に限定されない。その厚さは、例えば、20nm以上1300nm以下である。生体適合膜20の厚さは、例えば、無作為に選んだ10箇所以上における測定値の算術平均である。
【0058】
生体適合膜20に含まれる再生セルロースの結晶化度は、特定の値に限定されない。その結晶化度は、例えば、12%以下である。再生セルロースの結晶化度は、例えば、Park et al. "Cellulose crystallinity index: measurement techniques and their impact on interpreting cellulase performance" Biotechnology for Biofuels 2010, 3 10に記載された方法に従って決定できる。この方法によれば、下記の式(1)によって結晶化度を決定できる。式(1)において、Xは、再生セルロースを含む試料の固体13C-NMR測定により取得されたスペクトルにおける、87parts per million(ppm)から93ppm付近のピーク面積である。一方、式(1)において、Yは、そのスペクトルにおける80ppmから87ppm付近のピーク面積である。Xは、結晶構造由来のピーク面積であり、Yは、非結晶構造由来のピーク面積であると考えられる。
結晶化度[%]={X/(X+Y)}×100 式(1)
【0059】
生体適合膜20は、生体に有効な成分を含有していてもよい。生体に有効な成分は、特定の成分に限定されない。生体に有効な成分の例は、美容成分、薬効成分、及び皮膚を保護する成分である。
【0060】
美容成分の例は、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(カッソウエキス)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、サクシノグルカン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン、ムチン、コンドロイチン硫酸、キシリトール、マルチトース、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、レチノール、レチナール、レチノイン酸等のビタミンA、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ピリドキサミン、葉酸等のビタミンB、アスコルビン酸(ナトリウム)等のビタミンC、エルゴカルシフェロール及びコレカルシフェロール等のビタミンD、α-トコフェロール等のビタミンE、フィロキノン及びメナキノン等のビタミンK、トレチノイン及びパルミチン酸レチノール等のビタミンA誘導体、フルスルチアミン等のビタミンB誘導体、グリセリルアスコルビン酸及びテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等のビタミンC誘導体、ジヒドロタキステロール等のビタミンD誘導体、酢酸α-トコフェロール、α-トコフェリルキノン、及びコハク酸α-トコフェロール等のビタミンE誘導体、ハイドロキノン、4-メトキシサリチル酸カリウム、ルシノール、アントシアニン等のポリフェノール、3-サクシニルオキシグリチルレチン酸二ナトリウム、プラセンタ、ジオキシベンゾン、4-メトキシけい皮酸2-エチルヘキシル、各種アミノ酸、ケラチン、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス、キチン、キトサン、アルブチン、エラグ酸、コウジ酸、トラネキサム酸、グリセロール、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸、セラミド、ミノキシジル、フィナステリド、コラーゲン、エラスチン、各種エキス、クエン酸、レシチン、カルボマー、キサンタンガム、デキストラン、パルミチン酸、ラウリン酸、ワセリン、酸化チタン、酸化鉄、合成色素、染料、フェノキシエタノール、フラーレン、アスタキサンチン、コエンザイム、ヒトオリゴペプチド、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール、ピロリドンカルボン酸、脂肪酸ポリグリセリル、ポリグリセリン、ホホバオイル、トリメチルグリシン、マンニトール、トレハロース、グリコシルトレハロース、プルラン、エリスリトール、エラスチン、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチルヘキサン酸エチル、アクリル酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、スクワラン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸グリセリン、エタノール、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、トリエチルヘキサノイン、ポリエーテル変性シリコーン、ホホバ種子油等の植物油、並びにエクトインである。
【0061】
薬効成分の例は、セファランチン、ルチン、硝酸イソソルビド、インドメタシン、フィナステリド、ジフルコルトロン吉草酸エステル、アシクロビル、ケトコナゾール、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、デキサメタゾンプロピオン酸エステル、フェルビナク、クロベタゾールプロピオン酸エステル、ミノキシジル、ロキソプロフェン、サリチル酸メチル、及びタクロリムスである。
【0062】
皮膚を保護する成分の例は、サンスクリーン剤である。サンスクリーン剤の例は、ジオキシベンゾン及び4-メトキシけい皮酸2-エチルヘキシル等の紫外線吸収剤と、酸化チタン及び酸化亜鉛等の紫外線散乱剤とを含む。
【0063】
生体適合膜20は、生体に有効な成分を1種類のみ含有していてもよく、生体に有効な成分を2種類以上含有していてもよい。
【0064】
生体適合膜20において、生体に有効な成分は、例えば、生体適合膜20の内部の空隙において固体、溶液、分散液、及び乳化物の状態で存在している。
【0065】
[2-2.効果等]
以上のように、本実施の形態において、貼付用キット1は、インク10と、生体適合膜20とを備えている。生体適合膜20は、再生セルロースを含む。生体適合膜20の表面における水の接触角は、0°より大きく100°以下である。
【0066】
これにより、インク10を生体適合膜20の表面に塗布したときに、生体適合膜20とインク10との親和性が高く保たれやすい。そのため、再生セルロースを含む生体適合膜に対して高い耐水性を有する着色を実現しやすい。
【0067】
本実施形態のように、生体適合膜20に含まれる再生セルロースの重量平均分子量は150,000以上であり、生体適合膜20は、20nm以上1300nm以下の厚さを有していてもよい。
【0068】
これにより、生体適合膜20は、20nm以上1300nm以下の厚さを有するにも関わらず、生体適合膜20の形状を保つために支持体が不要である。換言すると、生体適合膜20を自己支持型の膜として提供できる。そのため、生体適合膜20を様々な用途で使用できる。生体適合膜20は、20nm以上1300nm以下の厚さを有するので、生体適合膜20を生体に貼り付けるために接着剤が不要である。このため、生体適合膜20を生体に貼り付けたときに生体へのストレスが少ない。また、生体適合膜20は、調湿性能が高い再生セルロースを含み、1300nm以下の厚みを有するので、蒸れが軽減され、生体適合膜20を生体に貼り付けた状態で長期間使用できる。加えて、生体適合膜20が柔軟になりやすく、生体適合膜20は、頬及び腕等の生体の部位における凹凸に沿って貼り付きやすい。
【0069】
本実施形態のように、生体適合膜20に含まれる再生セルロースは、12%以下の結晶化度を有していてもよい。
【0070】
これにより、生体適合膜20において結晶の形成に関わる水酸基の量が少ない。そのため、生体適合膜20の生体への密着性が高くなりやすい。また、水分を保持しやすいため、高い保湿性能を持つ。加えて、再生セルロースにおける水酸基の位置での修飾等の方法によって生体適合膜20に種々の機能を付加できる。
【0071】
本実施の形態のように、生体適合膜20は、生体に有効な成分を含有していてもよい。
【0072】
これにより、生体適合膜20を生体に貼り付けることによって、生体に有効な成分を生体に供給できる。
【0073】
(実施の形態3)
以下、図3を用いて、実施の形態2を説明する。
【0074】
[3-1.構成]
図3において、貼付用シート2aは、生体適合膜20と、インクの固化物10aとを備えている。生体適合膜20の詳細な説明については、実施の形態2の記載を参照できる。固化物10aは、顔料及びバインダーを含有しており、貼付用シート2aの表面の少なくとも一部をなす。固化物10aのバインダーは、24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有するポリマーを含んでいる。
【0075】
固化物10aは、例えばインク10の固化物である。このため、固化物10aには、インク10に由来する成分が含まれうる。固化物10aに含まれるバインダーの詳細については実施の形態1におけるインク10のバインダーについての記載を参照できる。固化物10aに含まれる顔料の詳細については実施の形態1におけるインク10の顔料についての記載を参照できる。加えて、顔料とバインダーとの量的な関係についても実施の形態1の記載を参照できる。
【0076】
貼付用シート2aは、例えば、以下の(i)及び(ii)の工程を含む方法によって製造できる。
(i)生体適合膜20の表面に、インク10を塗布する。
(ii)生体適合膜20の表面に塗布されたインク10を乾燥させる。
【0077】
(i)の工程において、インク10を生体適合膜20の表面に塗布する方法は、特定の方法に限定されない。その方法の例は、ギャップコーティング、スロットダイコーティング、スピンコーティング、バーコーターを用いたコーティング、静電噴霧、吹付塗装、及び印刷である。印刷の例は、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、及びグラビア印刷である。
【0078】
生体適合膜20の表面にインク10を塗布する回数は、1回であってもよく、2回以上であってもよい。
【0079】
(ii)の工程に関し、インク10を乾燥させる方法は、インク10における水及びアルコール等を除去できる限り、特定の方法に限定されない。その方法は、自然乾燥であってもよく、加熱又は減圧を伴う乾燥であってもよい。
【0080】
[3-2.効果等]
以上のように、本実施の形態において、貼付用シート2aは、生体適合膜20と、インクの固化物10aとを備えている。固化物10aは、顔料及びバインダーを含有しており、貼付用シート2aの表面の少なくとも一部をなしている。顔料及びバインダーの一部が膜中に存在していてもよい。固化物10aのバインダーは、24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有するポリマーを含んでいる。生体適合膜20の表面における水の接触角は、0°より大きく100°以下である。
【0081】
これにより、インク10を生体適合膜20の表面に塗布したときに、バインダーと水との親和性が低く、生体適合膜20と固化物10aとの親和性が高く保たれやすい。そのため、高い耐水性を有する着色が施された貼付用シート2aを提供できる。
【0082】
以上のように、本実施の形態において、貼付用シート2aは、生体適合膜20の表面にインク10を塗布することと、生体適合膜20の表面に塗布されたインク10を乾燥させることとを含む方法によって製造できる。
【0083】
これにより、高い耐水性を有する着色が施された貼付用シート2aを製造できる。
【0084】
(実施の形態4)
以下、図4を用いて、実施の形態4を説明する。
【0085】
[4-1.構成]
図4において、貼付用シート2bは、基材30と、生体適合膜20と、インクの固化物10aと、を備えている。生体適合膜20の詳細な説明については、実施の形態2の記載を参照できる。固化物10aの詳細な説明については、実施の形態3の記載を参照できる。
【0086】
基材30は、生体適合膜20及び固化物10aを支持している。しかし、基材30は、生体適合膜20の形状を維持するための支持体ではない。生体適合膜20は、生体適合膜20の厚さ方向において基材30と固化物10aとの間に配置されている。
【0087】
基材30の材料は、特定の材料に限定されない。基材30は、例えば、シート又は不織布である。基材30は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリウレタン、合成ゴム、セルロース、フッ素樹脂、アラミド、及びポリイミドを含んでいてもよい。基材30は、金属製のシート又はガラス製のシートであってもよい。
【0088】
基材30の表面の少なくとも一部には、化学的又は物理的な表面処理が施されていてもよい。
【0089】
基材30の平面形状は、例えば、生体適合膜20の平面形状と同一である。
【0090】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1、2、3、及び4を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。加えて、上記の実施の形態1、2、3、及び4で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0091】
実施の形態1において、バインダーに含まれるポリマーのHSP値は、24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満であることを説明した。バインダーに含まれるポリマーのHSP値の上限値及び下限値は、下記の数値から選ばれる任意の組み合わせによって特定されてもよい。
25.0MPa1/2、28.5MPa1/2、29.7MPa1/2、30.3MPa1/2、30.5MPa1/2
【0092】
実施の形態2において、生体適合膜20は、生体貼付用膜として使用できることを説明した。生体適合膜20は、再生セルロースを含み、その表面における水の接触角が0°より大きく100°以下であればよい。このため、生体適合膜20は、衣類等の物品に貼り付けられる膜であってもよい。この場合、インク10で着色された生体適合膜20を物品の装飾及び保護等の用途で使用できる。
【0093】
実施の形態4において、基材30の平面形状が生体適合膜20の平面形状と同一である例を説明した。基材30の平面形状は、生体適合膜20の平面形状と異なっていてもよい。例えば、単一の基材30の上に複数の生体適合膜20が配置されていてもよい。
【実施例
【0094】
実施例により、本開示をより詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されない。まず、各実施例及び各比較例に関する評価方法を説明する。
【0095】
<ポリマーのHSP値>
実施例及び比較例に係るインクの調製に用いたポリマーのHSP値をHansen Solubility Parameters: A User's Handbook, Second Edition. Charles M. Hansenの記載に準拠した方法によって決定した。分散項δd、極性項δp、及び水素結合項δhの値が既知である表1に示す溶剤に対する1重量%の濃度での各ポリマーの溶解性を評価した。この結果から、各ポリマーが溶解する溶剤の範囲に対応する分散項δd、極性項δp、水素結合項δhのそれぞれの最小値及び最大値を求めた。その後、式(2)から式(5)に従ってその中間の値であるHSP値を算出した。この算出にはソフトウェアHSPiP 5th Editionを用いた。結果を表2から表8に示す。
分散項δd=(δdmax-δdmin)/2 式(2)
極性項δp=(δpmax-δpmin)/2 式(3)
水素結合項δh=(δhmax-δhmin)/2 式(4)
(HSP値)2=δd2+δp2+δh2 式(5)
【0096】
【表1】
【0097】
<膜の表面における水の接触角>
協和界面科学株式会社製の自動接触角計DM-501を用いて実施例及び比較例で用いた膜の表面における水の接触角を決定した。結果を表2から表8に示す。
【0098】
<耐水性の評価>
各実施例及び各比較例に係るシートの化粧層に1cm3の水を滴下してからティッシュペーパーを押し付け、その後ティッシュペーパーにおける顔料の付着の有無を確認し、化粧層の耐水性を評価した。耐水性の評価の指標は以下の通りである。結果を表2から表9に示す。
A:ティッシュペーパーに顔料が付着していない。
X:ティッシュペーパーに顔料が付着している。
【0099】
[実施例1]
<インクの調製>
水、アルコール、顔料、及びバインダーの含有量を表2に示す通りに調整して、これらの成分を混合し、実施例1に係るインクを調製した。水として、超純水を用い、アルコールとして、岩瀬コスファ社製のZemea Select(1,3-プロパンジオール)及び花王社製のグリセリン(化粧品用濃グリセリン)を用いた。顔料として、チタン工業社製の酸化鉄黄LL-100Wを用いた。この顔料の一次粒子径は100nmであった。バインダーとして、ヌーリオンジャパン社製のアクリレーツコポリマーDermacryl AQFを用いた。このアクリレーツコポリマーのHSP値は、25.0MPa1/2であった。
【0100】
<再生セルロース膜の作製>
純度が90%以上の、木材を原料とした漂白パルプ由来のセルロースを用意し、これをイオン液体に溶解させることによって、セルロース溶液を調製した。次に、平坦な表面を有するガラス基板を用意した。次に、ギャップコーティングを適用してガラス基板の表面にセルロース溶液を塗布することにより、ガラス基板上に液膜を形成した。このとき、再生セルロース膜の厚さがねらい厚さ400nmとなるように、ギャップの大きさを調整した。液膜の形成後、温度25℃及び相対湿度30%から40%の環境下に、ガラス基板及び液膜を十分放置することによって、液膜をゲル化させ、高分子ゲルシートを得た。その後、高分子ゲルシートを水洗することにより、高分子ゲルシートからイオン液体を除去した。このとき、ガラス基板及び高分子ゲルシートを超純水に浸漬させ、超純水を複数回交換することにより、高分子ゲルシートの水洗を実行した。信越化学工業社製のポリエーテル変性シリコーンKF-6012(PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン)の水溶液を調製した。次に、この水溶液中に、高分子ゲルシートと不織布との積層体を浸漬させた。次に、高分子ゲルシートを水溶液から取り出し、この高分子ゲルシートを室温度下で乾燥させて再生セルロース膜Aを得た。カー ナノ インコーポレイテッド社製の触針式プロファイリングシステムDEKTAK(登録商標)を用いて、再生セルロース膜Aの厚さを測定した。その結果、再生セルロース膜Aの厚さは約400nmであった。
【0101】
再生セルロース膜Aから固体13C-NMR測定用の試料を作成し、この試料を用いて固体13C-NMR測定を行い、固体13C-NMRスペクトルを得た。固体13C-NMRの測定は、Varian社製Unity Inova-400およびDoty Scientific, Inc.製の5mmのCP/MASプローブを使用して、CP/MAS法に従って行った。測定条件は、MAS速度:10kHz、室温(25℃)、試料回転数:10kHz、観測幅:30.2kHz、観測中心:96ppm、観測周波数:100.574MHzであり、CPパルス(1H→13C)法で、観測核90°パルス:3.9マイクロ秒、1H励起パルス:3.8マイクロ秒、接触時間:2.0ミリ秒、待ち時間:10秒以上、積算回数:8,000回に設定した。この条件でCP法により測定した再生セルロースの固体13C-NMRスペクトルは、十分な緩和時間を設定したDD(Dipolar De couple)法により測定した固体13C-NMRスペクトルとよく一致することが確認された。得られた固体13C-NMRスペクトルに基づき、上記の式(1)に従って、再生セルロース膜Aに含まれる再生セルロースの結晶化度を決定した。その結晶化度は、0%であった。
【0102】
再生セルロース膜Aを水中に浸漬させて取り出し浸漬後の再生セルロース膜の重量M2を測定した。また、浸漬前の再生セルロース膜の重量M1を、再生セルロース膜を水中に浸漬させる前に測定した。以下の式(6)に従って、再生セルロース膜Aの吸水率を決定した。
吸水率[%]={(M2-M1)/M1}×100 式(6)
【0103】
<シートの作製>
再生セルロース膜Aの表面に実施例1に係るインクをスキージで塗布して塗膜を形成し、この塗膜を室温で1日乾燥させ、再生セルロース膜の上に化粧層を形成した。このようにして、実施例1に係るシートを得た。
【0104】
[実施例2]
バインダーとして、アクゾノーベル社製のアクリル酸アルキルコポリマーアンモニウムであるヨドゾールGH810Fを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2に係るインクを調製した。ヨドゾールGH810FのHSP値は28.5MPa1/2であった。実施例1に係るインクの代わりに実施例2に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2に係るシートを得た。
【0105】
[実施例3]
バインダーとして、アクゾノーベル社製のスチレン/アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウムであるヨドゾールG41Fを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3に係るインクを調製した。ヨドゾールG41FのHSP値は29.7MPa1/2であった。実施例1に係るインクの代わりに実施例3に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3に係るシートを得た。
【0106】
[実施例4]
バインダーとして、大同化成社製のアクリレーツコポリマーアンモニウムであるビニゾール1086WPを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例4に係るインクを調製した。ビニゾール1086WPのHSP値は30.3MPa1/2であった。実施例1に係るインクの代わりに実施例4に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例4に係るシートを得た。
【0107】
[実施例5]
バインダーとして、アクゾノーベル社製のアクリル酸アルキルコポリマーアンモニウムであるヨドゾール34Fを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例5に係るインクを調製した。ヨドゾール34FのHSP値は30.5MPa1/2であった。実施例1に係るインクの代わりに実施例5に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例5に係るシートを得た。
【0108】
[比較例1]
バインダーとして、大東化成社製のアクリレーツコポリマーであるダイトゾール3000SLPNを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1に係るインクを調製した。ダイトゾール3000SLPNのHSP値は23.0MPa1/2であった。実施例1に係るインクの代わりに比較例1に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1に係るシートを得た。
【0109】
[比較例2]
バインダーとして、大同化成社製のアクリレーツ/VAコポリマーであるビニゾール2140LHを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2に係るインクを調製した。ビニゾール2140LHのHSP値は31.0MPa1/2であった。実施例1に係るインクの代わりに比較例2に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2に係るシートを得た。
【0110】
[比較例3]
バインダーとして、和光純薬工業社製のポリビニルアルコール(PVA)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3に係るインクを調製した。このポリビニルアルコールのHSP値は34.0MPa1/2であった。実施例1に係るインクの代わりに比較例3に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3に係るシートを得た。
【0111】
[比較例4]
バインダーとして、信越化学工業社製のメチルセルロースであるメトロースSM4000を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4に係るインクを調製した。メトロースSM4000のHSP値は34.4MPa1/2であった。実施例1に係るインクの代わりに比較例4に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4に係るシートを得た。
【0112】
[実施例6から10]
顔料として、酸化鉄黄の代わりに、石原産業社製の酸化チタンであるタイペークCR-50を用いた以外は、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、及び実施例5と同様にして、それぞれ、実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、及び実施例10に係るインクを調製した。タイペークCR-50の一次粒子径は250nmであった。実施例1に係るインクの代わりに実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、及び実施例10に係るインクを用いた以外は、それぞれ、実施例1と同様にして実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、及び実施例10に係るシートを得た。
【0113】
[比較例5から8]
顔料として、酸化鉄黄の代わりに、タイペークCR-50を用いた以外は、比較例1、比較例2、比較例3、及び比較例4と同様にして、それぞれ、比較例5、比較例6、比較例7、及び比較例8に係るインクを調製した。実施例1に係るインクの代わりに比較例5、比較例6、比較例7、及び比較例8に係るインクを用いた以外は、それぞれ、実施例1と同様にして比較例5、比較例6、比較例7、及び比較例8に係るシートを得た。
【0114】
表2及び3に示す通り、実施例1から10に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好であった。一方、比較例1から8に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好とは言い難かった。化粧層を形成するためのインク中のバインダーに含まれるポリマーが24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有することが化粧層の耐水性を高めるうえで有利であることが示唆された。
【0115】
[実施例11から14]
実施例1と同様にして得られた高分子ゲルシートに対し、実施例1と同様にして水洗を実行した。次に、日清オイリオグループ社製のトリエチルヘキサノインの溶液に、高分子ゲルシートを浸漬させた。その後、溶液から高分子ゲルシートを取り出し、この高分子ゲルシートを室温で自然乾燥させて、再生セルロース膜Bを得た。再生セルロース膜Bの表面における水の接触角は32°であった。
【0116】
再生セルロース膜Aの代わりに再生セルロース膜Bを用いた以外は、実施例1、実施例2、実施例3、及び実施例4と同様にして、それぞれ、実施例11、実施例12、実施例13、及び実施例14に係るシートを作製した。
【0117】
[比較例9から12]
再生セルロース膜Aの代わりに再生セルロース膜Bを用いた以外は、比較例1、比較例2、比較例3、及び比較例4と同様にして、それぞれ、比較例9、比較例10、比較例11、及び比較例12に係るシートを作製した。
【0118】
表4に、実施例11から14に係るシート及び比較例9から12に係るシートにおける化粧層の耐水性の評価結果を示す。表4に示す通り、実施例11から14に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好であった。一方、比較例9から12に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好とは言い難かった。化粧層を形成するためのインク中のバインダーに含まれるポリマーが24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有することが化粧層の耐水性を高めるうえで有利であることが示唆された。
【0119】
[実施例15]
実施例1と同様にして得られた高分子ゲルシートに対し、実施例1と同様にして水洗を実行した。次に、グリセリンの水溶液に、高分子ゲルシートを浸漬させた。その後、水溶液から高分子ゲルシートを取り出し、この高分子ゲルシートを室温で自然乾燥させて、再生セルロース膜Cを得た。再生セルロース膜Cの表面における水の接触角は4°であった。加えて、再生セルロース膜Cにおける再生セルロースの結晶化度は0%であり、再生セルロース膜Cの吸水率は171%であった。
【0120】
再生セルロース膜Aの代わりに再生セルロース膜Cを用いた以外は、実施例3と同様にして実施例15に係るシートを作製した。
【0121】
[実施例16]
実施例1と同様にして得られた高分子ゲルシートに対し、実施例1と同様にして水洗を実行した。次に、武蔵野化学研究所社製の乳酸ナトリウムの水溶液に、高分子ゲルシートを浸漬させた。その後、水溶液から高分子ゲルシートを取り出し、この高分子ゲルシートを室温で自然乾燥させて、再生セルロース膜Dを得た。再生セルロース膜Dの表面における水の接触角は12°であった。
【0122】
再生セルロース膜Aの代わりに再生セルロース膜Dを用いた以外は、実施例3と同様にして実施例16に係るシートを作製した。
【0123】
[実施例17]
実施例1と同様にして得られた高分子ゲルシートに対し、実施例1と同様にして水洗を実行した。次に、高級アルコール工業社製のホホバ種子油であるエコオイルRSの溶液に、高分子ゲルシートを浸漬させた。その後、溶液から高分子ゲルシートを取り出し、この高分子ゲルシートを室温で自然乾燥させて、再生セルロース膜Eを得た。再生セルロース膜Eの表面における水の接触角は68°であった。加えて、再生セルロース膜Eにおける再生セルロースの結晶化度は1.8%であり、再生セルロース膜Eの吸水率は128%であった。
【0124】
再生セルロース膜Aの代わりに再生セルロース膜Eを用いた以外は、実施例3と同様にして実施例17に係るシートを作製した。
【0125】
[比較例13]
実施例1と同様にして得られた高分子ゲルシートに対し、実施例1と同様にして水洗を実行した。次に、信越化学工業社製のジメチルシリコーンオイルKF-96h-1万csの溶液に、高分子ゲルシートを浸漬させた。その後、溶液から高分子ゲルシートを取り出し、この高分子ゲルシートを室温で自然乾燥させて、再生セルロース膜Fを得た。再生セルロース膜Fの表面における水の接触角は101°であった。
【0126】
再生セルロース膜Aの代わりに再生セルロース膜Fを用いた以外は、実施例3と同様にして比較例13に係るシートを作製した。
【0127】
表5に、実施例3、13、15から17に係るシート及び比較例13に係るシートにおける化粧層の耐水性の評価結果を示す。表5に示す通り、各実施例に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好であった。一方、比較例13に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好とは言い難かった。再生セルロース膜の表面における水の接触角が0°より大きく100°以下であることが化粧層の耐水性を高めるうえで有利であることが示唆された。
比較例13に係るシートにおいては、再生セルロース膜Fとインクとの親和性が低く、化粧層と再生セルロース膜Fとの密着性が低くなっていたと考えられる。このため、比較例13に係るシートの化粧層は水によって剥がれやすくなっていたと考えられる。
【0128】
[実施例18から21]
バインダーの含有量を表6に示すように調整した以外は、実施例2と同様にして、実施例18、実施例19、実施例20、及び実施例21のそれぞれに係るインクを調製した。加えて、実施例2に係るインクの代わりに、実施例18、実施例19、実施例20、及び実施例21に係るインクを用いた以外は、実施例2と同様にして、それぞれ、実施例18、実施例19、実施例20、及び実施例21に係るシートを得た。
【0129】
[比較例14]
バインダーを添加しなかったこと以外は、実施例2と同様にして比較例14に係るインクを調製した。実施例2に係るインクの代わりに、比較例14に係るインクを用いた以外は実施例2と同様にして、それぞれ、比較例14に係るシートを得た。
【0130】
表6に示す通り、各実施例に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好であった。一方、比較例14に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好とは言い難かった。顔料の含有量に対して所定の含有量でバインダーを含有することが化粧層の耐水性を高めるうえで有利であることが示唆された。
【0131】
[実施例22から24]
アルコールを添加せずに、各成分の含有量を表7に示す通り調整した以外は、実施例1、3、及び5と同様にして、それぞれ、実施例22、実施例23、及び実施例24に係るインクを調製した。実施例1に係るインクの代わりに、実施例22、実施例23、及び実施例24に係るインクを用いた以外は、それぞれ、実施例1と同様にして、実施例22、実施例23、及び実施例24に係るシートを得た。
【0132】
[実施例25]
アルコールを添加せず、分散剤を添加して、各成分の含有量を表7に示す通りに調整した以外は、実施例24と同様にして、実施例25に係るインクを調製した。実施例1に係るインクの代わりに、実施例25に係るインクを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例25に係るシートを得た。分散剤として、アニオン系界面活性剤及び両性界面活性剤を用いた。アニオン系界面活性剤として、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸エステルNaを用い、両性界面活性剤として、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインを用いた。
【0133】
[比較例15から18]
アルコールを添加せずに、各成分の含有量を表8に示す通り調整した以外は、比較例1、2、3、及び4と同様にして、それぞれ、比較例15、比較例16、比較例17、及び比較例18に係るインクを調製した。実施例1に係るインクの代わりに、比較例15、比較例16、比較例17、及び比較例18に係るインクを用いた以外は、それぞれ、実施例1と同様にして、比較例15、比較例16、比較例17、及び比較例18に係るシートを得た。
【0134】
[比較例19及び20]
アルコールを添加せず、分散剤を添加して、各成分の含有量を表8に示す通りに調整した以外は、比較例15及び16と同様にして、それぞれ、比較例19及び比較例20に係るインクを調製した。実施例1に係るインクの代わりに、比較例19及び比較例20に係るインクを用いた以外は、それぞれ、実施例1と同様にして、比較例19及び比較例20に係るシートを得た。分散剤として、実施例25に係るインクの調製で使用したアニオン系界面活性剤及び両性界面活性剤を添加した。
【0135】
<分散性の評価>
実施例22から25に係るインク及び比較例15から20における顔料の分散性を評価した。インクの調製後にインクを撹拌して顔料が均一に混ざり、撹拌から1時間経過後も顔料の沈降が確認されない場合、分散性を「A」と評価した。一方、インクの調製後にインクを撹拌すると顔料が均一に混ざるものの撹拌から1時間以内に顔料の沈降が確認された場合、分散性を「B」と評価した。結果を表7及び8に示す。
【0136】
表7に示す通り、各実施例に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好であった。一方、表8に示す通り、各比較例に係るシートにおける化粧層の耐水性は良好とは言い難かった。インクにアルコールが添加されていなくても、インク中のバインダーに含まれるポリマーが24MPa1/2以上31.0MPa1/2未満のHSP値を有することが化粧層の耐水性を高めるうえで有利であることが示唆された。
【0137】
実施例22から24と実施例25との対比によれば、分散剤を添加することによりインクにおいて顔料を良好に分散できることが示唆された。
【0138】
[比較例21]
140μmの厚さを有する天然セルロースである、ろ紙を準備した。ろ紙は天然セルロースであるため、結晶構造Iを持つ材料である。ろ紙に含まれる結晶構造Iのセルロースの結晶化度は、26%であった。ろ紙の吸水率は、99.6%であった。再生セルロース膜Aの代わりに、このろ紙を用いた以外は、比較例2と同様にして、比較例21に係るシートを得た。
【0139】
[比較例22]
116μmの厚さを有するPETフィルムを準備した。PETフィルムの吸水率は、0.20%であった。再生セルロース膜Aの代わりに、このPETフィルムを用いた以外は、比較例2と同様にして、比較例22に係るシートを得た。
【0140】
表9に示す通り、比較例2に係るインクによって、ろ紙及びPETフィルムに形成された化粧層は良好な耐水性を示した。一方、比較例2に係るインクによって、再生セルロース膜Aに形成された化粧層は良好な耐水性を有するとは言い難かった。このため、ろ紙及びPETフィルムに対して良好な定着性を示すインクであっても、再生セルロースに対しては良好な定着性を示すとは限らないことが示唆された。
【0141】
<皮膚への密着性の評価>
再生セルロース膜A、再生セルロース膜C、再生セルロース膜E、比較例21におけるろ紙、比較例22におけるPETフィルム、及び410nmの厚さを有するポリ乳酸シートの試験片の皮膚への密着性を以下の様に評価した。被験者の上腕内側の皮膚の上に市販の化粧水を少量付与し、その上に各試験片を貼付した。その状態で8時間経過後、試験片が皮膚上から脱落したか否かを確認した。その確認結果に基づき各試験片の皮膚への密着性を以下の指標に従って評価した。結果を表10に示す。なお、ポリ乳酸シートの含水率は0.3%であった。
A:試験片が皮膚から脱落していない
X:試験片が皮膚から脱落している
【0142】
<肌ストレスの評価>
再生セルロース膜A、再生セルロース膜C、再生セルロース膜E、比較例21におけるろ紙、比較例22におけるPETフィルム、及び410nmの厚さを有するポリ乳酸シートの試験片の肌ストレスを以下の様に評価した。被験者の上腕内側の皮膚上に水を少量付与し、その上に試験片を貼付した。その状態で1時間経過した後、蒸れなどの違和感及び皮膚の赤み等の異常があるか否かを確認した。その確認結果に基づき各試験片の肌ストレスを以下の指標に従って評価した。結果を表10に示す。
A:異常なし
X:異常あり
【0143】
表10に示す通り、再生セルロース膜の試験片は、ろ紙、PETフィルム、及びポリ乳酸シートの試験片に比べて、皮膚への密着性に優れ、肌ストレスも低いことが示唆された。
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
【表5】
【0148】
【表6】
【0149】
【表7】
【0150】
【表8】
【0151】
【表9】
【0152】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0153】
本開示のインクは、再生セルロースを含む生体適合膜に塗布されることによって、高い耐水性を有する着色を実現できる。このようにして得られた貼付用シートは、肌等の生体に貼り付けて使用でき、肌の保護、彩色、美化などに有用である。
【符号の説明】
【0154】
1 貼付用キット
2a、2b 貼付用シート
10 インク
10a インクの固化物
20 膜
30 基材
図1
図2
図3
図4