(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】音響ピンセット
(51)【国際特許分類】
B01J 19/10 20060101AFI20231127BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
B01J19/10
G01N1/00 101F
(21)【出願番号】P 2020522039
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2018079053
(87)【国際公開番号】W WO2019081521
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-22
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518202367
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド リール
(73)【特許権者】
【識別番号】518202378
【氏名又は名称】サントラル・リール・アンスティテュ
(73)【特許権者】
【識別番号】500531141
【氏名又は名称】セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】ボードワン,ミシェル,アイメリク,シリル
(72)【発明者】
【氏名】ボウ マター-ラカズ,オリヴィエ,カリル,ニザー
(72)【発明者】
【氏名】リオー,アントワーヌ,ジャン-ピエール,ルネ
(72)【発明者】
【氏名】トマス,ジャン-ルイ,ピエール
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/157426(WO,A1)
【文献】特表2019-519193(JP,A)
【文献】米国特許第06359367(US,B1)
【文献】特表2019-517220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/32
C12M 1/00- 1/42
B01L 3/00- 3/02
G01N 1/00
G01N 15/14
H03H 9/00
G02B 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(10)と、ホット電極と呼ばれる給電されるべき電極(15;17;125)と、接地電極と呼ばれる電気的に接地されるべき電極(35;130)と、を備えている電気音響機器(5)であって、
該本体が圧電性部分(7)を備えており、又は該電気音響機器が更に、該本体と異なる圧電性部分を備えており、
該ホット電極が螺旋軸(Z)の周りを螺旋状に巻くホットトラックを備えており、該ホットトラックの2つの隣り合うコイルの間の半径方向の間隔(Δ
r)が該螺旋軸から半径方向に減少し、
該本体内を、及び/又は、流体媒質(58;120)が該電気音響機器と音響的に結合されている場合に上記流体媒質内を伝搬する集束超音波渦を発生させるように構成された波トランスデューサ(41)を画定するように、該ホット電極及び該接地電極が該圧電性部分上に配設されている、
前記電気音響機器。
【請求項2】
該波トランスデューサは、該本体が該ホット電極と該集束超音波渦の焦点位置との間に配置されるように構成されている、請求項1に記載の電気音響機器。
【請求項3】
該接地電極(130)が、該ホットトラック(125)が設けられている該圧電性部分の面に設けられている、請求項1又は2に記載の電気音響機器。
【請求項4】
該接地電極が、該螺旋軸の周りを螺旋状に巻く少なくとも1つの接地トラック(70;75;150)を備えている、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項5】
該圧電性部分が該本体とは異なり、該本体が該波トランスデューサの面に配設されており且つ該波トランスデューサと音響的に結合されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項6】
該接地トラックが、該ホットトラックが設けられている面(20)の反対側の該圧電性部分の面(37)に設けられている、請求項3~5のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項7】
少なくともN個の複数のホット電極を備えており、Nが少なくとも2であり、且つ該複数のうちの少なくとも1つのホット電極が、該螺旋軸(Z)の周りを螺旋状に巻くホットトラック(25;27)を備えている、請求項1~6のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項8】
該接地トラックが、隣接する2つのホットトラックの間に設けられている請求項7に記載の電気音響機器。
【請求項9】
該接地電極が、少なくともM個の複数の接地トラックを備えており、Mが少なくとも2であり、各接地トラックが少なくとも1つの螺旋コイルを画定しており、2つの隣接する接地トラックの2つの隣接するコイルの間の半径方向の間隔が該螺旋軸から減少している、請求項7又は8に記載の電気音響機器。
【請求項10】
複数の該ホット電極に給電する為の制御ユニット(24)をさらに備えており、該制御ユニットは、1つのホット電極及び該接地電極からなる各電極対を制御して、上記各
電極対が該圧電性部分において弾性体積波(W
1;W
2)を発生させるように構成されており、2つの隣接する電極対によって発生された該弾性体積波の間の位相ずれが2π/Nである、請求項7~9のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項11】
少なくとも2つのホット電極が夫々、少なくとも1つの螺旋コイルを画定する単一のホットトラックを備えており、該2つのそれぞれの隣接するホットトラックの2つの隣接するコイルの間の間隔距離が該螺旋軸から減少している、請求項7~10のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項12】
隣接する2つのホットトラックが該圧電性部分の同じ面に設けられているか、又は隣接する2つのホットトラックが該圧電性部分の2つの反対側の面に設けられている、請求項7~11のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項13】
該接地電極が、該圧電性部分の面上に延在し且つ該N個の複数のホット電極の各ホット電極の該ホットトラックと重畳された接地コーティング(36)を備えている、請求項7~12のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項14】
該接地電極は、該複数のホット電極の2つの隣接した電極の接する少なくとも2つのホットトラックと重畳されており、上記隣接するホットトラックが、該圧電性部分の同じ面に、上記隣接する2つのホットトラックを隔てる間隙を有して、設けられている、請求項13に記載の電気音響機器。
【請求項15】
各接地トラックは、該複数のホット電極のそれぞれのホット電極の該ホットトラックと完全に重畳されて
いる、請求項7~14のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項16】
該圧電性部分(65)が、2つの隣接するホット電極の該ホットトラックの間の間隙の間に設けられた、請求項7~15のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項17】
該本体が、該圧電性部分、該本体の同じ面に設けられたホットトラック及び接地トラックそれぞれを備えている該ホット電極及び該接地電極を備えており、該ホットトラックも接地トラックも螺旋軸Zの周りを螺旋状に巻く、請求項1~6のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項18】
該ホットトラックが、中心Cから、極座標R(θ)に沿って線を描き、該極座標が下記の式(i)
【数1】
を解くことによって得られ、ここで、
【数2】
であり、z
(N)が、
図12に示されている通り、該ホットトラックが設けられている該圧電性部分の面と該渦の焦点位置2との間の、軸Zに沿った距離であり、
【数3】
が、該ホットトラックが設けられている平面上の軸Zに沿った高さにおいて圧電効果によって該渦に結合された電位の位相であり、上記式(i)は、該位相が電極に沿って一定であるときに解かれ、
【数4】
が、該渦の該焦点位置での角スペクトルの位相であり、
【数5】
及び
【数6】
がビームステアリング角であり、mが正整数であり、
【数7】
が圧電結合係数であり、
【数8】
が該渦の波動であり、
【数9】
が基準速度であり、
【数10】
が波の無次元飛行時間であり、それは
【数11】
と読め、ここで、
【数12】
であり、
【数13】
は、該圧電性部分上にn回重ねられた物質の第1の界面と該ホットトラックを備えている平面との間の距離であり、nの媒体が該圧電性部分上に重ねられた場合に、n=0は、該ホットトラックを備えている平面に対応する、
【数14】
及び
【数15】
が、伝搬方向が角度ψ及びσによって示される、円柱座標系における波のスローネスベクトルの成分であり;
【数16】
が、伝搬則の故に該物質から独立しており
;複数の波の干渉によって該渦を形成する各波が、該渦の該焦点位置から測定される軸Zからのそれぞれ方位角及び傾斜角である角度
【数17】
及び
【数18】
で表される方向に沿って媒体n内を伝搬し、
【数19】
は、該圧電性部分を構成する該物質の屈折角であり;
角度
【数20】
が、該波が伝搬するところの該物質から独立していて、該屈折角
【数21】
が、スネル-デカルトの関係
【数22】
を解くことによって得られ;
【数23】
が以下の分散関係
【数24】
によって与えられ、そして、
【数25】
が該渦のグイ(Gouy)位相であり、ここで
【数26】
がシグネチャ、即ち
【数27】
で評価される関数hのヘッセ行列A
【数28】
の正固有値の数と負固有値の数との間の差、であり、
式(i)を解く為に、一旦4変数関数
【数29】
が得られると、ビームステアリング角
【数30】
が以下の連立微分方程式
【数31】
の解として、周知の数学を用いて得られる、
請求項1~17のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項19】
前記電気音響機器が該圧電性部分と該本体とを連続して備えている積層
を備えており、該本体が、該圧電性部分より厚く、且つ等方性材料で作られており、そして該ホットトラックが、中心Cから、極座標R(θ)に沿って線を描き、該極座標の式が
【数32】
であり、
mが整数であり、
sが該本体における該渦のスローネスであり、
【数33】
が定数であり、
【数34】
が該渦の波動であり、
z
(N)が、該ホットトラックが設けられている該圧電性部分の面と該渦の該焦点位置との間の軸Zに沿った距離である、
請求項1~18のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項20】
該ホットトラックの幅
が中心
Cから半径方向に変わる、請求項1~19のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項21】
該電気音響機器は、該波トランスデューサが取り付けられる支持部(130)を備えており、該支持部は、ユーザの手によって若しくはロボットアームによって把持されるように適合されたハンドルを備えており、又はステージ及び基部を備えており、該ステージが、該基部に相対的に少なくとも1つの方向に沿って移動するように適合されている、請求項1~20のいずれか1項に記載の電気音響機器。
【請求項22】
該電気音響機器がペンの形にある、又は該ステージの変位がモータによって若しくは手動で作動される、請求項21に記載の電気音響機器。
【請求項23】
流体媒質(58)、又は少なくとも1つの対象物(60)を操作する為の方法であって、ここで、上記対象物が該流体媒質(58)に包埋されており、下記の順次の工程:
請求項1~22のいずれか1項に記載の電気音響機器(5)で集束超音波渦を発生させること、
該流体媒質及び/又は該対象物が付される音響トラップ又は音響流れを発生させるように、該集束超音波渦の焦点位置が該
流体媒質のバルク内に設けられるように該流体媒質を位置決めすること、
を含む、前記方法。
【請求項24】
該流体媒質に相対的に該電気音響機器の該波トランスデューサを変位することによって該対象物を操作すること、又は音響流れによって該流体を操作すること、
を含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に10-2m未満のサイズであり、流体、特に液体媒質、に浸漬され、そして特に流体、特に液体媒質、よりも密度が高く及び/又はより剛性である対象物を操作する為の電気音響機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズ及びマイクロサイズの対象物の選択的操作は、様々な技術分野、例えば細胞生物学、マイクロ流体、ナノサイズ及びマイクロサイズのシステムアセンブリ、における複雑な操作である。操作は、用具、例えばピンセット又はマイクロピペット、を用いて行なわれうる。対象物は、次に用具の移動によって操作される。このような操作方法は、一般に「直接接触」法と呼ばれており、特に対象物が柔らかい、又は粘つく、又は脆い場合には、望ましくない。さらに、それは操作された対象物を変えうる。最後に、対象物が置かれているシステムへの用具の導入は、システムの特性を変更しうる。例えば、対象物が電磁場に置かれる場合、用具を導入することは、上記場の擾乱を生じさせる可能性がある。それはまた、何らかの汚染をもたらすかもしれない。システムが細胞を含む生物学的培地である場合に、細胞の挙動は用具の導入によって改変されうる。
【0003】
代替の非接触法、例えば、誘電泳動法、磁気泳動法、又は「光ピンセット」法とも呼ばれる光泳動法、が開発されている。しかし、全てこれらの技法は大きな欠点を有している。例えば、誘電泳動法は、対象物の分極率に依存し、操作されるべき対象物の近傍に電極を設置することを要求する。磁気泳動法は、対象物上にマーカを移植することを要求する。光泳動法は、グラフト化をして又はしないで使用されうるが、該方法に固有の顕著な加熱及び光毒性によって非常に小さな力に限定される。
【0004】
音響泳動法は、対象物を操作する為に知られている別の方法である。論文「Selective Manipulation of Microscopic Particles with Precursor Swirling Rayleigh Waves」,Antoine Riaud et al.,Phys.Rev.Applied 7,024007は、圧電材料上に設けられた反対極性のトラックを有し且つ該圧電材料の面に垂直な螺旋軸の周りを螺旋状に巻く電極を備えている波トランスデューサを記載している。ガラス支持部が、シリコンオイルによって、その面の1つで該圧電材料に音響的に結合され、且つ操作されるべき対象物を含む液体媒質が反対側の面の頂部に設けられている。該電極は、波トランスデューサが、該圧電材料の表面に沿って伝搬し且つガラス基板のバルク内へ伝達し、該ガラス基板内で縮退して音響渦又は擬似音響渦として伝搬するところの、渦を巻く弾性表面波(渦を巻くSAW(surface acoustic wave)とも呼ばれる)を発生させるように設計されている。該渦は液体媒質内に伝達され、該液体媒質内で対象物が捕捉される最低音響強度のゾーンを局所的に発生する。波トランスデューサに相対的にガラス支持部を移動させることによって、対象物は操作されることができる。
【0005】
しかしながら、Riaud等に記載されている装置及び方法は、下記の大きな欠点を示す。第1に、それらは、横断面における渦の音響強度勾配と比較して螺旋軸に平行な方向に音響強度勾配が低いので、該螺旋に平行な方向に対象物の容易な操作を可能にしない。第2に、渦の中心での低強度領域に加えて、発生された渦を巻くSAWは、圧電支持部に局所的な低音響強度のゾーンを誘起し、該ゾーンは、操作されるべきもの以外の対象物が、二次環と呼ばれる、流体内の結果として生じる低音響強度の局所ゾーンにしばしば捕捉されるようなものである。第3に、渦を巻くSAWが、螺旋軸に対する横断面で、異方性である圧電材料の表面で伝搬するので、圧力が異方的に分布され、それは異方性捕捉力をもたらす。
【0006】
3D音響捕捉がBaresh et al.,Phys.Rev.Lett.,116:024301, 2016年に教示されているが、そのような3D捕捉を行なう為の装置はトランスデューサネットワークを備えており、それは実装するのが高コストであり且つ複雑である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それ故に、従来技術の技術的欠点の少なくとも幾つかを克服する電気音響機器及び少なくとも1つの対象物を操作する為の方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、これらの必要性を満たすことを目的とし、且つ電気音響機器に関し、該電気音響機器は、本体と、ホット電極と呼ばれる、給電されるべき電極と、接地電極と呼ばれる、電気的に接地されるべき電極と、を備えており、
該本体が圧電性部分を備えており、又は該電気音響機器が更に、該本体と異なる圧電性部分を備えており、
該ホット電極が螺旋軸(X)の周りを螺旋状に巻くホットトラックを備えており、該ホットトラックの2つの隣り合うコイルの間の距離が該螺旋軸から半径方向に減少し、
該本体内を、及び/又は、流体媒質が該電気音響機器と音響的に結合されている場合に、上記流体媒質内を伝搬する集束超音波渦を発生させるように構成された波トランスデューサを画定するように、該ホット電極及び該接地電極が該圧電性部分上に配設されている。
【0009】
Riaud等に教示されている上記装置と比較して、本発明に従う電気音響機器は特に、集束音響渦を発生させるように構成されている。好ましくは、該集束音響渦は、該圧電性部分内を伝搬する弾性表面波のいかなる成分も含まない。本発明に従う電気音響機器は、それが発生させるように適合されているところの該集束音響渦がRiaud等の上記装置によって発生される音響渦又は擬似音響渦より少ない二次環を含むようなものである。その上、対象物が該集束音響渦の最低音響強度のゾーンに捕捉される場合、それは該螺旋軸に平行な方向に沿って操作されることができる。最後に、操作されるべき同じ対象物を考えると、本発明の電気音響機器を実装することによって該対象物に印加される力は、Riaud等の上記装置によるより大きく、例えば少なくとも5倍又は場合によっては10倍も大きくなりうる。最後に、以下においてより明瞭に現れているように、幾つかの具体的な実施態様において、該螺旋軸に対する横断面で、圧力は異方的に分布される。
【0010】
その上、Baresh等の装置と比較して、本発明に従う電気音響機器は、一つの実施態様において、それが単一のホット電極及び単一の接地電極で実装されることができる故に、実装するのが容易である。
【0011】
流体媒質、好ましくは液体媒質、が該本体と音響的に結合されている、特に該本体上に重ねられる場合に、該波トランスデューサは、該流体媒質内での基本波長が好ましくは100nm~10mmの範囲であるようなものである集束音響渦を発生させるように構成されることができる。
【0012】
好ましくは、該流体媒質は液体媒質である。
【0013】
該波トランスデューサは好ましくは、該本体が該ホット電極と該集束超音波渦の焦点位置との間に配置されるように構成されている。
【0014】
該圧電性部分は好ましくは、該圧電性部分の重量に基づいて重量パーセントとして、50%超、好ましくは90%超、ニオブ酸リチウム、チタン酸リチウム、石英、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、チタン酸ジルコン酸鉛及びそれらの混合物の中から選択される圧電材料を含む、さらに好ましくは該圧電材料からなる。
【0015】
好ましくは、該ホットトラックは、中心Cから、
図12及び13に示されている通り、極座標R(θ)に沿って線を描き、該極座標が下記の式(i)
【0016】
【0017】
【数2】
において、z
(N)は、
図12に示されている通り、該ホットトラックが設けられている該圧電性部分の面と該渦の焦点位置2との間の軸Zに沿った距離であり、
【0018】
【数3】
は、該ホットトラックが設けられている平面上の軸Zに沿った高さで圧電効果によって該渦に結合された電位の位相であり;上記式(i)は、該位相が電極に沿って一定であるときに解かれ、
【0019】
【数4】
は、該渦の該焦点位置での角スペクトルの位相であり、
【0020】
【0021】
【数6】
はビームステアリング角(beam stirring angles)であり、好ましくは、
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【数10】
は基準速度であり、例えば該圧電性部分における平均音波速度に等しく、
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【数14】
は、該圧電性部分上にn回重ねられた物質の第1の界面と該ホットトラックを備えている平面との間の距離であり、nの媒体が該圧電性部分上に積層された場合に、n=0は、該ホットトラックを備えている平面に対応する、
【0030】
【0031】
【0032】
【数17】
は、伝搬則の為該材料から独立しており、且つ例えば該圧電性部分における波のスローネスの半径方向成分である
【0033】
【数18】
に等しいとして選ばれ;各波は、多数の波の干渉によって該渦を形成するが、該渦の該焦点位置から測定される軸Zからのそれぞれ方位角及び傾斜角である角度
【0034】
【0035】
【数20】
並びに該圧電性部分を構成する該材料の屈折角である
【0036】
【数21】
で表される方向に沿って媒体n内を伝搬し;角度
【0037】
【数22】
が、波が伝搬するところの該材料から独立している一方、該屈折角
【0038】
【0039】
【数24】
を解くことによって得られ;当業者は、当該技術において周知の堅実な音響方法を用いていかなる種類の波に対しても該材料の特性からスローネスを計算する仕方を知っており;
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【数30】
の正固有値の数と負固有値の数との間の差、である。
【0046】
式(i)を解く為に、一旦4変数関数
【0047】
【数31】
が得られると、周知の数値法を用いて、ビーム攪拌角
【0048】
【0049】
【0050】
一つの実施態様において、該電気音響機器は、該圧電性部分、該本体、及び任意的に、該本体上に積層された少なくとも1つの基板を連続して備えている積層を備えている。別の実施態様において、該電気音響機器は、該本体、及び任意的に、該本体上に積層された少なくとも1つの基板を備えている積層を備えている。連立方程式(i)~(viii)を解くことによって、該ホットトラックの形状を画定する為に、以下の方法が実装されることができ、該方法は、下記の連続工程:
該積層、即ち該圧電性部分及び/又は該本体及び/又は該基板、の各材料におけるスローネスを、当業者によって周知の標準法によって計算すること、
式(iv)の解として屈折角
【0051】
【数34】
を及び式(v)の解として該積層の各構成要素(n)における波のスローネスベクトルのz成分を計算すること、
方程式(iii)の解として関数hを計算すること、
方程式(vii)の解として
【0052】
【数35】
を計算すること、
方程式(vi)の解としてグイ位相(Gouy phase)を評価すること、
関数
【0053】
【数36】
を計算すること、そして
R(θ)を評価すること、
を含む。
【0054】
【0055】
一つの実施態様において、例えば、該積層が、圧電性部分と本体とから成り、該本体が、該圧電性部分より厚く、好ましくは5倍厚く、且つ等方性材料で作られており、そして該ホットトラックは、中心Cから、極座標R(θ)に沿って線を描き、該極座標の式が、
【0056】
【0057】
式(viii)は、
【0058】
【0059】
【数39】
によって式(i)~(vii)の集合の解析解として得られ、sは該本体材料における該渦のスローネスであり、及び、αは
【0060】
【数40】
に影響を有しない定数である。このような場合、式(vi)を解くことが、
【0061】
【0062】
【0063】
【数43】
及び、Aは単位行列であり、グイ位相はπ/2であり、且つレベル集合
【0064】
【数44】
の影響を有しない定数であるので放棄されることができる。言い換えれば、式(viii)において、
【0065】
【0066】
該ホット電極は好ましくは、螺旋軸を全体的に取り囲む半径方向内側のコイルを備えており、且つ中央ゾーンを画定する;
【0067】
該ホットトラックは好ましくは、少なくとも1つのコイルに沿って、好ましくは少なくとも5つのコイルに沿って、さらに好ましくは15のコイルに沿って、延びる。該コイルの数を増やすことは、集束を改善して捕捉力を増す。
【0068】
該ホット電極は、該ホットトラックがそれに電気的に接続されているところのホット電力端子を備えていることができる。
【0069】
変形例において、該接地電極は、該螺旋軸を全体的に取り囲む半径方向内側のコイルを備えており、且つ中央ゾーンを画定することができる。
【0070】
該接地トラックは、少なくとも1つのコイルに沿って、好ましくは少なくとも5つのコイルに沿って、さらに好ましくは15のコイルに沿って、延びることができる。
【0071】
好ましくは、該接地トラック及び該ホットトラックは両方とも、同じ数のコイルを備えている。
【0072】
該接地電極は好ましくは、該接地トラックがそれに電気的に接続されているところの接地電力端子を備えている。
【0073】
該接地電極は、該螺旋軸の周りを螺旋状に巻く少なくとも1つの接地トラックを備えていることができる。
【0074】
変形例において、該接地トラックは、該ホットトラックが設けられている該圧電性部分の面に設けられていることができる。
【0075】
該接地電極及び/又は該ホットトラックは、電気絶縁材料で、好ましくは4分の1波長層の形態で、被覆されることができる。4分の1波長層は、音響波の伝達を高める。
【0076】
好ましくは、該電気音響機器は、少なくともN個の複数のホット電極を備えており、Nが少なくとも2、好ましくは少なくとも4、であり、且つ該複数のうちの少なくとも1つの、好ましくは全ての、ホット電極が、該螺旋軸(X)の周りを螺旋状に巻くホットトラックを備えている。特に、該接地トラックは、隣接する2つのホットトラックの間に設けられていることができる。言い換えれば、該接地トラック及び隣接する2つのホットトラックは絡み合うことができる。該N個の複数のホットトラックは互いに絡み合うことができる。
【0077】
幾つかの実施態様において、該接地電極は、少なくともM個の複数の接地トラックを備えていることができ、Mが少なくとも2、好ましくは少なくとも4、であり、好ましくはMがNに等しく、各接地トラックが少なくとも1つの螺旋コイルを画定しており、2つの隣接する接地トラックの2つの隣接するコイルの間の半径方向の距離が該螺旋軸から減少している。該M個の複数の接地トラックは互いに絡み合うことができる。
【0078】
幾つかの実施態様において、複数の該接地トラック及び複数の該ホットトラックは、該圧電性部分の1つの面に、及び任意的に、該圧電性部分の反対側の面に設けられた、互いに交互に絡み合う複数の接地トラック及び複数のホットトラックのパターンを画定する。複数の該接地トラックは、複数の該ホットトラックと絡み合うことができる。
【0079】
幾つかの実施態様において、該ホットトラックの幅は中心から半径方向に変わることができる。従って、該集束超音波渦の振幅は、変更されることができる。特に、半径方向に沿って、半径方向内側のコイルの幅は、隣接する半径方向外側のコイルの幅よりも大きくなることができる。
【0080】
好ましくは、該電気音響機器は、複数の該ホット電極に給電する為の制御ユニットをさらに備えており、該制御ユニットは、1つのホット電極及び1つの接地電極からなる各電極対を制御して、上記各対が該圧電性部分において弾性体積波、好ましくは100KHz~10GHzの範囲の基本周波数を有する弾性体積波、を発生させるように構成されており、2つの隣接する電極対によって発生された該弾性体積波の間の位相ずれが2π/Nである。好ましくは、該ホット端末及び接地端子は、該制御ユニットに電気的に接続されている。
【0081】
幾つかの好ましい実施態様において、少なくとも2つのホット電極が夫々、少なくとも1つの螺旋コイルを画定する単一のホットトラックを備えていることができ、該2つのそれぞれの隣接するホットトラックの2つの隣接するコイルの間の半径方向の距離が該螺旋軸から減少している。
【0082】
隣接する2つのホットトラックは該圧電性部分の同じ面に設けられていることができる。
【0083】
該ホット電極及び接地電極は好ましくは、フォトリソグラフィによって該圧電性部分上に成膜され;特に、該圧電性部分上の該電極の密着を改善する為に、該ホット電極及び接地電極を成膜する前に、クロム又はチタンを含む材料の層が該圧電性部分上に成膜されうる。
【0084】
該ホット電極及び接地電極は、好ましくは金、銀、アルミニウム、クロム、チタン及びそれらの混合物の中から選択される金属材料から作られることができ;アルミニウムが100MHz超の周波数での用途の為に好ましく;良好な導電性が必要とされる場合には金及び/又は銀が好ましい;
【0085】
その上、該電気音響機器は、好ましくは非圧電材料で作られた、該本体に設けられた、基部を備えていることができる。該基部は、少なくとも部分的に非不透明材料、好ましくは透明材料、で作られることができ、特にガラスで作られることができる。該基部は、10μm~1cmの範囲の、好ましくは100μm~1mmの範囲の、例えば150μmに等しい、厚さを有する板の形状を有することができる。
【0086】
該基部は、顕微鏡の対物レンズの一部分であることができる、又は顕微鏡の対物レンズに固定されるように構成された装置の一部分であることができる。
【0087】
該電気音響機器は、単一の波トランスデューサを備えていることに限定されない。特に、それは、該本体内に、異なる基本波長の集束超音波渦を発生させるように構成された複数の波トランスデューサを備えていることができる。該電気音響機器は特に、該波トランスデューサの該中央ゾーンに置かれた視覚マーキングを備えていることができる。
【0088】
幾つかの実施態様において、該電気音響機器は円板形状であることができる。特に、該基部は、旋回軸上で回転可能に装着されることができ、且つ回転軸の周りを該本体に相対的に回転するように適合されることができる。その上、該電気音響機器は、好ましくは2つの横軸のいずれかに沿った平行移動によって、該波トランスデューサに相対的に該基部を移動させるように構成された構造を備えていることができる。
【0089】
該電気音響機器はさらに、第1の波トランスデューサ及び第2の波トランスデューサを含むことができ、該機器の第1の配置における該第1の波トランスデューサの中心の位置が、該機器の第2の配置における該第2の波トランスデューサの中心の位置に対応し、該機器が好ましくは、該第1の配置から該第2の配置への遷移が旋回軸の周りの回転によって操作されるように構成されている。
【0090】
該電気音響機器は、該ホット電極を制御ユニットに接続する為の接触ブラシを備えていることができる。該電気音響機器は、第1の波トランスデューサ及び第2の波トランスデューサを備えていることができ、該接触ブラシが、該機器のそれぞれの第1の配置及び第2の配置において、該それぞれの第1の波トランスデューサ及び第2の波トランスデューサの該ホット電極と接触しており、該機器が好ましくは、該第1の配置から該第2の配置への遷移が旋回軸の周りの回転によって操作されるように構成されている。
【0091】
好ましい第1の具体的な実施態様に従うと、該電気音響機器は、該圧電性部分が該本体とは異なり、該本体が該波トランスデューサの面に配設されており且つ該波トランスデューサと音響的に結合されているようなものである。
【0092】
該本体は好ましくは、少なくとも部分的に非不透明材料、好ましくは透明材料、で作られている。好ましくは、該本体は非圧電材料で作られている。特に、該本体は、超音波の伝搬に関して等方性材料で作られることができる。それは、該波トランスデューサに完全に重なることができる。
【0093】
好ましくは、該本体は、ガラス、特にホウケイ酸ガラス、及びポリマー、特に熱可塑性プラスチック、好ましくはポリメチルメタクリレート(PMMA)、の中から選択される材料を含む。より好ましくは、該本体はガラスを含む。
【0094】
該本体の厚さは好ましくは、該本体内での該集束渦の波長の少なくとも1倍及び多くとも5倍、特に3倍、である。
【0095】
好ましくは、該本体の厚さは、10μm~1cmの範囲である。
【0096】
該圧電性部分及び該本体は、例えば接着剤によって、特には該圧電性部分と該本体との間に設けられている層の形状の接着剤によって、音響的に結合されることができる。
【0097】
少なくとも1つのホット電極が、該圧電性部分と該本体との間に挟まれることができる。
【0098】
第1の好ましい実施態様の該電気音響部分の厚さに関して、それは好ましくは、(2p+1)λ/2以下であり、ここで、λは1つの電極対によって発生された弾性体積波の基本波長であり、pは5以下の整数であり;好ましくは、該電気音響部分の厚さは100nm~1cm、好ましくは1μm~100μm、の範囲である。
【0099】
さらに、該波トランスデューサは、保護コーティング、好ましくはシリカを含む保護コーティング、によって被覆されることができる。
【0100】
変形例において、該圧電性部分は好ましくは、凹部、好ましくは2つの隣接するホット電極の該ホットトラックの間の間隙の間に設けられた、螺旋軸Zの周りを螺旋状に巻く溝、を備えている。該凹部は、該圧電性部分内を横方向に伝搬する音波の発達を制限する。
【0101】
第1の好ましい実施態様における該ホット電極及び接地電極の配置に関して、該ホットトラックは該圧電性部分と該本体との間に設けられていることができる。変形例において、該機器は複数のホット電極を備えていることができ、そして該複数のホット電極の少なくとも半分、特に全て、が該圧電性部分と該本体との間に設けられていることができる。
【0102】
隣接する2つのホットトラックが該圧電性部分の2つの反対側の面に設けられていることができる。変形例において、隣接する2つのホットトラックが該圧電性部分の同じ面に設けられていることができる。
【0103】
該接地電極に関して、それは、該ホットトラックが設けられている面に対して反対側の該圧電性部分の面に設けられていることができる、軸Zの周りを螺旋状に巻く接地トラックを備えていることができる。好ましくは、該接地トラックは、それが面する該ホットトラックと重畳されており、またはその逆の関係である。
【0104】
代替として、該接地電極は、該圧電性部分の面上に延在し且つ該N個の複数のホット電極の各ホット電極の該ホットトラックが、好ましくは完全に、重畳された接地コーティングを備えていることができる。接地コーティングは、低コストで該圧電性部分上に容易に堆積されることができる。
【0105】
該接地電極が複数の接地トラックを備えている場合、該複数の接地トラックの各接地トラックは、該複数のホット電極のそれぞれのホット電極の該ホットトラックが完全に重畳されることができ、逆もまた同じである。該複数の接地トラックの各接地トラックは、該複数のホット電極のそれぞれのホット電極のホットトラックに面することができ、逆もまた同じである。
【0106】
該圧電性部分の1つの面に配置されたホットトラックのパターンが、反対側の面に配置されたパターンに重畳されることができ、逆もまた同じである。
【0107】
好ましい第2の具体的な実施態様に従うと、該電気音響機器は、該本体が、該圧電性部分、該本体の同じ面に設けられたホットトラック及び接地トラックそれぞれを備えている該ホット電極及び該接地電極を備えている、好ましくはそれらからなり、該ホットトラックも接地トラックも螺旋軸Zの周りを螺旋状に巻く、ようなものであることができる。好ましくは、該ホット電極のコイルに隣接する該ホットトラックのコイルの間の半径方向の距離が該螺旋軸から減少している。
【0108】
好ましくは、好ましい第2の実施態様に従うと、該本体の厚さ範囲は好ましくは、該本体内での該集束渦の波長の少なくとも1倍、好ましくは多くとも5倍、であり、特に3倍に等しい。好ましくは、それは10μm~1cmの範囲である。該電気音響機器は、基部を備えていることができ、該本体が、一方で該ホット電極及び該接地電極と他方で該基部との間に介在されている。
【0109】
本発明に従う電気音響機器は、好ましくは前駆トランスデューサに重なる、該流体媒質を含むことができる。特に、該流体媒質は液体であることができる。
【0110】
該流体媒質は、少なくとも1つの対象物が包埋されることができる溶媒を含む、又はそれからなりさえすることができる。例えば、該溶媒は水である。例えば、該対象物は、粒子、液滴、気泡、該流体媒質と異なる別の流体媒質、薬剤カプセル及び生体試料、例えば細胞、微生物、細胞小器官の中から選ばれ、上記対象物が該流体媒質中に包埋されている。
【0111】
一つの実施態様において、該電気音響機器は、該波トランスデューサが取り付けられる支持部を備えていることができる。該支持部は、ユーザの手によって又はロボットアームによって把持されるように適合されたハンドルを備えていることができる。例えば、該電気音響機器はペンの形態にある。変形例において、該支持部はステージ及び基部を備えており、該ステージは、該基部に相対的に少なくとも1つの、例えば2つの、好ましくは3つの、好ましくは垂直な、方向に沿って移動するように適合されている。該ステージの変位はモータによって又は手動で作動されることができる。
【0112】
その上、本発明はまた、流体媒質、好ましくは液体媒質、又は好ましくは粒子、液滴、気泡、該流体媒質と異なる別の流体媒質、薬剤カプセル及び生体試料、例えば細胞、微生物、細胞小器官の中から選ばれた少なくとも1つの対象物を操作する為の方法であって、ここで、上記対象物が該流体媒質中に包埋されている、該方法が、下記連続工程:
本発明に従う電気音響機器で集束超音波渦を発生させること、
該対象物が付される音響トラップ又は音響流れを発生させるように、該集束超音波渦の焦点位置が該流体媒質のバルク内に設けられているように該流体媒質を位置決めすること、
任意的に、該流体媒質に相対的に該電気音響機器の該波トランスデューサを変位することによって該対象物を操作すること、
を含む上記方法に関する。
【0113】
最後に、本発明はまた、集束超音波渦を発生させる為の本発明の電気音響機器の使用に関する。該集束超音波渦は、等方性又は異方性であることができる。特に、それは球形であることができる。
【0114】
例えば、「等方性媒質」内を伝搬する「球形渦」が、下記の式(ix)によって定義される:
【0115】
【数46】
そして「異方性媒質」内を伝搬する「球形渦」が、下記の式(x)によって定義される:
【0116】
【0117】
【数48】
は次数n及び次数mの球面調和関数であり、
そしてj
nは次数nの球ベッセル関数であり、且つ
【0118】
【0119】
「超音」波は、1MHz~10000MHzの範囲の周波数を有する。
【0120】
「半径」方向は、螺旋軸に対して垂直である。
【0121】
「半径方向の」平面は、螺旋軸及び1つの半径方向の両方を含む。
【0122】
「横断」面は、螺旋軸に垂直である。
【0123】
「半径方向内側」の部分は、半径方向に沿って「半径方向外側」の部分より螺旋軸に近い。
【0124】
螺旋の「コイル」は、少なくとも360°の角度の、螺旋軸の周りを角度的に延在する螺旋の一部である。
【0125】
部分の「厚さ」は、螺旋軸に平行な方向に沿って測定される。
【0126】
2つのコイルの間の「半径方向の間隔」(radial step)は、2つの隣接するコイルの幅中央に両方とも位置する2つの点間で測定される、半径方向の距離(radial distance)に対応する。
【0127】
圧電性部分の両面に場合により設けられた複数のトラックのうち、該圧電性部分の横断面が螺旋軸に沿って投影されて観察される場合に、第1のトラックに「隣接する」第2のトラックは、第1のトラックからの半径方向の距離が最短であるトラックである。同じことが螺旋のコイル又は電極に当てはまる。この定義に従って、該圧電性部分の一面に設けられた第1のトラックが、該圧電性部分の反対側の面に設けられた第2のトラックに隣接されることができる。
【0128】
本発明は、その例示的且つ非限定的な実施態様を参照し、且つ以下の詳細な説明を読むことから及び添付の図面の吟味によって、より良く理解されうる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施態様に従う電気音響機器を斜視図から示す。
【
図2】
図2は、
図1の電気音響機器の波トランスデューサの一面の螺旋軸に沿った図を示す。
【
図3】
図3は、
図1の電気音響機器の波トランスデューサの反対側の面の螺旋軸に沿った図を示す。
【
図5】
図5は、対象物を操作する為に実装された
図1の電気音響機器の軸断面の側面図を示す。
【
図6】
図6は、
図1の電気音響機器の変形例の軸断面の側面図を示す。
【
図8】
図8は、
図1の電気音響機器の変形例の軸断面の側面図を示す。
【
図9】
図9は、
図1の機器の別の変形例の軸断面の側面図を示す。
【
図10】
図10は、本発明の第2の実施態様に従う電気音響機器を透視図から示す。
【
図12】
図12は、式(i)を(x)に表現する為の基準点の定義を示す。
【
図13】
図13は、集束超音波を発生させる為のホット電極の特別な形状を定義する為に実装される方法を示す。
【
図14】
図14は、本発明に従う電気音響機器の別の例の軸断面の側面図を示す。
【
図15】
図15は、本発明に従う電気音響機器の別の例を透視図から示す。
【発明を実施するための形態】
【0130】
図面において、異なる要素のそれぞれの比率及びサイズは、明確化の為に必ずしも順守されるわけではない。
【0131】
図1~
図5は、電気音響機器5の第1の実施態様を示す。
【0132】
図1~
図5に従う電気音響機器は、120μmに等しい厚さe
sの板の形状の圧電性部分7を備えており、上面及び下面を示す。それは、35°でYカットされたLiBNO
3で作られている。
【0133】
電気音響機器は、
図5に表され、ホウケイ酸ガラスで作られ、6.5mmの厚さe
bを有する本体10も備えている。該本体は、結合媒体12、例えばNorland Productの光学接着剤NOA61、によって圧電性部分に音響的に結合されている。
【0134】
2つの第1のホット電極15及び第2のホット電極17が上面20に設けられており、そして各々が、第1の電極及び第2の電極に電力を提供する制御ユニット24にホット電極を接続する為の接触ブラシ22a~bを備えている。該第1のホット電極又は該第2のホット電極は、上面に垂直である共通の螺旋軸Zの周りを螺旋状に巻く第1のホットトラック25又は第2のホットトラック27を備えている。該第1のホットトラック又は該第2のホットトラックは幾つかのコイルを備えており、該第1のホットトラック及び該第2のホットトラックの各々の内側コイルが上面に画定される中央ゾーン30を囲んでいる。示されない変形例において、電気音響機器は3つ以上の、特に4つの、ホット電極を備えていることができ、全てが螺旋軸Zの周りを螺旋状に巻くホットトラックを備えている。
【0135】
図2及び
図4に観察されることができる通り、第1のホットトラック及び第2のホットトラックの螺旋は、該第1のホットトラック又は該第2のホットトラックの2つの隣接するコイルの間の半径方向の間隔Δrが中心から減少するようなものである。例えば、半径方向内側の隣接するコイルと半径方向外側の隣接するコイルとの間の半径方向の間隔は136から115μmに減少する。
【0136】
電気音響機器は接地電極35を備えており、
図1~4に示された実施態様に関して、上面の反対側の下面37上に部分的に延在する接地コーティング36からなる。第1の電極及び第2の電極、接地電極並びに圧電性部分が、波トランスデューサ41を画定する。該接地電極は、グラウンド40に電気的に接続されている。
図3に示されている通り、上面に設けられたホット電極が破線パターンとして描かれる場合に、該接地コーティングは第1のホットトラック及び第2のホットトラックを完全に覆っている。該第1のトラック及び該接地コーティングが一方で、並びに該第2のトラック及び該接地コーティングが他方で、給電される場合に、圧電性部分を変形させる第1の体積超音波W
1及び第2の体積超音波W
2それぞれを発生させる第1の電極対42及び第2の電極対44を画定する。特に、制御ユニットは、第1の体積超音波と第2の体積超音波との間の位相ずれがπに等しいように該第1の電極及び該第2の電極に電力を供給する為に適合されている。
【0137】
その上、
図5に示されている通り、本体10は上面20の頂部に設けられており、従って、第1のホット電極15及び第2のホット電極17は圧電性部分7と該本体との間に挟まれる。
【0138】
電気音響機器は、波トランスデューサに面する面の反対側の面に設けられた基部を備えている。該基部は、150μmの厚さeaのホウケイ酸ガラスで作られた板である。該基部は、螺旋Zを横断する少なくとも2つの方向に移動されることができる。10μm未満の厚さの界面液体が、該基部と該本体との間に設けられている。
【0139】
例えばPDMSで作られた吸音器50が基部上に設けられており、それは、流体媒質58、好ましくは液体媒質、を含むキャビティ55を画定する。対象物60が流体媒質中に包埋されている。
【0140】
ホット電極に給電する場合、波トランスデューサが、該圧電性部分内において、螺旋軸に平行な方向に実質的に沿って伝搬する第1の体積超音波W1及び第2の体積超音波W2によって変形される。
【0141】
該波トランスデューサは上記体積超音波を該本体のバルクに伝達し、該体積超音波が、焦点位置(音響強度が最低である)がキャビティ内に位置する集束超音波渦FVを画定する。該本体に相対的に基部を移動させることによって、対象物は焦点位置の近くに寄せられることができる。次に、それは操作される、特に螺旋軸に沿って捕捉される、ことができる。
【0142】
図6に示された電気音響機器は、圧電性部分に形成され、第1のホット電極15及び第2のホット電極17の間に半径方向に設けられ、且つ軸Zの周りを螺旋状に巻く溝からなる凹部65によって、
図1に示されたものと異なる。螺旋状に巻く溝は、少なくとも1つのコイル、本ケースでは4つのコイル、を備えている。図示されている通り、溝のコイルの半径方向の幅Δ
cは螺旋軸Zから減少することができる。変形例において、それは一定であることができる。該凹部は、基板内の音声横断弾性体積又は表面波の伝搬を制限する。
【0143】
図7及び
図8に示された電気音響機器は、接地電極が接地コーティングの代わりに2つの第1の接地トラック70及び第2の接地トラック75を備えており、両方ともグラウンド40に接続されているという事実によって、
図1に示されたものと異なる。
【0144】
該接地トラックは、第1のホット電極及び第2のホット電極が設けられている面の反対側の圧電性部分の下面37に設けられている。
【0145】
第1の接地トラック又は第2の接地トラックは第1のホットトラック又は第2のホットトラックに完全に重畳されており、逆もまた同じである。それらは、第1の電極対42及び第2の電極対44を画定する。
【0146】
図9に示された電気音響機器は、以下の特徴によって
図8に示されたものと異なる。
【0147】
上面に、
図1の機器の第2のホット電極の代わりに、接地トラック78が設けられ、それは、
図8の機器の第2のホット電極と同一である形状及び螺旋Zに相対的な位置を有している。
【0148】
下面に、
図1の機器の第2の接地電極の代わりに、ホットトラック79が設けられ、それは、
図8の機器の第2のホット電極と同一である形状及び螺旋Zに相対的な位置を有している。
【0149】
図10及び
図11は、本発明の第2の実施態様を示す。第2の実施態様に従う電気音響機器は、それが、厚さ150ミクロンを有するYカットされたLiNbO
3で作られた圧電性部分7からなる本体10を備えており、上面及び上面の反対側の下面を有するという事実によって、並びに接地電極80及びホット電極85が本体の同じ面に、本ケースでは下面に、設けられているという事実によって、
図1に示された実施態様と異なる。それらは、螺旋軸Zの周りを螺旋状に巻くそれぞれの接地及びホットトラックを備えている。
【0150】
該ホット及び接地の螺旋状に巻くトラックは、それらが配置されている面上のそれぞれのトラックのコイルの絡み合うパターンを画定する。
【0151】
その上、電気音響機器は、波トランスデューサに面する面の反対側の面に設けられた基部を備えている。該基部は、150μmの厚さeaのホウケイ酸ガラスで作られた板である。該基部は、螺旋軸Zを横断する少なくとも2つの方向に移動されることができる。10μm未満の厚さの界面ゲルが、該基部と該本体との間に設けられている。
【0152】
例えばPDMSで作られた吸音器50が基部上に設けられており、それは、流体媒質58、好ましくは液体、を含むキャビティ55を画定する。対象物60が該流体媒質中に包埋されている。
【0153】
ホットトラック及び接地トラックは、該ホットトラックが制御ユニットによって給電される場合に、それらが誘起する2つの隣接するコイルの間の圧電性部分の局所変形が干渉し、そして本体内を伝搬して流体媒質を含むキャビティ内で集束する集束超音波渦を画定するように適合されている。該本体に相対的に基部を移動させることによって、該対象物は操作されることができる。
【0154】
図12は、例えば式(x)によって定義されるような球形渦を定義する為のデカルト座標系の位置を示し、その焦点位置は点2によって指定され、且つ電極が設けられている、n=0によって指定される平面、例えば圧電性部分の面20、と交わる。
【0155】
図13は、渦FVが軸Zに沿って距離z
(N)にわたってホットトラックから焦点位置2に向けて、圧電性部分である本体内を伝搬する場合の、式(i)~(vii)への解を示すことを目的とする。渦FVは、等位相線(equi-phase lines)と呼ばれる、位相が一定であるところの3D線を含む。例えば、等位相線99に沿って、渦の位相は、点100a~100cまで同じである。焦点位置2及び点100a~100cを結ぶ線117に沿った、等位相線99の投影は、トラックが設けられている表面上の中心Cから表されるパラメータR(θ)によって設定される平面線である。言い換えれば、該ホットトラックが設けられなければならない平面上への集束超音波渦の位相の交差は、該ホットトラックの描画をもたらす。これは例えば、一組の式(i)~(viii)によって数学的に表される。上記線R(θ)を描く少なくとも1つのホットトラックを形成することによって、焦点2で集束する超音波渦が発生されることができる。
図13の例は、一組の式(i)~(viii)の解の具体的なケースに対応し、ここで、該電気音響機器は圧電性部分である単一の本体を備えている。本明細書で示された上記方法が本発明のいかなる他の変形例、例えば電気音響機器が圧電性部分、該圧電性部分とは異なる本体、及び任意的に、該本体の頂部に設けられた他の1以上の基板を備えている場合、にも適用されることができることが当業者に明らかであろう。
【0156】
図14は、本発明に従う電気音響機器5の別の実施態様を示す。電気音響機器5は、ユーザによって握持されることができるペン128の一般的形状を有する。それは、伸張軸に沿って延在し且つ波トランスデューサ41が取り付けられている支持部130を備えている。該波トランスデューサは支持部の先端に設けられている。該波トランスデューサは、圧電性部分7からなる本体10を備えている。第1のホット電極15及び第2のホット電極17が本体の一面に設けられており、且つ接地電極36が、
図4に既に示されている通り、該本体の他方の部分に設けられている。電気音響機器はさらに、第1のホット電極及び第2のホット電極が設けられている面の頂部に且つ上記ホット電極の頂部に設けられた4分の1波長層135を備えている。4分の1波長フィルタは、本明細書で以下に現れるように、いかなる分流も防止する為に電気絶縁材料で作られている。変形例において、接地電極並びに第1のホット電極及び第2のホット電極は全て、支持部に面する圧電性部分の面にそれぞれ設けられていることができる。
【0157】
電気音響機器は、以下の様式で対象物を操作する為に使用されることができる。
【0158】
開口111を備えており且つ空胴112を画定する容器110は、対象物122が包埋されている流体媒質120、好ましくは液体媒質、で満たされる。電気音響機器は、波トランスデューサが液体に浸漬されるようにユーザによって取り扱われる。
【0159】
示されていない発電機によって電気音響機器に電圧が印加される場合に、圧電性部分を変形させる第1の体積超音波W1及び第2の体積超音波W2が発生される。該波トランスデューサは上記体積超音波W1及びW2を直接流体媒質に伝達し、該体積超音波が、焦点位置、即ち音響強度が最低である位置、が空洞内に位置する集束超音波渦FVを画定する。容器110に相対的に電気音響機器5を移動させることによって、対象物122は焦点位置の近くに寄せられることができる。次に、それは3Dで操作されることができる。
【0160】
図15は、本発明に従う電気音響機器5の別の実施態様を示す。
【0161】
図15の電気音響機器は、それが単一のホット電極125を備えているという点、及び接地電極130が圧電性部分7の同じ面上でホット電極と共に配設されるという点で
図1の電気音響機器と異なる。本ケースでは、それらは圧電性部分の上面20に設けられている。
【0162】
接地電極及びホット電極は夫々、制御ユニット140に接続されるべき接触ブラシ135a~bを備えている。該制御ユニットは、該接地電極に及び該ホット電極に異なる電位を提供する。該接地電極は例えば、該制御ユニットの接地ソケットに接続されており、その電位は、グラウンドされている40として、基準として定義される。
【0163】
特に、接地電極のホット電極の電位は、πに等しい位相だけ互いに位相を異にすることができる。
【0164】
ホット電極及び接地電極はそれぞれホットトラック145及び接地トラック150を備えており、それらは上面に垂直な共通の軸Zの周りを螺旋状に巻いている。ホットトラック又は接地トラックは幾つかのコイルを備えており、各々の内側コイルが上面に画定される中央ゾーン230を囲んでいる。
【0165】
さらに、該ホットトラック及び該接地トラックは互いに絡み合う。
【0166】
図16に観察されることができる通り、接地トラック及びホットトラックは、接地トラック又はホットトラックの2つの隣接するコイル240a~bの間の半径方向の間隔Δr’が、中心から半径方向に減少するようなものである。
【0167】
該制御ユニットがホット電極に電力を提供する場合に、接地電極及びホット電極は、圧電性部分を変形させる体積超音波を発生させる。超音波は本体のバルクに伝達されて、
図5に示された様式で集束超音波渦を画定することができる。
【0168】
本明細書を通じて明らかであるように、本発明に従う電気音響機器は、流体媒質中に包埋された対象物を操作する効率を改善する。それはさらに、複数の対象物の母集団のうちの特定の対象物を操作するときに、選択性を改善する。
【0169】
もちろん、本発明は、本明細書に記載された特定の実施態様に限定されない。