(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】体積計測装置および体積計測方法
(51)【国際特許分類】
G01F 17/00 20060101AFI20231127BHJP
A01K 61/95 20170101ALI20231127BHJP
【FI】
G01F17/00 B
A01K61/95
(21)【出願番号】P 2020541263
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034745
(87)【国際公開番号】W WO2020050306
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2018167565
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・ンジェヒア・ンジャネ
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲仁
(72)【発明者】
【氏名】緒方 康平
(72)【発明者】
【氏名】西津 貴久
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-136027(JP,A)
【文献】国際公開第2005/090932(WO,A1)
【文献】特開平7-83731(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094739(WO,A1)
【文献】米国特許第4991433(US,A)
【文献】特開平1-184417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F17/00
A01K61/90-61/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する第1空間を画定する第1容器と、
前記液体を貯留して対象物が
前記液体内に配置される第2空間を画定する第2容器と、
前記第1空間と前記第2空間とを流体的に連通する流路を画定するネック部と、
前記第1空間に配置され、所定の周波数範囲の音を発する発音部と、
前記第2空間に配置された集音部と、
前記発音部から発せられ、前記第2空間にて共鳴し、前記集音部にて集音された音の共鳴周波数を用いて前記対象物の体積を算出する制御装置と
を備え
、
前記制御装置は、
前記第2空間に前記対象物が存在しない場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である基準共鳴周波数を記憶した記憶部と、
前記集音部で集音された音から、前記第2空間に前記対象物が存在する場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる前記共鳴音の周波数である対象共鳴周波数を取得する共鳴分析部と、
前記基準共鳴周波数および前記対象共鳴周波数に基づいて前記対象物の体積を算出する体積演算部と
を含み、
前記制御装置は、前記液体及び前記対象物の体積弾性率を用いて、前記対象物の体積を算出する、体積計測装置。
【請求項2】
前記体積演算部は、演算テーブルを有し、
前記演算テーブルは、それぞれ前記対象共鳴周波数と前記基準共鳴周波数の特定の組み合わせに対するものである、前記対象物の体積を格納している、請求項
1に記載の体積計測装置。
【請求項3】
前記体積演算部は、以下の式に基づいて前記対象物の体積V
0を算出する、請求項
1に記載の体積計測装置。
V
0:
前記対象物の体積
K
o:
前記対象物の体積弾性率
K
w:
前記液体の体積弾性率
f
0:
前記基準共鳴周波数
f:
前記対象共鳴周波数
W
1:
前記第1容器に貯留された
前記液体の体積
W
2:
前記第2容器に貯留された
前記液体の体積
【請求項4】
液体を貯留する第1空間を画定する第1容器と、
前記液体を貯留して対象物が前記液体内に配置される第2空間を画定する第2容器と、
前記第1空間と前記第2空間とを流体的に連通する流路を画定するネック部と、
前記第1空間に配置され、所定の周波数範囲の音を発する発音部と、
前記第2空間に配置された集音部と、
前記発音部から発せられ、前記第2空間にて共鳴し、前記集音部にて集音された音の共鳴周波数を用いて前記対象物の体積を算出する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記第2空間に前記対象物が存在しない場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である基準共鳴周波数を記憶した記憶部と、
前記集音部で集音された音から、前記第2空間に前記対象物が存在する場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる前記共鳴音の周波数である対象共鳴周波数を取得する共鳴分析部と、
前記基準共鳴周波数および前記対象共鳴周波数に基づいて前記対象物の体積を算出する体積演算部と
を含み、
前記体積演算部は、以下の式に基づいて前記対象物の体積V
0を算出する
、体積計測装置。
V
0:
前記対象物の体積
K
o:
前記対象物の体積弾性率
K
w:
前記液体の体積弾性率
f
0:
前記基準共鳴周波数
f:
前記対象共鳴周波数
W
1:
前記第1容器に貯留された
前記液体の体積
W
2:
前記第2容器に貯留された
前記液体の体積
E
r1:
前記第1容器の共鳴器係数
E
r2:
前記第2容器の共鳴器係数
【請求項5】
前記第2容器は前記液体表面より上部の壁の一部に開口部が設けられている、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の体積計測装置。
【請求項6】
液体を貯留する第1空間を画定する第1容器と、
前記液体を貯留して対象物が前記液体内に配置される第2空間を画定する第2容器と、
前記第1空間と前記第2空間とを流体的に連通する流路を画定するネック部と、
前記第1空間に配置され、所定の周波数範囲の音を発する発音部と、
前記第2空間に配置された集音部と、
前記発音部から発せられ、前記第2空間にて共鳴し、前記集音部にて集音された音の共鳴周波数を用いて前記対象物の体積を算出する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記第2空間に前記対象物が存在しない場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である基準共鳴周波数を記憶した記憶部と、
前記集音部で集音された音から、前記第2空間に前記対象物が存在する場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる前記共鳴音の周波数である対象共鳴周波数を取得する共鳴分析部と、
前記基準共鳴周波数および前記対象共鳴周波数に基づいて前記対象物の体積を算出する体積演算部と
を含み、
前記対象物が前記ネック部の前記流路を通過することを防止するための通過防止部材をさらに備える、
体積計測装置。
【請求項7】
前記第1容器および前記第2容器の少なくとも一方は、前記ネック部に対して取り外し可能に取り付けられている、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の体積計測装置。
【請求項8】
前記ネック部は、前記第1容器に取り付けられ、
前記第1容器および前記ネック部は、前記第2空間に配置される、請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の体積計測装置。
【請求項9】
液体を貯留する第1空間を画定する第1容器と、
前記液体を貯留して対象物が前記液体内に配置される第2空間を画定する第2容器と、
前記第1空間と前記第2空間とを流体的に連通する流路を画定するネック部と、
前記第1空間に配置され、所定の周波数範囲の音を発する発音部と、
前記第2空間に配置された集音部と、
前記発音部から発せられ、前記第2空間にて共鳴し、前記集音部にて集音された音の共鳴周波数を用いて前記対象物の体積を算出する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記第2空間に前記対象物が存在しない場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である基準共鳴周波数を記憶した記憶部と、
前記集音部で集音された音から、前記第2空間に前記対象物が存在する場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる前記共鳴音の周波数である対象共鳴周波数を取得する共鳴分析部と、
前記基準共鳴周波数および前記対象共鳴周波数に基づいて前記対象物の体積を算出する体積演算部と
を含み、
前記第2空間に空気を注入するバブル注入部をさらに備える、
体積計測装置。
【請求項10】
前記第1容器と、前記第2容器と、前記ネック部とは、同一の中心軸を共有するように配置構成されている、請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の体積計測装置。
【請求項11】
液体を貯留する第1空間を画定する第1容器と、前記液体を貯留して対象物が配置される第2空間を画定する第2容器と、前記液体が充填されて前記第1空間と前記第2空間とを流体的に連通する流路を画定するネック部と、前記第1空間に配置され、所定の周波数範囲の音を発する発音部と、前記第2空間に配置された集音部とを準備し、
前記第2空間に前記対象物が存在しない場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である基準共鳴周波数を前記集音部を使用して測定し、
前記第2空間に前記対象物が存在する場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である対象共鳴周波数を前記集音部を使用して測定し、
前記基準共鳴周波数および前記対象共鳴周波数に基づいて前記対象物の体積を算出
し、
前記液体及び前記対象物の体積弾性率を用いて、前記対象物の体積を算出する、体積計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積計測装置および体積計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ネック部と容器本体を備えるヘルムホルツ共鳴器を用いて水中で活動する生魚等の体積を計測する方法が開示されている。このヘルムホルツ共鳴器には、ネック部の開口部にリード部が設けられている。リード部に所定流速の水流を所定方向から当てると音が発生し、共鳴する。当該方法は、リード部から発生する音の共鳴周波数に基づいて生魚等の体積を計測するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リード部から発生する音を共鳴させるためには、リード部に当てる水流の流速を速くすることが必要な場合があり、当該水流によって生魚が傷つけられるおそれがある。従って、特許文献1の方法は、養殖魚等の体積を計測するためには適さない場合がある。また、計測精度の観点からも改善の余地がある。
【0005】
本発明は、液体中に存在する対象物の体積を高精度かつ安全に計測できる体積計測装置および体積計測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、液体を貯留する第1空間を画定する第1容器と、前記液体を貯留して対象物が液体内に配置される第2空間を画定する第2容器と、前記第1空間と前記第2空間とを流体的に連通する流路を画定するネック部と、前記第1空間に配置され、所定の周波数範囲の音を発する発音部と、前記第2空間に配置された集音部と、前記発音部から発せられ、前記第2空間にて共鳴し、前記集音部にて集音された音の共鳴周波数を用いて前記対象物の体積を算出する制御装置とを備える、体積計測装置を提供する。
【0007】
前記制御装置は、前記第2空間に前記対象物が存在しない場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である基準共鳴周波数を記憶した記憶部と、前記集音部で集音された音から、前記第2空間に前記対象物が存在する場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる前記共鳴音の周波数である対象共鳴周波数を取得する共鳴分析部と、前記基準共鳴周波数および前記対象共鳴周波数に基づいて前記対象物の体積を算出する体積演算部とを備えてもよい。
【0008】
これらの構成によれば、第1容器と第2容器とネック部とによってヘルムホルツ共鳴器が構成される。このヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数に基づいて対象物の体積を算出するため、液体中に存在する対象物の体積を非接触で計測できる。特に、対象物を目視できない程に液体が汚れている場合でも計測可能である。また、従来のように水流を利用した発音構成ではないため、対象物を傷つけることなく安全に体積を計測できる。また、ヘルムホルツ共鳴器が2つの容器(第1容器と第2容器)を有しているため、音を発生させる第1容器と計測のための第2容器とに役割を分けることができる。これにより、音の発生と計測をそれぞれ安定して高精度に実行できる。また、1つの容器からなるヘルムホルツ共鳴器に比べて高周波数の共鳴周波数を得ることもできる。共鳴周波数が高周波数となると、基準共鳴周波数と、対象共鳴周波数との差を大きくすることができる。従って、高精度での計測が可能となる。特に、本装置は、水中で活動する養殖魚等の生育状況を把握することに適している。その場合、第2容器を大きな水槽と解し、対象物を養殖魚と解することができる。
【0009】
前記体積演算部は、演算テーブルを有し、前記演算テーブルは、それぞれ前記対象共鳴周波数と前記基準共鳴周波数の特定の組み合わせに対するものである、前記対象物の体積を格納していてもよい。
【0010】
この構成によれば、都度複雑な計算を要することなく、予め設定した演算テーブルを用いて迅速に対象物の体積を計測できる。
【0011】
前記体積演算部は、以下の式に基づいて前記対象物の体積V0を算出してもよい。
【0012】
【数1】
V
0:対象物の体積
K
o:対象物の体積弾性率
K
w:液体の体積弾性率
f
0:基準共鳴周波数
f:対象共鳴周波数
W
1:第1容器に貯留された液体の体積
W
2:第2容器に貯留された液体の体積
【0013】
この構成によれば、対象物の体積を具体的に高精度に計測できる。上記式において、対象共鳴周波数以外の値は予め求めることができるため、上記式の変数は対象共鳴周波数のみである。ここで、液体の体積弾性率Kwは、液体の密度ρwに当該液体中での音速Cwの2乗を積算して求められる値である(Kw=ρw×Cw
2)。同様に、対象物の体積弾性率Koは、対象物の密度ρoに当該対象物中での音速Coの2乗を積算して求められる値である(Ko=ρo×Co
2)。
【0014】
前記体積演算部は、以下の式に基づいて前記対象物の体積V0を算出してもよい。
【0015】
【数2】
V
0:対象物の体積
K
o:対象物の体積弾性率
K
w:液体の体積弾性率
f
0:基準共鳴周波数
f:対象共鳴周波数
W
1:第1容器に貯留された液体の体積
W
2:第2容器に貯留された液体の体積
E
r1:第1容器の共鳴器係数
E
r2:第2容器の共鳴器係数
【0016】
この構成によれば、第1容器および第2容器の壁の弾性を考慮して対象物の体積を高精度に計測できる。第1容器および第2容器は実際上完全な剛体ではないため、液体で満たされることによって幾分膨張する。共鳴周波数はこの膨張の影響を受けるため、膨張を考慮した補正を行うことで、対象物の体積を一層高精度に計測できる。特に容器が樹脂などの比較的軟性材料からなる場合には容器が大きく膨張するため、上記補正は有効である。ここで、第1容器の共鳴器係数Er1および第2容器の共鳴器係数Er2は、容器の材質等に応じて定まり、容器の膨張の程度を示す値であり、予め実験的に求めることができる。
【0017】
前記第2容器は前記液体表面より上部の壁の一部に開口部が設けられてもよい。
【0018】
この構成によれば、開口部から第2容器内にアクセスできる。従って、対象物の出し入れや第2容器内のメンテナンスが可能となる。また、有線式の集音部を、開口部を通じて第2容器内に配置することもできる。
【0019】
前記対象物が前記ネック部の前記流路を通過することを防止するための通過防止部材をさらに備えてもよい。
【0020】
この構成によれば、ネットなどの通過防止部材によって、対象物がネック部を通って第1空間に進入することを防止できる。仮に、対象物が第1空間に進入すると、発音部からの音が減衰し、正確な測定ができないおそれがある。従って、これを防止し、安定した高精度の計測を可能としている。
【0021】
前記第1容器および前記第2容器の少なくとも一方は、前記ネック部に対して取り外し可能に取り付けられていてもよい。
【0022】
この構成によれば、ヘルムホルツ共鳴器の一部が取り外し可能であることによって、利便性を向上できる。仮に、第2容器が大きな水槽である場合であっても、第1容器(およびネック部)を取り外して持ち運ぶこともできる。即ち、ポータブル型として体積計測装置を使用することもできる。
【0023】
前記ネック部は、前記第1容器に取り付けられ、前記第1容器および前記ネック部は、前記第2空間に配置されてもよい。
【0024】
この構成により、第2容器に接続することなく第1容器およびネック部を構成できる。従って、第2容器が第1容器およびネック部を収容できる限り、第2容器の大きさや形状に依存することなく第1容器およびネック部を構成できる。上記構成は、例えば、第2容器が大きな水槽である場合などに第1容器およびネック部を当該水槽に沈めて使用することが考えられる。
【0025】
前記第2空間に空気を注入するバブル注入部をさらに備えてもよい。
【0026】
この構成によれば、バブル注入部によって対象物に見立てた気泡(バブル)を第2空間に形成できる。従って、計測精度の試験を簡易に行うことができる。
【0027】
前記第1容器と、前記第2容器と、前記ネック部とは、同一の中心軸を共有するように配置構成されてもよい。
【0028】
この構成によれば、ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数を安定して高精度に計測できる。音は均等に広がる性質を有するため、第1空間の発音部から発せられた音は、ネック部を通って第2空間内で均等に広がる。第1容器と第2容器とネック部とが同一中心軸を有すると、音の共鳴を均等にできる。
【0029】
本発明の第2の態様は、液体を貯留する第1空間を画定する第1容器と、前記液体を貯留して対象物が配置される第2空間を画定する第2容器と、前記液体が充填されて前記第1空間と前記第2空間とを流体的に連通する流路を画定するネック部と、前記第1空間に配置され、所定の周波数範囲の音を発する発音部と、前記第2空間に配置された集音部とを準備し、前記第2空間に前記対象物が存在しない場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である基準共鳴周波数を前記集音部を使用して測定し、前記第2空間に前記対象物が存在する場合における前記発音部の発する音によって前記第2空間に生じる共鳴音の周波数である対象共鳴周波数を前記集音部を使用して測定し、前記基準共鳴周波数および前記対象共鳴周波数に基づいて前記対象物の体積を算出する、体積計測方法を提供する。
【0030】
この方法によれば、前述のようにして液体中に存在する対象物の体積を高精度かつ安全に計測できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、体積計測装置および体積計測方法において、第1容器および第2容器を有するヘルムホルツ共鳴器を利用しているため、液体中に存在する対象物の体積を高精度かつ安全に計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る体積計測装置の概略構成図。
【
図3】第1実施形態におけるヘルムホルツ共鳴器の断面図。
【
図8】開口部の大きさごとの共鳴周波数と振幅の関係を示すグラフ。
【
図9】開口部の大きさごとのバブルの体積と共鳴周波数の関係を示すグラフ。
【
図10】開口部の大きさごとのバブルの体積と振幅の関係を示すグラフ。
【
図11】第3実施形態の体積計測装置の一部の概略構成図。
【
図12】空気の体積に関する計測精度を示すグラフ。
【
図13】第4実施形態の体積計測装置の一部の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0034】
(第1実施形態)
図1を参照して、本実施形態の体積計測装置1は、ヘルムホルツ共鳴理論を計測原理として用い、音の共鳴を利用して魚等の水圏生物の体積を計測するものである。以下の実施形態では、測定する対象物として魚を例に説明するが、体積計測装置1は任意の対象物の体積を計測できる。同様に、使用する液体として水ないし海水を例に説明するが、体積計測装置1は任意の液体を使用できる。
【0035】
体積計測装置1は、第1容器20と、第2容器30と、ネック部40と、制御装置50とを備える。第1容器20と、第2容器30と、ネック部40とによって、ヘルムホルツ共鳴器10が構成される。
【0036】
図2を参照して、本実施形態とは異なるが、一般的なヘルムホルツ共鳴器100について説明する。一般的なヘルムホルツ共鳴器100は、空気で満たされた、単一のネック部110と、単一の容器部120とで構成される。ネック部110は筒状であり、容器部120はネック部110に連通した有底筒状である。換言すると、一般的なヘルムホルツ共鳴器100は、概ねビール瓶のような形状をしている。このようなヘルムホルツ共鳴器100の内部にて音が発生すると、容器部120内の空気のばね的な性質により、ネック部110で音の振動が発生する。この振動がヘルムホルツ共鳴であり、ヘルムホルツ共鳴器100の形状に応じた固有の共鳴周波数を持つことが知られている。
【0037】
図2のヘルムホルツ共鳴器100において、ネック部110の長さLおよび断面積Sとし、容器部120の体積Vとする。容器部120内に体積V
oの対象物を入れた際の共鳴周波数fは以下の式(1)で表される。ただし、L
sは開口端補正量である。
【0038】
【0039】
上記式(1)を体積V0について解き、実際に測定した共鳴周波数fを代入することにより、対象物の体積Voを算出できる。しかし、当該方法では、対象物が音源の近傍にあるときに音を大きく減衰させるおそれがあるため、測定精度の観点で改善の余地がある。また、水中での共鳴周波数fの計測は一般に困難であるため、生魚等の水圏生物を対象物とした場合には適用し難い。
【0040】
本実施形態では、
図2のヘルムホルツ共鳴器100のネック部110を共有して2つ繋げた形状を有するヘルムホルツ共鳴器10を使用する(
図3参照)。これにより、魚Fと音の発生源(後述するスピーカ25)を分けることができ、測定精度の低下を防止できる。また、計測機器として水中でも使用可能な機器を使用することで魚Fを対象物とした場合でも測定精度が低下することを防止している。
【0041】
図3を参照して、本実施形態のヘルムホルツ共鳴器10の構成について説明する。
【0042】
第1容器20は、内部に第1空間S1を画定している。第1容器20は、例えば、有底円筒状であり、ステンレス製である。ただし、第1容器20の形状や材質は、特に限定されない。第1空間S1には、スピーカ(発音部)25が配置されている。詳細には、第1容器20の一端部がスピーカ25によって構成されている。
【0043】
スピーカ25は、水中用のものであり、例えば100~10000Hz程度の周波数の音を発生させることができる。スピーカ25は、制御装置50に有線で電気的に接続されており、制御装置50によって音の発生周波数を制御できる。
【0044】
第2容器30は、内部に第2空間S2を画定している。第2容器30は、例えば、直方体の箱状であり、アクリル樹脂製である。ただし、第2容器30の形状や材質は、特に限定されず、例えば有底円筒状であってもよい。本実施形態では、第2容器30の上壁31の中央部に、魚Fなどを出し入れできる平面視円形の開口部31aが設けられている。また、上壁31は第2容器30の側壁32に隙間なく固着されており、固着された部分からは音が漏出することがないようにされている。
【0045】
第2容器30には、計測対象となる魚Fと、ハイドロホン(集音部)35とが収容されている。ハイドロホン35は、水中用マイクであり、例えば20~20000Hz程度の周波数の音を集音できる。ハイドロホン35は、有線式であり、開口部31aを通じて延びる電気線を通じて制御装置50(
図1参照)と電気的に接続されている。なお、ハイドロホン35は、第2容器30内の任意の位置に配置され、第2空間S2にて共鳴する音を集音できる。
【0046】
スピーカ25およびハイドロホン35は、水中用のものであればよく、市販のものを使用できる。本実施形態では、ともに有線型のものを使用しているが、無線型のものを使用してもよい。
【0047】
ネック部40は、第1空間S1と第2空間S2とを連通する流路FPを画定している。ネック部40は、例えば円筒状である。ネック部40の長手方向の中心軸CLに垂直な断面積は、第1容器20の同断面積よりも小さく、かつ、第2容器30の同断面積よりも小さい。即ち、ヘルムホルツ共鳴器10は、ネック部40にて窄められた形状をしている。ネック部40の形状は特に限定されないが、ネック部40の長さは短い方が好ましく、上記断面積は大きい方が好ましい。これらの好ましい条件下では、後述する式(2)を参照してわかるように、共鳴周波数を大きくすることができ、計測精度を向上させることができる。
【0048】
ネック部40の第2容器30側の端部には、魚Fがネック部40の流路FPを通過することを防止するためのネット(通過防止部材)41が設けられている。ネット41の網目の大きさは、魚Fを通過させることなく、かつ、音が影響なく通過できるように設定されている。また、例えば、通過防止部材として、ネット40に代えて金網を使用してもよい。
【0049】
本実施形態では、ネック部40の第1容器20側の端部には、ねじ機構42が設けられている。ねじ機構42によって第1容器20がネック部40に対して取り外し可能に構成されている。これにより、第1容器20をネック部40から取り外して持ち運び可能となっている。代替的には、第2容器30がネック部40に対して取り外し可能に構成されていてもよいし、第1容器20および第2容器30の両方がネック部40に対して取り外し可能に構成されていてもよい。また、第1容器20および第2容器30は、ネック部40に対して取り外しできないように固着されていてもよい。
【0050】
本実施形態では、第1容器20と、第2容器30と、ネック部40とは、同一の中心軸CLを共有するように配置されている。
【0051】
図1を再び参照して、制御装置50は、アンプ51と、サウンドデバイス52と、コンピュータ53とを備える。
【0052】
アンプ51は、ハイドロホン35からのアナログの電気信号を増幅するとともにデジタルの電気信号に変換してサウンドデバイス52に伝送している。また、アンプ51は、サウンドデバイス52からの電気信号を増幅してスピーカ25に伝送している。
【0053】
サウンドデバイス52は、アンプ51からの電気信号を受け、コンピュータ処理に必要な種々の処理を行うものである。また、コンピュータ53からの電気信号を受け、スピーカ25の制御に必要な種々の処理を行うものである。
【0054】
コンピュータ53は、サウンドデバイス52からの入力信号を受け、種々の制御を行い、サウンドデバイス52に出力信号を送る。なお、アンプ51やサウンドデバイス52はコンピュータ53に組み込まれてもよい。制御装置50の構成は、以降の制御を実質的に実行できるものであれば特に限定されない。
【0055】
図4を参照して、コンピュータ53は、スピーカ制御部53aと、共鳴分析部53bと、記憶部53cと、体積演算部53dと、モニタ53eとを備える。なお、図示を簡略化するため、
図4では、アンプ51とサウンドデバイス52は、1つのブロックで示されている。
【0056】
スピーカ制御部53aは、スピーカ25を制御する部分である。当該制御では、ヘルムホルツ共鳴器10の共鳴周波数を探るために、所定の周波数範囲で低い周波数から高い周波数に(またはその逆の方向に)、スピーカ25の発する音の周波数を変化させる。所定の周波数範囲は、ヘルムホルツ共鳴器10の大きさや形状などに応じて設定される。
【0057】
共鳴分析部53bは、スピーカ25から得られた信号に基づいて、共鳴周波数(対象共鳴周波数f)を求めるための周波数分析を行う。周波数分析の方法は、例えばフーリエ解析によるものであってもよい。具体的には、共鳴分析部53bは、第2空間S2に魚Fが存在する場合におけるスピーカ25の発する音によって第2空間S2に生じる共鳴音の周波数である対象共鳴周波数fを取得する。
【0058】
対象共鳴周波数fは、ヘルムホルツ共鳴理論に基づいて以下の式(2)で表される。ここで、定数K1,K2は、第1空間S1における体積弾性率,第2空間S2における体積弾性率をそれぞれ表している。体積弾性率K1,K2は、水の体積弾性率Kwおよび魚Fの体積弾性率Koに基づいて算出される値である。ここで、水の体積弾性率Kwは、水の密度ρwに水中での音速Cwの2乗を積算して求められる値である(Kw=ρw×Cw
2)。同様に、魚Fの体積弾性率Koは、魚の密度ρoに魚中での音速Coの2乗を積算して求められる値である(Ko=ρo×Co
2)。また、定数Sはネック部40の断面積、定数Lはネック部40の長さ、定数Lsは開口端補正量を表している。
【0059】
【数4】
V
0:魚の体積
K
o:魚の体積弾性率
K
w:水の体積弾性率
f
0:基準共鳴周波数
f:対象共鳴周波数
W1:第1容器に貯留された水の体積
W2:第2容器に貯留された水の体積
【0060】
記憶部53cは、第2空間S2に魚Fが存在しない場合におけるスピーカ25の発する音によって第2空間S2に生じる共鳴音の周波数である基準共鳴周波数f0を記憶している。基準共鳴周波数f0は、実験により予め求めることができる。
【0061】
基準共鳴周波数f0は、ヘルムホルツ共鳴理論に基づいて以下の式(3)で表される。
【0062】
【0063】
上記の式(2),(3)に基づいて体積Voを導出すると、以下の式(4)が得られる。
【0064】
【0065】
本実施形態では、体積演算部53dは、上記の式(4)によって魚Fの体積V0を算出する。これにより、第2容器30内の全ての魚Fの合計の体積Voが算出される。計測された魚Fの体積Voは、モニタ53eに表示される。なお、式(4)では、対象共鳴周波数f以外の値は予め求めることができる。従って、式(4)の変数は対象共鳴周波数fのみである。
【0066】
以下では、本実施形態の体積計測装置1を用いて、水中の魚Fの体積を具体的に求めた実験結果について説明する。
【0067】
実験条件は、ネック部40の長さL=30mm、開口端補正量Ls=9.0mm、ネック部40の直径=30mm(断面積S=706.858mm2)、第1容器20の水の体積W1=0.471L、第2容器30の水の体積W2=4.913Lと設定した。なお、開口端補正量Lsはネック部40の半径15mmに所定の定数0.6を積算して算出した。
【0068】
図5は、上記実験条件の下で得られた共鳴周波数(Frequency[Hz])と振幅(Amplitude)の関係を示すグラフである。グラフの横軸は音の周波数を示し、縦軸は音の振幅を示している。グラフには、魚の体積V
oごとに7つの曲線C1~C7が描かれている。具体的には、魚Fの体積V
oを、0mL(C1),56.159mL(C2),95.88mL(C3),119.622mL(C4),133.459mL(C5),145.769mL(C6),171.36mL(C7)としたときの結果が示されている。曲線C1~C7では、ピークをとった周波数にて共鳴が発生している。換言すれば、曲線C1~C7の各ピーク周波数が各共鳴周波数である。グラフを見ると、体積V
0が大きくなるほど、共鳴周波数および振幅が低下することがわかる。
【0069】
図6は、魚の体積(Volume of fish[mL])と共鳴周波数(Frequency[Hz])の関係を示すグラフである。グラフの横軸は魚の体積V
oを示し、縦軸は共鳴周波数を示している。グラフを見ると、魚の体積V
oが大きくなるほど共鳴周波数が低下することがわかる。
【0070】
図5,6の結果から、魚Fの体積V
oと共鳴周波数には相関があることわかる。従って、共鳴周波数を測定することによって、魚の体積V
oを推定可能なことがわかる。本実施形態では上記式(4)によって関数的に魚Fの体積V
oを求めているが、代替的には予め用意した演算テーブルによって魚Fの体積V
oを求めてもよい。演算テーブルは、それぞれ対象共鳴周波数fと基準共鳴周波数f
0の特定の組み合わせに対するものである、魚Fの体積V
oを格納している。演算テーブルは、予め実験により、対象共鳴周波数fと基準共鳴周波数f
0とを入力値として魚の体積V
oを出力値として実験を行い作成すればよい。これにより、都度複雑な計算を要することなく、予め設定した演算テーブルを用いて迅速に魚Fの体積V
oを計測できる。
【0071】
本実施形態の体積計測装置1の計測精度を
図7に示す。
図7のグラフでは、横軸が実際の魚Fの体積(Actual volume[mL])を示し、縦軸が体積計測装置1によって計測(推定)した魚の体積(Predicted volume[mL])を示している。グラフを見ると、高精度の測定を実現したことがわかる。
【0072】
本実施形態の体積計測装置1によれば、以下の優位点がある。
【0073】
第1容器20と第2容器30とネック部40とによってヘルムホルツ共鳴器10が構成される。このヘルムホルツ共鳴器10の共鳴周波数に基づいて対象物となる水圏生物(本実施形態では魚F)の体積を算出するため、水中に存在する魚Fの体積を非接触で計測できる。特に、魚Fを目視できない程に水が汚れている場合でも計測可能である。また、従来のように水流を利用した発音構成ではないため、魚Fを傷つけることなく安全に体積を計測できる。また、ヘルムホルツ共鳴器10が2つの容器(第1容器20と第2容器30)を有しているため、音を発生させる第1容器20と計測のための第2容器30とに役割を分けることができる。これにより、音の発生と計測をそれぞれ安定して高精度に実行できる。また、1つの容器からなるヘルムホルツ共鳴器10(
図2参照)に比べて高周波数の共鳴周波数を得ることもできる。共鳴周波数が高周波数となると、基準共鳴周波数f
0と、対象共鳴周波数fとの差を大きくすることができる。従って、高精度での計測が可能となる。
【0074】
特に、本実施形態の体積計測装置1は、一例として説明したように水中で活動する魚F等の生育状況を把握することに適している。一般に養殖業では、水槽内の魚の数を把握できるようになっており、同種の魚が養殖されるために生育状況も概ね等しくなる。換言すれば、著しくサイズの異なる魚が同じ水槽内で養殖されることは稀である。そのため、第2容器30を大きな水槽として、体積計測装置1によって全ての魚Fの合計の体積を把握し、魚の数で除算することで、養殖魚の1匹当たりの体積を把握できる。
【0075】
また、第2容器30の上壁31に開口部31aを設けているため、開口部31aから第2容器30内にアクセスできるようになっている。従って、魚Fの出し入れや第2容器30内のメンテナンスが可能である。また、
図2に示すように有線式のハイドロホン35を、開口部31aを通じて第2容器30内に配置することも可能となる。ただし、開口部31aは、第2容器30内で共鳴を発生させる観点からは設けられない方が好ましい。この点、開口部31aの大きさに伴う計測の実現可能性については後述する。
【0076】
また、ネック部40に配置されたネット41によって、魚Fがネック部40を通って第1空間S1に進入することが防止されている。仮に、魚Fが第1空間S1に進入すると、スピーカ25からの音が減衰し、正確な測定ができないおそれがある。従って、これを防止し、安定した高精度の計測を可能としている。
【0077】
また、第1容器20がネック部40に対して取り外し可能であることによって、利便性を向上させている。仮に、第2容器30が前述のように大きな水槽である場合であっても、第1容器20を取り外して持ち運ぶこともできる。即ち、ポータブル型として体積計測装置1を使用することもできる。
【0078】
また、第1容器20と、第2容器30と、ネック部40とは、同一の中心軸CLを共有するように配置されているため、ヘルムホルツ共鳴器10の共鳴周波数を安定して高精度に計測できる。音は均等に広がる性質を有するため、第1空間S1のスピーカ25から発せられた音は、ネック部40を通って第2空間S2内で均等に広がる。第1容器20と第2容器30とネック部40とが同一中心軸CLを有すると、音の共鳴を均等にできる。
【0079】
図8~10は、開口部31aの大きさに伴う計測の実現可能性について検討した結果である。実験条件は、開口部31aの大きさに関する以外、本実施形態で説明したものと同じである。
【0080】
図8は、共鳴周波数(Frequency[Hz])と振幅(Amplitude)の関係を示すグラフである。グラフの横軸は音の周波数を示し、縦軸は音の振幅を示している。グラフには、開口部31a(
図3参照)の直径ごとに5つの曲線が描かれている。具体的には、開口部31aの直径を、15mm,17mm,19mm,21mm,23mmとしたときの結果が示されている。5つの曲線では、ピークをとった周波数にて共鳴が発生している。換言すれば、5つの曲線の各ピーク周波数が各共鳴周波数である。グラフを見ると、開口部31aの直径が大きくなるほど、共鳴周波数が増加する一方で振幅が低下することがわかる。
【0081】
図9は、対象物に見立てたバブル(空気)の体積(Volume of air[mL])と共鳴周波数(Frequency[Hz])の関係を示すグラフである。グラフの横軸はバブルの体積を示し、縦軸は共鳴周波数を示している。ここでは、対象物に見立てたバブルを第2空間S2に形成し、当該バブルの体積を計測する試験を行った結果を示している。例えば、バブルは後述する第3実施形態で示す
図11の符号Arで示すように形成されている。グラフには、開口部31a(
図3参照)の直径ごとに5種類のデータが描かれている。詳細には、
図8と同様に開口部31aの直径を、15mm,17mm,19mm,21mm,23mmとしたときの結果が示されている。グラフを見ると、開口部31aの直径が大きくなるほど共鳴周波数が増大することがわかる。
【0082】
図10は、対象物に見立てたバブル(空気)の体積(Volume of air[mL])と振幅(Amplitude)の関係を示すグラフである。グラフの横軸はバブルの体積を示し、縦軸は音の振幅を示している。ここでは、
図9の場合と同様に対象物に見立てたバブルを第2空間S2に形成し、当該バブルの体積を計測する試験を行った結果を示している。グラフには、開口部31a(
図3参照)の直径ごとに5種類のデータが描かれている。詳細には、
図8,9と同様に開口部31aの直径を、15mm,17mm,19mm,21mm,23mmとしたときの結果が示されている。グラフを見ると、開口部31aの直径が大きくなるほど振幅が低下することがわかる。
【0083】
図8~10の結果から、開口部31aの直径を様々に変更した場合でも共鳴周波数や振幅を測定できるとともに、これらとバブル(対象物の魚に対応)の間に一定の相関があることがわかる。従って、開口部31aの大きさを様々に変更した場合でも計測が実現可能であることが確認できる。
【0084】
(第2実施形態)
本実施形態の体積計測装置1は、共鳴分析部53bでの分析方法が第1実施形態と異なる。これ以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態と同じ部分については説明を省略する場合がある。
【0085】
本実施形態の体積演算部53dは、第1容器20および第2容器30の壁の弾性を考慮して魚Fの体積Voを算出する。第1容器20および第2容器30は、水で満たされることによって幾分膨張する。共鳴周波数はこの膨張の影響を受けるため、膨張を考慮した補正を行うことで、魚Fの体積を一層高精度に計測できる。特に本実施形態では、第2容器30がアクリル樹脂のような比較的軟性材料からなるため、当該補正は有効である。
【0086】
第2容器30内に魚Fが存在しないとき、基準共鳴周波数f0は、ヘルムホルツ共鳴理論に基づいて以下の式(5)で表される。
【0087】
【数7】
E
r1:第1容器の共鳴器係数
E
r2:第2容器の共鳴器係数
【0088】
なお、第1容器の共鳴器係数Er1および第2容器の共鳴器係数Er2は、容器の材質等に応じて定まり、容器の膨張の程度を示す値である。共鳴器係数Er1,Er2は、定数として予め実験的に求めることができる。詳細には、共鳴器係数Er1,Er2は、第1容器20および第2容器30の各共鳴器の体積弾性率Kr1,Kr2を各共鳴器の体積変化Vr1,Vr2で割った値として表される(Er1=Kr1/Vr1、Er2=Kr2/Vr2)。
【0089】
第2容器30内に魚Fが存在するとき、対象共鳴周波数fは、ヘルムホルツ共鳴理論に基づいて以下の式(6)で表される。
【0090】
【0091】
上記の式(5),(6)に基づいて体積Voを導出すると、以下の式(7)が得られる。本実施形態の体積演算部53dは、式(7)によって魚Fの体積Voを推定計測する。
【0092】
【0093】
本実施形態によれば、第1容器20および第2容器30の壁の弾性を考慮して魚Fの体積Voを高精度に計測できる。特に、第1容器20および第2容器30が樹脂などの比較的軟性材料からなる場合には大きく膨張するため、本実施形態は有効である。
【0094】
(第3実施形態)
図11に示す本実施形態の体積計測装置1は、第2容器30内に空気を注入するバブル注入器60を備える。これ以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って第1実施形態と同じ部分については説明を省略する場合がある。
【0095】
バブル注入器60は、例えば注射器型であり、第2容器30の開口部31aに配置される。バブル注入器60から注入されたバブル(空気)Arは、第2空間S2の上部の角部に溜まる。バブル注入器60には、注入した空気量がわかるように目盛が付されている。
【0096】
本実施形態の体積計測装置1の計測精度を
図12に示す。
図12のグラフでは、横軸が実際の空気の体積(Actual volume[mL])を示し、縦軸が体積計測装置によって計測(推定)した空気の体積(Predicted volume[mL])を示している。グラフを見ると、高精度の測定を実現したことがわかる。
【0097】
本実施形態によれば、バブル注入器60によって対象物に見立てた気泡(バブル)を第2空間S2に形成できる。従って、計測精度の試験を簡易に行うことができる。
【0098】
このように、空気に関する体積Voを求めることもできるため、対象物としては、魚だけでなく例えば貝のように身が空気とともに殻に閉じられている水圏生物について、生育状況を正確に計測することもできる。特に、貝のような水圏生物は、外観では生育状況の把握が困難であるため、本実施形態の体積計測装置1によって生育状況を把握できることは有効である。
【0099】
(第4実施形態)
図13に示す本実施形態の体積計測装置1は、第2容器30内に第1容器20およびネック部40が配置されている。これ以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って第1実施形態と同じ部分については説明を省略する場合がある。
【0100】
本実施形態では、ネック部40の一端部は第1容器20に取り付けられており、他端部はネット41が取り付けられ、開放されている。第1容器20およびネック部40は、前述のように第2容器30内に配置されており、即ち第2空間S2に配置されている。
【0101】
本実施形態によれば、第2容器30に接続することなく第1容器20およびネック部40を構成できる。従って、第2容器30が第1容器20およびネック部40を収容できる限り、第2容器30の大きさや形状に依存することなく第1容器20およびネック部40を構成できる。本実施形態の体積計測装置1は、例えば、第2容器30が大きな水槽である場合などに第1容器20およびネック部40を当該水槽に沈めて使用することが考えられる。
【0102】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 体積計測装置
10 ヘルムホルツ共鳴器
20 第1容器
25 スピーカ(発音部)
30 第2容器
31 上壁
31a 開口部
32 側壁
35 ハイドロホン(集音部)
40 ネック部
41 ネット(通過防止部材)
42 ねじ機構
50 制御装置
51 アンプ
52 サウンドデバイス
53 コンピュータ
53a スピーカ制御部
53b 共鳴分析部
53c 記憶部
53d 体積演算部
53e モニタ
60 バブル注入器(バブル注入部)
100 ヘルムホルツ共鳴器
110 ネック部
120 容器部
S1 第1空間
S2 第2空間
FP 流路
F 魚(水圏生物)(対象物)
Ar バブル(空気)