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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】選択的ビヒクルとしてのナノシステム
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/107 20060101AFI20231127BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 31/685 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231127BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231127BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20231127BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61K9/107 ZNA
A61K31/05
A61K31/12
A61K31/192
A61K31/337
A61K31/409
A61K31/513
A61K31/685
A61K31/7048
A61K31/7068
A61K38/00
A61K38/10
A61K39/395 A
A61K39/395 H
A61K45/00
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/24
A61K48/00
A61K51/04 200
A61P35/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020559028
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2019050979
(87)【国際公開番号】W WO2019138139
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】18382012.5
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520258105
【氏名又は名称】フンダシオン インスティテュート デ インベスティガシオン サニタリア デ サンティアゴ デ コンポステーラ (フィディス)
(73)【特許権者】
【識別番号】520258116
【氏名又は名称】セルビソ ガレゴ デ サウーデ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ フエンテ フレイレ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ロペス ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ボウソ ベレン
(72)【発明者】
【氏名】バスケス リオス アビ フディ
(72)【発明者】
【氏名】アロンソ ノセロ マルタ
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】In Vitro Cell. Dev. Biol., 1990, Vol. 26, pp. 779-783
【文献】The Journal of Physical Chemistry B, 2020, Vol. 124, pp. 5788-5800
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/107
A61K 31/05
A61K 31/12
A61K 31/192
A61K 31/337
A61K 31/409
A61K 31/513
A61K 31/685
A61K 31/7048
A61K 31/7068
A61K 38/00
A61K 38/10
A61K 39/395
A61K 45/00
A61K 47/10
A61K 47/18
A61K 47/22
A61K 47/24
A61K 48/00
A61K 51/04
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中油(o/w)型ナノエマルジョンであって、
a.水相と、
b.α-トコフェロール(ビタミンE)を含む油性核(ただし、コレステロールを除く)と、
c.スフィンゴミエリンと、
を含む、ナノエマルジョン。
【請求項2】
前記ナノエマルジョンが、治療分子、及び/又は、造影剤、の要素の少なくとも1つを含むことにより機能付与されている、請求項1に記載のナノエマルジョン。
【請求項3】
前記治療分子が、カルモフール、エトポシド、ドセタキセル、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、ゲムシタビン、エデルフォシン、及び/又はそれらの誘導体等の抗腫瘍薬;クルクミン、ベルテポルフィン、及び/又はレスベラトロール等の抗炎症又は抗血管新生薬;pDNA、shRNA、miRNA又はmRNA等の核酸;ペプチド、抗体又はそのフラグメント、及びアプタマー等の生体分子;並びにそれらの任意の組合せからなる群より選択される、請求項2に記載のナノエマルジョン。
【請求項4】
前記造影要素が、蛍光体、超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION又はその誘導体、放射性同位体、パーフルオロヘキサン及びオクタフルオロプロパンと並んで、それらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載のナノエマルジョン。
【請求項5】
前記ナノエマルジョンが、細胞輸送に適したリガンドの少なくとも1つを含むことにより機能付与されている、請求項1~4のいずれかに記載のナノエマルジョン。
【請求項6】
前記リガンドが、味覚受容体タイプ1メンバー3(TAS1R3受容体に結合することができるリガンドである、請求項5に記載のナノエマルジョン。
【請求項7】
前記リガンドが、ブラゼイン由来ペプチド又はラクチゾール甘味料からなる群より選択される、請求項6に記載のナノエマルジョン。
【請求項8】
前記ナノエマルジョンが、レプチン受容体に対するリガンド、グアニリルシクラーゼに対するリガンド、又はウログアニリン、リジンで修飾されたウログアニリン、インテグリンの細胞外画分の少なくとも1つを含むことにより機能付与されている、請求項5に記載のナノエマルジョン。
【請求項9】
前記ナノエマルジョンが、前記ナノエマルジョンの界面に配置された、他の膜脂質、及び/又はカチオン性脂質、及び/又はポリアミン、及び/又はポリエチレングリコール(PEG)、及び/又は他の界面活性剤若しくはコーティングポリマーを更に含む、請求項1~8のいずれかに記載のナノエマルジョン。
【請求項10】
治療法及び/又はin vivoでの診断に使用される、請求項1~9のいずれかに記載のナノエマルジョン。
【請求項11】
乳癌、黒色腫、ブドウ膜黒色腫、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、胃癌、頭頸部癌、肉腫、神経膠芽腫、神経芽種、結腸及び直腸の癌、頭頸部の癌、腎臓癌及び膀胱癌、又は肝癌の治療に使用される、請求項1~9のいずれかに記載のナノエマルジョン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野に属し、特にナノセラノスティックの可能性を有する薬理学的ビヒクル、特に癌へのアプローチ、並びに原発性腫瘍及び転移性疾患の管理、抗腫瘍薬の封入及び/又は、最終的にはin vivo診断で使用するための造影剤の組み込みに対するナノセラノスティックの可能性を有する薬理学的ビヒクルの分野に属する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、ナノセラノスティックの可能性を持つ新たな薬理学的ツールを提供する。
【0003】
ナノテクノロジーは、同じナノ構造の中に治療法及び撮像の要素を併せ持つシステムであり、ポジトロン放出断層撮影(PET)又は磁気共鳴画像法(MRI)等の非侵襲的撮像技術を用いた薬物の体内分布及び蓄積の研究を促進することに加えて、中でも、治療をリアルタイムで監視可能であるため、患者ごとに薬物の種類及び投与量を調整することができるという、一連の利点を提供する。PETは放射性元素を必要とするが、MRIは強度が大きな一定磁場を発生させることができる磁石を使用する。したがって、この技術は、例えば、MRIによる画像撮影におけるその機能がネガティブ(暗)コントラストを与えることである超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION:superparamagnetic iron oxide nanoparticles)等の磁性粒子、又はガドリニウム若しくはパーフルオロカーボン等の他の分子に適用される。
【0004】
要するに、造影剤、適切なリガンド及び/又は指定の薬物と会合したナノメトリックシステムを使用して、できるだけ早く診断に達し、単一ユニットによる治療、すなわちナノセラノスティクスに成功することを意図している。
【0005】
この単一ユニットによる治療、すなわちナノセラノスティックについて、このタイプの構造は腫瘍の治療に特に有用となる可能性がある。この意味で、原発性腫瘍は様々な種類の癌の引き金ではあるが、主に患者の罹患率及び死亡率を決定するのは後に続く腫瘍播種及び転移形成といった事象であり、ヒトの癌による死因の90%であることに留意されたい。転移は、癌細胞が元の(原発性)腫瘍から離れて、血液又はリンパ系を通って、新たな臓器に定着し、身体の他の臓器又は組織に新たな腫瘍を引き起こすことで起こる。転移性腫瘍細胞は、一般的には原発性腫瘍の細胞とは異なる表現型を呈し、一般的により耐性であり、場所が遠位であることとあいまって、それらのモニタリング及び治療を特に複雑にしている。可能性のある解決策は、腫瘍細胞が制御不能に増殖する前に、この細胞のタイプを特定し、それらを排除することである。このために、ナノ粒子を腫瘍細胞、特に拡散してしまった細胞に対して非常に選択的で特異的なものとするようにナノ粒子を機能付与する(functionalizing:官能化する)可能性が提案される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、原発性腫瘍に由来する細胞だけでなく、播種性の細胞の早期の検出及び根絶も促進し得て、癌に対する有効な治療法を提供する、正しく機能付与されたナノセラノスティックシステムを提供することにより、この側面にアプローチする。このシステムはまた、造影剤、リガンド及び/又は特定の薬物と会合した後、できるだけ早く診断に達することを可能にし、及び/又は単一ユニットにより治療を成功させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、スフィンゴミエリン型のスフィンゴ脂質、及び任意に、リン脂質、コレステロール、オクタデシルアミン、DOTAP(N-[1-(2,3-ジオレオロイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチル-サルフェート)、及びPEG化誘導体(ポリエチレングリコールを含む誘導体)等のその他の脂質によって安定化された、好ましくはビタミンE又はオレイン酸から選択される、ナノテクビヒクルとして用いるための、特に癌及び転移性疾患の管理のための油相又は油コアを含む様々な水中油(O/W)型ナノエマルジョンの開発が本明細書に記載される。上記ナノエマルジョンは、腫瘍細胞の細胞膜上で発現される受容体と相互作用又は結合することができる、特に原発性及び/又は播種性若しくは転移性の腫瘍細胞の膜上で発現される受容体に相互作用又は結合することができるリガンドで機能付与することができる。また、抗腫瘍薬又は治療用生体分子を上記ナノエマルジョンに封入することができ、最後に、in vivo診断で使用する造影剤を上記ナノエマルジョンに組み込むことができる。
【0008】
さらに、本発明の著者らは、CTC(循環腫瘍細胞)及び腫瘍において、例えば、これらのナノエマルジョンを方向づけることが可能なレプチン受容体、グアニリルシクラーゼ受容体、又は腫瘍若しくは腫瘍微小環境の他の分子、例えばインテグリン及びラミニンのナノ構造の選択的方向の対象となる幾つかの受容体を同定し、選択的相互作用を媒介することができるリガンドによる事前の機能付与により、好ましくはビタミンE又はオレイン酸、スフィンゴミエリン型のスフィンゴ脂質、並びに任意に、リン脂質、コレステロール、オクタデシルアミン、DOTAP及びPEG化誘導体等の他の脂質から選択される油相を含む本発明の水中油型ナノエマルジョン(O/W)がこの受容体に対するリガンドで機能付与されると、原発性、播種性及び転移性の腫瘍細胞において、好ましくはこれらの受容体及び/又は分子を有する転移性細胞において、より効率的な上記ナノエマルジョンの細胞内蓄積が観察されることを示した。この発見は、腫瘍細胞に対する、特にCTC(循環腫瘍細胞)に対する、及び原発性、播種性又は転移性の腫瘍細胞に対する、薬理学的ビヒクル及び/又は診断薬としての使用のための、抗体、抗体のフラグメント、アプタマー、ペプチド、又はラクチゾール等の低分子量の疎水性若しくは親水性の分子と並んで、これらの受容体及び/又は分子に結合することができるリガンド薬物若しくはリガンド-放射性同位体のコンジュゲートからなる群より選択される一群の化合物による任意のタイプのナノシステムの機能付与への扉を開く。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】V:SM 1:0.1の比率で調製された、スフィンゴミエリン(SM)及びビタミンE(V)のナノエマルジョン(A)、並びにオクタデシルアミン(OCT)も組み込んだナノエマルジョンの集団V:SM:OCT 1:0.1:0.01(B)の透過型電子顕微鏡法で取得した画像を示す図である。
図2】室温で6ヶ月間、及び4℃で1年間に亘る、粒子径(A)及び表面電荷(B)に関する、V:SM 1:0.1の比率のスフィンゴミエリン(SM)及びビタミンE(V)に基づくナノエマルジョンの安定性。この同じ配合物を、培養培地、並びにFBS(C)及びヒト血漿(D)で補足した培養培地でインキュベーションした後の安定性。
図3】幾つかのインキュベーション時間(4時間及び24時間)で、SW480細胞における、異なる組成のVSM(ビタミンE及びスフィンゴミエリン1:0.1)を有するナノエマルジョンの細胞生存率アッセイ(MTT)(A及びB)、48時間のインキュベーションの後のSW620細胞における、リガンドを含まない(OA:SM 1:0.1)及びラクチゾールを含む(OA:SM:Lact 1:0.1:0.1)、オレイン酸及びスフィンゴミエリンのエマルジョンのMTT試験(C及びD)。2つの濃度(10mg/ml及び20mg/ml)のナノエマルジョンVSM(ビタミンE及びスフィンゴミエリン、1:0.1)及びDOTAPを含むVSM(VDOTAP1%)の一連の静脈内注射を受けたマウスの体重に基づく耐用量の研究。観察期間中に急性毒性又は生理学的若しくは明らかな行動の変化を示し得るような体重変化はない(E)。
図4】Nile Redを封入したビタミンE及びスフィンゴミエリン(V:SM 1:0.1)のナノエマルジョンを異なる起源の腫瘍細胞(結腸、肺、前立腺及び膵臓)と共にインキュベートし、共焦点顕微鏡下で観察した(Dapiチャネルは核に対応し、Nile Redチャネルはナノエマルジョンに対応する)(A)。DiRを封入したV:SM 1:0.1及びV:SM:DOTAP 1:0.1:0.1を結腸腫瘍細胞(HTC116)と共にインキュベートし、共焦点顕微鏡下で観察した(ナノエマルジョンは細胞核の周りの白色点として観察することができる)(B)、並びにDiRが封入されたV:SM 1:0.1を、GFPを発現させるために予め形質転換されている子宮内膜腫瘍細胞(HEC1A)及び結腸(SW480)と共にインキュベートし、共焦点顕微鏡下で観察した(Nile Redチャネルはナノエマルジョンに対応し、GFPは細胞の細胞質に対応する)(C)。
図5】蛍光RNA(Cy5-RNA)を封入するスフィンゴミエリンナノエマルジョン(V:SM 1:0.1)を、GFPを発現させるために予め形質転換されている結腸腫瘍細胞(HCT116-GFP)と共にインキュベートし、共焦点顕微鏡下で観察した(GFPのチャネルは細胞に対応し、Cy5のチャネルはナノエマルジョンによって輸送されるRNAに起因する)(A)。磁気ナノ粒子を封入する、ラクチゾールで機能付与したオレイン酸及びスフィンゴミエリンのナノエマルジョン(O:SM:Lact 1:0.1:0.1)で処理したSW620細胞の透過型電子顕微鏡法の画像では、細胞の細胞質レベルで発生した液胞内の対応するコントラストシグナルが観察され(右側の画像、矢印は位置を示す)、これはコントロール細胞(未処理、左側の画像)には見られない(B)。
図6】フローサイトメトリーにより評価される蛍光ナノエマルジョンの内部移行。オレイン酸及びスフィンゴミエリンのナノエマルジョンに封入されたNile Redに陽性の結腸腫瘍細胞(SW620)の蛍光強度は、LAPIで機能付与されたナノエマルジョン(OSM-LAPI;O:SM:LAPI 1:0.1:0.01、薄い線)の場合、非機能付与ナノエマルジョン(OSM、O:SM 1:0.1、濃い線)と比べてより強い(A)。サイトメーターで得られた平均蛍光強度の棒グラフ図表示(B)。
図7】オレイン酸及びNBDで標識されたスフィンゴミエリンの誘導体のナノエマルジョン(これもDiRを封入する)(OLM;O:SM 1:0.1)で処理した結腸腫瘍細胞(SW620)、並びにラクチゾールを含む機能付与ナノエマルジョン(OLM-L;O:SM:Lact 1:0.1:0.1)で同じく処理されたSW620の共焦点顕微鏡画像。細胞核はHoechstで染色されている。より強いシグナル強度(NBDで標識されたスフィンゴミエリン及び封入されたDiDに対応する)が、機能付与ナノエマルジョンの場合に観察される。
図8】標識されたmiRNAがCy5蛍光体と会合しているRPMで機能付与された、ビタミンE、スフィンゴミエリン及びオアクタデシルアミン(V:SM:OCT 1:0.1:0.01)のナノエマルジョン(VSMSTRPM)及び非機能付与コントロール配合物(VSMSTSH)で処理した、結腸腫瘍細胞(SW480及びSW620)の共焦点顕微鏡画像。両方の細胞系統(Hoechstチャネルは細胞核に対応し、Cy5のチェネルはナノエマルジョンと会合したmiRNAに対応する)で、機能付与された配合物(VSMSTRPMmiRNA)について、miRNAの内部移行によってより強い蛍光強度が観察された。
図9】48時間のインキュベーション後、空(blanks)の又は抗腫瘍薬であるエトポシドを封入する、オレイン酸及びスフィンゴミエリンのナノエマルジョン(O:SM 1:0.1、NE)及びラクチゾールで機能付与されたナノエマルジョン(O:SM 1:0.1、F-NE)で処理された後の結腸腫瘍細胞(SW620)の細胞生存率(MTTアッセイ)(A)。トランスフェクトから24時間後の、スフィンゴミエリン、ビタミンE及びDOTAP(V:SM:DOTAP 1:0.1:0.1)のナノエマルジョンと会合したpDNA-mCherryでトランスフェクトしたHTC116細胞におけるmCherry(明るい白色スポット)の発現(左の画像)、並びにスフィンゴミエリン、ビタミンE及びプトレシン(V:SM:P 1:0.1:0.1)のナノエマルジョンと会合したpDNA-mCherryでトランスフェクトしたSW620細胞におけるmCherryの発現(右の画像)(B)。GAPDH(2^-ddct)に対して正規化した、ナノエマルジョンV:SM:DOTAP(V:SM:DOTAP-pTG1)と会合したpTG1でトランスフェクトしたHCT116細胞におけるP53TG1 LncRNAの発現(C)。HTC116-LUC細胞におけるルシフェラーゼの発現。サイレンシングは、リポフェクタミン及びsiRNA抗ルシフェラーゼ(Lipo_GL3)でトランスフェクトした細胞の場合、及びV:SM:DOTAP(VDOTAP_GL3)でトランスフェクトした細胞の場合には観察されるが、非特異的siRNA配列(No Esp)では観察されない(D)。
図10】両脇腹に結腸直腸癌細胞SW620を接種した後、腫瘍を発症したマウスにおける、ウログアニリンで修飾されDiRを充填したスフィンゴミエリンナノエマルジョン(O:SM:UROG 1:0.1:0.01)の体内分布研究。静脈内注射の24時間後、動物を屠殺し、光学撮像装置(IVIS)で観察するために臓器を切除した(A)。結腸直腸癌細胞SW620を皮下に移植したマウスにおける腫瘍増殖。マウスを無作為に2群に分けた。群1:治療を受けていないコントロール動物(薄い線)。群2:静脈内投与(1日目、4日目、8日目及び11日目の4回の注射)、用量:0.2mgのエトポシド/Kg)により、ウログアニリンで修飾したスフィンゴミエリンナノエマルジョン(NE UROG、濃い線)に封入されたエトポシドで治療した動物(B)。
図11】DiRで標識され、TAS1R3の発現が上昇したSW620腫瘍細胞において4時間インキュベートされた、スフィンゴミエリンナノエマルジョン(O:SM 1:0.1)及びラクチゾールで機能付与されたスフィンゴミエリンナノエマルジョン(O:SM:Lact 1:0.1:0.1)の内部移行。蛍光強度は、ラクチゾールで機能付与されたナノエマルジョンの場合よりも高い。細胞核はDAPIで染色され、最も明確なシグナルは、ナノエマルジョン内に封入されたDiDに起因する。
図12】非腫瘍コントロール組織に対する、転移性肺癌(NSCLC)患者の腫瘍組織におけるTAS1R3の発現(n=6)(A)。様々な種類の腫瘍の様々な細胞系統、結腸(SW620及びSW480)、肺(A549及びH1755)、神経膠芽腫(U87及びU118)、及び膵臓(MiaPaCa2)におけるTAS1R3受容体(mRNA)の相対発現(P値=0.0001)(B)。起源が異なる腫瘍細胞、結腸癌SW620、肺A549及び乳房MCF7のパネルにおける免疫蛍光(鮮明なシグナル)による種々の受容体(GCC、LEPR、TAS1R3及びラミニン-5)の発現に関する研究(C)。
図13】本発明のナノエマルジョンの細胞生存率/毒性を示す図である。ビタミンE+スフィンゴミエリン(VSM)を含むナノエマルジョンをビタミンE+セラミド(VCer6)を含むナノエマルジョンと比較する、比較アッセイを示す。この図に見られるように、セラミドを含むナノエマルジョンの毒性は有意に高い。V:ビタミンE;SM:スフィンゴミエリン;Cer6:セラミドC6。
図14】本発明のナノエマルジョンの細胞生存率/毒性を示す図である。全ての油性核が非毒性のセラノスティックナノエマルジョンを得るのに等しく適しているわけではないことを示す。スフィンゴミエリンとリノール酸(L)又はオレイン酸(O)との組み合わせは、リノール酸(L)又はオレイン酸(O)等の油性核の使用が非常に毒性であることを実証している。ビタミンEを使用すると、このような毒性が有意に減少される。V:ビタミンE;SM:スフィンゴミエリン;O:オレイン酸;L:リノール酸。
図15】本発明のナノエマルジョンの安定性を示す図である。種々のナノエマルジョンの安定性を示す比較試験を示す。特に、異なる条件での、次のナノエマルジョン:ビタミンE+ホスファチジルコリン(V:PC)、ビタミンE+セラミド(V:Cer6)、トリグリセリド+スフィンゴミエリン+コレステロール(TOG:SM:CH)、ビタミンE+スフィンゴミエリン(V:SM)の安定性を比較した。図15A(安定性4℃)。図15B(安定性37℃)。図15C(安定性PBS10mM)。図15D(安定性血漿)。この図に見られるように、スフィンゴミエリンを含むナノエマルジョンは、セラミドのような他のスフィンゴ脂質、又はホスファチジルコリンのようなリン脂質を含むナノエマルジョンと比較して、貯蔵中、並びに生理食塩水及び血漿培地の両方においてより安定である。ビタミンE+ホスファチジルコリン(VPC)。ビタミンE+セラミド(VCer6)。トリグリセリド+スフィンゴミエリン+コレステロール(TOGSMCH)。ビタミンE+スフィンゴミエリン(VSM)。
図16】本発明のナノエマルジョンの安定性を示す図である。いずれもスフィンゴミエリン及び種々の油性核を含む種々のナノエマルジョンの安定性に関する比較試験を示す。図16A(安定性PBS100mM)。図16B(安定性PBS50mM)。図16C(安定性PBS10mM)。興味深いことに、リノール酸又はオレイン酸の核を含むナノエマルジョンの安定性は、ビタミンEが使用される場合に示される安定性と比較して明らかに減少する。V:ビタミンE;SM:スフィンゴミエリン;O:オレイン酸;L:リノール酸。
図17】本発明のナノエマルジョンの安定性を示す図である。40℃及び湿度75%のストレス条件(規制承認に必要な条件又は必須条件)下で、オレイン酸核(OSM:oleic acid nucleus)又は異なる油性核(ミグリオール(Migliol))及び界面活性剤(ホスファチジルコリン)を有するナノエマルジョンが明らかに不安定であるのに対し、ビタミンE及びスフィンゴミエリンを含むナノエマルジョンは安定であることを示している。V:ビタミンE;SM:スフィンゴミエリン;O:オレイン酸;PC:ホスファチジルコリン;M:ミグリオール。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本発明では、「ナノエマルジョン」は、油又は油の混合物で構成される構造であって、ナノメートルサイズの液滴として水中に分散され、そして液滴の凝集又は合体を防止する共重合体又は界面活性剤によって安定化されるものと理解される。このタイプのナノエマルジョンは、液滴の大きさ及び分布によって判断され、またマイクロエマルジョンとは異なり、動力学的に安定であるが熱力学的には安定ではないナノメートルのエマルジョンである。したがって、平均液滴径を考慮すると、ナノエマルジョンは、平均液滴径20nm~500nmを有するエマルジョンであり、マイクロ又はマクロエマルジョンは0.5μm~100μmの平均液滴径を有することを意味すると理解される。好ましくは、平均液滴径に基づいて、ナノエマルジョンは、300nm未満の平均液滴径を有するエマルジョンを意味すると理解される。
【0011】
本発明では、「ナノ粒子」は、1nm~500nmに含まれる平均径を有する、任意のタイプの粒子又は一群の粒子又は成分、また同様に、コロイド懸濁液の分散相の1nm~500nmに含まれる平均径を有する成分又は粒子又は一群の粒子と理解される。
【0012】
本発明では、「ナノ構造組成物」は、ナノ粒子を生じさせる材料及び/又はコンジュゲートの組み合わせとして理解される。
【0013】
本発明では、「ナノシステム」は、任意のタイプのナノ粒子、ナノエマルジョン、コロイド構造(例えば、リポソーム、ナノカプセル等)及び/又はリガンド-薬物若しくはリガンド-放射性同位体タイプのコンジュゲートであると理解され、水性懸濁液中では、ナノエマルジョンの上記ナノ粒子若しくは平均液滴径、又はリガンド-薬物若しくはリガンド-放射性同位体タイプのコロイド構造若しくはコンジュゲート構造は、1nm~500nm、好ましくは300nm未満、及び最適には100nm前後で構成される平均径を有する。
【0014】
「平均径」とは、同じ速度で拡散する粒子の流体力学的径を意味する。この平均粒子径は、レーザーがそれらの粒子に当たると、より小さな粒子が大きな粒子よりも速く拡散するという事実に基づいて、ナノ粒子のブラウン運動を測定し、それを粒子のサイズと関連付ける動的光拡散(Dynamic Light Diffusion)(DLS)技術を使用して計算される。
【0015】
本発明では、「機能付与」は、治療用途の薬物、診断用途の造影要素(contrast elements)、分子/標的細胞との相互作用を媒介するリガンド、また電荷を帯びた化合物、それらの物理化学的特性(サイズ、分散及び表面特性)を変化させる界面活性剤又は溶媒であるかどうかに関わらず、ナノシステムに機能性を提供する分子の化学的相互作用(例えば、共有結合性、静電気的、疎水性等)による結合体(union)として理解される。
【0016】
本発明では、「スフィンゴミエリン」は、スフィンゴ脂質ファミリーの脂質を意味すると理解され、細胞膜に最も一般的に見られるリン脂質である唯一のスフィンゴ脂質は、以下の化学的構造を有する。
【化1】
【0017】
本発明では「スフィンゴ脂質」は、生理学的には、重要な生物学的機能を示し、生体膜の形成において重要な役割を果たす、一般的にはホスホスフィンゴ脂質(phosphoesphingolipids)及びグリコスフィンゴ脂質に分類される、両親媒性の特性を有する脂質を意味すると理解される。
【0018】
本発明では、「油性核」は、界面活性剤、好ましくはスフィンゴ脂質によって安定化された油又は油の混合物と理解され、薬物、蛍光体、放射性同位体、造影剤等のそれらの油に、又は懸濁液に可溶性の他の種類の分子を持つこともできる。
【0019】
本発明では、「リガンド」は、ナノシステムの表面に向かって配置され、腫瘍細胞の細胞膜のレベルで発現される受容体である標的分子とのその相互作用を支援する分子として理解される。それらの性質に応じて、リガンドは、核酸、アプタマー、ペプチド、タンパク質、親水性又は疎水性の低分子量の分子と並んで、両親媒性分子を生成するそれらの誘導体であり得る。
【0020】
本発明では、「TAS1R3受容体」は、味覚のGタンパク質に結合した膜貫通受容体として理解され、これは味蕾で発現されるが、肝臓及び膵臓等の他の組織においても、また腫瘍細胞においても発現される。HGNC:15661;Entrez Gene:83756;Ensembl:ENSG00000169962;OMIM:605865;o UniProtKB:Q7RTX0等、このレシーバー(receiver)に関する参照は複数ある。
【0021】
本発明では、TAS1R3受容体のためのリガンドは、単糖及び二糖、スクラロース、シクラメート、ネオエスペリジン、ジヒドロカルコン等の人工甘味料、ラクチゾール等の甘味阻害剤、ブラゼイン等のタンパク質、並びに抗体、抗体のフラグメント、ペプチド、アプタマー、小分子、タンパク質等の選択系によって特に設計された他の分子等のTAS1R3受容体と相互作用することができる分子であると理解される。
【0022】
本発明では、「リガンドとのコンジュゲート」は、溶解物及び治療活性を有する分子(薬物、放射性医薬品等)又は診断用分子(放射性同位体、キレート剤、ガドリニウム等)を含む化学的コンジュゲートである。
【0023】
本発明では、「比率(重量/重量)油/スフィンゴ脂質」は0.005~1:10であって、質量比を意味し、ここでは、油の量を1としてスフィンゴ脂質の割合をその単位に対し決定する。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明では、特に、局在化した及び/又は転移性の腫瘍疾患の治療及び/又はモニタリングのためにナノテクノロジービヒクルとして使用する配合物の開発を解説する。上記配合物は、腫瘍細胞の細胞膜上で発現される受容体と相互作用又は結合することができる、特に原発性、播種性又は転移性の腫瘍細胞の膜上で発現される受容体に相互作用又は結合することができるリガンドで機能付与することができる。また、抗腫瘍薬又は治療用生体分子を上記ナノエマルジョンに封入することができ、最後に、in vivo診断で使用する造影剤を上記ナノエマルジョンに組み込むことができる。
【0025】
この目的のため、本発明者らは、本発明の実施例に示される手順を用いて、好ましくはビタミンE又はオレイン酸から選択される油相又は油コアを含み、スフィンゴミエリン型のスフィンゴ脂質によって安定化された水中油型の様々なナノエマルジョン(それらの特性評価については、本発明の第1の態様で詳述されている)を開発し、任意に上記ナノエマルジョンは、リン脂質、コレステロール、オクタデシルアミン、DOTAP、及びペグ化誘導体と並んで、ポリアミンと脂質鎖のコンジュゲート等の他の脂質を含むことができる。例として、上記化合物に基づいて調製された上記ナノエマルジョンの物理化学的性質を示す(表1)。
【0026】
【表1】
【0027】
さらに、本発明者らは、このタイプのナノエマルジョンを透過型電子顕微鏡法で解析して、それらの形態及びサイズ分布を決定することを進めた。図1では、均質な分布を有する丸みを帯びたナノ粒子の集団を見ることができる。また、図2に示すように、開発されたナノエマルジョンは、保存の間及び生物学的流体の存在下の両方で、それらのコロイド特性の観点から、非常に安定していることに留意されたい。
【0028】
一方、本発明のナノエマルジョンのナノセラノスティックの価値(nanotheranostic value)を判断するため、それらをTAS1R3、グアニリルシクラーゼC、レプチン受容体、又はインテグリン及びラミニン等の他の分子等の対象となる或る特定の受容体を発現する腫瘍細胞に対するそれらの相互作用又は結合を増強することができる分子で機能付与した。これらの研究は、転移性腫瘍細胞におけるこれらの標的受容体/分子の同定を伴った。上記機能付与を行うため、表2に記載のリガンドを取得して、スペーサー(PEG)の有無にかかわらず、共有結合によって疎水性残基(例えばC16、C18等)に結合した。その他の場合(UROGLys、BRA、INT及びLEPT)には、予備形成ナノエマルジョンに対してインキュベーションを行った。使用したペプチドの配列(表2)、及び得られたナノエマルジョンの物理化学的性質を以下に記載する(表3)。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
上記機能付与は、実施例3に記載されるとおりに行われたことに留意されたい。このため、リガンド密度の異なるナノエマルジョンを最適化し、全ての場合において、それらのコロイド安定性を、保存の間及び生物学的手段の存在下で判断した。さらに、この報告を通して記載される低分子量の分子によるスフィンゴミエリンを含むナノシステムの機能付与は、生産及び規模拡大(scale)が容易なリガンドであり、抗体、ペプチド、及びタンパク質等の従来のリガンドと比べて非常に安価であるため、ラクチゾールの場合と同様に、非常に興味深いと言及することは重要である。このタイプの配合物はまた、特許記録(the patent memory)全体に記載されている一連の利点を有するTAS1R3受容体に向けられているため、高い関心を提示する。
【0032】
本発明のナノシステムを機能付与する可能性を知って、治療活性を有する数種類の分子を、それらの物理化学的性質と潜在的活性の両方を判断するために、本発明のナノエマルジョンと会合させた。これらの分子を充填したナノエマルジョンの幾つかの例、及びそれらの特性評価を、下記表(表4)に示す。上記例は、本発明の実施例で提供される情報と併せて、本発明のナノエマルジョンの治療可能性を示す。
【0033】
【表4】
【0034】
幾つかの種類の治療活性を有する分子を会合させることとは別に、またナノセラノスティクスを開発することを目的として、本発明者らは、光学イメージング(IVIS)及び分子システム(PET/SPECT/MRI)を用いてナノエマルジョンの可視化/追跡を可能にする幾つかの要素を会合させた。表5は、本発明者らが使用する要素を示し、本発明のナノエマルジョンが潜在的な診断価値を有することを実証する。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
上記に加えて、本発明のナノエマルジョンの毒性を細胞培養物及びマウスで調べた(図3)。細胞培養物では毒性をほとんど誘発しないことが観察された(A)。毒性は、ナノエマルジョンの表面にリガンドを組み込むことによっては変わらず、例として、ナノエマルジョンの毒性は、リガンドラクチゾールによる機能付与の有無にかかわらず提示される(B)。また、96時間のインキュベーション後、ゼブラフィッシュ胚の試験でコントロール(水)と比較して死亡の増加はなかった。そして更に重要なことに、健康なマウスに10mg/mL及び20mg/mLの濃度でナノエマルジョンを数回連続して静脈内注射した後、明らかな毒性は認められない(C)。したがって、本発明のナノエマルジョンは、主要成分が天然脂質であるため毒性が低いということを立証している。
【0038】
一方、本発明のナノエマルジョン、特にスフィンゴミエリンナノエマルジョンの有効性を判断するため、起源が異なる腫瘍細胞における上記エマルジョンの内部移行を評価した。この点に関して、一般に、本発明のスフィンゴミエリンナノエマルジョンは、内部移行される能力が大きいと判断された(図4)。本発明者らは、Nile Red蛍光体を充填したV:SM 1:0.1配合物は、その起源(例えば、結腸、肺)、前立腺及び膵臓)に関係なく、DAPIで対比染色された細胞の核の周りに強い赤色シグナルを生じさせたことを共焦点顕微鏡法により観察することができた(A)。さらに、例えばカチオン性ナノエマルジョンV:SM:DOTAP(1:0.1:0.1)は、ナノエマルジョン中性V:SMと比較すると結腸細胞でより効果的に内部移行されたことから(B)、内部移行効率は可変的であり、組成によって制御可能である。実際に、ナノエマルジョンに対応するシグナルは、緑色タンパク質(GFP)を発現するために形質転換された腫瘍細胞を使用したことから緑色でマークをつけられた細胞の細胞質にあることが確認され、ナノエマルジョンに対応するマーカー及び細胞の細胞質の緑色の共局在が観察される(C)。この効果的な内部移行は、会合した治療用分子の効果的な細胞内放出を生じさせる(図5)。例えば、蛍光体Cy5で標識された核酸を用いることにより、この場合にGFPで形質転換した腫瘍細胞の細胞質におけるシグナルは標識RNAに対応することから、ナノエマルジョンがどのようにして細胞の細胞質にそれを輸送することができるのかを観察することが可能であった(A)。磁性ナノ粒子を組み込んだナノエマルジョンの場合、透過型電子顕微鏡法により、この配合物と共にインキュベートされた細胞の液胞においてそれらのコントラストを観察することができる(B)。
【0039】
一方、機能付与ナノエマルジョンの場合には、本発明者らは、より大きな内部移行を観察した。これは、例えば、Nile Redでマークをつけ、LAPIで機能付与したO:SM 1:0.1ナノエマルジョンの場合に当てはまり、リガンドのないコントロールと比べると、この配合物の場合にはNile Redに陽性の細胞数が多かった(曲線の変位が大きく、平均強度がより高いことが観察される)(図6)。この事実は、ラクチゾールで機能付与されたO:SM 1:0.1ナノエマルジョンの場合に繰り返される(図7)。まず、ナノエマルジョンに封入されたDiDシグナルは、機能付与ナノエマルジョン(O:SM:Lact 1:0.1:0.1)(下の写真)でより強く、コントロールナノエマルジョン(O:SM 1:0.1)の場合より内部移行の程度が大きいことを確認する(A)。さらに、腫瘍細胞が標的受容体を発現する強度が弱い場合(この場合、正常条件下(低発現)又は低グルコース含量(高発現)で培養したSW620細胞におけるTAS1R3)、シグナルの強度が観察された(B)。
【0040】
さらに、細胞培養物における本発明のスフィンゴミエリンナノエマルジョンの有効性を評価した(図9)。細胞毒性アッセイは、ナノエマルジョン(O:SM 1:0.1)が抗腫瘍薬(この場合はエトポシド)を効率的に放出し、細胞生存率の低下をもたらすことができ、リガンドで機能付与されたナノエマルジョン(この場合、ラクチゾールO:SM:Lact 1:0.1:0.1)の場合では効果がより顕著であることを明らかにする(A)。これは、遺伝子治療等の標的療法の場合にも確認される。ナノエマルジョンV:SM:DOTAP 1:0.1:0.1及びV:SM:P 1:0.1:0.1は、赤色タンパク質(mCherry)をコードするプラスミドで腫瘍細胞を効率的にトランスフェクトすることができ、細胞の細胞質にてシグナルが観察される(B)。lncRNAをコードするプラスミドの場合、RT-PCRによって定量される、その発現(TG1)の有意な増加が観察された(C)。siRNAの場合、形質転換細胞におけるルシフェラーゼの発現を低下させるものを用いて、このタンパク質(VDOTAP-CL3)の発現の低下が観察され、これは市販の参照ベクターであるリポフェクタミンにより得られ得る低下に匹敵する(D)。スフィンゴミエリンナノエマルジョンの有効性を、動物モデル(結腸癌の腫瘍細胞SW620を用いて異種移植した動物)でも評価した(図9)。ナノエマルジョン(O:SM:UROG 1:0.1:0.01)を静脈内投与した後、コントロール(生理食塩水の注射を受けた動物)に比べて、腫瘍増殖がより少ないことが観察される。
【0041】
上で検討された全ての結果に基づいて、油コアを含み、好ましくはスフィンゴミエリン型のスフィンゴ脂質で安定化された水中油型ナノエマルジョンの可能性が、特に早期に、より詳しくは転移性疾患に関して、疾患腫瘍の管理に対するナノテクノロジービヒクルとしての使用について、実証されている。この意味で、本発明は、腫瘍細胞の細胞膜、特に播種性及び転移性の腫瘍細胞の膜に発現される受容体に対するリガンドによる上記ビヒクルの機能付与が、該ビヒクルを、その中での抗腫瘍薬の封入及びin vivo診断での使用に対する造影剤の組み込みの両方に有用な強い治療可能性を有するユニットとすることを実証する。
【0042】
したがって、本発明の第1の態様は、水中油(o/w)型のナノエマルジョン(以下、「本発明のナノエマルジョン」)であって、
水相と、
油を含む油相又は油コアと、
スフィンゴミエリン、セラミド、スフィンゴシン、ガングリオシド、グロボース、サイコシン、及びセレブロシドからなる群より選択されるスフィンゴ脂質と、
を含み、比率(p/p)スフィンゴ脂質/油が0.005~10である、ナノエマルジョンに関する。
【0043】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、スフィンゴ脂質はスフィンゴミエリンである。
【0044】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、好ましくはスフィンゴミエリン型のスフィンゴ脂質の濃度は、ナノエマルジョンの総体積に対して1重量%~6重量%の濃度(重量/体積)である。
【0045】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、油相又は油コアの油は、αトコフェロール(ビタミンE)、ひまわり油、落花生油、アボカド油、アルガン油、アーモンド油、カレンジュラ油、ココナッツ油、小麦胚芽油、アルニカ油、ルリジサ油、ゴマ油、綿実油、オリーブ油(オレイン酸)、トウゴマ油、大豆油、紅花油、パーム油、小麦胚芽油、チャノキ油、ホホバ油、亜麻仁油、シリコーン、グリセロール、トリグリセリドオイル、オトギリソウ油、ロザ・モスクエタ油、ミリスチン酸イソプロピル、トリブチリン、スクアレン、又はそれらの任意の組合せからなる群より選択される。好ましくは、油相は、α-トコフェロール(ビタミンE)、オレイン酸、リノール酸及び/又はトリグリセリドのみからなる。
【0046】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、上記ナノエマルジョンは、他の膜脂質(リン脂質、ステロール及び糖脂質)、及び/又はDOTAP若しくはオクタデシルアミン等のカチオン性脂質、及び/又はポリアミン若しくは誘導体、並びにポリエチレングリコールを有するその誘導体を更に含む。
【0047】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、前記ナノエマルジョンは、
治療分子;又は、
造影要素、
の要素の少なくとも1つで機能付与されている。
【0048】
ここで、治療分子は、
薬物、好ましくはカルモフール、エトポシド、ドセタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン、又はそれらの誘導体等の抗腫瘍薬、
核酸、
ペプチド、
タンパク質、
抗体又はそのフラグメント、
アプタマー、
小有機分子、
エデルフォシン等の抗腫瘍活性を有する脂質、
クルクミン又はレスベラトロール等の抗腫瘍特性を有する天然起源の化合物、及び、
それらの任意の組合せ、
からなる群より選択されるのが好ましく、
ここで、造影要素は、
緑色インディアンシアニン(ICG:indiancyanine)、1,1-ジオクダデシル-3,3,3,3-テトラメチルインドトリカルボシアニンヨウ化物(DiR)、1,1-ジオクタデシル-3,3,3,3-テトラメチルインドジカルボシアニン過塩素酸塩(DiD)、nile Red又はAlexa Fluor等の蛍光体、
超常磁性酸化鉄粒子(SPION)等の無機ナノ粒子、
1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)又は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-ジエチレントリアミン-五酢酸(DTPA-PE)若しくは1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTE)、又はガドリニウム、若しくはガリウム若しくはインジウム等の放射性同位体の錯体化用に脂質で修飾されたNOTE等のキレート剤、
フッ素(18F)、ガリウム(68Ga)、ヨウ素(125I)、インジウム(111In)、及び誘導体等のその他の放射性同位体、
パーフルオロヘキサン及びオクタフルオロプロパン等のパーフルオロカーボン、並びに、
それらの任意の組み合わせ、
からなる群より選択されるのが好ましい。
【0049】
一方、本発明の著者らは、CTC(循環腫瘍細胞)、並びに原発性及び播種性又は転移性の両方の腫瘍において、新たな受容体、具体的にはTas1R3受容体(味覚受容体である)を同定した。上記受容体の発現は、グルコースの存在、並びにその系統(line)及び場所(より転移性の高い発現)によって異なる。
【0050】
ナノ粒子等の分子の選択的方向に対するこの受容体の大きな可能性により、また本発明者らはこの受容体と相互作用し、内因性ではないため競合現象を生じない分子の存在を知っていることを考慮に入れることにより、本発明者らは、受容体の幾つかのリガンド、特に幾つかの甘味料を選択し、上記リガンドで本発明のナノシステムを機能付与することで、CTC(循環する(腫瘍細胞)及び転移性の細胞として、原発性腫瘍又は播種性腫瘍細胞等の腫瘍に対して上記ナノシステムを方向づけることができるという仮説を検証した(実施例及び図を参照されたい)。
【0051】
ナノエマルジョンが機能付与されると、本発明者らは、これらの機能付与されたナノ粒子が受容体を発現する細胞内でより効率的に蓄積することを観察した(図6図11)。
【0052】
したがって、本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、本発明のナノエマルジョンは、炭素鎖、タンパク質、ペプチド又はアプタマーに結合しているか否かにかかわらず、細胞輸送(cellular vehiculization)に適した低分子等のリガンドで機能付与されている。好ましくは、上記本発明のナノエマルジョンは、TAS1R3、グアニリルシクラーゼC、レプチン受容体、又はインテグリン及びラミニン等の分子等の対象となる或る特定の受容体を発現する腫瘍細胞に対するリガンドにより機能付与されている。特に、上記リガンドは、ペプチドであるラクチゾール又はブラゼインからなる群より選択される。より好ましくは、上記本発明のナノエマルジョンは、グアニリルシクラーゼ、レプチン、又はTAS1R3受容体に対するリガンドで機能付与されており、リガンドは、ペプチド、タンパク質若しくはフラグメント、抗体若しくはそのフラグメント、アプタマー、小サイズの有機分子、それらと相互作用し得ると説明される分子、又は誘導体からなる群より選択される。
【0053】
本発明の第1の態様の更に別の好ましい実施形態では、本発明のナノエマルジョンは、ウログアニリン、リジンで触媒されたウログアニリン、インテグリンINTの細胞外画分、又はRPM(RPMペプチドのペプチド配列:CPIEDRPMC)で機能付与されている。
【0054】
本発明の第1の態様の更に別の好ましい実施形態では、本発明のナノエマルジョンは、上で定義された細胞輸送に適したリガンド、及び少なくとも1つの治療分子又は造影要素で二重に機能付与されている。
【0055】
本発明の第2の態様は、本発明のナノエマルジョンを得る方法であって、i)油及び/又はスフィンゴ脂質をエタノール、好ましくは、又は必要に応じて水を含む他の混和性有機溶媒、又は混合物に溶解することと、ii)穏やかな磁気撹拌のもと、又は任意に均質化すること若しくは超音波を適用しながら、水相、水、生理食塩水、緩衝液、又は糖溶液にこの相を加えることと、iii)任意に、ナノエマルジョンを機能付与しようとする化合物及びその溶解特性に応じて、化合物、造影剤、治療分子又はリガンドを2つの先の相のうち1つに加えることとを含み、iv)代替的には、マイクロ流体システムを成分の混合に使用することができ、v)ナノエマルジョンはまた、均質化又は超音波処理等の両方の相を混合するための種々の物理的方法を使用して調製することもでき、vi)ナノエマルジョンは、化学反応又は物理的プロセスを通じて、調製時に全ての成分を加えるか、又は予備形成ナノエマルジョンに異なる要素を組み込むことによって機能付与され得る、方法に関する。
【0056】
本発明の第3の態様は、治療法に使用される、特に、癌、特に、乳癌、黒色腫、ブドウ膜黒色腫、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、胃癌、頭頸部癌、肉腫、神経膠芽腫、神経芽種、結腸及び直腸の癌、頭頸部の癌、腎臓癌及び膀胱癌、並びに肝癌の治療に使用される、より詳しくは、癌転移の治療に使用される、より詳しくは、in vivo診断に使用される、本発明のナノエマルジョンに関する。
【0057】
本発明の第4の態様は、本発明のナノエマルジョンと、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0058】
最後に、既に言及しているように、本発明の著者らは、CTC(循環腫瘍細胞)及び腫瘍において、新たな受容体、特にTas1R3受容体(実施例6を参照されたい)を同定した。さらに、本発明では、本発明のナノエマルジョンがこの受容体に対するリガンドによって機能付与されると、上記ナノエマルジョンの細胞内蓄積が、受容体を発現する細胞、すなわち腫瘍細胞においてより効率的に観察される(実施例7を参照されたい)ことが実証されている(図7を参照されたい)。
【0059】
したがって、本発明の第5の態様は、腫瘍細胞に対する(in front of)、好ましくは、原発性、播種性又は循環性の腫瘍細胞に対するナノシステム又はコンジュゲートの機能付与に使用される、TAS1R3受容体に結合することができる抗体、抗体フラグメント、アプタマー又はペプチドからなる群より選択される一群の化合物に関する。
【0060】
本発明の第5の態様の好ましい実施形態では、上記化合物はレプチン又はブラゼイン由来のペプチドからなる群より選択され、好ましくはブラゼインである。
【0061】
特に好ましい実施形態では、本発明は、水中油(o/w)型ナノエマルジョンであって、a)水相と、b)α-トコフォロールのみからなる油性核(すなわち、油性核の油はα-トコフロールのみからなる)と、c)スフィンゴミエリン(安定剤又は界面活性剤として)とを含む、ナノエマルジョンに関する。
【0062】
この特定の組み合わせ(すなわち、水相と、α-トコフェロールのみからなる油性核と、スフィンゴミエリンとの組み合わせ)は、治療及び診断の両方の目的で使用されて、毒性が低く、また生理食塩水及び血漿培地で保管する間の安定性も高い、多目的なナノエマルジョンを得る機会を本発明に与える。
【0063】
本発明のナノエマルジョンの毒性に関して、本発明は、本発明のナノエマルジョンの毒性が細胞培養物及びマウスで研究されたことを既に説明した(図3)。この図3では、VSM(ビタミンE及びスフィンゴミエリン 1:0.1)の異なる組成を有するナノエマルジョンの細胞生存アッセイ(MTT)を行う。これらのナノエマルジョンは、細胞培養物では毒性をほとんど誘発しないことが観察された(図3A)。毒性は、ナノエマルジョンの表面にリガンドを組み込んでも変わらず、例として、ナノエマルジョンの毒性は、リガンドラクチゾールによる機能付与の有無にかかわらず提示される(図3B)。また、96時間のインキュベーション後、ゼブラフィッシュ胚の試験でコントロール(水)と比較して死亡の増加はなかった。更に重要なことは、健康なマウスに10mg/mL及び20mg/mLの濃度でナノエマルジョンを数回連続して静脈内注射した後、明らかな毒性は認められない(図3C)。したがって、本発明のナノエマルジョンは、主要成分が天然及び中性の脂質であるため毒性が低いということを示している。さらに、ビタミンE+スフィンゴミエリン(VSM)を含むナノエマルジョンをビタミンE+セラミド(VCer6)を含むナノエマルジョンと比較する比較アッセイを示す図13を参照されたい。例えば、セラミドを含むナノエマルジョンの毒性が有意に高いことが図13からわかる。
【0064】
これは、実際にはセラミドを含むナノエマルジョンは明らかに有毒であり、したがって診断目的には適切ではないか又は推奨されないことから、全てのスフィンゴ脂質が非毒性のセラノスティックナノエマルジョンを得るのに等しく適しているわけではないことを示すものである。そこで、本発明では、その毒性が低いことから、スフィンゴ脂質であるスフィンゴミエリンをセラノスティックナノエマルジョンの取得のため特に選出した。
【0065】
さらに、図14に示すように、全ての油性核が非毒性のセラノスティックナノエマルジョンを得るのに等しく適しているわけではない。図14に示すように、スフィンゴミエリンとリノール酸(L)又はオレイン酸(O)との組み合わせは、リノール酸(L)又はオレイン酸(O)等の油性核の使用が非常に毒性であることを示している。ビタミンEを使用すると、このような毒性が有意に減少される。
【0066】
安定性に関して、スフィンゴミエリン及びビタミンEに基づくナノエマルジョンの安定性を扱う出願時の図2に示すように、本発明のナノエマルジョンは、保存の間及び生物学的流体の存在下の両方において、そのコロイド特性の観点から、非常に安定していることに留意することが重要である。実際、例えば図15からわかるように、スフィンゴミエリンを含むナノエマルジョンは、セラミドのような他のスフィンゴ脂質、又はホスファチジルコリンのようなリン脂質を含むナノエマルジョンと比較して、保存の間、並びに生理食塩水及び血漿培地中の両方においてより安定である。
【0067】
さらに、本発明の発明者らは、いずれもスフィンゴミエリン及び異なる油性核を含む種々のナノエマルジョンの安定性を示す比較試験を実施した(図16を参照されたい)。興味深いことに、リノール酸又はオレイン酸の核を含むナノエマルジョンの安定性は、ビタミンEが使用される場合に示される安定性と比較して明らかに減少する。
【0068】
さらに、図17に説明されるように、40℃及び湿度75%のストレス条件(規制承認に必要な条件又は必須条件)下で、オレイン酸核(OSM)又は種々の油性核(ミグリオール)及び界面活性剤(ホスファチジルコリン)を有するナノエマルジョンが明らかに不安定であるのに対し、ビタミンE及びスフィンゴミエリンを含むナノエマルジョンは安定であることを示している。
【0069】
上記のデータは、全ての脂質又はスフィンゴ脂質が安定で非毒性のナノエマルジョンを得るのに等しく適しているわけではないことを示している。したがって、本発明では、保存の間、生理食塩水及び血漿培地中で高い安定性を有する非毒性のナノエマルジョンを得るため、スフィンゴ脂質であるスフィンゴミエリンと油性核であるビタミンEとの組み合わせを特に選出した。
【0070】
以下の実施例は、単に本発明の説明する機能を果たし、本発明を何ら限定するものではない。
【実施例
【0071】
実施例1.本発明のナノエマルジョンの調製
ナノ粒子の調製をエタノール注入手法(ethanol injection technique)によって行い、これについては、それぞれの場合に必要な油:界面活性剤の比率(他の界面活性剤と組み合わせた、又は組み合わせていないスフィンゴ脂質)で原液を調製し(有機相、FO)、2mL容の小さなバイアルに入れたHO 900μL(水相、FA)に、磁気撹拌しながら、100μL(0.5mL容のインスリンMyjector、U-100インスリンの注射器を使用、Terumo)を注入した。これらの条件下で、水中油(O/W)型ナノエマルジョンの形成は自然に起こり、球形の形態を示し、均質な集団となった(図1)。構造は、スフィンゴミエリン及び時には他の脂質によって安定化された油コアからなり、原理的には疎水性分子の核における封入に適した系であり、また好ましくは界面に配置されるか、又はナノエマルジョンの表面で会合される別のタイプの両親媒性又は親水性の分子を会合することができる。
【0072】
配合物の特性評価のため、動的光散乱(DLS)によって粒子径及び多分散指数(PdI)を決定し、同様にドップラーレーザー血流計(LDA:Doppler laser anemia)によって電位(Z)を決定することを可能にする、Zetasizer(商標)(イングランドのNanoZS Malvern Instruments)を使用した。全ての試料をMilliQ水で希釈した後、室温で、90℃の検出角度で分析する。各試料を3回測定し、平均値を提供する。また、このタイプの測定は、図2に示すように、保存の間又はより複雑な媒質中でのインキュベーション後のいずれかに、配合物のコロイド安定性を決定するためにも使用される。
【0073】
実施例2.HPLC法の最適化
会合したリガンド及び対象となる治療分子の両方の開発されたナノ構造体に対する会合を判断するため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用した。
【0074】
方法の最適化のため、各分子の特徴を考慮した。リガンドに関しては、表2に記載の化合物が企図され、これは、配合物に組み込まれた後、表3に示されるもののように機能付与ナノエマルジョンを生じさせる。ペプチドの場合、分析を220nmで行い、水及びアセトニトリルを移動相として組み合わせ、通常60%未満のアセトニトリルであれば溶出に十分である。また、揮発性が高いため非常に使用されている(Agilent, 2013)イオン対試薬であるTFAをわずかに(0.2%)移動相に追加することも重要であり、保持及び選択性を制御することによって逆の位相のHPLCカラムでイオン物質の分離を可能にする。また、幾つかの両親媒性分子の場合、ラクチゾール誘導体の場合と同様に、脂肪酸に類似した構造を有し、既に述べた支援を提供することから、TFAをわずかに(0.05%)加えた。場合によっては、UV/Vis DU-730分光光度計(Beckman Coulter)を用いてUV-Visスキャンを行い、分析に適した波長を調整することも必要であった。
【0075】
同様に、対象となる化合物の封入効率を分析するため、ドセタキセル及びパクリタキセル等の表4に列挙されているような薬物を充填したナノエマルジョンの特性評価をHPLCにより行った。これを行うため、より親水性の化合物がより極性の移動相(より多くの水)で溶出する一方で、より疎水性の化合物は、それらの溶出にはより無極性の移動相を必要とすることから、本発明者らは、疎水性(LogP)等の各々の特徴を考慮した。調整したその他のパラメーターは、温度及び注入量であった。温度の場合、ピークの出口を加速又は遅延させることができ、ピークが溶媒の前に近づきすぎて出現する場合、カラムを冷却して溶出を遅らせることができるが、ピークが長い時間に現れて、クロマトグラム及び分析を遅らせる場合、温度を上げてカラムを通る化合物の排出を加速させることができる。注入量の場合、これはピークの高さを増すため、検出の限界(LOD)及び定量の限界(LOQ)を改善することができる。該方法が最適化されると、ナノ粒子成分との相互作用がないことを確認して、クロマトグラムを変更することが重要である。全ての場合において、本発明者らは、InfinityLab Poroshell 120EC-C18カラム(Agilent、4.6×100mm、孔径4μm)を用いて、G7111Aポンプ、G7129Aオートサンプラー、及びG7114A UV-Vis検出器を備えたHPLCシステム(1260 Infinity II、Agilent)を使用した。
【0076】
核酸の場合、会合効率を決定する分析をアガロースゲル電気泳動により行った。
【0077】
実施例3.ナノシステムの機能付与
開発したナノシステムを、表3に記載されるリガンドで機能付与した。上記開発されたナノシステムの特性評価を、機能付与されていないナノエマルジョンの場合と同様に、サイズ、分散、及び表面電荷の観点から行った(実施例1)。次に、続く手順を、4つの場合の調製タイプによって分類する。
【0078】
3.1.ペプチドの脂質コンジュゲートによる機能付与、LAPI、UROG及び(y)RPM(V:SM:LAPI 1:0.1:0.01、O:SM:UROG 1:0.2:0.01、及びV:SM:RPM 1:0.1:0.05)
ナノエマルジョンに対するこのリガンドの会合を、エタノール中に溶解した後の各誘導体の原液50μLを加えることによって行った(有機相に対して、LAPI及びUROGの場合は1mg/ml又はRPMの場合は0.5mg/mlの濃度であり、次いで1mlの水を撹拌しながら注入して、機能付与エマルジョンを得た)。
【0079】
3.2.親水性ペプチド(ウログアニリン由来のカチオン性ペプチドO:SM:UROGLys 1:0.2:0.01、及びブラゼイン由来のペプチドO:SM:PC:BRA 1:0.1:0.1:0.005)による機能付与
両方のペプチドで機能付与を行うため、本発明者らは、予備形成した白色配合物(O:SM 1:0.2及びO:SM:PC 1:0.1:0.1)を用いて開始した。200rpmで磁気撹拌しているこれらのナノエマルジョン100μLに、更に100μLのペプチド水溶液を徐々に滴加した。添加が完了すると、撹拌を20分間維持し、予備形成したナノエマルジョンの表面へのペプチドの吸着を支援した。種々の濃度のペプチドを試験し、実施例1に記載したとおりに特性評価し、それらのコロイド安定性を24時間で決定した。
【0080】
3.3.ラクチゾールリガンドの脂質コンジュゲートよる機能付与(O:SM:LACT 1:0.1:0.1)
ナノエマルジョンに対するこのリガンド(C16~C18鎖に共有結合したラクチゾール)の会合を、10mg/mlの原液50μLを有機相(O:LM 1:0.1、エタノール50μl中)に加えることで行い、次いで、これにMilli-Q(MilliporeMilli-Q(商標)システム)を磁気撹拌下でMilli-Q水1mlを注入し、機能付与ナノエマルジョンを得た。
【0081】
3.4.タンパク質による機能付与(インテグリンV:SM:INT 1:0.1:0.01、及びレプチンV:SM:LEPT 1:0.1:0.01)
両方のタンパク質で機能付与を行うため、本発明者らは、白色配合物(V:LM、1:0.1)を用いて開始した。第1の例では、磁気撹拌している予備形成ナノエマルジョン50μLに対し、インテグリン溶液25μLを添加し、第2の例では、その体積は、予備形成ナノエマルジョン及びレプチンについてそれぞれ100μL及び50μLであった。
【0082】
LAPI、ラクチゾール、及びRPMの誘導体で機能付与されたナノエマルジョンの細胞内部移行と関連する結果は、図6図7図8、及び図18に示され、ここでは、機能付与されているナノエマルジョンに対する受容体を発現する腫瘍細胞において、ナノシステムの強い蓄積を見ることができる。
【0083】
実施例4.機能付与粒子に対する造影剤分子の会合
オレイン酸で被覆した疎水性超常磁性ナノ粒子(SPION)をナノエマルジョン中に封入することを、実施例1に記載した方法に軽微な修正を行って実施した。80mg/mLの濃度でクロロホルムに溶解したSPION 15μLを有機相に加え、リガンドを含む、又は含まないナノエマルジョンの調製のために水に注入する前に氷浴中で5分間超音波処理した。懸濁液をオービタルシェーカーで10分間撹拌した。最後に、それらのサイズ、PdI及びゼータ電位に応じてナノエマルジョンを特性評価した。また、DTPA-PEを、68Gaによるナノエマルジョンのその後のマーキングのために加え、PETにて可視化した。この場合、DTPA-PEを、20mg/mLの濃度でエタノールに事前に溶解し、脂質(1.25μL、2.5μL又は5μL)と共に、製造される前に有機相に組み込んだ。この有機相を水性媒質に注入すると、ナノエマルジョンが形成される。
【0084】
この種の会合から導き出された結果は表6及び図5に示され、この図ではSPIONを組み込む上記ナノエマルジョンをエンドサイクルした(endocycled)細胞の画像を示す。
【0085】
実施例5.薬物の封入
本実験の作業では、表4の治療分子を封入した。疎水性分子の封入のため、それらの溶液を有機溶媒、好ましくはエタノールに調製し、少量を脂質と共に、有機相に組み込み、ナノエマルジョンの事前の調製を行った。例えば、パクリタキセルの場合、DMSO中に40mg/mLの溶液を調製し、有機相に1.25μL(エタノール中の脂質100μL)を加えた。配合物の特徴を表4に詳述する。HPLCを用い、コロイド懸濁液中の薬物の濃度を決定した(実施例2)。
【0086】
核酸の会合については、核酸は予備形成ナノエマルジョンと会合していた。例えば、表4に記載されるプトレシンナノエマルジョン(V:SM:P 1:0.1:0.1)の場合、磁気撹拌しているナノエマルジョン100μLに対してpmCherry(5μg)の溶液100μLである。20分間のインキュベーションの後、ナノエマルジョンを特性評価した。アガロース電気泳動ゲルを用いることによって、先にナノエマルジョンに会合したpDNAに対応する泳動バンドの不在が観察されたため、その会合の有効性を確認した。該手法の検出限界を考慮すると、効率が90%を超えると結論付けることができる。
【0087】
実施例6.腫瘍細胞におけるバイオマーカーの発現
対象の幾つかのバイオマーカーの発現を、腫瘍細胞に対するナノエマルジョンの機能付与及び選択的方向について分析した(図12)。一方で、腫瘍の組織及び健康なパラフィンの試料に対してTAS1R3の発現解析を行った。これを行うために、本発明者らは、パラフィン包埋された試料用の特定の抽出キット(RNeasy FFPEキット、QIAGEN社)を使用して、それぞれ14ミクロンの5つのパラフィン切片からRNA抽出を行った。その濃度を知るために、Nanodrop機器(Nanodrop 2000C、Thermoscientific社)を使用した。これらのデータを用いて、各試料におけるRNA濃度の正規化を行い、合計2μgをヌクレアーゼフリー水で10μlの最終容量にした。次いで、High Capacity cDNA Reverse Transcriptionキット(Appliesbiosystems社)を使用し、RNAからcDNAへの経過のためにサーマルサイクラー(peq STAR 96HPL、VWR(商標)社)を使用した。cDNAを取得したら、Tas1R3に特異的なプローブと共にTaqman Universal PCR MasterMixと一緒に混合を行った。GAPDHをコントロール又はハウスキーピングとして使用し、ポリメラーゼ連鎖反応をStepOne Plus-Real-Time PCRシステム(AppliedBiosystems(商標)社)において実施した。
【0088】
細胞培養物における発現の評価に関しては、ATCC(アメリカ培養細胞系統保存機関)から入手した幾つかの型の細胞系統を使用した。リンパ節由来の転移性結腸細胞(SW620、CCL-227)、結腸直腸腺癌上皮細胞(SW480、CCL-228及びHT-29、HTB-38)、肺癌上皮細胞(A549、CCL-185)及び肝臓転移性肺細胞(H1755、CRL-5892)、膵臓癌細胞(MIA PaCa-2、CRL-1420)及び膠芽腫細胞(U118、HTB-15及びU87MG、HTB-14)を使用した。SW620系統、SW480系統、A549系統、U118系統及びU87MG系統を、DMEM HG培地(ダルベッコ改変イーグル培地-高グルコース、Sigma-Aldrich社)中で維持し、H1755系統を、RPMI 1640培地(Gibco(商標)、LifeTecnologies社)中で維持し、両者ともウシ胎児血清(Gibco(商標)、LifeTecnologies社)が10%まで補充され、抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン、Sigma-Aldrich社)が1%まで補充されている。これらは全て、マイコプラズマについて検査した。
【0089】
TAS1R3の発現の定量的分析のために、培養物中の全ての細胞系統から抽出されたRNAから出発して、逆転写酵素を用いてポリメラーゼ連鎖反応を行った(RT-PCR)。最初に、細胞を定型的にトリプシン処理した後に、ノイバウエルチャンバーを使用してそれらの細胞を計数することで、各系統から500万個の細胞を分離して、同等の細胞数から開始することができた。RNA抽出を、抽出キット(GeneJET RNA精製キット、ThermoScientic社)を使用して実施し、分析を前段落で説明されたのと同様に実施した。手順が完了すると、データを分析した。転移性起源の結腸直腸癌の細胞系統は、リンパ節(SW620)から単離され、TAS1R3より大きな発現を示すものである。
【0090】
免疫蛍光研究については、試験が行われる1日前に、8ウェルμ-チャンバー(PLC30108、SPL LifeSciences)又はカバーガラスに細胞を播種した。24時間後、培養培地を吸引により除去し、1×PBSで洗浄し、室温で15分間、4%パラホルムアルデヒドによる細胞の固定を進めた。それらを1×PBSで2回洗浄し、次いで細胞を室温にて10分間0.2%triton 100Xで透過処理した。tritonを洗浄した後、下記表に記載される一次抗体及び二次抗体と共に細胞をインキュベートした。
【0091】
【表7】
【0092】
次いでHoechst 33342(ThermoFisher(商標)社)(1:1000希釈)を加え、1時間インキュベートすることで、考えられる光劣化から蛍光体を保護した。インキュベート時間が経過したら、撹拌しながら再度1×PBSで3回洗浄した後に、μ-チャンバーの壁を取り外し、Mowiol封入剤(Calbiochem社)を適用し、試料上にカバースリップを置いた。それを暗所から遮って室温で一晩放置して乾燥させ、翌日、共焦点顕微鏡(共焦点レーザー顕微鏡Leica SP8(商標))で観察するまで-20℃で貯蔵した。
【0093】
実施例7.ナノエマルジョンと腫瘍細胞との相互作用及び会合分子の細胞内放出に関する研究
ナノエマルジョンと腫瘍細胞との相互作用を研究するため、エタノールに溶解した少量の蛍光色素(Nile Red、DiD又はDiR)をナノエマルジョンの形成後に有機相に加えて、蛍光エマルジョンを調製した。蛍光色素の割合を、0.001重量%~0.5重量%に設定した。例えば、0.1%Nile Redで調製されたV:SM 1:0.1ナノエマルジョンに対して85%~95%の会合効率が達成された。いずれの培養培地にも蛍光体の放出が存在しないことが確認された(インキュベーションの4時間後、FBSで補足したDMEMでは3%未満、又は冷蔵庫に4日間保存した後で10%未満)。GFPを発現させるため事前に形質転換された子宮内膜腫瘍細胞(HEC1A)及び結腸(SW480)とのナノエマルジョンの4時間のインキュベーション後、細胞を洗浄し、パラホルムアルデヒドで固定した。Mowiol(Calbiochem)で調製物をマウントした後、共焦点顕微鏡(共焦点Leicaレーザー顕微鏡SP8(商標))下で観察した。図4に示すように、Nile Red標識ナノエマルジョンに対応する赤色蛍光は、主に結腸細胞において細胞の細胞質で観察された。同様の実験を、DiD標識ナノエマルジョンで行い、4時間に亘って種類の異なる腫瘍細胞(結腸、肺、前立腺及び膵臓)上でインキュベートしたところ、V:SM 1:0.1のナノエマルジョンが細胞内部にアクセスする能力が細胞系統タイプとは無関係に確認された(図4A)。ナノエマルジョンの組成については、相互作用の程度を調節することを可能にする。例えば、0.03%のDiR蛍光体を充填した中性(V:SM 1:0.1)及びカチオン性(V:SM:DOTAP 1:0.1:0.1)のナノエマルジョンの細胞内部移行を比較すると、結腸細胞HCT116における4時間のインキュベーションの後、正に帯電したナノエマルジョンの場合により強い蛍光強度が観察され、おそらくは、細胞膜との静電気的相互作用の確立に電荷が寄与していることに起因する。
【0094】
一方、ナノエマルジョンは、標的細胞と相互作用し得るのみならず、結腸細胞における4時間のインキュベーションの後に、Cy5 O:SM:Lact 1:0.1:0.1でマークが付けられた二本鎖で非特異的配列の細胞内部ヌクレオチド(GUC CAG UUU UCC CAG GAA UCC CU)に会合した分子/薬物を輸送できることも確認された。
【0095】
実施例8.機能付与ナノエマルジョンと標的受容体を発現する細胞との相互作用の研究
異なるリガンドによるナノエマルジョンの機能付与を、実施例3に記載されるとおりに行った。対象となる受容体を発現する細胞と相互作用するナノエマルジョンの能力の観点から機能付与の効果を研究するため、フローサイトメトリー及び共焦点顕微鏡法の手法を用いた。
【0096】
図6は、37℃で4時間のインキュベーションの後に内部移行したNile Redで充填されるナノエマルジョンに起因して陽性蛍光を示す細胞の数及びそれらの強度を決定するために、フローサイトメトリーで解析したSW620細胞の分析によるデータを示す。分析を、PBSで細胞を十分に洗浄した後、次いで、通常のトリプシン処理のプロトコルに従って、その懸濁液を調製した後に行った。24ウェルプレートに1ウェル当たり100000個の細胞を播き、ナノシステムを37℃で4時間に亘って加えた。この時間の後、細胞を洗浄し、トリプシン処理して、室温にて5分間150RCFで遠心分離し(CentrigugaSL 16R、ローターTX-400、ThermoScientific(商標))、培地から細胞を分離した。吸引によって上清を除去し、ペレットを1×PBSで再懸濁し、特殊なサイトメトリーチューブに移した。150RCFで更に遠心分離した後、上清を吸引し、残ったペレットを容量500μlの0.4%パラホルムアルデヒドに再懸濁し、細胞を付着させた。分析を、BectonDickinson(商標)のFACScalibur teamで行った。図6では、LAPIで機能付与したナノエマルジョンがレプチン受容体を過剰発現する細胞でどれほど効果的に、より効率的に内部移行されるかを観察することができる。
【0097】
ラクチゾールで機能付与されたナノエマルジョンの内部移行を研究するため、SW620細胞を使用し、共焦点顕微鏡法を用いた。これらの実験のために、8ウェルのμ-チャンバー(PLC30108、SPL LifeSciences社)に1ウェル当たり80000個の細胞を播種した。24時間後に細胞を、オレイン酸及びスフィンゴミエリン誘導体から調製された、NBDで標識され、更にDiRが封入されたナノエマルジョン(OLM;O:SM 1:0.1)及びラクチゾールで機能付与されたこれらの同じナノエマルジョン(OLM-L;O:SM:Lact 1:0.1:0.1)と一緒に、0.12mg/mLのナノエマルジョンのウェル中の最終濃度でインキュベートした。37℃で4時間インキュベートした後に、細胞を1×PBSで2回洗浄し、次いで4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した後に、ウェルを1×PBSで2回洗浄し、次いで細胞核をHoechst 33342(Thermo Fisher(商標)社)で染色した。封入剤(Mowiol、Calbiochem社)を適用し、試料を共焦点顕微鏡(共焦点レーザー顕微鏡Leica SP8(商標))下で観察した。類似の実験を実施し、この場合に、高濃度又は低濃度のグルコースを有する培地で培養されたため、実施例6に見られるように異なるレベルの受容体の発現を有するSW620細胞における、ラクチゾールで機能付与され(O:SM:Lact 1:0.1:0.1)、DiDで標識されたナノエマルジョンのインキュベート後の内部移行を比較した。図11から分かるように、ラクチゾールのためのTAS1R3受容体の発現が低いSW620細胞でインキュベートした場合に、ナノエマルジョンによる蛍光強度が効果的に減少することが判明した。
【0098】
同様の結果が、RPMを用いた機能付与ナノエマルジョンについて得られた(図8)。このより大きな内部移行は、実施例7で検討されているように、エトポシドを充填したナノエマルジョンO:SM:Lact 1:0.1:0.1(F-NE)を用いた細胞生存率試験に関して、会合した細胞内治療分子を放出するためのより大きな有効性に関係する。同様に、図8はCy5標識マイクロRNAの観察を示し、該Cy5標識マイクロRNAは、miRNAがCy5蛍光体でタグ付けされているRPMで機能付与された、ビタミンE、スフィンゴミエリン及びオアクタデシルアミン(V:SM:OCT 1:0.1:0.01)のナノエマルジョン(VSMSTRPMmiRNA)、並びにコントロールナノエマルジョン(SMSTSHmiRNA)を用いて37℃で4時間トランスフェクトされた後の細胞系統SW480及びSW620において内部移行されている。共焦点顕微鏡法による蛍光の分析の後、細胞内レベルで会合した治療分子を放出する優れた能力を持つRPMを有するナノエマルジョンについて、はるかに大きなシグナルが見られる。
【0099】
実施例9.in vitro治療有効性アッセイ
細胞の生存率を判断するアッセイを使用して、残りの成分に対して1重量%のエトポシドを充填したナノエマルジョン1:0.1:0.1(F-NE)を、96ウェルプレートに播いた(1ウェル当たり10000細胞)。24時間の培養後に、濃度の増加順に20μlの試験配合物を110μlの培養培地に適用し、ナノシステムが溶解されるビヒクル(大部分の場合に水)を加えているポジティブコントロール及び6%のTriton 100Xの希釈が適用されたネガティブコントロールすなわち全死滅を、コントロールとして設定した。48時間後に、プレートの培養培地を吸引して、1×PBSで洗浄し、その後に、MTT試薬を1×PBS中で5mg/mLの濃度で、補充を有しないDMEM培地中で1:10に希釈した後に適用し、0.22μmフィルターで濾過した。1ウェル当たり110μlを適用した。インキュベーター中で4時間後に、培地をプレートから除去し、110μlの容量の1×DMSO(ジメチルスルホキシド、99.7%、AcrosOrganics社)を添加して、ミトコンドリア酵素により生成されたホルマザン結晶を溶解させた。遮光して、プレートを37℃で15分間インキュベートした後に、分光光度計(Multiskan EX、ThermoLabsystems(商標)社)において570ナノメートルで吸光度を測定し、GraphPad Prism 5プログラムを使用して各配合物のEC50値を取得した。抗腫瘍薬の封入のために、エトポシドを選択し、13.75μlの40mg/mLの溶液(550μgの薬物)を有機相に加えた。全てのナノエマルジョンを、14000×g、15℃で30分間遠心分離(Microcentrifuge 5415R、ローターF452411 Eppendorf(商標)社)することによって単離して、ナノエマルジョンの一部ではなく全てを排除した。図9Aに示されるように、薬物のナノエマルジョンで処理された細胞の場合に(白色は殆ど活性を示さなかった)、特に機能付与されたナノエマルジョンの場合に、より大きな細胞傷害活性が観察された。
【0100】
実施例10.マウスモデルにおける治療有効性アッセイ
マウスモデルにおける有効性を判定するため、光学イメージングによる体内分布研究を最初に行った。ナノエマルジョンO:SM 1:0.1及びO:SM:UROG 1:0.1:0.01を、該ナノエマルジョンの調製後に有機相にDiRを添加することで(0.1%)、標識した。これらのナノエマルジョンを体重約25g~30gの雌性ヌードマウスの尾静脈に静脈内注射し、事前に(生後6週齢~8週齢)、両脇腹の細胞にSW620(平均培養混合物:マトリゲル3:1で100μl中500万個;2週間で、ほとんどの腫瘍は触知可能であり、150mmの平均体積を有する)を接種した。この実験の腫瘍の平均体積は500mmであった。DiRを充填した機能付与ナノエマルジョン(O:SM:UROG 1:0.1:0.01)を注射してから24時間後、マウスを屠殺し、臓器を切除して、光学イメージング(IVIS(商標)イメージングシステムによって観察した。図10Aに示すように、蛍光は主に肝臓及び腫瘍において検出された。さらに、同一マウスモデルで治療有効性の試験を行った。腫瘍が平均体積250mmに達すると、マウスを2群に分類し、そのうちの1群は治療を受けていないコントロールであり、もう1群はエトポシドを充填した機能付与ナノエマルジョン(O:SM:UROG 1:0.1:0.01)で治療された。全容量が100μLのナノエマルジョンの4回の注射を、1日目、4日目、8日目及び11日目に尾静脈内に静脈内投与した(エトポシドの用量0.2mg/kg)。腫瘍体積を経時的にモニターし、評価時間ごとに相対的な体積の増加を表した(Vt/Vo=その時点での体積/研究開始時の体積)。研究期間中、毒性効果は認められなかった。図10Bはまた、治療マウス群では腫瘍体積の増加がより小さいことを示し、新たな抗腫瘍療法の開発に対するこれらのナノエマルジョンの可能性を明らかにする。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13
図14
図15-1】
図15-2】
図16-1】
図16-2】
図17
【配列表】
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