(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H10K 39/10 20230101AFI20231127BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20231127BHJP
H10K 30/88 20230101ALI20231127BHJP
【FI】
H10K39/10
H10K30/50
H10K30/88
(21)【出願番号】P 2021513159
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043917
(87)【国際公開番号】W WO2020208854
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2019075491
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】西原 孝史
(72)【発明者】
【氏名】山本 輝明
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021616(WO,A1)
【文献】米国特許第06537688(US,B2)
【文献】特表2007-531238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールであって、
基板、
光電変換層、
前記基板と前記光電変換層との間に位置する第一封止層、
前記基板と前記第一封止層との間に位置する第二封止層、および
前記基板の端部の少なくとも一部と、前記第二封止層の端
部とを被覆する端面封止構造、
を具備し、
ここで、
前記光電変換層は、有機材料を含み、かつ光をエネルギーに変換し、
前記第二封止層は、前記第一封止層よりも低い水蒸気透過率を有し
、
前記第一封止層の少なくとも一部は、前記端面封止構造から離隔されて
おり、かつ
前記第二封止層の前記端部は、前記端面封止構造中に埋没している、
太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記第一封止層の少なくとも前記一部は、前記端面封止構造との間に設けられた空間によって、前記端面封止構造から離隔されている、
請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記第一封止層の少なくとも前記一部は、前記端面封止構造よりも低い水蒸気透過率を有する部材を介して、前記端面封止構造から離隔されている、
請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記基板と前記第二封止層との間に位置し、かつ前記端面封止構造の少なくとも一部と接している、第三封止層をさらに具備する、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記光電変換層は、前記端面封止構造から離隔されている、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記基板は、前記第一封止層よりも高い水蒸気透過率を有する、
請求項1から
5のいずれか一項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記基板の水分量は、温度60°C、大気圧の条件下で、0.3mg/cm
3以上である、
請求項1から
6のいずれか一項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項8】
前記光電変換層は、ペロブスカイト化合物を含む、
請求項1から
7のいずれか一項に記載の太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト太陽電池の研究開発が進められている。ペロブスカイト太陽電池は、組成式AMX3(Aは1価のカチオンであり、Mは2価のカチオンであり、およびXは1価のアニオンである)で示されるペロブスカイト型結晶構造またはそれに類似する結晶構造を有する化合物(以下、「ペロブスカイト化合物」と呼ぶ)を、光吸収材料として用いている。なお、本明細書では、ペロブスカイト化合物を用いた太陽電池を「ペロブスカイト太陽電池」と呼ぶ。
【0003】
非特許文献1は、ペロブスカイト太陽電池の基本的な構成を開示している。基本的な構成を有するペロブスカイト太陽電池は、透明電極、電子輸送層、光吸収と光電荷分離とを行うペロブスカイト型結晶を用いた光吸収層(以下、「ペロブスカイト層」と呼ぶ)、正孔輸送層、および集電極をこの順に備える。すなわち、透明電極側から、電子輸送層(n)、ペロブスカイト層(i)、および正孔輸送層(p)がこの順に積層されている。このような構成は、n-i-p構造、あるいは順積構造と呼ばれる。
【0004】
非特許文献2は、透明電極側から、正孔輸送層、ペロブスカイト層、および電子輸送層がこの順に積層された構成を有する、ペロブスカイト太陽電池を開示している。このような構成は、p-i-n構造、あるいは逆積構造と呼ばれる。
【0005】
太陽電池は、太陽光を受光して発電するデバイス、すなわち太陽光をエネルギー源として利用するデバイスである。したがって、太陽電池を備えた太陽電池モジュールは、通常は、屋外に設置されて使用される。そのため、雨水および湿度によって太陽電池モジュール内に水分が浸入して、太陽電池の特性の劣化が引き起こされる。このような水分の浸入による特性劣化を防止するため、例えば特許文献1から3は、太陽電池モジュールへの水分浸入を抑制する様々な構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-26455号公報
【文献】特開2004-79823号公報
【文献】特開2012-94608号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Julian Burchcka、他6名、“Nature”(英国)、2013年7月、第499巻、p.316-319
【文献】Wei Chen、他10名、“SCIENCE”(米国)、2015年11月、第350巻、第6263号、p.944-948
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、高い耐久性を有しうる太陽電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示による太陽電池モジュールは、
基板、
光電変換層、
前記基板と前記光電変換層との間に位置する第一封止層、
前記基板と前記第一封止層との間に位置する第二封止層、および
前記基板の端部の少なくとも一部と、前記第二封止層の端部の少なくとも一部とを被覆する端面封止構造、
を具備し、
ここで、
前記光電変換層は、有機材料を含み、かつ光をエネルギーに変換し、
前記第二封止層は、前記第一封止層よりも低い水蒸気透過率を有し、かつ
前記第一封止層の少なくとも一部は、前記端面封止構造から離隔されている。
【0010】
開示された実施形態の追加的な効果および利点は、明細書および図面から明らかになる。効果および/または利点は、明細書および図面に開示の様々な実施形態または特徴によって個々に提供され、これらの1つ以上を得るために全てを必要とはしない。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、高い耐久性を有しうる太陽電池モジュールを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図1Aは、本開示の実施形態による太陽電池モジュールを模式的に示す断面図を示す。
【
図2】
図2は、
図1Aに示された太陽電池モジュールを構成している光電変換層の断面図を示す。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態の変形例による太陽電池モジュールの断面図を示す。
【
図4】
図4は、加速試験後の実施例1の太陽電池モジュールを示す写真である。
【
図5】
図5は、加速試験後の比較例2の太陽電池モジュールを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
<本開示の基礎となった知見>
本開示の基礎となった知見は以下のとおりである。
【0015】
ペロブスカイト太陽電池に使用されるペロブスカイト層は、水による変質で特性が劣化する。そのため、太陽電池モジュールに水分が浸入すると、太陽電池の変換効率が低下する。太陽電池の変換効率の低下を抑制するため、太陽電池モジュールに水分浸入を抑制する封止構造を設けることが必要である。
【0016】
太陽電池モジュールにおける封止構造として、支持体と、水蒸気透過率が比較的低い材料からなるフィルムとの間に、エチレン酢酸ビニル共重合体(Ethylene Vinyl Acetate Copolymer:EVA)またはポリオレフィン系樹脂を充填し、さらに端部を透水性が比較的低いブチルゴムで封止する構造が多く用いられる。この構造により、太陽電池モジュールの防水性および耐衝撃性が確保されている。ここで、支持体とは、たとえば薄膜型太陽電池の場合は、積層膜が付着しているガラス基板等である。積層膜は、太陽電池の光電変換層を含む。また、水蒸気透過率が比較的低い材料の例は、金属である。
【0017】
本発明者らが検討したところ、上記のような封止構造をペロブスカイト太陽電池モジュールに適用した場合、ペロブスカイト層の変質が生じ、太陽電池の変換効率が低下することがわかった。この理由は次のように考えられる。
【0018】
端部を封止しているブチルゴムは、透水性が比較的低い材料であるが、完全に水分を透過させないわけではない。このため、ある一定の時間が経過すると、ブチルゴムを通過した水分は、ポリオレフィン系樹脂等からなる充填材に到達する。このような充填材は、水分含有率が高い。したがって、充填材と接しているペロブスカイト太陽電池に水分が到達しやすくなる。
【0019】
本発明者らは、上記の知見に基づいて検討を重ねた結果、太陽電池モジュールにおける太陽電池の水分による劣化、たとえばペロブスカイト太陽電池の場合はペロブスカイト層の水分による劣化を抑制しうる、新規な封止構造を有する太陽電池モジュールを見出した。
【0020】
<本開示の実施形態>
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら詳細に説明される。
【0021】
図1Aは、本実施形態による太陽電池モジュール100を模式的に示す断面図を示す。
図1Bは、
図1Aに示された太陽電池モジュール100の平面図を示す。
図1Bの平面図は、
図1Aの太陽電池モジュール100を透光性基板6側からみた平面図である。
【0022】
図1Aに示すように、太陽電池モジュール100は、基板1と、第三封止層2と、第二封止層3と、第一封止層4と、光電変換層5と、透光性基板6と、端面封止構造7とを備える。第一封止層4は、基板1と光電変換層5との間に位置する。第二封止層3は、基板1と第一封止層4との間に位置する。第三封止層2は、基板1と第二封止層3との間に位置する。なお、第三封止層2は、任意の構成であり、設けられていなくてもよい。端面封止構造7は、基板1の端部の少なくとも一部と、第二封止層3の端部の少なくとも一部とを被覆する。第一封止層4の少なくとも一部は、端面封止構造7から離隔されている。
【0023】
まず、太陽電池モジュール100としての作用を発現するために備えられる、光電変換層5について説明する。
【0024】
光電変換層5は、有機材料を含み、かつ光をエネルギーに変換する。光電変換層5に含まれる有機材料は、たとえば、光を電荷に変換しうる光吸収材料であってもよい。したがって、光電変換層5は、たとえば、ペロブスカイト化合物を含んでもよい。
【0025】
図2は、
図1Aに示された太陽電池モジュール100を構成している光電変換層5の断面図を示す。
【0026】
図2に示すように、光電変換層5は、たとえば、第1電極16と、電子輸送層15と、多孔質層14と、光吸収層13と、正孔輸送層12と、第2電極11とを有している。光電変換層5では、第1電極16と、電子輸送層15と、多孔質層14と、光吸収層13と、正孔輸送層12と、第2電極11とが、この順に積層されている。
【0027】
透光性基板6は、光電変換層5に対して、第1電極16側に位置していてもよいし、第2電極11側に位置していてもよい。すなわち、太陽電池モジュール100は、透光性基板6、第1電極16、電子輸送層15、多孔質層14、光吸収層13、正孔輸送層12、および第2電極11がこの順で積層されている順積構造を有していてもよい。また、太陽電池モジュール100は、透光性基板6、第2電極11、正孔輸送層12、光吸収層13、電子輸送層15、および第1電極16がこの順で積層されている逆積構造を有していてもよい。
【0028】
太陽電池モジュール100が順積構造を有する場合、第1電極16は透光性を有しており、光は透光性基板6側から太陽電池モジュール100に入射する。したがって、この場合、電子輸送層15および多孔質層14が、光吸収層13に対して光入射側に配置されている。
【0029】
太陽電池モジュール100が逆積構造を有する場合、第2電極11は透光性を有しており、光は透光性基板6側から太陽電池モジュール100に入射する。したがって、この場合、正孔輸送層12が、光吸収層13に対して光入射側に配置されている。
【0030】
光吸収層13は、光を電荷に変換する。光吸収層13は、例えば、組成式AMX3で示されるペロブスカイト化合物を含む。ここで、Aは1価のカチオンであり、Mは2価のカチオンであり、およびXは1価のアニオンである。
【0031】
次に、本実施形態の太陽電池モジュール100、特に光電変換層5の、基本的な作用効果を説明する。
【0032】
太陽電池モジュール100へ光が照射されると、光は透光性基板6を透過して、光電変換層5に入射する。光吸収層13が光を吸収し、励起された電子と、正孔とが発生する。この励起された電子は、多孔質層14および電子輸送層15を介して第1電極16に移動する。一方、光吸収層13で生じた正孔は、正孔輸送層12を介して第2電極11に移動する。光電変換層5において、第1電極16を負極、第2電極11を正極として、電流を取り出すことができる。
【0033】
以下、光電変換層5および透光性基板6について、各構成要素を説明する。
【0034】
[透光性基板6]
透光性基板6は、光電変換層5を構成する各層を物理的に膜として保持する。透光性基板6の例は、ガラス基板またはプラスチック基板である。プラスチック基板は、プラスチックフィルムであってもよい。
【0035】
[第1電極16および第2電極11]
第1電極16および第2電極11は、導電性を有する。第1電極16および第2電極11の少なくとも一方は透光性を有する。太陽電池モジュール100が順積構造を有する場合は、少なくとも第1電極16が透光性を有する。太陽電池モジュール100が逆積構造を有する場合は、少なくとも第2電極11が透光性を有する。本明細書において、「電極が透光性を有する」とは、200ナノメートル以上2000ナノメートル以下の波長を有する光の10%以上が、いずれかの波長において電極を透過することを意味する。
【0036】
透光性を有する電極は、例えば、可視領域から近赤外領域までの光を透過させ得る。透光性を有する電極は、透明性かつ導電性を有する金属酸化物および金属窒化物の少なくとも1つから形成され得る。
【0037】
金属酸化物の例は、
(i) リチウム、マグネシウム、ニオブ、およびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化チタン、
(ii) 錫およびシリコンからなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化ガリウム、
(iii) インジウム-錫複合酸化物、
(iv) アンチモンおよびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化錫、または
(v) ホウ素、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた酸化亜鉛
である。
【0038】
2種以上の金属酸化物が組み合わせられて複合物として用いられ得る。
【0039】
金属窒化物の例は、シリコンおよび酸素からなる群から選択される少なくとも1つによってドープされた窒化ガリウムである。2種以上の金属窒化物が組み合わせられて用いられ得る。
【0040】
金属酸化物および金属窒化物は組み合わせられて用いられ得る。
【0041】
透光性を有する電極は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターンを設けて形成することができる。光が透過するパターンとしては、例えば、線状、波線状、格子状、および多数の微細な貫通孔が規則的または不規則に配列されたパンチングメタル状のパターンが挙げられる。電極がこれらのパターンを有すると、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。透明でない材料として、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、およびこれらのいずれかを含む合金を挙げることができる。また、導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0042】
光電変換層5が電子輸送層15を具備していない場合、第1電極16は、光吸収層13から移動する正孔がブロックされる正孔ブロック性を有する材料で形成される。この場合、第1電極16は、光吸収層13とオーミック接触しない。光吸収層13から移動する正孔がブロックされる正孔ブロック性とは、光吸収層13で発生した電子のみを通過させ、かつ正孔を通過させないことを意味する。正孔ブロック性を有する材料のフェルミエネルギー準位は、光吸収層13の価電子帯上端のエネルギーよりも高くてもよい。このような材料として、たとえばアルミニウムが挙げられる。光電変換層5が、光吸収層13および第1電極16の間に電子輸送層15を具備している場合、第1電極16は、光吸収層13から移動される正孔がブロックされる正孔ブロック性を有さなくてもよい。したがって、第1電極16は、光吸収層13とオーミック接触を形成可能な材料から形成されていてもよい。
【0043】
光電変換層5が正孔輸送層12を具備していない場合、第2電極11は、光吸収層13から移動する電子がブロックされる電子ブロック性を有する材料で形成される。この場合、第2電極11は、光吸収層13とオーミック接触しない。光吸収層13から移動する電子がブロックされる電子ブロック性とは、光吸収層13で発生した正孔のみを通過させ、かつ電子を通過させないことを意味する。電子ブロック性を有する材料のフェルミエネルギー準位は、光吸収層13の伝導帯下端のエネルギー準位よりも低い。電子ブロック性を有する材料のフェルミエネルギー準位は、光吸収層13のフェルミエネルギー準位よりも低くてもよい。具体的には、第2電極11は、白金、金、またはグラフェンのような炭素材料から形成され得る。これらの材料は、電子ブロック性を有するが、透光性を有さない。したがって、このような材料を用いて透光性の第2電極11を形成する場合は、上述のように、光が透過するパターンを有する第2電極11が形成される。光電変換層5が光吸収層13および第2電極11との間に正孔輸送層12を具備している場合、第2電極11は、光吸収層13から移動する電子がブロックされる電子ブロック性を有さなくてもよい。したがって、第2電極11は、光吸収層13とオーミック接触することが可能な材料から形成されていてもよい。
【0044】
透光性を有する電極の光の透過率は、50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。電極を透過する光の波長は、光吸収層13の吸収波長に依存する。第1電極16および第2電極11のそれぞれの厚さは、例えば、1nm以上1000nm以下である。
【0045】
[電子輸送層15]
電子輸送層15は、半導体を含む。電子輸送層15は、バンドギャップが3.0eV以上の半導体であってもよい。バンドギャップが3.0eV以上の半導体で電子輸送層15を形成することにより、可視光および赤外光を光吸収層13まで透過させることができる。当該半導体の例は、有機のn型半導体および無機のn型半導体である。
【0046】
有機のn型半導体の例は、イミド化合物、キノン化合物、フラーレン、またはフラーレンの誘導体である。無機のn型半導体の例は、金属酸化物、金属窒化物、またはペロブスカイト酸化物である。金属酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物である。具体的な例としては、TiO2が挙げられる。ペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3またはCaTiO3である。
【0047】
電子輸送層15は、6.0eVよりも大きなバンドギャップを有する物質を含んでいてもよい。6.0eVよりも大きなバンドギャップを有する物質の例は、(i)フッ化リチウムまたはフッ化カルシウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物、(ii)酸化マグネシウムのようなアルカリ金属酸化物、または(iii)二酸化ケイ素である。この場合、電子輸送層15の電子輸送性を確保するために、電子輸送層15の厚みは、例えば、10nm以下である。
【0048】
電子輸送層15は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。
【0049】
[多孔質層14]
多孔質層14は、光吸収層13を形成するための足場となる。多孔質層14は、光吸収層13の光吸収、および、光吸収層13から電子輸送層15への電子移動を阻害しない。
【0050】
多孔質層14は、多孔質体を含む。多孔質体の例は、絶縁性または半導体の粒子が連なった多孔質体である。絶縁性の粒子の例は、酸化アルミニウムの粒子または酸化ケイ素の粒子である。半導体の粒子の例は、無機半導体の粒子である。無機半導体の例は、金属酸化物(ペロブスカイト酸化物を含む)、金属硫化物、または金属カルコゲナイドである。金属酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物である。具体的な例としては、TiO2が挙げられる。ペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3またはCaTiO3である。金属硫化物の例は、CdS、ZnS、In2S3、SnS、PbS、Mo2S、WS2、Sb2S3、Bi2S3、ZnCdS2、またはCu2Sである。金属カルコゲナイドの例は、CdSe、CsSe、In2Se3、WSe2、HgS、SnSe、PbSe、またはCdTeである。なお、本明細書において、「多孔質」とは、内部に細孔が存在する物質を意味する。
【0051】
多孔質層14の厚さは、0.01μm以上10μm以下であってもよく、0.1μm以上1μm以下であってもよい。多孔質層14の表面粗さは大きくてもよい。具体的には、実効面積/投影面積の値で与えられる表面粗さ係数が10以上であってもよく、100以上であってもよい。なお、投影面積とは、物体を真正面から光で照らしたときに、後ろにできる影の面積である。実効面積とは、物体の実際の表面積のことである。実効面積は、物体の投影面積および厚さから求められる体積と、物体を構成する材料の比表面積および嵩密度とから計算することができる。比表面積は、例えば窒素吸着法によって測定される。
【0052】
なお、
図2では、多孔質層14のある形態が示されているが、光電変換層5は、多孔質層14を含んでいなくてもよい。
【0053】
[光吸収層13]
光吸収層13は、例えば、組成式AMX3で示されるペロブスカイト構造を有する化合物を光吸収材料として含む。Aは1価のカチオンである。Aの例としては、アルカリ金属カチオンまたは有機カチオンのような一価のカチオンが挙げられる。具体的には、Aの例として、メチルアンモニウムカチオン(CH3NH3
+)、ホルムアミジニウムカチオン(NH2CHNH2
+)、セシウムカチオン(Cs+)、またはルビジウムカチオン(Rb+)が挙げられる。
【0054】
組成式AMX3において、Mは2価のカチオンである。Mは、例えば、遷移金属または第13族元素~第15族元素の2価のカチオンである。さらに具体的には、Mの例として、Pb2+、Ge2+、またはSn2+が挙げられる。組成式AMX3において、Xはハロゲンアニオンなどの1価のアニオンである。
【0055】
A、M、またはXのそれぞれのサイトは、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。ペロブスカイト構造を有する化合物の具体例は、CH3NH3PbI3、CH3CH2NH3PbI3、NH2CHNH2PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CsPbI3、CsPbBr3、RbPbI3、またはRbPbBr3等である。
【0056】
光吸収層13の厚さは、例えば100nm以上1000nm以下である。光吸収層13の厚さは、光吸収層13の光吸収の大きさに依存し得る。光吸収層13は、溶液による塗布法または共蒸着法などによって形成され得る。また、光吸収層13は、第2電子輸送層14と一部で混在するような形態であってもよい。
【0057】
[正孔輸送層12]
正孔輸送層12は、有機物または無機半導体によって構成される。正孔輸送層12は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。
【0058】
有機物としては、例えば、3級アミンを骨格内に含む、フェニルアミン、トリフェニルアミン誘導体、ポリトリアリルアミン(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine:PTAA)、および、チオフェン構造を含むPEDOT(poly(3,4-ethylenedioxythiophene)化合物、が挙げられる。分子量は、特に限定されず、高分子体であってもよい。有機物で正孔輸送層12を形成する場合、膜厚は、1nm以上1000nm以下であってもよく、100nm以上500nm以下であってもよい。膜厚がこの範囲内であれば、十分な正孔輸送性を発現できる。また、膜厚がこの範囲内であれば、低抵抗を維持できるので、高効率に光発電を行うことができる。
【0059】
無機半導体としては、CuO、Cu2O、CuSCN、酸化モリブデン、または酸化ニッケルのようなp型の半導体を用いることができる。無機半導体で正孔輸送層12を形成する場合、膜厚は、1nm以上1000nm以下であってもよく、10nm以上50nm以下であってもよい。膜厚がこの範囲内であれば、十分な正孔輸送性を発現できる。また、膜厚がこの範囲内であれば、低抵抗を維持できるので、高効率に光発電を行うことができる。
【0060】
正孔輸送層12の形成方法としては、塗布法または印刷法を採用することができる。塗布法の例は、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法またはスピンコート法である。印刷法の例は、スクリーン印刷法である。また、必要に応じて、複数の材料を混合して正孔輸送層12を形成し、次いで正孔輸送層12を加圧または焼成してもよい。正孔輸送層12の材料が有機の低分子体または無機半導体である場合には、真空蒸着法などによって正孔輸送層12が形成され得る。
【0061】
正孔輸送層12は、支持電解質および溶媒を含んでいてもよい。支持電解質および溶媒は、正孔輸送層12中の正孔を安定化させる。
【0062】
支持電解質の例は、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩である。アンモニウム塩の例は、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩である。アルカリ金属塩の例は、過塩素酸リチウムまたは四フッ化ホウ素カリウムである。
【0063】
正孔輸送層12に含まれる溶媒は、高いイオン伝導性を有していてもよい。水系溶媒および有機溶媒のいずれも使用できる。溶質をより安定化させるため、溶媒は、有機溶媒であってもよい。有機溶媒の例は、tert-ブチルピリジン、ピリジン、またはn-メチルピロリドンなどの複素環化合物である。
【0064】
正孔輸送層12に含有される溶媒は、イオン液体であってもよい。イオン液体は、単独でまたは他の溶媒と混合されて用いられ得る。イオン液体は、低い揮発性および高い難燃性の点で望ましい。
【0065】
イオン液体の例は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートのようなイミダゾリウム化合物、ピリジン化合物、脂環式アミン化合物、脂肪族アミン化合物、またはアゾニウムアミン化合物である。
【0066】
本明細書において、各層の厚さは、任意の複数の点(例えば5点)で測定された値の平均値でありうる。各層の厚さは、断面の電子顕微鏡像を用いて測定されうる。
【0067】
ここまで、
図2を用いて光電変換層5の構成要素を説明した。
図2に示された構造は、光電変換層5の多層膜構造をわかりやすく説明するためのものである。以下、より実際的な光電変換層5の構造の具体例が説明される。
【0068】
図3は、集積型太陽電池モジュール200を模式的に示す断面図である。集積型太陽電池モジュール200は、
図2に示された光電変換層5が複数のユニットセル20に分割され、かつ複数のユニットセル20が直列に接続された構成を有する。なお、
図3には示されていないが、集積型太陽電池モジュール200は、
図1Aに示された太陽電池モジュール100と同様に、基板1、第三封止層2、第二封止層3、第一封止層4、および端面封止構造7をさらに備える。なお、集積型太陽電池モジュール200は、第三封止層2を備えていなくてもよい。
【0069】
集積型太陽電池モジュール200は、
図3に示すように、透光性基板6と、第1電極16と、電子輸送層15と、多孔質層14と、光吸収層13と、正孔輸送層12と、第2電極11とを有している。
【0070】
第1電極16、電子輸送層15、および多孔質層14は、第1分割溝17によって、それぞれ、複数の第1電極26、複数の電子輸送層25、および複数の多孔質層24に分割されている。光吸収層13および正孔輸送層12は、第2分割溝18によって、それぞれ、複数の光吸収層23および複数の正孔輸送層22に分割されている。第2電極11は、第3分割溝19によって、複数の第2電極21に分割されている。なお、第3分割溝19は、光吸収層13および正孔輸送層12にも形成されていてもよい。第1分割溝17、第2分割溝18、および第3分割溝19は、例えばストライプ状に延びていてもよい。これらの溝は、互いに略平行に形成されていてもよい。
【0071】
複数のユニットセル20のそれぞれは、第1電極26、電子輸送層25、多孔質層24、光吸収層23、正孔輸送層22、および第2電極21がこの順に積層された積層構造を有する。透光性基板6の法線方向から見て、第1電極26、電子輸送層25、および多孔質層24と重なるように、第2分割溝18が配置されている。第2分割溝18内には、隣接するユニットセル20の第2電極21が配置されている。第1電極26は、第2分割溝18内において、隣接するユニットセル20の第2電極21と電気的に接続されている。すなわち、第2分割溝18は、セル接続用溝として機能する。
【0072】
このように、各ユニットセル20は、n-i-p接合を形成する電子輸送層25、多孔質層24、光吸収層23、および正孔輸送層22と、出力端子である第1電極26および第2電極21とを有する独立した太陽電池である。
【0073】
ここで、あるユニットセル20(第1ユニットセル20A)と、第1ユニットセル20Aに隣接する第2ユニットセル20Bおよび第3ユニットセル20Cとを用いて、複数のユニットセル20の電気的接続が説明される。
【0074】
第1ユニットセル20Aの第1電極26は、両側に隣接する第2ユニットセル20Bおよび第3ユニットセル20Cのうちの第3ユニットセル20Cの第2電極21と電気的に接続されている。第1ユニットセル20Aの第2電極21は、第2ユニットセル20Bの第1電極26と電気的に接続されている。このようにして、複数のユニットセル20は、直列に接続されている。また、このような複数のユニットセル20を有する集積型太陽電池モジュール200では、多孔質層24上に形成される光吸収層23は、多孔質層24の下層である第1電極26および電子輸送層25と第1分割溝17において接する。
【0075】
太陽電池モジュール100および集積型太陽電池モジュール200が最終的に屋外で使用される場合、特に水分に弱い材料を含む光吸収層13を含む光電変換層5の劣化が防止される必要がある。そのため、
図1Aに示されている構造を備えた、耐候性を有する太陽電池モジュール100によって、光電変換層5への水分の浸入を抑制する必要がある。
【0076】
基板1は、光電変換層5を保持する。基板1は、機械的な強度を確保するため、例えば、5mm以上の厚みを有していてもよく、10mm以上の厚みを有していてもよい。また、太陽電池モジュールは屋外で使用されることから、建物の外壁材または屋根材を基板1として使用してもよい。外壁材または屋根材の例は、金属板、セラミック板、セメント(例えば、モルタル、コンクリート、またはスレート等)、レンガ、タイル、または漆喰等である。これらの中でも特に、基板1としてセメント系材料のモルタルまたはスレートが使用される場合は、基板1が水分を透過、且つ保持する材料で形成されることになる。このように、基板1は、水分を透過、且つ保持する材料で形成される場合がある。例えば、基板1の水分量は、温度60℃、大気圧の条件下で、0.3mg/cm3以上であってもよい。また、基板1は、第一封止層4よりも高い水蒸気透過率を有していてもよい。そのような場合であっても、第一封止層4と比べて低い水蒸気透過率を有する第二封止層3が、基板1と光電変換層5との間に配置されているので、基板1を透過した水分が、光電変換層5に到達しにくくなる。なお、水蒸気透過率は、例えば、等圧法(モコン法)によって測定される。
【0077】
第二封止層3は、第一封止層4よりも低い水蒸気透過率を有する。第二封止層3の例は、金属フィルム、または、金属膜もしくは酸化物膜を有する樹脂フィルムである。金属膜もしくは酸化物膜を有する樹脂フィルムの例は、ポリエチレン(PE)またはポリエチレンテレフタラート(PET)等の樹脂フィルムに、Al等の金属膜またはSiO2等の酸化物膜が成膜されたフィルムである。成膜されるAl膜またはSiO2膜等の厚みは、例えば、フィルムの水蒸気透過率が温度40℃、相対湿度90%RHの条件下で0.1g/m2/日以下を満たすように決定されればよい。Al膜の場合、厚みは、例えば7μm程度である。
【0078】
基板1と第二封止層3とを接着させるため、基板1と第二封止層3との間に第三封止層2が配置されてもよい。第三封止層2は、基板1が外部からの衝撃を受けた際の割れを防ぐため、端面封止構造7の少なくとも一部と接していてもよい。また、第二封止層3と光電変換層5が形成された透光性基板6とを接着させるため、第二封止層3と光電変換層5との間に第一封止層4が配置される。第三封止層2および第一封止層4の材料の例は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリオレフィン(PO)樹脂、またはポリフッ化ビニル樹脂(PVF)等の樹脂である。
【0079】
太陽電池モジュール100において、基板1、第三封止層2、第二封止層3、第一封止層4、光電変換層5、および透光性基板6を備えた積層体の周縁部には、端面封止構造7が配置される。端面封止構造7は、基板1の端部の少なくとも一部と、第二封止層3の端部の少なくとも一部とを被覆する。この構成により、端面封止構造7は、太陽電池モジュール100の端面からの水分浸入を抑制する。基板1の端部とは、すなわち基板1の周縁部である。第二封止層3の端部とは、すなわち第二封止層3の周縁部である。
【0080】
端面封止構造7は、基板1の端部全体、すなわち基板1の周縁部全体の少なくとも95%以上を被覆していてもよく、基板1の周縁部全体を被覆していてもよい。この構成により、端面封止構造7は、太陽電池モジュール100の端面からの水分浸入をより確実に抑制し得る。
【0081】
端面封止構造7は、第二封止層3の端部全体、すなわち第二封止層3の周縁部全体の少なくとも95%以上を被覆していてもよく、第二封止層3の周縁部全体を被覆していてもよい。この構成により、端面封止構造7は、太陽電池モジュール100の端面からの水分浸入をより確実に抑制し得る。例えば、基板1および第三封止層2が高い水蒸気透過率を有する材料によって形成されている場合、光電変換層5への水分浸入は、第二封止層3および端面封止構造7によって抑制される必要がある。そのため、
図1Aに示すように、第二封止層3の周縁部は、端面封止構造7によって完全に被覆されて、端面封止構造7に埋没されていてもよい。なお、第二封止層3の周縁部が端面封止構造7に埋没されている構造は、言い換えると、端面封止構造7が第二封止層3の周縁部に侵入している構造と言うことができる。この構成により、端面封止構造7は、太陽電池モジュール100の端面からの水分浸入をより確実に抑制し得る。ここで、高い水蒸気透過率を有する材料とは、温度40℃、相対湿度90%RHの条件下で、1g/m
2/日以上の水蒸気透過率を有する材料である。
【0082】
端面封止構造7は、例えば、
図1Aに示すように、太陽電池モジュール100の端面全体を、空隙無く連続して囲うように設けられてもよい。
【0083】
端面封止構造7には、たとえば、水蒸気透過率が低い材料が用いられる。端面封止構造7の材料の例は、例えばブチルゴムである。ここで、低い水蒸気透過率を有する材料とは、温度40℃、相対湿度90%RHの条件下で、0.5g/m2/日以下の水蒸気透過率を有する材料である。
【0084】
上記のような、端面封止構造7が基板1の端部の少なくとも一部および第二封止層3の端部の少なくとも一部を被覆する構造によって、太陽電池モジュール100への水分の浸入が抑制される。しかし、端面封止構造7には、基板1および第二封止層3との境界面に加えて、第一封止層4との境界面も存在する。そのため、端面封止構造7が基板1の端部の少なくとも一部および第二封止層3の端部の少なくとも一部を被覆する構造だけでは、屋外での長期曝露により太陽電池モジュール100に徐々に水分が浸入すると考えられる。ここで、第一封止層4に用いられるEVA等の樹脂は、水分含有率が高い材料である。そのため、端面封止構造7を透過した水分が第一封止層4に到達すると、その水分が第一封止層4に蓄積される。第一封止層4に蓄積された水分により、光電変換層5の劣化が促進してしまうことになる。そこで、第一封止層4への水分の到達を抑制するため、
図1Aに示すように、第一封止層4の少なくとも一部は、端面封止構造7から離隔される。
【0085】
ここで、水分含有率が高い材料とは、空間内が水分を含まない空気(すなわち、ドライエアー)で満たされていると仮定すると、その空間内において、温度60℃、大気圧の条件下で、含まれる水分量が0.3mg/cm3以上である材料である。
【0086】
第一封止層4は、端面封止構造7から完全に離隔されていてもよい。この構成によれば、端面封止構造7を透過した水分が第一封止層4により到達しにくくなるので、第一封止層4に蓄積された水分による光電変換層5の劣化をより確実に抑制できる。
【0087】
第一封止層4が端面封止構造7から離隔される幅(以下、「第一封止層と端面封止構造との離隔幅」と呼ぶ)は、例えば1mm以上であり、5mm以上であってもよい。なお、「第一封止層と端面封止構造との離隔幅」は、端面封止構造7の第一封止層4に対向する表面から、第一封止層4の外縁までの距離である。
【0088】
第一封止層4と同様に、光電変換層5も、端面封止構造7から離隔されていてもよい。この構成により、端面封止構造7を透過した水分が光電変換層5に到達することが抑制されるので、水分による光電変換層5の劣化が抑制される。光電変換層5が端面封止構造7から離隔される幅(以下、「光電変換層と端面封止構造との離隔幅」と呼ぶ)は、第一封止層と端面封止構造との離隔幅よりも広くてもよい。光電変換層と端面封止構造との離隔幅を広くすることにより、端面封止構造7を透過した水分が光電変換層5に到達することがより確実に抑制されるので、水分による光電変換層5の劣化がより抑制され得る。
【0089】
なお、離隔した空間内が水分を含まない空気(すなわち、ドライエアー)で満たされていると仮定すると、その空間内に存在できる飽和水蒸気量は、温度60℃、大気圧の条件で0.12mg/cm3程度であり、樹脂またはセメントに含まれる水分量(同一条件下で0.3mg/cm3以上)よりも小さい。したがって、第一封止層4は、端面封止構造7との間に設けられた空間によって、端面封止構造7から離隔されていてもよい。第一封止層4が端面封止構造7から空間によって離隔されることにより、第一封止層4に水分が到達することをより抑制できる。
【0090】
第一封止層4は、端面封止構造7よりも低い水蒸気透過率を有する部材を介して、端面封止構造7から離隔されていてもよい。端面封止構造7よりも低い水蒸気透過率を有する部材によって端面封止構造7から離隔されることにより、第一封止層4に水分が到達することをより抑制できる。端面封止構造7よりも低い水蒸気透過率を有する部材は、たとえば、水分を吸着し得る材料で構成されていてもよい。
【0091】
離隔した空間は、水分を含まない空気だけでなく、端面封止構造7から第一封止層4に向かって浸入する水分の流れを阻止する構造を有していてもよい。
【0092】
(実施例)
以下の実施例を参照しながら、本開示はより詳細に説明される。
【0093】
実施例1~5および比較例1~3の太陽電池モジュールが作製され、それら太陽電池モジュールの耐候性が評価された。
【0094】
まず、各実施例および比較例の太陽電池モジュールの構成および作製方法が説明される。
【0095】
[実施例1]
実施例1の太陽電池モジュールは、
図1Aおよび
図1Bに示された太陽電池モジュール100および
図2に示された光電変換層5と、実質的に同じ構造を有する。実施例1の太陽電池モジュールにおける各構成要素の材料、大きさ、及び厚さが以下に示される。
【0096】
基板1:モルタル板、大きさ100mm角、厚さ6mm、水蒸気透過率50g/m2/日、
第三封止層2:ポリオレフィン樹脂シート、大きさ90mm角、厚さ0.5mm
第二封止層3:Al蒸着フィルム(PET/Al/PET)、大きさ100mm角、厚さPET(50μm)/Al(7μm)/PET(50μm)、水蒸気透過率0.1g/m2/日
第一封止層4:ポリオレフィン樹脂シート、大きさ86mm角、厚さ0.5mm、水蒸気透過率1.6g/m2/日
光電変換層5:後述
透光性基板6:ガラス基板、大きさ100mm角、厚さ1mm
端面封止構造7:ブチルゴム、幅7mmで太陽電池モジュールの周縁部封止(基板1、第二封止層3、及び透光性基板6の端部から内部5mm幅までが埋没)、水蒸気透過率0.2/m2/日
【0097】
光電変換層5の各構成要素の材料および厚さが以下に示される。
【0098】
第1電極16:フッ素ドープSnO2層(表面抵抗:10Ω/sq.)
電子輸送層15:TiO2、厚さ30nm
多孔質層14:TiO2、厚さ:150nm
光吸収層13:(Rb0.03Cs0.05(CH3NH3)0.16(CH3(NH)2)0.76)Pb(I0.95Br0.05)3、厚さ350nm
正孔輸送層12:PTAA、厚さ40nm
第2電極11:Au、厚さ200nm
【0099】
実施例1の太陽電池モジュールの作製方法は以下の通りである。
【0100】
まず、第1電極16として機能する透明導電層を表面に有する導電性基板が用意された。導電性基板は、透光性基板6と第1電極16とが一体化された基板である。本実施例では、導電性基板として、フッ素ドープSnO2層を表面に有する厚さ1mmの導電性ガラス基板(日本板硝子製)が用いられた。
【0101】
次に、第1電極16であるフッ素ドープSnO2層上に、電子輸送層15として、厚さが約30nmのTiO2層が形成された。TiO2層は、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)2-プロパノール溶液(75wt%、Sigma-Aldrich製)が、2-プロパノールで10倍希釈された0.2mol/Lのチタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)溶液を用いて、スプレー法により形成された。溶液スプレー中の基板温度は、400℃であった。これにより、電子輸送層15が形成された。
【0102】
続いて、電子輸送層15であるTiO2層上に、多孔質層14として、厚さが約150nmの多孔質TiO2層が形成された。粒径が約30nmのTiO2ナノ粒子をペースト状にしたTiO2ペースト(30NR-D、greatcellsolar製)1.5gを、10mLのエタノールで懸濁した溶液を用意した。この溶液が、スピンコート法により、TiO2層上に塗布された。なお、多孔質層14の厚さが約150nmとなるように、スピンコートの回転数が設定された。その後、85℃のホットプレート上で熱処理を行い、さらに電気炉で500℃の熱処理を行った。これにより、多孔質層14が形成された。
【0103】
次に、多孔質層14である多孔質TiO2層上に、光吸収層13として、(Rb0.03Cs0.05(CH3NH3)0.16(CH3(NH)2)0.76)Pb(I0.95Br0.05)3層が形成された。具体的には、まず、ペロブスカイト溶液が用意された。ペロブスカイト溶液は、ヨウ化鉛(PbI2、東京化成工業製)と臭化鉛(PbBr2、東京化成工業製)との混合物(PbI2:PbBr2=95:5(モル比率))を1.26mol/Lで含み、且つヨウ化ルビジウム(RbI、Sigma-Aldrich製)、ヨウ化セシウム(CsI、Sigma-Aldrich製)、ヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I、東京化成工業製)、およびヨウ化ホルムアミジニウム(CH3(NH)2I、東京化成工業製)の混合物(RbI:CsI:CH3NH3I:CH3(NH)2I=3:5:16:76(モル比率))を1.2mol/Lで含んでいた。ペロブスカイト溶液における溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)とジメチルスルホキシド(DMSO)とが4:1の体積比率で混合された混合溶媒であった。次いで、スピンコート法により、多孔質TiO2層が形成された透光性基板6上に、ペロブスカイト溶液が塗布された。この後、120℃のホットプレート上で熱処理を行うことによって、光吸収層13を得た。なお、光吸収層13の厚さが約350nmとなるように、スピンコートの回転数が設定された。また、熱処理時の光吸収層13の結晶化を促進するため、スピンコート開始から約40秒後に、回転中の透光性基板6上にトルエンが滴下された。
【0104】
続いて、光吸収層13である(Rb0.03Cs0.05(CH3NH3)0.16(CH3(NH)2)0.76)Pb(I0.95Br0.05)3層上に、正孔輸送層12として、厚さが約40nmのPTAA層が形成された。PTAA層は、100mgのPTAA(Sigma-Aldrich製)が10mLのトルエンに溶解された溶液に、4-tert-ブチルピリジン(Sigma-Aldrich製)を60μLと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(Li-TFSI、東京化成工業製)を1.8mol/Lの濃度でアセトニトリルに溶かした溶液48μLとを添加した液を用い、スピンコート法により形成した。
【0105】
次に、正孔輸送層であるPTAA層上に、第2電極11として厚さが約200nmのAu層が抵抗加熱蒸着によって形成された。
【0106】
以上のようにして透光性基板6上に形成された光電変換層5の周囲が、7mm幅で切削して除去されて、100mm角の大きさを有する透光性基板6上に86mm角の大きさを有する光電変換層5が形成された。なお、形成された光電変換層5の太陽電池としての性能を評価するため、第1電極16および第2電極11に、幅3mm、厚さ0.1mmの銅リボンをボンディングし、太陽電池モジュール100の封止部の外側に電極を取り出せるようにした。
【0107】
次に、光電変換層5が形成された透光性基板6上に、第一封止層4、第二封止層3、第三封止層2、基板1を順番に重ね合わせた。第一封止層4は、大きさ86mm角および厚さ0.5mmのポリオレフィン樹脂シートであった。第二封止層3は、大きさ100mm角および総厚107μmのAl蒸着フィルム(PET/Al/PET)であった。第三封止層2は、大きさ90mm角および厚さ0.5mmのポリオレフィン樹脂シートであった。基板1は、大きさ100mm角および厚さ6mmのモルタル板であった。なお、透光性基板6と第二封止層3との間、および、第二封止層3と基板1との間には、幅7mm、厚さ0.5mmのブチルゴムシートをそれぞれの周縁部に幅5mm挿入した。このとき、外部へ電極を取り出すために設けた銅リボンの上下には、厚さ0.2mmのブチルゴムシートを配置し、銅リボンと合わせた厚さが、周囲の厚さ0.5mmのブチルゴムシートと揃うようにした。その後、真空ラミネート装置を用いて150℃でポリオレフィン樹脂シートを架橋および硬化させた。最後に、200℃程度に昇温した半溶融のブチルゴムを、透光性基板6、第二封止層3、及び基板1の周縁部にはみ出たブチルゴムシートと一体化するように塗布し、アルミ製の型枠をはめ込むことで、
図1Aに示すような形状を有する、実施例1の太陽電池モジュールが得られた。
【0108】
なお、実施例1の太陽電池モジュールを作製するプロセスは全て、露点が-40℃以下のドライルーム内で行われた。
【0109】
[実施例2]
光電変換層5の周囲の切削幅を6mm幅として、100mm角の大きさの透光性基板6上に88mm角の大きさの光電変換層5を形成した点以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の太陽電池モジュールが作製された。
【0110】
[実施例3]
光電変換層5の周囲の切削幅を5mm幅として、100mm角の大きさの透光性基板6上に90mm角の大きさの光電変換層5を形成した点以外は、実施例1と同様の方法で実施例3の太陽電池モジュールが作製された。
【0111】
[実施例4]
光電変換層5の周囲の切削幅を4mm幅として、100mm角の大きさの透光性基板6上に92mm角の大きさの光電変換層5を形成した点以外は、実施例1と同様の方法で実施例4の太陽電池モジュールが作製された。
【0112】
[実施例5]
第一封止層4の大きさを88mm角とした点以外は、実施例1と同様の方法で実施例5の太陽電池モジュールが作製された。
【0113】
[比較例1]
第一封止層4の大きさを90mm角とした点以外は、実施例1と同様の方法で比較例1の太陽電池モジュールが作製された。
【0114】
[比較例2]
第一封止層4の大きさを90mm角、及び光電変換層5の周囲の切削幅を5mm幅として、100mm角の大きさの透光性基板6上に90mm角の大きさの光電変換層5を形成した点以外は、実施例1と同様の方法で比較例2の太陽電池モジュールが作製された。
【0115】
[比較例3]
第二封止層3の大きさを90mm角とした点以外は、実施例1と同様の方法で比較例3の太陽電池モジュールが作製された。
【0116】
[太陽電池の評価]
実施例1~5および比較例1~3の太陽電池に対し、まず、太陽電池モジュール作製直後の光電変換特性が評価された。
【0117】
まず、ソーラーシミュレータ(セリック株式会社製)を用いて100mW/cm2の照度を有する光を太陽電池モジュールに照射して、電流-電圧特性が測定された。このとき、安定化後の電流-電圧特性から、各太陽電池における開放電圧(V)、短絡電流密度(mA/cm2)、曲線因子、および変換効率(%)が求められた。
【0118】
その後、太陽電池モジュールが温度85℃、相対湿度85%(85%RH)の恒温恒湿槽に投入され、加速試験が行われた。1000hr経過後に太陽電池モジュールが取り出され、前述の方法で加速試験後の光電変換特性が評価された。
【0119】
また、加速試験前後の太陽電池モジュールの透光性基板6側からの光学反射率が、分光光度計で測定された。また、目視による劣化部位が無いかも同時に観察された。
【0120】
実施例1~5、及び比較例1~3の光電変換特性の維持率、光学反射率の変化率、及び劣化部位の有無を調べた評価結果が、表1に示される。光電変換特性の維持率は、太陽電池モジュール作製直後の光電変換特性の変換効率に対する、85℃、85%RH、1000hr加速後の変換効率の維持率である。また、光学反射率の変化率は、太陽電池モジュール作製直後の光学反射率に対する、85℃、85%RH、1000hr加速後の光学反射率の変化率である。なお、表1では、第二封止層3が端面封止構造7にどの程度被覆されているのか(すなわち、「被覆の程度」)が、「第二封止層3の端部を基準とする端面封止構造7の侵入深さ」で示されている。すなわち、第二封止層3において、端面封止構造7が第二封止層3の端部から内部へと侵入している距離で、被覆の程度が示されている。
【0121】
【0122】
表1に示すように、端面封止構造7と第一封止層4とが離隔し、且つ第二封止層3の端部が端面封止構造7に被覆された構造を有する実施例1~5の耐候性太陽電池モジュールにおいて、85℃、85%RH、1000hr加速後の変換効率の維持率は88%以上と高かった。さらに、実施例1~5の耐候性太陽電池モジュールでは、光学反射率の変化率も5%以下と小さかった。一方、端面封止構造7と第一封止層4とが離隔していない構造を有する比較例1および2の太陽電池モジュールでは、光学反射率の変化は比較的小さいものの、変換効率の維持率が80%未満と悪いことが分かった。また、第二封止層3が端面封止構造7に被覆されていない構造を有する比較例3では、変換効率の維持率が50%と比較的悪く、且つ光学反射率の変化も20%以上であることが分かった。
【0123】
また、劣化部位の有無について、実施例1~5の太陽電池モジュールには、目視でも劣化部位が観察されなかったが、比較例2および比較例3の太陽電池モジュールには、目視で劣化部位が観察された。なお、目視において黒色から黄色に変化した場合、劣化部位が観察されたと判断した。
図4は、加速試験後の実施例1の太陽電池モジュールを示す写真である。
図5は、加速試験後の比較例2の太陽電池モジュールを示す写真である。実施例1の太陽電池モジュールにおける光電変換層5は、加速試験後でも変色せず、加速試験前と同様の黒色であった。一方、比較例2の太陽電池モジュールにおける光電変換層5は、加速試験後に周縁部が黄色に変色した。すなわち、比較例2の太陽電池モジュールでは、第一封止層4が端面封止構造7から離間していなかったため、端面封止構造7を透過した水分が第一封止層4に到達し、その水分によって光電変換層5の光吸収層13が変質したと考えられる。
【0124】
以上の結果、太陽電池モジュールにおいて、端面封止構造7と第一封止層4とが離隔し、且つ第二封止層3の端部の少なくとも一部が端面封止構造7に被覆された構造とすることにより、耐候性を向上できることが分かった。また、端面封止構造7と光電変換層5が離隔した構造とすることにより、さらに耐候性を向上できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示の太陽電池モジュールは、例えば、建物の壁面材、及び屋根材として設置する建材一体型の太陽電池モジュールとして特に有用である。
【符号の説明】
【0126】
1 基板
2 第三封止層
3 第二封止層
4 第一封止層
5 光電変換層
6 透光性基板
7 端面封止構造
11、21 第2電極
12、22 正孔輸送層
13、23 光吸収層
14、24 多孔質層
15、25 電子輸送層
16、26 第1電極
17 第1分割溝
18 第2分割溝
19 第3分割溝
20 ユニットセル
20A 第1ユニットセル
20B 第2ユニットセル
20C 第3ユニットセル
100 太陽電池モジュール
200 集積型太陽電池モジュール