(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】熱溶融式三次元プリンタ用粒状体、造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20231127BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20231127BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/106
(21)【出願番号】P 2019179419
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(73)【特許権者】
【識別番号】518041906
【氏名又は名称】エス.ラボ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 亮平
(72)【発明者】
【氏名】埜村 卓志
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177497(JP,A)
【文献】特開2018-051917(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状体をスクリュー式押出機内で溶融し、ノズルから押し出して用いる熱溶融式三次元プリンタ用粒状体であって、
前記粒状体は、熱可塑性エラストマーで構成さ
れ、
前記熱可塑性エラストマーは、設定歪0.01、周波数1Hzにて回転式レオメータで測定した場合に、測定温度120~270℃のうちの少なくとも1点において、損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が11000Pa以下である、粒状体。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーは、測定温度120~230℃のうちの少なくとも1点において、前記損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、前記損失弾性率G''が8000Pa以下である、請求項1に記載の粒状体。
【請求項3】
請求項2に記載の粒状体であって、
測定温度120~230℃のうちの少なくとも1点において、前記損失弾性率G''が600~4500Paである、粒状体。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーで構成された熱溶融式三次元プリンタ用粒状体であって、
前記熱可塑性エラストマーは、設定歪0.01、周波数1Hzにて回転式レオメータで測定した場合に、測定温度120~180℃のうちの少なくとも1点において、損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が7000Pa以下である、粒状体。
【請求項5】
請求項1~請求項
4の何れか1つに記載の粒状体であって、
前記熱可塑性エラストマーは、ショアA硬度が0~10である、粒状体。
【請求項6】
請求項1~請求項
5の何れか1つに記載の粒状体を、スクリュー式押出機内で溶融し、ノズルから押し出して形成されたストランドを走査する走査工程を備える、造形物の製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の方法であって、
前記ストランドは、設定歪0.01、周波数1Hzにて回転式レオメータで造形温度において測定した場合に、損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が11000Pa以下であり、
前記造形温度は、前記ノズルから押し出された直後の前記ストランドの温度である、方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の方法であって、
前記造形温度での前記ストランドの前記損失弾性率G''が600~4500Paである、方法。
【請求項9】
請求項
6~請求項
8の何れか1つに記載の方法であって、
前記走査工程を行って形成される単層構造体を積層することによって積層構造体を形成し、
前記単層構造体は、それぞれ、互いに間隔を開けて設けられた複数の平行線部を備え、
前記積層構造体において上下方向に隣接する2つの前記単層構造体は、前記複数の平行線部が互いに交差するように設けられている、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記単層構造体は、外周線部と、内側線部を備え、
前記内側線部は、前記外周線部によって囲まれた領域内に設けられ、
前記外周線部と前記内側線部は互いに溶着されている、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、
前記外周線部と前記内側線部のそれぞれを、前記ストランドの押し出しを停止させることがない一筆書きによって形成する、方法。
【請求項12】
請求項
9~請求項11の何れか1つに記載の方法であって、
前記平行線部の線幅に対する、前記平行線部のピッチで定義されるピッチ比は、1.5~6である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶融式三次元プリンタ用粒状体、及びこれを用いた造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、造形材料であるフィラメントを押し出しヘッドに供給し、押し出しヘッドに搭載される液化機にてフィラメントを溶融し、ノズルを通して、溶融したフィラメントをベース上に押し出すことによって、造形物を形成する方法が開示されている。
【0003】
このような方式では、一般に、ギアによる噛み込み等によりフィラメントを直接ノズルの先端に送る方式が採用されるが、フィラメントが柔軟性の高い熱可塑性エラストマーで構成されたものである場合には、ギアがフィラメントに噛み込まず、フィラメントがノズル先端に供給されない場合がある。
【0004】
特許文献2では、熱可塑性エラストマーを含む芯材部の外周面の一部に線状補強部を設けたフィラメントを用いることによって、上記の問題を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-500194号公報
【文献】特開2017-177497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の方法では、線状補強部も一緒に造形されてしまうので、エラストマーのみで構成された造形物を得るためには、三次元プリンタによる造形後に水や有機溶剤によって線状補強部を溶解させる処理が必要になる。このような処理は、面倒であることに加えて、造形物の品質を低下させてしまう虞もある。
【0007】
また、熱可塑性エラストマーでは造形物の柔軟性を特に高くするために、造形物を構成する線部と線部の間の間隔を広くする場合があるが、使用する材料によっては造形物の形状が崩れやすく、高精度な造形が非常に難しい。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、柔軟な造形物を高精度に製造可能な熱溶融式三次元プリンタ用粒状体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、熱可塑性エラストマーで構成された熱溶融式三次元プリンタ用粒状体であって、前記熱可塑性エラストマーは、パラレルプレート20mmφ、測定ギャップ1.3mm、周波数1Hzにて回転式レオメータで測定した場合に、測定温度120~270℃のうちの少なくとも1点において、損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が11000Pa以下である、粒状体が提供される。
【0010】
本発明の第1の特徴は、フィラメントではなく、粒状体であることである。本発明の粒状体は、スクリュー式押出機を用いて溶融してノズルから押し出すことができるので、特許文献2のような線状補強部を用いる必要がなく、線状補強部を造形物から溶かし出すという工程も必要がない。
【0011】
本発明の第2の特徴は、熱可塑性エラストマーが特定の粘弾性特性を有することである。本発明で規定する範囲の粘弾性特性を有する熱可塑性エラストマーを用いれば、造形温度を調整することによって、柔軟な造形物を高精度に製造することができる。
【0012】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0013】
好ましくは、前記熱可塑性エラストマーは、測定温度120~230℃のうちの少なくとも1点において、前記損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、前記損失弾性率G''が8000Pa以下である、粒状体である。
好ましくは、前記損失弾性率G''が600~4500Paである、粒状体である。
好ましくは、前記熱可塑性エラストマーは、ショアA硬度が0~10である、粒状体である。
好ましくは、前記粒状体を、スクリュー式押出機内で溶融し、ノズルから押し出して形成されたストランドを走査する走査工程を備える、造形物の製造方法である。
好ましくは、前記ストランドは、パラレルプレート20mmφ、測定ギャップ1.3mm、周波数1Hzにて回転式レオメータで造形温度において測定した場合に、損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が11000Pa以下であり、前記造形温度は、前記ノズルから押し出された直後の前記ストランドの温度である、方法である。
好ましくは、前記造形温度での前記ストランドの前記損失弾性率G''が600~4500Paである、方法である。
好ましくは、前記走査工程を行って形成される単層構造体を積層することによって積層構造体を形成し、前記単層構造体は、それぞれ、互いに間隔を開けて設けられた複数の平行線部を備え、前記積層構造体において上下方向に隣接する2つの前記単層構造体は、前記複数の平行線部が互いに交差するように設けられている、方法である。
好ましくは、前記平行線部の線幅に対する、前記平行線部のピッチで定義されるピッチ比は、1.5~6である、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明で利用可能な熱溶融式三次元プリンタの押出機2に粒状体1を投入して、ストランド4を形成する状態を示す説明図である。
【
図3】網目状の積層構造体5を示し、
図3Aは斜視図であり、
図3Bは、平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0016】
1.熱溶融式三次元プリンタ用粒状体
図1に示す本発明の一実施形態の熱溶融式三次元プリンタ用粒状体1は、熱可塑性エラストマーで構成されている。この熱可塑性エラストマーは、パラレルプレート20mmφ、測定ギャップ1.3mm、周波
数1Hzにて回転式レオメータで測定した場合に、測定温度120~270℃のうちの少なくとも1点において、損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が11000Pa以下である。以下、詳細に説明する。
【0017】
本実施形態の粒状体1は、フィラメントのような糸状の形態ではなく、スクリュー式押出機に容易に投入可能な粒状の形態である。
図1に示すように、粒状体を構成する粒の最長部の長さをLとし、最長部に対して垂直な面での最大の外接円1aの直径をDとすると、L/Dは、例えば1~10であり、1~5が好ましい。Lは、例えば0.5~10mmであり、1~6mmが好ましく、2~4mmがさらに好ましい。L/Dは、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。Lは、具体的には例えば、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0018】
粒状体1を構成する熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー等が挙げられる。この熱可塑性エラストマーは、スチレン系エラストマーを含むことが好ましい。スチレン系エラストマーは柔軟性が高いので、熱可塑性エラストマーがスチレン系エラストマーを含むことによって、熱可塑性エラストマーの柔軟性が高くなる。熱可塑性エラストマー中のスチレン系エラストマーの割合は、50~100質量%が好ましく、80~100質量%がさらに好ましく、具体的には例えば、50、60、70、80、90、100質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0019】
スチレン系エラストマーとは、スチレン単位を有する熱可塑性エラストマーであり、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-エチレン-スチレンブロック共重合体(SES)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等)、水素添加スチレン系共重合体(例えば、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブチレン・ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、水素添加スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等)等から選ばれた一種又は二種以上をブレンドしたものを挙げることができる。
【0020】
熱可塑性エラストマーのショアA硬度は、0~10であることが好ましく、具体的には例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ショアA硬度がこの範囲内である場合に、より柔軟性に優れた造形物が得られる。ショアA硬度は、JIS K6253に基づいて測定する。
【0021】
熱可塑性エラストマーの粘弾性は、JIS K 7244-10に準拠して測定する。粘弾性特性は、具体的には、パラレルプレート20mmφ、測定ギャップ1.3mm、周波数1Hzにて2℃/minの昇温速度で40~280℃まで昇温しながら回転式レオメータで測定した場合の、測定温度120~230℃における損失弾性率G''(Pa)、及び該損失弾性率G''(Pa)と貯蔵弾性率G'(Pa)から算出される損失正接tanδ(=G''/G')である。
【0022】
後述するように、造形温度での損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が11000Pa以下である場合には、造形物を構成する線部と線部の間の間隔が比較的広い場合でも、熱溶融式三次元プリンタによって造形物を高精度に製造することが可能である。また、熱溶融式三次元プリンタでの造形温度は、通常、120~270℃である。このため、熱可塑性エラストマーの損失正接tanδ及び損失弾性率G''が上記条件を満たす場合には、造形温度を適宜調節することによって、高精度な造形物の製造が可能である。一実施形態においては、貯蔵弾性率G'を考慮してもよい。
【0023】
また、造形温度が比較的低温であると造形が容易であるため、造形を120~230℃で行えることが好ましい。従って、造形温度120~230℃での損失弾性率G''が8000Pa以下、600~4500Pa、特に700~2000Paである場合には、比較的低温にて造形物が特に高い精度で製造可能であるので、熱可塑性エラストマーの損失弾性率G''は、測定温度120~230℃のうちの少なくとも1点において8000Pa以下であることが好ましく、600~4500Paであることがより好ましく、700~2000Paであることが特に好ましい。
【0024】
上記測定温度は、具体的には例えば、120、125、130、135、140、145、150、155、158、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。上記損失正接tanδは、一実施形態においては例えば、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.00、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。上記損失弾性率G''は、具体的には例えば、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、8500、9000、9500、10000、10500、11000Paであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0025】
損失正接tanδ及び損失弾性率G''が上記範囲内となる温度範囲は、好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは20℃以上である。この場合、造形温度の設定が容易になる。この温度範囲は、例えば10~50℃であり、具体的には例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、50℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
2.造形物の製造方法
図2に示すように、本発明の一実施形態の造形物の製造方法は、上記記載の粒状体1を、スクリュー式押出機2内で溶融し、ノズル2cから押し出して形成されたストランド4を走査する走査工程を備える。ストランド4は、溶融状態で押し出され、そのまま走査される。
【0027】
押出機2は、ホッパー2aと、シリンダ2bと、ノズル2cを備える。粒状体1は、ホッパー2aからシリンダ2b内に投入され、シリンダ2b内で加熱されることによって溶融されて溶融材料になる。この溶融材料は、シリンダ2b内に配置されたスクリューの回転によってシリンダ2bの先端に向けて搬送され、シリンダ2bの先端に設けられたノズル2cから押し出されてストランド4となる。このような方式では、熱可塑性エラストマーのような柔軟性が高い材料でもストランド4を容易に形成することができる。
【0028】
ストランド4は、線状であり、その直径は、例えば0.5~6.0mmであり、1.0~4.0mmが好ましい。この直径は、具体的には例えば、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
所望の造形物が形成されるようにストランド4を走査し、走査済みのストランド4を冷却固化させることによって造形物を製造することができる。冷却は、自然冷却であってもよく、強制冷却であってもよい。
【0030】
ノズル2cから押し出された直後のストランド4の温度を造形温度と定義する。造形温度は、120~270℃であることが好ましい。この場合に、冷却時にストランド4が十分に固化されやすく、且つ造形材料の加熱による劣化が起こりにくいからである。造形温度でのストランド4の損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が11000Pa以下であることが好ましい。造形温度が比較的低温120~230℃である場合には、ストランド4の損失弾性率G''が8000以下であることがより好ましく、600~4500Paであることがさらに好ましく、700~2000Paであることが特に好ましい。後述の実施例で示すように、造形温度での損失正接tanδ及び損失弾性率G''がこの範囲内である場合に、造形精度が特に高くなるからである。
【0031】
上記造形温度は、具体的には例えば、120、125、130、135、140、145、150、155、158、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。上記損失正接tanδは、一実施形態においては例えば、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.00、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。上記損失弾性率G''は、具体的には例えば、具体的には例えば、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、8500、9000、9500、10000、10500、11000Paであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0032】
図3は、網目状の積層構造体5によって構成される造形物を示す。積層構造体5は、上記走査工程によって形成される単層構造体6、7、8を積層することによって形成される。
【0033】
図4に示す単層構造体6は、外周線部6aと、内側線部6bを備える。外周線部6aと内側線部6bは、それぞれ、ストランド4が冷却されて形成されたものであり、その線幅はストランド4の直径とほぼ等しくなる。内側線部6bは、外周線部6aによって囲まれた領域内に設けられる。外周線部6aと内側線部6bは互いに溶着されている。外周線部6aと内側線部6bは、それぞれが、ストランド4の押し出しを停止させることがない一筆書きによって形成することが好ましく、単層構造体6の全体を一筆書きによって形成することがさらに好ましい。この場合、走査工程でのストランド4の押し出し停止回数が低減されて造形精度及び生産性が向上する。
【0034】
内側線部6bは、互いに間隔を開けて設けられた複数の平行線部6b1と、隣接する平行線部6b1を連結する連結線部6b2を備える。
図4Bに示すように、平行線部6b1の線幅Wに対する、平行線部6b1のピッチPで定義されるピッチ比は1.5~6が好ましく、2.0~5.0がさらに好ましい。ピッチ比が小さすぎると造形物の柔軟性が不十分な場合があり、ピッチ比が大きすぎると造形が困難な場合がある。ピッチ比は、具体的には例えば、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0035】
図5に示す単層構造体7は、外周線部7aと、内側線部7bを有する。内側線部7bは、複数の平行線部7b1と、連結線部7b2を備える。単層構造体7は、平行線部7b1が延びる方向が平行線部6b1と異なっている以外は、単層構造体6と同様の構成を有する。平行線部7b1は、複数の平行線部6b1と交差するように形成され、上記ピッチ比が大きいほど、平行線部7b1が2つの平行線部6b1をまたぐ距離(橋渡し距離)が大きくなり、平行線部7b1がたわんで造形精度が低下しやすい。本実施形態では、造形温度での損失正接tanδ及び損失弾性率G''を上記範囲にすることによって平行線部のたわみによる造形精度の低下を抑制している。
【0036】
図6に示す単層構造体8は、外周線部8aと、内側線部8bを有する。内側線部8bは、複数の平行線部8b1と、連結線部8b2を備える。単層構造体8は、平行線部8b1が延びる方向が平行線部6b1と異なっている以外は、単層構造体6と同様の構成を有する。
【0037】
積層構造体5は、単層構造体6、7、8がこの順で繰り返し積層されて構成されている。平行線部6b1、7b1、8b1が互いに非平行であり、上下方向に隣接する2つの単層構造体は、平行線部が互いに交差する。また、本実施形態では、平行線部6b1、7b1、8b1が60度ずつずれており、そのピッチが同じであるので、積層構造体5には、
図3Bに示す平面図で示すように、平行線部6b1、7b1、8b1によって正三角形の空隙Sが形成される。上記ピッチ比が大きいほど空隙Sが大きくなって造形物の柔軟性が向上する。
【実施例】
【0038】
表1は、熱可塑性エラストマーからなる粒状体についてのショアA硬度、及び120~270℃において測定した粘弾性に関する各測定値の最大値・最小値を示す。表2は、熱可塑性エラストマーからなる粒状体についてのショアA硬度(表1に同じ)、及び120~230℃において測定した粘弾性に関する各測定値の最大値・最小値を示す。
【0039】
粘弾性は、JIS K 7244-10に準拠して測定した。具体的には、まず、圧縮成形(装置:油圧式成形機26トン、有限会社当方プレス製作所製)にて約100mm×100mm×1mm(縦×横×厚み)のシートを作成し、20mm×20mm(縦×横)に切り出し試験片とした。なお、圧縮成形におけるゲージ圧力は5MPaであり、プレス温度は、AR-SC-0、AR-815C、G1645MO、AR-SC-5、JS20N、CJ103について、それぞれ130℃、230℃、230℃、150℃、170℃、230℃であった。
【0040】
測定条件は、下記の通りである。
ジオメトリー:パラレルプレート20mmφ
温度:40~280℃
昇温速度:2℃/min
周波数:1Hz(6.28rad/s)
ギャップ:1.3~1.4mm
設定歪:0.01
測定数:n=1
測定装置:MARSIII
【0041】
【0042】
【0043】
表3は、各温度における粘弾性と造形性の評価について示す。造形性の評価は、これらの粒状体を材料として、スクリュー式押出機を有する三次元プリンタを用いて、表3に示す温度で
図3に示す積層構造体5によって構成される造形物を作製し評価した。表3の温度は、ノズル2cから出た直後のストランド4の温度であり、サーモグラフィ(日本アビオニクス社製、赤外線サーモグラフィカメラ Thermo GEAR、型式:G120EX)を用いて測定した。ストランド4の直径は2mm、ノズル2cの移動速度は50mm/s、平行線部のピッチは6.5mmとした。平行線部の線幅は2.0mmであった。従って、ピッチ比は、3.25であった。
【0044】
得られた造形物を目視で観察し、以下の基準で造形性を評価した。
◎:造形の崩れが観察されなかった。
○:造形のわずかな崩れ(例えば、造形物の角部のめくれ)が観察された。
△:造形の崩れが観察されたが、著しい崩れは観察されなかった。
×:ストランドの千切れやストランドの造形ベッドへの未定着が発生したか、又は造形の著しい崩れが観察された。
【0045】
表3に示すように、造形温度での損失正接tanδが0.40以上であり、且つ、損失弾性率G''が11000Pa以下である場合には、造形性が良好であった。中でも、比較的低温の造形温度120~230℃においては、損失弾性率G''が8000Pa以下である場合には造形性が良好であり、600~4500Paである場合には、造形性がより良好であり、損失弾性率G''が700~2000Paである場合に造形性が特に良好であった。
【0046】
【0047】
表中の熱可塑性エラストマーの詳細は、以下の通りである。
CJ103: 株式会社クラレ製、アーネストン
JS20N: 株式会社クラレ製、アーネストン
AR-SC-0:アロン化成株式会社製
AR-SC-5:アロン化成株式会社製
AR-815C:アロン化成株式会社製
G1645MO:クレイトンポリマージャパン株式会社製
【符号の説明】
【0048】
1 :熱溶融式三次元プリンタ用粒状体
1a :外接円
2 :スクリュー式押出機
2a :ホッパー
2b :シリンダ
2c :ノズル
4 :ストランド
5 :積層構造体
6 :単層構造体
6a :外周線部
6b :内側線部
6b1 :平行線部
6b2 :連結線部
7 :単層構造体
7a :外周線部
7b :内側線部
7b1 :平行線部
7b2 :連結線部
8 :単層構造体
8a :外周線部
8b :内側線部
8b1 :平行線部
8b2 :連結線部
P :ピッチ
S :空隙
W :線幅