(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】砂糖に被覆されたD-アルロース顆粒物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20231127BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20231127BHJP
A23G 4/06 20060101ALI20231127BHJP
A23G 1/40 20060101ALI20231127BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A23L27/00 E
A23G3/34 102
A23G4/06
A23G1/40
A21D2/18
(21)【出願番号】P 2020511131
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014192
(87)【国際公開番号】W WO2019189830
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018065148
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】人見 英敏
(72)【発明者】
【氏名】大村 昇
(72)【発明者】
【氏名】平木 創太郎
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03295807(EP,A1)
【文献】特表2016-531574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/
A23G
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径200~370μmのD-アルロースと平均粒子径30~50μmの砂糖を含み、その質量比が5:95~35:65の範囲にある原料粒子から製造された、平均粒子径が300~800μmであり、砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物。
【請求項2】
平均粒子径200~370μmのD-アルロースと平均粒子径30~50μmの砂糖を5:95~35:65の質量比で造粒することを特徴とする、砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物の製造方法。
【請求項3】
平均粒子径200~370μmのD-アルロースと平均粒子径30~50μmの砂糖を5:95~35:65の質量比で造粒
して、D-アルロースを砂糖により被覆することを特徴とする、D-アルロース
の流動性改善方法。
【請求項4】
請求項1記載の顆粒物を含んでなる甘味組成物。
【請求項5】
請求項1記載の顆粒物を含んでなる食品。
【請求項6】
食品が、卓上甘味料、打錠菓子、ガム、チョコレート、またはプレミックス粉である請求項5に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂糖に被覆されたD-アルロース顆粒物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D-アルロースは、D-プシコースとも呼ばれるエネルギー値が0キロカロリーの単糖である。食後の血糖値上昇抑制効果や抗肥満効果といった様々な生理機能を有するが、その甘味度は砂糖の約60~70%であって、単独で甘味料とするにはやや物足りない味質を呈する。したがって、D-アルロースをテーブルシュガーなど固形甘味料として利用しようとする場合、その味質を改善する目的で砂糖と混合する手法がまず考えられる。
【0003】
しかし、単にD-アルロースと砂糖を粉体混合しただけでは、輸送中の均一性を保持できず、しかも吸湿して固結し、流動性が悪くなるという問題がある。
【0004】
そこで、D-アルロースと砂糖の均一混合物を得る手法として、例えば、特許文献1には、スクロース結晶にD-アルロースを結晶又はアモルファス状態でコーティングする方法が記載されている。また、特許文献2には、乾燥粒子状の第1食用材料(スクロースを例示)と乾燥粒子状の第2食用材料(プシコースを例示)とを、少なくとも第1食用材料のガラス転移温度(T
g)まで加熱すると同時に混合し、第1食用材料(スクロース)粒子を第2食用材料(プシコース)の複数の粒子により被覆する、流動性食用組成物の製造方法が開示されている(請求項1、
図8)。
【0005】
また、特許文献3には、D-アルロース(D-プシコース)粉末の平均粒子径を100としたときに、平均粒子径30~170の砂糖粉末と混合して平均粒子径100~250の顆粒とし、その吸湿性がプシコース粉末の吸湿性を100としたときに90以下となる、混合顆粒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-138660号公報
【文献】特表2016-531574号公報
【文献】WO2016-182235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
均一性及び吸湿性の問題を同時に解決するため、従来報告されている砂糖をD-アルロースで被覆する手法(例えば、特許文献1及び2)を採用すると、輸送中の均一性及び吸湿性の問題は改善されるものの、流動性の問題は依然として改善されなかった。特許文献1の方法を再現して電子顕微鏡写真により観察したところ(
図6及び
図7参照)、砂糖表面に微細なアルロース結晶が付着しており、砂糖(スクロース)がD-アルロースにより完全に被覆されている状態ではなかった。
【0008】
また、特許文献3の製造方法により製造された混合顆粒においても吸湿性は改善されたが、流動性の問題は十分に改善されていない。特許文献3の製造方法により製造された混合顆粒では、D-アルロースに砂糖が幾分付着している状態にはあるものの、D-アルロースが砂糖により被覆された状態ではなかった(
図5参照)。
従来の方法により、吸湿性が改善されても流動性が改善されない理由は以下のとおりと考えられる。吸湿性が悪い場合には吸湿により固結して流動性が悪くなるため、吸湿性と流動性は密接に関連し、その結果吸湿性が改善されると流動性も改善される場合があるが、一方、吸湿によらない原因により流動性が悪化する場合もあるため、吸湿性が改善されても流動性が改善されない場合があるためと考えられる。
本発明の課題は、輸送中の均一性を担保し、かつ流動性が改善された、味質が改善されたD-アルロース顆粒物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、意外にも、平均粒子径50~500μmのD-アルロースと、平均粒子径20~105μmの砂糖(但し、砂糖の平均粒子径<D-アルロースの平均粒子径)を、5:95~35:65の質量比で造粒することにより、上記課題を解決できることを見出した。
理論に縛られるものではないが、従来の方法では、砂糖とD-アルロースが接触した状態で吸湿が起こり、接触面で砂糖とD-アルロースが溶けて混ざり合い、結晶構造が変化して、流動性が悪化し、最終的には固結するのではないかと推察される。一方、本発明では、D-アルロースの表面を砂糖で覆うことにより、顆粒内のD-アルロースと砂糖の接触面は吸湿するものの、顆粒表面における吸湿は防ぐことができるため、吸湿性が同等であるにも関わらず、流動性を維持できるのではないかと考えられる。
【0010】
すなわち、本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、以下の〔1〕~〔6〕から構成されるものである。
〔1〕 平均粒子径50~500μmのD-アルロースと平均粒子径20~105μmの砂糖(但し、砂糖の平均粒子径はD-アルロースの平均粒子径より小さい)を含み、その質量比が5:95~35:65の範囲にある原料粒子から製造された、平均粒子径が300~800μmであり、砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物。
〔2〕 平均粒子径50~500μmのD-アルロースと平均粒子径20~105μmの砂糖(但し、砂糖の平均粒子径がD-アルロースの平均粒子径より小さい)を5:95~35:65の質量比で造粒することを特徴とする、砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物の製造方法。
〔3〕 平均粒子径50~500μmのD-アルロースと平均粒子径20~105μmの砂糖(但し、砂糖の平均粒子径がD-アルロースの平均粒子径より小さい)を5:95~35:65の質量比で造粒することを特徴とする、D-アルロース顆粒物の流動性改善方法。
〔4〕 〔1〕記載の顆粒物を含んでなる甘味組成物。
〔5〕 〔1〕記載の顆粒物を含んでなる食品。
〔6〕 食品が、卓上甘味料、打錠菓子、ガム、チョコレート、またはプレミックス粉である〔5〕に記載の食品。
【0011】
本発明はまた、以下の〔7〕~〔15〕の態様を含む。
〔7〕 平均粒子径が350~800μmであり、好ましくは400~700μmである、上記〔1〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物。
〔8〕 原料粒子中の砂糖の平均粒子径が、25~70μmであり、好ましくは30~50μmである、上記〔1〕または〔7〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物。
〔9〕 原料粒子中のD-アルロースの平均粒子径が、120~400μmであり、好ましくは200~370μmであり、より好ましくは200~300μmである、上記〔1〕、〔7〕または〔8〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物。
〔10〕 相対湿度100%のデシケータ内に入れ、密閉して20℃で48時間静置した後の安息角(注入法による)が45°以下、好ましくは44°以下、より好ましくは42°以下、さらにより好ましくは40°以下である、上記〔1〕、〔7〕、〔8〕または〔9〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物。
〔11〕 平均粒子径が350~800μmであり、好ましくは400~700μmである、上記〔2〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物の製造方法。
〔12〕 D-アルロースと砂糖の質量比が、5:95~30:70であり、好ましくは10:90~20:80である、上記〔2〕または〔11〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物の製造方法。
〔13〕 原料粒子中のD-アルロースの平均粒子径が、120~400μmであり、好ましくは200~370μmであり、より好ましくは200~300μmである、上記〔2〕、〔11〕または〔12〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物の製造方法。
〔14〕 湿式造粒法により造粒する、上記〔2〕、〔11〕、〔12〕または〔13〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物の製造方法。
〔15〕 原料粒子の合計質量100質量部に対し、バインダーを2~30質量部、好ましくは2~20質量部、さらに好ましくは3~10質量部用いる、上記〔2〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕または〔14〕記載の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
流動性に優れ、かつ輸送時や保管時の均一性に優れた、砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】実施例2(砂糖30μm、D-アルロース213μm、D-アルロース20質量%配合)(D-アルロースと砂糖の質量比が20:80)の電子顕微鏡写真(左上:表面(倍率50倍)、右上:表面(倍率100倍)、左下:断面(倍率80倍))を示す。
【
図5】比較例8(砂糖329μm、D-アルロース213μm、D-アルロース10質量%)(D-アルロースと砂糖の質量比が10:90)の電子顕微鏡写真(左:表面(倍率50倍)、右:表面(倍率100倍))を示す。
【
図6】参考例1(グラニュ糖500μm、D-アルロース溶液から製造した組成物)の電子顕微鏡写真(倍率20倍、50倍、500倍、1000倍))を示す。
【
図7】参考例2(細目グラニュ糖329μm、D-アルロース溶液から製造した組成物)の電子顕微鏡写真(倍率20倍、50倍、500倍、1000倍))を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<砂糖被覆D-アルロース顆粒物>
本発明の砂糖被覆D-アルロース顆粒物は、平均粒子径50~500μmのD-アルロースと平均粒子径20~105μmの砂糖(但し、砂糖の平均粒子径はD-アルロースの平均粒子径より小さい)を含み、その質量比が5:95~35:65の範囲にある原料粒子から製造された、平均粒子径が300~800μmである、砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物である。顆粒物の平均粒子径は好ましくは350~800μmであり、さらに好ましくは400~700μmである。顆粒物の平均粒子径の測定方法については後述する。
本発明の砂糖被覆D-アルロース顆粒物は、D-アルロースの表面が概ね砂糖で被覆されたものであり、電子顕微鏡や光学顕微鏡などの顕微鏡を用いて顆粒物の表面を観察することにより被覆状態を確認することができる。
本発明において使用される「砂糖」は、一般にいう上白糖、三温糖、グラニュ糖、黒砂糖、粉糖などのスクロースを主体とするものを指し、スクロース主体であればその精製度は特に問わない。スクロースを主体とするとは、スクロースを好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上含むことを意味する。100質量%含むものでもよい。スクロース以外には、グルコース、フラクトース等を含んでいてもよい。
また、原料粒子中の砂糖の平均粒子径は20~105μmであり、好ましくは25~70μm、さらに好ましくは、30~50μmである。砂糖の平均粒子径の測定方法については後述する。
【0015】
本発明において原料として使用されるD-アルロースは、従来から公知のどのような由来あるいは形態の製品でも使用することができる。すなわち、その精製度を問わず、ズイナ等の植物から抽出したもの、アルカリ異性化法によりD-グルコースやD-フラクトースを原料に異性化したもの(例えば、松谷化学工業(株)製「レアシュガースウィート」)、微生物又はその組換体から得られる酵素(イソメラーゼやエピメラーゼ等)を利用する酵素法によりD-グルコースやD-フラクトースを原料として異性化したもの(例えば、松谷化学工業(株)製「Astraea Allulose」)などがあり、比較的容易に入手することができる。
原料粒子中のD-アルロースの平均粒子径は、50~500μmであり、好ましくは120~400μm、さらに好ましくは200~370μmであり、よりさらに好ましくは200~300μmである。D-アルロースの平均粒子径の測定方法については後述する。
但し、D-アルロースが砂糖により被覆されるためには、D-アルロースがこの平均粒子径の範囲内にあるだけでは足りず、砂糖の平均粒子径がD-アルロースの平均粒子径より小さいことを要する。
【0016】
なお、本発明にいう原料となる砂糖又はD-アルロースの平均粒子径は、レーザ回析・散乱法に基づいて測定された粒子径分布から導き出されたメジアン径を言う。
このメジアン径はレーザ回析・散乱式粒子径分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300EXII)を使用して測定することができる。レーザ回析・散乱式粒子径分布測定装置には湿式と乾式があり、湿式は溶媒に液体(水、アルコール、有機溶媒など)を使用し、乾式は気体(空気など)を使用する。砂糖など水溶性のものは通常、乾式で測定するか又は有機溶媒を用いて湿式で測定を行う。しかし、D-アルロースについてはトルエンなどの有機溶媒を使用すると、表面が溶けてしまい再現性のあるデータが測定できないため、乾式の装置を用いて測定する必要がある。
具体的な測定方法としては、例えば、乾式のレーザ回析・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300EXII)を用いて、粉体試料を空気で分散させながら、該試料にレーザ光を照射し、その回析散乱パターンから体積基準の粒子径分布を測定し、メジアン径を算出する。
【0017】
本明細書において用いた具体的な測定条件は以下のとおりである。
測定回数:1回
測定時間:10秒
分散圧力:0.2~0.3MPa
粒子透過性:透過
粒子屈折率:1.50
粒子形状:非球形
溶媒:空気
溶媒屈折率:1.00
測定範囲:0.243~2000μm
【0018】
D-アルロースの平均粒子径は、上で述べたとおり、50~500μmであるが、D-アルロースは原料乾燥前の蜜切れが悪く乾燥時に付着するなど、原料調達時に複粒となっている場合があり、この場合、初期原料は、平均粒子径は50~500μm外である場合もありうる。しかしながら、そのような複粒であっても、例えば、造粒前の製造工程初期段階において篩分けや攪拌などの若干の物理的な力が加わることにより、あるいは造粒機内でバインダー噴霧開始前の攪拌段階において、50~500μmの範囲になる場合もある。本発明の顆粒物あるいはその製造方法にはこのような場合、つまりD-アルロースの複粒を原料とし、造粒等の砂糖による被覆物を製造する工程の前あるいはその製造工程初期段階(混合攪拌後、造粒のためのバインダー噴霧開始前)において、D-アルロースが本発明の範囲の粒子径を有するものになっている場合も含むものである。
【0019】
また、本発明の砂糖により被覆されたD-アルロース顆粒物の平均粒子径は、ふるい分け法による篩ごとの質量頻度から算出されるメジアン径として測定することができる。より詳細には、目開き150μm、250μm、355μm、500μm、850μm、1180μmの6段の篩を、目開きの小さな篩から順に受け皿上に積み重ね、最上部の1180μmの篩の上から顆粒物を入れて振とうし、分画した後、それぞれの篩及び受け皿上に残留した当該物の質量を測定して下記数式により平均粒子径を算出する。
【0020】
〔数式1〕
平均粒子径(μm) = 10Z
【0021】
【0022】
ここで、a値は、受け皿と各篩との質量頻度を積算していったときに積算の質量頻度が50%以上となる最初の篩の目開きの大きさ(μm)であり、b値は、a値より一段小さい篩の目開きの大きさ(μm)であり、c値は、受け皿からaμmの篩までの質量頻度の積算値(%)であり、d値は、受け皿からbμmの篩までの質量頻度の積算値(%)である。
【0023】
本発明の顆粒物におけるD-アルロースと砂糖の質量比は、5:95~35:65であり、5:95~30:70が好ましく、10:90~20:80がさらに好ましい。粉体原料の砂糖が95質量%以下であれば、D-アルロースの生理機能を十分に享受できる顆粒物となるため好ましい。砂糖を65質量%以上使用すれば、D-アルロースの表面すべてを被覆することができ、吸湿しても固結して流動性を悪化させることがないため好ましい。
【0024】
<砂糖被覆D-アルロース顆粒物の製造方法>
上述した本発明の砂糖被覆D-アルロース顆粒物は、上述した平均粒子径50~500μmのD-アルロースと平均粒子径20~105μmの砂糖(但し、砂糖の平均粒子径がD-アルロースの平均粒子径より小さい)を5:95~35:65の質量比で造粒することにより得ることができる。
【0025】
この「造粒」の方法によって得られる造粒物の物性が異なることが考えられるので、造粒物の所望する物性により、造粒方法を適宜選択することが好ましい。
「造粒」には、一般に湿式造粒と乾式造粒がある。湿式造粒とは、水又は結合剤を溶解した水溶液(以下、「バインダー」という。)を粉体に滴下若しくはスプレー噴霧し、粉体を湿潤後乾燥させて「粒を造る」操作をいう。一方、乾式造粒は、圧縮造粒ともいわれ、水などのバインダーを用いない造粒を指す。
【0026】
なお、この「造粒」をするための造粒装置としては、具体的には、高速撹拌造粒機、流動層造粒機、押し出し造粒機、乾式造粒装機などが挙げられ、いずれの装置を用いても本発明品である砂糖により被覆されたD-アルロース造粒物を得ることはできる。このうち、高速撹拌造粒装置を用いることが、砂糖で均一に被覆された造粒物が得られるという点においてはより好ましい。
【0027】
湿式造粒における、バインダーは、例えば、D-アルロースと砂糖からなる原料粒子の合計質量100質量部に対して、2~30質量部用いることが好ましく、2~20質量部用いることがさらに好ましく、3~10質量部用いることがさらにより好ましい。
本発明においてバインダーとは、上述のとおり、水そのもの又は結合剤を溶解した水溶液を指し、結合剤としては、糖類や澱粉分解物などが挙げられる。澱粉分解物を結合剤としてバインダーに用いる場合、その原料澱粉の種類、分解度、分解方法などは特に限定されるものではないが、分解度については、好ましくはDE5~50、より好ましくは10~30、さらに好ましくは10~20である。また、その結合剤のバインダーにおける濃度は、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1~10質量%である。
なお、結合剤として、スクロース、グルコースあるいはフラクトース等の砂糖あるいは糖類を用いてもよいが、その場合には、結合剤の質量は、原料粒子の「砂糖」の質量には算入しない。従って、スクロース、グルコースあるいはフラクトース等の砂糖あるいは糖類を結合剤として用いた場合、最終顆粒物中の砂糖含有量が、原料粒子由来の砂糖の質量よりも多い場合があってもよい。
【0028】
砂糖により被覆されたD-アルロースの顆粒物(造粒により得られた顆粒物(造粒物)も含む。以下、単に「顆粒物」とよぶこともある。)の評価は、以下のように行う。
(1)均一性について
顆粒物の均一性は、各画分の糖組成によって評価することができる。具体的には、例えば、得られた顆粒物を容器に入れて上下に振とう(タッピング)し、各箇所(例えば、上層:容器内の顆粒物全体の高さ(100%)に対し、顆粒物上端から約0~33%の間の層、中層:顆粒物上端から約33~66%の間の層、下層:顆粒物上端から約66~100%の間の層、としたときの各層の中央部付近)の顆粒物の糖組成を公知の方法、例えば、高速液体クロマトグラフィなどにより測定し、その糖組成から算出された相対標準偏差をもって、均一性を評価することができる。砂糖がアルロースによって均一に被覆されていないときは、タッピング操作により粒子は分級されて各画分の糖組成にばらつきが生じるので、均一性が悪いと評価できる。
例えば、顆粒物を200mm×280mmの袋状の容器に入れ、上述のように上層、中層、下層の3層について算出した相対標準偏差は、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。
【0029】
(2)吸湿性について
顆粒物の吸湿性は、以下に説明する「質量増加率(%)」によって評価することができる。その具体的評価方法の一例として、以下の方法がある。まず、得られた顆粒物を減圧乾燥器に入れ、恒になるまで乾燥(例えば、60℃で5時間減圧)させて質量を測定する(乾燥後質量)。次に、その乾燥後の顆粒物を恒湿状態(例えば、相対湿度100%)としたデシケータ内に入れ、密閉して一定温度(例えば、20℃)で静置し、一定時間(例えば、24時間、48時間)後にその顆粒物の質量を測定する(吸湿後質量)。質量増加率(%)は、[(吸湿後質量-乾燥後質量)/乾燥後質量]×100として算出され、その数値が高くなるほど吸湿性は高いと評価できる。また、各試料とD-アルロースそのものとの吸湿性を比較するときは、D-アルロースの質量増加率を100としたときの各試料の質量増加率を相対値で表したものを「相対吸湿率」として用い、その数値が100を超えると、D-アルロースに比して吸湿性は高いと評価できる。
本発明の顆粒物のD-アルロースに対する相対吸収率(吸湿試験開始前後のD-アルロースの質量増加率を100としたときの質量増加率の比で表される)は、好ましくは220以下であり、より好ましくは200以下である(ただし、質量増加率は、式:(吸湿後質量-乾燥後質量)/乾燥後質量で表され、吸湿後質量は、相対湿度100%としたデシケータ内に20℃で静置し、48時間後に測定した質量であり、乾燥後質量は減圧下、一定になるまで乾燥した質量である)。
【0030】
(3)流動性について
顆粒物の流動性は、安息角の値により評価することができる。安息角とは、粉体流動性の指標の一つであり、公知の方法、例えば、注入法、円筒回転法、排出法などを用いて測定することができる。注入法であれば、例えば、ホソカワミクロン株式会社製のパウダテスタPT-Eを使用して、ロートを通じて円盤上に顆粒物を落下させ、円錐状に堆積した顆粒物の傾斜線と水平面とのなす角度を分度器で測定することにより求めることができる。
本発明の顆粒物は、乾燥後の顆粒物を、相対湿度100%のデシケータ内に入れ、密閉して20℃で48時間静置した後の安息角(注入法による)が45°以下であることが好ましい。
本発明の顆粒物を相対湿度100%のデシケータ内に入れ、密閉して20℃で48時間静置した後の安息角は、さらに好ましくは44°以下、よりさらに好ましくは42°以下、さらにより好ましくは40°以下である。
【0031】
(4)被覆性について
顆粒物の被覆性は、電子顕微鏡や光学顕微鏡などの顕微鏡を用いて、顆粒物の表面及び断面を観察することにより確認できる。例えば、日立製作所社製の走査型電子顕微鏡(S-3500N型)により顆粒物を50~200倍に拡大し、D-アルロースの表面が砂糖で被覆されているかどうかを確認できる。
本発明の顆粒物は、走査型電子顕微鏡により少なくとも50倍に拡大して観察したとき、D-アルロースの表面全体が砂糖で被覆されていることが好ましい。
【0032】
このようにして得られた本発明の顆粒物は、食品、医薬品、化粧品、工業化学品などに利用でき、特に、粉状、顆粒状、固形状の形態のものに有利に利用できる。
食品、特に粉状又は顆粒状の食品に利用する場合であれば、例えば、卓上甘味料をはじめとする甘味料として用いる甘味組成物、粉末顆粒飲料、粉末顆粒調味料、顆粒スープ、から揚げ粉やケーキミックス粉などのプレミックス粉などに有利に利用できる。また、固形状の食品に利用する場合であれば、打錠菓子、チョコレート、ガムなど、製造工程において本発明の顆粒物の形状が比較的保持される食品形態に有利に利用できる。
【実施例】
【0033】
これ以降、実施例をもって本発明について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0034】
(砂糖とD-アルロースの配合比の検討)
下表1の各配合にしたがい、平均粒子径30μmの砂糖と平均粒子径213μmのD-アルロースを高速撹拌造粒機(NMG-10L、株式会社奈良機械製作所)に投入し、バインダーとしての水を噴霧しながら、主軸600rpm・造粒軸3600rpmで2分間撹拌して顆粒物を得た。次に、得られた顆粒物を棚式乾燥機(40℃)で乾燥させた。但し、比較例1及び2については、この造粒は行わず、砂糖及びD-アルロースをポリ袋に入れて10分間振り混ぜて混合物とした。
なお、比較例1において平均粒子径30μmの砂糖を用いたところ、流動性が非常に悪く、後述する安息角測定方法による流動性の測定が不可能となった(ロートから落下しない)。そこで、比較例2において平均粒子径329μmの砂糖を用いて混合物の流動性を確認した。また、原料の砂糖及びD-アルロースは、いずれも水分0.1%以下であり、造粒により得られた顆粒物の水分とほぼ同等であったため、造粒前に乾燥は行わなかった。
【0035】
【0036】
(均一性の評価方法)
上記配合及び手順で得られた顆粒物又は混合物(以下、あわせて「試料」という。)300gをスタンディングパウチ袋(ラミジップLZ-20、株式会社生産日本社、200mm×280mmの袋状の容器)に封入し、振とう機(アズワン株式会社製「万能シェーカーAS-1N」)を用いて300rpmで2時間振とうして上層、中層、下層(上層:混合物高さを100%としたとき、混合物上端から約0~33%までの層、中層:混合物上端から約33~66%の層、下層:混合物上端から約66~100%の層)の各層の中央部分の試料を取り出して高速液体クロマトグラフィによりD-アルロース含量(質量%)を分析し、当該3層における標準偏差を求めた。また、この標準偏差値を3層の平均値で除して百分率で表したときの値を、「相対標準偏差」とした(相対標準偏差(%)=(標準偏差/平均値)×100)。この「相対標準偏差」が3.0%以下のときに、顆粒物中におけるD-アルロースは均一に存在していると評価した。
【0037】
【表2】
※1、2:ふるい分け法による参考値(他の試料は造粒物であるが、比較例1及び2の試料は混合物であるため。)
※1:目開き38μm、53μm、63μm、75μm、106μm、150μmの6段の篩を、目開きの小さな篩から順に受け皿上に積み重ね、最上部の150μmの篩の上から顆粒物を入れて振とうし、分画した後、それぞれの篩及び受け皿上に残留した当該物の質量を測定して上述した数式1及び2により平均粒子径を算出した。
※2:目開き150μm、250μm、355μm、500μm、850μm、1180μmの6段の篩を、目開きの小さな篩から順に受け皿上に積み重ね、最上部の1180μmの篩の上から顆粒物を入れて振とうし、分画した後、それぞれの篩及び受け皿上に残留した当該物の質量を測定して上述した数式1及び2により平均粒子径を算出した。
【0038】
その結果、D-アルロースと砂糖を単に混合しただけ(比較例1及び2)では均一性に欠ける一方、D-アルロースの割合を5、20、30質量%として砂糖による被覆された顆粒物としたときは、均一性に優れた顆粒物が得られることがわかった(実施例1~3)。また、D-アルロースの割合が40質量%のときにも均一性の改善はみられたが(比較例3)、以降に示す流動性については良好とはいえなかった。D-アルロースの割合が50質量%のときには、均一性の改善は認められなかった(比較例4)。
【0039】
(吸湿性及び流動性の評価方法)
次に、試料100gをポリ袋(ユニパックG-4、株式会社生産日本社)に封入し、相対湿度100%のデシケータ内で約20℃で2日間静置し、その相対吸湿率及び安息角を測定した。
安息角は、ホソカワミクロン株式会社製のパウダテスタPT-Eを使用して測定した。相対吸湿率は、吸湿試験開始前後のD-アルロースの質量増加率を100としたときの各試料の質量増加率(相対値)で表した値である。流動性は、試験開始から2日後の安息角が45°以下のときに、良好であると評価した(参考:Carr, R.L.:Chem. Eng.72,163-168(1965))。
【0040】
【表3】
*:測定不能
※1、2:ふるい分け法による参考値。測定方法については表2の注を参照。
【0041】
その結果、造粒せずに単に混合したもの(比較例2)は、相対吸湿率が117とやや高くなるとともに、流動性が著しく悪化した。一方、D-アルロースの割合が5、20、30質量%として砂糖により被覆された顆粒物(実施例1~3)は、D-アルロースに対する相対吸湿率が高くなるにもかかわらず、D-アルロースよりも流動性は良好であった。しかし、D-アルロースの割合が40質量%又は50質量%の顆粒物(比較例3又は4)は、吸湿の程度が実施例1~3と変わらないものの、流動性は悪化した(比較例3、4)。その理由としては、D-アルロースの割合が40質量%の顆粒物は、砂糖により一定程度被覆されて均一性は保たれるが、その被覆はいまだ十分でないため、流動性が悪くなったものと考えられた。また、D-アルロースの割合が50質量%になるとD-アルロース全体を砂糖で被覆できなくなるので、流動性のみならず均一性も悪化したものと考えられた。
【0042】
(砂糖の粒子径の検討)
次に、下表4のとおり、各平均粒子径の砂糖1600gと平均粒子径363μmのD-アルロース400gを実施例1と同様の方法で造粒し、同じく均一性、吸湿性、流動性についての評価を行った。評価結果は、表5及び6に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
その結果、平均粒子径30及び105μmの砂糖を用いて製造すると(実施例4及び5)、均一性が良好な顆粒物が得られた。特に、平均粒子径が30μmの砂糖でより均一なものが得られた(実施例4)。一方、平均粒子径184μmの砂糖を用いて製造すると(比較例5)、D-アルロース全体を被覆することができず、均一性に欠けるものとなった。
【0046】
【0047】
平均粒子径が30μm及び105μmの砂糖を用いたときには、相対吸湿率が高いにもかかわらず、流動性が良好な顆粒物が得られた(実施例4及び5)。特に、平均粒子径30μmの砂糖を用いたときに、流動性はより良好であった(実施例4)。一方、平均粒子径184μmの砂糖を用いたときは、D-アルロースの被覆が十分でなく、吸湿するとともに流動性が悪化した(比較例5)。
【0048】
(D-アルロースの粒子径、砂糖とD-アルロースの粒子径比の検討)
次に、下表7のとおり、各平均粒子径の砂糖1600gと各平均粒子径のD-アルロース400gを実施例1と同様の方法で造粒し、均一性、吸湿性、流動性についての評価を行った。評価結果のうち均一性については表7、吸湿性及び流動性については表8に示す。
【0049】
【0050】
その結果、平均粒子径56~363μmのD-アルロースを用いて製造すると、均一性の良好な顆粒物が得られた(実施例2、4及び5~8)。しかし、D-アルロースの平均粒子径が56μmであっても、砂糖の平均粒子径がD-アルロースの平均粒子径より大きい場合、D-アルロースを砂糖で十分に被覆することができず、均一性に欠けていた(比較例6及び7)。なお、比較例8の顆粒物は均一性が良好であったが、これは、砂糖の平均粒子径とD-アルロースの平均粒子径が同等であったからであり、顕微鏡観察により、D-アルロースが砂糖に被覆された状態の顆粒物ではないことが確認された。
【0051】
【0052】
その結果、平均粒子径56~363μmのD-アルロースを用いると、相対吸湿率が高くなるにもかかわらず、流動性が維持された顆粒物が得られ(実施例2、4及び5~8)、特に、平均粒子径30μmの砂糖と平均粒子径213μmのD-アルロースを用いたときに、流動性が非常に優れた顆粒物が得られた(実施例2)。しかし、D-アルロースの平均粒子径が56~213μmの範囲内にあっても、砂糖の平均粒子径がD-アルロースの平均粒子径より大きい場合には、D-アルロースを砂糖で被覆することができず、相対吸湿率が上昇し、流動性が悪化した(比較例6~8)。
【0053】
(先行技術の追試)
特開2013-138660号特許の実施例1の追試
材料
グラニュ糖:平均粒子径500μm程度
細目グラニュ糖:平均粒子径329μm
D-アルロース過飽和水溶液(マスキット)
製造方法
参考例1:グラニュ糖にD-アルロースの過飽和溶液を注ぎ、横型ニーダーを用いて混錬・乾燥した。
参考例2:細目グラニュ糖にD-アルロースの過飽和溶液を注ぎ、縦型ミキサーで攪拌した後に薄く引きのばして乾燥させ、その後解砕した。
得られた参考例1及び2の組成物について、電子顕微鏡写真を撮影した(
図6及び
図7)。いずれも、グラニュ糖の表面に非常に微細なD-アルロース結晶が多数付着している様子が観察された。この方法では平均粒径が50μmよりも微細な(10~20μm程度の)D-アルロース結晶しか作り出すことは出来ないと考えられる。