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特許7390692リチウム二次電池固体電解質材料、電極及び電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】リチウム二次電池固体電解質材料、電極及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20231127BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231127BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231127BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231127BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231127BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/052
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021564642
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 CN2019126451
(87)【国際公開番号】W WO2020220697
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】201910381153.8
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910354433.X
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910843347.5
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910843405.4
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521134732
【氏名又は名称】国聯汽車動力電池研究院有限責任公司
(73)【特許権者】
【識別番号】521134743
【氏名又は名称】ウェスタンオンタリオ大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】サン シュエリヤン
(72)【発明者】
【氏名】リ シャオナ
(72)【発明者】
【氏名】リャン ジャンウェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン チャンゴン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ファン
(72)【発明者】
【氏名】ル シーガン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン リ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ シャンキアン
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-050182(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Li(式中、MはGa、In、Y、Bi、Nb、Feから選択される一種又は多種であり、Xは、F、Cl、Br、Iから選択される一種又は多種であり、0.2≦b≦6、0.1≦a≦3、1≦c≦9である。)で示されるリチウム二次電池添加剤の製造方法であって、
必要な原料又は前駆体を一定の配合比で混合した後、粉砕して得られること、
或いは、さらに、有機溶媒共溶再結晶法、加熱共融法、不溶性炭化水素系有機溶媒において原料粒子同士を接触させる方法を採用して、相応の相状態の化合物を製造するものであり、
必要な原料又は前駆体の混合過程において、さらに、適量な溶解補助剤、フラックス又は錯体の配位子としてNHCl、I、LiI又はSを添加することを特徴とする、リチウム二次電池添加剤の製造方法。
【請求項2】
前記原料又は前駆体が、LiXとMX前駆体とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
(式中、M、Xは、請求項と同義であり、1≦y≦6である。)
【請求項3】
得られたガラス相又はガラス-セラミック相の中間生成物を加熱焼鈍の方法でガラス-セラミック相又は結晶相に転化させ、
前記加熱焼鈍の温度が、100~600℃であり、前記加熱焼鈍の時間が、10分~24時間であり、
前記加熱焼鈍の過程において、更にNHCl、I、LiI、S、P又はフェロセンを添加して、相と形態を調整することを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
LiInCl、LiInClF、Li1-3zInCl、NaInClBrのいずれか1つで示され、zが0.25、0.2、0.143又は0.1である二次電池用の固体電解質材料。
【請求項5】
式A1-3zInX(式中、AはLi、Naから選択される一種又は多種であり、XはF、Cl、Br、Iから選択される一種又は多種であり、0<z≦0.33である。)で示される固体電解質材料の製造方法であって、
水相法を採用して製造を行い、
使用される原料又は前駆体が、AX、InXおよびMXを含み、MがAl、Ga、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Fe、Bi、Sb、Cr、Co、Zr、Zn、Cd、Mgのうちの一種又は多種であり、2≦a≦4であり、
使用される原料又は前駆体が、前記AX、InX又はMXの水和物又は溶液であり、或いは、使用される原料又は前駆体が、水相で遊離できるか又は反応により水相で遊離する場合と同等のイオン効果を有する前記AX、InX又はMXの前駆体であり、前記前駆体が炭酸塩、炭酸水素塩を含み、
或いは、前記水相法が、製造過程において加水分解抑制剤または錯化剤としてHCl、NHClを適宜添加することを特徴とする、固体電解質材料の製造方法。
【請求項6】
必要な原料又は前駆体を一定の比率で水相に溶解することを含み、必要な原料又は前駆体と水相との質量比が1:0.5~1:15であり、
前記水相が、脱イオン水、有機溶媒、又は有機溶媒/水の混合溶媒であり、前記有機溶媒がエタノールであることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記水相法では、乾燥後に100~600℃の焼鈍温度で焼鈍処理を行い、
前記焼鈍が空気雰囲気、不活性ガス雰囲気、又は真空雰囲気において行われることを特徴とする、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
Li3b-3aInClで示される組成を有し、
(式中、0.2≦a≦0.8、0.9≦b≦1.15である。)
更に第1結晶相を有し、当該第1結晶相が、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=14.6°±0.15°、16.7°±0.15°および34.3°±0.15°にピークを有することを特徴とする、固体電解質材料。
【請求項9】
前記第1結晶相において、当該結晶構造中の(001)面のX線強度をI(001)とし、当該結晶構造中の(131)面のX線強度をI(131)としたとき、I(001)/I(131)>0.6であることを満たすことを特徴とする、請求項8に記載の固体電解質材料。
【請求項10】
前記第1結晶相において、当該結晶構造中の(001)面のX線強度をI(001)とし、当該結晶構造中の(110)面のX線強度をI(110)としたとき、I(110)/I(001)<0.85であることを満たすことを特徴とする、請求項8又は9に記載の固体電解質材料。
【請求項11】
更に、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=10.8°±0.2°にピークを有する異種結晶相を含み、
前記異種結晶相が前記第1結晶相と異なる結晶構造を有し、且つ前記異種結晶相が前記第1結晶相の間に介在することを特徴とする、請求項8~10のいずれか1項に記載の固体電解質材料。
【請求項12】
更にアモルファス相を含み、前記アモルファス相が前記第1結晶相の間に介在することを特徴とする、請求項8~11のいずれか1項に記載の固体電解質材料。
【請求項13】
0.3≦a≦0.7、0.95≦b≦1.10であることを特徴とする、請求項8~12のいずれか1項に記載の固体電解質材料。
【請求項14】
10-3S/cm超のイオン伝導度を有することを特徴とする、請求項8~13のいずれか1項に記載の固体電解質材料。
【請求項15】
Li1.5In0.53Clで示される組成を有し、当該材料の室温条件下のイオン伝導度が2mS/cmであることを特徴とする、請求項8~14のいずれか1項に記載の固体電解質材料。
【請求項16】
正極活物質層、負極活物質層、及び上記正極活物質層と上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層を備え、前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも1つが、請求項8~15のいずれか1項に記載の固体電解質材料を含むことを特徴とする、全固体リチウム電池。
【請求項17】
固体電解質材料、電極材料、導電剤およびバインダーを含み、
前記固体電解質材料がLi3b-3aInClで示される組成を有し、0.2≦a≦0.8、0.9≦b≦1.15であり、更に、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=14.6°±0.15°、16.7°±0.15°および34.3°±0.15°にピークを有する第1結晶相を有することを特徴とする、電極。
【請求項18】
前記Li3b-3aInClで示される固体電解質材料は、
前記第1結晶相において、当該結晶構造中の(001)面のX線強度をI(001)とし、当該結晶構造中の(131)面のX線強度をI(131)としたとき、I(001)/I(131)>0.6であることを満たし、及び/又は、
前記第1結晶相において、当該結晶構造中の(001)面のX線強度をI(001)とし、当該結晶構造中の(110)面のX線強度をI(110)としたとき、I(110)/I(001)<0.85であることを満たすことを特徴とする、請求項17に記載の電極。
【請求項19】
前記Li3b-3aInClで示される固体電解質材料が、更にCuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=10.8°±0.2°にピークを有する異種結晶相を含み、
前記異種結晶相が前記第1結晶相と異なる結晶構造を有し、且つ前記異種結晶相が前記第1結晶相の間に介在することを特徴とする、請求項17又は18に記載の電極。
【請求項20】
前記Li3b-3aInClで示される固体電解質材料が更にアモルファス相を含み、前記アモルファス相が前記第1結晶相の間に介在することを特徴とする、請求項17~19のいずれか1項に記載の電極。
【請求項21】
前記電極材料が前記固体電解質材料に被覆され、前記電極材料と固体電解質材料との重量比が、(95:5)~(70:30)であることを特徴とする、請求項17~20のいずれか1項に記載の電極。
【請求項22】
前記電極における電極材料の含有量が50wt%から98wt%であり、及び/又は、前記固体電解質材料の含有量が2wt%から50wt%であり、及び/又は、前記導電剤の含有量が1wt%から10%であり、及び/又は、バインダーの含有量が1wt%から10%であることを特徴とする、請求項17~21のいずれか1項に記載の電極。
【請求項23】
前記固体電解質材料又はその前駆体を水に溶解し、電極材料を添加して、均一に混ぜ、乾燥させた後、さらに真空脱水乾燥することを含むか、もしくは、前記固体電解質材料又はその前駆体、及び電極材料を有機溶媒に溶解し、超音波により分散させ、乾燥させた後、更に真空脱溶媒乾燥することを含むことを特徴とする、請求項17~22のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項24】
固体電解質材料とバインダーを含み、前記固体電解質材料が請求項17~22のいずれか1項に記載の固体電解質材料と同じであり、
前記固体電解質材料の含有量が20wt%から100wt%であり、前記バインダーの含有量が0から80wt%であることを特徴とする、電解質薄層。
【請求項25】
バインダーを溶媒に溶解し、固体電解質材料又はその前駆体と導電剤を添加してスラリーとした後、集電体又はフレキシブル基板に塗布して、乾燥させ、更に前記集電体又はフレキシブル基板から剥離することを含むことを特徴とする、請求項24に記載の電解質薄層の製造方法。
【請求項26】
請求項17~22のいずれか1項に記載の電極又は請求項24に記載の電解質薄層を含み、リチウム/リチウムイオン二次電池であることを特徴とする、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2019年4月29日に出願された発明の名称が「リチウム二次電池添加剤及びその製造方法と使用」である中国発明特許第201910354433X号、2019年5月8日に出願された発明の名称が「二次電池固体電解質材料及びその製造方法と使用」である中国発明特許第2019103811538号、2019年9月6日に出願された発明の名称が「固体電解質材料と全固体電池」である中国発明特許第2019108433475号、及び2019年9月6日に出願された発明の名称が「電極、電解質薄層及びその製造方法」である中国発明特許第2019108434054号の優先権を主張し、それらの全開示内容を援用により本願に取り込む。
【技術分野】
【0002】
本発明は、リチウム二次電池添加剤、電池及び電極に関するものであり、具体的には、リチウム二次電池の電極におけるイオンの高速伝導を改善する添加剤材料、及びその製造方法と使用、二次電池固体電解質材料及びその製造方法と使用、並びに電極、電解質薄層及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
電池のエネルギー密度からすると、リチウム二次電池は、理想的な電池システムである。しかしながら、これまでのところ、リチウム二次電池の電気化学的性能は、依然として電極層におけるイオン及び電子の伝導速度に制限されている。リチウム二次電池の電極の製造過程において、電極の電子伝導チャネルは、主に、導電性カーボンなどの電子伝導性の高い材料の添加により提供される。一方、有機相のリチウム二次電池と全固体のリチウム二次電池の、電極のイオン伝導チャネルの提供方法は同じではない。有機電解質が、高透過性及び浸潤性能を有するため、電極の製造過程において、電極層に孔を空いておく等の方式により、電極層への電解質の浸潤を実現し、電極層におけるイオンの伝導を実現する。当該方法は、余分の材料の追加を回避したが、大量の孔の存在による電池のエネルギー密度の低下も非常に顕著である。同時に、この方法により厚い電極層を得ることは困難であり、電極活性材料の負荷量が更に制限される。全固体電池では、固体電解質が流動性を有さないため、電極活性粒子と電解質の間の浸潤接触問題は、液相電池より複雑である。そのため、全固体電池に使用される電極層は、高速イオンチャネルを得るために、高速イオン伝導材料を別途添加する必要があり、現在、相応の固体電解質材料を添加するのが一般的である。しかし、現在、固体電解質に存在する電極材料との化学的適合性の問題、固体電解質の空気安定性及び溶媒安定性等の問題、並びに固体電解質の製造プロセス等の問題により、固体電解質材料を電極成膜プロセスの過程に直接適用することは困難である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、まず、高いイオン伝導度及び空気安定性を有し、電極におけるイオンの高速伝導を改善し、電極負荷量と厚さを向上させ、さらに、従来のリチウム二次電池の電極材料と適合できるリチウム二次電池添加剤を提供する。当該リチウム二次電池添加剤は、リチウム二次電池における電極材料のイオン伝導が遅く、電極材料の負荷が低く、電極の厚さをさらに厚くすることが難しいなどの問題を解決することが期待され、そのため、エネルギー密度が高く、電極の分極が少ない電極極片の製造を実現し、更にリチウム二次電池のエネルギー密度を向上させることが期待されている。同時に、当該リチウム二次電池添加剤は、室温でのイオン伝導度が高く、空気で安定しており、製造方法が簡単である。
【0005】
具体的には、本発明は、下記の式で示されるリチウム二次電池添加剤を提供する。
Li
(式中、Mは、B、Al、Ga、In、Y、Sc、Sb、Bi、Nb、Ta、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される一種又は多種であり、Xは、F、Cl、Br、Iから選択される一種又は多種であり、0.2≦b≦6、0.1≦a≦3、1≦c≦9である。)
【0006】
本発明の具体的な実施形態では、bは0.2、0.5、1、2、3、4、5又は6から選択されるものであってもよく、更に好ましくは、1≦b≦3である。
【0007】
本発明の具体的な実施形態では、aは0.1、0.2、0.5、1、1.5、2、2.5又は3から選択されるものであってもよく、更に好ましくは、0.2≦a≦1である。
【0008】
本発明の具体的な実施形態では、cは1、2、3、4、5、6、7、8又は9から選択されるものであってもよく、更に好ましくは、3≦c≦6である。
【0009】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記リチウム二次電池添加剤は、Li1-dInCl(ガラス-セラミック相)で示されるものである。中でも、0≦d≦1であり、更にdは0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9又は1.0から選択されるものである。
【0010】
更に、本発明に記載のリチウム二次電池添加剤は、ガラス相、ガラス-セラミック相又は結晶相であってもよい。
【0011】
本発明のいくつかの別の好ましい実施形態では、前記リチウム二次電池添加剤は、LiInCl(結晶相)、LiNbCl(ガラス相)、LiYCl(ガラス-セラミック相)で示されるものである。
【0012】
本発明に記載のリチウム二次電池添加剤は、いずれも当分野における通常の技術に従って製造することができる。
【0013】
例えば、必要な原料(又は前駆体)を一定の配合比で混合した後、粉砕することにより製造でき、もしくは、さらに、有機溶媒共溶再結晶法、加熱共融法、不溶性炭化水素系有機溶媒において原料粒子同士を接触させる方法を採用して、相応の相状態の化合物を製造できる。
【0014】
更に、本発明に記載のリチウム二次電池添加剤を製造するための原料(又は前駆体)は、LiXとMX前駆体を含む。中でも、M、Xの定義は上記と同じであり、1≦y≦6、好ましくは、2≦y≦5である。例えば、具体的に、yは1、2、3、4、5又は6から選択されるものである。
【0015】
具体的に、前記混合は、ボール、ビーズを用いる方式で混合を行うものであってもよく、ボール、ビーズを使用せずに混合を行うものであってもよい。有機溶媒において混合してもよく、有機溶媒を使用せずに混合してもよい。
【0016】
更に、前記有機溶媒は、極性溶媒であってもよく、非極性溶媒であってもよい。溶媒は、上記LiXとMX前駆体を溶解または部分的に溶解してもよく、また、それらを溶解しなくてもよい。非極性溶媒として、炭化水素系溶媒とエーテル系溶媒が挙げられる。当該炭化水素系溶媒として、脂肪族炭化水素系溶媒及び芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶媒が好ましく、ヘキサンが更に好ましい。当該エーテル系溶媒として、環状エーテル系溶媒と鎖状エーテル系溶媒が挙げられ、環状エステル系溶媒が好ましく、テトラヒドロフランが更に好ましい。
【0017】
更に、本発明に記載のリチウム二次電池添加剤を製造する過程において、例えば、必要な原料(または前駆体)を混合する過程では、NHCl、I、LiI、S等の材料を、溶解補助剤、フラックス或いは錯体の配位子として使用することができる。その利点は、反応温度を下げることができ、配合化合物といった中間体などが形成され、生成物の獲得に有利であることにある。
【0018】
更に、本発明は、得られたガラス相又はガラス-セラミック相である中間生成物を加熱焼鈍の方法でガラス-セラミック相又は結晶相に転化させることができる。
【0019】
前記加熱焼鈍の温度は100~600℃であり、好ましくは150~350℃である。前記加熱焼鈍の時間は、通常、10分~24時間であり、好ましくは1~10時間である。加熱焼鈍は、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどの雰囲気において行ってもよく、真空雰囲気において行ってもよい。
【0020】
更に、前記加熱焼鈍の過程において、さらにNHCl、I、LiI、S、P、フェロセン等の揮発性材料を添加して、相と形態を調整することができる。その利点は、焼鈍温度を下げるとともに、材料のイオン伝導度の向上に有利であることにある。
【0021】
本発明は、上記方法により製造されたリチウム二次電池添加剤を含む。
【0022】
本発明は、更に、上記リチウム二次電池添加剤の、リチウム二次電池における電極添加剤としての使用、又は、リチウム二次電池の製造における使用を含む。本発明に記載の添加剤を採用すれば、電極のイオン伝導速度を改善でき、従来のリチウム二次電池電極材料とも適合する。
【0023】
本発明は、更に、正極層、電解質層および負極層の少なくとも1つが、上記リチウム二次電池添加剤を一種又は多種含むリチウム二次電池を提供する。
【0024】
本発明では、前記リチウム二次電池は、液相リチウム二次電池、半固体リチウム二次電池及び全固体リチウム二次電池を含む。
【0025】
本発明に記載のリチウム二次電池は、当分野における通常の方法により製造することができる。
【0026】
本発明に提供されるリチウム二次電池添加剤を、電極におけるイオンの高速伝導を改善する添加剤材料としてもよい。それに応じて、当該材料は、有機相のリチウム二次電池に適用できるだけでなく、全固体リチウム二次電池又は半固体リチウム二次電池にも適用できる。本発明に提供されるリチウム二次電池添加剤は、以下の利点がある。
【0027】
1.本発明に提案される電極添加剤材料は、空気条件下で安定しており、リチウム二次電池の電極極片の製造過程に使用される溶媒、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン)及び接着剤、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)等と化学反応しない。更に、従来のリチウム二次電池電極材料、例えば硫黄、硫化リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、高圧相ニッケルマンガン酸リチウム、およびリチウムリッチマンガン系電極材料等と化学的に適合する。従来の成熟な電極製造プロセスに直接適用できる。
【0028】
2.本発明に提案される電極添加剤材料は、室温でのイオン伝導度が高いという特徴を有し、活性電極材料と混合した後、リチウムイオンの活性電極材料と電解質との間における高速伝導を改善することができる。そのため、当該材料の添加は、電極極片内の活性粒子同士および活性粒子と電解質との間の界面抵抗を低減し、リチウム二次電池の出力特性および活性材料の負荷量を向上させるのに有利であり、更にリチウム二次電池のエネルギー密度の向上に有利である。
【0029】
3.本発明に提案される電極添加剤材料は、広い作動温度を有し、電気化学的に不活性であり、電位窓が6V以上に達し、電池の充電・放電過程で分解しない。同時に、当該材料の製造方法は簡単であり、リチウム二次電池に使用し易い。
【0030】
全固体二次電池は、現在の商業用の有機相二次電池より安全性が高い。これは、全固体二次電池が電解質として不燃性の固体高速イオン伝導材料を使用しているためである。近年の発展に伴い、イオン伝導度が1mScm-1を超える固体電解質材料はいくつか開発されている。これらの材料は、硫化物電解質及び酸化物電解質を主とする。硫化物電解質は、Li10Ge12、LiPSCl、Li11及びLiPS等を含み、酸化物電解質は、主にLi1.3Al0.3Ti1.7(PO、LiLaZr12等がある。しかし、硫化物電解質は、空気及び水の中で不安定であり、硫化水素などの有毒ガスが発生し易く、不活性ガスを保護雰囲気とする環境で操作する必要があり、酸化物電解質は高温条件下で相形成する必要があり、相形成温度は1000℃以上であり、大量生産が困難である。
【0031】
そのため、本発明は、イオン伝導度が高く(1mScm-1より高い)、空気および水の中で安定しており、商業的に常用される、例えば、LCO、NMC等の酸化物正極材料と適合する二次電池固体電解質材料を更に提供する。当該二次電池固体電解質材料は、全固体二次電池中の固体電解質材料の大量製造時に面する複雑なプロセス、時間・エネルギーの消耗、および高価格などの問題を解決することが期待されている。更に、全固体二次電池中の固体電解質材料が化学及び電気化学的に不安定である等の問題を解決できる。それにより、全固体二次電池の商用利用価値を実現する。
【0032】
具体的には、本発明は、下記の式で示される二次電池固体電解質材料を提供する。
1-3zIn
(式中、AはLi、Na、K、Csから選択される一種又は多種であり、XはF、Cl、Br、Iから選択される一種又は多種であり、0<z≦0.33である。)
【0033】
更に、0.1≦z≦0.25であり、例えば具体的に、zは0、0.25、0.2、0.167、0.143又は0.1から選択されるものであってもよい。
【0034】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記固体電解質材料は、LiInCl、LiInClF、Li1-3zInCl、NaInClBrのいずれか1つで示されるものであり、zは0.25、0.2、0.167、0.143又は0.1である。
【0035】
更に、本発明に記載の固体電解質材料では、Inの一部又は全部を以下の元素により置換して新たな電解質材料を形成してもよく、置換される元素は、Al、Ga、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Fe、Bi、Sb、Cr、Co、Zr、Zn、Cd、Mgのうちの一種又は多種である。
【0036】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記固体電解質材料は、LiIn0.80.2Cl、LiIn0.1Zn0.9Cl4.1、LiGaCl、LiFeCl、LiYCl、又はLiBiClのいずれか1つで示されるものである。
【0037】
更に、本発明に記載の固体電解質材料は、ガラス相、ガラス-セラミック相又は結晶相であってもよい。
【0038】
更に、本発明に記載の固体電解質材料料は、主結晶相を含み、前記結晶相は歪んだ岩塩相構造である。
【0039】
更に、本発明に記載の固体電解質材料は、異種結晶相を含んでもよく、前記異種結晶相と主結晶相は、異なる結晶構造配列を有する。
更に、本発明に記載の固体電解質材料は、アモルファス相を含んでもよい。
一般的に、本発明に記載の固体電解質材料は、いずれも本分野の通常の技術により製造することができる。
【0040】
具体的には、本発明に記載の固体電解質材料は、水相法により製造される。採用される原料(又は前駆体)は、AX、InXおよびMXを含むが、これらに限定されない。中でも、A、Xは前記と同義であり、MはAl、Ga、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Fe、Bi、Sb、Cr、Co、Zr、Zn、Cd、Mgのうちの一種又は多種であり、2≦a≦4である。
【0041】
好ましくは、前記原料AX、InX及びMXを、それらに対応する水和物または溶液に広めてもよい。或いは、前記原料AX、InX及びMXを、水相で遊離するか又は反応により水相で遊離する場合と同等のイオン効果を有する前駆体に広めてもよく、炭酸塩、炭酸水素塩を含むが、これらに限定されない。
【0042】
更に、上記水相法は、製造過程において、加水分解抑制剤または錯化剤としてHCl、NHCl等を適宜添加してもよい。
【0043】
更に、上記水相法は、具体的には、必要な原料又は前駆体を一定の比率で水相に溶解することを含み、必要な原料又は前駆体と水相との質量比は1:0.5~1:15であり、好ましくは1:2~1:5である。
【0044】
更に、上記水相法は、必要な原料又は前駆体を室温条件下で水相に溶解して、すべての成分が溶解した後、乾燥して固体電解質材料を得ることができる。上記乾燥の温度は、通常、60~100℃であり、真空または非真空条件下で乾燥を行うことができる。例えば、オーブンで乾燥することができる。
【0045】
更に、上記水相法では、乾燥後に焼鈍処理を行ってもよく、焼鈍の温度は100~600℃であり、好ましくは120~500℃である。その利点は、材料の結晶化度が高められ、材料の安定性およびイオン伝導度を向上させるのに有利であることにある。
前記焼鈍は、空気雰囲気において行ってもよく、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気において行ってもよい。
【0046】
更に、上記製造方法に記載の水相は、脱イオン水を使用できるだけではなく、代わりに有機溶媒または有機溶媒/水の混合溶媒を使用するように広めてもよい。
【0047】
更に、上記製造方法に記載の有機溶媒は、アルコール系有機溶媒、例えばエタノールである。
【0048】
本発明は、更に、上記方法により製造された固体電解質材料を含む。
【0049】
本発明に記載の固体電解質材料は、二次電池の添加剤として使用してもよく、二次電池の電解質として使用してもよい。
【0050】
本発明は、更に、二次電池の製造における、上記固体電解質材料の使用を含む。本発明に記載の固体電解質材料を採用する場合、電極のイオン伝達速度を改善し、従来の二次電池の電極材料と適合することができる。
【0051】
本発明は、更に、正極(層)、負極(層)、及び前記正極(層)と負極(層)の間にある電解質層を含み、前記正極(層)、負極(層)および電解質層の少なくとも一つが、上記固体電解質材料を一種又は多種含む二次電池を提供する。
【0052】
本発明に記載の二次電池は、リチウム二次電池とナトリウム二次電池を含む。
【0053】
本発明に記載の二次電池は、当分野における通常の方法により製造することができる。
【0054】
本発明に提供される固体電解質材料は、空気及び水相の中で安定して分解せず、そのイオン伝導度が1mScm-1より高くなることができ、広い作動温度を有し、電気化学的に不活性であり、電位窓が5V以上に達し、酸化物正極に対して安定であり、電池の充電・放電過程で分解せず、二次電池に適用し易い。
【0055】
本発明に提供される固体電解質材料の相形成温度は低く、室温でボールミルで粉砕し、あるいは水相で乾燥させるだけでも相形成ができ、その製造方法は簡単であり、大量製造に適用し易い。
【0056】
ハロゲン化物電解質材料、例えばLiYCl、LiInCl等の材料は、高電圧正極に対して安定であり、乾燥室での操作が可能であって、且つ、材料が柔らかく、成形加工が容易であり、工業用途が期待されている。しかし、ハロゲン化物電解質材料は通常、イオン伝導度が低く、そのイオン伝導度をさらに向上させる必要がある。LiInCl電解質材料は、早くも1992年に報告されており、その室温でのイオン伝導度はわずか10-5S/cm(Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie 1992,613,26-30.)であり、リチウム二次電池の要求をよく満足できない。
【0057】
そのため、本発明は、更に、リチウムイオン伝導度が高い固体電解質材料を提供する。
【0058】
本発明者は、実際の研究で、結晶構造中の原子配列を調整することでリチウムイオン伝導度を向上させることができ、イオン伝導度>10-3S/cm(室温)のインジウム系ハロゲン化物電解質材料が得られることを見出した。以前報告されたLiInCl電解質材料に比べて、構造調整によって得られるインジウム系ハロゲン化物電解質材料Li3b-3aInClは、より高いイオン伝導度を有する。そして、本発明で得られる固体電解質材料は、商業的に常用される、例えば、LCO、NMC等の酸化物正極材料と適合でき、空気に対して安定である。全固体二次電池におけるハロゲン化物固体電解質材料が商業的に使用される時に面するイオン伝導度が低い問題を解決することが期待され、更に、従来の複雑な製造プロセス及び高価格等の問題を解決することが期待されている。また、本発明は、更に、全固体二次電池中の固体電解質材料が化学及び電気化学的に不安定である等の問題を解決できる。それにより、全固体二次電池の商用利用価値を実現する。
【0059】
具体的には、本発明は、固体電解質材料を提供し、当該固体電解質材料はLi3b-3aInClで示される組成を有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=14.6°±0.15°、16.7°±0.15°および34.3°±0.15°にピークを有する第1結晶相を更に有する。中でも、0.2≦a≦0.8、0.9≦b≦1.15である。
【0060】
本発明によれば、前記第1結晶相における前記原子配列は、歪んだLiCl結晶構造と類似しており、Clイオンの配列は、歪んだLiCl結晶構造におけるClイオンの配列と類似している。Liイオン、空孔及びインジウムイオンは、歪んだLiCl結晶構造のLiサイトに配列されている。
【0061】
本発明によれば、前記第1結晶相において、前記インジウムイオンとリチウムイオンの位置は同じ位置ではない。
【0062】
本発明によれば、前記第1結晶相において、前記空孔の配列には2つのタイプがあり、1つはインジウムイオンと同じ位置に配置されるものであり、もう1つはいずれのイオンとも同じ位置に配置されていないものである。
【0063】
本発明によれば、前記第1結晶相において、当該結晶構造中の(001)面のX線強度をI(001)とし、当該結晶構造中の(131)面のX線強度をI(131)としたとき、I(001)/I(131)>0.6であることを満たす。好ましくは、I(001)/I(131)>0.8である。
【0064】
本発明によれば、前記第1結晶相において、当該結晶構造中の(001)面のX線強度をI(001)とし、当該結晶構造中の(110)面のX線強度をI(110)としたとき、I(110)/I(001)<0.85であることを満たす。好ましくは、I(110)/I(001)<0.65である。
【0065】
更に、本発明に記載の固体電解質材料は、更にCuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=10.8°±0.2°にピークを有する異種結晶相を含む。
【0066】
本発明によれば、前記異種結晶相は前記第1結晶相と異なる結晶構造を有し、且つ前記異種結晶相は前記第1結晶相の間に介在する。
【0067】
更に、本発明に記載の固体電解質材料はさらにアモルファス相を含む。
【0068】
本発明によれば、前記アモルファス相は前記第1結晶相の間に介在する。
【0069】
本発明によれば、前記固体電解質材料では、0.3≦a≦0.7、0.95≦b≦1.10であり、例えば、具体的に、aとして0.53を選択してもよく、bとして1.03を選択してもよい。
【0070】
本発明に記載の固体電解質材料は、上記第1結晶相を有するため、高いイオン伝導度を有し、特に、上記異種結晶相及びアモルファス相を更に有する場合、商業的に常用される、例えばLCO、NMC等の酸化物正極材料と適合でき、空気に対して安定である。
一般的に言えば、本発明に記載の固体電解質材料は、10-3S/cm超のイオン伝導度(室温)を有している。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態では、前記固体電解質材料は、0.7~2.5mS/cmのイオン伝導度を有している。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態では、前記固体電解質材料は、1.0~2.0mS/cmのイオン伝導度を有している。
【0073】
本発明のいくつかの具体的な実施形態では、前記固体電解質材料は、Li1.5In0.53Clで示される組成を有し、測定したところ、当該材料の室温条件下のイオン伝導度は2mS/cmである。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態では、前記固体電解質材料のX線回折(CuKα線を使用して測定した)図は、後述の図24に示すとおりである。
【0075】
具体的には、本発明に記載の固体電解質材料は、水相法により製造することができる。採用される原料(又は前駆体)は、リチウム源とインジウム源を含み、リチウム源は、LiCl、LiCO、LiHCO、LiOH又は酢酸リチウムを含み、インジウム源は、InCl、InCl・4HO、In、InOClを含む。
【0076】
更に、前記水相法は、製造過程において加水分解抑制剤または錯化剤としてHCl、NHCl等を適宜添加してもよい。
【0077】
更に、前記水相法は、具体的には、必要な原料又は前駆体を一定の比率で水相に溶解することを含む。
【0078】
更に、前記水相法は、必要な原料又は前駆体を室温条件下で水相に溶解して、すべての成分が溶解した後、乾燥して固体電解質材料を得ることができる。前記乾燥の温度は、通常、60~100℃であり、例えば80℃であり、真空または非真空条件下で乾燥を行うことができる。例えば、オーブンで乾燥することができる。乾燥後のサンプルは、真空条件下で結晶水をさらに除去する必要があり、脱水温度は100~300℃であり、好ましくは120~250℃である。
【0079】
更に、前記水相法では、脱水後に、更に焼鈍処理を行ってもよく、焼鈍の温度は300~600℃であり、好ましくは350~550℃である。その利点は、材料の結晶化度が高められ、材料の安定性およびイオン伝導度を向上させるのに有利であることにある。
前記焼鈍は、空気雰囲気において行ってもよく、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気において行ってもよい。
【0080】
更に、前記製造方法に記載の水相は、脱イオン水を使用できるだけではなく、代わりに有機溶媒または有機溶媒/水の混合溶媒を使用するように広めてもよい。
【0081】
更に、前記製造方法に記載の有機溶媒は、アルコール系有機溶媒、例えばエタノールである。
【0082】
本発明は、また、正極活物質層、負極活物質層、及び上記正極活物質層と上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層を備え、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも1つが上記固体電解質材料を含む全固体リチウム電池を提供する。
【0083】
本発明によれば、上記の固体電解質材料を使用することにより、出力特性が高い全固体リチウム電池を製造することができる。更に、当該全固体リチウム電池は、高い化学的安定性及び電気化学的安定性をも有している。
【0084】
本発明に提供される固体電解質材料は、少なくともリチウムイオン伝導度が高いという技術効果を達成しており、さらに化学的安定性および電気化学的安定性を有するという技術効果を達成している。
【0085】
全固体二次電池は、現在の商業用の液状の二次電池より高い安全性とエネルギー密度を有している。これは、全固体二次電池が電解質として不燃性の固体高速イオン伝導材料を使用しているためである。近年の発展に伴い、イオン伝導度が1mScm-1を超える固体電解質材料がいくつか開発されている。特に、Li10Ge12、LiPSCl、Li11及びLiPSに代表される硫化物固体電解質がある。しかし、硫化物電解質は空気や水に非常に敏感で、硫化水素などの有毒ガスが発生しやすいため、不活性ガスを保護雰囲気とする環境で生産・操作する必要があり、そのため、製造コストが増え、大量生産への適用能力が制限されている。次に、硫化物電解質の電位窓は狭く(1.7~2.8V)、酸化物電極材料(例えば、LiCoO、NMC、Graphite等)と界面反応するため、界面修飾(電極材料の表面を被覆すること)が硫化物系全固体電池にとって不可欠になっている。また、硫化物の化学的不安定性により、極性溶媒と反応しやすいため、スラリーの製造と電極の塗布等の電極製造過程において、選択できる溶媒とバインダーが非常に限られている。上記のような多くの欠点があるため、硫化物系全固体電池の大規模生産・適用の能力が非常に限られている。これをもとに、更に本発明を提案する。
【0086】
本発明は、更に、電極(具体的にはハロゲン化物固体電解質材料に基づく電極)及びその製造方法を提供する。本発明は、電解質薄層(具体的にはハロゲン化物固体電解質材料に基づく電解質薄層)及びその製造方法を提供する。本発明は、更に、前記電極又は前記電解質薄層を含む電池を提供する。本発明は、固体電解質材料をイオン伝導添加剤として電極又は電解質薄層を製造するものであり、その顕著な利点の1つは、不活性雰囲気なしで生産・操作でき、製造される電極と電解質層が空気において安定であることである。
【0087】
特に、本発明に記載の電極とは、二次電池、特にリチウム/リチウムイオン二次電池(全固体電池と液相電池を含む)に使用される電極である。
【0088】
本発明は、電極を提供し、その組成は主に固体電解質材料、電極材料、導電剤およびバインダーを含み、前記固体電解質材料は、LiMXで示される材料を選択でき、中でも、MはAl、Ho、Ga、In、Sc、Y、La系のうちの一種または復数種であり、XはF、Cl、Brのうちの一種又は多種であり、0≦a≦10、1≦b≦13である。
【0089】
本発明の具体的な実施形態では、前記固体電解質材料は、LiInCl、LiYCl、LiYBr、LiHoCl、LiScCl等から選択される一種または復数種であってもよい。
【0090】
前記電極材料は正極材料又は負極材料であり、更に、前記正極電極材料は、LiCoO、NMC(ニッケルコバルトマンガン三元リチウムイオン酸化物材料)、LiFePO等の伝統的な酸化物正極材料であってもよく、又は、硫黄、硫化リチウム(LiS)、硫黄変性ポリアクリロニトリル等の硫黄正極材料であってもよく、前記負極材料は、グラファイト、シリコン等の負極材料であってもよい。
【0091】
前記導電剤は、当分野における一般的な選択であってもよく、例えば導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、グラフェン等のうちの一種または復数種であってもよい。
【0092】
前記バインダーは、当分野における一般的な選択であってもよく、例えば、アクリロニトリル多元共重合体の水分散液(LA132、LA133等)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アルギン酸ナトリウム(SA)のような水性バインダーであってもよく、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)等の油性バインダーであってもよい。
【0093】
本発明に記載の電極は、更に、当分野において常用されるその他の機能性添加剤を含む。
【0094】
更に、本発明に記載の電極は、さらに集電体を含み、具体的には、当分野における一般的な選択であってもよい。例えば、集電体は、アルミ箔(正極)、アルミメッシュ(正極)、カーボンコートアルミ箔(正極)、カーボンペーパー(正負極)、ステンレス鋼(正負極)、チタンメッシュ(正負極)または銅箔(負極)を選用できる。
【0095】
更に、本発明に提供される電極における電極材料の含有量は、50wt%から98wt%であってもよく、好ましくは70wt%から95wt%であり、及び/又は、前記固体電解質材料の含有量は、2wt%から50wt%であってもよく、好ましくは5wt%から30wt%であり、及び/又は、前記導電剤の含有量は、1wt%から10%であってもよく、及び/又は、前記バインダーの含有量は、1wt%から10wt%であってもよい。
【0096】
更に、本発明に提供される電極を製造する場合、前記固体電解質材料を直接添加すること以外にも、その前駆体(例えばLiCl、MCl)を直接添加して、スラリーを製造する過程において固体電解質材料を直接形成することもできる。スラリーを製造する過程に使用される溶媒は、水であってもよく、エタノール、NMP、n-ヘプタンなどの有機溶媒の一種または復数種であってもよい。製造されるスラリーは50~300℃で真空乾燥することができる。スラリーを製造する過程では、不活性雰囲気で保護する必要がないが、不活性雰囲気、例えば窒素ガスやArガスを使用してもよい。スラリーを製造する過程は、乾燥室で行ってもよく、乾燥室で行わなくてもよい。
【0097】
更に、本発明に記載の電極材料は、商用化されたLiCoO、NMC等の伝統的な電極材料であってもよく、余分な表面被覆は必要ないが、被覆された電極材料であってもよい。
【0098】
更に、本発明に提供される電極に用いられる電極材料は、特殊な表面被覆がなくてもよいが、表面被覆層により修飾されてもよい。前記表面被覆層は、Li-Nb-O、Li-Ta-O、Li-P-O、Li-Si-O、Li-Ti-Oを含む、ALD堆積によって得られたものであってもよい;アルミニウム-ポリエチレングリコール(Alucone)、ポリウレア(ployurea)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を含む、ゾル-ゲル法で合成されたものや分子層堆積技術により得られたものであってもよいが、それらに限定されない;或いは、Li-Nb-O、Li-Ta-O、Li-Nb-Ta-Oを含む、ゾル-ゲル法で合成されたものであってもよいが、それらに限定されない。
【0099】
本発明のいくつかの具体的な実施形態では、前記電極材料は前記固体電解質材料に被覆され、前記電極材料と前記固体電解質材料との重量比は、95:5、90:10、85:15、80:20、70:30であり、更に好ましくは85:15である。研究により、本発明に提供される電極の、前記電極材料を前記固体電解質材料で被覆する利点が、固体電解質と電極との間の固体接触が改善され、固体電池における電極活性材料の利用率が向上し、電極における固体電極中の電解質の含有量が減少し、それによって全固体電池のエネルギー密度が向上することにあることが見出されている。
【0100】
本発明において、前記電極材料を前記固体電解質材料で被覆して複合電極材料を形成する製造方法は、下記のとおりである。
【0101】
前記固体電解質材料又はその前躯体を水に溶解し、さらに前記電極材料を添加し、均一に混ぜ、乾燥(例えば、100℃の条件下で乾燥)させた後、さらに真空脱水乾燥(例えば、200℃の条件下)すればよい。または、製造方法は下記のとおりである。
【0102】
前記固体電解質材料又はその前躯体、及び電極材料を有機溶媒に溶解し、超音波で分散させ、乾燥(例えば、100℃の条件下で乾燥)させた後、更に真空脱溶媒乾燥(例えば、200℃の条件下;例えば、時間が5時間程度)すればよい。
【0103】
本発明に提供される電極は、当分野における通常の方法により製造することができる。その製造方法では、通常、全製造過程において不活性雰囲気で保護する必要がなく、実際の生産・操作にとって便利である。しかし、従来の硫化物電解質は、不活性雰囲気下で操作・生産しなければならない。
【0104】
また、本発明は前駆体から直接開始し、電極材料にハロゲン化物電解質材料を直接、in situコーティングすることができる。しかし、硫化物電解質は、過酷な条件下で固体電解質を合成した後、電極に分散するものである。これに対して、本発明に提案されるin situコーティングの方法は、より簡単且つ便利であり、電極材料と電解質との間の固体接触を向上させている。
【0105】
また、本発明に提供される電極の利点は、前記固体電解質材料と電解質とが良好な固体接触を有し、活性材料の利用率が100%に近く、電極における固体電解質の含有量が少ない(<15%)(従来の文献で報告されている固体電極における固体電解質の含有量は30%に近いものである)ことにあり、全固体電池の電極において、固体電解質の含有量の減少により、電池のエネルギー密度が顕著に向上する。
【0106】
また、本発明に提供される電極は、必要に応じて当分野の通常の形状または形態に製造することができる。
【0107】
本発明は、また、主に固体電解質材料とバインダーとを含み、前記固体電解質材料とバインダーが上文と同義である電解質薄層を提供する。その製造過程において用いられる溶媒も上文と同じものであってもよい。
【0108】
本発明に提供される電解質薄層の顕著な利点は、その厚さが小さく、通常、その厚さが50μm未満であってもよいことにある。本発明のいくつかの具体的な実施形態では、提供される電解質薄層の厚さは20~200μmである。
【0109】
本発明に記載の電解質薄層は、薄い厚さを有し、固体電池に使用すると、全固体電池のエネルギー密度を著しく増加させることができる。
【0110】
本発明に記載の電解質薄層は、当分野における通常の方法により製造することができ、製造過程では不活性雰囲気で保護する必要がない。水相又は有機相を溶媒及び接着剤として採用することで、電解質薄層の製造を実現できる。
【0111】
本発明のいくつかの具体的な実施形態では、前記電解質薄層の製造方法は以下のとおりである。
【0112】
バインダーを溶媒に溶解し、前記固体電解質材料又はその前躯体(例えばLiCl、MCl)と導電剤を添加してスラリー(溶剤の量を調整することにより、スラリーの濃度を調整することができる)を製造し、その後、集電体又はフレキシブル基板に塗布して、乾燥(例えば、100~110℃に調整して真空乾燥)させ、更に前記集電体又はフレキシブル基板から剥離すればよい。
【0113】
更に、前記集電体は銅箔であってもよく、前記フレキシブル基板は、ニッケルメッシュ、PEOフィルム等であってもよい。
【0114】
更に、本発明に提供される電解質薄層において、前記固体電解質材料の含有量は、20wt%から100wt%であり、好ましくは45wt%から99wt%であり、バインダーの含有量は0から80wt%であり、好ましくは1wt%から55wt%である。
【0115】
更に、本発明に提供される電解質薄層は、フレキシブル基板、例えばPEOフィルム、glass fiber等を自立フィルムとして採用してもよい。
本発明は、更に、電極又は電解質薄層の製造における、上記のような固体電解質材料の使用を含む。
【0116】
本発明に提供される固体電解質材料は、水溶液中で合成することができる。これまで、固体電解質を水相で合成できるという報告はない。本発明は、水系バインダー、水を溶媒として採用して固体電解質を合成してもよく、水を用いて固体電極と固体電解質層を作製してもよく、低コストで環境にやさしい。
【0117】
本発明のいくつかの実施例では、上記電極又は上記電解質薄層に用いられる固体電解質材料は、上記のLi3b-3aInClで示される組成を有する固体電解質材料であってもよく、中でも、0.2≦a≦0.8、0.9≦b≦1.15である。当該固体電解質材料は、更にCuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=14.6°±0.15°、16.7°±0.15°および34.3°±0.15°にピークを有する第1結晶相を有する。前記Li3b-3aInClで示される組成の固体電解質材料について、具体的には、上文及び後述の実施例と図面を参照できる。
【0118】
本発明は、更に、電池、特に二次電池、特にリチウム/リチウムイオン二次電池(全固体電池と液相電池を含む)の製造における、上記電極又は上記電解質薄層の使用を含む。
【0119】
本発明は、更に、上記電極又は上記電解質薄層を含み、更に二次電池の他の通常の部品を含む、二次電池、特にリチウム/リチウムイオン二次電池(全固体電池と液相電池を含む)を提供する。
【0120】
本発明に提供される電極、電解質薄層は、以下の利点を有する。
(1)溶媒として水を使用して電極に塗布できること;
(2)イオン伝導度が1.5×10-3S/cm以上に達することができること;
(3)生産・操作では、不活性雰囲気で保護する必要がなく、生産コストが低減され、プロセスが簡単であること;
(4)得られた電極が、ある程度の機械的柔軟性を有すること;
(5)従来のリチウムイオン電池の生産過程と十分に適合すること;
(6)電極材料において、固体電解質をin-situ合成(ワンステップ法)し、固体電解質が電極材料を被覆する構造を形成でき、電極と固体電解質との間の固体接触が改善され、全固体電池における活性材料の利用率が向上し、固体電極における固体電解質の含有量が減少され、それによって固体電池のエネルギー密度が向上すること。
【0121】
本発明は、全固体電池のイオン伝導の添加剤として、空気で安定しており、イオン伝導が高くて大量製造が容易である固体電解質材料を採用するものであり、固体電解質材料と酸化物電極材料(例えばLCO、NMC等)との適合性のため、伝統的な正極材料は、余分な界面修飾を必要としない。電極と電解質の製造過程において、不活性雰囲気で保護する必要がなく、伝統的な電極の製造技術との適合性が十分であり、プロセスが簡単で、コストが低く、大規模生産の能力が極めて高いため、商用利用価値も極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0122】
図1】実施例1.1におけるガラス-セラミック相のLi1-dInCl(d=0.2)添加剤のX線回折パターンである。
図2】実施例1.1におけるガラス-セラミック相のLi1-dInCl(d=0.2)添加剤の異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
図3】実施例1.1におけるガラス-セラミック相のLi1-dInCl添加剤のdの値とそれに対応する生成物のイオン伝導度の変化曲線である。
図4】実施例1.2における結晶相のLiInClのX線回折パターンである。
図5】実施例1.2における結晶相のLiInClの異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
図6】使用例1.1における全固体のLiIn-LiCoO二次電池の充放電曲線である。
図7】使用例1.1の全固体のLiIn-NMC811二次電池の充放電曲線である。
図8】使用例1.2の液相Li-LCO二次電池の充放電曲線である。
図9】実施例2.1の水溶液中で得られたz=1/7(LiInCl)のX線回折パターンである。
図10】実施例2.1の水溶液中で得られたLiInClの異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
図11】実施例2.2の水溶液中で得られたLiInClFの異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
図12】実施例2.3で得られたLi1-3zInCl(0.1≦z≦0.25)の室温におけるイオン伝導度とzの変化との関係図である。
図13】実施例2.5で得られたガラス-セラミック相のLiIn0.80.2Cl固体電解質材料のX線回折パターンである。
図14】実施例2.5で得られたガラス-セラミック相のLiIn0.80.2Cl固体電解質材料の異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
図15】実施例2.6で得られたガラス-セラミック相のLiIn0.1Zn0.9Cl4.1固体電解質材料のX線回折パターンである。
図16】実施例2.7で得られたガラス-セラミック相のLiGaCl固体電解質材料のX線回折パターンである。
図17】実施例2.7で得られたガラス-セラミック相のLiGaCl固体電解質材料の室温条件下のインピーダンス曲線である。
図18】実施例2.8で得られたガラス-セラミック相のLiFeCl固体電解質材料のX線回折パターンである。
図19】実施例2.8で得られたガラス-セラミック相のLiFeCl固体電解質材料の室温条件下のインピーダンス曲線である。
図20】実施例2.9で得られたガラス-セラミック相のLiYCl固体電解質材料のX線回折パターンである。
図21】実施例2.9で得られたガラス-セラミック相のLiYCl固体電解質材料の異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
図22】使用例2.1における全固体のLiIn-LiCoO二次電池の充放電曲線である。
図23】使用例2.1の全固体のLiIn-NMC811二次電池の充放電曲線である。
図24】実施例3.1で得られたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料のX線回折及びそれに対応する構造修正図である。
図25】実施例3.1で得られたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料のシンクロトロン放射X線吸収スペクトル及びそのフィッティング構造モデルである。
図26】実施例3.1で得られたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料の結晶構造及びその原子配列図である。
図27】実施例3.1で得られたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料の電気化学的特性を表す図である。aは、当該材料の異なる温度におけるインピーダンス曲線及びそれに対応する異なる温度におけるイオン伝導度を示す図であり、bは、当該材料の電位窓の測定曲線である。
図28】使用例3.1における全固体のLiIn-LiCoO二次電池の充放電曲線である。
図29】使用例3.1の全固体のLiIn-NMC811二次電池の充放電曲線である。
図30】実施例4.1の水相でLiInClに被覆されたLiCoO正極材料を形成する過程及び製造された材料を示す図である。
図31】実施例4.2の水相でLiInClに被覆されたLiCoO正極材料をin-situ形成する過程及び製造された材料を示す図である。
図32】実施例4.3の有機相でLiInClに被覆されたNMC532正極材料を形成する過程及び製造された材料を示す図である。
図33】実施例4.4の有機相でLiInClに被覆されたNMC532正極材料をin-situ形成する過程及び製造された材料を示す図である。
図34】実施例4.5の有機相が塗布された電極材料を製造する過程及び製造された材料を示す図である。
図35】実施例4.6の有機相が塗布された電解質層を製造する過程及び製造された材料を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0123】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。実施例において具体的な技術や条件が明示されていないものについて、当分野の文献に記載の技術や条件に従い、又は、製品の説明書に従って行う。メーカーが明示されていない試薬や器械は、いずれも正規ルートで購入できる通常の製品である。
【0124】
以下の実施例では、グローブボックス内で粉砕を行い、粉砕は手動粉砕または機械粉砕のいずれかであってもよく、ボールミルによる操作は、ジルコニアボールミルジャーで行ってもよく、通常は密閉してボールミルで行う。
【0125】
実施例1.1 ガラス-セラミック相のLi1-dInCl添加剤及びその製造
【0126】
30mmolのLiCl(1.29g)、10-10a mmolのInCl及び10a mmolのYClを粉砕した後、ジルコニアボールミルジャーに置き、その後、密閉してボールミルで30時間粉砕した。そのうち、ボール:粉末の重量比を30:1とし、ボールミルの回転速度を550rpmとした。ボールミルで粉砕した後に得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLi1-dInCl添加剤であった。中でも、dは0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9および1.0である。
【0127】
図1図2は、それぞれ、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLi1-dInCl(d=0.2)のX線回折パターン、異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。図3は、dの上記の値とそれに対応する生成物のイオン伝導度の変化曲線である。
【0128】
実施例1.2 結晶相のLiInCl添加剤及びその製造
【0129】
30mmolのLiCl(1.29g)、10mmolのInCl(2.21g)を粉砕した後、ジルコニアボールミルジャーに置き、その後、密閉してボールミルで20時間粉砕した。そのうち、ボール:粉末の重量比を20:1とし、ボールミルの回転速度を550rpmとした。ボールミルで粉砕した後に得られた中間生成物を、密閉された石英管内で450℃で10時間反応させた。得られた生成物が、結晶相のLiInCl添加剤であった。
【0130】
図4図5は、それぞれ、本実施例で製造された結晶相のLiInClのX線回折パターン、異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
【0131】
実施例1.3 ガラス相のLiNbCl添加剤及びその製造
【0132】
製造方法は実施例1.1と類似しており、その差異は、用いられた原料が、30mmolのLiCl(1.29g)と2.7gのNbClであり、ボールミルの回転速度が450rpmに変更され、ボールミルで10時間粉砕したことのみである。前駆体をボールミルで粉砕した後、ガラス相のLiNbCl添加剤が得られた。
【0133】
実施例1.4 ガラス-セラミック相のLiYCl電極添加剤材料及びその製造
【0134】
30mmolのLiCl(1.29g)、10mmolのYCl(1.95g)、20mmolの塩化アンモニウム(1.08g)を粉砕して混合した後、テトラヒドロフラン溶媒に溶解した。その後、得られた溶液を真空乾燥箱内に置いて150℃で乾燥させた。得られた中間生成物を、アルゴン雰囲気下で500℃で5時間焼成した後、ガラス-セラミック相のLiYCl電極添加剤材料が得られた。
【0135】
使用例1.1 実施例1.2で製造された結晶相のLiInCl電極添加剤材料の、
【0136】
全固体LiIn-LiCoO、LiIn-LiNi0.8Mn0.1Co0.1(LiIn-NMC811)への使用
【0137】
修飾されていないLiCoO及びNMC811を正極材料として採用した。正極材料:結晶相のLiInCl電極添加剤材料=70:30(質量比)の配合比で混合し、混合過程はグローブボックス内で行い、具体的には、乳鉢にて20分粉砕した。粉砕後の材料を正極粉体とし、薄いインジウムシートを負極とし、電解質としては、同じく商用のLi10GeP12電解質材料を採用した。電解質材料であるLi10GeP12を100mg取り、断面積が0.785cmの電池用モールドの内腔部に入れ、200MPaの圧力で打錠して電解質層を得た。次に、電解質層の片側に正極粉体10mgを添加し、広げて均一にした後、350MPaの圧力で二回目の打錠を行い、正極層と電解質層とをラミネートした。その後、もう一方の片側に負極層としてインジウムシートを設置した。全過程終了後、内腔部を電池用モールドに入れ、ネジを締めて封口した。封口後、全固体のLiIn-LiCoOとLiIn-NMC811二次電池を得た。中でも、全固体のLiIn-LiCoO電池に対して、100μAの電流密度で充放電試験を行い、カットオフ電圧は1.9~3.6Vであった。図6は、当該電池の1~5サイクルの充放電曲線図であり、最初のサイクルの充電容量はコバルト酸リチウム1gあたり142mAhであり、最初のサイクルの放電容量はコバルト酸リチウム1gあたり131mAhであり、対応する最初のサイクルのクーロン効率は91.7%であった。その後、電池の容量は、コバルト酸リチウム1gあたり130mAh程度で安定し、電池サイクルの可逆性は良かった。中でも、全固体のLiIn-NMC811電池は、100μAの電流密度で充放電試験を行い、カットオフ電圧は1.9~3.9Vであった。図7は、当該電池の最初のサイクルの充放電曲線図であり、最初のサイクルの充電容量はNMC811 1gあたり231mAhであり、最初のサイクルの放電容量はNMC811 1gあたり192mAhであり、対応する最初のサイクルのクーロン効率は83.1%であった。
【0138】
使用例1.2 実施例1.2で製造された結晶相のLiInCl電極添加剤材料の、液相のLi-LiCoOへの使用
【0139】
修飾されていないLiCoOを正極材料として採用した。正極材料:結晶相のLiInCl電極添加剤材料=90:10(質量比)の配合比で混合して、混合過程はグローブボックス内で行い、具体的には、乳鉢にて20分粉砕した。粉砕後の材料を正極粉体とした。85wt%正極粉体、10wt%PVDF接着剤及び5wt%導電性カーボンブラックを攪拌してスラリーを製造し、スラリーを製造するための溶媒としてNMPを採用した。得られたスラリーを金属アルミ箔に塗布した。真空で100℃で乾燥させ、正極片を得た。極片の厚さは400μmを超えており、片面におけるLCOの負荷は20mg/cmであった。リチウムシートを対電極とし、ポリオレフィン多孔質膜(Celgard 2500)をセパレータとし、LiPFのエチレンカーボネート(EC)と炭酸ジメチル(DMC)(体積比1:1)の混合溶液を電解液として、CR2016電池の組立は、アルゴン雰囲気のグローブボックスで完成させた。測定温度を25℃として電気的性能の測定を行った。図8は、当該電池の最初のサイクルの充放電曲線図であり、最初のサイクルの充電容量はLCO 1gあたり139mAhであり、最初のサイクルの放電容量はLCO 1gあたり129mAhであり、対応する最初のサイクルのクーロン効率は92.8%であった。
【0140】
以上の実験結果から、本発明に提供されるリチウム二次電池添加剤が、電極のイオン伝導速度を改善でき、かつ、従来のリチウム二次電池電極材料と適合することが明らかになった。当該材料は、室温におけるイオン伝導度が高く、空気で安定していながら、製造方法が簡単で、従来のリチウム二次電池電極材料と適合する。リチウム二次電池における電極材料のイオン伝導が遅く、電極材料の負荷が低く、電極の厚さをさらに厚くすることが難しいなどの問題の解決が期待され、そのため、高エネルギー密度を有し、電極の極化が少ない電極極片の製造を実現し、リチウム二次電池のエネルギー密度を更に向上させることが期待されている。
【0141】
実施例2.1 水溶液におけるLiInCl固体電解質材料の製造
【0142】
40mmolのLiCl(1.7g)、10mmolのInCl(2.21g)を、空気雰囲気で秤量し、20mlのガラス瓶に移した後、10mLの脱イオン水を入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶をオーブン内に置いて90℃で乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを更に260℃のマッフル炉に入れて焼鈍した。焼鈍の時間は5時間であり、焼鈍後に得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLiInCl固体電解質材料であった。
【0143】
図9図10は、それぞれ、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLiInCl固体電解質材料のX線回折パターンおよび異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
【0144】
実施例2.2 水溶液におけるLiInClF固体電解質材料の製造
【0145】
実施例2.1と類似しているが、それとの差異は、40mmolのLiCl(1.7g)前駆体を20mmolの塩化リチウム(0.85g)と10mmolのフッ化リチウム(0.26g)の混合物に変更し、焼鈍の温度を400℃に変更したことであった。焼鈍後に得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLiInClF固体電解質材料であった。
【0146】
図11は、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLiInClF固体電解質材料の異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
【0147】
実施例2.3 水相環境における多種のLi1-3zInCl(z=0.25、0.2、0.167、0.143、0.1)固体電解質材料の製造
【0148】
LiClとInClを、1-3z:z(z=0.25、0.2、0.167、0.143、0.1)の比率で混合すると同時に、LiClとInClの仕込み量を40mmolに保持した。その後、5mLの脱イオン水を入れて溶解した。全ての前駆体が完全に溶解された後、乾燥箱に置いて100℃で乾燥した。乾燥後に得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLi1-3zInCl(0.1≦z≦0.25)固体電解質材料であった。
【0149】
図12は、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLi1-3zInCl(0.1≦z≦0.25)固体電解質材料の室温におけるイオン伝導度とzとの関係を示す曲線図である。
【0150】
実施例2.4 ガラス-セラミック相のNaInClBr固体電解質材料の製造
【0151】
10mmolのNaCl(0.58g)、10mmolのNaBr(1.03g)および10mmolのInCl(2.21g)を、空気雰囲気で秤量し、20mlのガラス瓶に移した後、7mLの脱イオン水を入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶をオーブン内に置いて90℃で乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを更に350℃のマッフル炉に入れて焼鈍した。焼鈍の時間は5時間であり、焼鈍の雰囲気は真空環境であった。焼鈍後に得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のNaInClBr固体電解質材料であった。
【0152】
実施例2.5 ガラス-セラミック相のLiIn0.80.2Cl固体電解質材料の製造
【0153】
30mmolのLiCl(1.272g)、8mmolのInCl(1.768g)、2mmolのYCl(0.39g)をアルゴン雰囲気下で秤量し、20mLのガラス瓶に移した後、10mLの脱イオン水を入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶をオーブン内に置いて90℃で乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを更に200℃の真空乾燥箱に置いて反応させた。反応後に得られた生成物を石英ガラス管内に封入し、マッフル炉に置いて焼鈍させ、焼鈍の温度は500℃であり、焼鈍の時間は8時間であった。焼鈍後に得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLiIn0.80.2Cl固体電解質材料であった。
【0154】
図13図14は、それぞれ、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLiIn0.80.2Cl固体電解質材料のX線回折パターンおよび異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
【0155】
実施例2.6 ガラス-セラミック相のLiIn0.1Zn0.9Cl4.1固体電解質材料の製造
【0156】
20mmolのLiCl(0.848g)、9mmolのZnCl(1.224g)および1mmolのInCl3(0.221g)をアルゴン雰囲気で秤量し、20mLのガラス瓶に移した後、5mLの脱イオン水を入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶をドラフト内のホットプレート上に置いて90℃で乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを、更に200℃の真空乾燥箱に置いて5時間反応させた。その後、真空雰囲気で300℃で焼鈍し、焼鈍の時間は60分であり、得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLiIn0.1Zn0.9Cl4.1固体電解質材料であった。
【0157】
図15は、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLiIn0.1Zn0.9Cl4.1固体電解質材料のX線回折パターンである。
【0158】
実施例2.7 ガラス-セラミック相のLiGaCl固体電解質材料の製造
【0159】
10mmolのLiCl(0.424g)、10mmolのGaCl(1.76g)をアルゴン雰囲気で秤量し、20mLのガラス瓶に移した後、3mLの脱イオン水を入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶をドラフト内のホットプレート上に置いて90℃で乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを、更に200℃の真空乾燥箱に置いて5時間反応させた。得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLiGaCl固体電解質材料であった。
【0160】
図16図17は、それぞれ、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLiGaCl固体電解質材料のX線回折パターンおよび室温条件下のインピーダンス曲線である。図17から、当該材料の室温におけるイオン伝導度が9*10-5S/cmであると計算できる。
【0161】
実施例2.8 ガラス-セラミック相のLiFeCl固体電解質材料の製造
【0162】
30mmolのLiCl(1.272g)、5mmolのFeCl(0.634g)をアルゴン雰囲気で秤量し、20mLのガラス瓶に移した後、5mLの脱イオン水を入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶を真空箱内に置いて90℃で真空乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを、更に200℃で5時間脱水した。得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLiFeCl固体電解質材料であった。
【0163】
図18図19は、それぞれ、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLiFeCl固体電解質材料のX線回折パターンおよび室温条件下のインピーダンス曲線である。図19から、当該材料の室温におけるイオン伝導度が5*10-6S/cmであると計算できる。
【0164】
実施例2.9 ガラス-セラミック相のLiYCl固体電解質材料の製造
【0165】
30mmolのLiCl(1.272g)、10mmolのYCl(1.953g)をアルゴン雰囲気で秤量し、20mLのガラス瓶に移した後、5mLの無水エタノールを入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶をアルゴン内において90℃で乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを、更に200℃で5時間脱水し、その後500℃で2時間焼鈍した。得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLiYCl固体電解質材料であった。
【0166】
図20図21は、それぞれ、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLiYCl固体電解質材料のX線回折パターンおよび異なる温度におけるイオン伝導度を示す図である。
【0167】
実施例2.10 ガラス-セラミック相のLiBiCl固体電解質材料の製造
【0168】
30mmolのLiCl(1.272g)、10mmolのBiCl(3.15g)をアルゴン雰囲気で秤量し、20mLのガラス瓶に移した後、10mLの濃塩酸を入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶をドラフト内のホットプレート上に置いて90℃で乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを、更に200℃の真空乾燥箱に置いて5時間反応させた。得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLiBiCl固体電解質材料であった。
【0169】
使用例2.1:実施例2.1で製造されたガラス-セラミック相のLiInCl固体電解質材料の、全固体LiIn-LiCoO、LiIn-LiNi0.8Mn0.1Co0.1(LiIn-NMC811)への使用
【0170】
修飾されていないLiCoO及びNMC811を正極材料として採用した。正極材料:実施例2.1で得られたガラス-セラミック相のLiInCl固体電解質材料=90:10(質量比)の配合比で混合し、手動粉砕を混合方法として採用し、5分粉砕して、混合過程は空気雰囲気で行った。粉砕後のサンプルを20mLのガラス瓶に置き、質量がサンプルの5倍である脱イオン水を入れて分散させ、その後、超音波機器に置いて超音波を5分間かけた。超音波をかけ終わった後、ガラス瓶を真空乾燥箱内に置いて真空環境で80℃で12時間乾燥させた。乾燥後に得られたサンプルが、二次電池正極粉体であった。薄いインジウムシートを負極とし、電解質としては、同じくガラス-セラミック相のLiInCl固体電解質材料及び商用のLi10GeP12電解質材料を採用した。LiInCl固体電解質材料50mgを取り、断面積が0.785cmの電池用モールドの内腔部に入れ、100MPaの圧力で打錠して第1層の電解質層を得た。次に、Li10GeP12電解質材料50mgを測り、第1層の電解質層の片側に置き、200MPaの圧力で打錠して二層の電解質層を得た。次に、LiInCl電解質層の片側に正極粉体10mgを添加し、広げて均一にした後、350MPaの圧力で三回目の打錠を行い、正極層と電解質層とをラミネートした。その後、Li10GeP12電解質材料の片側に負極層としてインジウムシートを設置した。全過程終了後、内腔部を電池用モールドに入れ、ネジを締めて封口した。封口後、全固体のLiIn-LiCoOとLiIn-NMC811二次電池を得た。中でも、全固体のLiIn-LiCoO電池に対して、100μAの電流密度で充放電試験を行い、カットオフ電圧は1.9~3.6Vであった。図22は、当該電池の充放電曲線図である。中でも、全固体のLiIn-NMC811電池に対して、100μAの電流密度で充放電試験を行い、カットオフ電圧は1.9~3.9Vであった。図23は、当該電池の最初のサイクルの充放電曲線図である。
【0171】
使用例2.2:実施例2.4で製造されたガラス-セラミック相のNaInClBr固体電解質材料の、全固体ナトリウム二次電池への使用
【0172】
修飾されていないNaCrOを正極材料として採用した。正極材料:ガラス-セラミック相のNaInClBr固体電解質材料:導電性カーボンブラック=80:15:5(質量比)の配合比で混合し、混合過程はグローブボックス内で行い、具体的には、乳鉢にて20分粉砕した。粉砕後の材料を正極粉体とした。スズシートを負極とし、ガラス-セラミック相のNaInClBr固体電解質材料を電解質とした。NaInClBr固体電解質材料100mgを取り、断面積が0.785cmの電池用モールドの内腔部に入れ、100MPaの圧力で打錠して電解質層を得た。次に、電解質層の片側に正極粉体10mgを添加し、広げて均一にした後、350MPaの圧力で二回目の打錠を行い、正極層と電解質層とをラミネートした。その後、電解質層のもう一方の片側に負極層としてスズシートを設置した。全過程終了後、内腔部を電池用モールドに入れ、ネジを締めて封口した。封口後、全固体のNaCrO/Sn二次電池を得た。測定温度を25℃として電気的性能の測定を行った。
【0173】
以下のX線回折は、いずれもCuKα線により測定されたものである。
【0174】
以下のイオン伝導度の測定方法は、交流抵抗により測定を行うものであって、グローブボックス内で電解質材料150mgを秤量した後、圧力を350MPaとして、電池用モールド内で打錠し、その後、電解質層の厚さを計量してLと表記し、次に、電池用モールド内で炭素/電解質/炭素の対称電池を直接組み立て、当該電池の開回路条件下での交流抵抗を測定し、得られた抵抗をRと表記して、式σ=L/(R・A)によりイオン伝導度を計算するものである(式中、σはイオン伝導度であり、Lは電解質層の厚さであり、Rは抵抗の値であり、Aは電解質シートの電極面積である)。
【0175】
実施例3.1 Li3b-3aInCl(a=0.53、b=1.03)固体電解質材料の製造
【0176】
30mmolのLiCl(1.275g)、10mmolのInCl・4HO(2.93g)を空気雰囲気で秤量し、100mLのガラス瓶に移した後、20mLの脱イオン水を入れ、溶解して混合した。すべての材料が完全に溶解された後、当該ガラス瓶をオーブン内に置いて80℃で真空乾燥させ、乾燥後に得られたサンプルを更に200℃の真空オーブン内で脱水した。脱水の時間は5時間であった。脱水後に得られたサンプルが、ガラス-セラミック相のLi1.5In0.53Cl固体電解質材料であった。
【0177】
図24は、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLi1.5In0.53Cl固体電解質材料のX線回折及びそれに対応する構造修正図である。
【0178】
図25は、本実施例で製造されたガラス-セラミック相のLi1.5In0.53Cl固体電解質材料のシンクロトロン放射X線吸収スペクトル及びそのフィッティング構造モデルである。
【0179】
上記のX線回折及びそれに対応する構造修正図、並びにシンクロトロン放射X線吸収スペクトルの分析から、本実施例で得られたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料の結晶構造におけるインジウムイオンの配列方式が、文献及びデータベースで報告されたものと異なることが明らかになった。
【0180】
無機結晶構造データベース(カード番号04-009-9027)におけるLiInClの結晶構造では、インジウムイオンがIn(0,0.333,0)及びIn(0,0,0)の2つの位置に配列され、In位置のインジウムイオンが7%を占め、In位置のインジウムイオンが87.5%を占める。具体的には、以下の表1に示すとおりである。
【0181】
【表1】
【0182】
本実施例で製造されたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料のインジウムイオンは、全てIn(0,0.333,0)位置に配列され、53%を占めている。具体的には、下記の表2に示すとおりである。
【0183】
【表2】
【0184】
図26は、本実施例で製造されたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料の結晶構造及びその原子配列図である。
【0185】
図27aは、本実施例で製造されたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料の異なる温度におけるインピーダンス曲線及びそれに対応する異なる温度におけるイオン伝導度である。当該材料は、室温条件下のイオン伝導度が2mS/cmである。図27bは本実施例で製造されたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料の電位窓の測定曲線であり、当該測定方法は、Li/電解質/Au電池を採用してサイクリックボルタンメトリーにより行う。
【0186】
使用例3.1:実施例3.1で製造されたガラス-セラミック相のLi1.5In0.53Cl固体電解質材料の、全固体LiIn-LiCoO、LiIn-LiNi0.8Mn0.1Co0.1(LiIn-NMC811)への使用
【0187】
修飾されていないLiCoO及びNMC811を正極材料として採用した。正極材料:実施例3.1で得られたガラス-セラミック相のLi1.5In0.53Cl固体電解質材料=70:30(質量比)の配合比で混合し、手動粉砕を混合方法として採用し、5分粉砕して、混合過程は、グローブボックスで行った。得られたサンプルが、二次電池正極粉体であった。薄いインジウムシートを負極とし、電解質としては、同じくそれぞれ実施例3.1で得られたガラス-セラミック相のLi1.5In0.53Cl固体電解質材料及び商用のLi10GeP12電解質材料を採用した。Li1.5In0.53Cl固体電解質材料50mgを取り、断面積が0.785cmの電池用モールドの内腔部に入れ、100MPaの圧力で打錠して第1層の電解質層を得た。次に、Li10GeP12電解質材料50mgを第1層の電解質層の片側に置いて、200MPaの圧力で打錠して二層の電解質層を得た。次に、Li1.5In0.53Cl電解質層の片側に正極粉体10mgを添加し、広げて均一にした後、350MPaの圧力で三回目の打錠を行い、正極層と電解質層とをラミネートした。その後、Li10GeP12電解質材料の片側に負極層としてインジウムシートを設置した。全過程終了後、内腔部を電池用モールドに入れ、ネジを締めて封口した。封口後、全固体のLiIn-LiCoOとLiIn-NMC811二次電池を得た。中でも、全固体のLiIn-LiCoO電池に対して、100μAの電流密度で充放電試験を行い、カットオフ電圧は1.9~3.6Vであった。図28は、全固体のLiIn-LiCoO電池の充放電曲線図である。中でも、全固体のLiIn-NMC811電池に対して、100μAの電流密度で充放電試験を行い、カットオフ電圧は1.9~3.8Vであった。図29は、全固体のLiIn-NMC811電池の最初のサイクルの充放電曲線図である。
【0188】
その結果、実施例3.1で製造されたLi1.5In0.53Cl固体電解質材料と無機結晶構造データベース(カード番号04-009-9027)におけるLiInClの結晶構造は、イオンの配列位置が異なり、且つ当該電解質材料がより高いイオン伝導度を有するため、当該材料の固体電池への使用が実現されたことが明らかになった。
【0189】
図面に係る英語に対応する具体的な日本語の意味は、表3に示すとおりである。
【0190】
【表3】
【0191】
実施例4.1 水相におけるLiInClに被覆されたLiCoO正極材料の形成
【0192】
75mgのLiInClを2gの水に溶解し、その後、425mgのLiCoOを添加して100℃で乾燥させ、更に200℃の真空オーブンに移し、脱水乾燥させ、Li3InClに被覆されたLiCoOを得た。全実験過程では、不活性雰囲気による保護が不要である。
【0193】
図30では、(a)が、具体的な合成過程を示し、Heatingが加熱を、Vacuumが真空条件を意味し、(b,c)が、被覆される前のLiCoOのSEM写真を示し、(d,e)が、被覆された後のLiCoOのSEM写真を示す。
【0194】
実施例4.2 水相におけるLiInClに被覆されたLiCoO正極材料のin-situ形成
【0195】
27.4mgのLiClと47.6mgのInClを水に溶解し、更に425mgのLiCoOを添加し、100℃のオーブンに置いて乾燥させ、更に200℃の真空オーブンに移して5時間反応させ、LiInClに被覆されたLiCoO(LiInClとLiCoOとの質量比が15:85である)を得た。全実験過程では、不活性雰囲気による保護が不要である。
【0196】
図31では、(a)が、具体的な合成過程を示し、Heatingが加熱を、Vacuumが真空条件を意味し、(b)が、被覆される前のLiCoOのSEM写真を示し、(c,d)が、被覆された後のLiCoOのSEM写真を示し、(e)が、異なる含有量のLiInClに被覆されたLiCoOの初回の充放電曲線を示し、(f)が、異なる含有量のLiInClに被覆されたLiCoOのサイクル安定性を示す。(e)は、横軸が、放電比容量を示し、縦軸が、リチウム金属負極に対する電圧を示し、定電流充放電の電流密度が0.13mA/cmであった。(f)は、横軸がサイクル数を示し、左側の縦軸が放電比容量を示し、右側の縦軸がクーロン効率を示し、サイクル測定の電流密度が0.13mA/cmであった。(e)と(f)では、実験サンプルは、上記方法により制御して合成された質量比(05:95、10:10、15:85)が異なるLiInClに被覆されたLiCoO電極である。電気化学的測定の結果は、15%のLiInClを含有するLiCoO電極の初回の放電比容量が131mAh/gであり、60サイクル後に106.4mAh/gに維持され、10%のLiInClを含有するLiCoO電極の初回の放電比容量が91.6mAh/gであり、60サイクル後に64.7mAh/gに維持され、5%のLiInClを含有するLiCoO電極の初回の放電比容量が40.1mAh/gであり、60サイクル後に12.9mAh/gに維持されることを示している。
【0197】
実施例4.3 有機相におけるLiInClに被覆されたNMC532正極材料の形成
【0198】
75mgのLiInClと425mgのNMC532を2gのエタノールに添加し、超音波で5分間分散させ、その後、100℃のオーブンに移して乾燥させ、更に200℃の真空オーブンに移して脱溶媒乾燥させ、LiInClに被覆されたNMC532(NMC532とLiInClとの質量比が85:15である)を得た。全実験過程では、不活性雰囲気による保護が不要である。
【0199】
基本的に同じ方法により、NMC532とLiInClとの質量比を、それぞれ80:20、90:10に制御し、異なる含有量のLiInClに被覆されたNMC532を製造した。
【0200】
図32では、(a)が、具体的な合成過程を示し、Ethanolがエタノールを、Heatingが加熱を、Vacuumが真空条件を意味し、(b)が、異なる含有量のLiInClに被覆されたNMC532の電子顕微鏡写真である。
実施例4.4 有機相におけるLiInClに被覆されたNMC532正極材料のin-situ形成
【0201】
3molのLiClと1molのInCl(総質量が150mg)を2gのエタノールに溶解し、更に850mgのSC-NMC532(単結晶NMC532)を添加して、100℃のオーブンに置いて乾燥させ、更に200℃の真空オーブンに移して5時間反応させ、LiInClに被覆されたSC-NMC532(LiInClとSC-NMC532との質量比が15:85である)を得た。全実験過程では、不活性雰囲気による保護が不要であり、SCは、単結晶を示す。
【0202】
図33では、(a)が、具体的な合成過程を示し、Ethanolがエタノールを、Heatingが加熱を、Vacuumが真空条件を意味し、(b)が、被覆される前のSC-NMC532のSEM写真であり、(c,d)が、被覆された後のSC-NMC532のSEM写真であり、(e)が、異なる含有量のLiInClに被覆されたLiCoOの初回の充放電曲線であり、(f)が、異なる含有量のLiInClに被覆されたLiCoOのサイクル安定性を示す。(e)は、横軸が、放電比容量を示し、縦軸が、リチウム金属負極に対する電圧を示す。定電流充放電の電流密度は0.13mA/cmである。(f)は、横軸がサイクル数を示し、左側の縦軸が放電比容量を示し、右側の縦軸がクーロン効率を示し、サイクル測定の電流密度が0.13mA/cmである。(e)と(f)では、実験サンプルは、上記方法により制御して合成されたLiInClに被覆されたSC-NMC532電極であり、LiInClとSC-NMC532との質量比は15wt%:85wt%であり、SCは単結晶と意味する。電気化学的測定の結果は、SC-NMC532のLiInCl電解質における初回の放電比容量が高く、159mAh/gであり、10サイクル後、質量当たりの容量が137.6mAh/gに維持されることを示している。
【0203】
実施例4.5 有機相による電極材料への塗布
【0204】
100mgのPVDFを一定の質量のNMPに溶解し、更に150mgのLiInCl、850mgのLiCoO、および100mgのアセチレンブラックを秤量し、PVDF-NMPの溶液に入れ、添加されたNMPの含有量を調整することでスラリーを作製した後、カーボンコートアルミ箔集電体にブレードコーディングし、更に110℃の真空オーブンに移して乾燥させ、正極極片を得た。
【0205】
図34では、(a)が、スラリーの製造過程及びスラリーの塗布過程を示し、(b)が乾燥後に得られた極片を示し、(c)が、本実施例で製造されたスラリーをカーボンコートアルミ箔と通常のアルミ箔にブレードコーディングしたものの電気化学的性能の比較を示す。(c)は、横軸が、放電比容量を示し、縦軸が、リチウム金属負極に対する電圧を示す。定電流充放電の電流密度は0.13mA/cmである。実験サンプルは、アルミ箔(Al)とカーボンコートアルミ箔の集電体(C-coated Al)であり、CCは集電体を示す。測定結果は、表面にカーボンがコートされたアルミ箔に対して塗布を行って得られた電極が、分極が少ないことを示している。
【0206】
実施例4.6 有機相による電解質層への塗布
【0207】
200mgの重合体バインダー(SEBR)を秤量し、一定の量のn-ヘプタン(heptane)に溶解して、更に1.8gのLiInClを入れ、heptaneの含有量を制御することでスラリーに製造し、その後、銅である集電体にブレードコーディングして、100℃で真空乾燥させ、乾燥後に電解質層を剥離して、固体電解質材料薄層を得た。
【0208】
図35では、(a)が製造された極薄電解質層を示し、(b)が、LiInClをheptaneに分散した前後のXRD結果の比較を示し、その結果は、heptane溶媒により分散されたLiInClが分散前後に相変化がないことを示しており、LiInClがheptaneで化学反応や物理的溶解しないことが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0209】
本発明では、リチウム二次電池添加剤、電池及び電極が開示されている。本発明に提供されるリチウム二次電池添加剤は、高いイオン伝導度、空気安定性を有し、電極におけるイオンの高速伝導を改善でき、電極負荷量、厚さを高くし、電池のエネルギー密度を向上せることができる。本発明に提供される固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導度を有する。本発明に提供される電極、電解質薄層は、イオン伝導度、化学/電気化学的安定性および可塑性を顕著に向上させることができる。本発明は、二次電池の技術分野で、幅広い使用前景と良好な産業上の利用可能性を有する。
図1
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