(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】若年性パジェット病治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4178 20060101AFI20231127BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231127BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61P43/00 111
A61P19/00
(21)【出願番号】P 2019079060
(22)【出願日】2019-04-18
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【氏名又は名称】末富 孝典
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 敏博
(72)【発明者】
【氏名】北村 和雄
(72)【発明者】
【氏名】舩元 太郎
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/115187(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 45/00-45/08
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルメサルタンを含有
する、
若年性パジェット病治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、若年性パジェット病治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
若年性パジェット(Paget)病は常染色体劣性遺伝の形式をとる骨疾患である。若年性パジェット病の場合、乳児又は幼少時から変形性骨炎と高アルカリフォスファターゼ血症を呈する。本疾患の原因は、オステオプロテゲリン(OPG)遺伝子の欠損又は機能不全であることが明らかにされている。
【0003】
OPGはRANKL(receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand)のおとり受容体として骨代謝を調節する。若年性パジェット病では、RANKLの真の受容体であるRANK(receptor activator of nuclear factor kappa-B)へのRANKLによる過剰なシグナルによって骨代謝が超高速回転となっている。その結果、骨の脆弱性が増している。OPG欠損マウスは若年期より骨粗鬆化し、血中RANKL濃度が著増する。OPG欠損マウスはヒト若年性パジェット病の病態をよく反映する。
【0004】
若年性パジェット病の患者は骨病変のみならず、高血圧、血管石灰化、網膜色素線条症、動脈瘤及び心不全等の心血管系病変を有することが報告されている。OPG遺伝子は骨代謝に関連する組織のみならず心臓や血管にも発現し、骨代謝に限らない生物活性を有する可能性がある。例えば、非特許文献1では、血中OPG濃度が心不全の重症度に応じて上昇することが報告されている。
【0005】
非特許文献2では、OPG欠損マウスを用いて心血管の構造及び機能が解析されている。非特許文献2によれば、OPG欠損マウスは、野生型と比較して、血圧が高値で、加齢とともに心収縮力が低下した。さらに、アンジオテンシンIIを同マウスへ1か月間投与すると心拡大と心収縮力低下が進行することが非特許文献3に報告されている。これらより、若年性パジェット病の病態にレニン・アンジオテンシン系が関与する可能性が示唆された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ueland,T.、外9名、「Dysregulated osteoprotegerin/RANK ligand/RANK axis in clinical and experimental heart failure」、Circulation、2005年、111(19)、2461-2468
【文献】Hao,Y.、外12名、「Cardiac hypertrophy is exacerbated in aged mice lacking the osteoprotegerin gene」、2016年、110(1)、62-72
【文献】Tsuruda,T、外13名、「Angiotensin II stimulation of cardiac hypertrophy and functional decompensation inosteoprotegerin-deficient mice」、2016年、67(5)、848-856
【文献】Polyzos,SA、外2名、「Juvenile Paget disease」、2018年、80、15-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
若年性パジェット病の治療薬として、カルシトニン製剤、ビスフォネート製剤、オステオプロテゲリン製剤、RANKLに対するヒトモノクローナル中和抗体であるデノスマブ等の開発が試みられてきた。
【0008】
カルシトニン製剤は、骨吸収抑制作用を有するが若年性パジェット病患者に対する効果が限定的で、現在使用されていない。ビスフォネート製剤では、骨病態の改善は乏しく、骨外病変の改善効果も認められなかった。ビスフォネート製剤には、副作用として低カルシウム血症、低リン血症及び二次性副甲状腺機能亢進症があった。
【0009】
病態機序に沿う治療薬として、OPG製剤による補充療法が期待された。しかし、臨床試験でOPG製剤の薬物動態が好ましくないことが判明し、潜在的な免疫原性に加え、腫瘍細胞のアポトーシス耐性を呈したため、開発が中止された。
【0010】
骨粗鬆症に対する治療薬として使用されるデノスマブでは、若年性パジェット病患者における骨痛等の自覚症状が改善された。しかし、非特許文献4に開示されたように、白内障の進行及び低カルシウム血症による入院等、重篤な副作用が報告された。
【0011】
上述のように、若年性パジェット病に対して有効で、かつ安全な治療薬は開発されていない。患者の生活の質の向上のために、若年性パジェット病を含む骨パジェット病に関して、骨病変とともに心血管系病変等の骨外病変に有効な治療薬が求められている。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、骨病変とともに骨外病変に有効である若年性パジェット病治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
レニン・アンジオテンシン系は、高血圧及び心不全の発症及び進展機序に関与する。アンジオテンシンII受容体は、心血管系のみならず骨組織にも存在する。本発明者は、骨パジェット病患者の病態には、RANKL/OPG/RANK軸とレニン・アンジオテンシン系のクロストークが関与すると考え、鋭意研究を重ね、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の観点に係る若年性パジェット病治療薬は、
オルメサルタンを含有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、骨病変とともに骨外病変に有効である若年性パジェット病治療薬が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】試験例におけるOPG欠損マウスの心機能に関するデータを示す図である。(A)、(B)、(C)及び(D)は、それぞれ収縮期血圧(SBP)、脈拍数、体重に対する心臓の重量の割合(HW/BW)及び内径収縮率を示す。
*p<0.05、
**p<0.01及び
***p<0.001である。
【
図2】試験例におけるOPG欠損マウスの脛骨のマイクロコンピューター断層撮影(μCT)スキャンに係る画像を示す図である。
【
図3】試験例におけるOPG欠損マウスの海綿骨の骨微細構造のデータを示す図である。(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)は、それぞれ骨量/組織量(BV/TV)、骨梁塩含量/骨梁総体積(BMC/TV)、骨梁数(Tb.N、1/mm)、骨梁幅(Tb.Th)及び骨梁間隙(Tb.Sp)を示す。
*p<0.05、
**p<0.01及び
***p<0.001である。
【
図4】試験例におけるOPG欠損マウスの皮質骨の骨微細構造のデータを示す図である。(A)、(B)、(C)及び(D)は、それぞれ骨塩含量/皮質骨体積(BMC/CV)、平均皮質骨面積、平均皮質骨幅、及び小腔面積/皮質骨面積を示す。
*p<0.05、
**p<0.01及び
***p<0.001である。
【
図5】試験例におけるOPG欠損マウスの骨代謝関連マーカーの発現量を示す図である。(A)、(B)及び(C)は、それぞれRANKL、タイプ1プロコラーゲンN末端ペプチド(P1NP)及び酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)の血中濃度を示す。
*p<0.05及び
***p<0.001である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る実施の形態について説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態)
本実施の形態に係る骨パジェット病治療薬は、アンジオテンシンII受容体拮抗剤を有効成分として含有する。骨パジェット病治療薬の投与対象となる骨パジェット病は、心血管系病変とともに骨病変を呈する疾患であれば、若年期に発症するものでも成人期に発症するものであってもよい。好ましくは、骨パジェット病治療薬の投与対象となる骨パジェット病患者は、OPG遺伝子が欠損しているか、あるいはOPG遺伝子の機能が不全である。好適には、骨パジェット病は、若年性パジェット病(juvenile Paget’s disease)である。
【0020】
アンジオテンシンII受容体拮抗剤は、昇圧物質であるアンジオテンシンIIと拮抗し、アンジオテンシンIIのアンジオテンシンII受容体への結合を妨げることにより血圧を降下させる薬物である。アンジオテンシンII受容体拮抗剤としては、例えば、オルメサルタン、ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン、プラトサルタン及びタソサルタン等が挙げられる。また、アンジオテンシンII受容体拮抗剤は、カンデサルタンシレキセチル、オルメサルタンメドキソミル、アジルサルタンメドキソミル及びエプロサルタンメシル酸塩等であってもよい。好適には、アンジオテンシンII受容体拮抗剤は、オルメサルタンである。
【0021】
アンジオテンシンII受容体拮抗剤は必要に応じ、薬理的に許容される塩、水和物、溶媒和物としてもよい。薬理学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩及び硫酸塩等の無機酸との塩、並びに酢酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩及び酒石酸塩等の有機酸との塩等が挙げられる。さらに、アンジオテンシンII受容体拮抗剤として、その光学活性体を用いてもよい。
【0022】
本実施の形態に係る骨パジェット病治療薬は、公知の方法で製造される。骨パジェット病治療薬は、有効成分として0.1~99重量%、1~50重量%、好ましくは1~20重量%のアンジオテンシンII受容体拮抗剤を含有する。骨パジェット病治療薬は、例えば、薬理的に許容される担体と配合された合剤であってもよい。薬理的に許容される担体は、製剤素材として用いられる各種の有機担体物質又は無機担体物質である。薬理的に許容される担体は、例えば、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、又は液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等として骨パジェット病治療薬に配合される。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤及び甘味剤等の添加物を配合してもよい。
【0023】
本実施の形態に係る骨パジェット病治療薬の投与経路は特に限定されない。当該骨パジェット病治療薬は、好ましくは経口投与される。当該骨パジェット病治療薬の投与量は、対象の性別、年齢、体重、症状等によって適宜決定される。当該骨パジェット病治療薬は、アンジオテンシンII受容体拮抗剤が有効量となるように投与される。有効量とは、骨パジェット病に係る病態、特には骨病変及び心血管系病変を抑制、改善又は治療するために必要なアンジオテンシンII受容体拮抗剤の量であり、治療又は処置する状態の進行の遅延、阻害、予防、逆転又は治癒をもたらすのに必要な量である。
【0024】
本実施の形態に係る骨パジェット病治療薬は、例えば投与対象の体重に基づいて、有効成分であるアンジオテンシンII受容体拮抗剤が1日あたり0.01mg/kg~1000mg/kg、好ましくは0.1mg/kg~200mg/kg、より好ましくは0.2mg/kg~20mg/kgとなるように投与される。骨パジェット病治療薬を1日に1回、又はそれ以上に分割して投与してもよい。骨パジェット病治療薬を分割して投与する場合、骨パジェット病治療薬は、好ましくは1日に1~4回投与される。また、骨パジェット病治療薬は、毎日、隔日、1週間に1回、隔週、1ヶ月に1回等の様々な投与頻度で投与してもよい。当該骨パジェット病治療薬の投与の時期は、期待する治療効果に従って、適宜決定されてもよい。例えば、骨パジェット病治療薬は、予防的に事前投与されてもよい。なお、必要に応じて、上記の範囲外の量を用いることもできる。
【0025】
下記実施例に示すように、アンジオテンシンII受容体拮抗剤は、骨改善効果及び心機能改善効果を有する。このため、本実施の形態に係る骨パジェット病治療薬は、骨病変とともに骨外病変に対して有効である。
【0026】
別の実施の形態では、アンジオテンシンII受容体拮抗剤を骨パジェット病の患者に投与することにより、骨パジェット病を治療する方法が提供される。また、アンジオテンシンII受容体拮抗剤を骨パジェット病の患者に投与することにより、骨パジェット病を予防する方法が提供される。
【0027】
また、下記実施例によれば、アンジオテンシンII受容体拮抗剤はTRAPの発現を抑制する。したがって、他の実施の形態では、アンジオテンシンII受容体拮抗剤を含有する、TRAP発現抑制剤が提供される。
【実施例】
【0028】
以下の試験例を含む実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって限定されるものではない。
【0029】
(試験例)
8週齢のOPG欠損マウス(C57BL/6J系統、Mizuno,et al、Biochem Biophys Res Commun.、1998年、247、610-615)を、25±1℃かつ12時間/12時間の明暗サイクル下で、1匹ごとに個別のケージで予備飼育した。使用したマウス53匹の平均体重は22±2gであった。予備飼育は特異的病原体を除去した設備で行い、マウスには通常の餌及び水を自由摂取させた。
【0030】
マウス腹腔内に200mg/kgで2,2,2-トリブロモエタノール(アバチン)を注射することでマウスに麻酔を施した。マウスを無作為に4つに群分けした。アンジオテンシンII受容体拮抗剤であるオルメサルタン(第一三共社製)を、アンジオテンシンII(Sigma-Aldrich社製)投与下(以下「AngII/Olm群」ともいう。n=12)又は非投与下(以下「シャム/Olm群」ともいう。n=9)で埋め込み型のミニ浸透ポンプ(Alzet、モデル1002、DURECT社製)を用いて14日間に渡って皮下投与した。オルメサルタンは、2.5%NaHCO3に溶解して5mg/kg/日で投与した。アンジオテンシンIIは、0.9%生理食塩水に溶解して1μg/kg/分で14日間に渡って投与した。シャムコントロールとして、上記と同様にアンジオテンシンIIを投与した群(以下「AngII群」ともいう。n=19)及びアンジオテンシンIIを投与しない群(以下「シャム群」ともいう。n=13)も検討した。
【0031】
テールカフプレチスモグラフィー(BP-98A、Softron社製)を用いて、意識下のマウスのSBP及び脈拍数を14日間で3回測定し、その平均値を測定値とした。
【0032】
14日目に意識下のマウスに対して、SONO5500システム(Philips社製)に接続した15MHz-高周波線形変換器で経胸壁心エコー検査を行った。M-モード方によって、左室拡張期内径(LVIDd)及び左室収縮期内径(LVIDs)を求めた。内径短縮率を、M-モードで得られた左室径から次の式を用いて求めた。左室径及び内径短縮率は、5回の独立した測定の平均値とした。
(LVIDd-LVIDs)/LVIDd×100%
【0033】
50mg/kgのペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で、マウスの右室から血液試料を採取した。血液試料を10μLの10mg/mL EDTAと10μLの0.7mg/mLアプロチニンと混合し、4℃で10分間、3000rpmで遠心した。血漿を使用時まで-80℃で保存した。体重及び心臓の重量を測定し、マウスの右下肢を摘除し、骨まわりの軟組織を除去した。μCTスキャンで解析するまで、4℃にて70%エタノール中で脛骨を保存した。大腿骨を4%パラホルムアルデヒドで4℃にて一晩固定し、組織学的分析に供した。
【0034】
μCTスキャン(ScanXmate-L090H、Comscantecno社製)を70kV及び114μAで行い、496×496マトリクスにおいてスライス厚17.0μmで496枚のマイクロ断層スライスを得た(ボクセルサイズが17.0×17.0×17.0μm)。3D画像解析システム(TRI/3D-BON、Ratoc System Engineering社製)を脛骨の近位骨幹端で二次骨梁と皮質領域に設定し(2.0mmトリミング)、骨梁の骨微細構造として、骨量/組織量(BV/TV、%)、骨梁塩含量/骨梁総体積(BMC/TV、mg/cm3)、骨梁数(Tb.N、1/mm)、骨梁幅(Tb.Th、μm)及び骨梁間隙(Tb.Sp、μm)を評価した。皮質骨の骨微細構造として、骨塩含量/皮質骨体積(BMC/CV、mg/m3)、平均皮質骨面積(mm2)、平均皮質骨幅(μm)及び小腔面積/皮質骨面積(%)を評価した。
【0035】
組織学的分析では、固定した大腿骨を48時間かけて10%EDTA 2Naで脱灰した。脱パラフィン化した大腿骨の中央骨幹の断面をヘマトキシリンで染色した。皮質骨の4つの領域を無作為に選択し、200倍の倍率で小腔面積(%)として全小腔面積(μm2)/皮質骨面積(μm2)を算出し、得られた値を平均化した(WinROOF version 6.5、三谷商事社製)。
【0036】
RANKL(Quantikine ELISA kit、R&D Systems社製)、骨形成のマーカーであるP1NP(Immunodiagnostic systems社製)、及び骨吸収のマーカーであるTRAP(Immunodiagnostic systems社製)の血漿中での濃度を測定した。
【0037】
統計解析では、片側分散分析後にBonferroniの事後検定を用いて群間比較を行った(GraphPad Prism 5、La Jolla社製)。データは、平均値±標準偏差で示し、p<0.05を統計的に有意とした。
【0038】
(結果)
AngII群では、6匹が試験中に死亡したが、他の群では死亡したマウスはいなかった。14日目に生存していたマウスの体重は、群間で有意な差はなかった(シャム群が23.7±2.5g(n=13)、シャム/Olm群が23.4±1.4g(n=9)、AngII群が23.2±1.2g(n=13)、AngII/Olm群が23.1±1.3g(n=12))。
【0039】
OPG欠損マウスは野生型マウスに比べて血圧高値で加齢とともに心機能が低下することが知られている。
図1(A)はSBPを示す。アンジオテンシンIIはSBPを上昇させた。オルメサルタンはアンジオテンシンII投与の有無に関わらず、SBPを低下させた。
図1(B)に示すように、アンジオテンシンIIは脈拍数を低下させたが、オルメサルタンは脈拍数を回復させた。
【0040】
図1(C)は心肥大の指標となるHW/BWを示す。アンジオテンシンIIは、シャム群と比較してHW/BWを増加させた。オルメサルタンはアンジオテンシンIIによって増加したHW/BWを減少させた。すなわち、オルメサルタンはアンジオテンシンIIによって誘導された心肥大を改善した。
図1(D)は左室収縮率の指標となる内径収縮率を示す。オルメサルタンはアンジオテンシンIIを投与してもしなくても、内径収縮率を増加させた。以上により、オルメサルタンがヒトの骨パジェット病の病態をよく反映するOPG欠損マウスにおいて心収縮能を改善することが示された。
【0041】
図2は、脛骨の3次元μCTグレー画像を示す。OPG欠損マウスは脆弱な骨構造を呈することが知られている。
図3(A)~(E)は、海綿骨の骨微細構造のデータを示す。オルメサルタンは、アンジオテンシンIIを投与してもしなくても、
図3(A)に示すBV/TV、
図3(B)に示すBMC/TV及び
図3(C)に示すTb.Nを増加させた。一方、
図3(D)に示すTb.Th及び
図3(E)に示すTb.Spにはオルメサルタンは影響しなかった。
【0042】
図4(A)~(D)は、皮質骨の骨微細構造のデータを示す。オルメサルタンは、アンジオテンシンIIを投与してもしなくても、
図4(A)に示すBMC/CVを増加させた。また、オルメサルタンは、
図4(B)に示す平均皮質骨面積、
図4(C)に示す平均皮質骨幅及び
図4(D)に示す小腔面積/皮質骨面積を低下させた。
図3(A)~(E)及び
図4(A)~(D)からオルメサルタンは骨塩量を増加させ、骨改善作用を有することが示された。
【0043】
オルメサルタンは、アンジオテンシンIIを投与してもしなくても、
図5(A)及び
図5(B)にそれぞれ示すRANKL及びP1NPの血中濃度に影響しなかった。一方、オルメサルタンは、
図5(C)に示すように、アンジオテンシンIIで増加したTRAPの血中濃度を抑制した。
【0044】
OPG欠損マウスは超高速な骨代謝回転を呈する。それを反映して本試験例でも血液中のP1NP及びTRAPが高値だった。オルメサルタンはアンジオテンシンIIによるTRAPの濃度を減少させたが、P1NP濃度には影響しなかったことから、主に破骨細胞に作用していると考えられた。また、OPG欠損マウスは血中RANKL濃度が著明に上昇する。オルメサルタンの投与がRANKLの濃度に影響しなかったことから、オルメサルタンの骨改善作用はRANKLを介さない可能性が示唆された。
【0045】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、骨パジェット病、特には若年性パジェット病の治療に好適である。